(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095596
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】腸管における免疫力の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
G01N33/50 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211573
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】白井 優美
(72)【発明者】
【氏名】作田 智洋
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045CB04
2G045CB09
2G045DA37
2G045DB22
(57)【要約】
【課題】被験体の腸管における免疫力を、非侵襲で、かつより簡便に評価する方法を提供する。
【解決手段】被験体の腸管における免疫力を評価する方法であって、
(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、
(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程、および
(c)工程(b)で得られた抗体量に基づいて、前記被験体の腸管における免疫力を評価する工程
を含んでなる、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の腸管における免疫力を評価する方法であって、
(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、
(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程、および
(c)工程(b)で得られた抗体量に基づいて、前記被験体の腸管における免疫力を評価する工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する方法であって、
(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、および
(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程
を含んでなる、方法。
【請求項3】
被験体の腸管における免疫力を増強するための食品素材を特定する方法であって、
(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、
(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程、
(c)工程(a)または(b)の後、前記被験体に候補食品素材を含んでなる食品を喫食させる工程、
(d)工程(c)の後、前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を再度測定する工程、
(e)工程(d)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を再度評価する工程、および
(f)工程(e)から得られる抗体量が、工程(b)から得られる抗体量よりも多いと評価されるときに、前記候補食品素材を選択する工程
を含んでなる、方法。
【請求項4】
被験体の糞便中に含まれる抗体量を増加させるための食品素材を特定する方法であって、
(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、
(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程、
(c)工程(a)または(b)の後、前記被験体に候補食品素材を含んでなる食品を喫食させる工程、
(d)工程(c)の後、前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を再度測定する工程、
(e)工程(d)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を再度評価する工程、および
(f)工程(e)から得られる抗体量が、工程(b)から得られる抗体量よりも多いと評価されるときに、前記候補食品素材を選択する工程
を含んでなる、方法。
【請求項5】
抗体量がIgA抗体量である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
被験体がヒトである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項3または4に記載の方法によって特定される食品素材を含んでなる、腸管における免疫力を増強するための食品組成物。
【請求項8】
請求項3または4に記載の方法によって特定される食品素材を含んでなる、糞便中に含まれる抗体量を増加させるための食品組成物。
【請求項9】
保険機能食品である、請求項7または8に記載の食品組成物。
【請求項10】
特定保健用食品、栄養機能食品、および機能性表示食品のいずれかである、請求項7~9のいずれか一項に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管における免疫力の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体における免疫は、自然免疫と獲得免疫の2大システムから成り立っている。自然免疫は、初期の免疫応答を主体とした抗原非特異的な先天性免疫であり、獲得免疫はB細胞やT細胞などのリンパ球を主体とした抗原特異的な後天性免疫である。また、獲得免疫には細胞性免疫と体液性免疫の2つの機構が存在し、前者はCD4陽性のヘルパーT細胞あるいはCD8陽性のキラーT細胞の作用により細胞内に感染する抗原を直接排除する。一方、後者はB細胞より産生された抗体が血液中に分泌されることで細胞外の抗原排除や毒素の中和を行う。さらに、獲得免疫は一度誘導されると長期にわたり抗原を記憶し、同一の抗原が再度侵入した際に速やかに応答することができる。
【0003】
抗原の主要な侵入経路は呼吸器と消化器粘膜である。そのため、これらの器官にはとりわけ複雑な免疫システムが備わっており、中でも腸には全身の免疫細胞の7割が集まっていると言われており、特に腸管粘膜は生体最大の免疫器官として重要な役割を担っている。腸管粘膜上皮には種々の免疫細胞が存在し、パイエル板と呼ばれるリンパ組織を形成している。パイエル板内の免疫細胞は、抗原と接触することで抗原情報を他の免疫細胞へ伝達し、抗原特異的な防御体制を整える。例えば、免疫細胞の一つであるB細胞はIL-12、IL-5、IL-10等のサイトカインによるシグナル伝達を受けて抗原特異的IgAを産生し、抗原の上皮細胞への付着及び定着を阻害する。
【0004】
この腸管における免疫力の評価をはじめ、一般に免疫力の評価は、被験者の負担を考慮すれば非侵襲な方法により行われることが望ましい(特許文献1)。該分野においては、例えば、検便等の検査で被験者の糞便中に含まれるIgA等の抗体量を測定し、その測定結果に基づいて腸管における免疫力が評価されている。一方で、検便等の検査は、恥ずかしい、検体の採取が面倒である等の理由により被験者に敬遠されることがあり、また、検査結果を得るために比較的長い時間を要する等の問題がある。したがって、非侵襲で、かつより簡便に糞便中に含まれる抗体量または腸管における免疫力を評価する方法が求められている。
【0005】
近年では、腸の免疫制御がアトピー性皮膚炎や乾癬等の皮膚疾患の症状改善に寄与することが明らかになってきており、腸管における免疫力と皮膚の間には何らかの関連がある可能性も示唆されている(非特許文献1および非特許文献2)。一方で、健常者における免疫状態と肌の状態の関連についてはいまだ不明な点が多く存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】JAMA Dermatol.2018;154(1):37-43.
【非特許文献2】PLOS ONE 15(4):e0231268.
【発明の概要】
【0008】
本発明は、被験体の糞便中に含まれる抗体量または腸管における免疫力を、非侵襲で、かつより簡便に評価する方法を提供する。
【0009】
本発明者らは、被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定することにより、前記被験体における糞便中に含まれる抗体量を評価でき、それにより前記被験体の腸管における免疫力を評価できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0010】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)被験体の腸管における免疫力を評価する方法であって、
(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、
(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程、および
(c)工程(b)で得られた抗体量に基づいて、前記被験体の腸管における免疫力を評価する工程
を含んでなる、方法。
(2)被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する方法であって、
(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、および
(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程
を含んでなる、方法。
(3)被験体の腸管における免疫力を増強するための食品素材を特定する方法であって、
(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、
(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程、
(c)工程(a)または(b)の後、前記被験体に候補食品素材を含んでなる食品を喫食させる工程、
(d)工程(c)の後、前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を再度測定する工程、
(e)工程(d)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を再度評価する工程、および
(f)工程(e)から得られる抗体量が、工程(b)から得られる抗体量よりも多いと評価されるときに、前記候補食品素材を選択する工程
を含んでなる、方法。
(4)被験体の糞便中に含まれる抗体量を増加させるための食品素材を特定する方法であって、
(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、
(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程、
(c)工程(a)または(b)の後、前記被験体に候補食品素材を含んでなる食品を喫食させる工程、
(d)工程(c)の後、前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を再度測定する工程、
(e)工程(d)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を再度評価する工程、および
(f)工程(e)から得られる抗体量が、工程(b)から得られる抗体量よりも多いと評価されるときに、前記候補食品素材を選択する工程
を含んでなる、方法。
(5)抗体量がIgA抗体量である、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)被験体がヒトである、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)(3)または(4)に記載の方法によって特定される食品素材を含んでなる、腸管における免疫力を増強するための食品組成物。
(8)(3)または(4)に記載の方法によって特定される食品素材を含んでなる、糞便中に含まれる抗体量を増加させるための食品組成物。
(9)保険機能食品である、(7)または(8)に記載の食品組成物。
(10)特定保健用食品、栄養機能食品、および機能性表示食品のいずれかである、(7)~(9)のいずれかに記載の食品組成物。
【0011】
本発明によれば、被験体の糞便中に含まれる抗体量を、非侵襲で、かつより簡便に評価する方法が提供される。また、本発明によれば、被験体の腸管における免疫力を、非侵襲で、かつより簡便に評価する方法を提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、被験体の肌表面の経皮水分蒸散量(TEWL)および糞便中のIgA濃度の相関関係を表す。
【発明の具体的説明】
【0013】
本発明の一つの態様によれば、被験体の腸管における免疫力を評価する方法が提供され、該方法は、(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程、および(c)工程(b)で得られた抗体量に基づいて、前記被験体の腸管における免疫力を評価する工程を含んでなる。
【0014】
また、本発明の他の態様によれば、被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する方法が提供され、該方法は、(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、および(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれるIgA抗体量を評価する工程を含んでなる。
【0015】
本発明の被験体は、いかなる動物であってもよく、特に限定されないが、好ましくは哺乳動物、例えば、ヒト、チンパンジーなどの霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類等の哺乳動物とされ、より好ましくはヒトとされる。
【0016】
一般に、免疫は、生物が健康な状態で生きていくために、病原体や毒素、外来の異物、自己の体内に生じた不要成分を非自己と識別して排除しようとする生体防御機構の一を意味する。免疫は、紀元前430年頃に伝染性疾病から生き残った人がその後は同じ疾病にかからないということから知られ始めたといわれている。
【0017】
本発明の免疫力とは、被験体が外部の病原菌やウイルスのような感染源に対抗して、それを殺すか又は無力化する力を意味する。したがって、同じ外部の感染源に晒されても免疫力の高い被験体は感染されないが、免疫力の低い被験体は感染されやすい。本発明の免疫力は、生まれつきの先天性免疫(自然免疫)力および外部感染源への露出または予防接種等によって得られる後天性免疫(獲得免疫)力のいずれか、または両方のいずれであってもよいが、後天性免疫、特に後天性免疫の中でも体液性免疫が好ましい。
【0018】
本発明の腸管における免疫力を評価する指標としては、例えば、T細胞の増殖能、IgA抗体の産生量、細胞が生産する種々の働きをもつペプチド、サイトカイン量等が知られている。これらの中でも特に、腸管で分泌される免疫グロブリン(Immunoglobulin,Ig)であるIgAは、粘膜面への細菌やウイルスの付着防止、および外来抗原を捕捉して体外に排出する異物排除等、粘膜免疫機能において重要な働きを担っており、したがって、IgA等の抗体の量は腸管の免疫力を評価する上で有力な指標とされている。この指標とされている抗体量は、公知の方法により測定することができ、例えば、被験体の糞便中に含まれる量をELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)等を用いて測定されるものである。抗体は限定されるわけではないが、IgA抗体が好ましい。
【0019】
免疫グロブリンとは糖タンパク質の一種であり、IgAの他にも、IgD、IgE、IgG、及びIgM等のクラスがある。そのうち、IgAは、哺乳類および鳥類に存在する。特に、唾液、涙液、鼻汁、気道粘液、消化管分泌液、乳汁などの外分泌液中に含まれるIgAは、分泌型IgAとされ、抗原や微生物から粘膜面を防御する免疫機構の最前線として重要な役割を果たしている。
【0020】
本発明の工程(a)は、被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程である。その具体的な手法は特に限定されないが、例えば、開放系と閉鎖系での測定が挙げられる。開放系の測定では、皮膚表面の湿度を直接測るが、閉鎖系の測定では皮膚表面に乾燥した空気や窒素ガスを還流させることで、水分量を測定する。したがって、発汗を起こす条件下では正確な経皮水分蒸散量の測定が困難であることから、経皮水分蒸散量の測定は、恒温、恒湿、無風条件で行うことが好ましく、具体的には温度19~23℃、湿度40~50%で行うことが好ましい。
【0021】
本発明の工程(a)において、肌表面の経皮水分蒸散量を測定する部位は、皮膚の任意の箇所であってよく、限定されるわけではないが、例えば、額、頬、前腕、上腕、背中、お腹等の皮膚が挙げられ、頬または上腕であることが好ましい。本発明の方法は、限定されるわけではないが、美容室、化粧品の販売店、エステサロン等で行われてもよく、非診断的方法、または診断補助方法であってもよい。
【0022】
本発明の方法では、被験体の肌表面の経皮水分蒸散量に基づいて、該被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価することができる。また、該被験体の糞便中に含まれる抗体量の評価結果から、該被験体の腸管における免疫力を評価することもできる。また、本発明の一つの実施態様によれば、抗体はIgA抗体である。
【0023】
本発明の他の態様によれば、被験体の腸管における免疫力を増強するための食品素材を特定する方法が提供され、該方法は、(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程、(c)工程(a)または(b)の後、前記被験体に候補食品素材を含んでなる食品を喫食させる工程、(d)工程(c)の後、前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を再度測定する工程、(e)工程(d)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を再度評価する工程、および(f)工程(e)から得られる抗体量が、工程(b)から得られる抗体量よりも多いと評価されるときに、前記候補食品素材を選択する工程を含んでなる。
【0024】
また、本発明の他の態様によれば、被験体の糞便中に含まれる抗体量を増加させるための食品素材を特定する方法が提供され、該方法は(a)前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を測定する工程、(b)工程(a)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を評価する工程、(c)工程(a)または(b)の後、前記被験体に候補食品素材を含んでなる食品を喫食させる工程、(d)工程(c)の後、前記被験体の肌表面の経皮水分蒸散量を再度測定する工程、(e)工程(d)で得られた経皮水分蒸散量に基づいて、前記被験体の糞便中に含まれる抗体量を再度評価する工程、および(f)工程(e)から得られる抗体量が、工程(b)から得られる抗体量よりも多いと評価されるときに、前記候補食品素材を選択する工程を含んでなる。
【0025】
本発明の方法により特定された食品素材は、限定されるわけではないが、該特定された食品素材を含んでなる食品組成物であって、腸管における免疫力を増強するための、または糞便中に含まれる抗体量を増加させるための食品組成物、としてもよい。この場合、食品組成物に配合される公知の成分をさらに配合することができる。このような成分としては、限定されるわけではないが、例えば、糖類、果実、果汁、野菜、肉類等の食品、及び、甘味料、高糖味度甘味料(アスパラテーム、スクラロース、グリチルリチン、サッカリン、ステビア、ズルチン、トリクロロシュークロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム等)、香料、着色料、酸味料、抗酸化剤、乳化剤、防腐剤、安定剤等の食品添加物が挙げられる。
【0026】
本発明の方法により特定された食品素材を含んでなる食品組成物は、栄養機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品等の保健機能食品であってもよく、また治療食(すなわち、治療の目的を果たすもの、または、医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの)、食事療法食、介護食等として、製造されてもよい。
【0027】
本発明の方法により特定された食品素材を含んでなる食品組成物の一食分または一日あたりの摂取目安量(有効成分量)は、腸管における免疫力を増強する、または糞便中に含まれる抗体量を増加させる対象の年齢、体重、性別や、摂取前の腸管における免疫力の増強、または糞便中に含まれる抗体量の増加に関係する指標値などに応じて、また非臨床的または臨床的な試験結果等に基づいて、適宜設定することができる。本発明の組成物の摂取期間も適宜設定することができ、長期間に亘って繰り返し、また日常的に、摂取することが好ましい。
【0028】
本発明の方法により特定された食品素材を含んでなる食品組成物の「腸管における免疫力の増強」または「糞便中に含まれる抗体量の増加」という用途は、直接的にまたは間接的に表示することができる。表示行為には、需用者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、上記用途を想起または類推させ得るような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物、媒体等の如何に拘わらず、全て本発明における表示行為に該当する。直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、展示会、看板、掲示板、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール等の場所または手段による、広告・宣伝活動である。本発明の方法により特定された食品素材を含んでなる食品組成物を機能性表示食品として製造する場合は、例えば、「免疫の機能を向上する」、「免疫力をアップする」、「風邪を予防する」、「健康を増進する」、「ウイルス感染を抑制する」、「細菌感染を抑制する」、「真菌感染を抑制する」、「寄生虫を排除する」、「疲れにくい」またはこれらと同視できる表示又は機能表示等のように、機能性成分として含まれる成分の作用効果に基づく機能性を表示することができる。
【0029】
本発明の方法では、被験体に候補食品素材を含んでなる食品を喫食させる前後の経皮水分蒸散量の変化に基づいて、該被験体の糞便中に含まれる抗体量を増加させるための食品素材を特定することができる。また、被験体に候補食品素材を含んでなる食品を喫食させる前後の糞便中に含まれる抗体量の評価の変化に基づいて、該被験体の腸管における免疫力を増強させるための食品素材を特定することもできる。また、本発明の一つの実施態様によれば、抗体はIgA抗体である。
【実施例0030】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。含有量は特記しない限り、質量%で示す。
【0031】
経皮水分蒸散量(TEWL)の測定
被験者であるヒトの経皮水分蒸散量を以下の方法により測定した。
【0032】
20~50歳の健常である女性65名の頬または上腕内側における経皮水分蒸散量を、測定器(Tewameter TM300(Courage+Khazaka Electronic GmbH社製))を用いて測定した。測定器の設定は、標準偏差0.2に設定し、その安定域値を採用した。測定は2回実施し、安定度の良いデータを採用した。各測定は,被験者の皮膚の洗浄後,温度:21±2℃,相対湿度:45±5%内の環境にて,20分程度安静に過ごした後に実施した。
【0033】
糞便中のIgA抗体量の測定
被験者であるヒトの糞便中のIgA抗体量を以下の方法により測定した。
【0034】
20~50歳の健常である女性65名の糞便を採便キット(商品名:糞便採取キット(株式会社テクノスルガ・ラボ製))を用いて採取し、糞便中のIgA濃度(μg/g)を定量した。定量は、専門の第三者機関に委託した。
【0035】
統計処理
経皮水分蒸散量と糞便中のIgA抗体量との相関を調べた。経皮水分蒸散量と糞便中のIgA抗体量を散布図に表し、相関係数を算出したところ、経皮水分蒸散量と糞便中のIgA抗体量に有意な(p<0.008)負の相関性が認められた(
図1)。
【0036】
したがって、対象の経皮水分蒸散量を測定することにより、糞便中のIgA抗体量を評価でき、また、この評価結果等に基づいて腸管の免疫力を評価できることが示された。