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特開2023-95601成形用フィルム積層体、成形品、及び成形品の製造方法
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  • 特開-成形用フィルム積層体、成形品、及び成形品の製造方法 図1
  • 特開-成形用フィルム積層体、成形品、及び成形品の製造方法 図2
  • 特開-成形用フィルム積層体、成形品、及び成形品の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095601
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】成形用フィルム積層体、成形品、及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20230629BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20230629BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230629BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20230629BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G02B1/111
G02B1/14
B32B27/00 Z
B29C51/10
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211590
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 厚志
(72)【発明者】
【氏名】嶋野 亮介
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
4F206
4F208
【Fターム(参考)】
2K009AA04
2K009AA15
2K009BB11
2K009CC01
2K009CC24
2K009CC26
2K009DD01
4F100AH05C
4F100AH05H
4F100AK17C
4F100AK17J
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK25J
4F100AK42A
4F100AT00
4F100BA03
4F100CA02B
4F100CA02H
4F100JN18C
4F206AA20
4F206AB16
4F206AC03
4F206AD05
4F206AD08
4F206AG03
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB22
4F206JB24
4F206JL02
4F208AA20
4F208AB16
4F208AC03
4F208AG03
4F208MA01
4F208MA02
4F208MB01
4F208MC01
4F208MC02
4F208MG04
4F208MH06
(57)【要約】
【課題】成形品を作製するために使用でき、かつ優れた光学的特性を有しながら、薬品を付着させた箇所を摩擦しても傷がつきにくい成形用フィルム積層体を提供する。
【解決手段】成形用フィルム積層体は、透明基材層と、ハードコート層と、低屈折率層と、がこの順に積層されている。低屈折率層が、含フッ素アクリル化合物を含むアクリル化合物の重合体を含有する。低屈折率層の屈折率が、1.35以上1.45以下である。低屈折率層のハードコート層と対向している面と反対側の面の、算術平均粗さ(Ra)が、1nm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材層と、ハードコート層と、低屈折率層と、がこの順に積層されており、
前記低屈折率層が、含フッ素アクリル化合物を含むアクリル化合物の重合体を含有し、
前記低屈折率層の屈折率が、1.35以上1.45以下であり、
前記低屈折率層の前記ハードコート層と対向している面と反対側の面の、算術平均粗さ(Ra)が、1nm以下である、
成形用フィルム積層体。
【請求項2】
前記低屈折率層が、無機フィラーを含有し、
前記低屈折率層に対する前記無機フィラーの百分比が、5.0重量%未満である、
請求項1に記載の成形用フィルム積層体。
【請求項3】
150℃における、延伸率が120%以上である、
請求項1又は2に記載の成形用フィルム積層体。
【請求項4】
前記アクリル化合物が、多官能アクリレートをさらに含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の成形用フィルム積層体。
【請求項5】
インサート成形用である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の成形用フィルム積層体。
【請求項6】
インサート成形法によって樹脂成形体の表面上に前記成形用フィルム積層体からなる反射防止層を設けるために用いられる、
請求項1から5のいずれか一項に記載の成形用フィルム積層体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の成形用フィルム積層体を備える、
成形品。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の成形用フィルム積層体を金型内に配置した状態で、前記金型内で樹脂成形体を作製することで、
前記樹脂成形体と、前記樹脂成形体の表面上に重なる前記成形用フィルム積層体からなる反射防止層と、を備える成形品を製造する、
成形品の製造方法。
【請求項9】
前記成形用フィルム積層体を前記金型内に配置する前に、前記成形用フィルム積層体を加熱しながら変形させることで予備成形する、
請求項8に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般には、成形用フィルム積層体、成形品、及び成形品の製造方法に関する。より詳細には、本開示は、透明基材層と、ハードコート層と、低屈折率層とが積層される成形用フィルム積層体、その成形用フィルム積層体を備える成形品、及びその成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、画像表示部に直接触れることにより、情報を入力できるデバイスとしてタッチパネルが広く用いられている。このタッチパネルの表面には、外光からの反射光によって視認性が悪化することを低減するため、一般的に反射防止フィルムが貼着されている。例えば、特許文献1には、反射防止フィルムの低屈折率層を作製するための樹脂組成物の組成が適切に設定されているため、反射防止フィルムが反射防止性に優れ、タッチパネルの表面等に適用されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-055659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車載用のタッチパネルディスプレイに用いられる反射防止フィルムの最表面は人の手で触れられることから、そのフィルムの表面には、汗、皮脂、ハンドクリーム及び日焼け止めクリームの汚れ等が付着しやすい。そして、それらの汚れ等は乾いた布、又は水若しくはアルコールを付着させた布等で拭き取ることから、車載用のタッチパネルディスプレイに用いられる反射防止フィルムは、汚れ、水及びアルコール等が付着した状態において、その表面を布等で摩擦した際の耐摩耗性が重要となる。特に日焼け止めに含まれる安息香酸のアルキルエステル類が、反射防止フィルムに及ぼす影響は大きく、このため、このような化合物を含む日焼け止めクリームが付着した状態における反射防止フィルムの耐摩耗性が特に要求されている。
【0005】
発明者は、特許文献1に記載の反射防止フィルムでは、日焼け止めクリーム等の薬品が付着した箇所を、ガーゼ等で擦った場合に傷がつきやすいという課題を発見した。
【0006】
本開示の目的は、成形品の表面に反射防止性を付与するために使用でき、かつ薬品等が付着した箇所を摩擦しても傷がつきにくい成形用フィルム積層体、その成形用フィルム積層体を備えた成形品、及びその成形品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る成形用フィルム積層体は、透明基材層と、ハードコート層と、低屈折率層と、がこの順に積層されている。前記低屈折率層は、含フッ素アクリル化合物を含むアクリル化合物の重合体を含有する。前記低屈折率層の屈折率が、1.35以上1.45以下である。前記低屈折率層の前記ハードコート層と対向している面と反対側の面の、算術平均粗さ(Ra)が、1nm以下である。
【0008】
本開示の一態様に係る成形品は、前記成形用フィルム積層体を備える。
【0009】
本開示の一態様に係る成形品の製造方法は、前記成形用フィルム積層体を金型内に配置した状態で、前記金型内で樹脂成形体を作製することで、前記樹脂成形体と、前記樹脂成形体の表面上に重なる前記成形用フィルム積層体からなる反射防止層と、を備える成形品を製造する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によると、成形品の表面に反射防止性を付与するために使用でき、かつ薬品等が付着した箇所を摩擦しても傷がつきにくい成形用フィルム積層体、その成形用フィルム積層体を備えた成形品、及びその成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る成形用フィルム積層体の一例を示す概略の断面図である。
図2図2Aから図2Cは、本開示の一実施形態に係る成形品の製造方法の各工程を示す概略の断面図である。
図3図3Aから図3Dは、本開示の一実施形態に係る成形品の製造方法の各工程を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお本開示は下記の実施形態に限られない。下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の例に過ぎず、本開示の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0013】
1.概要
本実施形態に係る成形用フィルム積層体100について、図1を参照しながら説明する。
【0014】
本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、図1に示すように、透明基材層1と、ハードコート層2と、低屈折率層3と、を備える。透明基材層1と、ハードコート層2と、低屈折率層3とが、この順で積層されている。低屈折率層3は、含フッ素アクリル化合物を含むアクリル化合物の重合体を含有する。低屈折率層3の屈折率は、1.35以上1.45以下である。低屈折率層3のハードコート層2と対向している面と反対側の面の、算術平均粗さ(Ra)が、1nm以下である。
【0015】
本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、成形品の表面に反射防止性を付与するための反射防止層として使用することができ、かつ薬品等が付着した箇所を摩擦しても傷がつきにくい。ここで成形用フィルム積層体100からなる反射防止層に塗布される薬品等とは、例えば、日焼け止めクリーム、汗、皮脂、又はハンドクリーム等が挙げられる。
【0016】
2.詳細
2-1.成形用フィルム積層体
本実施形態に係る成形用フィルム積層体の、具体的な構成について、詳細に説明する。
【0017】
(1)成形用フィルム積層体の物性
まず、成形用フィルム積層体100の物性について、詳細に説明する。
【0018】
1)算術平均粗さ(Ra)
上述の通り、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、低屈折率層3のハードコート層2と対向している面と反対側の面の、算術平均粗さ(Ra)が、1nm以下である。すなわち、成形用フィルム積層体100の最も外側に設けられている低屈折率層3の表面の算術平均粗さ(Ra)が、1nm以下である。この場合、成形用フィルム積層体100を、ガーゼ等で摩擦したとしても、成形用フィルム積層体100の最も外側に設けられている低屈折率層3の表面が平滑であるため、成形用フィルム積層体100と、ガーゼ等との摩擦が軽減される。これにより、成形用フィルム積層体100は、薬品等が付着した箇所をガーゼ等で摩擦しても傷がつきにくくなる。
【0019】
また、低屈折率層3のハードコート層2と対向している面と反対側の面の、算術平均粗さ(Ra)が、0.9nm以下であればより好ましく、0.8nm以下であればさらに好ましい。
【0020】
さらに、低屈折率層3のハードコート層2と対向している面と反対側の面の、算術平均粗さ(Ra)が、0.1nm以上であれば好ましく、0.3nm以上であればより好ましい。
【0021】
低屈折率層3の算術平均粗さ(Ra)は、例えば、走査型プローブ顕微鏡(株式会社島津製作所製、品番:SPM9700)を用いて、JIS B 0601-1994に規定される方法により求めることができる。
【0022】
2)延伸率
本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、150℃における、延伸率が120%以上であることが好ましい。この場合、成形用フィルム積層体100は、加熱しながら変形させて成形することが容易となり、インサート成形に好適に用いられることが可能となる。
【0023】
さらに、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、150℃における、延伸率が300%以下であれば好ましく、250%以下であればより好ましい。
【0024】
ここで、延伸率とは、延伸前の成形用フィルム積層体100の長さに対して、延伸後の成形用フィルム積層体100の長さの比率(%)をいい、特定の条件で引張り試験を行い、その結果から算出されるものである。なお、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100における延伸率の測定方法については、実施例において説明する。
【0025】
3)光学特性
本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、全光線透過率が92.0%以上であることが好ましく、92.5%以上であることがより好ましい。また、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、ヘイズが1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。なお、成形用フィルム積層体100の全光線透過率、及びヘイズは、例えば、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、品番:NDH7000SP2)等を用いて、JIS K 7361-1:1997の規定に従って、測定することができる。
【0026】
4)膜厚
本実施形態に係る成形用フィルム積層体100の膜厚は、100μm以上であることが好ましく、125μm以上であることがより好ましい。また、この成形用フィルム積層体100の膜厚は、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。本実施形態に係る成形用フィルム積層体100の膜厚が上記の数値範囲を満たす場合、成形用フィルム積層体100は、加熱しながら変形させて成形することが容易となり、インサート成形に好適に用いられることが可能となる。また、成形用フィルム積層体100の光学的特性が良好となる。
【0027】
(2)成形用フィルム積層体の各層
1)透明基材層
本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、上述の通り、透明基材層1を備える。
【0028】
透明基材層1は、例えば、反射防止フィルムに使用されるフィルム状又はシート状の透明の基材であり、光透過性を有する層である。
【0029】
透明基材層1の材質は、例えば、熱可塑性樹脂であることが好ましい。透明基材層1に使用される熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETともいう)等のポリエステル(以下、PEともいう)、ポリカーボネート(以下、PCともいう)、及びポリメチルメタクリレート(以下、PMMAともいう)よりなる群から選択される少なくとも一種を含む。また、ポリカーボネート、及びポリメチルメタクリレートが、透明基材層1の材料に使用された場合、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルが用いられた場合と比較すると、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100がインサート成形に用いられた際に、透明基材層1の延伸により生じる白化を抑制することができる。
【0030】
透明基材層1は、例えば、二つの層を有する二層フィルムであってもよい。そして、透明基材層1が有する二つの層は、それぞれ異なる材質を含んでいてもよい。このような透明基材層1の具体的な例としては、例えば、ポリメチルメタクリレートを含む層と、ポリカーボネートを含む層とからなる二層フィルムが挙げられる。この場合、ポリメチルメタクリレートを含む層が、ハードコート層2と対向していることが好ましい。
【0031】
透明基材層1の膜厚は、100μm以上であることが好ましく、125μm以上であることがより好ましい。また、透明基材層1の膜厚は、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。透明基材層1の膜厚が、上記の数値範囲を満たす場合、成形用フィルム積層体100は、加熱しながら変形させて成形することが容易となり、インサート成形に好適に用いられることが可能となる。加えて、成形用フィルム積層体100の光学的特性が良好となる。
【0032】
透明基材層1のハードコート層2と対向している面の屈折率の値は、1.45以上であることが好ましく、1.48以上であることがより好ましい。また、透明基材層1のハードコート層2と対向している面の屈折率の値は、1.75以下であることが好ましく、1.70以下であることがより好ましい。透明基材層1の屈折率の値が上記の数値範囲を満たす場合、成形用フィルム積層体100の表面での光の反射率を効果的に低減できるため、成形用フィルム積層体100の光学的特性が良好となる。
【0033】
2)低屈折率層
本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、上述の通り、低屈折率層3を備える。
【0034】
低屈折率層3は、成形用フィルム積層体100の光の反射率を低減させるための層である。より詳細には、低屈折率層3は、成形用フィルム積層体100の最外層であり、低屈折率層3に直接重なっている層よりも低い屈折率を有する層である。
【0035】
低屈折率層3の屈折率の値は、上述した通り、1.35以上1.45以下である。この場合、成形用フィルム積層体100の表面での光の反射率を低減することができるため、成形用フィルム積層体100の光学的特性が良好となる。また、低屈折率層3の屈折率の値は、1.37以上であることが好ましく、1.39以上であることがより好ましい。また、低屈折率層3の屈折率の値は、1.43以下であることが好ましく、1.41以下であることがより好ましい。
【0036】
低屈折率層3の膜厚は、60nm以上であることが好ましく、70nm以上であることがより好ましい。また、低屈折率層3の膜厚は、135nm以下であることが好ましく、125nm以下であることがより好ましい。低屈折率層3の膜厚が上記の数値範囲を満たす場合、成形用フィルム積層体100は、加熱しながら変形させて成形することが容易となり、インサート成形に好適に用いられることが可能となる。そして、成形用フィルム積層体100の光学的特性が良好となる。
【0037】
低屈折率層3は、上述した通り、含フッ素アクリル化合物を含むアクリル化合物の重合体を含有する。すなわち、低屈折率層3は、含フッ素アクリル化合物を含む硬化性樹脂組成物から作製される。低屈折率層3が、含フッ素アクリル化合物を含むアクリル化合物の重合体を含む場合、含フッ素アクリル化合物が、低屈折率層3の屈折率を低下させることができ、これにより、成形用フィルム積層体100の光学的特性が良好となる。また、この成形用フィルム積層体100は、薬品等が付着した箇所をガーゼ等で摩擦したとしても、傷がつきにくい。
【0038】
なお、アクリル化合物とは、1分子中に(メタ)アクリル基を有する化合物である。(メタ)アクリル基とは、アクリル基又はメタクリル基を意味する。
【0039】
また、アクリル化合物は、例えば、モノマー、オリゴマー、及びプレポリマーよりなる群から選択される少なくとも一種を含む。すなわち、含フッ素アクリル化合物も、モノマー(含フッ素アクリルモノマー)、オリゴマー(含フッ素アクリルオリゴマー)、及びプレポリマー(含フッ素アクリルプレポリマー)よりなる群から選択される少なくとも一種を含むことができる。
【0040】
含フッ素アクリルモノマー、及び含フッ素アクリルオリゴマーは、例えば、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-ブチル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-ペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-へキシル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-オクチル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-デシル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロ-n-ドデシル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロイソブチル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロイソオクチル(メタ)アクリレート、1H,1H-ペルフルオロイソドデシル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-ペルフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H-ペルフルオロノニル(メタ)アクリレート、3,3,3-トリフルオロブチル(メタ)アクリレート、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-プロピル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-ブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-ペンチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-へキシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-オクチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロ-n-デシル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロイソブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(ペルフルオロイソオクチル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,6H-ペルフルオロへキシル(メタ)アクリレート、1H,1H,8H-ペルフルオロオクチル(メタ)アクリレート、1H,1H,10H-ペルフルオロデシル(メタ)アクリレート、1H,1H,12H-ペルフルオロドデシル(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールジアクリレートジフルオロブチレート等よりなる群から選択される少なくとも一種を含むことができる。
【0041】
また、アクリル化合物は、例えば、多官能アクリレートをさらに含むことが好ましい。すなわち、低屈折率層3は、含フッ素アクリル化合物と多官能アクリレートとを含有するアクリル化合物の重合体を含むことが好ましい。アクリル化合物が、多官能アクリレートを含む場合、成形用フィルム積層体100の耐擦傷性と、柔軟性とのバランスを調整することが可能となる。その結果、成形用フィルム積層体100を加熱しながら変形させて成形することが容易となり、成形用フィルム積層体100は、インサート成形に好適に用いられることが可能となる。
【0042】
多官能アクリレートは、例えば、多官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートオリゴマー、及び多官能(メタ)アクリレートプレポリマーよりなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0043】
多官能(メタ)アクリレートモノマーは、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエトキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラプロポキシジ(メタ)アクリレート、及び1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス-2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の三官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の四官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート等の五官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の六官能(メタ)アクリレート;並びにこれらアクリレート中の基をアルキル基又はε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等よりなる群から選択される少なくとも一種を含むことができる。
【0044】
多官能(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、及びポリエーテル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0045】
低屈折率層3中の全固形分に対する含フッ素アクリル化合物の百分比は、65.0重量%以上が好ましく、70.0重量%以上がより好ましく、75.0重量%以上がさらに好ましい。また、低屈折率層3中の全固形分に対する含フッ素アクリル化合物の百分比は、100.0重量%以下が好ましく、95.0重量%以下がより好ましく、90.0重量%以下がさらに好ましい。低屈折率層3中の全固形分に対する含フッ素アクリル化合物の百分比が上記の数値範囲を満たす場合、成型用フィルム積層体100の延伸率と、耐摩耗性と、反射率とのバランスが良好となる。
【0046】
なお、ここでいう全固形分とは、低屈折率層3を作製するために使用した材料に含まれる溶剤を除いた成分をいう。
【0047】
低屈折率層3中の全固形分に対する多官能アクリレートの百分比は、1.0重量%以上が好ましく、3.0重量%以上がより好ましく、5.0重量%以上がさらに好ましい。また、低屈折率層3中の全固形分に対する多官能アクリレートの百分比は、15.0重量%以下が好ましく、13.0重量%以下がより好ましく、11.0重量%以下がさらに好ましい。低屈折率層3中の全固形分に対する多官能アクリレートの百分比が上記の数値範囲を満たす場合、成型用フィルム積層体100の延伸率と、耐摩耗性と、反射率とのバランスが良好となる。
【0048】
低屈折率層3は、例えば、無機フィラーを含有してもよい。このような無機フィラーとしては、シリカ、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、又はフッ化アルミニウム等の無機粒子が挙げられる。
【0049】
低屈折率層3に対する無機フィラーの百分比は、例えば、5.0重量%未満であることが好ましい。この場合、成形用フィルム積層体100において、薬品等が付着した箇所をガーゼ等で摩擦したとしても、無機フィラーの滑落が起こりにくくなり、そのため、成形用フィルム積層体100は、傷がつきにくくなる。また、低屈折率層3に対する無機フィラーの百分比は、3.0重量%未満であることがより好ましく、1.0重量%未満であることがさらに好ましい。さらに、低屈折率層3に対する無機フィラーの百分比は、0重量%以上であることが好ましい。
【0050】
低屈折率層3に含まれる無機フィラーの平均粒子径は、0.1nm以上であることが好ましく、0.2nm以上であることがより好ましい。また、低屈折率層3に含まれる無機フィラーの平均粒子径は、100nm以下であることが好ましく、85nm以下であることがより好ましい。低屈折率層3に含まれる無機フィラーの平均粒子径が上記の数値範囲を満たす場合、成形用フィルム積層体100の光学的特性と、機械的特性との両方が良好となる。
【0051】
低屈折率層3に含まれる無機フィラーの屈折率は、1.00以上であることが好ましく、1.10以上であることがより好ましい。また、低屈折率層3に含まれる無機フィラーの屈折率は、1.50以下であることが好ましく、1.40以下であることがより好ましい。低屈折率層3に含まれる無機フィラーの屈折率が上記の数値範囲を満たす場合、低屈折率層3の屈折率を所望の数値範囲に調整することができ、これにより、成形用フィルム積層体100の光学的特性が良好となる。
【0052】
低屈折率層3を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物は、加熱によって硬化させることができる熱硬化性樹脂組成物であってもよく、紫外線(UV)を照射することによって硬化させることができる紫外線硬化性樹脂組成物であってもよいが、耐擦傷性の観点から、紫外線硬化性樹脂組成物であることが好ましい。
【0053】
低屈折率層3を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物が、紫外線硬化性樹脂組成物である場合には、硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0054】
このような光重合開始剤は、例えば、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のアセトフェノン系重合開始剤、ベンゾイン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾイン系重合開始剤、ベンゾフェノン、[4-(メチルフェニルチオ)フェニル]フェニルメタノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系重合開始剤、及び2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系重合開始剤よりなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0055】
低屈折率層3を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物は、例えば、フッ素系撥水撥油剤を含むことができる。すなわち、低屈折率層3は、フッ素系撥水撥油剤を含んでいてもよい。この場合、成形用フィルム積層体100の耐指紋性が良好となる。また、低屈折率層3を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物は、例えば、シリコーン系滑剤を含むことができる。すなわち、低屈折率層3は、シリコーン系滑剤を含んでいてもよい。この場合、成形用フィルム積層体100の布等に対する滑り性が良好となる。
【0056】
3)ハードコート層
本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、上述の通り、ハードコート層2を備える。
【0057】
ハードコート層2は、透明基材層1、及び低屈折率層3よりも硬度が大きい層である。
【0058】
ハードコート層2は、透明基材層1と、低屈折率層3との間に設けられる。成形用フィルム積層体100がハードコート層2を備えていることにより、成形用フィルム積層体100の耐擦傷性及び硬度が良好となる。
【0059】
ハードコート層2の屈折率は、1.45以上であることが好ましく、1.48以上であることがより好ましい。また、ハードコート層2の屈折率は、1.75以下であることが好ましく、1.70以下であることがより好ましい。ハードコート層2の屈折率が、上記の数値範囲を満たす場合、成形用フィルム積層体100の光学的特性が良好となる。
【0060】
ハードコート層2の膜厚は、1.0μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましい。この場合、ハードコート層2の硬度が高まりやすくなり、その結果、成形用フィルム積層体100の機械的特性が良好となる。また、ハードコート層2の膜厚は、10.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましい。この場合、成形用フィルム積層体100において、インサート成形を行う上で、屈曲性低下の問題が生じることがない。
【0061】
ハードコート層2は、例えば、硬化性樹脂組成物の硬化物である。すなわち、ハードコート層2は、硬化性樹脂組成物から作製される。このような硬化性樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂組成物又は紫外線硬化性樹脂組成物が挙げられ、耐擦傷性の観点から紫外線硬化性樹脂組成物が好ましい。
【0062】
紫外線硬化性樹脂組成物は、紫外線硬化性化合物を含む組成物である。また、紫外線硬化性化合物は、紫外線硬化性官能基を有する。紫外線硬化性官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、エポキシ基、又はオキセタニル基等が挙げられる。
【0063】
また、紫外線硬化性化合物としては、例えば、エチレン性不飽和結合基を有する化合物が好ましく、エチレン性不飽和結合基を2つ以上有する化合物がより好ましく、中でも、エチレン性不飽和結合基を2つ以上有する、多官能アクリレートがさらに好ましい。
【0064】
ハードコート層2を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物に含まれる多官能アクリレートは、モノマー及びオリゴマーのいずれも用いることができる。すなわち、ハードコート層2を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物に含まれる多官能アクリレートは、多官能(メタ)アクリレートモノマー及び多官能(メタ)アクリレートオリゴマーのいずれも用いることができる。
【0065】
ハードコート層2を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物に含まれる多官能(メタ)アクリレートモノマーは、ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート及びエトキシ化ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート等よりなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。この場合、成形用フィルム積層体100の機械的特性が良好となる。
【0066】
また、ハードコート層2を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物に含まれる多官能(メタ)アクリレートオリゴマーは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。この場合、成形用フィルム積層体100の機械的特性が良好となる。
【0067】
ハードコート層2を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物が、多官能アクリレートを含む場合、その多官能アクリレートは、上述の低屈折率層3を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物に含まれる多官能アクリレートと同様の化合物であってもよく、異なっていてもよい。
【0068】
ハードコート層2を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物が紫外線硬化性樹脂組成物である場合には、この硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤を含むことが好ましい。また、ハードコート層2を作製するために用いられる硬化性樹脂組成物が、光重合開始剤を含む場合、その光重合開始剤は、上述の低屈折率層3を作製するために用いられる光重合開始剤と同様の化合物であってもよく、異なっていてもよい。
【0069】
ハードコート層2は、例えば、透光性有機微粒子を含んでもよい。透光性有機微粒子は、ハードコート層2の表面に凹凸を形成し、反射防止性を向上させるものである。このような透光性有機微粒子は、例えば、塩化ビニル、(メタ)アクリル単量体、スチレン、及びエチレンより選択される少なくとも一種の単量体を重合することによって得られる重合体から形成される。また、透光性有機微粒子は、成形用フィルム積層体100における、光の拡散又は散乱を均一に行うために粒子径の揃った単分散なものであることが好ましい。
【0070】
4)成形用フィルム積層体が備えるその他の層
成形用フィルム積層体100は、例えば、透明基材層1と、ハードコート層2との間に任意の層を備えてもよく、ハードコート層2と低屈折率層3との間に任意の層を備えてもよい。任意の層としては、例えば高屈折率層、及び中屈折率層が挙げられる。
【0071】
高屈折率層は、成形用フィルム積層体100の反射率を低減させるための層である。高屈折率層は、低屈折率層3及び中屈折率層よりも屈折率が高い層である。また、中屈折率層も、成形用フィルム積層体100の反射率を低減させるための層である。中屈折率層は、低屈折率層3よりも屈折率が高く、また高屈折率層よりも屈折率が低い層である。これらの層が、成形用フィルム積層体100に設けられた場合、成形用フィルム積層体100の光の反射を防止する効果が良好となる。また、高屈折率層と、中屈折率層とは、ハードコート層と、低屈折率層との間に設けられ、ハードコート層2と、中屈折率層と、高屈折率層と、低屈折率層3とが、この順で積層されることが好ましい。
【0072】
2-2.成形用フィルム積層体を備える成形品、およびその製造方法
(1)成形品
これより、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100を備える成形品について説明する。
【0073】
本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、例えば、成形品を作製するために用いられる。中でも、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、インサート成形用に好適に用いられる。より詳細には、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、インサート成形法によって製造される樹脂成形体の表面上に設けられる反射防止層を作製するために用いられる。本実施形態に係る成形用フィルム積層体100からなる反射防止層が設けられた成形品は、車載等のCID(センターインフォメーションディスプレイ)の画像表示部等として好適に用いられる。なお、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100の用途は、成形品を作製することのみに限定されない。すなわち、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、種々の用途に適用することができるものである。また、成形用フィルム積層体100を備える成形品は、CIDに用いられることに限定されない。すなわち、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100を備える成形品は、種々の製品に適用することができるものである。
【0074】
(2)成形品の製造方法
これより、インサート成形法により、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100を備える成形品の製造方法について説明する。
【0075】
本実施形態に係る成形品(以下、フィルムインサート成形品ともいう)200の製造方法は、成形用フィルム積層体100を金型(以下、射出成形用金型ともいう)20内に配置した状態で、金型20内で樹脂成形体27を作製することで、樹脂成形体27と、樹脂成形体27の表面上に重なる成形用フィルム積層体100からなる反射防止層110とを備える成形品200を製造するものである。そして、本実施形態に係る成形品200の製造方法において、成形用フィルム積層体100を金型20内に配置する前に、成形用フィルム積層体100を加熱しながら変形させることで予備成形することが好ましい。
【0076】
より詳細には、本実施形態に係る成形品200の製造方法は、例えば、成形用フィルム積層体100を加熱しながら変形させることで予備成形する工程(予備成形工程)と、予備成形した成形用フィルム積層体100をトリミングする工程(トリミング工程)と、予備成形した成形用フィルム積層体100を射出成形用金型20内に配置する工程(配置工程)と、成形用フィルム積層体100を射出成形用金型20内に配置した状態で、射出成形用金型20内で樹脂成形体27を作製することで、樹脂成形体27と、樹脂成形体27の表面上に重なる成形用フィルム積層体100からなる反射防止層110と、を備える成形品200を製造する工程(インサート成形工程)と、その成形品200を金型から取り出す工程(取出工程)と、を含む。
【0077】
以下、本実施形態に係る成形品の製造方法に含まれる各工程について詳細に説明する。
【0078】
<予備成形工程>
まず、図2Aに示すように、成形用フィルム積層体100を、予備成形用金型10に設置できるよう、クランプ15、16で固定する。予備成形用金型10は、上型11と、下型12との組み合わせで構成されている。上型11は、図2Bに示すように、上型11と、下型12とを型締めして密閉したときに、予備成形用金型10内を加圧若しくは減圧することができるように複数の通気口13を有する。また、下型12は、成形用フィルム積層体100が配置される成形面14を有している。成形用フィルム積層体100が予備成形された場合、成形用フィルム積層体100は、この成形面14の形状に合わせて予備成形されうる。
【0079】
次いで、ヒーター17で成形用フィルム積層体100を加熱し、成形用フィルム積層体100を軟化させる。このとき、ヒーターの温度は、150℃以上から200℃以下に設定することが好ましい。この場合、成形用フィルム積層体100を加工しやすい状態に軟化させることができ、かつ成形用フィルム積層体100の特性を損なわないようにすることができる。
【0080】
そして、図2Bに示すように、予備成形用金型10内を密閉できるように、上型11と、下型12とを型締めし、その後、軟化した成形用フィルム積層体100を、下型12の成形面14に沿わせ、密着させる。成形用フィルム積層体100を、下型12の成形面14に沿わせ、密着させる方法としては、複数の通気口13から密閉した予備成形用金型10内へ圧縮空気を供給し、予備成形用金型10内を加圧することによって密着させる方法、又は複数の通気口13から密閉した予備成形用金型10内の空気を吸引して予備成形用金型10内を減圧することによって密着させる方法等が挙げられる。そして、成形面14に沿わせ、密着させた成形用フィルム積層体100が冷却して、硬化することで、成形面14の形状に応じて予備成形された成形用フィルム積層体100を得ることができる。
【0081】
<トリミング工程>
予備成形された成形用フィルム積層体100の下型12の成形面14に密着している部分以外の余分な部分を切り取り、所望の形状にトリミングする。トリミングの方法としては、図2Cに示すように、プレス成形機18を使用してカットする方法等が挙げられる。
【0082】
<配置工程>
図3Aに示すように、予備成形した成形用フィルム積層体100を、雌型21と、雄型22とを備える射出成形用金型20に配置する。より詳細には、成形用フィルム積層体100を、射出成形用金型20を構成する雌型21の配置面23に、沿って配置する。このとき、成形用フィルム積層体100の低屈折率層3と、配置面23とが、対向するように配置される。
【0083】
<インサート成形工程>
次に、図3Bに示すように、この雌型21を、樹脂ゲート24が設けられた雄型22へ型閉めする。このとき、雌型21と、雄型22との間には、キャビティ25が形成される。配置工程において、雌型21の配置面23に配置された成形用フィルム積層体100は、このキャビティ25内に配置されることになる。
【0084】
続いて、図3Cに示すように、樹脂ゲート24より加熱溶融した樹脂26を射出成形用金型20の雌型21と、雄型22との間に形成されるキャビティ25内に射出・注入する。そして、雌型21と、雄型22との間に形成されたキャビティ25内に注入された樹脂26を冷却し硬化させることによって樹脂成形体27を作製することで、樹脂成形体27に成形用フィルム積層体100を密着させる。このようにして、樹脂成形体27と、樹脂成形体27の表面上に重なる成形用フィルム積層体100からなる反射防止層110と、を備えるフィルムインサート成形品200を製造する。このフィルムインサート成形品200は、成形用フィルム積層体100の透明基材層1と、樹脂成形体27とが密着しており、この場合、成形用フィルム積層体100の低屈折率層3のハードコート層2と対向している面と反対側の面が、樹脂成形体27の表面上に重なる成形用フィルム積層体100からなる反射防止層110の表面となる。すなわち、フィルムインサート成形品200の最表面が、成形用フィルム積層体100の低屈折率層3のハードコート層2と対向している面と反対側の面となり、その最表面の算術平均粗さ(Ra)は、1nm以下となる。
【0085】
<取出工程>
インサート成形工程後、図3Dに示すように、雌型21と、雄型22とを型開きすることによって、上述のフィルムインサート成形品200を取り出すことができる。
【0086】
なお、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、インサート成形法に用いられることには限定されない。すなわち、本実施形態に係る成形用フィルム積層体100は、種々の成形方法に適用することができるものである。
【実施例0087】
以下、本実施形態の、具体的な実施例について説明する。なお、本実施形態は、下記の実施例のみに制限されるものではない。
【0088】
(1)成形用フィルム積層体の作製
実施例1~7及び比較例1~11の成形用フィルム積層体を、以下のようにして作製した。
【0089】
まず、透明基材層として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)/ポリカーボネート(PC)二層フィルム(三菱ガス化学株式会社、品名:ユーピロンDF02PU、PMMA面の屈折率1.50)を準備した。
【0090】
続いて、ウレタンアクリレート(アイカ工業株式会社製、品名:Z-607-5HL、475重量部)、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(共栄社化学株式会社製、品名:BP-4EAL、10重量部)、及び溶剤としてMEK(175重量部)、MIBK(140重量部)を混合することで、ハードコート層用組成物を調製した。
【0091】
次いで、透明基材層の一面に、上述のハードコート層用組成物を、硬化後の塗膜が2.5μmとなるように塗布し、80℃で乾燥後、露光量1000mJ/cmの紫外線を照射して硬化させることによりハードコート層を形成した。
【0092】
続いて、以下に記載した材料を、表1、2に示す割合で混合して、低屈折率層用組成物を調製した。
・含フッ素アクリル化合物1(ダイキン工業株式会社製、品名:AR110(屈折率1.38))
・含フッ素アクリル化合物2(共栄社化学株式会社製、品名:LINC-PTC(屈折率1.43)
・多官能アクリレート(新中村化学工業株式会社製、品名:A-9570W(屈折率1.52))
・無機フィラー1(日揮触媒化成株式会社製、品名:スルーリア4320(平均粒径60nm、屈折率1.25))
・無機フィラー2(日揮触媒化成株式会社製、品名:スルーリア2320(平均粒径50nm、屈折率1.30))
・無機フィラー3(日産化学株式会社製、品名:MIBK-AC-2140Z(平均粒径12nm、屈折率1.46))
・光重合開始剤1(IGM RESINS B.V製、品名:Omnirad 184)
・光重合開始剤2(IGM RESINS B.V製、品名:Omnirad 907)
・撥水撥油剤(信越化学工業株式会社製、品名:KY-1203)
・シリコーン系滑剤(東亞合成株式会社製、品名:サイマックUS-270)
【0093】
そして、ハードコート層の一面に、上述の低屈折率層用組成物を、硬化後の塗膜が0.1μmとなるように塗布し、80℃で乾燥後、露光量1000mJ/cmの紫外線を窒素雰囲気下で照射して硬化させることにより低屈折率層を形成した。また、各実施例及び比較例の低屈折率層の屈折率を測定し、それぞれの評価結果を下記の表1、2に示した。
【0094】
このようにして、膜厚0.1μmの成形用フィルム積層体を作製した。
【0095】
(2)成形用フィルム積層体の評価
実施例1~7及び比較例1~11の成形用フィルム積層体の各々に関して、それぞれの物性を評価した。また、各評価項目の詳細は、以下の通りである。
【0096】
<光学フィルム積層体の各評価>
(膜屈折率(低屈折率層))
実施例1~7及び比較例1~11で作製した各成形用フィルム積層体において、反射分光膜厚計(大塚電子株式会社製 品番:FE-3000)を使用し、反射スペクトルを測定し、その反射率から、低屈折率層の膜屈折率を測定した。このとき、各々の実施例及び比較例の結果を下記の表1、2に示した。
【0097】
(算術平均粗さ)
実施例1~7及び比較例1~11で作製した各成形用フィルム積層体において、走査型プローブ顕微鏡(株式会社島津製作所製 品番:SPM9700)を使用し、走査範囲0.01mm、走査速度0.1mm/sの条件で、JIS B0601-1994の規格に基づき、低屈折率層の算術平均粗さを測定した。このとき、各々の実施例及び比較例の結果を下記の表1、2に示した。
【0098】
(延伸率)
実施例1~7及び比較例1~11で作製した各成形用フィルム積層体を、JIS K 6251の規格に基づき、ダンベル状1号形の形状に切り出して測定試料片を作製した。測定前の測定試料片の長さをL1とした。次に、その測定試料片を、引張試験機(ミネベアミツミ株式会社製 品番:TGI-50kN)により、150℃の環境下で引張速度10mm/minの条件で延伸し、延伸後の測定試料片の長さをL2とした。そして、L1とL2との長さを比較することにより延伸率を測定した。なお、ここでいう延伸率とは、延伸後の測定試料片に三波長蛍光灯の光を照射したときに、延伸後の測定試料片に白化及びクラックが目視では確認されない範囲で、(L2/L1)×100で表される数値が最大となる点のことを意味する。このとき、各々の実施例及び比較例の結果を下記の表1、2に示した。
【0099】
(ヘイズ及び全光線透過率)
実施例1~7及び比較例1~11で作製した各成形用フィルム積層体において、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製 品番:NDH7000SP2)を用いて、JIS K 7361-1:1997で規定されるヘイズ及び全光線透過率を測定した。このとき、各々の実施例及び比較例の結果を下記の表1、2に示した。
【0100】
(薬品耐摩耗性)
室温(約25℃)の環境下で、実施例1~7及び比較例1~11で作製した各成形用フィルム積層体の試験片を用意し、その試験片に日焼け止めクリームを滴下した。次いで、その日焼け止めクリームをガーゼで拭き取って除去した後に、拭き取り前後における試験片の外観を、以下の基準で評価した。このとき、各々の実施例及び比較例の結果を下記の表1、2に示した。
【0101】
「A」:試験片の表面に傷がみられない
「B」:試験片の表面に数本の傷がみられる
「C」:試験片の表面に数十本の傷が多数みられる
「D」:試験片の表面に数十本から数百本の傷が多数みられる
「E」:試験片の膜の一部に剥離がみられる
「F」:試験片の膜に剥離がみられる
また、用いた日焼け止めクリームの詳細は以下の通りである。
・日焼け止めクリーム:製品名 Ultra Sheer DRY-TOUCH SUNSCREEN Broad Spectrum SPF45(Neutrogena製、内容成分:ホモサラート(含有率10%)、オキシベンゾン(含有率6%)、サリチル酸2エチルヘキシル(含有率5%)、アボベンゾン(含有率3%)、オクトクリレン(含有率2.8%))
【0102】
(最小反射率波長)
実施例1~7及び比較例1~11で作製した各成形用フィルム積層体の透明基材層の裏面を黒色マジックインキで塗装した上で黒色のビニールテープ(日東電工株式会社製、品番:No.21)を張り付けた状態で、紫外可視赤外分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製 品番:U-4100)により、光の波長300nm~800nmの5°正反射スペクトルを測定した。得られた反射スペクトルより、最小反射率の波長を読み取った。このとき、各々の実施例及び比較例の結果を下記の表1、2に示した。
【0103】
(最小反射率)
実施例1~7及び比較例1~11で作製した各成形用フィルム積層体の透明基材層の裏面を黒色マジックインキで塗装した上で黒色のビニールテープ(日東電工株式会社製、品番:No.21)を張り付けた状態で、紫外可視赤外分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製 品番:U-4100)により、光の波長300nm~800nmの5°正反射スペクトルを測定した。得られた反射スペクトルより、最小反射率を読み取った。このとき、各々の実施例及び比較例の結果を下記の表1、2に示した。
【0104】
(視感反射率)
実施例1~7及び比較例1~11で作製した各成形用フィルム積層体の透明基材層の裏面を黒色マジックインキで塗装した上で黒色のビニールテープ(日東電工株式会社製、品番:No.21)を張り付けた状態で、分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製 品番:CM-3600d)を用いて、C光源、10°視野、測定径4mmφ、SCIの条件で、視感反射率を測定した。このとき、各々の実施例及び比較例の結果を下記の表1、2に示した。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
実施例1~7の成形用フィルム積層体は、算術平均粗さ(Ra)が1nm以下であり、反射防止層として用いられるのに適した光学的特性を有し、かつ薬品耐摩耗性に優れるものであった。これに対して、比較例1~7、9の成形用フィルム積層体に関しては、実施例1~7の成形用フィルム積層体と比較すると、算術平均粗さ(Ra)が1nm以上であり、光学的特性は変わりないものの、耐薬品摩耗性には劣るものであった。
【0108】
比較例8の成形用フィルム積層体に関しては、算術平均粗さ(Ra)が1nm以下ではあるものの、無機フィラーの含有量が多いため、実施例1~7の成形用フィルム積層体と比べると、耐薬品摩耗性が劣るものであった。
【0109】
比較例10及び11の成形用フィルム積層体に関しては、算術平均粗さ(Ra)が1nm以下ではあるものの、低屈折率層の屈折率が実施例1~7の成形用フィルム積層体と比べると大きく、最小反射率及び視感反射率等の光学的特性が劣るものであった。
【符号の説明】
【0110】
1 透明基材層
2 ハードコート層
3 低屈折率層
10 予備成形用金型
11 上型
12 下型
13 通気口
14 成形面
15、16 クランプ
17 ヒーター
18 プレス成形機
20 金型、射出成形用金型
21 雌型
22 雄型
23 配置面
24 樹脂ゲート
25 キャビティ
26 樹脂
27 樹脂成形体
100 成形用フィルム積層体
110 反射防止層
200 成形品、フィルムインサート成形品
図1
図2
図3