IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日華化学株式会社の特許一覧

特開2023-95615抗ウイルス剤組成物、抗ウイルス性布帛、及び、抗ウイルス性皮革
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095615
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤組成物、抗ウイルス性布帛、及び、抗ウイルス性皮革
(51)【国際特許分類】
   A01N 33/12 20060101AFI20230629BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20230629BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20230629BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20230629BHJP
   C14C 11/00 20060101ALI20230629BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230629BHJP
   A01N 55/10 20060101ALI20230629BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A01N33/12 101
D06M13/463
D06M15/564
D06M15/53
C14C11/00
A01P1/00
A01N55/10 100
A01N25/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211619
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】前田 純一
(72)【発明者】
【氏名】福岡 秀幸
【テーマコード(参考)】
4F056
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
4F056AA01
4F056AA08
4F056CC54
4F056CC69
4F056DD04
4F056DD44
4F056FF18
4H011AA04
4H011BA05
4H011BB04
4H011BB16
4H011BC03
4H011BC19
4H011DA16
4H011DG16
4H011DH05
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA86
4L033BA96
4L033CA48
4L033CA50
(57)【要約】
【課題】特定の第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤と、特定のバインダー樹脂とを含有する抗ウイルス剤組成物であって、良好な液安定性を有するとともに、十分な抗ウイルス性を付与できるものを開示する。
【解決手段】(A)所定の第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤と、(B)所定の水系ポリウレタン樹脂と、(C)所定の非イオン界面活性剤と、を含有する、抗ウイルス剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記の第4級アンモニウム塩(1a)及び(2a)のうちの少なくとも1種を含む抗ウイルス剤と、
(B)カルボキシル基及びカルボキシレート基のうちの少なくとも一方を有する水系ポリウレタン樹脂と、
(C)下記の非イオン界面活性剤(1c)~(4c)、及び、アルキレンオキサイドの重合度が10以上50以下であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、のうちの少なくとも1種の非イオン界面活性剤と、
を含有する、抗ウイルス剤組成物。
【化1】
ここで、Rは炭素数1~3の炭化水素基であり、Rは炭素数1~24の炭化水素基であり、Rは炭素数10~24の炭化水素基であり、Yはq価のアニオンであり、qは1又は2であり、pは1~6である。
【化2】
ここで、Rは炭素数10~20のアルキル基又はアリール基であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又は(AO)Hで表される基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、xは1~10であり、Rはメチル基、エチル基、ベンジル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基であり、rは1又は2であり、sは1又は2であり、r+sは3であり、tは1又は2であり、Zはモノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、ハロゲン、メチル硫酸、エチル硫酸又は芳香族アニオンである。
【化3】
ここで、Arは炭素数6~46の芳香族炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n1は10~60であり、Xは水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【化4】
ここで、Rは炭素数1~30の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n2は5~40であり、Xは水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【化5】
ここで、Rは炭素数1~30の炭化水素基であり、AO及びAOは、各々独立して、炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n3+n4は5~70であり、X及びXは、各々独立して、水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【化6】
ここで、Rは炭素数1~30の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n5は5~40であり、Xは水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【請求項2】
布帛基材と、請求項1に記載の抗ウイルス剤組成物とを備え、
前記抗ウイルス剤組成物が前記布帛基材に付着している、
抗ウイルス性布帛。
【請求項3】
皮革基材と、請求項1に記載の抗ウイルス剤組成物とを備え、
前記抗ウイルス剤組成物が前記皮革基材に付着している、
抗ウイルス性皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は抗ウイルス剤組成物、抗ウイルス性布帛、及び、抗ウイルス性皮革を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境衛生に対する意識の高まりと関連して、第4級アンモニウム塩タイプの抗ウイルス剤や、当該抗ウイルス剤を付与した物品が開発されてきた。このような第4級アンモニウム塩タイプの抗ウイルス剤を物品の表面に固定化するために様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1には、上記の抗ウイルス剤を合成繊維に固定化するために、抗ウイルス剤の固定化処理に先立って、合成繊維にカルボキシル基を有するバインダー樹脂を付与することが開示されている。特許文献1に開示された技術によれば、ポリエステル繊維などの合成繊維等に対して、好適に抗ウイルス剤を付与できる。また、特許文献2には、アニオン性基を有する樹脂をバインダーとして使用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/047642号
【特許文献2】特許第6482099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の抗ウイルス剤組成物においては、抗ウイルス剤とバインダー樹脂との液安定性が不良となり易く、例えば、当該組成物を含む処理液において、処理浴の粘度が上昇する、凝集物が生成する、等の問題がある。このような問題に鑑み、本願は、特定の抗ウイルス剤と、特定のバインダー樹脂とを含有する抗ウイルス剤組成物であって、抗ウイルス剤とバインダー樹脂との液安定性が良好であり、十分な抗ウイルス性を付与できるものを開示する。さらに、本願は、抗ウイルス剤が固定化され、抗ウイルス性を有する布帛及び皮革を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について検討を進め、特定の第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤と、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基を有する水系ポリウレタン樹脂とを含有する抗ウイルス剤組成物において、特定の非イオン界面活性剤を含有させることで、抗ウイルス剤と水系ポリウレタン樹脂との液安定性が良好となることを見出した。また、このような組成物を用いて布帛基材や皮革基材といった各種基材に対して抗ウイルス剤を付与した場合、1回の加工で抗ウイルス剤を基材に固着化することが可能で、良好な抗ウイルス性を有する物品が得られることを見出した。すなわち、本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、以下の抗ウイルス剤組成物、抗ウイルス性布帛、及び、抗ウイルス性皮革を開示する。
【0006】
本開示の抗ウイルス剤組成物は、
(A)下記の第4級アンモニウム塩(1a)及び(2a)のうちの少なくとも1種を含む抗ウイルス剤と、
(B)カルボキシル基及びカルボキシレート基のうちの少なくとも一方を有する水系ポリウレタン樹脂と、
(C)下記の非イオン界面活性剤(1c)~(4c)、及び、アルキレンオキサイドの重合度が10以上50以下であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、のうちの少なくとも1種の非イオン界面活性剤と、
を含有する。
【0007】
【化1】
ここで、Rは炭素数1~3の炭化水素基であり、Rは炭素数1~24の炭化水素基であり、Rは炭素数10~24の炭化水素基であり、Yはq価のアニオンであり、qは1又は2であり、pは1~6である。
【0008】
【化2】
ここで、Rは炭素数10~20のアルキル基又はアリール基であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又は(AO)Hで表される基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、xは1~10であり、Rはメチル基、エチル基、ベンジル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基であり、rは1又は2であり、sは1又は2であり、r+sは3であり、tは1又は2であり、Zはモノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、ハロゲン、メチル硫酸、エチル硫酸又は芳香族アニオンである。
【0009】
【化3】
ここで、Arは炭素数6~46の芳香族炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n1は10~60であり、Xは水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【0010】
【化4】
ここで、Rは炭素数1~30の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n2は5~40であり、Xは水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【0011】
【化5】
ここで、Rは炭素数1~30の炭化水素基であり、AO及びAOは、各々独立して、炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n3+n4は5~70であり、X及びXは、各々独立して、水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【0012】
【化6】
ここで、Rは炭素数1~30の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n5は5~40であり、Xは水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【0013】
本開示の抗ウイルス性布帛は、
布帛基材と、上記本開示の抗ウイルス剤組成物とを備え、
前記抗ウイルス剤組成物が前記布帛基材に付着している。
【0014】
本開示の抗ウイルス性皮革は、
皮革基材と、上記本開示の抗ウイルス剤組成物とを備え、
前記抗ウイルス剤組成物が前記皮革基材に付着している。
【発明の効果】
【0015】
本開示の抗ウイルス剤組成物は、従来の組成物よりも、処理液とした場合の液安定性が良好であり、各種基材に対して、一度の加工で抗ウイルス剤を付与することができる。つまり、抗ウイルス剤処理に先立つ前処理の工程が不要となり、特別な設備を用いることなく低コストで安定的かつ効率的に、抗ウイルス性を有する布帛や皮革等を製造することができ、生産効率及びコスト面で有利である。また、本開示の抗ウイルス剤組成物は、水等で希釈して処理液を調整し、基材への加工を行う際にも、長時間に亘って樹脂カス等を発生することが無く、貯蔵安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.抗ウイルス剤組成物
本開示の抗ウイルス剤組成物は、
(A)下記の第4級アンモニウム塩(1a)及び(2a)のうちの少なくとも1種を含む抗ウイルス剤と、
(B)カルボキシル基及びカルボキシレート基のうちの少なくとも一方を有する水系ポリウレタン樹脂と、
(C)下記の非イオン界面活性剤(1c)~(4c)、及び、アルキレンオキサイドの重合度が10以上50以下であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、のうちの少なくとも1種の非イオン界面活性剤と、
を含有する。
【0017】
1.1 抗ウイルス剤(A)
本開示の抗ウイルス剤組成物に含まれる抗ウイルス剤(A)は、第4級アンモニウム塩を含む。第4級アンモニウム塩としては、例えば、アルコキシシラン系のものと、非アルコキシシラン系のものとが挙げられる。アルコキシシラン系の第4級アンモニウム塩としては、抗ウイルス性を発現する比較的長鎖の炭化水素基を有するアンモニウム基とアルコキシシリル基とを有するものが挙げられ、具体的には、下記の第4級アンモニウム塩(1a)が挙げられる。一方、非アルコキシシラン系の第4級アンモニウム塩としては、抗ウイルス性を発現する比較的長鎖の炭化水素基を有するアンモニウム基を有するものが挙げられ、具体的には、下記の第4級アンモニウム塩(2a)が挙げられる。特に、アルコキシシラン系の第4級アンモニウム塩(1a)は、反応性の高いアルコキシシリル基を有するため、後述の(B)水系ポリウレタン樹脂との結合が強く、また、アルコキシシリル基と反応可能な部位を有する各種基材との結合も強い。そのため、優れた抗ウイルス性が発現され易く、さらには、抗ウイルス効果が長持ちし易いものと考えられる。
【0018】
1.1.1 アルコキシシラン系第4級アンモニウム塩(1a)
第4級アンモニウム塩(1a)は以下の化学式で示されるものである。
【0019】
【化7】
ここで、Rは炭素数1~3の炭化水素基であり、Rは炭素数1~24の炭化水素基であり、Rは炭素数10~24の炭化水素基であり、Yはq価のアニオンであり、qは1又は2であり、pは1以上6以下である。
【0020】
上記の第4級アンモニウム塩(1a)において、Rは直鎖でも分岐でも構わない。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基を例示することができる。その中でも、メチル基、又はエチル基が好ましく、メチル基がさらに好ましい。3つのRは互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0021】
上記の第4級アンモニウム塩(1a)において、2つのRは互いに同じであっても、異なっていてもよい。Rは直鎖でも分岐でも構わない。Rは-O-、-OCO-、-OHからなる群から少なくとも1種の官能基を含んでいてもよい。Rの炭素数は1~10が好ましく、1~3がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0022】
上記の第4級アンモニウム塩(1a)において、Rは直鎖でも分岐でも構わない。Rの炭素数は10~18が好ましく、14~18がさらに好ましい。Rとしては、例えば、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ウンエイコシル基、ドエイコシル基、トリエイコシル基、テトラエイコシル基などが例示できる。
【0023】
上記の第4級アンモニウム塩(1a)において、Yはq価のアニオンであればよい。Yとしては、例えば、塩素イオン、臭素イオンなどのハロゲンイオン;メチルカルボニルオキシイオン(アセテートイオン)、エチルカルボニルオキシイオン(プロピオネートイオン)、フェニルカルボニルオキシイオン(ベンゾエートイオン)などの有機カルボニルオキシイオン(有機カルボン酸イオン)を例示することができる。中でも、塩素イオン、臭素イオンなどのハロゲンイオンが好ましく、塩素イオンがさらに好ましい。
【0024】
1.1.2 非アルコキシシラン系第4級アンモニウム塩(2a)
第4級アンモニウム塩(2a)は以下の化学式で示されるものである。
【0025】
【化8】
ここで、Rは炭素数10~20のアルキル基又はアリール基であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又は(AO)Hで表される基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、xは1~10であり、Rはメチル基、エチル基、ベンジル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基であり、rは1又は2であり、sは1又は2であり、r+sは3であり、tは1又は2であり、Zはモノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、ハロゲン、メチル硫酸、エチル硫酸又は芳香族アニオンである。
【0026】
上記の第4級アンモニウム塩(2a)において、Rは炭素数10~20のアルキル基又はアリール基である。Rの炭素数が小さ過ぎても、大き過ぎても、抗ウイルス性が低下し易い。Rの炭素数は12以上であってもよく、18以下であってもよい。
【0027】
上記の第4級アンモニウム塩(2a)において、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又は(AO)Hで表される基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、xは1~10である。特にRがメチル基である場合、抗ウイルス性に一層優れる。
【0028】
上記の第4級アンモニウム塩(2a)において、Rはメチル基、エチル基、ベンジル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基である。特にRが炭素数2~4のヒドロキシアルキル基、特にヒドロキシエチル基である場合、抗ウイルス性に一層優れる。或いは、Rがメチル基である場合も、抗ウイルス性に一層優れる。
【0029】
上記の第4級アンモニウム塩(2a)において、Zとなり得る芳香族アニオンとしては、例えば、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、安息香酸又はアルキルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0030】
上記の第4級アンモニウム塩(2a)において、Zがモノアルキルリン酸及び/又はジアルキルリン酸である場合、抗ウイルス性に一層優れる。モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸のアルキル基としては炭素数1~12のアルキル基を挙げることができる。その中でも炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数2~4のアルキル基がより好ましい。或いは、Zがメチル硫酸又はエチル硫酸である場合も、抗ウイルス性に一層優れる。
【0031】
上記の第4級アンモニウム塩(2a)の具体例としては、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩、テトラデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-エチルリン酸エステル塩、テトラデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-エチルリン酸エステル塩等が挙げられる。中でも、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩を採用した場合、抗ウイルス性が一層向上するとともに、防錆性の発現が期待できる。
【0032】
1.1.3 その他の抗ウイルス剤(3a)
本開示の抗ウイルス剤組成物に含まれる抗ウイルス剤は、上記の第4級アンモニウム塩(1a)及び(2a)のうちの1種又は2種以上のみからなるものであってもよいし、さらにその他の抗ウイルス剤(3a)と併用することもできる。その他の抗ウイルス剤(3a)については、特に限定されるものではない。尚、上記の第4級アンモニウム塩(1a)及び(2a)、中でも、第4級アンモニウム塩(1a)は、グラム陽性菌、グラム陰性菌に対する抗菌(制菌)効果、及び、インフルエンザウイルス、はしかウイルス等のエンベロープウイルスに対しても抗ウイルス作用を有している。さらに、抗ウイルス効果以外にも、制電効果、防臭効果も同時に有するものと考えられる。
【0033】
1.1.4 抗ウイルス剤の含有量
上記の抗ウイルス剤(A)の濃度は、組成物中に安定に維持され、抗ウイルス効果が得られる限り特に制限されない。例えば、本開示の抗ウイルス剤組成物は、水等を用いて希釈を行う前の未希釈の状態で、上記の抗ウイルス剤(A)を0.01~90質量%含むことが好ましく、0.1~75質量%含むことがより好ましい。
【0034】
1.2 樹脂
本開示の抗ウイルス剤組成物は、水系ポリウレタン樹脂(B)を含む。水系ポリウレタン樹脂(B)は、バインダー樹脂として機能し得る。
【0035】
1.2.1 水系ポリウレタン樹脂(B)
本開示の抗ウイルス剤組成物に含まれる水系ポリウレタン樹脂(B)は、カルボキシル基及びカルボキシレート基のうちの少なくとも一方を有する。なお、本明細書中で「カルボキシル基及びカルボキシレート基のうちの少なくとも一方を有する」とは、組成物中や布帛の表面に存在するカルボキシル基が、解離していないフリーのカルボキシル基(-COOH)として存在する場合だけでなく、末端の水素原子が離脱してカルボキシレートアニオンになっている場合やカルボキシレートアニオンと抗ウイルス剤分子とが化学的に結合している場合も、特に断りのない限り、含むものとする。
【0036】
水系ポリウレタン樹脂(B)は、例えば、ポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、カルボキシル基及びカルボキシレート基のうちの少なくとも一方を有するジオール化合物と、を反応して得られるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、水中に乳化分散(以下、分散又は乳化することを「乳化分散」という。)させたのち、アミン系鎖伸長剤を用いて水中で鎖伸長反応して得られたものであってよい。本願にいう「水系ポリウレタン樹脂」とは、水に対して乳化分散性を有するポリウレタン樹脂を意味する。具体的には、本願にいう「水系ポリウレタン樹脂」は、当該ポリウレタン樹脂の濃度が35質量%である乳化分散液(溶媒:水)を調製した後に、当該乳化分散液を、大気圧にて、20℃で12時間静置しても、分離や沈降が観察されないものである。
【0037】
水系ポリウレタン樹脂(B)を構成するポリイソシアネート化合物に特に制限はなく、例えば、芳香族ポリイソシアネート化合物、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物などを挙げることができる。芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トルエンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などを挙げることができる。脂環式ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、ノルボルナンジイソシアネートなどを挙げることができる。これらのポリイソシアネート化合物は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。このようなポリイソシアネートの中でも、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネート化合物は、基材に対して無黄変性を与えることができる。特に、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート及び1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのうちの少なくとも1種が好適である。
【0038】
水系ポリウレタン樹脂(B)を構成するポリオール化合物に特に制限はなく、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどを挙げることができる。これらのポリオール化合物は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、ポリカーボネートポリオールを用いた場合、耐摩耗性が良好となる。ポリオール化合物の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、1,000以上3,000以下であってもよい。数平均分子量がその範囲であると外観品位と耐摩耗性とが良好となる。
【0039】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイドなどの炭素数2~4のアルキレンオキサイドの単独付加重合物又は共付加重合物(ブロック共重合でも、ランダム共重合でもかまわない)であるポリオールなどを挙げることができる。
【0040】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリオール類とカーボネート類との脱アルコール反応、脱フェノール反応等で得られるものが挙げられる。ポリオール類は、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、あるいはビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等から選ばれる1種または2種以上であってよい。カーボネート類は、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等から選ばれる1種または2種以上であってよい。上記ポリカーボネートポリオールは、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、二塩基酸と、上述のポリオール類との重縮合反応により得られるものが挙げられる。二塩基酸は、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸等から選ばれる1種または2種以上であってよい。上記ポリエステルポリオールは、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
水系ポリウレタン樹脂(B)を構成するカルボキシル基及びカルボキシレート基のうちの少なくとも一方を有するジオール化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、及びこれらの塩を挙げることができる。さらに、このようなジオール化合物として、カルボキシル基を有するジオール化合物と、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸等とを反応させて得られるペンダント型カルボキシル基を有するポリエステルポリオールを用いることもできる。なお、前記カルボキシル基を有するジオール化合物に、ジオール成分としてカルボキシル基を有しないジオール化合物を混合して反応させても良い。これらのジオール化合物は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
水系ポリウレタン樹脂(B)中のカルボキシル基及びカルボキシレート基の少なくとも一方の含有量は、特に限定されるものではない。例えば、抗ウイルス剤の固着性又は抗ウイルス剤との相溶性の観点から、水系ポリウレタン樹脂(B)は、カルボキシル基及びカルボキシレート基のうちの少なくとも一方を、0.4質量%以上4.0質量%以下含んでいてよい。また、水系ポリウレタン樹脂(B)が、カルボキシル基及びカルボキシレート基の双方を有する場合、当該カルボキシル基及びカルボキシレート基の合計の含有量が、0.4質量%以上4.0質量%以下であってよい。尚、カルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量は、ポリウレタン樹脂100gあたりのCOO量を原料仕込み量から計算することで求めることができる。カルボキシル基及びカルボキシレート基の含有量が4.0質量%以下であることで、風合いが軟らかくなり、また、屈曲時の白化の問題を抑制し易い。また、カルボキシル基及びカルボキシレート基の0.4質量%以上であることで、水系ポリウレタン樹脂(B)の貯蔵安定性が向上し、より安定的な加工が可能となる。
【0044】
上述のイソシアネート基末端プレポリマーを調製する際、ポリオール化合物として、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコールなどの低分子量多価アルコールを用いてもよい。
【0045】
鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、4,4'-ジアミノジシクロへキシルメタン、ピペラジン、2-メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボランジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミンなどの低分子量ポリアミン(1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を1分子中に2個以上含有するポリアミン化合物)などを挙げることができる。これらの鎖伸長剤は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
尚、水系ポリウレタン樹脂(B)は、例えば、特開2006-206839号公報に開示されたリン系化合物を難燃成分として含む難燃剤ブレンドウレタン系樹脂であってもよい。
【0047】
次に、上記水系ポリウレタン樹脂(B)の製造方法について説明する。
【0048】
上述のイソシアネート基末端プレポリマーを製造する具体的な方法としては特に制限はなく、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシアネート重付加反応法等により製造することができる。この時の反応温度は、40~150℃であることが好ましい。また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶剤を添加してもよい。このような有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、テトラヒドロフラン等を使用することができる。反応中には、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジ-2-エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)等の反応触媒、あるいは燐酸、燐酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0049】
イソシアネート基末端プレポリマーにおける残存イソシアネート基の含有率は、0.2~4.5質量%であることが好ましい。この範囲であると、その後ポリアミンにより鎖伸張して得られる水系ポリウレタン樹脂組成物の成膜性が良好となり、また、形成されるフィルムが柔らかくなり適度な柔軟性を示す。尚、残存イソシアネート基含有率は以下の方法で求めることができる。
【0050】
得られたウレタンプレポリマー0.3gを三角フラスコに採取し、0.1N ジブチルアミントルエン溶液10mlを配合し、溶解させる。次いで、ブロモフェノールブルー液を数滴加え、0.1N塩酸メタノール溶液で滴定し、下記式により遊離イソシアネート基含有量NCO%を求めることができる。
NCO%=(a-b)×0.42×f/x
a:0.1N ジブチルアミントルエン溶液10mlのみを滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量
b:反応中の組成物を滴定した場合の0.1N塩酸メタノール液の滴定量
f:0.1N 塩酸メタノール液のファクター
x:サンプリング量。
【0051】
残存イソシアネート基の含有率を上記範囲とするには、プレポリマー製造時の、原料のイソシアネート基/ヒドロキシル基のモル比を100/80~100/60に調整することが好ましい。イソシアネート基/ヒドロキシル基のモル比をこの範囲に調整することで、イソシアネート基末端プレポリマーが適度な粘度を有し、乳化し易くなる。また、抗ウイルス剤組成物で処理した構造体において、風合いを一層軟らかくすることができ、屈曲時における白化を一層防止し易くなる。
【0052】
イソシアネート基末端プレポリマーのカルボキシル基の中和は、イソシアネート基末端プレポリマーの調製前、調製中又は調製後に適宜公知の方法を用いて行うことができる。このようなカルボキシル基を有するイソシアネート基末端プレポリマーの中和に用いる化合物には特に制限はなく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン、N-メチル-ジエタノールアミン、N,N-ジメチルモノエタノールアミン、N,N-ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等を挙げることができる。中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリブチルアミン等の第3級アミン類が特に好ましい。
【0053】
イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水に乳化分散させる際に用いる乳化分散機器に特に制限はなく、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を挙げることができる。また、イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水に乳化分散させる際には、イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、0~40℃の温度範囲で水に乳化分散させて、イソシアネート基と水との反応を極力抑えることが好ましい。さらに、このように乳化分散させる際には、必要に応じて、燐酸、燐酸二水素ナトリウム、燐酸水素二ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加することができる。
【0054】
水に乳化分散させたイソシアネート基末端プレポリマーは、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を1分子中に2個以上含有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長させてよい。イソシアネート基末端プレポリマーとポリアミン化合物との反応は、20~50℃の反応温度で、通常、30~120分間で完結する。
【0055】
イソシアネート基末端プレポリマーを製造する際に前述の有機溶剤を使用した場合には、例えば、鎖伸長反応又は乳化分散後に、減圧下、30~80℃で当該有機溶剤を留去することが望ましい。このような調製方法によって水系ポリウレタン樹脂(B)の乳化分散液が得られる。水系ポリウレタン樹脂(B)の乳化分散液中の樹脂固形分(不揮発分)濃度は、例えば、20%以上60%以下であってよい。樹脂固形分濃度は、水を追加または留去することで調整することも可能である。
【0056】
1.2.2 その他の樹脂(B’)
本開示の抗ウイルス剤組成物は、上記の水系ポリウレタン樹脂(B)に加え、水系ポリウレタン樹脂以外の樹脂(B’)を含んでいてもよい。その他の樹脂(B’)としては、例えば、アクリル系樹脂が挙げられる。水系ポリウレタン樹脂とアクリル系樹脂との質量比率は、特に限定されるものではないが、例えば、水系ポリウレタン樹脂(B)100質量部に対して、アクリル系樹脂が10質量部以上100質量部以下であってよい。アクリル系樹脂を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸誘導体;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のアクリルアミド類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド等のビニル化合物;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を表す。また、このようなモノマーは、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
1.2.3 樹脂の含有量
本開示の抗ウイルス剤組成物において、水系ポリウレタン樹脂(B)やアクリル系樹脂(B’)の各々の含有量は、特に限定されるものではない。例えば、本開示の抗ウイルス剤組成物は、前記水系ポリウレタン樹脂を0.01質量%以上50質量%以下含んでいてもよい。下限は0.02質量%以上であってもよく、上限は20質量%以下であってもよい。また、本開示の抗ウイルス剤組成物が水等の溶媒で希釈して使用される場合、希釈後の組成物は、前記水系ポリウレタン樹脂を0.001質量%以上20質量%以下含んでいてもよい。下限は0.005質量%以上又は0.01質量%以上であってもよく、上限は10質量%以下であってもよい。
【0058】
また、本開示の抗ウイルス剤組成物において、抗ウイルス剤(A)と水系ポリウレタン樹脂(B)との比率(質量比)は特に限定されない。抗ウイルス性及び安定性に係る効果が一層高まる観点からは、例えば、1質量部の抗ウイルス剤(A)に対して、水系ポリウレタン樹脂(B)が、好ましくは0.1質量部以上50質量部以下である。下限は、より好ましくは0.75質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であり、上限は、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0059】
1.3 非イオン界面活性剤(C)
本開示の抗ウイルス剤組成物は、非イオン界面活性剤(C)として、下記の非イオン界面活性剤(1c)~(4c)及びポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルのうちの少なくとも1種を含有する。非イオン界面活性剤(C)は、上記の抗ウイルス剤(A)と水系ポリウレタン樹脂(B)とを同一液中に安定に分散させるための分散剤として機能し得る。
【0060】
1.3.1 非イオン界面活性剤(1c)
非イオン界面活性剤(1c)は以下の化学式で示されるものである。
【0061】
【化9】
ここで、Arは炭素数6~46の芳香族炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n1は10~60であり、Xは水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【0062】
Arは芳香族炭化水素基から誘導される炭素数6~46のものであれば特に限定されない。液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、Arの炭素数は6~38であることが好ましく、10~30であることがより好ましい。このような芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、1~5スチレン化フェニル基などが挙げられ、ナフチル基、1~3スチレン化フェニル基が好ましい。AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基である。液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、AOの炭素数は2~3であることが好ましい。n1は10~60であり、液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、10~50であることが好ましい。
【0063】
1.3.2 非イオン界面活性剤(2c)
非イオン界面活性剤(2c)は以下の化学式で示されるものである。
【0064】
【化10】
ここで、Rは炭素数1~30の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n2は5~40であり、Xは水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【0065】
は炭素数1以上30以下の炭化水素基であり、直鎖であっても分岐であってもよく、また、不飽和結合があってもよい。液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、Rの炭素数は8以上22以下であることが好ましく、8以上18以下であることがより好ましい。AOは炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイド基である。液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、AOの炭素数は2又は3であることが好ましい。nは5以上40以下であり、液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、5以上30以下であることが好ましい。
【0066】
1.3.3 非イオン界面活性剤(3c)
非イオン界面活性剤(3c)は以下の化学式で示されるものである。
【0067】
【化11】
ここで、Rは炭素数1~30の炭化水素基であり、AO及びAOは、各々独立して、炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n3+n4は5~70であり、X及びXは、各々独立して、水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【0068】
は炭素数1以上30以下の炭化水素基であり、直鎖であっても分岐であってもよく、また、不飽和結合があってもよい。液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、Rの炭素数は8以上22以下であることが好ましく、8以上18以下であることがより好ましい。AO及びAOは、各々独立して、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイド基である。液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、AO及びAOの炭素数は2又は3であることが好ましい。n3+n4は5以上70以下であり、液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、8以上60以下であることが好ましい。
【0069】
1.3.4 非イオン界面活性剤(4c)
非イオン界面活性剤(4c)は以下の化学式で示されるものである。
【0070】
【化12】
ここで、Rは炭素数1~30の炭化水素基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイド基であり、n5は5~40であり、Xは水素原子、炭素数1~22のアルカノイル基及びアルケノイル基のうちの少なくとも1種である。
【0071】
は炭素数1以上30以下の炭化水素基であり、直鎖であっても分岐であってもよく、また、不飽和結合があってもよい。液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、Rの炭素数は8以上22以下であることが好ましく、8以上18以下であることがより好ましい。AOは炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイド基である。液安定性に係る効果が一層高まる観点からは、AOの炭素数は2又は3であることが好ましい。n5は5以上40以下であり、安定性に係る効果が一層高まる観点からは、5以上30以下であることが好ましい。
【0072】
1.3.5 ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル
ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルは、アルキレンオキサイドの重合度が10以上50以下のものである。アルキレンオキサイドの重合度がこの範囲外である場合には、所望の液安定性が得られ難い。ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルにおける脂肪酸の炭素数は、特に限定されるものではないが、例えば、1~22であることが好ましい。特に、炭素数10~22の脂肪酸を有し、アルキレンオキサイドの重合度が10以上35以下のものがより好ましい。アルキレンオキサイドの炭素数は、好ましくは、2又は3であり、エチレンオキサイドがより好ましい。ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンミリスチン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンパルミチン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンイソステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンベヘニン酸エステル等が挙げられる。なお、「ソルビタン」はソルビトールの分子内脱水で得られるもので、具体的には1,4-ソルビタン、3,6-ソルビタン、1,5-ソルビタン及び2分子脱水物である1,4,3,6-ソルビド又はこれらの混合物が挙げられる。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、モノエステル、ジエステル、トリエステル、及びテトラエステル以上のエステル、あるいはこれらの混合物のいずれでもよい。
【0073】
1.3.6 非イオン界面活性剤の含有量
本開示の抗ウイルス剤組成物において、抗ウイルス剤(A)と非イオン界面活性剤(C)との比率(質量比)は特に限定されない。抗ウイルス性及び安定性に係る効果が一層高まる観点からは、例えば、1質量部の抗ウイルス剤(A)に対して、非イオン界面活性剤(C)が、好ましくは0.1質量部以上25質量部以下である。下限は、より好ましくは0.25質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であり、上限は、より好ましくは10質量部以下である。
【0074】
1.4 その他の成分
本開示の抗ウイルス剤組成物には、各種の添加剤等が含まれていてもよい。例えば、上記成分による効果を妨げない限りにおいて、フィラー(艶消し剤)、レベリング剤(濡れ性向上剤)、消泡剤、平滑剤(滑性向上剤)、防汚剤、架橋剤、乳化剤、増粘剤、防腐剤、緩衝材、pH調整剤等が含まれていてもよい。尚、皮革への処理を想定した場合、本開示の抗ウイルス剤組成物は、塗工性の観点から増粘剤を含むことが好ましい。すなわち、本開示の抗ウイルス剤組成物は、増粘剤を併用し適宜粘度を調整することによって塗工性を変更することができる。また、後述するように、本開示の抗ウイルス剤組成物は、水や有機溶媒等で希釈して用いられてもよく、言い換えれば、本開示の抗ウイルス剤組成物は、水や有機溶媒等を含んだ処理液の状態にあってもよい。
【0075】
2.抗ウイルス性構造体
本開示の抗ウイルス性構造体は、基材と組成物とを備える。ここで、前記組成物は、前記基材の表面に付着している。また、前記組成物は、上記の本開示の抗ウイルス剤組成物である。構造体を構成する基材としては、種々のものが挙げられる。例えば、基材は、繊維、皮革、プラスチック、ガラス、金属等からなるものであってよい。
【0076】
基材に対する抗ウイルス剤組成物の付着量は、特に限定されるものではない。例えば、基材に対する抗ウイルス剤(A)の付着量は、0.01g/m以上又は0.02g/m以上であってよく、20g/m以下又は10g/m以下であってよい。抗ウイルス剤の付着量が0.01g/m以上である場合、一層高い抗ウイルス効果が得られる。抗ウイルス剤の付着量が20g/m以下である場合、水滴による際付き発生をより少なくすることができる。また、基材に対する水系ポリウレタン樹脂(B)の付着量は、0.01g/m以上又は0.06g/m以上であってよく、20g/m以下又は10g/m以下であってよい。水系ポリウレタン樹脂(B)の付着量が0.01g/m以上である場合、抗ウイルス剤の耐久性が一層向上する。水系ポリウレタン樹脂(B)の付着量が20g/m以下である場合、風合いを一層柔らかくすることができる。
【0077】
抗ウイルス性構造体は、さらなる添加剤等を有していてもよい。このような添加剤等としては、例えば、着色剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、柔軟剤、架橋剤や他の熱可塑性樹脂等が挙げられる。カルボジイミド系架橋剤を併用することで耐摩耗性、耐水性を向上することができる。
【0078】
以下、基材として布帛基材や皮革基材が採用された場合について詳述する。
【0079】
2.1 抗ウイルス性布帛
本開示の抗ウイルス性布帛は、布帛基材と、上記本開示の抗ウイルス剤組成物とを備え、当該抗ウイルス剤組成物が当該布帛基材に付着しているものである。第4級アンモニウム塩(1a)及び/又は(2a)を含む抗ウイルス剤は、含酸素官能基を表面に有しない布帛には固定化されにくく、固定化を行う場合には前処理が必要とされていた。これに対し、本開示の抗ウイルス剤組成物によれば、1回の処理で、すなわち同浴で、抗ウイルス剤(A)と水系ポリウレタン樹脂(B)とを布帛基材に付与し、抗ウイルス剤(A)を布帛基材に固定化することができる。また、本開示の抗ウイルス剤組成物によれば、従来の同浴処理の場合に比べ、高い浴安定性を示す。
【0080】
布帛基材は、織物、編物、不織布のいずれであってもよく、用途及び目的によって適宜選択できる。布帛基材の材質は、天然繊維、化学繊維、又はこれらの組み合わせであってもよく、天然繊維としては綿、ウール、絹、麻等、化学繊維としてはポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、レーヨン、アクリル等が挙げられ、これらを単独、又は組み合わせた布帛基材を選択することができる。さらに、用途及び意匠の観点から、他の繊維、例えば、金属繊維、ガラス繊維等の無機繊維が含まれていてもよい。また、これらの布帛基材に対して各種の加工、例えば、難燃加工や防汚加工等がされた布帛基材であってもよい。例えば、自動車のシート等の車両内装用途では主にポリエステル系布帛基材が選択される。
【0081】
布帛基材のうち、例えば綿やウール等の表面にヒドロキシル基を有する繊維には、上記の抗ウイルス剤(A)を比較的固定化しやすいが、さらに本開示の抗ウイルス剤組成物を用いると、1回の処理で、多回数の洗濯を経ても抗ウイルス剤(A)が脱落しない洗濯耐久性にも優れた布帛を得ることができる。
【0082】
布帛基材に対する抗ウイルス剤(A)及び水系ポリウレタン樹脂(B)の付着量は、所望の効果を有する限り特に制限されない。抗ウイルス剤(A)の付着量は、例えば、0.01~15g/mであることが好ましく、0.03~5g/mであることがより好ましい。抗ウイルス剤(A)の付着量が0.01g/mよりも少ないと、十分な抗ウイルス効果を得ることが難しく、一方で、15g/mを超えると燃焼性低下の虞がある。また、水系ポリウレタン樹脂(B)の付着量は、例えば、0.01~15g/mであることが好ましく、0.06~5g/mであることがより好ましい。水系ポリウレタン樹脂(B)の付着量が0.01g/mよりも少ないと、抗ウイルス剤(A)の洗濯耐久性が低下する虞があり、15g/mを超えると素材の柔らかさが損なわれる虞がある。
【0083】
抗ウイルス性布帛は、さらなる添加剤等を有していてもよい。添加剤等については上述した通りである。
【0084】
2.2 抗ウイルス性皮革
本開示の抗ウイルス性皮革は、皮革基材と、上記本開示の抗ウイルス剤組成物とを備え、当該抗ウイルス剤組成物が当該皮革基材に付着しているものである。皮革基材としては、ポリウレタン樹脂(PU)からなる表皮層を有するもの、ポリ塩化ビニル(PVC)レザー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)等の擬似レザー、合成皮革、人工皮革、天然皮革が挙げられる。また、このような皮革基材を用いた製品としては、車両用内装材、オートバイのシート・グリップ、靴、カバン、衣料、サニタリー用品、屋外用テント、家具等が挙げられる。
【0085】
皮革基材に対する抗ウイルス剤(A)及び水系ポリウレタン樹脂(B)の付着量は、所望の効果を有する限り特に制限されない。抗ウイルス剤(A)の付着量は、例えば、0.01~15g/mであることが好ましく、効率性及びコストの観点から、0.01~5g/mであることがより好ましく、0.05~2g/mであることがさらに好ましい。また、水系ポリウレタン樹脂(B)の付着量は、例えば、0.5~30g/mであることが好ましい。水系ポリウレタン樹脂(B)の付着量が0.5g/mよりも少ないと、皮革の耐摩耗性が低下する虞があり、30g/mを超えると、素材の柔らかさや外観品位が損なわれる虞がある。
【0086】
抗ウイルス性皮革は、さらなる添加剤等を有していてもよい。添加剤等については上述した通りである。
【0087】
3.抗ウイルス性構造体の製造方法
本開示の抗ウイルス性構造体の製造方法は、基材の表面に、上記本開示の抗ウイルス剤組成物を付着させること、を含む。
【0088】
本開示の抗ウイルス剤組成物は、抗ウイルス剤(A)と水系ポリウレタン樹脂(B)と非イオン界面活性剤(C)とを含む処理液(分散液)からなっていてもよく、この場合、当該処理液を基材に接触させることで、基材に抗ウイルス剤組成物を付着させることができる。例えば、抗ウイルス剤(A)を、固形分(不揮発分)が10~80重量%の水系分散体、水及び/又は有機溶媒の溶液、或いは乳化液とし、水系ポリウレタン樹脂(B)を、固形分(不揮発分)が10~50重量%である水系分散体又は乳化液としたうえで、これらと、非イオン界面活性剤(C)とを、水及び/又は有機溶媒で、所定の濃度になるように希釈することで、基材に抗ウイルス性を付与するための処理液とすることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等)、アセトン、アセトニトリル、又は、これらの混合溶媒が挙げられる。
【0089】
処理液における抗ウイルス剤(A)の濃度(有効成分濃度)は、例えば、0.001質量%以上、0.002質量%以上、0.01質量%以上又は0.02質量%以上であってよく、10質量%以下、5質量%以下又は4質量%以下であってよい。0.001質量%以上10質量%以下であると性能及びコストのバランスに優れる。また、処理液における水系ポリウレタン樹脂(B)の濃度(有効成分濃度)は、例えば、0.001質量%以上、0.005質量%以上又は0.1質量%以上であってよく、50質量%以下又は10質量%以下であってよい。0.001質量%以上50質量%以下であると性能及びコストのバランスに優れる。さらに、処理液における非イオン性界面活性剤(C)の濃度(有効成分濃度)は、例えば、0.001質量%以上、0.01質量%以上又は0.1質量%以上であってよく、10質量%以下又は5質量%以下であってよい。0.001質量%以上10質量%以下であると性能及びコストのバランスに優れる。
【0090】
特に、布帛に抗ウイルス剤を処理する際、処理液における抗ウイルス剤(A)の濃度(有効成分濃度)は、例えば、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5.0質量%であることがより好ましい。処理液における水系ポリウレタン樹脂(B)の濃度(有効成分濃度)は、例えば、0.005~1.0質量%であることが好ましく、0.01~1.0質量%であることがより好ましい。処理液における非イオン性界面活性剤(C)の濃度(有効成分濃度)は、例えば、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。
【0091】
また、皮革に抗ウイルス剤を処理する際、処理液における抗ウイルス剤(A)の濃度(有効成分濃度)は、例えば、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5.0質量%であることがより好ましく、0.1~2.5質量%であることがさらに好ましい。処理液における水系ポリウレタン樹脂(B)の濃度(有効成分濃度)は、例えば、1.0~50質量%であることが好ましく、1.0~30質量%であることがより好ましい。処理液における非イオン性界面活性剤(C)の濃度(有効成分濃度)は、例えば、0.1~10質量%であることが好ましく、1.0~5.0重量%であることがより好ましい。
【0092】
いずれの場合も、まず、上述の抗ウイルス剤(A)、水系ポリウレタン樹脂(B)及び非イオン界面活性剤(C)を、所定の濃度になるように、水及び/又は有機溶媒で希釈して処理液を調製する。続いて、当該処理液と基材とを接触させて、抗ウイルス性を有する構造体を製造する。処理液と基材とを接触させる方法としては、特に限定されず、基材の種類等に応じて適宜決定されればよい。
【0093】
以下、基材として布帛基材や皮革基材を用いる場合について詳述する。
【0094】
3.1 抗ウイルス性布帛の製造方法
抗ウイルス性布帛は、上記の布帛基材に対して上記の処理液を接触させること等を経て製造することができる。処理液と布帛基材とを接触させる方法としては、例えば、Dip-Nip法、吸尽法、コーティング法等が挙げられる。
【0095】
Dip-Nip法で処理を行う場合、まず、布帛基材を処理液に浸漬し、マングル等で絞った後に加熱乾燥し、布帛基材に処理液を付着させる。続いて、加熱乾燥処理を行って、抗ウイルス剤を布帛基材に固定化することができる。処理温度は特に制限されず、常温を含む温度範囲で行うことができる。
【0096】
吸尽法で処理を行う場合、抗ウイルス剤(A)等を含む組成物(処理液)を80℃以上140℃以下に加温し、続いて液中に布帛基材を浸漬し、マングル等で絞った後に加熱乾燥し、布帛基材に抗ウイルス剤を付着させて、抗ウイルス剤を固定化することができる。
【0097】
コーティング法で処理を行う場合、本開示の抗ウイルス剤組成物を適切な粘度を有するように調整し、組成物(処理液)を布帛基材にコーティングした後乾燥させて、抗ウイルス剤を布帛基材に固定化することができる。コーティング方法としては、特に限定されるものではないが、例えばグラビアロール加工、スプレー加工、ロールコーター加工、ジェットプリント加工、転写プリント加工、スクリーンプリント加工等が挙げられる。
【0098】
抗ウイルス剤(A)、水系ポリウレタン樹脂(B)及び非イオン界面活性剤(C)を含む処理液で布帛基材を処理した後は、必要に応じて洗浄し、自然乾燥させてもよいし、加熱乾燥を行うこともできる。加熱乾燥の場合、例えば、ループ式乾燥機、ネット式ドライヤー、オーブン、ヒートセッターなどの装置を用いることができる。抗ウイルス剤(A)、水系ポリウレタン樹脂(B)及び非イオン界面活性剤(C)を含む処理液を付与した布帛基材の乾燥・熱処理温度は、80~190℃とすることができ、100~160℃であることが好ましい。乾燥・熱処理時間は30秒以上又は1分以上、30分以下又は10分以下であってよい。
【0099】
3.2 抗ウイルス性皮革の製造方法
抗ウイルス性皮革は、皮革基材に対して上記の処理液を接触させること等を経て製造することができる。
【0100】
処理液と皮革基材とを接触させる方法としては、例えば、処理液を、グラビアコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター等の各種コーターを用いて皮革基材の表面に塗布する方法;処理液を皮革基材の表面に噴霧する方法;処理液に皮革基材を浸漬する方法等が挙げられる。特に、グラビアコーターによるダイレクトコート法、リバースコート法がより好ましい。処理液の塗工量は、乾燥後に目的とする付着量が得られる量であればよく、例えば、乾燥後の付着量が4~40g/mとなる量が好ましく、6~30g/mとなる量がより好ましい。
【0101】
塗工した処理液を乾燥する方法としては特に制限はなく、例えば、40~160℃の範囲内の温度で30秒~10分間乾燥することが好ましく、80~130℃の範囲内の温度で30秒~2分間乾燥することがより好ましい。また、乾燥後に20~100℃の範囲内の温度で5~72時間のエージング処理を行うことが好ましい。
【実施例0102】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0103】
1.抗ウイルス剤(A)
1.1 アルコキシシラン系の第4級アンモニウム塩(1a)
反応容器に、トリメトキシシリルプロピルクロライド199質量部、ジメチルオクタデシルアミン298質量部及びエタノール744質量部を入れ、窒素雰囲気下、150℃で20時間反応させて、抗ウイルス剤(A)としてのアルコキシシラン系の第4級アンモニウム塩(1a)を40質量%含むエタノール溶液1241質量部を得た。
【0104】
1.2 非アルコキシシラン系の第4級アンモニウム塩(2a)
n-ブタノール3モルと五酸化二リン1モルとから調整したモノ体/ジ体の混合比が約1/1のアルキルリン酸エステル143部と水457部とを反応容器に仕込み、ドデシルジメチルアミン260部を加えて中和した。この中和物の中にエチレンオキサイド54部を仕込み、100℃で3時間反応させ、抗ウイルス剤(A)としての非アルコキシシラン系の第4級アンモニウム塩(2a)を50.0質量%含む組成物913部を得た。
【0105】
2.水系ポリウレタン樹脂(B)
2.1 合成例B-1
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹込み管を備えた4ツ口フラスコに、ポリカーボネートポリオールとしてポリカーボネートジオール(1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオール)(旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノールT5652」、数平均分子量2,000)71.7質量部、多価アルコールとしてトリメチロールプロパン0.4質量部、アニオン性親水基/活性水素含有化合物として2,2-ジメチロールプロピオン酸3.1質量部、及びメチルエチルケトン42.2質量部を仕込み、均一に混合した後、有機ポリイソシアネートとしてジシクロヘキシルメタンジイソシアネート23.5質量部、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)0.03質量部を加え、80℃で240分間反応させ、イソシアネート基末端プレポリマーに対する遊離イソシアネート基含有量が2.29質量%のイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液にトリエチルアミン2.2質量部を添加し、均一に混合した後、水185質量部を徐々に加えて乳化分散させた。得られた乳化分散液に鎖伸長剤としてヒドラジン一水和物1.1質量部、ジエチレントリアミン0.4質量部を添加した後、90分間攪拌して、ポリウレタン分散物を得た。次いで、このポリウレタン分散物を減圧下、40℃で脱溶剤して、水系ポリウレタン樹脂(B-1)を35.0質量%含む安定な水系ポリウレタン樹脂組成物を得た
【0106】
2.2 合成例B-2~B-7
下記表1に示される種類及び量の有機ポリイソシアネート、ポリカーボネートポリオール、多価アルコール、アニオン性親水基/活性水素含有化合物、中和アミン及び鎖伸長剤を用いた以外は合成例B-1と同様にして水系ポリウレタン樹脂(B-2)~(B-7)を各々35.0質量%含む安定な水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0107】
【表1】
H12MDI:ジシクロへキシルメタンジイソシアネート
IPDI:イソホロンジイソシアネート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
T5652:デュラノールT5652[数平均分子量 2,000](旭化成ケミカルズ株式会社製)
T5651:デュラノールT5651[数平均分子量 1,000](旭化成ケミカルズ株式会社製)
C3090:クラレポリオールC-3090[数平均分子量 3,000](株式会社クラレ製)
TMP:トリメチロールプロパン
DMPA:2,2-ジメチロールプロピオン酸
TEA:トリエチルアミン
DETA:ジエチレントリアミン
【0108】
3.水系アクリル樹脂(B’)
温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水28部を秤量し、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させた。そして、その温度に保ちながら、10%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部を添加し、直ちに、別に準備しておいた、下記のようにして調製した単量体乳化物を連続的に4時間滴下して乳化重合した。上記で用いた単量体乳化物は、アクリル酸32部、アクリル酸エチル45部、アクリル酸ブチル23部の単量体混合物に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、商品名:ラテムルE-118B)4部とイオン交換水30部を混合し、乳化することで調製した。また、この単量体乳化物の滴下に並行して、5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液4部を滴下した。滴下終了後、80℃で4時間熟成し、その後、室温まで冷却した。最後に、アンモニア水で中和し、固形分を水で調整して、水系アクリル樹脂(B’)を含む組成物(固形分60%)を得た。
【0109】
4.非イオン界面活性剤(C)
4.1 非イオン界面活性剤(1c)
以下の非イオン界面活性剤(1c-1)~(1c-7)は、いずれも、下記の化学式(1c)で示されるものである。
【0110】
【化13】
【0111】
4.1.1 合成例1c-1
フェノール47部(0.5モル)と硫酸0.1部を反応容器に仕込み撹拌後、フェノール47部(0.5モル)を仕込み、窒素ガス気流下にて加熱昇温して約80℃とした。さらに加熱昇温して105~135℃でスチレンモノマー312部(3モル)を滴下し、125~135℃で約3時間付加反応させ、その後冷却して褐色透明粘液状のトリスチレン化フェノールを得た。得られたトリスチレン化フェノール406部(1モル)と苛性ソーダ2.5部をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド836部(19モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。エチレンオキサイド付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して非イオン界面活性剤(1c-1)を得た。非イオン界面活性剤(1c-1)は、上記化学式(1c)におけるArが炭素数30のトリスチリルフェニルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n1が19であり、Xが水素であるものに相当する。
【0112】
4.1.2 合成例1c-2
エチレンオキサイド1320部(30モル)を用いること以外は合成例1c-1と同様にして、非イオン界面活性剤(1c-2)を得た。非イオン界面活性剤(1c-2)は、上記化学式(1c)におけるArが炭素数30のトリスチリルフェニルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n1が30であり、Xが水素であるものに相当する。
【0113】
4.1.3 合成例1c-3
フェノール47部(0.5モル)と硫酸0.1部を反応容器に仕込み撹拌後、フェノール47部(0.5モル)を仕込み、窒素ガス気流下にて加熱昇温して約80℃とした。さらに加熱昇温して105~135℃でスチレンモノマー208部(2モル)を滴下し、125~135℃で約3時間付加反応させ、その後冷却してジスチレン化フェノールを得た。得られたジスチレン化フェノール302部(1モル)と苛性ソーダ2.5部をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド528部(12モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。エチレンオキサイド付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して非イオン界面活性剤(1c-3)を得た。非イオン界面活性剤(1c-3)は、上記化学式(1c)におけるArが炭素数22のジスチリルフェニルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n1が12であり、Xが水素であるものに相当する。
【0114】
4.1.4 合成例1c-4
2-ナフタノール144部(1モル)と苛性ソーダ2.5部をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド572部(13モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。エチレンオキサイド付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して非イオン界面活性剤(1c-4)を得た。非イオン界面活性剤(1c-4)は、上記化学式(1c)におけるArが炭素数10のナフチルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n1が13であり、Xが水素であるものに相当する。
【0115】
4.1.5 合成例1c-5
フェノール47部(0.5モル)と硫酸0.1部を反応容器に仕込み撹拌後、フェノール47部(0.5モル)を仕込み、窒素ガス気流下にて加熱昇温して約80℃とした。さらに加熱昇温して105~135℃でスチレンモノマー312部(3モル)を滴下し、125~135℃で約3時間付加反応させ、その後冷却して褐色透明粘液状のトリスチレン化フェノールを得た。得られたトリスチレン化フェノール406部(1モル)と苛性ソーダ2.5部をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、プロピレンオキサイド174部(3モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。続いて、エチレンオキサイド880部(20モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して非イオン界面活性剤(1c-5)を得た。非イオン界面活性剤(1c-5)は、上記化学式(1c)におけるArが炭素数30のトリスチリルフェニルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドと炭素数3のプロピレンオキサイドとの混合であり、n1が23(エチレンオキサイド:20、プロピレンオキサイド:3)であり、Xが水素であるものに相当する。
【0116】
4.1.6 合成例1c-6
エチレンオキサイド2200部(50モル)を用いること以外は合成例1c-1と同様にして、非イオン界面活性剤(1c-6)を得た。非イオン界面活性剤(1c-6)は、上記化学式(1c)におけるArが炭素数30のトリスチリルフェニルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n1が50であり、Xが水素であるものに相当する。
【0117】
4.1.7 合成例1c-7(比較例)
エチレンオキサイド220部(5モル)を用いること以外は合成例1c-1と同様にして、非イオン界面活性剤(1c-7)を得た。非イオン界面活性剤(1c-7)は、上記化学式(1c)におけるArが炭素数30のトリスチリルフェニルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n1が5であり、Xが水素であるものに相当する。
【0118】
4.2 非イオン界面活性剤(2c)
以下の非イオン界面活性剤(2c-1)~(2c-9)は、いずれも、下記の化学式(2c)で示されるものである。
【0119】
【化14】
【0120】
4.2.1 非イオン界面活性剤(2c-1)
非イオン界面活性剤(2c-1)として、2級アルコール(炭素数12~14)エチレンオキサイド9モル付加物(株式会社日本触媒製:ソフタノール90)を用いた。非イオン界面活性剤(2c-1)は、上記化学式(2c)におけるRが炭素数12-14の炭化水素基であり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n2が9であり、Xが水素であるものに相当する。
【0121】
4.2.2 合成例2c-2
オレイルアルコール268部(1モル)と苛性ソーダ2.5部をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド722部(16.4モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。エチレンオキサイド付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して非イオン界面活性剤(2c-2)を得た。非イオン界面活性剤(2c-2)は、上記化学式(2c)におけるRが炭素数18のオレイルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n2が16.4であり、Xが水素であるものに相当する。
【0122】
4.2.3 非イオン界面活性剤(2c-3)
非イオン界面活性剤(2c-3)として、デシルアルコールエチレンオキサイド8モル付加物(第一工業製薬株式会社製:ノイゲンXL-80)を用いた。非イオン界面活性剤(2c-3)は、上記化学式(2c)におけるRが炭素数10のデシルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n2が8であり、Xが水素であるものに相当する。
【0123】
4.2.4 合成例2c-4
オレイルアルコール268部(1モル)と苛性ソーダ2.5部をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、プロピレンオキサイド174部(3モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。続いて、エチレンオキサイド792部(18モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して非イオン界面活性剤(2c-4)を得た。非イオン界面活性剤(2c-4)は、上記化学式(2c)におけるRが炭素数18のオレイルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドと炭素数3のプロピレンオキサイドとの混合であり、n2が21(エチレンオキサイド:18、プロピレンオキサイド:3)であり、Xが水素であるものに相当する。
【0124】
4.2.5 合成例2c-5
ステアリルアルコール270部(1モル)と苛性ソーダ2.5部をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド1100部(25モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して非イオン界面活性剤2c-5を得た。非イオン界面活性剤(2c-5)は、上記化学式(2c)におけるRが炭素数18のステアリルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n2が25であり、Xが水素であるものに相当する。
【0125】
4.2.6 合成例2c-6
2-エチルヘキサノール130部(1モル)と苛性ソーダ2.5部をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド352部(8モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して非イオン界面活性剤(2c-6)を得た。非イオン界面活性剤(2c-6)は、上記化学式(2c)におけるRが炭素数8の2-エチルヘキシルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n2が8であり、Xが水素であるものに相当する。
【0126】
4.2.7 合成例2c-7(比較例)
オレイルアルコール268部(1モル)と苛性ソーダ2.5部をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド176部(4モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。エチレンオキサイド付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して非イオン界面活性剤(2c-7)を得た。非イオン界面活性剤(2c-7)は、上記化学式(2c)におけるRが炭素数18のオレイルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n2が4であり、Xが水素であるものに相当する。
【0127】
4.2.8 非イオン界面活性剤(2c-8)(比較例)
非イオン界面活性剤(2c-8)として、2-エチルヘキシルグリコールを用いた。非イオン界面活性剤(2c-8)は、上記化学式(2c)におけるRが炭素数8の2-エチルヘキシルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n2が2であり、Xが水素であるものに相当する。
【0128】
4.2.9 合成例2c-9(比較例)
オレイルアルコール268部(1モル)と苛性ソーダ2.5部をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド3828部(87モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させた。エチレンオキサイド付加反応終了後冷却し、氷酢酸にてpH7に中和して非イオン界面活性剤(2c-9)を得た。非イオン界面活性剤(2c-9)は、上記化学式(2c)におけるRが炭素数18のオレイルであり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n2が87であり、Xが水素であるものに相当する。
【0129】
4.3 非イオン界面活性剤(3c)
以下の非イオン界面活性剤(3c-1)~(3c-5)は、いずれも、下記の化学式(3c)で示されるものである。
【0130】
【化15】
【0131】
4.3.1 合成例3c-1
ステアリルアミン270部(1モル)をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド660部(15モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させて非イオン界面活性剤(3c-1)を得た。非イオン界面活性剤(3c-1)は、上記化学式(3c)におけるRが炭素数18のステアリルであり、AO及びAOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n3+n4が15であり、X及びXが水素であるものに相当する。
【0132】
4.3.2 合成例3c-2
エチレンオキサイド1320部(30モル)を用いること以外は合成例3c-1と同様にして、非イオン界面活性剤(3c-2)を得た。非イオン界面活性剤(3c-2)は、上記化学式(3c)におけるRが炭素数18のステアリルであり、AO及びAOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n3+n4が30であり、X及びXが水素であるものに相当する。
【0133】
4.3.3 合成例3c-3
エチレンオキサイド2200部(50モル)を用いること以外は合成例3c-1と同様にして、非イオン界面活性剤(3c-3)を得た。非イオン界面活性剤(3c-3)は、上記化学式(3c)におけるRが炭素数18のステアリルであり、AO及びAOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n3+n4が50であり、X及びXが水素であるものに相当する。
【0134】
4.3.4 合成例3c-4
2-エチルヘキシルアミン129部(1モル)をオートクレーブに仕込み、加熱昇温して約130℃にした後、エチレンオキサイド352部(8モル)を温度155~165℃、圧力0.39MPa以下にて反応させて非イオン界面活性剤(3c-4)を得た。非イオン界面活性剤(3c-4)は、上記化学式(3c)におけるRが炭素数8の2-エチルヘキシルであり、AO及びAOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n3+n4が8であり、X及びXが水素であるものに相当する。
【0135】
4.3.5 合成例3c-5(比較例)
エチレンオキサイド176部(4モル)用いること以外は合成例3c-1と同様にして、非イオン界面活性剤(3c-5)を得た。非イオン界面活性剤(3c-3)は、上記化学式(3c)におけるRが炭素数18のステアリルであり、AO及びAOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n3+n4が4であり、X及びXが水素であるものに相当する。
【0136】
4.4 非イオン界面活性剤(4c)
以下の非イオン界面活性剤(4c-1)~(4c-4)は、いずれも、下記の化学式(4c)で示されるものである。また、(4c-5)及び(4c-6)は、下記の化学式(4c)においてR-C(=O)-に替えて水素を有するものである。
【0137】
【化16】
【0138】
4.4.1 合成例4c-1
数平均分子量600のポリエチレングリコール600部(1モル)とオレイン酸282部(1モル)とパラトルエンスルホン酸3部を反応容器に仕込み撹拌後、窒素ガス気流下にて加熱昇温して195~205℃で約3時間反応させ、その後冷却して非イオン界面活性剤(4c-1)を得た。非イオン界面活性剤(4c-1)は、上記化学式(4c)におけるRが炭素数17のアルケニル基であり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n5が13.6であり、Xが水素であるものに相当する。
【0139】
4.4.2 合成例4c-2
数平均分子量400のポリエチレングリコール400部(1モル)を用いること以外は合成例4c-1と同様にして、非イオン界面活性剤(4c-2)を得た。非イオン界面活性剤(4c-2)は、上記化学式(4c)におけるRが炭素数17のアルケニル基であり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n5が9.1であり、Xが水素であるものに相当する。
【0140】
4.4.3 合成例4c-3
数平均分子量1000のポリエチレングリコール1000部(1モル)とオレイン酸565部(2モル)を用いること以外は合成例4c-1と同様にして、非イオン界面活性剤(4c-3)を得た。非イオン界面活性剤(4c-3)は、上記化学式(4c)におけるRが炭素数17のアルケニル基であり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n5が22.7であり、Xが炭素数18のオレイルであるものに相当する。
【0141】
4.4.4 合成例4c-4
数平均分子量350のポリエチレングリコール350部(1モル)と2-エチルヘキサン酸144部(1モル)を用いること以外は合成例4c-1と同様にして、非イオン界面活性剤(4c-4)を得た。非イオン界面活性剤(4c-4)は、上記化学式(4c)におけるRが炭素数7のアルキル基であり、AOが炭素数2のエチレンオキサイドであり、n5が8.0であり、Xが水素であるものに相当する。
【0142】
4.4.5 非イオン界面活性剤(4c-5)(比較例)
非イオン界面活性剤(4c-5)として、ポリエチレングリコール(分子量200)(三洋化成工業株式会社製:PEG-200)を用いた。
【0143】
4.4.6 非イオン界面活性剤(4c-6)(比較例)
非イオン界面活性剤(4c-6)として、ポリエチレングリコール(分子量1000)(三洋化成工業株式会社製:PEG-1000)を用いた。
【0144】
4.5 非イオン界面活性剤(5c)
4.5.1 非イオン界面活性剤(5c-1)
非イオン界面活性剤(5c-1)として、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO)(花王株式会社製:レオドールTW―L120)を用いた。
【0145】
4.5.2 非イオン界面活性剤(5c-2)(比較例)
非イオン界面活性剤(5c-2)として、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(6EO)(花王株式会社製:レオドールTW―L106)を用いた。
【0146】
4.5.3 非イオン界面活性剤(5c-3)(比較例)
非イオン界面活性剤(5c-3)として、モノオレイン酸ソルビタン(花王株式会社製:レオドールSP―O10V)を用いた。
【0147】
5.添加剤
添加剤として以下のものを用いた。
・フィラー:ACEMATT TS-100(エボニックデグサ製、平均粒子径:10μm)
・消泡剤:フォームレックス747(日華化学株式会社製)
・レベリング剤:ディスパロン AQ-7120(楠本化成株式会社製)
・増粘剤:SNシックナー612(サンノプコ株式会社製)
・平滑剤:KM-862T(信越化学株式会社製)
・架橋剤:カルボジライトSV-02(日清紡ケミカル株式会社製)
【0148】
6.評価条件
6.1 液安定性試験
液安定性について、以下のように級数判定を行った。2級以上で合格とした。
1級:調製後1時間以内に凝集物が見られる、又はゲル化する
2級:調製後1時間後も凝集物は見られず、ゲル化もしていないが、6時間以内に凝集物が見られる、又はゲル化する
3級:調製後6時間後も凝集物は見られず、ゲル化もしていないが、16時間以内に凝集物が見られる、又はゲル化する
4級:調製後16時間後も凝集物は見られず、ゲル化もしていない
【0149】
6.2 抗ウイルス性試験
布帛についてはISO―18184、皮革についてはISO-21702にて試験を行い、以下のように級数判定を行った。〇以上で合格とした。
◎:抗ウイルス活性値2以上
〇:抗ウイルス活性値0.5以上2未満
×:抗ウイルス活性値0.5未満
【0150】
7.処理液の調製及び抗ウイルス性布帛の作製
7.1 実施例1
抗ウイルス剤(A)としての第4級アンモニウム塩(1a)のエタノール溶液(不揮発分40質量%)を5.0部と、非イオン界面活性剤(1c-1)を0.50部とを混合して混合物1を得た。一方、水系ポリウレタン樹脂組成物(B-1)(不揮発分35質量%)を0.50部と水94部とを混合して混合液2を得た。混合物1を混合液2の中に仕込み、均一に混合することで、実施例1に係る抗ウイルス剤組成物(処理液)を得た。得られた処理液について上記の液安定性試験を行った。結果を下記表2に示す。
【0151】
質量390g/mのポリエステル原布(布帛基材)について、染色と同時に、浴中難燃剤としてリン酸エステルアミド6%owfしたものに、実施例1の処理液をPic-up率約60%で、dip-nip後に、150℃で2.5分乾燥を行うことで、評価用の布帛を得た。得られた布帛に対して上記の抗ウイルス性試験を行った。結果を下記表2に示す。
【0152】
7.2 実施例2~9、比較例1~3
処理液における抗ウイルス剤(A)、水系ポリウレタン樹脂(B)及び非イオン界面活性剤(C)の種類や含有量を、下記表2に示されるものに変更したこと以外は、実施例1と同様に処理液の調製及び布帛の作製を行い、上記の液安定性試験及び抗ウイルス性試験を行った。結果を下記表2に示す。
【0153】
7.3 実施例10~29、比較例4~12
処理液における非イオン界面活性剤(C)の種類を、下記表3に示されるものに変更したこと以外は、実施例2と同様に処理液の調製及び布帛の作製を行い、上記の液安定性試験及び抗ウイルス性試験を行った。結果を下記表3に示す。
【0154】
7.4 実施例30~37、比較例13~20
処理液における非イオン界面活性剤(C)の種類を、下記表4に示されるものに変更したこと以外は、実施例9と同様に処理液の調製及び布帛の作製を行い、上記の液安定性試験及び抗ウイルス性試験を行った。結果を下記表4に示す。
【0155】
【表2】
【0156】
【表3】
【0157】
【表4】
【0158】
上記の表2に示される通り、処理液が、抗ウイルス剤(A)としての第4級アンモニウム塩(1a)と、非イオン界面活性剤(1c-1)とを含む場合(実施例1~8)においては、液安定性が良好で、処理後の布帛における抗ウイルス性も良好であった。また、処理液が、抗ウイルス剤(A)としての第4級アンモニウム塩(2a)と、非イオン界面活性剤(1c-1)とを含む場合(実施例9)においても、液安定性が良好で、処理後の布帛における抗ウイルス性も良好であった。これに対して、非イオン界面活性剤を含有しない場合(比較例1及び2)においては、液安定性が悪く1時間以内に処理浴が増粘・ゲル化してしまった。また、抗ウイルス剤(A)を含有しない場合(比較例3)においては、処理後の布帛において十分な抗ウイルス性が得られなかった。
【0159】
上記の表3及び4に示される通り、処理液が、非イオン界面活性剤(1c-1)~(1c-6)、(2c-1)~(2c-6)、(3c-1)~(3c-4)、(4c-1)~(4c-4)又は(5c-1)を含む場合(実施例2、9~37)においては、液安定性に優れ、処理後の布帛における抗ウイルス性も良好であった。一方で、非イオン界面活性剤(1c-7)、(2c-7)~(2c-9)、(3c-5)、(4c-5)、(4c-6)、(5c-2)又は(5c-3)を含む場合(比較例4~20)においては、液安定性が悪く、1時間以内に処理浴が増粘・ゲル化してしまった。
【0160】
8.処理液の調製及び抗ウイルス性皮革の作製
8.1 皮革基材の作製
水性ポリウレタン樹脂(日華化学株式会社製「エバファノールHA-68」)100質量部、水性顔料(御国色素株式会社製「PSMブラックC」)10質量部、水分散性カルボジイミド系架橋剤(日華化学株式会社製「NKアシストCI-02」)1質量部、及び会合型増粘剤(日華化学株式会社製「ネオステッカーS」)3質量部を配合した表皮層用塗材を、離型紙(朝日ロール株式会社製「アサヒリリースAR-148」)上に、塗布厚100μm(WET塗布量)で塗布した。乾燥機を用いて80℃で2分間予備乾燥し、その後、120℃で3分間乾燥を行い、水分を完全に蒸発させ、ポリウレタン樹脂フィルム(以下、「表皮層」という。)を得た。
【0161】
この表皮層の上に、二液型水性ポリウレタン樹脂(日華化学株式会社製「エバファノールHO-38、接着剤主剤)100質量部、水性ポリイソシアネート系硬化剤(日華化学株式会社製「NKアシストNY-27」)7質量部、会合型増粘剤(日華化学株式会社製「ネオステッカーN」)5質量部を配合したポリウレタン接着剤配合液を塗布厚200μm(WET塗布量)で塗布した。
【0162】
次いで、乾燥機を用いて90℃で1分間乾燥を行い、乾燥直後に、その上に、繊維基材としてポリエステルニットを貼り合わせた。その後、120℃で3分間キュアリングを行い、さらに40℃で72時間エージングを行い、離型紙を剥離して、繊維積層体(評価用の皮革基材)を得た。
【0163】
8.2 実施例38
水系ポリウレタン樹脂組成物(B-1)(不揮発分35質量%)14部と、水系アクリル樹脂組成物(B’)(不揮発分60質量%)12.5部と、フィラー(不揮発分100質量%)2部と、消泡剤(不揮発分100質量%)0.3部と、レベリング剤(不揮発分100質量%)1.0部と、平滑剤(不揮発分60質量%)5部と、架橋剤(不揮発分40質量%)3部と、増粘剤(不揮発分40質量%)2.5部と、水56部とを混合した混合液の中に、非イオン界面活性剤(1c-1)(不揮発分100質量%)2.9部と、抗ウイルス剤(A)としての第4級アンモニウム塩(1a)のエタノール溶液(不揮発分40質量%)1.3部とを混合した混合物を仕込み、均一に混合して、実施例38の抗ウイルス剤組成物(処理液)とした。得られた処理液について上記の液安定性試験を行った。結果を下記表5に示す。
【0164】
評価用の皮革基材の表面に、実施例38の処理液を20g/mとなるよう均一に塗布した後、150℃で2.5分乾燥を行い、抗ウイルス剤の固定化処理を行った。得られた皮革に対して上記の抗ウイルス性試験を行った。結果を下記表5に示す。
【0165】
8.3 実施例39~75、比較例21~36
処理液における抗ウイルス剤(A)、水系ポリウレタン樹脂(B)及び非イオン界面活性剤(C)の種類や含有量を、下記表5~10に示されるものに変更したこと以外は、実施例38と同様に処理液の調製及び皮革の作製を行い、上記の液安定性試験及び抗ウイルス性試験を行った。結果を下記表5~10に示す。
【0166】
【表5】
【0167】
【表6】
【0168】
【表7】
【0169】
【表8】
【0170】
【表9】
【0171】
【表10】
【0172】
上記の表5~7に示される通り、抗ウイルス剤組成物が、抗ウイルス剤(A)としての第4級アンモニウム塩(1a)と、各種の水系ポリウレタン樹脂(B)と、非イオン界面活性剤(1c-1)とを含む場合(実施例38~46)は、液安定性に優れ、処理後の皮革における抗ウイルス性も良好であった。また、非イオン界面活性剤(1c-4)、(1c-5)、(1c-6)、(2c-1)、(2c-3)、(2c-4)、(2c-5)、(3c-1)、(4c-1)及び(5c-1)を含む場合(実施例47~56)についても、液安定性に優れ、処理後の皮革における抗ウイルス性も良好であった。これに対して、非イオン界面活性剤(C)含有しない場合(比較例21)は、液安定性が悪く、1時間以内に処理浴が増粘・ゲル化してしまった。また、抗ウイルス剤(A)を含有しない場合(比較例22)は、処理後の皮革において十分な抗ウイルス性が得られなかった。また、非イオン界面活性剤(C)として(1c-7)、(2c-8)、(2c-9)、(3c-5)、(4c-5)及び(5c-2)を含む場合(比較例23~28)は、液安定性が悪く、1時間以内に処理浴が増粘・ゲル化してしまった。
【0173】
上記の表8~10に示される通り、抗ウイルス剤組成物が、抗ウイルス剤(A)としての第4級アンモニウム塩(2a)と、各種の水系ポリウレタン樹脂(B)と、非イオン界面活性剤(1c-1)とを含む場合(実施例57~65)の場合は、液安定性に優れ、処理後の皮革における抗ウイルス性も良好であった。また、非イオン界面活性剤(1c-4)、(1c-5)、(1c-6)、(2c-1)、(2c-3)、(2c-4)、(2c-5)、(3c-1)、(4c-1)及び(5c-1)を含む場合(実施例66~75)の場合についても、液安定性に優れ、処理後の皮革における抗ウイルス性も良好であった。これに対して、非イオン界面活性剤(C)を含有しない場合(比較例29)は、液安定性が悪く、1時間以内に処理浴が増粘・ゲル化してしまった。また、抗ウイルス剤(A)を含有しない場合(比較例30)は、処理後の皮革において十分な抗ウイルス性が得られなかった。また、非イオン界面活性剤(C)として(1c-7)、(2c-8)、(2c-9)、(3c-5)、(4c-5)及び(5c-2)を含む場合(比較例31~36)は、液安定性が悪く、1時間以内に処理浴が増粘・ゲル化してしまった。
【0174】
9.まとめ
以上の実施例の結果から、以下の抗ウイルス剤組成物は、良好な液安定性を有するとともに、十分な抗ウイルス性を付与できるものといえる。
【0175】
抗ウイルス剤組成物であって、
(A)所定の第4級アンモニウム塩(1a)及び(2a)のうちの少なくとも1種を含む抗ウイルス剤と、
(B)カルボキシル基及びカルボキシレート基のうちの少なくとも一方を有する水系ポリウレタン樹脂と、
(C)所定の非イオン界面活性剤(1c)~(4c)、及び、アルキレンオキサイドの重合度が10以上50以下であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、のうちの少なくとも1種の非イオン界面活性剤と、
を含有するもの。