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特開2023-95699光音響波測定装置、及び、光音響波測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095699
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】光音響波測定装置、及び、光音響波測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20230629BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALI20230629BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N21/3581
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211732
(22)【出願日】2021-12-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発/革新的センシング技術開発/血中成分の非侵襲連続超高感度計測デバイス及び行動変容促進システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下山 勲
(72)【発明者】
【氏名】野田 堅太郎
(72)【発明者】
【氏名】塚越 拓哉
【テーマコード(参考)】
2G047
2G059
【Fターム(参考)】
2G047AA04
2G047AC13
2G047BC13
2G047BC15
2G047CA01
2G047CA04
2G047EA15
2G059AA01
2G059BB04
2G059BB08
2G059BB13
2G059CC16
2G059EE01
2G059EE11
2G059EE16
2G059FF04
2G059GG06
2G059HH01
2G059KK08
(57)【要約】
【課題】光音響波測定装置の小型化を図る。
【解決手段】光音響波測定装置(100)は、強度変調された遠赤外光を測定対象(200,201)に対して照射する変調光源(20)と、遠赤外光が照射された測定対象から放出される光音響波を測定する測定ユニット(10)と、を備える。測定ユニットは、内部が気体によって充填され、測定対象から放出される光音響波を受信する気密室(11,12,13,14,15)と、気密室において外部との間を区切る壁部の一部を構成する圧力センサ(11)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度変調された遠赤外光を測定対象に対して照射する変調光源と、
前記遠赤外光が照射された測定対象から放出される光音響波を測定する測定ユニットと、を備え、
前記測定ユニットは、
内部が気体によって充填され、前記測定対象から放出される前記光音響波を受信する気密室と、
前記気密室において外部との間を区切る壁部の一部を構成する圧力センサと、を備える、光音響波測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光音響波測定装置であって、
前記圧力センサは、基端が前記壁部と接続され、先端が自由端となって前記基端を中心に変位可能に構成され、前記変位に応じて抵抗値が変化する抵抗層を備えるカンチレバーにより構成される、光音響波測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光音響波測定装置であって、
前記圧力センサの前記気密室とは反対側の外部に、外気とは隔てられた閉塞空間を備える、光音響波測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の光音響波測定装置であって、
前記気密室は、前記変調光源から前記遠赤外光が直接照射される部分に窓部を有し、
前記窓部は、前記遠赤外光の透過性が高い材料により構成される、光音響波測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光音響波測定装置であって、
前記窓部は、シリコン、ゲルマニウム、または、ポリエチレンにより構成される、光音響波測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の光音響波測定装置であって、
前記気密室は、前記測定対象に対して接触するように構成され、前記気密室において前記測定対象との間を区切る壁部は、弾性材料により構成される、光音響波測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光音響波測定装置であって、
前記気密室において前記測定対象との間を区切る壁部は、シリコン、ゲルマニウム、または、ポリエチレンにより構成される、光音響波測定装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の光音響波測定装置であって、
前記気密室は、
一方の面が開放された有底部材と、
前記有底部材の側面の端部と対向し、前記測定対象と接触する接触部材と、
前記有底部材の側面の端部と前記接触部材との間に設けられるシーリング部材と、を有する、光音響波測定装置。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか1項に記載の光音響波測定装置であって、
前記気密室は、前記測定対象により閉塞される開口を備える有底部材を有する、光音響波測定装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の光音響波測定装置であって、
さらに、前記気密室内の圧力変化を増幅させる共鳴器を備える、光音響波測定装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の光音響波測定装置であって、
前記圧力センサは、複数設けられ、それぞれが異なる位置に設けられ、測定可能な圧力変化の振動数帯域が重複する、光音響波測定装置。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載の光音響波測定装置であって、
前記圧力センサは、複数設けられ、測定可能な圧力変化の振動数帯域が異なる、光音響波測定装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の光音響波測定装置であって、
前記変調光源は、
レーザ光源、及び、前記強度変調を行うチョッパ部により構成される、または、
電気抵抗を備える発熱光源により構成される、光音響波測定装置。
【請求項14】
強度変調された遠赤外光を測定対象に対して照射する変調光源と、
前記遠赤外光が照射された測定対象から放出される光音響波を測定する測定ユニットと、
前記変調光源、及び、前記測定ユニットを制御するコントローラと、を備える、光音響波測定システムであって、
前記測定ユニットは、
内部が気体によって充填され、前記測定対象から放出される前記光音響波を受信する気密室と、
前記気密室において外部との間を区切る壁部の一部を構成する圧力センサと、を備え、
前記コントローラは、
前記変調光源に対して、前記強度変調された遠赤外光を照射させ、
前記圧力センサによって前記気密室の圧力の変化を取得し、
前記圧力センサにより取得される前記圧力の変化に応じて、前記測定対象内の所定の成分の濃度を算出する、光音響波測定システム。
【請求項15】
請求項14に記載の光音響波測定システムであって、
前記コントローラは、前記変調光源の変調パターンを利用し、前記圧力センサによって取得される前記圧力の変化からノイズを除去し、前記所定の成分の濃度を算出する、光音響波測定システム。
【請求項16】
請求項15に記載の光音響波測定システムであって、
前記ノイズを除去する方法が同期検波である、光音響波測定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響波測定装置、及び、光音響波測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象の内部の分子濃度を測定する装置として、光音響波測定装置が知られている。測定対象に変調光を照射すると、内部の分子が光を吸収して瞬間的に熱膨張する際に、変調光の変調パターンに応じた光音響波(弾性波)が発生する。光音響波測定装置は、この光音響波を検出し、検出した光音響波の大きさに応じて、変調光を吸収した分子の濃度を求めることができる。このような光音響波測定装置の一例として、圧力センサを用いて光音響波に応じて変化する気密室の圧力変化を測定し、測定対象の分子濃度を測定するものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-7824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光音響波測定方法の応用の一態様として、皮膚内部の血管を流れる血液の血中グルコース濃度を測定することができる。特許文献1に開示された技術によれば、血中グルコース濃度の測定には、ノイズの原因となり得る血液中の水分の吸光係数が低い近赤外光が用いられている。しかしながら、グルコースの近赤外光に対する吸光係数も小さいので、光音響波を共鳴器等により増幅した後に検出する必要があり、光音響波測定装置が大型化するという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、光音響波測定装置の小型化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の一態様の光音響波測定装置は、強度変調された遠赤外光を測定対象に対して照射する変調光源と、遠赤外光が照射された測定対象から放出される光音響波を検出する測定ユニットと、を備える。測定ユニットは、内部が気体によって充填され、測定対象から放出される光音響波を受信する気密室と、気密室において外部との間を区切る壁部の一部を構成する圧力センサと、を備える。
【0007】
本願発明の一態様の光音響波測定システムは、強度変調された遠赤外光を測定対象に対して照射する変調光源と、遠赤外光が照射された測定対象から放出される光音響波を検出する測定ユニットと、変調光源、及び、測定ユニットを制御するコントローラと、を備える。測定ユニットは、内部が気体によって充填され、測定対象から放出される光音響波を受信する気密室と、気密室において外部との間を区切る壁部の一部を構成する圧力センサと、を備える。コントローラは、変調光源に対して、強度変調された遠赤外光を照射させ、圧力センサによって気密室の圧力の変化を取得し、圧力センサにより取得される圧力の変化に応じて、測定対象内の所定の成分の濃度を算出する。
【発明の効果】
【0008】
本願発明の一態様の光音響波測定装置によれば、測定対象に対して遠赤外光を照射すると、測定対象内の所定の成分(例えば、グルコース)から放射される光音響波が気密室に到達する。これにより気密室の気圧が変化し、この気圧の変化を圧力センサで検出することによって、所定の成分の濃度を求めることができる。一般に、水溶液中の成分(血中グルコース)の遠赤外光に対する吸光係数は高いため、共鳴器等を設けることなく気密室の気圧変化を測定することができるので、光音響波測定装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係る光音響波測定装置の概略構成図である。
図2図2は、センサユニットの断面図である。
図3図3は、センサユニットの分解斜視図である。
図4図4は、種々の濃度のグルコース溶液に対する測定結果を示すグラフである。
図5図5は、図4の測定結果を別態様で示したグラフである。
図6図6は、第2実施形態に係る光音響波測定装置の概略構成図である。
図7図7は、第3実施形態に係る光音響波測定装置の概略構成図である。
図8図8は、第4実施形態に係る光音響波測定装置の概略構成図である。
図9図9は、第5実施形態に係る光音響波測定装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る光音響波測定装置の概略構成図である。図1において、光音響波測定装置(以下、単に測定装置という)100は、光音響波測定を行う測定ユニット10、変調光源20、回路部30を備える。測定装置100により、測定対象200内に存在する所定成分の濃度を測定することができる。
【0012】
測定対象200内の所定成分の濃度測定の概要は以下のとおりである。変調光源20から光が測定対象200に対して照射されると、測定対象200内の分子において光音響効果により光音響波(弾性波)が生じる。測定ユニット10は、測定対象200から生じる光音響波を検出する。回路部30は、測定ユニット10により測定された光音響波の強度の変化に応じて、測定対象200内の測定対象の液体の濃度を求める。
【0013】
本実施形態の例では、測定対象200は生体であり、測定対象200に対して変調光源20から遠赤外光を照射すると、測定対象200内の血管201を流れる血中のグルコースから光音響波が放出される。測定ユニット10によって光音響波が検出され、その検出結果から、血管201内における血中グルコース濃度が求められる。以下、各構成の詳細について説明する。
【0014】
回路部30は、駆動部31、検出回路32、濃度算出部33、及びこれらを統括的に制御する制御部34を備える。
【0015】
変調光源20は、駆動部31の制御に応じて遠赤外光(波長が10μm程度)の変調光を測定対象200に向かって出力する。例えば、変調光源20は、遠赤外光のレーザ光源とチョッパ部とを備えており、駆動部31の制御によりチョッパ部が動作することで、強度変調された遠赤外光が変調光として出力される。1回の測定においてパルス光を複数回、例えば5回程度出力させる。強度変調した光としては、パルス光のように完全に光の出力を遮断したものに限らず、例えば所定レベル(>0)まで強度を低くするように光を変調してもよい。なお、変調光源20は、チョッパ部を備えず、レーザ光源を所定の周期でオン/オフすることで強度変調を行ってもよい。
【0016】
変調光源20からの変調光が測定対象200に照射され、遠赤外の変調光が血管201まで達すると、血液中のグルコースが遠赤外光を吸収し、瞬間的に膨張して光音響波(弾性波)が発生する。この光音響波は、測定ユニット10が備える気密室の圧力変化を発生させ、この圧力変化はセンサユニット11によって測定される。ここで、グルコース濃度が高いほど大きな光音響波が発生するため、濃度算出部33は、光音響波の強度に応じて血中グルコース濃度を求めることができる。なお、濃度算出部33は、変調光源20の変調パターンと、測定ユニット10により測定される圧力の変化とを同期させて対応付けることで、ノイズを除去(低減)させ、より高い精度で濃度を求めることができる。
【0017】
測定ユニット10は、センサユニット11、筐体12、シール部材13、接触部14、及び、窓部15を備える。
【0018】
筐体12は、外側に向かって幅が狭くなるようなテーパ状の開口を備える有底部材である。測定ユニット10は、有底部材である筐体12の側面の端部が、接触部14を介して測定対象200に対して押し付けられた状態で固定される。さらに、筐体12の内部空間は、センサユニット11に設けられる開口とは連通し、筐体12と接触部14との間の空間と一体となって、気密室を構成する。シール部材13が、筐体12と接触部14との間に設けられることにより、両者の密着度が上がり、筐体12内の空間(気密室)の気密性が向上する。シール部材13の一例は、オーリングであり、筐体12の側面の端部に設けられた溝部に配置される。シール部材は、シーリング部材とも称される。
【0019】
このように構成される気密室内の気圧の変化をセンサユニット11により測定することで、光音響波の強度を求めることができる。センサユニット11の構造については、後に、図2、3を用いて説明する。なお、図1においては、筐体12はテーパ状の開口を備える有底部材であったが、これに限らない。筐体12は、内部に気密室となりえる空間が存在するものであれば、任意の構造であってもよい。
【0020】
接触部14は、遠赤外光の透過性が高く、物理的に振動しやすい弾性物質により構成される。接触部14は、例えば、厚みが70μmのポリエチレンにより構成される。接触部14は、測定対象の表面の変位に追従して変位するような材料で構成されるのが好ましい。光音響波の影響による変位は、測定対象内部においても生じ得るので、接触部14を弾性物質で形成することで、気密室における光音響波の影響を大きくでき、所定の成分の測定精度の向上を図ることができる。
【0021】
窓部15は、筐体12の変調光源20からの導光路に存在する開口に設けられ、遠赤外光の透過性が高い物質により構成される。窓部15は、遠赤外光の直接照射による温度上昇に耐えられるような耐熱性の高い物質により構成されてもよい。他の態様として、窓部15は、例えば遠赤外光の照射による変質や、遠赤外光の吸収による変質がなく、遠赤外光の影響を受けにくい材料で構成されてもよい。窓部15は、このような性質を任意選択的に有してもよく、遠赤外光の高透過性、高耐熱性、高耐久性のうち少なくとも1つを備えるように構成されてもよい。窓部15は、例えば、熱に強いシリコンやゲルマニウムの薄膜により構成される。一例として、ゲルマニウムは1mm程度の厚みであって、変形しにくい。一般的に、材料の厚さが大きくなると遠赤外光を透過しにくいので、窓部15の材料は、遠赤外光を透過量が十分となるように材料及び厚さが設計により定められる。なお、遠赤外光を十分に透過するのであれば、厚みが大きい方が、気密室への外気圧の影響を抑制できるので、好ましい。他にも、窓部15は、ポリエチレンにより構成されてもよい。なお、シリコンやゲルマニウムの薄膜は、物理的に振動しやすい性質を備えるため、窓部15と同様に、厚みが100μm以下のシリコンやゲルマニウムの薄膜を接触部14に設けてもよい。
【0022】
図2は、センサユニット11の拡大図である。図3のセンサユニット11の分解斜視図に示されるように、センサユニット11においては、内部が段状の開口を有する固定部材111に対して、センサ基板112が嵌め込まれて固定される。
【0023】
再び図2を参照すれば、固定部材111は、気密室側に設けられ、比較的小さな開口面積を有する開口111Aと、測定ユニット10の外側に設けられ、比較的大きな開口面積を有する開口111Bとを備える。開口111A、111Bは連通し、両者の間に段部が構成される。センサ基板112は、開口111Bに嵌め込まれ、固定部材111の段部において係止により固定される。
【0024】
センサ基板112は、シリコン基板113、絶縁層114、シリコン層115、ピエゾ抵抗層116、及び、金属層117が積層されて構成されている。シリコン基板113、絶縁層114、及び、金属層117は、それぞれ、開口113A、114A、及び、117Aを備える。開口113A、114A、及び、117Aは、固定部材111の気密室側に設けられる開口111Aと同程度の開口面積を備える。
【0025】
シリコン層115及びピエゾ抵抗層116は、一体となって、一方の端部(図2の左側)がシリコン基板113及び絶縁層114と、金属層117とに挟まれて固定される。シリコン層115及びピエゾ抵抗層116の他方の端部(図2の右側)は、溝部51が設けられることにより、固定されずに自由端となる。さらに、図3に示されるように、シリコン層115及びピエゾ抵抗層116は、中央部分の受圧部118が矩形状に構成され、フレーム119内に配置される。受圧部118は、一辺(図2の左側、図3の左下側)においてのみフレーム119に固定され、他の3辺はフレーム119に固定されていない自由端である。そのため、受圧部118は、片持ち状に構成される。このような受圧部118の構成を持つセンシング部分は、一般に、カンチレバーと称される。
【0026】
再び図2を参照すれば、片持ち状に構成される受圧部118(シリコン層115及びピエゾ抵抗層116)は、厚みが例えば0.3μm程度の板状部材である。その結果、受圧部118は、気密室(開口111A、113A、114A)と外部との気圧差に応じて、開口に対して垂直方向に変位(振動)する。ピエゾ抵抗層116は、圧縮または伸張によって抵抗値が増減する性質を備える。これにより、測定対象200から照射される光音響波に起因する気密室の変化を、ピエゾ抵抗層116の抵抗値を測定することで検出できる。
【0027】
図3は、センサユニット11の分解斜視図である。この図に示されるように、センサユニット11においては、固定部材111の有する開口111Bにセンサ基板112が嵌め込まれて固定される。
【0028】
センサ基板112を積層方向から見れば、矩形状の受圧部118が、フレーム119により取り囲まれ、一辺(左下側の辺)においてのみフレーム119に固定された片持ち状に構成される。なお、受圧部118のフレーム119への固定は、上述のように、シリコン層115及びピエゾ抵抗層116が一体となって、シリコン基板113及び絶縁層114と、金属層117とに挟まれることによりなされる。
【0029】
さらに、受圧部118がフレーム119に固定される一辺(左下側の辺)に着目すれば、受圧部118は、4つの梁部41~44を介して、フレーム119に固定されている。
【0030】
梁部41、42は対をなし、梁部43、44は対をなす。なお、梁部41、44は両端に位置し、梁部42と梁部43とは、切り込み溝部52を介して隣接する。対をなす梁部41と梁部42との間、及び、梁部43と梁部44との間には、フレーム119から突出して形成される矩形状の突出部45、46が設けられている。突出部45、46は、シリコン層115及びピエゾ抵抗層116により構成され、フレーム119と一体形成されている。突出部45、46は、フレーム119と接触する辺以外の3辺においては、溝部51を介して受圧部118と離間する。
【0031】
このように、受圧部118は、梁部41~44が設けられている一辺(左下側の辺)において、梁部41~44を介してフレーム119と接続されている。同時に、受圧部118は、溝部51を介して、梁部41~44が設けられていない三辺(右下側、右上側、及び、左上側)においてフレーム119から離間するとともに、突出部45、46とも離間する。上述のように、梁部42、43の間には、切り込み溝部52が設けられる。溝部51、及び、切り込み溝部52は、例えば、0.02μm~10μm程度の幅に形成されている。
【0032】
さらに、金属層117においては、受圧部118が片持ち構造で固定される側(左下側)において、梁部41と44との間に絶縁溝部53が設けられ、反対側(右上側)において、中央部に絶縁溝部54が設けられる。絶縁溝部53、54は、金属層117内を電気的に絶縁するために設けられ、これにより、2つの電極47、48が形成される。
【0033】
ピエゾ抵抗層116の梁部41が電極47に接続され、梁部44が電極48と接続される。梁部42、43は、金属層117と電気的に絶縁されている。ピエゾ抵抗層116においては、一端の梁部41から受圧部118を経て他端の梁部44に至る経路で連結された略U字状に、導電経路が形成される。そのため、電極47、48の間の電流を測定することで、受圧部118の抵抗値を求めることができる。
【0034】
本構成においては、受圧部118は、梁部41~44の基端を中心に、その面の法線方向(図中の上下方向)に弾性的に変形自在である。この受圧部118の変形により梁部41~44が湾曲することで、ピエゾ抵抗層116の抵抗値が増減する。その結果、電極47、48の間の抵抗を測定することで、受信した光音響波に起因する気密室の気圧変化を測定できる。
【0035】
センサユニット11の作製方法は、以下のとおりである。ます、シリコン基板113、絶縁層114、シリコン層115が積層されたSOI(Silicon On Insulator)基板を用意する。シリコン基板113、絶縁層114、シリコン層115の厚みは、この順番で、例えば300μm、0.4μm、0.08μmである。このSOI基板のシリコン層115に対してドーピングを行い、シリコン層115の表層にピエゾ抵抗層116を形成する。ピエゾ抵抗層116の上に電極となる金属層117を形成した後、金属層117と、ピエゾ抵抗層116及びシリコン層115とを順次にエッチングすることにより、開口117A、並びに、溝部51及び切り込み溝部52を形成する。さらに、金属層117をエッチングして、絶縁溝部53、54を設けることで、電極47、48を形成する。最後に、反対面側からシリコン基板113と絶縁層114とをエッチングして、開口113A、114Aを形成する。このようにして、受圧部118を含むセンサ基板112が形成される。
【0036】
なお、測定ユニット10は、センサユニット11が備えるカンチレバーとは別に、参照抵抗となる同じ構成を備えるカンチレバー(不図示)を備えている。検出回路32は、気密室の外壁の一部をなすカンチレバーの抵抗値と、参照抵抗の抵抗値を比較することで、気密室の気圧の変化を検出する。
【0037】
図4は、測定装置100による測定結果を示すグラフである。このグラフの例においては、変調光源20は、レーザ光源から照射された遠赤外光を、40Hzで駆動するチョッパ部によって変調して測定対象200に照射した。
【0038】
測定対象200は、種々の濃度のグルコース溶液であって、純水(DI(Deionized):脱イオン水)、及び、グルコース濃度がそれぞれ60、80、100、200、500、1000mg/dLの6種類のグルコース溶液の合計7種類の溶液が測定された。これらの複数の濃度の溶液は、時系列に連続的に取り替えて測定されており、取り替えのタイミングにおいて抵抗値変化率の落ち込みが見られる。
【0039】
図5は、図4の測定結果を別態様で示したグラフである。このグラフにおいては、横軸にグルコース濃度が示されており、縦軸に抵抗値変化率が示されている。なお、縦軸は、グルコース濃度がゼロ(DI)の場合の値によりオフセットされている。この図に示されるように、グルコース濃度の上昇(0(DI)、60、80、100、200、500、1000mg/dL)に従って、抵抗値変化率が大きくなる。一般に、計測可能の下限が60mg/dL、分解能20mg/dLであれば、産業上利用可能といわれており、このグラフに示された測定結果は、当該要求水準を満たしている。
【0040】
本実施形態に用いられた遠赤外光は、近赤外から中赤外域(波長が約0.7~4ないし5μm程度)の光と比較すると、水分及び血中グルコースに対する吸光係数が大きい。中赤外光や近赤外光に対しては、赤外血中グルコースの吸光係数が大きいが、測定対象200内に大量に存在する水分の吸光係数も大きいため、多くのノイズが測定され得る。しかしながら、本実施形態によって、遠赤外光を用いても、血中グルコースからの光音響波を測定可能であることが示された。
【0041】
さらに、グルコースの遠赤外光に対する吸光係数が大きいため、遠赤外光を用いることで、光音響波の強度が大きくなる。その結果、共鳴器等を設けることなく、カンチレバーにより気密室の気圧の変化を測定することができるので、測定装置100の小型化を図ることができる。なお、気密室を設けてもよく、気密室を設けることで気密室内の圧力変化が大きくなるので、測定装置100の測定精度を向上させることができる。なお、共鳴器構造を備えてもよく、共鳴器により気密室内の圧力変化を増大させることで、測定装置100の測定精度を向上させることができる。
【0042】
本実施形態においては、測定ユニット10が1つ設けられる例について説明したが、これに限らず、複数設けてもよい。例えば、複数の測定ユニット10の測定可能な圧力変化の振動数帯域が重複することで、光音響波の発生位置を特定することができる。複数の測定ユニット10の測定可能な圧力変化の振動数帯域が異なることで、測定対象に応じた振動を検出できることになるので、同時に複数の測定対象の濃度を測定できる。
【0043】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、測定装置100が接触部14を介して測定対象200と隔てられる例について説明したが、これに限らない。本実施形態においては、接触部14が存在しない例について説明する。
【0044】
図6は、第2実施形態の測定装置100の概略構成図であって、図1に対応する。この図によれば、第1実施形態の測定装置100と比較すると接触部14が削除されている。
【0045】
このような構成においては、有底部材である筐体12の側面の端部を測定対象200に対して押し当てると、筐体12が、シール部材13を介して測定対象200の表面と接触する。これにより、測定対象200の表面が気密室の壁部の一部となり、筐体12の内部に気密室が構成される。
【0046】
このように接触部14が設けられないことで、光音響波の発生源と気密室との間の介在物質がなくなるので、気密室における光音響波(弾性波)に起因する気圧変化がより大きくなる。その結果、気密室の気圧変化を測定しやすくなるので、測定装置100の測定精度を向上させることができる。さらに、接触部14を設けないことにより、測定装置100の構造を簡略化できる。
【0047】
(第3実施形態)
第1実施形態においては、変調光源20が、レーザ光源とチョッパ部とを備える例について説明したが、これに限らない。本実施形態においては、他の形態の変調光源20を用いる例について説明する。
【0048】
図7は、第3実施形態の測定装置100の概略構成図であって、図1に対応する。この図によれば、遠赤外光の光源として、熱型光源60が設けられている。一般に、熱源は、温度に応じて所定の波長の光を発することが知られている。
【0049】
例えば、熱型光源60として電気抵抗を用いて、駆動部31からの通電指示に応じて電気抵抗に電流を流すことで熱型光源60を発熱させて、所定の波長の遠赤外光を照射させる。電流のオン/オフにより、照射光が変調される。さらに、熱型光源60には温度センサが設けられており、駆動部31に対して熱型光源60の温度を通知可能に構成されている。温度センサによる取得を用いたフィードバック制御を行うことで、駆動部31は、熱型光源60を所定の温度に保つことで、所定の波長の光を照射させることができる。このように構成することで、第1実施形態のようにレーザ光源のような大型機器を用いることなく、遠赤外光を照射させることができる。
【0050】
(第4実施形態)
第1~3実施形態においては、測定ユニット10において、筐体12の壁面に対してセンサユニット11が取り付けられる例について説明したが、これに限らない。第4実施形態においては、センサユニット11が筐体12の壁面の一部を構成する例について説明する。
【0051】
図8は、第4実施形態に係る測定装置100の概略構成図である。図1に示される第1実施形態の測定装置100と比較すれば、シール部材13が削除され、筐体12の形状が変更されている。筐体12によって、図右方において気密室が構成されるとともに、図左方において窓部15を固定される。さらに、センサユニット11は、固定部材111を備えず、センサ基板112が固定部材111に嵌め込まれることなく、筐体12の壁面の一部を構成している。
【0052】
このように構成しても、センサユニット11によって気密室における光音響波(弾性波)に起因する気圧変化が測定される。その結果、気密室の気圧変化を測定しやすくなるので、測定装置100の測定精度を向上させることができる。
【0053】
(第5実施形態)
第4実施形態においては、測定ユニット10において、センサユニット11が筐体12の壁面の一部を構成し、センサユニット11は、気密室と外側とを隔てるように構成されたが、これに限らない。第5実施形態においては、センサユニット11の気密室と反対側において、さらに、閉塞空間が設けられる例について説明する。
【0054】
図9は、第5実施形態に係る測定装置100の概略構成図である。図8に示される第4実施形態の測定装置100と比較すれば、センサユニット11の測定対象200側の反対側において、さらに、筐体16が設けられている。筐体16の内部は、筐体12と同様に、閉ざされており閉塞空間を構成する。
【0055】
センサユニット11は、測定対象200から放出される光音響波の影響を受けた気密室の圧力を検出するが、これは、変位の両方向(この図では上下方向)に面する空間の気圧差に起因する変位をセンシング部分(カンチレバー)により測定することにより行われる。すなわち、第1~第4実施形態においては、センサユニット11は、気密室と外気との間の圧力差に起因するセンシング部分の変位を測定する。これに対して、第5実施形態においては、測定対象200から近く、光音響波の影響を受けやすい図上方の気密室と、測定対象200から遠く、光音響波の影響を受けにくい図下方の閉塞空間との圧力差に起因するセンシング部分の変位を測定することで、光音響波の大きさを測定する。センサユニット11の気密室の反対側に閉塞空間が設けられることにより、センシング部分が直接外気と接触する場合よりも、周囲の影響を受けにくくなり、その結果、測定装置100の測定精度を向上させることができる。なお、本実施形態においては、センサユニット11により隔てられる筐体12内の気密室と、筐体16内の閉塞空間とは略等しい開口面積及び容積として示されたが、これに限らない。気密室、閉塞空間ともに、任意の大きさとすることができる。
【0056】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0057】
10 測定ユニット
11 センサユニット
12、16 筐体
13 シール部材
14 接触部
15 窓部
20 変調光源
30 回路部
60 熱型光源
100 光音響波測定装置
200 測定対象
201 血管

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9