(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095718
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】スティック製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/02 20060101AFI20230629BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20230629BHJP
A45D 40/06 20060101ALI20230629BHJP
A45D 40/16 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A61K8/02
A61Q1/00
A45D40/06 Z
A45D40/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021215573
(22)【出願日】2021-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】399091120
【氏名又は名称】株式会社ピカソ美化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】米田 桂三
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA082
4C083AA122
4C083AB172
4C083AB242
4C083AB432
4C083AC012
4C083AC172
4C083AC352
4C083AC392
4C083AD022
4C083AD152
4C083AD662
4C083CC01
4C083CC02
4C083DD11
4C083DD21
4C083DD30
4C083EE03
4C083FF06
(57)【要約】
【課題】繰り出し機構を備えた容器に化粧料用組成物を直接充填してなるスティック製品の製造において、効率的、かつ、安価な手段により、エア溜りの発生を抑えることができる製造方法を確立すること。
【解決手段】形状の一部を回転させることで内容物を繰り出す機構を備えた容器と、化粧料用組成物とからなるスティック製品の製造方法であって、容器内に化粧料用組成物を直接充填する充填工程(1)と、充填した化粧料用組成物を放冷中に熱した金属線を用いてスティック内部の気泡を脱気させる脱気工程(2)と、脱気した化粧料用組成物を放冷又は冷却することで固化させてスティック状に成型する固化工程(3)とを備えることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状の一部を回転させることで内容物を繰り出す機構を備えた容器と、化粧料用組成物とからなるスティック製品の製造方法であって、
容器内に化粧料用組成物を直接充填する充填工程(1)と、
充填した化粧料用組成物を放冷中に熱した金属線を用いてスティック内部の気泡を脱気させる脱気工程(2)と、
脱気した化粧料用組成物を放冷又は冷却することで固化させてスティック状に成型する固化工程(3)
とを備えることを特徴とするスティック製品の製造方法。
【請求項2】
前記充填工程(1)において、容器の底部に設けた充填口から化粧料用組成物を溶融充填することを特徴とする請求項1に記載のスティック製品の製造方法。
【請求項3】
前記脱気工程(2)において、金属線を充填口からスティック内部に挿入することを特徴とする請求項1又は2に記載のスティック製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スティック製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料用組成物を繰り出し機構を備えた容器に充填したスティック製品は、口紅、リップグロス、固形ファンデーション、固形デオドラント剤などの各種化粧料として汎用されている。これらスティック製品の代表的な製造方法としては、金属製の金型を用いて化粧料用組成物をスティック状に成型した後に繰り出し機構を備えた容器に填め込む方法がある。
【0003】
このような金型成型後に填め込む方法は、成型工程と填め込み工程とを別工程にしなければならず非効率であるといった欠点がある。また、別途、金型作成費用などが発生するため製造コストが高くなるといった課題もある。そのため、繰り出し機構を備えた容器に化粧料用組成物を直接充填することでスティック製品を製造する方法も採用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、直接充填する製造方法では、充填した化粧料用組成物をスティック状に固化成型する工程において、放冷又は冷却すると、化粧料用組成物内の気泡が抜けきらずにスティック内部に集まって空気が閉じ込められた状態となる「エア溜り」が生じたり、固化後にスティック外面に「歪み」が生じたりするといった問題がある。特に、スティック内部に発生するエア溜りについては、外観ではその存在の有無を目視確認できないことから、品質不良や製品トラブルに繋がる恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものである。すなわち、繰り出し機構を備えた容器に化粧料用組成物を直接充填してなるスティック製品の製造において、効率的、かつ、安価な手段により、エア溜りの発生を抑えることができる製造方法を確立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、形状の一部を回転させることで内容物を繰り出す機構を備えた容器と、化粧料用組成物とからなるスティック製品の製造方法であって、容器内に化粧料用組成物を直接充填する充填工程(1)と、充填した化粧料用組成物を放冷中に熱した金属線を用いてスティック内部の気泡を脱気させる脱気工程(2)と、脱気した化粧料用組成物を放冷又は冷却することで固化させてスティック状に成型する固化工程(3)とを備えることを特徴とするスティック製品の製造方法にある。
【0008】
上記充填工程(1)において、容器の底部に設けた充填口から化粧料用組成物を溶融充填することが望ましい。
【0009】
上記脱気工程(2)において、金属線を充填口からスティック内部に挿入することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスティック製品の製造方法は、繰り出し機構を備えた容器に化粧料用組成物を直接充填してなる製造における課題であったエア溜りの発生において、上記(1)~(3)の工程を備える製造方法とすることで、効率的、かつ、安価な手段で当該エア溜りの発生を抑制することができることから、良品質なスティック製品を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のスティック製品の製造方法の詳細を説明する。
【0012】
[繰り出し機構を備えた容器について]
本発明で用いられる容器は、スティック状の口紅、リップグロス、ファンデーション、化粧下地、コンシーラーなどのメイクアップ化粧料;サンスクリーン剤、デオドラント剤などの各種化粧料を直接充填するための容器であり、該容器形状の一部を回転させることで内容物を繰り出したり引き戻したりする機構を備えている。
【0013】
容器の成型は、特に限定されず、一体成型品であっても、複数のパーツを組み立ててなる成型品であってもよく、容器形態も化粧料の用途によって適宜選択することが望ましい。また、容器の材質は、特に限定されず、樹脂などを用いることが望ましい。
【0014】
具体的な樹脂としては、例えば、ポチエチレン(PE樹脂)、ポリプロピレン(PP樹脂)、ポリ塩化ビニル(PVC樹脂)、ポリスチレン(PS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS樹脂)、アクリロニトリル・スチレン(AS樹脂)、ポリメチルメタアクリル(PMMA樹脂)、ポリビニルアルコール(PVA樹脂)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC樹脂)、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリエチレンサルファイド(PPS樹脂)などが挙げられる。
【0015】
本発明において、後述する化粧料用組成物が保持される容器の内部形状は、化粧料用組成物がスティック状として繰り出したり引き戻したりすることができる形状であれば特に限定されないが、例えば、三角柱状、四角柱状などの多角柱状;円柱状、楕円柱状などの形状を有していることが望ましい。
【0016】
また、本発明で用いられる容器には、化粧料用組成物を直接充填することができる充填口を設けることが好ましい。充填口の位置は、特に限定されないが、最終形態の容器内に直接充填でき、効率良くスティック製品を製造できるように容器の底部に設けられていることが望ましい。
【0017】
[化粧料用組成物について]
本発明で用いられる化粧料用組成物は、室温で固化してスティック状となる組成物であればよく、公知の化粧品原料を用いることができる。用いられる化粧品原料としては、例えば、油脂、ロウ類、炭化水素油、脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油などの油剤;単糖、糖アルコールなどの糖類;増粘剤などの水溶性高分子;アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤などの界面活性剤;体質粉体、有機色材、無機色材、パール顔料、表面処理粉体、複合顔料などの粉体;有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤などの紫外線吸収剤;多価アルコール、植物抽出物、アミノ酸、ビタミン、殺菌・防腐剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、精製水などが挙げられ、これら成分を目的に応じて適宜配合させることができる。なお、本明細書において、「室温」とは、1~30℃の温度範囲のことを言う。
【0018】
本発明においては、室温で固化してスティック状となる組成物を調製する観点から、上記油剤を組成物100質量%中、50質量%以上配合させることが望ましく、より望ましくは55質量%以上である。これら油剤の中でも、室温で固形の油剤を少なくとも用いることが望ましい。
【0019】
次に、スティック製品の製造工程について説明する。本発明の製造方法は、以下の工程を備える。
工程(1):容器に化粧料用組成物を直接充填する充填工程
工程(2):充填した化粧料用組成物を放冷中に熱した金属線を用いてスティック内部の気泡を脱気させる脱気工程
工程(3):脱気した化粧料用組成物を放冷又は冷却することで固化させてスティック状に成型する固化工程
【0020】
[工程(1)について]
工程(1)は、容器内に化粧料用組成物を直接充填する充填工程である。充填方法は、化粧料用組成物を容器内に充填できるのであれば特に限定されないが、本発明においては、効率よく生産する観点から、容器の底部に設けられた充填口から、化粧料用組成物を容器内に直接充填することが望ましい。
【0021】
また、化粧料用組成物は、最終形態としてスティック状となることから、充填時は化粧料用組成物を溶解した液体状態で充填される、所謂、溶融充填することが望ましい。化粧料用組成物を溶解する温度は、溶融充填できる温度であれば特に限定されず、組成物中に配合される各成分の構成により適宜設定すればよいが、良品質なスティック製品を製造する観点から、85℃以上とすることが望ましく、90℃以上とすることがより望ましい。
【0022】
[工程(2)について]
工程(2)は、上記工程(1)にて充填した化粧料用組成物を放冷中に熱した金属線を用いてスティック内部の気泡を脱気させる脱気工程である。より具体的には、充填した化粧料用組成物を室温で放冷させ、化粧料用組成物がスティックを形成し始める初期段階である、外壁面が固化し始め、スティック内部が固化せずに柔らかい状態で、熱した金属線を容器の充填口からスティック内部に挿入し、スティック内部に存在する気泡を脱気させる工程である。当該工程を行うことでエア溜りの発生を抑制させることができるようになる。
【0023】
上記放冷させる時間は、化粧料用組成物の外壁面が固化し、スティックを形成し始める初期段階まで放冷させることができれは特に限定されないが、本発明においては、1~5分間放冷させることが望ましい。
【0024】
用いられる金属線の金属としは、熱伝導率に優れる金属であれば特に限定されないが、例えば、ダイヤモンド、銀、銅、金、アルミニウム、真鍮、鉄、ステンレスなどが挙げられる。これら金属の中でも、コストパフォーマンスに優れる観点から、銅、アルミニウム、ステンレスを用いることが望ましい。また、金属線の径の大きさも特に限定されず、用いる容器の充填口の径の大きさに合わせて適宜選択すればよいが、2~4mmの範囲内であることが望ましい。
【0025】
熱せられた金属線の温度は、スティック内部に存在する気泡を熱により脱気できるのであれば特に限定されないが、本発明においては、100~130℃の範囲とすることが生産効率の観点から望ましく、105~125℃の範囲とすることがより望ましい。また、スティック内部への金属線の挿入時間も、スティック内部に存在する気泡を十分に脱気できるのであれば特に限定されないが、本発明においては、10秒以内とすることが生産効率の観点から望ましく、7秒以内とすることがより望ましい。
【0026】
本発明おいては、熱した金属線をスティック内部に挿入後、2~5回回転させながら抜き取ることで、スティック内部に存在する気泡を効率良く外部へ放出させることができるようになる。また、当該操作は、既にエア溜りが生じている場合の脱気にも有効である。加えて、本発明においては、これら操作に併せて、金属線を挿入している充填口に熱風をあてることがより好ましい。熱風をあてることにより脱気処理の効率化を図ることができ、スティック内部への金属線の挿入時間を短縮することが可能となる。
【0027】
なお、上記脱気工程は、1回行うことでエア溜まりの発生を十分に抑えることが可能であるが、1回目の挿入時にスティック内部を溶融状態とし、2回目の挿入時にて脱気処理を行うことが望ましい。また、金属線のスティック内部への挿入回数は、エア溜まり発生の懸念度合に応じて、3回、4回と繰り返し行うこともできる。
【0028】
[工程(3)について]
工程(3)は、上記工程(2)にて脱気した化粧料用組成物を放冷又は冷却することで固化させてスティック状に成型する固化工程である。工程(3)は、化粧料用組成物を固化させてスティック状へと成型することができれば、放冷であっても、冷却を行っても特に限定されないが、生産効率の観点から、冷却を行うことが望ましい。
【0029】
また、固化工程において冷却を行うことで、歪み等のない滑らかな外観を呈するスティックへと成型することが可能となる。冷却は、空冷によるものであっても、水冷によるものであっても特に限定されないが、温度コントロールが容易で、かつ、設備が簡易的であるという利点を有する空冷を採用することが望ましい。
【0030】
空冷する温度は、生産効率の観点から、1~20℃の範囲とすることが望ましく、5~15℃の範囲とすることがより望ましい。また、空冷に要する時間も20分以下であることが望ましく、15分以下であることがより望ましい。
【0031】
本発明においては、形状の一部を回転させることで内容物を繰り出す機構を備えた容器と、化粧料用組成物とからなるスティック製品の製造方法において、上記した工程(1)~工程(3)を備えることで、製造時の課題であったエア溜りの発生を効率的、かつ、安価な手段で抑制することができることから、良品質なスティック製品を製造することができるようになる。
【0032】
したがって、本発明により製造したスティック製品は、スティック状の口紅、リップグロス、ファンデーション、化粧下地、コンシーラーなどのメイクアップ化粧料;スティック状のサンスクリーン剤、スティック状のデオドラント剤などの各種化粧料として好適に使用することができる。
【実施例0033】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
なお、配合量は、特記しない限り「質量%」を表し、表中の成分の配合量は全て純分に換算した値である。
【0034】
[化粧料用組成物の調製]
下記、表1に記した組成に従い、処方1~3の化粧料用組成物を常法に準じて調製した。
【0035】
【0036】
[スティック製品の製造]
上記処方1~3の化粧料用組成物を用いて、下記製造方法により実施例1~3のスティック製品を得た。
【0037】
[製造方法]
A)調製した化粧料用組成物を90℃で加熱溶解させた後、容器の底部に設けられた充填口から80~85℃で溶融充填する。
B)1分間放冷後、120℃の金属線(銅線、又はステンレス線を使用)を充填口からスティック内部に挿入し、3秒間回転させながら抜き取ることで脱気処理を行う。脱気が不十分である場合には、再度、同様の操作を繰り返す。
C)冷却温度10~13℃で10~15分間空冷を行い、スティック状へと成型する。
【0038】
なお、比較対象品は、上記処方1の化粧料用組成物を用いて、上記A)の充填後、上記B)の脱気工程は行わず、上記C)の空冷を行い、スティック状へと成型したものを比較例1のスティック製品とした。
【0039】
[エア溜りの確認試験]
上記実施例1~3のスティック製品、並びに比較例1のスティック製品から、スティック状の化粧料用組成物を取り出した後、輪切りにしてエア溜りの有無について確認試験を行った。
【0040】
結果、実施例1~3のスティック製品では、前端から下部に至るどの位置においてもエア溜りは一切確認されなかった。一方、比較例1のスティック製品では、スティックの中心部付近にエア溜りが認められた。このことからも、本発明の製造方法の工程を満たすことでエア溜りの発生を抑制することができ、良品質なスティック製品を効率的、かつ、安価な手段で製造できることが明らかとなった。