(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095725
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】水溶性こんにゃく芋抽出物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20230629BHJP
A61K 36/888 20060101ALI20230629BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230629BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230629BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20230629BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230629BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20230629BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/888
A61P17/00
A61P25/28
A61K8/9794
A61Q19/00
A23L19/00 102Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021215581
(22)【出願日】2021-12-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-15
(71)【出願人】
【識別番号】500158410
【氏名又は名称】雪国アグリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】室井 文篤
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B016LC07
4B016LE02
4B016LG07
4B016LP02
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD53
4B018ME14
4B018MF01
4C083AA111
4C083CC02
4C088AB80
4C088BA08
4C088BA11
4C088CA03
4C088CA14
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA16
4C088ZA89
(57)【要約】 (修正有)
【課題】こんにゃく芋抽出物を化粧品原料や健康食品素材もしくは医薬品素材として使用する場合に問題となる難水溶性を解決した組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】脂肪酸エステルの含有量が1,000mg/100g以下であり、植物ステロールの含有量が5,000mg/100g以下である水溶性こんにゃく芋抽出物とする。その製造方法は、有機溶剤を用いてこんにゃく芋の粉からこんにゃく芋抽出物を抽出する抽出工程、およびカラムクロマトグラフィーにより、こんにゃく芋抽出物から脂肪酸エステルおよび植物ステロールを分離することにより、脂肪酸エステルの含有量を1,000mg/100g以下、かつ、植物ステロールの含有量を5,000mg/100g以下とする分離工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸エステルの含有量が1,000mg/100g以下である水溶性こんにゃく芋抽出物。
【請求項2】
植物ステロールの含有量が5,000mg/100g以下である請求項1に記載の水溶性こんにゃく芋抽出物。
【請求項3】
グルコシルセラミドの含有量が5,000mg/100g以上である請求項1または2に記載の水溶性こんにゃく芋抽出物。
【請求項4】
ステリルグルコシドの含有量が500mg/100g以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の水溶性こんにゃく芋抽出物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶性こんにゃく芋抽出物を含有する食品、化粧品、または、医薬品。
【請求項6】
有機溶剤を用いてこんにゃく芋の粉からこんにゃく芋抽出物を抽出する抽出工程および、カラムクロマトグラフィーにより前記こんにゃく芋抽出物から脂肪酸エステルおよび植物ステロールを分離することにより、脂肪酸エステルの含有量を1,000mg/100g以下、かつ、植物ステロールの含有量を5,000mg/100g以下とする分離工程を含む水溶性こんにゃく芋抽出物の製造方法。
【請求項7】
有機溶剤を用いてこんにゃく芋の粉からこんにゃく芋抽出物を抽出する抽出工程および、前記抽出工程で使用した有機溶剤と異なる有機溶剤を用いて前記こんにゃく芋抽出物から脂肪酸エステルおよび植物ステロールを除去することにより、脂肪酸エステルの含有量を1,000mg/100g以下、かつ、植物ステロールの含有量を5,000mg/100g以下とする除去工程を含む水溶性こんにゃく芋抽出物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性こんにゃく芋抽出物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
こんにゃく芋は日本の伝統的な農産物で、食物繊維や有用成分を多く含むため注目されている食材である。板こんにゃくやしらたきの原料となるこんにゃく粉を製造する過程で、副産物として大量に生じるこんにゃく飛粉には有用成分が多く含まれており、特にグルコシルセラミドに代表されるスフィンゴ糖脂質の含有量が非常に多いことから、こんにゃく飛粉からのスフィンゴ糖脂質などの製造方法について多く出願されている。(特許文献1、特許文献2、特許文献3)
【0003】
このスフィンゴ糖脂質は、経口摂取により体内で消化・吸収され、肌の保湿性を向上させる機能があることが知られており、機能性表示食品として販売れされている。また、皮膚に直接塗布することによっても皮膚の保湿性が向上し、乾燥肌、肌荒れ、およびアトピー性皮膚炎の改善などに効果があることが知られている。最近ではアルツハイマー予防剤として新しい機能性が発見されており(特許文献4)、食品分野のみならず、医薬品分野、化粧品分野においても注目されている成分である。
【0004】
上記のようなスフィンゴ糖脂質については、こんにゃく芋のみならず、小麦、米、とうもろこし、桃、およびパイナップルなど様々な植物に含まれていることが報告されており、すでにそれらの植物由来のスフィンゴ糖脂質が食品、化粧品用途として販売されている。植物から抽出されたスフィンゴ糖脂質を含む植物抽出物については、そのままでは水に全く溶解しないため、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの乳化剤を利用して水溶性組成物とする方法が知られている。(特許文献5)こんにゃく芋から抽出されたスフィンゴ糖脂質を含むこんにゃく芋抽出物についても同様であり、有機溶剤によって抽出されたこんにゃく芋抽出物は、そのままでは水にはすべてが溶解あるいは懸濁せずに、沈殿するという現象が確認されていた。その解決策として、こんにゃく芋抽出物を水に安定に溶解させるために、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、および酵素分解レシチンなどの乳化剤を利用することにより、水溶性を維持することで、各種ドリンク剤や化粧品、医薬品などに配合することが可能となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3992425号公報
【特許文献2】特許第3650587号公報
【特許文献3】特許第4753476号公報
【特許文献4】再表2019-078005号公報
【特許文献5】特許第3395444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、今までの方法では、追加で乳化剤を添加する必要があるとともに、使用する乳化剤やその他の成分との組合せによって乳化安定性が悪くなることがあり、乳化剤を添加することなく水溶性を確保できる方法が望まれていた。
【0007】
本発明は、スフィンゴ糖脂質のような有用成分を多く含有しているこんにゃく芋抽出物を化粧品原料や健康食品素材もしくは医薬品素材として使用する場合に問題となる難水溶性という問題を解決した組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、こんにゃく芋から有機溶剤により抽出したこんにゃく芋抽出物は難水溶性であることを確認しており、有用成分ではない成分を選択的に除去することにより難水溶性ではなくなるのではないかと考え、こんにゃく芋抽出物に含まれる有用成分を残しながら、水への溶解を妨げている成分を除去する方法を考えた。
【0009】
その結果、こんにゃく芋抽出物に含まれている植物ステロールと脂肪酸エステルなどの中性脂質を少なくすると、難水溶性が改善されて水へ容易に溶解することを見出し、完成したものである。
【0010】
即ち、本発明の態様は、下記の通りである。
(1)脂肪酸エステルの含有量が1,000mg/100g以下である水溶性こんにゃく芋抽出物。
【0011】
(2)植物ステロールの含有量が5,000mg/100g以下である請求項1に記載の水溶性こんにゃく芋抽出物。
【0012】
(3)グルコシルセラミドの含有量が5,000mg/100g以上である請求項1または2に記載の水溶性こんにゃく芋抽出物。
【0013】
(4)ステリルグルコシドの含有量が500mg/100g以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の水溶性こんにゃく芋抽出物。
【0014】
(5)請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶性こんにゃく芋抽出物を含有する食品、化粧品、または、医薬品。
【0015】
(6)有機溶剤を用いてこんにゃく芋の粉からこんにゃく芋抽出物を抽出する抽出工程および、カラムクロマトグラフィーにより前記こんにゃく芋抽出物から脂肪酸エステルおよび植物ステロールを分離することにより、脂肪酸エステルの含有量を1,000mg/100g以下、かつ、植物ステロールの含有量を5,000mg/100g以下とする分離工程を含む水溶性こんにゃく芋抽出物の製造方法。
【0016】
(7)有機溶剤を用いてこんにゃく芋の粉からこんにゃく芋抽出物を抽出する抽出工程および、前記抽出工程で使用した有機溶剤と異なる有機溶剤を用いて前記こんにゃく芋抽出物から脂肪酸エステルおよび植物ステロールを除去することにより、脂肪酸エステルの含有量を1,000mg/100g以下、かつ、植物ステロールの含有量を5,000mg/100g以下とする除去工程を含む水溶性こんにゃく芋抽出物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果は以下の通りである。
(1)の発明によれば、脂肪酸エステルの含有量が1,000mg/100g以下とすることによりこんにゃく芋抽出物を水溶性にすることが可能である。
【0018】
(2)の発明によれば、植物ステロールの含有量が5,000mg/100g以下とすることによりこんにゃく芋抽出物を水溶性にすることが可能である。
【0019】
(3)の発明によれば、グルコシルセラミドの含有量が5,000mg/100g以上とすることにより有用成分を含む水溶性こんにゃく芋抽出物が得られる。
【0020】
(4)の発明によれば、ステリルグルコシドの含有量が500mg/100g以上とすることにより有用成分を含む水溶性こんにゃく芋抽出物が得られる。
【0021】
(5)の発明によれば、乳化剤を使用せずとも食品、化粧品、医薬品に用いることができる。
【0022】
(6)の発明によれば、カラムクロマトグラフィーによりこんにゃく芋抽出物に含まれる脂肪酸エステルの含有量を1,000mg/100g以下、植物ステロールの含有量を5,000mg/100g以下に低減させることで、水溶性が付与された水溶性こんにゃく芋抽出物の簡単な製造方法を提供できる。
【0023】
(7)の発明によれば、抽出工程と異なる有機溶剤を用いた除去工程により、こんにゃく芋抽出物に含まれる脂肪酸エステルの含有量を1,000mg/100g以下、植物ステロールの含有量を5,000mg/100g以下に低減させることで、水溶性が付与された水溶性こんにゃく芋抽出物の簡単な製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、水溶性こんにゃく芋抽出物の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、有機溶剤で抽出されたこんにゃく芋抽出物であって、水溶性が改善されたこんにゃく芋抽出物である。以下で本発明のこんにゃく芋抽出物の実施形態について詳述する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための一例であり、本発明が当該実施形態のみに限定されるものではない。
【0026】
1.水溶性こんにゃく芋抽出物の原材料等
本実施形態で使用する原料のこんにゃく芋は原料として使用するこんにゃく芋は、こんにゃく芋そのままでも良いし、乾燥、すりつぶし、粉砕、加熱などの操作によって加工されていても良い。また、こんにゃく精粉、こんにゃく微粉、こんにゃく中粉、こんにゃく荒粉、又は、こんにゃく飛粉等でも良いし、食用として加工して市販されているこんにゃくでも良い。これらの中で好ましい例としてはこんにゃく精粉、こんにゃく微粉、こんにゃく中粉等の製造工程で副産物として生じ、大量に廃棄されるものであり、安価に入手できる、こんにゃく飛粉を利用することが好ましい。
【0027】
本実施形態で抽出に使用する有機溶剤としては、こんにゃく芋中の有用成分と抽出中に反応するなどして、本発明の効果を損なうものでなければいかなるものでも使用でき、また、1種類の有機溶剤を単独で用いても、2種以上の複数の有機溶剤を混合して用いても良い。かかる有機溶剤の例としては、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの1価の1級アルコール類、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのその他のアルコール類、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの含酸素系極性有機溶剤、ジメチルホルムアミド、ピリジンなどの含窒素系極性有機溶剤、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロルエチレンなどの含ハロゲン系極性有機溶剤、ヘキサン、イソオクタンなどの無極性あるいは低極性の有機溶剤が挙げられ、場合によっては、水が混合されていても良い。さらには、高圧液化状態または超臨界状態にある二酸化炭素やエタン、トリフルオロメタンなどの高圧流体などを用いることも可能である。これらの中で、食品や食品添加剤を抽出する場合は、特にエタノールを用いることが好ましく、アセトン、ヘキサン、水、超臨界等の状態にある二酸化炭素を必要に応じて混合して用いることもできる。この場合抽出に使用する有機溶剤中におけるエタノールの含有量は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0028】
2.水溶性こんにゃく芋抽出物の製造
まず、本実施形態に係る水溶性こんにゃく芋抽出物を製造するにあたり、こんにゃく芋に対して有機溶剤を添加してこんにゃく芋抽出物を抽出する抽出工程を行う。抽出に使用する有機溶剤の量は、原料のこんにゃく芋に対して1~30倍量程度、好ましくは1~10倍量程度が良い。
【0029】
抽出温度は、使用する溶剤の沸点にもよるが、好ましくは0℃から80℃、より好ましくは室温程度から60℃であって、抽出時間は1~48時間、好ましくは2~20時間である。
【0030】
抽出方法は、攪拌槽内でこんにゃく芋と上記の有機溶剤を混合して1回のみの回分操作に限定されるものではない。抽出後の残渣に再度新鮮な溶剤を添加し、抽出操作を行うこともできるし、有機溶剤を複数回抽出原料に接触させることも可能である。すなわち、抽出操作としては、回分操作、半連続操作、向流多段接触操作のいずれの方式も使用可能である。また、ソックスレー抽出など公知の抽出方法を使用しても良い。
【0031】
次に、上記抽出工程で得られた抽出液から抽出残渣を分離除去する。分離の方法は特に限定されず、例えば吸引ろ過、フィルタープレス、シリンダープレス、デカンター、遠心分離器、ろ過遠心機などの公知の方法を用いることができる。
【0032】
このようにして得られた抽出液は濃縮工程に送られる。濃縮方法は特に限定されず、例えばエバポレーターのような減圧濃縮装置や遠心式薄膜真空蒸発装置を用いることにより、または加熱による溶剤除去により濃縮することができる。なお、抽出のための有機溶剤に超臨界流体を用いた場合では、抽出後に放圧操作を行うことのみにより、溶媒除去が行え、濃縮工程は割愛することが可能である。
【0033】
本実施形態においては、こんにゃく芋抽出物を水に容易に溶解することができるように、各種植物ステロールを5,000mg/100g以下、好ましくは4,000mg/100g以下、より好ましくは3,500mg/100g以下まで低減することが必要であり、各種脂肪酸エステルを1,000mg/100g以下、好ましくは500mg/100g以下、より好ましくは50mg/100g以下まで低減させることが必要である。植物ステロールについては、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール、スチグマステロール、シトスタノールなどを代表としたステロール類であり、それに脂肪酸が結合した植物ステロールも含まれる。さらに、脂肪酸エステルは、C16からC20の飽和脂肪酸および/または不飽和脂肪酸に、メチル基やエチル基、プロピル基などがエステル結合したものである。
【0034】
一方、有用成分を含む水溶性こんにゃく芋抽出物を食品、化粧品、医薬品用途として提供できるよう、水溶性こんにゃく芋抽出物が有用成分であるグルコシルセラミドを5,000mg/100g以上、好ましくは10,000mg/100g以上、より好ましくは15,000mg/100g以上含み、ステリルグルコシドの含有量を500mg/100g以上、好ましくは1,000mg/100g以上、より好ましくは1,500mg/100以上含むことが望ましい。
【0035】
本発明の製造方法においては、前記植物ステロールおよび脂肪酸エステルを低減できる方法であれば特に限定されない。好ましい方法として、樹脂を用いた方法もしくは、前記抽出工程とは異なった有機溶剤を用いて処理することにより低減化を図ることができる。
【0036】
まず、樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーにより植物ステロールおよび脂肪酸エステルを分離する分離工程としては、有用成分であるグルコシルセラミドやステリルグルコシドと植物ステロールおよび脂肪酸エステルを分離出来るものであれば、特に限定されないが、シリカゲルやイオン交換樹脂、アフィニティー樹脂、ゲル濾過、疎水クロマトグラフィー樹脂、合成吸着剤などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0037】
次に、前記抽出工程と異なる有機溶剤を用いることにより植物ステロールおよび脂肪酸エステルを除去する除去工程としては、有用成分であるグルコシルセラミドやステリルグルコシドを溶解しにくく、植物ステロールや脂肪酸エステルを溶解しやすい有機溶剤を用いることが好ましい。そのような好ましい有機溶剤としては、アセトン、ヘキサン、超臨界状態の二酸化炭素などとそれらの混合物が挙げられるがこれらに限ったわけではない。これらの中では特にアセトンが好ましい。アセトンの含有量は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0038】
有機溶剤による処理方法としては、前記抽出工程とは異なった有機溶剤もしくは組成が異なった有機溶剤を使用することが必要である。このことにより効率的に植物ステロールと脂肪酸エステルを除去することが可能となる。
【0039】
抽出工程後、有機溶剤を除去したこんにゃく芋抽出物に対して、前記抽出工程とは異なる有機溶剤を添加して植物ステロールもしくは脂肪酸エステルを除去する除去工程においては、前記抽出工程と全く同じように処理することが可能である。つまり、植物ステロールもしくは脂肪酸エステルの除去に使用する有機溶剤の量は、こんにゃく芋抽出物に対して好ましくは1~30倍量程度、さらに好ましくは1~10倍量程度が良く、撹拌などにより有機溶剤への溶解を促進させれば良い。
【0040】
処理温度は、使用する溶剤の沸点にもよるが、好ましくは、0℃から80℃、さらに好ましくは室温程度から60℃の範囲がよい。
【0041】
処理時間は、1~48時間、好ましくは2~20時間である。
【0042】
なお、この処理は1回のみの回分操作に限定されるものではない。1回目の処理後の残渣に再度新鮮な溶剤を添加し、処理を繰り返すこともできるし、溶剤を複数回こんにゃく芋抽出物に接触させることも可能である。すなわち、操作方法としては、回分操作、半連続操作、向流多段接触操作のいずれの方式も使用可能である。また、ソックスレー抽出など公知の処理方法を使用してもよい。
【0043】
次に、有機溶剤による処理物を分離除去する。分離の方法は特に限定されず、例えば吸引ろ過、フィルタープレス、シリンダープレス、デカンター、遠心分離器、ろ過遠心機などの公知の方法を用いることができる。
【0044】
最終的に得られたこんにゃく芋抽出物は、カラムクロマトグラフィーなどで使用した有機溶剤などを必要に応じて除去すれば良いし、そのまま使用することも可能である。
【0045】
本発明の水溶性こんにゃく芋抽出物は、上述したような方法により得られるものであって、各種植物ステロールの含有量が5,000mg/100g以下であり、各種脂肪酸エステルの含有量を1,000mg/100g以下にする必要がある。これらの含有量がそれぞれ、5,000mg/100g、1,000mg/100gを超える場合には、こんにゃく芋抽出物は水には完全に溶解せず、溶け残りが存在して、時間と共に沈殿となって安定的に水に溶解させることが難しくなる。もしくは、一旦は水に溶解したこんにゃく芋抽出物が時間の経過とともに沈殿となって水不溶性のこんにゃく芋抽出物の1部が析出することとなる。こんにゃく芋抽出物中の各種植物ステロールを5,000mg/100g以下、各種脂肪酸エステルを1,000mg/100g以下にすることにより、水に溶解する必要がある化粧品や食品、医薬品素材として利用することが容易になる。
【0046】
本発明の水溶性こんにゃく芋抽出物は、皮膚の保湿や認知症などに重要な役割をするスフィンゴ糖脂質やステリルグルコシドを多量に含有することから、食品や化粧品に添加することによって優れた効果をもたらすものである。該食品としては例えば健康食品、健康飲料をはじめ、パン、うどん、そば、ご飯等主食となるもの、クッキー、ケーキ、ゼリー、プリン、キャンディー、チューインガム、ヨーグルトなどの菓子類、清涼飲料水、酒類、コーヒー、茶、牛乳などの飲料が挙げられる。該化粧品としては例えば化粧水、乳液、モイスチャークリーム、香水、リップクリーム、口紅等皮膚に塗布するもの、養毛料、育毛料、ポマード、セットローション、ヘアスプレー、染毛料、ヘアトニック、まつげ化粧料等毛髪に塗布するもの、洗顔クリーム、洗顔石鹸、シャンプー、リンス、トリートメントなど洗顔や洗髪に利用するもの、さらには浴用剤などが挙げられる。
【実施例0047】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【0048】
以下の実施例において用いた測定装置、測定方法について説明する。
【0049】
(1)植物ステロール、脂肪酸エステルの定量方法
植物ステロール、および脂肪酸エステルの定量にはガスクロマトグラフィー(GC)を用いた。ヒューレット・パッカード製HP 6890 Series GC Systemを用いた。各成分の検出には水素炎イオン化検出器(FID)を用いた。植物ステロールの分離には、アジレント・テクノロジー製HP-5MSカラム(長さ30m、直径0.25mm、膜厚0.25μm)を使用した。検出器温度300℃、流速1.0mL/分(キャリアーガス:He)、インジェクタ温度150℃、インジェクション量1μL、スプリット比50:1とした。カラムオーブン温度は、開始温度を250℃とし、10℃/分で300℃まで昇温させ、300℃に到達後10分間保持させた。脂肪酸エステルの分離には、アジレント・テクノロジー製DB-WAX(長さ60m、直径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いた。検出器温度280℃、流速1.0mL、スプリット比50:1とした。カラムオーブン温度は、開始温度を50℃とし、1分間保持させた後、25℃/分で200℃まで昇温させ、3℃/分で230℃まで昇温後、13分間保持させた。
【0050】
標準試薬として、β-シトステロール(タマ生化学製)、カンペステロール(タマ生化学製)、スティグマステロール(シグマ製)、リノール酸エチル(シグマ製)、パルミチン酸エチル(富士フィルム和光純薬製)、および定性用脂肪酸メチルエステルミックス(F.A.M.E.Mix,C4-C24)(シグマ製)を用いた。定性用脂肪酸エチルエステルミックスを、定性用脂肪酸メチルエステルミックスからエステル交換反応により調整した。これら標準試薬を使用して植物ステロールおよび脂肪酸エステルを測定した。
【0051】
(2)グルコシルセラミド、ステリルグルコシドの定量方法
グルコシルセラミド、ステリルグルコシドの定量には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。島津製作所製LC-20A型HPLCを用いて、検出器は島津製作所製蒸発光散乱検出器ELSD-LT IIIを用いた。カラムはGLサイエンス社製Inertsil SIL100Aを用いた。溶媒はクロロホルム:メタノール=9:1(容量比)を用い、流速1.0mL/分、37℃で測定した。標準試薬として、こんにゃく芋由来グルコシルセラミド(長良サイエンス製)とβ-シトステロール-3-O-グルコシド(富士フイルム和光純薬製)を用いて測定した。
【0052】
[比較例1]
こんにゃく飛粉1kgを攪拌槽に仕込み、そこにエタノール2Lを加え、常温で2時間攪拌した。その後、ろ過により抽出液と残渣を分離した。抽出液をエバポレーターにより濃縮し、茶褐色の蝋状濃縮物(こんにゃく芋抽出物)10.7gを得た。この抽出物を上記の測定方法を用いて、植物ステロール、脂肪酸エステル、グルコシルセラミド、ステリルグルコシドについて分析を行った。その結果を表1に示す。また、このこんにゃく芋抽出物1gを70℃の温水1Lを入れたビーカー中で、10分間撹拌を行った後、室温に戻るまで放置したところ、蝋状の塊がビーカーの下部に沈殿しており、すべては水に安定に溶解していない状態であった。
比較例1において得られたこんにゃく芋抽出物10.0gを100mLのクロロホルムに溶解させ、300mL容量のガラスカラムにシリカゲルを充填して通液した。カラム容量の3倍量のクロロホルムで洗浄した後、カラム容量の1倍量のクロロホルム/メタノール(9/1)で洗浄した。さらに、カラム容量の2倍量のクロロホルム/メタノール(8/2)で吸着したこんにゃく芋抽出物をシリカゲルカラムから溶出した。溶出した溶液をエバポレーターでクロロホルム/メタノールを溶媒除去すると、薄茶色のブロック状の固体3.2gが得られた。このこんにゃく芋抽出物について、比較例1と同様の分析を行った。その結果を表1に示す。また、このこんにゃく芋抽出物1gを70℃の温水1Lを入れたビーカー中で、10分間撹拌を行った後、室温に戻るまで放置したところ、水に完全に溶解しており、沈殿の発生も全く観察されなかった。さらに、1週間、密封して40℃の恒温器中に放置したが、沈殿の発生はなく、完全に水に溶解したままであった。