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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095788
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】建物の建築方法及び建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 1/02 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
E04H1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187459
(22)【出願日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2021211469
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507074591
【氏名又は名称】株式会社 NENGO
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】的場 敏行
【テーマコード(参考)】
2E025
【Fターム(参考)】
2E025AA01
2E025AA22
(57)【要約】
【課題】斜線制限をクリアしつつ、外観の統一感と設計の自由度の向上を両立させることができる建物の建築方法及び建物を提供すること。
【解決手段】建屋60の建築方法は1又は複数種類の斜線制限を満たす基準高さの境界構造物61を土地の境界の形状に応じて設置する境界設置ステップと、基準高さ以下の高さの建屋60を境界構造物61の内側に設置する建屋設置ステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数種類の斜線制限を満たす基準高さ以下の境界構造物を土地の境界の形状に応じて設置する境界設置ステップと、
前記基準高さ以下の高さの建屋を前記境界構造物の内側に設置する建屋設置ステップと、
を含む建物の建築方法。
【請求項2】
前記基準高さが5m以下に設定される請求項1に記載の建物の建築方法。
【請求項3】
前記境界構造物は、前記土地の境界から0.5m以上離間した位置に設置される請求項1又は請求項2に記載の建物の建築方法。
【請求項4】
前記建屋に近接する前記境界構造物の高さは、前記建屋の屋根の高さの変化に応じて設定される請求項1又は請求項2に記載の建物の建築方法。
【請求項5】
前記境界構造物は、前記建屋の壁を構成し、
前記建屋における前記境界構造物によって壁が構成されていない前記建屋の面には開口部が設置され、
前記開口部と当該開口部と対向する位置の前記境界構造物の間には、上方が開放された空間が形成される請求項1又は請求項2に記載の建物の建築方法。
【請求項6】
前記境界構造物は、共通規格のパネル部材を複数並べて構成される請求項1又は請求項2に記載の建物の建築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の建築方法及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高さを制限する斜線制限を回避して建物が建築されている。この種の斜線制限に関する技術が記載されているものとして特許文献1や特許文献2がある。特許文献1には、天井高が3層(2.4m、3m、4m)に分かれて構成された平屋が記載されている。特許文献1では、建物が平屋であるため、斜線制限等の法令に基づく高さ制限を過剰に気にすることなく、屋内空間における天井高を高くすることができるとしている。又、特許文献2には、フラット屋根にすることで、斜線制限を回避したり、敷地条件の悪い土地にも換気効率の良い建物を建てたりできることが記載されている。
【0003】
又、建屋において、他人の視線を妨げるために塀を設けることが行われている。この種の塀の設置に関する技術が記載されているものとして特許文献3がある。特許文献3には、この塀が住宅の外壁と平行に設置され、その高さが住宅の屋根の下端より高いものとして構成される建屋が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-150229号公報
【特許文献2】特開2001-220836号公報
【特許文献3】特開2017-150229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、モデルルームや広い土地に建屋を建築する場合は斜線規制を過剰に気にして建屋を設計する必要はないが、現実問題として限られた土地に建屋を立てるためには斜線制限を考慮に入れる必要がある。この点、特許文献1や特許文献2に記載されるような平屋や、特許文献3に記載されるような塀で囲まれた住宅であっても、結局のところ斜線制限を考慮して建屋の高さを考慮する必要がある。
【0006】
斜線制限は、事実上、建屋のデザインを制限してしまうことになる。同じエリアでも、統一感のない種々のデザインの建屋が並ぶことになり、街並みの統一感や地域のイメージといった点でも従来技術には改善の余地があった。
【0007】
本発明は、斜線制限をクリアしつつ、外観の統一感と設計の自由度の向上を両立させることができる建物の建築方法及び建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る建物の建築方法は、1又は複数種類の斜線制限を満たす基準高さ以下の境界構造物を土地の境界の形状に応じて設置する境界設置ステップと、基準高さ以下の高さの建屋を境界構造物の内側に設置する建屋設置ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、斜線制限をクリアしつつ、外観の統一感と設計の自由度の向上を両立させることができる建物の建築方法及び建物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る建築方法によって建築される建物の斜視図である。
図2】本実施形態の建築方法によって建築される建物の分解斜視図である。
図3】本実施形態の建築方法によって建築される建物の正面図である。
図4】本実施形態の建築方法によって建築される建物の平面図である。
図5】本実施形態の建築方法によって建築される建物を構成する建屋の正面図である。
図6】本実施形態の建築方法によって建築される建物の縦断面図である。
図7】本実施形態の建築方法によって建築される建物の1階部分の間取り例を示す図である。
図8】本実施形態の建築方法によって建築される建物の2階部分の間取り例を示す図である。
図9】本発明の一実施形態に係る建築方法によって建築される建物の変形例1の斜視図である。
図10】本発明の一実施形態に係る建築方法によって建築される建物の変形例2の斜視図である。
図11】本発明の一実施形態に係る建築方法によって建築される建物の変形例3の斜視図である。
図12】本実施形態の建築方法によって建築される建物の変形例を模式的に示す斜視図である。
図13】本実施形態の建築方法の流れの一例を示すフローチャートである。
図14】本実施形態の設計支援システムの一例を示す図である。
図15】本実施形態の設計支援サーバのハードウェア構成を示す模式図である。
図16】本発明の一実施形態に係る設計支援サーバの機能的構成を示す図である。
図17】本発明の一実施形態に係る建物の建築方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る建物6の建築方法及び建屋60について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
<建物の構成例>
まず、本実施形態の建築方法によって建築される建物6の一例について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る建築方法によって建築される建物6の斜視図であり、図2はその建物6の分解斜視図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、本実施形態の建物6は、建屋60を囲う境界構造物61と、住居用の建屋60と、を主要な構成として備える。
【0014】
境界構造物61の構成について説明する。図1及び図2において、境界構造物61は、隣接する他の3方の土地との境界線である土地境界線62から所定の距離dだけ離間した位置に設定される。所定の距離dは、後述する斜線制限の関係から土地境界線62から0.5m以上離間した位置であることが好ましい。
【0015】
本実施形態では、民法第234条等を考慮し、隣地からの最低確保すべき距離dは0.5mに設定される。境界構造物61は、建屋60を囲うように配置されるとともに建屋60の外壁の一部を構成する。図2に示すように、境界構造物61は、建屋60の3方の壁として機能してもよい。
【0016】
境界構造物61の高さは、境界構造物61及び建屋60を設ける土地に設定される斜線制限を考慮して設定される基準高さHに基づいて設定される。
【0017】
基準高さHは、例えば、建築基準法第56条の道路斜線制限、及び、建築基準法第42条に規定される道路幅員に基づいて策定される。構造物を設置する土地に面する幅員4mの前面道路が最も狭い道路として想定される。道路の1mごとに1.25m上がる斜線勾配(=1.25)が最も小さい勾配として想定される。構造物を設置する土地に対して当該前面道路を挟んで反対側に位置する土地と当該前面道路との境界線上の地点で且つ当該前面道路路面の中心の高さの地点をスタート地点として、斜線勾配1.25の斜線が引かれる。この斜線から上方への建造物の設置は制限される。この斜線は、当該土地の道路に接した境界線では5m(=4m×1.25倍)の高さとなる。この高さが基準高さとして導出される。即ち、

基準高さH=最低道路幅(4m) × 想定斜線勾配(1.25)
= 5m

と算出される。この高さ以下の建築物であれば、道路斜線制限に抵触することはない。
【0018】
基準高さHは、建築基準法第56条の隣地斜線制限により規定され得る。隣地境界線から上方に垂線を延ばし、垂線上の一定の高さを起点とし、そこから一定の勾配で示された斜線の内側が、建築物を建てられる高さの上限となる。例えば、住居系地域では、隣地境界線上20メートルの高さから、1メートルにつき1.25メートル上がる斜線の内側に建築物は設けられなければならない。商業系、工業系地域では、隣地境界線上31メートルの高さから、1メートルにつき2.5メートル上がる斜線の内側に建築物を納めなければならない。
【0019】
基準高さHは、建築基準法第56条の北側斜線制限により規定され得る。北側斜線制限では真北方向にある隣地との境界線が基準となる。隣地との境界にて、第1種、第2種低層住居専用地域では5m、第1種、第2種中高層住居専用地域では10mが北側斜線の起点になる。1メートルにつき1.25メートル上がる斜線の内側に建築物は設けられなければならない。
【0020】
本実施形態では、道路斜線制限を満たすように、例えば、基準高さHが5mに設定され、境界構造物61の高さも5mに設定される。境界構造物61の高さは基準高さH以下であってもよい。建屋60の高さは高い方が居住環境としてはより良い。建屋60の高さは境界構造物61の高さに基づいて決定されてもよいので、境界構造物61の高さは、なるべく高く設定されてもよい。少なくとも境界構造物61の一部の高さが基準高さHであってもよい。
【0021】
道路或いは隣地から離れた場所に建屋60を設ける場合には、基準高さHとして上記の5mより高い値を採用しても、建屋60は道路斜線制限、北側斜線制限に抵触しない場合が考えられる。このような場合には、基準高さHとして5mより高い高さ、例えば6m、が採用されてもよい。
【0022】
基準高さHは、建築基準法の改正、道路斜線規制の緩和などに基づきより高く設定してもよい。例えば、斜線勾配は、用途地域等によっては1.5倍と現状でも設定されている。この場合には、例えば前面道路の幅員を4mとして、基準高さHは、例えば、6m(=4m×1.5倍)と設定され得る。
【0023】
なお、境界構造物61は、完全に遮蔽する構造でなくてもよい。境界構造物61にスリットや切欠きが形成されるようなデザインが採用されてもよい。
【0024】
図3は本実施形態の建築方法によって建築される建物6の正面図である。図3に示すように、境界構造物61には出入口64が形成される。この実施形態では、正面側に出入口64が形成されているが、この構成に限定されるわけではない。
【0025】
又、本実施形態の境界構造物61は、共通規格のパネル部材63が複数並べられて構成されてもよい。ここでいう共通規格とは、同一形状で同じサイズのことを意味する。例えば、パネル部材63として、コンクリートパネルにて、高さ5m、横幅0.9m、厚み0.15mのものが用いられる。或いは、例えば、パネル部材63として、木製パネルにて幅9cm、厚さ1.5cm、長さ3mのものが用いられる。パネル部材63は、高さ方向に複数配置する構成であってもよい。上記はあくまで例示であり、上記のサイズや形状等に限定されない。
【0026】
次に、建屋60の構成について説明する。図4は、本実施形態の建築方法によって建築される建物6の上面図である。図4に示すように、建屋60は、境界構造物61によって囲まれるように構成される。本実施形態では、境界構造物61は、平面視において矩形状に形成される。
【0027】
屋根67の上に太陽光発電用装置が設定される場合が想定される。例えば、高さが20cmの太陽光パネルを屋根67の端に設置する場合、屋根67の端から太陽光パネルの高さ(20cm)以上離して、太陽光発電用装置の設置されることが好ましい。これにより、太陽光発電装置は建築基準法に抵触せずに設置され得る。
【0028】
屋根67の材料自体が太陽光パネルとなる場合、上記の場合とは異なり、太陽光パネルは、屋根67の上に突き出ることはなく、斜線制限に抵触する構造物とはならない。屋根67の端の高さに注意が払われればよい。屋根67の上に屋上緑化が施されることが考えられる。屋上緑化は建築物とは認められない。このため、屋上緑化が原因で建物6或いは境界構造物61が斜線制限に抵触することはない。
【0029】
図5は、本実施形態の建築方法によって建築される建物6を構成する建屋60の正面図である。建屋60における境界構造物61によって壁が形成されていない側には、窓等からなる開口部68が設置される。本実施形態では、建屋60の3方の壁が境界構造物61によって構成されており、正面側のみに開口部68が配置される。又、建屋60の屋根67は、図4の矢印の方向に水を流す片流れのものが適用される。屋根67が勾配を有することにより水はけがよくなる。片流れの方向は、図4の矢印の方向に限定される訳ではなく、図4の矢印と反対方向、あるいは垂直な方向、或いは斜めの方向に設定することも可能である。
【0030】
又、屋根67は、片流れに限定される訳ではなく、切妻構造とすることも可能である。例えば、図4の矢印の方向に、切妻構造の屋根67の棟と呼称される頂部分が、基準高さHを例えば5mに設定して設けられる。そして、矢印と垂直な方向に傾斜を有する屋根67の屋根面が棟から伸ばされる構成であってもよい。
【0031】
又、屋根67は、勾配のない屋根67としてもよい。ビルの屋上のような構成が採られてもよい。
【0032】
建ぺい率を考慮して建屋60は設置され、建屋60と境界構造物61との間、典型的には建屋60の南側に、上方が開放された開放空間66が設置される。この開放空間66は多くの用途に用いられ得る。例えば、愛車の鑑賞と整備、洗車スペース、ブランコ及びハンモック及び雲梯等がある子供が安心して遊べる場所、スポーツを極める空間(筋トレ、バスケットボール、サンドバッグ、ゴルフ)、プール、金魚や鯉の池、ペットのために放し飼いできるスペース、自給自足のための家庭菜園、ハーブガーデン、バーベキューパーティ空間、露天風呂等が考えられる。
【0033】
次に、建屋60の内部の構成について説明する。図6は、本実施形態の建築方法によって建築される建物6の縦断面図である。図7は本実施形態の建築方法によって建築される建屋60の1階部分の間取り例を示す図であり、図8は建屋60の2階部分の間取り例を示す図である。
【0034】
図6から図8に示すように、この例の建屋60は二階建てで構成される。日射が方位によって確保されにくい場所では、建屋設置部102が天窓を屋根67に設置してもよい。更に、窓は、屋根67ではなく、境界構造物61の任意の位置に設けられてもよい。建屋60から見て庭側ではない面、例えば、壁に窓が取り付けられてもよい。
【0035】
図9から図11は、図1に示した建物6の変形例1から変形例3をそれぞれ示す。図1に示す建屋60では、境界構造物61の高さが一定で、且つ、建屋60の高さが境界構造物61と同じである。これに対して、図9における建屋60においては、斜めに構成されている屋根67の最も低い部位に近接する境界構造物61の高さは、屋根67の最も低い部位の高さh以下に設定される。屋根67の最も高い部位の高さは基準高さHに設定されており、屋根67の最も低い部位の高さhは、基準高さHより低い。屋根67に降った雨水は境界構造物61の外にスムーズに導かれる。
【0036】
図10に示す建物6においては、建屋60に近接する境界構造物61の高さが建屋60の屋根67の高さの変化に応じて設定される。近接するとは、境界構造物61が建屋60の近傍に設置されている場合のみならず、境界構造物61が建屋60を構成する場合、及び、境界構造物61と建屋50とが接続されている場合等を含む。特に、屋根67の傾斜方向と垂直な方向における境界構造物61の高さは、屋根67の傾斜方向と垂直な方向における屋根67の端部の高さと同一かそれ以下に設定されている。屋根67に降った雨水は、屋根67の傾斜方向のみではなく、傾斜方向に垂直な方向からも境界構造物61の外に排出され得る。より水はけのよい建物6が実現され得る。
【0037】
図11に示す建物6においては、境界構造物61の一部に切り欠き83が設けられている。屋根67に降った雨水はこの切り欠き83から境界構造物61の外に排出され得る。境界構造物61の高さは何れの場所においても切り欠き部以外においては同一である。切り欠き部を形成する工程は増えるが、同一の構造部材を境界構造物61に使用可能という利点がある。
【0038】
敷地は、正方形、長方形のいくつかのバリエーションが考えられる。又、建屋60を一つのユニットとし、複数の建屋60によって建物6を構成することもできる。図12は、本実施形態の建築方法によって建築される建物6a~6cの変形例を模式的に示す斜視図である。
【0039】
図12(a)は、複数の建屋60を離間して建物6aを構成している。この例では、開放空間66を間に挟んで二つの建屋60が形成されている。開放空間66が敷地中央に配されている。二世帯住宅、或いは、趣味専用の建屋60が建てられている等が想定される。
【0040】
図12(b)は、複数の建屋60を短手方向に隣接させて建物6bを構成している。この例では、敷地の長手方向の中央付近で敷地を分割するように建屋60の開口部68が設けられ、開放空間66は敷地の短手方向を横断して長手方向を分割するように正方形に近い形で実現されている。奥行の深い、平面視が正方形に近い建屋60が実現されている。
【0041】
図12(c)は、複数の建屋60を長手方向に隣接させて建物6cを構成している。この例では、開放空間66は敷地の長手方向を横断して短手方向を分割するように細長い長方形に近い形で実現されている。奥行の浅い、平面視が細長い長方形に近い建屋60が実現されている。開口部68の広い建屋60が実現されている。日光を多く取り込める明るい住宅が実現され得る。
【0042】
<建築方法>
次に、上述したような建物6の建築方法について説明する。本実施形態の建築方法は、境界構造物61を設置する境界設置ステップと、建屋60を設置する建屋設置ステップと、を含む。なお、ここでいう設置は、設計図を作成する段階では設計と言い換えることもできるし、施工の段階では実際に建物6を構築すると言い換えることもできる。
【0043】
境界設置ステップについて図13を参照して説明する。境界設置ステップでは、まず、斜線制限を満たす基準高さHが設定される(ステップS10)。基準高さHは、境界構造物61の高さとなる。
【0044】
基準高さHは、1又は複数の斜線制限を満たすように設定される。ここでいう斜線制限は、道路斜線及び北側斜線等である。道路斜線及び北側斜線の例としては、もし北側道路幅が最低の4mの場合、敷地の北側境界線から垂直に5m(=4×1.25)上がった先の高さから一定の勾配(例えば、1.25/1)を付けた北側斜線により建物6の設置が制限される。理論上は、最高高さと軒高さから、3階建てまで実現できるはずだが、斜線をかわすために基本形に対して歪んだ形の建屋60になるのが、現状である。この斜線規制を満たす基準高さHが境界構造物61の高さに設定される。例えば、上記の例の場合には基準高さHは5mに設定される。
【0045】
次に、境界構造物61が土地の境界の形状に応じて設置される(ステップS11)。このステップにおける設置位置は、土地が立地する条件に応じて決定される。例えば、民法第234条に基づく設置をする必要がある場合は、上記実施形態で説明したように、土地境界線62から0.5m以上離間した位置に設置位置が決定される。又、民法第236条に規定するような異なる慣習に従う場合には、その基準に基づいて設置位置が決定される。従って、設置位置が土地境界線62となる場合もある。
【0046】
次に、境界構造物61の内側に建屋60が設定される(ステップS12)。上述の通り、境界構造物61が建屋60の壁を構成する場合は、境界構造物61を建屋60の壁として設置を行う。これによって開放空間66の位置も決まる。
【0047】
最後に建物6の各種の仕様が設定される(ステップS13)。建物6の各種の仕様は、例えば、建屋60を2階建にすることや平屋にする建築形式や、玄関70の配置場所等の建具の位置や、開放空間66の用途等も含まれる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の建物6の建築方法は、1又は複数種類の斜線制限を満たす基準高さHの境界構造物61を土地の境界の形状に応じて設置する境界設置ステップと、基準高さ以下の高さの建屋60を境界構造物61の内側に設置する建屋設置ステップと、を含む。又、本実施形態の建物6の建築方法により、上述したような建物6を建築することができる。
【0049】
これにより、斜線制限の基準高さHより低い境界構造物61と当該境界構造物61以下の高さの建屋60とからなる建物6は斜線規制を満たす。又、建屋60は境界構造物61以下の高さなので外側から開放空間66を視認することができないので、開放空間66でくつろいだりしてもプライバシーを侵害されることもない。更に、本実施形態の建物6を同じエリアに複数建築した場合でも、境界構造物61は統一感のあるデザインを採用しつつ、境界構造物61の内側に位置する建屋60については個性を出したデザインを採用することができる。各個人の個性と街並みの統一感とが両立され得る。このように、本実施形態に係る建築方法は、斜線制限をクリアしつつ、外観の統一感と設計の自由度の向上を両立させることができる。
【0050】
本実施形態の建物6の建築方法において、境界構造物61は、基準高さHが5m以下に設定される。
【0051】
斜線制限を確実に満たす建物6の建築方法及び建屋60が提供される。建屋60が5m以下になっているので、境界構造物61を設置した後は斜線制限を気にせず建屋60のデザインや配置を決定でき、自由に家を構築することができる。
【0052】
本実施形態の建物6の建築方法において、境界構造物61は、土地の境界から0.5m以上離間した位置に設置される。
【0053】
これにより、隣地との離間制限を確実に満たす建物6の建築方法及び建屋60が提供される。
【0054】
建屋60の建築方法において、境界構造物61は、建屋60の壁を構成し、建屋60における境界構造物61によって壁が構成されていない建屋60の面には開口部68が設置される。開口部68と当該開口部68と対向する位置の境界構造物61の間には、上方が開放された空間が形成される。
【0055】
境界構造物61の中に、プライバシー空間が確保され得る。上方が開放された開放空間66にて運動スペースの確保や池の設置等自由な活動が実現される。
【0056】
建物6の建築方法において境界構造物61は、共通規格のパネル部材63を複数並べて構成される。
【0057】
設計自由度が広がるとともに、誰でも建屋60を設計できるような環境が提供される。
【0058】
以上、本実施形態の建物6の建築方法について説明してきた。100平米に満たない木造住宅は建築士の資格がなくても設計できるので、設計を自動化できる可能性もある。次に、上述の本実施形態の建築方法を支援する設計支援システムSについて説明する。
【0059】
<設計支援システム>
【0060】
図14に示すように、本発明に位置実施形態に係る建物6の設計支援システムSは、設計支援サーバ1によって構築される。設計支援サーバ1は、複数の設計会社端末3にネットワーク5を介して接続される。
【0061】
設計支援サーバ1は、データベース2に保管されている建築基準法規、過去の設計情報等を参照しつつ設計支援を行う情報処理装置である。
【0062】
図15に示すように、本発明の一実施形態に係る設計支援サーバ1は、ハードウェアとして、プロセッサ11と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)13と、バス14と、入出力インターフェース15と、入出力部16と、通信部17とを有する。
【0063】
プロセッサ11は、各種演算及び処理を行う。プロセッサ11は、例えば、CPU(central processing unit)、MPU(micro processing unit)、SoC(system on a chip)、DSP(digital signal processor)、GPU(graphics processing unit)、ASIC(application specific integrated circuit)、PLD(programmable logic device)又はFPGA(field-programmable gate array)等である。或いは、プロセッサ11は、これらのうちの複数を組み合わせたものである。又、プロセッサ11は、これらにハードウェアアクセラレーター等を組み合わせたものあっても良い。
【0064】
プロセッサ11、ROM12及びRAM13は、バス14を介して相互に接続されている。プロセッサ11は、ROM12に記録されているプログラム又はRAM13にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。プログラムの一部又は全部は、プロセッサ11の回路内に組み込まれていても良い。
【0065】
バス14は入出力インターフェース15にも接続される。入出力インターフェース15には、入出力部16と、通信部17と、が接続されている。
【0066】
なお、設計会社端末3も、設計支援サーバ1と同様のハードウェア構成を有する。
【0067】
設計支援サーバ1の機能的構成について図16を用いて説明する。各機能部は、図15に示すハードウェアのプロセッサ11等によって実現される。設計支援サーバ1は、境界設置部101と建屋設置部102とを備える。境界設置部101は、1又は複数種類の斜線制限を満たす高さ(図1参照)の境界構造物61を土地境界線62(図1参照)の形状に応じて設置する。建屋設置部102は、基準高さH以下の高さの建屋60を境界構造物61の内側に設置する。
【0068】
境界設置部101は、法令及び住宅事情を考慮して境界構造物61を設置する。隣地からの最低確保すべき距離dは0.5m(民法第234条)である。このため、図1に示すように、例えば、高さが5mの境界構造物61を土地境界線62から0.5mの距離dだけ離して設け、この境界構造物61の内側に天井高さ5m以下の建屋60を建築する。斜線制限及び民法第234条の規定に抵触しない建屋60及び境界構造物61が得られる。そして、境界設置部101は、土地境界線62から0.5mの空き地を緑化用に例えば設置する。
【0069】
以下、図17のフローチャートに沿って、図1から図12を参照して本発明の一実施形態に係る建物6の建築方法について説明する。
【0070】
設計支援サーバ1による建物6の設計がスタートすると、境界設置部101は、まず、土地境界線62の位置、敷地の大きさ、形状、広さ、敷地の属する用途地域指定等の敷地情報を取得する敷地情報取得処理を行う(ステップS101)。次に、境界設置部101は、東西南北に隣接する場所が道路なのか住宅地なのか、道路の広さ、高低差等の隣地の情報を取得する隣地情報取得処理を行う(ステップS102)。次に境界設置部101は、ステップS102で得られた隣地情報を基に斜線制限を導出する斜線制限導出処理を行う(ステップS103)。更に、ステップS101で得られた用途地域指定等に基づいて基準高さHを求める基準高さ導出処理が行われる(ステップS104)。
【0071】
次に得られた情報に基づいて、境界設置部101は、境界構造物61の高さ及び位置を決める境界設置処理を行う(ステップS105)。ここで、境界構造物61の高さは、斜線制限を満たす高さとする。例えば、第1種低層住居地域では、隣地からの最低確保すべき距離dは0.5m(民法第234条)であるので、図2の下方に示すように、例えば、高さが5mの境界構造物61を土地境界線62から0.5m離して設ける。図2では、右上方向が北である。図2の例では、北側が住宅地のため、例えば0.5m離して境界構造物61が設けられている。北側が道路の場合には、例えば、0.5m離す必要はなく、隣接する道路に接して境界構造物61が設けられてもよい。
【0072】
次に、設計支援サーバ1の建屋設置部102は、建屋60の外構の設置を行う建屋外構設置処理をおこなう(S106)。外構として、図2に示すように、境界構造物61が援用されてもよい。境界構造物61を予め断熱性の優れたものとすることがよい。境界構造物61或いは建屋60の外壁の素材、形状、厚みに特に制約はない。境界構造物61或いは建屋60の外壁は、例えば、ラムダサイディング、スタッコ、木仕上げ等が境界設置部101或いは建屋設置部102により採用される。
【0073】
図3に示すように、境界構造物61が建屋60の一部をなし、出入口64を設けるようにしてもよい。建屋設置部102は出入口64の形状を選択する。図1に示すように、建ぺい率を考慮して建屋60は設置され、建屋60と境界構造物61との間、典型的には建屋60の南側に、上方が開放された開放空間66を建屋設置部102は設ける。
【0074】
建屋設置部102は、図4に示すように、片流れの屋根67を設置してもよい。屋根67が勾配を有することにより水はけがよくなる。次に建屋設置部102は、図5から8に示すように、玄関70、玄関ドア65(図5参照)、ベッドルーム71、学習机・デスクスペース72、オーニング73、リビングダイニング74、デッキテラス75(図6参照)、リビングダイニング74、収納76、キッチン77、トイレ78、バスルーム79(図7参照)、ベッドルーム80、階段81、吹き抜け82、学習机・デスクスペース72(図8参照)等からなる間取りを設置する間取り設置処理を行う(ステップS108)。間取りに基づいて、建屋設置部102は、図5に示すように窓等からなる開口部68を設置する。開口部68は開放空間66に面してもよい。
【0075】
次に境界設置部101及び建屋設置部102は、共通規格のパネル部材63を複数並べることにより(図3参照)、境界構造物61及び建屋60を形成するパネル部材設置処理を行う(ステップS109)。共通規格のパネル部材63の使用により自動設計がより円滑に実行され得る。フェンスの素材は、コンクリート、セメントパネル、金属サイディング、金属ネット、木製サイディング、木製ルーバー、壁面緑化用ネット等から選択することができる。又、伸長式オーニングが一階の窓上に取り付けられてもよい。
【0076】
次に建屋設置部102は、住居部分の仕上げ選定をする内装設置処理を行う(ステップS110)。例えば、窓のタイプ、床の素材、壁の素材・色、天井の素材・色、照明の種類、バスルーム79の機器、キッチン77の機器、が選択される。又、壁天井の仕上げが選択される。例えば、塗装仕上げ、壁紙仕上げ、木貼り仕上げ、床の仕上げ(カーペット、木フローリング等)が選択される。
【0077】
最後に、建屋設置部102は、敷地周囲に空ける50センチの空間に植栽を施し緑化に使う植栽設置処理を行い(ステップS110)、終了する(ステップEND)。
【0078】
建屋設置部102は、例えば、境界構造物61の3方の壁が建屋60の3方の壁を形成するように建屋60を設置してもよい(図1参照)。この場合、建屋60に用いる建材を少なくすることができる。又、厚く堅牢で且つ断熱性に優れた境界構造物61の特性を建屋60に生かすことができる。
【0079】
(変形例)
建屋60については、図12に示すように、建屋設置部102は土地の形状や住まい方に合わせて、住居部分のモジュール69を選んでもよい。モジュール69は予め共通規格のパネル部材63に基づいて設定されていてもよい。図12(a)では、建物6aにおいて、モジュール69が離れて設置され、その間に開放空間66が形成されている。図12(b)では、建物6bにおいて、モジュール69は近接して設置されている。図12(c)では、建物6cにおいて、モジュール69は敷地の長手方向に平行に設置されている。同一のモジュール69を組合せることにより多くの種類の間取りが実現され得る。土地の形状や住まい方に合わせて、タイプが選択される。面積、形状に合った外壁の範囲、住居部分の大きさ等が確定される。
【0080】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、設計支援サーバ1とデータベース2が別に存在しているが、一つの設計支援サーバ1上にデータベース2を有する構成も可能である。
【0081】
又、機能部の一部を省略したり、別の機能部を追加したりする等、設計支援サーバ1が有する機能部の構成は適宜変更することができる。
【0082】
又、上記した一連の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータ等にネットワーク5及び記録媒体からインストールされる。このようなプログラムを含む記録媒体は、プログラムを提供するために装置本体とは別に配布されるリムーバブルメディアにより構成されるだけでなく、装置本体に予め組み込まれた状態で提供される記録媒体等で構成される。リムーバブルメディアは、例えば、磁気ディスク(フロッピディスクを含む)、光ディスク、又は光磁気ディスク等により構成される。光ディスクは、例えば、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory),DVD(Digital Versatile Disk),Blu-ray(登録商標) Disc(ブルーレイディスク)等により構成される。光磁気ディスクは、MD(Mini-Disk)等により構成される。又、装置本体に予め組み込まれた状態で借り手に提供される記録媒体は、例えば、プログラムが記録されているプログラムメモリ及びハードディスク等で構成される。
【0083】
以上説明した設計支援方法は、コンピュータに建物6の設計を支援させるものである。
上記の記載から以下の技術的思想を把握することができる。
(付記1)
コンピュータに建物の設計を支援させる設計支援方法であって、
予め設定される直方体の空間の側方の外縁に沿って境界構造物を配置する境界設定ステップと、
前記建物を構成する住宅モジュールを配置する空間として前記境界構造物に囲まれるモジュール空間を設定する空間設定ステップと、
前記モジュール空間内のユーザが指定した位置に前記住宅モジュールが配置された状態を表示する表示ステップと、
を含み、
前記モジュール空間の高さは、前記境界構造物の高さ以下に設定される設計支援方法。
【0084】
これにより、斜線制限をクリアしつつ、外観の統一感と設計の自由度の向上を両立させることができる建物6の設計が可能となる。斜線制限を確実に満たす建物6の建築方法及び建屋60が提供される。境界構造物61を設置した後は斜線制限を気にせず建屋60のデザインや配置を決定でき、自由に家を構築することができる。隣地との離間制限を確実に満たす建物6の建築方法及び建屋60が提供される。
【0085】
(付記2)
前記境界構造物の高さは、道路斜線制限に基づく前記建築構造物に隣接する道路の基準位置と前記境界構造物の上端位置と通過する仮想直線よりも低い位置に設定される付記1に記載の設計支援方法。
【0086】
これにより、斜線制限領域を規定する斜線の起点よりも低い位置に境界構造物61及び建物6が設定され得る。そして、道路斜線制限を満たす境界構造物61及び建物6が実現される。
【0087】
(付記3)
前記モジュール空間は、建ぺい率に基づいて設定される付記1又は2に記載の設計支援方法。
【0088】
これにより、建ぺい率、斜線制限という法規制を満たす建物6が実現される。
【0089】
前記境界構造物は、複数の同一サイズ或いは共通規格のパネル部材63を連続的に配置することによって構成される付記1から3の何れかに記載の設計支援方法。
【0090】
これにより、斜線制限を満たす高さの共通規格のパネル部材63の組み合わせになり、境界構造物61及び建屋60を含めて建物6は斜線制限の規制を満たすことができる。共通規格のパネル部材63を使うことで設計の自動化が推進され得る。建築主は、建築士の資格を有さずとも自ら建物6を設計し得る。
【符号の説明】
【0091】
1 設計支援サーバ
2 データベース
3 設計会社端末
5 ネットワーク
6 建物
11 プロセッサ
12 ROM
13 RAM
14 バス
15 入出力インターフェース
16 入出力部
17 通信部
60 建屋
61 境界構造物
62 土地境界線
63 共通規格のパネル部材
64 出入口
65 玄関ドア
66 解放空間
67 屋根
68 開口部
69 モジュール
70 玄関
71 ベッドルーム
72 学習机・デスクスペース
73 オーニング
74 リビングダイニング
75 デッキテラス
76 収納
77 キッチン
78 トイレ
79 バスルーム
81 階段
82 吹き抜け
101 境界設置部
102 建屋設置部
d 距離
H 基準高さ
S 設計支援システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17