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特開2023-9580転がり軸受の状態監視装置、風力発電装置、状態監視方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009580
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】転がり軸受の状態監視装置、風力発電装置、状態監視方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20230113BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230113BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20230113BHJP
   F03D 80/70 20160101ALI20230113BHJP
【FI】
G01M13/04
G01M99/00 A
G01H17/00 Z
F03D80/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112988
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯川 謹次
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
3H178
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024AD07
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA11
2G064AA17
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064DD02
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB35
3H178BB56
3H178CC25
3H178DD08X
3H178DD50X
(57)【要約】
【課題】回転速度が断続的に変化し得る環境下において、転がり軸受の状態監視用のデータを適切に取得する。
【解決手段】転がり軸受の状態監視装置であって、回転中の前記転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得手段と、回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得手段と、前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出手段と、前記導出手段にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成手段とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の状態監視装置であって、
回転中の前記転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得手段と、
回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得手段と、
前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出手段と、
前記導出手段にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成手段と、
を有することを特徴とする状態監視装置。
【請求項2】
前記生成手段は、前記振動情報または音情報からサンプリングされたデータに対して次数比分析を行うことで、前記監視用のデータを生成することを特徴とする請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項3】
前記生成手段は更に、前記監視用のデータに対し、エンベロープ解析処理またはフィルタ処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記生成手段にて生成された監視用のデータを用いて、前記転がり軸受の状態を診断する診断手段を更に有することを特徴とする請求項2または3に記載の状態監視装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の状態監視装置と、
転がり軸受と
を備える風力発電装置。
【請求項6】
転がり軸受の状態監視方法であって、
回転中の前記転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得工程と、
回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得工程と、
前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出工程と、
前記導出工程にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成工程と、
を有することを特徴とする状態監視方法。
【請求項7】
コンピュータに、
回転中の転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得工程と、
回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得工程と、
前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出工程と、
前記導出工程にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成工程と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、転がり軸受の状態監視装置、風力発電装置、状態監視方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風力発電装置などの機械装置は転がり軸受を備える。転がり軸受の状態を監視し、その状態に応じた制御を行うことで、機械装置の不具合などを防止し、より適切に動作させることが行われている。転がり軸受の状態監視に用いられる情報としては、振動、音、もしくは回転速度などが用いられている。
【0003】
特許文献1では、軸受劣化診断装置において、回転速度の上昇または下降変化に伴って、着目する次数成分の振動騒音の大きさがどのように変化するかを分析する「回転-トラッキング分析」が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/145222号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、風力発電装置では、外部からの風の影響により、断続的な回転速度の変化が生じ得る。特に、風力発電装置では、比較的低速の回転により動作するため、転がり軸受が1回転する間にも回転速度の変化が生じ得る。回転速度が変動した場合には、転がり軸受の部位ごとの振動の周波数が変動してしまうため、転がり軸受が1回転する間のデータを一律に用いて状態監視を行った場合にはその変動に起因して精度が低下してしまう。また、風力発電装置など回転速度が比較的低速である場合には、低周波成分の解析が必要である。このとき、一定数のデータを取得するためには、データのサンプリング時間を長く設定する必要がある。サンプリング時間が長くなるほど回転速度の変動が生じる可能性が高くなり、その影響を受けやすくなる。その結果、転がり軸受に対する適切な状態監視が困難になる。
【0006】
上記課題を鑑み、本願発明は、回転速度が断続的に変化し得る環境下において、転がり軸受の状態監視用のデータを適切に取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。すなわち、転がり軸受の状態監視装置であって、
回転中の前記転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得手段と、
回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得手段と、
前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出手段と、
前記導出手段にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成手段と、
を有する。
【0008】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、風力発電装置であって、
状態監視装置と、転がり軸受とを備え、前記状態監視装置は、回転中の前記転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得手段と、回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得手段と、前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出手段と、前記導出手段にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成手段と、
を有する。
【0009】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、転がり軸受の状態監視方法であって、
回転中の前記転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得工程と、
回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得工程と、
前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出工程と、
前記導出工程にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成工程と、
を有する。
【0010】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、プログラムであって、
コンピュータに、
回転中の転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得工程と、
回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得工程と、
前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出工程と、
前記導出工程にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成工程と、
を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本願発明により、回転速度が断続的に変化し得る環境下において、転がり軸受の状態監視用のデータを適切に取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本願発明の一実施形態に係る装置構成の例を示す概略図。
図2】本願発明の一実施形態に係る機能構成の例を示す概略図。
図3】本願発明に係るサンプリングを説明するための概略図。
図4】本願発明の一実施形態に係る状態監視処理のフローチャート。
図5】本願発明の一実施形態に係る転がり軸受の部位ごとの周波数の計算式の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本願発明の第1の実施形態について説明を行う。
【0015】
[装置構成]
以下、本願発明に係る状態監視方法を適用可能な装置の一実施形態を説明する。なお、以下の説明では、適用例として、転がり軸受を含む風力発電装置を例にとって説明するが、風力発電装置に限定されず、それ以外の機械装置であっても同様に適用可能である。本願発明を適用可能な装置としては、転がり軸受を備え、その回転速度が比較的遅い装置や、回転数の変動が大きい装置などが該当する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る荷重推定方法を適用された風力発電装置の概略構成図である。図1に示すように、風力発電装置10は、地上に立設されたタワー11と、タワー11の上端に支持されたナセル12と、ナセル12の端部に設けられたローター13とを備えている。また、タワー11とナセル12の間には、ナセル12の向きを調整(ヨー制御)するための回動機構14が備えられる。
【0017】
ナセル12には、ドライブトレイン部21が格納されている。ドライブトレイン部21は、主軸22、増速機23、発電機24、および転がり軸受25を備える。主軸22は、増速機23を介して発電機24に接続されている。主軸22は、転がり軸受25によってナセル12内に回転可能に支持されている。この主軸22を支持する転がり軸受25、増速機23には、振動センサ27が設けられて転がり軸受25にて生じる振動を測定する。また、主軸22の回転速度を検出する回転速度センサ29が配設される。発電機24には、発電量を測定する発電量測定装置28が配設されている。
【0018】
ローター13は、ハブ31と、複数のブレード32とを有している。複数のブレード32それぞれは、ハブ31から放射状に延在されている。ローター13は、ドライブトレイン部21の主軸22の端部に設けられている。ハブ31は、複数のブレード32それぞれの向きを調整(ピッチ制御)する。
【0019】
なお、風力発電装置10は、増速機23や発電機24の回転軸も、転がり軸受25とは別個に設けられた転がり軸受(不図示)によって支持されている。また、ドライブトレイン部21には、主軸22の回転を必要に応じて停止または減速させるためのブレーキ装置(不図示)が設けられている。
【0020】
上記構造の風力発電装置10は、ローター13のブレード32が風を受けることで主軸22が回転される。すると、その主軸22の回転が増速機23によって増速されて発電機24に伝達され、発電機24によって発電される。また、ローター13のブレード32が風を受けることで、主軸22を介して転がり軸受25に対して、荷重(ラジアル荷重およびアキシアル荷重)が負荷される。なお、図1では、説明を簡略化するために1の風力発電装置10に対して、1の転がり軸受25が設けられた構成を示しているが、この構成に限定するものではなく、1の風力発電装置10において主軸22を支持するために転がり軸受25が複数設けられてもよい。
【0021】
[機能構成]
図2は、本実施形態に係る機能構成の一例を示す概略構成図である。図2には、本実施形態に係る監視対象の転がり軸受25と、監視動作を行う監視装置50の構成が示される。転がり軸受25は、主軸22を回転自在に支持する。なお、本実施形態において、転がり軸受25として、例えば、円すいころ軸受、円筒ころ軸受などに適用可能であるが、これらに限定するものではない。
【0022】
監視装置50は、図1に示した風力発電装置10内に設けられてもよいし、風力発電装置10の外部に設けられてもよい。また、図2では、説明を簡略化するために1の転がり軸受25に対して、1の監視装置50により監視する構成を示している。しかし、この構成に限定するものではなく、1の監視装置50が、複数の転がり軸受25の状態監視を行うような構成であってもよい。
【0023】
転がり軸受25は、主軸22に外嵌される回転輪である内輪40、ハウジング(不図示)に内嵌される固定輪である外輪42、内輪40及び外輪42との間に配置された複数の転動体41である複数の玉(ころ)、および転動体41を転動自在に保持する保持器43を備える。また、転がり軸受25において、所定の潤滑方式により、内輪40と転動体41の間、および、外輪42と転動体41の間の摩擦が軽減される。潤滑方式は特に限定するものではないが、例えば、グリース潤滑や油潤滑などが用いられる。また、潤滑剤の種類についても特に限定するものではない。
【0024】
主軸22の回転中に転がり軸受25から発生する振動を検出する振動センサ27が備えられる。振動センサ27は、ボルト固定、接着、ボルト固定と接着、或いはモールド材による埋め込み等によってハウジングの外輪近傍に固定されている。なお、ボルト固定の場合には、回り止め機能を備えるようにしてもよい。なお、振動センサ27は、検出位置に固定して設置される構成に限定するものではなく、状態監視時に転がり軸受25による振動を検出するための位置に設置されればよい。そのため、振動センサ27は、着脱可能もしくは移動可能な構成であってもよい。
【0025】
また、振動センサ27は、振動を検出可能なものであればよく、加速度センサ、AE(Acoustic Emission)センサ、超音波センサ、及びショックパルスセンサ等、検出される加速度、速度、歪み、応力、変位型等、振動を電気信号化できるものであればよい。また、ノイズが多いような環境に位置する風力発電装置10に取り付ける際には、絶縁型を使用する方がノイズの影響を受けることが少ないためより好ましい。さらに、振動センサ27が、圧電素子等の振動検出素子を使用する場合には、この素子をプラスチック等にモールドして構成してもよい。
【0026】
また、転がり軸受25には、主軸22に外嵌される内輪40の回転速度を検出する回転速度センサ29が設けられる。本実施形態において、回転輪である内輪40と主軸22の回転速度および回転数は一致している。主軸22の回転速度は、風力発電装置10が受ける風の向きや風量、風圧により変動し得る。更には、ブレーキ装置(不図示)により、回転速度は調整され得る。回転速度センサ29は、例えば、転がり軸受25の内輪40に設けられたエンコーダ(不図示)を検出することで、その回転速度を検出してよい。本実施形態に係る風力発電装置10などは、比較的低速の回転速度にて回転が行われる。そのため、回転速度センサ29は、転がり軸受25が1回転する間の回転速度の変化も検出可能なように構成される。なお、振動センサ27や回転速度センサ29は、指定されたタイミング(例えば、監視時間帯)のみ検出動作を行うような構成であってもよいし、常時検出動作を行うような構成であってもよい。
【0027】
増幅器44は、振動センサ27にて検出された電気信号を増幅して監視装置50へ入力する。ここでの増幅の程度は特に限定されるものではないが、予め規定される。なお、振動センサ27と回転速度センサ29の検出タイミングは対応し、その検出情報は対応付けて処理される。
【0028】
監視装置50は、例えば、不図示の制御装置、記憶装置、および入出力装置を含んで構成される情報処理装置にて実現されてよい。制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Single Processor)、または専用回路などから構成されてよい。記憶装置は、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の揮発性および不揮発性の記憶媒体により構成され、制御装置からの指示により各種情報の入出力が可能である。入出力装置は、制御装置からの指示により、外部装置や作業者への通知を行う。入出力装置による出力方法は特に限定するものではないが、例えば、音声による聴覚的な通知であってもよいし、画面出力による視覚的な通知であってもよい。また、入出力装置は、通信機能を備えたネットワークインターフェースであってもよく、ネットワーク(不図示)を介した外部装置(不図示)とのデータの送受信により各種入出力動作を行ってもよい。
【0029】
監視装置50は、A/D変換部51、サンプリング処理部52、振動信号処理部53、および監視処理部54を含んで構成される。各部位は、上述した制御装置が対応するプログラムを記憶装置から読み出して実行することで実現してもよい。更には、制御装置が入出力装置を制御することで各種機能を実現してよい。
【0030】
A/D変換部51は、振動センサ27にて検出された電気信号を振動情報として、増幅器44を介して取得し、その電気信号の内容に応じて、A/D(Analog/Digital)変換を行う。
【0031】
サンプリング処理部52は、A/D変換部51にて処理された振動信号から後段の振動信号処理部53、および監視処理部54の処理に用いられるデータを、回転速度センサ29にて検出された回転速度に基づいてサンプリングする。ここでのサンプリングの方法については後述する。サンプリングしたデータは、振動信号処理部53へ出力される。
【0032】
振動信号処理部53は、サンプリング処理部52にてサンプリングされたデータを用いて、信号解析処理を行う。信号解析処理においてはFFT(Fast Fourier Transform)解析した上で、次数比分析を行う。エンベロープ処理、あるいはローパスフィルタやバンドパスフィルタなどを用いたフィルタ処理を行い信号解析処理を行ってもよい。監視処理部54は、振動信号処理部53にて処理されたデータを用いて、転がり軸受25の状態を診断し、その診断結果を出力する。例えば、振動信号処理部53にて処理されたデータの一部を抽出し、そのデータを用いて状態の診断を行ってもよい。監視処理部54にて行われる状態監視の診断項目は特に限定するものでは無いが、例えば、転がり軸受25を構成する各部位の異常接触、潤滑不良、部位の損傷や劣化など任意の診断項目が対象となってよい。
【0033】
なお、監視処理部54の監視結果は、ネットワーク(不図示)を介して外部に報知されてもよいし、風力発電装置10の動作を制御してもよい。ここでの風力発電装置10の動作の制御としては、例えば、回動機構14を制御してナセル12の向きを調整(ヨー制御)してもよいし、ハブ31を制御して複数のブレード32それぞれの向きを調整(ピッチ制御)してもよい。また、ブレーキ機構(不図示)により、主軸22の回転速度が所定の速度となるように制御してよい。
【0034】
[サンプリング処理]
本実施形態において、転がり軸受25は風などの外因により、その回転速度が断続的に変動し得る。回転速度が変動した場合には、転がり軸受25の部位ごとの振動の周波数は変動してしまい、判定基準となる周波数が定まらないので、その後の監視動作や診断動作の精度に影響を与えてしまう。また、風力発電装置などでは、回転速度が比較的遅いため、1回転する間にも回転速度が変動する可能性が高い。
【0035】
図3は、本実施形態に係るデータのサンプリングを説明するための概略図である。図3において、縦軸を振動とし、横軸を時間とする。振動は、A/D変換部51にて変換された電気信号の値に対応する。
【0036】
図3では、2つの区間を例として挙げる。第1の区間は転がり軸受25の回転速度が相対的に第2の区間よりも遅い例を示す。つまり、転がり軸受25の回転速度が変動している。図3に示すように、第1の区間と第2の区間とでは、サンプリングのタイミングが異なる。これは、1回転当たりのサンプリングの回数(データ数)が同じになるように、回転速度に応じてサンプリング周期を変更している。図3のグラフ中に示した〇は、サンプリングされるデータの位置を示す。
【0037】
なお、図3の例では、第1の区間における1回転の後に、回転速度が変化し、第2の区間における1回転が行われる例を示した。実際には、1回転の途中にて回転速度が変動し得るため、1回転の途中でもサンプリングのタイミングは変動し得る。
【0038】
[処理フロー]
図4は、本実施形態に係るサンプリング処理のフローチャートである。本処理は、監視装置50により実行され、例えば、監視装置50が備える制御装置(不図示)が図1に示した各部位を実現するためのプログラムを記憶装置から読み出して実行することにより実現されてよい。
【0039】
S401にて、監視装置50は、振動センサ27にて検出された振動情報を取得する。この様に、回転中の前記転がり軸受の振動情報(または、音情報)を取得する手段を、第1の取得手段とする。また、回転中の前記転がり軸受の振動情報(または、音情報)を取得する工程を、第1の取得工程とする。
【0040】
S402にて、監視装置50は、回転速度センサ29にて検出された回転速度を取得する。この様に、回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する手段を、第2の取得手段とする。また、回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する工程を、第2の取得工程とする。S401にて取得される振動情報とS402にて取得される回転速度とは、検出タイミングが対応付けられている。
【0041】
S403にて、監視装置50は、図4のS402の処理にて回転速度センサ29を用いて取得された回転速度に基づいて、サンプリングのタイミングを導出する。上述したように、転がり軸受25の1回転当たりのサンプリングの回数は規定されており、回転速度に応じてデータをサンプリングするタイミングが変動する。ここでは、そのサンプリングのタイミングを導出する。より具体的には、回転速度に同期したサンプリングクロックを用いて、1回転当たりのサンプリング数が一定となるように導出される。導出方法は、予め規定された計算式を用いて導出してもよいし、回転速度とサンプリングのタイミング(時間間隔など)が対応付けられたテーブルなどを用いて導出してもよい。この様に、転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、回転速度に応じて振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する手段を、導出手段とする。また、転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する工程を、導出工程とする。
【0042】
S404にて、監視装置50は、S403にて導出したタイミングに応じて、S401にて振動センサ27により検出された電気信号を増幅器44にて増幅して監視装置50へ入力することにより取得した振動情報からデータをサンプリングする。この様に、導出手段にて導出されたタイミングに基づいて、振動情報(または音情報)からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する手段を、生成手段とする。また、導出工程にて導出されたタイミングに基づいて、振動情報(または音情報)からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する工程を、生成工程とする。
【0043】
S405にて、監視装置50は、S404にてサンプリングされたデータに対して信号解析処理を行う。ここでの解析処理は、例えば、振動情報をFFT(Fast Fourier Transform)解析した上で、次数比分析を行ってよい。サンプリングデータにエンベロープ解析処理やフィルタ処理を施してもよく、後段の監視処理に応じてその内容は変更されてよい。
【0044】
S406にて、監視装置50は、S405による解析処理の結果を用いて、転がり軸受25の状態の監視を行う。ここでの監視項目は特に限定するものでは無いが、例えば、転がり軸受25を構成する各部位の異常接触、潤滑不良、部位の損傷や劣化など任意の診断項目が対象となってよい。また、監視項目について、例えば、図5に示す関係式を用いて、転がり軸受25の部位ごとの周波数を計算し、その周波数におけるデータが、予め定めた閾値を超えた場合に異常が生じたと判定してもよいし、予め定めた閾値以下である場合に異常がないと判定してもよい。
【0045】
S407にて、監視装置50は、S406による状態監視処理の結果に基づき、報知処理を行う。ここでは、異常が生じたと判定した場合に報知を行ってもよいし、異常がないと判定した場合でも報知を行うような構成であってもよい。また、報知方法は特に限定するものでは無く、異常の有無に応じて報知方法を切り替えてもよい。そして、本処理フローを終了する。
【0046】
以上、本実施形態により、回転速度が断続的に変化し得る環境下において、転がり軸受の状態監視用のデータを適切に取得することが可能となる。また、転がり軸受の回転速度が比較的遅いため、データの取得時間が長くなったとしても、その間の回転速度の変動の影響を抑制して監視用のデータを適切に抽出することができる。
【0047】
<その他の実施形態>
なお、上記の実施形態では、振動センサ27を用いて転がり軸受25の振動を検出する構成を示したが、これに限定するものではない。振動センサ27に代えてマイクを含む音センサを用いて音情報を検出してもよい。この場合、音情報を対象として上述したデータのサンプリング処理を行う。
【0048】
また、本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0049】
また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array))によって実現してもよい。
【0050】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0051】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 転がり軸受の状態監視装置であって、
回転中の前記転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得手段と、
回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得手段と、
前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出手段と、
前記導出手段にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成手段と、
有することを特徴とする状態監視装置。
この構成によれば、回転速度が断続的に変化し得る環境下において、転がり軸受の状態監視用のデータを適切に取得することが可能となる。また、それによって、例えば、転がり軸受25を構成する各部位の異常接触、潤滑不良、部位の損傷や劣化など任意の診断項目を対象とした転がり軸受の異常診断を正確に行うことができる。
【0052】
(2) 前記生成手段は、前記振動情報または音情報からサンプリングされたデータに対して次数比分析を行うことで、前記監視用のデータを生成することを特徴とする(1)に記載の状態監視装置。
この構成によれば、回転速度に応じてサンプリングされたデータを用いて実右飛分析を行うことで、より精度の高い監視を行うための監視用のデータを生成することが可能となる。
【0053】
(3) 前記生成手段は更に、前記監視用のデータに対し、エンベロープ解析処理またはフィルタ処理を行うことを特徴とする(2)に記載の状態監視装置。
この構成によれば、監視用のデータとして、エンペローブ解析処理やフィルタ処理を適用したデータを生成することができる。
【0054】
(4) 前記生成手段にて生成された監視用のデータを用いて、前記転がり軸受の状態を診断する診断手段を更に有することを特徴とする(2)または(3)に記載の状態監視装置。
この構成によれば、回転速度に応じてサンプリングされたデータを用いてより精度の高い状態診断を行うことが可能となる。
【0055】
(5) (1)~(4)のいずれかに記載の状態監視装置と、
転がり軸受と
を備える風力発電装置。
この構成によれば、風力発電装置において、回転速度が断続的に変化する場合でも、転がり軸受の状態監視用のデータを適切に取得することが可能となる。
【0056】
(6) 転がり軸受の状態監視方法であって、
回転中の前記転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得工程と、
回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得工程と、
前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出工程と、
前記導出工程にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成工程と、
を有することを特徴とする状態監視方法。
この構成によれば、回転速度が断続的に変化し得る環境下において、転がり軸受の状態監視用のデータを適切に取得することが可能となる。
【0057】
(7) コンピュータに、
回転中の転がり軸受の振動情報または音情報を取得する第1の取得工程と、
回転中の前記転がり軸受の回転速度を取得する第2の取得工程と、
前記転がり軸受の1回転当たりのサンプリング数が所定の値となるように、前記回転速度に応じて前記振動情報または音情報からデータをサンプリングするタイミングを導出する導出工程と、
前記導出工程にて導出されたタイミングに基づいて、前記振動情報または音情報からデータをサンプリングして監視用のデータを生成する生成工程と、
を実行させるためのプログラム。
この構成によれば、回転速度が断続的に変化し得る環境下において、転がり軸受の状態監視用のデータを適切に取得することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
10…風力発電装置
11…タワー
12…ナセル
13…ローター
14…回動機構
21…ドライブトレイン部
22…主軸
23…増速機
24…発電機
25…転がり軸受
27…振動センサ
28…発電量測定装置
29…回転速度センサ
31…ハブ
32…ブレード
40…内輪
41…転動体
42…外輪
43…保持器
44…増幅器
50…監視装置
51…A/D変換部
52…サンプリング処理部
53…振動信号処理部
54…監視処理部
図1
図2
図3
図4
図5