(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095815
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】エネルギー吸収用成形品
(51)【国際特許分類】
F16F 7/12 20060101AFI20230629BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20230629BHJP
B60R 19/03 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
F16F7/12
F16F7/00 B
F16F7/00 J
B60R19/03 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022203109
(22)【出願日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2021211154
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598059675
【氏名又は名称】株式会社ヴイテック
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】田子 剛志
(72)【発明者】
【氏名】日比 利信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】松岡 英夫
(72)【発明者】
【氏名】多賀 公顕
(72)【発明者】
【氏名】田島 悠一郎
【テーマコード(参考)】
3J066
【Fターム(参考)】
3J066AA01
3J066AA23
3J066BA03
3J066BC01
3J066BD05
3J066BF01
(57)【要約】
【課題】衝撃エネルギー吸収時に高荷重が発現し、かつ、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に優れたエネルギー吸収用成形品を提供する。
【解決手段】1次樹脂により複数の筒状空洞が形成された成形品の前記複数の筒状空洞の一部が2次樹脂で埋められていることを特徴とするエネルギー吸収用成形品。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次樹脂により複数の筒状空洞が形成された成形品の前記複数の筒状空洞の一部が2次樹脂で埋められていることを特徴とするエネルギー吸収用成形品。
【請求項2】
前記2次樹脂で埋められた筒状空洞の断面積が全筒状空洞の断面積の75%以下である、請求項1に記載のエネルギー吸収用成形品。
【請求項3】
筒状空洞に埋められた前記2次樹脂の高さが筒状空洞の高さの80%以上である、請求項1に記載のエネルギー吸収用成形品。
【請求項4】
前記複数の筒状空洞が、格子状またはハニカム状に形成されたリブを有する成形品のリブ間の空洞として形成されている、請求項1に記載のエネルギー吸収用成形品。
【請求項5】
前記複数の筒状空洞が形成された成形品が前記1次樹脂の射出成形により成形されている、請求項1に記載のエネルギー吸収用成形品。
【請求項6】
前記1次樹脂と2次樹脂が同種の樹脂からなる、請求項1に記載のエネルギー吸収用成形品。
【請求項7】
前記2次樹脂が射出成形されている、請求項1に記載のエネルギー吸収用成形品。
【請求項8】
前記2次樹脂が熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなる、請求項1に記載のエネルギー吸収用成形品。
【請求項9】
中空閉断面を有する部材の該中空閉断面に内挿されて使用される、請求項1に記載のエネルギー吸収用成形品。
【請求項10】
車両用部材に装着される、請求項1~9のいずれかに記載のエネルギー吸収用成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー吸収用成形品に関し、とくに、衝撃エネルギー吸収時に高荷重が発現し、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に優れた車両用部材として好適なエネルギー吸収用成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車体フレーム構造体では、衝突時の安全性を高めることを目的にフレームの板厚を増したり、フレーム断面内に補強用の板材(レインフォースメント)を配設することにより、フレームの強度および剛性を高めるとともに衝撃エネルギー吸収性の向上を図ることが知られている。
【0003】
一方、燃費性能や操縦応答性の向上の観点から、より一層の軽量化が望まれており、上記のような従来のフレーム構造体では、かなりの重量増加を招くことになり、燃費性能の維持や向上と衝突安全性の向上とを両立して達成することは困難である。
【0004】
そこでこのような不都合に対処し得る衝撃吸収体が提案されている。例えば特許文献1には、さまざまな衝撃を緩和するための衝撃吸収体に関し、特に、中空部を有する構造体の中空部に、粘性もしくは粘弾性を有する材料を充填した衝撃吸収体が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、衝撃の吸収や緩和を必要とする部分に適用することができる樹脂製衝撃吸収部材に関し、特に、曲げ弾性率の異なる樹脂を筒状体の中空部に充填した衝撃吸収体が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、車体のシャーシーフレームやピラー等に適用可能な中空充填補強構造体及びこれを形成する中空充填補強方法に関するもので、特に、単位重量当たりの衝撃吸収エネルギーを大きくして緩衝吸収特性を高めることができる中空充填補強構造体及び構造体補強方法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献4には、エネルギー吸収用成形品に関し、特に、中空閉断面を有する金属製部材の内部に樹脂製内挿部品を配置した車両用構造体として好適なエネルギー吸収用成形品が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの従来技術では、衝撃エネルギーの吸収性能については大きく向上するが、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率については、未だ課題が存在することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-349361号公報
【特許文献2】特開平11-351301号公報
【特許文献3】特開2002-36413号公報
【特許文献4】国際公開第2019/181434号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における問題点に着目し、特に衝撃エネルギー吸収時に高荷重が発現し、かつ、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に優れたエネルギー吸収用成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るエネルギー吸収用成形品は、1次樹脂により複数の筒状空洞が形成された成形品の前記複数の筒状空洞の一部が2次樹脂で埋められていることを特徴とするものからなる。
【0012】
このような本発明に係るエネルギー吸収用成形品においては、1次樹脂により形成された複数の筒状空洞を有する成形品の一部の筒状空洞が2次樹脂で埋められていることにより、外部荷重、例えば衝撃荷重によってエネルギー吸収用成形品が変形される際、2次樹脂で埋められていることにより、衝撃エネルギー吸収時に高荷重が発現し、優れた衝撃エネルギーの吸収性能を実現することが可能になる。
【0013】
上記本発明に係るエネルギー吸収用成形品においては、上記2次樹脂で埋められた筒状空洞の断面積が全筒状空洞の断面積の75%以下であることが好ましい。全ての筒状空洞を2次樹脂で埋めしまうと、重量が大きくなり、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率が低下するため、特定の範囲内で筒状空洞を2次樹脂で埋めることでエネルギー吸収効率が向上し、優れた衝撃エネルギーの吸収性能を実現することが可能になる。
【0014】
また、上記本発明に係るエネルギー吸収用成形品においては、筒状空洞に埋められた上記2次樹脂の高さが筒状空洞の高さの80%以上であることが好ましい。高さの80%以上であることで、衝撃エネルギー吸収時に高荷重が発現可能となる。
【0015】
また、上記本発明に係るエネルギー吸収用成形品においては、上記複数の筒状空洞が、格子状またはハニカム状に形成されたリブを有する成形品のリブ間の空洞として形成されている筒状空洞であることが好ましい。格子状やハニカム状に形成されたリブは外部荷重に対して高い抗力を発揮できるので、このようなリブを有することにより、1次樹脂成形品自体、ひいてはエネルギー吸収用成形品として、高い強度の発現が可能になる。
【0016】
また、上記本発明に係るエネルギー吸収用成形品においては、上記複数の筒状空洞が形成された成形品が上記1次樹脂の射出成形により成形されていることが好ましい。射出成形されることにより、エネルギー吸収用成形品としての高い強度の発現や量産性の向上などが可能となる。
【0017】
また、上記本発明に係るエネルギー吸収用成形品においては、上記1次樹脂と2次樹脂が同種の樹脂からなることが好ましい。同種の樹脂からなることで、接着、溶着、接合が容易となり、エネルギー吸収用成形品としての高い強度の発現が可能となる。
【0018】
また、上記本発明に係るエネルギー吸収用成形品においては、上記2次樹脂が射出成形されていることが好ましい。2次樹脂が射出成形されることで、エネルギー吸収用成形品としての高い強度の発現や量産性の向上などが可能となる。また、2次樹脂の所望の形態への充填が容易になる。
【0019】
また、上記本発明に係るエネルギー吸収用成形品においては、上記2次樹脂が熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなることが好ましい。2次樹脂が熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなることで、エネルギー吸収用成形品としての高い強度の発現や量産性の向上などが可能となる。また、2次樹脂の所望の形態への射出成形が容易になる。
【0020】
また、上記本発明に係るエネルギー吸収用成形品においては、中空閉断面を有する部材の該中空閉断面に内挿されて使用されることが好ましい。中空閉断面を有する部材の内部に、本発明に係るエネルギー吸収用成形品を内挿することにより、外部荷重、例えば衝撃荷重によって変形される際、部材が変形するのに追随して内部の成形品も変形することになり、部材と樹脂製の内挿成形品の両方が共働して外部荷重を受け持つことになるので、衝撃エネルギー吸収時に高荷重が発現し、優れた衝撃エネルギーの吸収性能を実現することが可能になる。
【0021】
このような本発明に係るエネルギー吸収用成形品は、優れた衝撃エネルギーの吸収性能が要求される車両用のエネルギー吸収部材に適用してとくに有用なものである。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明に係るエネルギー吸収用成形品によれば、1次樹脂により形成された複数の筒状空洞を有する成形品の一部の筒状空洞が2次樹脂で埋められていることにより、外部荷重、例えば衝撃荷重によってエネルギー吸収用成形品が変形される際、2次樹脂で埋められていることにより、衝撃エネルギー吸収時に高荷重が発現し、かつ、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に優れた性能を発現させることができる。特に本発明に係るエネルギー吸収用成形品は、車両用のエネルギー吸収部材に適用して極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施態様に係るエネルギー吸収用成形品の構成を示す透視斜視図である。
【
図2】
図2(A)は1次樹脂により複数の筒状空洞が形成された成形品の一例を示す透視斜視図、
図2(B)は
図2(A)の断面(A)、(B)における縦断面図、
図2(C)は
図2(A)の断面(C)における横断面図である。
【
図3】
図3(A)は本発明の一実施態様に係るエネルギー吸収用成形品の透視斜視図、
図3(B)は
図3(A)の断面(A)、(B)における縦断面図、
図3(C)は
図3(A)の断面(C)における横断面図である。
【
図4】
図4(A)は1次樹脂により複数の筒状空洞が形成された成形品の別の例を示す透視斜視図、
図4(B)は
図4(A)の断面における横断面図である。
【
図5】本発明のエネルギー吸収用成形品における、2次樹脂で埋められた筒状空洞の断面積の各種割合例を示す横断面図である。
【
図6】本発明のエネルギー吸収用成形品における、筒状空洞に埋められた2次樹脂の高さの筒状空洞の高さに対する割合を示す透視斜視図と縦断面図である。
【
図7】本発明のエネルギー吸収用成形品の中空閉断面を有する部材の該中空閉断面に内挿されて使用される一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図8】本発明のエネルギー吸収用成形品における外部荷重の方向例を示す透視斜視図である。
【
図9】本発明のエネルギー吸収用成形品における、2次樹脂の各種充填パターン例を示す横断面図である。
【
図10】本発明のエネルギー吸収用成形品における、2次樹脂の各種充填パターン例を示す横断面図である。
【
図11】実施例6、7におけるエネルギー吸収用成形品の縦断面図と透視斜視図である。
【
図12】本発明のエネルギー吸収用成形品の圧縮試験の実施形態を示す透視斜視図である。
【
図13】本発明のエネルギー吸収用成形品の落錘衝撃試験の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図14】本発明の実施例1、比較例1におけるエネルギー吸収用成形品の荷重―変異曲線を示すグラフである。
【
図15】本発明の実施例20、比較例5におけるに係るエネルギー吸収用成形品の荷重―変異曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明に係るエネルギー吸収用成形品では、例えば
図1~
図3に示すように、本発明の一実施態様に係るエネルギー吸収用成形品1は、1次樹脂により複数の筒状空洞3が形成された成形品2の複数の筒状空洞3の一部が2次樹脂4で埋められることにより構成されている。
【0025】
本発明において1次樹脂により複数の筒状空洞が形成された成形品2は、1次樹脂としての熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂で形成された成形品であり、たとえば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、グアナミン樹脂、ビスマレイド・トリアジン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリジアリルフタレート樹脂、さらにメラニン樹脂やユリア樹脂やアミノ樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0026】
また、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂やアクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂、ポリアルキレンオキサイド樹脂等が挙げられる。
【0027】
さらには、本発明における1次樹脂として、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム等のゴムを用いることもできる。さらには、上記の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴムから選ばれた複数をブレンドした樹脂を用いることもできる。中でも好ましい樹脂として、物性、成形性の観点からエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0028】
本発明において1次樹脂により複数の筒状空洞が形成された成形品の筒状空洞としては、横断面形状が四角形断面(正方形、長方形、台形、菱形)、円形断面、楕円断面、四角形以外の多角形(三角形、五角形、六角形(ハニカム))断面を有する筒状空洞が挙げられ、複数の筒状空洞は、好ましくは格子状またはハニカム形状に配列される。また、筒状空洞の両端は開放されていても片端が閉鎖されていてもよい。
【0029】
例えば、
図2に示す複数の筒状空洞3が形成された成形品2の例では、横断面形状が正方形の筒状空洞3が縦横に複数配列されており、
図2(A)、(B)における上面側が閉鎖されており、下面側が開放された形態が示されている。
【0030】
本発明における1次樹脂により複数の筒状空洞3が形成された成形品2は、外部荷重方向(例えば、衝撃荷重方向)に対して格子状またはハニカム形状に形成されたリブを有していることが好ましい。
図2に格子状のリブ5を例示し、
図4にハニカム形状に形成されたリブ6を例示する。
図4に示された成形品7では、ハニカム形状に形成されたリブ6により横断面六角形状の複数の筒状空洞8が形成されている。格子状、ハニカム形状に形成されたリブは外部荷重に対して高い抗力を発揮できるので、エネルギー吸収用成形品がこのようなリブを有することにより、衝撃エネルギー吸収時に高荷重が発現し、かつ、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に優れた性能を発現させることが可能となる。
【0031】
本発明において複数の筒状空洞の一部が2次樹脂で埋められているとは、複数個の筒状空洞の一部の個数の筒状空洞が2次樹脂で埋められていることを意味し、筒状空洞の形状に形成された2次樹脂成形品を筒状空洞に挿入しても、溶融した2次樹脂を筒状空洞に注入してもよい。エネルギー吸収用成形品1をより容易にかつ効率よく製造するためには、溶融した2次樹脂を注入、とくに射出成形することが好ましい。
【0032】
本発明において2次樹脂4で埋められた筒状空洞3の断面の状態は、1次樹脂成形品2の一部の筒状空洞3の断面に2次樹脂が埋められていれば特に制限されるものではない。例えば、
図5に格子状のリブにより複数の筒状空洞3が形成された1次樹脂成形品2について例を示すように、複数の筒状空洞3に筒状空洞3の全断面積に対して2次樹脂4が埋められている断面積の割合で75%以下が好ましい。これより多く2次樹脂で埋められても、衝撃エネルギー吸収時に高荷重は発現するが、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率は低下し好ましくない。
【0033】
また、本発明において筒状空洞に埋められた2次樹脂の高さの状態は、1次樹脂成形品の筒状空洞の断面に2次樹脂が埋められていれば特に制限されるものではない。例えば、
図6に示すように、筒状空洞3の高さに対して2次樹脂4が埋められている高さの割合としては80%以上が好ましく、特に好ましくは90%以上である。とくに、2次樹脂4の高さが筒状空洞3の高さの80%以上であると、さらには90%以上であると、筒状空洞3の内面がより多く2次樹脂の外面と密着できるので、衝撃エネルギー吸収時の荷重値も高くなるため、好ましい。また、高さが80%未満になると、衝撃エネルギー吸収時の荷重値が低くなり好ましくない。
【0034】
本発明において1次樹脂により複数の筒状空洞が形成された成形品は、例えば、樹脂材料を成形、後加工することにより作製される。成形方法としては、金型を用いた成形方法が好ましく、射出成形、押出成形、プレス成形など、種々の成形方法を用い、必要に応じて切削等の後加工をすることができる。特に射出成形機を用いた成形方法が連続的に後加工の少ない成形品を得ることができ好ましい。射出成形の条件としては、特に規定はないが、例えば、射出時間:0.5秒~10秒、背圧:0.1MPa~10MPa、保圧力:1MPa~50MPa、保圧時間:1秒~20秒、シリンダー温度:200℃~340℃、金型温度:20℃~150℃の条件が好ましい。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。これらの条件、特に射出時間、射出圧(背圧と保圧力)および金型温度を適宜選択することにより、成形品の外観、ヒケ、ソリなどを適宜調整することが可能である。
【0035】
本発明において1次樹脂と2次樹脂は、特に制限されるものではないが、同種の樹脂からなることが好ましい。同種の樹脂からなることで1次樹脂と2次樹脂が接着、溶着しやすくなり、衝撃エネルギー吸収時の荷重値も高くなるため、好ましい。ここで同種の樹脂とは、例えば、1次樹脂にポリアミド樹脂成分が含まれていれば、2次樹脂にもポリアミド樹脂成分が含まれていることが好ましいと言うことであり、同じ組成物に限定するものではない。
【0036】
本発明において筒状空洞に埋められる2次樹脂は、射出成形により注入されていることが好ましい。射出成形により溶融した2次樹脂を筒状空洞に注入することにより、1次樹脂と2次樹脂が溶着しやすくなり、衝撃エネルギー吸収時の荷重値も高くなるため、好ましい。2次樹脂を射出成形する方法としては、特に制限されるものではないが、1次樹脂成形品を別金型にインサートして、2次樹脂を射出成形にて注入する方法や金型反転動作する2ピストン型型締機構を搭載した射出成形機を用いて連続的に1次樹脂成形品、続いて金型反転して2次樹脂を注入する方法などを行うことができる。後者の連続的に行う方法が生産性、量産性に優れ特に好ましい。
【0037】
本発明において2次樹脂は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂組成物からなることにより、射出成形等の加工方法が選択でき、生産性、量産性に優れるため、好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂やアクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂、ポリアルキレンオキサイド樹脂等を好ましく挙げることができる。
【0038】
前記熱可塑性樹脂の中でも、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂が好ましく用いられる。ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂は強度と伸び、とくに引張強度と引張伸びのバランスに優れているためより好ましい。
【0039】
また、本発明において熱可塑性樹脂組成物は、これら熱可塑性樹脂2種以上を混合しアロイ化(混合物化)したものや、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、熱可塑性樹脂にその他の成分を配合しても構わない。その他の成分としては、例えば、充填材および各種添加剤類を挙げることができる。充填材としては、例えば、有機充填材、無機充填材のいずれを用いてもよく、繊維状充填材、非繊維状充填材のいずれを用いてもよい。繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、PAN(ポリアクリロニトリル)系またはピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化珪素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカー、窒化珪素ウィスカーなどの繊維状またはウィスカー状充填材が挙げられる。繊維状充填材としては、ガラス繊維や、炭素繊維が特に好ましい。また、各種添加剤類としては、例えば、着色防止剤、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミンなどの酸化防止剤、離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などが挙げられる。
【0040】
本発明において熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、生産性の観点から、溶融状態での製造が好ましく使用できる。溶融状態での製造については、押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールによる溶融混練等が使用でき、生産性の点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましく使用できる。押出機としては、単軸押出機、二軸押出機等が挙げられる。これらの押出機を複数組み合わせてもよい。混練性、反応性、生産性の向上の点から、二軸押出機が好ましい。
【0041】
本発明に係るエネルギー吸収用成形品においては、例えば
図7に格子状のリブにより複数の筒状空洞が形成された場合のエネルギー吸収用成形品1について例示するように、中空閉断面11を有する部材10の該中空閉断面11に内挿されて使用されることが、衝撃エネルギー吸収時に高荷重が発現して好ましい。中空閉断面を有する部材に内挿とは、中空閉断面を有する部材(例えば、中空閉断面を有する金属製部材)の中空内部に本発明に係るエネルギー吸収用成形品が配置できれば特に制限されるものではない。例えば、中空閉断面の形状としては、四角形断面(正方形、長方形、台形、菱形)、円形断面、楕円断面、四角形以外の多角形(三角形、五角形、六角形)を好ましく挙げることができる。また、閉断面の構成として、単一の閉断面(セル)で構成されるものの他、複数の閉断面(セル)から構成されるものを好ましく挙げることができる。
【0042】
本発明における中空閉断面を有する部材としては、金属材料からなる金属製部材を挙げることができ、その代表例として、アルミニウム合金、スチール、チタニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、ニッケル合金、コバルト合金、ジルコニウム合金、亜鉛、鉛、錫およびそれらの合金を好ましく挙げることができる。特に、本発明に係るエネルギー吸収用成形品が車両用部材に装着されて用いられる場合には、その車両用部材の金属材料としては軽量で比較的安価な材料、例えばアルミニウム合金からなることが好ましい。
【0043】
本発明においてエネルギー吸収用成形品の挿入方向は、例えば金属製部材としての形材の中空閉断面構造内部に配置できれば特に制限されるものではないが、成形品が外部荷重方向(例えば、衝撃荷重方向)と交差する方向に広がる成形面を有することが好ましい。
図7に示した例では、エネルギー吸収用成形品1の天面12が外部荷重方向と交差する方向に広がる成形面として形成されている。前述したように、このような方向に広がる成形面を有することにより、金属製部材を介して伝達されてくる外部荷重を、成形面を介してより効率よく受け持つことができるようになる。つまり、受け持つことが可能な衝突荷重等の荷重値が高くなる。外部荷重方向と交差する方向としては、成形品で外部荷重をより効率よく受け持つという面から、外部荷重方向に対し垂直の方向、あるいはそれに近い方向であることが好ましい。
【0044】
上記においては、外部荷重(例えば、衝撃荷重)がエネルギー吸収用成形品1の天面12側から入力される場合について説明したが、
図8に示すように、外部荷重は、天面12とは反対側、つまり、筒状空洞の開口部13側から入力されてもよく、その場合にあっても、天面12側から入力される場合と同等の作用、効果を得ることが可能である。
【0045】
本発明において車両用部材としては、長尺の部品(断面寸法に対して長手方向の寸法が大きい部材)であって、その横手方向(長手方向と角度を有する方向)から入力する衝撃荷重を受荷する部品が好ましく、当該部品は、当該部品そのものが負荷された衝撃エネルギーを吸収したり、当該部品から他の構造部品へ、負荷された衝撃荷重を時間的な変化を伴って伝達する機能を有することから、例えば、自動車のバンパービーム、サイドシルと併設される部材等が好ましく挙げられる。
【実施例0046】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。まず、本実施例で用いた材料と各種特性の評価方法について説明する。
【0047】
(1)1次、2次樹脂材料
・PC/PBT:ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂のアロイ材、グレード名「8207X01B」(東レ株式会社製)
・PA:高衝撃ポリアミド樹脂、グレード名「S133」(東レ株式会社製)
・PA/GF:ガラス繊維強化ポリアミド樹脂、グレード名「CM1011G45」(東レ株式会社製)
【0048】
(2)1次樹脂成形品
上記樹脂材料を射出成形により、
図2記載の成形品を作製した。PC/PBT系は、シリンダー温度:270℃、金型温度:80℃、PA系は、シリンダー温度:260℃、金型温度:80℃で実施した。
【0049】
(3)2次樹脂の圧入
上記樹脂材料を射出成形により、80mm×80mm×厚み10mmの板を作製し、切削加工により、筒状空洞に挿入可能な成形品を作製し、1次樹脂成形品の筒状空洞部に圧入して、
図3、
図9(case0~case6を図示)、
図10(case7~case8を図示)記載の成形品を作製した。
【0050】
(4)2次樹脂の射出注入
金型反転動作する2ピストン型型締機構を搭載した射出成形機を用いて片方のシリンダーより上記樹脂材料の1次樹脂を用い
図2記載の成形品を作製し、続いて金型を反転させもう一方のシリンダーより2次樹脂を射出注入することにより、
図3、
図9記載の成形品を作製した。
【0051】
(5)中空閉断面を有する部材である金属製部材としての形材
アルミニウム合金角パイプ:外形:高さ35mm×幅70mm×長さ300mm、肉厚:2mm、材質:A6063-T5
【0052】
(6)圧縮試験の評価
図12に示すように、得られたエネルギー吸収用成形品1の1次樹脂の成形面を天面にして(上側にして)定盤21上に固定し、平板圧子22で歪み速度50mm/minの条件で圧縮試験を行い、荷重と変位量(荷重―変位曲線)を測定し、変形初期の立ち上がり最大荷重(kN)と10mm変形時のエネルギー吸収(EA)量(J)を求めた。
【0053】
また、上記10mm変形時EA量(J)をエネルギー吸収用成形品の10mm変形時の体積から算出した重量(g)で割りEA効率(J/g)を求め、EA効率(J/g)のcase0、7品(比較例1、3、4)(
図9、10に図示)に対する向上割合をEA効率の向上率(%)として算出した。EA効率を算出する際に使用するcase0、7品は、1次樹脂の材料種類が等しいものの値を使用した。
【0054】
(7)落錘衝撃試験の評価
図13に示すように、エネルギー吸収用成形品1の1次樹脂の成形面を天面にして(上側にして)、中空閉断面を有する部材である金属製部材31としてのアルミニウム角パイプ内に挿入し、ストライカー32(先端の丸み:R=20mm)で落錘重さ250kg、落錘高さ1mの条件で落錘衝撃試験を行い、荷重と変位量(荷重-変位曲線)を測定し、変形初期の立ち上がり最大荷重(kN)と最大変位量(mm)を求めた。
【0055】
(実施例1)
2次樹脂を圧入したPC/PBT製エネルギー吸収用成形品の構成、該成形品を圧縮試験した評価結果を表1、
図14に示した。
【0056】
(比較例1)
2次樹脂を圧入していないPC/PBT製エネルギー吸収用成形品の構成、該成形品を圧縮試験した評価結果を表1、
図14に示した。
【0057】
(実施例2~5、比較例2)
2次樹脂の圧入パターンを変えたPC/PBT製エネルギー吸収用成形品の構成、該成形品を圧縮試験した評価結果をまとめて表1に示した。
【0058】
(実施例6、7)
2次樹脂の高さを変えた(
図11に図示)PC/PBT製エネルギー吸収用成形品の構成、該成形品を圧縮試験した評価結果をまとめて表1に示した。
【0059】
(実施例8~11、比較例1、3)
2次樹脂の材料種類を変えたPC/PBT製およびPA製エネルギー吸収用成形品の構成、該成形品を圧縮試験した評価結果をまとめて表2に示した。
【0060】
(実施例12~16)
2次樹脂を射出注入したPC/PBT製およびPA製エネルギー吸収用成形の構成、該成形品を圧縮試験した評価結果をまとめて表3に示した。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
表1に示すように、本発明で規定した要件を満たす実施例に係るエネルギー吸収用成形品では、EA効率の向上率が高く、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に優れ、更に高い最大荷重を発現してエネルギー吸収用成形品として好ましい形態となった。一方、本発明で規定した要件を満たさない比較例に係るエネルギー吸収用成形品では、とくにEA効率の向上率が低く、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に劣る特性となった。
【0065】
表2に示すように、本発明で規定した要件を満たす実施例に係るエネルギー吸収用成形品では、2次樹脂の種類を変えてもEA効率の向上率が高く、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に優れ、更に高い最大荷重を発現してエネルギー吸収用成形品として好ましい形態となった。
【0066】
表3に示すように、本発明で規定した要件を満たす実施例に係るエネルギー吸収用成形品では、2次樹脂を射出注入することで圧入よりEA効率の向上率が高く、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に優れ、更に最大荷重も向上するエネルギー吸収用成形品として好ましい形態となった。
【0067】
(実施例17~18、比較例4)
図4に記載のハニカム形状の1次成形品を作製し、
図10に示すように2次樹脂の圧入パターンを変えたPC/PBT製エネルギー吸収用成形品の構成、該成形品を圧縮試験した評価結果を表4に示した。なお、実施例18は、
図8に記載の開口部側から外部荷重を入力した圧縮試験を実施した。
【0068】
(実施例19)
実施例2に記載の2次樹脂を圧入したPC/PBT製エネルギー吸収用成形品を
図8に記載の開口部側から外部荷重を入力した圧縮試験の評価結果を表4に示した。
【0069】
【0070】
表4に示すように、本発明で規定した要件を満たす実施例に係るエネルギー吸収用成形品では、1次成形品の形状を変えても、外部荷重の入力方向を変えても、EA効率の向上率が高く、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に優れ、更に高い最大荷重を発現してエネルギー吸収用成形品として好ましい形態となった。
【0071】
(実施例20~22、比較例5)
エネルギー吸収用成形品をアルミニウム角パイプに挿入して落錘試験した評価結果を表5、
図15に示した。
【0072】
【0073】
表5に示すように、本発明で規定した要件を満たす実施例に係るエネルギー吸収用成形品では、高い最大荷重と矩形波形の短い変位量でエネルギー吸収できるため車両用の構造体に好適である。
本発明に係るエネルギー吸収用成形品は、衝突荷重等の外部荷重が加わった際に、高荷重が発現し、成形品重量当たりのエネルギー吸収効率に優れるため、車両用部材に好適に適用可能である。