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特開2023-95835スペクトルイメージングシステム及びスペクトルイメージング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095835
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】スペクトルイメージングシステム及びスペクトルイメージング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/39 20060101AFI20230629BHJP
   G02F 1/37 20060101ALI20230629BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G01N21/39
G02F1/37
G01N21/01 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206664
(22)【出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2021211167
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「超短赤外パルス光源を用いた顕微イメージング装置の開発と生命科学への応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願委託研究
(71)【出願人】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】藤 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】趙 越
【テーマコード(参考)】
2G059
2K102
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059EE01
2G059EE12
2G059FF01
2G059GG01
2G059GG08
2G059HH01
2G059HH06
2G059JJ14
2G059JJ18
2G059KK04
2K102AA07
2K102AA33
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC01
2K102BD09
2K102CA28
2K102DA01
2K102DD03
2K102DD05
2K102DD06
2K102DD09
2K102DD10
2K102EB22
(57)【要約】
【課題】赤外帯域において高精度かつ広帯域なスペクトルのイメージングが可能なスペクトルイメージングシステム及びスペクトルイメージング方法を提供する。
【解決手段】スペクトルイメージングシステムは、赤外域レーザを出射する第1出射手段と、前記赤外域レーザと周波数が異なる参照レーザを出射する第2出射手段と、前記第1出射手段により出射され、測定対象を透過又は反射した赤外域レーザを集光させる凹面鏡と、前記凹面鏡により集光された赤外域レーザによる前記測定対象の像が形成されると共に前記第2出射手段により出射された参照レーザが前記像に照射され、当該参照レーザに基づいて、前記像を形成する前記赤外域レーザを可視光域のSFG光に変換する非線形結晶と、前記非線形結晶により変換されたSFG光を検出する検出手段とを備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外域レーザを出射する第1出射手段と、
前記赤外域レーザと周波数が異なる参照レーザを出射する第2出射手段と、
前記第1出射手段により出射され、測定対象を透過又は反射した赤外域レーザを集光させる凹面鏡と、
前記凹面鏡により集光された赤外域レーザによる前記測定対象の像が形成されると共に前記第2出射手段により出射された参照レーザが前記像に照射され、前記参照レーザに基づいて、前記像を形成する前記赤外域レーザを可視光域のSFG光に変換する非線形結晶と、
前記非線形結晶により変換されたSFG光を検出する検出手段とを備え、
前記非線形結晶は、前記像が形成される面と垂直な方向の厚さが1μm~1000μmの何れかであること
を特徴とするスペクトルイメージングシステム。
【請求項2】
前記非線形結晶は、前記像が結像面に形成されること
を特徴とする請求項1に記載のスペクトルイメージングシステム。
【請求項3】
前記非線形結晶は、セレン化ガリウム(GaSe)と、LBOと、LiIOと、KTiOPO4(KTP)と、KNbO3と、AgGaS2と、ZnGeP2と、KTiOAsO4(KTA)と、MgO:LiNbO3(5mole% MgO)と、Ag3AsS3と、AgGaSe2と、CdSeと、CdGeAs2フィルムと、CsB35と、MgBaF4と、LiGaO2と、CsTiOAsO4と、NaNO2と、Ba2NaNb515と、K3Li2Nb515と、HgGa24と、HgSと、Ag3SbS3と、Seと、Tl3AsS3と、Teフィルムと、Siフィルムと、α-SiO2との中の何れか1以上を含むこと
を特徴とする請求項1に記載のスペクトルイメージングシステム。
【請求項4】
前記非線形結晶は、前記厚さが3μm~4μmの何れかであること
を特徴とする請求項1に記載のスペクトルイメージングシステム。
【請求項5】
前記非線形結晶は、0.555μm~0.788μmの波長の光を透過すること
を特徴とする請求項1の何れか1項に記載のスペクトルイメージングシステム。
【請求項6】
前記非線形結晶は、3μm以上の波長の光の透過率が10%以上であり、かつ0.6μm~0.8μmの波長の光における光学濃度が3以下であること
を特徴とする請求項1に記載のスペクトルイメージングシステム。
【請求項7】
前記赤外域レーザは、波数帯域が200cm-1~5500cm-1の何れかであること
を特徴とする請求項1に記載のスペクトルイメージングシステム。
【請求項8】
前記赤外域レーザは、パルス幅が15.0fs以下のパルス波であること
を特徴とする請求項1に記載のスペクトルイメージングシステム。
【請求項9】
赤外域レーザを出射させ、
前記赤外域レーザと周波数が異なる参照レーザを出射させ、
測定対象を透過又は反射した前記赤外域レーザを凹面鏡に集光させ、
前記赤外域レーザによる前記測定対象の像が形成されると共に前記参照レーザが前記像に照射される非線形結晶に、前記参照レーザに基づいて、前記像を形成する前記赤外域レーザを可視光域のSFG光に変換させ、
前記非線形結晶により変換されたSFG光を検出させ、
前記非線形結晶は、前記像が形成される面と垂直な方向の厚さが1μm~1000μmの何れかであること
を特徴とするスペクトルイメージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトルイメージングシステム及びスペクトルイメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波数帯域が500cm-1~1500cm-1の分子識別において重要な帯域である指紋領域の波数の光を用いた赤外イメージングが注目を集めており、例えば非特許文献1-7に記載されているような量子カスケードレーザを用いた赤外イメージング技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Haase, K., Kroger-Lui, N., Pucci, A., Schonhals, A. & Petrich, W. Real-time mid-infrared imaging ofliving microorganisms. J. Biophotonics 9, 61-66 (2016).
【非特許文献2】Bassan, P., Weida, M. J., Rowlette, J. & Gardner, P. Large scale infrared imaging of tissue microarrays (TMAs) using a tunable Quantum Cascade Laser (QCL) based microscope. Analyst 139,3856-3859 (2014).
【非特許文献3】Bird, B. & Rowlette, J. High definition infrared chemical imaging of colorectal tissue using a SperoQCL microscope. Analyst 142, 1381-1386 (2017).
【非特許文献4】Kroger-Lui, N. et al. Rapid identification of goblet cells in unstained colon thin sections by meansof quantum cascade laser-based infrared microspectroscopy. Analyst 140, 2086-2092 (2015).
【非特許文献5】Yeh, K. & Bhargava, R. Discrete frequency infrared imaging using quantum cascade lasers forbiological tissue analysis. in Biomedical Vibrational Spectroscopy 2016: Advances in Research andIndustry vol. 9704 970406 (2016).
【非特許文献6】Koziol, P. et al. Denoising influence on discrete frequency classification results for quantumcascade laser based infrared microscopy. Anal. Chim. Acta 1051, 24-31 (2019).
【非特許文献7】Shi, L. et al. Mid-infrared metabolic imaging with vibrational probes. Nat. Methods 17, 844-851(2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、上記の赤外イメージングでは、発光光源としてインコヒーレント光源、又は量子カスケードレーザが用いられており、赤外帯域の測定においては赤外検出器が用いられている。
【0005】
しかしながら、量子カスケードレーザは、広帯域の波長を出すことができないため、広域帯での測定ができない。例えば、900cm-1~1800cm-1をカバーするのに、四台の量子カスケードレーザが必要である。そのため、一度の波長掃引で狭い波長帯域でしか掃引することができないため、広い波長帯域を掃引するには時間がかかる。また、現在市販の量子カスケードレーザは指紋領域をカバーすることができるが、中赤外全領域(3μm~20μm)をカバーすることができない。
【0006】
また、従来のFT-IR分光器に使われる広帯域の波長を出せるインコヒーレント光源は光強度が低いため、イメージングに用いることが難しい。
【0007】
また、HgCdTe等の赤外線検出素子は、約3μm以上の波長の光を検出する際には、熱雑音による影響が大きくなるため、感度が悪くなる。液体窒素を用いて冷却しても、検出効率や信号対雑音比(SN比)は可視領域の検出器(例えば、シリコンベースの検出器)より優れない。
【0008】
これらのことから、非特許文献1-7に示すような量子カスケードレーザによる赤外イメージングは効率が低いこと、計測可能な波数領域が狭いことが問題点となっている。
【0009】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、赤外帯域において高精度かつ広帯域なスペクトルのイメージングが可能なスペクトルイメージングシステム及びスペクトルイメージング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係るスペクトルイメージングシステムは、赤外域レーザを出射する第1出射手段と、前記赤外域レーザと周波数が異なる参照レーザを出射する第2出射手段と、前記第1出射手段により出射され、測定対象を透過又は反射した赤外域レーザを集光させる凹面鏡と、前記凹面鏡により集光された赤外域レーザによる前記測定対象の像が形成されると共に前記第2出射手段により出射された参照レーザが前記像に照射され、当該参照レーザに基づいて、前記像を形成する前記赤外域レーザを可視光域のSFG光に変換する非線形結晶と、前記非線形結晶により変換されたSFG光を検出する検出手段とを備え、前記非線形結晶は、前記像が形成される面と垂直な方向の厚さが1μm~1000μmの何れかであることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係るスペクトルイメージングシステムは、第1発明において、前記非線形結晶は、前記像が結像面に形成されることを特徴とする。
【0012】
第3発明に係るスペクトルイメージングシステムは、第1発明において、前記非線形結晶は、セレン化ガリウム(GaSe)と、LBOと、LiIOと、KTiOPO4(KTP)と、KNbO3と、AgGaS2と、ZnGeP2と、KTiOAsO4(KTA)と、MgO:LiNbO3(5mole% MgO)と、Ag3AsS3と、AgGaSe2と、CdSeと、CdGeAs2フィルムと、CsB35と、MgBaF4と、LiGaO2と、CsTiOAsO4と、NaNO2と、Ba2NaNb515と、K3Li2Nb515と、HgGa24と、HgSと、Ag3SbS3と、Seと、Tl3AsS3と、Teフィルムと、Siフィルムと、α-SiO2との中の何れか1以上を含むことを特徴とする。
【0013】
第4発明に係るスペクトルイメージングシステムは、第1発明において、前記非線形結晶は、前記像が形成される面と垂直な方向の厚さが3μm~4μmの何れかであることを特徴とする。
【0014】
第5発明に係るスペクトルイメージングシステムは、第1発明において、前記非線形結晶は、0.555μm~0.788μmの波長の光を透過することを特徴とする。
【0015】
第6発明に係るスペクトルイメージングシステムは、第1発明において、前記非線形結晶は、の透過率が10%以上であり、かつ0.6μm~0.8μmの波長の光における光学濃度が3以下であることを特徴とする。
【0016】
第7発明に係るスペクトルイメージングシステムは、第1発明において、前記赤外域レーザは、波数帯域が200cm-1~5500cm-1の何れかであることを特徴とする。
【0017】
第8発明に係るスペクトルイメージングシステムは、第1発明において、前記赤外域レーザは、パルス幅が15.0fs以下のパルス波であることを特徴とする。
【0018】
第9発明に係るスペクトルイメージング方法は、赤外域レーザを出射させ、前記赤外域レーザと周波数が異なる参照レーザを出射させ、測定対象を透過又は反射した前記赤外域レーザを凹面鏡に集光させ、前記赤外域レーザによる前記測定対象の像が形成されると共に前記参照レーザが前記像に照射される非線形結晶に、前記参照レーザに基づいて、前記像を形成する前記赤外域レーザを可視光域のSFG光に変換させ、前記非線形結晶により変換されたSFG光を検出させ、前記非線形結晶は、前記像が形成される面と垂直な方向の厚さが1μm~1000μmの何れかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
第1発明~第9発明によれば、非線形結晶は、参照レーザに基づいて、赤外域レーザをSFG光に変換する。これにより、赤外域レーザを可視光域に変換できるため、赤外帯域の波長の光を高精度かつ広帯域にイメージングすることが可能となる。また、レーザの照射面積を大きくしても高精度にイメージングすることができるため、より高速にイメージングを行うことが可能となる。また、赤外域レーザを可視光域に変換できるため、赤外帯域のスペクトル情報を保ったままの光を可視用のCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ、又はCCD(Charge Coupled Device)センサによりハイパースペクトルイメージングすることが可能となるので、センサ感度が増大し、赤外帯域の波長の光を高精度かつ広帯域にイメージングすることが可能となる。
【0020】
特に、第2発明によれば、非線形結晶は、像が結像面に形成される。これにより、結像した像をイメージングできるため、より高精度なイメージングが可能となる。
【0021】
特に、第3発明によれば、非線形結晶は、セレン化ガリウム(GaSe)と、LBOと、LiIOと、KTiOPO4(KTP)と、KNbO3と、AgGaS2と、ZnGeP2と、KTiOAsO4(KTA)と、MgO:LiNbO3(5mole% MgO)と、Ag3AsS3と、AgGaSe2と、CdSeと、CdGeAs2フィルムと、CsB35と、MgBaF4と、LiGaO2と、CsTiOAsO4と、NaNO2と、Ba2NaNb515と、K3Li2Nb515と、HgGa24と、HgSと、Ag3SbS3と、Seと、Tl3AsS3と、Teフィルムと、Siフィルムと、α-SiO2との中の何れか1以上を含む。これらの中の何れか1以上を含む非線形結晶は、他の非線形結晶と比べて赤外帯域において、高い強度と広い波数帯域を有するため、さらに高精度かつ広帯域にイメージングすることが可能となる。
【0022】
特に、第4発明によれば、非線形結晶は、像が形成される面と垂直な方向の厚さが3μm~4μmの何れかである。これにより、さらに高精度かつ広帯域にイメージングすることが可能となる。
【0023】
特に、第5発明によれば、非線形結晶は、0.555μm~0.788μmの波長の光を透過することを特徴とする。これにより、可視光域に変換したSFG光が非線形結晶を透過できるため、赤外帯域の波長の光を高精度かつ広帯域にイメージングすることが可能となる。
【0024】
特に、第6発明によれば、非線形結晶は、の透過率が10%以上である、かつ0.6μm~0.8μmの波長の光における光学濃度が3以下であることを特徴とする。これにより、非線形結晶は赤外域の光のスペクトル情報を保持したまま波長変換させることができるため、赤外帯域の波長の光を高精度かつ広帯域にイメージングすることが可能となる。
【0025】
特に、第8発明によれば、赤外域レーザは、パルス幅が15.0fs以下のパルス波であることを特徴とする。これにより、赤外域レーザは、結像面に設けられた非線形結晶において、十分な強度を有するため、赤外帯域の波長の光を高精度にイメージングすることが可能となる。また、赤外域レーザは、結像面に設けられた非線形結晶において、十分な強度を有するため、赤外領域の二次元イメージングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明を適用したスペクトルイメージングシステムの全体構成を示すブロック図である。
図2図2は、波長変換部の構成例を示す図である。
図3図3(a)は、復数のシート状の分子層が重なった非線形結晶を示す図である。図3(b)は、非線形結晶の製造方法を示す図である。
図4図4は、位相差が0になるときの波長に対する非線形結晶の角度を示すグラフである。
図5図5は、本発明を適用した非線形結晶毎の比較を示す図である。
図6図6は、本発明を適応した非線形結晶の厚さ毎の比較示す図である。
図7図7(a)は、本発明を適応した非線形結晶の厚さが100μmの場合のSFG光の強度を示す図である。図7(b)は、本発明を適応した非線形結晶の厚さが4μmの場合のSFG光の強度を示す図である。図7(c)は、本発明を適応した非線形結晶の厚さが1μmの場合のSFG光の強度を示す図である。図7(d)は、本発明を適応した非線形結晶の厚さに対するSFG光の強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を適用したスペクトルイメージングシステム1は、赤外域のレーザを用いて、測定対象をイメージングするために用いられる。
【0028】
図1は、実施形態に係るスペクトルイメージングシステム1の全体構成を示すブロック図である。スペクトルイメージングシステム1は、評価装置2と、スペクトル撮像装置4と、第1レーザ照射部5と、第2レーザ照射部6と、測定対象3と、波長変換部7とを備える。
【0029】
第1レーザ照射部5は、例えば、赤外域レーザを測定対象3に照射する赤外線照射装置が用いられ、波数帯域が200cm-1~5500cm-1の赤外域レーザ、好ましくは200cm-1~3000cm-1の中赤外帯域の波長を含む赤外域レーザを照射するレーザ光源である。また、第1レーザ照射部5は、7.0fs以下の超短パルスを照射できるコヒーレント光源であることが好ましいが、15.0fs以下の超短パルスを照射できるコヒーレント光源であってもよい。また、第1レーザ照射部5は、フィラメンテーション法により、6.9fsの超短パルスかつ、3~20μmの波長の中赤外レーザを照射できる中赤外超短パルス光源を用いてもよい。また、第1レーザ照射部5は、T. Fuji, Y. Nomura and H. Shirai, "Generation and Characterization of Phase-Stable Sub-Single-Cycle Pulses at 3000 cm" in IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 21, no. 5, pp. 1-12, Sept.-Oct. 2015, Art no. 8700612, doi: 10.1109/JSTQE.2015.2426415.に開示されている技術を用いてもよい。
【0030】
また、第1レーザ照射部5は、照射する赤外域レーザに強度が必要とされるため、OPA(optical parametric amplifier)を用いた光源ではなく、より光の強度の高い赤外域レーザを照射できる中赤外超短パルス光源を用いるのが好ましい。
【0031】
第2レーザ照射部6は、赤外域レーザと周波数が異なる参照レーザを波長変換部7に照射する参照レーザ照射装置が用いられる。参照レーザ照射装置は、赤外域レーザと異なる周波数の参照レーザを照射するものであればよいが、好ましくは中心波長が700nm~2000nm、さらに好ましくは中心波長が800nmのレーザを照射するものである。また、第2レーザ照射部6は、第1レーザ照射部5に内蔵されていてもよい。
【0032】
測定対象3は、スペクトルイメージングシステム1を用いてイメージングをする対象となる測定物である。測定対象3は、例えば有機物、食品、薬品、脂質・蛋白質・糖類等を含む細胞、生体組織、生体物質、環境微粒子、又は鉱石、隕石や不純物を含む半導体材料等が含まれる。測定対象3は、第1レーザ照射部5から、赤外域レーザが照射される。測定対象3は、照射された赤外域レーザを波長変換部7に反射又は透過させる。測定対象3は0.5μm以上、20.0mm以下大きさの物体が好ましいがこの限りではない。
【0033】
図2は、波長変換部7の構成例を示している。波長変換部7は、第1レーザ照射部5から照射され、測定対象3が反射した又は測定対象3を透過した赤外域レーザと、第2レーザ照射部6から照射された参照レーザとが照射される。波長変換部7は、照射された赤外域レーザを、参照レーザに基づいて、可視光域のSFG光に変換する。
【0034】
波長変換部7は、第1レーザ照射部5から照射され、測定対象3を透過又は反射した赤外域レーザを集光させる凹面鏡71と、凹面鏡71により集光された赤外域レーザによる測定対象3の像が形成されると共に第2レーザ照射部6により出射された参照レーザが当該像に照射され、当該参照レーザに基づいて、当該像を形成する赤外域レーザを可視光域のSFG光に変換する非線形結晶70と、非線形結晶70と両面テープ74を介して付着している基板73とを有する。また、波長変換部7は、基板73と両面テープ74とを備えていなくてもよい。
【0035】
凹面鏡71は、赤外域レーザ又は参照レーザを集光するためのレンズ又は鏡である、凹面鏡71は、例えば赤外域レーザ又は参照レーザを反射する凹面を持つ鏡である。また、凹面鏡71は、例えば赤外域レーザ又は参照レーザを透過させる凸レンズである。また、凹面鏡71が集光させた結像面72の位置は、凹面鏡71の焦点距離及び測定対象3から凹面鏡71までの距離により決定されてもよい。
【0036】
非線形結晶70は、赤外域レーザを可視光域のSFG光に変換する非線形の結晶である。非線形結晶70は、第2レーザ照射部6により照射された参照レーザに基づいて、赤外域レーザを可視光域のSFG光に変換するために用いられる。非線形結晶70は、セレン化ガリウム(GaSe)が含まれる結晶であることが好ましいがこの限りではなく、透過帯域が3μmを超え、0.555μm~0.788μmの波長の光を透過できるものであればよい。非線形結晶70は、例えば3μm以上の波長の光の透過率が10%以上である、かつ0.6μm~0.8μmの波長の光における光学濃度が3以下の結晶であってもよい。光学濃度は、光の吸収度合を対数で示すOD(Optical Density)値である。非線形結晶70は、例えばLBOと、LiIOと、KTiOPO4(KTP)と、KNbO3と、AgGaS2と、ZnGeP2と、KTiOAsO4(KTA)と、MgO:LiNbO3(5mole% MgO)と、Ag3AsS3と、AgGaSe2と、CdSeと、CdGeAs2フィルムと、CsB35と、MgBaF4と、LiGaO2と、CsTiOAsO4と、NaNO2と、Ba2NaNb515と、K3Li2Nb515と、HgGa24と、HgSと、Ag3SbS3と、Seと、Tl3AsS3と、Teフィルムと、Siフィルムと、α-SiO2との中の何れか1以上ものである。また、非線形結晶70は、像が形成される面と垂直な方向の厚さが1μm~1000μmのものが好ましいがこの限りではない。また、非線形結晶70の厚さは、1μm以下であってもよい。非線形結晶70の厚さは、例えばGaSe分子の一層の厚さである0.000472μm以上であればよい。
【0037】
また、非線形結晶70は、例えば図3(a)に示すように、複数のシート状の分子層75が重なったものであってもよい。かかる場合、例えば非線形結晶70は、xy面に平行する複数の分子層75が、z方向に重なっている結晶を用いてよい。
【0038】
基板73は、非線形結晶70が付着している基板である。基板73は、非線形結晶70が付着している主平面と当該主平面の対面とが光学研磨されている。基板73は、例えば溶融石英やサファイア基板であってもよいが、これに限らず、SFG光の波長帯域における透過率が高いものであればよい。また、非線形結晶70の厚さが30μm以上の場合、基板73は、用いられなくてもよい。
【0039】
両面テープ74は、基板73に非線形結晶70を付着させるためのテープである。両面テープ74は、例えば厚さが5μmで0.6μm~0.8μmの波長の光が透過するものを用いてもよい。
【0040】
(非線形結晶70の製造方法)
ここで、非線形結晶70の製造方法について、図3(b)を用いて説明する。非線形結晶70は、スコッチテープ法を用いて製造されてもよい。また、非線形結晶70は、像が形成される面と垂直な方向の厚さが例えば4μmのものを製造する場合、基板73に付着した両面テープ74と非線形結晶70の分子層75とを圧着させ、基板73を非線形結晶70から引き離すことにより、非線形結晶70から分子層75を剥離させることで製造されてもよい。また、非線形結晶70は、例えば基板73に非線形結晶70を蒸着させることで製造してもよい。また、非線形結晶70は、基板73に付着した結晶を、結晶成長させることで製造されてもよい。
【0041】
また、図4は、位相差が0になるときの波長に対する非線形結晶の角度を示すグラフである。非線形結晶70は、赤外域レーザ及び参照レーザの入射角がθとなるように角度を設けてもよい。かかる場合、例えば入射角θは測定の対象となる波長に応じて、図4に示すグラフに従って決定されてもよい。これにより、測定の対象となる波長に応じて、適切な入射角θを設定できるため、より精度の高いイメージングが可能となる。また、非線形結晶70は、凹面鏡71により集光された赤外域レーザによる測定対象3の像が形成される位置、即ち凹面鏡71の焦点距離よりも距離のある位置の何れかに設けられる。特に、非線形結晶70は、凹面鏡71の焦点距離及び測定対象3から凹面鏡71までの距離により決定される結像面72となるような位置に設けられるのが好ましい。
【0042】
SFG光は、例えば600nm~800nmの可視光域の光であるが、この限りではなく、400nm~800nmほどの可視光域であるならば何れの波長であってもよい。
【0043】
スペクトル撮像装置4は、カラーフィルタを交換する方式のいわゆるマルチスペクトルカメラや、分散型もしくは干渉型の分光方式を用いたいわゆるハイパースペクトルカメラで構成されている。
【0044】
(スペクトルイメージングシステム1の動作)
次に、本実施形態におけるスペクトルイメージングシステム1の動作の一例について説明する。
【0045】
まず、第1レーザ照射部5は、測定対象3に赤外域レーザを照射し、さらに第2レーザ照射部6は、波長変換部7に参照レーザを照射する。例えば第1レーザ照射部5及び第2レーザ照射部6は、赤外域レーザと参照レーザとは、波長変換部7に照射されるように同位相となるようにそれぞれ異なる光路を用いてもよい。また、赤外域レーザと参照レーザとは、それぞれが平行ビームとなるように波長変換部7に照射されるように、例えば光路に多層膜ミラー等を用いてもよい。
【0046】
また、第1レーザ照射部5は、照射面積が直径1mm程の赤外域レーザを照射することが好ましいが、この限りではなく、直径1mm以上の照射面積となるように赤外域レーザを照射してもよい。第1レーザ照射部5は、例えば照射面積が100mm2以上となる赤外域レーザを照射してもよい。これにより、測定対象3へ照射する赤外域レーザの照射面積が大きくなるため、より広範囲の帯域を一度に測定することが可能となり、測定時間を短縮することが可能となる。
【0047】
次に波長変換部7は、第1レーザ照射部5が測定対象3に照射し、反射した又は透過した赤外域レーザを、第2レーザ照射部6が照射した参照レーザに基づいて、可視光域のSFG光に変換する。非線形結晶70は、例えば照射された赤外域レーザと、参照レーザとから、光混合の非線形光学効果により、統合周波数の光を発生させる。かかる場合、非線形結晶70は、位相整合条件下で、和周波発生、または差周波発生が起きることにより、可視光域のSFG光またはDFG光を発生させることができる。また、SFG光の周波数をω3、赤外域レーザの周波数をω1、参照レーザの周波数をω2とすると、それぞれの周波数は数1で示される式の関係で示される。これにより、赤外域レーザは可視光域のSFG光に変換される。
【数1】
【0048】
また、波長変換部7は、非線形結晶70が結像面72となるように位置を調整することにより、非線形結晶70に結像が形成される。これにより、光の強度の強い像を形成する赤外域レーザを扱うことができるため、測定対象3のイメージングを高精度に行うことが可能となる。かかる場合、赤外域レーザの光に強度が求められるため、第1レーザ照射部5は、上述したパルス幅が7.0fs以下の中赤外超短パルス光源を用いることが好ましい。これにより、赤外域レーザは、十分な強度を有する像を形成できるため、赤外帯域の波長の光の像を高精度にイメージングすることが可能となる。また、非線形結晶70は、結像面72となるように設けられることが好ましいが、結像面72から例えば3mm程距離のある略結像面となるように設けられてもよい。
【0049】
次に、波長変換部7により変換されたSFG光をスペクトル撮像装置4に取り込み、測定対象3の解析画像を検出する。検出ステップS130は、例えば検出した解析画像を記憶部28に記憶させてもよい。
【0050】
上述した各手段を行うことで、本実施形態におけるスペクトルイメージングシステム1の動作が完了する。これにより、これにより、赤外域レーザを可視光域に変換できるため、赤外帯域の波長の光を高精度にイメージングすることが可能となる。
【0051】
〈非線形結晶70の比較〉
図5は、非線形結晶70に含まれる材料毎の横軸を波数帯域とし、縦軸を光の強度とするグラフを示す図である。図5のグラフによると、中赤外帯域を示す500cm-1~3500cm-1の波数帯域において、セレン化ガリウム(GaSe)を含む非線形結晶70は、他のBBO、LiNbO3、Si、LiGaS2、の中の何れかを含む非線形結晶70に比べて、光の強度が高い波数帯域が広い。このことから、セレン化ガリウム(GaSe)は、他の非線形結晶と比べて高い強度と広い波数帯域を有するため、さらに高精度にイメージングすることが可能となる。また、LiGaS2も中赤外帯域において高い光の強度を示しているため、非線形結晶70にLiGaS2を用いてもよい。また、これらの3μm以上の波長の光の透過率が10%以上である、かつ0.6μm~0.8μmの波長の光における光学濃度が3以下の非線形結晶70を用いることで、同様に高精度にイメージングすることが可能となる。
【0052】
〈非線形結晶70の厚さの比較〉
図6は、本実施形態において、非線形結晶70の厚さが異なるときのイメージングの比較を示す図である。図6は、非線形結晶70の厚さがそれぞれ4μm、10μm、30μm、100μm、500μm、1000μmの場合の測定対象3のイメージングを示している。図6によれば、非線形結晶70の結像面72と垂直な方向の厚さが4μm~1000μmの場合に精度の高いイメージングが可能となっている。また、例えば厚さが1000μm以上の場合、非線形結晶70内で変換されたSFG光が非線形結晶70に吸収されるため、SFG光の光の強度が足りなくなるためである。このため、非線形結晶70の結像面72と垂直な方向の厚さが4μm~1000μmの場合に精度の高いイメージングが可能となっている。また、非線形結晶70の表面の面精度に依存するイメージングの質は、基板73がついている厚さが4μmのものと、厚さが500μmのものとが高くなっている。また、中赤外超短パルス光源の出力パワー(パルスエネルギー)や参照レーザの出力パワー(パルスエネルギー)を上げることができるなら、精度の高いイメージングができる結晶の厚みは1~1000μmの限りではない。
【0053】
図7(a)は、本発明を適応した非線形結晶70の厚さが100μmの場合のSFG光の強度の計算結果を示す図である。図7(b)は、本発明を適応した非線形結晶70の厚さが4μmの場合のSFG光の強度の計算結果を示す図である。図7(c)は、本発明を適応した非線形結晶70の厚さが1μmの場合のSFG光の強度を示す図である。図7(a)、図7(b)、及び図7(c)のグラフは、縦軸がSFG光の強度を示し、横軸がSFG光の波長(μm)を示す。図7(a)、図7(b)、及び図7(c)のグラフが示すように、非線形結晶70の厚さが100μmの場合と1μmの場合とに比べて、非線形結晶70の厚さが4μmの場合は、SFG光の強度が低下する点が少なくなる。本発明を適応した非線形結晶70を用いる場合、非線形結晶70の厚みが大きくなると、SFG光の強度が強くなるが、位相整合条件に応じてフリンジが発生し、強度が低下する点が多くなる。強度が0となる点が多くなると、実際にイメージングを行う際に取り除く波長の点が多くなる。このため、強度が低下する点が多くなると、波長分解能が低下し、測定できる波長の点が少なくなる。このため、非線形結晶70の厚さが3μm~4μmであることが好ましい。
【0054】
図7(d)は、本発明を適応した非線形結晶70の厚さに対するSFG光の強度を示す図である。図7(d)は、縦軸がSFG光の強度を示し、横軸が非線形結晶70の厚さを示し、各実線及び点線はそれぞれ波長が750nm、700nm、650nmの場合のグラフを示す。図7(d)が示すように、SFG光の強度は、1μm程度から上昇し、5μm程度で低下する。このことから、非線形結晶70の厚さが3μmから4μmまでの場合が、SFG光の強度が十分に高くなり、位相整合条件に応じたフリンジが発生しない。このため、非線形結晶70の厚さがが3μm~4μmであることが好ましい。
【0055】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1 :スペクトルイメージングシステム
3 :測定対象
4 :スペクトル撮像装置
5 :第1レーザ照射部
6 :第2レーザ照射部
7 :波長変換部
70 :非線形結晶
71 :凹面鏡
72 :結像面
73 :基板
74 :両面テープ
75 :分子膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7