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特開2023-95935パーキンソン病の進行速度を決定するための循環血清マイクロRNAバイオマーカー及び方法
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  • 特開-パーキンソン病の進行速度を決定するための循環血清マイクロRNAバイオマーカー及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095935
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】パーキンソン病の進行速度を決定するための循環血清マイクロRNAバイオマーカー及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6809 20180101AFI20230629BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230629BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230629BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20230629BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20230629BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20230629BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230629BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230629BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
C12Q1/6809 Z ZNA
G01N33/50 P
G01N33/53 D
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6869 Z
C12M1/00 A
C12N15/113 Z
C12N15/09 200
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023075039
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2019570487の分割
【原出願日】2018-06-07
(31)【優先権主張番号】62/521,797
(32)【優先日】2017-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518277099
【氏名又は名称】セント・ジョーンズ・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】ST. JOHNS UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】8000 Utopia Parkway, Queens, New York 11439 US
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サイモン・ゲイル・モーラー
(72)【発明者】
【氏名】インドラニル・バサク
(72)【発明者】
【氏名】ケタン・パティル
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・ペッター・ラーセン
(72)【発明者】
【氏名】グイド・ワーナー・アルベス
(57)【要約】
【課題】パーキンソン病に罹患している患者を、疾患の進行速度に基づいて識別することに加えて、臨床医がこのような患者に対する治療プロトコールを決定することを支援するための血清ベースのマイクロRNA及び方法を提供する。
【解決手段】循環血清ベースのマイクロRNAを同定、検証、確認するためのバイオマーカー及び方法。このマイクロRNA(PrognomiR)は、進行が速いパーキンソン病(PD)に罹患している患者を、進行が遅いPD患者と識別するために使用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のmiRNAの発現レベルを決定するための方法であって、
パーキンソン病を患うヒト患者から提供されるサンプル内の配列番号1、12、42、及び45からなる群から選択される少なくとも1種のmiRNAの発現レベルを決定する工程、及び任意選択で、配列番号2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、43、44、46、47、48、49、50、51、及び52からなる群から選択される少なくとも1種のmiRNAの発現レベルをさらに決定する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記配列番号1、12、42、及び45のうちの少なくとも2つに従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記配列番号1、12、42、及び45のうちの少なくとも3つに従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記配列番号1、12、42、及び45のそれぞれに従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
サンプルが、ヒトの体外で、前記miRNAを決定するために用意され、前記決定の結果は、患者に伝えられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルが、血清、血漿、又は全血である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記miRNAの発現レベルが、qRT-PCRを使用して決定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記miRNAの発現レベルが、標識されたアンチセンスヌクレオチド配列を使用して決定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記miRNAの発現レベルが、標識された抗体を使用して決定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
標識された抗体が、モノクローナルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記miRNAの相対的発現量が、マイクロアレイプロファイリングを使用して決定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記miRNAの相対的発現量が、ハイスループットNGSシーケンシングを使用して決定される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも配列番号1及び12に従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも配列番号1及び42に従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも配列番号1及び45に従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも配列番号12及び42に従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも配列番号12及び45に従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも配列番号42及び45に従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも配列番号1、12、及び42に従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも配列番号1、12、及び45に従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも配列番号1、42、及び45に従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも配列番号12、42、及び45に従うmiRNAの相対的発現量が決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項23】
配列番号33に従うmiRNAの相対的発現量も決定される、請求項1及び13から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか一項に記載の方法において使用するための、予後診断用バイオマーカーキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、概して、パーキンソン病に罹患している患者を、疾患の進行速度に基づいて識別することに加えて、臨床医がこのような患者に対する治療プロトコールを決定することを支援するための血清ベースのマイクロRNA及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.背景技術の簡単な説明
パーキンソン病(PD)は、中脳黒質のドパミン含有細胞の高度に特異的な変性であり、線条体におけるドパミン欠乏を招く。PDは、現時点で、世界中の約1千万人が罹患している。治療の最初の5~7年間は、PD患者の効果的な管理が可能であり、その後、衰弱性であることが多い一連の合併症であって、合わせて後期運動変動(Late Motor Fluctuations)(LMF)と称する一連の合併症が生じる。最も効果的な抗パーキンソン薬である、レボドパ((-)-L-α-アミノ-β-(3,4-ジヒドロキシベンゼン)プロパン酸)、又はL-ドパを用いた治療によって、LMFが出現しやすくなるか、又は出現を促すことさえある場合があると考えられている。ドパミン作動薬は、代替治療として使用されるが、L-ドパと同程度ほど患者の症状軽減をもたらすことはない。
【0003】
対症療法は、基礎疾患の状態に影響を及ぼすことなく、徴候及び症状を改善する。レボドパは、特にその末梢代謝が、末梢の脱炭酸酵素阻害薬(PDI)によって阻害される場合、線条体におけるドパミン濃度を上昇させる。レボドパとの組合せ、カルビドパ((-)-L-α-ヒドラジノ-α-メチル-β-(3,4-ジヒドロキシベンゼン)プロパン酸一水和物)との組合せ、レボドパと放出制御カルビドパ、レボドパとベンセラジド、レボドパと放出制御ベンセラジド(2-アミノ-3-ヒドロキシ-プロピオン酸N'-(2,3,4-トリヒドロキシ-ベンジル)-ヒドラジド)などのレボドパ/PDI治療法は、パーキンソン病に対する対症療法に広く使用される。
【0004】
カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤は、レボドパの代謝を阻害し、そのバイオアベイラビリティを増強することによって、より多くのこの薬物がシナプス間隙でより長期間利用可能となるため、レボドパによる治療を増強する。COMT阻害剤の例には、トルカポン(3,4-ジヒドロキシ-4'-メチル-5-ニトロベンゾフェノン)及びエンタカポン((E)-2-シアノ-3-(3,4-ジヒドロキシ-5-ニトロフェニル)-N,N-ジエチル-2-プロペンアミド)が含まれる。
【0005】
ドパミン作動薬は、シナプス後の線条体ドパミン受容体を直接刺激することによって、対症的な利益をもたらす。例には、ブロモクリプチン((5α)-2-ブロモ-12'-ヒドロキシ-2'-(1-メチルエチル)-5'-(2-メチルプロピル)エルゴタマン-3',6',18-トリオン)、ペルゴリド(8B-[(メチルチオ)メチル]-6-プロピルエルゴリン)、ロピニロール(4-[2-(ジプロピルアミノ)エチル]-1,3-ジヒドロ-2H-インドール-2-オン)、プラミペキソール((S)-4,5,6,7-テトラヒドロ-N6-プロピル-2,6-ベンゾチアゾールジアミン)、リスリド(N'-[(8α)-9,10-ジデヒドロ-6-メチルエルゴリン-8-イル]-N,N-ジエチル-尿素)、カベルゴリン((8β)-N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N-[(エチルアミノ)カルボニル]-6-(2-プロペニル)エルゴリン-8-カルボキサミド)、アポモルヒネ((6aR)-5,6,6a,7-テトラヒドロ-6-メチル-4H-ジベンゾ[de,g]キノリン-10,11-ジオール)、スマニロール(5-(メチルアミノ)-5,6-ジヒドロ-4H-イミダゾ{4,5,1-ij}キノリン-2(1H)-オン)、ロチゴチン((-)(S)-5,6,7,8-テトラヒドロ-6-[プロピル[2-(2-チエニル)エチル]アミノ]-1-ナフトール-)、タリペキソール(5,6,7,8-テトラヒドロ-6-(2-プロペニル)-4H-チアゾロ[4,5-d]アゼピン-2-アミン)、及びジヒドロエルゴクリプチン(エルゴタマン-3',6',18-トリオン,9,10-ジヒドロ-12'-ヒドロキシ-2'-メチル-5'-(フェニルメチル)(5' cc))が含まれる。ドパミン作動薬は、パーキンソン病の経過の早期には単剤療法として、より進行した段階ではレボドパの補助薬として効果的である。レボドパとは異なり、ドパミン作動薬は、シナプス後のドパミン受容体を直接刺激する。ドパミン作動薬は、酸化的代謝を受けず、該疾患過程を加速するとは考えられていない。
【0006】
アマンチジン(1-アミノトリシクロ(3,3,1,13,7)デカン)は、抗パーキンソン活性を有することが、偶然発見された抗ウイルス剤である。PDにおけるその作用機序は確立されていないが、ドパミン放出を増加させることによって作用すると考えられている。アマンチジンを、単剤療法として又はレボドパとの組合せのいずれかで服用する患者は、無動、固縮、及び振戦の改善を示す。
【0007】
パーキンソン病の治療に使用される他の医薬品には、MAO-B阻害剤が含まれる。モノアミン酸化酵素B型(MAO-B)の不活性化を介したL-ドパ代謝の阻害は、内因性の残存ドパミン及び体外からのその前駆体であるL-ドパに由来するドパミンのいずれの有効性も増強する効果的な手段である。セレギリン(メチル-(1-メチル-2-フェニル-エチル)-プロピ-2-イニル-アミン)は、MAO-B阻害薬である。セレギリンを用いた治療は、ドパミンの酸化的代謝に由来するフリーラジカル形成を阻止することによって、PDにおける疾患の進行を遅らせることがあるという根拠がある。MAO B阻害剤の他の例には、ラザベミド(N-(2-アミノエチル)-5-クロロ-2-ピリジンカルボキサミド)、ラサギリン(N-プロパルギル-1-(R)アミノインダン、及びカロキサゾン(2-オキソ-2H-1,3-ベンゾキサジン-3(4H)-アセトアミド)が含まれる。
【0008】
治療剤の有効性を増大させるためには、早期にPDの個人を診断することが肝要であり、該疾患の予後を決定することも重要である。しかし、PD診断のための客観的試験も、確立されたバイオマーカーも存在しない。加えて、この疾患の多様性、亜型、及び進行によって、特定の治療効果のある候補物質を開発することは困難になっている。
【0009】
マイクロRNA(「miRNA」)は、遺伝子発現の調節において重要な役割を果たす非コードRNAのクラスである。miRNAは、転写後の段階で働き、哺乳動物のタンパク質をコードしている遺伝子全ての30%ほどの発現を微調整する。成熟miRNAは、短い一本鎖RNA分子であり、約22ヌクレオチド長である。miRNAは、複数の遺伝子座によってコードされていることがあり、直列的に同時転写されたクラスター内に構成されることがある。miRNA遺伝子は、RNAポリメラーゼIIによって転写され、大きな一次転写産物(pri-マイクロRNA)となり、これは、リボヌクレアーゼIII酵素であるDrosha、DGCR8、及び他の補因子を含有するタンパク質複合体によって処理され、約70ヌクレオチドの前駆体マイクロRNA(pre-miRNA)を形成する(Cathew RW、Cell、2009年; Kim VN、Nat Rev Mol Cel Biol、2009年; Siomi H、Mol Cel、2010年; Bartel DP、Cell、2004年; Lee Y、Nature 2003年; Han J、Genes Dev、2004年)。pre-miRNAは、エクスポーチン5によって細胞質に輸送され、ここで、RNA誘導サイレンシング複合体中のTRBP、PACT、及びAgo2と共に、第2のリボヌクレアーゼIII酵素であるDICERによって処理され、二本鎖miRNAとなる(Kim VN、Nat Rev Mol Cel Biol、2009年; Gregory RI、Nature 2004年; MAcRae IJ、PNAS、2008年)。二本鎖miRNAのガイド鎖は、分離し、Ago2と会合してリボ核粒子に取り込まれ、遺伝子サイレンシングを媒介するRNA誘導サイレンシング複合体であるRISCを形成する。miRNAの機構は、mRNAの直接的な分解又はサイレンシング及び翻訳の抑制から、転写後のアップレギュレーションにわたる(MacRae IJ、PNAS、2008年)。
【0010】
miRNAは、血液、脳脊髄液(CSF)、血漿、血清、及び唾液を含む体液中に、検出可能なレベルで存在することが報告されている。miRNAの組織特異性は、様々な生理学的過程における、その極めて重要で不可欠な役割を示唆する。その組織濃縮によって、診断用バイオマーカー及び潜在的な治療標的としての新しいがあまり研究されていない役割が見込まれる。血中のmiRNAは、細胞溶解若しくはアポトーシスの結果として生じる損傷した組織からの受動的な漏出、エクソソームなどの微小胞を介した細胞からの能動輸送、又はRISCタンパク質複合体内への結合に由来することが理解されている(Etheridge他、2011年)。エクソソーム及び浸透圧ポンプによって媒介される、小RNA分子の脳及びCNSへの送達は、それぞれmiRNAに基づく治療法の限界を克服する解決策を提供する(Alvarez-Erviti他、2011年; Koval他、2013年、Hum. Mol. Gen)。miRNAは、極めて安定しており、このため、潜在的なバイオマーカーの強力な候補物質として存在することが証明されている(Chen他、2008年; Grasso、2014年)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Cathew RW、Cell、2009年
【非特許文献2】Kim VN、Nat Rev Mol Cel Biol、2009年
【非特許文献3】Siomi H、Mol Cel、2010年
【非特許文献4】Bartel DP、Cell、2004年
【非特許文献5】Lee Y、Nature 2003年
【非特許文献6】Han J、Genes Dev、2004年
【非特許文献7】Gregory RI、Nature 2004年
【非特許文献8】MAcRae IJ、PNAS、2008年
【非特許文献9】Koval他、2013年、Hum. Mol. Gen
【非特許文献10】the Norwegian ParkWest study
【非特許文献11】http://www.parkvest.no
【非特許文献12】Harlow及びLane、Antibodies: A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、1988年)
【非特許文献13】Friefelder、「Physical Biochemistry: Applications to biochemistry and molecular biology」(W.H. Freeman and Co.、1976年)
【非特許文献14】Pierce Catalog and Handbook、1994~1995年(Pierce Chemical Co.、Rockford、IL)
【非特許文献15】Kuby、J.、Immunology、第3編、W.H. Freeman & Co.、New York (1998年)
【非特許文献16】Huse他、Science、Vol. 246 (1989年) 1275~81頁
【非特許文献17】Winter及びHarris、Immunol. Today、Vol. 14 (1993年) 243~46頁
【非特許文献18】Ward他、Nature、Vol. 341 (1989年) 544~46頁
【非特許文献19】Hilyard他、Protein Engineering: A practical approach (IRL Press 1992年)
【非特許文献20】Borrabeck、Antibody Engineering、第2編(Oxford University Press 1995年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
パーキンソン病に罹患している患者に関連するmiRNAを同定することが、本発明の目的である。
【0013】
パーキンソン病に罹患している患者の疾患の進行速度を決定するための方法を提供することが、本発明の別の目的である。
【0014】
パーキンソン病に罹患している患者の疾患の進行速度に基づいた治療の選択肢を決定するための方法を決定することが、本発明の別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらの目的及び他の目的は、パーキンソン病に罹患している患者を決定するために、単独で、又は対で若しくは組合せで使用することができるmiRNAバイオマーカーを提供する本発明によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】進行が速いPD患者と進行が遅いPD患者の間における5種のPrognomiRNAの平均倍率変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
方法
血清サンプルの取扱い及び分類
全ての患者及び対照は、PDの発症率、神経生物学、及び予後を検討する、進行中の集団に基づく前向き縦断的コホート研究であるthe Norwegian ParkWest計画に参加した。the Norwegian ParkWest studyは、西及び南ノルウェーのパーキンソン病(PD)の事象を有する患者を対象とした前向き縦断的多施設共同コホート研究である。2004年11月1日~2006年8月31日の間、研究地域内のパーキンソン病の新規症例全てをリクルートするよう尽力した。この研究の開始以降、それらの患者の265名中212名(80%)及びこれらの患者と年齢/性別が一致した対照群を追跡した。この研究のさらなる情報は、http://www.parkvest.noで入手可能である。
【0018】
PD患者の非選択的コホート及び集団代表的コホートを確立するためのあらゆる努力が行われた。研究参加時に血清を提出し、最近の追跡時に、National Institute of Neurological Disorders and Stroke (http://www.ninds.nih.gov/disorders/parkinsons_disease/parkinsons_disease.htm)及びUK Brain Bank (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/gap/cgi-bin/GetPdf.cgi?id=phd000042)のPDの診断基準を満たした患者を含めた。研究参加時に続発性パーキンソン症候群を有する患者を本研究から除外した。対照被験者は、友人、配偶者、及び高齢者に関しては公共団体を含む複数の供給源からリクルートされ、血清を提出した者を、本研究に含めた。全ての患者及び対照は白人であった。疾患の進行速度を確定するため、本研究の参加者を、8年間にわたって追跡した。
【0019】
PDに対する可能性のあるバイオマーカーに関する本研究では、二段階の手順を適用した。最初の発見段階のため、PDの進行が速い患者8名及び進行が遅い患者8名の血清を無作為に選択した。検証目的のため、本研究に適格である残りのPD患者164名を選択した。
【0020】
血清サンプルは、臨床検査と同日に採取され、その後、ドライアイス上でニューヨークの施設に輸送されるまで、-70℃で凍結保存された。
【0021】
実施例1
qPCRによる差次的に発現されたヒトmiRNAの分析
血清サンプルからのRNA単離及びQC
氷上で解凍後、24の血清サンプル(PDのサンプル16)を3000xgで5分間遠心分離し、残屑を除去した。上清を用いて、miRCURY RNA Isolation Kit - Biofluids(Exiqon社、MA)を使用した小RNA単離を実施した。RNA単離前、溶解緩衝液に、0.267fmol/ulのスパイクイン対照cel-miR-39-3p(Qiagen社、CA)を添加した。製造業者のプロトコールに準拠してRNA単離の残る部分を実施し、単離されたRNAをNanodrop 2000(Thermo Scientific社、MA)で定量化した。このRNAを用いてAffymetrix v4マイクロRNAマイクロアレイチップを稼働させ、続くcDNA合成及びqPCRを行った。上記の通り、180の血清サンプル(ParkWest計画からのPD患者由来)からRNAを単離し、Nanodropによってこれらを定量化しなかったが、これらのサンプルから得られたqPCRデータを、参照小RNAであるscaRNA17によって正規化した。
【0022】
miRNAマイクロアレイ及びデータ分析
Yale Center for Genome Analysis(http://medicine.yale.edu/keck/ycga/index.aspx)によって、患者24名の血清サンプルから単離されたRNAが定量化され、Affymetrix GeneChip(登録商標)miRNA 4.0 Arrayに用いられた。Affymetrix Expression Consoleソフトウエアから得た、正規化したCELファイルを、分析のためにPartek Genomics Suiteバージョン6.6著作権(C)2012(Partek社、MO)に読み込んだ。「マイクロRNA発現ワークフロー」を使用して差次的に発現されたmiRNAを検出し、ANOVAを使用して、進行が速いPDコホートと進行が遅いPDコホートの間で有意に(p<0.05)発現されたmiRNAのリストを得た。検出されたmiRNAを、さらなるqPCRによる検証のために使用した。
【0023】
定量的ポリメラーゼ連鎖反応
製造業者のプロトコールに準拠してqScript(商標)microRNA cDNA Synthesis kit(Quanta Biosciences社、MD)を使用し、miRNA特異的qPCRのためのcDNAを合成し、続くqPCRを、miRNA特異的フォワードプライマー(表#)及びPerfeCTa(登録商標)Universal PCR primer(Quanta Biosciences社、MD)を使用して実施した。qPCR Cq値を正規化するための参照小RNAとしてscaRNA17及びU6を使用したのに対して、スパイクイン対照としてcel-miR-39-3pを使用した。PerfeCTa(登録商標)SYBR(登録商標)GREEN SuperMix for IQ(商標)(Quanta Biosciences社、MD)を、MyiQ(商標)Single color Real-Time PCR Detection System(Bio-Rad社、CA)における全てのqPCRに対して使用した。MS Excelにおいて、R2=0.97882及びPCR効率92.96%としてcel-miR-39-3pの標準曲線を分析した。必要な箇所には、鋳型なしの対照(NTC)を含めた。
【0024】
the Norwegian ParkWest studyからのパーキンソン病患者の血清サンプル中で差次的に発現されたヒトmiRNAを、miRNAマイクロアレイを使用して決定した。以下に提示されるのは、1.2倍を上回る差次的発現を有するmiRNAである。
【0025】
1.2を上回る倍率変化を有する52の差次的に発現されたヒトpre-miRNA及び成熟miRNA
hsa-miR-6865-3p、hsa-miR-663a、hsa-miR-92b-3p、hsa-miR-455-3p、hsa-miR-937-5p、hsa-let-7b-3p、hsa-miR-6730-3p、hsa-miR-5010-3p、hsa-miR-1825、hsa-mir-4487、hsa-miR-4783-5p、hsa-miR-2117、hsa-mir-5090、hsa-mir-4484、hsa-miR-5094、hsa-mir-611、hsa-miR-4738-3p、hsa-miR-6894-5p、hsa-mir-8072、hsa-mir-762、hsa-let-7e、hsa-miR-6768-5p、hsa-mir-3917、hsa-mir-3673、hsa-mir-4431、hsa-miR-216a-3p、hsa-miR-635、hsa-miR-490-3p、hsa-mir-601、hsa-miR-636、hsa-miR-466、hsa-miR-1271-5p、hsa-miR-548u、hsa-miR-3606-5p、hsa-miR-510-5p、hsa-miR-4306、hsa-mir-4753、hsa-mir-6128、hsa-mir-4251、hsa-miR-1306-5p、hsa-miR-8052、hsa-mir-4310、hsa-mir-3128、hsa-miR-628-5p、hsa-miR-3660、hsa-miR-3156-3p、hsa-miR-548aj-3p、hsa-miR-4791、hsa-mir-532、hsa-miR-202-5p、hsa-miR-3613-3p、hsa-miR-8075
【0026】
1.2を上回る倍率変化を有する36の差次的に発現された成熟miRNA
hsa-miR-6865-3p、hsa-miR-663a、hsa-miR-92b-3p、hsa-miR-455-3p、hsa-miR-937-5p、hsa-let-7b-3p、hsa-miR-6730-3p、hsa-miR-5010-3p、hsa-miR-1825、hsa-miR-4783-5p、hsa-miR-2117、hsa-miR-5094、hsa-miR-4738-3p、hsa-miR-6894-5p、hsa-let-7e、hsa-miR-6768-5p、hsa-miR-216a-3p、hsa-miR-635、hsa-miR-490-3p、hsa-miR-636、hsa-miR-466、hsa-miR-1271-5p、hsa-miR-548u、hsa-miR-3606-5p、hsa-miR-510-5p、hsa-miR-4306、hsa-miR-1306-5p、hsa-miR-8052、hsa-miR-628-5p、hsa-miR-3660、hsa-miR-3156-3p、hsa-miR-548aj-3p、hsa-miR-4791、hsa-miR-202-5p、hsa-miR-3613-3p、hsa-miR-8075
【0027】
1.2を上回る倍率変化を有する16の差次的に発現された前駆体miRNA
hsa-mir-4487、hsa-mir-5090、hsa-mir-4484、hsa-mir-611、hsa-mir-8072、hsa-mir-762、hsa-mir-3917、hsa-mir-3673、hsa-mir-4431、hsa-mir-601、hsa-mir-4753、hsa-mir-6128、hsa-mir-4251、hsa-mir-4310、hsa-mir-3128、hsa-mir-532。これらの差次的に発現されたmiRNA配列を、対照として使用した参照/ハウスキーピング小RNAであるcel-miR-39-3p、U6、及びScaRNA17と共に、以下のTable 1(表1)に例示する。cel-miR-39-3pは、RNAサンプルの安定性を実証するスパイクイン対照である。U6及びScaRNA17は、残りのmiRNA又は候補miRNAの測定値を正規化するための内部対照として使用される。
【0028】
実施例1
【表1A】
【0029】
【表1B】
【0030】
【表1C】
【0031】
実施例2
進行が速い患者8名及び進行が遅い患者8名のサンプルコホートにおけるqPCRによるヒト成熟miRNAの検証
進行が速いPD患者と進行が遅いPD患者の間における、hsa-let7b-3p、hsa-miR-3613-3p、hsa-miR-6865-3p、hsa-pre-miR-532、hsa-miR-663a、及びPrognomiRの平均倍率変化を、以下のTable 2(表2)に示し、図1に例示する。
【0032】
【表2】
【0033】
実施例3
患者からの血清中の2種以上のmiRNAの組合せのレベルの測定は、潜在的に進行が速いPD患者と進行が遅いPD患者の間を明確に識別する助けとなり得る。血清サンプルは、PDの疑いがある患者から採取した血液から得る。この血清を、全マイクロRNAの単離及び濃縮に使用する。次に、qPCRを用いて、実施例1に記載されている52のmiRNAのうちのいずれか2種以上又は実施例2に記載されている5種のmiRNAのうちのいずれか1種のレベルを測定するために、このRNAを試験する。1.2を上回る倍率変化を有する前記52のmiRNAのうちの1種若しくは複数、又はこれらの5種のmiRNAのうちのいずれか1種若しくは複数が検出可能なレベルであることは、PD患者の進行速度を確定する。所望とあれば、血漿、静脈血若しくは動脈血、又は腰椎穿刺によって採取したCSFサンプルを含む他のサンプル体液を利用してもよい。このような血漿、血液、又はCSFサンプルは、例えば、ヒト又は動物の体外で、処理及び評価するためのサンプルを用意するため、血清に関して上記で検討した通りに処理される。試験マトリックスで使用される組合せ又は組合せのセット中の2種を上回るmiRNAの測定が、PD進行を予測する精度を望ましくも高め得ることが理解されるであろう。診断後、その結果は患者に伝えられる。
【0034】
上記で検討及び例示した通り、1.2を上回る倍率変化を有する前記miRNAを検出することを、罹患患者において、潜在的に進行が速いPDを、潜在的に進行が遅いPDと識別するために使用してもよい。しかし、本明細書では、当業者によって容易に理解される通り、精度における可能性のある付随の変動を伴って、1.0、1.1、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、及び2.0を上回る倍率変化を含む他の閾値を、所望通りに適当に使用してよい。加えて、これらの様々な倍率変化の閾値を、精度に影響を及ぼすことなく、特定のmiRNAと共により適当に使用してよいことは、同様に理解されるであろう。
実施例4
【0035】
miRNAの組合せは、予後診断を予測するために使用され得ることから、コホートに基づくあらゆる変動を排除するために、全ての候補物質を試験することは賢明であると思われる。該当するmiRNAのいかなる検出可能な量も、PDの病理を示唆するであろうことは理解されている。しかし、当業者は、疾患の進行速度を決定するための人為的な閾値を設定するため、進行が遅い(8)サンプル対進行が速い(8)サンプルの値を使用することが、臨床的に有用である可能性があることを認識している。差次的なmiRNAレベルは、臨床試験における患者コホートの質を高めることに加えて、疾患の予後診断を推測するため、臨床医に使用され得る予後診断用バイオマーカーキットを開発するために使用され得る。本研究において、血清からのmiRNAの存在及び定量が、疑問となるRNAを増幅及び定量化するqRT-PCRによって決定された。本明細書では、代替方法として、標識されたアンチセンス配列及び標識された抗体の使用を含む、当業者に知られている他の適当な技術を利用してもよい。典型的に、測定条件下でバックグラウンドの分子会合の10~100倍を上回る2つの分子間の結合反応を指す適当な抗体が優先的に選択される。このため、指定されたイムノアッセイの条件下で、所定の抗体が、特定のmiRNA配列に結合し、これによってその存在が同定される。このような条件下での抗体への特異的結合には、特定のmiRNAに対するその特異性について選択される抗体が必要とされる。例えば、特定のmiRNAに対して惹起した抗体は、他の分子と交差反応する抗体を取り除くことによって選択され得る。特定のmiRNAに対して特異的な免疫反応性を有する抗体を選択するために、固相ELISAイムノアッセイを含む様々なイムノアッセイ形式を使用してよい(特異的な免疫反応性を決定するために使用し得るイムノアッセイ形式及びその条件の解説のため、Harlow及びLane、Antibodies, A Laboratory Manual (1988年)等を参照)。2つの分子が特異的に相互作用するかどうかを決定するための方法は、その中で公開されており、結合の親和性及び特異性を決定する方法は、当該分野で公知である(例えば、Harlow及びLane、Antibodies: A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、1988年); Friefelder、「Physical Biochemistry: Applications to biochemistry and molecular biology」(W.H. Freeman and Co.、1976年)を参照)。本明細書で用いる場合、「抗体」という用語は、天然に存在する抗体に加えて、例えば、一本鎖抗体、キメラ抗体、二機能性抗体、及びヒト化抗体を含む天然に存在しない抗体、同様にその抗原結合断片(例えば、Fab'、F(ab')2、Fab、Fv、及びrIgG)を包含する。同じく、Pierce Catalog and Handbook、1994~1995年(Pierce Chemical Co.、Rockford、IL)を参照。同じく、例えば、Kuby、J.、Immunology、第3編、W.H. Freeman & Co.、New York (1998年)を参照。このような天然に存在しない抗体は、固相ペプチド合成を使用して構成され得るか、組換えにより産生され得るか、又は例えば、Huse他、Science、Vol. 246 (1989年) 1275~81頁に記載される通り、可変の重鎖及び可変の軽鎖からなるコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって得られ得る。例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、CDR移植抗体、一本鎖抗体、及び二機能性抗体を生成するこれらの及び他の方法は、当業者によく知られている(Winter及びHarris、Immunol. Today、Vol. 14 (1993年) 243~46頁; Ward他、Nature、Vol. 341 (1989年) 544~46頁; Harlow及びLane、上記、1988年; Hilyard他、Protein Engineering: A practical approach (IRL Press 1992年); Borrabeck、Antibody Engineering、第2編(Oxford University Press 1995年))。同定されたRNA配列からモノクローナル及びポリクローナル抗体の両方を産生するための方法は、当該分野において公知である。
【0036】
実施例5
症状に加えて、病理学的マーカーに関して言えば、多くの神経変性疾患は、相互に綿密に関連する。1種の神経変性疾患に対する血中の予後診断用マーカーは、他の疾患の診断/予後診断のために有用である可能性がある。レビー小体型認知症(DLB)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)、多系統萎縮症(MSA)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)のような他の神経変性疾患を診断/予後診断するための方法も、上記の候補物質の同様のmiRNA測定を使用して開発され得る。疾患特異的なキットは、[0019]に記載されたmiRNAの様々な組合せを用いて、[0025]に記載されたものと同様に開発され得る。
【0037】
実施例6
1種又は複数の組合せで検出されたmiRNAは、細胞内でいくつかのタンパク質を制御することができる。PDのための新規のタンパク質標的は、これらのマイクロRNA及びそれらの組合せを使用して発見され得る。PDの病因におけるこれらのタンパク質の関与をさらに確立して、治療のためにそれらを標的とすることが可能である。
【0038】
実施例7
[0019]に記載されたmiRNAに由来する小核酸分子は、PDの脳内の遺伝子を特異的に標的とすることによって治療的に介入し、完全又は部分的な改善を達成するように設計されるであろう。
図1
【配列表】
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【外国語明細書】