(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023095964
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】金属酸化物コーティングによりリチウムイオン電気化学セル構成要素を絶縁する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/403 20210101AFI20230629BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20230629BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20230629BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20230629BHJP
【FI】
H01M50/403 D
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023076300
(22)【出願日】2023-05-02
(62)【分割の表示】P 2020212332の分割
【原出願日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】62/952,731
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519318339
【氏名又は名称】インテセルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シャオホン・ガイデン
(72)【発明者】
【氏名】ジョゼフ・エム・ジーゲルバウアー
(72)【発明者】
【氏名】ル・リュウ
(57)【要約】
【課題】金属酸化物コーティングによりリチウムイオン電気化学セル構成要素を絶縁する方法を提供する。
【解決手段】大気プラズマ堆積デバイスから、大気プラズマ中で前駆体から生成される無機酸化物粒子を、リチウムイオン電気化学セル構成要素の表面上のコーティングとして堆積させることにより、リチウムイオンセルを作製する方法が開示される。無機酸化物粒子により形成されるコーティングは、絶縁コーティングとなり得、または熱暴走中に寸法安定性をもたらし得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気プラズマ堆積デバイスから、大気プラズマ中で前駆体から生成される無機酸化物粒子を、リチウムイオン電気化学セル構成要素の表面上のコーティングとして堆積させるステップを含む、リチウムイオンセルを作製する方法。
【請求項2】
前記コーティングは、約10ナノメートルから約10マイクロメートルまでの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティングは、約70ナノメートルから約800ナノメートルまでの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングは、前記表面の領域の約0.5%から100%までを覆う、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
金属酸化物は、シリコン、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、セリウム、およびこれらの組合せから成る群から選択される部材の酸化物である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記コーティングは、前記表面上に反復パターンを形成する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記リチウムイオン電気化学セル構成要素は、多孔質セパレータであり、前記コーティングは、寸法安定性をもたらす、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記コーティングは、前記多孔質セパレータの多孔性を大幅に低下させない、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記リチウムイオン電気化学セル構成要素は、集電体または電極コート集電体構成要素であり、前記コーティングは、電気絶縁性を高める、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記コーティングは、少なくとも最高で約5ボルトまで絶縁する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法により準備される、リチウムイオンセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、リチウムイオンセル構成要素に金属酸化物の絶縁コーティングを塗布する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本セクションは、本発明の理解に役立つが、必ずしも先行技術とは限らない情報を提供する。
【0003】
リチウムイオン電気化学セルは、通常、負極層(セル放電中のアノード)と、正極層(セル放電中のカソード)と、平行な対向電極層間に対面接触で間置されている薄い多孔質セパレータ層と、セパレータの孔を満たし、かつ繰り返されるセル放電および再充電サイクル中のリチウムイオン輸送のために電極層の対向面に接触する液体のリチウム含有電解質溶液と、電極層の反対側外面上の金属集電体の薄層とを含む。
【0004】
ハイブリッドプラグイン電気自動車において使用されるものなどの大型リチウムイオンバッテリは、リチウム化/脱リチウム化過程の間の電極膨張および電極収縮に因る応力亀裂、パンク、過充電、過熱、圧縮、および内部短絡のうちの1つまたは複数によって引き起こされる可能性がある熱暴走に起因するバッテリ出火の可能性を有する。理想的なセパレータは、イオン流動を阻止し、熱暴走中に正極と負極とを物理的に分離し続ける。バッテリ温度が十分に高くなった場合、セパレータは融解し、孔を部分的に詰まらせて、イオン流動を阻止するのを助け得るが、セパレータは収縮することもあり、それにより正極と負極との物理的接触を許容し、これは熱暴走を加速させることになる。
【0005】
熱暴走中にセパレータ層の構造的安定性を維持する1つの手法は、米国特許出願公開第2018/0212271号に記載されているように、セパレータをPVDFコーティングまたはセラミックコーティングでコーティングすることである。米国特許出願公開第2018/0212271号は、ポリマーが揮発性溶媒の混合物中で溶解されるゲルコーティングとしてのPVDFの適用を記載している。米国特許出願公開第2018/0212271号は、バッテリが高電圧まで充電されると、ゲルコーティングで作製されている多孔質基板が容易に酸化され、これがセパレータの機械的強度に悪影響を及ぼすことを指摘している。米国特許出願公開第2018/0212271号は、セラミックコーティングが、セパレータの表面を、水中で、水溶性バインダ、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウムおよびSBR、PVA、またはアクリレート系バインダ、の溶液中のセラミック粒子のスラリでコーティングすることにより実現されることを教示している。別の例として、米国特許出願第2018/0019457号が、セラミックコーティングされたセパレータ用の現在のバインダの欠点を記載しており、架橋バインダを提案している。欧州特許第2806493号は、適用された無機酸化物粉末に起因するセパレータ透過性の低下の問題を記載しており、粒子の少なくとも一部が特定の高度の凸凹を有する形状を有する無機酸化物粉末を使用することにより詰まり量を減少させることを提案している。欧州特許第2806493号の無機酸化物粉末は、ポリマーバインダおよび溶媒中のスラリとして適用されて、1マイクロメートルから50マイクロメートルまでの厚さのコーティング層を形成し、例えば、実施例は、15マイクロメートルの厚さのコーティングを適用する。欧州特許第2806493号は、その酸化物純度が90重量%まで低い可能性があることに留意している。
【0006】
しかし、これらの以前の方法は、結果的に、スラリ適用ステップ中に材料の浪費をもたらし、コーティングを全面に見境なく塗布し、良好な絶縁に十分な量の無機酸化物を適用することの難しさ、または無機酸化物の適用において、同時にセパレータの孔を塞ぐこともしくは必要以上の重量を付加することもしくは必要以上に層厚さを増大させることなく、寸法安定性を達成することの難しさを実証する。さらに、溶媒を使用することにより、健康上の危険および火災の危険がもたらされ、規制排出物が生成され得る。さらに、以前の方法は、集電体からの電気的短絡を防止する手段を示さない。したがって、依然として、リチウムイオンセルまたはバッテリの表面のうちの1つまたは複数の所望の領域に絶縁コーティングまたは寸法安定化コーティングを塗布するより良い方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0212271号明細書
【特許文献2】米国特許出願第2018/0019457号明細書
【特許文献3】欧州特許第2806493号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
熱暴走事象中の内部短絡およびセパレータの故障に対抗するリチウムイオンバッテリを製造する方法における改善の必要は、大気プラズマ堆積デバイスから、大気プラズマ中で前駆体から生成される無機酸化物粒子を、リチウムイオン電気化学セル構成要素の表面上に堆積させる、ここで開示される方法、および大気プラズマ中で生成される無機酸化物粒子の大気プラズマ堆積により作製されるそのような構成要素を含有するリチウムイオン電気化学セルにより満たされる。様々な実施形態では、大気プラズマ中で生成される無機酸化物粒子が大気プラズマ堆積により塗布される表面には、集電体の金属表面、電極コート集電体構成要素の電極表面、および/または多孔質セパレータの表面が含まれる。無機酸化物粒子は、表面の全体に亘って、または表面の全域より小さい限られた領域上に、例えば、選択された1つの領域に、もしくは選択された複数の領域に、もしくは所望のパターンで、均一にまたは非均一に堆積され得る。堆積された無機酸化物粒子は、基板の構造的安定性もしくは寸法安定性を高め、および/または電気絶縁を性もたらし、もしくは高め得る。
【0009】
様々な実施形態では、金属酸化物は、大気プラズマ中で、選択された金属酸化物の金属または選択された複数金属酸化物の複数金属の各々の適切な有機金属化合物から生成される、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ケイ素、およびこれらの組合せから成る群から選択される部材であり得る。
【0010】
一実施形態では、本方法は、大気プラズマ堆積デバイスから、大気プラズマ中で前駆体から生成される無機酸化物粒子を、金属箔集電体、電極コート金属箔集電体構成要素の電極表面、および/または多孔質セパレータの表面の金属表面上に堆積させるステップと、堆積された無機酸化物を有する、集電体、電極コート金属箔集電体構成要素、および/または多孔質セパレータをリチウムイオン電気化学セル内に組み込むステップとを含む。無機酸化物粒子は、全域上にまたは表面の全域より小さい限られた領域内に均一にまたは非均一に堆積されることが可能であり、限られた領域の場合、限られた領域は、連続領域または不連続領域であり得る。例えば、無機酸化物粒子は、あるパターンで表面上に堆積され得る。
【0011】
開示されている方法は、材料の浪費を有利に最小限にすると共に、リチウムイオンバッテリ用の構成要素の表面への金属酸化物の塗布におけるコーティング厚さおよびコーティング位置のより良好な制御を実現する。開示されている方法は、以前に用いられていた方法と比較して、より薄いコーティング、例えば1マイクロメートル未満、を塗布するのに用いられ得る。開示されている方法は、序論で前述されている先行技術のスラリコーティングにおいて使用されるものなどの、焼成により生成される酸化物粉末と対照的に、有利な重量エネルギー密度および体積エネルギー密度を有する、非常に高純度の金属酸化物粒子のコーティングを作り出す。さらに、開示されている方法は、リチウムイオンセル製造および組立て作業過程に沿って実施されることが可能であり、金属酸化物コーティングを、集電体の金属表面または電極コート金属箔集電体構成要素の電極表面上の所望の領域内に塗布することができ、これは、スラリコーティング過程およびゲルコーティング過程では、以前は知られていなかった。また、開示されている方法は、バインダを必要とせず、溶媒を使用せず、結果的に、材料コストおよびエネルギーコストの節約、ならびに製造ステップの減少をもたらすことが有利である。さらなる利点として、ここで開示されている本方法は、金属酸化物粒子を大気プラズマ堆積デバイスのプラズマ中で生成し、以前に用いられた方法に付随する微細粉末を生成することおよび取り扱うことの問題なしに、さらに非常に微細な粒子の塗布を可能にする。
【0012】
実施形態は、以下の図面および説明を参照して、より良く理解されることが可能である。図中の構成要素は、必ずしも縮尺通りとは限らず、むしろ本実施形態の原理を説明することに重点が置かれている。選択された態様の例示目的に過ぎない図面は、ありとあらゆる実装例とは限らず、本開示の範囲を限定するようには意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本方法を実施するための大気プラズマ堆積デバイスの概略図である。
【
図2】本方法により絶縁されている基板を、絶縁コーティングを有しない基板と比較するグラフである。
【
図3A】本方法による金属酸化物コーティングの大気プラズマ堆積のあるパターンの図である。
【
図3B】本方法による金属酸化物コーティングの大気プラズマ堆積のあるパターンの図である。
【
図3C】本方法による金属酸化物コーティングの大気プラズマ堆積のあるパターンの図である。
【
図3D】本方法による金属酸化物コーティングの大気プラズマ堆積のあるパターンの図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」、「少なくとも1つの」、および「1つまたは複数」が、項目の少なくとも1つが存在することを示すために、交換可能に用いられ、別段の明示がない限り、複数のそのような項目が存在し得る。添付の特許請求の範囲を含む、本明細書における(例えば、量または条件の)パラメータのあらゆる数値が、それらの数値の前に「約」が実際に出現するか否かに関わらず、「約」という用語により、いかなる場合も修正されるものと理解されるべきである。「約」は、記述された数値が多少の不正確さ(値の正確さへのいくらかの接近、値におよそまたはかなり近い、略)を許容することを示す。「約」により実現される不正確さが当該技術分野においてこの通常の意味以外に理解されない場合、本明細書において用いられている「約」は、そのようなパラメータを測定し使用する通常の方法により生じ得る少なくとも変動を示す。さらに、範囲の開示は、あらゆる値、および全範囲内でさらに分割された範囲の開示を含む。
【0015】
「大気プラズマ」は、最高約3500℃の温度および大気圧の圧力で、または、およそ大気圧の圧力で生成されるプラズマを指す。大気プラズマでは、金属酸化物粒子により達せられるピーク温度は、通常、約1200℃未満である。
【0016】
「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「含む(including)」、および「有する(having)」という用語は包含的であり、したがって、記述された特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を特定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはこれらの群の存在または追加を除外しない。本明細書において用いられる場合、「または(or)」という用語は、関連する列挙された項目のうちの1つまたは複数のありとあらゆる組合せを含む。
【0017】
「限られた領域」は、金属酸化物粒子が上に堆積される基板の面の全域未満の領域を意味する。該限られた領域は、基板の面上の連続領域または複数の不連続領域であり得る。多孔質セパレータでは、限られた領域は、セパレータの表面上の孔開口部の領域の少なくとも一部を除く、多孔質セパレータの面を意味する可能性がある。
【0018】
「粒径」は、ISO13320試験方法により決定される平均粒径を指す。
【0019】
開示されている方法の各々が、大気プラズマ堆積デバイスの大気プラズマ中で前駆体(または複数の前駆体)から金属酸化物粒子を形成するステップと、大気プラズマ堆積により、金属酸化物粒子を、リチウムイオンセル金属箔集電体の金属表面、電極コート金属箔集電体構成要素の電極表面、および/または多孔質セパレータの表面上に堆積させるステップとを含む。堆積された金属酸化物粒子でコーティングされた表面の領域は、表面積の約0.5%から最大で表面の全域までであり得る。様々な実施形態では、金属酸化物粒子は、大気プラズマ堆積により、表面の全域の約0.5%からまたは約1%からまたは約2%からまたは約3%からまたは約4%からまたは約5%からまたは約7%からまたは約10%からまたは約15%からまたは約20%からまたは約25%からまたは約30%から、最大で約50%までまたは最大で約60%までまたは最大で約70%までまたは最大で約80%までまたは最大で約90%までまたは最大で約100%までに塗布され得る。例えば、金属酸化物は、大気プラズマ堆積により、表面の全域の約1%から約100%まで、または約2%から約90%まで、または約3%から約70%まで、または約4%から約60%まで、または約5%から約50%まで、または約5%から約40%まで、または約7%から約40%までに堆積され得る。
【0020】
金属酸化物は、シリコン、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、セリウム、およびこれらの組合せから成る群から選択される部材の酸化物である。適切な金属酸化物の非制限的例には、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化セリウム(CeO2)、および酸化ケイ素(SiOx)が含まれる。酸化ジルコニウム用の適切な前駆体化合物の非制限的例には、酢酸ジルコニウム、アンモニウムジルコニウム炭酸塩溶液、ジルコニウムアセチルアセトナート、ジルコニウムn-ブトキシド、硫酸ジルコニウム(IV)四水和物、およびテトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム(IV)が含まれる。酸化セリウム用の適切な前駆体化合物の非制限的例には、塩化セリウム、硝酸セリウムの水和物(cerium nitrate hydrate)、および硫酸セリウム水和物が含まれる。二酸化チタン用の適切な前駆体化合物の非制限的例には、チタン(IV)ブトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、およびチタン(IV)オキシサルフェートが含まれる。酸化アルミニウム用の適切な前駆体化合物の非制限的例には、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム水和物、アルミニウムアセチルアセトナート、硫酸アルミニウム水和物、ジメチルアルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、トリス(ジメチルアミド)アルミニウム、硝酸アルミニウム九水和物、およびトリメチルアルミニウムが含まれる。酸化ケイ素(SiOx)用の適切な前駆体化合物の非制限的例には、テトラエチルシロキサン(TEOS)のようなテトラアルキルシロキサンまたはヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)などのヘキサアルキルジシロキサンなどの、シロキサン化合物が含まれる。
【0021】
前駆体はガスまたは蒸気として大気プラズマ中に導入される。液体の前駆体または固体前駆体の溶液が、例えば蒸発器内で、プラズマ堆積デバイス内への導入の直前に気化されてもよく、前駆体は大気プラズマ中で金属酸化物を形成する。
【0022】
プラズマノズルは、通常、作動ガスの流動を受け入れるために、および管状ハウジングの流路内に構築される電磁場内でのプラズマ流の形成を可能にするために、適切な長さの流路をもたらす金属管状ハウジングを有する。管状ハウジングは、通常、円錐形にテーパが付けられた出口ノズル内で終端し、この出口ノズルは、金属酸化物粒子を搬送するプラズマ流を表面の所望の領域に向けて方向付けるように成形されている。酸素源が供給され、それは、例えば、空気などの酸素含有作動ガス;例えば前駆体化合物用のキャリアとして、作動ガスから分離されて導入される酸素ガスまたは水蒸気などの、酸素含有ガスまたは蒸気;および/または前駆体化合物自体の中の酸素原子であり得る。直線状(ピン状)電極が、管状ハウジングの上流端部に、ノズルの流軸線に沿って、セラミック管の部位に配置され得る。プラズマ生成中、電極は、例えば約50kHzから60kHzまでの周波数で、300ボルトなどの適切な電位まで、高周波数発電機により電力を供給される。プラズマノズルの金属ハウジングは接地され、軸方向ピン電極とハウジングとの間で放電が発生し得る。発電機電圧が印加されると、印加された電圧の周波数およびセラミック管の誘電特性は、流れの入り口および電極においてコロナ放電を生成する。コロナ放電の結果として、電極先端部からハウジングへのアーク放電が形成される。このアーク放電は、作動ガス流の乱流により、ノズルの出口へ搬送される。空気(または他の作動ガス)の反応性プラズマが、比較的低い温度でかつ大気圧で形成される。金属酸化物粒子を形成する前駆体ガスまたは蒸気が、プラズマ流中に導入される。プラズマノズルの出口は、金属酸化物粒子を搬送するプラズマ流を基板の所望の領域上に方向付けるように成形されている。プラズマノズルの動きが、中央処理装置のアルゴリズムにより制御されることが可能であり、プラズマ堆積デバイスが限られた領域内に所望のコーティング厚さの金属酸化物コーティングを堆積するように、プラズマ中への前駆体蒸気流も制御され得る。
【0023】
そのような装置は、
図1に示されている。大気プラズマ堆積デバイス1は、プラズマジェット10内に配置されており、高電圧供給部3に接続されている電極8を含む。作動ガス給送部5は、高電圧電極8によって生じる電磁場に因り大気プラズマ11を形成する作動ガスを供給する。前駆体供給部6は、金属酸化物用の液体前駆体を蒸発器4へ給送する。前駆体は蒸発器4内で気化される。前駆体蒸気は、次いで、蒸気ライン3経由でプラズマノズル16へ給送され、そこで前駆体蒸気は酸化されて、プラズマ11中で活性表面を有する金属酸化物粒子を形成し、これは、次いで、大気プラズマ堆積デバイス1から、プラズマ11中で堆積されて、リチウムイオンセル表面上にコーティング15を形成する。
【0024】
金属酸化物コーティングは、約10ナノメートルから約10マイクロメートルまでの厚さ、または約30ナノメートルから約5マイクロメートルまでの厚さ、または約40ナノメートルから約3マイクロメートルまでの厚さ、または約50ナノメートルから約1マイクロメートルまでの厚さ、または約60ナノメートルから約800ナノメートルまでの厚さ、または約70ナノメートルから約800ナノメートルまでの厚さ、または約70ナノメートルから約500ナノメートルまでの厚さであり得る。
【0025】
金属酸化物コーティングは、最高で約100ボルト(直流下での絶縁破壊電圧)まで、または最高で約80ボルトまで、または最高で約50ボルトまで、または最高で約30ボルトまで、または最高で約5ボルトまで絶縁する。
【0026】
金属酸化物によりコーティングされている表面積は(構成要素の全面を含む)連続領域または不連続領域である可能性があり、金属酸化物粒子は、反復パターンで、ウェブから切り取られるリチウムイオンセル構成要素の大きさに対応する反復周波数で、基板のウェブ上に塗布され得る。大気プラズマ堆積によりその表面上に金属酸化物がコーティングされ得る例示的リチウムイオンセル構成要素には、アノード層、カソード層、集電体(金属箔)、および多孔質セパレータ基板が含まれる。限られた領域上の金属酸化物コーティングが、アノード層、カソード層、または集電体の上の絶縁領域などの、リチウムセル内に組み込まれる表面のために電気絶縁性をもたらすように選択され得る。この関連で、金属酸化物コーティングが、リチウムイオンバッテリの動作中に電気的短絡の影響を受け易いアノード層、カソード層、および/または集電体の上の領域に選択的に塗布され得る。適切な金属箔には、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、およびステンレス鋼箔が含まれる。例えば、カソード集電体がアルミニウム箔であってもよく、アノード集電体が銅箔であってもよい。表面は地金および/または電極コート金属箔集電体構成要素の電極表面であり得る。活性アノード材料の適切な例には、チタン酸リチウム(LTO)、グラファイト、ならびにシリコン、シリコン合金、SiOx、およびLiSi合金などのシリコンベースの材料が含まれるが、これらに限定されない。活性カソード材料の適切な例には、リチウムマンガンニッケルコバルト酸化物(NMC)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムニッケルコバルト酸化アルミニウム(NCA)、リン酸鉄リチウム(LFP)、ならびに他のリチウム相補的金属酸化物およびリン酸塩が含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
図2は、アルミニウム集電体基板上に大気プラズマ堆積により塗布された酸化アルミニウムコーティングの絶縁効果を示す。
図2のグラフは、3電極作動電気化学セルを使用する分極試験における対電圧の電流密度をnA/cm
2で示す。線Aは、大気プラズマ堆積された金属酸化物コーティングなしで、アルミ箔は導電性が高いままであることを示す。線Bは、大気プラズマ堆積によりコーティングされている400nmの金属酸化物層を有するアルミ箔を通る電流を測定する。線Bは、電解質の期待される分解電位である、最高で約5ボルトまでの、金属酸化物コーティングによる優れた絶縁を示す。
【0028】
一実施形態では、リチウムイオンセル基板は、多孔質セパレータ基板であり、金属酸化物層が大気プラズマ堆積により多孔質セパレータ基板の一面または両面上に塗布される。適切な多孔質セパレータが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン酸化物、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、およびエチレン-プロピレン共重合体などのポリマーで作製されており、それらは、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、マグネシウム酸化物(MgO)、またはリチウム含有材料などの微粒子セラミック材料で満たされている可能性がある。限られた領域は、多孔質セパレータの多孔性を大幅に低下させることを回避しながら全面をコーティングすることなどにより、リチウムイオンセル内に組み込まれた時の熱暴走に起因するバッテリ出火を防止するために、多孔質セパレータ基板の構造的安定性を増大させるように選択され得る。
【0029】
図3Aから
図3Dまでは、リチウムイオンセル基板が、少なくとも一面上に金属酸化物コーティングの部分コーティングを有して設けられる例示的実施形態を示す。
図3Aは、金属箔集電体の表面および/または金属箔集電体上のコーティングされた電極の表面などの表面14の縁部付近の、大気プラズマ堆積により堆積された金属酸化物コーティング領域12のストリップを示す。コーティング領域12は、リチウムイオンセル内で電気的短絡が生じる傾向があり得る領域内に絶縁をもたらす。
図3Bは、選択された多孔質セパレータ領域を全体的に覆っている、リチウムイオンセル内に組み込まれる前に個々の多孔質セパレータがそれから切り取られるセパレータ基板などの基板24上に大気プラズマ堆積により堆積された金属酸化物コーティング領域22を示す。
図3Cは、リチウムイオン電気化学セル基板34を横方向に横断する、大気プラズマ堆積により堆積された金属酸化物コーティング領域32のより細いストリップを示す。
図3Dは、金属箔集電体44上にアノードまたはカソード領域42に亘ってコーティングされている金属酸化物を示し、金属酸化物は大気プラズマ堆積により堆積されている。
【0030】
バッテリが、適切な数の個々のセルを電気的並列接続および電気的直列接続の組合せで結合することにより、ある用途のために組み立てられて、特定の電気モータの電圧要件および電流要件を満たす。電動車両用のリチウムイオンバッテリ用途では、組み立てられたバッテリは、例えば、電気的に相互接続されて、電気牽引モータに40ボルトから400ボルトまでおよび十分な電力を供給して車両を駆動する、最多で何千という個々にパッケージングされたセルを含み得る。バッテリにより生成される直流は、より効率的なモータ動作のために、交流に変換され得る。セパレータは、リチウムイオンセル用の適切な電解液で浸潤される。リチウムイオンセル用の電解液は、1つまたは複数の有機液体溶媒中に溶解されているリチウム塩であることが多い。塩の例には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、およびリチウムトリフルオロエタンスルホンイミドが含まれる。電解質塩を溶解するのに使用され得る溶媒のいくつかの例には、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、および炭酸プロピレンが含まれる。使用され得る他のリチウム塩および他の溶媒が存在する。しかし、セルの動作における適切な可動性およびリチウムイオンの輸送を実現するために、リチウム塩と液体溶媒との組合せが選択される。電解液は、電極素子の、密接して離間された層とセパレータ層との中へおよびそれらの間に慎重に分散される。
【0031】
実施形態の前述の記載は、例示および説明の目的で与えられている。網羅的であること、または本発明を限定することは、意図されていない。特定の実施形態の個々の要素または特徴は、一般的に、係る特定の実施形態に限定されず、適用可能な場合には、具体的に示されまたは説明されていない場合にも、置換え可能であり、選択された実施形態において使用され得る。また、特定の実施形態の個々の要素または特徴は、様々に変化し得る。そのようなバリエーションは、本発明からの逸脱と見なされるべきでなく、そのようなあらゆる変形は本発明の範囲内に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0032】
1 大気プラズマ堆積デバイス
3 高電圧供給部、蒸気ライン
4 蒸発器
5 作動ガス給送部
6 前駆体供給部
8 電極、高電圧電極
10 プラズマジェット
11 大気プラズマ、プラズマ
12 金属酸化物コーティング領域
14 表面
15 コーティング
16 プラズマノズル
22 金属酸化物コーティング領域
24 基板
32 金属酸化物コーティング領域
34 リチウムイオン電気化学セル基板
42 アノードまたはカソード領域
44 金属箔集電体
A、B 線
【手続補正書】
【提出日】2023-05-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書及び図面に記載の発明。
【外国語明細書】