(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096009
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】変異P53特異的siRNAを使用した標的癌治療
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20230629BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230629BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230629BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230629BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230629BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C12N15/113 110Z
C12N15/113 ZNA
A61K31/713
A61K48/00
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/7105
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023080165
(22)【出願日】2023-05-15
(62)【分割の表示】P 2020544431の分割
【原出願日】2019-02-21
(31)【優先権主張番号】10201801432S
(32)【優先日】2018-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(71)【出願人】
【識別番号】508000700
【氏名又は名称】シンガポール・ヘルス・サービシーズ・ピーティーイー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カナガ・サバパシー
(57)【要約】
【課題】p53遺伝子内の1つ又は複数の点変異を標的とするための核酸配列が本明細書に開示される。
【解決手段】特に、p53における点変異の部位は、R249、R248、R273、及びR175からなる群から選択される。また、対象の癌を処置するための方法が本明細書に開示され、この方法は、本明細書に開示される1つ又は複数の核酸配列を対象に投与することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的遺伝子内の単一点変異を標的とするための核酸配列であって、前記標的遺伝子が1つ又は複数の腫瘍抑制遺伝子であり;前記腫瘍抑制遺伝子はp53であり、前記点変異の部位は、R249(p53)、R248(p53)、R273(p53)、及びR175(p53)からなる群から選択される、核酸配列。
【請求項2】
前記点変異が、R249S(p53)、R249G(p53)、R249M(p53)、R248W(p53)、R248Q(p53)、R273H(p53)、R273L(p53)、及びR175H(p53)からなる群から選択される、請求項1に記載の核酸配列。
【請求項3】
細胞死、依存の抑止、標的遺伝子のいずれか1つ又は複数の活性化、ドミナントネガティブ効果の軽減、1つ又は複数の抗癌剤に対する感受性の増加、及び腫瘍成長の遅延又は停止からなる群から選択される効果のいずれか1つ又は複数をもたらす、請求項1又は2に記載の核酸配列。
【請求項4】
変異腫瘍抑制遺伝子の対立遺伝子を実質的にサイレンシングすることができる、請求項1~3のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項5】
前記点変異が置換変異である、請求項1~4のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項6】
RNA配列である、請求項1~5のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項7】
前記RNA配列が、低分子干渉RNA(siRNA)配列又は低分子ヘアピンRNA(shRNA)配列である、請求項6に記載の核酸配列。
【請求項8】
前記siRNA配列が15~150塩基対である、請求項7に記載の核酸配列。
【請求項9】
前記shRNA配列が、15~30塩基対の長さのステムを含む、請求項7に記載の核酸配列。
【請求項10】
配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号11、配列番号44、配列番号12、配列番号13、配列番号15、配列番号45、配列番号46、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号47、配列番号20、配列番号21、配列番号24/40/41、配列番号25/42/43、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、及び配列番号33からなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項11】
配列番号9、配列番号13、配列番号16、配列番号17、及び配列番号21からなる群から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項12】
対象の癌を処置する方法であって、請求項1~11のいずれか一項に記載の1つ又は複数の核酸配列を前記対象に投与することを含み、前記核酸配列が、標的遺伝子内の1つ又は複数の点変異部位を標的とし、前記標的遺伝子が腫瘍抑制遺伝子である、方法。
【請求項13】
前記癌が、食道、上気道、皮膚、上皮、中枢神経系、卵巣、乳房、胃-腸、大腸、小腸、結腸直腸、肝臓、腺癌、副腎腺癌、甲状腺、肺、膵臓、腎臓、子宮内膜、造血、筋肉、結合組織(腱又は軟骨など)、骨、軟部組織、リンパ組織、リンパ系、及び免疫系からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記癌が、黒色腫、骨髄腫、癌腫、肉腫、リンパ腫、芽細胞腫、及び胚細胞腫瘍からなる群から選択される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記癌が、肺癌、悪性黒色腫、結腸癌、乳癌、子宮内膜腺癌、横紋筋肉腫、腎腺癌、結腸腺癌、肝細胞癌、気管支扁平上皮癌、卵巣癌、及び膵臓腺癌からなる群から選択される、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記癌が腫瘍抑制遺伝子に依存し、前記腫瘍抑制遺伝子がp53である、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記点変異部位が、R249(p53)、R248(p53)、R273(p53)、及びR175(p53)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記点変異が、R249S(p53)、R249G(p53)、R249M(p53)、R248W(p53)、R248Q(p53)、R273H(p53)、R273L(p53)、及びR175H(p53)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記核酸配列の1つ又は複数の投与が、細胞死、依存の抑止、標的遺伝子のいずれか1つ又は複数の活性化、ドミナントネガティブ効果の軽減、1つ又は複数の抗癌剤に対する感受性の増加、及び腫瘍成長の遅延又は停止からなる群から選択される効果のいずれか1つ又は複数をもたらす、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
治療薬の投与を含む、請求項12~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記治療薬が抗癌剤である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
処置の影響を受けやすい対象を識別する方法であって、
i)標的遺伝子内の1つ又は複数の単一点変異を同定するステップであって、前記標的遺伝子が1つ又は複数の腫瘍抑制遺伝子であり;前記腫瘍抑制遺伝子はp53であり、前記1つ又は複数の点変異の部位が、R249(p53)、R248(p53)、R273(p53)、及びR175(p53)からなる群から選択される、ステップ;
ii)請求項1~11のいずれか一項に記載の1つ又は複数の核酸配列を前記対象に投与するステップであって、前記核酸配列が、前記標的遺伝子内の1つ又は複数の点変異部位を標的とする、ステップを含み、
前記標的遺伝子内の1つ又は複数の点変異の存在が、前記対象が処置の影響を受けやすいことを示す、方法。
【請求項23】
前記点変異が、R249S(p53)、R249G(p53)、R249M(p53)、R248W(p53)、R248Q(p53)、R273H(p53)、R273L(p53)、及びR175H(p53)からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容がすべての目的のために参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2018年2月21日出願のシンガポール仮特許出願第10201801432S号の優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、分子生物学の分野に関する。特に、本発明は、検出及び診断用のバイオマーカー、並びに癌の処置用のsiRNAの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
全癌ゲノム配列決定の取り組みにより、ほとんどすべての癌型にわたって多数のゲノム変化が同定されている。これにより、これらの変異の多くが、癌の発生に偶然関与している潜在的なドライバーとして同定され、関連付けられた。癌遺伝子の同定された変化のいくつかは、これらの変異を有する癌の処置において当初は大きな成功を収め、腫瘍学における精密医療の基礎をなしている、阻害分子又は遮断抗体の開発によって標的治療に供されてきた。しかしながら、標的治療用の阻害剤又は遮断抗体を使用するこのようなアプローチの1つの課題は、これらがタンパク質の変異型に対して完全には特異的ではなく、むしろその野生型(WT)の対応物で変異タンパク質の活性又は発現が高いため、変異タンパク質発現細胞ではるかに効果的である。結果として、これは、WTタンパク質を発現する複数の細胞型に対して望ましくない副作用をもたらす可能性がある。
【0004】
従って、変異タンパク質に対する理想的な薬物は、WT型に影響を全く与えることなく、変異型の機能のみに影響を与える薬物であろう。しかしながら、これまでに、そのような高い特異性を有し得る生成された薬物又は分子は存在しない。それにもかかわらず、「変異体のみ」に特異的な試薬を生成するための常用の技術は現在まで得られていない。
【0005】
精密医療の時代は、タンパク質の非常に活性な変異型に特異的な多数の薬物の開発を促してきた。当初は素晴らしい結果が得られたが、特異性に関する2つの主要な問題が残っている。まず、特定のタンパク質(多くの場合キナーゼ)に対して生成された薬物は、ほとんどの場合、他の細胞標的に影響を与える。さらに、c-Kitで示されているように、これらの薬物の多くは、タンパク質の変異型及び活性型に非常に効果的であるが、野生型の対応物にも大きな影響を与える。従って、効果的ではあるが、これらの阻害剤の野生型形態又は他の密接に関連する標的に対する影響は、望ましくない副作用を弱まらずに引き起こし、これらの試薬の有望性を低下させる。
【0006】
従って、過剰増殖性疾患の処置に使用するための野生型形態に対する交差反応性がほとんど又はまったくない、タンパク質の変異型に非常に特異的な試薬が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、標的遺伝子内の単一点変異を標的とするための核酸配列に関し、この標的遺伝子は、1つ又は複数の腫瘍抑制遺伝子であり;腫瘍抑制遺伝子はp53であり、点変異の部位は、R249(p53)、R248(p53)、R273(p53)、及びR175(p53)からなる群から選択される。
【0008】
別の態様では、本発明は、対象の癌を処置する方法に関し、この方法は、本明細書に開示される1つ又は複数の核酸配列を対象に投与することを含み、この核酸配列は、標的遺伝子における1つ又は複数の点変異部位を標的とし、この標的遺伝子は腫瘍抑制遺伝子である。
【0009】
さらに別の態様では、本発明は、処置の影響を受けやすい対象を識別する方法に関し、この方法は、i)標的遺伝子内の1つ又は複数の単一点変異を同定するステップであって、標的遺伝子は1つ又は複数の腫瘍抑制遺伝子であり;腫瘍抑制遺伝子はp53であり、1つ又は複数の点変異の部位は、R249(p53)、R248(p53)、R273(p53)、及びR175(p53)からなる群から選択される、ステップ;ii)本明細書に開示される1つ又は複数の核酸配列を対象に投与するステップであって、核酸配列は、標的遺伝子における1つ又は複数の点変異部位を標的とし、標的遺伝子における1つ又は複数の点変異の存在は、対象が処置の影響を受けやすいことを示す、ステップを含む。
【0010】
本発明は、非限定的な例と添付の図面を併せて考慮すると詳細な説明の参照でより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、様々なp53ホットスポット変異を特異的に標的とするためにsiRNA歩行(siRNA walk)によって選択されたsiRNA配列を示すデータを示す。(A)は、野生型(WT)のヌクレオチド配列を示し、いずれの場合も、それぞれのp53変異体(即ち、R175H;R248W;R249S、及びR273H)を示し、その後に各変異を標的とするために候補に挙げられたp53対立遺伝子特異的siRNA配列を示す。WT及び変異ヌクレオチド残基の両方を太字で強調表示している。pan-p53 siRNA(si-p53)及びスクランブル(scr)siRNA(si-scr)配列を下部に表示している。(B)は、(A)に示されている各siRNAについて行われた免疫ブロットの画像を示す。各siRNAを、示されたp53変異体を安定して発現する同質遺伝子H1299細胞株にトランスフェクトした。次いで、細胞溶解物を、トランスフェクションの72時間後に、抗p53抗体(DO-1)を使用して免疫ブロット法によってp53発現について分析した。温度感受性(TS)WT p53発現細胞をWT対照として使用した。特異的で改善されたノックダウン活性を示した変異特異的siRNAは、アスタリスク(「*」)で示している。少なくとも3つの独立した実験のうちの1つの代表的なブロットを示す。アクチンはローディング対照として示し、(-)は、まったくsiRNAトランスフェクトされていない細胞のみを表す。各試料について、アクチンバンド強度に対するp53の比率を計算し、si-scr対照の比率に対して正規化した。値は、正規化した倍数変化を表す。
【
図2】
図2は、内因性変異p53に対する変異特異的siRNAのサイレンシング効果を示す免疫ブロットデータを示す。パネル(A)~(D)はそれぞれ、R175H、R248W、R249S、及びR273Hに対するsiRNAの免疫ブロットの結果を示す。変異siRNAを、WT p53の発現を伴う3つの細胞株、及び示されたp53変異体を発現する3つの細胞株にトランスフェクトした。上記のように、サイレンシングの有効性を免疫ブロット法によって評価した。少なくとも3つの独立した実験のうちの1つの代表的なブロットを示す。細胞株の変異p53の状態は、ブロットの下に強調表示し、表1に記載している。
【
図3】
図3は、変異p53発現の対立遺伝子特異的サイレンシングが細胞死をもたらすことを示すフローサイトメトリーのグラフを示す。細胞内のsub-G1 DNA含量(アポトーシスを示す)のフローサイトメトリー分析により、示された細胞株で示されたsiRNAのトランスフェクションの72時間後に定量した。少なくとも3つの独立した繰り返しのうちの1つの実験からの代表的なヒストグラムを示す。sub-G1細胞のパーセンテージをヒストグラム(M1)で示す。
【
図4】
図4は、変異p53特異的サイレンシングが、変異p53発現細胞においてp53標準標的遺伝子の活性化をもたらすことを例示するヒストグラムを示す。(A)は、WT p53を発現するHCT116細胞が、4つのホットスポットp53変異体を標的とするsiRNA又は対照スクランブルsiRNA又はp53特異的siRNAで一過性にトランスフェクトされたことを示す。定量的リアルタイムPCRによる示された標的遺伝子のmRNA分析のために、細胞を72時間後に収集した。(B)は、示されたp53変異体を発現するAU565細胞株、786-O細胞株、BT549細胞株、及びASPC1細胞株を同様にトランスフェクトし、分析したことを示す。標的遺伝子の相対発現を示す。すべての実験は、GAPDHに対して正規化し、3連で行った。棒グラフは、3つの独立した実験の平均±標準偏差を示す。
*は<0.05のp値を示し、
**は<0.005のp値を示し;
***は<0.001のp値を示し、n=3試料/群である。
【
図5】
図5は、変異p53特異的shRNAの増殖抑制効果を示すデータを示す。(A)は、shRNA発現pan-p53(sh-p53)shRNA、スクランブル対照、それぞれの変異特異的shRNA、又は空ベクター(-)でトランスフェクトされた、示された細胞株の免疫ブロットを示す。48時間後に細胞を採取し、免疫ブロット法によりサイレンシングの効率を分析した。(B)は、shRNAトランスフェクションの5日後にクリスタルバイオレット溶液で染色し、視覚化された細胞コロニーの並行培養の画像を示す。少なくとも3つの独立した実験(b)のうちの1つの実験からの代表的な画像が示され、定量される。
【
図6】
図6は、変異p53特異的サイレンシングによる変異p53のドミナントネガティブ効果の軽減を示すデータを表す。(A)は、対照、pan-p53(sh-p53)、又はR248W特異的shRNA(sh-4)をトランスフェクトした、サイレンシングの有効性について上記のように分析したRKO
+/-細胞及びRKO
+/248W細胞の免疫ブロットを示す。コロニーの成長に関するデータをパネル(B)に示し、p53標的遺伝子発現分析の結果をパネル(C)に示す。シスプラチン(CDDP)処理を用いて(パネルE)又は用いずに(パネルD)細胞死を分析した。sub-G1細胞のパーセンテージ(%)をヒストグラムで示す(M1で表されている)。3つの独立した実験からの代表的なデータを示す。棒グラフは、3つの独立した実験の平均±標準偏差を示す。
**は<0.005のp値を示し;
***は<0.001のp値を示し、n=3試料/群である。
【
図7】
図7は、変異p53特異的サイレンシングがインビボで腫瘍成長を遅延させることを示すデータを提示する。変異p53特異的サイレンシングは、インビボでの腫瘍成長を遅延させる。(A)及び(B)RD、PLC-PRF5、及びH1975細胞株にスクランブルshRNA又は示された変異p53特異的shRNAを形質導入し、3日後に収集し、細胞[RD(4×l0
6)、PLC-PRF5(3×10
6)及びH1975(5×10
6)]をPBS中、75μlの細胞と75μlのマトリゲルの混合物としてSCIDマウスの側腹部に注射し、腫瘍成長を定期的に監視した。腫瘍のサイズをグラフに示す(A)。いずれの場合もエンドポイントで採取した腫瘍を、RD腫瘍のH&E又は抗p53染色に使用した(B)。値は平均+SDを表す。n=4(RD細胞及びH1975細胞の場合は群あたり)及びn=5(PLC細胞の場合)。
***は<0.001のp値を示す。
【
図8】
図8は、内因性変異p53発現に対する変異特異的siRNAのサイレンシングの有効性に関する免疫ブロットデータを示す。R175H(si-1及び2)、R248W(si-3及び4)、R249S(si-5及び6)、及びR273H(si-7及び8)に対するsiRNAを、示されたp53変異体を発現する示された細胞株にトランスフェクトし、サイレンシングの有効性を、記載されているように免疫ブロット法によって評価した。少なくとも2つの独立した実験のうちの1つの代表的なブロットを示す。細胞株の変異p53の状態は、ブロットの下に強調表示し、表1に記載している。各試料について、アクチンバンド強度に対するp53の比率を計算し、si-scr対照の比率に対して正規化した。値は、正規化した倍数変化を表す。
【
図9】
図9は、様々な変異p53発現細胞株における細胞死に対する変異特異的siRNAの効果の評価のさらなるフローサイトメトリーの結果を示す。細胞内のsub-G1 DNA含量(アポトーシスを示す)のフローサイトメトリー分析により、示された細胞株における示されたsiRNA(本明細書に記載)のトランスフェクションの72時間後に定量した。代表的なヒストグラムを示す。sub-G1細胞のパーセンテージをヒストグラムで示す(HCC1395細胞はM1、他のすべての細胞株はM2)。
【
図10】
図10は、シスプラチン処理が、変異p53サイレンシング時に細胞死を促進することに関するさらなるフローサイトメトリーデータを示す。sub-G1 DNA含量(アポトーシスを示す)のフローサイトメトリー分析を、HCT116細胞、AU565細胞、786-O細胞、BT549細胞、及びH1975細胞で行った。これらの細胞は、示されたsiRNAでトランスフェクトし、トランスフェクションの48時間後、さらに24時間後にシスプラチンで処理した。少なくとも3つの独立した繰り返しのうちの1つの実験からの代表的なヒストグラムを示す。sub-G1細胞のパーセンテージ(%)をヒストグラム(M1)で示す。
【
図11】
図11は、変異対立遺伝子発現の喪失がp53転写標的の活性化をもたらすことに関するリアルタイムPCRデータを示すヒストグラムを示す。本明細書に記載されるように、p21、Mdm2、及びNoxaなどのp53標的遺伝子のqRT-PCRを、様々なsiRNAでトランスフェクトされ、続いてシスプラチン(CDDP)を用いずに又はシスプラチンを用いて処理された、示された細胞株に対して行った。すべての実験は、GAPDHに対して正規化し、3連で行い、標的遺伝子の相対発現を示す。棒グラフは、3つの独立した実験の平均±標準偏差を示す。
*は<0.05のp値を示し;
**は<0.005のp値を示し;
***は<0.001のp値を示し、n=3試料/群である。
【
図12】
図12は、対立遺伝子特異的変異p53特異的shRNAが細胞死を誘導し、同じ残基での様々な変異ヌクレオチドに対して有効であることを示すデータを示す。(A)は、トランスフェクションの72時間後に行われた、示されたshRNAでトランスフェクトされた、示された細胞株におけるsub-G1 DNA含量(アポトーシスを示す)のフローサイトメトリー分析の結果のヒストグラムを示す。代表的なヒストグラムは、3つの独立した実験の平均±標準偏差を示す。(B)~(D)は、示されたshRNAでトランスフェクトされ、変異p53発現(B)、コロニーの成長(C)、及びCDDP処理の非存在下又は存在下でのアポトーシス(D)について分析された、R248Q変異p53を発現するHEC1A細胞からのデータを示す。3つの独立した実験のうちの1つからの代表的な結果を示す。棒グラフは、3つの独立した実験の平均±標準偏差を示す。sh-4は、R248特異的siRNAである。
【
図13】
図13は、変異p53特異的サイレンシングによる変異p53のドミナントネガティブ効果の軽減を例示するデータを示す。HCT116+/-細胞及びHCT116+/R248W細胞に、対照、pan-p53(sh-p53)、又はR248W特異的shRNA(sh-4)をトランスフェクトし、サイレンシングの有効性(A)、コロニーの成長(B)、及びp53標的遺伝子発現(C)について説明したように分析した。シスプラチン(CDDP)処理を用いて(パネルE)又は用いずに(パネルD)細胞死を分析した。sub-G1細胞のパーセンテージ(%)をヒストグラムで示す(M1で表される)。3つの独立した実験からの代表的なデータを示す。棒グラフは、3つの独立した実験の平均±標準偏差を示す。
*は<0.05のp値を示し;
**は<0.005のp値を示し;
***は<0.001のp値を示し、n=3試料/群である。
【
図14】
図14は、様々なR249変異に対するsiRNA-6の有効性を表すデータを示す。(A)は、ヒトの癌のp53のR249の位置に見られる様々な可能な変異、及び可能な各アミノ酸のヌクレオチド配列を示す表を示す。従って、R249は、R249S、R249G、及びR249Mに変異させることができる。(B)は、変異の数として、ヒトの癌における様々なR249変異の頻度を示す様々なヒストグラムを示す。(C)は、免疫ブロット分析の結果を示す。si-6及び対照sip53及びsi-scr siRNAを、H1299細胞株にトランスフェクトし、このH1299細胞株は、24時間後に様々なR249変異cDNA構築物又はWT p53構築物で同時トランスフェクトした。次いで、細胞溶解物を、抗p53抗体(DO-1)を使用して、siRNAトランスフェクションの72時間後に免疫ブロット法によってp53発現について分析した。少なくとも2つの独立した実験のうちの1つの代表的なブロットを示す。アクチンはローディング対照として示し、(-)は、まったくsiRNAトランスフェクトされていない細胞のみを表す。
【
図15】
図15は、様々なR273変異に対するsiRNA-8の有効性を表すデータを示す。(A)は、ヒトの癌におけるp53のR273の位置に見られる様々な可能な変異、及び可能な各アミノ酸のヌクレオチド配列を示す表である。従って、R273は、R273H及びR273Lに変異させることができる。(B)は、変異の数として、ヒトの癌における様々なR273変異の頻度を示す様々なヒストグラムを示す。(C)は、免疫ブロット分析の結果を示す。si-8及び対照sip53及びsi-scr siRNAをH1299細胞株にトランスフェクトし、このH1299細胞株は、24時間後に様々なR273変異cDNA構築物又はWT p53構築物で同時トランスフェクトした。次いで、細胞溶解物を、抗p53抗体(DO-1)を使用して、siRNAトランスフェクションの72時間後に免疫ブロット法によってp53発現について分析した。少なくとも2つの独立した実験のうちの1つの代表的なブロットを示す。アクチンはローディング対照として示し、(-)は、まったくsiRNAトランスフェクトされていない細胞のみを表す。
【
図16】
図16は、変異p53特異的サイレンシングが、変異p53発現細胞におけるp53標準標的遺伝子の活性化をもたらすことを例示するヒストグラムを提供する。(A)は、si-8及び対照スクランブルsiRNA又はp53特異的siRNA対照siRNAのトランスフェクションの24時間後にR273L及びR273H p53変異cDNAでトランスフェクトしたH1299細胞のヒストグラムを示す。定量的リアルタイムPCRによる示された標的遺伝子のmRNA分析のために、siRNAトランスフェクションの72時間後に細胞を収集した。(B)は、同様に、si-6及び対照スクランブルsiRNA又はp53特異的siRNA対照siRNAと共にR249G、R249M、又はR249S p53変異cDNAをトランスフェクトしたH1299細胞のヒストグラムを示す。定量的リアルタイムPCRによる示された標的遺伝子のmRNA分析のために、siRNAトランスフェクションの72時間後に細胞を収集した。(C)は、si-2、si-4、si-6、si-8、及び対照スクランブルsiRNA又はp53特異的siRNAと共にWT p53 cDNAをトランスフェクトしたH1299細胞のヒストグラムを示す。定量的リアルタイムPCRによる示された標的遺伝子のmRNA分析のために、siRNAトランスフェクションの72時間後に細胞を収集した。標的遺伝子の相対発現を示す。すべての実験は、GAPDHに対して正規化し、3連で行った。
【
図17】
図17は、同じアミノ酸内の変異に対する変異p53特異的siRNAの有効性をまとめた表を示す。Yはyesを表す(言い換えると、siRNAは列記された変異を標的とするのに効果的である)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
Tp53の変異は、機能的野生型対立遺伝子に対するドミナントネガティブ効果;又は癌細胞が依存することになる変異p53によってもたらされる生存上の利点の結果として、のいずれかによって治療反応を低下させる。従って、変異p53を標的とすることは、すべての癌の半分を超える効果的な標的治療を表す。p53ホットスポット変異を標的とすることができる一連の低分子干渉RNAが生成された。これらの変異p53特異的siRNA(MupSi)は、野生型p53に影響を与えることなく、目的の変異の発現を抑制するのに非常に特異的である。理論に拘束されることなく、これらのMupSiは、機能的に、変異p53への依存及びドミナントネガティブ効果の両方を無効にすることによって細胞死を誘発し;治療環境で投与した場合、異種移植片における腫瘍成長を遅延させると考えられている。
【0013】
従って、一例では、標的遺伝子内の単一点変異を標的とするための核酸配列が開示される。別の例では、標的遺伝子は、1つ又は複数の腫瘍抑制遺伝子である。さらに別の例では、腫瘍抑制遺伝子はp53である。
【0014】
機能的に、そして理論に束縛されることなく、これらの変異p53特異的siRNAは、変異p53への依存及びドミナントネガティブ効果の両方を抑止することによって細胞死を誘発し;治療環境で投与した場合、異種移植片における腫瘍成長を遅らせ、変異特異的siRNAを生成して、治療反応を改善するために効果的に使用できる、広く適用可能であり得る戦略を実証している。
【0015】
一例では、核酸配列は、限定されるものではないが、細胞死、依存の抑止、標的遺伝子のいずれか1つ又は複数の活性化、ドミナントネガティブ効果の軽減、1つ又は複数の抗癌剤に対する感受性の増加、及び腫瘍成長の遅延又は停止のいずれか1つ又は複数をもたらす。別の例では、核酸配列は、変異腫瘍抑制遺伝子の対立遺伝子を実質的に抑制することができる。別の例では、本明細書に開示される核酸配列は、変異抑制遺伝子の対立遺伝子を抑制する。さらに別の例では、本明細書に開示される核酸配列は、対応する野生型対立遺伝子に影響を与えることなく、変異抑制遺伝子の対立遺伝子を抑制する。
【0016】
本明細書で使用される「変異」又は「変異した」又は「遺伝子変化」という用語は、任意の生物、ウイルス、又は染色体外遺伝因子のゲノム又は核酸配列の一部の天然又は人工的な改変又は遺伝子変化を指す。この変異は、限定されるものではないが、化学物質及び放射線を使用して人工的に誘導することができるが、細胞分裂における核酸複製中に自然に生じ得る。変異は、生物の観察可能な特性(表現型)に識別可能な変化をもたらすこともあるし、もたらさないこともある。知られている様々な種類の変異があり、これらは小規模な変異又は大規模な変異のいずれかであり得る。小規模な変異の例としては、限定されるものではないが、置換変異、サイレント変異、ミスセンス変異、ナンセンス変異、挿入、及び欠失が挙げられる。大規模変異の例としては、限定されるものではないが、増幅、欠失、染色体転座、中間部欠失、染色体逆位、及びヘテロ接合性の消失をもたらす変異が挙げられる。変異は、結果として生じる産物の機能に対するそれらの影響によって分類することもできる。これらには、限定されるものではないが、機能喪失(不活性化)変異、機能獲得(活性化)変異、ドミナントネガティブ(アンチモルフ)変異、致死変異、及び復帰変異(back mutation)又は復帰変異(reverse mutation)が含まれる。例えば、単一塩基修飾としても知られている点変異は、遺伝物質、DNA、又はRNAの単一ヌクレオチド塩基の置換、挿入、又は欠失を引き起こすタイプの変異である。「フレームシフト変異」という用語は、塩基対の付加又は欠失を指す。
【0017】
本明細書で使用される「ホットスポット変異」という用語は、統計的に高い変異する傾向を示すDNA配列内の領域又は部位を指す。このような非常に頻繁な変異は、例えば、すべての癌の種類におけるp53遺伝子で確認することができる。一例として、p53遺伝子内には6つの部位が見られる。これらのホットスポット変異部位には、R175、R248、R249、及びR273が含まれる。一例では、点変異の部位は、限定されるものではないが、R249(p53)、R248(p53)、R273(p53)、及びR175(p53)である。
【0018】
従って、一例では、変異は点変異である。別の例では、点変異は置換変異である。さらに別の例では、変異はホットスポット変異である。
【0019】
別の例では、点変異は、限定されるものではないが、R175H(p53)、R248W(p53)、R273H(p53)、R249S(p53)、及びそれらの組み合わせである。別の例では、点変異は、限定されるものではないが、R249S(p53)、R249G(p53)、R249M(p53)、R248W(p53)、R248Q(p53)、R273H(p53)、R273L(p53)、及びR175H(p53)である。
【0020】
癌における変異遺伝子の中で、腫瘍抑制遺伝子Tp53(以下、p53と呼ぶ)の変異は、最も高い頻度で起こり、癌が発生するにはその機能を無効にしなければならない重要なゲートキーパー遺伝子としての地位を固めている。p53の変異は、その393残基のほぼすべてで発生する可能性があり、これらの変異は、複数の方法で腫瘍発生に影響を与える。まず、生殖細胞系のp53の変異は、Li-Fraumeni症候群及び多数のモデル生物で例証されているように癌の素因をもたらす。さらに、p53の変異は、変異型の発現を低下させることによって改善することができる、残りの野生型タンパク質に対する変異タンパク質のドミナントネガティブ(DN)効果に起因する場合が多い、療法に対する反応の悪さに関連している。最後に、癌細胞は、生存及び転移のために変異p53の存在に依存している場合が多く、変異p53の後天性機能獲得(GOF)の多くを抑止すると、依存及び転移を減少させることができ、これによりインビボで腫瘍細胞死及び腫瘍負荷を誘発する。しかしながら、GOF自体はすべてのp53変異体の中で普遍的な現象ではないようである。
【0021】
従って、治療の観点から、変異p53は、癌を処置するための主要な標的であると期待されるであろう。しかしながら、変異p53を標的とする試薬を開発することに関心がないのは、p53が「アンドラッガブル(創薬不可能な)」転写因子であると考えられているという事実に由来する。この考えは、p53標的剤の開発の進展を妨げてきた。さらに、最近、すべての変異が形態及び機能が等しいわけではないこと、並びに変異p53を標的とするには、様々なp53変異体を選択的に標的とすることができる単剤とは対照的に、大量の分子が必要になるであろうことが示された。さらに、効果的であるためには、これらの分子のすべてが野生型形態の機能に影響を与えてはならない。従って、創薬に使用されている現在の技術は、適用されておらず、変異p53を標的とすることにも成功していない。
【0022】
低分子干渉RNA(siRNA)は、それらの発現をうまく抑制するために多数の標的用に開発されており、本明細書に示されるように、様々な変異p53を標的とするための手段と見なすことができる。しかしながら、単一ヌクレオチドの変化を認識できるsiRNAが、意図した標的の野生型の対応物に影響を与えることなく、主に単一ヌクレオチドの変化を標的とする特異性を達成できないことが原因で日常的に生成されていない。これらの技術は、同じ遺伝子の複数の遺伝子変化のための試薬を生成する際に日常的には利用されていない。従って、例えばp53の6つのホットスポット変異に特異的なsiRNAを生成する可能性が検討されている。本明細書で提供されるデータは、そのような変異p53特異的siRNA(MupSiと呼ばれる)の生成を実証し、他の変異体又は野生型タンパク質に対する交差反応なしに、目的の変異p53型の発現を選択的にサイレンシングする際のそれらの有用性を実証する。さらに、これらのsiRNAは、変異p53のドミナントネガティブ(DN)活性が野生型よりも改善されることを実証するために使用されており、これにより腫瘍細胞を治療処置に対して敏感にさせる。さらに、これらのsiRNAはまた、生存のために変異p53への癌細胞の依存を抑止し、変異p53を発現する腫瘍細胞の細胞死をもたらす。最後に、siRNAは治療薬として使用することができ、副作用も臓器毒性も有することなく、インビボで腫瘍成長を遅延させることができることが示されている(データは示していない)。このような変異p53特異的siRNA(MupSiと呼ばれる)の生成が本明細書に示されている。さらに、目的の変異p53型の発現を選択的にサイレンシングする能力が、他の変異体又は野生型タンパク質に対する交差反応なしに実証される。さらに、これらのRNAは、変異p53のドミナントネガティブ(DN)活性を野生型よりも改善し、これにより変異腫瘍細胞が治療処置に敏感になることが示されている。さらに、これらのRNAはまた、生存のための変異p53への癌細胞の依存を抑止し、変異p53を発現している腫瘍細胞の細胞死をもたらすことも示されている。最後に、これらのRNAは治療薬として使用することができ、いかなる副作用も臓器毒性ももたらすことなく、インビボで腫瘍成長を遅延させることができることが示されている。まとめると、このデータは、変異特異的RNA、例えばsiRNAを日常的に生成できること、及びこれらの変異特異的siRNAが癌の処置に有効であることを実証している。
【0023】
「RNAi」という用語は、RNA分子が遺伝子機能を阻害するプロセスであるRNA干渉を指す。この干渉は、対応する塩基配列を有する遺伝子の発現を干渉又は抑制する二本鎖RNAの能力に基づいている。例えば、2種類の低分子リボ核酸(RNA)分子-マイクロRNA(miRNA)及び低分子干渉RNA(siRNA)は、RNA干渉にとって重要である。RNA分子(又はRNA)は、遺伝子の直接の産物であり、これらの低分子RNAは、例えば他の特定のメッセンジャーRNA(mRNA)分子に結合することができ、それにより、例えばmRNAがタンパク質を産生するのを防止することによって、それらの活性を高めるか又は弱める。
【0024】
本明細書で使用される「RNA」、即ち「リボ核酸」という用語は、糖がリボース(又はその変形)であり、塩基がアデニン、シトシン、グアニン、及びウラシルである長いヌクレオチド鎖からなる有機分子を指す。本開示では、「siRNA」及び「shRNA」という用語は、RNA干渉(RNAi)の概念を使用して機能する二本鎖RNA分子のクラスを指す。siRNAとshRNAの違いは2次構造にある。なぜなら、shRNAが、その2次構造に急なヘアピンターンが存在するためにそのように呼ばれているからである。
【0025】
従って、一例では、本明細書に開示される核酸配列は、低分子干渉RNA(siRNA)配列又は低分子ヘアピンRNA(shRNA)配列である。別の例では、核酸配列はsiRNAである。さらに別の例では、核酸配列はshRNAである。
【0026】
一例では、siRNA配列は、15~150塩基対、60~100塩基対、70~120塩基対、約60塩基対、約65塩基対、約70塩基対、約75塩基対、約80塩基対、約85塩基対、約90塩基対、約95塩基対、約100塩基対、約105塩基対、又は約110塩基対の長さである。別の例では、siRNA配列は、少なくとも15塩基対、少なくとも20塩基対、少なくとも25塩基対、少なくとも30塩基対、少なくとも35塩基対、少なくとも40塩基対、少なくとも45塩基対、又は少なくとも50塩基対の長さである。
【0027】
別の例では、shRNA配列は、15~30塩基対、19~29塩基対、15~20塩基対、20~30塩基対、約18塩基対、約19塩基対、約20塩基対、約21塩基対、約22塩基対、約23塩基対、約24塩基対、約25塩基対、約26塩基対、約27塩基対、約28塩基対、約29塩基対、又は約30塩基対の長さのステムを含む。
【0028】
さらに別の例では、開示される核酸配列は、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号11、配列番号44、配列番号12、配列番号13、配列番号15、配列番号45、配列番号46、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号47、配列番号20、配列番号21、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、又は配列番号33の配列のうちの1つを含む。
【0029】
まとめると、本明細書、例えば本明細書に開示される
図2A~
図2Dに示されるデータは、広範なスクリーニングにより、単一ヌクレオチド変化に対して非常に特異的且つ選択的であるsiRNAを再現可能に生成することが可能であることを示す。従って、一例では、本明細書に開示される核酸配列は、配列番号9、配列番号13、配列番号16、配列番号17、又は配列番号21の配列のうちの1つを含む。
【0030】
一例では、本明細書に開示される核酸配列は、配列番号8(R175H Si-1-R175H)、配列番号9(R175H Si-2-R175H)、配列番号12(R248W/Q Si-3-R248W/R248Q)、配列番号13(R248W/Q Si-4-R248W/R248Q)、配列番号16(R249S/M/G Si-5-R249S/R249M/R249G)、配列番号17(R249S/M/G Si-6-R249S/R249M/R249G)、配列番号20(R273H/L Si-7-R273H/R273L)、又は配列番号21(R273H/L Si-8-R273H/R273L)の配列のうちの1つを含む。
【0031】
さらに別の例では、本明細書に開示される核酸配列は、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、又は配列番号33の配列のうちの1つを含む。
【0032】
別の例では、本明細書に開示される核酸配列は、配列番号26及び配列番号27;配列番号28及び配列番号29;配列番号30及び配列番号31;又は配列番号32及び配列番号33の配列対の1つを含む。
【0033】
さらなる例では、一例では、本明細書に開示される核酸配列は、配列番号9、配列番号13、配列番号16、配列番号17、又は配列番号21の配列のうちの1つを含む。
【0034】
一例では、核酸配列は配列番号2である。別の例では、核酸配列は配列番号3である。一例では、核酸配列は配列番号4である。一例では、核酸配列は配列番号5である。一例では、核酸配列は配列番号36である。一例では、核酸配列は配列番号37である。一例では、核酸配列は配列番号38である。一例では、核酸配列は配列番号39である。一例では、核酸配列は配列番号7である。一例では、核酸配列は配列番号8である。一例では、核酸配列は配列番号9である。一例では、核酸配列は配列番号11である。一例では、核酸配列は配列番号44である。一例では、核酸配列は配列番号12である。一例では、核酸配列は配列番号13である。一例では、核酸配列は配列番号15である。一例では、核酸配列は配列番号45である。一例では、核酸配列は配列番号46である。一例では、核酸配列は配列番号16である。一例では、核酸配列は配列番号17である。一例では、核酸配列は配列番号19である。一例では、核酸配列は配列番号47である。一例では、核酸配列は配列番号20である。一例では、核酸配列は配列番号21である。一例では、核酸配列は配列番号26である。一例では、核酸配列は配列番号27である。一例では、核酸配列は配列番号28である。一例では、核酸配列は配列番号29である。一例では、核酸配列は配列番号30である。一例では、核酸配列は配列番号31である。一例では、核酸配列は配列番号32である。一例では、核酸配列は配列番号33である。
【0035】
一例では、核酸配列は、配列番号24(AAGCTTT)、配列番号40(TTCAAGAGA)、及び配列番号41(TTTTTTA)を含み、これにより、この核酸配列は次の構造を有する:5’-AAGCTTTN(19-29)(センス配列)TTCAAGAGAN(19-29)(アンチセンス配列)TTTTTTA-3’。これは、例示的なshRNA上部オリゴヌクレオチドであり、各オリゴヌクレオチドの前及び末端に示される(N(19-29)と呼ばれるsiRNA配列以外の)ヌクレオチドは制限酵素切断部位用である。中央配列(この例では、TTCAAGAGA)は、ステムループの形成用である。
【0036】
別の例では、核酸配列は、配列番号25(AGCTTAAAAA)、配列番号42(TCTCTTGAA)、及び配列番号43(GGG)を含み、これにより、この核酸配列は次の構造を有する:5’-AGCTTAAAAAN(19-29)(センス配列)TCTCTTGAAN(19-29)(アンチセンス配列)GGG-3’。これは、例示的なshRNA下部オリゴヌクレオチドであり、各オリゴヌクレオチドの前及び末端に示される(N(19-29)と呼ばれるsiRNA配列以外の)ヌクレオチドは制限酵素切断部位用である。中央配列(この例では、TCTCTTGAA)は、ステムループの形成用である。
【0037】
本明細書で提示される結果は、非常に特異的であり、且つ1つのヌクレオチド変化を区別することができるsiRNAを実際に定期的に生成することができることを実証し、4つのp53ホットスポット変異を標的とする際にそれらの有用性を明らかにしている。これらの4つのp53変異体は、癌に見られるすべてのp53変異体の約20%を占め、従って、すべての癌の約10%を標的にする可能性を表している。変異p53を標的にすると、ヘテロ接合性細胞の野生型p53タンパク質に影響を及ぼさず、この野生型p53タンパク質が細胞死を誘導するように機能することが可能になるため化学感受性が改善される。さらに、変異p53のみを発現する癌細胞における変異p53発現の抑止は、ヘテロ接合性の喪失により野生型p53対立遺伝子が失われる癌の後期段階でしばしば見られ、単剤療法として使用した場合でも、インビボでの腫瘍成長を遅らせた。このデータは、これらのp53変異特異的siRNAの治療的使用を明らかにしており、その効果は、他の化学療法剤や放射線療法と組み合わせてさらに強化できるであろう。従って、これらのデータは、臨床的利益のために変異p53を直接標的とする弾みを与え、これは、すぐに臨床の場に取り入れられるであろう。
【0038】
変異p53は、すべての癌で最も変異した遺伝子であり、重要なことに、すべての変異が同様に振る舞うわけではなく、従って、変異のそれぞれを標的とする選択的薬剤を必要とするため、ヌクレオチド特異的siRNAを実証するためにこの変異p53を選択した。さらに、変異p53を標的とすることは、腫瘍細胞の増殖及び転移を遅延させ、一般的な細胞毒性薬に対する感受性を向上させるための巨大な未開拓の経路を意味するため、ほとんどの癌型に対して適用性が見出されるであろう。同様に、変異p53と共に特異的siRNAで他のドライバー癌遺伝子を標的とすることは、治療効果を高めると考えられるため、各癌型の主要な遺伝子変化に対するsiRNAのカクテルの使用は、臨床現場でも可能である。
【0039】
従って、一例では、対象の癌を処置する方法が開示される。別の例では、方法は、本出願に記載される1つ又は複数の核酸配列を対象に投与することを含む。さらに別の例では、核酸配列は、標的遺伝子内の1つ又は複数の点変異を標的とする。別の例では、標的遺伝子は、1つ又は複数の腫瘍抑制遺伝子である。さらに別の例では、方法は、本明細書に開示される1つ又は複数の核酸配列を対象に投与することを含み、この核酸配列は、標的遺伝子内の1つ又は複数の点変異を標的とし、この標的遺伝子は腫瘍抑制遺伝子である。また、対象の癌を処置するための薬剤の製造における、本明細書に開示される1つ又は複数の核酸配列の使用も本明細書に開示される。さらに、治療における本明細書に開示される核酸配列の1つ又は複数の使用も本明細書に開示される。別の例では、本明細書に開示される核酸配列は治療で使用するためのものである。
【0040】
本明細書で使用される「処置する」若しくは「処置」という用語は、弱った状態及び/若しくは不健康な状態の発症を防止するために予防的に作用するのに十分な、薬学的有効量若しくは治療有効量の、例えば、核酸、タンパク質、若しくはそのそれぞれの医薬組成物若しくは薬剤を提供すること;並びに/又は疾患状態及び/若しくは疾患状態の症状、弱った状態及び/若しくは不健康な状態を緩和又は解消するのに十分な量の医薬組成物若しくはその薬剤を対象に提供することを指すものとする。当技術分野で知られているように、所与の組成物の薬学的有効量は、投与経路にも依存するであろう。一般に、必要な量は、投与が、例えば、胃腸管を介する場合(例えば、坐剤による、直腸、又は胃内プローブによる場合)はより高く、投与経路が非経口的、例えば、静脈内である場合はより低くなるであろう。
【0041】
ヒトの癌で高度に現れる様々なp53変異体に非常に特異的であるsiRNAの生成及び特徴付けが示されている。このデータは、適切な送達メカニズムによる臨床評価のために直接変換される。
【0042】
一例では、核酸配列の1つ又は複数の投与は、限定されるものではないが、細胞死、標的遺伝子のいずれか1つ又は複数への依存の抑止、ドミナントネガティブ効果、1つ又は複数の抗癌剤に対する感受性の増加、及び腫瘍成長の遅延又は停止を含む、1つ又は複数の効果をもたらす。別の例では、開示された核酸配列は、治療薬と共に投与される。
【0043】
本明細書で使用される「治療薬」という用語は、対象に適切に投与された場合に所望の治療効果を誘発することができる化学化合物又は組成物を指す。例えば、糖尿病治療薬は、例えば、対象の糖尿病を処置するために投与されるという点で、治療薬と見なされる。従って、一例では、本明細書に開示される方法は、治療薬の投与を含む。別の例では、治療薬は、抗癌剤である。別の例では、抗癌剤は、10-ヒドロキシカンプトテシン、アブラキサン、アセジアスルホン、アクラルビシン、塩酸アクラビン、アンバゾン、アムサクリン、アミノグルテチミド、アナストロゾール、塩酸アンシタビン、L-アスパラギナーゼ、アザチオプリン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ブスルファン、ホリナートカルシウム、カルボプラチン(carbop latin)、カルペシタビン、カルムスチン、セレコキシブ、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、コルヒチン、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダプソン、ダウノルビシン、ジブロムプロパミジン、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドキソルビシン、エメチン、エンジイン、エピルビシン、エポチロンB、エポチロンD、エストラムシンリン酸(estramucin phosphate)、エストロゲン、エチニルエストラジオール、エトポシド、エピルビシン塩酸塩、フェソロデックス、フラボピリドール、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、5-フルオロウラシル、フルオキシメステロン、フルタミド、フォスフェストロール、フラゾリドン、ガンボギン酸アミド、ガンボギン酸、ゲムシタビン、ゴナドトロピン放出ホルモン類似体、ハーセプチン、ヘキサメチルメラミン、ヒドロキシカルバミド、ヒドロキシメチルニトロフラントイン、ヒドロキシプロゲステロンカプロエート、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イドクスウリジン、イホスファミド、インターフェロンγ(INF-γ)、イリノテカン、イマチニブ、イリノテカン、レトロゾール、ロイプロリド、ロムスチン、ルルトテカン、硫酸マフェニドオラミド、メクロレタミン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メガストロール(megastrolacetate)、メルファラン、メパクリン、メルカプトプリン、メトトレキセート、メトロニダゾール、マイトマイシンC、ミトキサントロン塩酸塩、ミトポドジド、ミトタン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、ナリジクス酸、ニフラテル、ニフロキサジド、ニフララジン、ニフルチモックス、ニムスチン、ニノラゾール、ニトロフラントイン、ナイトロジェンマスタード、オレオムシン(oleomucin)、オキソリン酸、オキサリプラチン、ウアバイン、ペンタミジン、ペントスタチン、フェナゾピリジン、フタリルスルファチアゾール、酢酸フェニル水銀、ピクロポドフィロトキシン、ピポブロマン、プレドニムスチン、プレドニゾン、プレウシン、プリスチメリン、プロカルバジン、ピリメタミン、キナクリン塩酸塩、ラルチトレキセド、ラパマイシン、ロテノン、ロフェコキシブ、ロシグリタゾン、ラロキシフェン、サラゾスルファピリジン、塩化スクリフラビニウム(scriflavinium chloride)、セムスチンストレプトゾシン、スルファカルバミド、スルファセタミド、スルファクロピリダジン、スルファジアジン、スルファジクラミド、スルファジメトキシン、スルファエチドール、スルファフラゾール、スルファグアニジン、スルファグアノール、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、コトリモキサゾール、スルファメトキシジアジン、スルファメトキシピリダジン、スルファモキソール、スルファニルアミド、スルファペリン、スルファフェナゾール、スルファチアゾール、スルフィソミジン、スタウロスポリン、タモキシフェン、タキソール、テモゾリミド、テニポシド、テルチポシド、テストラクトン、プロピオン酸テストステロン、チメロサール、チオグアニン、チオテパ、イミダゾール、トポテカン、トラスツズマブ、トリアジクオン、トレオスルファン、トリメトプリム、トロホスファミド、UCN-01、ビンブラスチン、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン、ビンクリスチン硫酸塩、ビンデシン、ビノレルビン、及びゾルビシン、又はそれらの各誘導体又は類似体からなる群から選択される。一例では、化学療法剤は、限定されるものではないが、シスプラチン、エトポシド、アブラキサン、トラスツズマブ、ゲムシタビン、イマチニブ、イリノテカン、オキサリプラチン、ボルテゾミブ、メトトレキセート、クロラムブシル、ドキソルビシン、ダカルバジン、シクロホスファミド、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、ビンクリスチン、ドセタキセル、ビノレルビン、エポチロンB、ゲフィチニブ、及びそれらの組み合わせである。別の例では、抗癌剤は、限定されるものではないが、シスプラチン、エトポシド、アブラキサン、トラスツズマブ、ゲムシタビン、イマチニブ、イリノテカン、オキサリプラチン、ボルテゾミブ、メトトレキセート、クロラムブシル、ドキソルビシン、ダカルバジン、シクロホスファミド、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、ビンクリスチン、ドセタキセル、ビノレルビン、ゲフィチニブ、エポチロンB、及びそれらの組み合わせである。
【0044】
従って、本明細書に開示される方法は、過剰増殖性疾患、例えば癌を処置するために使用することができる。一例では、癌は、限定されるものではないが、食道、上気道、皮膚、上皮、中枢神経系、卵巣、乳房、胃-腸、大腸、小腸、結腸直腸、肝臓、腺癌、副腎腺癌、甲状腺、肺、膵臓、腎臓、子宮内膜、造血、筋肉、結合組織(腱又は軟骨など)、骨、軟組織、リンパ組織、リンパ系、及び免疫系を含む哺乳動物の体の臓器及び部位にある、又はそれらを起源とすることが分かっている。別の例では、癌の種類は、限定されるものではないが、黒色腫、骨髄腫、癌腫、肉腫、リンパ腫、芽細胞腫、及び胚細胞腫瘍である。別の例では、癌は、限定されるものではないが、肺癌、悪性黒色腫、結腸癌、乳癌、子宮内膜腺癌、横紋筋肉腫、腎腺癌、結腸腺癌、肝細胞癌、気管支扁平上皮癌、卵巣癌、及び膵臓腺癌である。
【0045】
別の例では、癌は、限定されるものではないが、A549、A375、HCT116、RKO、AU565、SKBR3、HCC1395、HEC 1A、RD、786-O、COLO-320DM、PLC-PRF/5、KNS-62、BT549、ASPC1、WiDR1、及びH1975を含む癌細胞株である。別の例では、癌は、腫瘍抑制遺伝子の1つ又は複数に依存している。さらに別の例では、腫瘍抑制遺伝子はp53である。さらなる例では、癌は、腫瘍抑制遺伝子に依存し、この腫瘍抑制遺伝子はp53である。
【0046】
本明細書に提示される結果は、特異的であり、1つのヌクレオチド変化を区別することができるsiRNAは、実際に定期的に生成できることを実証し、4つのp53ホットスポット変異を標的とする際のそれらの有用性を明らかにしている。本明細書に開示される4つのp53変異体は、癌に見られるすべてのp53変異体の約20%を占め、それらを標的とすることは、すべての癌の約10%を標的とする可能性を表している。変異p53を標的とすると、ヘテロ接合性細胞の野生型p53タンパク質にほとんど又はまったく影響を及ぼさず、この野生型p53タンパク質が細胞死を誘導するように機能することが可能になるため化学感受性が改善される。さらに、変異p53のみを発現する癌細胞における変異p53発現の抑止は、ヘテロ接合性の喪失により野生型p53対立遺伝子が失われる癌の後期段階でしばしば見られ、単剤療法として使用した場合でも、インビボでの腫瘍成長を遅らせた。このデータは、本明細書に開示されるRNA構築物によって提供される治療の可能性を明らかにしており、その効果は、他の化学療法剤又は放射線療法と組み合わせてさらに増強することができるであろう。従って、本明細書に示されるデータはまた、変異p53を標的とすることが臨床的利益を直接有し、これが臨床の場に取り入れられるであろうことも実証している。
【0047】
RNA、例えばsiRNAは、遺伝子発現をサイレンシングするための生成に成功しており、研究で広く使用されており、臨床の場にも取り入れられている。これらのsiRNAのほとんどは、他の関連遺伝子との交差反応なしに、遺伝子全体(タンパク質)を標的にする。しかしながら、疾患の状態で見られる単一ヌクレオチドの変化を見分けることができるsiRNAの生成については、数例しか存在しない。単一のヌクレオチドに対していくつかの特異性を有するように生成されたsiRNAは、R248W変異p53に対するsiRNAを含む。これらは、レポーターアッセイ及び過剰発現系において比較的特異的であることが示されているが、野生型タンパク質とのあるレベルの交差反応がしばしば指摘されている。さらに、siRNAの多くは、それらの特異性を明確に立証するべく多数の細胞株で試験されていない。これらの因子は、ヌクレオチドレベルで特異性を示し、p53のように通常の生理機能の多数のプロセスに影響を与える重要な遺伝子に使用できるsiRNAを得る際の大きな課題を明らかにしている。本明細書に示されているデータは、特にsiRNA配列におけるいくつかのヌクレオチドの加算又は減算の影響により大きな違いが生じ得るため、非常に特異的なsiRNAを得る前に、siRNAの大きなライブラリーを試験する必要があることを明らかにした。siRNAの配列の非常にとらえにくい変化は、特異性に大きく影響し、選択性に顕著な違いをもたらす可能性があり、様々な配列の影響を直感的に予測できないことを明らかにする。ヌクレオチド特異的であると思われるsiRNAを得ることは比較的可能であるが、特に1つ又は2つの細胞株に対してアッセイする場合、又はトランスフェクション系を使用する場合、それらが特異的であることを確認するために、細胞系の大きなパネルに対する分析が不可欠である。これは、これらのsiRNAが臨床の場での使用を目的としている場合は非常に重要である。本明細書に提示された一連のsiRNA/shRNA配列は、p53に変異を有するすべての癌のほぼ20%を特異的に標的とすることができるユニークな一連のRNAを表し、十分なスクリーニングにより、ヌクレオチド特異的siRNA/shRNAを生成し、臨床試験で評価できるという見解を支持する。
【0048】
変異p53は、すべての癌で最も変異した遺伝子であるため、ヌクレオチド特異的siRNAを生成する能力を実証するためにこの変異p53を選択した。重要なことに、すべてのp53変異体が同じように振る舞うわけではないため、変異p53を標的とするには、それらのそれぞれを個別に標的とするために選択剤が必要である。さらに、変異p53を標的とすることは、腫瘍細胞の増殖及び転移を遅延させ、一般的な細胞毒性剤に対する感受性を向上させるための未開拓の経路を意味するため、ほとんどの癌型に対して適用性が見出されるであろう。すでに明らかにしたように、変異p53は、腫瘍形成の初期段階で野生型対立遺伝子と共に存在し得る、又は後期段階でLOHによる野生型対立遺伝子の消失後にそれ自体で存在し得る。初期段階では、変異p53はドミナントネガティブ(DN)効果によってWTタンパク質を阻害し、後期段階では、変異は、野生型対立遺伝子とは無関係に生存の利点を提供する。本明細書に示されるデータは、変異p53特異的siRNAが、ドミナントネガティブ(DN)効果、及び癌細胞の変異p53への依存の両方を緩和することができ、従って、変異が腫瘍に存在する限り広く使用できることを実証している。同様に、変異p53と共に特異的siRNAで他のドライバー癌遺伝子を標的とすることは、治療効果を高めると理解されており、各癌型の主要な遺伝子変化に対するsiRNAのカクテル(又は標的遺伝子の発現をサイレンシングできる他のRNA)は、交差反応を最小限に抑え、従って今日の抗癌剤の多くに関連する副作用を軽減するため、臨床的に有益であると考えられている。
【0049】
本明細書に例示的に記載される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の1つ又は複数の要素、任意の1つ又は複数の限定がなくても適切に実施することができる。従って、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」などの用語は、限定ではなく拡大して読まれるべきである。さらに、本明細書で使用されている用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、そのような用語及び表現の使用では、示され説明された特徴又はその一部の任意の同等物を除外する意図はないが、請求された本発明の範囲内で様々な変更が可能であることを認識されたい。従って、本発明は、好ましい実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に開示されたが、本明細書で開示され本明細書で実施される発明の修正及び変形は、当業者に依存することができること、並びにそのような修正及び変形が、本発明の範囲内であると見なされることを理解されたい。
【0050】
本出願で使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈がそうでないことを明確に指示しない限り、複数の参照を含む。例えば、「遺伝子マーカー」という用語は、それらの混合物及び組み合わせを含む、複数の遺伝子マーカーを含む。
【0051】
本明細書で使用される「約」という用語は、製剤の成分の濃度の文脈では、典型的には、表示値の+/-5%、より典型的には表示値の+/-4%、より典型的には表示値の+/-3%、より典型的には表示値の+/-2%、より一層典型的には表示値の+/-1%、より一層典型的には表示値の+/-0.5%を意味する。
【0052】
本開示全体を通して、特定の実施形態は、範囲の形で開示することができる。範囲の形での説明は、単に便宜及び簡潔さのためであり、開示される範囲のスコープに対する柔軟性のない限定として解釈されるべきではないことを理解されたい。従って、範囲の説明は、すべての可能な部分範囲及びその範囲内の個々の数値が具体的に開示されたと考えるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示された部分範囲、及びその範囲内の個々の数値、例えば、1、2、3、4、5、6を有すると考えるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0053】
特定の実施形態はまた、本明細書では広く一般的に説明することができる。一般的な開示に含まれるより狭い種及び亜属の分類のそれぞれも、開示の一部を形成する。これには、切除された材料が本明細書に具体的に記載されているか否かにかかわらず、属から任意の対象物を排除するという条件又は負の制限を伴う実施形態の一般的な説明が含まれる。
【0054】
本発明は、本明細書で広く一般的に説明してきた。一般的な開示に含まれるより狭い種及び亜属の分類のそれぞれも、本発明の一部を形成する。これには、切除された材料が本明細書に具体的に記載されているか否かにかかわらず、属から任意の対象物を排除するという条件又は負の制限を伴う発明の一般的な説明が含まれる。
【0055】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲及び非限定的な例の範囲内である。さらに、本発明の特徴又は態様がマーカッシュグループに関して説明される場合、当業者であれば、本発明が、それによりマーカッシュグループの任意の個々のメンバー又はメンバーのサブグループに関しても説明されることを認識するであろう。
【実施例0056】
実験セクション
材料及び方法
細胞培養
細胞株をATCC及びJCRBから入手し、標準的な条件下(37℃、5%CO2)で、以下の培地で培養した:H1299、RKO、HCT116、A549、A375、SKBR3、RD、PLC-PRF-5、KNS-62、及びHEC1A細胞株の場合は、4.5g/Lのグルコースを含むDMEM及び10%のFBS(Hyclone);AU565、HCC1395、COLO-320DM、786-O、ASPC-1、WiDR、及びH1975の場合は、RPMI-1640及び10%FBS(Hyclone);BT-549;RKO p53+/-及び+/R248W及びHCT p53+/-及び+/R248Wの場合は、0.023IU/mlのインスリンを含むRPMI-1640及び10%FBS(Hyclone)。
【0057】
siRNAの設計
siRNAの大規模なライブラリーを、p53ホットスポット変異(R175H、R248W、R249S、及びR273H)を標的とするように設計し、これらから、さらなる特徴付けのために4つの変異について8つが候補に挙がった(si-1-8)。本発明者らのスクリーニングで生成されたすべてのp53対立遺伝子に対するsiRNAを、pan-p53を標的とするための陽性対照として使用した。対照スクランブルsiRNAは、ヒトゲノムにおけるバイオインフォマティックに予測された配列標的であり、これを陰性対照として使用した。
【0058】
p53 siRNA/shRNAのトランスフェクション、並びにRNA及びタンパク質の分析
トランスフェクションの24時間前に、ウェルあたり2.5×105個の細胞を6ウェルプレートに播種した。製造者の説明に従って、LipofectamineTM 2000試薬(Invitrogen)を使用して、細胞を80nM siRNA又は1μgのpRetroSuper-shRNAでトランスフェクトした。各トランスフェクションを3連で行い、トランスフェクションの72時間後に細胞を1mLのTRIzol試薬(Invitrogen)で回収した。p53 cDNAとの同時トランスフェクションでは、p53 cDNAを、siRNAトランスフェクションの24時間後にトランスフェクトし、cDNAトランスフェクションの48時間後(即ち、siRNAトランスフェクションの72時間後)に細胞を分析した。
【0059】
Invitrogenの標準的なプロトコルを使用して全RNAの単離を行い、cDNAを、SuperscriptII逆転写(Invitrogen)を使用して調製した。定量的及び半定量的逆転写酵素(RT)-PCR分析を、記載されているように次のp53標的遺伝子:p21、pig3、mdm2、noxa、及びgapdhに対して行った。
【0060】
細胞抽出物を溶解緩衝液(0.7%NP40;Tris.Cl、pH7.4;70mM EDTA;200nM NaCl、氷上で10分間)で調製した。タンパク質の定量後、30~50μgの溶解物をSDS-ポリアクリルアミド(polycrylamide)ゲル(12%)電気泳動(SDS-PAGE)にかけ、分離されたタンパク質を電気泳動によりポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Invitrogen,Breda,The Netherlands)に移した。タンパク質の検出は、ECL(GE Healthcare,Waukesha,WI,USA)で行った。p53を、マウス抗p53モノクローナル抗体(DO-1、Santa Cruz Biotechnologyから、#SC126)で検出し、アクチンを、ウサギ抗アクチン抗体(Sigma、#82061)で検出した。最初の抗体からのバックグラウンドが高い場合、平行ゲルを等量の溶解物と共に泳動させて、様々な抗体で別々に調べた。ImageJソフトウェアを使用して、レーンプロッティング(lane plotting)及びピールラベリング(peal labelling)(信号強度の定量)によってウエスタンブロットの定量を行った。各試料について、アクチンバンド強度に対するp53の比率を計算し、si-scr/sh-scr対照の比率に対して正規化した。値は、正規化された倍数変化を表す。
【0061】
細胞死アッセイ
細胞を80nM siRNAでトランスフェクトし、培地中での細胞浮遊を含むトランスフェクションの72時間後に回収した。細胞をPBSで2回洗浄し、70%エタノールで一晩固定し、RNaseで20分間処理した後、5μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI)の添加及びフローサイトメトリー(BD Biosciences FACScalibur)によるフローサイトメトリー分析によってアポトーシスを測定した(sub-G1 DNA含量)。
【0062】
shRNA鋳型オリゴヌクレオチドの設計及びプラスミドの構築
shRNA標的配列を、前述のsiRNA配列と相同となるように設計した。pRetro-Superベクターには、shRNA発現用のヒトH1ポリメラーゼIII(pol-III)プロモーターが含まれている。各shRNAインサートを、制限酵素(RE)消化によって作製されたものと同一のオーバーハング末端を有する合成二重鎖として設計した(5’にBamHI及び3’にHindIII)。各ヘアピンのコード領域は、単一のオリゴヌクレオチド(上部オリゴヌクレオチド:5’-AAGCTTTN(19-29)(センス配列)TTCAAGAGAN(19-29)(アンチセンス配列)TTTTTTA-3’)及びその相補等価物(下部オリゴヌクレオチド:5’-AGCTTAAAAAN(19-29)(センス配列)TCTCTTGAAN(19-29)(アンチセンス配列)GGG-3’)内にネストされている。これらのサイズは、(19~29bpのステムを有するヘアピンのために)60~100塩基の範囲であった。各二重鎖には、転写開始塩基、shRNAコード領域(センスステム、ループ配列、アンチセンスステム)、終止スペーサー、及び少なくとも4つの「T」の連続からなるpol-III終結シグナルが含まれていた。転写開始塩基は、「A」又は「G」(効率的なpol-III転写開始に必要)であり、ヘアピンステムの最初の塩基がプリンでない場合にのみ含まれていた。終止スペーサーは、「T」以外の任意の塩基であり、「T」の初期の連続による早期終了を防止するために、アンチセンスステムの最後の塩基が「T」の場合にのみ含まれていた。オリゴヌクレオチドは、最小限の合成及び精製規模で注文した(0.05μM及び脱塩、Sigma-Aldrich)。各オリゴヌクレオチドを100μMの濃度で水に再懸濁し、それぞれからの10μlを20μlの2×アニーリング緩衝液(200mM 酢酸カリウム、60mM HEPES KOH pH7.4、4mM 酢酸マグネシウム)に加え、95℃で10分間加熱し、ゆっくりと室温に平衡化し、連結のために1:1000倍に希釈した。インサートとベクターを連結し、TOP10又はDH5αコンピテント細胞に形質転換した。shRNAインサートを含むクローンを選択し、トランスフェクションの前に精製した。
【0063】
コロニー形成アッセイ
示された細胞株を、様々な変異p53をサイレンシングするためのオリゴヌクレオチド配列を含む示されたshRNAプラスミドでトランスフェクトし、15μg/mlのブラスチシジン(Sigma,USA)で2週間にわたり選択した。記載されているように、コロニーをクリスタルバイオレット溶液(Merck)で染色した。
【0064】
インビボでの腫瘍成長の分析のためのshRNA発現細胞株の作製
p53変異特異的shRNA用のウイルスを、HEK293T細胞においてpCL-Ampho両種性ウイルスパッケージングプラスミドを使用して作製した。簡単に述べると、リポフェクタミン2000(商標)を使用して、1.5μgの適切なshRNA及び1.0μgのパッケージングプラスミドでHEK293T細胞をトランスフェクトすることによってレトロウイルスを調製した。レトロウイルス上清を、トランスフェクションの24時間後に回収し、0.45μM シリンジフィルターでろ過し、等分して急速冷凍した。3.5mlのレトロウイルス上清を使用して、6cm皿に3連の8μg/mlのポリブレン(Sigma)の存在下で、10cm皿に5×105個の細胞を形質導入した。翌日、2回目の形質導入を行った。2回目の形質導入の48時間後に、10μg/mlのブラストサイジンを使用して細胞を選択し、インビボ異種移植試験用に採取した。並行培養物を免疫ブロット分析に使用して、p53ノックダウンの効率を評価した。
【0065】
それぞれのshRNAを発現する細胞株を収集し、氷上で50%マトリゲル(Corning(登録商標)Matrigel(登録商標)基底膜マトリックス)(Sigma)と混合し、C.B-17 SCID雌マウス(6~8週齢)の右側腹部に皮下注射し、スクランブルshRNAで形質導入した細胞を各マウスの左側腹部に注射した。腫瘍体積を週に2回キャリパーで評価し、腫瘍が触知可能になるとすぐに値を記録した。腫瘍体積の計算は、V=1/2×(長さ×幅2)に従って行った。値を標準偏差と共に平均値としてプロットする。成長曲線間の統計学的差異を、対応のない(両側)t検定を使用して、PRISMソフトウェア(GraphPad Prism Software Inc.,San Diego,CA)で計算した。各郡において、4~5匹のマウスを各処置に使用した。
【0066】
マウスを屠殺してから、腫瘍組織を切除し、10%ホルマリンで一晩固定し、脱水し、パラフィンに包埋し、そして5μmの切片に調製した。p53 1C12マウスモノクローナル抗体(Cell Signaling Technology、#2524)を1:1500の濃度で使用して、抗p53染色を行った。Dako REAL(商標)EnVision(商標)検出システム、ペルオキシダーゼ/DAB+、ウサギ/マウス(#5007)を使用して、染色シグナルを発現させた。動物実験はすべて、施設の動物保護及び倫理委員会の承認を得て実施した。
【0067】
結果
ホットスポットp53変異体の対立遺伝子特異的siRNAの設計及び選択
siRNAの生成の出発点は、これらのsiRNAが、WT p53発現に影響を与えることなく、変異p53対立遺伝子のみをサイレンシングすることができるであろうということであった。この目的のために、多数のsiRNAのライブラリーを、変異体ヌクレオチドの位置がsiRNA鎖全体に対して異なるように配列歩行(sequence walk)を実行することによって構築した。すべてのsiRNAを、様々なp53変異体又は温度感受性(TS)WT p53を安定して発現する一連のH1299ベースの同質遺伝子細胞株にトランスフェクトし、4つのホットスポット変異体:R175H、R248W、R249S、及びR273Hに対して特異的活性を示す代表的なsiRNAからのデータを示す(
図1A)。これらは、それぞれのp53変異体に対して特異的な活性を有する数少ない候補siRNAであった。示されたすべてのsiRNAを、すべての同質遺伝子細胞株に一過性にトランスフェクトし、免疫ブロット法により、24時間後にp53タンパク質発現を分析するために採取した。
図1Bに示されているように、すべてのp53を無差別に標的とするsi-p53は、スクランブルsiRNA又はトランスフェクトされなかった細胞(ゲル画像の右側の最後の3レーン)と比較して、すべての細胞株におけるp53の発現を低下させることができた。変異特異的siRNAのほとんどは、特異性を示し、他の変異体又はWT p53への影響を最小限から無視できる程度で目的の変異体を識別できた:例えば、R175H変異p53に特異的なsi-1及びsi-2は、R175Hの発現を低下させることができたが、他のp53変異体及びWT p53への影響は最小限であった。同様に、R248W変異p53に特異的なsi-3及びsi-4は、他の変異体に影響を与えることなく、R248W変異体の発現を顕著に低下させることができた。しかしながら、他方で、同様にR248W変異体を標的とするsi-3は、その意図した変異の発現を減少させることはできるが、WT p53の発現の減少ももたらした。同様に、R273Hを標的とするsi-8は、非常に特異的であったが、si-7は、同様にWT p53変異体及びR249S変異体の両方にいくらかの影響を及ぼした。このデータは、複数の細胞系で同じ変異に対して生成された複数のsiRNAの評価が、非常に変異特異的な試薬を得るために重要であることを示している。
【0068】
内因性変異p53発現の変異特異的siRNA媒介サイレンシング
選択されたsiRNAの有効性及び特異性を、WT又は様々な変異p53のいずれかを発現する17の異なる癌細胞株のパネルで評価した(表1)。H1299同質遺伝子細胞株と同様に、これらの細胞を、WT及び変異p53の両方の発現を無差別に抑制する特異的siRNA又は陽性対照si-p53でトランスフェクトした(
図2A~
図2D)。既にH1299同質遺伝子細胞環境で述べたように、si-2は、3つの細胞株(即ち、HCT116、A549、及びA375)のWT p53の発現に影響を与えることなく、この変異体(即ち、HCC1395、SKBR3、及びAU565)を発現する細胞におけるR175H変異体の発現を特異的にダウンレギュレートすることができた(
図2A)。同様に、R248W変異p53に特異的なsi-4は、他の細胞株でのWT p53発現に明らかな影響を与えることなく、R248W変異体を発現するCOLO-320DM細胞、786-O細胞、及びRD細胞でのp53発現を効率的に阻害した(
図2B)。同様の結果が、(BT549細胞、KNS-62細胞、PLC-PRF5細胞における)R249S変異体に選択的であるsi-6、並びにR273Hを発現するASPC1細胞、H1975細胞、及びWIDR細胞のR273Hに特異的なsi-8で得られた(
図2C及び
図2D)。特定の変異体に対する他のsiRNA、si-1、si-3、si-5、及びsi-7もまた、目的の変異体に特異的であり、時にはWT p53にわずかな影響を示すこともあった。従って、変異p53特異的siRNAのそれぞれの特異性を、様々な他の変異p53発現細胞でも評価した。
図8に示されているように、si-2、si-4、si-6、及びsi-8は、非常に特異的であり、試験したすべての細胞株で他の変異p53の発現に影響を与えなかった。しかしながら、H1299同質遺伝子細胞系について前述したように、si-1、si-3、si-5、及びsi-7は、一部の細胞株の他の変異体に時折影響を与えた。R248Wに対するsi-3は、この特異的変異を標的とするための公表されたsiRNAに類似していることに注目されたい(Martinez,L.A.,Naguibneva,I.,Lehrmann,H.,Vervisch,A.,Tchenio,T.,Lozano,G.,and Harel-Bellan,A.(2002).Synthetic small inhibiting RNAs:efficient tools to inactivate oncogenic mutations and restore p53 pathways.PNAS; 99; 14849-14854)。しかしながら、広範な分析は、Martinezらで公表されたsiRNAが実際にR248Wを標的とし、また、一部の細胞株では、WT及びR175H変異体に対してある程度の非特異的活性を有する。これは、siRNAの配列における非常に微妙な変化が特異性に著しく影響を与え、異なる配列間の特異性に顕著な違いをもたらすことを実証し、様々な配列の効果を直感的に予測できないことを明らかにしている。まとめると、これらの結果は、広範なスクリーニングにより、単一ヌクレオチドの変化に対して非常に特異的で選択的なsiRNAを再現可能に生成できることを示している。これらの分析に基づいて、si-2(R175H変異体の場合);si-4(R248W変異体の場合);si-5及びsi-6(R249S変異体の場合)、並びにsi-8(R273H変異体の場合)が、さらに詳細な特性評価のために候補に挙げられた。従って、一例では、本明細書に開示される核酸配列は、配列番号9、配列番号13、配列番号16、配列番号17、又は配列番号21の配列の1つを含む。
【0069】
変異p53発現の対立遺伝子特異的ノックダウンはアポトーシスを促進し、p53標的遺伝子発現を誘導する
変異p53を発現する腫瘍細胞は、生存がその存在に依存していることが示されているため、変異特異的siRNAがこの現象を緩和し、それぞれの変異発現癌細胞株で細胞死を誘導できるか否かを最初に評価した。sub-G1集団のパーセンテージによって決定されるように、それぞれの変異p53発現細胞株における特異的siRNAのトランスフェクションは、一般的にアポトーシスの増加をもたらした(
図3)。非トランスフェクト細胞及びスクランブルsiRNAトランスフェクト細胞は基礎死をもたらしたが、pan-p53 siRNA又は特異的な変異p53 siRNAのいずれかのトランスフェクションは、それぞれの変異p53を発現する細胞株で細胞死の増加をもたらした(si-scr対si-p53対si-変異p53のsub-G1集団のパーセンテージ→AU565:26.7対39.6対36.6;786-O:18.0対37.2対31.7;BT549:10.4対39.6対32.9;H1975:11.5対25.8対28.5)(
図3A)。重要なことに、si-p53は、WT p53を発現するHCT116細胞の細胞死を減少させ(si-scr対si-p53:7.6対2.1)、一般的なp53 siRNA又は変異特異的siRNAによる変異p53発現のサイレンシングが変異p53発現癌細胞株でのみ細胞死の促進をもたらすことを確認した。他のp53変異体を発現する癌細胞に対するsiRNAの相互評価でも、目的の変異体のみをサイレンシングし、他はサイレンシングしないそれらの特異性を確認した(
図9)。化学療法剤シスプラチン(CDDP)によるこれらの細胞の同時処理は、変異p53を発現する癌細胞株でのみ変異特異的siRNAによって誘導される細胞死を促進したが、WT p53を発現するHCT116細胞では促進しなかった(
図10)。まとめると、これらのデータは、変異p53のサイレンシングによって誘導される細胞死が細胞毒性薬による処置とのさらなる相乗効果をもたらすことを示している。
【0070】
変異p53発現細胞株における変異p53のサイレンシングが、生存のための変異p53への依存の低下と同時に、標準的なp53標的遺伝子の発現の誘導をもたらすことが既に示されている。従って、この現象が、変異p53特異的siRNA処理の状況でも発生するか否かを評価した。この目的のために、p21、Mdm2、Noxa、及びPig3などのいくつかのp53標的遺伝子に対して定量的RT-PCR(qPCR)を行った(
図4)。試験したすべてのp53標的遺伝子のmRNAの発現は、予想どおり、WT p53発現HCT116細胞でのp53ダウンレギュレーションに続いて有意にダウンレギュレートされたが、これらの細胞の変異特異的siRNAによる変更は最小限であった(
図4A)。対照的に、変異特異的siRNA(即ち、si-2、si-4、si-6、及びsi-8)又は変異p53発現細胞株の一般的なp53 siRNAは、試験したほとんどすべての標的遺伝子の有意なアップレギュレーションをもたらした(
図4B)。同様の結果が、変異特異的siRNAを使用して、対応する変異体を発現する異なる一連の細胞株で得られた(
図11)。さらに、細胞生存率実験で述べたように、変異p53特異的siRNAとCDDPとでの細胞の同時処理により、p53標的遺伝子の誘導が促進され、相乗効果が明らかにされた。さらに、CDDPで処理されたWT p53発現細胞におけるp53発現の阻害は、標的遺伝子発現の予想された減少をもたらし、変異p53発現細胞株に対する変異p53 siRNAの効果の特異性を示している。
【0071】
変異p53特異的shRNA発現ベクターを用いた変異p53発現の阻害
変異p53特異的サイレンシングの長期の効果を評価するために、si-2、si-4、si-6、及びsi-8 siRNAから変異p53特異的配列を発現する低分子ヘアピンRNA、並びに一般的なp53特異的siRNAを、pSuperベクターを使用して生成した。特異的変異p53の発現のサイレンシングにおけるそれらの効果を評価する最初の試験を、プラスミドの一過性トランスフェクション後に、それぞれの変異p53発現細胞株で行った。免疫ブロット分析により、変異p53特異的shRNAが、対照スクランブルshRNAとは異なり、それぞれの細胞株における目的の変異p53の発現の抑制において同等に効果があることが示された(
図5A)。これに基づいて、長期的なコロニーの成長に対する変異p53の発現を抑制する効果を評価したところ、それぞれの変異p53をサイレンシングすることによって細胞の成長が有意に阻害されることがここでも同様に確認された(
図5B)。同様の結果が短期アポトーシスアッセイでも得られ(
図12A)、shRNAベースの変異p53サイレンシングが、変異p53発現癌細胞の細胞死を促進するのに同等に効果的であることを示している。
【0072】
変異特異的shRNAが、p53上の同じヌクレオチド位置で生じる様々な変異体をサイレンシングできるか否かも評価した。この仮説を検証するために、R248Q変異を発現するHEC-1A癌細胞株を利用し、R248W変異に対して最初に生成されたsh-4をトランスフェクトした。
図12B~
図12Dに示されているように、sh-4は、R248Q p53変異体の発現をサイレンシングすることができ、これは、同時に短期及び長期のアッセイでの細胞死の増加をもたらした。このデータは、特定の変異ヌクレオチド残基に対する変異特異的si/shRNAがその位置の残基に特異的であることを示唆しているが、必ずしも置換された残基を識別する必要はなく、従って、一例では、特に変異p53の場合、特定のヌクレオチド位置に見られる多くの変異に広く使用することができる。
【0073】
変異p53のドミナントネガティブ効果の軽減及び変異p53サイレンシング時の細胞死の促進
変異p53のみの発現は、癌細胞の生存のための変異体タンパク質への依存をもたらすが、ヘテロ接合状態におけるWT及び変異p53の両方の同時発現は、WTタンパク質に対する変異体タンパク質のドミナントネガティブ(DN)効果をもたらし、標的遺伝子の活性化及びアポトーシス誘導におけるWTタンパク質の機能の改善につながる。このヘテロ接合の状況において変異p53レベルを低下させると、WT p53機能が回復し、化学療法剤及び放射線照射に対する細胞の感受性を高めることが既に示されていた。従って、変異p53特異的shRNAは、変異ヘテロ接合細胞の変異p53レベルを低下させて治療反応を改善するための使用について評価した。この目的のために、p53にヘテロ接合性(p53+/-)であるか又は変異p53にヘテロ接合性(p53+/R248W)である2組の同質遺伝子結腸直腸細胞株(RKO及びHCT116)を利用した。R248W変異体に特異的なsh-4のトランスフェクションは、p53+/-R248W細胞では全p53の有意な減少をもたらしたが、p53+/-HCT細胞及びRKO細胞ではそうではなく、特異性を示している(
図6A及び
図13A)。長期生存の同時分析により、sh-4トランスフェクトp53+/R248W細胞が、p53+/-細胞と比較して成長が阻害されやすいことが明らかになった(
図6B及び
図13B)。さらに、p53標的遺伝子の誘導は、sh-4をトランスフェクトした場合のp53+/-細胞と比較して、p53+/R248W細胞でのみ有意に誘導され(
図6C及び
図13C)、まとめると、変異p53の抑制がDN効果を軽減し、変異p53発現細胞の細胞死の上昇をもたらすことを示している。
【0074】
シスプラチン(CDDP)処理時の細胞死に対するこれらのsiRNAの効果も分析し、これにより、変異p53の存在が細胞死を減少させたことが示され(RKO p53+/-細胞対p53+/R248W細胞での非トランスフェクトshRNAとトランスフェクトされたスクランブルshRNAのsub-G1細胞のパーセンテージ:50.9と50.3対14.9と11.3;HCT細胞では:61.1と51.2対32.1と28.6)、DN効果を明らかにしている(
図6D及び
図6E並びに
図13D及び
図13E)。対照的に、変異特異的sh-4のトランスフェクションは、p53+/-細胞と比較して、特にp53+/R248W細胞での細胞死の有意な増加をもたらした(非トランスフェクトshRNA対sh-4 shRNAのRKO p53+/-細胞でのsub-G1細胞のパーセンテージ:50.9対49.7;RKO p53+/R248W細胞では:14.9対86.1;HCT p53+/-細胞では:61.1対68.8;HCT p53+/R248W細胞では:32.1対66.9;
図13E)。このデータは、まとめると、WT p53の発現に影響を与えることなく変異p53を特異的にサイレンシングすることにより、DN効果が軽減され、変異-p53発現細胞の感受性を高めて死に至らしめ、これが化学療法剤処置によって促進されることを示している。
【0075】
変異p53を標的とする治療によりインビボでの腫瘍成長を遅延させる
最後に、細胞ベースの異種移植片モデルを使用して、スクランブルshRNA又はそれぞれの変異特異的shRNAを発現する癌細胞株(RD、PLC-PR5、及びH1975)の増殖を監視することにより、変異p53特異的si/shRNAがインビボで腫瘍成長を遅延させるのに有効であるか否かを評価した。様々なp53変異体を発現する、スクランブルshRNAを発現するウイルス粒子に一過性に感染した癌細胞は、時間の経過と共に大量に増殖したが、それぞれの変異p53特異的shRNAを発現する細胞は、インビボでの増殖が顕著に遅延した(
図7A)。屠殺時の腫瘍の組織学的分析により、変異特異的shRNAを発現する腫瘍がp53染色を有意に減少させたことが明らかになり、特異的なshRNAが、腫瘍成長中にインビボでそれぞれの変異p53の発現をサイレンシングするのに効果的であることを示している(
図7B)。このデータは、変異p53特異的siRNAがインビボでの腫瘍細胞の増殖の遅延に効果的であることを立証している。
【0076】
さらに、患者由来のトリプルネガティブ乳癌異種移植腫瘍(PDX)を発現するR249S変異体の増殖が、治療処置プロトコルで利用されるsiRNAによって影響され得るか否かを調べた。本質的に、PDX腫瘍は、同所性に成長し、このPDX腫瘍が170mm3に達したら、マウスを、ナノリポソームで静脈内に送達されるスクランブルsiRNA又は変異p53特異的siRNAで週に2回処置し、腫瘍に効果的に送達されていることが示された。(R249Sに対する)si-6での週2回の処置により、スクランブルsiRNA処置マウスと比較して腫瘍成長が遅延し、この腫瘍は、処置の29日後までに完全な腫瘍に成長した(データは示していない)。p53の免疫組織化学的染色は、変異p53の発現がsi-6処置腫瘍で有意に減少したことを示した(データは示していない)。siRNA処理マウスの屠殺時の複数の臓器のさらなる分析では、この処置計画によるあらゆる副作用を除いて、いかなる異常も示されなかった(データは示していない)。まとめると、このデータは、変異p53特異的siRNAを治療的に使用してインビボでの腫瘍成長を遅延させることができることを立証している。
【0077】
表
【0078】
【0079】
配列
野生型p53ポリペプチドは、UniProtKB-P04637(P53_HUMAN)のアミノ酸配列:MEEPQSDPSVEPPLSQETFSDLWKLLPENNVLSPLPSQAMDDLMLSPDDIEQWFTEDPGPDEAPRMPEAAPPVAPAPAAPTPAAPAPAPSWPLSSSVPSQKTYQGSYGFRLGFLHSGTAKSVTCTYSPALNKMFCQLAKTCPVQLWVDSTPPPGTRVRAMAIYKQSQHMTEVVRRCPHHERCSDSDGLAPPQHLIRVEGNLRVEYLDDRNTFRHSVVVPYEPPEVGSDCTTIHYNYMCNSSCMGGMNRRPILTIITLEDSSGNLLGRNSFEVRVCACPGRDRRTEEENLRKKGEPHHELPPGSTKRALPNNTSSSPQPKKKPLDGEYFTLQIRGRERFEMFRELNEALELKDAQAGKEPGGSRAHSSHLKSKKGQSTSRHKKLMFKTEGPDSD(配列番号1)を含んでもよいし、又はこれから構成されてもよい。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
対象の癌を処置する方法において使用するための、請求項1又は2に記載の二本鎖siRNA分子、又は、二本鎖shRNA分子を含む医薬組成物であって、前記方法が、請求項1又は2に記載の二本鎖siRNA分子、又は、二本鎖shRNA分子を対象に投与することを含む、医薬組成物。
前記点変異が、R249S(p53)、R249G(p53)、R249M(p53)、R248W(p53)、R248Q(p53)、R273H(p53)、及びR273L(p53)からなる群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。