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特開2023-96047キャベツ、レタスの鮮度保持剤およびそれを用いたキャベツ、レタスの鮮度保持方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096047
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】キャベツ、レタスの鮮度保持剤およびそれを用いたキャベツ、レタスの鮮度保持方法。
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/153 20060101AFI20230629BHJP
   A23B 7/157 20060101ALI20230629BHJP
   A23B 7/154 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A23B7/153
A23B7/157
A23B7/154
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023081126
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】591040557
【氏名又は名称】太平化学産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉本 恭行
(72)【発明者】
【氏名】島田 太一
(57)【要約】
【課題】キャベツ、レタスの鮮度保持剤およびそれを用いたキャベツ、レタスの鮮度保持方法を提供すること。
【解決手段】有機酸類、マグネシウム含有化合物およびカルシウム含有化合物を含有することを特徴とするキャベツ、レタスの鮮度保持剤およびそれを用いたキャベツ、レタスの鮮度保持方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸類、マグネシウム含有化合物およびカルシウム含有化合物を含有することを特徴とするキャベツ、レタスの鮮度保持剤。
【請求項2】
有機酸類、マグネシウム含有化合物およびカルシウム含有化合物の混合比率が有機酸類1質量部に対してマグネシウム含有化合物が0.2~1.0質量部、カルシウム含有化合物が0.4~5.0質量部、好ましくは有機酸類1質量部に対してマグネシウム含有化合物が0.5質量部、カルシウム含有化合物が2.0~2.5質量部である請求項1記載のキャベツ、レタスの鮮度保持剤。
【請求項3】
有機酸類がL-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウムから選ばれる1種または2種以上を含む請求項1~2に記載のキャベツ、レタスの鮮度保持剤。
【請求項4】
マグネシウム含有化合物がリン酸三マグネシウムである請求項1~3に記載のキャベツ、レタスの鮮度保持剤。
【請求項5】
カルシウム含有化合物が、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウムから選ばれる1種または2種以上を含む請求項1~4に記載のキャベツ、レタスの鮮度保持剤。
【請求項6】
有機酸類がL-アスコルビン酸、マグネシウム含有化合物がリン酸三マグネシウム、カルシウム含有化合物が乳酸カルシウムである請求項2に記載のキャベツ、レタスの鮮度保持剤。
【請求項7】
請求項1~6に記載のキャベツ、レタスの鮮度保持剤を含む水溶液をキャベツおよびレタスに付着させることを特徴とするキャベツ、レタスの鮮度保持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャベツ、レタスの鮮度保持剤およびそれを用いたキャベツ、レタスの鮮度保持方法。
【背景技術】
【0002】
世界の食料廃棄量は年間約13億トンであり、これは人の消費のために生産された食料のおおよそ1/3にあたる(2011年:国際連合食糧農業機関調べ)。日本国内においても食品廃棄物等は、年間2550万トンであり、うち食品ロス(本来食べることができるにもかかわらず、味や見た目、匂いなどに問題があり、食べずに捨てられてしまう食品)は612万トンとされている(2017年推計:農林水産省・環境省調べ、FAQ、総務省人口推計調べ)。例えば、スーパーやコンビニエンスストアに陳列しているキャベツやレタスを含むサラダ類等は、シャキシャキ感があり鮮やかな緑色をしているものは美味しそうに見えるため購入されやすいが、時間が経過し葉が萎みシャキシャキ感が失われたり褐変により見た目が悪くなったりしたサラダ類等は賞味期限内であっても美味しくなさそうにみえるので購入されにくく、結果廃棄となってしまう。
【0003】
キャベツやレタスは、温度、光によるクロロフィルの分解(非特許文献1)、時間経過によるペクチン質の軟化(非特許文献2)等で鮮度が低下することが報告されている。
【0004】
このような状況を踏まえ、サラダのような加工、例えばカットやスライス等を施したキャベツやレタスなどの緑色野菜の鮮度保持技術は様々提案されている。特許文献1には野菜、果実類の変色防止剤として有機酸塩類、例えばL-アスコルビン酸ナトリウムやクエン酸ナトリウム等に有機酸類、例えばクエン酸や酒石酸等またはリン酸塩を使用する技術が開示されている。しかしこの方法では、有機酸塩および有機酸による風味への影響等の問題がある。
【0005】
特許文献2には、フェルラ酸またはそのアルカリ金属塩を有効成分として、クロロフィルを安定化させる技術が開示されている。しかしこの方法では、フェルラ酸の添加により風味への影響がでる等の問題やペクチン質の軟化によるシャキシャキ感の低下を防ぐことができない等の問題がある。
【0006】
特許文献3には、乾燥茶葉に銅イオン水を混合し、クロロフィル中のマグネシウムを銅に置換しクロロフィルを維持する技術が開示されている(クロロフィルのテトラピロール環中心に配位したマグネシウムが遊離すると変色するので、マグネシウムと銅イオンを置換する)。しかし、この方法では銅の過剰摂取による健康面への影響等に問題(非特許文献3)やペクチン質の軟化によるシャキシャキ感の低下を防ぐことができない等の問題がある。
【0007】
非特許文献4には小梅を例にペクチン質の軟化防止に水酸化カルシウムを使用する技術が開示されており、非特許文献5にはダイコンを例にペクチン質の硬化に塩化カルシウムを使用する技術が開示されている。しかしこれらの方法ではキャベツやレタスの鮮やかな緑色を保持することができない等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平03-277230
【特許文献2】特許第3386722号公報
【特許文献3】特開2010-259359号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】守康則、北久美子、宮崎節子、クロロフィルの安定性に関する研究、家政学雑誌、1964年、第15巻、第1号、p2
【非特許文献2】香西みどり、野菜の加熱による軟化速度と硬化現象、日本調理科学会誌、1997年、第30巻、第1号、pp62-70
【非特許文献3】岡部雅史、蔵崎正明、齋藤健、「銅」研究の最前線、ビタミン、2001年、第75巻、第12号、pp558-559
【非特許文献4】乙黒親男、金子憲太郎、立塩法による小梅漬けの硬度とペクチン質に及ぼす塩蔵条件の影響、日本食品低温保存学会誌、1994年、第20巻、第1号、pp2
【非特許文献5】香西みどり、中川亜紀、畑江敬子、島田敦子、予備過熱によるダイコンの効果に及ぼす1価および2価金属イオンの影響、日本家政学会誌、2000年、第51巻、第8号、pp709-715
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような従来の技術では、風味への影響があること、健康面への影響がでること、サラダのような加工、例えばカットやスライス等を施したキャベツやレタスのシャキシャキ感または鮮やかな緑色を保持できないこと等の問題があった。そこで本発明者らはこれらの問題を解決するべくキャベツ、レタスの鮮度保持剤およびそれを用いた鮮度保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のキャベツ、レタスの鮮度保持剤は、有機酸類、マグネシウム含有化合物、カルシウム含有化合物を含有し、その含有比率が有機酸類1質量部に対してマグネシウム含有化合物が0.2~1.0質量部、カルシウム含有化合物が0.4~5.0質量部、好ましくは有機酸類1質量部に対してマグネシウム含有化合物が0.5質量部、カルシウム含有化合物が2.0~2.5質量部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、風味や健康面への影響が少なく、サラダのような加工、例えばカットやスライス等を施したキャベツやレタスのペクチン質軟化によるシャキシャキ感の低下およびクロロフィルの分解を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の鮮度保持剤は有機酸類、マグネシウム含有化合物、カルシウム含有化合物が、調味液および溶液中に溶解しないと鮮度保持効果は十分に発揮されない。
【0014】
本発明で用いる有機酸類としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウム等が挙げられ、このうちの1種または2種以上を含むことを特徴とする。鮮度保持効果に優れる点でL-アスコルビン酸が最も好ましい。
【0015】
本発明で用いるマグネシウム含有化合物としては、リン酸マグネシウム類が好ましく、リン酸二マグネシウム、リン酸三マグネシウムがより好ましく、このうち鮮度保持効果に優れる点でリン酸三マグネシウムが最も好ましい。
【0016】
本発明で用いるカルシウム含有化合物としては、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム等が挙げられ、このうちの1種または2種以上を含むことを特徴とする。鮮度保持効果に優れる点で乳酸カルシウムが最も好ましい。
【0017】
本発明の鮮度保持剤を溶液にした場合に含まれる有機酸の割合は、0.05~5.0質量%、好ましくは2.0~4.0質量%、マグネシウム含有化合物の割合は0.025~2.5質量%、好ましくは1.0~2.0質量%、カルシウム含有化合物の割合は0.1~15質量%、好ましくは4.0~10質量%含まれる。上記の割合以上にマグネシウム含有化合物もしくはカルシウム含有化合物のいずれかを添加した場合、マグネシウム含有化合物またはカルシウム含有化合物のいずれかが溶解しきらず沈殿が発生し鮮度保持効果が発揮されにくくなる。
【0018】
本発明が適用される鮮度保持剤はキャベツやレタスに限定されるものではなくペクチン質もしくはクロロフィルを含む野菜、例えば、キャベツ、レタス、チンゲンサイ、水菜、小松菜、白菜、ネギ、大葉等であればいずれも対象とすることができる。また、その形態は何らかの加工を施した野菜、例えばスーパーマーケット等で販売されているパックされたサラダ用のカット野菜や鍋、焼肉、その他調理用のカット野菜、ビュッフェのサラダバー等に限定されるものではなく、加工前の野菜も対象とすることができる。
【0019】
本発明の鮮度保持剤をキャベツ、レタス等に付着させる方法として、本発明の鮮度保持剤溶液で処理、例えば浸漬、塗布、噴霧する方法等が挙げられる。
【0020】
以下、実験例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実験例に何ら限定されるものではない。
【実験例】
【0021】
前記に示した通り、本発明の鮮度保持剤を調味液に添加もしくは溶液にする場合、溶解性を示さないと鮮度保持効果を発揮しにくくなるため、製剤の溶状確認を行った。
【0022】
[製剤の溶状確認]
L-アスコルビン酸、クエン酸、リン酸三マグネシウムおよび乳酸カルシウムを表1のとおり混合し製剤▲1▼~▲6▼を得た。この製剤を2Lメスシリンダーに添加し攪拌しながら水溶液が透明になるまで液温25℃の精製水を注いだ。水溶液が透明になった時点の目盛りを読み溶解性を評価した。
【0023】
【表1】
【0024】
製剤▲1▼~▲6▼の溶解性の結果は表2の通り。
【0025】
【表2】
【0026】
表2で溶解性を示した鮮度保持剤の濃度で鮮度保持剤水溶液を調製しキャベツ、レタスの鮮度保持について評価を行った。
【0027】
[実施例1~80、比較例1~34]
有機酸(L-アスコルビン酸、クエン酸)、リン酸三マグネシウム、カルシウム含有化合物(乳酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム)を表3~6に示した通り混合し鮮度保持剤を得た。これを50℃に加温した精製水へ溶解し、各濃度となるように浸漬液を調製した。この浸漬液1Lに5cm角にカットしたキャベツおよびレタス100gを1分間浸漬した。浸漬後サラダスピナーで液を切り、ザルに上げ庫内温度4℃の冷蔵庫で3週間静置した。3週間静置後のキャベツ、レタスのシャキシャキ感および色調を以下の方法で評価した。
<シャキシャキ感>
キャベツ、レタスの嵩を目視で比較することで評価を行った。ザルに上げて3週間経過後のキャベツ、レタスの嵩高さが浸漬直後と比較して変化がなければシャキシャキ感を保持しており、キャベツやレタスの葉に含まれる水分の抜け等により葉が萎み嵩が低くなっていればシャキシャキ感は失われたと評価した。
<色調>
色調はキャベツおよびレタスの鮮やかな緑色が保持されているか目視で比較することで評価を行った。
【0028】
キャベツの結果を表3、表4に、レタスの結果を表5、表6に示す。
<評価基準>
葉のシャキシャキ感
◎・・・浸漬直後と比較して変化がなくシャキシャキ感を保持している。
○・・・浸漬直後と比較するとシャキシャキ感をやや保持している。
△・・・浸漬直後と比較するとシャキシャキ感はやや失われている。
×・・・浸漬直後と比較するとシャキシャキ感はほとんど失われている。
葉の色調
◎・・・浸漬直後と比較して変化がなく鮮やかな緑色を保持している。
○・・・浸漬直後と比較すると鮮やかな緑色をやや保持している。
△・・・浸漬直後と比較すると鮮やかな緑色はやや失われている。
×・・・浸漬直後と比較すると鮮やかな緑色はほとんど失われている。
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
実施例1、4、8~21および35~37は浸漬直後と比較するとキャベツのシャキシャキ感および鮮やかな緑色をやや保持していた。実施例2~3および5~7は浸漬直後と比較して変化がなくキャベツのシャキシャキ感および鮮やかな緑色を保持していた。実施例22~34および38~40は浸漬直後と比較するとキャベツのシャキシャキ感および鮮やかな緑色はやや失われていた。比較例1~17は浸漬直後と比較するとキャベツのシャキシャキ感および鮮やかな緑色はほとんど失われていた。
【0034】
実施例41、44、48~61および75~77は浸漬直後と比較するとレタスのシャキシャキ感および鮮やかな緑色をやや保持していた。実施例42~43および45~47は浸漬直後と比較して変化がなくレタスのシャキシャキ感および鮮やかな緑色を保持していた。実施例62~74および78~80は浸漬直後と比較するとレタスのシャキシャキ感および鮮やかな緑色はやや失われていた。比較例18~34は浸漬直後と比較するとレタスのシャキシャキ感および鮮やかな緑色はほとんど失われていた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、風味や健康への影響が少なく、キャベツやレタス等の野菜のシャキシャキ感および色調を保持できるため、食品ロスの削減にとって大変有用である。