(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096100
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】貝類養殖方法及び貝類養殖篭
(51)【国際特許分類】
A01K 61/55 20170101AFI20230629BHJP
【FI】
A01K61/55
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081981
(22)【出願日】2023-05-18
(62)【分割の表示】P 2019207620の分割
【原出願日】2019-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】592155522
【氏名又は名称】株式会社東北総合研究社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(72)【発明者】
【氏名】工藤 聖也
(72)【発明者】
【氏名】笹原 文武
(57)【要約】
【課題】開口部を簡単に見つけることができる養殖篭を提供する。
【解決手段】
図4(a)は養殖篭10の平面図であり、4本の稜線17の全てに開口部18が設けられている。数ヶ月海中に置くと養殖篭10は、海洋植物や汚れ等で覆われ開口部18が見えなくなる。4本のうち一つの稜線17を棒で打つと、海洋植物や汚れ等が落ちで開口部18が現れる。養殖篭10の汚れ等を全体的に落とす必要はなく、一つの稜線17の汚れ等を落とすだけで、開口部18を見つけることができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形の枠体と、この枠体を下から覆う底網と、この底網の縁から立ち上がる複数の三角形の側網と、前記枠体の中心に絡めた後に上下に延ばされる吊りロープと、この吊りロープに前記側網の上端を縛る結束材とからなり、隣り合う前記側網が交わる稜線の全数に、開口部が設けられ、前記開口部は縁が折り曲げられていない開口である多角錐篭を準備するステップと、
前記吊りロープを緩めて、前記開口部を開くステップと、
開いた前記開口部から稚貝を前記多角錐篭へ入れるステップと、
前記吊りロープを引き上げることで前記開口部を閉じるステップと、
前記開口部が閉じた状態の前記多角錐篭を海中へ投下するステップと、
海中で前記稚貝を養殖し、この養殖中に前記多角錐篭へ海洋生物や汚れが密に付着するステップと、
数カ月後に前記多角錐篭を海から引き上げるステップと、
海洋生物や汚れが密に付着するが前記稜線が何とか視認できる状態の前記多角錐篭に対して、陸上又は船上で、複数本の前記稜線のうち1本の前記稜線を手で叩く若しくは揺する又は棒で打って、海洋生物や汚れを落とすステップと、
海洋生物や汚れを落とした前記1本の稜線が最も下になるように前記多角錐篭を傾けるステップと、
最も下になった前記1本の稜線に設けられている前記開口部から前記稚貝を落下させるステップとからなる貝類養殖方法。
【請求項2】
ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、多角形の枠体と、この枠体を下から覆う底網と、この底網の縁から立ち上がる複数の三角形の側網と、前記枠体の中心に絡めた後に上下に延ばされる吊りロープと、この吊りロープに前記側網の上端を縛る結束材とからなり、隣り合う前記側網が交わる稜線の全数に、開口部が設けられ、前記開口部は縁が前記側網の面の直角方向へ折り曲げられていない開口であることを特徴とする貝類養殖篭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖方法及び養殖篭に関する。
【背景技術】
【0002】
貝類の養殖篭は、各種の形状のものが知られている(例えば、特許文献1(
図2)参照)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図5は従来の養殖篭の基本構成を説明する図である。
養殖篭100は、リングフレーム101と、複数のリングフレーム101を所定間隔で吊るす吊りロープ102と、リングフレーム101に水平に張られた底網103と、この底網103の縁から吊りロープ102に沿って立ち上げられた側網104と、この側網104に設けられた出入口としての開口部105と、この開口部105を閉じる縫合糸106とからなる円筒篭である。
【0004】
縫合糸106は、てぐす糸などのプラスチックフィラメントであり、開口部105は、縫合糸106により、ジグザグ状に縫合されることにより、閉じ合わせられる(特許文献1、段落0028)。
【0005】
ほたて貝等の養殖は、2mm程度の大きさの稚貝が80mm程度の大きさになるまで、網目を変えた複数種類の養殖篭100で行われる。
ある大きさの網目の養殖篭100で、稚貝は、数ヶ月養殖される。数ヶ月後に、養殖篭100を、陸又は船上に上げ、縫合糸106を引き抜き、開口部105を開く。開口部105から稚貝を取り出す。
【0006】
そして、稚貝を、大きな網目の養殖篭100の開口部105から投入し、この開口部105を縫合糸106で閉じる。稚貝は、大きな網目の養殖篭100で数ヶ月間養殖される。数ヶ月後に、養殖篭100を、陸に上げ、縫合糸106を引き抜き、開口部105を開く。開口部105を下にして、稚貝を落下させる。
このようなことが、3回程度行われる。
【0007】
しかし、養殖篭100には、次に述べる問題点がある。
養殖篭100は、数ヶ月間海中に吊り下げられる。この間に、海洋生物や汚れ(以下、汚れ等という。)が、側網104に付着する。開口部105及び縫合糸106は、汚れ等で覆われて、見えなくなる。
【0008】
そこで、稚貝を取り出す前に、養殖篭100から汚れ等を除去し(落とし)つつ、開口部105を探す。
確率に依存するが、側網104のほぼ全周(円筒であれば360°)の汚れ等を除去するため、除去時間が長くなり、作業能率が低下する。
【0009】
近年、稚貝の取り出しを機械に委ねる試みがなされているが、開口部105を機械の指定場所に向ける必要があり、開口部105を探すことは人の仕事であることに変わりはない。機械を導入したとしても、省人効果が小さくなる。このことが機械化の妨げになっている。
【0010】
作業能率の向上及び機械化が求められる中、開口部を簡単に見つけることができる養殖篭が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、開口部を簡単に見つけることができる養殖篭を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、多角形の枠体と、この枠体を下から覆う底網と、この底網の縁から立ち上がる複数の三角形の側網と、前記枠体の中心に絡めた後に上下に延ばされる吊りロープと、この吊りロープに前記側網の上端を縛る結束材とからなり、隣り合う前記側網が交わる稜線の全数に、開口部が設けられ、前記開口部は縁が折り曲げられていない開口である多角錐篭を準備するステップと、
前記吊りロープを緩めて、前記開口部を開くステップと、
開いた前記開口部から稚貝を前記多角錐篭へ入れるステップと、
前記吊りロープを引き上げることで前記開口部を閉じるステップと、
前記開口部が閉じた状態の前記多角錐篭を海中へ投下するステップと、
海中で前記稚貝を養殖し、この養殖中に前記多角錐篭へ海洋生物や汚れが密に付着するステップと、
数カ月後に前記多角錐篭を海から引き上げるステップと、
海洋生物や汚れが密に付着するが前記稜線が何とか視認できる状態の前記多角錐篭に対して、陸上又は船上で、複数本の前記稜線のうち1本の前記稜線を手で叩く若しくは揺する又は棒で打って、汚れを落とすステップと、
海洋生物や汚れを落とした前記1本の稜線が最も下になるように前記多角錐篭を傾けるステップと、
最も下になった前記1本の稜線に設けられている前記開口部から前記稚貝を落下させるステップとからなる貝類養殖方法を提供する。
【0014】
請求項2に係る発明は、ほたて貝等の稚貝の養殖に用いる養殖篭であって、
この養殖篭は、多角形の枠体と、この枠体を下から覆う底網と、この底網の縁から立ち上がる複数の三角形の側網と、前記枠体の中心に絡めた後に上下に延ばされる吊りロープと、この吊りロープに前記側網の上端を縛る結束材とからなり、隣り合う前記側網が交わる稜線の全数に、開口部が設けられ、前記開口部は縁が前記側網の面の直角方向へ折り曲げられていない開口であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、養殖篭は多角錐篭であり、稜線の全数に、開口部が設けられている。海洋生物や汚れを落とすステップでは、複数本の稜線のうち1本の稜線のみを手で叩く若しくは揺する又は棒で打って、汚れを落とす。一つの稜線のみ海洋生物や汚れを除去することで開口部を見つけることができ、除去時間が短くなる。
よって、本発明により、開口部を時間をかけずに簡単に見つけることができる貝類養殖方法が提供される。
【0016】
請求項2に係る発明では、養殖篭は多角錐篭であり、稜線の全数に、開口部が設けられている。汚れを落とすステップでは、複数本の稜線のうち1本の稜線のみを手で叩く若しくは揺する又は棒で打って、汚れを落とす。一つの稜線のみ海洋生物や汚れを除去することで開口部を見つけることができ、除去時間が短くなる。
よって、本発明により、開口部を時間をかけずに簡単に見つけることができる養殖篭が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】(a)は開いている開口部の拡大図、(b)は閉じている開口部の拡大図である。
【
図4】(a)は養殖篭の平面図、(b)は稚貝の取り出しを説明する図である。
【
図5】従来の養殖篭の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例0019】
図1に示すように、貝類養殖篭(以下、養殖篭と略記する。)10は、樹脂で被覆された軟鋼線11を折り曲げて枠状にした枠体12と、この枠体12を下から覆う底網13と、この底網13の縁から立ち上がる側網14と、枠体12の中心に絡めた後に上下に延ばされる吊りロープ15と、この吊りロープ15に側網14の上端を縛る結束材16とからなる多角錐篭である。
吊りロープ15は、養殖篭10から上下に延びていて、複数の養殖篭10を繋ぐことができるようになっている。
【0020】
図2に示すように、養殖篭10は、例えば、四角錐篭である。この場合は、底網は四角形となる。側網14は、三角形を呈する。隣り合う側網14が交わる部位は、稜線17となる。四角錐篭であれば、稜線17は4本になる。三角錐篭であれば、稜線17は3本、六角錐篭であれば、稜線17は6本となる。
【0021】
四角錐篭の4本の稜線17において、全数に開口部18を設ける。
【0022】
図1に示す稜線17において、底網13から直ぐの部分は「立ち」と呼ばれる起立部21であり、この起立部21の上端から斜め部22となっている。
起立部21を、稜線17の下部17aと呼び、斜め部22を稜線17の上部17bと呼ぶ。開口部18は、下部17aには設けない。開口部18は、上部17bの全部又は一部に設ける。
【0023】
起立部21(下部17a)は、稚貝が横移動するときに、主として当たる部位である。起立部21(下部17a)に、開口部18を設けないことで、稚貝は養殖篭10から脱出しにくくなる。
【0024】
図3に基づいて、開口部18を詳しく説明する。
吊りロープ(
図1、符号15)を緩めると、
図3(a)に示すように、開口部18が開き、稚貝の出し入れが行える。
吊りロープ(
図1、符号15)を引き上げる(タイトにする)と側網14が引っ張られ、
図3(b)に示すように、開口部18は閉じる。
【0025】
次に、本発明に係る養殖篭10の好ましい使用法を説明する。
養殖篭に稚貝を投入する。次に、養殖篭を海中に投下する。
【0026】
図1にて、養殖中は、稚貝は、主に底網13に載っており、ときどき移動して側網14の下部17aに当たる。下部17aには開口部18がないため、稚貝が逃げることはない。
まれに、稚貝が上昇するが、このときでも殆どは上部17bに当たって底網13へ落下する。ごくまれに、上昇した稚貝が、開口部18に当たるが、
図3(b)のように閉じているため、稚貝が開口部18から逃げるリスクは少ない。
【0027】
数ヶ月後に養殖篭が引き上げられる。陸上又は船上で、稚貝の取り出し作業が行われる。
【0028】
稚貝の取り出し作業について、
図4に基づいて詳しく説明する。
養殖篭10には、汚れ等が密に付着しているが、
図4(a)に示すように、4本の稜線17(場所を区別するために、17A~17Dの符号を併記した。)は、何とか見える。
【0029】
1本の稜線17Aを、手で叩く若しくは揺する又は棒などで打って、汚れ等を落とす。叩くことにより、開口部18Aが現れる。
そこで、
図4(a)にて、養殖篭10を45°程度、図面反時計方向に回す。
図4(b)に示すように、開口部18Aが最も下になるように養殖篭10を傾ける。開口部18Aから稚貝が落下する。
【0030】
よって、本発明においては、稜線17の全数に開口部18を設けた。
【0031】
尚、養殖篭10は、
図1において、側網14の全てが斜め部22であってもよい。この場合は、斜め部22の一部が下部17a、残部が上部17bとなり、この上部17bに開口部18が設けられる。
10…貝類養殖篭(養殖篭)、12…枠体、13…底網、14…側網、15…吊りロープ、16…結束材、17、17A~17D…稜線、17a…稜線の下部、17b…稜線の上部、18、18A~18D…開口部。