(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096172
(43)【公開日】2023-07-06
(54)【発明の名称】防災設備のシート展開装置
(51)【国際特許分類】
A62C 2/10 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
A62C2/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083646
(22)【出願日】2023-05-22
(62)【分割の表示】P 2018217812の分割
【原出願日】2018-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(74)【代理人】
【識別番号】100228669
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 愛規
(72)【発明者】
【氏名】梅原 寛
(57)【要約】
【課題】倉庫等の天井が高く、さらに構造上、空間面積の大きい施設を対象に、確実に火災の抑制消火を可能とする。
【解決手段】シート展開装置10は、ロール状に巻き回された仕切シート14を保持し、外部からの作動信号により仕切シート14の保持を解除したときに、仕切シート14の一端を固定した状態で他端側を落下させることにより上下に展開させる。シート展開装置10は、倉庫等の大きな防護空間の上部平面に格子状に配置され、火災時に、火災発生場所を含む対象区間を囲むように複数のシート展開装置10を作動して仕切シート14を上下に展開して仕切区画を形成し、炎、煙又は熱の外部への放出を抑制し、仕切区画の中に消火剤を散布して火災を抑制消火し、シート面に冷却剤散布ヘッド28から冷却水を散布して冷却する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護空間の火災を抑制消火する防災設備のシート展開装置であって、
防火性、耐火性、耐熱性又は遮煙性を有する布状体を用いた仕切シートと、
前記防護空間の上方側の所定位置に設置され、前記仕切シートの一端側が固定された本体手段と、
一端が前記本体手段に固定され、通常時に、前記仕切シートの他端側を含め前記仕切シートを非展開状態で前記本体手段側に保持する保持部を有する保持手段と、
前記防護空間の火災時に、前記保持手段を加熱することにより前記保持部を溶断させて前記仕切シートの保持を解除して前記仕切シートの他端側を下方へ落下させることにより、当該仕切シートを前記防護空間内の火災発生場所を含む任意の対象区画を仕切るように展開状態とする展開手段と、
を備えたことを特徴とする防災設備のシート展開装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倉庫等の大空間で発生した火災を抑制消火する防災設備のシート展開装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、監視区域で発生した火災を抑制消火する防災設備としては、火災感知器が火災を検出した場合に火災検出に連動して金属製の防火シャッターを閉鎖することにより防火区画を形成して火災の拡大を抑制する火災報知設備(特許文献1)や、火災による熱気流を受けてスプリンクラーヘッドが開放作動することで消火用水を散布して火災を抑制消火するスプリンクラー消火設備(特許文献2)が知られている。
【0003】
また、機械式駐車場を対象とした防災カーテン消火システムが知られている(特許文献3)。この防災カーテン消火システムは、機械式駐車場の車両が入る駐車部を有する駐車ステージが多段に設けられ、各駐車部の天井の前部と両側部に防災カーテンが設けられ、火災感知器により駐車部の火災を検出すると防災カーテンが降下して前部と両側部を封鎖し、消火ノズルから消火ガスを噴出して消火するようにしている。
【0004】
また、従来の防災カーテンはモータ駆動により降下させ、火災が鎮火するとモータ駆動により巻き上げるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-211780号公報
【特許文献2】特開2015-146840号公報
【特許文献3】特開平5-154216号公報
【特許文献4】実開昭57-204392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の防災設備にあっては、倉庫等のように広い空間をもつ施設に適用する場合に問題があった。
【0007】
例えば金属製の防火シャッターは遮熱性が十分ではなく、設備構造が大がかりであり、火災後の改修等も容易ではない。
【0008】
また、従来、防護区画は部屋やフロアの配置構成に合わせて、比較的広い面積について形成されるものであるが、規模の大きな大倉庫等では、大空間を構築する構造上の特徴や倉庫内に配置したラック棚等に物資を収納して出し入れする物流上の特徴から、従来のような防火シャッターを使用して、細かく防火区画を形成することは現実的ではない。
【0009】
また、倉庫のように高天井である場合、例えばスプリンクラー消火設備による消火用水は落下する途中で飛散して単位面積当たりの散布量が低下して散水効率が低く、一方では広範囲に散水が及び水損が拡大する問題がある。
【0010】
また、従来の防災カーテン消火システムは、機械式駐車場の駐車部のように、消火対象区画が支柱構造により上下左右に仕切られた区画構造の場合には問題ないが、倉庫のように仕切り構造を持たない大空間に適用することは困難である。
【0011】
また、倉庫のような大空間にあっては、仮に仕切構造があったとしても、防災カーテンは10メートルを超える高さから降下させて対象区画を封鎖させる必要があり、モータ駆動によるカーテンの降下では、カーテンが完全に降下するまでに時間がかかり、その間に火災が拡大し、十分な火災の抑制消火が期待できない問題がある。
【0012】
本発明は、倉庫等の天井が高く、さらに構造上、空間面積の大きい施設を対象に、確実に火災の抑制消火を可能とする防災設備のシート展開装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(防災設備のシート展開装置)
本発明は、防護空間の火災を抑制消火する防災設備のシート展開装置であって、
防火性、耐火性、耐熱性又は遮煙性を有する布状体を用いた仕切シートと、
防護空間の上方側の所定位置に設置され、仕切シートの一端側が固定された本体手段と、
一端が本体手段に固定され、通常時に、仕切シートの他端側を含め仕切シートを非展開状態で本体手段側に保持する保持部を有する保持手段と、
防護空間の火災時に、保持手段を加熱することにより保持部を溶断させて仕切シートの保持を解除して仕切シートの他端側を下方へ落下させることにより、当該仕切シートを防護空間内の火災発生場所を含む任意の対象区画を仕切るように展開状態とする展開手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
(仕切シートの保持状態)
保持手段は、仕切シートをロール状に巻かれた状態又は蛇腹状に折り畳まれた状態で本体手段に保持する。
【0015】
(仕切シートのシート長)
仕切シートは、本体手段の設置高さよりも長いシート長を有する。
【0016】
(シートの冷却剤散布)
更に、展開手段により展開した仕切シートに冷却剤として冷却水を散布する冷却剤散布手段が設けられる。
【0017】
(シートの散布面)
冷却剤散布手段は、展開手段により展開された仕切シートの片面又は両面に冷却剤を散布する。
【0018】
(防災設備のシート展開装置2)
また、本発明は、防護空間の火災を抑制消火する防災設備のシート展開装置であって、
防火性、耐火性、耐熱性又は遮煙性を有する布状体を用いた仕切シートと、
防護空間の所定位置に設置され、仕切シートの一端が固定された本体手段と、
非展開状態の仕切シートの下側を通って両端が本体手段に固定される、樹脂テープが用いられた保持手段と、
防護空間の火災時に、保持手段を横切る位置に配置されたヒータの通電加熱により、保持手段を溶断して仕切シートの他端を落下させ、当該仕切シートを防護空間内の火災発生場所を含む任意の対象区画を仕切るように展開状態とする展開手段と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
(基本的な効果)
本発明は、防護空間の火災を抑制消火する防災設備のシート展開装置であって、防火性、耐火性、耐熱性又は遮煙性を有する布状体を用いた仕切シートと、防護空間の上方側の所定位置に設置され、仕切シートの一端側が固定された本体手段と、一端が前記本体手段に固定され、通常時に、前記仕切シートの他端側を含め仕切シートを非展開状態で本体手段側に保持する保持部を有する保持手段と、防護空間の火災時に、保持手段を加熱することにより前記保持部を溶断させて前記仕切シートの保持を解除して仕切シートの他端側を下方へ落下させ、当該仕切シートを防護空間内の火災発生場所を含む任意の対象区画を仕切るように展開状態とする展開手段と、を備えたため、倉庫等の広い防護空間で火災が発生したときに、火災発生場所を含む対象区画を周囲から仕切るように仕切シートを展開することで防護空間の中に仕切区画が形成され、遮炎、遮煙、遮熱により延焼防止、煙拡散防止の効果が期待できる。
【0020】
また、本発明は、防護空間の火災を抑制消火する防災設備のシート展開装置であって、防火性、耐火性、耐熱性又は遮煙性を有する布状体を用いた仕切シートと、防護空間の所定位置に設置され、仕切シートの一端が固定された本体手段と、非展開状態の仕切シートの下側を通って両端が本体手段に固定される、樹脂テープが用いられた保持手段と、防護空間の火災時に、保持手段を横切る位置に配置されたヒータの通電加熱により、保持手段を溶断して仕切シートの他端を落下させ、当該仕切シートを防護空間内の火災発生場所を含む任意の対象区画を仕切るように展開状態とする展開手段とを備えたため、仕切シートの展開で仕切られた仕切区画の中に消火用水又は消火泡等の消火剤を散布することで、散布した消火剤が周囲に広がることがなく、火災発生場所に対し集中した散布を可能として確実に火災を抑制消火でき、消火効率が向上すると共に、周囲に対する消火剤の拡散が抑制、防止され、水損等を最小限に抑えることができる。
【0021】
(仕切シートの保持状態による効果)
また、保持手段は、仕切シートをロール状に巻かれた状態又は蛇腹状に折り畳まれた状態で本体手段に保持するようにしたため、シート展開装置は倉庫等の空間面積の大きな防護空間の天井側に配置されるが、通常時、仕切シートはコンパクトに保持されているため、防護空間の設置スペースは少なくて済む。
【0022】
また、火災時には、ロール状又は蛇腹状の状態で保持された仕切シートの片端の保持を解除することで、自重により確実に落下して上下に確実に展開することができ、従来のモータ駆動により展開する防災カーテン等に比べ、仕切シートの展開高さが倉庫のように10メートルを超えた場合にも、シートの展開速度が速く、短時間で展開して火災に対処できると共に、複雑な装置や制御を要することなく、展開することができる。
【0023】
(仕切シートのシート長による効果)
また、仕切シートは、本体手段の設置高さよりも長いシート長を有するようにしたため、従来の鋼製の防火シャッターの場合、床に障害物があると床まで降下せず、すき間が空くので消火、延焼防止等が低減してしまうが、布状態である仕切シートは柔軟性があるので、長めに採寸しておくとすき間の発生を抑制することができ、消火、延焼防止等の低減度合いが抑制できる。
【0024】
(シートの冷却剤散布による効果)
また、展開手段により展開した仕切シートに冷却剤を散布する冷却剤散布手段が設けられ、冷却剤散布手段は、展開手段により展開された仕切シートの片面又は両面に冷却剤を散布するものであり、更に、冷却剤散布手段は冷却剤として冷却水を散布するようにしたため、散布手段により仕切シートに冷却水を散布して濡らすことで、仕切シートの遮炎性、遮煙性、遮熱性をさらに高めることができる。また、冷却水散布手段は、必要に応じて仕切シートの片側又は両側に冷却水を散布するようにしたため、例えば、仕切シートの火災発生側には例えば消火泡が散布されることから、この場合には火災発生側に対し反対側となる外側シート面に冷却水を散布することで、シート内側に散布された消火泡を冷却水の散布により消失させることなく、外側シート面に対する冷却水の散布により仕切シートの火災に対する遮炎性、遮煙性、遮熱性を高めることができる。なお、ここでは対象区画の中心に向かう面側を内側、その反対面側を外側としている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】通常時のシート展開装置の実施形態を示した説明図
【
図2】シート展開装置による仕切シートの展開状態を示した説明図
【
図3】防災設備に対するシート展開装置の設置状態を示した説明図
【
図4】火災発生場所を囲むように仕切シートを展開するシート展開装置の動作を示した説明図
【
図5】
図4の仕切シートの展開に対する冷却水の散布を平面で示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0026】
[防災設備のシート展開装置]
図1は通常時のシート展開装置の実施形態を示した説明図であり、
図1(A)に正面を示し、
図1(B)に側面を示し、
図1(C)に下から見た平面を示す。
図2はシート展開装置による仕切シートの展開状態を示した説明図であり、
図2(A)に正面を示し、
図2(B)に側面を示す。
【0027】
[実施形態の基本的な概念]
本実施形態のシート展開装置10は、倉庫等の空間で発生した火災を消火抑制するために設置されるものであり、防火性、耐火性、耐熱性又は遮煙性を有する布状体を用いた仕切手段である仕切シート14を有し、防護空間の天井側等の所定位置に固定される本体手段である装置本体12に、仕切シート14の一端を固定手段である固定部材15により固定し、また、仕切シート14を保持手段である保持部材16によりロール状に巻かれるか又は蛇腹状に折り畳まれた非展開状態で保持し、防護空間の火災時に、展開手段であるラッチ解除作動部18により仕切シート14の保持を解除して他端側を落下させ、防護空間内の火災発生場所を含む任意の対象区画を仕切るように展開させるようにしたため、防護空間で火災が発生したときに、火災発生場所を含む対象区画を周囲から仕切るように仕切シート14を展開することで防護空間の中に仕切区画が形成され、遮炎、遮煙、遮熱により延焼防止、煙拡散防止の効果が期待できる、というものである。
【0028】
また、仕切シート14の展開で仕切られた仕切区画の中に消火用水又は消火泡等の消火剤を散布することで、散布した消火剤が周囲に飛散することを抑制し、火災発生場所に対し集中した散布を可能として確実に火災を抑制消火でき、また、周囲に対する消火剤の飛散が抑制・防止され、水損等を最小限に抑えることができる。
【0029】
また、火災時に展開した仕切シート14に冷却剤散布手段である冷却剤散布ヘッド28から冷却剤を散布して濡らすことで、仕切シート14の遮炎性、遮煙性、遮熱性をさらに高めることができる。
【0030】
[シート展開装置]
図1に示すように、シート展開装置10は、本体手段である装置本体12が防護空間の天井面側に固定されており、装置本体12に仕切手段である仕切シート14の一端を固定手段である固定部材15により固定し、仕切シート14はロール状に巻き回された非展開状態で装置本体12の下側にワイヤ又はロープを用いた保持手段である保持部材16により左右2箇所で吊下げ状態に保持されている。
【0031】
なお、仕切シート14の非展開状態としては、仕切シート14を回転軸に巻き、火災時に回転軸のラッチを解除して仕切シート14を自重で落下展開させる構造としてもよい。また、シート展開装置10の仕切シート14を蛇腹状に折り畳んだ非展開状態で保持し、火災時に保持を解除して落下展開させる構造としてもよい。
【0032】
仕切シート14は例えば1200℃の高熱に耐えることができ、耐火シート、耐火カーテン、耐火幕等とも呼ばれるシートである。なお、仕切シート14としては、1200℃以下であっても、例えば数百度以上の耐熱性能を持つものであれば良い。
【0033】
また、仕切シート14の重量は、例えば、幅5メートル、長さ10メートルのサイズとすると35キログラム程度であり、同じサイズの鋼製シャッターは600キログラムを超えることから、1/20程度で済み、防護空間に対するシート展開装置10の設置が容易にできる。
【0034】
ワイヤ又はロープを用いた保持部材16は一端が装置本体12に固定され、他端はロール状に巻かれた仕切シート14の下側を通して装置本体12に設けられた展開手段であるラッチ解除作動部18に着脱自在に保持され、抜け止めされている。ラッチ解除作動部18は、外部からの作動信号による例えばソレノイドの通電によりラッチを解除する。
【0035】
シート展開装置10は、火災時に外部からの作動信号によりラッチ解除作動部18を作動すると、仕切シート14の一端が装置本体12に固定された状態で保持部材16による仕切シート14の他端の保持が解除され、
図2に示すように、自重により落下して下方に展開される。
【0036】
ラッチ解除作動部18により保持部材16の保持を解除したとき、35キログラム程度の重量を持つ仕切シート14が片側を固定した状態で落下して展開することから、従来のモータ駆動による仕切シート14の巻き降ろしに比べ、速やかに落下して上下に展開させることができる。
【0037】
ここで、
図2のように展開した仕切シート14の長さは、防護空間におけるシート展開装置10の設置高さよりも長めに採寸して余長をとるようにする。これは防護空間の下面となる床面に荷物や設備機器等の機材が置かれている場合があり、仕切シート14を落下展開したときに床面に機材があってもシートの弛みにより隙間ができにくいようにするためである。
【0038】
また、シート展開装置10には、火災時に展開した仕切シート14に冷却剤として例えば冷却水を散布する冷却剤散布手段である冷却剤散布ヘッド28が設けられる。冷却剤散布ヘッド28は、装置本体12の両側に取り出された配管29に設けられており、これに装置本体12内を通して冷却配管44が開閉弁46を介して接続され、火災時に冷却剤供給設備40(後述)から冷却水の供給を受けて、
図2に一点鎖線で示すように、展開した仕切シート14の片面、例えば、
図2(B)で仕切シート14の右側が火災発生場所(内側)であるとすると、火災発生側に対し反対側となる外側シート面(図示の左側シート面)に冷却剤として冷却水を散布する。
【0039】
冷却剤散布ヘッド28から散布された冷却水は、展開した仕切シート14の外側シート面を略均一に濡らしつつ、外側シート面に沿って流れ落ちる。仕切シート14は布織目の表面に樹脂等をコーティングしたものとコーティングしていないものがあり、非コーティングの仕切シート14を使用した場合、冷却剤散布ヘッド28から散布された冷却水は、展開した仕切シート14のシート面を濡らし、仕切シート14の布織目に冷却水が含浸して隙間が閉鎖され、遮煙性が向上し、仕切シート14の外側への煙の拡散が抑制される。また、散布水の含浸と外側シート面に沿った流れ落ちにより、仕切シート14が冷却され、遮炎性と遮熱性が高められる。もちろん、コーティングしたものでも所定の効果をえることができる。
【0040】
ここで、冷却剤散布ヘッド28から展開した仕切シート14の火災発生側の反対側となる外側シート面に冷却水を散布している理由は、仕切シート14の展開で仕切られた対象区画内には消火ヘッド26(後述)から消火泡を散布しており、散布された消火泡に冷却剤散布ヘッド28からの冷却水がかかると消火泡が消失することから、消火泡の消失を防ぐためである。
【0041】
なお、仕切シート14の展開で仕切られた火災発生場所を含む仕切区画の中に消火用水を散布する場合には、内側シート面に冷却水を散布するようにしても良いし、シート面の内側と外側の両方に冷却水を散布するようにしても良い。
【0042】
なお、本実施形態は、シート展開装置10の両側に冷却剤散布ヘッド28を一台ずつ設けているが、シート幅に応じて複数の冷却剤散布ヘッド28を並べて配置するようにしても良い。また、冷却剤散布ヘッド28に対する冷却配管44は装置本体12内を通さずに外側に配置しても良い。また、開閉弁46は外付けではなく、装置本体12内に組み込んだ構造としても良い。
【0043】
また、シート展開装置10における仕切シート14の展開手段による保持解除は、火災時に外部からの作動信号による以外に、火災による熱を受けたヒューズの溶断により保持を解除するヒュージブルリンクを用いた感熱作動型としてもよい。また、用途、規模、形状により各方式を組み合わせた複合型としても良い。
【0044】
更に、保持手段である保持部材16と展開手段であるラッチ解除作動部18は、これに限定されず、適宜の方法を採用し得る。例えば、強靭で幅広の樹脂テープを保持手段とし、樹脂テープにより装置本体12に対しロール状に巻き回した仕切シート14の下側を通して吊り下げ保持し、樹脂テープには、展開手段として、樹脂テープを横切る位置にヒータ線を埋め込んでおき、火災時には、ヒータ線の通電加熱により樹脂テープを溶断することで、仕切シート14の保持を解除して落下させ、これにより上下に展開させても良い。
【0045】
[防護空間に対するシート展開装置の設置]
図3は防災設備に対するシート展開装置の設置状態を示した説明図である。
図3に示すように、大型倉庫等の防護空間22を対象に本実施形態のシート展開装置10を用いた防災設備20が設置される。防護空間22の天井側となる上部平面に、仕切シート14を火災時に展開する12台のシート展開装置10を格子状に配置している。なお、シート展開装置10は防護空間22の天井面以外に、例えば天井面よりやや下側の空間位置に設置することも可能である。
【0046】
ここで、シート展開装置10の格子状の配置に対応した防護空間22の点線で分けられた区画を、シート展開装置10による仕切シート14の展開により仕切られる対象区画A1~A9とする。また、防護空間22における対象区画のサイズと区画数は、シート展開装置10により展開する仕切シート14のサイズに応じて任意に定められる。
【0047】
シート展開装置10に対応してシート展開制御装置32が設けられ、シート展開制御装置32には、対象区画A1~A9の何れかで火災が発生した場合、火災が発生した対象区画A1~A9の各々を囲むように仕切シート14を展開するため、対象区画A1~A9に対応して作動すべきシート展開装置10の関係が予め記憶されている。
【0048】
図3に示す防護空間22における対象区画A1~A9の天井面側の各々には火災感知器24が設置され、火災受信盤34から引き出された信号回線45bに接続されている。
【0049】
火災感知器24は例えば伝送機能を備えると共に固有のアドレスが設定されており、火災発報した場合に自己のアドレスを含む火災信号を送信することで、火災受信盤34は対象区画A1~A9のどの場所で火災が発生したかを識別でき、これに基づき、火災警報を出力すると共に、火災が発生した対象区画を示す移報信号を消火制御盤38に送信するようにしている。
【0050】
このためシート展開制御装置32は、火災受信盤34から受信した移報信号に基づき、火災発生場所となる対象区画A1~A9の何れかに対応して、火災が発生した対象区画の周囲を囲むようにシート展開装置10を作動して仕切シート14を展開させる。
【0051】
図3に示す防護空間22における対象区画A1~A9の天井面側の各々には、例えば消火用水又は消火泡等の消火剤を散布する消火ヘッド26が配置され、消火ヘッド26は開閉弁30を介して消火剤供給設備36からの消火配管42に接続されている。
【0052】
消火剤供給設備36は消火ポンプ設備又は泡消火ポンプ設備であり、火災受信盤34で火災警報が出力された場合、消火ポンプ設備の起動により消火用水が供給されるか、又は泡消火ポンプ設備の起動により泡消火液が供給される。なお、消火ポンプ設備又は泡消火ポンプ設備の起動は、手動操作による起動又は火災受信盤34からの移報信号による連動起動とする。
【0053】
開閉弁30に対しては、消火制御盤38から引き出された信号回線45cが接続されている。消火制御盤38は、火災受信盤34から受信した移報信号が示す火災発生場所となる対象区画A1~A9の何れかに対応して、火災が発生した対象区画に配置した開閉弁30に開駆動信号を送信して開放させ、火災発生場所となる対象区画への消火用水又は消火泡の散布を行う。消火ポンプの起動、開閉弁の起動は、シート展開制御装置32から消火制御盤38へ起動信号を送信させ、これに基づき行うようにしても良い。
【0054】
対象区画A1~A9に消火剤を散布する消火手段としては、例えば、対象区画A1~A9毎に閉鎖型のスプリンクラーヘッドを設けてもよいし、また、放水ノズルから消火用水を対象区画A1~A9に放水する放水銃装置を設けてもよい。
【0055】
シート展開装置10に設けられた冷却剤散布ヘッド28に対しては、冷却剤供給設備40から火災時に冷却剤として冷却水が供給され、
図2のように展開した仕切シート14のシート面に冷却剤として冷却水を散布する。
【0056】
冷却剤供給設備40は送水ポンプ設備であり、例えば、消火制御盤38による消火剤供給設備36に連動して起動され、冷却配管44を介してシート展開装置10の冷却剤散布ヘッド28に冷却水を供給する。また、開閉弁46に対しては、消火制御盤38から引き出された信号回線(図示せず)が接続され、消火制御盤38は、火災受信盤34から移報信号により受信した火災発生場所となる対象区画A1~A9の何れかに対応して、火災が発生した対象区画を仕切るシート展開装置10の外側シート面に対応した開閉弁46(
図2参照)に開駆動信号を送信して開放させ、展開した仕切シート14の外側シート面に冷却水を散布させる。なお、
図3は開閉弁46を省略している。なお、消火剤供給設備36と冷却剤供給設備40を共用し、同じく、消火配管42と冷却配管44を共用するようにしても良い。
【0057】
[防災設備の動作]
図4は火災発生場所を囲むように仕切シートを展開するシート展開装置の動作を示した説明図あり、冷却剤散布ヘッド28は図示を省略している。
図5は
図4の仕切シートの展開に対する冷却水の散布を平面で示した説明図である。
【0058】
図4に示すように、対象区画A5で火災が発生してこれに対応する火災感知器24が火災発報したとすると、火災発生場所として判別された対象区画A5の上方の天井面に矩形配置された4台のシート展開装置10のラッチ解除作動部18が作動されて保持部材16のラッチが解除され、ロール状に巻かれた仕切シート14の保持が解除されて落下し、対象区画A5の周囲4面を囲むように仕切シート14が展開され、対象区画A5の周囲が閉鎖されて仕切区画が形成される。
【0059】
このため対象区画A5で発生した火災による炎、煙及び熱は、その周囲を囲んで展開された仕切シート14により遮られ、その外側への放出が抑制され、これにより実質的に防火区画を形成することができる。
【0060】
また、仕切シート14の展開で囲まれた対象区画A5に対しては開閉弁30の開駆動により消火ヘッド26から消火用水又は消火泡が散布されるため、大倉庫といった防護空間22の場合に、天井面に近い例えば数メートルを超える高い位置に消火ヘッド26があっても、周囲に散逸することなく仕切シート14で囲まれた対象区画A5の中に集中的に散布され、対象区画A5で発生している火災を確実に抑制し、消火させることが可能となる。
【0061】
また、消火ヘッド26から消火用水又は消火泡を散布した場合、周囲を囲んで展開された仕切シート14に遮られて周囲へ漏れ出すことが殆どなく、消火用水又は消火泡の散布による損害を最小限に抑えることが可能となる。
【0062】
なお、仕切シート14の展開により周囲が囲まれた対象区画A5にあっては、4枚の仕切シート14の合わせ目に隙間が発生するが、この隙間部分を閉鎖するように、例えばコーナー部分の内側を斜め横切るように補助用の仕切シートを展開して閉鎖するようにしてもよい。
【0063】
また、
図5に示すように、対象区画A5を囲んで仕切シート14を展開した4台のシート展開装置10の外側に設けられた冷却剤散布ヘッド28からは冷却水が外側シート面に対し散布されることで、遮炎性、遮煙性及び遮熱性が高められ、また、外側シート面に沿って流れ落ちることで高い冷却効果が得られ、耐熱性が高められる。
【0064】
更に、展開した仕切シート14に沿って冷却水が流れ落ちることで仕切シート14の重量が増加し、シートを下に引いて広げる力が加わることで展開した仕切シート14の張りを強くして形を保つことができる。
【0065】
[本発明の変形例]
(対象施設)
上記の実施形態は、対象施設として広い防護空間をもつ倉庫等を対象にした防災設備にシート展開装置を設置しているが、これに限定されず、適宜の施設に適用することができる。例えば、倉庫以外に、トンネル、展示施設、駐車施設、大規模工場等が対象となり得る。
【0066】
また、倉庫は、倉庫内に荷物をバラ積みする一般倉庫以外に、多数のラック棚が配置されたラック倉庫があり、ラック倉庫にはラック棚に対しフォークリフトの運転により荷物を出し入れする手動倉庫と、スタッカクレーンによりラック棚に対し荷物を自動的に出し入れする自動倉庫があるが、いずれも本発明のシート展開装置を用いた防災設備の対象に含まれる。
【0067】
(シート展開装置の配置)
上記の実施形態は、防護空間の上部平面に複数のシート展開装置を格子状に配置した場合を例にとっているが、火災発生場所を取り囲むように仕切シートを展開することができれば、シート展開装置の配置は必要に応じて適宜の配置とする。
【0068】
また、対象区画の横幅が長くなる場合は、複数台のシート展開装置を横に並べて配置する。この場合、隣接する仕切シートが端部で重なって隙間を塞ぐように複数台のシート展開装置を横に並べて配置する。
【0069】
(その他)
また、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0070】
10:シート展開装置
12:装置本体
14:仕切シート
15:固定部材
16:保持部材
18:ラッチ解除作動部
20:防災設備
22:防護空間
24:火災感知器
26:消火ヘッド
28:冷却剤散布ヘッド
30,46:開閉弁
32:シート展開制御装置
34:火災受信盤
36:消火剤供給設備
38:消火制御盤
40:冷却剤供給設備
42:消火配管
44:冷却配管
45a~45d:信号回線
A1~A9:対象区画