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特開2023-96206グリップ掌握状態判定装置、判定方法、および該判定装置を備えるシステム。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096206
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】グリップ掌握状態判定装置、判定方法、および該判定装置を備えるシステム。
(51)【国際特許分類】
   B62J 45/422 20200101AFI20230630BHJP
   B62K 23/04 20060101ALI20230630BHJP
   B62J 45/414 20200101ALI20230630BHJP
   B62J 45/00 20200101ALI20230630BHJP
   B62K 11/14 20060101ALI20230630BHJP
   B60K 28/06 20060101ALI20230630BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
B62J45/422
B62K23/04
B62J45/414
B62J45/00
B62K11/14
B60K28/06
B60T7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211775
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】バートン エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ドゥミトル トライアン
【テーマコード(参考)】
3D011
3D013
3D037
3D246
【Fターム(参考)】
3D011AL41
3D013CH01
3D037FA06
3D037FB10
3D037FB12
3D246AA11
3D246DA01
3D246EA18
3D246GB27
3D246GC16
3D246HA12C
3D246JB11
(57)【要約】
【課題】 自動二輪車の運転者によるグリップの掌握状態を正確に判定すること。
【解決手段】 本発明に係るグリップ掌握状態判定装置(1)は、自動二輪車(100)の運転操作用ハンドルバー(30)に装着され、自動二輪車の運転者が掌握するグリップ(31、32)における振動を検出するグリップセンサ(11、12)と、運転者によるグリップの掌握状態に応じた振動パターンを記憶する記憶部(26)と、グリップセンサによって検出される振動と前記振動パターンに基づいて、運転者によるグリップの掌握状態を判定する判定部(23)と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車(100)の運転操作用ハンドルバー(30)に装着され、前記自動二輪車の運転者が掌握するグリップ(31、32)における振動を検出するグリップセンサ(11、12)と、
前記運転者による前記グリップの掌握状態に応じた振動パターンを記憶する記憶部(26)と、
前記グリップセンサによって検出される振動と前記振動パターンに基づいて、前記運転者による前記グリップの掌握状態を判定する判定部(23)と、を有する、
グリップ掌握状態判定装置(1)。
【請求項2】
前記グリップセンサは、前記運転操作用ハンドルバーの端部に装着される、請求項1記載のグリップ掌握状態判定装置(1)。
【請求項3】
前記運転者用ハンドルバーと前記運転者用ハンドルバーを支持するステアリングコラムとの接続部における振動を検出するジョイントセンサ(13)を備える、請求項1または2記載のグリップ掌握状態判定装置(1)。
【請求項4】
前記グリップセンサは、3軸加速度センサである、請求項1から3のいずれか一項記載のグリップ掌握状態判定装置(1)。
【請求項5】
前記ジョイントセンサは、3軸加速度センサである、請求項3記載のグリップ掌握状態判定装置(1)。
【請求項6】
グリップ掌握情報と前記グリップ掌握情報に対応する前記グリップセンサからの振動に基づいて、前記振動を入力とするグリップ掌握状態判定モデルの機械学習を行う機械学習部(25)を備える、請求項1から5のいずれか一項記載のグリップ掌握状態判定装置(1)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項記載のグリップ掌握状態判定装置の前記判定部による判定結果に応じて、前記運転者に警報を発する警報発信器(50)を備える、警報システム(110)。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項記載のグリップ掌握状態判定装置の前記判定部による判定結果に応じて、前記自動二輪車の緊急自動ブレーキ制御の作動時におけるステアリングのダンピング制御を変化させる操向制御器(60)を備える、パワーステアリング制御システム(120)。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項記載のグリップ掌握状態判定装置の前記判定部による判定結果に応じて、前記自動二輪車の緊急自動ブレーキ制御の作動時におけるブレーキ制御を変化させる自動ブレーキ制御器(60)を備える、緊急自動ブレーキ制御システム(130)。
【請求項10】
自動二輪車の運転者によるグリップの掌握状態に応じた振動パターンを記憶する記憶ステップと、
運転操作用ハンドルバーに装着され、前記グリップにおける振動を検出するグリップセンサからの信号を取得する取得ステップと、
前記グリップセンサによって検出される前記振動と前記振動パターンに基づいて、前記運転者による前記グリップの掌握状態を判定する判定ステップと、を有する、
グリップ掌握状態判定方法。
【請求項11】
前記グリップセンサは3軸加速度センサであり、
前記判定ステップにおいて、前記3軸加速度センサによって検出される加速度の時系列データから変位を算出し、前記変位と、前記振動パターンから得られる変位閾値とを比較することによって前記グリップの掌握状態を判定する、請求項10記載のグリップ掌握状態判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車を操縦する運転者の運転操作用ハンドルバーに装着されるグリップの掌握状態を判定する判定装置および判定方法と、その判定装置を備える警報システム、パワーステアリング制御システム、および緊急自動ブレーキ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車に適用される技術として、グリップに圧力を検出する圧力センサを設け、該圧力センサにより検出される圧力に基づいて、自動二輪車の駆動力の要求値、クラッチの接続状態の要求値、およびブレーキの作動圧の要求値のうちのいずれかを演算し、その演算結果に基づいて、駆動力、クラッチの接続状態、およびブレーキの作動圧のうちのいずれかを制御する制御部を備える電子制御装置が知られている。
この電子制御装置によれば、それぞれの要求値の演算結果に基づいて駆動力等の制御を行うので、運転者はグリップから指を離すことなく所望の駆動力等を制御することが可能となる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-040542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、圧力センサによって運転者のグリップの掌握状態を判定する場合、該圧力センサの配置場所によって運転者による正確な掌握状態を判定できないことがある。つまり、運転者のグリップの掌握の癖や、握り方によって圧力の検出値が変わることが有り得る。 またエンジンによる振動が圧力センサの検出値に影響を与えることもある。
これを改善するために複数の圧力センサをグリップに配置することも考え得るが、複数の圧力センサを配置するための材料費、および製造費用はそれにつれ高額となる。
【0005】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、運転者の握り方や車両の振動に起因する誤判定の可能性を最小化し、運転者のグリップの掌握状態を正確に判定することのできる、判定装置および判定方法を提供するものである。また、本発明は、該判定装置を備える警報システム、パワーステアリング制御システム、および緊急自動ブレーキ制御システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るグリップ掌握状態判定装置は、自動二輪車の運転操作用ハンドルバーに装着され、自動二輪車の運転者が掌握するグリップにおける振動を検出するグリップセンサと、運転者によるグリップの掌握状態に応じた振動パターンを記憶する記憶部と、グリップセンサによって検出される振動と振動パターンに基づいて、運転者によるグリップの掌握状態を判定する判定部と、を有するものである。
【0007】
本発明に係る警報システムは、判定部による判定結果に応じて、運転者に警報を発する警報発信器を備えるものである。
本発明に係るパワーステアリング制御システムは、判定部による判定結果に応じて、自動二輪車の緊急自動ブレーキ制御の作動時におけるステアリングのダンピング制御を変化させる操向制御器を備えるものである。
本発明に係る緊急自動ブレーキ制御システムは、判定部による判定結果に応じて、自動二輪車の緊急自動ブレーキ制御の作動時におけるブレーキ制御を変化させる自動ブレーキ制御器を備えるものである。
【0008】
また、本発明に係るグリップ掌握状態判定方法は、自動二輪車の運転者によるグリップの掌握状態に応じた振動パターンを記憶する記憶ステップと、運転操作用ハンドルバーに装着され、グリップにおける振動を検出するグリップセンサからの信号を取得する取得ステップと、グリップセンサによって検出される振動と振動パターンに基づいて、運転者によるグリップの掌握状態を判定する判定ステップと、を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るグリップ掌握状態判定装置およびその判定方法では、グリップにおける振動とあらかじめ記憶されるグリップの掌握状態に応じた振動パターンに基づいてグリップの掌握状態を判定する。このため、運転者のグリップの掌握位置やエンジンからの振動等に起因する誤判定の可能性を軽減し、運転者のグリップの掌握状態を正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】グリップ掌握状態判定装置および該判定装置を備えるシステムの、自動二輪車等への搭載状態の一例を示す図である。
図2】警報システムの、システム構成の一例を示す図である。
図3】パワーステアリング制御システムの、システム構成の一例を示す図である。
図4】緊急自動ブレーキ制御システムの、システム構成の一例を示す図である。
図5】振動パターンの一例を示す図である。
図6】グリップ掌握状態判定装置の動作フローを示す図である。
図7】機械学習部の動作フローを示す図である。
図8】警報システムの動作フローを示す図である。
図9】パワーステアリング制御システムの動作フローを示す図である。
図10】緊急自動ブレーキ制御システムの動作フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係るグリップ掌握状態判定装置、およびその判定装置を備えるシステム、及び、その判定方法について、図面を用いて説明する。
【0012】
なお、以下で説明する構成、動作等は、一例であり、本発明に係る装置、システム、および、処理方法は、そのような構成、動作等である場合に限定されない。
【0013】
例えば、以下では、自動二輪車がモータサイクルである場合を説明しているが、自動二輪車が、スクーターや電動バイクであってもよい。
【0014】
また、以下では、同一の又は類似する説明を適宜簡略化又は省略している。また、各図において、同一の又は類似する部分については、同一の符号を付している。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
【0015】
<グリップ掌握状態判定装置および該装置を含む各システムの構成>
グリップ掌握状態判定装置1の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係るグリップ掌握状態判定装置1およびそれを含むシステムの、自動二輪車への搭載状態を示す図である。
【0016】
図1に示されるように、グリップ掌握状態判定装置1は、少なくとも自動二輪車100に搭載され、左グリップ31の振動を検出する左グリップセンサ11と、右グリップ32の振動を検出する右グリップセンサ12と、コントロールパネル40内に内蔵される処理ユニット20と、を含む。以下、左グリップセンサ11と、右グリップセンサ12を合わせてグリップセンサ11、12と呼ぶこととする。また、グリップ掌握状態判定装置1は、選択的に、運転者用ハンドルバー30と運転者用ハンドルバーを支持するステアリングシャフト(図示せず)との接続部の振動を検出するジョイントセンサ13を設けてもよい。
【0017】
グリップセンサ11、12は、グリップ31、32における振動を検出するセンサであり、振動を検出するセンサには、接触式と非接触式が存在する。接触式は加速度検出型の圧電式センサが、非接触式は速度検出型のレーザードップラー式や、変位検出型の静電容量式が用いられる。本発明にはこれらすべてのセンサが適用可能であるが、広い周波数範囲をカバーできる加速度検出型のセンサであることがより好ましい。本発明の一実施形態においては、3軸のジャイロセンサ及び3方向の加速度センサを備えるものが採用される。
【0018】
ジョイントセンサ13は、グリップセンサ11、12同様に、3軸のジャイロセンサ及び3方向の加速度センサを備えるものであることが好ましく、検出された慣性を処理ユニット20に出力する。
【0019】
グリップセンサ11、12は、有線接続またはBluetooth(登録商標)等の無線通信によって処理ユニット20と電気信号の通信が可能である。
【0020】
グリップセンサ11、12は、例えばハンドルバー30のグリップ箇所に装着される。好ましくは、ハンドルバー30の端部に装着される。ハンドルバーの端部は振動振幅が最も大きくなる箇所であるので、運転者のグリップの掌握状態による変化をより検出しやすくなる。
【0021】
ジョイントセンサ13は、ハンドルバー30とステアリングコラムとの接続部33に装着される。この接続部における振動は、運転者のグリップ掌握状態に影響されないので、グリップにおける運転者の掌握状態を判定するのにジョイントセンサで検出される振動を参照値として取り入れ、グリップにおける振動の検出精度を向上させることができる。尚、運転者のグリップ掌握状態に影響しない箇所であれば、接続部は厳密にハンドルバー30とステアリングコラムとの接続部である必要はない。例えば、ステアリングコラムが二股に分割される場合には、ハンドルバー30と該二股に分割されたステアリングコラムとのそれぞれの接続箇所の間も本発明の接続部に含まれる。
【0022】
次にグリップ掌握状態判定装置1の処理ユニット20の構成、および該装置を含むシステムについて、図2から図4を用いて説明する。
【0023】
処理ユニット20は、取得部21と、算出部22と、判定部23と、通信部24と、機械学習部25と、記憶部26を含む。処理ユニット20の各部は、1つの筐体に纏めて設けられていてもよく、また、複数の筐体に分けられて設けられていてもよい。また図1において、処理ユニット20はコントロールパネル40内に格納されているが、例えば操向制御器60や自動ブレーキ制御器70に格納されていてもよい。処理ユニット20の一部又は全ては、例えば、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されてもよく、また、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0024】
取得部21は、グリップセンサ11、12からグリップ31、32における振動の測定値を取得する。また取得部21は、ジョイントセンサ13から、接続部33における振動の測定値を取得する。
【0025】
算出部22は、グリップセンサ11、12から取得した振動に関する測定値を時間ごとにプロットし、ある所定時間内の振動パターンを生成する。所定時間は固定であってもよいし、変動するようにしてもよい。
同様に算出部22は、ジョイントセンサ13から取得した振動の測定値を時間ごとプロットし、ある所定時間内の振動プロファイルを生成する。
グリップセンサ11、12、およびジョイントセンサ13が加速度検出型のセンサである場合には、算出部は、それらのセンサによって検出される加速度の時系列データから変位を算出し、時間と変位の振動パターンを生成する。
【0026】
判定部23は、取得部21で取得したグリップの振動とあらかじめ記憶部26に記憶された運転者のグリップの掌握状態に応じた振動パターンに基づいて、運転者によるグリップの掌握状態を判定する。あらかじめ記憶される振動パターンは、運転者がグリップを掌握した状態を示す掌握振動パターンとグリップを掌握していない状態を示す非掌握振動パターンが用意され、算出部22で生成されたグリップの現在の振動パターンとこれらの振動パターンを比較することによって運転者によるグリップの掌握状態を判定するようにしてもよい。または、あらかじめ記憶される振動パターンから変位閾値を算出し、取得部で得られるグリップの振動から算出された変位と該変位閾値とを比較して運転者のグリップ掌握状態を判定するようにしてもよい。図5に一例として、掌握振動パターン(図5a)と非掌握振動パターン(図5b)を示す。
あらかじめ記憶される掌握状態に応じた振動パターンは、自動二輪車の走行状態(通常走行中、カーブ走行中、ブレーキ作動中、クラッチ操作中、等)に応じて、複数用意されてもよい。
【0027】
また、ジョイントセンサ13から取得した振動の測定値を入力とし、グリップセンサ11、12から取得した振動の測定値を出力とした周波数特性を解析することによって、運転者のグリップ掌握状態判定の精度を向上させることができる。
判定結果には、運転者が「グリップを掌握している」、または「グリップを掌握していない」のいずれかの判定結果が含まれる。
【0028】
通信部24は、判定部23による判定結果を取得し、警報発信器50、操向制御器60、または自動ブレーキ制御器70へ判定結果を送信する。
【0029】
機械学習部25は、複数の機械学習モデルのうちの1つを選択し、選択された機械学習モデルとグリップ掌握情報およびグリップ掌握情報に対応するグリップセンサから振動の測定値とを用いてグリップ掌握状態判定モデルの機械学習を行う。
なお、上記の機械学習モデルは、既存の機械学習モデルのうちのグリップ掌握状態判定モデルの機械学習に利用可能なモデルのいずれであってもよい。例えば、機械学習モデルは、ロジスティック回帰、サポートベクタマシン、ランダムフォレストもしくは近傍法などの分類手法、ニューラルネットワークまたはベイジアンネットワークなどを用いた計算モデルであってよい。
機械学習部25の処理フローについては後述する。
【0030】
記憶部26はデータやプログラムの保存・記憶を行うための装置であり、少なくとも、算出部22によって実行されるプログラム、各種センサによる測定値、振動パターン、機械学習モデル等を記憶する。
【0031】
図2に示す警報発信器は、少なくとも取得部51と警報制御部52を備えている。
取得部51は通信部24から判定部23による判定結果を受信するとともに、自動ブレーキ制御器70から信号を受信する。警報制御部52は、自動ブレーキ制御器70から緊急ブレーキ作動中である旨の信号を受信し、通信部24から運転者によっていずれかのグリップ31、32が掌握されていない状態の判定結果を取得すると、運転者に対して警報を発するための制御を行う。警報はコントロールパネルを介して運転者に視覚的に警報を発するものであってもよいし、音により警報を発するものであってもよい。
【0032】
図3に示す操向制御器60は、少なくとも取得部61とダンピング制御部62を備えている。
取得部61は通信部24から判定部23による判定結果を受信するとともに、自動ブレーキ制御器70からの信号を受信する。ダンピング制御部62は、自動ブレーキ制御器70から緊急ブレーキ作動中である旨の信号を受信し、通信部24から運転者によっていずれかのグリップ31、32が掌握されていない状態の判定結果を取得すると、ステアリングのダンピング制御を変化させる。具体的に、ダンピング制御部62は、ステアリングのトルクを増大させる制御を行う。これによって、運転者がグリップを掌握していない状態であっても、緊急ブレーキによってステアリングが急激に変化するのを防ぐことができる。
【0033】
図4に示す自動ブレーキ制御器70は、少なくとも取得部71とブレーキ制御部72を備えている。
取得部71は通信部24から判定部23による判定結果を受信する。ブレーキ制御部72は、自動ブレーキ制御器70が緊急ブレーキ作動中であることを判定し、通信部24から運転者によっていずれかのグリップ31、32が掌握されていない状態の判定結果を取得すると、自動二輪車の緊急自動ブレーキ制御の作動時におけるブレーキ制御を変化させる。具体的には、ブレーキ制御部72は、通常の緊急ブレーキ作動時のブレーキトルクと比較してブレーキトルクを制限する制御を行う。これによって、運転者がグリップを掌握していない状態で緊急ブレーキが作動されたとしても、ステアリングが不安定になる状態を軽減することができる。
また他の実施例として、自動ブレーキ制御器70は、通常の緊急ブレーキ制動時のブレーキトルクに比べて所定時間だけブレーキトルクを制限する制御を行うようにしてもよい。このようにして、緊急ブレーキの作動開始によってステアリングが不安定になる前に運転者にグリップを掌握する時間的余裕を与えることが可能となる。
【0034】
<グリップ掌握状態判定装置の動作>
次にグリップ掌握状態判定装置1の動作について説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係るグリップ掌握状態判定装置1の動作フローを示す図である。
【0035】
(記憶ステップ)
ステップS101において、記憶部26は運転者による左グリップ31の掌握状態に応じた振動パターンを記憶する。具体的には、算出部22によって左グリップセンサ11から取得する左グリップにおける加速度の時系列データに基づいて変位が算出され、記憶部26はその変位を時間ごとにプロットした振動パターンを、記憶する。
同様に、記憶部26は運転者による右グリップ32の掌握状態に応じた振動パターンを記憶する。具体的には、算出部22によって右グリップセンサ12から取得する右グリップにおける加速度の時系列データに基づいて変位が算出され、記憶部26はその変位を時間ごとにプロットした振動パターンを、記憶する。
【0036】
(取得ステップ)
取得部21は、ステップS102において、左グリップセンサ11により検出される現在の振動の測定値を取得する。具体的には、左グリップセンサ11から取得する左グリップ31における加速度の測定値を取得する。
同様に、取得部21は、右グリップセンサ12により検出される現在の振動の測定値を取得する。具体的には、右グリップセンサ12から取得する右グリップ32における加速度の測定値を取得する。
【0037】
(判定ステップ)
ステップS103において、判定部23は、グリップセンサ11,12によって検出される振動と振動パターンに基づいて、運転者によるグリップの掌握状態を判定する。
具体的には、ステップS101において記憶部26に記憶された振動パターンとステップS102において取得部21によって取得された振動の測定値を比較することによって運転者によるグリップの掌握状態を判定する。取得した振動と掌握振動パターンが一致または近似する場合には、運転者がグリップを掌握していると判定し、取得した振動と非掌握振動パターンが一致または近似する場合には、運転者がグリップを掌握していないと判定する。
別の例として、ステップS101において記憶された振動パターンから変位閾値を算出し、ステップS102において取得される加速度の時系列データから算出される変位が当該変位閾値を下回る、つまり所定時間内の平均変位が変位閾値より小さい場合には、運転者がグリップを掌握していると判定するようにしてもよい。
【0038】
(通信ステップ)
ステップS103において運転者によるグリップの掌握状態が判定されると、通信部24はステップS104においてその判定結果をそれぞれのシステムに送信する。
本実施例では、運転者がグリップを掌握している場合と掌握していない場合とにかかわらずシステムにその判定結果を送信することとしているが、運転者がグリップを掌握していないと判定した場合にのみシステムに判定結果を送信するようにしてもよい。
【0039】
<グリップ掌握状態判定装置の効果>
一実施形態に係るグリップ掌握状態判定装置の効果について説明する。
グリップ掌握状態判定装置が、自動二輪車の運転操作用ハンドルバーに装着され、自動二輪車の運転者が掌握するグリップにおける振動を検出するグリップセンサと、運転者によるグリップの掌握状態に応じた振動パターンを記憶する記憶部と、グリップセンサによって検出される振動と振動プロファイルに基づいて、運転者によるグリップの掌握状態を判定する判定部と、を有する。そのため、運転者のグリップ部の掌握位置や掌握の癖等に依存せず、掌握状態を正確に判定することができる。また、従来技術のように、圧力センサによって掌握状態を判定するには、該圧力センサを運転者のグリップの掌握位置に正確に配置しなければならないところ、本発明におけるグリップ掌握状態判定装置は運転者の掌握状態に応じたグリップにおける振動の変化を利用するため、センサの配置場所は運転者の掌握位置には限定されず、センサの配置の自由度を向上させることができる。
【0040】
<機械学習部の動作>
続いて、図7を参照して、グリップ掌握状態判定装置の機械学習部の動作について説明する。図7は、本発明の一実施形態に係るグリップ掌握状態判定装置の機械学習処理の例を概念的に示すフローチャートである。
【0041】
グリップ掌握状態判定装置は、ステップS201においてグリップ掌握情報およびグリップ掌握情報に対応するグリップセンサからの振動の測定値を取得する。具体的には、機械学習部25は、記憶部26に蓄積された振動測定値を取得する。グリップ掌握情報は例えば、スロットルの開度を検出したときにグリップを掌握していると判断するようにしてもよい。スロットル開度が検出される状態であると、運転者が少なくともアクセル側のグリップを掌握している状態であると理解されるからである。
【0042】
グリップ掌握状態判定装置は、ステップS202において既存のグリップ掌握状態判定モデルを取得する。具体的には、機械学習部25は、記憶部26に蓄積されたグリップ掌握状態判定モデルを取得する。
【0043】
次に、グリップ掌握状態判定装置は、グリップ掌握情報およびグリップセンサから振動の測定値を用いてグリップ掌握状態判定モデルを更新する(ステップS203)。具体的には、機械学習部25は、複数の機械学習モデルのうちの1つを選択し、選択された機械学習モデルとグリップ掌握情報およびグリップ掌握情報に対応するグリップセンサから振動の測定値とを用いてグリップ掌握状態判定モデルの機械学習を行う。
【0044】
次に、グリップ掌握状態判定装置は、更新後のグリップ掌握状態判定モデルの正確性を算出する(ステップS204)。具体的には、機械学習部25は、機械学習により得られた新たなグリップ掌握状態判定モデルにテスト用入力データを入力し、出力された値とテスト用出力データとを比較することによりモデルの正確性を算出する。
【0045】
算出値が閾値以上である場合(ステップS205/Y)、グリップ掌握状態判定装置は、更新後のグリップ掌握状態判定モデルを記憶する(ステップS206)。具体的には、機械学習部25は、算出された正確性が閾値以上である場合、新たなグリップ掌握状態判定モデルを記憶部26に記憶させる。なお、算出値が閾値未満である場合(ステップS205/N)、ステップS203に処理が戻される。
【0046】
以下に、警報システムの動作フローについて説明する。
【0047】
<警報システムの動作>
一実施形態に係る警報システム110の動作について説明する。
図8は、本発明の実施形態に係る警報システム110の動作フローを示す図である。
【0048】
(取得ステップ)
ステップS301において、取得部51は、グリップ掌握状態判定装置1にて判定された判定結果を取得する。具体的には、取得部51は、グリップ掌握状態判定装置1の動作フローのステップS103で判定された判定結果である「グリップを掌握してる」または「グリップを掌握していない」の判定結果を取得する。
また、ステップS302において、取得部51は、自動ブレーキ制御器70から、緊急自動ブレーキ制御の作動中かどうかに関する情報を取得する。
(判定ステップ)
ステップS303において、判定部(図示せず)は、処理ユニット20から取得した判定結果が「グリップを掌握していない」に該当するか判断する。判定結果が「グリップ掌握していない」に該当する場合(Yes)にはステップS304に進み、「グリップ掌握していない」に該当しない場合(No)には、処理を終了する。
ステップS304において、判定部(図示せず)は、自動ブレーキ制御器70から取得した信号が「緊急ブレーキ作動中」に該当するか判断する。信号が「緊急ブレーキ作動中」に該当する場合(Yes)にはステップS305に進み、「緊急ブレーキ作動中」に該当しない場合(No)には、処理を終了する。
尚、ステップS301において、グリップ掌握状態判定装置1から掌握していない場合の判定結果のみ取得することとしている場合には、ステップS303は省略できる。
同様に、ステップS302において、自動ブレーキ制御器70から緊急ブレーキが作動している時のみ信号を取得することとしている場合には、ステップS304は省略できる。
【0049】
(警報発信ステップ)
ステップS305において、警報発信器50の警報制御部52は運転者に対して警報を発する制御を行う。警報は、コントロールパネル40の画面を介して、運転者に対して警報を発するようにしてもよいし、無線通信を介して、スマートヘルメットに装着されるスピーカーから警報音を発するようにしてもよい。
【0050】
<警報システムの効果>
警報システムの効果について説明する。
警報システムは、グリップ掌握状態判定装置1の判定部による判定結果に応じて、運転者に警報を発する警報発信器を備える。そのため、緊急自動ブレーキが作動される際に、自動二輪車の運転者が片手運転をしている場合には、運転者に対して警報が発せられるので、運転者はその警報に基づき両手でグリップを掌握するよう動作を行うことが可能となる。
【0051】
<パワーステアリング制御システムの動作>
パワーステアリング制御システム120の動作について説明する。
図9は、本発明の実施形態に係る操向制御器60の動作フローを示す図である。
【0052】
パワーステアリング制御システム120は、図9に示される動作フローを実行する。
ここでステップS401からS404までは警報システム110の動作フローであるステップS301からS304と同じであるので、説明は省略する。
【0053】
(ダンピング制御ステップ)
ステップS405において、操向制御器60は、ステアリングのダンピング制御を変化させる。具体的には、操向制御器60は、ダンピングトルクを増大させる制御を行う。これによって、ステアリングの回転トルクが増大するため、ハンドルバーが安定する。
【0054】
<パワーステアリング制御システムの効果>
パワーステアリング制御システム120の効果について説明する。
実施形態によれば、操向制御器60はグリップ掌握状態判定装置1の判定部による判定結果に応じて、自動二輪車の緊急自動ブレーキ制御の作動時におけるステアリングのダンピング制御を変化させる。そのため、緊急自動ブレーキが作動される際に、自動二輪車の運転者が片手運転をしている場合には、操向制御器は、ステアリングのダンピングトルクを増大させる制御を行うので、緊急自動ブレーキ作動時におけるハンドル操作を安定させることができる。
【0055】
<自動ブレーキ制御器の動作>
緊急自動ブレーキ制御システム130の動作について説明する。
図10は、本発明の実施形態に係る緊急自動ブレーキ制御システム130の動作フローを示す図である。
【0056】
緊急自動ブレーキ制御システム130は、図10に示される動作フローを実行する。
【0057】
(取得ステップ)
ステップS501において、取得部71は、処理ユニット20にて判定された判定結果を取得する。具体的には、取得部71は、処理ユニット20のステップS104で判定された判定結果である「掌握してる」または「掌握していない」の判定結果を取得する。
【0058】
(判定ステップ)
ステップS502において、判定部(図示せず)は、グリップ掌握状態判定装置1から取得した判定結果が「グリップを掌握していない」に該当するか判断する。判定結果が「グリップを掌握していない」に該当する場合(Yes)にはステップS503に進み、「グリップを掌握していない」に該当しない場合(No)には、処理を終了する。
ステップS503において、自動ブレーキ制御器70は、緊急ブレーキ作動中であるかどうかを判断する。「緊急ブレーキ作動中」に該当する場合(Yes)にはステップS504に進み、「緊急ブレーキ作動中」に該当しない場合(No)には、処理を終了する。
尚、ステップS501において、グリップ掌握状態判定装置1から「グリップを掌握していない」場合の判定結果のみ取得することとしている場合には、ステップS502は省略できる。
【0059】
(ブレーキ制御ステップ)
ステップS504において、ブレーキ制御部72はブレーキ制御を変化させる。具体的には、ブレーキ制御部72は、ブレーキトルクを通常の緊急自動ブレーキ作動時のブレーキトルクより減少させる制御を行う。さらに別の実施例では、ブレーキ制御部72が、ブレーキトルクを通常の緊急ブレーキ制御に比べて所定時間だけ減少させる制御を行うこともできる。
【0060】
<緊急自動ブレーキ制御システムの効果>
緊急自動ブレーキ制御システム130の効果について説明する。
実施形態によれば、緊急自動ブレーキ制御器は、グリップ掌握状態判定装置の判定部による判定結果に応じて、自動二輪車の緊急自動ブレーキ制御の作動時におけるブレーキ制御を変化させる。そのため、自動二輪車の運転者が仮に片手運転をしている際に緊急自動ブレーキが作動される場合であっても、自動ブレーキ制御器は、ブレーキトルクを通常の緊急自動ブレーキ作動時のブレーキトルクより減少させる制御を行うので、ステアリングが不安定になることを軽減することができる。また他の実施例として、自動ブレーキ制御部は、ブレーキトルクを通常の緊急ブレーキ制御に比べて所定時間だけ減少させる制御を行うこともできる。このようにして、ステアリングが不安定になる前に運転者にグリップを掌握する時間的余裕を与えることが可能となる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は実施形態の説明に限定されない。例えば、実施形態の一部のみが実施されてもよく、また、実施形態の全て又は一部が組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 グリップ掌握状態判定装置、11 左グリップセンサ、12 右グリップセンサ、13 ジョイントセンサ、20 処理ユニット、21 取得部、22 算出部、23 判定部、24 通信部、25 機械学習部、26 記憶部、30 運転者用ハンドルバー、31 左グリップ、32 右グリップ、40 コントロールパネル、50 警報発信器、60 操向制御器、70 自動ブレーキ制御器、100 自動二輪車、110 警報システム、120 パワーステアリング制御システム、130 緊急自動ブレーキ制御システム。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10