(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096216
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】水電解デバイスのアノード劣化抑制方法
(51)【国際特許分類】
C25B 15/00 20060101AFI20230630BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230630BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230630BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230630BHJP
C25B 13/02 20060101ALI20230630BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20230630BHJP
C25B 15/023 20210101ALI20230630BHJP
C25B 15/031 20210101ALI20230630BHJP
【FI】
C25B15/00 303
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B13/02 302
C25B15/08 302
C25B15/023
C25B15/031
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211801
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】古賀 功一
(72)【発明者】
【氏名】引地 巧
(72)【発明者】
【氏名】山内 将樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅夫
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB02
4K021BC01
4K021BC06
4K021CA08
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
4K021EA05
(57)【要約】
【課題】本開示は、水素製造を停止する工程において、アノードの劣化を抑制する方法を提供する。
【解決手段】本開示における水電解デバイスのアノードの劣化抑制方法は、還元反応を起こす触媒が基材に担持されたカソードと酸化反応を起こす触媒が基材に担持されたアノードとで水酸化物イオン伝導性の隔膜を挟んだ隔膜-電極接合体を備えた水電解デバイスにおいて、水素と酸素を製造する運転モードから停止モードに移行した後に、アルカリ水溶液と酸素との混相流をアノードへ供給することにより、アノードの劣化を抑制する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が水素と水酸化物イオンになる還元反応を起こすための触媒が電子伝導性の基材に担持されたカソードと水酸化物イオンから酸素と水を生成する酸化反応を起こすための触媒が電子伝導性の基材に担持されたアノードとで水酸化物イオン伝導性の隔膜を挟んだ隔膜-電極接合体を、カソード流路が前記カソードと対向する面に形成されたカソードセパレータと、アノード流路が前記アノードと対向する面に形成されたアノードセパレータとで挟持した水電解デバイスの前記アノードの劣化を抑制する方法であって、
前記水電解デバイスで水素と酸素を製造する運転モードから前記水電解デバイスでの水素と酸素の製造を停止した停止モードに移行した後に、アルカリ水溶液と酸素との混相流を前記アノード流路に供給することにより前記アノードの劣化を抑制する、水電解デバイスのアノード劣化抑制方法。
【請求項2】
前記運転モードから前記停止モードに移行した後に、前記カソードとアノードとの間の電圧、又は前記アノードの電位が規定値より小さくなった場合に、前記混相流を前記アノード流路に供給する、請求項1に記載の水電解デバイスのアノード劣化抑制方法。
【請求項3】
前記混相流を前記アノード流路へ供給する時のアルカリ水溶液のpHの値を、前記運転モード時に前記水電解デバイスへ供給するアルカリ水溶液のpHの値よりも低くする、請求項1または2に記載の水電解デバイスのアノード劣化抑制方法。
【請求項4】
前記運転モードから立ち下げモードを経て前記停止モードに移行する場合において、
前記立ち下げモードにおいて、前記カソードと前記アノードとの間に流す前記電流を徐々に小さくするとともに、前記アノード流路へ供給するアルカリ水溶液のpHの値が徐々に低くなるように前記アノード流路へ供給するアルカリ水溶液のpHを調整する、請求項1から3のいずれか1項に記載の水電解デバイスのアノード劣化抑制方法。
【請求項5】
前記混相流の前記アノード流路への供給を開始した後に、所定条件を満たすと、前記混相流の前記アノード流路への供給を停止する請求項1から4のいずれか1項に記載の水電解デバイスのアノード劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水電解デバイスのアノードの劣化を抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、水を電気分解し、水素と酸素とを製造する水電解システムを開示する。
【0003】
この水電解システムは、カソードとアノードとで隔膜を挟んだ水電解デバイスを用いてカソードとアノードとの間に電流を流してアルカリ水溶液を電気分解してカソードで水素を製造しアノードで酸素を製造するアルカリ水電解システムであり、水素と酸素との製造を停止する工程において、カソードの水素量を制御し、カソードの劣化を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、水素と酸素との製造を停止したときのアノードの電位変化を抑制し、アノードの構造変化や変質によるアノードの劣化を抑制する水電解デバイスのアノード劣化抑制方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における水電解デバイスのアノード劣化抑制方法は、カソードとアノードとで水酸化物イオン伝導性の隔膜を挟んだ隔膜-電極接合体を、カソードセパレータと、アノードセパレータとで挟持した水電解デバイスのアノードの劣化を抑制する方法である。
【0007】
カソードは、水が水素と水酸化物イオンになる還元反応を起こすための触媒が電子伝導性の基材に担持された構成になっている。アノードは、水酸化物イオンから酸素と水を生成する酸化反応を起こすための触媒が電子伝導性の基材に担持された構成になっている。
【0008】
カソードセパレータは、カソード流路がカソードと対向する面に形成されている。アノードセパレータは、アノード流路がアノードと対向する面に形成されている。
【0009】
そして、本開示における水電解デバイスのアノード劣化抑制方法は、水電解デバイスで水素と酸素を製造する運転モードから水電解デバイスでの水素と酸素の製造を停止した停止モードに移行した後に、アルカリ水溶液と酸素との混相流をアノード流路に供給することによりアノードの劣化を抑制することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本開示における水電解デバイスのアノード劣化抑制方法は、運転モードから停止モードに移行した後に、アルカリ水溶液と酸素との混相流をアノードへ供給するので、水素と酸素との製造を停止したときのアノードの電位変化を抑制することができる。そのため、アノードの構造変化や変質を防ぎ、アノードの劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1における水電解システムの概略構成を示す模式図
【
図2】実施の形態1における水電解システムの動作を示すフローチャート
【
図3】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS101の実行直後の状態を示す説明図
【
図4】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS102の実行直後の状態を示す説明図
【
図5】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS103の実行直後の状態を示す説明図
【
図6】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS104の実行直後の状態を示す説明図
【
図7】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS107の実行直後の状態を示す説明図
【
図8】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS108の実行直後の状態を示す説明図
【
図9】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS109の実行直後の状態を示す説明図
【
図10】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS110の実行直後の状態を示す説明図
【
図11】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS114の実行直後の状態を示す説明図
【
図12】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS115の実行直後の状態を示す説明図
【
図13】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS119の実行直後の状態を示す説明図
【
図14】実施の形態1における水電解システムにおける
図2のフローチャートのS120の実行直後の状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、水電解デバイスのカソード、又はアノードの少なくとも一方にアルカリ水溶液を供給しながら、カソードとアノードとの間に直流電流を流し、水を電気分解することで、カソードで水素を製造し、アノードで酸素を製造する技術があった。
【0013】
これにより、太陽光、風力などの出力変動が大きい再生可能エネルギー由来の余剰電力を水素に変換することができる。
【0014】
しかし、再生可能エネルギーの変動に応じて、水素と酸素との製造を停止した(運転モードから停止モードに移行した)ときに、水電解デバイスが劣化し、運転再開後のエネルギー効率が低下する課題があった。ここで、エネルギー効率とは、水電解デバイスに投入する電気エネルギーに対する、水の電気分解に必要な理論エネルギーの割合である。
【0015】
そのため、当該業界では、エネルギー効率低下の要因として、運転モードから停止モードに移行後に、カソードの水素量が変化し、カソードの電位が変化する現象を推定した。そして、対策として、停止モードにおいて、カソードの水素量を制御する運転方法等が検討されていた。
【0016】
しかし、水電解デバイスのエネルギー効率の低下について、カソード以外の劣化要因の考察や、劣化メカニズム、及び評価方法等について、十分な検討がされていなかった。
【0017】
そうした状況において、発明者らは、水電解デバイスの運転と停止を交互に繰り返すサイクル試験を行った。その結果、エネルギー効率が低下する要因として、アノードが早期
に劣化する現象を把握した。
【0018】
一般的に、アノードは、電子伝導性を有する基材の表面に、酸化物や水酸化物等の触媒が担持された構造であるが、サイクル試験における停止モードにおいて、アノードの酸素量が変化し、アノードの電位が早期に変化することが確認された。
【0019】
そして、水電解デバイスの運転と停止が交互に繰り返されることで、アノードの電位変化が繰り返され、その結果、アノードの構造が変化することが確認された。
【0020】
更に、一部残った触媒も、アノードの電位変化によって変質し、触媒活性が低下することが確認された。
【0021】
上記試験結果に基づき、アノードの電位変化を制御する運転方法を検討した結果、アノードの酸素量とアルカリ水溶液のpHとによって、アノードの電位を制御出来ることを見出し、本開示の主題を構成するに至った。
【0022】
そこで、本開示は、運転モードから停止モードに移行した後に、アルカリ水溶液と酸素とを含む混相流をアノードへ供給することによって、アノードの構造変化や変質を抑制して、アノードの劣化を抑制する水電解システムを提供する。
【0023】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0024】
なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより、特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0025】
(実施の形態1)
以下、
図1から
図5を用いて、実施の形態1を説明する。
【0026】
[1-1.構成]
[1-1-1.隔膜-電極接合体の構成]
図1に示すように、隔膜-電極接合体104は、カソード102とアノード103とで水酸化物イオン伝導性の隔膜101の主面を挟むように構成されている。
【0027】
カソード102およびアノード103の主面の大きさは、隔膜101の主面よりも小さく、カソード102およびアノード103は、隔膜101の主面の周縁領域が露出するように配置される。
【0028】
隔膜101は、イオン交換可能な水酸化物イオンを含む高分子で構成された緻密な膜である。具体的には、隔膜101は、水酸化物イオン交換基としてトリメチルアンモニウム基などの4級アミンを有する高分子で構成されている。
【0029】
隔膜101の厚さは、特に限定されないが、例えば、5~1000μmの厚さであればよく、本実施の形態では、厚さが100μmの隔膜101を用いた。
【0030】
本実施の形態では、水酸化物イオンを含む隔膜101として、一辺の長さが100mmの正方形の形状を有するDioxide Materials社製のアニオン交換膜(Sustanion(登録商標)X37)を用いた。
【0031】
カソード102は、隔膜101の一方の主面に積層されるカソード触媒層と、カソード触媒層における隔膜101と接する面とは反対側の面にカソード触媒層が露出しないように積層されるカソードガス拡散層と、から構成されている。カソードガス拡散層の主面の大きさは、カソード触媒層の主面と略同じ大きさである。
【0032】
カソード触媒層は、カソード触媒と、カソード触媒を担持するカソード基材と、カソード触媒を担持したカソード基材の外表面の少なくとも一部を覆うアイオノマーと、から構成されている。カソード触媒層は、カソード触媒層に供給されるアルカリ水溶液に含まれる水から水素を生成する電気化学反応を促進する機能を果たしている。
【0033】
カソード触媒の材料には、鉄やニッケル、コバルト等の遷移金属単体や、それら酸化物や水酸化物、複数の金属元素からなる合金や酸化物、水酸化物、或いはそれらの混合物、白金やイリジウム等の貴金属や、それら酸化物を用いることができる。
【0034】
カソード基材は、粒子状や繊維状、多孔質状の電子伝導性を有する材料で構成されている。使用環境への耐性から、カソード基材の材料には、炭素、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン系合金、軟鋼、ステンレス等を用いることができる。
【0035】
本実施の形態では、カソード触媒及びカソード基材(カソード触媒を担持したカソード基材)として、田中貴金属社製の白金を担持した炭素粒子(TEC10E50E)を用いた。また、アイオノマーとして、Dioxide Materials社製の電解質樹脂(Sustanion(登録商標)XA-9 5%分散液)を用いた。
【0036】
カソード触媒層は、例えば、カソード触媒と、カソード基材と、アイオノマーと、を分散媒に分散させることによって調製したカソード触媒スラリーを、スプレー塗工機によって、隔膜101に塗工した後に、分散媒を加熱乾燥により除去することによって形成することができる。
【0037】
本実施の形態では、25重量部のカソード触媒及びカソード基材と、15重量部のアイオノマーと、15重量部の純水と45重量部のエタノールとからなる分散媒と、を容器に採取し混合し、得られた混合物を室温で2時間混練して、カソード触媒スラリーを得た。混錬には、分散機及び超音波ホモジナイザーを用いた。
【0038】
そして、得られたカソード触媒スラリーを、スプレー塗工機によって、隔膜101の一方の主面の周縁領域以外の中央領域に塗布した。
【0039】
そして、カソード触媒スラリーが塗布された隔膜101を恒温器に入れ、80℃の温度で1時間の条件で加熱して、隔膜101に塗布されたカソード触媒スラリーから分散媒を除去した。その後、その隔膜101を室温で2時間の条件で冷却することによって、隔膜101の一方の主面にカソード触媒層を形成した。
【0040】
カソード触媒層の厚さは、特に限定されないが、例えば、5~1000μmであればよく、本実施の形態では、隔膜101の一方の主面に、100μmの厚さになるように、カソード触媒層を形成した。
【0041】
アノード103は、隔膜101の他方の主面に積層されるアノード触媒層と、アノード触媒層における隔膜101と接する面とは反対側の面にアノード触媒層が露出しないように積層されるアノードガス拡散層と、から構成されている。アノードガス拡散層の主面の大きさは、アノード触媒層の主面と略同じ大きさである。
【0042】
アノード触媒層は、アノード触媒と、カソード触媒を担持するアノード基材と、カソード触媒を担持したアノード基材の外表面の少なくとも一部を覆うアイオノマーと、から構成されている。アノード触媒層は、アノード触媒層に供給される水酸化物イオンから酸素と水とを生成する電気化学反応を促進する機能を果たしている。
【0043】
アノード触媒の材料には、鉄やニッケル、コバルト等の遷移金属単体や、それら酸化物や水酸化物、複数の金属元素からなる合金や酸化物、水酸化物、或いはそれらの混合物、白金やイリジウム等の貴金属や、それら酸化物を用いることができる。
【0044】
アノード基材は、粒子状や繊維状、多孔質状の電子伝導性を有する材料で構成されている。使用環境への耐性から、アノード基材の材料には、炭素、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン系合金、軟鋼、ステンレス等を用いることができる。
【0045】
本実施の形態では、カソード基材として、US Research Nanomaterials社製のニッケルナノ粒子(100nm)を用いた。そして、カソード触媒として、ゾルゲル法により合成したニッケル及び鉄を含む水酸化物粒子をカソード基材に担持した。
【0046】
アイオノマーとして、Dioxide Materials社製の電解質樹脂(Sustanion(登録商標)XA-9 5%分散液)を用いた。
【0047】
アノード触媒層は、例えば、アノード触媒と、アノード基材と、アイオノマーと、を分散媒に分散させることによって調製したアノード触媒スラリーを、スプレー塗工機によって、隔膜101に塗工した後に、分散媒を加熱乾燥により除去することによって形成することができる。
【0048】
本実施の形態では、35重量部のアノード触媒及びアノード基材と、5重量部のアイオノマーと、15重量部の純水と45重量部のエタノールとからなる分散媒と、を容器に採取し混合し、得られた混合物を室温で2時間混練して、アノード触媒スラリーを得た。混錬には、分散機及び超音波ホモジナイザーを用いた。
【0049】
そして、得られたアノード触媒スラリーを、スプレー塗工機によって、隔膜101の他方の主面の周縁領域以外の中央領域に塗布した。
【0050】
そして、アノード触媒スラリーが塗布された隔膜101を恒温器に入れ、80℃の温度で1時間の条件で加熱して分散媒を除去した。その後、室温、2時間の条件で隔膜101を冷却することによって、隔膜101の他方の主面にアノード触媒層を形成した。
【0051】
アノード触媒層の厚さは、特に限定されないが、例えば、5~1000μmであればよく、本実施の形態では、隔膜101の他方の主面に、100μmの厚さになるように、アノード触媒層を形成した。
【0052】
カソードガス拡散層は、繊維状や多孔質状のガス通気性と電子伝導性とを有する材料で構成されている。使用環境への耐性から、カソードガス拡散層の材料には、炭素、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン系合金、軟鋼、ステンレス等を用いることができる。
【0053】
本実施の形態では、カソードガス拡散層として、一辺の長さが80mmの正方形の形状を有する東レ社製のカーボンペーパー(TGP-H-120)を用いた。
【0054】
アノードガス拡散層は、繊維状や多孔質状のガス通気性と電子伝導性とを有する材料で
構成されている。使用環境への耐性から、アノードガス拡散層の材料には、炭素、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン系合金、軟鋼、ステンレス等を用いることができる。
【0055】
本実施の形態では、アノードガス拡散層として、一辺の長さが80mmの正方形の形状を有するベカルト社製のニッケル繊維(Bekipor(登録商標))を用いた。
【0056】
一方の主面にカソード触媒層を形成し他方の主面にアノード触媒層を形成した隔膜101と、カソードガス拡散層と、アノードガス拡散層とを、カソードガス拡散層がカソード触媒層と対向するとともにアノードガス拡散層がアノード触媒層と対向するように重ね、2MPaの圧力で、130℃の温度で、10分間ホットプレスすることにより、隔膜101にカソード102とアノード103とを形成し、隔膜-電極接合体104を得た。
【0057】
[1-1-2.水電解デバイスの構成]
図1に示すように、水電解デバイス100は、隔膜-電極接合体104を、カソードセパレータ105とアノードセパレータ106とで挟持した構造になっている。
【0058】
隔膜-電極接合体104は、両主面が重力方向に対して略平行となる向きに配置され、カソードセパレータ105とアノードセパレータ106との間に挟まれて、使用される。
【0059】
その際、隔膜-電極接合体104の両主面の周縁領域には、カソードセパレータ105とアノードセパレータ106のどちらかのセパレータと隔膜101とに挟まれて弾性変形する、樹脂を主成分とするシール部材が更に配置され、これにより、水電解デバイス100からアルカリ水溶液及び水電解により生成するガスの漏洩を防止している。
【0060】
一方、隔膜-電極接合体104の中央領域では、一方の主面のカソード102にはカソードセパレータ105が接触し、他方の主面のアノード103にはアノードセパレータ106が接触するように構成、配置されている。
【0061】
カソードセパレータ105は、カソード入口107と、カソード出口108と、カソード流路109とが、それぞれ形成されており、隔膜-電極接合体104と対向する面の凹部(カソード流路109等を含む)に、カソード102と、カソード102に供給されたアルカリ水溶液と、カソード102で製造した水素と、を収容することができる。
【0062】
ここで、カソード入口107は、カソードセパレータ105における下側で隔膜-電極接合体104の主面に略垂直な方向に形成された貫通孔であって、アルカリ水溶液をカソード102に供給するための孔である。
【0063】
カソード出口108は、カソードセパレータ105における上側で隔膜-電極接合体104の主面に略垂直な方向に形成された貫通孔であって、カソード102で水電解に利用されなかった残余のアルカリ水溶液と、カソード102で製造した水素と、をカソード102から排出するための孔である。
【0064】
カソード流路109は、カソード102における隔膜101と接する面とは反対側の面に沿って、カソード入口107から流入したアルカリ水溶液がカソード出口108へ向かって略水平方向に蛇行しながら、カソードセパレータ105とカソード102との間を流れるように、カソード102と当接する面に溝状に形成された流路である。
【0065】
カソードセパレータ105は、ガス透過性がなく電子伝導性を有する材料で構成されている。使用環境への耐性から、カソードセパレータ105の材料には、炭素、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン系合金、軟鋼、ステンレス等を用いることができる。本実
施の形態では、カソードセパレータ105の材料にニッケルを用いた。
【0066】
カソード流路109とカソード入口107とが接続する部分は、カソード102の主面における下端部近傍であり、カソード流路109とカソード出口108とが接続する部分は、カソード102の主面における上端部近傍である。
【0067】
アノードセパレータ106は、アノード入口110と、アノード出口111と、アノード流路112とが、それぞれ形成されており、隔膜-電極接合体104と対向する面の凹部(アノード流路112等を含む)に、アノード103と、アノード103に供給されたアルカリ水溶液と、アノード103で製造した酸素と、アノード103で酸素製造時に生成された水と、を収容することができる。
【0068】
ここで、アノード入口110は、アノードセパレータ106における下側で隔膜-電極接合体104の主面に略垂直な方向に形成された貫通孔であって、アルカリ水溶液をアノード103に供給するための孔である。
【0069】
アノード出口111は、アノードセパレータ106における上側で隔膜-電極接合体104の主面に略垂直な方向に形成された貫通孔であって、アノード103に供給されたアルカリ水溶液と、アノード103で製造した酸素と、アノード103で酸素製造時に生成された水と、をアノード103から排出するための孔である。
【0070】
アノード流路112は、アノード103における隔膜101と接する面とは反対側の面に沿って、アノード入口110から流入したアルカリ水溶液がアノード出口111へ向かって略水平方向に蛇行しながら、アノードセパレータ106とアノード103との間を流れるように、アノード103と当接する面に溝状に形成された流路である。
【0071】
アノードセパレータ106は、ガス透過性がなく電子伝導性を有する材料で構成されている。使用環境への耐性から、アノードセパレータ106の材料には、炭素、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン系合金、軟鋼、ステンレス等を用いることができる。本実施の形態では、アノードセパレータ106の材料にニッケルを用いた。
【0072】
[1-1-3.水電解システムの構成]
図1に示すように、本実施の形態における水電解システム180は、水電解デバイス100と、カソード水溶液供給手段121と、アノード水溶液供給手段122と、酸素供給手段125と、水素貯蔵室126と、酸素貯蔵室127と、電源128と、電圧計129と、制御器130と、を備える。
【0073】
カソード水溶液供給手段121は、所定条件(温度、pH、流量)のアルカリ水溶液をカソード102に供給するように構成されており、例えば、カソードpH調整手段123を組み合わせて用いることができる。これにより、所定のpHに制御されたアルカリ水溶液をカソード102に供給することができる。
【0074】
また、カソード水溶液供給手段121は、カソード出口108から排出される水素と、アルカリ水溶液とを気液分離するように構成されており、気液分離した水素を水素貯蔵室126に供給するように構成されている。
【0075】
本実施の形態では、カソード水溶液供給手段121には、アルカリ水溶液タンクと、気液分離タンクと、アルカリ水溶液供給ポンプと、水素供給ポンプと、温度調節器と、圧力調節器と、逆止弁と、を用いた。
【0076】
カソードpH調整手段123は、カソード水溶液供給手段121から供給するアルカリ水溶液のpHを制御するように構成されており、所定のpHに調整したpH調整剤をカソード水溶液供給手段121に供給する。
【0077】
本実施の形態では、カソードpH調整手段123には、pH調整剤の貯蔵タンクと、pH調整剤供給ポンプと、pH調整剤のpHを希釈する水タンクと、水供給ポンプと、pH計と、温度調節器と、逆止弁と、を用いた。
【0078】
アノード水溶液供給手段122は、所定条件(温度、pH、流量)のアルカリ水溶液をアノード103に供給するように構成されており、例えば、アノードpH調整手段124を組み合わせて用いることができる。これにより、所定のpHに制御されたアルカリ水溶液をアノード103に供給することができる。
【0079】
また、アノード水溶液供給手段122は、アノード出口111から排出される酸素と、アルカリ水溶液とを気液分離するように構成されており、気液分離した酸素を酸素貯蔵室127に供給するように構成されている。
【0080】
本実施の形態では、アノード水溶液供給手段122には、アルカリ水溶液タンクと、気液分離タンクと、アルカリ水溶液供給ポンプと、酸素供給ポンプと、温度調節器と、圧力調節器と、逆止弁と、を用いた。
【0081】
アノードpH調整手段124は、アノード水溶液供給手段122から供給するアルカリ水溶液のpHを制御するように構成されており、所定のpHに調整したpH調整剤をアノード水溶液供給手段122に供給する。
【0082】
本実施の形態では、アノードpH調整手段124には、pH調整剤の貯蔵タンクと、pH調整剤供給ポンプと、pH調整剤のpHを希釈する水タンクと、水供給ポンプと、pH計と、温度調節器と、逆止弁と、を用いた。
【0083】
酸素供給手段125は、所定条件(温度、流量)の酸素をアノード103に供給するように構成されている。例えば、アノード水溶液供給手段122を組み合わせて用いることで、所定条件(温度、pH、流量)に制御されたアルカリ水溶液と酸素との混相流をアノード103に供給することができる。
【0084】
本実施の形態では、酸素供給手段125には、酸素供給ポンプと、温度調節器と、圧力調節器と、逆止弁と、を用いた。
【0085】
カソード供給経路141は、カソード水溶液供給手段121におけるアルカリ水溶液の出口と、カソード入口107とを接続する経路である。カソード供給経路141の途中には、カソード供給経路141を開閉するカソード入口弁150が配置されている。これにより、所定条件に制御されたアルカリ水溶液をカソード102に供給することができる。
【0086】
カソード排出経路142は、カソード出口108と、カソード水溶液供給手段121における水素とアルカリ水溶液の入口とを接続する経路である。カソード排出経路142の途中には、カソード排出経路142を開閉するカソード出口弁151が配置されている。これにより、カソード102から排出される水素とアルカリ水溶液とをカソード水溶液供給手段121に供給することができる。
【0087】
水素排出経路145は、カソード水溶液供給手段121における水素の出口と、外部インフラとを接続する経路である。水素排出経路145の途中には、水素入口弁152と、
水素入口弁152の下流側に水素貯蔵室126と、水素貯蔵室126の下流側に水素出口弁153と、が配置されている。これにより、気液分離した水素を、水素貯蔵室126を介して、外部インフラに供給することができる。
【0088】
アノード供給経路143は、アノード水溶液供給手段122におけるアルカリ水溶液の出口と、アノード入口110とを接続する経路である。アノード供給経路143の途中には、二つの入口と一つの出口を有しアノード供給経路143を開閉可能で両方の入口と出口とを同時に連通可能に構成されたアノード入口切替弁154が配置されている。これにより、所定条件に制御されたアルカリ水溶液をアノード103に供給することができる。
【0089】
アノード排出経路144は、アノード出口111と、アノード水溶液供給手段122における酸素とアルカリ水溶液の入口とを接続する経路である。アノード排出経路144の途中には、アノード排出経路144を開閉するアノード出口弁155が配置されている。これにより、アノード103から排出される酸素とアルカリ水溶液とをアノード水溶液供給手段122に供給することができる。
【0090】
酸素排出経路146は、アノード水溶液供給手段122における酸素の出口と、外部インフラとを接続する経路である。酸素排出経路146の途中には、酸素入口弁156と、酸素入口弁156の下流側に酸素貯蔵室127と、酸素貯蔵室127の下流側に酸素出口弁157と、が配置されている。これにより、気液分離した酸素を、酸素貯蔵室127を介して、外部インフラに供給することができる。
【0091】
酸素供給経路147は、酸素貯蔵室127と、アノード入口切替弁154におけるアノード水溶液供給手段122側の入口とは別の入口とを接続する経路である。酸素供給経路147の途中には、酸素供給弁158と、酸素供給弁158とアノード入口切替弁154との間に酸素供給手段125と、が配置されている。これにより、酸素貯蔵室127に貯蔵された酸素を所定条件に制御し、アノード103に供給することができる。
【0092】
また、アノード水溶液供給手段122と、酸素供給手段125とを組み合わせて用いるとともに、アノード入口切替弁154を両方の入口と出口とを同時に連通可能な状態にすることで、所定条件に制御されたアルカリ水溶液と酸素との混相流をアノード103に供給することができる。
【0093】
電源128は、指示された電流値の電流を流す定電流型の直流電源である。電源128のプラス側の出力端子はアノード103に電気的に接続され、電源128のマイナス側の出力端子はカソード102に電気的に接続されている。
【0094】
電圧計129は、カソード102とアノード103との間の電圧、又はアノード103の電位を測定する。ここで、カソード102とアノード103との間の電圧を測定する場合、電圧計129の一方の端子がカソード102に、他方の端子がアノード103に接続されて、両電極の電位差、つまり電圧が検知される。
【0095】
また、アノード103の電位を測定する場合、参照極が隔膜101に設けられる。参照極は、標準水素電極(SHE:Standard Hydrogen Electrode)であり、電圧計129の一方の端子が参照極に、他方の端子がアノード103に接続されて、参照極に対する電極の電位が検知される。
【0096】
制御器130は、カソード水溶液供給手段121とアノード水溶液供給手段122とカソードpH調整手段123とアノードpH調整手段124と酸素供給経路147と酸素供給手段125とカソード入口弁150とカソード出口弁151と水素入口弁152と水素
出口弁153とアノード入口切替弁154とアノード出口弁155と酸素入口弁156と酸素出口弁157と酸素供給弁158と電源128と電圧計129とに接続されている。
【0097】
制御器130は、各機器を制御することで、以下の1-2で説明する運転モードと、立ち下げモードと、停止モードと、を動作させる。
【0098】
以上のように、本実施の形態の水電解システム180は、隔膜-電極接合体104をカソードセパレータ105とアノードセパレータ106とで挟持した水電解デバイス100と、隔膜-電極接合体104に電流を流す電源128と、カソード水溶液供給手段121と、アノード水溶液供給手段122と、酸素供給手段125と、を備えている。
【0099】
隔膜-電極接合体104は、水酸化物イオン伝導性の隔膜を、カソード102とアノード103とで挟んだ構成になっている。カソード102は、水が水素と水酸化物イオンになる還元反応を起こすための触媒が電子伝導性の基材に担持された構成になっている。アノード103は、水酸化物イオンから酸素と水を生成する酸化反応を起こすための触媒が電子伝導性の基材に担持された構成になっている。
【0100】
カソードセパレータ105は、カソード入口107とカソード出口108とを連通させるカソード流路109がカソード102と対向する面に形成されている。アノードセパレータ106は、アノード入口110とアノード出口111とを連通させるアノード流路112がアノード103と対向する面に形成されている。
【0101】
電源128は、カソード102とアノード103とに電気的に接続され、水電解デバイス100で水素と酸素を製造する運転モード時に、カソード102で還元反応が起き、アノード103で酸化反応が起きるようにカソード102とアノード103との間に電流を流すように構成されている。
【0102】
カソード水溶液供給手段121は、運転モード時に、カソードpH調整手段123によって所定のpHに制御されたアルカリ水溶液を、カソード供給経路141を介してカソード入口107へ供給し、カソード出口108からカソード排出経路142に排出された水素とアルカリ水溶液とを気液分離するように構成されている。
【0103】
さらに、カソード水溶液供給手段121は、分離後のアルカリ水溶液を、カソードpH調整手段123によって所定のpHに制御して再利用し、分離後の水素を水素排出経路145に排出するように構成されている。
【0104】
アノード水溶液供給手段122は、運転モード時、及び運転モードから水電解デバイス100での水素と酸素の製造を停止した停止モードに移行した後に、アノードpH調整手段124によって所定のpHに制御されたアルカリ水溶液を、アノード供給経路143を介してアノード入口110へ供給し、アノード出口111からアノード排出経路144に排出された酸素とアルカリ水溶液とを気液分離するように構成されている。
【0105】
さらに、アノード水溶液供給手段122は、分離後のアルカリ水溶液を、アノードpH調整手段124によって所定のpHに制御して再利用し、分離後の酸素を、酸素排出経路146を介して酸素貯蔵室127へ供給するように構成されている。
【0106】
酸素供給手段125は、酸素貯蔵室127とアノード供給経路143とを連通させる酸素供給経路147に設けられ、運転モードから停止モードに移行した後に、アルカリ水溶液と酸素との混相流がアノード103へ供給されるように、アノード供給経路143を通流するアルカリ水溶液に酸素貯蔵室127の酸素を混合するように構成されている。
【0107】
本実施の形態の水電解システム180は、電源128とカソード水溶液供給手段121とアノード水溶液供給手段122と酸素供給手段125とを制御する制御器130を備えている。
【0108】
電源128は、制御器130に制御されて、運転モード時に、カソード102とアノード103との間に電流を流す構成になっている。
【0109】
カソード水溶液供給手段121は、制御器130に制御されて、運転モード時に、所定のpHに制御されたアルカリ水溶液を、カソード入口107へ供給し、カソード出口108から排出された水素とアルカリ水溶液とを気液分離して、分離後のアルカリ水溶液は再利用し、分離後の水素は水素排出経路145に排出する構成になっている。
【0110】
アノード水溶液供給手段122は、制御器130に制御されて、運転モード時及び運転モードから停止モードに移行した後に、所定のpHに制御されたアルカリ水溶液を、アノード入口110へ供給し、アノード出口111から排出された酸素とアルカリ水溶液とを気液分離して、分離後のアルカリ水溶液は再利用し、分離後の酸素は酸素貯蔵室127へ供給する構成になっている。
【0111】
酸素供給手段125は、制御器130に制御されて、運転モードから停止モードに移行した後に、アルカリ水溶液と酸素との混相流がアノード103へ供給されるように、アノード供給経路143を通流するアルカリ水溶液に酸素を混合する構成になっている。
【0112】
本実施の形態の水電解システム180は、カソード102とアノード103との間の電圧、又はアノード103の電位を計測可能な電圧計129を備えている。
【0113】
そして、制御器130は、運転モードから停止モードに移行した後に、電圧計129により計測した値が規定値より小さくなった場合に、アルカリ水溶液と酸素との混相流がアノード103へ供給されるように、アノード水溶液供給手段122と酸素供給手段125とを制御するように構成されている。
【0114】
本実施の形態の水電解システム180の制御器130は、アルカリ水溶液と酸素との混相流をアノード103へ供給する時にアノードpH調整手段124によって制御するアルカリ水溶液のpHの値が、運転モード時にアノードpH調整手段124によって制御するアルカリ水溶液のpHの値よりも低くなるように、アノードpH調整手段124を調整するように構成されている。
【0115】
本実施の形態の水電解システム180は、運転モードから立ち下げモードを経て停止モードに移行するように構成され、制御器130は、立ち下げモードにおいて、カソード102とアノード103との間に流れる電流が徐々に小さくなるように、電源128を制御するとともに、アノード水溶液供給手段122によりアノード103へ供給するアルカリ水溶液のpHの値が徐々に低くなるように、アノードpH調整手段124を調整するように構成されている。
【0116】
本実施の形態の水電解システム180の制御器130は、アルカリ水溶液と酸素とを含む混相流がアノード103へ供給されるように、アノード水溶液供給手段122と酸素供給手段125とを制御した後に、所定条件を満たすと、アノード水溶液供給手段122と酸素供給手段125の供給動作を停止させるように構成されている。
【0117】
[1-2.動作]
以上のように構成された本実施の形態の水電解システム180について、
図2から
図14に基づいて、その動作と作用を以下に説明する。
【0118】
なお、
図3から
図14において、弁を表す三角形が黒塗りの場合は開状態を示し、弁を表す三角形が白抜きの場合は閉状態を示している。
【0119】
水電解システム180の動作は、運転モードと、立ち下げモードと、停止モードと、との3つのモードからなる。
【0120】
まず、運転モードについて説明する。
【0121】
[1-2-1.運転モードの動作]
図2は、本実施の形態における水電解システム180の動作を示すフローチャートである。運転モードは、
図2のフローチャートのS101~S106のステップから構成されている。
【0122】
図3は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS101の実行直後の状態を示し、
図4は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS102の実行直後の状態を示し、
図5は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS103の実行直後の状態を示し、
図6は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS104の実行直後の状態を示している。
【0123】
以下では、各ステップの動作と作用とについて、
図2と、
図3~
図6とに基づいて、説明する。
【0124】
まず、制御器130は、
図3に示すように、カソード入口弁150とカソード出口弁151とアノード出口弁155とを開ける。また、アノード水溶液供給手段122におけるアルカリ水溶液の出口がアノード入口110と連通して酸素供給手段125における酸素の出口がアノード入口110と連通しないように、アノード入口切替弁154を開ける(S101)。
【0125】
次に、制御器130は、
図4に示すように、カソード水溶液供給手段121とカソードpH調整手段123とアノード水溶液供給手段122とアノードpH調整手段124とを動作させる。
【0126】
その結果、カソード102側では、カソードpH調整手段123によって所定のpHに制御されたアルカリ水溶液が、カソード水溶液供給手段121からカソード供給経路141を介してカソード入口107へ供給され、カソード入口107に供給されたアルカリ水溶液が、カソード出口108へ向かってカソード流路109を流れ、カソード出口108からカソード排出経路142に排出されたアルカリ水溶液が、カソード水溶液供給手段121に戻って再びカソード入口107へ供給される。
【0127】
また、アノード103側では、アノードpH調整手段124によって所定のpHに制御されたアルカリ水溶液が、アノード水溶液供給手段122からアノード供給経路143を介してアノード入口110へ供給され、アノード入口110に供給されたアルカリ水溶液が、アノード出口111へ向かってアノード流路112を流れ、アノード出口111からアノード排出経路144に排出されたアルカリ水溶液が、アノード水溶液供給手段122に戻って再びアノード入口110へ供給される(S102)。
【0128】
本実施の形態では、カソード水溶液供給手段121からカソード入口107へ供給する
アルカリ水溶液には、水酸化カリウム水溶液を用いる。アノード水溶液供給手段122からアノード入口110へ供給するアルカリ水溶液には、水酸化カリウム水溶液を用いる。
【0129】
カソード水溶液供給手段121からカソード入口107へ供給するアルカリ水溶液は、カソード水溶液供給手段121とカソードpH調整手段123とによって、温度が75℃で、pHが14で、流量が150cc/minになるように調整(制御)されている。
【0130】
アノード水溶液供給手段122からアノード入口110へ供給するアルカリ水溶液は、アノード水溶液供給手段122とアノードpH調整手段124とによって、温度が75℃で、pHが14で、流量が150cc/minになるように調整(制御)されている。
【0131】
次に、制御器130は、
図5に示すように、水素入口弁152と水素出口弁153と酸素入口弁156と酸素出口弁157とを開ける(S103)。
【0132】
そして、制御器130は、
図6に示すように、電源128を動作させて、電源128により、アノード103から隔膜101を介してカソード102へ所定電流量(1.0A/cm
2)の電流を流す(S104)。
【0133】
この動作により、カソード102では、(化1)に示す、水が水素と水酸化物イオンになる還元反応が起こり、アノード103では、(化2)に示す、水酸化物イオンから酸素と水とが生成する酸化反応が起こる。
【0134】
【0135】
【0136】
(化1)と(化2)とに示す電気化学反応により、水電解デバイス100のカソード102において水素が、アノード103において酸素が、それぞれ生成される。
【0137】
このとき、カソード水溶液供給手段121は、カソード出口108からカソード排出経路に排出された水素とアルカリ水溶液とを気液分離し、分離後のアルカリ水溶液を、カソードpH調整手段123によって所定のpHに制御して再利用し、分離後の水素を、水素排出経路145に排出(水素排出経路145を介して水素貯蔵室126へ供給)する。
【0138】
また、アノード水溶液供給手段122は、アノード出口111からアノード排出経路144に排出された酸素とアルカリ水溶液とを気液分離し、分離後のアルカリ水溶液を、アノードpH調整手段によって所定のpHに制御して再利用し、分離後の酸素を、酸素排出経路146に排出(酸素排出経路146を介して酸素貯蔵室127へ供給)する。
【0139】
次に、制御器130は、停止モードの指示が入ったか確認する(S105)。S105の確認の結果、停止モードの指示が入っていなければ、現状を所定時間(10分間)継続して(S106)、S105に戻る。S105の確認の結果、停止モードの指示が入っていれば、運転モードが終了したと判断して、立ち下げモード(S107)に移行する。次に、立ち下げモードについて説明する。
【0140】
[1-2-2.立ち下げモードの動作]
立ち下げモードは、
図2のフローチャートのS107~S110のステップから構成されている。
【0141】
図7は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS107の実行直後の状態を示し、
図8は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS108の実行直後の状態を示し、
図9は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS109の実行直後の状態を示し、
図10は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS110の実行直後の状態を示している。
【0142】
立ち下げモードでは、まず、制御器130は、
図7に示すように、電源128により、水電解デバイス100に流す電流を、ゼロになるまで徐々に小さくして、停止させる。また、アノード水溶液供給手段122とアノードpH調整手段124とにより、アノード103に供給するアルカリ水溶液のpHを所定pH(11)になるまで徐々に低くする(S107)。
【0143】
次に、制御器130は、
図8に示すように、水素入口弁152と水素出口弁153と酸素入口弁156と酸素出口弁157とを閉める(S108)。
【0144】
そして、制御器130は、
図9に示すように、カソード水溶液供給手段121とカソードpH調整手段123とアノード水溶液供給手段122とアノードpH調整手段124とを停止する(S109)。
【0145】
続いて、制御器130は、
図10に示すように、カソード入口弁150とカソード出口弁151とアノード入口切替弁154とアノード出口弁155とを閉め(S110)、停止モード(S111)に移行する。
【0146】
[1-2-3.停止モードの動作]
停止モードは、
図2のフローチャートのS111~S121のステップから構成されている。
【0147】
図11は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS114の実行直後の状態を示し、
図12は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS115の実行直後の状態を示し、
図13は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS119の実行直後の状態を示し、
図14は、水電解システム180における
図2のフローチャートのS120の実行直後の状態を示している。
【0148】
停止モードでは、まず、制御器130は、電圧計129により、アノード電位を計測し(S111)、アノード電位が所定電位(500mV)未満になったか確認する(S112)。
【0149】
S112の確認の結果、アノード電位が所定電位(500mV)未満になっていなければ、現状を所定時間(10分間)継続して(S113)、S111に戻る。S112の確認の結果、アノード電位が500mV未満になっていれば、S114に移行する。
【0150】
次に、制御器130は、
図11に示すように、アノード入口切替弁154とアノード出口弁155と酸素入口弁156と酸素供給弁158とを開ける(S114)。
【0151】
このとき、アノード入口切替弁154は、アノード水溶液供給手段122におけるアルカリ水溶液の出口がアノード入口110と連通するとともに酸素供給手段125における酸素の出口がアノード入口110と連通する(アノード入口切替弁154における二つの
入口がアノード入口切替弁154における一つの出口と連通する)ように、開ける。
【0152】
そして、制御器130は、
図12に示すように、アノード水溶液供給手段122とアノードpH手段120と酸素供給手段125とにより、所定条件のアルカリ水溶液(水酸化カリウム水溶液)と酸素との混相流を、アノード103に所定時間(10分間)供給する(S115)。
【0153】
このとき、アノードpH調整手段124によって所定のpHに制御されたアルカリ水溶液が、アノード水溶液供給手段122からアノード供給経路143に排出され、酸素供給手段125によって酸素貯蔵室127の酸素が、酸素供給経路147からアノード入口切替弁154に流入し、アノード供給経路143を通流するアルカリ水溶液と混合される。
【0154】
そして、所定条件のアルカリ水溶液と酸素の混相流が、アノード供給経路143からアノード入口110へ供給され、アノード入口110に供給されたアルカリ水溶液と酸素の混相流が、アノード出口111へ向かってアノード流路112を流れ、アノード出口111からアノード排出経路144に排出される。
【0155】
アノード水溶液供給手段122は、アノード出口111からアノード排出経路144に排出された酸素とアルカリ水溶液とを気液分離し、分離後のアルカリ水溶液を、アノードpH調整手段によって所定のpHに制御して再利用し、分離後の酸素を、酸素排出経路146を介して酸素貯蔵室127へ供給する。
【0156】
このとき、アノード103に所定時間(10分間)供給されるアルカリ水溶液と酸素との混相流は、アノードpH調整手段124とアノード水溶液供給手段122と酸素供給手段125とによって、アルカリ水溶液と酸素の体積比が1:2で、温度が75℃で、pHが9で、総流量が450cc/minになるように調整(制御)されている。
【0157】
続いて、制御器130は、電圧計129によりアノード電位を計測し(S116)、アノード電位が所定電位(600mV)を超えたか確認する(S117)。
【0158】
S117の確認の結果、アノード電位が600mVを超えていなければ、現状を所定時間(10分間)継続して(S118)、S116に戻る。S117の確認の結果、アノード電位が600mVを超えていれば、S118に移行する。
【0159】
次に、制御器130は、
図13に示すように、アノード水溶液供給手段122とアノードpH手段120と酸素供給手段125とを停止する(S119)。
【0160】
そして、制御器130は、
図14に示すように、アノード入口切替弁154とアノード出口弁155と酸素入口弁156と酸素供給弁158とを閉める(S120)。
【0161】
次に、制御器130は、運転モード再開の指示が入ったか確認する(S121)。S121の確認の結果、運転モード再開の指示が入っていれば、S101に戻る。S121の確認の結果、運転モード再開の指示が入っていなければ、水電解システム180の動作を終了する。
【実施例0162】
(実施例1)
実施例1では、
図1に示す実施の形態1の水電解システム180を用いて、
図2に示すフローチャートを10回繰り返し、サイクル試験前後のエネルギー効率を評価した。
【0163】
その結果、下記の(表1)に示す通り、サイクル試験後、エネルギー効率の大幅な低下は確認されなかった。
【0164】
(比較例1)
比較例1では、
図1に示す実施の形態1の水電解システム180を用いて、
図2に示すフローチャートのS110を1日間継続した後、S111からS120の動作を割愛し、S121に移行する動作を行うこと以外は、実施例1と同様のフローチャートを10回繰り返した後、エネルギー効率を評価した。
【0165】
その結果、下記の(表1)に示す通り、サイクル試験によるエネルギー効率の大幅な低下が確認された。また、サイクル試験後、水電解デバイス100を解体し、アノード触媒層を透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察した結果、アノード基材からアノード触媒の剥離が観察された。
【0166】
以上の水電解試験から、実施例1の水電解システム180は、サイクル試験耐性が高いことが確認された。
【0167】
【0168】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態の水電解デバイスのアノード劣化抑制方法は、カソード102とアノード103とで水酸化物イオン伝導性の隔膜101を挟んだ隔膜-電極接合体104を、カソードセパレータ105と、アノードセパレータ106とで挟持した水電解デバイス100のアノード103の劣化を抑制する方法である。
【0169】
カソード102は、水が水素と水酸化物イオンになる還元反応を起こすための触媒が電子伝導性の基材に担持された構成になっている。アノード103は、水酸化物イオンから酸素と水を生成する酸化反応を起こすための触媒が電子伝導性の基材に担持された構成になっている。
【0170】
カソードセパレータ105は、カソード流路109がカソード102と対向する面に形成されている。アノードセパレータ106は、アノード流路112がアノード103と対向する面に形成されている。
【0171】
そして、本実施の形態の水電解デバイスのアノード劣化抑制方法は、水電解デバイス100で水素と酸素を製造する運転モードから水電解デバイス100での水素と酸素の製造を停止した停止モードに移行した後に、アルカリ水溶液と酸素との混相流をアノード流路112(アノード103)に供給することにより、アノード103の劣化を抑制することを特徴としている。
【0172】
これにより、運転モードから停止モードに移行した後に、アルカリ水溶液と酸素とを含む混相流を、アノード103に供給するので、水素の製造を停止する工程において、アノード103の電位変化に起因したアノード103の構造変化や変質を抑制することができ
る。そのため、アノード103の劣化を抑制することができる。
【0173】
本実施の形態のように、水電解デバイスのアノード劣化抑制方法は、運転モードから停止モードに移行した後に、カソード102とアノード103との間の電圧、又はアノード103の電位が規定値より小さくなった場合に、アルカリ水溶液と酸素との混相流をアノード流路112(アノード103)に供給してもよい。
【0174】
これにより、アノード103の電位が規定値より小さくなった場合に生じるアノード103の構造変化や変質を適切なタイミングで抑制することができる。そのため、アノード103の劣化を、より適切なタイミングで抑制することができる。
【0175】
本実施の形態のように、水電解デバイスのアノード劣化抑制方法は、アルカリ水溶液と酸素との混相流をアノード流路112(アノード103)へ供給する時のアルカリ水溶液のpHの値を、運転モード時に水電解デバイス100へ供給するアルカリ水溶液のpHの値よりも低くしてもよい。
【0176】
これにより、アノード103を高い電位に保持することができ、アノード103の構造変化や変質を更に抑制することができる。そのため、アノード103の劣化を更に抑制することができる。
【0177】
本実施の形態のように、水電解デバイスのアノード劣化抑制方法は、水電解デバイス100が運転モードから立ち下げモードを経て停止モードに移行する場合において、立ち下げモードにおいて、カソード102とアノード103との間に流す電流を徐々に小さくするとともに、アノード103へ供給するアルカリ水溶液のpHの値が徐々に低くなるように、アノード103へ供給するアルカリ水溶液のpHを調整してもよい。
【0178】
これにより、立ち下げモードにおいて、アノードを高い電位に保持することができ、アノード103の構造変化や変質を抑制することができる。そのため、立ち下げモードにおけるアノード103の劣化を抑制することができる。
【0179】
本実施の形態のように、水電解デバイスのアノード劣化抑制方法は、アルカリ水溶液と酸素とを含む混相流のアノード103への供給を開始した後に、所定条件を満たすと、混相流のアノード103への供給を停止してもよい。
【0180】
これにより、水電解デバイス100で水素と酸素を製造しないときに、アノード水溶液供給手段122と酸素供給手段125とが必要以上に供給動作を継続して、アノード水溶液供給手段122と酸素供給手段125とを動作させるのに必要な電気エネルギーを無駄に消費するのを防止することができる。
【0181】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0182】
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0183】
実施の形態1では、水電解デバイス100を直列に複数積層(スタック)した構成であってもよい。これにより、スタック化により助長されるアノード103の劣化(特に、逆電流によるアノード103の劣化)を抑制することができる。
【0184】
また、カソード102とアノード103のどちらか一方に供給したアルカリ水溶液が、カソード102とアノード103のどちらか他方にも供給されるように、水電解デバイス100を構成した場合は、アルカリ水溶液供給手段を一つにしてもよい。
【0185】
そのようにアルカリ水溶液供給手段を一つにした場合は、簡素化できるとともに、スタックの水酸化物イオンの短絡経路を削減することができ、スタック化により助長されるアノード103の劣化(特に、逆電流によるアノード103の劣化)を抑制することができる。
【0186】
また、運転モードから停止モードに移行した後に、カソード102の電位が規定値になった場合に、アルカリ水溶液と水素との混相流がカソード102へ供給されるように構成すれば、カソード102の電位変化に起因したカソード102の劣化を抑制することができる。
本開示は、隔膜-電極接合体を備えた水電解デバイスを用いて、アルカリ水溶液に含まれる水を電気分解し、水素と酸素とを製造する水電解システムなどに適用可能である。