(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096298
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ハイブリッドロケット及びハイブリッドロケット用インジェクタ
(51)【国際特許分類】
F02K 9/72 20060101AFI20230630BHJP
B64G 1/40 20060101ALI20230630BHJP
B64G 1/00 20060101ALI20230630BHJP
F23L 1/00 20060101ALI20230630BHJP
F23L 7/00 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
F02K9/72
B64G1/40 300
B64G1/00 C
F23L1/00 B
F23L1/00 E
F23L7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211942
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】和田 豊
(72)【発明者】
【氏名】池上 友隆
(72)【発明者】
【氏名】馬場 開一
(72)【発明者】
【氏名】小田 達也
(72)【発明者】
【氏名】堀 恵一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 克也
【テーマコード(参考)】
3K023
【Fターム(参考)】
3K023BA07
3K023EA02
3K023JA01
(57)【要約】
【課題】特性排気速度効率が向上したハイブリッドロケット及びハイブリッドロケットの特性排気速度効率を向上できるハイブリッドロケット用インジェクタの提供。
【解決手段】固体燃料(4)を収容する収容部と燃焼領域とを有する燃焼室(4)と、前記燃焼室と連通するノズル(9)と、前記燃焼室(4)の前記ノズル(9)寄りに位置し、前記燃焼領域と連通する酸化剤供給部(10)と、前記酸化剤供給部(10)と接続される酸化剤供給源(5)と、前記酸化剤供給部(5)の先端に位置し、前記燃焼室(3)に供給される酸化剤(6)に旋回流を付与する旋回流付与機構(21)と、を備え、前記燃焼領域において、前記固体燃料(4)から生じる燃料ガスと前記酸化剤(6)とを混合し燃焼させる、ハイブリッドロケット(1)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体燃料を収容する収容部と燃焼領域とを有する燃焼室と、
前記燃焼室と連通するノズルと、
前記燃焼室の前記ノズル寄りに位置し、前記燃焼領域と連通する酸化剤供給部と、
前記酸化剤供給部と接続される酸化剤供給源と、
前記酸化剤供給部の先端に位置し、前記燃焼室に供給される酸化剤に旋回流を付与する旋回流付与機構と、を備え、
前記燃焼領域において、前記固体燃料から生じる燃料ガスと前記酸化剤とを混合し燃焼させる、ハイブリッドロケット。
【請求項2】
前記酸化剤供給部は、前記旋回流付与機構を前記燃焼室内に保持する保持具を備え、
前記保持具は、前記酸化剤供給源と前記旋回流付与機構とにわたって設けられた前記酸化剤の流路を有し、
前記旋回流付与機構は、前記流路の先端に位置し、前記酸化剤を前記燃焼室の側壁に向かって供給する複数の供給口を有する、請求項1に記載のハイブリッドロケット。
【請求項3】
前記旋回流付与機構は、中央に円形の中空部を有する円盤状部材であり、
前記旋回流付与機構は、前記円盤状部材と同軸となるように、環状に配置されている酸化剤供給路を有し、
前記複数の供給口は、前記酸化剤供給路と接続し、前記円盤状部材の外周に沿って設けられている、請求項2に記載のハイブリッドロケット。
【請求項4】
前記酸化剤供給部は、前記旋回流付与機構を前記燃焼室内に保持する保持具を備え、
前記保持具は、前記酸化剤供給源と前記旋回流付与機構とにわたって設けられた前記酸化剤の流路を有し、
前記旋回流付与機構は、前記流路の先端に位置し、前記固体燃料と対向して配置される複数の供給口を有する、請求項1に記載のハイブリッドロケット。
【請求項5】
前記旋回流付与機構は、中央に円形の中空部を有する円盤状の部材であり、
前記複数の供給口が、前記中空部と同軸の仮想円に沿って環状に配置され、
前記複数の供給口は、前記旋回流付与機構を前記固体燃料側から平面視したとき、前記仮想円に沿って湾曲した楕円形である、請求項4に記載のハイブリッドロケット。
【請求項6】
前記燃焼室は、前記燃焼領域において内径が拡大した部分を有し、
前記内径が拡大した部分に前記燃焼室と一体に前記旋回流付与機構が設けられており、
前記旋回流付与機構は、前記燃焼室内の側壁に沿って設けられ、前記固体燃料と対向するよう配置される複数の供給口を有する、請求項1に記載のハイブリッドロケット。
【請求項7】
前記旋回流付与機構は、前記燃焼室の内壁に沿って前記固体燃料の方向に流れるよう前記酸化剤に旋回流を付与する、請求項1~6のいずれか一項に記載のハイブリッドロケット。
【請求項8】
前記酸化剤が液体である、請求項1~7のいずれか一項に記載のハイブリッドロケット。
【請求項9】
前記酸化剤がN2Oである、請求項1~8のいずれか一項に記載のハイブリッドロケット。
【請求項10】
前記固体燃料がテトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のハイブリッドロケット。
【請求項11】
ハイブリッドロケットの燃焼室に供給する酸化剤に旋回流を付与するインジェクタであって、
前記インジェクタは、前記燃焼室に面する第1面と、前記第1面と反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面とを貫通し、中央に位置する円形の中空部とを有する円盤状部材であり、
前記中空部の外側に位置し、前記第2面に前記中空部と同軸となるように環状に配置された酸化剤供給路と、
前記酸化剤供給路の先端に位置し、前記円盤状部材の外周に沿って設けられている複数の供給口と、を備えるハイブリッドロケット用インジェクタ。
【請求項12】
ハイブリッドロケットの燃焼室に供給する酸化剤に旋回流を付与するインジェクタであって、
前記インジェクタは、前記燃焼室に面する第1面と、前記第1面と反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面とを貫通し、中央に位置する円形の中空部とを有する円盤状部材であり、
前記中空部の外側に位置し、前記第2面に前記中空部と同軸となるように環状に配置された酸化剤供給路と、
前記酸化剤供給路と接続し、前記第1面に前記中空部と同軸の第1の仮想円に沿って環状に配置された複数の第1の供給口と、を備えるハイブリッドロケット用インジェクタ。
【請求項13】
さらに、前記第1の仮想円とは半径の異なる前記中空部と同軸であり前記第1の仮想円とは半径の異なる第2の仮想円に沿って環状に配置された複数の第2の供給口が設けられている、請求項12に記載のハイブリッドロケット用インジェクタ。
【請求項14】
前記複数の第1の供給口は、前記第1面を平面視したとき、前記第1の仮想円に沿って湾曲した楕円形である請求項12又は13に記載のハイブリッドロケット用インジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドロケット及びハイブリッドロケット用インジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、宇宙機に搭載される推進系には化学推進及び電気推進の二つが存在する。化学推進では推力の制御が可能な液体ロケットが採用されることが多く、軌道投入用スラスタとして人工衛星に装備される。しかし、液体ロケットで従来使用されてきた推進剤であるヒドラジン等は、人体に有害であり、液体酸素及び液体水素等は、極低温であり温度調節が必要であるため、取り扱いが困難である。また、これらの推進剤を燃焼室に供給するには加圧機構を搭載する必要があるため、推進系が複雑になり重量が増加する。
【0003】
これらの課題を解決する新たな推進系としてハイブリッドロケットシステムが注目されている。ハイブリッドロケットは、プラスチックなど固体の不活性ポリマーを燃料として使用するため安全性が高い。
【0004】
ハイブリッドロケットの種類の一つとして,自燃性を有し燃料過多な燃焼ガスを生成する固体燃料を用いたガスハイブリッドロケットが提案されている。しかし、一般的なガスハイブリッドロケットは、燃焼室を2つ有するため構造重量が増加する傾向にある。しかし、2次燃焼室ではガス化した燃料とガス化した酸化剤によって燃焼するため特性排気速度効率ηC*が高い。
【0005】
特許文献1は、固体燃料を収容する燃料ガス生成室と、酸化剤と燃料ガスを混合して燃焼させるための燃焼室とが一体に形成されているハイブリッドロケットを開示している。この構成では、従来のガスハイブリッドロケットに設けられている2次燃焼室を省くことで軽量化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のハイブリッドロケットでは、酸化剤として気体酸素等の気体酸化剤を用いると高い特性排気速度効率が得られる。一方で、酸化剤として液体酸化剤を使用する場合には特性排気速度効率をさらに向上する余地がある。
【0008】
本発明の目的は、特性排気速度効率が向上したハイブリッドロケット及びハイブリッドロケットの特性排気速度効率を向上できるハイブリッドロケット用インジェクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1]固体燃料を収容する収容部と燃焼領域とを有する燃焼室と、前記燃焼室と連通するノズルと、前記燃焼室の前記ノズル寄りに位置し、前記燃焼領域と連通する酸化剤供給部と、前記酸化剤供給部と接続される酸化剤供給源と、前記酸化剤供給部の先端に位置し、前記燃焼室に供給される酸化剤に旋回流を付与する旋回流付与機構と、を備え、前記燃焼領域において、前記固体燃料から生じる燃料ガスと前記酸化剤とを混合し燃焼させる、ハイブリッドロケット。
[2]前記酸化剤供給部は、前記旋回流付与機構を前記燃焼室内に保持する保持具を備え、前記保持具は、前記酸化剤供給源と前記旋回流付与機構とにわたって設けられた前記酸化剤の流路を有し、前記旋回流付与機構は、前記流路の先端に位置し、前記酸化剤を前記燃焼室の側壁に向かって供給する複数の供給口を有する、[1]に記載のハイブリッドロケット。
[3]前記旋回流付与機構は、中央に円形の中空部を有する円盤状部材であり、前記旋回流付与機構は、前記円盤状部材と同軸となるように、環状に配置されている酸化剤供給路を有し、前記複数の供給口は、前記酸化剤供給路と接続し、前記円盤状部材の外周に沿って設けられている、[2]に記載のハイブリッドロケット。
[4]前記酸化剤供給部は、前記旋回流付与機構を前記燃焼室内に保持する保持具を備え、前記保持具は、前記酸化剤供給源と前記旋回流付与機構とにわたって設けられた前記酸化剤の流路を有し、前記旋回流付与機構は、前記流路の先端に位置し、前記固体燃料と対向して配置される複数の供給口を有する、[1]に記載のハイブリッドロケット。
[5]前記旋回流付与機構は、中央に円形の中空部を有する円盤状の部材であり、前記複数の供給口が、前記中空部と同軸の仮想円に沿って環状に配置され、前記複数の供給口は、前記旋回流付与機構を前記固体燃料側から平面視したとき、前記仮想円に沿って湾曲した楕円形である、[4]に記載のハイブリッドロケット。
[6]前記燃焼室は、前記燃焼領域において内径が拡大した部分を有し、前記内径が拡大した部分に前記燃焼室と一体に前記旋回流付与機構が設けられており、前記旋回流付与機構は、前記燃焼室内の側壁に沿って設けられ、前記固体燃料と対向するよう配置される複数の供給口を有する、[1]に記載のハイブリッドロケット。
[7]前記旋回流付与機構は、前記燃焼室の内壁に沿って前記固体燃料の方向に流れるよう前記酸化剤に旋回流を付与する、[1]~[6]のいずれか一項に記載のハイブリッドロケット。
[8]前記酸化剤が液体である、[1]~[7]のいずれか一項に記載のハイブリッドロケット。
[9]前記酸化剤がN2Oである、[1]~[8]のいずれか一項に記載のハイブリッドロケット。
[10]前記固体燃料がテトラ-オールグリシジルアジドポリマーを含む、[1]~[9]のいずれか一項に記載のハイブリッドロケット。
[11]ハイブリッドロケットの燃焼室に供給する酸化剤に旋回流を付与するインジェクタであって、前記インジェクタは、前記燃焼室に面する第1面と、前記第1面と反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面とを貫通し、中央に位置する円形の中空部とを有する円盤状部材であり、前記中空部の外側に位置し、前記第2面に前記中空部と同軸となるように環状に配置された酸化剤供給路と、前記酸化剤供給路の先端に位置し、前記円盤状部材の外周に沿って設けられている複数の供給口と、を備えるハイブリッドロケット用インジェクタ。
[12]ハイブリッドロケットの燃焼室に供給する酸化剤に旋回流を付与するインジェクタであって、前記インジェクタは、前記燃焼室に面する第1面と、前記第1面と反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面とを貫通し、中央に位置する円形の中空部とを有する円盤状部材であり、前記中空部の外側に位置し、前記第2面に前記中空部と同軸となるように環状に配置された酸化剤供給路と、前記酸化剤供給路と接続し、前記第1面に前記中空部と同軸の第1の仮想円に沿って環状に配置された複数の第1の供給口と、を備えるハイブリッドロケット用インジェクタ。
[13]さらに、前記第1の仮想円とは半径の異なる前記中空部と同軸であり前記第1の仮想円とは半径の異なる第2の仮想円に沿って環状に配置された複数の第2の供給口が設けられている、[12]に記載のハイブリッドロケット用インジェクタ。
[14]前記複数の第1の供給口は、前記第1面を平面視したとき、前記第1の仮想円に沿って湾曲した楕円形である[12]又は[13]に記載のハイブリッドロケット用インジェクタ。
【発明の効果】
【0010】
上記態様によれば、特性排気速度効率が向上したハイブリッドロケット及びハイブリッドロケットの特性排気速度効率を向上できるハイブリッドロケット用インジェクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一態様におけるハイブリッドロケットの模式断面図である。
【
図2】本発明の一態様における旋回流付与機構の平面図及び側面図である。
【
図3】本発明の一態様における保持具の平面図及び断面図である。
【
図4】本発明の他の態様における旋回流付与機構の平面図及び側面図である。
【
図5】本発明の他の態様における旋回流付与機構の斜視図である。
【
図6】本発明の他の態様における旋回流付与機構の斜視図である。
【
図7】本発明のさらに他の態様における旋回流付与機構の平面図及び断面図である。
【
図8】本発明のさらに他の態様におけるハイブリッドロケットの模式断面図である。
【
図9】本発明のさらに他の態様における燃焼室と酸化剤供給部の斜視図である。
【
図10】本発明のさらに他の態様における、
図9のE-E断面で切断したときの燃焼室と酸化剤供給部の斜視図である。
【
図11】実施例1における固体燃料燃焼時の燃焼室内の圧力、酸化剤供給源室内圧力及び推力と燃焼時間との関係を表すグラフである。
【
図12】比較例1における固体燃料燃焼時の燃焼室内の圧力、酸化剤供給源室内圧力及び推力と燃焼時間との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照しながら、本発明の一態様におけるハイブリッドロケット及びハイブリッドロケット用インジェクタについて説明する。以下の複数の実施形態では、好ましい例や条件を共有してもよい。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、数、量、位置及び形状等について変更、省略及び置換等してもよい。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてあることがある。
【0013】
本発明の一態様は、固体燃料を収容する収容部と燃焼領域とを有する燃焼室と、前記燃焼室と連通するノズルと、前記燃焼室の前記ノズル寄りに位置し、前記燃焼領域と連通する酸化剤供給部と、前記酸化剤供給部と接続される酸化剤供給源と、前記酸化剤供給部の先端に位置し、前記燃焼室に供給される酸化剤に旋回流を付与する旋回流付与機構と、を備え、前記燃焼領域において、前記固体燃料から生じる燃料ガスと前記酸化剤とを混合し燃焼させる、ハイブリッドロケットである。
【0014】
〈第1の実施形態〉
以下に本実施形態のハイブリッドロケットについて
図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態におけるハイブリッドロケットの模式断面図である。ハイブリッドロケット1は、機体2と、燃焼室3と、固体燃料4と、酸化剤6が収容されている酸化剤供給源5と、酸化剤供給管7と、バルブ8と、ノズル9と、酸化剤供給部10と、酸化剤供給源加圧装置11とを有する。
【0015】
機体2の内部には、燃焼室3が設けられている。燃焼室3は、固体燃料4を収容する収容部と、燃焼領域を有している。固体燃料4の端面と、燃焼室3の内壁に囲まれた空間が燃焼領域である。燃焼領域内に酸化剤6が供給され、燃料ガスと酸化剤6との混合及び燃焼が生じる。すなわち、燃料ガスが発生する空間と酸化剤6と燃料ガスを混合し燃焼させる空間は、共通している。
【0016】
機体2には、固体燃料4を着火するための点火装置(不図示)が備えられている。燃焼室3は、酸化剤供給部10を介してノズル9と連通している。燃焼室3において燃料ガス及び酸化剤6が混合及び燃焼して生じた高温及び高圧のガスをノズル9から噴出することで、ハイブリッドロケットの推力を得ることができる。
【0017】
酸化剤供給源5は、酸化剤供給管7と接続している。酸化剤供給管7には、酸化剤供給源5からの酸化剤6の供給を制御するためのバルブ8が設けられている。酸化剤供給源5には、酸化剤供給源5内を加圧するための酸化剤供給源加圧装置11を有している。酸化剤供給源加圧装置11により酸化剤供給源5内を加圧することにより、酸化剤6の供給量を調整することができる。
【0018】
図1においては、酸化剤供給源5は、酸化剤供給源5内を加圧するための酸化剤供給源加圧装置11を有しているが、本実施形態はこれに限定されない。酸化剤6として高い蒸気圧を有している液体酸化剤(例えば、亜酸化窒素(N
2O)等)を用いる場合には、酸化剤供給源加圧装置11を設けなくてもよい。
【0019】
酸化剤供給部10は、燃焼室3のノズル9寄りに位置し、燃焼領域と連通している。本実施形態の酸化剤供給部10は、旋回流付与機構21を燃焼室3内に保持する保持具22を備える。酸化剤供給部10の先端には、燃焼室3に供給される酸化剤6に旋回流を付与する旋回流付与機構21が配置されている。
【0020】
次に、各構成について詳細に説明する。
機体2は、少なくとも外壁、中間層及び内壁がこの順に厚さ方向に積層されている構成である。機体2の外壁は、機械的強度を保ち、かつ燃焼室3の圧力に耐えるため、アルミニウム等の金属により形成される。中間層は、燃焼火炎からの断熱が可能な燃料カートリッジとする目的でガラス繊維強化プラスチック(Glrass Fiber Reinfored Plastics,GFRPともいう)、フェノール樹脂等又はその複合材料等により形成されている。内壁は、耐熱性を有する高分子化合物で形成されており、例えばエチレンプロピレンジエンゴム(Ethylene Propylene Diene Rubber,EPDMゴムともいう)等の高分子材料が挙げられる。
【0021】
燃焼室3は、機体2の内壁により囲まれた空間である。燃焼室3は、旋回流付与機構21及び保持具22の中空部を介してノズル9と接続している。燃焼室3は、固体燃料4を収容している収容部3Aと燃焼領域3Bとを有する。燃焼領域3Bは、収容部3Aとノズル9との間に位置する。燃焼領域3Bは、固体燃料4から生じる燃料ガスと酸化剤6とが燃焼する領域である。
【0022】
固体燃料4は、特に限定されないが、テトラ-オールグリシジルアジドポリマー(tetra-ol Glycidyl Azide Polymer,tetra-ol GAPともいう)を含むことが好ましい。
【0023】
酸化剤供給源5は、耐腐食性を有する材料により形成されており、例えばアルミニウムやステンレス等が挙げられる。
【0024】
酸化剤供給源加圧装置11は、バルブ8の開栓後、酸化剤供給源5内を加圧することにより、酸化剤6を酸化剤供給管7を介して燃焼室3に供給し、燃焼室3内を加圧する。酸化剤供給源加圧装置11は、例えば可動式の隔壁を有するピストン、アキュムレータ等が挙げられる。
【0025】
酸化剤供給源5に収容される酸化剤6は、液体酸化剤でも気体酸化剤でもよいが、収容体積が小さいことから液体酸化剤であることが好ましい。液体酸化剤としては、亜酸化窒素、液体酸素、過酸化水素、硝酸ヒドロキシルアミン水溶液等が挙げられる。気体酸化剤としては、酸素等が挙げられる。常温で高い飽和蒸気圧を有するため、酸化剤供給源加圧装置11を省略できることから、酸化剤6としては亜酸化窒素であることが好ましい。
【0026】
酸化剤供給管7は、酸化剤供給源5と、後述する保持具22の酸化剤流路とを接続している。酸化剤供給管7は、酸化剤供給源5の材料として列挙されている耐腐食性を有する材料により形成されている。バルブ8は、燃焼室3の圧力調節手段であり、酸化剤供給管7を開閉し、酸化剤6の供給を制御する。
【0027】
図2は、本実施形態における旋回流付与機構21の平面図及び側面図である。旋回流付与機構21は、燃焼室3に面する第1面100Aと、保持具22と対向する第2面100Bを有する。旋回流付与機構21は、第1面100Aと前記第2面100Bとを貫通し、中央に位置する円形の中空部104を有する円盤状部材100である。第2面100Bには、酸化剤供給路101と、前記複数の供給口102が設けられている。酸化剤供給路101は、中空部104の外側に位置し、円盤状部材100と同軸となるように環状に配置されている。複数の供給口102は、酸化剤供給路101と接続しており、酸化剤供給路101の先端に位置する。複数の供給口102は、酸化剤6に旋回流を付与しながら燃焼室3の側壁に向かって供給するよう円盤状部材100の外周に沿って設けられている。旋回流付与機構21は、保持具22とボルト等により接続されるための孔103を有していてもよい。
【0028】
円盤状部材100の直径は、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から円盤状部材100が設けられる位置における燃焼室3の内径に対し60~90%であることが好ましく、80~90%であることがより好ましい。
【0029】
複数の供給口102の数は特に限定されないが、一例として2~16個が挙げられ、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から6~10個であることが好ましい。
【0030】
円盤状部材100の中空部の直径は、十分な燃料ガス流路確保の観点から円盤状部材100の直径に対し14~50%であることが好ましく、20~50%であることがより好ましい。
【0031】
図3は、本実施形態における保持具22の平面図及びC-C断面における断面図である。保持具22は、旋回流付与機構21とノズル9の間に配置され、旋回流付与機構21を燃焼室3内に保持する。保持具22は、酸化剤供給管7と接続する酸化剤の流路111を有する。流路111は、酸化剤供給源5と前記旋回流付与機構21とにわたって設けられ、酸化剤供給路101と接続している。保持具22は、略円筒形状であり、中空部112を有する。旋回流付与機構21の中空部104と保持具22の中空部112の形状は一致している。保持具22は、ノズル9と隣接している。燃焼領域3Bで燃料ガスと酸化剤6との燃焼により生じるガスは、中空部104と中空部112を通過してノズル9から排気される。
【0032】
ノズル9としては、ラバール・ノズル等が挙げられるが、それ以外の形状であってもよい。ノズル9は、燃焼領域3Bで燃料ガスと酸化剤6との燃焼により生じたガスが排出されるため、2000℃以上となる。そのため、ノズル9は、グラファイト又はカーボン複合材等の耐熱材料により構成される。
【0033】
図示略の点火装置は、固体燃料4を着火する。固体燃料4にとしてGAPを用いる場合は、250℃以上、圧力を700kPa以上とすると着火する。よってGAPを用いる場合の点火装置は、燃焼室3内を250℃以上、圧力を700kPa以上とする機構を有する。点火装置の構成については、特に限定されず、例えばアルミレスの固体推進薬を利用した点火装置等を使用することができる。
【0034】
点火装置は、燃焼停止した固体燃料4を再着火できる機構を有することが好ましい。具体的には、一度目の燃焼時には点火機構は作動せず、着火条件となるよう加圧及び昇温する構成により着火する。燃焼停止した固体燃料4を再着火する場合には、点火機構を用いて点火する。なお、加圧及び昇温する構成は特に限定されないが、例えばガストーチ等を使用することができる。
【0035】
次に、本実施形態におけるハイブリッドロケット1の推進システムについて説明する。ハイブリッドロケット1は、まず点火装置により固体燃料4に点火する。着火した固体燃料4が燃焼し、燃料ガスが燃焼室3の燃焼領域3Bに発生する。
【0036】
次いで、酸化剤供給源加圧装置11により酸化剤供給源5内が加圧され、酸化剤供給源5から酸化剤供給管7に酸化剤6が導出される。酸化剤6は、酸化剤供給管7から流路111を経由して酸化剤供給部10の旋回流付与機構21に到達する。
【0037】
酸化剤6は、酸化剤供給路101を通過し、複数の供給口102から燃焼室3の側壁3Cに向かって排出される。排出された酸化剤6は、燃焼室3の側壁3Cに沿って旋回しながらノズル9側から固体燃料4に向かって移動する。酸化剤6は、燃焼領域3Bで発生している燃料ガスと混合し燃焼する。燃焼により発生したガスは、旋回流付与機構21の中空部104と保持具22の中空部112を通過してノズル9から外部へと排気されて推力を得る。
【0038】
このように、酸化剤供給部10から燃焼室3に供給される酸化剤6に旋回流付与機構21によって旋回流を付与することで、燃焼ガスと酸化剤6とが混合し燃焼している状態で燃焼室3に滞留する時間を増加できると考えられる。また、旋回流付与機構21により酸化剤6に旋回流を付与することで、燃焼ガスと酸化剤6との燃焼火炎が固体燃料4に近づき、固体燃料4の表面への熱の流入量が増加し、固体燃料4の燃焼速度が増加すると考えられる。その結果、推力を向上することができる。また、旋回流を付与することにより酸化剤と燃焼ガスの燃焼室内滞留時間が長くなるため、ハイブリッドロケット1の特性排気速度効率を向上することができる。
【0039】
次に、ハイブリッドロケット1の推進力を停止するには、酸化剤供給源加圧装置11の動作を停止させ、バルブ8を閉じることにより、酸化剤6の燃焼室3への供給を減ずる又は停止することで行うことができる。その結果、燃料ガスと酸化剤6との混合及び燃焼が停止する。
【0040】
なお、酸化剤6として高い蒸気圧を有している液体酸化剤、例えばN2Oを用いる場合には、バルブ8を閉じることにより、酸化剤6の燃焼室3への供給を減ずる又は停止することができる。
【0041】
ハイブリッドロケット1の推進力を再度得る場合には、以下の操作を行う。まず、点火装置により固体燃料4に再着火する。以降の工程は、上述のハイブリッドロケット1の推進力を得るための操作と同じである。
【0042】
〈第2の実施形態〉
以下に本実施形態のハイブリッドロケットについて説明する。本実施形態のハイブリッドロケットは、旋回流付与機構の形状が第1の実施形態と異なり、その他の構成は第1の実施形態と同じである。なお、本実施形態において第1実施形態と共通の構成については、第1の実施形態と同じ符号を用いて説明し、詳細な説明を省略する。
【0043】
図4は、本実施形態における旋回流付与機構31の平面図及びD-D断面における断面図である。
図5及び
図6は、本実施形態における旋回流付与機構31の斜視図である。旋回流付与機構31は、燃焼室3に面する第1面200Aと、保持具22と対向する第2面200Bを有する。旋回流付与機構31は、第1面200Aと前記第2面200Bとを貫通し、中央に位置する円形の中空部204を有する円盤状部材200である。第1面200Aには、中空部204の外側に位置し、中空部204と同軸の仮想円に沿って環状に配置された複数の供給口202が固体燃料4と対向して配置されている。
【0044】
複数の供給口202は、第1面200Aを平面視したとき、仮想円に沿って湾曲した楕円形である。さらに、この仮想円とは半径の異なる第2の仮想円に沿って配列されている複数の供給口202が設けられていてもよい。円盤状部材200の第2面には、複数の供給口202と接続し、中空部204と同軸となるように環状に配置された酸化剤供給路201が設けられている。複数の供給口202は、酸化剤供給路201を介して保持具22の酸化剤の流路111と接続している。旋回流付与機構31は、保持具22とボルト等により接続されるための孔203を有していてもよい。
【0045】
供給口202は、
図5の破線で示すように第1面200Aと第2面200Bとを連通している。より具体的には、供給口202は、第1面200Aの開口と、第2面200Bの開口とが第1面200Aを平面視したときにずれて配置されている。例えば、
図5では、第1面200Aの開口と第2面200Bの開口とは、開口2つ分ずれて配置されている。これにより、酸化剤供給路201から流入する酸化剤に旋回流が付与され、供給口202の第1面200Aから燃焼室3へ酸化剤が供給される。
【0046】
円盤状部材200の直径は、円盤状部材200が設けられる位置における燃焼室3の内径とほぼ同一である。複数の供給口202の数は特に限定されないが、一例として4~20個が挙げられ、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から8~20個であることが好ましい。
【0047】
複数の供給口202のアスペクト比は、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から0.12~0.91であることが好ましい。ここで、供給口202のアスペクト比とは、第1面200Aにおける供給口202長軸の長さに対する短軸の長さの比を表す。なお、本願において供給口202は湾曲しているため、長軸は前記仮想円に沿って湾曲しているものとして長さを算出する。
【0048】
中空部204の直径は、ノズルスロートの観点から円盤状部材200の直径に対し14~50%であることが好ましく、20~50%であることがより好ましい。
【0049】
次に、本実施形態におけるハイブリッドロケットの推進システムについて説明する。ハイブリッドロケットの固体燃料4への点火から、酸化剤6が酸化剤供給管7を通過し流路111へ到達するまでは、第1の実施形態と同一である。その後、酸化剤6は、流路111を経由して酸化剤供給部10の旋回流付与機構31に到達する。
【0050】
本実施形態のハイブリッドロケットにおいて、酸化剤6は、酸化剤供給路201を通過し、複数の供給口202から燃焼室3内の固体燃料4に向かって排出される。排出された酸化剤6は、複数の供給口202の形状により燃焼室3の側壁3Cに沿って旋回しながらノズル9側から固体燃料4に向かって移動する。酸化剤6は、燃焼領域3Bで発生している燃料ガスと混合し燃焼する。燃焼により発生したガスは、旋回流付与機構31の中空部204と保持具22の中空部112を通過してノズル9から外部へと排気されて推力を得る。
【0051】
このように、酸化剤供給部10から燃焼室3に供給される酸化剤6に旋回流付与機構31によって旋回流を付与することで、燃焼ガスと酸化剤6とが混合し燃焼している状態で燃焼室3に滞留する時間を増加できると考えられる。また、旋回流付与機構31から供給される酸化剤6に旋回流を付与することで、燃焼ガスと酸化剤6との燃焼火炎を固体燃料4が近づき、固体燃料4の表面への熱の流入量が増加し、固体燃料4の燃焼速度が増加すると考えられる。その結果、ハイブリッドロケットの特性排気速度効率を向上することができる。
【0052】
〈第3の実施形態〉
以下に本実施形態のハイブリッドロケットについて説明する。本実施形態のハイブリッドロケットは、旋回流付与機構の形状が第1の実施形態と異なり、その他の構成は第1の実施形態と同じである。なお、本実施形態において第1実施形態と共通の構成については、第1の実施形態と同じ符号を用いて説明し、詳細な説明を省略する。
【0053】
図7は、本実施形態における旋回流付与機構41の平面図及びE-E断面における断面図である。旋回流付与機構41は、燃焼室3に面する第1面300Aと、保持具22と対向する第2面300Bを有する。旋回流付与機構41は、第1面300Aと前記第2面300Bとを貫通し、中央に位置する円形の中空部304を有する円盤状部材300である。第1面300Aには、中空部304の外側に位置し、中空部304と同軸の仮想円に沿って環状に配置された複数の供給口302が固体燃料4と対向して配置されている。
【0054】
複数の供給口302は、前記仮想円とは半径の異なる第2の仮想円に沿って配列されている複数の供給口302が設けられていてもよい。第2面300Bには、複数の供給口302と接続し、中空部304と同軸となるように環状に配置された酸化剤供給路301が設けられている。複数の供給口302は、酸化剤供給路301を介して保持具22の酸化剤の流路111と接続している。旋回流付与機構41は、保持具22とボルト等により接続されるための孔303を有していてもよい。
【0055】
円盤状部材300の直径は、円盤状部材300が設けられる位置における燃焼室3の内径とほぼ同一である。複数の供給口302の数は特に限定されないが、一例として12~144個が挙げられ、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から72~144個であることが好ましい。
【0056】
複数の供給口302の直径は、酸化剤流量を制御しているバルブ8の直径(言い換えればオリフィス直径)の観点から0.28~1.1mmであることが好ましい。
【0057】
中空部304の直径は、ノズルスロート直径の観点から円盤状部材200の直径に対し14~50%であることが好ましく、20~50%であることがより好ましい。
【0058】
次に、本実施形態におけるハイブリッドロケットの推進システムについて説明する。ハイブリッドロケットの固体燃料4への点火から、酸化剤6が酸化剤供給管7を通過し流路111へ到達するまでは、第1の実施形態と同一である。その後、酸化剤6は、流路111を経由して酸化剤供給部10の旋回流付与機構41に到達する。
【0059】
本実施形態のハイブリッドロケットにおいて、酸化剤6は、酸化剤供給路301を通過し、供給口302から固体燃料4に向かって排出される。排出された酸化剤6は、シャワー状に排出され、燃焼室3の側壁3Cに沿って旋回しながらノズル9側から固体燃料4に向かって移動する。酸化剤6は、燃焼室3で発生している燃料ガスと混合し燃焼する。燃焼により発生したガスは、旋回流付与機構41と保持具22の中空部を通過して固体燃料4側からノズル9へと排気される。
【0060】
このように、旋回流付与機構31から供給される酸化剤6に旋回流を付与することで、燃焼ガスと酸化剤6とが混合し燃焼している状態で燃焼室3に滞留する時間を増加できると考えられる。また、旋回流付与機構31から供給される酸化剤6に旋回流を付与することで、燃焼ガスと酸化剤6との燃焼火炎を固体燃料4が近づき、固体燃料4の表面への熱の流入量が増加し、固体燃料4の燃焼速度が増加すると考えられる。その結果、ハイブリッドロケットの特性排気速度効率を向上することができる。
【0061】
〈第4の実施形態〉
以下に本実施形態のハイブリッドロケットについて説明する。本実施形態のハイブリッドロケットは、燃焼室と旋回流付与機構が一体に形成されている点が第1の実施形態と異なり、その他の構成は第1の実施形態と同じである。なお、本実施形態において第1実施形態と共通の構成については、第1の実施形態と同じ符号を用いて説明し、詳細な説明を省略する。
【0062】
図8は、本実施形態におけるハイブリッドロケット1の模式断面図である。ハイブリッドロケット1’は、機体2’と燃焼室3’と、固体燃料4と、酸化剤6が収容されている酸化剤供給源5と、酸化剤供給管7と、バルブ8と、ノズル9と、酸化剤供給部10’と、酸化剤供給源加圧装置11とを有する。
【0063】
本実施形態において、燃焼室3’と酸化剤供給部10’とは一体に形成されている。
図9は、燃焼室3’と酸化剤供給部10’の斜視図である。
図10は、
図9のE-E断面で切断したときの燃焼室3’と酸化剤供給部10’の斜視図である。
【0064】
燃焼室3’は、燃焼領域3B’において径が拡大した部分を有する。本実施形態において、径が拡大した部分が酸化剤供給部10’である。酸化剤供給部10’は、傾斜面403を有する拡径部であり、旋回流付与機構401を有している。酸化剤供給管7は、酸化剤供給源5と、旋回流付与機構401とを接続している。
【0065】
旋回流付与機構401は、酸化剤6の流路である。旋回流付与機構401の先端には、固体燃料4と対向するように燃焼室3’の側壁3C’に沿って周方向に複数の供給口402が設けられている。複数の供給口402から排出された酸化剤6は、傾斜面403によって旋回流が付与され、燃焼室3’の側壁3C’に沿って固体燃料4に向かって移動する。
【0066】
酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から、酸化剤6の流路は、燃焼室3の固体燃料4からノズル9方向への軸方向に対し傾斜し、拡供給口402と接続する複数の第2の流路を有していてもよい。第2の流路の傾斜角は、前記軸方向に対し、例えば1~89°であってもよい。
【0067】
複数の供給口402の数は特に限定されないが、一例として2~16個が挙げられ、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から8~10個であることが好ましい。
【0068】
次に、本実施形態におけるハイブリッドロケット1’の推進システムについて説明する。ハイブリッドロケット1’の固体燃料4への点火から、酸化剤6が酸化剤供給管7を通過するまでは、第1の実施形態と同一である。その後、酸化剤6は、旋回流付与機構401に到達する。
【0069】
本実施形態のハイブリッドロケット1’において、酸化剤6は、旋回流付与機構401の流路を通過し、供給口402から燃焼室3’内の固体燃料4に向かって排出される。排出された酸化剤6は、旋回流付与機構401により燃焼室3’の側壁3C’に沿って旋回しながらノズル9側から固体燃料4に向かって移動する。酸化剤6は、燃焼領域3B’で発生している燃料ガスと混合し燃焼する。燃焼により発生したガスは、旋回流付与機構401を通過してノズル9から外部へと排気されて推力を得る。
【0070】
このように、酸化剤供給部10’から燃焼室3’に供給される酸化剤6に旋回流付与機構401によって旋回流を付与することで、燃焼ガスと酸化剤6とが混合し燃焼している状態で燃焼室3’に滞留する時間を増加できると考えられる。また、旋回流付与機構401により酸化剤6に旋回流を付与することで、燃焼ガスと酸化剤6との燃焼火炎を固体燃料4が近づき、固体燃料4の表面への熱の流入量が増加し、固体燃料4の燃焼速度が増加すると考えられる。その結果、ハイブリッドロケット1’の特性排気速度効率を向上することができる。
【0071】
〈第5の実施形態〉
本発明のもう一つ態様として、ハイブリッドロケットの燃焼室に供給する酸化剤に旋回流を付与するインジェクタが挙げられる。具体的には、ハイブリッドロケットの燃焼室に供給する酸化剤に旋回流を付与するインジェクタであって、前記インジェクタは、前記燃焼室に面する第1面と、前記第1面と反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面とを貫通し、中央に位置する円形の中空部とを有する円盤状部材であり、前記中空部の外側に位置し、前記第2面に前記中空部と同軸となるように環状に配置された酸化剤供給路と、前記酸化剤供給路の先端に位置し、前記円盤状部材の外周に沿って設けられている複数の供給口と、を備えるハイブリッドロケット用インジェクタである。
【0072】
本実施形態のハイブリッドロケット用インジェクタは、第1の実施形態に記載の旋回流付与機構である。つまり、
図2に示される旋回流付与機構21が本実施形態のハイブリッドロケット用インジェクタである。なお、以下の説明においてハイブリットロケットの構成については、
図1に示すハイブリッドロケットの符号を参照する。
【0073】
ハイブリッドロケット用インジェクタ21は、第1面100Aと第2面100Bとを有する。ハイブリッドロケット用インジェクタ21は、第1面100Aと第2面100Bとを貫通し、中央に位置する円形の中空部104を有する円盤状部材100である。ハイブリッドロケット用インジェクタ21は、第1面100Aが燃焼室3側、第2面100Bがノズル9側となるようにハイブリッドロケット1に実装される。第2面100Bには、酸化剤供給路101と、複数の供給口102が設けられている。酸化剤供給路101は、中空部104の外側に位置し、円盤状部材100と同軸となるように環状に配置されている。複数の供給口102は、酸化剤供給路101と接続しており、酸化剤供給路101の先端に位置する。複数の供給口102は、酸化剤6に旋回流を付与しながら燃焼室3の側壁3Cに向かって供給するよう円盤状部材100の外周に沿って設けられている。ハイブリッドロケット用インジェクタ21は、ハイブリッドロケット1に実装するための保持具22とボルト等により接続されるための孔103を有していてもよい。
【0074】
円盤状部材100の直径は、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から、円盤状部材100が設けられる位置における燃焼室3の内径に対し60~90%であることが好ましく、80~90%であることがより好ましい。
【0075】
複数の供給口102の数は特に限定されないが、一例として2~16個が挙げられ、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から6~10個であることが好ましい。
【0076】
円盤状部材100の中空部104の直径は、十分な燃料ガス流路確保の観点から円盤状部材100の直径に対し14~50%であることが好ましく、20~50%であることがより好ましい。
【0077】
第1の実施形態で説明した通り、本実施形態のハイブリッドロケット用インジェクタ21をハイブリッドロケット1に実装することで、ハイブリッドロケット1の特性排気速度効率を向上することができる。
【0078】
〈第6の実施形態〉
本発明のもう一つ態様は、ハイブリッドロケットの燃焼室に供給する酸化剤に旋回流を付与するインジェクタであって、前記インジェクタは、前記燃焼室に面する第1面と、前記第1面と反対側の第2面と、前記第1面と前記第2面とを貫通し、中央に位置する円形の中空部とを有する円盤状部材であり、前記中空部の外側に位置し、前記第2面に前記中空部と同軸となるように環状に配置された酸化剤供給路と、前記酸化剤供給路と接続し、前記第1面に前記中空部と同軸の第1の仮想円に沿って環状に配置された複数の第1の供給口と、を備えるハイブリッドロケット用インジェクタである。
【0079】
本実施形態のハイブリッドロケット用インジェクタは、第2の実施形態に記載の旋回流付与機構である。つまり、
図4~6に示される旋回流付与機構31が本実施形態のハイブリッドロケット用インジェクタである。なお、以下の説明においてハイブリットロケットの構成については、
図1に示すハイブリッドロケットの符号を参照する。
【0080】
ハイブリッドロケット用インジェクタ31は、第1面200Aと第2面200Bとを有する。ハイブリッドロケット用インジェクタ31は、第1面200Aと第2面200Bとを貫通し、中央に位置する円形の中空部204を有する円盤状部材200である。ハイブリッドロケット用インジェクタ31は、第1面200Aが燃焼室3側、第2面200Bがノズル9側となるようにハイブリッドロケット1に実装される。第1面200Aには、中空部204の外側に位置し、中空部204と同軸の仮想円に沿って環状に配置された複数の供給口202が配置されている。
【0081】
複数の供給口202は、第1面200Aを平面視したとき、仮想円に沿って湾曲した楕円形である。さらに、この仮想円とは半径の異なる第2の仮想円に沿って配列されている複数の供給口202が設けられていてもよい。円盤状部材200の第2面200Bには、複数の供給口202と接続し、中空部204と同軸となるように環状に配置された酸化剤供給路201が設けられている。ハイブリッドロケット用インジェクタ31は、ハイブリッドロケット1に実装するための保持具22とボルト等により接続されるための孔203を有していてもよい。
【0082】
供給口202は、
図5の破線で示すように第1面200Aと第2面200Bとを連通している。より具体的には、供給口202は、第1面200Aの開口と、第2面200Bの開口とが第1面200Aを平面視したときにずれて配置されている。例えば、
図5では、第1面200Aの開口と第2面200Bの開口とは、開口2つ分ずれて配置されている。これにより、酸化剤供給路201から流入する酸化剤に旋回流が付与され、供給口202の第1面200Aから実装されるハイブリッドロケットの燃焼室3へ酸化剤が供給される。
【0083】
円盤状部材200の直径は、実装されるハイブリッドロケット用インジェクタの円盤状部材200が設けられる位置における燃焼室3の内径とほぼ同一である。複数の供給口202の数は特に限定されないが、一例として4~20個が挙げられ、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から4~20個であることが好ましい。
【0084】
複数の供給口202のアスペクト比は、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から0.12~0.91であることが好ましい。
【0085】
円盤状部材200の中空部204の直径は、ノズルスロートの観点から円盤状部材200の直径に対し14~50%であることが好ましく、20~50%であることがより好ましい。
【0086】
第2の実施形態で説明した通り、本実施形態のハイブリッドロケット用インジェクタ31をハイブリッドロケット1に実装することで、ハイブリッドロケット1の特性排気速度効率を向上することができる。
【0087】
〈第7の実施形態〉
本実施形態のハイブリッドロケット用インジェクタは、第5の実施形態の変形例であり、第3の実施形態に記載の旋回流付与機構である。つまり、
図7に示される旋回流付与機構41が本実施形態のハイブリッドロケット用インジェクタである。なお、以下の説明においてハイブリットロケットの構成については、
図1に示すハイブリッドロケットの符号を参照する。
【0088】
ハイブリッドロケット用インジェクタ41は、第1面300Aと第2面300Bとを有する。ハイブリッドロケット用インジェクタ41は、第1面300Aと第2面300Bとを貫通し、中央に位置する円形の中空部304を有する円盤状部材300である。ハイブリッドロケット用インジェクタ41は、第1面300Aが燃焼室3側、第2面300Bがノズル9側となるようにハイブリッドロケット1に実装される。円盤状部材300の第1面300Aには、中空部304の外側に位置し、中空部304と同軸の仮想円に沿って環状に配置された複数の供給口302が配置されている。
【0089】
複数の供給口302は、前記仮想円とは半径の異なる第2の仮想円に沿って配列されている複数の供給口302が設けられていてもよい。第2面300Bには、複数の供給口302と接続し、中空部304と同軸となるように環状に配置された酸化剤供給路301が設けられている。ハイブリッドロケット用インジェクタ41は、ハイブリッドロケット1に実装するための保持具22とボルト等により接続されるための孔303を有していてもよい。
【0090】
円盤状部材300の直径は、実装されるハイブリッドロケットの円盤状部材300が設けられる位置における燃焼室3の内径とほぼ同一である。複数の供給口302の数は特に限定されないが、一例として12~144個が挙げられ、酸化剤6に旋回流を付与しやすいという観点から72~144個であることが好ましい。
【0091】
複数の供給口302の直径は、酸化剤流量を制御しているオリフィス直径の観点から0.28~1.1であることが好ましい。
【0092】
中空部304の直径は、ノズルスロート直径の観点から円盤状部材300の直径に対し14~50%であることが好ましく、20~50%であることがより好ましい。
【0093】
第3の実施形態で説明した通り、本実施形態のハイブリッドロケット用インジェクタ41をハイブリッドロケット1に実装することで、ハイブリッドロケット1の特性排気速度効率を向上することができる。
【実施例0094】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0095】
(特性排気速度効率)
特性排気速度効率ηC*(%)は、下記式(1)により算出される。
ηC*=Cex
*/Cth
*×100・・・(1)
【0096】
Cex
*は、実験によって決定される値であり、下記式(2)から算出される。式(2)中、PCは燃焼室圧力、Atはノズル断面積、moxは酸化剤質量流量、mfは燃料質量流量である。
Cex
*=Pc(燃焼圧力)×At(ノズル断面積)/(mox+mf)・・・(2)
【0097】
Cth
*は、NASA-CEAプログラム(熱化学平衡計算プログラム)によって算出される値であり、下記式(3)で表される。
【0098】
【0099】
式(3)中、γは比熱比、Roは普遍ガス定数、Tcは断熱火炎温度、Mcは燃焼生成ガスの平均分子量である。Cth
*の値は、ノズルなどの値に依存せず燃焼室内部での燃料と酸化剤との化学反応過程に依存する値である。ηC*は、式(1)に示す通りCex
*とCth
*の比であり、燃焼の完結性を示す。ηC*が低いと、燃料と酸化剤との化学反応が完全に行われず不完全燃焼の状態で排出されている可能性を示す。
【0100】
(実施例1)
<ハイブリッドロケットの燃焼試験>
図1に示すハイブリッドロケットを以下の方法により作製した。内径85mm、長さ235mmのステンレス製の機体内に、固体燃料として長さが45mmのテトラ-オールグリシジルアジドポリマーを充填した。ハイブリッドロケットには、
図2に示す旋回流付与機構と、
図3に示す保持具を実装した。旋回流付与機構の円盤状部材直径は75mm、供給口の数は8個、中空部の直径は45mmとした。
【0101】
アルミレスの固体推進薬を用いた点火装置を用い、点火装置の圧力を約1MPa、理論断熱火炎温度を2000℃に設定して固体燃料を着火した。固体燃料の自己発熱分解により燃料ガスが発生した後、酸化剤としてN2Oを燃焼室に導入することにより、燃焼室内の圧力が2MPaとなるよう制御した。
【0102】
(比較例1)
図1に示すハイブリッドロケットから旋回流付与機構及び保持具を除いた構成のハイブリッドロケットを作製した。旋回流付与機構及び保持具を除いた以外の構成は、実施例1のハイブリッドロケットと同一とし、燃焼条件も同一とした。
【0103】
実施例1及び比較例1における固体燃料燃焼時の燃焼室内の圧力、酸化剤供給源室内圧力及び推力と燃焼時間との関係を表すグラフをそれぞれ
図11及び12に示す。
図11及び12に示すように、燃焼室の圧力の急激な上昇が確認されず、酸化剤供給源の圧力低下と共に燃焼室の圧力が低下していることから正常燃焼をしたと判断される。表1に実施例1及び比較例1の実験結果を示す。なお、表1中、O/Fは燃焼領域におけるガス化した固体燃料に対する酸化剤の質量比、GG燃焼速度はガスジェネレータの燃焼速度を示す。
【0104】
【0105】
表1に示す通り、比較例1の燃焼効率ηC*が74.0%であったのに対し、実施例の特性排気速度効率ηC*が80.5%であった。つまり、酸化剤に旋回流を付与する旋回流付与機構をハイブリッドロケットに設けることでηC*が向上することがわかった。
【0106】
酸化剤に旋回流を付与したことでηC*が上昇した要因として燃焼室内部での燃焼ガスの滞留時間が増加し、酸化剤と燃料の混合が促進したことが考えられる。比較例1では酸化剤に旋回流を付与せず、燃焼室側壁に対し直角に酸化剤を供給したため酸化剤の燃焼室内滞留時間が短くなり燃焼完結性が低かったと考えられる。一方、実施例1では、酸化剤に旋回流を付与し、固体燃料方向へ供給した。従って、ノズルから排出されるまでの燃焼ガスの滞留時間が増加し特性排気速度効率が向上したと考えられる。
【0107】
なお、ガスジェネレータの燃焼速度は、予めストランドバーナー試験を実施することで燃焼速度を予測し実施例1及び比較例1を実施した。ストランドバーナー試験で得られた燃焼速度rbを、以下の式(4)で示す。
rb=6.57PC
0.61 ・・・(4)
【0108】
上記の式(4)におけるPC[MPa]は、燃焼室圧力である。式(4)における燃焼速度と、実施例1及び比較例1で得られた燃焼速度を表2に示す。
【0109】
【0110】
比較例1の燃焼速度は、ストランドバーナー試験で得られた燃焼速度とおおよそ一致した。一方で、実施例1の燃焼速度は、ストランドバーナー試験結果と比較して約2mm/s上昇した。この結果から、旋回流又は燃料方向への酸化剤の噴射が燃焼火炎を固体燃料側に漸近させ、固体燃料表面への熱の流入量が増加し固体燃料の燃焼速度が増加した可能性が考えられる。
1,1’…ハイブリッドロケット、2,2’…機体、3,3’…燃焼室、4…固体燃料、5…酸化剤供給源、6…酸化剤、7…酸化剤供給管、8…バルブ、9…ノズル、10,10’…酸化剤供給部、11…酸化剤供給源加圧装置、21…ハイブリッドロケット用インジェクタ(旋回流付与機構)、22…保持具、31…ハイブリッドロケット用インジェクタ(旋回流付与機構)、41…ハイブリッドロケット用インジェクタ(旋回流付与機構)。