(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096358
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ポリフェニレンサルファイドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212044
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】早野 知子
(72)【発明者】
【氏名】手代木 將吾
(72)【発明者】
【氏名】森下 健太
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA62
4F071AF20Y
4F071AF28
4F071AF53
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC16
(57)【要約】
【課題】少なくとも一方の表面の表面粗さが小さくかつ50nmを超える突起を有し、面内方向のヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が小さいポリフェニレンサルファイドフィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも一方の表面の中心面平均粗さSRaが150nm以下であり、かつ、フィルムの中心面から50nmを超える突起の個数SPc(50nm)が5個/0.2mm2以上である表面(当該表面をA面という)を有する層(当該層をA層という)を有してなり、フィルムの面上の任意点から長手方向と垂直な方向を0°として、0°から45°、90°、135°方向にヤング率を測定した際の、前記4方向におけるヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が0.5GPa以下であるポリフェニレンサルファイドフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面の中心面平均粗さSRaが150nm以下であり、かつ、フィルムの中心面から50nmを超える突起の個数SPc(50nm)が5個/0.2mm2以上である表面(当該表面をA面という)を有する層(当該層をA層という)を有してなり、フィルムの面上の任意点から長手方向と垂直な方向を0°として、0°から45°、90°、135°方向にヤング率を測定した際の、前記4方向におけるヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が0.5GPa以下であるポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項2】
前記A面において、十点平均粗さSRzが1300nm以下である請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項3】
前記A層は、実質的に粒子を含有しない請求項1または2に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項4】
前記A層は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を主たる構成成分とし、前記樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)を含み、熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が0.5μm以上1.2μm以下である請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(B)が下記化学式のいずれかを含有する請求項4に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【化1】
(ただし、式中のR
1~R
6はそれぞれH、OH基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素数1~13の脂肪族基、炭素数6~10の芳香族基のいずれかである。)
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂(B)がスルホニル基を有する、請求項4または5に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項7】
前記A層中の樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の含有量の合計を100質量部とした場合に、熱可塑性樹脂(B)の含有量が0.1質量部以上50質量部以下である、請求項4~6のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項8】
前記ポリフェニレンサルファイドフィルムの面上の任意点から長手方向と垂直な方向を0°として、0°、90°方向の250℃×10分の寸法変化率がいずれも5.0%以下である請求項1~7のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項9】
前記ポリフェニレンサルファイドフィルムの厚みが10μm以上500μm以下である請求項1~8のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方の表面の表面粗さが小さくかつ50nmを超える突起を有し、面内方向のヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が小さいポリフェニレンサルファイドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や情報機器の高機能化、高精度化に伴い、使用部材への要求品位が厳しくなっている。例えば高周波回路基板用基材フィルム、離型用フィルム、コンデンサ用基材フィルムなどは要求品位が厳しい。これらの部材は、ベースとなるフィルムに他の材料を貼り合わせたり、細かく裁断されたりと複雑な加工を必要とされることが多い。
【0003】
従って、フィルムを裁断加工する方向で最終製品の特性が変化してしまうことを防ぐために、ベースフィルムの面内方向物性バラツキは小さいことが要求される。
【0004】
また高周波回路基板用基材フィルムにおいては、電気信号は回路表面を流れることから基材フィルムの表面形状が伝送特性に影響する。すなわち基材フィルム表面の粗さが大きいまたは突起数が多いと伝送損失が大きくなるため、表面粗さの小さいフィルムが要求される。
【0005】
従来上記分野に使用されているフィルムやシートとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミド、フッ素系樹脂等のフィルムが使用されているが、中でもポリフェニレンサルファイドフィルムは耐熱性、耐薬品性、寸法安定性、機械特性が良好であるために、好適に使用することができ、使用範囲が拡大されている。中でも表面粗さの小さいポリフェニレンサルファイドフィルムを提供した一例として、実質的に粒子を含有しないポリフェニレンサルファイドフィルムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリフェニレンサルファイドフィルムの表面粗さは無機粒子を用いたり、熱可塑性樹脂を分散させることで調整するものであるが、表面粗さが小さいことと高めの突起を少量有することの両立を図ることは困難であった。
【0008】
本発明は、少なくとも一方の表面の表面粗さが小さくかつ50nmを超える突起を有し、面内方向のヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が小さいポリフェニレンサルファイドフィルムの提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。すなわち、
[1]少なくとも一方の表面の中心面平均粗さSRaが150nm以下であり、かつ、フィルムの中心面から50nmを超える突起の個数SPc(50nm)が5個/0.2mm2以上である表面(当該表面をA面という)を有する層(当該層をA層という)を有してなり、フィルムの面上の任意点から長手方向と垂直な方向を0°として、0°から45°、90°、135°方向にヤング率を測定した際の、前記4方向におけるヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が0.5GPa以下であるポリフェニレンサルファイドフィルム。
[2]前記A面において、十点平均粗さSRzが1300nm以下である[1]に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[3]前記A層は、実質的に粒子を含有しない[1]または[2]に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[4]前記A層は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を主たる構成成分とし、前記樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)を含み、熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が0.5μm以上1.2μm以下である[1]~[3]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[5]前記熱可塑性樹脂(B)が下記化学式のいずれかを含有する[4]に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【0010】
【0011】
(ただし、式中のR1~R6はそれぞれH、OH基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素数1~13の脂肪族基、炭素数6~10の芳香族基のいずれかである。)
[6]熱可塑性樹脂(B)がスルホニル基を有する、[4]または[5]に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[7]前記A層中の樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の含有量の合計を100質量部とした場合に、熱可塑性樹脂(B)の含有量が0.1質量部以上50質量部以下である、[4]~[6]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[8]前記ポリフェニレンサルファイドフィルムの面上の任意点から長手方向と垂直な方向を0°として、0°、90°方向の250℃×10分の寸法変化率がいずれも5.0%以下である[1]~[7]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[9]前記ポリフェニレンサルファイドフィルムの厚みが10μm以上500μm以下である[1]~[8]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少なくとも一方の表面の表面粗さが小さくかつ50nmを超える突起を有し、面内方向のヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が小さいポリフェニレンサルファイドフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるポリフェニレンサルファイドとは、繰り返し単位の85モル%以上(好ましくは90モル%以上)が下記構造式で示される構成単位からなる重合体をいう。かかる成分が85モル%未満ではポリマーの結晶性、軟化点等が低下し、耐熱性、寸法安定性、機械特性、離型性等が損なわれる場合がある。
【0014】
【0015】
上記ポリフェニレンサルファイドにおいて、繰り返し単位の15モル%未満、好ましくは10モル%未満であれば、共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が繰り返し単位として含まれていても差し支えない。該重合体の共重合の仕方はランダム、ブロック型を問わない。
【0016】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、少なくとも一方の表面の中心面平均粗さSRaが150nm以下である表面(当該表面をA面という)を有する層(当該層をA層という)を有することが好ましい。A面の中心面平均粗さSRaが130nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは100nm以下である。A面の中心面平均粗さSRaが150nmより大きいと、例えばフィルムを高周波回路基板用基材等に用いる場合、回路の伝送損失が悪化すなわち伝送特性を損ねてしまう場合がある。また接着剤や離型剤を塗布した際に塗布ムラや塗布抜けが発生し、製品の品位を損ねてしまう場合がある。塗布ムラや塗布抜けを最低限とするには、中心面平均粗さSRaが100nm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、前記A面のSPc(50nm)が5個/0.2mm2以上であることが好ましい。SPc(50nm)とはフィルムの中心面から50nmを超える突起の個数である。A面のSPc(50nm)が10個/0.2mm2以上であることがより好ましく、さらに好ましくは20個/0.2mm2以上である。A面のSPc(50nm)が5個/0.2mm2以上であると、静摩擦係数が低下するためにフィルムの搬送性が良好となり好ましい。A面のSPc(50nm)が5個/0.2mm2より小さいと、フィルムの滑りが悪化しブロッキング等の不具合を生じる場合がある。また本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、A面のフィルムの中心面から5nmを超える突起の個数SPc(5nm)が1000個/0.2mm2以下であることが好ましい。A面のSPc(5nm)が1000個/0.2mm2より大きいと、フィルムを高周波回路基板用基材等に用いる場合、回路の伝送損失が悪化すなわち伝送特性を損ねてしまう場合がある。A面の中心面平均粗さSRaを一定値以下としつつSPcを一定値以上とするための方法は特に限られるものではないが、例えば、樹脂を溶融押出しフィルムを製膜する際、押出機スクリュー回転数を制御し熱可塑性樹脂(B)の分散径を調整することによって達成できる。
【0018】
なお、SRa、SPc(50nm)、SPc(5nm)は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0019】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、フィルム面上の任意点から長手方向と垂直な方向を0°として、0°から45°、90°、135°方向にヤング率を測定した際の、前記4方向におけるヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が0.5GPa以下であることが好ましい。前記4方向におけるヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が0.5GPa以下であることで、フィルムを裁断加工する方向によって特性がばらついてしまうことなく、材料として好適に用いることができる。なお、前記4方向におけるヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0020】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、前記A面の十点平均粗さSRzが1300nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1000nm以下である。前記A面の十点平均粗さSRzが1300nmより大きいと、フィルムを高周波回路基板用基材等に用いる場合、回路の伝送損失が悪化すなわち伝送特性を損ねてしまう場合がある。また接着剤や離型剤を塗布した際に塗布ムラや塗布抜けが発生し、製品の品位を損ねてしまう場合がある。塗布ムラや塗布抜けを最低限とするには、十点平均粗さSRzが800nm以下であることが好ましい。
【0021】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、前記A層が実質的に粒子を含有しないことが好ましい。前記A層が粒子を含有すると、例えば粒子が無機粒子である場合に粒子同士が凝集してしまい、粗大突起や欠点を形成しフィルムの品質を損ねる場合がある。
【0022】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、前記A層がポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を主たる構成成分とし、前記樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)を含み、熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が0.5μm以上1.2μm以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が0.5μmより小さいと、熱可塑性樹脂(B)が細かく分散していることとなり、本願のSPcを達成することが難しい場合がある。熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が1.2μmより大きいと、熱可塑性樹脂(B)の分散が不十分であることとなり、本願のSRaを達成することが難しい場合がある。なお、前記平均分散径は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0023】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、前記熱可塑性樹脂(B)が下記化学式のいずれかを含有することが好ましい。前記熱可塑性樹脂(B)が下記化学式のいずれかを含有しない場合、ポリフェニレンサルファイドと熱可塑性樹脂(B)との界面で剥離が生じて、フィルムの強度が低下してしまう場合がある。
【0024】
【0025】
(ただし、式中のR1~R6はそれぞれH、OH基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素数1~13の脂肪族基、炭素数6~10の芳香族基のいずれかである。)
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、熱可塑性樹脂(B)がスルホニル基を有することが好ましい。熱可塑性樹脂(B)がスルホニル基を有すると、ポリフェニレンサルファイドフィルムの製膜性が向上し、加熱後の寸法変化率を小さくすることが可能となる。スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリスルホンが挙げられる。中でも、耐熱性および耐薬品性の観点から、ポリフェニルスルホンが好ましく用いられる。ポリフェニルスルホンは誘電率が低い樹脂であり、本願で発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを回路基板用基材へ用いる場合、伝送特性を悪化させない点でも好ましい。
【0026】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、前記A層中の樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の含有量の合計を100質量部とした場合に、熱可塑性樹脂(B)の含有量が0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上30質量部以下である。熱可塑性樹脂(B)の含有量が0.1質量部未満であると、ポリフェニレンサルファイドフィルムの製膜性が悪化するだけでなく、本願の表面粗さを達成することが難しい場合がある。熱可塑性樹脂(B)の含有量が50質量部より大きいと、本願の表面粗さを達成することが難しい場合がある。
【0027】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、フィルム面上の任意点から長手方向と垂直な方向を0°として、0°、90°方向の250℃×10分の寸法変化率がいずれも5.0%以下であることが好ましい。250℃×10分の寸法変化率が5.0%より大きいと、はんだ付け等の高温下で行われる加工においてフィルムの収縮が大きく、基材として好適に用いることができない場合がある。なお、前記寸法変化率は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0028】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、厚みが10μm以上500μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは250μm以下である。フィルム厚みを前述の下限以上とすることで、フィルムのコシが良好となり、基材として好適に用いることができる。フィルム厚みを前述の上限以下とすることで、フィルムの加工時にバリが発生するのを抑制し、取扱が容易となる。
【0029】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムには、本発明のフィルムの表面粗さ、SPc、ヤング率に悪影響を与えない範囲であれば、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を添加してもよい。
【0030】
本発明の好ましい態様として、ポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるポリフェニレンサルファイドフィルムロールを挙げることができる。本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、フィルム幅が500mm以上であることが好ましい。フィルムを製造した直後に巻き取ってなる中間製品ロールであってもよく、中間製品ロールをスリットしてなる製品ロールとしてもよい。
【0031】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、単膜であっても、複合フィルムであってもよい。複合フィルムとしては、2層以上の積層フィルムが挙げられる。例えば、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを、表層(A層)に有する、A層/B層からなる2層積層フィルムやA層/B層/A層からなる3層積層フィルムであってもよい。離型用途や高周波回路基板用途に用いる場合、平面性や耐電圧性の観点からは、すべての層に本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを適用することが好ましい。
【0032】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムの表面には、本発明のフィルムの表面粗さ、SPc、ヤング率に悪影響を与えない範囲であれば、帯電防止剤等の樹脂や化合物が塗布やラミネートされていたり、適度な表面処理、たとえばコロナ放電処理やプラズマ処理がされていてもよい。
【0033】
(フィルムの製造方法)
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムの製造方法について、例えば以下に示した工程によって製造することが好ましい。
【0034】
まず、本発明のポリフェニレンサルファイドの製造方法について述べる。ポリフェニレンサルファイドは、例えば、アルカリ金属硫化物(硫化アルカリ)とジハロベンゼンとを重合させることによって製造することができる。
【0035】
アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等が挙げられ、その中でも硫化ナトリウムが好ましい。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。また、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物、硫化物、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水和物と硫化水素とから調製されるアルカリ金属硫化物等を用いることもできる。アルカリ金属硫化物は、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0036】
ジハロベンゼンとしては、p-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼンなどのp-ジハロベンゼン、m-ジクロロベンゼンなどのm-ジハロベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、3,5-ジクロロ安息香酸等のハロゲン原子以外の置換基を含むジハロベンゼン等を挙げることができる。これらの中でも、p-ジハロベンゼンが好ましく、p-ジクロロベンゼンが特に好ましい。ジハロベンゼンは、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0037】
ジハロベンゼンの使用量(仕込み量)は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり、好ましくは0.9~2.0モル、より好ましくは1.0~1.3モルの範囲であることが、高分子量のポリフェニレンサルファイドを得るためには望ましい。この使用割合を前述の範囲とすることで、加工に適した高粘度(高重合度)のポリフェニレンサルファイドを得ることが容易となる。
【0038】
本発明においては、生成ポリフェニレンサルファイドの末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、ジハロベンゼンと共に、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を併用することができる。また、分岐または架橋重合体を形成させるために、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼンなどのトリハロ以上のポリハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)、活性水素含有ハロゲン芳香族化合物、ハロゲン芳香族ニトロ化合物等を併用することも可能である。
【0039】
本発明においては、重合度を調整するために、重合助剤を添加して反応させることが好ましい。重合助剤としては、一般にポリフェニレンサルファイドの重合助剤として用いられる公知の重合助剤を用いることができ、例えば、アルカリ金属水酸化物(苛性アルカリ)、カルボン酸アルカリ金属塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物、カルボン酸アルカリ金属塩が好適に用いられる。
【0040】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。カルボン酸のアルカリ金属塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウムなどが挙げられ、その中でも安価で入手し易いことから、酢酸ナトリウムが好適に用いられる。カルボン酸のアルカリ金属塩は、無水物、水和物または水溶液として用いることができる。また、カルボン酸のアルカリ金属塩は、有機アミド溶媒中で、有機酸と、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩及び重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。
【0041】
重合助剤は、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が組み合わされて用いられてもよい。重合助剤の使用量は、重合助剤そのものの種類、ならびにアルカリ金属硫化物およびジハロベンゼンの種類などに応じて広い範囲から適宜選択することができるけれども、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、0.01モル~5モルの範囲が好ましく、0.1~2モルの範囲がより好ましい。
【0042】
溶媒としては、有機アミド溶媒等の極性溶媒を使用することが好ましい。有機アミド溶媒の中でも、反応の安定性が高いことから、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアブロチック有機アミド溶媒などのアミド系高沸点極性溶媒が好適に用いられる。これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記する場合もある)が特に好適に用いられる。溶媒の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.2~10モルの範囲が好ましく、2~5モルの範囲がより好ましい。
【0043】
(1)本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムに用いられるポリフェニレンサルファイドは、アルカリ金属硫化物およびジハロベンゼンの適量、ならびに必要に応じてジハロベンゼン以外のハロゲン化化合物および重合助剤の適量を、アミド系高沸点溶媒などの極性溶媒中に加え、高温高圧下に反応させることによって製造することができる。重合系内の圧力は、使用する助剤の種類や量、および所望する重合度等に応じて適宜選択される。また重合系内の温度および重合時間も、使用する助剤の種類や量、および所望する重合度等に応じて適宜選択されるけれども、好ましくは温度200~300℃において20分~50時間、より好ましくは温度230~280℃において1~10時間である。以上のようにして粉状または粒状のポリフェニレンサルファイドを得る。次いで、得られた粉状または粒状のポリフェニレンサルファイドを、水または/および溶媒で洗浄して、副製塩、重合助剤、未反応モノマ等を分離する。
【0044】
(2)本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムに前述のように、ポリフェニレンサルファイド以外の熱可塑性樹脂(B)を添加する場合、まず、熱可塑性樹脂(B)を、上記(1)で得られた粉状または粒状のポリフェニレンサルファイドに混ぜ、ヘンシェル等で均一混合する。また、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を添加する場合にも、同様にしてポリフェニレンサルファイドに混合する。
【0045】
次いで、得られた混合物を押出機(好ましくは1段以上のベント孔を有する押出機)に供給し、290~360℃の温度で溶融混錬して適当な口金から押し出し、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を得る。またガット状に溶融成形して、長さ2~10mm程度にカットし、ペレット状のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物としてもよい。得られたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、真空下の加熱式ドライヤで、温度100~180℃、時間1~5時間程度の条件で乾燥される。
【0046】
なお、熱可塑性樹脂(B)を添加しない場合には、(1)で得られたポリフェニレンサルファイドに必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤などの添加剤を混合し、熱可塑性樹脂(B)を含む混合物の場合と同様にして押出し成形または溶融成形し、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物として使用することができる。
【0047】
このようにして製造されるポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて使用されてもよい。例えば、熱可塑性樹脂(B)が添加されたポリフェニレンサルファイド樹脂ペレット(以後、マスターペレットとも称する)と、熱可塑性樹脂(B)が添加されていないポリフェニレンサルファイド樹脂ペレット(以後、ベースペレットとも称する)とを混合して用いることができる。
【0048】
(3)次に、(2)で得られたポリフェニレンサルファイド樹脂ペレットを用いて、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを製造する。(2)で得られたポリフェニレン樹脂ペレットを減圧下(好ましくは真空度が0~50mmHg)で120~230℃(好ましくは160℃から200℃)の温度に加熱しながらミキサーで撹拌し、3時間以上(好ましくは5~10時間)乾燥する。ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の乾燥は、前述のようにしてポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を乾燥した後、徐冷して室温まで戻し、再度乾燥させる等、多段階に分けて行ってもよい。ここで、乾燥温度が230℃を越えると、乾燥原料が固まりフィルムの製膜に支障を来す懸念があり、また該温度が120℃未満では、ポリフェニレンサルファイド原料中の不純物、特に250℃程度にまで加熱して揮発するような高沸点化合物が残留し、フィルムの欠陥を引き起こす場合がある。減圧が不十分であると、ポリフェニレンサルファイド樹脂同士が酸素で架橋され、変性ポリマーが生成されやすくなる。
【0049】
次いで、乾燥されたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を用いて本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを作成するが、フィルムは単層でも複合層でも良い。複合フィルムを作製する場合、その積層方法としては、コーティング、ラミネートまたは共押出による方法等を用いることができる。その中でも、共押出による積層が、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを構成する各層の厚みコントロールの上で好ましい。
【0050】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、以下のようにして製膜される。まず、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を溶融押出装置に供給し、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の融点以上(好ましくは290~360℃)の温度に加熱して溶融する。次いで、この溶融物をスリット状の口金出口から押出し、キャスティングロールと呼ばれる回転する金属ドラム上で冷却固化させる(キャストする)等の方法で急冷して未延伸フィルムを作製する。このとき、ポリマー流路にギアポンプ、スタティックミキサー、濾過装置を設置することが好ましい。
【0051】
得られた未延伸フィルムを、ロール群とテンターとを用いてフィルム長手方向(縦方向)およびフィルム幅方向(横方向)の延伸を順次行う逐次二軸延伸法、フィルム長手方向およびフィルム幅方向の延伸を同時に行う同時二軸延伸法等が挙げられ、その中でも逐次二軸延伸法が好ましい。
【0052】
逐次二軸延伸法を用いる場合の延伸条件は、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物に含まれるポリフェニレンサルファイドの種類、ならびにその他の樹脂や添加物の有無および種類などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択することができるけれども、温度60~150℃、好ましくは70~130℃、より好ましくは80~110℃で、長手方向(縦方向)および幅方向(横方向)をそれぞれ2~7倍、好ましくは2~5倍、より好ましくは3~5倍の倍率で延伸することが好ましい。
【0053】
得られた延伸フィルムには、さらに熱処理を施すことが好ましい。このときの熱処理条件は、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物に含まれるポリフェニレンサルファイドの種類、ならびにその他の樹脂や添加剤の有無および種類などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択することができるけれども、温度180~(ポリフェニレンサルファイド組成物の融点)℃、好ましくは200~(ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の融点-5)℃の範囲で、定長または15%以下の制限収縮下に1~60秒間行うことが、耐熱性、機械特性、熱的寸法安定性の点で好ましい。さらに該フィルムの熱寸法安定性を向上させるために、一方向もしくは二方向にリラックスしてもよい。特に、フィルムの幅方向に5.5%以上リラックスさせると、寸法変化率を小さくしやすくなるため好ましい。フィルムの幅方向に6.5%以上15%以下リラックスさせることがより好ましい
こうして得られたポリフェニレンサルファイドフィルムは、工業用様々な種類に用いることができ、ポリフェニレンサルファイド樹脂の特性である電絶性を兼ね備えるため、コンデンサ用途、また離型用途に特に好適に用いることができる。
【実施例0054】
(物性の測定法)
(1)中心面平均粗さSRa、十点平均粗さSRz
フィルムの表面に対し、3次元表面粗さ計ET4000AK(小坂研究所社製)を用い、次の条件で触針法により測定を行った。なお、中心面平均粗さSRa(単位:nm)は、粗さ曲面の高さと粗さ曲面の中心面の高さの差をとり、その絶対値の平均値を表したものである。十点平均粗さSRz(単位:nm)は、粗さ曲面の高さと粗さ曲面の中心面の高さの差をとり、そのうち高い方から5番目までの山頂の高さと、深い方から5番目までの谷底の深さについて、合計10点の絶対値の平均値を表したものである。
針圧 100μN
測定長 500μm
縦倍率 20000倍
CUT OFF 250μm
測定速度 100μm/s
測定間隔 5μm
記録本数 80本。
【0055】
(2)SPc(50nm)、SPc(5nm)
フィルムの表面に対し、3次元表面粗さ計ET4000AK(小坂研究所社製)を用い、次の条件で触針法により測定を行った。なお、SPc(50nm)は、フィルム表面0.2mm2あたりの50nmを超える突起高さを持つ表面突起個数をカウントしたものであり、SPc(5nm)は、フィルム表面0.2mm2あたりの5nmを超える突起高さを持つ表面突起個数をカウントしたものである。
針圧 100μN
測定長 500μm
縦倍率 20000倍
CUT OFF 250μm
測定速度 100μm/s
測定間隔 5μm
記録本数 80本。
【0056】
(3)ヤング率
JIS-C2151(2019)に基づいて、フィルムを10mm幅の短冊型に切り出し、標線距離を100mmとし、引張試験機を用いて試験速度200mm/分で引っ張り、以下の式でヤング率を算出した。
Y1=伸び率0.8%時の張力-伸び率0.7%時の張力
Y2=伸び率0.9%時の張力-伸び率0.8%時の張力
Y3=伸び率1.0%時の張力-伸び率0.9%時の張力
ヤング率=(Y1+Y2+Y3)/3/幅/厚み。
【0057】
(4)平均分散径
ミクロトームを用い、フィルムを長手方向と垂直な方向に断面切削することで試料を作成した。切断面を電界放射走査型電子顕微鏡JSM-6700F(日本電子(株)製)を用いて観察し、5000倍で画像を取得し熱可塑性樹脂(B)の分散形状を確認した。任意の20個の熱可塑性樹脂(B)分散相を選択し、各分散相の外接円をとりその直径の平均値を平均分散径とした。
【0058】
(5)250℃×10分における寸法変化率(%)
JIS-C2151(2019)に基づいて、フィルムを長手方向、長手方向と垂直な方向が測定方向となるように10mm幅の短冊型にそれぞれ切り出し、初期長200mmの目印を記載した後、フィルムサンプルを250℃のオーブン内で10分加熱処理し、加熱後のフィルム長から寸法変化率を以下のように算出した。
【0059】
初期長200mm:A、加熱後フィルム長:B
寸法変化率(%)=(A-B)/A×100。
【0060】
(6)厚み(μm)
ミクロトームを用いて断面切削したフィルムのスライス片を透過光顕微鏡で観察し、厚み(μm)を測定した。
【0061】
(7)フィルムの静摩擦係数
フィルムの表裏を重ね、スベリ試験機ST-200(テクノニーズ社製)を用い、次の条件で静摩擦係数の測定を行った。
荷重 200g
測定長さ 5mm
測定速度 150mm/min
測定温度 23±3℃
測定湿度 65±10%RH
静摩擦係数測定値から以下のとおり評価した。
〇:静摩擦係数が1.3以下
×:静摩擦係数が1.3を超える。
【0062】
(8)塗材の塗布抜け評価
フィルムの表面に対し、接着層を付与するための塗材を塗布した後、以下のように塗布抜けを評価した。
◎:塗布抜けが1箇所/m2以下の場合
〇:塗布抜けが5箇所/m2以下かつ1箇所/m2より多い場合
△:塗布抜けが10箇所/m2以下かつ5箇所/m2より多い場合
×:塗布抜けが10箇所/m2より多い場合
<塗材の組成>
カルナバワックス (カルナバ1号、東洋アドレ社製):30質量部
パラフィンワックス(HNP-10、日本精蝋社製) :35質量部
エチレン酢酸ビニル共重合体(MB-11、住友化学社製):10質量部
<塗布方法>
ホットメルトコーターを用いて130℃にて、乾燥後の塗布層厚みが1μmとなるようにフィルム片面に対し1m2ぶん塗工した。
【0063】
(9)カール評価
フィルムの表面に対しアルバック機工株式会社製真空蒸着装置(VPC-260F)を用い、膜厚50nm狙いでアルミ蒸着を施した後、フィルムを外径100mm、内径90mmの「◎」型に打ち抜き、アルミ蒸着面を上にして置いた際、フィルムの面上の任意点から長手方向と垂直な方向を0°として、0°から45°、90°、135°方向での反りの最大高さと最小高さの差(絶対値)を測定し、以下のようにカールを評価した。
〇:反りの最大高さと最小高さの差(絶対値)が20mm以下の場合
×:反りの最大高さと最小高さの差(絶対値)が20mmより大きい場合。
【0064】
[フィルムの製造]
(参考例1)ポリフェニレンサルファイド粉末の製造方法。
【0065】
撹拌機付きの70Lのオートクレーブに、48質量%水硫化ナトリウム水溶液8.181kg(70.00モル)、純度96%の水酸化ナトリウム2.943kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.5モル)、無水酢酸ナトリウム2.239kg(27.30モル)、及びイオン交換水4.900kg(272.2モル)を仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.12kgおよびNMP0.14kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なおこの反応における撹拌速度は毎分240回転(240rpm)とした。
【0066】
仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて72.0モルであった。また、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.020モルの硫化水素が反応系外に飛散した。
【0067】
次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)10.29kg(69.97モル)、NMP9.090kg(91.70モル)を反応系に加えた。反応容器を窒素ガス下に密封した後、400rpmで撹拌しながら、200℃から227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、次いで227℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、270℃で140分保持した。その後、イオン交換水2.346kg(130.3モル)を15分かけて系内に添加しながら、250℃まで徐々に反応系を冷却した。次いで250℃から200℃まで1.0℃/分の速度で徐々に反応系を冷却し、その後室温近傍まで急冷した。
【0068】
得られたポリマーを乾燥PPS1kg当たり、15kgのN-メチル-2-ピロリドン溶剤(浴比15)で90℃、1.5時間洗浄し、濾過を行った。得られたケークをイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間で2回洗浄/濾過を行った後、酢酸カルシウムを1質量%含有するイオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間で洗浄/濾過し、再度イオン交換水(浴比15)、70℃、1.5時間で2回洗浄/濾過を行った。得られたポリマーを温度150℃にて、真空下で4日間乾燥して、ポリフェニレンスルフィド粉末を得た。
【0069】
(参考例2)熱可塑性樹脂(B)マスターペレットの作成。
【0070】
参考例1で作成したポリフェニレンサルファイド粉末ポリマー80質量部と、熱可塑性樹脂(B)としてポリフェニルスルホン(PPSU:ソルベイスペシャルティポリマーズ(株)製、「レーデルR-5000LC」)20質量部を、同方向回転タイプの二軸のスクリューを有するベント押出機に供給し、温度320℃で溶融した。この溶融物をガット状に押し出し、約3mm長に裁断し、PPSU含有量20質量%のマスターペレットを得た。以下、PPS樹脂Bという。
【0071】
(参考例3)ベースペレットの作成。
【0072】
上記ポリフェニレンサルファイド粉末ポリマーのみを参考例2と同様にして溶融押出し、ポリフェニレンサルファイド樹脂のベースペレットを得た。以下、PPS樹脂Aという。
【0073】
(実施例1)
上述のようにして得られたPPS樹脂AおよびPPS樹脂Bを樹脂合計量に対してPPSUの含有量が5質量%となるよう混合した後、回転式真空乾燥機を用いて、3mmHgの減圧下にて温度180℃で4時間乾燥させた。
【0074】
乾燥させたペレットを、L/D=29、Φ90mmの単軸押出機に供給し、310℃で90rpmのスクリュー回転数で溶融させ、Tダイ口金よりシート状にして押し出した。次いで、このシートを、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。
【0075】
逐次二軸延伸法を用い、得られた未延伸フィルムを温度100℃で長手方向に3.2倍延伸し、さらに幅方向に延伸するためにテンターを通して、温度100℃で幅方向に3.6倍延伸した。さらに幅方向に延伸するために用いたテンターに後続する熱処理室にて、温度280℃で熱処理し、6.8%の制限収縮下で幅方向にリラックス処理しフィルムをコアに巻き取った後、フィルム幅方向にスリットで分割することで、幅方向680mmのポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるフィルムロールを得た。評価結果を表に示す。なお、フィルム表面の評価において、キャスティングドラムと触れていない側の表面における評価結果を表に記載している。
【0076】
(実施例2)
熱固定温度を表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様の方法でポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるロールを得た。
【0077】
(実施例3)
フィルムの厚み、押出機スクリュー回転数、縦延伸倍率、横延伸倍率を表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様の方法でポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるロールを得た。
【0078】
(実施例4)
フィルムの厚み、押出機スクリュー回転数、縦延伸倍率、横延伸倍率、熱固定温度を表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様の方法でポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるロールを得た。
【0079】
(実施例5)
押出機スクリュー回転数を表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様の方法でポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるロールを得た。
【0080】
(実施例6)
フィルムの厚み、押出機スクリュー回転数、縦延伸倍率、横延伸倍率を表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様の方法でポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるロールを得た。
【0081】
(実施例7)
実施例1で得られたフィルムロールを、210℃に昇温されたオーブン内にて20Nの張力でフィルムを搬送しながら1分間アニール処理を施した後、巻き取ってフィルムロールを得た。
【0082】
(実施例8)
実施例3で得られたフィルムロールを、210℃に昇温されたオーブン内にて20Nの張力でフィルムを搬送しながら1分間アニール処理を施した後、巻き取ってフィルムロールを得た。
【0083】
(比較例1)
押出機スクリュー回転数、縦延伸倍率、リラックス率を表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様の方法でポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるロールを得た。
【0084】
(比較例2)
熱可塑性樹脂(B)としてポリアミド(PA)を使用し、フィルム厚み、押出機スクリュー回転数、縦延伸倍率、横延伸倍率、熱固定温度、リラックス率を表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様の方法でポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるロールを得た。
【0085】
(比較例3)
熱可塑性樹脂(B)としてポリフェニレンエーテル(PPE)を使用し、フィルム厚み、押出機スクリュー回転数、縦延伸倍率、横延伸倍率、熱固定温度、リラックス率を表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様の方法でポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるロールを得た。
【0086】
(観察まとめ)
実施例1~8では、PPSUを含有し、適正な押出機スクリュー回転数で溶融し、適正な縦延伸倍率でフィルムを製膜することで、表面粗さが小さいために塗材の塗布抜けが少なくかつ50nmを超える突起を有するために摩擦係数が小さくフィルム搬送性が良好であり、面内方向のヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が小さいために打ち抜き加工後の面内方向での反りのばらつきが抑制された高品位なポリフェニレンサルファイドフィルムロールが得られた。
【0087】
比較例1では、押出機スクリュー回転数が少ないために熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が大きく、表面粗さが大きくなり、また縦延伸倍率が小さいために面内方向のヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が大きいポリフェニレンサルファイドフィルムロールが得られた。本比較例で得られたポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、塗材の塗布抜けが多くかつ打ち抜き加工後の面内方向での反りのばらつきが大きいため、高周波回路基板用途等の要求品位の高い用途に好適に用いることができない場合がある。
【0088】
比較例2では、熱可塑性樹脂(B)としてPAを用い、押出機スクリュー回転数が多いために熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が小さく、50nmを超える突起が無いポリフェニレンサルファイドフィルムロールが得られた。本比較例で得られたポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、摩擦係数が大きいために取り扱いが難しく、高周波回路基板用途等の要求品位の高い用途に好適に用いることができない場合がある。
【0089】
比較例3では、熱可塑性樹脂(B)としてPPEを用い、押出機スクリュー回転数が少ないために熱可塑性樹脂(B)の平均分散径が小さく、表面粗さが大きくなり、また縦延伸倍率が小さいために面内方向のヤング率の最大値と最小値の差(絶対値)が大きいポリフェニレンサルファイドフィルムロールが得られた。本比較例で得られたポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、塗材の塗布抜けが多くかつ打ち抜き加工後の面内方向での反りのばらつきが大きいため、高周波回路基板用途等の要求品位の高い用途に好適に用いることができない場合がある。
【0090】