(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096362
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】リン酸亜鉛化成処理用表面調整剤
(51)【国際特許分類】
C23C 22/78 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
C23C22/78
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212058
(22)【出願日】2021-12-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川越 亮助
【テーマコード(参考)】
4K026
【Fターム(参考)】
4K026AA02
4K026AA06
4K026AA07
4K026AA08
4K026AA09
4K026AA12
4K026AA13
4K026AA22
4K026BA04
4K026BB08
4K026BB10
4K026CA16
4K026CA18
4K026CA23
4K026DA03
4K026EA09
4K026EA10
4K026EA15
(57)【要約】
【課題】リン酸亜鉛化成処理工程が短時間であってもリン酸亜鉛の結晶間が密である表面状態の化成皮膜を形成できる表面調整剤を提供することである。
【解決手段】亜鉛を含むリン酸塩(A)と、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ユニット(b1)を含む共重合体(b2)であって、前記共重合体(b2)中の(b1)の割合が7.5質量%以上40.0質量%以下である共重合体(b2)のアルカリ塩(B)と、水性媒体(C)とを含む、リン酸亜鉛化成処理用表面調整剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛を含むリン酸塩(A)と、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ユニット(b1)を含む共重合体(b2)であって、前記共重合体(b2)中の(b1)の割合が7.5質量%以上40.0質量%以下である共重合体(b2)のアルカリ塩(B)と、水性媒体(C)とを含む、リン酸亜鉛化成処理用表面調整剤。
【請求項2】
ヘクトライトを実質的に含有しない、請求項1に記載のリン酸亜鉛化成処理用表面調整剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリン酸亜鉛化成処理用表面調整剤を金属材料に接触させる表面調整工程と、
前記表面調整工程後、リン酸亜鉛化成処理剤を金属材料に接触させる化成処理工程と、を含む、化成皮膜を有する金属材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法により得られた化成皮膜を有する金属材料の表面又は表面上に塗膜を形成する塗装工程を含む、塗膜を有する金属材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の表面または表面上にリン酸亜鉛化成皮膜を形成する工程の前処理として行われる、表面調整工程で用いる表面調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料には、防錆又は装飾等の機能付与を目的として塗装が施される。金属材料への塗装は、例えば、脱脂、表面調整、リン酸塩化成処理、及び電着塗装などの工程を経ることにより行われる。表面調整工程には、例えば、リン酸亜鉛粒子を含む表面調整剤が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の表面調整剤を用いても、その後のリン酸亜鉛化成処理が短い場合にはリン酸亜鉛の結晶間が密である表面状態の化成皮膜を形成することができないという問題がある。
【0005】
本発明は、リン酸亜鉛化成処理工程が短時間であってもリン酸亜鉛の結晶間が密である表面状態の化成皮膜を形成できる表面調整剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意検討した結果、リン酸亜鉛化成処理を行う前に、亜鉛を含むリン酸塩(A)と、特定の共重合体のアルカリ塩(B)と、水性媒体(C)と、を含む表面調整剤を用いて金属材料の表面を処理することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
[1]亜鉛を含むリン酸塩(A)と、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ユニット(b1)を含む共重合体(b2)であって、前記共重合体(b2)中の(b1)の割合が7.5質量%以上40.0質量%以下である共重合体(b2)のアルカリ塩(B)と、水性媒体(C)とを含む、リン酸亜鉛化成処理用表面調整剤。
[2]ヘクトライトを実質的に含有しない、上記[1]に記載のリン酸亜鉛化成処理用表面調整剤。
[3]上記[1]又は[2]に記載のリン酸亜鉛化成処理用表面調整剤を金属材料に接触させる表面調整工程と、
前記表面調整工程後、リン酸亜鉛化成処理剤を金属材料に接触させる化成処理工程と、を含む、化成皮膜を有する金属材料の製造方法。
[4]上記[3]に記載の製造方法により得られた化成皮膜を有する金属材料の表面又は表面上に塗膜を形成する塗装工程を含む、塗膜を有する金属材料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リン酸亜鉛化成処理工程が短時間であってもリン酸亜鉛の結晶間が密である表面状態の化成皮膜を形成できる表面調整剤を提供することができる。また、該表面調整剤は、固形分が高濃度であっても安定性に優れるという効果も奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係るリン酸亜鉛化成処理用表面調整剤は、亜鉛を含むリン酸塩(A)と、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ユニット(b1)を含む共重合体であって、共重合体(b2)中の(b1)の割合が7.5質量%以上40.0質量%以下である共重合体(b2)のアルカリ塩(B)と、水性媒体(C)と、を含む。このようなリン酸亜鉛化成処理用表面調整剤を用いることにより、リン酸亜鉛化成処理工程が短時間であってもリン酸亜鉛の結晶が密となるリン酸亜鉛化成皮膜を製造することができる。
【0010】
<リン酸塩(A)>
亜鉛を含むリン酸塩(A)は、亜鉛を含むリン酸塩の結晶を析出することができる物質である。亜鉛を含むリン酸塩は、当該リン酸塩自体であってもよいし、リン酸を含む化合物と亜鉛を含む化合物との反応によって生成したものであってもよい。
【0011】
前記リン酸塩(A)には、亜鉛以外に、鉄、ニッケル、マンガン等の金属がさらに含まれていてもよい。具体的な例としては、亜鉛及び鉄を含むリン酸塩、亜鉛及びニッケルを含むリン酸塩、亜鉛、ニッケル及びマンガンを含むリン酸塩などが挙げられる。また、リン酸塩(A)として、例えば、特開2004-68149号公報や特開2005-264338号公報に記載されているリン酸亜鉛(粒子)を用いてもよい。
【0012】
表面調整剤中に含まれる亜鉛を含むリン酸塩(A)の量は、特に制限されるものではないが、リン酸塩(A)として、通常、0.03g/1000g以上、好ましくは0.15g/1000g以上であり、また、通常は6.0g/1000g以下である。上記範囲とすることで、良好な表面調整効果を得ることができる。
【0013】
<共重合体(b2)のアルカリ塩(B)(以下、化合物(B)ともいう。)>
共重合体(b2)は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ユニット(b1)を含む。そして、共重合体(b2)中の、(b1)の割合が7.5質量%以上40.0質量%以下である。好ましくは9.0質量%以上40.0質量%以下である。
【0014】
ユニット(b1)と共に、共重合体(b2)を形成するユニットとしては特に限定されず、例えば、アクリル酸ユニット、メタクリル酸ユニット、マレイン酸ユニット、フマル酸ユニット、アジピン酸ユニット、スチレンユニット、などが挙げられ、化合物(B)はこれらのうち1種又は2種以上のユニットを含む。
【0015】
化合物(B)の製造方法は特に限定されないが、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(b1)との共重合体(b2)のナトリウム化合物の製造方法を例示すると、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(b1)とを共重合させ、該共重合体を、ナトリウムを含むアルカリ成分で中和することで、得られる。
【0016】
アルカリ成分は、ナトリウム、カリウム、等のアルカリ金属の水酸化物又は炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、等の有機アミン、などが挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアである。これらを用いて、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(b1)を共重合する前に中和してもよいし、共重合体(b2)を製造した後、中和してもよい。
【0017】
共重合体(b2)における(b1)の割合が7.5質量%未満の場合には、高濃度の表
面調整剤となった際に、表面調整剤に含まれるリン酸塩(A)の分散性が悪く、静置期間が長くなるとリン酸塩(A)の沈降が生じ、経時安定性に劣る。また、(b1)の質量割合が40.0質量%を超える場合においても、高濃度の表面調整剤となった際に、表面調整剤に含まれるリン酸塩(A)の分散性は悪く、静置期間が長くなると表面調整剤に含まれるリン酸塩(A)の沈降が生じる。更に、短時間のリン酸亜鉛化成処理でリン酸亜鉛化成皮膜を形成することが困難となる。また、(b1)の質量割合が40.0質量%を超える場合には、リン酸亜鉛の結晶の形状が柱状の結晶となり、密な表面を形成できない場合がある。なお、高濃度とは、表面調整剤中の化合物(B)の濃度が5g/1000g以上であることをいい、10g/1000g以上であってよい。
【0018】
共重合体(b2)の数平均分子量は、100以上が好ましく、1000以上がより好ましく、30000以下が好ましく、20000以下がより好ましい。数平均分子量が上記範囲内であることで、表面調整剤に含まれる成分(A)の分散性が良好となり、高濃度での経時安定性がよくなる。
【0019】
表面調整剤中に含まれる化合物(B)の量は、特に制限されるものではないが、化合物(B)として、通常(使用時)0.001g/1000g以上0.2g/1000g以下であるが、高濃度であっても経時安定性に優れることから、保管時において、5g/1000g以上であってもよく、10g/1000g以上であってもよく、50g/1000g下であってもよい。
【0020】
<水性媒体(C)>
水性媒体(C)としては、水又は水と水混和性有機溶媒との混合物(水性媒体の体積を基準として50体積%以上の水を含有するもの)であれば特に限定されるものではない。水混和性有機溶媒としては、水と混和するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N’-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル等のエーテル系溶媒;1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。これらの水混和性有機溶媒は1種を水と混合させてもよいし、2種以上を水に混合させてもよい。
【0021】
<その他の成分>
表面調整剤は、上記成分のみから構成されていてもよく、その他の成分として、水溶性又は水分散性樹脂、金属化合物などの防錆剤、架橋剤、抗菌・抗黴剤、消泡剤、界面活性剤等の公知の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。
また、表面調整剤は、ヘクトライトを含有しないことが好ましい。ヘクトライトを含まないことで、リン酸亜鉛化成処理剤のフルオロケイ酸(ケイフッ化水素酸)化合物は増加しないことから、フッ化水素酸が減じることがなく、エッチング反応の鈍化を抑制できる。
【0022】
<表面調整剤のpH>
表面調整剤のpHは特に限定されないが、8.0以上が好ましく、9.0以上がより好ましく、また11.0以下が好ましく、10.5以下がより好ましい。表面調整剤のpHが上記範囲であることで、本発明の効果が発揮されやすくなり、好ましい。
表面調整剤のpHは、市販のpHメーターで計測することができる。pHメーターは据置型であっても、ハンディ型であってもよく、pHの校正液でpHメーターの校正を行って、前記pHを計測することができる。
【0023】
<表面調整剤の製造方法>
表面調整剤は、水性媒体(C)に、亜鉛を含むリン酸塩(A)と、共重合体(b2)のアルカリ塩(B)と、を配合することにより得られる。表面調整剤は、アルカリ塩(B)を高濃度で含む場合でも経時安定性に優れることから、アルカリ塩(B)を高濃度で含む表面調整剤を得た後、使用時に表面調整剤を水性媒体で希釈することにより、製造することができる。
【0024】
<化成皮膜を有する金属材料の製造方法>
本発明の実施形態に係る、化成皮膜を有する金属材料の製造方法は、上記リン酸亜鉛化成処理用表面調整剤を金属材料に接触させる表面調整工程と、当該表面調整工程後、リン酸亜鉛化成処理剤を金属材料に接触させる化成処理工程と、を含む。
【0025】
表面調整剤による表面調整の対象は金属表面であり、被処理材料としては、金属材料であってもよく、表面の一部又は全部に金属材料が露出した被処理材料であってもよい。すなわち、金属表面を含む被処理材料が、表面調整の対象となる。表面の一部又は全部に金属材料が露出した被処理材料の例としては、樹脂と金属材料との複合材料、ガラスと金属材料との複合材料、などがあげられる。
【0026】
金属材料の種類については、特に限定されない。その例には、鉄鋼材料(例えば、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板、黒皮材、酸洗鋼板、高張力鋼板、工具鋼、合金工具鋼、球状化黒鉛鋳鉄、ねずみ鋳鉄等);めっき材料、例えば、亜鉛めっき材(例えば、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、アルミニウム含有亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、亜鉛ニッケルめっき、亜鉛コバルトめっき、蒸着亜鉛めっき等)、亜鉛合金めっき材(例えば、合金化溶融亜鉛めっき、Zn-Al合金めっき、Zn-Al-Mg合金めっき、電気亜鉛合金めっき等)、アルミめっき材、ニッケルめっき材、スズめっき材、クロムめっき材、クロム合金めっき材(例えば、Cr-Ni合金めっき等)等;アルミニウム材又はアルミニウム合金材(例えば、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、アルミニウム鋳物、アルミニウム合金鋳物、ダイキャスト材等);銅材又は銅合金材;チタン材又はチタン合金材;マグネシウム材又はマグネシウム合金材等が含まれる。
【0027】
金属材料に各薬剤を接触させる方法については、公知の処理方法、例えば、浸漬法(電解処理を含む)、スプレー法、ロール浸漬法、刷毛塗り又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。接触温度は、通常、10℃以上60℃以下であり、30℃以上45℃以下が好ましいが、特に制限されるものではない。また、接触時間も公知の条件、例えば、5秒以上600秒以下で行うことができ、10秒以上300秒以下で行うことが好ましい。
【0028】
また、表面調整工程の前に、脱脂と称される金属表面上の油分及び付着物の除去を行う脱脂処理工程、を含んでいてもよい。脱脂処理の方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。脱脂処理工程の後に水洗を行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0029】
化成処理工程は、表面調整工程の直後に、水洗や乾燥を行うことなく実施することが好ましい。リン酸亜鉛化成処理剤は、公知のリン酸亜鉛化成処理剤を用いることができる。
【0030】
上記リン酸亜鉛化成処理後には、必要に応じて、水洗及び/又は乾燥を行ってもよい。さらに、リン酸亜鉛化成処理後に、別の化成皮膜を形成するための化成処理工程を行ってもよい。別の化成皮膜を形成する化成処理工程としては、例えば、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程、バナジウム化成処理工程等の各種化成処理工程が挙げられる。各種化成処理工程で用いる各種化成処理剤は公知のものを使用でき、化成処理の条件も公知の条件を適用することができる。なお、別の化成処理工程後に、必要に応じて、水洗及び/又は乾燥を行ってもよい。
【0031】
<塗膜を有する金属材料の製造方法>
本発明の実施形態に係る、塗膜を有する金属材料の製造方法は、リン酸亜鉛化成皮膜を有する金属材料の表面に塗膜を形成する塗装工程を含む。塗膜を形成する塗装方法は特に限定されず、公知の方法、例えば、転がし塗り、電着塗装(例えば、カチオン電着塗装)、スプレー塗装、ホットスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装(例えば、静電粉体塗装)、ローラーコーティング、カーテンフローコーティング、ハケ塗り、バーコーティング、流動浸漬法等の方法を適用することができる。なお、塗装工程後に、塗装した金属材料の表面上における塗料を乾燥させる乾燥工程(焼付工程や硬化工程を含む)などを行ってもよい。
【0032】
上記塗料としては、例えば、油性塗料、繊維素誘導体塗料、フェノール樹脂塗料、アルキド樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料、尿素樹脂塗料、不飽和樹脂塗料、ビニル樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料、さび止めペイント、防汚塗料、粉体塗料、カチオン電着塗料、アニオン電着塗料、水系塗料、溶剤塗料等の、公知の塗料が挙げられる。なお、塗装工程は、同一又は異なる各種塗料を用いて、1の塗装を行っても、2以上の塗装を行ってもよい。なお、乾燥工程は、塗装した塗料を乾燥して硬化させる処理である。乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、対流型熱乾燥(例えば、自然対流型熱乾燥、強制対流型熱乾燥)、輻射型乾燥(例えば、近赤外線乾燥、遠赤外線乾燥)、紫外線硬化乾燥、電子線硬化乾燥、ベーポキュア、焼付乾燥等の乾燥方法が挙げられる。なお、これらの乾燥方法は、1つ実施してもよいし、2以上を組み合わせて実施してもよい。
【0033】
上記カチオン電着塗装としては、公知の方法を適用できる。例えば、塗料として、アミン付加エポキシ樹脂と、硬化成分としてブロック化ポリイソシアネート硬化剤とを含有するカチオン電着塗料を用い、この塗料に化成皮膜を有する金属材料を浸漬する方法等が挙げられる。カチオン電着塗装は、例えば、塗料の温度を所定の温度に保持し、塗料を攪拌した状態で、整流器を用いて化成皮膜を有する金属材料に電圧を陰極方向に印加することにより行われる。このようにカチオン電着塗装を行った上記金属材料に対して、水洗及び焼き付けを実施することにより化成皮膜上に塗膜を形成させることができる。焼き付けは、所定の温度範囲で一定時間行われる。具体的には、170℃で20分間行われる。尚、カチオン電着塗料を用いたカチオン電着塗装方法を適用する場合には、例えば、脱脂工程、前処理工程、各種化成処理工程等で用いる処理剤中のナトリウムイオン濃度を質量基準で500ppm未満に制御することが好ましい。
【0034】
粉体塗料を用いた、スプレー塗装、静電粉体塗装、流動浸漬法等の塗装方法としては、公知の方法が適用できる。粉体塗料としては、例えば、ポリエステル樹脂と、硬化剤として、ブロックイソシアネート硬化剤、β-ヒドロキシアルキルアミド硬化剤(例えば、特開2011-88083号公報参照)又はトリグリシジルイソシアヌレートとを含有するものを挙げることができる。焼き付けは、所定の温度範囲で一定時間行われる。具体的には、150~250℃で20分間行われる。
【0035】
上記溶剤塗料を用いた、スプレー塗装、静電塗装、バーコーティング等の塗装方法としては、公知の方法が適用できる。溶剤塗料としては、例えば、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂と、シンナー等の有機溶剤とを含有するものを挙げることができる。焼き付けは、所定の温度範囲で一定時間行われる。具体的には、130℃で20分間行われる。
【0036】
塗装工程により得られる塗膜は、単層であっても複層であってもよい。複層である場合、各種塗膜を形成するための塗料、該塗料を用いた塗装方法、塗装した金属材料の乾燥方法等は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【実施例0037】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0038】
<共重合体(b2)の作製>
公知の方法(例えば特開2019-31689号など)を参照して、共重合体(b2)の質量に対する2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ユニット(b1)の質量割合が、表1に示す比率である重合体及び共重合体1~10を、それぞれ作製した。なお、アクリル酸を重合することで重合体を、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とアクリル酸とを共重合することで共重合体1~2、4~5、7~9及び12~14を、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とアクリル酸メチルとを共重合することで共重合体3を、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とマレイン酸とを共重合することで共重合体6及び10を、アクリルスルホン酸とアクリル酸とを共重合することで共重合体11を、それぞれ得た。
【0039】
<重合体、及び共重合体のアルカリ塩(B)の調製>
作製した重合体、及び共重合体1~10は、水酸化ナトリウムを用いてpH7.0に調整し、重合体及び共重合体のナトリウム化合物の水溶液を得た。このとき、前記水溶液における重合体及び共重合体のナトリウム塩の含有量が40.0質量%となるように調整した。
【0040】
共重合体中のユニット(b1)の質量割合は、上記重合体及び共重合体のナトリウム化合物の水溶液に対して核磁気共鳴分析装置(NMR)を用い、(b2)に含まれるユニット(b1)、及びアクリル酸ユニットに由来する所定のプロトンの面積値を測定した。その面積値から相対モル比を算出し、当該モル比に(b1)、(b2)それぞれのユニットの酸としての分子量を乗算して質量を算出し、算出された質量を計算式〔[(b1)/(b2)]×100〕に当てはめることにより算出した。
1H-NMRの測定条件
測定機:JNM-ECX400(日本電子製)
プローブ:40TH5AT/FG2D-5mm(Broadband Gradient
Tunable Probe)
測定各種:1H
測定溶媒:重水
積算回数:16回
【0041】
また、重合体及び共重合体の数平均分子量はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により分析し、ポリエチレングリコール換算平均分子量として求めた。
【0042】
【0043】
<リン酸亜鉛化成処理用表面調整剤(高濃度)の作製>
亜鉛を含むリン酸塩(A)としてリン酸亜鉛を準備した。そして、表2に示す割合で、リン酸亜鉛と重合体又は共重合体のナトリウム化合物と水とを混ぜ合わせて、高濃度の表面調整剤1~44を調製した。なお、表面調整剤35には、消泡剤及び防カビ剤を配合し、表面調整剤36には、リン酸亜鉛に替えてリン酸亜鉛マンガンを配合した。
【0044】
【0045】
<高濃度の表面調整剤の安定性>
実施例1~38及び比較例1~6の表面調整剤を容器に密閉した。作製後冷暗所(25℃)にて静置し、静置期間が2か月目に外観を確認した。分離していないものを「〇」と、分離しているものを「×」と、それぞれ評価した。
【0046】
【0047】
<リン酸亜鉛化成処理用表面調整剤の作製>
実施例1~38及び比較例1~6の表面調整剤を作製後、冷暗所に3か月静置したものを0.5g採取し、これを脱イオン水に加え、0.25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを9.0として、1000gに調整し、金属材料に適用する表面調整剤とした。
【0048】
<金属材料の作製>
(金属材料)
金属材料として、厚みが1mmである冷間圧延鋼板、590MPa等級の高張力鋼(株式会社パルテック製)、及び黒皮材(同社製の鉄系材料)を用い、長辺150mm×短辺75mmのサイズに切断した。
【0049】
(脱脂工程)
黒皮材は、あらかじめ脱脂を行い柔らかな布でこすった。次に、脱脂液(日本パーカライジング株式会社製ファインクリーナーE2082、20g/L水溶液)を100L作製し、43℃に温度を調整し、炭酸ガスを吹き込み、pHが10.5となるように調整した。黒皮材に対して調整した脱脂液を2分間スプレー方法にて吹き付け、次いで、水道水をスプレー方法で30秒間吹き付け、脱イオン水を30秒間スプレー方法で吹き付けた。そして、黒皮材に空気を吹き付け、黒皮材の表面に付着する水分を取り除き、酸化膜の脱落がなくなったことを確認した。
【0050】
(表面調整工程、リン酸亜鉛化成処理工程)
冷間圧延鋼板、高張力鋼、及び脱脂-水洗後の黒皮材を、実施例1~38及び比較例1~6の表面調整剤に25℃で30秒間浸漬した。
その後、リン酸亜鉛化成処理剤(日本パーカライジング株式会社製、パルボンドSX35建浴剤)48g/L、添加剤4856(同社製)17g/L、添加剤4813(同社製)5g/L、及び促進剤131(同社製)を加え、更に2.5質量%の水酸化ナトリウムを加えて、10Lのリン酸亜鉛化成処理剤を作製し、35℃に加温した。この時、遊離酸度は0.6pt、全酸度は23pt、促進剤は3.0ptであった。このリン酸亜鉛化成処理剤に各金属材料を表4に示す時間浸漬した。この際、金属材料に付着させるリン酸亜鉛化成皮膜の付着量の設定は、2g/m2とした。なお、リン酸亜鉛化成処理を行うことにより、同化成処理剤の成分が減じることから、適宜、成分を補給した。
【0051】
(乾燥工程)
表4に示す時間でリン酸亜鉛化成処理を行った後、金属材料の表面を水道水で30秒間スプレーし、次いで、脱イオン水を30秒間スプレーした後、空気を吹き付けて金属材料上の水分を除去した。冷間圧延鋼板、高張力鋼、及び黒皮材の金属材料はそれぞれ6枚ずつ作製した。
【0052】
<リン酸亜鉛化成皮膜を形成した金属材料の評価>
(1)外観
リン酸亜鉛化成皮膜を形成した金属材料に対し、目視観察によりリン酸亜鉛化成皮膜の外観を確認した。外観の評価は、金属光沢の有無を評価した。結果を表4に示す。
【0053】
(2)リン酸亜鉛化成皮膜の形成時間
金属材料に付着させるリン酸亜鉛化成皮膜の付着量の設定は2g/m2とし、リン酸亜鉛化成皮膜の付着量は次のように測定した。
リン酸亜鉛化成皮膜が形成した金属材料の3枚を用いて重量を計測し、リン酸亜鉛の付着量を算出した。化成処理後の金属材料の重量(W1[g]とする)を測定し、次いで化成処理後の金属材料を75℃のクロム酸水溶液に浸漬し、リン酸亜鉛化成皮膜が剥離された金属材料の重量(W2[g]とする)を測定した。重量の減少分を金属材料の表面積で
除算した値を、リン酸亜鉛化成皮膜の量(g/m2)とした。
この重量が、目標付着量の2g/m2に達しているか否かは、リン酸亜鉛化成処理時間を、30秒、45秒、60秒、75秒、90秒、120秒として金属材料に化成皮膜を形成し、各処理時間において化成皮膜付着量を測定することで、目標付着量となった化成処理時間を確認した。
【0054】