(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096370
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、ウエハ、及びウエハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20230630BHJP
H03H 3/08 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212072
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】中里 寿春
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA14
5J097AA21
5J097BB02
5J097BB11
5J097BB14
5J097BB15
5J097EE08
5J097EE09
5J097EE10
5J097FF04
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5J097GG03
5J097GG04
5J097HA03
5J097HA07
5J097KK03
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】メイン応答の劣化を抑制しつつ、スプリアスを低減する弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、支持基板10と、支持基板10上に設けられた圧電層15と、圧電層15上に設けられ、複数の電極指18を備える少なくとも一対の櫛型電極20と、支持基板10と圧電層15との間に設けられ、支持基板10の厚さ方向からみて、少なくとも一部において、直交する方向の幅より長い幅を有する方向である延伸方向の向きが互いに異なる複数の空隙領域を有する絶縁層17とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記支持基板の厚さ方向からみて、少なくとも一部において、直交する方向の幅より長い幅を有する方向である延伸方向の向きが互いに異なる複数の空隙領域を有する絶縁層と、
を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記延伸方向の向きが異なる複数の空隙領域が互いに接続され、1つの空隙領域を形成する請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記支持基板の厚さ方向からみて、前記1つの空隙領域は一箇所から複数の方向に空隙領域が延伸する形状である請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記支持基板の厚さ方向からみて、前記1つの空隙領域は前記絶縁層の一部を囲むように設けられた形状である請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
断面視における前記複数の空隙領域の面積は、前記絶縁層の前記複数の空隙領域を含む面積の1%以上である請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記支持基板と前記絶縁層との間の界面は凹凸面である請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記複数の空隙領域は、前記凹凸面の凹部に重なる請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記複数の空隙領域の断面形状は、前記圧電層側の幅が前記支持基板側の幅より狭い請求項1から7のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記複数の空隙領域と前記圧電層との距離は、前記複数の電極指の平均ピッチ以上である請求項1から8のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記絶縁層は、前記支持基板上に設けられ前記複数の空隙領域を有し前記複数の空隙領域が貫通する第1絶縁層と、前記第1絶縁層上に設けられ空隙領域を有さない第2絶縁層と、を備える請求項1から9のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
前記第2絶縁層上に設けられ、前記第1絶縁層および前記第2絶縁層の音速より音速の遅い第3絶縁層を備える請求項10に記載の弾性波デバイス。
【請求項12】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電層と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記支持基板の厚さ方向からみて、少なくとも一部において、直交する方向の幅より長い幅を有する方向である延伸方向の向きが互いに異なる複数の空隙領域を有する絶縁層と、
を備えるウエハ。
【請求項13】
凹凸面を有する支持基板上に、前記凹凸面の凹部に接する複数の第1空隙領域を有する絶縁層を形成する工程と、
前記複数の第1空隙領域に接する絶縁層をエッチングすることで、前記支持基板の厚さ方向からみて、少なくとも一部において、直交する方向の幅より長い幅を有する方向である延伸方向の向きが互いに異なる複数の第2空隙領域を前記絶縁層に形成する工程と、
前記絶縁層上に圧電層を形成する工程と、
を含むウエハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、ウエハ、及びウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に弾性表面波共振器等の弾性波素子が用いられている。弾性波素子を形成する圧電層を支持基板に接合することが知られている。支持基板の上面を粗面とすることが知られている(例えば特許文献1)。支持基板と圧電層の間に空洞を有する層を設けることが知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-61258号公報
【特許文献2】特表2020-510354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
支持基板の上面を粗面にすることによりスプリアスを低減することができる。また、支持基板と圧電層の間に空洞を有する層を設けることによってもスプリアスを低減することができる。しかしながら、メイン応答の劣化を抑制しつつ、スプリアスを低減する点において改善の余地が残されている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、スプリアスを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられた圧電層と、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記支持基板の厚さ方向からみて、少なくとも一部において、直交する方向の幅より長い幅を有する方向である延伸方向の向きが互いに異なる複数の空隙領域を有する絶縁層と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記延伸方向の向きが異なる複数の空隙領域が互いに接続され、1つの空隙領域を形成する構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記支持基板の厚さ方向からみて、前記1つの空隙領域は一箇所から複数の方向に空隙が延伸する形状である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記支持基板の厚さ方向からみて、前記1つの空隙領域は前記絶縁層の一部を囲むように設けられた形状である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、断面視における前記複数の空隙領域の面積は、前記絶縁層の前記複数の空隙領域を含む面積の1%以上である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記支持基板と前記絶縁層との間の界面は凹凸面である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記複数の空隙領域は、前記凹凸面の凹部に重なる構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記複数の空隙領域の断面形状は、前記圧電層側の幅が前記支持基板側の幅より狭い構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記複数の空隙領域と前記圧電層との距離は、前記複数の電極指の平均ピッチ以上である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記絶縁層は、前記支持基板上に設けられ前記複数の空隙領域を有し前記複数の空隙領域が貫通する第1絶縁層と、前記第1絶縁層上に設けられ空隙領域を有さない第2絶縁層と、を備える構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第2絶縁層上に設けられ、前記第1絶縁層および前記第2絶縁層の音速より音速の遅い第3絶縁層を備える構成とすることができる。
【0017】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられた圧電層と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記支持基板の厚さ方向からみて、少なくとも一部において、直交する方向の幅より長い幅を有する方向である延伸方向の向きが互いに異なる複数の空隙領域を有する絶縁層と、を備えるウエハである。
【0018】
本発明は、凹凸面を有する支持基板上に、前記凹凸面の凹部に接する複数の第1空隙領域を有する絶縁層を形成する工程と、前記複数の第1空隙領域に接する絶縁層をエッチングすることで、前記支持基板の厚さ方向からみて、少なくとも一部において、直交する方向の幅より長い幅を有する方向である延伸方向の向きが互いに異なる複数の第2空隙領域を前記絶縁層に形成する工程と、前記絶縁層上に圧電層を形成する工程と、を含むウエハの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スプリアスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、
図1(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1における絶縁層11の上面の平面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
【
図5】
図5は、比較例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図6】
図6は、実験におけるサンプルA1およびB1の周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
【
図7】
図7は、実験におけるサンプルA2およびB2の周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
【
図8】
図8は、実験におけるサンプルA3およびB3の周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
【
図9】
図9は、実験におけるサンプルC1の周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
【
図10】
図10は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図11】
図11(a)および
図11(b)は、実験2におけるサンプルA1およびD1の周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図13】
図13は、実施例1の変形例2に係る絶縁層11の上面の平面図である。
【
図14】
図14は、実施例1の変形例3に係る絶縁層11の上面の平面図である。
【
図15】
図15(a)および
図15(b)は、それぞれ実施例1の変形例4および5に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図16】
図16(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図16(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例0022】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、
図1(b)は、実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板及び圧電層の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向、及びZ方向は、圧電層の結晶方位のX軸方向及びY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電層が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0023】
図1(a)および
図1(b)に示すように、実施例1の弾性波デバイスは、支持基板10上に圧電層15が設けられている。支持基板10と圧電層15の間に絶縁層17が設けられている。絶縁層17は、支持基板10上に設けられた絶縁層11~14を備える。支持基板10の面31は、支持基板10と絶縁層11との界面に相当し、凹凸面である。絶縁層11の面32は、絶縁層11と12とのの界面に相当し、凹凸面である。絶縁層12の面33は、絶縁層12と絶縁層13との界面に相当し、平坦面であり、絶縁層13の面34は、絶縁層13と絶縁層14または圧電層15との界面に相当し、平坦面である。絶縁層11~14および圧電層15の厚さはそれぞれT1~T5である。面31および32が凹凸面のため絶縁層11および12の厚さは平均の厚さである。空隙30の高さH1はほぼ絶縁層11の厚さT1である。空隙30の先端と圧電層15の下面との距離H2はほぼ絶縁層12~14の厚さの合計T1+T2+T3である。
【0024】
面31には凸部31aと凹部31bが設けられている。面31と32との凹凸は対応している。面31と32との凹凸は対応していなくてもよい。凸部31aおよび凹部31bは不規則に配置されている。凸部31aの間隔D1a~D1cは互いに異なる。絶縁層11にはZ方向に延伸し絶縁層11を貫通する複数の空隙30が設けられている。空隙30の圧電層15側の幅W1は空隙30の支持基板10側の幅W2より狭い。絶縁層12~14には空隙は設けられていない。
【0025】
圧電層15上に弾性波共振器26が設けられている。弾性波共振器26はIDT22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電層15上の金属膜16により形成される。
【0026】
IDT22は、対向する一対の櫛型電極20を備える。櫛型電極20は、複数の電極指18と、複数の電極指18が接続されたバスバー19と、を備える。X方向からみて一対の櫛型電極20の電極指18が交差する領域が交差領域25である。交差領域25の長さが開口長である。一対の櫛型電極20は、交差領域25の少なくとも一部において電極指18が1本毎に交互に設けられている。交差領域25において複数の電極指18が主に励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極20のうち一方の櫛型電極20の電極指18のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指18のピッチ(電極指18の中心間のピッチ)をDとすると、一方の櫛型電極20の電極指18のピッチは電極指18の2本分のピッチDとなる。反射器24は、IDT22の電極指18が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0027】
圧電層15は、例えば単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)層または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)層であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム層である。圧電層15の厚さT5は、スプリアスおよび損失を抑制する観点から1λ以下が好ましく、0.5λ以下がより好ましい。圧電層15が薄くなりすぎると弾性波が励振され難くなることから、厚さT5は、0.1λ以上が好ましい。
【0028】
支持基板10は、例えばサファイア基板、アルミナ基板、シリコン基板、スピネル基板、水晶基板、石英基板または炭化シリコン基板である。サファイア基板は単結晶Al2O3基板であり、アルミナ基板は多結晶または非晶質Al2O3基板であり、シリコン基板は単結晶または多結晶のシリコン基板であり、スピネル基板は多結晶または非晶質MgAl2O4基板であり、水晶基板は単結晶SiO2基板であり、石英基板は多結晶または非晶質SiO2基板であり、炭化シリコン基板は多結晶または単結晶のSiC基板である。支持基板10のX方向の線膨張係数は圧電層15のX方向の線膨張係数より小さい。これにより、弾性波共振器の周波数温度依存性を小さくできる。支持基板10を伝搬するバルク波の音速は絶縁層11および12を伝搬するバルク波の音速より速い。なお、支持基板10を伝搬するバルク波の音速は絶縁層11および12を伝搬するバルク波の音速より遅くてもよい。
【0029】
絶縁層11および12を伝搬するバルク波の音速は、絶縁層13を伝搬するバルク波の音速より速い。これにより、圧電層15および絶縁層13内にメイン応答の弾性波のエネルギーが閉じ込められる。絶縁層11および12は、例えば多結晶または非晶質であり、酸化アルミニウム膜、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、シリコン膜または炭化シリコン膜である。絶縁層11の厚さT1は、空隙30の高さを大きくする観点から0.2λ以上が好ましく、0.5λ以上がより好ましい。弾性波を絶縁層13および圧電層15内に閉じ込める観点から、絶縁層12の厚さT2は0.3λ以上が好ましく、1λ以上が好ましい。絶縁層11が圧電層15に近づくとメイン応答が劣化する可能性がある。特性を向上させる観点から厚さT1および厚さT2は各々10λ以下が好ましい。
【0030】
絶縁層13は、例えば温度補償膜であり、圧電層15の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する。例えば圧電層15の弾性定数の温度係数は負であり、絶縁層13の弾性定数の温度係数は正である。絶縁層13は、酸化シリコン(SiO2)を主成分とする絶縁層であり、例えば無添加または弗素等の添加元素を含む酸化シリコン(SiO2)膜であり、例えば多結晶または非晶質である。また、絶縁層13は、多結晶または非晶質の酸化シリコン膜に限らず、単結晶の水晶(SiO2)を用いてもよい。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。絶縁層13が酸化シリコン膜の場合、絶縁層13を伝搬するバルク波の音速は圧電層15を伝搬するバルクの音速より遅くなる。
【0031】
絶縁層13が温度補償の機能を有するためにはメイン応答の弾性波のエネルギーが絶縁層13内にある程度存在することが求められる。弾性表面波のエネルギーが集中する範囲は弾性表面波の種類に依存するものの、典型的には弾性表面波のエネルギーは圧電層15の上面から2λ(λは弾性波の波長)の範囲に集中し、特に圧電層15の上面からλの範囲に集中する。そこで、絶縁層13の下面から圧電層15の上面までの距離(厚さT3+T4+T5)は、2λ以下が好ましく、1λ以下がより好ましい。
【0032】
絶縁層14は、例えば接合層であり、絶縁層13と圧電層15とを接合させる層である。絶縁層13が酸化シリコン膜の場合、圧電層15と絶縁層13とを表面活性化法を用い直接接合することが難しい。このような場合、絶縁層14として、絶縁層13と異なる材料からなる絶縁層を設ける。絶縁層14は、例えば多結晶または非晶質であり、酸化アルミニウム膜、窒化シリコン膜、窒化アルミニウム膜、シリコン膜または炭化シリコン膜である。弾性波のエネルギーを絶縁層13内に閉じ込めるため、絶縁層14の厚さT4は100nm以下が好ましい。絶縁層14を接合層として機能させるため、厚さT4は1nm以上が好ましい。
【0033】
金属膜16は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)またはモリブデン(Mo)を主成分とする膜である。電極指18と圧電層15との間にチタン(Ti)膜またはクロム(Cr)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指18より薄い。電極指18を覆うように絶縁層が設けられていてもよい。絶縁層は保護膜または温度補償膜として機能する。
【0034】
弾性波の波長λは例えば1μmから6μmである。2本の電極指18を1対としたときの対数は例えば20対から300対である。IDT22のデュティ比は、(電極指18の太さ)/(電極指18のピッチ)であり、例えば30%から70%である。IDT22の開口長は例えば10λから50λである。弾性波の波長λは電極指18の平均ピッチDの2倍である。電極指18の平均ピッチは、IDT22のX方向の幅を電極指18の本数で除することで算出できる。
【0035】
図2は、実施例1における絶縁層11の上面の平面図である。
図2に示すように、空隙30の平面形状は不規則である。空隙30bでは、複数の空隙36a~36dは異なる方向に延伸する中心線35a~35dをそれぞれ有している。例えば中心線35a~35cは1つの点から異なる3方向に延伸している。このように、空隙30bでは、1つの点から複数の空隙36a~36cが放射状に延伸している。空隙36a~36dはそれぞれ延伸方向の幅が延伸方向に直交する幅より広い平面形状であり、空隙36a~36dの延伸方向は互いに異なる。
【0036】
空隙30cでは、複数の空隙36e~36iは異なる方向に延伸する中心線35e~35iをそれぞれ有しており、複数の空隙36e~36iは絶縁層11の一部の領域11aを囲むように設けられている。空隙36e~36iはそれぞれ延伸方向の幅が延伸方向に直交する幅より広い平面形状であり、空隙36e~36iの延伸方向は互いに異なる。
【0037】
空隙30aは、1つの点から複数の空隙が放射状に延伸する平面形状と複数の空隙が絶縁層11の一部の領域を囲む平面形状とを含む複雑な平面形状を有している。
【0038】
空隙30d~30fは、それぞれ単一の空隙36j~36lであり、空隙36j~36lの中心線35j~35lの延伸方向は互いに異なる。
【0039】
[実施例1の製造方法]
図3(a)から
図4(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図3(a)から
図4(c)に示す製造方法はウエハ状態で行われ、最後にウエハを個片化することで実施例1の弾性波デバイスが形成される。ウエハには複数の弾性波デバイスが形成されるが、
図3(a)から
図4(c)では、1つの弾性波デバイスのみを図示している。
【0040】
図3(a)に示すように、ウエハ状の支持基板10を準備する。加工前の支持基板10の上面は平坦であり、支持基板10の算術平均粗さRaは例えば1nm以下である。支持基板10の面31を研削または研磨することで、面31を粗面とする。面31は、例えばエッチング法等を用い粗面化してもよい。これにより、面31に複数の凸部31aおよび複数の凹部31bが形成される。支持基板10の面の算術平均粗さRaは例えば0.1μm以上である。
【0041】
図3(b)に示すように、支持基板10の面31上に絶縁層11を例えばスパッタリング法により形成する。スパッタリング法による成膜は、凹凸面に対する被覆性が良好ではない。このため、スパッタリング法の成膜条件を適切に設定することで、絶縁層11内に凹部31bからZ方向へ延伸する空隙30が形成される。空隙30の幅W3は例えば100nm以下であり、10nm以下である。絶縁層11の面32は、支持基板10の面31の凹凸が反映された凹凸面となる。面32は、面31と同程度の算術平均粗さRaの凹凸面となることもあるが、面31より滑らかな(すなわち面31よりRaの小さい)凹凸面となることもある。絶縁層11は、スパッタリング法以外にも、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い形成してもよい。
【0042】
図3(c)に示すように、エッチング法を用い、空隙30に接する絶縁層11を除去する。エッチング法としては例えばウェットエッチング法を用いる。エッチング液が空隙30内に侵入すると、空隙30に接する絶縁層11がエッチングされる。例えば粒界に沿ってエッチング液が浸透すると、粒界付近の絶縁層11がエッチングされ、
図2のような複雑な平面形状の空隙30が形成される。また、支持基板10付近の粒界の周辺では絶縁層11が疎になりやすい。このため、支持基板10付近の粒界周辺の絶縁層11は上部の粒界周辺の絶縁層11よりエッチングされやすくなる。よって、支持基板10側の空隙30の幅W2は上面側の空隙30の幅W1より大きくなる。空隙30の幅W1およびW2、は
図3(b)における空隙30の幅W3より大きくなり、例えば100nm以上である。
【0043】
図4(a)に示すように、絶縁層11の面32上に絶縁層12を形成する。絶縁層12の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い平坦化する。絶縁層12上に絶縁層13および14を形成する。絶縁層12~14を例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法により形成する。絶縁層12および14が酸化アルミニウム膜の場合、絶縁層12および14は例えばスパッタリング法を用い形成する。絶縁層13が酸化シリコン膜の場合、絶縁層13は例えばCVD法を用い形成する。絶縁層11~14から絶縁層17が形成される。
【0044】
図4(b)に示すように、絶縁層14と圧電層15とを接合する。絶縁層14を介さずに絶縁層13と圧電層15とを直接接合してもよい。接合には例えば表面活性化法を用いる。絶縁層14を樹脂等の接着剤とし、接着剤を介し絶縁層13と圧電層15とを接合してもよい。
【0045】
図4(c)に示すように、圧電層15の上面を例えばCMP法を用いて平坦化し、圧電層15を薄膜化する。これにより、弾性波デバイスを製造するためのウエハは製造される。その後、
図1(b)に示すように、圧電層15の上面に金属膜16からなる弾性波共振器26を形成する。最後にウエハを個片化することで、実施例1に係る弾性波デバイス100が製造される。
【0046】
[実験1]
7つのサンプルA1~A3、B1~B3およびC1を作成し、スプリアスを評価する実験を行った。実験条件は以下である。
【0047】
サンプルA1
弾性波の波長λ:6.0μm
支持基板10:サファイア基板
面31:算術平均粗さRaが0.15μmの粗面
絶縁層11:厚さT1が0.5λの酸化アルミニウム層
空隙30の幅:0.1~数μm
絶縁層12:厚さT2が1.5λの酸化アルミニウム層
絶縁層13:厚さT3が0.2λの酸化シリコン層
絶縁層14:あり
圧電層15:厚さT4が0.3λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜16:厚さが0.1λのアルミニウム膜
【0048】
サンプルA2
弾性波の波長λ:2.0μm
支持基板10:サファイア基板
面31:算術平均粗さRaが0.15μmの粗面
絶縁層11:厚さT1が1.5λの酸化アルミニウム層
空隙30の幅:0.1~数μm
絶縁層12:厚さT2が1.5λの酸化アルミニウム層
絶縁層13:厚さT3が0.2λの酸化シリコン層
絶縁層14:あり
圧電層15:厚さT4が0.3λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜16:厚さが0.1λのアルミニウム膜
【0049】
サンプルA3
弾性波の波長λ:1.5μm
支持基板10:サファイア基板
面31:算術平均粗さRaが0.15μmの粗面
絶縁層11:厚さT1が0.7λの酸化アルミニウム層
空隙30の幅:0.1~数μm
絶縁層12:厚さT2が2.0λの酸化アルミニウム層
絶縁層13:厚さT3が0.2λの酸化シリコン層
絶縁層14:あり
圧電層15:厚さT4が0.3λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜16:厚さが0.1λのアルミニウム膜
【0050】
サンプルB1
弾性波の波長λ:6.0μm
支持基板10:サファイア基板
面31:算術平均粗さRaが0.15μmの粗面
絶縁層11:なし
絶縁層12:厚さT2が1.5λの酸化アルミニウム層
絶縁層13:厚さT3が0.2λの酸化シリコン層
絶縁層14:あり
圧電層15:厚さT4が0.3λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜16:厚さが0.1λのアルミニウム膜
【0051】
サンプルB2
弾性波の波長λ:2.0μm
支持基板10:サファイア基板
面31:算術平均粗さRaが0.15μmの粗面
絶縁層11:なし
絶縁層12:厚さT2が3.0λの酸化アルミニウム層
絶縁層13:厚さT3が0.2λの酸化シリコン層
絶縁層14:あり
圧電層15:厚さT4が0.3λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜16:厚さが0.1λのアルミニウム膜
【0052】
サンプルB3
弾性波の波長λ:1.5μm
支持基板10:サファイア基板
面31:算術平均粗さRaが0.15μmの粗面
絶縁層11:なし
絶縁層12:厚さT2が6.0λの酸化アルミニウム層
絶縁層13:厚さT3が0.2λの酸化シリコン層
絶縁層14:あり
圧電層15:厚さT4が0.3λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜16:厚さが0.1λのアルミニウム膜
【0053】
サンプルA1~A3は実施例1であり、サンプルB1~B3は絶縁層11を設けず空隙30を設けない比較例1である。サンプルA1~A3は、
図3(a)~
図4(c)において説明した方法で作製した。サンプルA1~A3では、断面視における空隙30の面積は、空隙30を含めた絶縁層11の面積の約8%であった。サンプルB1~B3は、絶縁層11を形成しない以外は
図3(a)~
図4(c)において説明した方法で作製した。
【0054】
図5は、比較例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
図5に示すように、面31は、一定の周期D1で規則的に配列した複数の凸部31aおよび複数の凹部31bを有する。凹部31bは平坦であり、平坦な面の幅はW4である。絶縁層11は、凹部31bから絶縁層11を貫通する複数の空隙30を有する。空隙30の幅W1はZ方向に一定である。絶縁層12および14は設けられていない。その他の構成は実施例1と同じである。比較例2の製造方法は以下である。
図3(a)において、支持基板10の上面に規則的な凹凸面を形成する。
図3(b)において、絶縁層11を形成する。その後、
図3(c)のような空隙30を広げるエッチングを行わず、
図4(a)のように絶縁層13を形成する。その後の比較例2の製造方法は実施例1と同じである。
【0055】
サンプルC1
弾性波の波長λ:5.0μm
支持基板10:サファイア基板
面31:D1=0.8λ、W4=0.4λ
絶縁層11:厚さT1が0.3λの酸化アルミニウム層
空隙30の幅W1:約0.025λ
絶縁層12:なし
絶縁層13:厚さT3が0.4λの酸化シリコン層
絶縁層14:あり
圧電層15:厚さT4が0.4λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜16:厚さが0.1λのアルミニウム膜
サンプルC1の絶縁層11には空隙30が設けられているが、実施例1のように、平面視において延伸方向が異なる複数の空隙30は設けられておらず、平面視において1方向(Y方向)に延伸する空隙である。
【0056】
図6は、実験1におけるサンプルA1およびB1の周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
図7は、実験1におけるサンプルA2およびB2の周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
図8は、実験1におけるサンプルA3およびB3の周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
図6~
図8に示すように、主モードの弾性表面波により共振周波数frおよび反共振周波数faにおいてピークおよびボトムを有するメイン応答が観察される。メイン応答はサンプルA1~A3とB1~B3であまり変わらない。メイン応答より高周波数側にバルク波に起因するスプリアス応答Spが観察される。スプリアス応答Spにおける|Y|の極大と極小との差ΔYを算出した。また、スプリアス応答では、反射係数(S11の絶対値)が周波数により大きく変動する。スプリアス応答における反射係数の極小値を反射係数Γとした。反射係数Γは1に近いことが好ましい。
【0057】
以下にサンプルA1~A3およびB1~B3のΔYとΓを示す。
サンプルA1:ΔY=4dB Γ=0.7
サンプルB1:ΔY=20dB Γ=0.1
サンプルA2:ΔY=2dB Γ=0.8
サンプルB2:ΔY=10dB Γ=0.3
サンプルA3:ΔY=2dB Γ=0.8
サンプルB3:ΔY=5dB Γ=0.6
弾性波の波長によらず、サンプルA1~A3はサンプルB1~B3よりΔYが小さく、反射係数Γは1に近い。このように、実施例1のサンプルA1~A3は、空隙30を設けない比較例1のサンプルB1~B3よりスプリアス応答を抑制できる。
【0058】
図9は、実験1におけるサンプルC1の周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
図9に示すように、サンプルC1におけるスプリアス応答SpのΔYはサンプルB1~B3より小さいもののサンプルA1~A3より大きい。このように、サンプルC1では、スプリアス応答SpはサンプルA1~A3ほど小さくはならない。
【0059】
実施例1のサンプルA1~A3においてスプリアスが小さくなった理由は以下と考えられる。メイン応答は主に弾性表面波(例えばSH(Shear Horizontal)波)による応答であり、スプリアス応答は主にバルク波による応答である。IDT22により励振されたバルク波が支持基板10と絶縁層17の界面で反射しIDT22に戻るとスプリアス応答となる。支持基板10の面31を凹凸面とすることで、バルク波が散乱され、スプリアス応答が抑制される。しかし、スプリアス応答の抑制は十分ではない。空隙30は、面31の凹凸だけでは散乱しきれないバルク波を減衰する。平面視におけるバルク波の伝搬方向はX方向とは限らない。そこで、延伸方向が交差する異なる方向である複数の空隙30を設ける。これにより、空隙30は様々な方向に伝搬するバルク波を減衰できる。これにより、スプリアス抑制効果が高められると考えられる。
【0060】
サンプルC1においても絶縁層11に空隙30が存在するが、サンプルC1では、空隙30の平面視における延伸方向は同じ方向である。一方、サンプルA1~A3では、
図2のように空隙30の延伸方向は異なっている。これにより、絶縁層11を伝搬するバルク波がより減衰し、サンプルA1~A3ではサンプルC1よりスプリアスが抑制されると考えられる。
【0061】
[実施例1の変形例1]
図10は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
図10に示すように、実施例1の変形例1では、絶縁層11と絶縁層12との間に絶縁層12aが設けられている。絶縁層12aは、絶縁層11上に絶縁層12を形成したときに、絶縁層12内に空隙30が形成されることを抑制するためのバリア層として機能する。絶縁層11と12aの間の面32aは、面31と同程度の算術平均粗さRaの凹凸面または面31より算術平均粗さRaの小さい凹凸面である。絶縁層12aと12の間の面32bは、面32aと同程度の算術平均粗さRaの凹凸面または面31より算術平均粗さRaの小さい凹凸面である。
【0062】
[実験2]
実施例1に対応するサンプルA1と実施例1の変形例1に対応するサンプルD1を作成し、スプリアスを評価する実験を行った。実験条件は以下である。
【0063】
サンプルA1
弾性波の波長λ:6.0μm
支持基板10:サファイア基板
面31:算術平均粗さRaが0.15μmの粗面
絶縁層11:厚さT1が0.5λの酸化アルミニウム層
空隙30の幅:0.1~数μm
絶縁層12a:なし
絶縁層12:厚さT2が1.5λの酸化アルミニウム層
絶縁層13:厚さT3が0.2λの酸化シリコン層
絶縁層14:あり
圧電層15:厚さT4が0.3λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜16:厚さが0.1λのアルミニウム膜
【0064】
サンプルD1
弾性波の波長λ:6.0μm
支持基板10:サファイア基板
面31:算術平均粗さRaが0.15μmの粗面
絶縁層11:厚さT1が0.3λの酸化アルミニウム層
空隙30の幅:0.1~数μm
絶縁層12a:厚さが0.75μmの酸化シリコン層
絶縁層12:厚さT2が1.0λの酸化アルミニウム層
絶縁層13:厚さT3が0.1λの酸化シリコン層
絶縁層14:あり
圧電層15:厚さT4が0.2λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
金属膜16:厚さが0.1λのアルミニウム膜
【0065】
図11(a)および
図11(b)は、実験2におけるサンプルA1およびD1の周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図である。
図11(a)と
図11(b)を比較すると、サンプルD1では、サンプルA1より主モードの弾性表面波によるメイン応答が大きい。スプリアス応答はサンプルA1とD1で同程度である。メイン応答のΔYとスプリアス応答のΔYは以下である。
サンプルA1:メインΔY=67dB、スプリアスΔY=2dB
サンプルD1:メインΔY=82dB、スプリアスΔY=2dB
【0066】
実施例1では、
図4(a)において、絶縁層11上に絶縁層12を形成するときに、絶縁層12内に空隙30が延伸することがある。面33付近まで空隙30が延伸すると、主モードの弾性表面波が空隙30により減衰する可能性がある。これにより、メイン応答が劣化してしまう。実施例1の変形例1では、絶縁層11と絶縁層12との間に、空隙30の延伸を抑制するバリア層として機能する絶縁層12aを設ける。これにより、絶縁層12内への空隙30の延伸が抑制され、メイン応答の劣化を抑制できる。
【0067】
[実施例1の変形例2]
図12は、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
図12に示すように、支持基板10の面31に凹凸面が設けられている。面31における複数の凸部31aは規則的に配列し、複数の凹部31bは規則的に配列されている。凸部31a(または凹部31b)の周期はD1であり一定である。凹部31bは平坦面である。空隙30は、凹部31b上に設けられており、空隙30の周期もD1であり一定である。
【0068】
図13は、実施例1の変形例2に係る絶縁層11の上面の平面図である。凸部31aを破線で図示し、凸部31aの頂点31cを黒点で示している。
図13に示すように、凸部31aは円錐形状であり、平面視において円形状である。頂点31cは円形状の中心に位置する。凸部31aの間の領域は平坦面である凹部31bである。凸部31aの周期D1は一定である。凹部31b上に空隙30が形成されている。空隙30の平面形状は正六角形をつなげたハニカム構造である。空隙30のうち空隙36x~36zの中心線35x~35zは互いに異なる方向に延伸している。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0069】
[実施例1の変形例3]
図14は、実施例1の変形例3に係る絶縁層11の上面の平面図である。
図14に示すように、空隙36x~36zは互いに分離されている。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり、説明を省略する。
【0070】
実施例1の変形例2および3のように、支持基板10の面31の凹凸は規則的であり、空隙30は規則的に配列していてもよい。実施例1の変形例2のように、複数の空隙36x~36zは互いに接続されていてもよいし、実施例1の変形例3のように、複数の空隙36x~36zは互いに分離されていてもよい。凸部31aは円錐形状以外に多角錘形状でもよく、円柱形状または多角柱形状でもよい。
【0071】
[実施例1の変形例3]
図15(a)は、実施例1の変形例4に係る弾性波デバイスの断面図である。
図15(a)に示すように、支持基板10の面31は平坦面でもよい。この場合、面31~34は平坦面となる。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0072】
[実施例1の変形例5]
図15(b)は、実施例1の変形例5に係る弾性波デバイスの断面図である。
図15(b)に示すように、絶縁層12および14が設けられていない。実施例1の変形例5のように、絶縁層17は、1または複数の絶縁層であればよい。絶縁層17としては、例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミニウム膜または炭化シリコン膜の1または複数の絶縁層を用いることができる。
【0073】
実施例1およびその変形例によれば、絶縁層17は、支持基板10と圧電層15との間に設けられている。
図2、
図13および
図14のように、絶縁層17は複数の空隙30を有しており、複数の空隙30(空隙領域)は、支持基板10の厚さ方向からみて、延伸方向の幅が延伸方向に直交する方向の幅より長く、延伸方向が交差する異なる方向である。複数の空隙30(空隙領域)は、少なくとも一部において、直交する方向の幅より長い幅を有する方向である延伸方向の向きが互いに異なる。バルク波の伝搬方向は電極指18が配列されるX方向とは限らない。空隙30の延伸方向が異なることで、空隙30は様々な方向に伝搬するバルク波を減衰させることができ、スプリアスを抑制できる。複数の空隙30のうち2つの空隙30の延伸方向が交差する交差角度の最大値は、30°以上が好ましく、45°以上がより好ましい。
【0074】
延伸方向の向きが互いに異なる方向である複数の空隙が互いに接続され、1つの空隙領域を形成する。例えば
図2の空隙30bは、複数の空隙36a~36dが接続され形成されている。空隙30cは複数の空隙36e~36iが接続され形成されている。
図13では、空隙30は空隙36x~36yが接続されて形成されている。これにより、空隙30および空隙30a~30cは、バルク波をより抑制することができる。
図14のように、延伸方向の異なる空隙36x~36zは互いに分離されていてもよい。
【0075】
図2の空隙30bのように、支持基板10の厚さ方向からみて、複数の空隙36a~36cが接続された空隙30bは一箇所から複数の方向に空隙36a~36cが延伸する形状でもよい。空隙30cのように、支持基板10の厚さ方向からみて、1つの空隙30cは絶縁層11の一部を複数の空隙36e~36iが囲むように設けられた形状でもよい。これらにより、バルク波をより抑制することができる。また、
図2のように、絶縁層11は、複数の空隙が接続された空隙30a~30cに加え、1つの延伸方向を有する単体の空隙30d~30fが複数設けられていてもよい。このように、絶縁層11が平面形状の異なる様々な空隙30a~30fを有することで、様々な方向に伝搬するバルク波をより抑制することが可能となる。
【0076】
サンプルA1~A3では、断面視における複数の空隙30の面積は、絶縁層11の複数の空隙30を含む面積の8%程度である。このように、断面視における複数の空隙30の面積は、絶縁層11の複数の空隙30を含む面積の1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。絶縁層11の強度を確保する観点および面31にバルク波を減衰させる観点から、断面視における複数の空隙30の面積は、絶縁層11の複数の空隙30を含む面積の20%以下が好ましい。
【0077】
バルク波を減衰させる観点から、空隙30の高さは0.2λ以上が好ましく、0.5λ以上がより好ましい。絶縁層11の強度を確保する観点から空隙30の高さは10λ以下が好ましい。バルク波を減衰させる観点から、空隙30の幅W1およびW2は、0.01λ以上が好ましく、0.1λ以上がより好ましい。幅W1およびW2は、例えば100nm以上である。絶縁層11の強度を確保する観点から空隙30の幅W1およびW2は2λ以下が好ましい。
【0078】
実施例1およびその変形例1、2、4および5のように、支持基板10と絶縁層11との間の界面31は凹凸面である。これにより、界面によりバルク波を散乱させることができ、スプリアスをより抑制できる。実施例1の変形例3のように、支持基板10と絶縁層11との界面は平坦面でもよい。
【0079】
バルク波を散乱させてスプリアスを抑制する点から、支持基板10の面31が粗面の場合、算術平均粗さRaは100nm以上が好ましく、150nm以上がより好ましい。圧電層15と絶縁層13の間の界面および絶縁層12と13との界面ではバルク波を反射させないことが好ましい。この観点から面33および34の算術平均粗さRaは10nm以下が好ましく、1nm以下がより好ましい。実施例1の変形例1および2のように、凹凸が規則的な場合、凸部31aと凹部31bの高さH1は、0.1λ以上が好ましく、0.3λ以上がより好ましく、1λ以上がさらに好ましい。また、高さHは2λ以下が好ましい。スプリアスを抑制する観点から、面31の凸部31aまたは凹部31bの周期D1は、0.8λ以上が好ましく、1.0λ以上がより好ましい。メイン応答を大きくする観点から、面31の周期D1は、2.4λ以下が好ましく、1.6λ以下がより好ましい。
【0080】
複数の空隙30は、前記凹凸面の凹部31bに重なる。これにより、
図3(b)および
図3(c)のように、空隙30を形成することができる。
【0081】
複数の空隙30の断面形状は、圧電層15側の幅が支持基板10側の幅より狭い。これにより、空隙30によりバルク波をより減衰させることができる。
【0082】
複数の空隙30の上端が圧電層15の下面に近いと、弾性表面波が空隙30の影響を受けてしまう。この観点から、空隙30と圧電層15との距離H2は、0.5λ以上が好ましく、1λ以上がより好ましい。距離H2は10λ以下が好ましい。
【0083】
絶縁層17は、支持基板10上に設けられ複数の空隙30を有し複数の空隙30が貫通する絶縁層11(第1絶縁層)と、絶縁層11上に設けられ空隙30を有さない絶縁層12(第2絶縁層)と、を備える。これにより、弾性表面波が空隙30の影響を受けることを抑制できる。
【0084】
絶縁層17は、絶縁層12上に設けられ、絶縁層11および12のバルク波の音速よりバルク波の音速の遅い絶縁層13(第3絶縁層)を備える。これにより、弾性表面波を絶縁層13および圧電層15内に閉じ込めることができる。よって、メイン応答を大きくできる。絶縁層13を温度補償膜とすることで、弾性波デバイスの温度特性を向上できる。絶縁層13のバルク波の音速は、絶縁層11および12のバルク波の音速の0.9倍以下が好ましく、0.8倍以下がより好ましい。
【0085】
実施例1の変形例1のように、絶縁層17は、絶縁層11と12との間に、絶縁層12のバルク波音速以下のバルク波の音速を有する絶縁層12aを有し、絶縁層12aには空隙30が設けられていない。このように、空隙30が絶縁層12に延伸することを抑制する絶縁層12aを設けることで、空隙30が絶縁層12に延伸しメイン応答の劣化を抑制できる。
【0086】
実施例およびその変形例の弾性波デバイス用のウエハ製造方法として、
図3(b)のように、凹凸面を有する支持基板10上に、凹凸面の凹部31bに接する複数の第1空隙30を有する絶縁層11を形成する。
図3(b)のように、複数の第1空隙30に接する絶縁層11をエッチングすることで、支持基板10の厚さ方向からみて、延伸方向の幅が延伸方向に直交する方向の幅より長く、延伸方向が交差する異なる方向である複数の第2空隙30を絶縁層11に形成する。
図4(b)および
図4(c)のように、絶縁層11上に圧電層15を形成する。これにより、実施例1およびその変形例の弾性波デバイスを容易に製造することができる。
【0087】
一対の櫛型電極20が主に励振する弾性波がSH波であるとき、バルク波が励振され易い。圧電層15が36°以上かつ50°以下回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層のとき、SH波が励振される。よって、このとき、絶縁層17内に空隙30を設けることが好ましい。
【0088】
弾性波デバイスとして、主に弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave) デバイスを例に説明したが、弾性波デバイスはBAW(Bulk Acoustic Wave)デバイスまたはラム(Lamb Wave)波デバイスでもよい。
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。