(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096397
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】シューズのソール
(51)【国際特許分類】
A43B 13/14 20060101AFI20230630BHJP
A43B 13/41 20060101ALI20230630BHJP
A43B 5/06 20220101ALI20230630BHJP
【FI】
A43B13/14 D
A43B13/41
A43B5/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212124
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103241
【弁理士】
【氏名又は名称】高崎 健一
(72)【発明者】
【氏名】梶原 遥
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陽平
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BA38
4F050BA42
4F050HA53
4F050HA56
4F050HA58
4F050HA60
4F050HA73
4F050HA85
4F050HA86
4F050JA09
(57)【要約】
【課題】フォアフット走法を自然に促しかつ持続可能にするとともに、フォアフット走行時の走行効率を高める。
【解決手段】ソール上面20の最後端の位置S
0とつま先先端の位置Seを結ぶ直線を基準線Sとし、最後端位置S
0を原点Oとして原点Oからソール上面20に沿って測ったつま先先端位置Seまでの道程をLとし、ソール上面20に沿って原点Oから0.45×Lの位置を通って基準線Sと直交する線とソール下面31との交点をCとし、ソール1が点Cで地面Rと接地したソール姿勢を基準姿勢とするとき、踵部およびつま先部においてソール下面31が地面Rから離れている。ソール上面20に沿って原点Oから0.15×Lの位置の踵中心位置20hと0.68×Lの位置の中足趾節関節位置20jとを結ぶ直線Tが地面Rとなす角度をθとするとき、基準姿勢において、θ≧5°に設定されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズのソールであって、
踵部からつま先部まで延設され、ソール上面およびソール下面を有するとともに、
前記ソール上面の最後端の位置とつま先先端の位置を結ぶ直線を基準線Sとし、前記最後端の位置を原点Oとして、原点Oから前記ソール上面に沿って測った前記つま先先端の位置までの道程をLとし、前記ソール上面に沿って原点Oから0.45×Lの位置を通って前記基準線Sと直交する線とソール下面との交点をCとし、ソールが点Cで地面と接地したソール姿勢を基準姿勢とするとき、
前記基準姿勢において、前記踵部および前記つま先部における前記ソール下面が地面から離れているとともに、
前記ソール上面に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置と原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置とを結ぶ直線が地面となす角度をθとするとき、前記基準姿勢において、
θ≧5°
に設定されている、
ことを特徴とするシューズのソール。
【請求項2】
請求項1において、
前記基準姿勢において、前記ソール上面に沿って前記踵中心位置から後方側領域と、前記ソール上面に沿って前記中足趾節関節位置から前方側領域において、前記ソール下面が地面から離れている、
ことを特徴とするシューズのソール。
【請求項3】
請求項1において、
前記中足趾節関節位置における圧縮剛性が前記踵部における圧縮剛性より低くなっている、
ことを特徴とするシューズのソール。
【請求項4】
請求項1において、
ソールの内部には、湾曲しつつ連続して延びる湾曲プレートが配設されており、前記湾曲プレートが、少なくとも、前記踵中心位置および前記中足趾節関節位置に延在している、
ことを特徴とするシューズのソール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズのソールに関し、詳細には、走行時にフォアフット走法を自然に促すことができかつ持続可能にすることができるとともに、フォアフット走行時の走行効率を高めることができるようにするための構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、長距離を効率よく走る上で、足の前足部(フォアフット)から着地するフォアフット走法が主流になってきている。フォアフット走法は、ひざへの負担を軽減できるとともに、接地時間が短くなって筋肉への負担を和らげることができるといった利点がある。フォアフット走行時には、アキレス腱およびふくらはぎの筋肉のばね的ふるまい(すなわち、筋肉の収縮/弛緩およびアキレス腱の伸び縮み)を上手に利用することにより、効率の良い動きを実現して、優れたランニングエコノミー(Running Economy)を達成できると考えられている。ここで、ランニングエコノミーとは、ある速度帯をいかに少ないエネルギー(酸素摂取量)で走ることができるかという指標であって、ランニングエコノミーが優れている(つまり高い)ほど、酸素摂取量が少なく、効率のよい走りが実現できていることになる。
【0003】
しかしながら、フォアフット走法の習得には、一定レベル以上のスキルが要求される。具体的には、まず、接地直前の局面において、前足部/中足部で接地できるようにするための接地スキルが必要であり、次に、接地中の局面において、踵の落ち込み(降下)を抑えて筋腱の引き伸ばしに耐え得る脚力(筋力および持久力)が必要になるとともに、足首のロックが必要になる。そのため、初級ランナーにとってフォアフット走法の習得は容易ではなく、フォアフット走法を持続的に行えるかは、主にランナーの能力に委ねられていた。
【0004】
ところで、踵の落ち込み時に踵をサポートするために、ソールに高剛性のプレート(たとえばCFRP製プレート)を内蔵したものが実用に供されている。このようなソールにおいては、荷重が前足部に移動した際に、プレートの前足部位が下方に押される結果、シーソー効果によってプレートの踵部位が上方に持ち上げられることにより、踵をサポートするようになっている。
【0005】
しかしながら、このようなプレート内蔵のソールは、ソール単体としてフォアフット走法を自然に促すようには構成されておらず、フォアフット走法を持続可能にするには不十分であった。
【0006】
そこで、本願出願人により、フォアフット走法を実現するためのシューズのソールとして、特開2020-163084号公報に示すようなものが提案されている(同公報の段落[0020]~[0024]、[0028]~[0030]、
図9参照)。このソールにおいては、足裏当接側の面の最後端の位置を原点とし、足裏当接側の面に沿って測ったつま先先端の位置までの道程をLとし、足裏当接側の面における踵底面を水平面と平行に配置した状態で、原点から0.16×Lの位置Shのソール厚みをh、(0.3~0.5)×Lの位置Sm2のソール厚みをm2、(0.4~0.6)×Lの位置Sm1(ただし、m1はSm2よりも前方に配置)のソール厚みをm1、0.7×Lの位置Sfのソール厚みをfとするとき、m2≧m1 かつ m1≧f かつ m1≧hの関係式が成立するとともに、位置Sm1と位置Shを結ぶ線が水平面となす角度をθ1とし、位置Sm1から引いた鉛直線が接地面と交わる位置をSm1’、位置Shから引いた鉛直線が前記接地面と交わる位置をSh’として、位置Sm1’と位置Sh’を結ぶ線が水平面となす角度をθ2とするとき、θ2≧θ1の関係式が成立しており、接地面が前足部において下に凸の湾曲形状を有している。
【0007】
上記公報に記載のソールによれば、原点から0.16×Lの位置Shのソール厚みhが、原点から(0.4~0.6)×Lの位置Sm1のソール厚みm1よりも小さくなっており、しかも、位置Sm1’と位置Sh’を結ぶ線が水平面となす角度θ2が、位置Sm1と位置Shを結ぶ線が水平面となす角度θ1よりも大きくなっており、これにより、着地時に踵が接地せず、ヒールストライクを生じさせないようにして、着地時に前足部での接地を促進できる。また、位置Sm2のソール厚みm2が位置Sm1のソール厚みm1よりも大きくなっており、これにより、ソール接地面上の位置Sm1’で初期接地したとき、ソールが後方に傾いて踵が下方に落ち込むのを規制して、初期接地後に速やかにソールの前方への転がりに移行することができる。さらに、原点から0.7×Lの位置Sfのソール厚みfが、位置Sm1のソール厚みm1よりも小さくなっており、しかも、ソール接地面が前足部において下に凸の湾曲形状を有しており、これにより、ソールの前方への転がりがスムーズに行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願出願人は、フォアフット走法を実現するためのソールについてさらに鋭意研究を重ねた結果、走行時にフォアフット走法を自然に促すことができるようにするとともに、フォアフット走法を持続可能にするためには、上記公報に記載のソールにおいてさらに改良の余地があることを見出した。
【0009】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、走行時にフォアフット走法を自然に促すことができかつ持続可能にすることができるとともに、フォアフット走行時の走行効率を高めることができるシューズのソールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るシューズのソールは、踵部からつま先部まで延設され、ソール上面およびソール下面を有するとともに、ソール上面の最後端の位置とつま先先端の位置を結ぶ直線を基準線Sとし、最後端の位置を原点Oとして原点Oからソール上面に沿って測ったつま先先端の位置までの道程をLとし、ソール上面に沿って原点Oから0.45×Lの位置を通って基準線Sと直交する線とソール下面との交点をCとし、ソールが点Cで地面と接地したソール姿勢を基準姿勢とするとき、基準姿勢において、踵部およびつま先部におけるソール下面が地面から離れており、また、ソール上面に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置と原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置とを結ぶ直線が地面となす角度をθとするとき、基準姿勢において、θ≧5°に設定されている。
【0011】
本発明によれば、ソール構造体が原点Oから0.45×Lの位置に対応する点Cで地面と接地した基準姿勢において、踵部およびつま先部のソール下面が地面から離れている(つまり浮いている)ので、意図しない踵部の地面接触を防止し、自然なフォアフットを促して持続可能にすることができとともに、踵部からつま先部に向かってスムーズな重心移動を実現できる。また、足関節よりも前方側で原点Oから0.45×Lの位置の点Cで接地するので、筋腱のばね的ふるまいを行えるようにし、負荷を低減して走行効率を向上できる。
【0012】
さらに、本発明によれば、ソール上面に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置と原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置とを結ぶ直線が地面となす角度をθとするとき、基準姿勢において、θ≧5°に設定されているので、ソールの前足部に対して踵部を上方に配置して(つまりヒールアップの状態にして)、フォアフット姿勢に合致させることができ、これにより、接地時からソール下面による自然な支持効果を発揮できるようになるとともに、接地時における踵部の過度の落ち込みを防止して、接地後に踵部から前足部への乗り換えをスムーズに行えるようになる。
【0013】
なお、ソール下面において点Cに相当する位置に凹部や溝等が形成されている場合には、凹部や溝等の前後開口縁部を滑らかに結んでできる仮想面を仮想ソール下面として、当該仮想ソール下面上で点Cを決定するようにする。
【0014】
ここで、上述した特開2020-163084号公報に示すソールについて、本発明における基準姿勢を適用すると、点Cが踵寄りの位置に配置される場合が生じ、その場合、ソールの踵部が下方に落ち込んで後傾姿勢となる。このとき、足関節より踵側で地面接触を起こしやすくなり、その結果、筋腱のばね的ふるまいができなくなって、フォアフットを実現できなくなる。また、角度θに関しては、ソールが後傾姿勢となることで、θ≧5°を満足することができなくなる。
【0015】
本発明では、基準姿勢において、ソール上面に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置から後方側領域と、ソール上面に沿って原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置から前方側領域において、ソール下面が地面から離れている。
【0016】
本発明では、中足趾節関節位置における圧縮剛性が踵部における圧縮剛性より低くなっている。これにより、ソールの踵部における過度の降下を防止して、中足趾節関節位置に向かう体重移動を容易に行えるようになる。ここで、「圧縮剛性」とは、圧縮荷重に対する変形のしにくさを表す概念であって、同じ圧縮荷重を作用させた際、圧縮剛性が高いものは変形量が小さく、圧縮剛性が低いものは変形量が大きい。
【0017】
本発明では、
ソールの内部には、湾曲しつつ連続して延びる湾曲プレートが配設されており、前記湾曲プレートが、少なくとも、前記踵中心位置および前記中足趾節関節位置に延在している。これにより、ソールの踵部の降下によるエネルギーロスの発生を防止できるとともに、つま先への体重移動時に踵部の挙上を助長して、走行時の推進をサポートできるようになる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係るスポーツシューズのソールによれば、走行時にフォアフット走法を自然に促すことができかつ持続可能にすることができるとともに、フォアフット走行時の走行効率を高めることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施例によるソールを前方側上方から見た全体斜視図である。
【
図2】前記ソール(
図1)を後方側上方から見た全体斜視図である。
【
図4】前記ソール(
図1)を採用したシューズの側面概略図である。
【
図5】
図4中のソールの形状の詳細を説明するための側面図である。
【
図6】
図4のソールとはソール下面形状が異なるソールの側面概略図である。
【
図7】
図6中のソールの形状の詳細を説明するための側面図である。
【
図8】前記シューズ(
図4)の走行時の状態を説明するための図であって、地面に対するシューズの動きを(a)~(d)の順に時系列的に示している。
【
図9】従来の一般的なシューズの走行時の状態を説明するための図であって、地面に対するシューズの動きを(a)~(d)の順に時系列的に示している。
【
図10】本発明の第1の変形例によるソールの非荷重時の状態を示す側面概略図である。
【
図11】前記ソール(
図10)の荷重時の状態を示す側面概略図である。
【
図12】本発明の第2の変形例によるソールの非荷重時の状態を示す側面概略図である。
【
図13】前記ソール(
図12)の荷重時の状態を示す側面概略図である。
【
図14】本発明の第3の変形例によるソールの非荷重時の状態を示す側面概略図である。
【
図15】前記ソール(
図14)の荷重時の状態を示す側面概略図である。
【
図16】本発明の第4の変形例によるソールの側面概略図であって、前記実施例の
図5に相当する図である。
【
図17】前記ソール(
図16)を採用したシューズの走行時の状態を説明するための図であって、地面に対するシューズの動きを(a)~(d)の順に時系列的に示している。
【
図18】本発明の第5の変形例によるソールの側面概略図であって、前記実施例の
図5に相当する図である。
【
図19】前記ソール(
図18)に設けられた湾曲プレートを前方側上方から見た全体斜視図である。
【
図20】前記湾曲プレート(
図19)を後方側上方から見た全体斜視図である。
【
図22】前記ソール(
図18)を採用したシューズの走行時の状態を説明するための図であって、地面に対するシューズの動きを(a)~(d)の順に時系列的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1ないし
図9は、本発明の一実施例によるシューズのソールを説明するための図である。これらの図において、
図1ないし
図3はソールの外観を示す図、
図4ないし
図7はソールの側面形状を示す図、
図8はシューズの走行時の状態を時系列的に示す図であり、
図9は
図8との対比のために従来のシューズの走行時の状態を時系列的に示す図である。なお、
図1ないし
図3では、図示の便宜上、背景をグレーに着色して示している。また、ここでは、シューズとしてスポーツシューズ、とくに中長距離用のランニングシューズを例にとる。
【0021】
なお、以下の説明中、上方(上側/上)および下方(下側/下)とは、シューズの上下方向の位置関係を表し、前方(前側/前)および後方(後側/後)とは、シューズの前後方向の位置関係を表しており、幅方向とはシューズの左右方向を指すものとする。すなわち、上方および下方は、
図4を例にとった場合、同図の上方および下方をそれぞれ指しており、前方および後方は、同図の右方および左方をそれぞれ指しており、幅方向は、同図の紙面奥行方向を指している。
【0022】
図1ないし
図3に示すように、ソール1は、上側に配置されたミッドソール2と、その下側に配置されたアウトソール3とを有している。ソール1の上面(ソール上面)20は、ミッドソール2の足裏当接側の面20により形成されており、ソール1の下面(ソール下面)31は、アウトソール3の接地面31により形成されている。
【0023】
図4に示すように、シューズSHは、ソール1の上側にアッパーUを接着や縫製等で固着することにより構成されている。ソール1のアウトソール3は、ミッドソール2の下面21に接着等で固着されている。ミッドソール2およびアウトソール3は、ソール1の踵部(
図4中の左端部)からつま先部(同図中の右端部)まで延設されている。
【0024】
ミッドソール2は軟質弾性部材から構成されており、具体的には、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂やその発泡体、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂やその発泡体、またはブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材やその発泡体から構成されている。アウトソール3は硬質弾性部材から構成されており、具体的には、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、またはラバーから構成されている。
【0025】
図4に示すように、ソール上面20の最後端(踵後端)の位置S
0とつま先先端の位置Seを結ぶ直線を基準線Sとする。ここで、ソール上面20は、シューズSHの組立時に使用するラスト(靴型)の底面の形状と一致している。次に、最後端の位置S
0を原点Oとして原点Oからソール上面20に沿って測ったつま先先端の位置Seまでの道程をLとし、ソール上面20に沿って原点Oから0.45×Lの位置20mを通って基準線Sと直交する線とソール下面31との交点をCとする。同図では、位置20mを通って基準線Sと直交する線と基準線Sとの交点がSpで示されている。ソール1が点Cで地面Rと接地したソール姿勢を基準姿勢とするとき、基準姿勢において、踵部およびつま先部におけるソール下面31が地面Rから離れている(つまり浮いている)。
【0026】
また、
図5に示すように、ソール上面20に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置20hと原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置20jとを結ぶ直線Tが地面Rとなす角度(鋭角)をθとするとき、基準姿勢において、
θ≧5°
に設定されている。
【0027】
さらに、
図5に示すように、基準姿勢において、好ましくは、ソール上面20に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置20hから後方側領域と、ソール上面20に沿って原点Oから0.68×Lの位置20jにある中足趾節関節位置から前方側領域において、ソール下面31が地面から離れている。また、より好ましくは、ソール上面20に沿って原点Oから0.25×Lの位置から後方側領域と、ソール上面20に沿って原点Oから0.60×Lの位置から前方側領域において、ソール下面31が地面から離れている。
【0028】
図4および
図5では、点Cがソール下面31上に実在している例が示されているが、
図6および
図7に示すように、点Cに対応する位置において、アウトソール3に貫通孔(または凹部)3aが形成(各図ではさらにミッドソール2にも凹部2aが形成)されている場合には、貫通孔3aの開口縁部をソール下面つまりアウトソール3の下面31に沿って前後方向に滑らかに結んでできる仮想面を仮想ソール下面31’として、位置20mを通り基準線Sと直交する線と仮想ソール下面31’との交点をCとする。
【0029】
また、
図7に示すように、この場合においても、ソール上面20に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置20hと原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置20jとを結ぶ直線Tが地面Rとなす角度(鋭角)をθとするとき、基準姿勢において、
θ≧5°
に設定されている。
【0030】
さらに、
図7に示すように、基準姿勢においては、好ましくは、ソール上面20に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置20hから後方側領域と、ソール上面20に沿って原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置20jから前方側領域において、ソール下面31が地面から離れている。また、より好ましくは、ソール上面20に沿って原点Oから0.25×Lの位置から後方側領域と、ソール上面20に沿って原点Oから0.60×Lの位置から前方側領域において、ソール下面31が地面から離れている。
【0031】
ここで、ソール1の踵部、中足部および前足部を、原点Oからソール上面20に沿って測ったつま先先端の位置Seまでの道程Lを用いて表すと、以下のようになる。
i) 踵部: 0~0.25×L
ii) 中足部: 0.25×L~0.60×L
iii)前足部: 0.60×L~1.00×L
【0032】
次に、本実施例の作用効果について、
図4および
図5を参照しつつ、
図8を用いて説明する。
図8(a)は、ソール1の接地時の局面を示している。このとき、ソール1は点C(
図4、
図5)で地面Rと接地する基準姿勢を維持している。
【0033】
上述したように、ソール1が点C(
図4、
図5)で地面Rと接地した基準姿勢においては、踵部(好ましくは、
図4、
図5中、原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置20hから後方側領域)およびつま先部(好ましくは、
図4、
図5中、原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置20jから前方側領域)におけるソール下面31が地面Rから離れて配置されている(つまり地面Rから浮いている)。これにより、意図しない踵部の地面接触を防止できるとともに、自然なフォアフットを促して持続可能にすることができる。
【0034】
また、基準姿勢においては、上述したように、
図5中、ソール上面20に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置20hと原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置20jとを結ぶ直線が地面となす角度をθとするとき、不等式θ≧5°を満足している。これにより、ソール1において踵部を前足部に対して上方に配置して(つまりヒールアップの状態にして)、フォアフット姿勢に合致させることができる。
【0035】
図8(b)は、ソール1の接地直後の局面を示している。このとき、同図に示すように、ソール1の踵部は、距離dだけ地面R側に向かって落ち込むつまり降下するが、ソール1は、接地の際に足関節よりも前方側で原点Oから0.45×Lの位置の点C(
図4、
図5)で地面Rと接地した基準姿勢におかれているので(
図8(a)参照)、接地時からソール下面31による自然な支持効果を発揮できるだけでなく、シューズ着用者が足の筋腱のばね的ふるまいを行うことができ、これにより、踵部の過度の落ち込みを防止して降下量dを小さくでき、シューズ着用者への負荷を低減して走行効率を向上できる。
【0036】
その結果、ソール1の接地後、踵部を持ち上げるまでの距離を短くすることができ、速やかに
図8(c)の踵部持ち上げの局面に移行することができる(同図中、符号uは踵部の持上げ量を示している)。このようにして、接地後に踵部から前足部への乗り換えをスムーズに行えるようになり、踵部からつま先部に向かってスムーズな重心移動を実現することができる。
【0037】
図8(d)は、シューズSHのつま先での蹴り出し直後の局面を示しており、シューズSHが地面Rから離地した局面を示している。
【0038】
ここで、比較のために、従来の一般的なシューズの走行時の状態を
図9に示す。同図においては、
図8と同様に、地面に対するシューズの動きを(a)~(d)の順に時系列的に示している。
図9中の各局面(a)~(d)は、
図8中の各局面(a)~(d)にそれぞれ対応している。また、
図9中、
図8と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0039】
図9(a)は、ソール1’の接地時の局面を示している。同図には、本実施例との対比のために、ソール下面31’が中足部または前足部において地面Rと接地した状態が示されている。
【0040】
図9(b)は、ソール1’の接地直後の局面を示している。このとき、同図に示すように、ソール1’の踵部は、距離d’だけ地面R側に向かって落ち込む(つまり降下する)が、d’>dとなっており、踵部の降下量d’は、本実施例における降下量d(
図8(b))より大きくなっている。
【0041】
その理由は以下のとおりである。
本実施例の場合には、上述したように、ソール1の接地の際、足関節よりも前方側で原点Oから0.45×Lの位置の点C(
図4、
図5)で地面Rと接地した基準姿勢におかれていて、このとき、踵部およびつま先部においてソール下面31が地面Rから離れているとともに(
図4、
図5参照)、ソール上面20に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置と原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置とを結ぶ直線が地面Rとなす角度θがθ≧5°に設定されているので(
図5参照)、接地時からソール下面31による自然な支持効果を発揮できるだけでなく、シューズ着用者が足の筋腱のばね的ふるまいを行うことができ、これにより、踵部の過度の落ち込みを防止して降下量dを小さくできるのに対して、従来の一般的なシューズの場合には、このような基準姿勢に基いたソール形状を有しておらず、その結果、接地直後の踵部の過度の落ち込みを規制することができないからである。
【0042】
図9(c)は、接地後において踵部持ち上げの局面を示している。この場合には、同図(b)の局面で踵部の降下量d’が大きいために、踵部の持上げ量u’が大きくなっており(u’>u)、その結果、同図(b)の局面から速やかに同図(c)の踵部持ち上げの局面に移行することができない。その結果、接地後に踵部から前足部への乗り換えをスムーズ行うことができず、踵部からつま先部に向かってスムーズな重心移動を実現することができない。また、踵部の降下量d’が大きくなることにより、シューズ着用者への負荷が大きく、走行効率を向上できない。これに対して、本実施例では、足の筋腱のばね的ふるまいを行うことにより、踵部の過度の落ち込みを防止して降下量dを小さくできるので、シューズ着用者への負荷を低減でき、走行効率を向上できる。
【0043】
図9(d)は、シューズSHのつま先での蹴り出し直後の局面を示しており、シューズSH’が地面Rから離地した局面を示している。
【0044】
次に、
図10および
図11は、本発明の第1の変形例によるソールの非荷重時および荷重時の状態をそれぞれ示しており、各図において、前記実施例と同一符号は同一または相当部分を示している。なお、各図においては、図示の便宜上、前記実施例におけるアウトソール3を省略して示している。
【0045】
前記実施例では、ミッドソール2が踵部からつま先部に至るまで全長にわたって実質的に同一の圧縮剛性を有している例を示したが、この第1の変形例においては、ミッドソール2の圧縮剛性が前足部で低く、これよりも後方側の中足部および踵部で高くなっており、好ましくは、ミッドソール2の圧縮剛性は中足趾節関節位置20jで低く、踵部で高くなっている。ここで「圧縮剛性」とは、圧縮荷重に対する変形のしにくさを表す概念であって、同じ圧縮荷重を作用させた際、圧縮剛性が高いものは変形量が小さく、圧縮剛性が低いものは変形量が大きい。したがって、ミッドソール2は前足部側(好ましくは中足趾節関節位置20j)で柔らかく、中足部側および踵部側で硬くなっている。ミッドソール2の前足部において相対的に低圧縮剛性にする手法としては、たとえば、発泡材の発泡倍率を前足部において相対的に高くしたり、前足部に多数の穴を穿孔したりすることなどが挙げられる。
【0046】
図10に示す非荷重の状態からソール1に圧縮荷重が作用すると、
図11に示すように、ミッドソール2の前足部が中足部および踵部より大きく下方に変形(圧縮変形)して、ソール上面20が前足部側において相対的に大きく下方に降下する。その結果、踵中心位置20hと中足趾節関節位置20jとの上下方向の間隔は、
図10に示すeからe’(>e)に変化するとともに、踵中心位置20hと中足趾節関節位置20jとを結ぶ直線Tが地面Rとなす角度は、
図10に示すθからθ’(>θ)に変化する。
【0047】
これにより、着用者の足に対する支持角度が大きくなって、ソール接地後の踵部の過度の降下を防止でき、前方への体重移動をスムーズに行えるようになる。
【0048】
次に、
図12および
図13は、本発明の第2の変形例によるソールの非荷重時および荷重時の状態をそれぞれ示しており、各図において、前記実施例および前記第1の変形例と同一符号は同一または相当部分を示している。なお、各図においては、図示の便宜上、前記実施例におけるアウトソール3を省略して示している。
【0049】
前記実施例では、ミッドソール2が単一層のミッドソールから構成されるとともに、ミッドソール2が踵部からつま先部に至るまで全長にわたって実質的に同一の圧縮剛性を有している例を示したが、この第2の変形例においては、ミッドソール2が、上方に配置された上部ミッドソール2aと、下方に配置された下部ミッドソール2bとから構成され、上下部ミッドソール2a、2bが各々の界面22で接着または固着されるとともに、上部ミッドソール2aの圧縮剛性が前足部(好ましくは中足趾節関節位置20j)で低く、これよりも後方側の中足部および踵部で高くなっており、下部ミッドソール2bの圧縮剛性が全長にわたって上部ミッドソール2aの中足部および踵部の剛性と実質的に同一になっている。したがって、上部ミッドソール2aは前足部側で相対的に柔らかく、中足部側および踵部側で相対的に硬くなっている。
【0050】
図12に示す非荷重の状態からソール1に圧縮荷重が作用すると、
図13に示すように、上部ミッドソール2aの前足部が中足部および踵部より大きく下方に変形(圧縮変形)して、ソール上面20が前足部側において相対的に大きく下方に降下する(同図中、一点鎖線は
図12における非荷重時の状態を示している)。その結果、踵中心位置20hと中足趾節関節位置20jとの上下方向の間隔は、
図12に示すeからe’(>e)に変化するとともに、踵中心位置20hと中足趾節関節位置20jとを結ぶ直線Tが地面Rとなす角度は、
図12に示すθからθ’(>θ)に変化する。
【0051】
これにより、着用者の足に対する支持角度が大きくなって、ソール接地後の踵部の過度の降下を防止でき、前方への体重移動をスムーズに行えるようになる。
【0052】
次に、
図14および
図15は、本発明の第3の変形例によるソールの非荷重時および荷重時の状態をそれぞれ示しており、各図において、前記実施例および前記第1、第2の変形例と同一符号は同一または相当部分を示している。なお、各図においては、図示の便宜上、前記実施例におけるアウトソール3を省略して示している。
【0053】
前記実施例では、ミッドソール2が単一層のミッドソールから構成されるとともに、ミッドソール2が踵部からつま先部に至るまで全長にわたって実質的に同一の圧縮剛性を有している例を示したが、この第3の変形例においては、ミッドソール2が、上方に配置された上部ミッドソール2aと、下方に配置された下部ミッドソール2bとから構成され、上下部ミッドソール2a、2bが各々の界面22で接着または固着されるとともに、下部ミッドソール2bの圧縮剛性が前足部(好ましくは中足趾節関節位置20jに対応する下方位置)で低く、これよりも後方側の中足部および踵部で高くなっており、上部ミッドソール2aの剛性が全長にわたって下部ミッドソール2bの中足部および踵部の剛性と実質的に同一になっている。したがって、下部ミッドソール2bは前足部側で相対的に柔らかく、中足部側および踵部側で相対的に硬くなっている。
【0054】
図14に示す非荷重の状態からソール1に圧縮荷重が作用すると、
図15に示すように、下部ミッドソール2bの前足部が中足部および踵部より大きく下方に変形(圧縮変形)して、ソール上面20が前足部側において相対的に大きく下方に降下する(同図中、一点鎖線は
図14における非荷重時の状態を示している)。その結果、踵中心位置20hと中足趾節関節位置20jとの上下方向の間隔は、
図14に示すeからe’(>e)に変化するとともに、踵中心位置20hと中足趾節関節位置20jとを結ぶ直線Tが地面Rとなす角度は、
図14に示すθからθ’(>θ)に変化する。
【0055】
これにより、着用者の足に対する支持角度が大きくなって、ソール接地後の踵部の過度の降下を防止でき、前方への体重移動をスムーズに行えるようになる。
【0056】
図16および
図17は、本発明の第4の変形例によるソールを説明するための図であって、
図16はソールの側面形状を示す図、
図17はシューズの走行時の状態を時系列的に示す図である。各図において、前記実施例および前記第1の変形例と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0057】
図16に示すように、ソール1のミッドソール2の内部には、湾曲プレートPが設けられている。ここでは、図示の便宜上、湾曲プレートPが太線で示されている。また、この例では、湾曲プレートPの側面がミッドソール2の側面に現われたものが示されているが、これとは異なり、湾曲プレートPの側面がミッドソール2の側面に現われないように、湾曲プレートPはミッドソール2に内蔵されることにより、ミッドソール2の側面に現われないようにしてもよい。
【0058】
湾曲プレートPは、
図16に示すように、原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置20hを始点とし、原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置20jを終点とする領域まで湾曲しつつ前後方向に延びている。すなわち、湾曲プレートPは、位置20hから前方に向かって略直線状またはわずかに上凸状に湾曲しつつ緩やかに斜め下方に延びるとともに、位置20mまたはその近傍位置において下凸状に変化しつつ、位置20jに向かって前方に略直線状に延びている。湾曲プレートPは、上下方向の弾性を有している。
【0059】
湾曲プレートPは、薄肉のシート状部材であって、その厚みはたとえば1~2mm程度である。湾曲プレートPは、たとえばインサート成形によりミッドソール2の内部に装着される。なお、ミッドソール2が上下部ミッドソールの2層から構成される場合には、各ミッドソールの界面に湾曲プレートPを接着するようにしてもよい。
【0060】
湾曲プレートPは、たとえば、比較的弾性に富む素材である熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂あるいはエポキシ樹脂等や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂から構成されている。また、湾曲プレートPの素材としては、たとえば炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等を強化用繊維とし、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック(FRP)を用いるようにしてもよい。
【0061】
次に、本発明の第4の変形例の作用効果について、
図16を参照しつつ、
図17を用いて説明する。
図17(a)は、ソール1の接地時の局面を示している。このとき、ソール1は点C(
図16)で地面Rと接地する基準姿勢を維持している。
【0062】
ソール1が点C(
図16)で地面Rと接地した基準姿勢においては、踵部(好ましくは、同図中の踵中心位置20hから後方側領域)およびつま先部(好ましくは、同図中の中足趾節関節位置20jから前方側領域)におけるソール下面31が地面Rから離れて配置されている(つまり地面Rから浮いている)。これにより、意図しない踵部の地面接触を防止できるとともに、自然なフォアフットを促して持続可能にすることができる。
【0063】
また、基準姿勢においては、
図16中、ソール上面20に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置20hと原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置20jとを結ぶ直線Tが地面となす角度をθとするとき、不等式θ≧5°を満足している。これにより、ソール1において踵部を前足部に対して上方に配置して(つまりヒールアップの状態にして)、フォアフット姿勢に合致させることができる。
【0064】
図17(b)は、ソール1の接地直後の局面を示している。このとき、同図に示すように、ソール1の踵部は、距離d
1だけ地面R側に向かって落ち込むつまり降下するが、ソール1は、接地の際に足関節よりも前方側で原点Oから0.45×Lの位置の点C(
図16)で地面Rと接地した基準姿勢におかれているので(
図17(a)参照)、接地時からソール下面31による自然な支持効果を発揮できるだけでなく、シューズ着用者が足の筋腱のばね的ふるまいを行うことができ、これにより、踵部の過度の落ち込みを防止して降下量d
1を小さくでき、シューズ着用者への負荷を低減して走行効率を向上できる。
【0065】
さらに、この場合には、ミッドソール2の内部に設けられた湾曲プレートPにより、ソール1の踵部に作用した荷重を支持することができ、足の筋腱のばね的ふるまいを助長できるので、踵部の降下量d
1をさらに低減でき(つまりd
1<d(
図8参照))、シューズ着用者への負荷を一層低減して、走行効率をさらに向上できる。
【0066】
その結果、ソール1の接地後、踵部を持ち上げるまでの距離を短くすることができ、速やかに
図17(c)の踵部持ち上げの局面に移行することができる。同図中、符号u
1は踵部の持上げ量を示しており、u
1<u(
図8参照)となっている。また、
図17(b)から
図17(c)への体重移動時には、湾曲プレートPの先端側に荷重が作用する(すなわち、着用者が湾曲プレートPの先端側を踏む)ことにより、シーソー効果によって、湾曲プレートPの後端側が上方に持ち上がるので(
図17(b)中の白抜き矢印参照)、踵部の降下を速やかに防止することができる。このようにして、接地後に踵部から前足部への乗り換えをスムーズに行えるようになり、踵部からつま先部に向かってスムーズな重心移動を実現することができる。
【0067】
図17(d)は、シューズSHのつま先での蹴り出し直後の局面を示しており、シューズSHが地面Rから離地した局面を示している。
【0068】
図18ないし
図22は、本発明の第5の変形例によるソールを説明するための図であって、
図18はソールの側面形状を示す図、
図19ないし
図21は湾曲プレートの外形図、
図22はシューズの走行時の状態を時系列的に示す図である。各図において、前記実施例および前記第4の変形例と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0069】
図18に示すように、ソール1のミッドソール2の内部には、湾曲プレートPが設けられている。ここでは、図示の便宜上、湾曲プレートPが太線で示されている。また、この例では、湾曲プレートPの側面がミッドソール2の側面に現われたものが示されているが、これとは異なり、湾曲プレートPの側面がミッドソール2の側面に現われないように、湾曲プレートPはミッドソール2に内蔵されることにより、ミッドソール2の側面に現われないようにしてもよい。
【0070】
湾曲プレートPは、
図18に示すように、原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置20hを始点とし、原点Oから0.90×Lの位置20kを終点とする領域(つま先近傍領域)まで湾曲しつつ前後方向に延びている。すなわち、湾曲プレートPは、位置20hから前方に向かって略直線状またはわずかに上凸状に湾曲しつつ緩やかに斜め下方に延びるとともに、位置20mまたはその近傍位置において下凸状に変化しつつ、位置20kに向かって下凸状に緩やかに湾曲しつつ延びている(
図21参照)。湾曲プレートPは、上下方向の弾性を有している。
【0071】
湾曲プレートPは、薄肉のシート状部材であって、その厚みはたとえば1~2mm程度である。湾曲プレートPは、たとえばインサート成形によりミッドソール2の内部に装着される。なお、ミッドソール2が上下部ミッドソールの2層から構成される場合には、各ミッドソールの界面に湾曲プレートPを接着するようにしてもよい。また、
図19および
図20に示すように、湾曲プレートPは、その幅方向略中央部および前後方向略中央部において、上方に山状に隆起しつつ前後方向に延びる隆起部(またはリブ)Pbを有していてもよい。
【0072】
次に、本発明の第5の変形例の作用効果について、
図18を参照しつつ、
図22を用いて説明する。
図22(a)は、ソール1の接地時の局面を示している。このとき、ソール1は点C(
図18)で地面Rと接地する基準姿勢を維持している。
【0073】
ソール1が点C(
図18)で地面Rと接地した基準姿勢においては、踵部(好ましくは、同図中の踵中心位置20hから後方側領域)およびつま先部(好ましくは、同図中の中足趾節関節位置から前方側領域)におけるソール下面31が地面Rから離れて配置されている(つまり地面Rから浮いている)。これにより、意図しない踵部の地面接触を防止できるとともに、自然なフォアフットを促して持続可能にすることができる。
【0074】
また、基準姿勢においては、前記実施例および前記第4の変形例と同様に、ソール上面20に沿って原点Oから0.15×Lの位置にある踵中心位置20hと原点Oから0.68×Lの位置にある中足趾節関節位置とを結ぶ直線Tが地面となす角度をθとするとき、不等式θ≧5°を満足しているので、ソール1において踵部を前足部に対して上方に配置して(つまりヒールアップの状態にして)、フォアフット姿勢に合致させることができる。
【0075】
図18(b)は、ソール1の接地直後の局面を示している。このとき、同図に示すように、ソール1の踵部は、距離d
1だけ地面R側に向かって落ち込むつまり降下するが、ソール1は、接地の際に足関節よりも前方側で原点Oから0.45×Lの位置の点C(
図18)で地面Rと接地した基準姿勢におかれているので(
図22(a)参照)、接地時からソール下面31による自然な支持効果を発揮できるだけでなく、シューズ着用者が足の筋腱のばね的ふるまいを行うことができ、これにより、踵部の過度の落ち込みを防止して降下量d
1を小さくでき、シューズ着用者への負荷を低減して走行効率を向上できる。
【0076】
さらに、この場合には、ミッドソール2の内部に設けられた湾曲プレートPにより、ソール1の踵部に作用した荷重を支持することができ、足の筋腱のばね的ふるまいを助長できるので、踵部の降下量d
1をさらに低減でき(つまりd
1<d(
図8参照))、シューズ着用者への負荷を一層低減して、走行効率をさらに向上できる。また、湾曲プレートPに隆起部Pbが設けられていることで、湾曲プレートPの剛性が高められており、これにより、踵部の降下量d
1を一層低減できるようになる。
【0077】
その結果、ソール1の接地後、踵部を持ち上げるまでの距離を短くすることができ、速やかに
図22(c)の踵部持ち上げの局面に移行することができる。同図中、符号u
1は踵部の持上げ量を示しており、u
1<u(
図8参照)となっている。また、
図22(b)から
図22(c)への体重移動時には、湾曲プレートPの前足部側に荷重が作用する(すなわち、着用者が湾曲プレートPの前足部側を踏む)ことにより、シーソー効果によって、湾曲プレートPの後端側が上方に持ち上がるので(
図22(b)中の白抜き矢印参照)、踵部の降下を速やかに防止することができる。このようにして、接地後に踵部から前足部への乗り換えをスムーズに行えるようになり、踵部からつま先部に向かってスムーズな重心移動を実現することができる。
【0078】
また、
図22(c)の局面においては、湾曲プレートPの先端側に荷重が作用する(すなわち、着用者が湾曲プレートPの先端側を踏む)ことにより、さらなるシーソー効果によって、湾曲プレートPの後端側がさらに上方に持ち上がるので(
図22(c)中の白抜き矢印参照)、踵部の挙上を助長して、前方への推進をサポートすることができる。
【0079】
図22(d)は、シューズSHのつま先での蹴り出し直後の局面を示しており、シューズSHが地面Rから離地した局面を示している。この場合には、湾曲プレートPがつま先近傍領域まで延設されているので、つま先での蹴り出し時には、湾曲プレートPの弾性反発力の作用により、力強く地面Rを蹴って推進力を得ることができる。
【0080】
<その他の変形例>
上述した実施例および各変形例はあらゆる点で本発明の単なる例示としてのみみなされるべきものであって、限定的なものではない。本発明が関連する分野の当業者は、本明細書中に明示の記載はなくても、上述の教示内容を考慮するとき、本発明の精神および本質的な特徴部分から外れることなく、本発明の原理を採用する種々の変形例やその他の実施例を構築し得る。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上のように、本発明は、走行時にフォアフット走法を自然に促すことができかつ持続可能にすることができるとともに、フォアフット走行時の走行効率を高めることができるようにするためのシューズのソールに有用である。
【符号の説明】
【0082】
1: ソール
2: ミッドソール
20: 足裏当接側の面(ソール上面)
20h: 踵中心位置
20j: 中足趾節関節位置
3: アウトソール
31: 接地面(ソール下面)
S: 基準線
S0: 最後端の位置
Se: つま先先端の位置
L: 道程
C: 交点
P: 湾曲プレート
SH: スポーツシューズ(シューズ)
R: 地面
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特開2020-163084号公報(段落[0020]~[0024]、[0028]~[0030]、
図9参照)