IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 坂口電熱株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-面状流体加熱装置 図1
  • 特開-面状流体加熱装置 図2
  • 特開-面状流体加熱装置 図3
  • 特開-面状流体加熱装置 図4
  • 特開-面状流体加熱装置 図5
  • 特開-面状流体加熱装置 図6
  • 特開-面状流体加熱装置 図7
  • 特開-面状流体加熱装置 図8
  • 特開-面状流体加熱装置 図9
  • 特開-面状流体加熱装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096413
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】面状流体加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20230630BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
H05B3/20 379
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212165
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】591023734
【氏名又は名称】坂口電熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山森 詠未
【テーマコード(参考)】
3K034
4B029
【Fターム(参考)】
3K034AA02
3K034AA04
3K034AA10
3K034AA15
3K034AA34
3K034BB08
3K034BB13
3K034BC12
3K034HA08
3K034JA09
4B029AA12
4B029BB01
4B029DF01
(57)【要約】
【課題】流体が発熱部分と接触する面積が広い面状流体加熱装置を提供すること。
【解決手段】第1の熱可塑性樹脂基体と、第2の熱可塑性樹脂基体と、前記第1及び第2の熱可塑性樹脂基体の間に融着により形成された流路とを有し、
前記第1の熱可塑性樹脂基体に、抵抗発熱塗工層を備える面状発熱体が埋設されている面状流体加熱装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の熱可塑性樹脂基体と、第2の熱可塑性樹脂基体と、前記第1及び第2の熱可塑性樹脂基体の間に融着により形成された流路とを有し、
前記第1の熱可塑性樹脂基体に、抵抗発熱塗工層を備える面状発熱体が埋設されていることを特徴とする面状流体加熱装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の熱可塑性樹脂基体がポリエチレンからなり、
前記面状発熱体が、前記抵抗発熱塗工層が塗工された紙基材を備えることを特徴とする請求項1に記載の面状流体加熱装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の熱可塑性樹脂基体の間に融着により形成された流動阻害部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の面状流体加熱装置。
【請求項4】
前記流動阻害部が、前記面状発熱体の非発熱領域上に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の面状流体加熱装置。
【請求項5】
前記流動阻害部が、一方の隣接する櫛歯間に他方の櫛歯が位置するように相対する一対の櫛状に形成されており、
前記櫛歯が、テーパー状であることを特徴とする請求項3または4に記載の面状流体加熱装置。
【請求項6】
前記流路の長さが、流入口と流出口とを結ぶ直線の長さの1.4倍以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の面状流体加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面状流体加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラック等の導電性粒子とバインダー樹脂とを含む発熱塗料が塗工されてなる抵抗発熱層を有する面状発熱体が、床暖房、除霜、階段融雪、配管ヒータ等の様々な分野で利用されている。例えば、本発明者らは、特許文献1において、加熱時の温度ムラが少なく安定した加熱を効率良く行える面状発熱体、特許文献2において、従来のものと比較して高温の発熱が可能な水性発熱塗料とこれを利用した面状発熱体を提案している。
このような面状発熱体を利用した、液体、気体等の流体を加熱する流体加熱装置が知られており、通常、パイプの外面に面状発熱体を巻き付けることにより、形成されている。しかし、このような従来の面状発熱体は、パイプの断面積に対する発熱する部分である円周の比(半径rとして、2πr/πr=2/r)を大きくして効率的に加熱するにはパイプを細くするしかなく、パイプを細くすると流体の搬送性が低下してしまう。
【0003】
また、微生物やヒト由来細胞等の培養は、特定の温度域(例えば、ヒト由来細胞では37℃近傍であり、42℃以上となると細胞が破壊される)で行うための加熱装置が用いられている。このような培養時の加熱装置として、コンタミネーション(培養時の雑菌の混入・増殖による汚染)の発生を防ぐために、1回しか利用しない(シングルユース)ものが求められており、安価なものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-110757号公報
【特許文献2】特許第6927612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流体が発熱部分と接触する面積が広い面状流体加熱装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解消するためのものであり、具体的な手段は以下の通りである。1.第1の熱可塑性樹脂基体と、第2の熱可塑性樹脂基体と、前記第1及び第2の熱可塑性樹脂基体の間に融着により形成された流路とを有し、
前記第1の熱可塑性樹脂基体に、抵抗発熱塗工層を備える面状発熱体が埋設されていることを特徴とする面状流体加熱装置。
2.前記第1及び第2の熱可塑性樹脂基体がポリエチレンからなり、
前記面状発熱体が、前記抵抗発熱塗工層が塗工された紙基材を備えることを特徴とする1.に記載の面状流体加熱装置。
3.前記第1及び第2の熱可塑性樹脂基体の間に融着により形成された流動阻害部を有することを特徴とする1.または2.に記載の面状流体加熱装置。
4.前記流動阻害部が、前記面状発熱体の非発熱領域上に形成されていることを特徴とする3.に記載の面状流体加熱装置。
5.前記流動阻害部が、一方の隣接する櫛歯間に他方の櫛歯が位置するように相対する一対の櫛状に形成されており、
前記櫛歯が、テーパー状であることを特徴とする3.または4.に記載の面状流体加熱装置。
6.前記流路の長さが、流入口と流出口とを結ぶ直線の長さの1.4倍以上であることを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の面状流体加熱装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の面状流体加熱装置は、面状であり、流体が発熱部分と接触する面積が広いため、効率的に加熱することができる。
紙とポリエチレンを主材料とする本発明の面状流体加熱装置は、紙とポリエチレンとを強固に融着することができるため、層間剥離が生じにくい。紙とポリエチレンを主要材料とする本発明の面状流体加熱装置は、非常に安価であり、また、γ線照射による滅菌が可能であるため、微生物や細胞の培養液や輸液の加温に好適に用いることができ、また、シングルユース用途に好適に用いることができる。
本発明の面状流体加熱装置は、流動阻害部を形成することにより、流路の形状を制御することができる。特に、流動阻害部が、一方の隣接する櫛歯間に他方の櫛歯が位置するように相対する一対の櫛状に形成され、櫛歯がテーパー状である本発明の面状流体加熱装置は、流体として液体やゾルを流す際に泡が抜けやすいため、空焚きを防止することができ、面状発熱体の異常加熱を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一実施態様例である面状流体加熱装置の分解図。
図2】本発明の第一実施態様例である面状流体加熱装置の概略図。
図3】本発明の第一実施態様例である面状流体加熱装置が備える面状発熱体の概略図。
図4】本発明の第一実施態様例である面状流体加熱装置に流体が流れる様を示す図。
図5】本発明の第二実施態様例である面状流体加熱装置の概略図。
図6】本発明の第二実施態様例である面状流体加熱装置が備える面状発熱体の概略図。
図7】本発明の第二実施態様例である面状流体加熱装置を吊り下げた状態で流体が流れる様を示す図。
図8】本発明の第三実施態様例である面状流体加熱装置の概略図。
図9】本発明の第三実施態様例である面状流体加熱装置が備える面状発熱体の概略図。
図10】本発明の第三実施態様例である面状流体加熱装置に流体が流れる様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「第一実施態様」
図1、2に本発明の第一実施態様である面状流体加熱装置100の分解図と概略図、図3に面状流体加熱装置100が備える面状発熱体14の概略図、図4に面状流体加熱装置100における流体の流れを示す。
【0010】
面状流体加熱装置100は、第一の熱可塑性樹脂基体11、第二の熱可塑性樹脂基体12と、その間に融着により形成された流路13と、第一の熱可塑性樹脂基体11に埋設された面状発熱体14を有する。第一の熱可塑性樹脂基体11と第二の熱可塑性樹脂基体12は融着により一体化して、面状流体加熱装置100を形成している。
第一の熱可塑性樹脂基体11と第二の熱可塑性樹脂基体12の間には融着により、複数の流動阻害部133が設けられている。流路13は、流動阻害部133により流入口131から流出口132まで4回折り返すように形成されている。
【0011】
第一の熱可塑性樹脂基体11は、第一の熱可塑性樹脂シート111と第二の熱可塑性樹脂シート112とを備え、第二の熱可塑性樹脂基体12から遠い方から、第一の熱可塑性樹脂シート111/面状発熱体14/第二の熱可塑性樹脂シート112がこの順に積層されている。第一及び第二の熱可塑性樹脂シート111、112が、その間に面状発熱体14を挟持した状態で熱融着されることにより一体化して、第1の熱可塑性樹脂基体11を形成する。
面状発熱体14は、紙基材141と紙基材141上に形成された抵抗発熱塗工層142とを備える。抵抗発熱塗工層142は、流路13側となるように設けられている。
【0012】
「熱可塑性樹脂基体、熱可塑性樹脂シート」
第一、第二の熱可塑性樹脂基体11、12、また、第一の熱可塑性樹脂シート111と第二の熱可塑性樹脂シート112は、いずれも熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂としては特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂、フッ素樹脂等を使用することができ、また、互いに熱融着可能な異なる種類の熱可塑性樹脂を組み合わせて用いることもできる。これらの中で、安価でγ線照射による滅菌処理が可能なポリエチレン、または、オートクレーブによる滅菌処理が可能なポリプロピレン、フッ素樹脂を用いることが好ましい。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)等を特に制限することなく使用することができる。フッ素樹脂としては、PTFE、PFA、FEP等を特に制限することなく使用することができる。
【0013】
第一の熱可塑性樹脂基体11は、第一の熱可塑性樹脂シート111/面状発熱体14/第二の熱可塑性樹脂シート112が、この順に積層されている。
第一の熱可塑性樹脂基体11において、第一の熱可塑性樹脂シート111と第二の熱可塑性樹脂シート112の厚さは、同じ厚さでもよく、異なる厚さでもよい。また、第一の熱可塑性樹脂シート111と第二の熱可塑性樹脂シート112は、部分ごとに異なる厚さとすることもでき、例えば、抵抗発熱塗工層142上の部分を、他の部分よりも薄くすることもできる。特に、第一、第二の熱可塑性樹脂シート111、112、特に流路13側に位置する第一の熱可塑性樹脂シート111は、伝熱性の点から薄い方が好ましいが、薄くなりすぎると強度が低下して破れやすくなる。そのため、第一の熱可塑性樹脂シート111の抵抗発熱塗工層142上の部分は、100μm以上であることが好ましい。また、第一、第二の熱可塑性樹脂シート111、112の厚さが、埋設する面状発熱体14により内部に生じる段差に対して薄すぎると、熱融着時にこの段差に追従できずに穴が空いてしまう場合がある。そのため、第一、第二の熱可塑性樹脂シート111、112の厚さは、面状発熱体14を封止する際に内部に存在する段差の0.8倍以上であることが好ましく、1.0倍以上であることがより好ましく、1.2倍以上であることが更に好ましい。なお、面状発熱体14は、リード線、熱電対のコード等が接続されており、全体が均一な厚さでない場合がある。
【0014】
面状流体加熱装置100は、面状発熱体14の抵抗発熱塗工層142に割れ等の欠陥が生じることを防ぐために、面状発熱体14が埋設される第一の熱可塑性樹脂基体11が大きく変形することは好ましくない。第二の熱可塑性樹脂基体12として、柔軟性、可撓性を有するものを用い、第二の熱可塑性樹脂基体12を第一の熱可塑性樹脂基体11に対して余裕のある状態で融着することにより、流体による圧力が加わっても、第二の熱可塑性樹脂基体12が膨らむように変形して圧力を小さくすることができるため、第一の熱可塑性樹脂基体11の変形を抑えることができる。そのため、第二の熱可塑性樹脂基体12は、その厚さが800μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。また、薄くなりすぎると、融着時に破れや穴が生じやすくなるため、その厚さは100μm以上であることが好ましい。第二の熱可塑性樹脂基体12の厚さは、第一の熱可塑性樹脂基体11の厚さの80%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。また、第二の熱可塑性樹脂基体12の流路13に面した面積は、第一の熱可塑性樹脂基体11の流路13に面した面積に対して1.02倍以上であることが好ましく、1.05倍以上であることがより好ましい。この面積比が大きくなりすぎると、流路13の断面積に対する発熱部分の長さの比が小さくなるため、この面積比は1.5倍以下であることが好ましく、1.4倍以下であることがより好ましく、1.25倍以下であることがさらに好ましく、1.15倍以下であることがよりさらに好ましい。
【0015】
「面状発熱体」
面状発熱体14は、紙基材141と紙基材141上に形成された抵抗発熱塗工層142とを備える。
紙基材141の両側部には、抵抗発熱塗工層142との間に非塗工部を介して導電部143a、bが設けられ、導電部143a、bからは抵抗発熱塗工層142に向けて一対の櫛状電極144a、bが、一方の隣接する電極間に他方の電極が位置するように相対して形成されている。また、導電部143a、bにはリード線145a、bが接続されている。なお、櫛状電極144a、bは抵抗発熱塗工層142と接すればよく、紙基材141と抵抗発熱塗工層142との間に形成することもできる。
【0016】
「紙基材」
紙基材141は、その面上に発熱塗料を塗工して均一な抵抗発熱塗工層142を形成できるものであれば特に制限することなく使用することができるが、抵抗発熱塗工層142、および第一及び第二の熱可塑性樹脂シート111、112との密着性に優れるため、非塗工紙が好ましい。また、紙基材141の坪量は、40g/m以上300g/m以下であることが好ましい。紙基材141の坪量が40g/m未満では発熱塗料の裏抜けが生じる場合があり、300g/mを超えると紙基材141が剛直になりすぎて、力が加わって屈曲等する際に紙基材141の端部で第一及び第二の熱可塑性樹脂シート111、112との剥離や第一及び第二の熱可塑性樹脂シート111、112の破れが生じやすくなる場合がある。
【0017】
・抵抗発熱塗工層
抵抗発熱塗工層142は、少なくとも導電材、バインダー樹脂を含有する発熱塗料を紙基材141上に塗工し、乾燥することにより形成される。発熱塗料は、水系、有機溶媒系のいずれでも良いが、水性塗料であることが、作業者及び環境への負荷が小さく、また火災や爆発の危険性がなく安全性に優れているため好ましい。
【0018】
導電材としては、抵抗発熱塗工層に従来使用されているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、炭素繊維等の炭素系導電材、金、銀、銅、ニッケル等の金属系導電材、炭化タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、炭化チタン等のセラミック系導電材等を利用することができる。これらの中で、粒径が小さいものを安価で入手可能なため、炭素系導電材が好ましい。導電材は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
導電材は、抵抗発熱塗工層の固形分100重量部に対して30重量部以上70重量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0019】
バインダー樹脂としては、発熱塗料中に溶解、または分散が可能なものであれば特に制限することなく使用することができ、例えば、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂等の1種または2種以上を混合して使用することができる。これらの中で、耐熱性に優れるため、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂のいずれか1種以上が好ましい。
バインダー樹脂は、抵抗発熱塗工層の固形分100重量部に対して15重量部以上50重量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0020】
発熱塗料が水性塗料である場合、水膨潤性合成マイカを含有することが好ましい。水膨潤性合成マイカは、その層間に水を取り込み膨潤する。そして、膨潤したマイカを含む水性塗料は、せん断応力が加わると粘度が低下し、応力が加わらなくなると粘度が高くなるチキソトロピー性を示す。そのため、水膨潤性合成マイカを含む水性発熱塗料は、塗布しやすく、塗布後に液垂れしにくいため、均一な抵抗発熱塗工層を形成することが容易となる。
水膨潤性合成マイカを含有する場合、水膨潤性合成マイカは、抵抗発熱塗工層の固形分100重量部に対して3重量部以上40重量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0021】
水膨潤性合成マイカは、レーザー回折散乱法により測定される体積分布から導かれる平均粒子径(メディアン径)が、2μm以上20μm以下であることが好ましい。この平均粒子径が、上記範囲内であると、水性発熱塗料への分散性、塗工性に優れ、また、均一な塗膜(抵抗発熱塗工層)が形成されやすい。この平均粒子径は、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0022】
発熱塗料は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、分散剤、レベリング剤、消泡剤、硬化剤等の添加剤を配合することができる。
発熱塗料は、その塗工方法等に適した粘度となるように、固形分濃度を調整する。固形分濃度としては、その塗工方法等により求める粘度等に応じ、例えば、5重量%以上50重量%以下程度とすることができる。
【0023】
抵抗発熱塗工層142は、発熱塗料を紙基材141上に塗布し、乾燥させることにより、形成される。抵抗発熱塗工層142は、単一の発熱塗料から形成してもよく、組成の異なる複数種類の発熱塗料を塗り分けて形成してもよい。また、単層または少なくとも部分的に重ね塗りされた複数層であってもよい。抵抗発熱塗工層142は、並列に接続されているため、その発熱温度は抵抗値が高いほど低温となり、抵抗値が低いほど高温となる。抵抗発熱塗工層142を、発熱塗料の組成、抵抗発熱塗工層の厚さ、櫛状電極の間隔等を調整して、抵抗値の低い領域と抵抗値の高い領域とに分割することにより、領域ごとに発熱温度を異ならせることができる。
【0024】
抵抗発熱塗工層142は、導電性インクにより形成された櫛状電極144a、bと導電部143a、b、及び、導電性ペーストにより導電部143a、bに接続されるリード線145a、bが接続されており、リード線145a、bの他端が外部電源に接続されることにより通電される。導電性インク、導電性ペーストとしては、公知のものを用いることができ、例えば、銅、銀等の導電性粒子を含むもののうち、求める塗布性、密着性、固定性等の性質を満足するものを使用することができる。リード線145a、bとしては、公知のものを用いることができ、例えば、銅線、ニッケル線、銅めっきニッケル撚り線等の金属線、銅メッキアラミド繊維等を特に制限することなく利用することができるが、製造工程における熱融着時の圧力で潰れて平坦となることができるため、複数本の繊維の集合体であることが好ましい。なお、抵抗発熱塗工層142に通電するための方法は限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、導電性ペーストに代えて導電性粘着テープを用いることもでき、さらには、無線により通電することもできる。
リード線145a、bを用いる場合、リード線145a、bは、第一の熱可塑性樹脂基体11の外部へ異なる場所から導いてもよく、同一の場所から導いてもよい。また、第一の熱可塑性樹脂基体11の内部に熱電対等の温度センサーを封止する場合、このセンサーのコードも異なる場所、同一の場所のどちらから外部へ導いてもよい。温度センサーを設置する場合、計測箇所は特に制限されないが、例えば、流入口、流出口、流路の途中等の一以上で計測することができ、流出口で計測することが好ましい。
【0025】
抵抗発熱塗工層142は、通電により発熱するものであるため、抵抗発熱塗工層142のうち、相対するように形成された櫛状電極144a、bに挟まれた領域が発熱領域である。そして、この発熱領域以外の領域が、面状発熱体14における非発熱領域であり、具体的には、抵抗発熱塗工層142が塗工されていない非塗工部と、抵抗発熱塗工層142上に形成された櫛状電極144a、bの部分が非発熱領域である。なお、抵抗発熱塗工層142上の櫛状電極144a、bが非発熱領域となるのは、電気が抵抗の小さな櫛状電極144a、bを通り、抵抗の大きな抵抗発熱塗工層142を通らないためである。
【0026】
紙基材141は、抵抗発熱塗工層142の発熱領域と隣接する非発熱領域を備える。熱可塑性樹脂は、熱により膨張/収縮等の変形が起こる場合があるが、発熱領域と隣接するように設けられた非発熱領域が、熱可塑性樹脂の変形を抑制する支持体として機能する。そのため、本発明の面状流体加熱装置は、熱可塑性樹脂基体または熱可塑性樹脂シートの熱変形を抑え、面状流体加熱装置そのものの変形を抑えることができる。
また、紙基材141は、非発熱領域の少なくとも一部をくり抜き開口を設けることもできる。第一の熱可塑性樹脂基体11は、面状発熱体14が埋設されており変形しにくいが、紙基材141を有さない部分は多少であれば変形することができる。紙基材141に開口を設けることにより、第一の熱可塑性樹脂基体11の一部が変形しやすくなり、流体による圧力を緩和することができ、破れや液漏れを防止することができる。例えば、紙基材141に開口を設ける場合、抵抗発熱塗工層142と導電部143a、bの間に設けることができる。
【0027】
「流路」
流路13は、第一の熱可塑性樹脂基体11と第二の熱可塑性樹脂基体12とを融着することにより形成されている。この際、第一の熱可塑性樹脂基体11と第二の熱可塑性樹脂基体12とを融着して流動阻害部133を形成することにより、所望の形状の流路13を形成することができる。なお、第一の熱可塑性樹脂基体11と第二の熱可塑性樹脂基体12との間に、流路パターンが形成された少なくとも表面が熱可塑性樹脂で形成されている中間基体を挟んで、それぞれの界面で熱融着することにより、流路13と流動阻害部133を形成することもできる。
第一実施態様である面状流体加熱装置100では、非発熱領域である櫛状電極144a、b上で第一の熱可塑性樹脂基体11と第二の熱可塑性樹脂基体12とが融着することにより、複数の流動阻害部133が形成されている。非発熱領域である櫛状電極144a、b上に流動阻害部133を形成することにより、流動阻害部133が高温に加熱されないため、流動阻害部133の変形等により流路に穴が空くことを防ぐことができる。
【0028】
流路13の形状や長さは特に制限されず、流動阻害部133の形状や位置により調整することができ、分岐や合流をすることもできる。流路13は、その長さが流入口131と流出口132とを結ぶ直線の長さの1.4倍以上であることが好ましい。流路13を長くすることにより、流体が加熱される時間を長くすることができ、流体を効率的に加熱することができる。流路13の長さは、流入口131と流出口132とを結ぶ直線の長さの2倍以上であることがより好ましく、4倍以上であることがさらに好ましく、6倍以上であることがよりさらに好ましい。ここで、流路の長さとは、流入口と流出口とを流路内で結ぶ最短距離を意味し、分岐等で複数の流路が存在する場合は各流路の最短距離の平均値を意味する。
【0029】
流路13は、流路全長における最大幅と最小幅の比(最大幅/最小幅)が、2.0以下であることが好ましい。流路幅の差が大きくなると、幅の狭い部分に流体が滞留して圧力が高まってしまい、破れの原因となる場合がある。この比は、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましく、1.3以下であることがよりさらに好ましい。なお、流路の幅とは、流路の一方の側面と対向する他方の側面との最短距離を意味する。
【0030】
さらに、抵抗発熱塗工層は、抵抗の異なる領域にパターン化して所望の箇所を高温または低温とすることにより、流路の所望の箇所毎に温度を調整することができる。例えば、流入口側を低温とすることにより徐々に加熱することができ、急激な温度上昇を抑えることができる。一方、流入口側を高温とすることにより所望の温度に素早く達することができ、所望の温度を維持した時間を長くすることができる。
【0031】
「第二実施態様」
本発明の第二実施態様である面状流体加熱装置200と、第二実施態様である面状流体加熱装置200が備える面状発熱体24を、それぞれ図5、6に示す。なお、本明細書において、第一実施態様と同一部材には同一符号を付す。
面状流体加熱装置200は、面状発熱体24の櫛状電極244a、bが、先端に向かうほど細くなるテーパー状に形成され、相対する櫛状電極244a、bは、相対する辺が平行となるように形成されている。テーパー状の櫛状電極244a、bを相対する辺が平行となるように形成することにより、櫛状電極244a、b間の抵抗発熱塗工層242の幅が同一となり抵抗値も同一となるため、低抵抗部分に電流が集中して異常加熱することを防ぐことができる。
【0032】
また、面状流体加熱装置200は、非発熱領域であるテーパー状の櫛状電極244a、b上で第一の熱可塑性樹脂基体と第二の熱可塑性樹脂基体とが融着することにより、テーパー状の流動阻害部233が形成されている。
図7に面状流体加熱装置200における流体の流れを示す。
面状流体加熱装置において、液体、ゾル等を流す場合、下方から上方へ向けて流すことが一般的である。
面状流体加熱装置200は、吊り下げた状態で下方から上方へ流体を流す場合に流路23の上面(流動阻害部233の下面)が流れ方向で上方に傾斜しているため、泡が流れとともに抜けやすく、発熱領域が気体に覆われた状態で加熱される空焚きを防止することができる。
【0033】
「第三実施態様」
本発明の第三実施態様である面状流体加熱装置300と、第三実施態様である面状流体加熱装置300が備える面状発熱体34を、それぞれ図8、9に示す。
面状発熱体34は、抵抗発熱塗工層342が分割して形成されており、その間に非塗工部を備える。非塗工部は当然に非発熱領域であり、この非塗工部上に流動阻害部333が、間にスリットを有するよう、かつ、スリットが隣接する非塗工部上で互い違いに開口するように形成されている。
面状流体加熱装置300は、流入口331を2個、流出口332を1個有し、流路33内を流れるうちに、隣接する非塗工部上で互い違いに開口するように設けられたスリットを通過することにより、均一に混合される。そのため、面状流体加熱装置300は、フローリアクターとして好適に用いることができる。
【0034】
本発明の面状流体加熱装置は、上記した第一~第三の実施態様に限定されない。
例えば、面流体加熱装置の少なくとも一面に第三の熱可塑性樹脂基体を融着することにより、同一または別の流体を加熱する流路や、空気を含む断熱層を形成することもできる。さらに、別の流路を加熱が終了した後の下流に設けて加熱した流体と熱交換を行う流体を流すことにより、冷却用の流路を形成することもできる。
【0035】
本発明の面状流体加熱装置の用途は特に制限されず、その内部で加熱する流体も、流動するものであればよく、液体に限定されず、気体、ゾルであってもよい。
例えば、ポリエチレンの融点は95~140℃程度であるため、熱可塑性樹脂としてポリエチレンを用いる場合、加熱温度がそれ以下の用途に用いることができ、細胞や微生物の培養液を加熱する面状流体加熱装置や、フローリアクター、水分を多く含む排気の結露を防止するための面状流体加熱装置として用いることができる。
【実施例0036】
「実施例1」
カーボンブラックと、ポリイミド系樹脂を含む水性の発熱塗料に、水膨潤性合成マイカ(平均粒子径5μm以下)と脱イオン水を配合し、遊星式攪拌・脱泡装置(倉敷紡績株式会社製、マゼルスター KK-1000W)を用い、高粘度材料の標準的な攪拌脱泡のプログラムで6分間撹拌して、カーボンブラック37.2重量%、ポリイミド系樹脂33.9重量%、水膨潤性合成マイカ8.0重量%、水20.8重量%の水性発熱塗料を調製した。
調製した水性発熱塗料を、紙基材(菅公工業株式会社製 ケント紙(非塗工紙) ベ051、坪量43g/m)の幅方向中央部に、ドクターブレードで幅150mm、長さ約210mm、厚さ20μmで塗布し、200℃で1時間焼成し、抵抗発熱塗工層を形成した。次いで、紙基材の幅方向両側部に銀ペーストを5mm幅で塗布し、さらにこの両側部の銀ペースト塗布部から抵抗発熱塗工層の他端まで互い違いとなるように50mm間隔かつ5mm幅で3本ずつ計6本の銀ペーストを塗布した後、100℃30分さらに150℃30分焼成し、導電部と櫛状電極を形成した。
【0037】
抵抗発熱塗工層の発熱領域を含む部分を、厚さ200μmのポリエチレンからなる熱可塑性樹脂シートで上下から挟み込み、シリコンラバースポンジの緩衝材を挟んで130℃10分間熱融着した。これにより、紙基材のほぼ全面が、熱可塑性樹脂シート内に埋設された。
露出している導電部に、難燃性ポリエチレン被覆リード線をAgペーストで接続し、ポリエチレンテープで固定した。また、流出口を設ける予定の箇所にフッ素樹脂被覆K型熱電対のセンサーをポリエチレンテープで固定した。リード線と熱電対のコードは、同一のポリエチレン製チューブの中を通るようにした。これらの熱可塑性樹脂シートから露出したリード線等を含む部分を、厚さ500μmのポリエチレンからなる熱可塑性樹脂シートで上下から挟み込み、シリコンラバースポンジの緩衝材を挟んで130℃10分間熱融着した。
これにより、面状発熱体の全面が埋設され、第一の熱可塑性樹脂基体が得られた。
【0038】
この第一の熱可塑性樹脂基体に対し、厚さ200μmのポリエチレンからなる第二の熱可塑性樹脂基体を、流路に面する面積比(第二/第一)が1.1倍となるようにして、流入口と流出口を除く外周と櫛状電極上とを熱融着することにより、図2に示すような面状流体加熱装置を得ることができた。
【符号の説明】
【0039】
面状流体加熱装置 100、200、300
第一の熱可塑性樹脂基体 11
第一の熱可塑性樹脂シート 111
第二の熱可塑性樹脂シート 112
第二の熱可塑性樹脂基体 12
流路 13、23、33
流入口 131、331
流出口 132、332
流動阻害部 133、233、333
面状発熱体 14、24、34
紙基材 141
抵抗発熱塗工層 142、242、342
導電部 143a、b
櫛状電極 144a、b、244a、b
リード線 145a、b
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10