(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096437
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】洗浄剤
(51)【国際特許分類】
C11D 1/52 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
C11D1/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212218
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000108546
【氏名又は名称】株式会社イチネンケミカルズ
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】小寺 利広
(72)【発明者】
【氏名】大沢 一輝
(72)【発明者】
【氏名】古山 健太
(72)【発明者】
【氏名】平林 海恒
(72)【発明者】
【氏名】田原 年英
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003AC13
4H003DA09
4H003DA12
4H003DB01
4H003DC02
4H003FA04
(57)【要約】
【課題】コークス炉ガスを吸収油に接触させて得られる含ベン油の熱交換器に用いられ、優れた洗浄効果を発揮し得る洗浄剤を提供する。
【解決手段】洗浄剤は、コークス炉ガスを吸収油に接触させて得られる含ベン油の熱交換器に用いられる洗浄剤である。洗浄剤は、ポリアルケニルコハク酸イミドを含む。ポリアルケニルコハク酸イミドが、ポリ(イソ)ブテニルコハク酸イミドである。ポリアルケニルコハク酸イミドが、ポリイソブテニルコハク酸イミドである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉ガスを吸収油に接触させて得られる含ベン油の熱交換器に用いられる洗浄剤であって、
ポリアルケニルコハク酸イミドを含むことを特徴とする洗浄剤。
【請求項2】
前記ポリアルケニルコハク酸イミドが、ポリ(イソ)ブテニルコハク酸イミドであることを特徴とする請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項3】
前記ポリアルケニルコハク酸イミドが、ポリイソブテニルコハク酸イミドであることを特徴とする請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項4】
前記ポリアルケニルコハク酸イミドが、ホウ素変性ポリアルケニルコハク酸イミドであることを特徴とする請求項1に記載の洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤に係り、更に詳細には、コークス炉ガスを吸収油に接触させて得られる含ベン油の熱交換器に用いられる洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コークス炉ガスを吸収油に接触させて得られる含ベン油の熱交換器を汚損する物質に対して優れた洗浄効果を発揮する洗浄方法が提案されている(特許文献1参照。)。この洗浄方法においては、洗浄剤としてキノリンが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の洗浄方法で用いられているキノリンでは洗浄効果が十分ではないという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、コークス炉ガスを吸収油に接触させて得られる含ベン油の熱交換器に用いられ、優れた洗浄効果を発揮し得る洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、洗浄剤としてポリアルケニルコハク酸イミドを含むものとすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の洗浄剤は、コークス炉ガスを吸収油に接触させて得られる含ベン油の熱交換器に用いられる洗浄剤である。この洗浄剤は、ポリアルケニルコハク酸イミドを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、洗浄剤としてポリアルケニルコハク酸イミドを含むものとしたため、コークス炉ガスを吸収油に接触させて得られる含ベン油の熱交換器に用いられ、優れた洗浄効果を発揮し得る洗浄剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、コークス炉ガス中の軽油分を回収するための軽油回収プラントの一例を示す構成概略図である。
【
図2】
図2は、オイル/オイル熱交換器の洗浄方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る洗浄剤について詳細に説明する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る洗浄剤は、コークス炉ガスを吸収油に接触させて得られる含ベン油の熱交換器に用いられる洗浄剤である。
【0012】
ここで、洗浄対象である熱交換器について説明する。
図1は、コークス炉ガス中の軽油分を回収するための軽油回収プラントの一例を示す構成概略図である。
図1に示すように、軽油回収プラントは、ファイナルクーラー11、ベンゼンスクラバー12,13、ナフタレン分離槽14、間接クーラー15、ベーパー/オイル熱交換器16、オイル/オイル熱交換器17、脱水塔18、ストリッパー19、コンデンサー20、加熱炉21、脱ピッチ塔22、オイルクーラー23を有する。
【0013】
ファイナルクーラー11を通過したコークス炉ガスは、ベンゼンスクラバー12においてベンゼンスクラバー13から供給される吸収油によって軽油分が回収される。ベンゼンスクラバー12で回収された軽油分を含む吸収油である含ベン油は、ベーパー/オイル熱交換器16を通過する際に加熱される。ベーパー/オイル熱交換器16を通過した軽油分を含む吸収油である含ベン油は、さらにオイル/オイル熱交換器17を通過する際に加熱される。なお、特に限定されるものではないが、例えば、吸収油はクレオソート油などメチルナフタレンを含むものを挙げることができる。
【0014】
オイル/オイル熱交換器を通過した軽油分を含む吸収油である含ベン油は、脱水塔18において加熱され、脱水塔18は軽油分を含む吸収油である含ベン油中に含まれる余分な水分を脱水する。脱水塔18の塔頂部から排出される成分は、ストリッパー19に供給される。脱水塔18の塔底部から排出される成分は、加熱炉21によって加熱され、ストリッパー19に供給される。
【0015】
ストリッパー19の塔底部よりの成分は、脱ピッチ塔22に供給され、脱ピッチ塔22においてピッチが除去される。脱ピッチ塔22から供給される脱ピッチ成分は、ストリッパー19に再び供給される。
【0016】
ストリッパー19において、軽油分を含む吸収油である含ベン油から軽油分は蒸留される。蒸留された軽油分は、ベーパー/オイル熱交換器16を通過する際に冷却される。ベーパー/オイル熱交換器16を通過した軽油分は、コンデンサー20において粗軽油と凝縮水に分離される。
【0017】
ストリッパー19の塔底部よりの成分の一部は軽油分の全部又は殆どが除去された吸収油である脱ベン油として再循環される。再循環される軽油分の全部又は殆どが除去された吸収油である脱ベン油は、オイル/オイル熱交換器17を通過する際に冷却される。オイル/オイル熱交換器17を通過した軽油分の全部又は殆どが除去された吸収油である脱ベン油は、オイルクーラー23を通過する際にさらに冷却され、ベンゼンスクラバー13に供給される。
【0018】
ベンゼンスクラバー12を通過したコークス炉ガスは、ベンゼンスクラバー13においてオイルクーラー23から供給される軽油分の全部又は殆どが除去された吸収油である脱ベン油によって精製される。ベンゼンスクラバー13において精製されたコークス炉ガスは、精製コークス炉ガスとして、ベンゼンスクラバー13から排出される。
【0019】
上述した洗浄剤は、石油精製プラントの原油の精製過程(減圧蒸留)で用いられる熱交換器に付着する重質分(例えば、アスファルテンが挙げられる。)の洗浄に用いられるのではなく、上記ベーパー/オイル熱交換器16又はオイル/オイル熱交換器17などの吸収油が通過する側に付着し、熱交換を阻害するアセナフテン、ジベンゾフランなどのコークス炉ガスの吸収油に特有の生成物を洗浄するために用いられる。表1にこれらの詳細を示す。
【0020】
【0021】
コークス炉ガスの吸収油に特有の生成物は、石炭に由来するので、C/Hが高い(水素の数よりも炭素の数が多い)芳香族を多く含む汚れ(付着物)である。
【0022】
図2は、オイル/オイル熱交換器の洗浄方法を説明する説明図である。
図2に示すように、この軽油回収プラントは、複数のオイル/オイル熱交換器17A,17Bを有している。まず、オイル/オイル熱交換器17Aの洗浄を、オイル/オイル熱交換器17Bを作動させたまま行う場合には、含ベン油バイパス管101を設ける。次いで、オイル/オイル熱交換器17A周りの配管弁102を閉じる。更に、洗浄タンク103、ポンプ104及び逆洗浄バイパス管105を含ベン油の経路に接続する。しかる後、洗浄タンク103に新品の吸収油と共に洗浄剤を投入し、循環させて、洗浄する。
【0023】
上述のように、コークス炉ガス中の軽油分を回収するための軽油回収プラントの熱交換器を洗浄する際には、洗浄剤が循環する系は開放系である。そのため、石油精製プラントの原油の精製過程(減圧蒸留)で用いられる熱交換器の洗浄のように、洗浄剤を200℃以上に加熱することができない。洗浄剤は、使用時の温度が180℃以下であることを要し、室温程度、即ち15℃~35℃程度であることが好ましい。室温程度で優れた洗浄効果が得られる点で、上述した洗浄剤はコークス炉ガスを吸収油に接触させて得られる含ベン油の熱交換器に用いられるものとして優れている。なお、より優れた洗浄効果が得られるという観点からは、吸収油の流れ方向と逆方向に洗浄剤を流通させることが好ましい。また、洗浄前に系内の使用済みの吸収油を回収することが好ましい。
【0024】
上述した洗浄剤は、ポリアルケニルコハク酸イミドを含む。
【0025】
本実施形態の洗浄剤は、上述したポリアルケニルコハク酸イミドを含み、コークス炉ガスを吸収油に接触させて軽油を回収する設備に付属する熱交換器において、優れた洗浄効果を発揮できる。また、この洗浄剤は、吸収油に添加することにより、コークス炉ガスの吸収油に特有の生成物が熱交換器に付着することを抑制する付着抑制剤として用いることができる。
【0026】
特に限定されないが、ポリアルケニルコハク酸イミドとしては、より優れた洗浄効果が得られるという観点からは、ポリアルケニル基としてポリ(イソ)ブテニル基を有するポリ(イソ)ブテニルコハク酸イミド、ポリアルケニル基としてポリイソブテニル基を有するポリイソブテニルコハク酸イミド又はポリアルケニル基としてポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミドが好ましい。なお、特に限定されないが、ポリ(イソ)ブテニル基としては、例えば1-ブテンとイソブテンの混合物を重合させた基を挙げることができる。その中でも、ポリ(イソ)ブテニルコハク酸イミド、ポリイソブテニルコハク酸イミドがより好ましく、ポリ(イソ)ブテニルコハク酸イミドがさらに好ましい。また、ポリイソブテニルコハク酸イミドとポリブテニルコハク酸イミドは混合して用いることも好ましい。さらに、これらに限定されず、例えば、ポリアルケニルコハク酸イミドとしてホウ素変性ポリアルケニルコハク酸イミドを用いることも好ましい。
【0027】
なお、上述したポリアルケニルコハク酸イミド及びホウ素変性ポリアルケニルコハク酸イミドは1種を単独で又は2種以上を適宜混合して用いることができる。
【0028】
なお、上述した洗浄剤は、コークス炉ガス中の軽油分を回収するための軽油回収プラントにおける熱交換器を洗浄する洗浄剤に用いる従来公知の溶剤、例えばキシレンや吸収油などで希釈して用いることができる。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0030】
(実施例1~実施例3、比較例1~比較例5)
表2に示す各薬剤を各例の洗浄剤とした。なお、表2中の実施例1のポリ(イソ)ブテニルコハク酸イミドは、(N-ポリアルキレンポリアミン)ポリ(イソ)ブテニルコハク酸イミドである。
【0031】
【0032】
(洗浄試験)
本発明の範囲に属する実施例1の洗浄剤と本発明外の比較例1の洗浄剤とを用いて、実機のオイル/オイル熱交換器を洗浄することによる洗浄試験を行った。なお、実施例1の洗浄剤は、粘度が高いため希釈して用いた。
【0033】
本発明の範囲に属する実施例1の洗浄剤においては、U(統括熱伝導係数)値(Kcal/m2・H・℃)が1071から1549になった。一方、本発明外の比較例1の洗浄剤においては、U値が851から1487になった。
【0034】
実施例1の洗浄剤での洗浄後のU値は比較例1の洗浄剤の洗浄後のU値よりも高い値を示しており、実施例1の洗浄剤は高い洗浄効果を示すことが分かる。なお、実施例1の回復値が比較例1の回復値よりも低いのは、実施例1の洗浄前は比較例1の洗浄前よりも200Kcal/m2・H・℃以上高いため、ピッチの付着量が少なかったからであると考えられる。
【0035】
比較例1の洗浄においては除去し難い部位に比較的多く付着したピッチに対して洗浄剤が作用してある程度のピッチの洗浄ができているのに対して、実施例1の洗浄においては除去し難い部位に比較的少なく付着したピッチに対して洗浄剤が効果的に作用してピッチの洗浄ができていると考えられる。つまり、実施例1では、洗浄後のU値から、ほぼ完全に熱交換器に付着したピッチが洗浄できたと考えられる。
【0036】
このように、熱交換器を洗浄することにより、熱交換器の性能が回復し、軽油分の回収率が向上する。
【0037】
(付着抑制試験)
本発明の範囲に属する実施例1~実施例3、本発明外の比較例1~比較例5の洗浄剤を用いて付着抑制試験を行った。具体的には、以下の通りである。
【0038】
各例の洗浄剤を500ppmで添加した、実機から採取した含ベン油をそれぞれの試験管に12ml入れた。
次いで、テストピース(材質:JIS G 4305(SUS304)、サイズ:縦50mm×横10mm×厚み0.5mm)をそれぞれの試験管に入れ、含ベン油に全て浸漬させた。
さらに、これらの試験管をシリコーンオイルに浸し、160℃で7時間加熱した。7時間加熱した後、テストピースを試験管から取り出し、キシレンで軽く濯ぎ、テストピースの表面についた油を除去した。
しかる後、テストピースを室温で乾燥させ、色差計(日本電色工業株式会社製、NF777)を用い、YI ASTM E313に準拠して、黄色度を測定した。各例の未使用品との黄色度の差を表2に併記する。
【0039】
表2より、本発明の範囲に属する実施例1~実施例3の洗浄剤は、本発明外の比較例1~比較例5の洗浄剤に対して、未使用品との黄色度の差が小さいので、優れた付着抑制効果を示すことが分かる。その中でも、実施例1及び実施例2の洗浄剤の付着抑制効果が相対的に高いこと、実施例1の洗浄剤の付着抑制効果が最も高いことが分かる。
【0040】
従って、本発明の範囲に属する実施例1~実施例3の洗浄剤は、優れた付着抑制効果及び洗浄効果を有する洗浄剤であると考えられる。
【0041】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。