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特開2023-96523すべり軸受ユニット及び回転陽極型X線管
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096523
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】すべり軸受ユニット及び回転陽極型X線管
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/02 20060101AFI20230630BHJP
   H01J 35/10 20060101ALI20230630BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20230630BHJP
   F16C 33/74 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
F16C17/02 A
H01J35/10 N
F16C17/04 A
F16C33/74 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212344
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井手 秀樹
【テーマコード(参考)】
3J011
3J216
【Fターム(参考)】
3J011AA12
3J011AA20
3J011BA02
3J011CA02
3J011JA02
3J011KA02
3J011KA03
3J011MA07
3J011PA02
3J216AA06
3J216AA12
3J216AA13
3J216AB22
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA05
3J216CB03
3J216CC45
(57)【要約】
【課題】 長期にわたって良好な軸受動作を得ることができるすべり軸受ユニット及びこのすべり軸受ユニットを備えた回転陽極型X線管を提供する。
【解決手段】 すべり軸受ユニットは、固定シャフト10と、回転体と、潤滑剤と、を備える。固定シャフト10は、第1ラジアル軸受面を含む径大部11と、径小部13と、を有している。回転体は、第2ラジアル軸受面を含む回転体本体27と、シール部品90と、を有する。シール部品90は、外周面S90aと、内周面S90bと、内周面S90bに開口し外周面S90a側に凹み潤滑剤を捕捉可能な捕捉凹面S90cと、貫通孔hと、を含んでいる。貫通孔hは、第1開口OP1と、第2開口OP2と、を有し、捕捉凹面S90cで囲まれた空間を上記第1ラジアル軸受面と上記第2ラジアル軸受面との間の第1隙間につなげている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線に沿って延出し、第1外周面に第1ラジアル軸受面を含む径大部と、前記径大部と一体に形成され前記径大部の第1外径より小さい第2外径を持つ径小部と、を有する固定シャフトと、
前記固定シャフトを中心に回転自在な回転体と、
潤滑剤と、を備え、
前記回転体は、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記径大部を囲んで位置し、第1内周面に第2ラジアル軸受面を含む回転体本体と、
前記回転体本体に固定され、筒状に形成され、前記径小部を囲んで位置し、第2外周面と、第2内周面と、前記第2内周面に開口し前記第2外周面側に凹み前記潤滑剤を捕捉可能な捕捉凹面と、貫通孔と、を含むシール部品と、を有し、
前記潤滑剤は、前記固定シャフトと前記回転体との間の隙間に充填され、前記第1ラジアル軸受面及び前記第2ラジアル軸受面とともに動圧形のラジアルすべり軸受を形成し、
前記貫通孔は、前記捕捉凹面に開口した第1開口と、前記シール部品のうち前記第2内周面及び前記捕捉凹面以外の面に開口した第2開口と、を有し、前記第1開口から前記第2開口まで前記シール部品を貫通し、前記捕捉凹面で囲まれた空間を前記第1ラジアル軸受面と前記第2ラジアル軸受面との間の第1隙間につなげている、
すべり軸受ユニット。
【請求項2】
前記回転軸線に垂直な方向において、前記回転軸線から前記第1開口までの最長の距離を第1距離とし、前記回転軸線から前記第2開口までの最長の距離を第2距離とすると、
前記第2距離は、前記第1距離以上である、
請求項1に記載のすべり軸受ユニット。
【請求項3】
前記第1内周面と前記第2外周面との間に第2隙間を有し、
前記捕捉凹面は、前記第2外周面側に位置する底面を含み、
前記第1開口は前記捕捉凹面の前記底面に開口し、
前記第2開口は前記第2外周面に開口し、
前記第2隙間は、前記貫通孔を前記第1隙間につなげている、
請求項2に記載のすべり軸受ユニット。
【請求項4】
前記径大部は、前記シール部品と対向した第1スラスト軸受面を含み、
前記シール部品は、前記第1スラスト軸受面と対向した第2スラスト軸受面を含み、
前記潤滑剤は、前記第1スラスト軸受面及び前記第2スラスト軸受面とともに動圧形のスラストすべり軸受を形成している、
請求項3に記載のすべり軸受ユニット。
【請求項5】
前記第1ラジアル軸受面は、滑らかなプレーン面と、それぞれ前記プレーン面に開口し前記回転軸線側に凹み前記潤滑剤を掻き込むための複数の掻き込み凹面と、を有し、
前記掻き込み凹面は、前記回転軸線側に位置する底面を含み、
前記回転軸線に垂直な方向において、前記回転軸線から前記掻き込み凹面の前記底面までの距離を第3距離とすると、
前記第3距離は、前記第2距離以上である、
請求項2に記載のすべり軸受ユニット。
【請求項6】
前記第1ラジアル軸受面は、滑らかなプレーン面と、それぞれ前記プレーン面に開口し前記回転軸線側に凹み前記潤滑剤を掻き込むための複数の掻き込み凹面と、を有し、
前記掻き込み凹面は、前記回転軸線側に位置する底面を含み、
前記回転軸線に垂直な方向において、前記回転軸線から前記掻き込み凹面の前記底面までの距離を第3距離とすると、
前記第3距離は、前記第2距離未満である、
請求項2に記載のすべり軸受ユニット。
【請求項7】
前記第1内周面と前記第2外周面との間に第2隙間を有し、
前記シール部品は、前記第2外周面に開口し前記第2内周面側に凹み前記潤滑剤を収容可能なリザーバ凹面をさらに有し、
前記捕捉凹面は、前記第2外周面側に位置する底面を含み、
前記第1開口は前記捕捉凹面の前記底面に開口し、
前記第2開口は前記リザーバ凹面に開口し、
前記リザーバ凹面及び前記第2隙間は、前記貫通孔を前記第1隙間につなげている、
請求項2に記載のすべり軸受ユニット。
【請求項8】
前記固定シャフトは、前記第1外周面側に位置し前記径大部と一体に形成された鍔部をさらに有し、
前記鍔部は、第1スラスト軸受面と、前記回転軸線に沿った方向において前記第1スラスト軸受面の反対側に位置した第3スラスト軸受面と、を含み、
前記回転体は、前記第1スラスト軸受面と対向した第2スラスト軸受面と、前記第3スラスト軸受面と対向した第4スラスト軸受面と、を有し、
前記潤滑剤は、前記第1スラスト軸受面及び前記第2スラスト軸受面とともに動圧形の第1スラストすべり軸受を形成し、
前記潤滑剤は、前記第3スラスト軸受面及び前記第4スラスト軸受面とともに動圧形の第2スラストすべり軸受を形成し、
前記回転軸線に沿った方向において、前記径大部と前記シール部品との間に第3隙間を有し、
前記捕捉凹面は、前記第2外周面側に位置する底面を含み、
前記シール部品は、前記捕捉凹面の一部である第1端面と前記回転軸線に沿った方向において前記第1端面の反対側に位置し前記径大部と対向した第2端面とを含む円環部を有し、
前記第1開口は前記第1端面及び前記捕捉凹面の前記底面の少なくとも一方に開口し、
前記第2開口は前記第2端面に開口し、
前記第3隙間は、前記貫通孔を前記第1隙間につなげている、
請求項2に記載のすべり軸受ユニット。
【請求項9】
前記回転体本体は、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記径大部を囲んで位置した第1円筒と、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記径大部と前記第1円筒との間に位置し、前記第2ラジアル軸受面を含む前記第1内周面を有し、前記第1円筒に対して相対的に回転しないように回転動作が制限された第2円筒と、を有し、
前記シール部品は、前記第1円筒に固定され、
前記潤滑剤は、前記固定シャフトと前記第1円筒と前記第2円筒との間の複数の隙間に充填されている、
請求項2に記載のすべり軸受ユニット。
【請求項10】
前記第1ラジアル軸受面は、滑らかなプレーン面と、それぞれ前記プレーン面に開口し前記回転軸線側に凹み前記潤滑剤を掻き込むための複数の掻き込み凹面と、を有し、
前記掻き込み凹面は、前記回転軸線側に位置する底面を含み、
前記回転軸線に垂直な方向において、前記回転軸線から前記掻き込み凹面の前記底面までの距離を第3距離とすると、
前記第3距離は、前記第1距離以上である、
請求項2に記載のすべり軸受ユニット。
【請求項11】
回転軸線に沿って延出し第1外周面に第1ラジアル軸受面を含む径大部と前記径大部と一体に形成され前記径大部の第1外径より小さい第2外径を持つ径小部とを有する固定シャフトと、前記固定シャフトを中心に回転自在な回転体と、潤滑剤と、を具備したすべり軸受ユニットと、
前記回転体に固定された陽極ターゲットと、
前記陽極ターゲットに対向配置された陰極と、
前記すべり軸受ユニット、前記陽極ターゲット及び前記陰極を収容し、前記固定シャフトを固定する外囲器と、を備え、
前記回転体は、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記径大部を囲んで位置し、第1内周面に第2ラジアル軸受面を含む回転体本体と、
前記回転体本体に固定され、筒状に形成され、前記径小部を囲んで位置し、第2外周面と、第2内周面と、前記第2内周面に開口し前記第2外周面側に凹み前記潤滑剤を捕捉可能な捕捉凹面と、貫通孔と、を含むシール部品と、を有し、
前記潤滑剤は、前記固定シャフトと前記回転体との間の隙間に充填され、前記第1ラジアル軸受面及び前記第2ラジアル軸受面とともに動圧形のラジアルすべり軸受を形成し、
前記貫通孔は、前記捕捉凹面に開口した第1開口と、前記シール部品のうち前記第2内周面及び前記捕捉凹面以外の面に開口した第2開口と、を有し、前記第1開口から前記第2開口まで前記シール部品を貫通し、前記捕捉凹面で囲まれた空間を前記第1ラジアル軸受面と前記第2ラジアル軸受面との間の第1隙間につなげている、
回転陽極型X線管。
【請求項12】
前記回転軸線に垂直な方向において、前記回転軸線から前記第1開口までの最長の距離を第1距離とし、前記回転軸線から前記第2開口までの最長の距離を第2距離とすると、
前記第2距離は、前記第1距離以上である、
請求項11に記載の回転陽極型X線管。
【請求項13】
前記第1内周面と前記第2外周面との間に第2隙間を有し、
前記捕捉凹面は、前記第2外周面側に位置する底面を含み、
前記第1開口は前記捕捉凹面の前記底面に開口し、
前記第2開口は前記第2外周面に開口し、
前記第2隙間は、前記貫通孔を前記第1隙間につなげている、
請求項12に記載の回転陽極型X線管。
【請求項14】
前記径大部は、前記シール部品と対向した第1スラスト軸受面を含み、
前記シール部品は、前記第1スラスト軸受面と対向した第2スラスト軸受面を含み、
前記潤滑剤は、前記第1スラスト軸受面及び前記第2スラスト軸受面とともに動圧形のスラストすべり軸受を形成している、
請求項13に記載の回転陽極型X線管。
【請求項15】
前記第1ラジアル軸受面は、滑らかなプレーン面と、それぞれ前記プレーン面に開口し前記回転軸線側に凹み前記潤滑剤を掻き込むための複数の掻き込み凹面と、を有し、
前記掻き込み凹面は、前記回転軸線側に位置する底面を含み、
前記回転軸線に垂直な方向において、前記回転軸線から前記掻き込み凹面の前記底面までの距離を第3距離とすると、
前記第3距離は、前記第2距離以上である、
請求項12に記載の回転陽極型X線管。
【請求項16】
前記第1ラジアル軸受面は、滑らかなプレーン面と、それぞれ前記プレーン面に開口し前記回転軸線側に凹み前記潤滑剤を掻き込むための複数の掻き込み凹面と、を有し、
前記掻き込み凹面は、前記回転軸線側に位置する底面を含み、
前記回転軸線に垂直な方向において、前記回転軸線から前記掻き込み凹面の前記底面までの距離を第3距離とすると、
前記第3距離は、前記第2距離未満である、
請求項12に記載の回転陽極型X線管。
【請求項17】
前記第1内周面と前記第2外周面との間に第2隙間を有し、
前記シール部品は、前記第2外周面に開口し前記第2内周面側に凹み前記潤滑剤を収容可能なリザーバ凹面をさらに有し、
前記捕捉凹面は、前記第2外周面側に位置する底面を含み、
前記第1開口は前記捕捉凹面の前記底面に開口し、
前記第2開口は前記リザーバ凹面に開口し、
前記リザーバ凹面及び前記第2隙間は、前記貫通孔を前記第1隙間につなげている、
請求項12に記載の回転陽極型X線管。
【請求項18】
前記固定シャフトは、前記第1外周面側に位置し前記径大部と一体に形成された鍔部をさらに有し、
前記鍔部は、第1スラスト軸受面と、前記回転軸線に沿った方向において前記第1スラスト軸受面の反対側に位置した第3スラスト軸受面と、を含み、
前記回転体は、前記第1スラスト軸受面と対向した第2スラスト軸受面と、前記第3スラスト軸受面と対向した第4スラスト軸受面と、を有し、
前記潤滑剤は、前記第1スラスト軸受面及び前記第2スラスト軸受面とともに動圧形の第1スラストすべり軸受を形成し、
前記潤滑剤は、前記第3スラスト軸受面及び前記第4スラスト軸受面とともに動圧形の第2スラストすべり軸受を形成し、
前記回転軸線に沿った方向において、前記径大部と前記シール部品との間に第3隙間を有し、
前記捕捉凹面は、前記第2外周面側に位置する底面を含み、
前記シール部品は、前記捕捉凹面の一部である第1端面と前記回転軸線に沿った方向において前記第1端面の反対側に位置し前記径大部と対向した第2端面とを含む円環部を有し、
前記第1開口は前記第1端面及び前記捕捉凹面の前記底面の少なくとも一方に開口し、
前記第2開口は前記第2端面に開口し、
前記第3隙間は、前記貫通孔を前記第1隙間につなげている、
請求項12に記載の回転陽極型X線管。
【請求項19】
前記回転体本体は、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記径大部を囲んで位置した第1円筒と、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記径大部と前記第1円筒との間に位置し、前記第2ラジアル軸受面を含む前記第1内周面を有し、前記第1円筒に対して相対的に回転しないように回転動作が制限された第2円筒と、を有し、
前記シール部品は、前記第1円筒に固定され、
前記潤滑剤は、前記固定シャフトと前記第1円筒と前記第2円筒との間の複数の隙間に充填されている、
請求項12に記載の回転陽極型X線管。
【請求項20】
前記第1ラジアル軸受面は、滑らかなプレーン面と、それぞれ前記プレーン面に開口し前記回転軸線側に凹み前記潤滑剤を掻き込むための複数の掻き込み凹面と、を有し、
前記掻き込み凹面は、前記回転軸線側に位置する底面を含み、
前記回転軸線に垂直な方向において、前記回転軸線から前記掻き込み凹面の前記底面までの距離を第3距離とすると、
前記第3距離は、前記第1距離以上である、
請求項12に記載の回転陽極型X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、すべり軸受ユニット及び回転陽極型X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線を使用して被写体を診断する医療用機器や工業用機器には、X線発生源としてX線管装置が使用されている。X線管装置として、回転陽極型のX線管を備えた回転陽極型X線管装置が知られている。
【0003】
回転陽極型X線管装置は、X線を放射する回転陽極型X線管と、ステータコイルと、これら回転陽極型X線管及びステータコイルを収容した筐体と、を備えている。回転陽極型X線管は、固定シャフトと、電子を発生する陰極と、陽極ターゲットと、回転体と、外囲器と、を備えている。回転体は円筒状に形成されている。陽極ターゲットは回転体に固定されている。固定シャフトと回転体との間の隙間には潤滑剤が充填されている。回転陽極型X線管は、動圧式のすべり軸受を使っている。回転体はステータコイルから発生する磁界により陽極ターゲットとともに回転する。また、陰極から放出された電子が陽極ターゲットに衝突することによりX線が放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-104402号公報
【特許文献2】特開2016-9617号公報
【特許文献3】特開平11-213927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、長期にわたって良好な軸受動作を得ることができるすべり軸受ユニット及びこのすべり軸受ユニットを備えた回転陽極型X線管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係るすべり軸受ユニットは、
回転軸線に沿って延出し、第1外周面に第1ラジアル軸受面を含む径大部と、前記径大部と一体に形成され前記径大部の第1外径より小さい第2外径を持つ径小部と、を有する固定シャフトと、
前記固定シャフトを中心に回転自在な回転体と、
潤滑剤と、を備え、
前記回転体は、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記径大部を囲んで位置し、第1内周面に第2ラジアル軸受面を含む回転体本体と、
前記回転体本体に固定され、筒状に形成され、前記径小部を囲んで位置し、第2外周面と、第2内周面と、前記第2内周面に開口し前記第2外周面側に凹み前記潤滑剤を捕捉可能な捕捉凹面と、貫通孔と、を含むシール部品と、を有し、
前記潤滑剤は、前記固定シャフトと前記回転体との間の隙間に充填され、前記第1ラジアル軸受面及び前記第2ラジアル軸受面とともに動圧形のラジアルすべり軸受を形成し、
前記貫通孔は、前記捕捉凹面に開口した第1開口と、前記シール部品のうち前記第2内周面及び前記捕捉凹面以外の面に開口した第2開口と、を有し、前記第1開口から前記第2開口まで前記シール部品を貫通し、前記捕捉凹面で囲まれた空間を前記第1ラジアル軸受面と前記第2ラジアル軸受面との間の第1隙間につなげている。
【0007】
また、一実施形態に係る回転陽極型X線管は、
回転軸線に沿って延出し第1外周面に第1ラジアル軸受面を含む径大部と前記径大部と一体に形成され前記径大部の第1外径より小さい第2外径を持つ径小部とを有する固定シャフトと、前記固定シャフトを中心に回転自在な回転体と、潤滑剤と、を具備したすべり軸受ユニットと、
陽極ターゲットと、
前記陽極ターゲットに対向配置された陰極と、
前記すべり軸受ユニット、前記陽極ターゲット及び前記陰極を収容し、前記固定シャフトを固定する外囲器と、を備え、
前記回転体は、
前記回転軸線に沿って延出して筒状に形成され、前記径大部を囲んで位置し、第1内周面に第2ラジアル軸受面を含む回転体本体と、
前記回転体本体に固定され、筒状に形成され、前記径小部を囲んで位置し、第2外周面と、第2内周面と、前記第2内周面に開口し前記第2外周面側に凹み前記潤滑剤を捕捉可能な捕捉凹面と、貫通孔と、を含むシール部品と、を有し、
前記潤滑剤は、前記固定シャフトと前記回転体との間の隙間に充填され、前記第1ラジアル軸受面及び前記第2ラジアル軸受面とともに動圧形のラジアルすべり軸受を形成し、
前記貫通孔は、前記捕捉凹面に開口した第1開口と、前記シール部品のうち前記第2内周面及び前記捕捉凹面以外の面に開口した第2開口と、を有し、前記第1開口から前記第2開口まで前記シール部品を貫通し、前記捕捉凹面で囲まれた空間を前記第1ラジアル軸受面と前記第2ラジアル軸受面との間の第1隙間につなげている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係るX線管装置を示す断面図である。
図2図2は、図1に示したX線管の一部を示す拡大断面図である。
図3図3は、図1に示した固定シャフトの一部を示す側面図である。
図4図4は、上記第1の実施形態に係るX線管の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト及び回転体を示す図である。
図5図5は、上記第1の実施形態の変形例1に係るX線管の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト及び回転体を示す図である。
図6図6は、上記第1の実施形態の変形例2に係るX線管の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト及び回転体を示す図である。
図7図7は、上記第1の実施形態の変形例3に係るX線管の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト及び回転体を示す図である。
図8図8は、上記第1の実施形態の変形例4に係るX線管の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト及び回転体を示す図である。
図9図9は、上記第1の実施形態の変形例5に係るX線管の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト及び回転体を示す図である。
図10図10は、第2の実施形態に係るX線管装置を示す断面図である。
図11図11は、上記第2の実施形態に係るX線管の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト及び回転体を示す図である。
図12図12は、上記第2の実施形態の変形例1に係るX線管の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト及び回転体を示す図である。
図13図13は、第3の実施形態に係るX線管装置を示す断面図である。
図14図14は、図13に示したX線管の一部を示す拡大断面図である。
図15図15は、図14に示したX線管の一部をさらに拡大して示す断面図である。
図16図16は、図13に示した第2円筒を示す斜視図である。
図17図17は、図13に示した第1制限部材を示す斜視図である。
図18図18は、上記第3の実施形態に係るX線管の一部を示す拡大断面図であり、陽極ターゲットに熱が入力され、陽極ターゲットが冷却されるまでの状態を示す図である。
図19図19は、上記第3の実施形態の変形例1に係るX線管の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト及び回転体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0010】
以下の各実施形態において、すべり軸受ユニット及びこのすべり軸受ユニットを備えた回転陽極型X線管装置について説明する。回転陽極型X線管装置は、回転陽極型X線管等を備えている。以下、回転陽極型X線管装置を単にX線管装置と称し、回転陽極型X線管を単にX線管と称する。X線管は、すべり軸受ユニットと、陽極ターゲットと、陰極と、外囲器と、を備えている。すべり軸受ユニットは、固定シャフトと、回転体と、潤滑剤としての液体金属(金属潤滑剤)と、を備え、すべり軸受を使っている。
【0011】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係るX線管装置について説明する。図1は、本第1の実施形態に係るX線管装置を示す断面図である。図2は、図1に示したX線管1の一部を示す拡大断面図である。図3は、図1に示した固定シャフト10の一部を示す側面図である。図4は、本第1の実施形態に係るX線管1の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト10及び回転体20を示す図である。
【0012】
図1に示すように、X線管装置は、回転陽極型のX線管1、磁界を発生させるコイルとしてのステータコイル2等を備えている。X線管1は、すべり軸受ユニットUと、陽極ターゲット50と、陰極60と、外囲器70と、を備えている。すべり軸受ユニットUは、固定シャフト10と、回転体20と、潤滑剤としての液体金属LMと、を備え、すべり軸受を使っている。
【0013】
図1乃至図3に示すように、固定シャフト10は、円柱状に形成され、回転軸線aに沿って延在し、外周面に形成されたラジアル軸受面S11a,S11bを有している。固定シャフト10は、径大部11及び径小部13を備えている。径大部11及び径小部13は、同軸的に一体に形成されている。固定シャフト10は、Fe(鉄)合金、Mo(モリブデン)合金等の金属で形成されている。
【0014】
固定シャフト10の径大部11は、回転軸線aに沿って並んだ領域A1、領域A2、領域A3、領域A4、及び領域A5に位置している。領域A2は、回転軸線aに沿った方向にて領域A1に間隔を置いて位置している。領域A3は、領域A1と領域A2との間に位置し、領域A1及び領域A2のそれぞれと隣り合っている。領域A4は、領域A3から向かって領域A1を越えて位置し、領域A1と隣り合っている。領域A5は、領域A3から向かって領域A2を越えて位置し、領域A2と隣り合っている。
【0015】
径大部11は、円柱状に形成され、外周面S11を備えている。外周面S11は、ラジアル軸受面S11a、ラジアル軸受面S11b、凹面S11c、凹面S11d、及び凹面S11eを有している。また、径大部11は、一端面S11fと、回転軸線aに沿った方向にて一端面S11fの反対側に位置する他端面S11gと、を有している。
【0016】
一端面S11fは、スラスト軸受面S11iと、凹面S11mと、を有している。凹面S11mは、一端面S11fに開口し、他端面S11g側に凹んでいる。回転軸線aに沿った方向から一端面S11fをみた場合、スラスト軸受面S11iは円環状の形状を有し、凹面S11mは円形の形状を有しスラスト軸受面S11iで囲まれている。
【0017】
他端面S11gは、スラスト軸受面S11jと、凹面S11nと、を有している。スラスト軸受面S11jは、後述するシール部品90と対向している。凹面S11nは、他端面S11gに開口し、一端面S11f側に凹んでいる。回転軸線aに沿った方向から他端面S11gをみた場合、スラスト軸受面S11jは円環状の形状を有し、凹面S11nは円環状の形状を有しスラスト軸受面S11jで囲まれている。なお、径小部13は、他端面S11gのうち凹面S11nで囲まれた領域から連続的に形成されている。
【0018】
ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bは、それぞれ径大部11の外周面S11に全周にわたって形成されている。本第1の実施形態において、凹面S11c、凹面S11d、及び凹面S11eは、それぞれ径大部11の外周面S11に全周にわたって形成されている。但し、凹面S11c、凹面S11d、及び凹面S11eは、周方向にて、それぞれ断続的に形成されてもよい。
【0019】
ラジアル軸受面S11aは、領域A1にて径大部11に形成されている。ラジアル軸受面S11bは、領域A2にて径大部11に形成されている。ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bは、回転軸線aに沿った方向に間隔を置いて位置している。
【0020】
ラジアル軸受面S11aは、プレーン面Saと、複数の掻き込み凹面(複数のパターン部)Paと、を有している。プレーン面Saは、滑らかな外周面を有している。複数の掻き込み凹面Paは、それぞれプレーン面Saに開口し、回転軸線a側に凹み、液体金属LMを掻き込むために形成されている。複数の掻き込み凹面Paは、プレーン面Saを窪めて形成され、領域A1にて径大部11の外周面S11に全周にわたって並べられている。各々の掻き込み凹面Paは、周方向に対して斜線状に延出して配列されている。掻き込み凹面Paは、回転軸線a側に位置する底面Scを含んでいる。
回転軸線aに沿った方向において、複数の掻き込み凹面Paは、間隔を置いて形成されている。但し、複数の掻き込み凹面Paは、回転軸線aに沿った方向において、つながってもよい。また、複数の掻き込み凹面Paのうち凹面S11c側の掻き込み凹面Paは、凹面S11cに接していないが、凹面S11cに接してもよい。同様に、複数の掻き込み凹面Paのうち凹面S11d側の掻き込み凹面Paは、凹面S11dに接していないが、凹面S11dに接してもよい。
【0021】
ラジアル軸受面S11bは、プレーン面Sbと、複数の掻き込み凹面(複数のパターン部)Pbと、を有している。プレーン面Sbは、滑らかな外周面を有している。複数の掻き込み凹面Pbは、それぞれプレーン面Sbに開口し、回転軸線a側に凹み、液体金属LMを掻き込むために形成されている。複数の掻き込み凹面Pbは、プレーン面Sbを窪めて形成され、領域A2にて径大部11の外周面S11に全周にわたって並べられている。掻き込み凹面Pbは、周方向に対して斜線状に延出して配列されている。掻き込み凹面Pbは、回転軸線a側に位置する底面Scを含んでいる。
回転軸線aに沿った方向において、複数の掻き込み凹面Pbは、間隔を置いて形成されている。但し、複数の掻き込み凹面Pbは、回転軸線aに沿った方向において、つながっていてもよい。また、複数の掻き込み凹面Pbのうち凹面S11c側の掻き込み凹面Pbは、凹面S11cに接していないが、凹面S11cに接してもよい。同様に、複数の掻き込み凹面Pbのうち凹面S11e側の掻き込み凹面Pbは、凹面S11eに接していないが、凹面S11eに接してもよい。
【0022】
各々の掻き込み凹面Pa及び各々の掻き込み凹面Pbは、数十μmの深さを有した溝で形成されている。複数の掻き込み凹面Pa及び複数の掻き込み凹面Pbは、それぞれヘリングボン・パターンを形作っている。このため、ラジアル軸受面S11a,S11bは、それぞれ凹凸面であり、液体金属LMを掻き込むことができ、液体金属LMによる動圧を発生し易くすることができる。
【0023】
凹面S11cは、領域A3にて径大部11に形成されている。凹面S11dは、領域A4にて径大部11に形成されている。凹面S11eは、領域A5にて径大部11に形成されている。凹面S11c、凹面S11d、及び凹面S11eは、回転軸線aに沿った方向に互いに間隔を置いて位置し、ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bから外れている。
【0024】
凹面S11cは、回転軸線aに沿った方向にて、ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bのそれぞれと並んでいる。凹面S11dは、回転軸線aに沿った方向にて、ラジアル軸受面S11aと並んでいる。凹面S11eは、回転軸線aに沿った方向にて、ラジアル軸受面S11bと並んでいる。凹面S11c,S11d,S11eは、それぞれ、滑らかな外周面であり、プレーン面である。
なお、固定シャフト10は、シェルタ及び上記シェルタにつながった複数の貫通孔を備えてもよい。上記シェルタは、液体金属LMが適量充填される固定シャフト10の内部空間である。複数の貫通孔は、凹面S11cに開口した一以上の貫通孔を含んでいる。
複数の貫通孔は、凹面S11dに開口した一以上の貫通孔をさらに含んでいる。
又は、複数の貫通孔は、凹面S11dではなく凹面S11eに開口した一以上の貫通孔をさらに含んでいる。
又は、複数の貫通孔は、凹面S11dに開口した一以上の貫通孔と、凹面S11eに開口した一以上の貫通孔と、をさらに含んでいる。
上記シェルタ及び上記複数の貫通孔は、液体金属LMの循環路を形成することができる。
【0025】
凹面S11c、凹面S11d、及び凹面S11eは、ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bに比べて窪んで形成されている。言い換えると、凹面S11c,S11d,S11eは、プレーン面Sa,Sbの仮想の延長面Seより回転軸線a側に位置している。さらに言い換えると、固定シャフト10において、凹面S11c,S11d,S11eが形成される区間の外径DO2は、ラジアル軸受面S11a,S11bが形成される区間の外径のうちの最小の外径DO1より小さい。
【0026】
回転軸線aに垂直な方向にて、凹面(凹面S11c,S11d,S11e)と回転体20との間の隙間は、ラジアル軸受面S11a(プレーン面Sa)と回転体20との間の隙間より大きく、ラジアル軸受面S11b(プレーン面Sb)と回転体20との間の隙間より大きい。
【0027】
本第1の実施形態において、回転軸線aに垂直な方向にて、ラジアル軸受面S11a(プレーン面Sa)と回転体20(内周面S20a)との間の隙間、及びラジアル軸受面S11b(プレーン面Sb)と回転体20との間の隙間は、それぞれ10乃至40μmである。なお、上記隙間は、10μm未満となってもよい。また、回転軸線aに垂直な方向にて、凹面(凹面S11c,S11d,S11e)と回転体20との間の隙間は、0.1乃至3mmである。
【0028】
凹面S11cと回転体20との間の空間、凹面S11dと回転体20との間の空間、及び凹面S11eと回転体20との間の空間を、液体金属LMを収容するリザーバとして機能させることができる。各々のラジアル軸受面S11a,S11bに両隣から液体金属LMを供給できるため、軸受隙間における液体金属LMの枯渇を抑制することができる。
【0029】
軸受隙間で液体金属LMが稀薄になり、又は液体金属LMが存在しなくなる場合に生じる固定シャフト10のラジアル軸受面と回転体20のラジアル軸受面との接触を抑制することができる。さらに、軸受面の少なくとも一方が削られてなる異物の発生自体を抑制することができるため、異物の液体金属LMへの混入を抑制することができる。
【0030】
径小部13は、円柱状に形成され、径大部11の一端側に位置している。径小部13は、径大部11の外径(プレーン面Saの外径又はプレーン面Sbの外径)DO3より小さい外径DO4を持っている。径小部13は、スラスト軸受面S11jより回転軸線a側に位置している。
【0031】
図1及び図2に示すように、回転体20は、固定シャフト10を中心に回転自在に構成されている。回転体20は、回転体本体27と、シール部品90と、筒部25と、を備えている。回転体本体27及びシール部品90は、それぞれFe合金、Mo合金等の金属で形成されている。筒部25は、銅(Cu)、銅合金等の金属で形成されている。
【0032】
回転体本体27は、第1円筒21と、蓋部29と、を備えている。
第1円筒21は、回転軸線aに沿って延出し、筒状に形成され、固定シャフト10(径大部11)を囲んで位置している。本第1の実施形態において、第1円筒21は、全長にわたって均一な内径及び外径を有している。第1円筒21は、内周面S20aを有している。内周面S20aは、ラジアル軸受面S20bを含んでいる。ラジアル軸受面S20bは、少なくとも領域A1及び領域A2に位置している。本第1の実施形態において、ラジアル軸受面S20bは、滑らかな内周面であり、プレーン面である。
【0033】
蓋部29は、円板状に形成され、第1円筒21と一体に形成され、第1円筒21の一端側を液密に閉塞している。蓋部29は、回転軸線aに沿った方向に固定シャフト10のスラスト軸受面S11iと対向したスラスト軸受面S20iを含んでいる。
【0034】
図2及び図4に示すように、シール部品90は、回転体本体27に固定され、筒状に形成され、径小部13を囲んで位置している。シール部品90は、筒部91と、鍔部92と、を有している。筒部91は、外周面S90aと、内周面S90bと、複数の捕捉凹面S90c,S90d,S90eと、貫通孔hと、を含んでいる。
また、シール部品90は、固定シャフト10のスラスト軸受面S11jと対向したスラスト軸受面S20jを含んでいる。
【0035】
シール部品90の内周面S90bと固定シャフト10(径小部13)との間の隙間(クリアランス)は、回転体20の回転を維持するとともに液体金属LMの漏洩を抑制できる値に設定されている。以上のことから、上記隙間は僅かであり、シール部品90(筒部91)はラビリンスシールリング(labyrinth seal ring)として機能するものである。回転軸線aに垂直な方向における内周面S90bと径小部13との間の上記隙間は、50乃至300μmの範囲内である。
【0036】
捕捉凹面S90c,S90d,S90eは、それぞれ内周面S90bに開口し、外周面S90a側に凹み、液体金属LMを捕捉可能に構成されている。捕捉凹面S90c,S90d,S90eは、それぞれ筒部91の内周面S90bに全周にわたって形成されている。その場合、捕捉凹面S90c,S90d,S90eは、それぞれ円環状の溝である。捕捉凹面S90c,S90d,S90eは、それぞれ外周面S90a側に位置する底面を含んでいる。例えば、捕捉凹面S90cは、底面Sdを含んでいる。
【0037】
捕捉凹面S90c,S90d,S90eにおいて、捕捉凹面S90cは最も径大部11に近接し、捕捉凹面S90eは最も径大部11から離れている。回転軸線aに沿った方向において、捕捉凹面S90dは、捕捉凹面S90cと捕捉凹面S90eとの間に位置している。
なお、シール部品90は、複数の捕捉凹面S90c,S90d,S90eを有していなくともよい。シール部品90は、少なくとも捕捉凹面S90cを有していればよい。
【0038】
貫通孔hは、捕捉凹面S90cに開口した第1開口OP1と、シール部品90(筒部91)のうち内周面S90b及び捕捉凹面S90c,S90d,S90e以外の面に開口した第2開口OP2と、を有している。貫通孔hは、第1開口OP1から第2開口OP2までシール部品90(筒部91)を貫通している。
ここで、固定シャフト10のラジアル軸受面S11bと回転体20のラジアル軸受面S20bとの間の隙間を第1隙間g1とする。すると、貫通孔hは、捕捉凹面S90cで囲まれた空間を第1隙間g1につなげている。
【0039】
本第1の実施形態において、第1開口OP1は、捕捉凹面S90cの底面Sdに開口している。第2開口OP2は外周面S90aに開口している。シール部品90の外周面S90aは、回転体20の内周面S20aに隙間を置いて囲まれている。ここで、すべり軸受ユニットUにおいて、内周面S20aと外周面S90aとの間の隙間を第2隙間g2とする。すると、第2隙間g2は、貫通孔hを第1隙間g1につなげている。本実施形態において、g2>g1である。第2隙間g2の上限は、3mm程度であってもよい。
なお、第2隙間g2を、液体金属LMを収容するリザーバとして機能させることができる。ラジアルすべり軸受Bb及びスラストすべり軸受Bdの各々に隣から液体金属LMを供給できるため、軸受における液体金属LMの枯渇を抑制することができる。
【0040】
鍔部92は、円環状の形状を有し、外周面S90aを全周にわたって囲み、外周面S90aから連続的に一体に形成されている。シール部品90のうち鍔部92が、第1円筒21に固定されている。例えば、本第1の実施形態のように、第1円筒21に対するシール部品90の相対的な位置を固定するため、鍔部92の外周側に円環状の段差部が形成されてもよい。鍔部92の段差部を第1円筒21に嵌合させることができる。
【0041】
シール部品90は、ねじ120を用いて回転体本体27(第1円筒21)に固定されている。第1円筒21とシール部品90との境界は、全周にわたって溶接されている。溶接部130により、第1円筒21とシール部品90との隙間を液密に閉塞することができるため、第1円筒21とシール部品90との隙間を介した液体金属LMの漏洩を抑制することができる。
【0042】
図1及び図2に示すように、筒部25は、第1円筒21の外周面と接合され、第1円筒21に固着されている。なお、図2において、筒部25の図示を省略している。
すべり軸受ユニットUに組立てる際、第1円筒21と蓋部29との一体物の内部に固定シャフト10を嵌合する。その後、シール部品90で蓋をするため、シール部品90を第1円筒21に固定する。
【0043】
本実施形態において、蓋部29は第1円筒21と一体に形成されているが、蓋部29は第1円筒21から物理的に独立した蓋であってもよい。
固定シャフト10及び回転体20は、全対向領域で、互いに隙間を置いて設けられている。径大部11は回転体20で覆われている。径小部13は回転体20の外側に突出している。固定シャフト10は回転体20を回転可能に支持している。
【0044】
液体金属LMは、固定シャフト10(径大部11)と回転体20との間の隙間に充填されている。液体金属LMは、GaIn(ガリウム・インジウム)合金、GaInSn(ガリウム・インジウム・錫)合金等の材料を利用することができる。液体金属LMは、上記隙間に適量充填されている。回転体20の回転動作時、液体金属LMの回転軸線a側の液面は、ラジアル軸受面S11a,S11bの底面Scより回転軸線a側に位置している。これにより、軸受隙間における液体金属LMの枯渇を抑制することができる。
【0045】
液体金属LMは、固定シャフト10の軸受面及び回転体20の軸受面とともに動圧形のすべり軸受を形成している。
液体金属LMは、ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S20bとともに動圧形のラジアルすべり軸受Baを形成している。ラジアルすべり軸受Baは、領域A1に位置している。
液体金属LMは、ラジアル軸受面S11b及びラジアル軸受面S20bとともに動圧形のラジアルすべり軸受Bbを形成している。ラジアルすべり軸受Bbは、領域A2に位置している。
液体金属LMは、スラスト軸受面S11i及びスラスト軸受面S20iとともに動圧形のスラストすべり軸受Bcを形成している。
液体金属LMは、スラスト軸受面S11j及びスラスト軸受面S20jとともに動圧形のスラストすべり軸受Bdを形成している。
【0046】
図1に示すように、陽極ターゲット50は、円環状に形成され、固定シャフト10、及び回転体20と同軸的に設けられている。陽極ターゲット50は、陽極ターゲット本体51と、陽極ターゲット本体51の外面の一部に設けられたターゲット層52と、を有している。陽極ターゲット本体51は、円環状に形成されている。陽極ターゲット本体51は、回転体20に固定され、回転体20と一体となっている。
【0047】
本実施形態において、陽極ターゲット本体51は、筒状の接続部110を介して回転体本体27(蓋部29)に間接に固定され、接続部110及び回転体本体27と一体となっている。なお、接続部110は、Mo合金等の金属で形成されている。接続部110は、断熱部として機能し、陽極ターゲット50から回転体20に熱を伝え難くするものである。
【0048】
陽極ターゲット本体51は、Mo、W(タングステン)、あるいはこれらを用いた合金で形成されている。ターゲット層52は、陰極から放出される電子が衝突するターゲット面(電子衝突面)S52を有している。ターゲット層52を形成する金属の融点は、陽極ターゲット本体51を形成する金属の融点と同一、又は陽極ターゲット本体51を形成する金属の融点より高い。本第1の実施形態において、陽極ターゲット本体51はMo合金で形成され、ターゲット層52はW合金で形成されている。
【0049】
陽極ターゲット50は、回転体20とともに回転可能である。ターゲット層52のターゲット面S52に電子が衝突すると、ターゲット面S52に焦点が形成される。これにより、陽極ターゲット50は、焦点からX線を放出する。
【0050】
陰極60は、陽極ターゲット50のターゲット層52に間隔を置き、陽極ターゲット50(ターゲット層52)に対向配置されている。陰極60は、外囲器70の内壁に取付けられている。陰極60は、ターゲット層52に照射する電子を放出する電子放出源としてのフィラメント61を有している。
【0051】
外囲器70は、円筒状に形成されている。外囲器70はガラス、セラミック、及び金属で形成されている。外囲器70において、陽極ターゲット50と対向した個所の外径は、筒部25と対向した個所の外径より大きい。外囲器70は開口部72を有している。外囲器70は、密閉され、すべり軸受ユニットU、陽極ターゲット50、接続部110、及び陰極60を収容している。外囲器70の内部は真空状態(減圧状態)に維持されている。
【0052】
外囲器70の気密状態を維持するよう、開口部72は固定シャフト10の径小部13に気密に接合されている。この実施の形態において、X線管1は、片端支持軸受構造を採用している。外囲器70は、固定シャフト10の径小部13を固定している。すなわち、径小部13は、軸受の片持ち支持部として機能している。
【0053】
ステータコイル2は、回転体20の外周面、より詳しくは筒部25の外周面に対向し外囲器70を囲むように設けられている。ステータコイル2の形状は円環状である。ステータコイル2は、筒部25(回転体20)に与える磁界を発生して回転体20及び陽極ターゲット50を回転させる。
【0054】
上記X線管装置の動作状態において、ステータコイル2は回転体20(特に筒部25)に与える磁界を発生するため、回転体20は回転する。これにより、陽極ターゲット50も回転体20と一緒に回転する。また、陰極60に電流が与えられ負の電圧が印加され、陽極ターゲット50に相対的に正の電圧が印加される。
回転体20及び固定シャフト10の電位は、陽極ターゲット50の電位と同一となる。陽極接地型のX線管の場合、陽極ターゲット50、回転体20、固定シャフト10、及び図示しない外囲器の金属部分は、接地電位となる。
【0055】
これにより、陰極60と陽極ターゲット50との間に電位差が生じる。フィラメント61は電子を放出する。この電子は、加速され、ターゲット面S52に衝突する。これにより、ターゲット面S52に焦点が形成され、焦点は電子と衝突するときにX線を放出する。陽極ターゲット50に衝突した電子(熱電子)は、X線に変換され、残りは熱エネルギに変換される。なお、陰極60の電子放出源としては、フィラメントに限定されるものではなく、例えばフラットエミッタであってもよい。また、X線管1は、熱陰極X線管ではなく、冷陰極X線管であってもよい。
【0056】
図2及び図4に示すように、すべり軸受ユニットUの動作状態において、軸受(例えば、スラストすべり軸受Bd)から液体金属LMが押し出される場合がある。例えば、X線管1の動作中、固定シャフト10及び回転体20間に存在するガスの膨張により、固定シャフト10及び回転体20間の隙間から、ガスとともに液体金属LMの一部が軸受外部に瞬間的に噴出する場合がある。
【0057】
しかしながら、固定シャフト10は凹面S11nを有している。軸受から固定シャフト10の径小部13側にガス及び液体金属LMが押し出されても、押し出されたガス及び液体金属LMの衝撃を凹面S11nで吸収することができる。
なお、固定シャフト10に凹面S11nを形成することで、他端面S11gにスラスト軸受面S11jを高精度に形成することができる。
【0058】
さらに、すべり軸受ユニットUはシール部品90を備えている。そのため、シール部品90の内周面S90bと径小部13との間に液体金属LMが押し出されても、シール部品90の複数の捕捉凹面S90c,S90d,S90eは、押し出された液体金属LMを捕捉することができる。
【0059】
これにより、すべり軸受ユニットUの外側への液体金属LMの漏洩を抑制することができる。外囲器70の内部への液体金属LMの飛散は抑制されるため、X線管1に生じる恐れのある放電の発生を抑制することができ、ひいては、X線管1の製品寿命の長期化を図ることができ、X線管1の製品信頼性の向上を図ることができる。そして、X線管1は、機能を失うことなく動作を継続することができる。
【0060】
貫通孔hは、捕捉凹面S90cで囲まれた空間を、第2隙間g2を介して第1隙間g1及び第3隙間g3につなげている。ここで、第3隙間g3は、回転軸線aに沿った方向において、径大部11とシール部品90との間の隙間である。貫通孔hは、捕捉凹面S90c、第2隙間g2等とともに液体金属LMの循環路を構成している。捕捉凹面S90cで液体金属LMを捕捉した場合、その液体金属LMを、再度、軸受に利用することができる。そのため、軸受における液体金属LMの枯渇を抑制することができる。
【0061】
ここで、固定シャフト10及びシール部品90の寸法について説明する。
図3及び図4に示すように、前記回転軸線aに垂直な方向において、回転軸線aから貫通孔hの第1開口OP1までの最長の距離を第1距離DI1とし、回転軸線aから貫通孔hの第2開口OP2までの最長の距離を第2距離DI2とし、回転軸線aから掻き込み凹面Pa,Pbの各々の底面Scまでの距離を第3距離DI3とする。
【0062】
第2距離DI2は、第1距離DI1以上である。遠心力により、液体金属LMを第1開口OP1から第2開口OP2まで貫通孔hの内部を移動させることができる。液体金属LMを捕捉凹面S90cの内部から貫通孔hを介して第2隙間g2に移動させることができるため、液体金属LMを良好に循環させることができる。
【0063】
第3距離DI3は、第1距離DI1以上である。第3距離DI3が第1距離DI1未満である場合と比較して、捕捉凹面S90cの内部の液体金属LMを掻き込み凹面Pa,Pb側に良好に供給することができる。これにより、回転体20の回転動作時、液体金属LMの回転軸線a側の液面を、掻き込み凹面Pa,Pbの各々の底面Scより回転軸線a側に位置させ易くなり、軸受(ラジアルすべり軸受Ba,Bb)における液体金属LMの枯渇を抑制することができる。
【0064】
さらに、第3距離DI3は、第2距離DI2以上である。本実施形態において、第3距離DI3は、第2距離DI2を超えている。第3距離DI3が第2距離DI2未満である場合と比較して、貫通孔hの内部の液体金属LMを掻き込み凹面Pa,Pb側に良好に供給することができる。そして、軸受における液体金属LMの枯渇を、一層、抑制することができる。
上記のようにX線管1を備えたX線管装置が形成されている。
【0065】
上記のように構成された第1の実施形態に係るX線管装置によれば、X線管装置は、回転陽極型のX線管1を備えている。X線管1は、すべり軸受ユニットU、陽極ターゲット50、陰極60、外囲器70等を備えている。すべり軸受ユニットUは、固定シャフト10、固定シャフト10を中心に回転自在な回転体20、液体金属LM等を備えている。固定シャフト10は、回転軸線aに沿って延出し外周面S11にラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bを含む径大部11と、径大部11の外径DO3より小さい外径DO4を持つ径小部13と、を有している。
【0066】
回転体20は、回転体本体27と、シール部品90と、を有している。回転体本体27は、回転軸線aに沿って延出して筒状に形成され、径大部11を囲んで位置し、内周面S20aにラジアル軸受面S20bを含んでいる。シール部品90は、回転体本体27に固定され、筒状に形成され、径小部13を囲んで位置し、外周面S90aと、内周面S90bと、内周面S90bに開口し外周面S90a側に凹み液体金属LMを捕捉可能な捕捉凹面S90c,S90d,S90eと、貫通孔hと、を含んでいる。
【0067】
液体金属LMは、固定シャフト10と回転体20との間の隙間に充填されている。液体金属LMは、ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S20bとともに動圧形のラジアルすべり軸受Baを形成している。液体金属LMは、ラジアル軸受面S11b及びラジアル軸受面S20bとともに動圧形のラジアルすべり軸受Bbを形成している。
【0068】
貫通孔hは、捕捉凹面S90cに開口した第1開口OP1と、シール部品90のうち内周面S90b及び捕捉凹面S90c,S90d,S90e以外の面に開口した第2開口OP2と、を有している。貫通孔hは、第1開口OP1から第2開口OP2までシール部品90を貫通し、捕捉凹面S90cで囲まれた空間をラジアル軸受面S11bとラジアル軸受面S20bとの間の第1隙間g1につなげている。
【0069】
貫通孔hは、捕捉凹面S90c等とともに液体金属LMの循環路を構成している。捕捉凹面S90cで液体金属LMを捕捉した場合、その液体金属LMを、再度、軸受に利用することができる。そのため、軸受における液体金属LMの枯渇を抑制することができる。
【0070】
貫通孔hの第1開口OP1は、捕捉凹面S90cのうち回転軸線aから最も離れた位置に形成されている。これにより、捕捉凹面S90cで囲まれた空間に液体金属LMが取り残される事態を回避することができる。
上記のことから、長期にわたって良好な軸受動作を得ることができるすべり軸受ユニットU及びこのすべり軸受ユニットを備えたX線管1を得ることができる。
【0071】
(第1の実施形態の変形例1)
次に、上記第1の実施形態の変形例1について説明する。X線管1(すべり軸受ユニットU)は、本変形例1で説明する構成以外、上記第1の実施形態と同様に構成されている。図5は、本変形例1に係るX線管1の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト10及び回転体20を示す図である。
【0072】
図5に示すように、第3距離DI3は、第2距離DI2と同一であってもよい。本変形例1において、g2=g1である。貫通孔hの内部の液体金属LMを掻き込み凹面Pa,Pb側に良好に供給することができる。そして、軸受における液体金属LMの枯渇を、一層、抑制することができる。
その他、本変形例1は、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
(第1の実施形態の変形例2)
次に、上記第1の実施形態の変形例2について説明する。X線管1(すべり軸受ユニットU)は、本変形例2で説明する構成以外、上記第1の実施形態と同様に構成されている。図6は、本変形例2に係るX線管1の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト10及び回転体20を示す図である。
【0074】
図6に示すように、例えば、液体金属LMの流動性の理由により、第3距離DI3は、第2距離DI2未満であってもよい。g2<g1である。本変形例2においても、貫通孔hは、捕捉凹面S90c等とともに液体金属LMの循環路を構成している。そのため、本変形例2は、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0075】
(第1の実施形態の変形例3)
次に、上記第1の実施形態の変形例3について説明する。X線管1(すべり軸受ユニットU)は、本変形例3で説明する構成以外、上記第1の実施形態と同様に構成されている。図7は、本変形例3に係るX線管1の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト10及び回転体20を示す図である。
【0076】
図7に示すように、シール部品90は、外周面S90aに開口し内周面S90b側に凹んだリザーバ凹面S90fを有してもよい。リザーバ凹面S90fは、液体金属LMを収容可能である。貫通孔hの第2開口OP2は、リザーバ凹面S90fに開口している。リザーバ凹面S90f及び第2隙間g2は、貫通孔hを第1隙間g1及び第3隙間g3につなげている。
【0077】
本変形例3によれば、第2隙間g2に加え、リザーバ凹面S90fで囲まれた空間においても、液体金属LMを収容することができる。軸受における液体金属LMの枯渇を、一層、抑制することができる。その他、本変形例3は、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0078】
(第1の実施形態の変形例4)
次に、上記第1の実施形態の変形例4について説明する。X線管1(すべり軸受ユニットU)は、本変形例4で説明する構成以外、上記第1の実施形態と同様に構成されている。図8は、本変形例4に係るX線管1の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト10及び回転体20を示す図である。
【0079】
図8に示すように、捕捉凹面S90cで囲まれた空間の体積は、内周面S90b側から外周面S90a側に近づくにつれて漸減してもよい。捕捉凹面S90cで捕捉した液体金属LMを貫通孔hの第1開口OP1に向かい易くすることができる。その他、本変形例4は、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0080】
(第1の実施形態の変形例5)
次に、上記第1の実施形態の変形例5について説明する。X線管1(すべり軸受ユニットU)は、本変形例5で説明する構成以外、上記第1の実施形態と同様に構成されている。図9は、本変形例5に係るX線管1の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト10及び回転体20を示す図である。
【0081】
図9に示すように、シール部品90は、複数の貫通孔hを備えてもよい。各々の貫通孔hは、捕捉凹面S90cの底面Sdに開口した第1開口OP1と、シール部品90の外周面S90aに開口した第2開口OP2と、を有している。本変形例5において、シール部品90は、2つの貫通孔hを備えているが、3つ以上の貫通孔hを備えてもよい。シール部品90が1つの貫通孔hを備えている場合と比較し、捕捉凹面S90cで捕捉した液体金属LMを軸受側に戻し易くすることができる。その他、本変形例5は、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0082】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るX線管装置について説明する。X線管1は、本第2の実施形態で説明する構成以外、上記第1の実施形態と同様に構成されている。図10は、本第2の実施形態に係るX線管装置を示す断面図である。図11は、本第2の実施形態に係るX線管1の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト10及び回転体20を示す図である。なお、図11において、筒部25の図示を省略している。
【0083】
図10に示すように、固定シャフト10は、鍔部17をさらに備えている。鍔部17は、径大部11の外周面側に位置し、径大部11と一体に形成されている。本実施形態において、鍔部17は、径大部11の凹面S11eから連続的に形成されている。言い換えると、鍔部17及び径大部11は、同一材料で同時に形成されている。但し、互いに物理的に独立した鍔部17及び径大部11等を用意し、径大部11に鍔部17を固定することで固定シャフト10を形成してもよい。
【0084】
回転体20は、軸受部材26をさらに備えている。軸受部材26は、筒状に形成されている。回転軸線aに沿った方向において、軸受部材26は、回転体本体27(第1円筒21)とともに鍔部17を挟んでいる。例えば、本第2の実施形態のように、第1円筒21に対する軸受部材26の相対的な位置を固定するため、軸受部材26の外周側に円環状の段差部が形成されてもよい。軸受部材26の段差部を第1円筒21に嵌合させることができる。
【0085】
同様に、第1円筒21及び軸受部材26に対するシール部品90の相対的な位置を固定するため、鍔部92の外周側に円環状の段差部が形成されてもよい。鍔部92の段差部を軸受部材26に嵌合させることができる。
【0086】
図11に示すように、シール部品90及び軸受部材26は、ねじ120を用いて回転体本体27(第1円筒21)に固定されている。第1円筒21と軸受部材26との境界は、全周にわたって溶接されている。溶接部140により、第1円筒21と軸受部材26との隙間を液密に閉塞することができるため、第1円筒21と軸受部材26との隙間を介した液体金属LMの漏洩を抑制することができる。軸受部材26とシール部品90との境界は、全周にわたって溶接されている。溶接部150により、軸受部材26とシール部品90との隙間を液密に閉塞することができるため、軸受部材26とシール部品90との隙間を介した液体金属LMの漏洩を抑制することができる。
【0087】
鍔部17は、スラスト軸受面S11iと、回転軸線aに沿った方向においてスラスト軸受面S11iの反対側に位置したスラスト軸受面S11jと、を含んでいる。回転体本体27(第1円筒21)は、回転軸線aに沿った方向に鍔部17のスラスト軸受面S11iと対向したスラスト軸受面S20iを含んでいる。軸受部材26は、回転軸線aに沿った方向に鍔部17のスラスト軸受面S11jと対向したスラスト軸受面S20jを含んでいる。
【0088】
液体金属LMは、鍔部17のスラスト軸受面S11i及び第1円筒21のスラスト軸受面S20iとともに動圧形のスラストすべり軸受Bcを形成している。
液体金属LMは、鍔部17のスラスト軸受面S11j及び軸受部材26のスラスト軸受面S20jとともに動圧形のスラストすべり軸受Bdを形成している。
ここで、すべり軸受ユニットUにおいて、第2隙間g2は、シール部品90の外周面S90aと軸受部材26の内周面S26との間の隙間である。
【0089】
シール部品90は、円環部91aを有している。円環部91aは、捕捉凹面S90cの一部である第1端面91bと、回転軸線aに沿った方向において第1端面91bの反対側に位置し径大部11と対向した第2端面91cとを含んでいる。貫通孔hの第1開口OP1は、第1端面91b及び底面Sdの少なくとも一方に開口している。本実施形態において、第1開口OP1は第1端面91bに開口している。貫通孔hの第2開口OP2は、第2端面91cに開口している。貫通孔hは、第1開口OP1から第2開口OP2までシール部品90(円環部91a)を貫通している。
本実施形態において、貫通孔hは、回転軸線aに沿った方向に延出している。第2距離DI2は、第1距離DI1と同一である。
【0090】
貫通孔hは、捕捉凹面S90cで囲まれた空間を第3隙間g3につなげている。本実施形態において、径大部11及びシール部品90は、液体金属LMとともにスラストすべり軸受を形成していない。そのため、貫通孔hの第2開口OP2を、第3隙間g3に直につなげることができる。第3隙間g3は、貫通孔hを第1隙間g1等につなげている。
【0091】
上記のように構成された第2の実施形態に係るX線管装置によれば、X線管1は、すべり軸受ユニットU、陽極ターゲット50、陰極60、外囲器70等を備えている。すべり軸受ユニットUは、第3隙間g3から離れた位置にスラストすべり軸受を有している。
【0092】
貫通孔hは、第3隙間g3に直につながった第2開口OP2を有し、捕捉凹面S90c等とともに液体金属LMの循環路を構成している。捕捉凹面S90cで液体金属LMを捕捉した場合、スラストすべり軸受に悪影響を及ぼすこと無しに、液体金属LMを、再度、軸受に利用することができる。
【0093】
上記のことから、本第2の実施形態においても、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。本第2の実施形態は、長期にわたって良好な軸受動作を得ることができるすべり軸受ユニットU及びこのすべり軸受ユニットを備えたX線管1を得ることができる。
なお、本第2の実施形態に、上記変形例1(図5)、上記変形例2(図6)、上記変形例3(図7)、上記変形例4(図8)、及び上記変形例5(図9)の1以上の技術を適用可能である。
【0094】
(第2の実施形態の変形例1)
次に、上記第2の実施形態の変形例1について説明する。X線管1(すべり軸受ユニットU)は、本変形例1で説明する構成以外、上記第2の実施形態と同様に構成されている。図12は、本変形例1に係るX線管1の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト10及び回転体20を示す図である。
【0095】
図12に示すように、貫通孔hは、回転軸線aに沿った方向に延出していなくともよい。第2距離DI2は、第1距離DI1を超えてもよい。すなわち、回転軸線aに垂直な方向において、回転軸線aから貫通孔hの第2開口OP2までの最長の距離は、回転軸線aから貫通孔hの第1開口OP1までの最長の距離を超えてもよい。本変形例1においても、上記第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0096】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係るX線管装置について説明する。X線管1は、本第3の実施形態で説明する構成以外、上記第1の実施形態と同様に構成されている。図13は、本第3の実施形態に係るX線管装置を示す断面図である。図14は、図13に示したX線管1の一部を示す拡大断面図である。図14において、筒部25の図示を省略している。図15は、図14に示したX線管1の一部をさらに拡大して示す断面図である。図16は、図13に示した第2円筒22を示す斜視図である。図17は、図13に示した第1制限部材23を示す斜視図である。
【0097】
図13及び図14に示すように、固定シャフト10は、径小部12をさらに備えている。径小部12は、径大部11より外径の小さい円柱状に形成され、径大部11の他端側に位置している。径小部12は、スラスト軸受面S11iより回転軸線a側に位置している。なお、回転軸線aに沿った方向から一端面S11fをみた場合、凹面S11mは、円環状の形状を有し、スラスト軸受面S11iと径小部12との間に位置している。
【0098】
固定シャフト10は、第1底面10b1と、第2底面10b2と、熱伝達部10aと、を含んでいる。第2底面10b2は、回転軸線aに沿った方向において第1底面10b1の反対側に位置している。本実施形態において、第1底面10b1は径小部12に位置し、第2底面10b2は径小部13に位置している。
【0099】
熱伝達部10aは、回転軸線aに沿って延出し、第1底面10b1及び第2底面10b2の少なくとも一方に開口している。本実施形態において、熱伝達部10aは、熱伝達穴であり、第2底面10b2に開口し、第1底面10b1に開口していない。熱伝達部10aは、冷媒の流路を形成している。熱伝達部10aは、強制対流にて内部を流れる冷媒に熱を伝達する。本実施形態において、冷媒は冷却液Lである。水冷又は油冷にてX線管1の陽極ターゲット50の冷却率を向上させることができる。但し、冷媒は空気であってもよく、空冷にて陽極ターゲット50の冷却率を向上させてもよい。
熱伝達部10aは、少なくとも領域A1に位置していた方が望ましい。これにより、固定シャフト10のうち、陽極ターゲット50の熱が伝わり易い個所を冷却することができる。なお、領域A1は、陽極ターゲット50で囲まれた領域である。
【0100】
回転体20は、第1円筒21と、第2円筒22と、第1制限部材23と、第2制限部材24と、筒部25と、シール部品90と、を備えている。第1円筒21、第2円筒22、第1制限部材23、及び第2制限部材24は、それぞれFe合金やMo合金等の金属で形成されている。回転体20において、第1円筒21は外側に位置する外円筒であり、第2円筒22は相対的に内側に位置する内円筒である。
【0101】
図13乃至図16に示すように、第1円筒21は、回転軸線aに沿って延出して筒状に形成され、径大部11を囲んで位置している。第2円筒22は、回転軸線aに沿って延出し、筒状に形成されている。第2円筒22は、固定シャフト10の径大部11と第1円筒21との間に位置している。本実施形態において、第2円筒22は、全長にわたって均一な内径及び外径を有している。第2円筒22の内径は固定シャフト10(径大部11)の外径(外径DO3)より大きく、第2円筒22の外径は第1円筒21の内径より小さい。
【0102】
第1円筒21はラジアル軸受面S20bを含んでいない。第2円筒22は、ラジアル軸受面S20bを含む内周面S20aを有している。ラジアル軸受面S20bは、少なくとも領域A1及び領域A2に位置している。本実施形態において、ラジアル軸受面S20bは、滑らかな内周面であり、プレーン面である。第2円筒22と固定シャフト10との間の隙間、及び第2円筒22と第1円筒21との間の隙間の分、第2円筒22は、固定シャフト10及び第1円筒21の各々に対して偏心した位置に移動可能である。第2円筒22は、第1円筒21に対して相対的に回転しないように回転動作が制限されている。そのため、第2円筒22の回転速度は、第1円筒21の回転速度と同一である。
【0103】
回転軸線aに沿った方向における第2円筒22の長さは、ラジアルすべり軸受及びスラストすべり軸受の機能を損なうことの無いよう、調整されている。
第2円筒22は、第1端面22e1と、第2端面22e2と、1以上の凹部22rと、を含んでいる。第1端面22e1は、第2円筒22のうち回転軸線aに沿った方向の端に位置している。第2端面22e2は、第2円筒22のうち回転軸線aに沿った方向の端に位置し、第1端面22e1の反対側にある。本実施形態において、第2円筒22は、3つの凹部22rを有している。これらの凹部22rは、周方向に互いに間隔を置いて位置している。各々の凹部22rは、第1端面22e1に開口し、回転軸線aに沿った方向に凹んでいる。
本実施形態において、回転軸線aに垂直な方向にて、第1円筒21と第2円筒22との間の隙間は、10乃至40μmである。
【0104】
図13図14、及び図17に示すように、第1制限部材23は、第1部材23aと、1以上の第2部材23bと、を有している。本実施形態において、第1制限部材23は、3つの第2部材23bを有している。第1部材23aは、円環状の形状を有し、第1円筒21に固定されている。例えば、本実施形態のように、第1円筒21に対する第1部材23aの相対的な位置を固定するため、第1部材23aの外周側に環状の段差部が形成されてもよい。第1部材23aの段差部を第1円筒21に嵌合させることができる。
【0105】
回転軸線aに沿った方向にて、第1部材23aを第1円筒21に押圧した状態に保持することで、第1部材23aを第1円筒21に固定することができる。又は、溶接やろう接により第1部材23aを第1円筒21に固定したり、ねじを用いて第1部材23aを第1円筒21に取り外し可能に固定したり、してもよい。
【0106】
第1部材23aは、第2円筒22の第1端面22e1と対向している。これにより、第1部材23aは、回転軸線aに沿った方向の第2円筒22の移動を制限することができる。第1部材23aは、回転軸線aに沿った方向に固定シャフト10のスラスト軸受面S11iと対向したスラスト軸受面S20iを含んでいる。スラスト軸受面S20iは、第1部材23aの内周側に位置し、環状の形状を有している。なお、図17において、スラスト軸受面S20iにはドットパターンを付している。
【0107】
各々の第2部材23bは、第1部材23aから回転軸線aに沿った方向に突出している。第2部材23bは、第2円筒22の凹部22rに一対一で対応して設けられている。各々の第2部材23bは、第2円筒22の凹部22rに嵌合している。本実施形態において、第2部材23bと凹部22rとの間には嵌合のための十分な隙間が確保されている。そのため、締り嵌めを利用すること無しに、第2部材23bを凹部22rに嵌合させることができる。また、第2部材23bと凹部22rとの間の隙間を、液体金属LMの循環路として利用することができる。
【0108】
第2部材23bは、第2円筒22の凹部22rとともに第2円筒22の回転動作を制限するように構成されている。第2円筒22は、第1円筒21に対して回転しないように制限されている。
【0109】
第1制限部材23(第1部材23a)と固定シャフト10(径小部12)との間の隙間(クリアランス)は、回転体20の回転を維持するとともに液体金属LMの漏洩を抑制できる値に設定されている。以上のことから、上記隙間は僅かであり、第1部材23aはラビリンスシールリング(labyrinth seal ring)として機能するものである。
【0110】
図13乃至図15に示すように、第2制限部材24は、円環状の形状を有し、第1円筒21に固定されている。本実施形態において、第2制限部材24は、第1円筒21と同一材料で一体成形されている。第2制限部材24は、第2円筒22の第2端面22e2と対向している。これにより、第2制限部材24は、回転軸線aに沿った方向の第2円筒22の移動を制限することができる。第2制限部材24及び第1円筒21は、回転体本体27として機能している。
【0111】
シール部品90は、ねじ120を用いて回転体本体27に固定されている。シール部品90は、少なくとも第1円筒21に間接に固定されていればよい。回転体本体27(第2制限部材24)とシール部品90との境界は、全周にわたって溶接されている。溶接部130により、第2制限部材24とシール部品90との隙間を液密に閉塞することができるため、第2制限部材24とシール部品90との隙間を介した液体金属LMの漏洩を抑制することができる。
【0112】
すべり軸受ユニットUに組立てる際、第1円筒21と第2制限部材24との一体物である回転体本体27の内部に第2円筒22を挿入し、続いて、第2円筒22に固定シャフト10を嵌合する。その後、第1制限部材23で蓋をするため、第1制限部材23を第1円筒21に固定する。次いで、シール部品90を回転体本体27に固定する。
【0113】
本実施形態において、第2制限部材24は第1円筒21と一体に形成され、第1制限部材23は第1円筒21から物理的に独立している。
但し、第1制限部材23は第1円筒21と一体に形成され、第2制限部材24は第1円筒21から物理的に独立してもよい。
又は、第1制限部材23及び第2制限部材24は、それぞれ第1円筒21から物理的に独立してもよい。
【0114】
固定シャフト10及び回転体20は、全対向領域で、互いに隙間を置いて設けられている。径大部11は回転体20で覆われている。径小部12及び径小部13は回転体20の外側に突出している。固定シャフト10は回転体20を回転可能に支持している。
【0115】
液体金属LMは、固定シャフト10(径大部11)と、第1円筒21と、第2円筒22と、第1制限部材23と、第2制限部材24と、シール部品90と、の間の複数の隙間に充填されている。
【0116】
第2円筒22の第1端面22e1(凹部22r)と第1制限部材23との間の隙間は、固定シャフト10と第2円筒22との間の隙間と、第1円筒21と第2円筒22との間の隙間と、につなげられ、液体金属LMの循環路を構成している。
第2円筒22の第2端面22e2と第2制限部材24との間の隙間は、固定シャフト10と第2円筒22との間の隙間と、第1円筒21と第2円筒22との間の隙間と、につなげられ、液体金属LMの循環路を構成している。
【0117】
上記のことから、液体金属LMは、固定シャフト10(径大部11)と、第1円筒21と、第2円筒22と、第1制限部材23と、第2制限部材24と、シール部品90と、の間の複数の隙間を移動可能である。
【0118】
ここで、固定シャフト10、第1円筒21、第2円筒22、及び陽極ターゲット本体51の材質について説明する。
第1円筒21及び第2円筒22の材料の選択の自由度は高い。そのため、第2円筒22は、第1円筒21と同一の材料で形成されてもよく、第1円筒21と異なる材料で形成されてもよい。
【0119】
第2円筒22は、固定シャフト10と同一の材料で形成されてもよい。第2円筒22の熱膨張率と、固定シャフト10の熱膨張率とを一致させることができる。例えば、ラジアル軸受隙間の変動を抑制することができる。
第1円筒21は、固定シャフト10と同一の材料で形成されてもよい。第1円筒21の熱膨張率と、固定シャフト10の熱膨張率とを一致させることができる。例えば、スラスト軸受隙間の変動を抑制することができる。
【0120】
なお、固定シャフト10は、第1円筒21と異なる材料で形成されてもよく、第2円筒22と異なる材料で形成されてもよい。例えば、固定シャフト10を第1円筒21より軟らかい金属で形成したり、固定シャフト10を第2円筒22より軟らかい金属で形成したり、することができる。固定シャフト10を加工し易くなるため、固定シャフト10の生産性の向上を図ることができる。
【0121】
陽極ターゲット本体51が第1円筒21の外周面に間隔を置いて位置している場合、第1円筒21は、陽極ターゲット本体51と同一の材料で形成されてもよく、陽極ターゲット本体51と異なる材料で形成されてもよい。
陽極ターゲット本体51が第1円筒21の外周面につなげられ、陽極ターゲット本体51が第1円筒21の外周面に固着されている場合、第1円筒21は、陽極ターゲット本体51と同一の材料で形成されている。陽極ターゲット本体51の熱膨張率と、第1円筒21の熱膨張率とを一致させることができる。例えば、第1円筒21から陽極ターゲット本体51が外れたり、第1円筒21及び陽極ターゲット本体51の少なくとも一方が破損したり、する事態を抑制することができる。
【0122】
外囲器70は開口部71をさらに有している。外囲器70の気密状態を維持するよう、開口部71は固定シャフト10の径小部12に気密に接合されている。本実施形態において、X線管1は、両端支持軸受構造を採用している。外囲器70は、固定シャフト10の径小部12及び径小部13を固定している。すなわち、径小部12及び径小部13は、軸受の両持ち支持部として機能している。
【0123】
X線管1は、固定シャフト10の内部に設けられた管部40を備えている。円環部16は、固定シャフト10の第2底面10b2に液密に接合されている。管部40は、外周面が円環部16の開口部に液密に接合され、固定シャフト10の外部に延出している。固定シャフト10は、管部40とともに冷却液Lの流路を形成している。
【0124】
管部40は、この内部に冷却液Lを取り入れる取入口40aと、冷却液Lを固定シャフト10の内部に吐き出す吐出口40bを有している。取入口40aは、固定シャフト10の第2底面10b2から外部に延出した側に位置している。また吐出口40bは、回転軸線aに沿った方向にて、熱伝達部(熱伝達穴)10aの底面に隙間を置いて位置している。
【0125】
外囲器70の外側において、固定シャフト10には開口部が形成され、この開口部には管部45が液密に接合されている。管部45は、冷却液Lを外部に取り出す取出口45aを有している。以上のことから、X線管1の内部を循環する冷却液Lは、取入口40aから取り入れられ、管部40の内部を通り、吐出口40bから固定シャフト10の内部に吐出され、管部40及び固定シャフト10の間を通り、管部45の取出口45aから取り出される。なお、上記冷却液Lは、逆方向に循環してもよい。この場合、管部45が冷却液Lの取入口を形成し、管部40が冷却液Lの取出口を形成する。
【0126】
図18は、本実施形態に係るX線管1の一部を示す拡大断面図であり、陽極ターゲット50に熱が入力され、陽極ターゲット50が冷却されるまでの状態を示す図である。
図18に示すように、陽極ターゲット50に熱が発生すると、陽極ターゲット50は熱膨張する。すると、陽極ターゲット50と一体、又は陽極ターゲット50と強固に結合した部分に熱膨張による応力が伝搬し、熱変形が発生する。本実施形態において、第1円筒21のうち領域A1に位置する部分で熱変形が発生し易い。例えば、第1円筒21のうち領域A1に位置する部分は、半径方向の外側に最大で100μm拡張され得る。
【0127】
しかしながら、本実施形態において、第2円筒22は、第1円筒21に対して物理的に固定されていない。第2円筒22は、第1円筒21との間に隙間を置いている。第2円筒22は、第1円筒21に強固に結合されていないため、第1円筒21の変形による応力は、第2円筒22に伝搬し難い。陽極ターゲット50の熱膨張に起因した第2円筒22の変形を抑制することができ、軸受性能の低下を抑制することができる。
【0128】
また、第1円筒21と第2円筒22との間の体積が増加するため、遠心力により液体金属LMは第1円筒21側に集まり、径大部11側に真空空間が発生する。しかし、凹面S11c,S11d,S11eにより、予め液体金属LMのリザーバ空間を形成しているため、第1円筒21と第2円筒22との間の隙間や、軸受隙間に液体金属LMを供給することができる。上記のことからも、軸受性能の低下を抑制することができる。また、陽極ターゲット50から径大部11側への熱伝達は阻害されない。
【0129】
なお、第2部材23bを凹部22rに嵌合させる場合、本実施形態と異なり、締り嵌めを利用して、第2部材23bを凹部22rに嵌合させてもよい。この場合も、陽極ターゲット50の熱膨張に起因した第2円筒22の変形を抑制することができる。なぜなら、陽極ターゲット50が熱膨張しても第1円筒21の端部は変形し難く、第2円筒22が第1円筒21のうち変形し難い端部に間接に固定されるためである。
【0130】
上記のように、締り嵌めにより、第1円筒21に対する第2円筒22の相対的な位置を固定してもよい。その場合、第2円筒22を、第1円筒21に対して偏心した位置に移動できなくすることができる。なお、第1円筒21に対する第2円筒22の相対的な位置を固定する手法は、締り嵌めに限定されるものではなく、ろう接によって行ったり、溶接によって行ったり、ねじを用いて行ったり、してもよい。
【0131】
本実施形態では、第2円筒22のうち第1端面22e1側の端部を、第1制限部材23を介して第1円筒21に間接に固定している。
但し、第1円筒21に対する第2円筒22の相対的な位置を固定するため、第2円筒22のうち第1端面22e1側の端部を固定しなくともよい。第2円筒22のうち第2端面22e2側の端部を、第2制限部材24を介して第1円筒21に間接に固定してもよい。第1端面22e1より第2端面22e2側の方が陽極ターゲット50からの熱伝達パスが長いため、第2円筒22の変形を、一層、抑制することができる。
【0132】
又は、第2円筒22のうち第1端面22e1側の端部を、第1制限部材23を介して第1円筒21に間接に固定し、かつ、第2円筒22のうち第2端面22e2側の端部を、第2制限部材24を介して第1円筒21に間接に固定してもよい。
【0133】
ここで、固定シャフト10及びシール部品90の寸法について説明する。
図3及び図15に示すように、第2距離DI2は、第1距離DI1以上である。本実施形態において、第2距離DI2は、第1距離DI1を超えている。第3距離DI3は、第1距離DI1以上である。本実施形態において、第3距離DI3は、第1距離DI1を超えている。さらに、第3距離DI3は、第2距離DI2以上である。本実施形態において、第3距離DI3は、第2距離DI2を超えている。
【0134】
さらに、ここで、すべり軸受ユニットUにおいて、第1円筒21の内周面と第2円筒22の外周面との間の隙間を第4隙間g4とし、第1円筒21の内周面とシール部品90の外周面S90aとの間の隙間を第5隙間g5とする。第2隙間g2は、貫通孔hを第1隙間g1につなげている。第5隙間g5は、貫通孔hを第4隙間g4につなげている。
【0135】
上記のように構成された第3の実施形態に係るX線管装置によれば、X線管装置は、回転陽極型のX線管1を備えている。X線管1はすべり軸受ユニットUを備え、すべり軸受ユニットUはシール部品90を有している。本実施形態のシール部品90は、上記第1の実施形態のシール部品90と同様に形成されている。そのため、本実施形態は、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0136】
回転体20は、第1円筒21と、第2円筒22と、を有している。第1円筒21は、回転軸線aに沿って延出して筒状に形成され、固定シャフト10を囲んで位置している。第2円筒22は、回転軸線aに沿って延出して筒状に形成され、固定シャフト10と第1円筒21との間に位置し、内周面S20aにラジアル軸受面S20bを含み、第1円筒21に対して相対的に回転しないように回転動作が制限されている。第2円筒22は、固定シャフト10及び第1円筒21の各々に対して偏心した位置に移動可能であってもよい。
【0137】
液体金属LMは、固定シャフト10と第1円筒21と第2円筒22との間の複数の隙間に充填され、ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S20bとともに動圧形のラジアルすべり軸受Baを形成し、ラジアル軸受面S11b及びラジアル軸受面S20bとともに動圧形のラジアルすべり軸受Bbを形成している。陽極ターゲット50は、第1円筒21の外周面を囲み、第1円筒21に固定されている。
【0138】
回転体20は、二重円筒構造を有している。陽極ターゲット50と強固に結合される又は陽極ターゲット50と一体に形成される第1円筒21と、ラジアルすべり軸受Ba,Bbを形成する第2円筒22とは、物理的に独立している。第2円筒22は、陽極ターゲット50の熱膨張による悪影響を受け難い。本実施形態によれば、良好な軸受動作を得ることができるすべり軸受ユニットU及びこのすべり軸受ユニットUを備えたX線管1を得ることができる。
なお、本第3の実施形態に、上記変形例1(図5)、上記変形例2(図6)、上記変形例3(図7)、上記変形例4(図8)、及び上記変形例5(図9)の1以上の技術を適用可能である。
【0139】
(第3の実施形態の変形例1)
次に、上記第3の実施形態の変形例1について説明する。X線管1(すべり軸受ユニットU)は、本変形例1で説明する構成以外、上記第3の実施形態と同様に構成されている。図19は、本変形例1に係るX線管1の一部を示す拡大断面図であり、固定シャフト10及び回転体20を示す図である。
【0140】
図19に示すように、回転体20は、第2制限部材24無しに形成されてもよい。シール部品90は、ねじ120を用いて第1円筒21に固定されている。シール部品90は、第2円筒22の第2端面22e2と対向している。これにより、シール部品90は、回転軸線aに沿った方向の第2円筒22の移動を制限することができる。
【0141】
回転軸線aに垂直な方向にて、シール部品90は、第1円筒21と対向しているが、第2円筒22と対向していない。すべり軸受ユニットUにおいて、第2円筒22の第2端面22e2とシール部品90の第2端面91cとの間の隙間を第6隙間g6とする。第5隙間g5は、貫通孔hを第4隙間g4につなげている。さらに、第5隙間g5は、貫通孔hを第6隙間g6を介して第1隙間g1につなげている。
【0142】
図3及び図19に示すように、第3距離DI3は、第1距離DI1以上である。本変形例1において、第3距離DI3は、第1距離DI1を超えている。本変形例1においても、上記第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0143】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0144】
例えば、径大部11は、助走区間と呼ばれる凹面S11d無しに形成されてもよく、この場合、ラジアル軸受面S11aは、径大部11の端まで存在してもよい。径大部11は、助走区間と呼ばれる凹面S11e無しに形成されてもよく、この場合、ラジアル軸受面S11bは、径大部11の端まで存在してもよい。
貫通孔hは、最も径大部11に近接した捕捉凹面S90cに開口しているが、捕捉凹面S90c以外の捕捉凹面に開口してもよい。例えば、貫通孔hは、捕捉凹面S90dに開口してもよい。又は、シール部品90は、捕捉凹面S90cに開口した貫通孔hと、捕捉凹面S90dに開口した貫通孔hと、の両方を備えてもよい。
【符号の説明】
【0145】
1…X線管、U…軸受ユニット、10…固定シャフト、11…径大部、
12,13…径小部、17…鍔部、Sa,Sb…プレーン面、Sc…底面、
Pa,Pb…掻き込み凹面、S11…外周面、20…回転体、21…第1円筒、
22…第2円筒、23…第1制限部材、24…第2制限部材、26…軸受部材、
S26…内周面、S20a…内周面、50…陽極ターゲット、52…ターゲット層、
51…陽極ターゲット本体、60…陰極、61…フィラメント、70…外囲器、
90…シール部品、91…筒部、92…鍔部、S90a…外周面、S90b…内周面、
S90c,S90d,S90e…捕捉凹面、Sd…底面、S90f…リザーバ凹面、
91a…円環部、91b…第1端面、91c…第2端面、h…貫通孔、
OP1…第1開口、OP2…第2開口、L…冷却液、LM…液体金属、
Ba,Bb,Bc,Bd…軸受、S11a,S11b,S20b…ラジアル軸受面、
S11i,S11j,S20i,S20j…スラスト軸受面、a…回転軸線、
DI1,DI2,DI3…距離、g1,g2,g3,g4,g5,g6…隙間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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