(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096563
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】中空屈曲部品の製造装置及び中空屈曲部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 7/04 20060101AFI20230630BHJP
B21D 7/16 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
B21D7/04
B21D7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212410
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】富澤 淳
(72)【発明者】
【氏名】植松 一夫
【テーマコード(参考)】
4E063
【Fターム(参考)】
4E063AA04
4E063AA06
4E063CA07
4E063KA04
4E063KA05
4E063LA03
4E063MA02
(57)【要約】
【課題】せん断曲げ加工を高い加工精度で行える中空屈曲部品の製造装置及び製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】この中空屈曲部品の製造装置10は、送り装置11と、支持装置12と、加熱コイル13aと、冷却水噴射ノズル14aと、把持手段15Aa,15Abと、腕部15Acと、制御装置16とを備える。制御装置16は、せん断曲げ加工の開始から終了までの間、支持装置12による中空素材Pmの支持範囲の送り方向Fに沿った最下流端位置P0から把持手段15Aa,15Abによる中空素材Pmの支持範囲の送り方向Fに沿った中央位置P2までの距離L’を、所定距離内に制限するように、把持手段15Aa,15Ab又は腕部15Acを制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製で中空な被加工材を、その長手方向に移動せしめる送り部と、
前記被加工材を、前記長手方向に直交する方向への移動を規制してかつ前記長手方向に沿う送り方向への移動を許容した状態で支持する支持手段と、
前記支持手段よりも前記送り方向の下流側で前記被加工材の周囲を囲むように配置されて前記被加工材を加熱する加熱コイルと、
前記加熱コイルよりも前記送り方向の下流側で前記被加工材を冷却する冷却部と、
前記冷却部よりも前記送り方向の下流側の把持位置で前記被加工材を把持する把持手段と、
前記把持手段を移動させる操作部と、
前記送り部、前記加熱コイル、前記冷却部、前記把持手段、及び前記操作部を制御する制御部と、
を備え、
前記操作部により前記把持手段を二次元方向又は三次元方向に移動させることで前記被加工材にせん断曲げ加工を加える装置であって、
前記制御部が、
前記せん断曲げ加工の開始から終了までの間、
前記支持手段による前記被加工材の支持範囲の前記送り方向に沿った最下流端位置から前記把持手段による前記被加工材の支持範囲の前記送り方向に沿った中央位置までの距離を、所定距離内に制限するように、
前記把持手段及び前記操作部を制御する
ことを特徴とする中空屈曲部品の製造装置。
【請求項2】
前記せん断曲げ加工を行う前における前記被加工材の平均幅寸法がw(mm)である場合に、前記所定距離が20×w(mm)以下に設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の中空屈曲部品の製造装置。
【請求項3】
前記把持手段が、
前記把持手段に対する、前記被加工材の前記長手方向に沿った相対的な移動を許容する第1の把持状態と、
前記把持手段に対する、前記被加工材の前記長手方向に沿った相対的な移動を規制する第2の把持状態と、
の間で切り換え自在に構成され、
前記制御部が、前記把持手段の前記第1の把持状態及び前記第2の把持状態間の切り換えを行う、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の中空屈曲部品の製造装置。
【請求項4】
前記把持手段が、
前記被加工材の外周面に対して接近離間自在に構成され、前記第1の把持状態では前記被加工材の外周面に対して転動自在に当接するローラと、
前記外周面に対して接近離間自在に構成され、前記第2の把持状態では前記被加工材の前記外周面に対して当接するクランパーと、
を備える
ことを特徴とする請求項3に記載の中空屈曲部品の製造装置。
【請求項5】
前記把持手段及び前記操作部をそれぞれ複数有する
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の中空屈曲部品の製造装置。
【請求項6】
金属製で中空な被加工材を、その長手方向の途中の支持位置において、前記長手方向に直交する方向への移動を規制してかつ前記長手方向に沿う送り方向へ送りながら支持する送り工程と、
前記支持位置よりも下流の加熱位置において、前記被加工材の周囲を囲むように配置した加熱コイルによって前記被加工材を部分的に加熱して被加熱部を形成する加熱工程と、
前記加熱位置よりも下流の冷却位置において、前記被加工材を冷却する冷却工程と、
前記冷却位置よりも下流の把持位置において、前記被加工材の被把持部を把持手段で把持し、前記把持手段を二次元方向又は三次元方向に移動させて前記被加工材にせん断曲げ加工を加えるせん断曲げ加工工程と、
を有し、
前記せん断曲げ加工の開始から終了までの間、
前記支持位置における前記被加工材の支持範囲の前記送り方向に沿った最下流端位置から前記把持位置における前記被把持部の前記送り方向に沿った中央位置までの距離を、所定距離内に制限する
ことを特徴とする中空屈曲部品の製造方法。
【請求項7】
前記せん断曲げ加工を行う前における前記被加工材の平均幅寸法がw(mm)である場合に、前記所定距離を20×w(mm)以下に設定する
ことを特徴とする請求項6に記載の中空屈曲部品の製造方法。
【請求項8】
前記所定距離を、前記被加工材のせん断荷重に基づいて設定する
ことを特徴とする請求項6に記載の中空屈曲部品の製造方法。
【請求項9】
前記せん断曲げ加工工程の開始前に、
前記把持手段を、前記被加工材の前記長手方向に沿った移動を許容しながら把持する第1の把持状態から、前記被加工材の前記長手方向に沿った移動を規制する第2の把持状態に切り換える
ことを特徴とする請求項6~8の何れか1項に記載の中空屈曲部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空屈曲部品の製造装置及び中空屈曲部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動車や各種機械等に用いられる、中空の屈曲した形状を有する金属製の強度部材、補強部材または構造部材には、軽量かつ高強度であること等が求められる。従来、この種の中空屈曲部品は、例えば、冷間の曲げ加工、プレス加工品の溶接、厚板の打ち抜き、さらには鍛造等により製造されてきた。しかし、これらの製造方法では、製造される中空屈曲部品の軽量化および高強度化に限界があり、その実現は容易なことではなかった。
【0003】
近年では、例えば非特許文献1に開示されるように、いわゆるチューブハイドロフォーミング工法によりこの種の中空屈曲部品を製造することも積極的に検討されている。しかし、非特許文献1の28頁にも記載されているように、チューブハイドロフォーミング工法には、素材となる材料の開発や成形可能な形状の自由度の拡大等といった課題があり、今後より一層の開発が必要である。
【0004】
このような現状に鑑み、本発明者らは、先に特許文献1により熱間曲げ加工装置に係る発明を開示した。
図7は、特許文献1における発明の一実施例を示したもので、この熱間曲げ加工装置100の概略構成を模式的に示す説明図である。
図7に示すように、この熱間曲げ加工装置100では、支持手段101(一対の支持手段101a,101b)によりその軸方向へ移動自在に支持された鋼管(以下、中空素材Pm)を上流側から下流側へ向けて矢印F方向へ図示しない送り装置により送りながら、支持手段101a,101bの下流位置で曲げ加工を行って、鋼製の中空屈曲部品Ppを製造する。すなわち、支持手段101a,101bの下流位置で高周波加熱コイル102によって中空素材Pmを部分的に焼入れ可能な温度域に急速加熱するとともに、高周波加熱コイル102の下流に配置された水冷装置103により中空素材Pmを急冷する。そして、中空素材Pmの先端を把持手段104(一対の把持手段104a,104b)により把持し、把持手段104の位置を三次元方向(場合によっては二次元方向)に変更して中空素材Pmの加熱された部分に曲げモーメントを付与することにより、中空素材Pmに曲げ加工を行う。この熱間曲げ加工装置100によれば、高い作業効率で高強度の中空屈曲部品Ppを製造することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/093006号
【特許文献2】国際公開第2011/024741号
【特許文献3】特開2021-16890号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】自動車技術 Vol.57,No.6,2003 23~28頁
【非特許文献2】チューブフォーミング,コロナ社,初版第3刷 2002年11月15日,51~55頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車や各種機械等に用いられる中空屈曲部品には、種々の形状を持つものが存在する。中でも、曲げ部の曲げ半径が例えば金属管の直径(矩形断面の場合には曲げ方向の辺の長さ)の1~2倍あるいはそれ以下である極めて小さな曲げ部を有する中空屈曲部品が多く存在する。
しかしながら、特許文献1の方法により、曲げ半径が例えば金属管の直径(矩形断面の場合には曲げ方向の辺の長さ)の1~2倍あるいはそれ以下の曲げ半径を持つように曲げ加工をした場合、曲げ部の内周側にしわや折れこみを生じたり、あるいは曲げ部の外周側の板厚が大きく減少して破断したりするおそれがある。そのため、小さな曲げ部を有する中空屈曲部品を製造することは困難であった。
さらに、中空屈曲部品の冷間曲げ加工においては、非特許文献2に記載されているように、曲げ部の外周側に引張応力が作用するため、板厚が減少する。同様に、特許文献1の方法も曲げ加工であるため、曲げ部の外周側の板厚減少は避けらない。
【0008】
そこで、これらの課題解決に応えるために、本発明者らは、特許文献2により熱間せん断曲げ加工装置に係る発明を開示した。
図8に示すように、この熱間せん断曲げ加工装置200は、第1の支持手段201(一対の支持手段201a,201b)と、加熱手段202と、冷却手段203と、把持手段204と、を備える。一対の支持手段201a,201bは、金属製の中空素材Pmを、その長手方向へ相対的に送りながら、第1の位置A1において支持する。加熱手段202は、中空素材Pmの送り方向に沿った第1の位置A1よりも下流にある第2の位置B1において中空素材Pmを部分的に加熱する。冷却手段203は、中空素材Pmの送り方向に沿った第2の位置B1よりも下流にある第3の位置C1において中空素材Pmの被加熱部を冷却(強制冷却または自然冷却)する。把持手段204は、中空素材Pmの送り方向に沿った第3の位置C1よりも下流にある第4の位置D1において中空素材Pmを位置決めしながら二次元方向または三次元方向に移動させることによって、中空素材Pmの被加熱部にせん断力を与える。よって、この熱間せん断曲げ加工装置200によれば、中空素材Pmの被加熱部に対し、せん断加工と熱処理とを加えることが可能になる。そして、このせん断曲げ加工装置200によれば、金属管の直径(矩形断面の場合には曲げ方向の辺の長さ)の1~2倍、あるいは、それ以下の曲げ半径の曲げ部を有する高強度の中空屈曲部品Ppを、低コストで量産することが可能である。
この特許文献2の発明によれば、高強度でありながら小さな曲げ半径を有する中空屈曲部品Ppの製造が可能となり、自動車をはじめとする多数の機械部品の大幅な軽量化がなされる。
【0009】
さらに、特許文献3では
図9に示すせん断曲げ加工装置300及びこの装置を用いた中空屈曲部品の製造方法を開示した。せん断曲げ加工装置300では、中空素材Pmに加えるせん断角度をθ(度)とし、中空素材Pmの送り方向に対する加熱装置301及び冷却装置302の傾斜角度をα(度)とした。この構成により、中空屈曲部品Ppの製品板厚を部分的に増しながらも、多様な設計ニーズに合わせて軽量化も可能としている。
【0010】
以上に説明した熱間曲げ加工あるいは熱間せん断曲げ加工においては、加熱手段からの加熱により高温となり変形抵抗が低下した領域(以下、変形領域という)に対し、把持手段により曲げ加工力あるいはせん断力を付加することにより、曲げ加工を行う。ここで、変形領域から曲げ加工力あるいはせん断力を与える把持手段までの距離をLとした場合、距離Lと加工力との関係は、
図10(a)に示す通りとなる。また、距離Lと変形領域に作用するモーメントとの関係は、
図10(b)に示す通りとなる。
【0011】
図10(b)に示す様に、所定の曲げ半径を得るための熱間曲げ変形は、モーメントMbにより引き起こされる。モーメントMbは、中空素材Pmの先端を把持する把持手段を所定の軌道に沿って移動させることによって付与される。ここで、熱間曲げ加工では、所定の曲げ変形を得るのに必要となるモーメントMbは、加工力Wb、把持手段と変形領域の距離Lとすると、Mb=Wb×Lとなる。したがって、熱間曲げ加工では、
図10(a)に示す様に、距離Lが増すほど加工力Wbが減少する。
一方、
図10(a)に示す様に、熱間せん断曲げ加工における変形は、把持手段による加工力Wsによって引き起こされる。そして、熱間せん断曲げ加工では、所定の曲げ変形を得るのに必要となる加工力Wsが、距離Lにかかわらず一定である。したがって、熱間せん断曲げ加工では、
図10(b)に示す様に、距離Lが大きくなるほどモーメントMsが増大する。
【0012】
したがって、熱間せん断曲げ加工においては、加工力Wsにより、把持手段が下流に移動するにつれて、支持手段を支点として中空素材が弾性変形し、その弾性変形による撓みが増大する。弾性撓みが増大すると、中空素材が加熱手段に接触したり、中空屈曲部品の製造が困難になったりする場合がある。中空素材のうち、加熱手段よりも下流側にある部分も弾性変形するため、加熱手段と中空素材との相対位置が本来の位置から変化する。この場合、所定の変形が与えられずに製品精度が悪化する。さらに、把持手段が中空素材から大きなモーメントを受けて剛体回転する場合がある。この場合、所定のせん断変形を付与できないため、製品精度が悪化する。また、把持手段の剛体回転を回避するためには、設備側の剛性を高める必要があり、設備が大型化してしまうという問題があった。
【0013】
以上説明の理由により、中空屈曲部品をせん断曲げ加工で製造する際に、より高い加工精度が得られる加工技術が望まれている。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、せん断曲げ加工を高い加工精度で行える中空屈曲部品の製造装置及び製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用している。
(1)本発明の一態様に係る中空屈曲部品の製造装置は、
金属製で中空な被加工材を、その長手方向に移動せしめる送り部と、
前記被加工材を、前記長手方向に直交する方向への移動を規制してかつ前記長手方向に沿う送り方向への移動を許容した状態で支持する支持手段と、
前記支持手段よりも前記送り方向の下流側で前記被加工材の周囲を囲むように配置されて前記被加工材を加熱する加熱コイルと、
前記加熱コイルよりも前記送り方向の下流側で前記被加工材を冷却する冷却部と、
前記冷却部よりも前記送り方向の下流側の把持位置で前記被加工材を把持する把持手段と、
前記把持手段を移動させる操作部と、
前記送り部、前記加熱コイル、前記冷却部、前記把持手段、及び前記操作部を制御する制御部と、
を備え、
前記操作部により前記把持手段を二次元方向又は三次元方向に移動させることで前記被加工材にせん断曲げ加工を加える装置であって、
前記制御部が、
前記せん断曲げ加工の開始から終了までの間、
前記支持手段による前記被加工材の支持範囲の前記送り方向に沿った最下流端位置から前記把持手段による前記被加工材の支持範囲の前記送り方向に沿った中央位置までの距離を、所定距離内に制限するように、
前記把持手段及び前記操作部を制御する。
【0016】
上記(1)に記載の中空屈曲部品の製造装置によれば、被加工材が加熱コイルにより部分的に加熱されて被加熱部を形成する。そして、被加工材を、被加熱部を間に挟んで上流側を支持手段が支持する一方で下流側を把持手段で把持した状態から、把持手段を操作部によって二次元方向又は三次元方向に移動させる。把持手段を操作部によって移動させることにより、被加工材の被加熱部にせん断曲げ加工が付与される。このせん断曲げ加工の開始から終了までの間、制御部が、支持手段による被加工材の支持範囲の最下流端位置から把持手段による被加工材の支持範囲の中央位置までの距離を、所定距離内に制限する。その結果、被加工材の被加熱部と把持手段との間の距離が短くなる。このように、被加工材をその被加熱部に近い位置で把持してせん断曲げ加工することで、力点が作用点に近くなり、力点と作用点との距離に応じた曲げモーメントに起因する撓みが少なくなる。その結果、従来のように被加工材をその下流端で把持してせん断曲げ加工する場合に比べて、被加熱部及び把持手段間の距離を短くしてこの部分における被加工材の撓みを抑えた上でせん断曲げ加工が行える。よって、製造される中空屈曲部品の加工精度が向上する。
なお、支持手段として制御を要しない摺動タイプ、および鋼管の送り方向に直交する方向の移動のみを制限するローラータイプを用いる場合には、支持手段が制御装置の制御対象から外れる。一方、支持手段自体に、被加工材を送る送り部としての機能も持たせる場合には、支持手段も制御装置の制御対象に含まれる。
【0017】
(2)上記(1)に記載の中空屈曲部品の製造装置において、
前記せん断曲げ加工を行う前における前記被加工材の平均幅寸法がw(mm)である場合に、前記所定距離を20×w(mm)以下に設定してもよい。
上記(2)に記載の中空屈曲部品の製造装置によれば、支持手段及び把持手段間の距離を適切に短くしてこの部分における被加工材の撓みを効果的に抑えた上でせん断曲げ加工が行える。
【0018】
(3)上記(1)または(2)に記載の中空屈曲部品の製造装置において、以下のように構成してもよい:
前記把持手段が、
前記把持手段に対する、前記被加工材の前記長手方向に沿った相対的な移動を許容する第1の把持状態と、
前記把持手段に対する、前記被加工材の前記長手方向に沿った相対的な移動を規制する第2の把持状態と、
の間で切り換え自在に構成され、
前記制御部が、前記把持手段の前記第1の把持状態及び前記第2の把持状態間の切り換えを行う。
上記(3)に記載の中空屈曲部品の製造装置によれば、被加工材に対してせん断曲げ加工を行わずに直管のまま焼き入れをする場合には、制御部により把持手段を第1の把持状態とする。この第1の把持状態にある把持手段は、被加工材を、その長手方向に沿った相対的な移動のみを許容するようにガイドしつつ支持する。これにより、被加工材の、被加熱部に近い箇所を継続して支持した上で送りながら焼き入れ出来るので、撓みの発生を抑制できる。また、せん断曲げ加工を行う前に、制御部が把持手段を第1の把持状態から第2の把持状態に切り換えることで、把持手段に対する被加工材の相対的な移動を規制する。これにより、支持手段及び把持手段間の距離を短く保持してこの部分における被加工材の撓みを抑えた上でせん断曲げ加工が行える。
【0019】
(4)上記(3)に記載の中空屈曲部品の製造装置において、以下のように構成してもよい:
前記把持手段が、
前記被加工材の外周面に対して接近離間自在に構成され、前記第1の把持状態では前記被加工材の外周面に対して転動自在に当接するローラと、
前記外周面に対して接近離間自在に構成され、前記第2の把持状態では前記被加工材の前記外周面に対して当接するクランパーと、
を備える。
上記(4)に記載の中空屈曲部品の製造装置によれば、第1の把持状態では、把持位置を変更せずに、被加工材をローラの転動によって長手方向にガイドしつつ、長手方向に直交する径方向への移動を規制できる。一方、第2の把持状態では、クランパーの当接によって被加工材の長手方向に沿った移動も規制できる。
【0020】
(5)上記(1)~(4)の何れか1項に記載の中空屈曲部品の製造装置において、
前記把持手段及び前記操作部をそれぞれ複数有してもよい。
上記(5)に記載の中空屈曲部品の製造装置によれば、せん断曲げ加工を行って被加工材を保持したまま下流側に移動した把持手段の代わりに、他の把持部により前記所定距離内において被加工材を把持しながら次のせん断曲げ加工を行える。したがって、極めて長い中空屈曲部品の加工や、せん断曲げ加工を複数回行う加工にも対応できる。
【0021】
(6)本発明の一態様に係る中空屈曲部品の製造方法は、
金属製で中空な被加工材を、その長手方向の途中の支持位置において、前記長手方向に直交する方向への移動を規制してかつ前記長手方向に沿う送り方向へ送りながら支持する送り工程と、
前記支持位置よりも下流の加熱位置において、前記被加工材の周囲を囲むように配置した加熱コイルによって前記被加工材を部分的に加熱して被加熱部を形成する加熱工程と、
前記加熱位置よりも下流の冷却位置において、前記被加工材を冷却する冷却工程と、
前記冷却位置よりも下流の把持位置において、前記被加工材の被把持部を把持手段で把持し、前記把持手段を二次元方向又は三次元方向に移動させて前記被加工材にせん断曲げ加工を加えるせん断曲げ加工工程と、
を有し、
前記せん断曲げ加工の開始から終了までの間、
前記支持位置における前記被加工材の支持範囲の前記送り方向に沿った最下流端位置から前記把持位置における前記被把持部の前記送り方向に沿った中央位置までの距離を、所定距離内に制限する。
【0022】
上記(6)に記載の中空屈曲部品の製造方法によれば、被加工材が加熱コイルにより部分的に加熱されて被加熱部を形成する。そして、この被加工材を、被加熱部を間に挟んで上流側を支持位置において支持する一方で下流側を把持手段で把持した状態から、把持手段を二次元方向又は三次元方向に移動させる。この把持手段の移動により被加工材の被加熱部にせん断曲げが付与される。このせん断曲げ加工の開始から終了までの間、支持位置における被加工材の支持範囲の最下流端位置から把持位置における被把持部の中央位置までの距離を、所定距離内に制限する。その結果、被加工材の被加熱部と把持手段との間の距離が短くなる。このように、被加工材をその被加熱部に近い位置で把持してせん断曲げ加工することで、力点が作用点に近くなり、力点と作用点との距離に応じた撓みが少なくなる。その結果、従来のように被加工材をその下流端で把持してせん断曲げ加工する場合に比べて、支持位置及び把持手段間の距離を短くしてこの部分における被加工材の撓みを抑えた上でせん断曲げ加工が行える。よって、製造される中空屈曲部品の加工精度が向上する。
【0023】
(7)上記(6)に記載の中空屈曲部品の製造方法では、
前記せん断曲げ加工を行う前における前記被加工材の平均幅寸法がw(mm)である場合に、前記所定距離を20×w(mm)以下に設定してもよい。
上記(7)に記載の中空屈曲部品の製造方法によれば、支持位置及び把持手段間の距離を適切に短くしてこの部分における被加工材の撓みを効果的に抑えた上でせん断曲げ加工が行える。
【0024】
(8)上記(6)に記載の中空屈曲部品の製造方法では、
前記所定距離を、前記被加工材のせん断荷重に基づいて設定してもよい。
上記(8)に記載の中空屈曲部品の製造方法によれば、被加工材の形状及び素材に応じてより効果的に撓みを抑えることができる。
【0025】
(9)上記(6)~(8)の何れか1項に記載の中空屈曲部品の製造方法では、
前記せん断曲げ加工工程の開始前に、
前記把持手段を、前記被加工材の前記長手方向に沿った移動を許容しながら把持する第1の把持状態から、前記被加工材の前記長手方向に沿った移動を規制する第2の把持状態に切り換えてもよい。
上記(9)に記載の中空屈曲部品の製造方法によれば、被加工材に対してせん断曲げ加工を行わずに直管のまま焼き入れをする場合には、把持手段を第1の把持状態とすることで、被加工材の、被加熱部に近い箇所を継続して支持した上で送りながら焼き入れ出来るので、撓みの発生を抑制できる。また、せん断曲げ加工を行う前に、把持手段を第1の把持状態から第2の把持状態に切り換えることで、把持手段に対する被加工材の相対的な移動を規制する。これにより、支持位置及び把持手段間の距離を短くしてこの部分における被加工材の撓みを抑えた上でせん断曲げ加工が行える。
【発明の効果】
【0026】
本発明の上記各態様に係る中空屈曲部品の製造装置及び製造方法によれば、せん断曲げ加工を高い加工精度で行える。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る中空屈曲部品の製造装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】同製造装置を用いた中空屈曲部品の製造方法により、中空素材の長手方向途中位置にせん断曲げ加工を加える場合を示す。このせん断曲げ加工は、(a)から(f)に向かう順序で工程が進む。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る中空屈曲部品の製造装置の概略構成を示す模式図である。
【
図4】同製造装置に備わる把持手段の斜視図である。
【
図5】同製造装置を用いた中空屈曲部品の製造方法により、中空素材の長手方向途中位置にせん断曲げ加工を加える場合を示す。このせん断曲げ加工は、(a)から(f)に向かう順序で工程が進む。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る中空屈曲部品の製造方法を示す図であって、中空素材の長手方向途中の2箇所にせん断曲げ加工を加える場合を示す。このせん断曲げ加工は、(a)から(f)に向かう順序で工程が進む。
【
図7】特許文献1に開示された曲げ加工装置の概略構成を示す説明図である。
【
図8】特許文献2に開示されたせん断加工装置の概略構成を示す説明図である。
【
図9】特許文献3に開示された他のせん断加工装置の概略構成を示す説明図である。
【
図10】熱間せん断曲げ加工と通常の熱間曲げ加工とを比較する図であって、(a)は把持位置による加工力の変化を示し、(b)は把持位置によるモーメントの変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の各実施形態に係る中空屈曲部材の製造装置及び製造方法を、図面を参照しながら説明する。以降の説明では、矩形の横断面形状を有する中空の鋼製角管を被加工材(以下、中空素材Pm)とし、中空屈曲部材Ppを製造する場合を例示して説明する。
【0029】
[第1実施形態]
まず、本製造方法を適用する中空屈曲部材の製造装置(以下、製造装置10)を先に説明し、続いて製造方法を説明する。
【0030】
[中空屈曲部材の製造装置]
図1は、本実施形態に係る製造装置10の構成を示す模式図である。
この製造装置10により、中空素材Pmを熱間せん曲げ断加工(以下、単にせん断曲げ加工と言う)することで、後述の
図2(f)に示す中空屈曲部材Ppを得る。中空素材Pmは、その長手方向に垂直な断面が中空矩形の閉断面形状を有する鋼製の長尺な角管である。なお、本実施形態の加工対象である中空素材Pmは、角管に限定されるものではなく、例えば、円形、楕円形、さらには各種異形の断面形状を有する管であってもよい。矩形断面を持つ中空素材Pmは、その断面形状が正方形、長方形の何れであってもよい。中空素材Pmは、鋼管以外の金属管であってもよい。
【0031】
図1に示すように、この製造装置10は、送り装置(送り部)11と、支持装置(支持手段)12と、加熱装置13と、冷却装置(冷却部)14と、せん断力付与装置15と、制御装置(制御部)16とを備える。
(1)送り装置11
送り装置11は、
図1に示すように、支持装置12により支持された中空素材Pmを、所定の送り速度でその長手方向(矢印Fに沿った紙面左手方向)へ送る。送り装置11は、電動サーボシリンダーを用いたタイプが例示されるが、特定型式のものに限らず、ボールネジを用いたタイプやタイミングベルトやチェーンを用いたタイプ等も採用できる。
中空素材Pmは、支持装置12が設置された部分が第1の位置Aを通過した後、送り装置11によってさらに矢印F方向へ送られる。
【0032】
(2)支持装置12
支持装置12は、複数組(
図1の例では2組)のロール12a,12bを備える。一組のロール12aは、これらの間に中空素材Pmを挟み込んで支持する。同様に、一組のロール12bも、これらの間に中空素材Pmを挟み込んで支持する。一組のロール12bの下流位置に他の一組のロール12aが隣接配置されている。これらロール12a,12bにより、中空素材Pmは第1の位置Aにおいて支持される。
なお、支持装置12としては、中空素材Pmをその送り方向Fに沿って送り自在に支持できればよく、その他の構成の支持装置を採用してもよい。例えば、支持装置12を、ロール12a,12bを備えずに摺動支持する構成としてもよい。
支持装置12は、図示されない搭載台上に固定配置されている。しかし、この態様に限定されるものではなく、例えば、支持装置12を産業用ロボットのエンドエフェクター(図示略)によって支持してもよい。
また、ロール12a,12bを回動させることにより、中空素材Pmを送る送り機能を支持装置12に持たせ、そして送り装置11を省略してもよい。この場合、中空素材Pmをその長手方向に移動せしめる送り部と、中空素材Pmを支持する支持手段とを、支持装置12が兼ねることになる。
【0033】
(3)加熱装置13
加熱装置13は、第1の位置Aより、中空素材Pmの送り方向Fの下流にある第2の位置Bで加熱を行うように配置されている。加熱装置13は、支持装置12を経て送られてくる中空素材Pmの長手方向の一部分における横断面の全周を加熱する。加熱装置13として誘導加熱装置を用いる。この誘導加熱装置は、中空素材Pmを高周波誘導加熱する加熱コイル13aを有する。
加熱装置13の加熱コイル13aは、中空素材Pmの外表面から所定の間隔を空けて、中空素材Pmの長手方向の一部における横断面の全周囲を囲むように配置される。中空素材Pmは、その被加熱部Hにおいて、加熱装置13により部分的に急速加熱される。被加熱部Hにおける最高到達温度の位置は、加熱コイル13aの下流側端面の位置よりも若干下流側にあり、後述する冷却装置14からの冷却水のかけ方等の諸条件により、多少、上流側または下流側に移動する。そのため、被加熱部Hにおける最高到達温度の位置に対応する基準位置として、加熱コイル13aの最下流端位置P1を用いる。この最下流端位置P1は、加熱コイル13aの外形を中心軸線CLに沿って見たときの、送り方向Fにおける最も下流側の位置である。
加熱装置13の設置手段(不図示)は、加熱コイル13aを第2の位置Bにおいて傾斜角度調整自在に配置可能としてもよい。すなわち、加熱装置13の前記設置手段は、加熱コイル13aを、中空素材Pmの送り方向Fに対して設定した角度に傾斜させる回転手段(不図示)を備えてもよい。
【0034】
加熱装置13の加熱コイル13aの断面形状は、中空素材Pmが丸管である場合、円形状であることが好ましい。具体的には、中空素材Pmの長手方向に沿った中心軸線CLに沿って対向視したときの加熱コイル13aの形状が、中空素材Pmの外周面に対して均一のクリアランスを有する同心円形状となることが好ましい。一方、中空素材Pmが矩形を含む異形断面形状である場合、中空素材Pmの中心軸線CLに沿って対向視したときの加熱コイル13aの形状が、中空素材Pmの外周面に対して加熱に適したクリアランスを有する形状であることが好ましい。なお、中心軸線CLは、支持装置12の位置における中空素材Pmの中心軸線である。
【0035】
加熱装置13の設置手段としては、例えば周知慣用の産業用ロボットのエンドエフェクターを例示することができるが、他の設置手段も採用できる。単腕ロボットあるいはアームとモータなどを有する既成の装置も採用可能である。
【0036】
(4)冷却装置14
冷却装置14は、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第2の位置Bよりも下流にある第3の位置Cで中空素材Pmを冷却する。冷却装置14は、中空素材Pmのうち、第2の位置Bで加熱された部分の下流側に位置する部分を急速に冷却する。この冷却により、中空素材Pmにおいて、加熱装置13により加熱された被加熱部Hと、冷却装置14により冷却された被冷却部との間の領域が、高温であって変形抵抗が大幅に低下した状態となる。
【0037】
冷却装置14は、所望の冷却速度が得られるものであればよく、特定方式の冷却装置に限定されない。一般的には、冷却水を中空素材Pmの外周面の所定位置へ向けて噴射することによって中空素材Pmを冷却する水冷装置を用いることが望ましい。本実施形態では、複数の冷却水噴射ノズル14aを、加熱装置13の直ぐ下流側に、中空素材Pmの長手方向の一部の横断面を囲むように、中空素材Pmの外表面から離して配置している。これら冷却水噴射ノズル14aから、冷却水を中空素材Pmの外表面へ向けて噴射する。
【0038】
中空素材Pmにおいて加熱装置13により加熱された被加熱部Hのうち、その下流側に位置する部分は、冷却装置14から噴射された冷却水により急速に冷却される。
これにより、中空素材Pmのせん断曲げ加工した曲がり部の一部または全部の強度を、例えば1500MPa以上の引張強度に高めることも可能である。
【0039】
冷却装置14の設置手段は、冷却装置14を第3の位置Cに配置できる手段であればよく、特定の設置手段に限定されない。本実施形態の製造装置10により高い寸法精度を有する中空屈曲部材Ppを製造するためには、第2の位置B及び第3の位置C間の距離をできる限り短く設定することによって、加熱装置13により加熱する被加熱部Hと、冷却装置14により冷却する被冷却部との間の領域をできるだけ小さく設定することが望ましい。このためには、冷却水噴射ノズル14aを加熱コイル13aに近接配置することが望ましい。そのため、冷却水噴射ノズル14aを加熱コイル13aの直後の位置に配置することが望ましい。さらには、加熱装置13の設置手段に対し、冷却装置14を固定してもよい。この場合、各冷却水噴射ノズル14aと加熱コイル13aとの相対位置関係を保ったまま、これら冷却水噴射ノズル14a及び加熱コイル13aの双方を同じ傾斜角度で傾斜させることも可能になる。
【0040】
冷却装置14の設置手段を、前記加熱装置13の設置手段とは別に備えてもよい。この場合、冷却装置14の設置手段(不図示)は、各冷却水噴射ノズル14aを第3の位置Cにおいて傾斜角度調整自在に配置できる。すなわち、冷却装置14の前記設置手段は、冷却装置14を、中空素材Pmの送り方向Fに対して設定した角度に傾斜させることができる。
冷却装置14の設置手段としては、慣用の産業用ロボットのエンドエフェクターを例示することができるが、他の設置手段も採用できる。単腕ロボットあるいはアームとモータなどの回転手段等を有する既成の装置も採用可能である。
【0041】
(5)せん断力付与装置15
せん断力付与装置15は、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第3の位置Cよりも下流に配置される。せん断力付与装置15は、中空素材Pmの長手方向の途中位置を把持し、この把持位置を二次元方向または三次元方向に移動させる。具体的には、せん断力付与装置15における中空素材Pmの把持位置を、中心軸線CLを含む断面で見て、中空素材Pmの長手方向に沿った送り方向Fと中空素材Pmの長手方向に対して直交する方向との間にある傾斜方向に移動させる。これにより、せん断力付与装置15は、中空素材Pmにおける、加熱装置13により加熱された被加熱部Hと、冷却装置14により冷却された被冷却部との間の領域の少なくとも一部に、せん断力を与えて中空素材Pmにせん断曲げ加工を行う。
【0042】
図1に示すように、せん断力付与装置15は、一対のアーム15A,15Bと、図示されない基台とを有する。なお、アーム15A,15Bの両方を備える構成に代えて、これらのどちらか一方のみを備える構成としてもよい。
アーム15Aは、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第3の位置Cよりも下流にある第4の位置D1において中空素材Pmを把持する把持手段15Aa,15Abと、把持手段15Aa,15Abを支持してその位置を二次元方向または三次元方向に移動させる腕部(操作部)15Acとを有する。腕部15Acは、前記基台により支持されている。把持手段15Aa,15Abは、互いに接近することによってその間に中空素材Pmを把持する。一方、把持手段15Aa,15Abは、互いに離間することによって中空素材Pmの把持を解除する。
【0043】
把持手段15Aa,15Abを閉じて中空素材Pmを把持した際、中空素材Pmにおいて把持手段15Aa,15Abが接触する支持範囲の長手方向中央位置を把持位置P2とする。そして、前記支持装置12の前記ロール12aが中空部材Pmと接触する送り方向Fに沿った最下流端位置P0から前記把持位置P2までの間における送り方向Fに平行な距離を、符号L’を用いて
図1に示す。この距離L’は、せん断曲げ加工の際、後述する制御装置16からの指示を受けた腕部15Acが把持手段15Aa,15Abの位置を調整することにより、所定距離内に維持される。
【0044】
中空素材Pmの長手方向の一部における横断面は、加熱装置13により加熱されて変形抵抗が大幅に低下する。このため、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第3の位置Cよりも下流にある第4の位置D1において一対の把持手段15a,15bの位置を二次元方向または三次元方向に移動させることによって、中空素材Pmにおける、加熱装置13により加熱された被加熱部Hと、冷却装置14により冷却された被冷却部との間の領域にせん断力を与えることができる。
中空素材Pmにせん断力が作用することにより、その長手方向途中位置が
図1に示されるように屈曲する。本実施形態では、特許文献1により開示された発明のように中空素材Pmの加熱された部分に曲げモーメントを与えるのではなく、せん断力を与える。このため、曲げ半径が例えば金属管の直径(矩形断面の場合には曲げ方向の辺の長さ)の1~2倍あるいはそれ以下の極めて小さい曲げ半径の屈曲部位を持つ中空屈曲部品を製造することができる。
【0045】
アーム15Bは、アーム15Aと同じ構成を有する。
図1では、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第4の位置D1よりも下流にある第5の位置D2において中空素材Pmを把持を解除した状態を示している。
アーム15Bは、中空素材Pmを把持することが可能な把持手段15Ba,15Bbと、把持手段15Ba,15Bbを支持してその位置を二次元方向または三次元方向に移動させる腕部15Bc(操作部)とを有する。腕部15Bcは、前記腕部15Acと同様に、前記基台により支持されている。把持手段15Ba,15Bbは、互いに接近することによってその間に中空素材Pmを把持可能である。一方、把持手段15Ba,15Bbは、
図1に示すように互いに離間することによって中空素材Pmの把持を解除する。中空素材Pmの把持は、アーム15A,15Bのどちらか一方により行われる。すなわち、中空素材Pmに対してせん断曲げ加工を行う際には、第4の位置D1においてアーム15A,15Bの何れか一方が中空素材Pmを把持し、他方は中空素材Pmの把持を解除して第4の位置D1以外の位置に退避する。また、中空素材Pmを直管のまま焼き入れしながら送り方向Fに沿って送る場合には、アーム15A,15Bのうち、第4の位置D1において把持した方がその把持状態を維持したまま、第4の位置D1から遠ざかるように送り方向Fに移動する。そして、アーム15A,15Bのうちの他方は、次に行うせん断曲げ加工に備えて、第4の位置D1に移動する。
【0046】
(6)制御装置16
制御装置16は、上述した送り装置11、支持装置12、加熱装置13、冷却装置14、せん断力付与装置15の各種動作を制御する。なお、支持装置12として動作制御を要しない摺動タイプなどを用いる場合には、制御対象から支持装置12が除外される。
制御装置16は、送り装置11に指示を与えることで、中空素材Pmの送り量及び送り速度を制御する。一方、送り装置11を省略して送り機能を支持装置12に持たせる場合には、制御装置16から支持装置12に指示を与えることで、ロール12a,12bの回転量及び回転速度を制御する。これにより、中空素材Pmの送り量及び送り速度が制御される。
制御装置16は、加熱コイル13aに流す電源出力を制御することで、被加熱部Hの温度を制御する。制御装置16は、必要に応じて、加熱コイル13aを中空素材Pmに対して傾斜させるように制御してもよい。
制御装置16は、各冷却水噴射ノズル14aに供給する冷却水の供給圧あるいは供給流量を制御することで、被冷却部の温度を制御する。制御装置16は、必要に応じて、各冷却水噴射ノズル14aを中空素材Pmに対して傾斜させるように制御してもよい。
制御装置16は、アーム15A,15Bのそれぞれを個別に制御する。すなわち、制御装置16は、腕部15Acを制御することで、把持手段15Aa,15Ab及び把持手段15Ba,15Bbそれぞれの位置及び傾きを制御する。また、制御装置16は、把持手段15Aa,15Ab及び把持手段15Ba,15Bbそれぞれの開閉動作(把持状態及び把持解除状態)を制御する。
以上は、制御装置16の一例であり、同一の中空屈曲部品Ppを大量生産する場合には、前記制御量をあらかじめ決められたパターンに設定しておくことも可能である。
【0047】
[中空屈曲部材の製造方法]
上記製造装置10を用いて、中空素材Pmより中空屈曲部材Ppを製造する方法について、
図2を参照しながら以下に説明する。
本実施形態では、製造装置10を用いて、
図2(a)の中空素材Pmから
図2(f)の中空屈曲部品Ppを製造する場合について説明する。この中空屈曲部材Ppは、その長手方向1箇所にせん断曲げ加工が加えられている。なお、
図2では、制御装置16及び腕部15Bcの図示を省略している。
【0048】
図2(a)に示すように、まず、金属製の真直な中空管である中空素材Pmを製造装置10にセットする。すなわち、第1の位置Aで中空素材Pmを支持装置12により支持し、中空素材Pmの後端側を送り装置11にセットし、そして中空素材Pmの先端側を把持手段15Ba,15Bbで把持する。一方、把持手段15Aa,15Abは待機状態にあるため、
図2(a)ではその図示を省略している。
この時、第1の位置Aより下流の第2の位置Bに加熱装置13の加熱コイル13aを配置させ、第2の位置Bより下流の第3の位置Cに冷却装置14の各冷却水噴射ノズル14aを配置させる。また、加熱コイル13a及び各冷却水噴射ノズル14aは、それぞれ、側面視及び平面視の双方において中心軸線CLに直交した状態に配置される。
上記設定のもと、加熱装置13による中空素材Pmの加熱を開始する。
【0049】
すなわち、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、中空素材Pmを第1の位置Aで支持しながら中空素材Pmの長手方向である送り方向Fへ送りつつ(送り工程)、第2の位置Bで中空素材Pmを部分的に加熱して被加熱部Hを形成し(加熱工程)、第3の位置Cで被加熱部Hの下流側に位置する中空素材Pmの少なくとも一部を冷却する(冷却工程)。この時、把持手段15Ba,15Bbは、中空素材Pmの送り速度に同調して送り方向Fに向かって移動する。そのため、中空素材Pmは、せん断曲げや通常曲げを受けることなく、送り方向Fに向かって送られながら直管のまま焼き入れされる。
【0050】
続いて、
図2(c)に示すように、せん断曲げ加工を行う位置に中空素材Pmが至った時点で、待機状態にあった把持手段15Aa,15Abを第4の位置D1に移動させ、この位置で中空素材Pmの長手方向の途中位置を把持する。この時、前記支持装置12の前記支持装置12の前記ロール12aが中空部材Pmと接触する送り方向Fに沿った最下流位置P0から前記把持位置P2までの間における送り方向Fに平行な距離L’を、所定距離内に制限するように、制御装置16が把持位置を制御する。
【0051】
せん断曲げ加工の開始から終了までの間、制御装置16が把持手段15Aa,15Ab及び腕部15Acを制御することにより、距離L’は前記所定距離内に調整され続ける。せん断曲げ加工を行う前における中空素材Pmの平均幅寸法がw(mm)である場合に、前記所定距離を、20×w(mm)以下、好ましくは10×w(mm)以下、に設定することが良い。この場合、被加熱部H及び把持手段15Aa,15Ab間の距離を適切に短くしてこの部分における中空素材Pmの撓みを効果的に抑えた上でせん断曲げ加工が行える。あるいは、前記所定距離を、中空素材Pmのせん断荷重に基づいて設定してもよい。この場合、中空素材Pmの形状及び素材に応じてより効果的に撓みを抑えることができる。
【0052】
第4の位置D1で把持手段15Aa,15Abが中空素材Pmを把持した後、第5の位置D2にある把持手段15Ba,15Bbを開いて把持を解除する。把持解除後の把持手段15Ba,15Bbは、中空素材Pmと干渉しないように移動されて待機状態となる。そのため、
図2(d)~
図2(f)では、待機状態にある把持手段15Ba,15Bbの図示を省略している。
【0053】
図2(d)に示すように、第4の位置D1において中空素材Pmの把持位置を腕部15Acにより二次元方向または三次元方向に移動させる(せん断曲げ加工工程)。せん断加工工程は、具体的には、前記把持位置を、中空素材Pmの中心軸線CLを含む断面で見て、中空素材Pmの長手方向に沿った送り方向Fと中空素材Pmの長手方向に対して直交する方向との間にある傾斜方向に移動させる。
【0054】
この時のせん断曲げ加工箇所は、各冷却水噴射ノズル14aからの冷却水で冷却されるため、焼き入れも同時に行われている。せん断曲げ加工の開始から終了までの間、前記距離L’は、制御装置16により所定距離内に制限される。このように、中空素材Pmをその被加熱部Hに近い位置で把持してせん断曲げ加工することで、把持手段15Aa,15Abが付与する力の力点が、中空素材Pmのうちでせん断曲げを受ける作用点に近くなり、これら力点と作用点との距離に応じた撓みが少なくなる。その結果、従来のように中空素材Pmをその下流端で把持してせん断曲げ加工する場合に比べて、被加熱部H及び把持手段15Aa,15Ab間の距離を短くしてこの部分における中空素材Pmの撓みを抑えた上でせん断曲げ加工が行える。よって、製造される中空屈曲部品Ppの加工精度が向上する。
【0055】
せん断曲げ加工が終了した後、
図2(e)に示すように、把持手段15Aa,15Abを、中空素材Pmを把持したままその位置を送り装置11の送り動作と同期させながら送り方向Fに向かって移動させる。これにより、中空素材Pmのうちでせん断曲げ加工を加えた箇所よりも上流側の範囲に焼き入れを行う。
中空素材Pmの焼き入れが最後まで終了したら、
図2(f)に示すように、加熱コイル13aによる加熱を停止させ、加工済みの中空屈曲部品Ppを製造装置10から外して払い下げる。
以上に説明のように、送り工程、加熱工程、冷却工程、及びせん断曲げ加工工程を含む一連の工程により、中空屈曲部品Ppが製造される。この中空屈曲部品Ppは、せん断曲げ加工の開始から終了までの間、前記支持装置12の前記ロール12aが中空部材Pmと接触する送り方向Fに沿った最下流位置P0から前記把持位置P2までの間における送り方向Fに平行な距離L’を前記所定距離内に制限しているので、撓みが少なく高い加工精度を有する。
【0056】
[第2実施形態]
続いて、
図3~
図5を参照しながら、第2実施形態に係る中空屈曲部品の製造装置及び製造方法を以下に説明する。
【0057】
[中空屈曲部材の製造装置]
本実施形態に係る中空屈曲部材の製造装置(以下、製造装置20)は、上記第1実施形態の製造装置10に比べて、せん断力付与装置15の構成のみが異なるため、その他構成要素については製造装置10のものと同じ品番を用いることで、それらの重複説明を省略する。
図3に示すように、この製造装置20は、前記送り装置(送り部)11と、前記支持装置(支持手段)12と、前記加熱装置13と、前記冷却装置(冷却部)14と、せん断力付与装置25と、前記制御装置(制御部)16とを備える。
【0058】
本実施形態のせん断力付与装置25は、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第3の位置Cよりも下流の第4の位置Dに配置される。
せん断力付与装置25は、中空素材Pmの長手方向の途中位置を把持し、この把持位置を二次元方向または三次元方向に移動させる。具体的には、せん断力付与装置25における中空素材Pmの把持位置を、中心軸線CLを含む断面で見て、中空素材Pmの長手方向に沿った送り方向Fと中空素材Pmの長手方向に対して直交する方向との間にある傾斜方向に移動させる。これにより、せん断力付与装置25は、中空素材Pmにおける、加熱装置13により加熱された被加熱部Hと、冷却装置14により冷却された被冷却部との間の領域の少なくとも一部に、せん断力を与えて中空素材Pmにせん断曲げ加工を行う。
【0059】
図3及び
図4に示すように、せん断力付与装置25は、中空素材Pmの送り方向Fに沿った第3の位置Cよりも下流にある第4の位置Dにおいて中空素材Pmを把持する把持手段25A,25Bと、把持手段25A,25Bを支持してその位置を二次元方向または三次元方向に移動させる腕部(操作部)25Cと、腕部25Cを支持する図示されない基台とを有する。なお、把持手段25A,25B及び腕部25Cは、複数組備えても良い。
【0060】
図4に示すように、把持手段25Aは、本体25Aaと、一対の支持ローラ25Abと、一対のクランパー25Acと、図示されない駆動機構とを有する。
本体25Aaは、中空素材Pmの長手方向に沿って長い筐体であり、各支持ローラ25Abと、各クランパー25Acと、前記駆動機構とが内蔵されている。本体25Aaの下部には、中空素材Pmを通すための半円柱形状の凹部aが形成されている。
一対の支持ローラ25Abは、本体25Aaの長手方向中央位置に、それぞれ回転自在に配置されている。各支持ローラ25Abは、本体25Aaの凹部a内にせり出した状態で支持されている。
一対のクランパー25Acは、本体25Aaの長手方向両端位置に、一対の支持ローラ25Abを間に介在させた状態で配置されている。各クランパー25Acは、中空素材Pmの外周面に対して接近離間自在となるように、本体25Aa内に支持されている。各クランパー25Acは、前記駆動機構の力を受けることで、本体25Aaの凹部aの内外に出入り可能である。
前記駆動機構は、制御装置16からの指示を受けて動作する。具体的には、前記駆動機構により、凹部a内で各クランパー25Acを各支持ローラ25Abよりもせり出させた状態と、各クランパー25Acを本体25Aa内に収容させた状態との間で切り換える。各クランパー25Acを本体25Aa内に収容させた場合には、各支持ローラ25Abが中空素材Pmの外周面に対して転動自在に当接する。逆に、凹部a内で各クランパー25Acを各支持ローラ25Abよりもせり出させた場合には、これらクランパー25Acが中空素材Pmの外周面に対して相対移動不可に当接する。前記駆動機構の駆動源としては、例えば流体圧(油圧、空気圧)を利用できる。
【0061】
把持手段25Bも、把持手段25Aと同一構成を有する。すなわち、把持手段25Bは、本体25Baと、一対の支持ローラ25Bbと、一対のクランパー25Bcと、図示されない他の駆動機構とを有する。
本体25Baは、中空素材Pmの長手方向に沿って長い筐体であり、本体25Aaと同じ形状寸法を有する。本体25Baは、各支持ローラ25Bbと、各クランパー25Bcと、前記他の駆動機構とが内蔵されている。本体25Baの上部には、中空素材Pmを通すための半円柱形状の凹部bが形成されている。
一対の支持ローラ25Bbは、本体25Baの長手方向中央位置に、それぞれ回転自在に配置されている。各支持ローラ25Bbは、前記他の駆動機構によって本体25Baの凹部bの内外に出入り可能に支持されている。
一対のクランパー25Bcは、本体25Baの長手方向両端位置に、一対の支持ローラ25Bbを間に介在させた状態で配置されている。各クランパー25Bcは、中空素材Pmの外周面に対して接近離間自在となるように、本体25Ba内に支持されている。各クランパー25Bcは、前記駆動機構の力を受けることで、本体25Baの凹部bの内外に出入り可能である。
前記他の駆動機構は、制御装置16からの指示を受けて動作する。具体的には、前記他の駆動機構により、凹部b内で各クランパー25Bcを各支持ローラ25Bbよりもせり出させた状態と、各クランパー25Bcを本体25Ba内に収容させた状態との間で切り換える。各クランパー25Bcを本体25Ba内に収容させた場合には、各支持ローラ25Bbが中空素材Pmの外周面に対して転動自在に当接する。逆に、凹部b内で各クランパー25Bcを各支持ローラ25Bbよりもせり出させた場合には、これらクランパー25Bcが中空素材Pmの外周面に対して相対移動不可に当接する。前記駆動機構の駆動源としては、例えば流体圧(油圧、空気圧)を利用できる。
【0062】
上記構成を有する把持手段25A,25Bは、凹部a,bが互いに対向するように配置した状態で、腕部25Cにより支持されている。そして、凹部a,bにより形成された円柱形状の空間内に、中空素材Pmを挿通可能としている。把持手段25A,25B間に中空素材Pmを挿通させた状態で、前記駆動機構及び前記他の駆動機構により各クランパー25Ac及び各クランパー25Bcを本体25Aa及び本体25Ba内に収容することで、各支持ローラ25Ab及び各支持ローラ25Bb間に、中空素材Pmをその長手方向に沿って移動自在に把持することができる。なお、本実施形態の各支持ローラ25Ab及び各支持ローラ25Bbは従動ローラーであるが、図示されないモータにより、中空素材Pmの送り量に合わせて回転させる構成を採用した場合には、中空素材Pmの表面品質を向上させることができる。
一方、把持手段25A,25B間に中空素材Pmを挿通させた状態で、前記駆動機構及び前記他の駆動機構により各クランパー25Ac及び各クランパー25Bcを凹部a,b内で各支持ローラ25Ab及び各支持ローラ25Bbよりもせり出させた場合には、各クランパー25Ac及び各クランパー25Bc間に、中空素材Pmをその長手方向に沿って移動不可に把持することができる。
【0063】
よって、把持手段25A,25Bが、これら把持手段25A,25Bに対する、中空素材Pmの長手方向に沿った相対的な移動を許容する第1の把持状態と、これら把持手段25A,25Bに対する、中空素材Pmの長手方向に沿った相対的な移動を規制する第2の把持状態との間で切り換え自在に構成されている。そして、制御装置16は、把持手段25A,25Bを、前記第1の把持状態及び前記第2の把持状態間で切り換え可能としている。
中空素材Pmに対してせん断曲げ加工を加えない場合は、把持手段25A,25Bを第1の把持状態にした上で、定位置に固定配置する。これにより、把持手段25A,25Bを移動させることなく、中空素材Pmを送り方向Fに沿って移動可能に支持できる。
一方、中空素材Pmに対してせん断曲げ加工を加える場合は、把持手段25A,25Bを第2の把持状態にした上で、その把持位置を腕部25Cにより二次元方向あるいは三次元方向に移動させる。その結果、中空素材Pmに対してせん断曲げ加工が加えられる。
【0064】
図3に示すように、把持手段25A,25Bを第2の把持状態にした際、中空素材Pmにおいて各クランパー25Ac及び各クランパー25Bcが接触する支持範囲の長手方向中央位置を把持位置P2とする。そして、前記支持装置12の前記ロール12aが中空部材Pmと接触する送り方向Fに沿った最下流位置P0から把持位置P2までの間における送り方向Fに平行な距離をL’として
図3に示す。この距離L’は、せん断曲げ加工の際、制御装置16からの指示を受けた腕部25Cが把持手段25A,25Bの位置を調整することにより、所定距離内に維持される。
【0065】
中空素材Pmの送り方向Fに沿った第3の位置Cよりも下流にある第4の位置Dにおいて一対の把持手段25A,25Bの位置を二次元方向または三次元方向に移動させることによって、中空素材Pmにおける、加熱装置13により加熱された被加熱部Hと、冷却装置14により冷却された被冷却部との間の領域にせん断力を与えることができる。中空素材Pmにせん断力が作用することにより、その長手方向途中位置が
図3に示されるように屈曲する。
なお、把持手段25A,25Bの位置を移動させるために本実施形態では腕部25Cを用いたが、その代わりに、ボールねじとサーボモータの組み合わせを採用してもよい。
【0066】
[中空屈曲部材の製造方法]
上記製造装置20を用いて、中空素材Pmより中空屈曲部材Ppを製造する方法について、
図5を参照しながら以下に説明する。
本実施形態では、製造装置20を用いて、
図5(a)の中空素材Pmから
図5(f)の中空屈曲部品Ppを製造する場合について説明する。この中空屈曲部材Ppは、その長手方向1箇所にせん断曲げ加工が加えられている。なお、
図5では、制御装置16及び腕部25Cの図示を省略している。
【0067】
図5(a)に示すように、まず、金属製の真直な中空管である中空素材Pmを製造装置20にセットする。すなわち、第1の位置Aで中空素材Pmを支持装置12により支持し、中空素材Pmの後端側を送り装置11に固定し、そして中空素材Pmの先端側を把持手段25A,25Bで把持する。この時の把持手段25A,25Bでは、各クランパー25Ac及び各クランパー25Bcが本体25Aa,25Ba内に収容されているため、各クランパー25Ac及び各クランパー25Bcは中空素材Pmの外周面に対して非接触状態にある。一方、各支持ローラ25Ab及び各支持ローラ25Bbは中空素材Pmの外周面に接触して中空素材Pmを支持する。よって、把持手段25A,25Bを定位置に固定した状態で、中空素材Pmを送り方向Fに沿って送ることが可能となっている。
さらに、第1の位置Aより下流の第2の位置Bに加熱装置13の加熱コイル13aを配置させ、第2の位置Bより下流の第3の位置Cに冷却装置14の各冷却水噴射ノズル14aを配置させる。また、加熱コイル13a及び各冷却水噴射ノズル14aは、それぞれ、側面視及び平面視の双方において中心軸線CLに直交した状態に配置される。
上記設定のもと、加熱装置13による中空素材Pmの加熱を開始する。
【0068】
すなわち、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、中空素材Pmを第1の位置Aで支持しながら中空素材Pmの長手方向である送り方向Fへ送りつつ(送り工程)、第2の位置Bで中空素材Pmを部分的に加熱して被加熱部Hを形成し(加熱工程)、第3の位置Cで被加熱部Hの下流側に位置する中空素材Pmの少なくとも一部を冷却する(冷却工程)。この時も、各支持ローラ25Ab及び各支持ローラ25Bbのみにより中空素材Pmの外周面を支持している。そのため、把持手段25A,25Bを定位置に固定した状態で、中空素材Pmを、中心軸線CLに直交する方向への移動を規制しながらも送り方向Fに沿って送ることができる。
【0069】
続いて、
図5(c)に示すように、せん断曲げ加工を行う位置に中空素材Pmが至った時点で、各クランパー25Ac及び各クランパー25Bcを前記凹部a,b内にせり出させる。その結果、各クランパー25Ac及び各クランパー25Bcが中空素材Pmの外周面に当たるとともに、各支持ローラ25Ab及び各支持ローラ25Bbが中空素材Pmの外周面から離間する。よって、各支持ローラ25Ab及び各支持ローラ25Bbに代わって各クランパー25Ac及び各クランパー25Bcが中空素材Pmを支持することになる。このようにして、せん断曲げ加工工程の開始前に、把持手段25A,25Bを、中空素材Pmの長手方向に沿った移動を許容しながら把持する第1の把持状態から、中空素材Pmの長手方向に沿った移動を規制する第2の把持状態に切り換える。なお、中心軸線CLに直交する方向への中空素材Pmの移動を規制する点は、第1の把持状態及び第2の把持状態のどちらにおいても同じである。
【0070】
図5(c)に示すように、各クランパー25Ac及び各クランパー25Bcにより中空素材Pmを支持する際、前記支持装置12の前記ロール12aが中空部材Pmと接触する送り方向Fに沿った最下流位置P0から前記把持位置P2までの間における送り方向Fに平行な距離L’を、所定距離内に制限するように、制御装置16が把持位置P2を制御する。
そして、せん断曲げ加工の開始から終了までの間、制御装置16が把持手段25A,25B及び腕部25Cを制御することにより、距離L’は前記所定距離内に調整され続ける。せん断曲げ加工を行う前における中空素材Pmの平均幅寸法がw(mm)である場合に、前記所定距離を、20×w(mm)以下、好ましくは10×w(mm)以下、に設定することが良い。この場合、被加熱部Hと、各クランパー25Ac及び各クランパー25Bcとの間における距離を適切に短くして、この部分における中空素材Pmの撓みを効果的に抑えた上でせん断曲げ加工が行える。あるいは、前記所定距離を、中空素材Pmのせん断荷重に基づいて設定してもよい。この場合、中空素材Pmの形状及び素材に応じてより効果的に撓みを抑えることができる。
【0071】
図5(d)に示すように、第4の位置Dにおいて中空素材Pmの把持位置P2を腕部25Cにより二次元方向または三次元方向に移動させる(せん断曲げ加工工程)。せん断加工工程は、具体的には、前記把持位置P2を、中空素材Pmの中心軸線CLを含む断面で見て、中空素材Pmの長手方向に沿った送り方向Fと中空素材Pmの長手方向に対して直交する方向との間にある傾斜方向に移動させる。
【0072】
この時のせん断曲げ加工箇所は、各冷却水噴射ノズル14aからの冷却水で冷却されるため、焼き入れも同時に行われている。せん断曲げ加工の開始から終了までの間、前記距離L’は、制御装置16により所定距離内に制限される。このように、中空素材Pmをその被加熱部Hに近い位置で把持してせん断曲げ加工することで、把持手段25A,25Bが付与する力の力点が、中空素材Pmのうちでせん断曲げを受ける作用点に近くなり、これら力点と作用点との距離に応じた撓みが少なくなる。その結果、従来のように中空素材Pmをその下流端で把持してせん断曲げ加工する場合に比べて、被加熱部H及び把持手段15Aa,15Ab間の距離を短くしてこの部分における中空素材Pmの撓みを抑えた上でせん断曲げ加工が行える。よって、製造される中空屈曲部品Ppの加工精度が向上する。
【0073】
せん断曲げ加工が終了した後、
図5(e)に示すように、把持手段25A,25Bを、中空素材Pmを把持したままその位置を送り装置11の送り動作と同期させながら送り方向Fに向かって移動させる。これにより、中空素材Pmのうちでせん断曲げ加工を加えた箇所よりも上流側の範囲に焼き入れを行う。
中空素材Pmの焼き入れが最後まで終了したら、
図5(f)に示すように、加熱コイル13aによる加熱を停止させ、加工済みの中空屈曲部品Ppを製造装置20から外して払い下げる。
以上に説明のように、送り工程、加熱工程、冷却工程、及びせん断曲げ加工工程を含む一連の工程により、中空屈曲部品Ppが製造される。この中空屈曲部品Ppは、せん断曲げ加工の開始から終了までの間、前記支持装置12の前記ロール12aが中空部材Pmと接触する送り方向Fに沿った最下流位置P0から前記把持位置P2までの間における送り方向Fに平行な距離L’を前記所定距離内に制限しているので、撓みが少なく高い加工精度を有する。
【0074】
[第3実施形態]
続いて、
図6を参照しながら、第3実施形態に係る中空屈曲部品の製造方法を以下に説明する。なお、装置構成については上記第1実施形態で説明した製造装置10と同じであるので、
図1で示した品番と同じ品番を用いることで重複説明を省略する。
【0075】
[中空屈曲部材の製造方法]
本実施形態では、製造装置10を用いて、
図6(a)に示す中空素材Pmから、
図6(f)に示す中空屈曲部品Ppを製造する場合について説明する。中空屈曲部材Ppは、その長手方向2箇所にせん断曲げ加工が加えられている。なお、
図6では、制御装置16及び腕部15Bcの図示を省略している。
【0076】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、中空素材Pmの先端部を把持手段15Ba,15Bbで把持しながら、まず1箇所目のせん断曲げ加工を行う。この1箇所目のせん断曲げ加工は、例えば
図2で説明した工程を行うことにより行う。そのため、せん断曲げ加工の開始から終了までの間、前記距離L’は、前記制御装置16により前記所定距離内に設定されている。
図6(b)に示すようにせん断曲げ加工が終了した後も、焼き入れを継続して行う。すなわち、中空素材Pmを第1の位置Aで支持しながら中空素材Pmの長手方向である送り方向Fへ送りつつ(送り工程)、第2の位置Bで中空素材Pmを部分的に加熱して被加熱部Hを形成し(加熱工程)、第3の位置Cで被加熱部Hの下流側に位置する中空素材Pmの少なくとも一部を冷却する(冷却工程)。この時、把持手段15Ba,15Bbを、中空素材Pmの送り速度に同調して送り方向Fに向かって移動させる。そのため、中空素材Pmのうちで1箇所目のせん断曲げ加工を加えた部分よりも上流側の範囲が、せん断曲げや通常曲げを受けることなく、送り方向Fに向かって送られながら直管のまま焼き入れされる。
【0077】
続いて、
図6(c)に示すように、2箇所目のせん断曲げ加工を行う位置に中空素材Pmが至った時点で、待機状態にあった把持手段15Aa,15Abを第1の位置Aに移動させる。そして、
図6(d)に示すように、第1の位置Aで中空素材Pmの長手方向の途中位置を把持する。この時、前記支持装置12の前記ロール12aが中空部材Pmと接触する送り方向Fに沿った最下流位置P0から前記把持位置P2までの間における送り方向Fに平行な距離L’を、前記所定距離内に制限するように、制御装置16が前記腕部15Acを制御する。把持手段15Aa,15Abにより中空素材Pmを適切に把持した後、第5の位置D2で中空素材Pmの先端を把持していた把持手段15Ba,15Bbを開くことで、中空素材Pmの把持を解除する。このようにして、
図6(c)から
図6(d)にかけて、中空素材Pmの把持位置を、第5の位置D2から第4の位置D1に切り換える。把持を解除した把持手段15Ba,15Bbは、中空素材Pm等に干渉しないように移動されて待機状態となる。そのため、
図6(e)及び
図6(f)では、待機状態にある把持手段15Ba,15Bbの図示を省略している。
【0078】
そして、
図6(e)及び
図6(f)に示すように、2回目のせん断曲げ加工を行う。この時のせん断曲げ加工箇所も、各冷却水噴射ノズル14aからの冷却水で冷却されるため、焼き入れが同時に行われる。せん断曲げ加工の開始から終了までの間、前記距離L’は、制御装置16により所定距離内に制限される。よって、被加熱部H及び把持手段15Aa,15Ab間の距離を短くしてこの部分における中空素材Pmの撓みを抑えた上でせん断曲げ加工が行える。
【0079】
せん断曲げ加工が最後まで終了したら、
図6(f)に示すように、加熱コイル13aによる加熱を停止させ、加工済みの中空屈曲部品Ppを製造装置10から外して払い下げる。
以上に説明のように、送り工程、加熱工程、冷却工程、及びせん断曲げ加工工程を含む一連の工程により、中空屈曲部品Ppが製造される。この中空屈曲部品Ppは、その2箇所のせん断曲げ箇所において、せん断曲げ加工の開始から終了までの間、前記支持装置12の前記ロール12aが中空部材Pmと接触する送り方向Fに沿った最下流位置P0から前記把持位置P2までの間における送り方向Fに平行な距離L’を前記所定距離内に制限している。したがって、中空屈曲部品Ppは、撓みが少なく高い加工精度を有する。
以上示した各実施形態は、熱間せん断曲げのみを行う場合の説明であったが、このせん断曲げ加工に、例えば
図7に示した従来の熱間曲げ加工を組み合わせて、中空屈曲部品Ppを製造することも可能である。
【実施例0080】
中空屈曲部品の製造装置を用いた製造方法の実施例を、以下に説明する。
本実施例では、0.2%炭素鋼からなる、高さH=20mm、幅w=20mm、板厚t=1.0mm、全長TL=2000mmの中空屈曲部品Ppを複数本、製造した。各中空屈曲部品Ppを製造した際の製造方法は、対応する図面番号を用いて下表1に示した通りである。また、被加熱部Hにおける最高到達温度は全て950℃に揃えた。前記距離L’は、表1の通りとした。
製造された各中空屈曲部品Ppのそれぞれについて、目標とする製品寸法との寸法誤差を測定した。そして、寸法誤差が-0.5mm~+0.5mmの範囲にあるものを良品、前記範囲から外れるものを不良品と設定し、全本数に対する不良品数の割合を算出した。
表1に示す通り、本発明例1~5に示す様に、すべて条件で従来例より不良率を削減できることを確認した。特に、L’/w<20(すなわちL’<20×w)の場合に良好な結果が得られた。さらに、L’/w<10(すなわちL’<10×w)の場合に顕著に良好な結果が得られた。
【0081】
【0082】
本発明に係る製造方法により製造される中空屈曲部材Ppは、例えば以下に例示する用途(i)~(vii)に対して適用可能である。
(i)例えば、フロントサイドメンバー、クロスメンバー、サイドメンバー、サスペンションメンバー、ルーフメンバー、Aピラーのレインフォース、Bピラーのレインフォース、バンパーのレインフォース等といった自動車車体の構造部材
(ii)例えば、シートフレーム、シートクロスメンバー等といった自動車の強度部材や補強部材
(iii)自動車の排気管等の排気系部品
(iv)自転車や自動二輪車のフレームやクランク
(v)電車等の車輛の補強部材、台車部品(台車枠、各種梁等)
(vi)船体等のフレーム部品、補強部材
(vii)家電製品の強度部材、補強部材または構造部材