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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096587
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】化学物質検査装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/00 20060101AFI20230630BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20230630BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20230630BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230630BHJP
【FI】
H01J49/00 950
H01J49/26
H01J49/04 680
G01N27/62 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212443
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 信之
(72)【発明者】
【氏名】永井 信行
【テーマコード(参考)】
2G041
5C038
【Fターム(参考)】
2G041AA05
2G041AA07
2G041CA01
2G041FA06
2G041FA30
2G041MA04
5C038HH03
5C038HH21
5C038HH26
5C038HH28
5C038HH30
(57)【要約】
【課題】不正薬物と爆発物をともに検出する動作モードを備えた化学物質検査装置において、ワイプ材のコストを効果的に抑制する。
【解決手段】本発明に係る化学物質検査装置が備える質量分析装置は、正イオン化した化学物質を検出する第1動作モードと、正イオン化した化学物質および負イオン化した化学物質をともに検出する第2動作モードとを切り替えることができるように構成されており、負イオン化した化学物質を検出するときは、前記第2モードを実施する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質を検出する化学物質検査装置であって、
前記化学物質をイオン化させることによって検出する質量分析装置、
前記質量分析装置を制御する制御装置、
を備え、
前記質量分析装置は、正イオン化した化学物質を検出する第1動作モードと、正イオン化した化学物質および負イオン化した化学物質をともに検出する第2動作モードとを切り替えることができるように構成されており、
前記制御装置は、前記第1動作モードと前記第2動作モードのうちいずれを実施するかを前記質量分析装置に対して指示し、
前記制御装置は、負イオン化した化学物質を前記質量分析装置に検出させるときは、前記第2動作モードを実施するように前記質量分析装置に対して指示する
ことを特徴とする化学物質検査装置。
【請求項2】
前記制御装置は、正イオン化した不正薬物成分を前記質量分析装置に検出させるときは前記第1動作モードを実施するように前記質量分析装置に対して指示し、
前記制御装置は、負イオン化した爆発性を有する物質を前記質量分析装置に検出させるときは前記第2動作モードを実施するように前記質量分析装置に対して指示し、
前記制御装置は、正イオン化した爆発性を有する物質を前記質量分析装置に検出させるときは前記第2動作モードを実施するように前記質量分析装置に対して指示する
ことを特徴とする請求項1記載の化学物質検査装置。
【請求項3】
前記化学物質検査装置はさらに、前記化学物質検査装置に関する情報を表示する表示部を備え、
前記表示部は、前記質量分析装置が前記第1動作モードで動作するときは、前記正イオン化した化学物質を検査対象物から拭き取るために適した第1ワイプ材の名称を示す情報を表示し、
前記表示部は、前記質量分析装置が前記第2動作モードで動作するときは、前記正イオン化した化学物質と前記負イオン化した化学物質をともに前記検査対象物から拭き取るために適した第2ワイプ材の名称を示す情報を表示する
ことを特徴とする請求項1記載の化学物質検査装置。
【請求項4】
前記化学物質検査装置はさらに、前記化学物質検査装置に関する情報を表示する表示部を備え、
前記制御装置は、前記化学物質検査装置が備える部品において発生する可能性がある異常と、その異常に対する対処方法との間の関係を記述したデータをあらかじめ保持しており、
前記制御装置は、前記化学物質検査装置が備える部品において発生した異常を検出すると、前記データにしたがって、前記表示部に、
前記異常が発生した旨のアラート、
前記異常が発生している部品の名称、
前記異常に対する対処方法、
を表示させる
ことを特徴とする請求項1記載の化学物質検査装置。
【請求項5】
前記化学物質検査装置は、前記化学物質検査装置が備える部品を収容する筐体を備え、
前記筐体は、開閉可能なカバーを備え、
前記カバーは、ネジを用いることなく前記筐体の本体に対して係止できることにより、ドライバーを用いることなく開閉できるように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の化学物質検査装置。
【請求項6】
前記化学物質検査装置は、前記化学物質検査装置において所定の異常が発生したことを検知すると、前記係止を解除する
ことを特徴とする請求項5記載の化学物質検査装置。
【請求項7】
前記化学物質検査装置は、前記所定の異常として、前記質量分析装置が備えるイオン源の温度が閾値以下になったことを検知すると、前記係止を解除する
ことを特徴とする請求項6記載の化学物質検査装置。
【請求項8】
前記化学物質検査装置は、前記制御装置からの指示にしたがって前記カバーと前記筐体との間の係止をロックするかそれともそのロックを解除するかを切り替えるロック機構を備え、
前記制御装置は、前記カバーが閉じられた後に前記ロック機構によって前記カバーと前記筐体との間の係止をロックし、
前記制御装置は、所定の認証情報を受け取ったときは、前記ロック機構による前記ロックを解除し、
前記制御装置は、前記ロック機構によって前記カバーと前記筐体との間の係止をロックしてから前記認証情報を受け取るまでの間は、そのロックを維持する
ことを特徴とする請求項5記載の化学物質検査装置。
【請求項9】
前記化学物質検査装置はさらに、
前記化学物質が付着した検査対象物から前記化学物質を拭き取るために用いたワイプ材を前記質量分析装置に対して供給する供給部、
前記供給部に対して供給された前記ワイプ材を挟んで保持する第1および第2保持部、
前記第1および第2保持部のうち少なくともいずれかを加熱することにより前記ワイプ材を加熱する加熱部、
を備え、
前記第1保持部または前記第2保持部のうち一方は他方に対する位置をスライドすることができるように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の化学物質検査装置。
【請求項10】
前記第1保持部または前記第2保持部のうち少なくともいずれかは、前記第1保持部または前記第2保持部のうち一方を他方に対してスライドさせることにより露出する蓋を備え、
前記蓋の内部には、前記ワイプ材から発生した微細粒子をフィルタリングする、交換可能なフィルタが配置されている
ことを特徴とする請求項9記載の化学物質検査装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記質量分析装置による前記化学物質の検出結果を前記質量分析装置から周期的に繰り返し受け取るとともにその検出結果を記述したデータを保持し、
前記制御装置は、前記質量分析装置から前記検出結果を取得できない状態が所定時間または所定回数継続した場合は、前記質量分析装置から前記検出結果を受け取る処理を再起動する
ことを特徴とする請求項1記載の化学物質検査装置。
【請求項12】
前記第1ワイプ材は、前記正イオン化した化学物質とともに前記質量分析装置に対して導入したとき前記質量分析装置が前記正イオン化した化学物質を検出することを妨げる物質を放出しないかまたは妨げない程度にのみ放出する材料によって構成されており、
前記第2ワイプ材は、前記負イオン化した化学物質とともに前記質量分析装置に対して導入したとき前記質量分析装置が前記負イオン化した化学物質と前記正イオン化した化学物質をともに検出することを妨げる物質を放出しないかまたは妨げない程度にのみ放出する材料によって構成されている
ことを特徴とする請求項3記載の化学物質検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質を検出する化学物質検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
爆発物を用いたテロを防止するために、例えば空港などの荷物検査において、荷物に付着している爆薬微粒子などを検出することが求められている。さらに、覚醒剤や大麻などのように国内所持が禁止または制限されている不正薬物を併せて検出することが求められている。このような爆発物や不正薬物は、例えば質量分析装置を用いた化学物質検査装置によって検出することができる。具体的には、荷物に付着していると想定されるこれら化学物質を適切な拭き取り材(ワイプ材)で拭き取り、そのワイプ材を質量分析装置の試料室へ導入して加熱することにより付着成分を気化し、さらに付着成分をイオン化するなどによって検出する。
【0003】
これらの化学物質を質量分析装置によって検出する場合、不正薬物は一般に正イオン化し、爆発物は一般に負イオン化する。したがって、質量分析装置が不正薬物を検出するときの極性と爆発物を検出するときの極性は、互いに異なる。化学物質検査装置(および質量分析装置)は一般に、不正薬物を検出する動作モードと、爆発物を検出する動作モードを、切り替えることができるように構成されている。さらに近年では、単一の動作モードのなかで、正イオンを検出する動作極性と負イオンを検出する動作極性を高速に切り替えることにより、これらの化学物質を単一の動作モードのみで検出可能とした装置も提供されている。
【0004】
下記特許文献1は、高電圧電源装置およびこれを備えた質量分析装置について記載している。同文献は、高電圧電源装置が電圧切替を高速に実施することにより、正イオン検出と負イオン検出とを短時間毎に交互に繰り返した分析が可能となる技術を記載している(同文献の0048参照)。下記非特許文献1も同様の技術を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再表2019/187431号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】URL: https://www.an.shimadzu.co.jp/lcms/lcms2020/lcms2.htm(2021年12月6日取得)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
正イオン化した化学物質と負イオン化した化学物質をともに検出する動作モードを実装することにより、その動作モードのみを実施すれば、不正薬物と爆発物をともに検出することができる。すなわち検出対象とする化学物質の観点のみにおいては、その動作モードのみがあれば足りるようにも思われる。
【0008】
他方で、従来の検査装置のように、不正薬物検出モードと爆発物検出モードが分かれている場合においては、不正薬物を拭き取るとき用いるワイプ材と、爆発物を拭き取るとき用いるワイプ材が、互いに異なる場合がある。爆発物を拭き取るときは、例えば高温に耐えることができる(高温環境下においても、質量分析装置が爆発物を検出する際の阻害となる物質をワイプ材があまり放出しない)比較的高価なワイプ材を用いる。このようなワイプ材は、不正薬物を検出する際に用いることもできる。阻害物質自体をあまり放出しないからである。他方で不正薬物を拭き取るときは、例えば加熱したときある程度の量の物質を放出するものの、その物質が不正薬物を検出する際の阻害とならない、比較的安価なワイプ材を用いる。ただしこのようなワイプ材から放出される物質は、爆発物を検出する際の阻害となる場合があるので、爆発物を拭き取るために用いるのは適していない。このようなワイプ材の使い分けは、ワイプ材そのもののコストを抑制する観点から、有用である。
【0009】
不正薬物と爆発物をともに検出可能な動作モードにおいては、加熱した際にワイプ材から放出される物質が、不正薬物の検出と爆発物の検出いずれにおいても阻害とならないようにする必要がある。したがってこの動作モードにおいては、上記例における比較的高価なワイプ材を用いることになる。そうするとこの動作モードにおいては、常に比較的高価なワイプ材を用いることになるので、ワイプ材の使い分けによるコスト抑制の観点からは必ずしも望ましくない場合がある。
【0010】
本発明は、上記のような技術的課題に鑑みてなされたものであり、不正薬物と爆発物をともに検出する動作モードを備えた化学物質検査装置において、ワイプ材のコストを効果的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る化学物質検査装置が備える質量分析装置は、正イオン化した化学物質を検出する第1動作モードと、正イオン化した化学物質および負イオン化した化学物質をともに検出する第2動作モードとを切り替えることができるように構成されており、負イオン化した化学物質を検出するときは、前記第2モードを実施する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る化学物質検査装置によれば、不正薬物と爆発物をともに検出する動作モードを備えた化学物質検査装置において、ワイプ材のコストを効果的に抑制することができる。本発明のその他課題、構成、利点などについては、以下の実施形態の説明によって明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る化学物質検査装置1の構成を示す外面斜視図である。
図2】実施形態4に係る化学物質検査装置1の構成を示す外面斜視図である。
図3】カバー15を開いた状態を示す模式図である。
図4】実施形態5に係る化学物質検査装置1の構成図である。
図5】第2保持部172をさらにスライドさせた状態を示す。
図6】第1保持部171の周辺を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1:装置構成>
図1は、本発明の実施形態1に係る化学物質検査装置1の構成を示す外面斜視図である。化学物質検査装置1は、例えば空港において荷物に付着した化学物質を検出するために用いる装置である。化学物質検査装置1は、質量分析装置11、制御装置12、表示部13、供給部14、を備える。
【0015】
質量分析装置11は、化学物質をイオン化させることによって検出する装置である。例えば不正薬物を正イオン化することによって検出し、爆発物を負イオン化することによって検出する。不正薬物としては、背景技術において述べたものが挙げられるが、具体的にはアンフェタミン、ヘロイン、コカインなどが1例である。爆発物は、TNT(トリニトロトルエン)、NG(ニトログリセリン)、硝酸アンモニウム、などが1例である。質量分析装置11は、化学物質検査装置1の内部に搭載することができる。
【0016】
制御装置12は、化学物質検査装置1(質量分析装置11を含む)を制御する装置である。制御装置12は、制御処理を実装したソフトウェアを搭載して実行するコンピュータによって構成することもできるし、制御処理を回路デバイスなどのハードウェアによって実装した装置によって構成することもできる。制御装置12は、化学物質検査装置1の内部に組み込むこともできるし、ユーザが制御装置12を介して化学物質検査装置1に対して指示を与えるために少なくともユーザインターフェース部分(例:マウス、キーボード)を化学物質検査装置1の筐体外に配置してもよい。以下では記載の便宜上、化学物質検査装置1に対して着脱可能なコンピュータによって制御装置12が構成されているものとする。
【0017】
表示部13は、化学物質検査装置1に関する情報(例えば化学物質検査装置1の内部状態)を表示する。表示部13は、制御装置12が備えるディスプレイなどの表示デバイスによって構成してもよいし、制御装置12とは別のデバイスとして構成してもよい。以下では記載の便宜上、制御装置12(コンピュータ)が備えるディスプレイによって、表示部13が構成されているものとする。
【0018】
供給部14は、後述するワイプ材を化学物質検査装置1に対して供給するための導入口である。供給部14から導入されたワイプ材は、適当な機構を介して質量分析装置11に対して供給される。供給部14は、例えば引き出し状に構成されており、筐体から引き出してワイプ材を装着した後に筐体内へ押し込むことにより、化学物質検査装置1(および質量分析装置11)に対してワイプ材が供給される。
【0019】
<実施の形態1:装置動作>
空港において荷物に付着した化学物質を検出する場合を例として、化学物質検査装置1の動作を説明する。ユーザ(例えば検査員)は、荷物に付着していると想定される化学物質をワイプ材(典型的には紙状の繊維材料)によって拭き取り、そのワイプ材を供給部14から投入する。化学物質検査装置1または質量分析装置11は、投入されたワイプ材を加熱することによって、拭き取った化学物質を気化する。質量分析装置11は、気化された化学物質をイオン化することによって検出する。
【0020】
質量分析装置11は、不正薬物(正イオン)を検出する第1モードと、不正薬物(正イオン)および爆発物(負イオン)を同時に検出する第2モードとを、切り替えることができるように構成されている。質量分析装置11は、第2モードにおいては、正イオンを検出する動作極性と負イオンを検出する動作極性を高速に切り替えることにより、これらのイオンを単一の動作モードにおいてともに検出することができる。
【0021】
ユーザは、制御装置12が備えるユーザインターフェースを介して、第1モードと第2モードのうちいずれを実施するかを指示する。制御装置12はその指示にしたがって、質量分析装置11に対して動作モードを指示する。質量分析装置11はその指示にしたがって動作モードを実施する。例えば、(a)不正薬物を検出する場合、ユーザは第1モードを指示し、(b)爆発物を検出する場合、ユーザは第2モードを指示する。制御装置12はこれらの旨を質量分析装置11に対して指示する。
【0022】
<実施の形態1:動作モードとワイプ材について>
先に説明したように、検出対象物に応じて、ワイプ材の種類は異なる。例えば第1モードを実施する際には比較的安価なワイプ材を用い、第2モードを実施する際には比較的高価なワイプ材を用いる。ワイプ材をより細かく使い分けるためには、例えば、第1モードと第2モードに加えて、爆発物のみを検出する第3動作モードを実装することも考えられる。しかし先に説明したように、爆発物を検出する際に用いるワイプ材は比較的高価なものとなるので、結果として第3モードにおけるワイプ材は第2モードにおけるワイプ材と同じとなる。さらに、爆発物は第2モードにおいても検出可能である。
【0023】
以上に鑑みて、本実施形態1に係る化学物質検査装置1は、第1モードと第2モードのみを実装することとした。質量分析装置11が第3モードを備えていてもよいが、制御装置12が質量分析装置11に対して指示する(ユーザが化学物質検査装置1に対して指示する)のは、第1モードまたは第2モードのうちいずれかである。したがって化学物質検査装置1としては、第1モードと第2モードのみを実施する。
【0024】
<実施の形態1:正イオン化する爆発物について>
爆発物は一般的に負イオン化するので、第2モードによって検出することができる。他方で爆発物のなかには、正イオン化するものがある。例えばTATP(トリアセトントリパーオキサイド)はその1例である。従来の爆発物検出モードは、負イオンを検出するように質量分析装置11の極性をセットするので、このような爆発物を検出することは困難であった。本実施形態1に係る化学物質検査装置1は、このような爆発物であっても、第2モードによって検出することができる。したがって、このような正イオン化する爆発物を検出しようとする場合、ユーザは第2モードを指示すればよい。
【0025】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る化学物質検査装置1において、質量分析装置11は、正イオン化した化学物質(例えば不正薬物)を検出する第1モードと、正イオン化した化学物質および負イオン化した化学物質(例えば爆発物)をともに検出する第2モードとを切り替えることができるように構成されており、負イオン化した化学物質を検出する場合は第2モードを実施する。これにより、爆発物を検出する場合と不正薬物・爆発物をともに検出する場合は比較的高価なワイプ材を用いることを前提としつつ、不正薬物のみを検出する場合は比較的安価なワイプ材を用いることにより、ワイプ材のコストを抑制できる。
【0026】
本実施形態1に係る化学物質検査装置1において、制御装置12は、(a)正イオン化した化学物質(例えば不正薬物)を検出するときは第1モードを指示し、(b)負イオン化した化学物質(例えば爆発物)を検出するときは第2モードを指示し、(c)正イオン化した爆発物を検出するときは第2モードを指示する。これにより、従来の爆発物検出モードによって検出することが困難であった、正イオン化する爆発物であっても、第2モードによって検出することができる。
【0027】
<実施の形態2>
実施形態1に係る化学物質検査装置1が爆発物または不正薬物を検出するとき、ワイプ材としては、例えばベンコット(登録商標)やコーネックス(登録商標)などの繊維製品を用いる。ベンコットは比較的安価であり、コーネックスは比較的効果である。ベンコットを用いて爆発物を拭き取ると、質量分析装置11が爆発物を検出する際に誤検出が生じ、あるいは検出後に長時間のクリーニング作業を必要とする場合がある。ベンコットが加熱されると余剰ガスなどの不要成分が発生し、これが質量分析装置11において爆発物を検出する際に阻害となる場合があり、さらに検出工程の後においてこれを洗浄する必要があるからである。他方でコーネックスは、加熱したときそのような余剰成分が生じないか生じたとしても微量である(少なくとも検出を阻害する程度の量の余剰成分は生じない)。
【0028】
上記2つのワイプ材の性質に鑑みると、爆発物のみを検出する動作モード(実施形態1に係る化学物質検査装置1は実装していない第3モード)においてはコーネックスをワイプ材として用い、不正薬物のみを検出する動作モード(第1モード)においてはベンコットまたはコーネックスをワイプ材として用いることになる。爆発物と不正薬物をともに検出する動作モード(第2モード)においては、ベンコットを用いると上記のような影響が生じるので、コーネックスをワイプ材として用いることが必要である。
【0029】
化学物質検査装置1のユーザが例えば荷物を拭き取る際に、このような検出対象ごとのワイプ材の適否を正確に把握していない場合がある。不適切なワイプ材を用いると上記のような誤検出などが発生し、ユーザにとって不便である。そこで本発明の実施形態2に係る化学物質検査装置1は、モード毎に適したワイプ材の名称をユーザに対して提示する。化学物質検査装置1の構成は実施形態1と同様である。
【0030】
検出する化学物質に応じて、ワイプ材として適した材料は異なる。先に説明したように不正薬物を検出する動作モード(第1モード)においてはベンコットまたはコーネックスをワイプ材として用い、爆発物と不正薬物をともに検出する動作モード(第2モード)においてはコーネックスをワイプ材として用いるのが典型的である。表示部13は、動作モードにしたがって、これらワイプ材のうちいずれを用いるべきかを表示する。
【0031】
ユーザは制御装置12を介して、いずれの動作モードを実施するのかを指示する。制御装置12は、動作モードと、その動作モードにおいて用いるべきワイプ材との間の関係を記述したデータを、あらかじめ保持している。制御装置12は、指示された動作モードを用いてそのデータを参照することにより、動作モードに対応するワイプ材を特定する。制御装置12は、特定したワイプ材の名称等を、表示部13上で表示する。質量分析装置11は、指示された動作モードで動作する。
【0032】
ユーザが制御装置12を介して動作モードを指定したとき、ユーザは表示部13上でその動作モードに適したワイプ材を容易に知ることができる。したがって、誤検出を生じさせるような不適切なワイプ材を用いることなく、検出しようとしている化学物質に適したワイプ材を選択することができる。
【0033】
<実施の形態3>
実施形態1~2に係る化学物質検査装置1において、質量分析装置11は、質量分析装置11が備える部品に異常が発生したとき、その旨のアラートを例えば異常コードなどとともに制御装置12に対して通知してもよい。制御装置12はそのアラートを受け取ると、表示部13上にそのアラートを表示する。さらに制御装置12は、異常が発生した部品名称またはその異常種別と、その異常に対して実施すべき対処方法との間の関係を記述したデータをあらかじめ保持しておき、アラートとともにその対処方法を表示部13上で提示してもよい。これによりユーザは、異常に対して速やかに対処することができる。
【0034】
化学物質検査装置1が備えるその他部品における異常についても同様に、制御装置12がこれを検出し、その異常に対する対処方法を表示部13上でユーザに対して提示してもよい。
【0035】
<実施の形態4>
図2は、本発明の実施形態4に係る化学物質検査装置1の構成を示す外面斜視図である。化学物質検査装置1は、内部に搭載した機材をメンテナンスするときなどに内部を開披することができるように、開閉可能なカバー15を備えてもよい。その他の構成は実施形態1~3と同様である。記載の便宜上、一部の構成要素は図2において省略したことを付言しておく。
【0036】
カバー15は、例えばヒンジなどの部材によって、化学物質検査装置1の本体筐体に対して取り付けられている。カバー15は、本体筐体に対して係止する係止部を備え、本体筐体はその係止部と嵌合するように構成されている。係止部は、ネジなどの固定部材を用いることなくカバー15を固定できるように構成されている。したがってユーザは、ドライバーなどの特別な器具を用いることなく、単にカバー15を持ち上げる/下げる動作のみによって、カバー15を開閉することができる。
【0037】
カバー15と本体筐体との間は、単に係止するのみならず、ロック機構16によってロックして許可なく開閉することができないようにしてもよい。例えばソレノイドロックなどのように、電気信号によってロック/アンロックを切り替えることができるロック機構16を用いて、係止部をロックすることが考えられる。この場合、ロック機構16と係止部は一体的に構成されることになる。
【0038】
ロック機構16は、カバー15をいったん閉じた以降は、原則としてロック状態になっている。作業員が化学物質検査装置1に対するメンテナンス作業を実施する際には、作業員は制御装置12に対して所定の認証情報を入力する。制御装置12は、その認証情報が正しい場合は、ロック機構16を解除する。これにより作業員はカバー15を開放して作業を実施できる。
【0039】
図3は、カバー15を開いた状態を示す模式図である。ユーザはカバー15を開くことにより、化学物質検査装置1の内部に搭載された機材(例えば質量分析装置11)に対してアクセスし、メンテナンスなどの作業を実施できる。
【0040】
制御装置12は、所定条件の下において自動的にロック機構16のロックを解除してもよい。例えば質量分析装置11が備えるイオン源の温度が閾値以下(例:55℃以下)になると、質量分析装置11はその旨のアラートを制御装置12に対して発信し、制御装置12はそのアラートを受け取るとロック機構16のロックを解除する。これにより、ユーザは質量分析装置11を速やかに点検することができる。質量分析装置11または化学物質検査装置1におけるその他アラートについても同様である。
【0041】
<実施の形態5>
図4は、本発明の実施形態5に係る化学物質検査装置1の構成図である。図4はカバー15を開放した状態を示す。記載の便宜上、供給部14周辺の構成のみを簡略化して示した。供給部14の周辺には、投入されたワイプ材を挟み込んで保持する、第1保持部171と第2保持部172が配置されている。例えば第2保持部172は円柱状の部材である。嵌合穴状に構成された第1保持部171に対して第2保持部172を嵌合することにより、ワイプ材を挟むことができる。この構造は1例であり、ワイプ材を保持することができればその他の構造であってもよい。その他の構成は実施形態1~4と同様である。
【0042】
第1保持部171と第2保持部172のうち少なくともいずれかは、加熱部173によって熱を与えられることにより、ワイプ材を加熱して付着物を気化させる。図4においてはこれら両方を加熱することができる構成例を示した。例えば第1保持部171と第2保持部172を金属部材によって構成し、加熱部173を電熱ヒータなどによって構成することができる。
【0043】
第1保持部171または第2保持部172は、一方に対する他方の位置をスライドすることにより、スライドした側を取り外す(少なくとも後述のメンテナンス作業が容易となる程度まで移動する)ことができるように構成されている。図4においては、第2保持部172がスライド可能に構成されており、スライドによって取り外した状態を示した。
【0044】
図5は、第2保持部172をさらにスライドさせた状態を示す。ワイプ材を加熱することを繰り返すと、ワイプ材から発生する余剰成分やワイプ材そのものの繊維などが第1保持部171と第2保持部172およびその周辺に付着して蓄積する場合がある。図5のように保持部をスライドさせることにより、保持部およびその周辺を容易に清掃することができるので、メンテナンス性が高まる。これに対して、従来の化学物質検査装置は、ワイプ材の保持機構や保持機構を加熱する部材の周辺におけるメンテナンス性が必ずしも高くない場合がある。図4図5のように保持部をスライド可能に構成してメンテナンス性を高めることにより、化学物質検査装置1の性能や製品寿命を従来よりも容易に維持することができる。
【0045】
図6は、第1保持部171の周辺を拡大した図である。第1保持部171または第2保持部172のうち少なくともいずれか(図6においては第1保持部171)は、図5のようなスライドによって露出するように配置された蓋174を備えてもよい。蓋174の内部には、例えばワイプ材の繊維片などワイプ材から発生した微粒子をフィルタリングするフィルタ175を配置してもよい。いずれかの保持部をスライドさせて蓋174を開けることにより、フィルタ175を容易に交換することができる。すなわちフィルタ175のメンテナンス性も高めることができる。
【0046】
<実施の形態6>
以上の実施形態において、質量分析装置11が化学物質を検出した結果は、制御装置12上に集約することができる。この場合、制御装置12は、質量分析装置11と通信して検出結果を受け取り、その検出結果を記述したデータ(例えば検出した化学物質のマススペクトルを記述したデータ)を保存する。制御装置12は、質量分析装置11による検出結果を、質量分析装置11に対して周期的(例:200msごと)に問い合わせる。
【0047】
例えば質量分析装置11と制御装置12との間の通信異常や、制御装置12が搭載しているミドルウェア(例:質量分析装置11との間の通信処理を実装したもの)の異常などによって、制御装置12から上記問い合わせを発信しても、質量分析装置11から検出結果を取得できない場合がある。このようなデータを取得できない異常が所定時間または所定回数継続している場合、制御装置12は、質量分析装置11からデータを収集する処理を再起動する。収集処理がミドルウェアによって実装されているのであれば、そのミドルウェアに対して収集処理の再起動を指示してもよい。これにより、質量分析装置11から検出結果を収集する処理が、初期状態から改めて開始するので、検出結果を再取得できることが期待される。
【0048】
上記のような異常に際して、検出結果を収集する処理のみを再起動するのではなく、その処理を実装したソフトウェア(例えばミドルウェア)そのものを再起動することも考えられる。しかしそれにより、質量分析装置11と制御装置12との間の通信コネクションがいったん遮断されるなどによって、通信初期化などの様々な初期化処理を最初から実施し直す必要が生じることがある。このような再初期化は処理負担が大きく、また質量分析装置11による分析の中断原因ともなるので、望ましくない。そこで本実施形態においては、検出結果を収集する処理のみを再起動することとした。
【0049】
<本発明の変形例について>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施形態の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の実施形態の構成の一部を追加、削除または置換することもできる。
【0050】
以上の実施形態において、ワイプ材の例としてベンコットとコーネックスを示したが、ワイプ材はこれらに限るものではない。すなわち、質量分析装置11が検出する化学物質を拭き取るのに適したワイプ材と、そのとき質量分析装置11が実施する動作モードとの間の関係を記述したデータをあらかじめ制御装置12が保持しておくことにより、任意のワイプ材と動作モードの組み合わせについて、本発明を適用することができる。
【0051】
以上の実施形態において、第1モードにおいて用いるワイプ材は、正イオン化した化学物質とともに質量分析装置11に対して導入したとき、質量分析装置11が正イオン化した化学物質を検出する際の阻害となる物質を放出しないか、あるいは放出したとしても阻害とならない程度の量である材質であればよい。第2モードにおいて用いるワイプ材は、正イオン化した化学物質および負イオン化した化学物質とともに質量分析装置11に対して導入したとき、質量分析装置11が正イオン化した化学物質と負イオン化した化学物質を検出する際の阻害となる物質を放出しないか、あるいは放出したとしても阻害とならない程度の量である材質であればよい。
【0052】
以上の実施形態において、化学物質が付着した検査対象物の例として空港における荷物を例示したが、その他の検査対象物についても本発明の技術を適用することができる。すなわち、特定の化学物質が付着しているか否かを検査する任意の物品および検査場面について、本発明の技術を適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1:化学物質検査装置
11:質量分析装置
12:制御装置
13:表示部
14:供給部
15:カバー
16:ロック機構
171:第1保持部
172:第2保持部
173:加熱部
174:蓋
175:フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6