(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096621
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】三重殻タンクの施工方法
(51)【国際特許分類】
E04H 7/06 20060101AFI20230630BHJP
B65D 88/06 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
E04H7/06 301Z
E04H7/06 301C
B65D88/06 B
E04H7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212503
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】小松 豊孝
【テーマコード(参考)】
3E170
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AA30
3E170AB29
3E170DA01
3E170DA03
3E170DA05
3E170JA01
3E170JA04
3E170JA05
3E170JA06
3E170JA07
3E170JA08
3E170KC01
3E170NA01
3E170NA04
3E170NA05
(57)【要約】
【課題】内槽、中間槽及び外槽を備えた三重殻タンクの建造にあたり、工事口の開設態様を適正化し、工期短縮に寄与する。
【解決手段】三重殻タンクの施工方法に際し、工事用の出入り口として、外槽側板の構築時に第1工事口を、内槽側板の構築時に第2工事口を、中間槽側板の構築時に第3工事口をそれぞれ開設する。前記内槽の内側での作業完了後に前記第2工事口を封止し、次いで前記中間槽の内側での作業完了後に前記第3工事口を封止し、しかる後、前記外槽の内側での作業完了後に前記第1工事口を封止する。前記第1工事口、前記第2工事口及び前記第3工事口は、当該三重殻タンクの周方向及び高さ方向において少なくとも一部が互いに重なり合う位置に開設され、前記第1工事口の開口面積をAR1、前記第2工事口の開口面積をAR2とするとき、AR1≧AR2の関係を満たすように前記第1工事口及び前記第2工事口を開設する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ屋根と側板とを有する内槽、中間槽及び外槽を備えた三重殻タンクの施工方法であって、
工事用の出入り口として、外槽側板の構築時に当該外槽側板に第1工事口を、内槽側板の構築時に当該内槽側板に第2工事口を、中間槽側板の構築時に当該中間槽側板に第3工事口をそれぞれ開設し、
前記内槽の内側での作業完了後に前記第2工事口を封止し、次いで前記中間槽の内側での作業完了後に前記第3工事口を封止し、しかる後、前記外槽の内側での作業完了後に前記第1工事口を封止する工程を含み、
前記第1工事口、前記第2工事口及び前記第3工事口は、当該三重殻タンクの周方向及び高さ方向において少なくとも一部が互いに重なり合う位置に開設され、
前記第1工事口の開口面積をAR1、前記第2工事口の開口面積をAR2とするとき、
AR1≧AR2
の関係を満たすように前記第1工事口及び前記第2工事口を開設する、三重殻タンクの施工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の三重殻タンクの施工方法において、
前記第3工事口の開口面積をAR3とするとき、
AR1≧AR3≧AR2
の関係を満たすように前記第1工事口、前記第2工事口及び前記第3工事口を開設する、三重殻タンクの施工方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の三重殻タンクの施工方法において、
前記第1工事口及び前記第2工事口の開口高さを、それぞれH1、H2とするとき、
H1≧H2
の関係を満たすように前記第1工事口及び前記第2工事口を開設する、三重殻タンクの施工方法。
【請求項4】
請求項3に記載の三重殻タンクの施工方法において、
前記第3工事口の開口高さをH3とするとき、
H1≧H3≧H2
の関係を満たすように前記第1工事口、前記第2工事口及び前記第3工事口を開設する、三重殻タンクの施工方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の三重殻タンクの施工方法において、
前記外槽側板、前記内槽側板及び中間槽側板は、複数の側板ピースを円環状に並べて形成した環状段を複数段積み上げることにより組み立てられ、
前記第1工事口、前記第2工事口及び前記第3工事口は、前記環状段を構成する複数の前記側板ピースのうちの1枚又は複数枚を抜くことによって開設される、三重殻タンクの施工方法。
【請求項6】
請求項5に記載の三重殻タンクの施工方法において、
前記側板ピースは、サイズが同一又は近似の矩形形状を有し、
前記第1工事口は、前記外槽側板を構成する環状段のうち、隣接する複数のN段分の前記側板ピースを抜くことにより開設され、
前記第2工事口及び前記第3工事口は、前記内槽側板及び前記中間槽側板を各々構成する環状段のうち、(N-1)段分の前記側板ピースを抜くことにより開設される、三重殻タンクの施工方法。
【請求項7】
請求項5に記載の三重殻タンクの施工方法において、
前記側板ピースは、サイズが同一又は近似の矩形形状を有し、
前記第1工事口は、前記外槽側板を構成する環状段のうち、最下段の環状段及び二段目の環状段の前記側板ピースを抜くことにより開設され、
前記第2工事口は、前記内槽側板を構成する環状段のうち、最下段の環状段の前記側板ピースを抜くことにより開設され、
前記第3工事口は、前記中間槽側板を構成する環状段のうち、最下段の高さ合わせ用環状段の上の二段目の環状段の前記側板ピースを抜くことにより開設される、三重殻タンクの施工方法。
【請求項8】
請求項7に記載の三重殻タンクの施工方法において、
前記中間槽側板の前記高さ合わせ環状段には、タンク基礎から延出されたアンカーストラップの上端が連結されている、三重殻タンクの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低温の液化ガスを貯留する三重殻タンクの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低温の液化ガスを貯留する施設として、多重殻構造を備えた平底タンクが知られている。この種の多重殻タンクの施工は、建造物自体が大掛かりであると共に断熱構造の施与などが求められるため、一般に長期間の工期を要する。例えば特許文献1及び2には、工期の短縮化を目的とした、内槽と外槽とを備えた二重殻構造のタンクの施工方法が開示されている。近年では、内槽と外槽との間に中間槽を備えた三重殻構造の平底タンクが、極低温の液化ガスの貯留施設として検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6127453号公報
【特許文献2】特許第5672787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三重殻タンクの施工において、内槽、中間槽及び外槽を順次構築するのではなく、これらを並行して構築することが、工期短縮の観点から望ましい。この場合、工事資材や工事機器の搬入及び搬出、作業者の出入りのための工事口を、内槽、中間槽及び外槽の各側板に開設することが必要となる。これら工事口を適切に前記側板に配設しないと、円滑な作業進行の妨げとなり、工期短縮を阻害することがある。
【0005】
本開示の目的は、内槽、中間槽及び外槽を備えた三重殻タンクの建造にあたり、工事口の開設態様を適正化し、工期短縮に寄与できる施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面に係る三重殻タンクの施工方法は、それぞれ屋根と側板とを有する内槽、中間槽及び外槽を備えた三重殻タンクの施工方法であって、工事用の出入り口として、外槽側板の構築時に当該外槽側板に第1工事口を、内槽側板の構築時に当該内槽側板に第2工事口を、中間槽側板の構築時に当該中間槽側板に第3工事口をそれぞれ開設し、前記内槽の内側での作業完了後に前記第2工事口を封止し、次いで前記中間槽の内側での作業完了後に前記第3工事口を封止し、しかる後、前記外槽の内側での作業完了後に前記第1工事口を封止する工程を含み、前記第1工事口、前記第2工事口及び前記第3工事口は、当該三重殻タンクの周方向及び高さ方向において少なくとも一部が互いに重なり合う位置に開設され、前記第1工事口の開口面積をAR1、前記第2工事口の開口面積をAR2とするとき、
AR1≧AR2
の関係を満たすように前記第1工事口及び前記第2工事口を開設する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、内槽、中間槽及び外槽を備えた三重殻タンクの建造にあたり、工事口の開設態様を適正化し、工期短縮に寄与できる施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の施工対象となる三重殻タンクの構造を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、工事口開設の第1実施形態を示す図であって、
図2(A)は工事口開設箇所の縦断面図、
図2(B)は水平断面図である。
【
図3】
図3は、工事口開設の第2実施形態を示す図であって、
図3(A)は工事口開設箇所の縦断面図、
図3(B)は水平断面図である。
【
図4】
図4は、工事口開設の第3実施形態を示す図であって、
図4(A)は工事口開設箇所の縦断面図、
図4(B)は水平断面図である。
【
図5】
図5は、第3実施形態の工事口開設態様を、内槽側板、中間槽側板及び外槽側板毎に分解して示す図である。
【
図6】
図6は、第3実施形態の変形例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本開示に係る工事口開設手法が適用される、三重殻タンクの施工方法の一例を示す工程チャートである。
【
図8】
図8は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を、タンクの半分の断面で示す図である。
【
図9】
図9は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図10】
図10は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図11】
図11は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図12】
図12は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図13】
図13は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図14】
図14は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図15】
図15は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図16】
図16は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図17】
図17は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図18】
図18は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図19】
図19は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図20】
図20は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【
図21】
図21は、前記三重殻タンクの施工方法の一つの工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本開示に係る三重殻タンクの施工方法の実施形態を詳細に説明する。本開示の施工対象である三重殻タンクは、低温の液化ガスを貯留するタンクであって、地上据え置き式の三重殻構造を備えた平底タンクである。貯留される液化ガスは、例えば液化水素、液体ヘリウムである。
【0010】
[三重殻タンクの構造]
まず、本開示の施工対象となる三重殻タンク1の構造を、
図1に示す縦断面図に基づいて説明する。
図1では、液体水素LHを貯留する三重殻タンク1を例示している。三重殻タンク1は、タンク基礎10と、このタンク基礎10の上に立設された外槽2と、外槽2に内包された中間槽3と、中間槽3に内包された内槽4とを含む。外槽2、中間槽3及び内槽4は、いずれも上面視で円形の形状を有し、同心円状に配置されている。
【0011】
タンク基礎10は、三重殻タンク1の基礎部分を構成するコンクリート層である。タンク基礎10は、外槽2の外径よりも大きいサイズを有している。外槽2は、炭素鋼等の金属で構成された密閉体であり、外槽底板21、外槽側板22及び外槽屋根23を含む。外槽底板21は、タンク基礎10の直上に敷設され、円板型の形状を有している。外槽側板22は、外槽底板21の周縁から立設され、円筒状の形状を有している。外槽屋根23は、円筒状の外槽側板22の上面開口を塞ぐように当該外槽側板22の上端に取り付けられ、ドーム型の形状を有している。
【0012】
中間槽3は、SUS等の金属で構成された密閉体であり、外槽2の内部に配置されている。中間槽3は、中間槽底板31、中間槽側板32及び中間槽屋根33を含む。中間槽底板31は、外槽底板21よりも径の小さい円板型の形状を有している。中間槽側板32は、中間槽底板31の周縁から立設され、円筒状の形状を有している。中間槽屋根33は、中間槽側板32の上端に取り付けられ、ドーム型の形状を有している。
【0013】
外槽底板21と中間槽底板31との間には、第1レベルコンクリート層24、第1リング部25及び外側底部保冷層26が介在されている。第1レベルコンクリート層24は、外槽底板21の上に施工された平面出しのコンクリート層である。第1リング部25は、第1レベルコンクリート層24の周縁付近の上にリング状に配置された、強度の高いコンクリート層である。第1リング部25において中間槽側板32の荷重を直接受ける箇所には、強化コンクリート層251が配置されている。外側底部保冷層26は、第1レベルコンクリート層24の上であって、第1リング部25の内側に配置された、断熱性を有する層である。第1リング部25は、例えばパーライトコンクリートブロックのような、断熱コンクリートブロックの配列体により形成できる。外側底部保冷層26は、例えば泡ガラスのような、断熱性の無機ブロック材の配列体により形成できる。外側底部保冷層26の上に、例えば軽量気泡コンクリートの板材を敷設しても良い。
【0014】
内槽4は、実際に液体を貯留する槽であり、SUS等の金属で構成された密閉体であって、中間槽3の内部に配置されている。内槽4は、内槽底板41、内槽側板42及び内槽屋根43を含む。内槽底板41は、中間槽底板31よりも径の小さい円板型の形状を有している。内槽側板42は、内槽底板41の周縁から立設され、円筒状の形状を有している。内槽屋根43は、内槽側板42の上端に取り付けられ、ドーム型の形状を有している。内槽4の内部には液体水素LHが貯留されている。
【0015】
中間槽底板31と内槽底板41との間には、第2レベルコンクリート層34、第2リング部35及び内側底部保冷層36が介在されている。第2レベルコンクリート層34は、中間槽底板31の上に施工されている。第2リング部35は、第2レベルコンクリート層34の周縁付近の上にリング状に配置された、強度の高いコンクリート層である。第2リング部35において内槽側板42の荷重を直接受ける箇所には、強化コンクリート層351が配置されている。内側底部保冷層36は、第2レベルコンクリート層34の上であって、第2リング部35の内側に配置された、断熱性を有する層である。例えば、第2リング部35はパーライトコンクリートブロック、内側底部保冷層36は泡ガラスブロック等で形成できる。内側底部保冷層36の上に、例えば軽量気泡コンクリートの板材を敷設しても良い。
【0016】
内槽4と中間槽3との間、並びに中間槽3と外槽2との間には、各々所定幅の間隙が設けられている。内槽4と中間槽3との間隙である第1槽間11、及び、中間槽3と外槽2との間隙である第2槽間12には、断熱材が充填されている。前記断熱材としては、パーライトやグラスウールを用いることができる。第1槽間11には、内槽4に貯留されている液体水素LHと同等の低沸点ガス、例えば水素ガスが充填される。第2槽間12には、例えば窒素ガスが充填される。
【0017】
[工事口の開設について]
三重殻タンク1の施工において、内槽4を完工した後に中間槽3の構築を開始し、中間槽3の完工後に外槽2を構築するというように、内側の槽から順次構築してゆく工法を採用すると、工期が長期化する。これに対し、外槽2、中間槽3及び内槽4を並行して構築すれば、足場やクレーンを複数の槽の構築に共用できるなど、作業の効率化が図れ、結果として工期短縮に貢献できる。この場合、工事資材や工事機器の搬入及び搬出、作業者の出入りのための工事口を、外槽側板22、中間槽側板32及び内槽側板42に開設することが必要となる。
【0018】
<第1実施形態>
図2は、工事口開設の第1実施形態を示す図であって、
図2(A)は工事口開設箇所の縦断面図、
図2(B)は水平断面図である。三重殻タンク1の施工において、工事用の出入り口として、外槽側板22の構築時に第1開口OP1(第1工事口)が、内槽側板42の構築時に第2開口OP2(第2工事口)が、中間槽側板32の構築時に第3開口OP3(第3工事口)が、それぞれ開設される。これら開口OP1、OP2、OP3は、工事用に一時的に開設される開口であるため、内側から順に各々用済み後に封止される。すなわち、内槽4の内側での作業完了後に第2開口OP2が封止され、次いで中間槽3の内側での作業完了後に第3開口OP3が封止され、しかる後、外槽2の内側での作業完了後に第1開口OP1が封止される。三重殻タンク1の施工には、上記のような工事口の開設及びその封止の工程が含まれる。
【0019】
これら工事口の開設態様について説明する。三重殻タンク1の3つの側板22、32、42を貫通して径方向内側又は外側に向かう作業動線は、作業者の出入りや資材搬入の容易性を考慮すると、直線的であることが望ましい。このため、第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3は、作業動線の直線性を確保するため、三重殻タンク1の周方向及び高さ方向において少なくとも一部が互いに重なり合う位置に開設される。つまり、円筒型の三重殻タンク1の径方向中心から見て、半径方向に延びる直線LC上に少なくとも一部が互いに重なり合うように、第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3が開設される。
【0020】
第1開口OP1は、外槽側板22の最下領域に、所定の開口高さH1、周方向の開口幅W1で開設されている。外槽側板22は、外槽底板21の外周縁付近に立設される。第1開口OP1は、外槽底板21の上面を下端縁とし、開口高さH1分だけ上方の位置に上端縁を有する矩形の開口である。
【0021】
第2開口OP2は、内槽側板42の最下領域に、所定の開口高さH2、周方向の開口幅W2で開設されている。内槽側板42は、内槽アニュラ411上に立設されている。第2開口OP2は、内槽アニュラ411の上面を下端縁とし、開口高さH2分だけ上方の位置に上端縁を有する矩形の開口である。同様に、第3開口OP3は、中間槽側板32の最下領域に、所定の開口高さH3、周方向の開口幅W3で開設されている。中間槽側板32は、中間槽アニュラ311上に立設されている。第3開口OP3は、中間槽アニュラ311の上面を下端縁とし、開口高さH3分だけ上方の位置に上端縁を有する矩形の開口である。
【0022】
三重殻タンク1は、内槽4の全体を覆うように中間槽3が設けられ、中間槽3の全体を覆うように外槽2が設けられる殻構造を有する。このため、側板の最下位置は、外槽側板22が最も低く、次に中間槽側板32が高く、内槽側板が最も高くなり、高さ方向の段差が生じる。他方、各側板の工事口は、作業性を考慮すると、
図2(A)に示すように最も地面に近い各側板22、32、42の最下領域付近に開設することが要請される。しかし、この要請に応えようとする場合、上記の段差により、第1開口OP1の下端縁と第2開口OP2の下端縁との間、第1開口OP1の下端縁と第3開口OP3の下端縁との間、並びに、第3開口OP3の下端縁と第2開口OP2の下端縁との間に、それぞれ高さ方向の段差が生じる。このような工事口の段差が、スムースな作業動線の確保に障害となり、作業に支障を来すことがある。
【0023】
この点に鑑み、
図2(A)に示すように、第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3の開口高さH1、H2、H3の関係が、次式(1)を満たすように設定されている。
H1>H3>H2 ・・・(1)
より詳細には、各開口OP1、OP2、OP3の上端縁の高さ位置を略同一に揃える一方で、下端縁を各側板22、32、42の最下位置に設定している。その結果として、上記(1)式の関係を満たす開口OP1、OP2、OP3が開設されている。
【0024】
また、
図2(B)に示すように、三重殻タンク1の周方向において、第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3は、三重殻タンク1の径方向中心に向かう直線LC上に並ぶように配置されている。開口OP1、OP2、OP3の周方向中心が直線LC上に並ぶことが望ましい。開口OP1、OP2、OP3は、その周方向の開口幅W1、W2、W3の関係が、次式(2)を満たすように設定されている。
W1>W3>W2 ・・・(2)
【0025】
各開口OP1、OP2、OP3の開口面積AR1、AR2、AR3は、各側板22、32、42の湾曲分を無視すると、開口高さと開口幅との乗算で求めることができる。上記(1)式及び(2)式の関係より、開口面積AR1、AR2、AR3は、次式(3)を満たすことになる。
AR1>AR3>AR2 ・・・(3)
【0026】
第1実施形態によれば、第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3が、三重殻タンク1の高さ方向において、最も内側の第2開口OP2の開口高さH2の幅員の範囲で、水平方向に並ぶ共通の開口幅を持っている。また、三重殻タンク1の周方向においても、3つの開口OP1、OP2、OP3は、径方向中心に向かう直線LC上で互いに重なる開口幅を有している。結果として、開口OP1、OP2、OP3は、上記(3)式の満たす開口面積AR1、AR2、AR3を有する。このため、3つの側板22、32、42の最下位置に段差が存在していても、これら側板を貫通して径方向内側又は外側に向かう水平且つ直線的な作業動線を確保することができる。従って、開口OP1、OP2、OP3を通した作業者の出入りや資材搬入を容易にすることができる。
【0027】
<第2実施形態>
図3は、工事口開設の第2実施形態を示す図であって、
図3(A)は工事口開設箇所の縦断面図、
図3(B)は水平断面図である。第2実施形態では、第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3の開口高さH1、H2、H3並びに周方向の開口幅W1、W2、W3を同一とする例を示している。すなわち、開口高さH1、H2、H3及び周方向の開口幅W1、W2、W3が、次式(11)、(21)を満たすように設定されている。その結果として、開口面積AR1、AR2、AR3は、次式(31)の関係を満たす。
H1=H3=H2 ・・・(11)
W1=W3=W2 ・・・(21)
AR1=AR3=AR2 ・・・(31)
【0028】
図3(A)に示すように、3つの開口OP1、OP2、OP3の上端縁及び下端縁の高さ位置は略同じ位置にある。つまり、3つの開口OP1、OP2、OP3は、同じ高さ位置において、各側板22、32、42に開設されている。また、
図3(B)に示すように、3つの開口OP1、OP2、OP3は三重殻タンク1の周方向の同じ位置において、各側板22、32、42に開設されている。この第2実施形態の工事口開設態様によっても、3つの側板22、32、42を貫通して径方向内側又は外側に向かう水平且つ直線的な作業動線を確保することができる。
【0029】
第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3の開口高さH1、H2、H3、開口幅W1、W2、W3及び開口面積AR1、AR2、AR3は、それぞれ上掲の(1)式~(11)式、(2)式~(21)式、(3)式~(31)式の範囲から大きく逸脱しない範囲で、適宜に設定することができる。
【0030】
例えば、第1開口OP1及び第2開口OP2に着目すると、開口高さH1、H2、開口幅W1、W2及び開口面積AR1、AR2は、次式の通り設定することができる。
H1>H2、乃至は、H1≧H2 ・・・(41)
W1>W2、乃至は、W1≧W2 ・・・(42)
AR1>AR2、乃至は、AR1≧AR2 ・・・(43)
上記(41)式~(43)式を満たすことで、外槽側板22の最下位置と内槽側板42の最下位置との間の高さ方向の段差が存在していても、当該段差を解消し、径方向へ水平且つ直線的に延びる作業動線を確保できる工事口を形成し易くなる。この場合、第3開口OP3は、作業動線を阻害しない適宜なサイズの開口高さH3、開口幅W3及び開口面積AR3を有する開口に設定すれば良い。
【0031】
また、第2開口OP2と第3開口OP3とを、同一の開口高さ、同一の周方向の開口幅、同一の開口面積に設定しても良い。すなわち、次の(12)式、(22)式及び(32)式を満たすように、3つの開口OP1、OP2、OP3を開設しても良い。
H1>H3=H2 ・・・(12)
W1>W3=W2 ・・・(22)
AR1>AR3=AR2 ・・・(32)
【0032】
まとめると、第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3の開口高さH1、H2、H3、開口幅W1、W2、W3及び開口面積AR1、AR2、AR3は、次の(13)式、(23)式及び(33)式を満たす範囲で開設すれば良い。
H1≧H3≧H2 ・・・(13)
W1≧W3≧W2 ・・・(23)
AR1≧AR3≧AR2 ・・・(33)
【0033】
<第3実施形態>
続いて、側板ピースの抜き取りにより工事口を開設する例を、第3実施形態として説明する。
図4は、工事口開設の第3実施形態を示す図であって、
図4(A)は工事口開設箇所の縦断面図、
図4(B)は水平断面図である。
図5は、第3実施形態の工事口開設態様を、内槽側板42、中間槽側板32及び外槽側板22毎に分解して示す図である。
【0034】
図1に示した三重殻タンク1の外槽側板22、内槽側板42及び中間槽側板32は、一般に、複数の側板ピースを円環状に並べて形成した環状段を複数段積み上げることにより組み立てられる。
図4及び
図5は前記環状段の積み上げの例を示している。外槽側板22は、緩く円弧状に湾曲した矩形板からなる外槽側板ピース22Pを複数枚用いて組み立てられる。詳しくは、複数枚の外槽側板ピース22Pを円環状に並べて、隣接する側板ピース22P間を溶接して一つの環状段を形成する。このような環状段を複数段積み上げることによって、外槽側板22は構築される。
【0035】
図4及び
図5に示されている外槽側板ピース22P1は、外槽底板21の直上に立設された、外槽側板22の最下段の環状段を構成する側板ピースである。外槽側板ピース22P2は、最下段の上に積まれる二段目の環状段を構成する側板ピースである。以降、外槽側板ピース22P3、22P4、・・・によって、外槽側板22の三段目、四段目、・・・の環状段が積み上げられる。外槽側板ピース22P1~P4としては、サイズが同一または近似のものが用いられる。なお、側板の上方に向かうほど液圧が低下するので、上層段の外槽側板ピース22Pとして、下層段よりも薄肉化し且つ大サイズのピースを用いるようにしても良い。また、高さ合わせ用の側板ピースや、均等割の余り埋め用の側板ピースとしては、レギュラーサイズと異なるサイズのものを用いても良い。
【0036】
内槽側板42及び中間槽側板32も、複数の側板ピースを円環状に並べて形成した環状段を複数段積み上げることにより組み立てられる。内槽側板42は、内槽アニュラ411の上に内槽側板ピース42P1を円環状に並べて、最下段の環状段が形成される。この最下段の環状段は、外槽側板22の二段目の環状段の高さ位置とほぼ同じ高さ位置にある。以降、内槽側板ピース42P2、42P3、・・・によって形成される、内槽側板42の二段目、三段目、・・・の環状段が積み上げられる。
【0037】
中間槽側板32は、中間槽アニュラ311の上に中間槽側板ピース32P1を円環状に並べて、最下段の環状段が形成される。この最下段の環状段は、中間槽側板ピース32P2で構築される中間槽側板32の二段目の環状段と、上述の内槽側板42の最下段の環状段との高さを合わせる側板ピースでもある。最下段の環状段の上に、中間槽側板ピース32P2、32P3、・・・によって形成される、中間槽側板32の二段目、三段目、・・・の環状段が積み上げられる。中間槽側板32の二段目の環状段(側板ピース32P2)は、内槽側板42の最下段の環状段(側板ピース42P1)と同じ高さ位置にあり、外槽側板22の二段目の環状段(側板ピース22P2)と略同じ高さ位置にある。
【0038】
本実施形態では、各側板22、32、42の構築に用いられる側板ピース22P、32P、42Pは、高さおよび周方向幅のサイズが同一又は近似の矩形形状を有している。これら側板ピース22P、32P、42Pのサイズは、製作が可能な一つのピースのサイズに応じて選択することができる。例えば、SUSで製作される中間槽側板ピース32Pと内槽側板ピース42Pとを同サイズとし、炭素鋼で製作される外槽側板ピース22Pはこれら側板ピース32P、42Pよりも若干小さい若しくは大きいサイズに設定することができる。もちろん、3つの側板ピース22P、32P、42Pを同一サイズとしても良いし、側板ピース32P、42Pを異なるサイズとしても良い。
【0039】
第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3は、各側板22、32、42の前記環状段を構成する複数の側板ピース22P、32P、42Pのうちの1枚又は複数枚を抜くことによって開設される。
図4及び
図5では、第1開口OP1は、外槽側板22を構成する環状段のうち、最下段及び二段目の環状段の外槽側板ピース22P1、22P2を一枚ずつ抜き出すことによって開設されている。第2開口OP2は、内槽側板42を構成する環状段のうち、最下段の環状段の内槽側板ピース42P1を一枚抜くことで開設されている。第3開口OP3は、中間槽側板32を構成する環状段のうち、最下段の高さ合わせ用環状段の上の二段目の環状段の中間槽側板ピース32Pを一枚抜くことで開設されている。
【0040】
その結果、第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3の開口高さH1、H2、H3、開口幅W1、W2、W3及び開口面積AR1、AR2、AR3は、次の関係を有している。
H1>H3=H2 ・・・(14)
W1=W3=W2 ・・・(24)
AR1≧AR3=AR2 ・・・(34)
なお、開口幅W1は、W2及びW3と若干異なっていても良い。この場合でも、第1開口OP1は外槽側板22の二段の環状段に跨がる側板ピース22P1、22P2の抜き取りにより開設されるので、上記(34)式の関係に変動はない。
【0041】
第3実施形態によれば、第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3を、側板ピース22P1、22P2、32P2、42P1の抜き取りという簡易な手法で開設できる。また、これら開口OP1、OP2、OP3の封止作業においても、先に抜き取った側板ピース22P1、22P2、32P2、42P1を各開口に嵌め込み、溶接等で固定するという簡易な手法で済む利点がある。また、第1開口OP1は、外槽側板22の最下段から二段分の側板ピース22P1、22P2を、第2開口OP2は内槽側板42の最下段の側板ピース42P1を、第3開口OP3は高さ合わせ環状段の上の二段目の側板ピース32P2を抜くことで、各々開設される。従って、3つの側板22、32、42の最下位置の段差に応じた工事口を各側板に開設でき、径方向へ水平且つ直線的に延びる作業動線を確保し易い。
【0042】
図4及び
図5では、第1開口OP1を外槽側板22の二段分の側板ピースを抜くことで開設する例を示したが、三段分又はそれ以上の側板ピースを抜いて開設しても良い。一方、第2開口OP2及び第3開口OP3については、外槽側板22の抜き取り段数より一段少ない側板ピースを抜いて開設することができる。すなわち、第1開口OP1は、外槽側板22を構成する環状段のうち、隣接する複数のN段分の側板ピース22Pを抜くことにより開設する。これに対し、第2開口OP2及び第3開口OP3は、内槽側板42及び中間槽側板32を各々構成する環状段のうち、(N-1)段分の側板ピース42P、32Pを抜くことにより開設する。これにより、開口面積が第2開口OP2及び第3開口OP3よりも大きい第1開口OP1を、抜き取る側板ピースの段数調整で簡易に開設することができる。
【0043】
図6は、第3実施形態の変形例を示す断面図である。
図4(A)に示す例と相違する点は、タンク基礎10から延出された中間槽アンカーストラップ81及び内槽アンカーストラップ82が、それぞれ中間槽側板32及び内槽側板42に連結されている点である。これにより、中間槽側板32及び内槽側板42の強度や耐震性を向上させることができる。中間槽アンカーストラップ81の下端811は、タンク基礎10に埋め込まれた第1アンカーボックス83に固定されている。一方、中間槽アンカーストラップ81の上端812は、中間槽側板32の最下段の環状段を構成する中間槽側板ピース32P1に連結されている。
【0044】
中間槽アンカーストラップ81が連結されることから、最下段の中間槽側板ピース32P1を第3開口OP3の開設のため抜き取ることが困難な場合がある。しかし、第3開口OP3は、二段目の中間槽側板ピース32P2の抜き取りによって開設されるので、最下段の中間槽側板ピース32P1の抜き取りを不要にできる。
【0045】
内槽アンカーストラップ82の下端821は、タンク基礎10に埋め込まれた第2アンカーボックス84に固定されている。一方、内槽アンカーストラップ82の上端822は、内槽側板42の最下段の環状段を構成する内槽側板ピース42P1に連結されている。内槽アンカーストラップ82が連結される内槽側板ピース42P1は、第2開口OP2の開設のため抜き取られる内槽側板ピース42P1以外のピースである。
【0046】
[三重殻タンクの施工方法]
続いて、
図1に例示した三重殻タンク1の施工方法について説明する。
図7は、上述の第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3の開設及びその封止の工程を含む、三重殻タンク1の施工方法の一実施形態を示す工程チャートである。ここでは、
図4及び
図5の第3実施形態にリンクした、側板ピースの積み上げにより三重殻タンク1が施工される例を示す。
【0047】
図7には、三重殻タンク1の建造工期中に行われる工程S1~S14と、三重殻タンク1の各部分の施工時期との関係が示されている。詳しくは、外槽2、中間槽3及び内槽4の底板21、31、41、屋根23、33、43及び側板22、32、42の各々について、主たる施工作業が実際に行われる施工期間が実線の矢印で、施工後の期間が点線で、各々
図2に示されている。側板22、32、42については、工事用の出入り口である第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3の開口タイミングを「開」、これらの封止タイミングを「閉」として付記されている。なお、工程S1~S14は、必ずしもタンク施工手順の一区切りとなる工程単位で区分されておらず、単に工事の進捗状況を「工程」として区分している場合もある。
【0048】
本実施形態の施工方法においては、外槽屋根23に中間槽屋根33及び内槽屋根43を仮固定してなる屋根連結体を地上作業にて形成し(工程S6)、当該屋根連結体をエアレージングにて浮上させる(工程S8)。
図8~
図21は、
図7に示す工程S1~S14における三重殻タンク1の施工状態を、それぞれ模式的に示す図である。
図8~
図21では、三重殻タンク1の径方向中心RCからの半分に相当する部分が断面で示されている。以下、
図3~
図16を参照して、工程S1~S14の各々を説明する。
【0049】
<工程S1>
図8は、工程S1の施工状況を示す。工程S1では、タンク基礎10の上に外槽2の一部が据え付けられる。具体的には、タンク基礎10の周縁部付近の上に、外槽底板21の一部を構成する外槽アニュラ211と、外槽側板22の一部を構成する外槽側板ピース22P1とが据え付けられる。外槽アニュラ211は、円板形の外槽底板21の外周付近の環状部分を構成し、第1リング部25の下側に位置する部分となる。外槽アニュラ211は、耐荷重性を向上させるため、外槽底板21の他の部分より厚い板厚を有している。
図8には、外槽側板22の最下段の環状段を構成する外槽側板ピース22P1が示されている。
【0050】
<工程S2>
図9は、工程S2の施工状況を示している。工程S2では、外槽底板21及び外槽側板22の施工が行われる。外槽底板21については、外槽アニュラ211の径方向内側部分が敷設される。この内側部分は、外側底部保冷層26の直下に位置する部分である。
図9では記載を省いているが、敷設後の外槽底板21の上には、
図1で示した第1レベルコンクリート層24が打設される。先ず、外槽アニュラ211の上に第1レベルコンクリート層24の一部が打設される。その後、内槽屋根43及び中間槽屋根33が構築されて雨水の浸入の怖れが解消された後に、外槽アニュラ211の内側部分に第1レベルコンクリート層24の残部が打設される。
【0051】
外槽側板22については、最下段の環状段を構成する外槽側板ピース22P1の上に、二段目の環状段を構成する外槽側板ピース22P2が据え付けられる。なお、二段目の環状段の構築後に、最下段の環状段には第1開口OP1(第1工事口)の下半分が開設される。既述の通り、第1開口OP1は、外槽側板ピース22P1の抜き取りによって開設される。具体的には、複数の外槽側板ピース22P1を環状に並べて一旦環状段を形成した後、第1開口OP1の位置に対応する外槽側板ピース22P1だけは隣接ピースと溶接せず、これを当該環状段から抜き取る。
【0052】
外槽底板21の径方向中心RC付近には、中央屋根架台51が設置される。中央屋根架台51は、エアレージング前にドーム型の内槽屋根43を地上サイドで構築可能とするための架台である。
【0053】
<工程S3>
図10は、工程S3の施工状況を示している。工程S3では、外槽側板22の施工が継続されると共に、内槽屋根43の構築が開始される。外槽側板22については、二段目の環状段を構成する外槽側板ピース22P2の上に、三段目の環状段を構成する外槽側板ピース22P3が据え付けられる。上記と同様に、三段目の環状段の構築後に、二段目の環状段の外槽側板ピース22P2の抜き取りにより、第1開口OP1の上半分が開設される。抜かれる外槽側板ピース22P2は、最下段の環状段において第1開口OP1の開設のために抜いた外槽側板ピース22P1の直上に位置するピースである。
【0054】
内槽屋根43については、先の工程S2で設置した中央屋根架台51の上に、内槽屋根43の径方向中央付近を構成する内槽屋根ピース43Pが据え付けられる。一方、外槽底板21の径方向外周付近の上面には、外周屋根架台52が設置される。外周屋根架台52は、内槽屋根43及び中間槽屋根33の外周下縁を仮支持する架台である。外周屋根架台52の上面には、内槽ナックルプレート44が据え付けられる。内槽ナックルプレート44は、内槽側板42の上端と内槽屋根43の外周下縁とを繋ぐプレートである。
【0055】
<工程S4>
図11は、工程S4の施工状況を示している。工程S4では、内槽屋根43の構築が継続され、中間槽屋根33の構築が開始される。内槽屋根43については、工程S3で設置した径方向中央の内槽屋根ピース43Pと内槽ナックルプレート44との間を、地上作業で予め組み立てた内槽屋根ブロックで繋ぐことで、最終的にドーム型の内槽屋根43が形成される。前記内槽屋根ブロックは、支持フレームとなる屋根骨と、この屋根骨に取り付けられた複数枚の屋根プレートとからなる。内槽屋根43の外周縁43Eは、内槽ナックルプレート44の上端に固定される。この時点で、内槽屋根43が外周屋根架台52で支持されて自立した状態となるので、中央屋根架台51が撤去される。
【0056】
中間槽屋根33については、工程S3で完工した内槽屋根43の径方向中央部上に、中間槽屋根33の径方向中央付近を構成する中間槽屋根ピース33Pが据え付けられる。この据え付けに際しては、中間槽屋根サポート61が用いられる。中間槽屋根サポート61は、内槽屋根43と中間槽屋根33との間に介在され、両者を所定間隔を置いて仮固定する。中間槽屋根サポート61としては、H鋼などの剛性を有する部材を用いることができる。前記仮固定は、例えば、H鋼の下端部を内槽屋根43に所定の当て板を介して溶接して固定し、H鋼の上端部に中間槽屋根ピース33Pを載置すると共に固定する態様で実施することができる。
【0057】
外槽側板22の構築も適時継続される。
図11では、四段目の環状段を構成する外槽側板ピース22P4が据え付けられた状態を示している。また、外周屋根架台52の上面には、中間槽ナックルプレート37が据え付けられる。中間槽ナックルプレート37は、中間槽側板32の上端と中間槽屋根33の外周下縁とを繋ぐプレートである。さらに、外槽底板21の径方向外周付近の上面に、第1リング部25を構成するブロックが敷設される。
【0058】
<工程S5>
図12は、工程S5の施工状況を示している。工程S5では、中間槽屋根33の構築が継続され、外槽屋根23の構築が開始される。また、中間槽底板31及び中間槽側板32の構築が開始される。中間槽屋根33については、工程S4で設置した径方向中央の中間槽屋根ピース33Pと中間槽ナックルプレート37との間を、地上作業で予め組み立てた中間槽屋根ブロックで繋ぐことで、最終的にドーム型の中間槽屋根33が形成される。前記中間槽屋根ブロックは、上述の内槽屋根ブロックと同様に、屋根骨と複数枚の屋根プレートとからなる。この中間槽屋根ブロックの設置の際、中間槽屋根サポート61が中間槽屋根33と内槽屋根43との間の適所に配設され、両者が仮固定される。中間槽屋根33の外周縁33Eは、中間槽ナックルプレート37の上端に固定される。
【0059】
外槽屋根23については、工程S4で完工した中間槽屋根33の径方向中央部上に、外槽屋根23の径方向中央付近を構成する外槽屋根ピース23Pが据え付けられる。この据え付けに際しては、外槽屋根中央サポート62が用いられる。外槽屋根中央サポート62は、中間槽屋根33と径方向中央の外槽屋根ピース23Pとの間に介在され、両者を所定間隔を置いて仮固定する。外槽屋根中央サポート62としては、H鋼や鋼材をトラス構造に組んだ架台などを用いることができる。前記仮固定は、H鋼等の下端部を中間槽屋根33に所定の当て板を介して溶接して固定し、H鋼等の上端部に外槽屋根ピース23Pを載置して固定する態様で実施することができる。
【0060】
先の工程S4で設置した第1リング部25の上には、中間槽底板31の一部を構成する中間槽アニュラ311と、中間槽側板32の最下段の環状段を構成する中間槽側板ピース32P1とが据え付けられる。中間槽アニュラ311は、円板形の中間槽底板31の外周付近の環状部分であって、中間槽底板31の他の部分より厚い板厚を有している。中間槽側板ピース32P1は、中間槽アニュラ311の径方向外側の周縁から鉛直上方へ立設されている。上述の通り、中間槽側板ピース32P1は、中間槽側板32の二段目の環状段と、内槽側板42の最下段の環状段との高さを合わせる側板ピースでもある。
【0061】
<工程S6>
図13は、工程S6の施工状況を示している。工程S6では、外槽屋根23の構築が継続され、最終的に3つの屋根が一体化された屋根連結体20が形成される。また、外槽側板22の所定高さまでの据え付けが行われる。外槽屋根23については、工程S5で設置した径方向中央の外槽屋根ピース23Pに対して、地上作業で予め組み立てた外槽屋根ブロックを繋ぐことで、最終的にドーム型の外槽屋根23が形成される。この延伸の際、H鋼等からなる外槽屋根周辺サポート63が、中間槽屋根33と外槽屋根23との間の適所に配設され、両者が仮固定される。
【0062】
外槽屋根23の構築が完了した時点で、屋根連結体20の形成が完了した状態となる。すなわち、屋根連結体20は、内槽屋根43の上に中間槽屋根33が中間槽屋根サポート61によって仮固定され、中間槽屋根33の上に外槽屋根23が外槽屋根中央サポート62及び外槽屋根周辺サポート63によって仮固定されることで形成されている。このような屋根連結体20の形成により、3つの屋根を一体的にエアレージングさせることが可能となる。上述のサポート61、62、63は、エアレージング完了までは上段の屋根の支持部材となるが、エアレージング後は下段の屋根の懸垂部材となる。
【0063】
なお、屋根連結体20の形成状態において、内槽屋根43と中間槽屋根33との間、並びに、中間槽屋根33と外槽屋根23との間隙は、完工後の三重殻タンク1における両者間の間隙よりもやや狭く設定されている。これは、エアレージング後に実行される内槽屋根43の内槽側板42への固定作業、並びに、中間槽屋根33の中間槽側板32への固定作業を容易化するためである。
【0064】
外槽側板22については、側板ピースで形成される環状段が所定の段数だけ積み上げられることで、構築が完工する。これにより、屋根連結体20の周囲に所定高さの外槽側板22が構築されたことになり、エアレージングの準備が可能な状態となる。外槽側板22の頂部22Tには、外周歩廊27が据え付けられる。また、中間槽アニュラ311の上には、ここでは図示を省いている第2レベルコンクリート層34の一部が打設され、さらに第2リング部35を構成するブロックが敷設される。
【0065】
<工程S7>
図14は、工程S7の施工状況を示している。工程S7では、主にエアレージングの準備作業が行われる。密封空間の形成のため、外槽屋根23の外周縁23Eには、シール材28を取り付けるシール処理が施される。シール材28は、外周縁23Eと外槽側板22の内面との間の隙間を封止する。外槽側板22の外側には、エアレージング用のエアを供給するブロワー7が準備される。ブロワー7のエア送り出し口に送風ダクトが接続され、この送風ダクトが第1開口OP1を通して外槽側板22の内側に引き込まれる。なお、第1開口OP1についても前記送風ダクトの周囲を封止するシール処理が施される。外槽底板21は工程S7の前にすでに完工しているので、底面部分のシール処理は特に不要である。従って、この時点で、外槽底板21、外槽側板22及び外槽屋根23で囲まれる空間が密閉化される。
【0066】
以上のエアレージング準備作業と並行して、第2リング部35の上面に内槽アニュラ411が据え付けられる。内槽アニュラ411は、円板形の内槽底板41の外周付近の環状部分である。
【0067】
<工程S8>
図15は、工程S8のエアレージングの実施後の状態を示している。エアレージングの実行に際しては、
図14に示したブロワー7が稼働され、外槽底板21、外槽側板22及び外槽屋根23で囲まれる密閉空間にエアが供給される。エア供給により前記密閉空間内の空気圧が上昇し、その圧力で屋根連結体20が浮上する。この際、外槽側板22は浮上する屋根連結体20のガイドとしての役目を果たす。
【0068】
エアレージングにより直接的に浮上するのは外槽屋根23である。しかし、内槽屋根43及び中間槽屋根33は、仮設のサポート61、62、63にて予め外槽屋根23と一体化されている。従って、内槽屋根43及び中間槽屋根33も、外槽屋根23に吊り止めされた態様で、一体的に浮上する。つまり、事前に屋根連結体20が形成されているので、三重殻構造を形成する3つの屋根23、33、43を、1回のエアレージングで一気に浮上させることができる。なお、エアレージングの際、バランスワイヤーを用いて屋根連結体20の浮上姿勢が制御される。
【0069】
エアレージング後、外槽屋根23の外周縁23Eが外槽側板22の上端に固定される。この時点では屋根連結体20の仮止めは解除されず、内槽屋根43及び中間槽屋根33は、外槽屋根23に吊られた状態のままである。エアレージング用の設備は除去される。すなわち、外槽屋根23の外周縁23E付近に取り付けられたシール材28が取り外され、ブロワー7及び送風ダクトが撤去される。
【0070】
<工程S9>
図16は、工程S9の施工状況を示している。工程S9では、内槽側板42の構築が開始される。内槽アニュラ411の上に、内槽側板42の最下段の環状段を構成する内槽側板ピース42P1が据え付けられる。内槽側板ピース42P1は、内槽アニュラ411の径方向外側の周縁から鉛直上方へ立設されている。
図16では、最下段の内槽側板ピース42P1の上に、二段目の環状段を構成する内槽側板ピース42P2が据え付けられている状態を示している。
【0071】
内槽側板42の構築時に、工事口として第2開口OP2(第2工事口)が設けられる。第2開口OP2は、最下段の環状段を構成している複数の内槽側板ピース42P1のうちの1枚又は複数枚を抜くことによって開設される。
図4及び
図5に基づき説明した通り、第2開口OP2の開設位置は、外槽側板22に開設される第1開口OP1と、周方向及び高さ方向に重なる位置である。
【0072】
<工程S10>
図17は、工程S10の施工状況を示している。工程S10では、内槽側板42及び中間槽側板32が構築される。内槽側板42については、二段目の環状段を構成する内槽側板ピース42P2の上に、三段目の環状段を構成する内槽側板ピース42P3が据え付けられる。さらにその上に四段目の内槽側板ピース42P4が据え付けられるというように、側板高さが順次嵩上げされてゆく。
【0073】
同様に、中間槽側板32についても、据え付け済の最下段の中間槽側板ピース32P1の上に、二段目、三段目、四段目の環状段を構成する中間槽側板ピース32P2、32P3、32P4が順次積まれてゆく。本実施形態では、内槽側板ピース42Pnと中間槽側板ピース32Pn(高さ合わせの側板ピース32P1は除く)とは、同じ高さ幅を有している。従って、
図17に記載されている内槽側板ピース42P1、42P2、43P3と、中間槽側板ピース32P2、32P3、32P4とは、それぞれ同じ高さ位置にある。
【0074】
工程S10において、内槽側板42及び中間槽側板32のいずれか一方の環状段を先に積み上げた後、他方の環状段を積み上げるようにしても良いが、内槽側板42及び中間槽側板32の環状段を同時並行的に積み上げることが望ましい。例えば、内槽側板42の二段目の内槽側板ピース42P2を積んだ後に中間槽側板32の三段目の中間槽側板ピース32P3を積み、続いて内槽側板42の三段目の内槽側板ピース42P3を積む。このような構築手法を採用すれば、内槽側板42及び中間槽側板32の構築に際し、足場を共用できるなど、作業の効率化を図ることができる。また、側板ピースのクレーン吊り作業や組み付け作業の便宜上、径方向内側に位置する内槽側板ピース42Pnの積み上げを、中間槽側板ピース32Pnの積み上げよりも先行させることが望ましい。
【0075】
中間槽側板32の構築時にも、工事口として第3開口OP3(第3工事口)が設けられる。第3開口OP3は、二段目の環状段を構成している中間槽側板ピース32P2のうちの1枚又は複数枚を抜くことによって開設される。
図7のチャートに「開」と付記している通り、工程S10の時点で、内槽側板42には第2開口OP2が、中間槽側板32には第3開口OP3が開設される。これにより、
図17中に矢印で示すように、第1開口OP1、第2開口OP2及び第3開口OP3を通した、3つの側板22、32、42を貫通する水平且つ直線的な作業動線が確保される。
【0076】
工程S10では、さらに外槽底板21の上に、
図17では図略の第1レベルコンクリート層24と、外側底部保冷層26とが順次敷設される。第1レベルコンクリート層24は、工程S2で外槽アニュラ211上の部分が施工済であるので、残部が施工される。既述の通り、外側底部保冷層26は、例えば泡ガラス等の断熱性ブロック材を、第1リング部25の内側に敷き詰めることで構築される。
【0077】
<工程S11>
図18は、工程S11の施工状況を示している。工程S11では、内槽側板42及び中間槽側板32の構築継続、内槽側板42と内槽屋根43との固定、並びに中間槽底板31の敷設が行われる。内槽側板42及び中間槽側板32については、各々の環状段の中段から上段の据え付けが行われる。
図18では、内槽側板42は、中間槽側板32に一段だけ先んじて、最上段の環状段を構成する内槽側板ピース42PTが組み立てられた状態を示している。
【0078】
最上段の内槽側板ピース42PTの据え付け後、内槽屋根43の外周縁を内槽側板42の上端に固定する作業が実施される。この固定作業に先立ち、中間槽屋根33と内槽屋根43とを繋いでいる中間槽屋根サポート61を、第1ジャッキ64に置換する吊り換え作業が行われる。エアレージング後、屋根連結体20の仮固定が解除されずに外槽屋根23が外槽側板22に固定された状態では、内槽屋根43は正規の高さ位置よりも高い位置で、中間槽屋根サポート61にて中間槽屋根33に吊り止めされている。これは、内槽屋根43を内槽側板42に接続する際の調整空間を確保するためである。
【0079】
第1ジャッキ64は、中間槽屋根33と内槽屋根43との間の適所に配置され、前記吊り換え後は内槽屋根43を昇降可能に吊り支持している。前記調整空間の分だけ第1ジャッキ64で内槽屋根43をジャッキダウンさせながら、内槽ナックルプレート44の下端と最上段の内槽側板ピース42PTの上端との位置合わせが行われる。位置合わせ後、両者が固定され、内槽4が略完工する。
【0080】
さらに工程S11では、外側底部保冷層26の上に中間槽底板31の残部が敷設される。中間槽底板31については、外周部分を構成する中間槽アニュラ311を据え付け済みであるので、その内側部分の中間槽底板31が敷設される。
【0081】
<工程S12>
図19は、工程S12の施工状況を示している。工程S12では、中間槽側板32と中間槽屋根33との固定と、内側底部保冷層36の敷設とが行われる。内槽屋根43と同様に、中間槽屋根33の固定にもジャッキダウン方式が採用される。内槽屋根43が内槽側板42に固定された後、中間槽側板32の最上段の環状段を構成する中間槽側板ピース32PTが据え付けられる。一方、外槽屋根23と中間槽屋根33とを繋いでいる外槽屋根中央サポート62及び外槽屋根周辺サポート63を、第2ジャッキ65に置換する吊り換え作業が行われる。中間槽屋根33も、前記調整空間の分だけ正規の高さ位置よりも高い位置で外槽屋根23に吊り止めされている。
【0082】
第2ジャッキ65は、外槽屋根23と中間槽屋根33との間の適所に配置され、前記吊り換え後は中間槽屋根33を昇降可能に吊り支持している。前記調整空間の分だけ第2ジャッキ65で中間槽屋根33をジャッキダウンさせながら、中間槽ナックルプレート37の下端と最上段の中間槽屋根ピース33PTの上端との位置合わせが行われる。位置合わせ後、両者が固定され、中間槽3が略完工する。
【0083】
工程S12では、さらに中間槽底板31(第2レベルコンクリート層34)の上に内側底部保冷層36が敷設される。内側底部保冷層36は、例えば泡ガラス等の断熱性ブロック材を、第2リング部35の内側に敷き詰めることで構築される。
【0084】
<工程S13>
図20は、工程S13の施工状況を示している。工程S13では、内槽底板41の敷設、第2開口OP2の封止、デッキの据え付けなどが行われる。内槽底板41は、内側底部保冷層36の上に敷設される。内槽底板41については、外周部分を構成する内槽アニュラ411を据え付け済みであるので、その内側部分の内槽底板41が敷設される。
【0085】
内槽4の内側での作業が完了し、内槽4の内側に設置された足場などを撤去した後、内槽側板42の第2開口OP2が封止される。この封止作業は、工程S9において最下段の環状段から抜き出した内槽側板ピース42P1を第2開口OP2に嵌め込むと共に、当該内槽側板ピース42P1を周囲の側板ピースに溶接する作業である。
図20では、第2開口OP2が封止された状態が示されている。
【0086】
外槽屋根23の上には、肩部デッキ231及び頂部デッキ232が据え付けられる。肩部デッキ231は、外槽屋根23の径方向外周部に配置される。頂部デッキ232は、外槽屋根23の径方向中央に配置される。なお、第1槽間11及び第2槽間12に断熱材を充填する作業や、各種の配管や付属品の取り付け等の作業も行われる。
【0087】
<工程S14>
図21は、工程S14の施工状況を示している。工程S14では、第3開口OP3及び第1開口OP1の封止が行われる。中間槽側板32の第3開口OP3は、中間槽3の内側での作業が完了し、中間槽3の内側に設置された足場などを撤去した後に封止される。この封止作業では、工程S10において抜き出した中間槽側板ピース32P2を第3開口OP3に嵌め込むと共に、当該中間槽側板ピース32P2を周囲の側板ピースに溶接する。
【0088】
続いて、外槽2の内側での作業が完了し、外槽2の内側に設置された足場などを撤去した後、外槽側板22の第1開口OP1が封止される。この封止作業では、工程S2、S3において抜き出した外槽側板ピース22P1、22P2を、第1開口OP1を塞ぐように嵌め込むと共に、これらを溶接する。以上の通り、工事口は、内側の第2開口OP2、中間の第3開口OP3及び外側の第1開口OP1の順に、各側板内での作業が完了したら順次封止される。
【0089】
[変形実施形態]
以上、本開示に係る三重殻タンクの施工方法の実施形態を説明したが、本開示は上掲の実施形態に何ら限定されない。例えば、上述の三重殻タンクの施工方法について、次のような変形実施形態を取ることができる。
【0090】
(1)上述の三重殻タンク1の近傍に、所要の建造物や設備を付設しても良い。例えば、三重殻タンク1の周囲に、災害時等にタンク内の液体が漏液した際の拡散を抑止する防液堤を立設しても良い。防液堤は、例えばPC(プレストレストコンクリート)にて構築することができる。防液堤は、金属製の外槽2と一体的に構築されても良い。具体的には、外槽側板22の外周面に、防液堤を構成するPCが密接した状態で構築された態様としても良い。この場合、屋根連結体20のエアレージングの際にガイドとなる外槽側板22の強度を高めることができる。
【0091】
(2)内槽屋根43に、内槽4の内部空間と第1槽間11の空間とを連通させる連通管を取り付けるようにしても良い。この変形例によれば、内槽4に貯留されている液体水素LHから気化した水素ガスを、第1槽間11に流通させることができる。つまり、貯留する液体水素LHを利用して、保冷効果を高めることができる。
【0092】
(3)上記実施形態では、内槽屋根43、中間槽屋根33及び外槽屋根23の3つの屋根を連結した屋根連結体20を、外槽側板22をガイドとしてエアレージングする例(外槽エアレージング)を例示した。これに代えて、内槽屋根43と中間槽屋根33との2つの屋根を連結した屋根連結体を、中間槽側板32をガイドとしてエアレージングする(中間槽エアレージング)、若しくは、内槽側板42をガイドとしてエアレージングする(内槽エアレージング)ようにしても良い。
【0093】
[本開示のまとめ]
以上説明した具体的実施形態には、以下の構成を有する開示が含まれている。
【0094】
本開示に係る三重殻タンクの施工方法は、それぞれ屋根と側板とを有する内槽、中間槽及び外槽を備えた三重殻タンクの施工方法であって、工事用の出入り口として、外槽側板の構築時に当該外槽側板に第1工事口を、内槽側板の構築時に当該内槽側板に第2工事口を、中間槽側板の構築時に当該中間槽側板に第3工事口をそれぞれ開設し、前記内槽の内側での作業完了後に前記第2工事口を封止し、次いで前記中間槽の内側での作業完了後に前記第3工事口を封止し、しかる後、前記外槽の内側での作業完了後に前記第1工事口を封止する工程を含み、前記第1工事口、前記第2工事口及び前記第3工事口は、当該三重殻タンクの周方向及び高さ方向において少なくとも一部が互いに重なり合う位置に開設され、前記第1工事口の開口面積をAR1、前記第2工事口の開口面積をAR2とするとき、
AR1≧AR2
の関係を満たすように前記第1工事口及び前記第2工事口を開設する。
【0095】
この施工方法によれば、第1工事口、第2工事口及び第3工事口が、三重殻タンクの周方向及び高さ方向において少なくとも一部が互いに重なり合う位置に開設される。このため、三重殻タンクの3つの側壁を貫通して径方向内側又は外側に向かう作業動線の直線性を確保することができ、作業者の出入りや資材搬入を容易にすることができる。また、AR1≧AR2の関係を満たすように、前記第1工事口及び前記第2工事口が開設される。三重殻タンクは、内槽の全体を覆うように中間槽が設けられ、当該中間槽の全体を覆うように外槽が設けられる殻構造を有する。このため、側板の最下位置は、外槽側板が最も低く、内槽側板が最も高くなり、前記第1工事口の下端縁と前記第2工事口の下端縁とに高さ方向の段差が生じ得る。このような工事口の段差が、作業に支障を来すことがある。しかし、AR1≧AR2の関係、望ましくはAR1>AR2の関係を満たすことで、前記段差の影響を軽減可能な工事口を形成することができる。
【0096】
上記の三重殻タンクの施工方法において、前記第3工事口の開口面積をAR3とするとき、
AR1≧AR3≧AR2
の関係を満たすように前記第1工事口、前記第2工事口及び前記第3工事口を開設することが望ましい。
【0097】
外槽と中間槽との関係においても、中間槽側板の最下位置は外槽側板の最下位置よりも高くなるので、前記第1工事口の下端縁と前記第3工事口の下端縁とに高さ方向の段差が生じ得る。従って、AR1≧AR3≧AR2の関係、望ましくはAR1>AR3≧AR2、乃至はAR1>AR3>AR2の関係を満たすことで、高さ方向の段差の影響を軽減した、第1工事口、第2工事口及び第3工事口を開設することができる。
【0098】
上記の三重殻タンクの施工方法において、前記第1工事口及び前記第2工事口の開口高さを、それぞれH1、H2とするとき、
H1≧H2
の関係を満たすように前記第1工事口及び前記第2工事口を開設することが望ましい。
【0099】
この施工方法によれば、第1工事口の上下方向の開口幅が、第2工事口の上下方向の開口幅と同等又は幅広に設定される。このため、外槽側板の最下位置と内槽側板の最下位置との間の高さ方向の段差が存在していても、当該段差を解消し、径方向へ水平且つ直線的に延びる作業動線を確保できる工事口を形成し易くなる。
【0100】
上記の三重殻タンクの施工方法において、より望ましくは、前記第3工事口の開口高さをH3とするとき、
H1≧H3≧H2
の関係を満たすように前記第1工事口、前記第2工事口及び前記第3工事口を開設する。
【0101】
この施工方法によれば、3つの側板の最下位置に高さ方向の段差が存在していても、当該段差を解消し、3つの側板に径方向へ水平且つ直線的に延びる作業動線を確保できる工事口を形成し易くなる。
【0102】
上記の三重殻タンクの施工方法において、前記外槽側板、前記内槽側板及び中間槽側板は、複数の側板ピースを円環状に並べて形成した環状段を複数段積み上げることにより組み立てられ、前記第1工事口、前記第2工事口及び前記第3工事口は、前記環状段を構成する複数の前記側板ピースのうちの1枚又は複数枚を抜くことによって開設されることが望ましい。
【0103】
この施工方法によれば、第1工事口、第2工事口及び第3工事口を、側板ピースの抜き取りという簡易な手法で開設できる。また、これら工事口の封止作業においても、先に抜き取った前記側板ピースを各工事口に嵌め込み、溶接等で固定するという簡易な手法で済む利点がある。
【0104】
上記の三重殻タンクの施工方法において、前記側板ピースは、サイズが同一又は近似の矩形形状を有し、前記第1工事口は、前記外槽側板を構成する環状段のうち、隣接する複数のN段分の前記側板ピースを抜くことにより開設され、前記第2工事口及び前記第3工事口は、前記内槽側板及び前記中間槽側板を各々構成する環状段のうち、(N-1)段分の前記側板ピースを抜くことにより開設されることが望ましい。
【0105】
この施工方法によれば、外槽側板についてはN段分の側板ピースを抜き取ることで第1工事口が開設される。これに対し、内槽側板及び中間槽側板に開設される第2工事口及び第3工事口は、外槽側板よりも一段少ない(N-1)段分の側板ピースを抜き取ることで開設される。従って、開口面積が第2工事口及び第3工事口よりも大きい第1工事口を、抜き取る側板ピースの段数で簡易に開設することができる。
【0106】
上記の三重殻タンクの施工方法において、前記側板ピースは、サイズが同一又は近似の矩形形状を有し、前記第1工事口は、前記外槽側板を構成する環状段のうち、最下段の環状段及び二段目の環状段の前記側板ピースを抜くことにより開設され、前記第2工事口は、前記内槽側板を構成する環状段のうち、最下段の環状段の前記側板ピースを抜くことにより開設され、前記第3工事口は、前記中間槽側板を構成する環状段のうち、最下段の高さ合わせ環状段の上の二段目の環状段の前記側板ピースを抜くことにより開設されることが望ましい。
【0107】
この施工方法によれば、第1工事口は、外槽側板の最下段から二段分の側板ピースを抜くことで開設される。また、第2工事口は内槽側板の最下段の側板ピースを、第3工事口は高さ合わせ用環状段の上の二段目の側板ピースを抜くことで開設される。従って、3つの側板の最下位置の段差に応じた工事口を各側板に開設でき、径方向へ水平且つ直線的に延びる作業動線を確保し易い。
【0108】
上記の三重殻タンクの施工方法において、前記中間槽側板の前記高さ合わせ環状段には、タンク基礎から延出されたアンカーストラップの上端が連結されていることが望ましい。これにより、タンク基礎と中間槽側板の最下段の環状段とがアンカーストラップで連結されるので、中間槽側板の強度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0109】
1 三重殻タンク
2 外槽
20 屋根連結体
21 外槽底板
22 外槽側板
22P 外槽側板ピース(側板ピース)
23 外槽屋根
3 中間槽
31 中間槽底板
32 中間槽側板
32P 中間槽側板ピース(側板ピース)
33 中間槽屋根
4 内槽
41 内槽底板
42 内槽側板
42P 内槽側板ピース(側板ピース)
43 内槽屋根
81 中間槽アンカーストラップ
OP1 第1開口(第1工事口)
OP2 第2開口(第2工事口)
OP3 第3開口(第3工事口)