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特開2023-96668炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法
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  • 特開-炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法 図1
  • 特開-炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096668
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 40/02 20060101AFI20230630BHJP
   C04B 18/16 20230101ALI20230630BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20230630BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20230630BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20230630BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20230630BHJP
   B28B 11/24 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C04B40/02
C04B18/16
C04B28/02
C04B14/28
C04B24/26 E
C04B24/38 C
B28B11/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212582
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】関 健吾
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢三
(72)【発明者】
【氏名】向 俊成
(72)【発明者】
【氏名】取違 剛
(72)【発明者】
【氏名】小野 かよこ
【テーマコード(参考)】
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
4G055AA01
4G055BA02
4G112MD01
4G112PA10
4G112PA30
4G112PB31
4G112PB40
(57)【要約】
【課題】従来に比べて炭酸ガスの排出量を削減できる炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法を提供する。
【解決手段】炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法は、コンクリートスラッジを固液分離して得られるスラッジ液に対して炭酸ガスを供給し、前記スラッジ液中に析出させると共に前記炭酸ガスを固定化させた軽質炭酸カルシウムを含む、軽質炭酸カルシウム含有スラリーを製造するスラリー製造工程と、前記軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を測定して調整する含水率調整工程と、前記軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を調整した含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーと、セメントと、骨材と、前記軽質炭酸カルシウムの沈殿を抑制するための沈殿抑制剤とを含み、含水率が所定範囲内である、水硬性流動化物を調製する水硬性流動化物調製工程と、前記水硬性流動化物を打設して硬化させ、炭酸ガス固定化コンクリートを得る硬化工程とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートスラッジを固液分離して得られるスラッジ液に対して炭酸ガスを供給し、前記スラッジ液中に析出させると共に前記炭酸ガスを固定化させた軽質炭酸カルシウムを含む、軽質炭酸カルシウム含有スラリーを製造するスラリー製造工程と、
前記軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を測定して調整する含水率調整工程と、
前記軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を調整した含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーと、セメントと、骨材と、前記軽質炭酸カルシウムの沈殿を抑制するための沈殿抑制剤とを含み、含水率が所定範囲内である、水硬性流動化物を調製する水硬性流動化物調製工程と、
前記水硬性流動化物を打設して硬化させ、炭酸ガス固定化コンクリートを得る硬化工程と
を有する、炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法。
【請求項2】
前記沈殿抑制剤は、ポリアクリル酸塩、増粘剤、AE剤、減水剤およびアルカリからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法。
【請求項3】
前記含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率は、39%以上98%以下である、請求項1または2に記載の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法。
【請求項4】
前記含水率調整工程において、前記軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を非接触で測定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに使用されているセメントは、製造時に原料の脱炭酸および焼成時の燃料より多量の炭酸ガス(二酸化炭素、CO)を排出する。近年の気候変動抑制に対する関心の高まりを受けて、コンクリートの製造時における炭酸ガスの排出量を大きく削減することが求められている。
【0003】
炭酸ガスの排出量を削減する方法の一つとして、高炉水砕スラグ(以下、単に高炉スラグ微粉末という)をセメントに混合した混合セメントが広く用いられている。しかしながら、高炉スラグ微粉末の量を増加させると、硬化が遅くなり脱型までの期間が長くなることや、十分な強度を得るために長時間の湿潤養生が必要になる。このため、工期やコストの面での課題が残る。
【0004】
また、特許文献1には、コンクリートの遠心成形工程で発生するコンクリートスラッジをスラッジケーキとスラッジ液とに分離するスラッジ分離装置と、スラッジ分離装置で分離されたスラッジ液から炭酸カルシウムを析出させる析出反応装置と、炭酸カルシウムが析出した析出液から炭酸カルシウムを分離する炭酸カルシウム分離装置とを有するコンクリートスラッジ処理装置が記載されている。析出反応装置では、二酸化炭素をスラッジ液に供給することで、炭酸カルシウムが析出される。そのため、特許文献1のコンクリートスラッジ処理装置で得られた炭酸カルシウムをコンクリートの原料として用いることによって、二酸化炭素の排出量を削減できる。
【0005】
ただし、特許文献1では、炭酸カルシウムを析出した析出液に対して脱水処理および加熱処理を行い、水分を除去することによって、炭酸カルシウムの粉末を得る。この際、加熱処理を行うことから、炭酸カルシウムを得るためには、相当量の炭酸ガスを排出してしまう。そのため、特許文献1の技術によって炭酸ガスの排出量を削減できるものの、炭酸ガス排出量をさらに削減する余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4892520号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来に比べて炭酸ガスの排出量を削減できる炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] コンクリートスラッジを固液分離して得られるスラッジ液に対して炭酸ガスを供給し、前記スラッジ液中に析出させると共に前記炭酸ガスを固定化させた軽質炭酸カルシウムを含む、軽質炭酸カルシウム含有スラリーを製造するスラリー製造工程と、前記軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を測定して調整する含水率調整工程と、前記軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を調整した含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーと、セメントと、骨材と、前記軽質炭酸カルシウムの沈殿を抑制するための沈殿抑制剤とを含み、含水率が所定範囲内である、水硬性流動化物を調製する水硬性流動化物調製工程と、前記水硬性流動化物を打設して硬化させ、炭酸ガス固定化コンクリートを得る硬化工程とを有する、炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法。
[2] 前記沈殿抑制剤は、ポリアクリル酸塩、増粘剤、AE剤、減水剤およびアルカリからなる群より選択される1種以上である、上記[1]に記載の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法。
[3] 前記含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率は、39%以上98%以下である、上記[1]または[2]に記載の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法。
[4] 前記含水率調整工程において、前記軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を非接触で測定する、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来に比べて炭酸ガスの排出量を削減できる炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、スラリー製造工程で用いられる軽質炭酸カルシウム含有スラリー製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
本発明の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法は、コンクリートスラッジを固液分離して得られるスラッジ液に対して炭酸ガスを供給し、前記スラッジ液中に析出させると共に前記炭酸ガスを固定化させた軽質炭酸カルシウムを含む、軽質炭酸カルシウム含有スラリーを製造するスラリー製造工程と、前記軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を測定して調整する含水率調整工程と、前記軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を調整した含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーと、セメントと、骨材と、前記軽質炭酸カルシウムの沈殿を抑制するための沈殿抑制剤とを含み、含水率が所定範囲内である、水硬性流動化物を調製する水硬性流動化物調製工程と、前記水硬性流動化物を打設して硬化させ、炭酸ガス固定化コンクリートを得る硬化工程とを有する。
【0013】
図1は、実施形態の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法の一例を示すフローチャートである。図2は、スラリー製造工程で用いられる軽質炭酸カルシウム含有スラリー製造装置の一例を示す概略図である。図1に示すように、実施形態の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法は、スラリー製造工程S10と、含水率調整工程S20と、水硬性流動化物調製工程S30と、硬化工程S40とを有する。
【0014】
炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法を構成するスラリー製造工程S10では、コンクリートスラッジを固液分離して得られるスラッジ液に対して炭酸ガス(二酸化炭素、CO)を供給して、スラッジ液中に軽質炭酸カルシウムを析出させる。スラッジ液中に析出した軽質炭酸カルシウムは、スラッジ液に供給された炭酸ガスを固定化する。こうして、炭酸ガスを固定化した軽質炭酸カルシウムを含む軽質炭酸カルシウム含有スラリーを製造する。
【0015】
スラリー製造工程S10では、軽質炭酸カルシウム含有スラリーを製造するために、図2に示す軽質炭酸カルシウム含有スラリー製造装置1が好適に用いられる。軽質炭酸カルシウム含有スラリー製造装置1は、主に、固液分離部2と、析出反応部3と、炭酸ガス供給部4とを備える。
【0016】
固液分離部2は、未固化のセメント微粒子を含むコンクリート系廃棄物としてのコンクリートスラッジについて、固形分であるスラッジケーキと、未固化のセメント微粒子を含む液体分であるスラッジ液とに固液分離する。
【0017】
コンクリートスラッジは、例えば、コンクリート製品の遠心成形で発生するもの、生コンクリートやコンクリート製品の製造過程で発生するもの、生コンクリート工場やコンクリート工場でのコンクリートミキサのようなコンクリート製造設備の清掃にて発生するもの、生コンクリート輸送車両の清掃で発生するものなどであり、セメント微粒子そのものやその水和反応生成物(ケイ酸カルシウム水和物類および水酸化カルシウムなど)などの固体を含有する。
【0018】
固液分離部2は、一般的に汚泥や汚水の脱水(固液分離)に用いられるものである。固液分離部2としては、例えば、フィルタを使用して加圧または圧搾することにより固形分と液体分とを分離する加圧分離装置、遠心力の作用にて固形分と液体分とを分離する遠心分離装置、静置することにより固形分を沈降させる沈降分離装置などが用いられる。
【0019】
析出反応部3は、開放型の常圧・常温容器で構成される反応槽31を有する。反応槽31は、配管32を介して固液分離部2に連結される。配管32には、バルブ33が設けられている。固液分離部2で分離されたスラッジ液は、配管32を介して、析出反応部3の反応槽31に供給される。反応槽31には、後述するように、スラッジ液中に析出される軽質炭酸カルシウムを分散させる分散部材34が設けられている。分散部材34は、例えば撹拌機である。
【0020】
炭酸ガス供給部4は、炭酸ガスまたは炭酸ガス含有ガスを貯留する貯留槽41を有する。貯留槽41は、配管42を介して析出反応部3の反応槽31に連結される。配管42には、バルブ43が設けられている。炭酸ガスまたは炭酸ガス含有ガスは、配管42を介して、貯留槽41から析出反応部3の反応槽31に供給される。環境浄化性を向上する観点から、炭酸ガス含有ガスは、火力発電所の排ガス、ボイラーからの排ガス、他の製品の製造工程で排出される二酸化炭素を含む排ガス、排ガス中の二酸化炭素濃度を高めた高濃度ガスなどであることが好ましい。また、これらのガスは、湿度や温度を調整してもよい。
【0021】
スラッジ液を貯留している反応槽31に、貯留槽41から炭酸ガスまたは炭酸ガス含有ガスが供給されると、スラッジ液が炭酸ガスまたは炭酸ガス含有ガスでバブリングされ、スラッジ液中のセメント微粒子のカルシウムと二酸化炭素とが反応する。この反応によって、カルシウムが炭酸化され、炭酸ガスが固定化されて、結晶化した軽質炭酸カルシウムがスラッジ液中で析出される。こうして、析出反応部3の反応槽31には、スラッジ液を原料として、炭酸ガスを固定化した軽質炭酸カルシウムを含む軽質炭酸カルシウム含有スラリーを製造できる。この時点で製造される、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率は、おおよそ30~80%程度である。
【0022】
図1に示すように、スラリー製造工程S10の後に実施される含水率調整工程S20では、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を測定して調整する。軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率は、軽質炭酸カルシウム含有スラリーに含まれる水分の割合であり、重量含水率である。含水率調整工程S20で軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を測定して調整することによって、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの取り扱いが容易となるように、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの性状を制御できること、水硬性流動化物調製工程S30における水硬性流動化物のフレッシュ性状および硬化工程S40における炭酸ガス固定化コンクリートの強度を容易に制御できること、ならびに硬化工程S40で得られる炭酸ガス固定化コンクリートに含まれる軽質炭酸カルシウムの含有量、すなわちCO固定量を容易に制御できることを達成できる。
【0023】
含水率調整工程S20において、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率は、含水率測定装置を用いて測定できる。非接触型の含水率測定装置を用いて、軽質炭酸カルシウム含有スラリーに含水率測定装置を接触させずに、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を非接触で測定すると、測定の作業が容易になる。非接触型の含水率測定装置としては、赤外線を用いる測定装置が好適である。また、軽質炭酸カルシウム含有スラリーに接触型の含水率測定装置を接触させて、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を測定してもよい。例えば、所定量の軽質炭酸カルシウム含有スラリーを加熱して軽質炭酸カルシウム含有スラリーから水分を除去して得られる軽質炭酸カルシウムの量、および軽質炭酸カルシウム含有スラリーの量から、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの水分量を算出し、これらの量を基に、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を算出できる。また、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの電気抵抗率から軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を算出できる。
【0024】
軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を測定し、水道水などの水分を軽質炭酸カルシウム含有スラリーに添加して軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を調整することによって、含水率を調整した含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーを得る。軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を測定した結果、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率が所定範囲内であれば、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率の調整は行わなくてもよい。以降では、便宜上、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を測定した結果として、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率の調整を行わない場合でも、含水率が所定範囲内であることから、軽質炭酸カルシウム含有スラリーを含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーという。
【0025】
含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率について、下限値は、好ましくは39%以上、より好ましくは53%以上であり、上限値は、好ましくは98%以下、より好ましくは70%以下である。上記含水率が39%以上であると、スラリー状となり、取り扱いが容易になる。また、上記含水率が98%以下であると、スラリー中に含有される軽質炭酸カルシウムの量が十分となり、炭酸ガス固定化コンクリート中へのCO固定量を増大できる。
【0026】
また、図1に示すように、含水率調整工程S20の後に実施される水硬性流動化物調製工程S30では、水硬性流動化物を調製する。水硬性流動化物は、含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーと、セメントと、骨材と、沈殿抑制剤とを含み、水硬性流動化物の含有率は所定範囲内である。骨材は、細骨材および粗骨材の少なくとも一方を含む。沈殿抑制剤は、含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーに含まれる軽質炭酸カルシウムの沈殿を抑制する。また、水硬性流動化物は、炭酸ガスを固定化している。
【0027】
水硬性流動化物に含まれる含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーは、スラリー製造工程S10で得られた軽質炭酸カルシウム含有スラリーに対して、加熱処理のような炭酸ガスを多く排出する処理を行わずに、得ることができる。そのため、従来に比べて炭酸ガスの排出量を削減できる。
【0028】
また、水硬性流動化物に含まれるセメントは、高炉スラグ微粉末とセメント材とを含む高炉セメントや、フライアッシュとセメント材とを含むフライアッシュセメントのような混合セメントであることが好ましい。高炉セメントは、JIS R 5211:2009に規定されているものを用いることができる。
【0029】
また、セメントとして、ポルトランドセメントを用いてもよい。ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメントの他、早強、超早強、中庸熱、低熱耐硫酸塩等の種類があり、これらはJIS R 5210:2019に規定されている。水硬性流動化物においては、これら種々のポルトランドセメントの1種又は2種以上を配合するものを用いることができる。
【0030】
水硬性流動化物に含まれる細骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材である。細骨材としては、例えば砕砂、砂、川砂、海砂、石灰砕砂、再生骨材、軽量骨材、重量骨材等が挙げられる。
【0031】
水硬性流動化物に含まれる粗骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材であり、粒の大きさにより上記の細骨材と区別されるもので、5mmふるいを通るか否かで区分する。実用上、10mmふるいをすべて通り5mmふるいを重量で85%以上通るものを細骨材、5mmふるいに重量で85%以上とどまるものを粗骨材としている。
【0032】
水硬性流動化物に含まれる沈殿抑制剤は、水硬性流動化物中の軽質炭酸カルシウムの沈殿を抑制する。そのため、含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーに含まれる軽質炭酸カルシウムが、水との密度差により、水硬性流動化物中で沈殿しやすい場合であっても、沈殿抑制剤によって軽質炭酸カルシウムの沈殿を抑制できる。このように、水硬性流動化物の均一性が向上するため、水硬性流動化物のフレッシュ性状および炭酸ガス固定化コンクリートの強度の制御が容易になる。
【0033】
沈殿抑制剤は、ポリアクリル酸ナトリウムのようなポリアクリル酸塩、セルロース系やアクリル系の増粘剤、AE剤(Air Entraining Agent:空気連行剤)、ナフタレン系、リグニン系、ポリカルボン酸系の減水剤およびアルカリからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。沈殿抑制剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、ポリアクリル酸塩は、水簸処理で好適に使用される。AE剤は、界面活性剤として作用する。アルカリは、水硬性流動化物のpHを等電点からずらすために用いられる。
【0034】
水硬性流動化物に含まれる含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含有割合は、好ましくは0.5vol%以上、より好ましくは5.0vol%以上、さらに好ましくは10.0vol%以上である。水硬性流動化物に含まれる含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含有割合が0.5vol%以上であると、炭酸ガス固定化コンクリートに固定化される二酸化炭素量が十分である。また、水硬性流動化物に含まれる含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含有割合は、好ましくは28.0vol%以下、より好ましくは23.0vol%以下、さらに好ましくは18.5vol%以下である。水硬性流動化物に含まれる含水率調整済み軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含有割合が28.0vol%以下であると、水硬性流動化物のフレッシュ性状が良好である。
【0035】
水硬性流動化物は、上記成分に加えて、膨張材や遅延剤を含んでいてもよい。また、本発明の効果を奏する範囲内で、その他の混和材などを更に含有してもよい。その他の混和材としては、例えば、γビーライトのような炭酸化混和材、ガラス繊維、石炭灰、フライアッシュ、石灰石微粉末、減水剤、流動化剤等が挙げられる。
【0036】
また、水硬性流動化物の状態、水硬性流動化物や硬化工程S40で得られる炭酸ガス固定化コンクリートの所望の性能などに応じて、水硬性流動化物調製工程S30では、水硬性流動化物に水を添加してもよい。
【0037】
また、図1に示すように、水硬性流動化物調製工程S30の後に実施される硬化工程S40では、水硬性流動化物調製工程S30で得られた水硬性流動化物を打設して硬化させ、炭酸ガス固定化コンクリートを得る。炭酸ガス固定化コンクリートは、硬化物であり、炭酸ガスを固定化している。
【0038】
硬化工程S40では、打設後に、炭酸ガスを固定化している水硬性流動化物を空気中で養生して硬化することによって、炭酸ガスを固定化している炭酸ガス固定化コンクリートを得ることができる。
【0039】
こうして製造した炭酸ガス固定化コンクリートは、従来に比べて炭酸ガスの排出量を大幅に削減できる。また、炭酸ガス固定化コンクリートは、アルカリ性を維持できるため、炭酸ガス固定化コンクリート内の鋼材腐食を抑制できる。さらに、上記軽質炭酸カルシウム含有スラリーを用いて上記工程で得られた炭酸ガス固定化コンクリートは、内部に多くの微細気泡が導入されている。そのため、凍結融解抵抗性、流動性、材料分離抵抗性に優れている。
【0040】
また、実施形態の炭酸ガス固定化コンクリートの製造方法は、強制炭酸化工程をさらに有してもよい。強制炭酸化工程は、打設後で硬化前の水硬性流動化物および炭酸ガス固定化コンクリートの少なくとも一方に、炭酸ガス源を供給して、炭酸ガスを強制的に固定化する。強制炭酸化工程における炭酸ガス源の供給は、炭酸ガス源を水硬性流動化物や炭酸ガス固定化コンクリートに強制的に供給する。
【0041】
打設後で硬化前の水硬性流動化物および硬化後の炭酸ガス固定化コンクリートには、スラリー製造工程S10で未反応のセメント微粒子のカルシウムが含まれている。そのため、水硬性流動化物や炭酸ガス固定化コンクリートの表面に存在する未反応のカルシウムと強制的に供給される炭酸ガス源とが反応すると、炭酸ガス固定化コンクリートは表面に炭酸ガスをさらに固定化できる。さらに、上記のように、炭酸ガス固定化コンクリートは、内部に多くの微細気泡が導入されている。供給された炭酸ガスは、微細気泡内に容易に侵入できる。そのため、微細気泡による炭酸ガスの拡散経路が増加することから、炭酸ガスの固定化速度が向上する。
【0042】
強制炭酸化工程における炭酸ガス源としては、気体状、液体状、固体状のいずれの炭酸ガス源でもよい。取り扱い容易性、供給容易性、入手容易性などの観点から、炭酸ガス源は、気体状の炭酸ガス源であることが好ましく、炭酸ガス、炭酸ガス含有ガスであることがより好ましい。そのなかでも、環境浄化性を向上する観点から、炭酸ガス含有ガスは、火力発電所の排ガス、ボイラーからの排ガス、他の製品の製造工程で排出される二酸化炭素を含む排ガスなどであることが好ましい。また、これらの排ガスは、湿度や温度を調整してもよい。
【0043】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0044】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例A1~A9)
コンクリートスラッジを固液分離して得られるスラッジ液に炭酸ガスを供給して得られた軽質炭酸カルシウム含有スラリーの性状について調査した。表1には、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの質量M、軽質炭酸カルシウム含有スラリーに含まれる軽質炭酸カルシウムなどの残渣の含有量P、軽質炭酸カルシウム含有スラリーに含まれる水の含有量W、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率A、および軽質炭酸カルシウム含有スラリーの性状を示す。
【0046】
なお、軽質炭酸カルシウム含有スラリーに含まれる軽質炭酸カルシウムなどの残渣の含有量Pについては、炉内温度を105℃に設定した絶乾炉で表1に示す質量Mの軽質炭酸カルシウム含有スラリーを加熱し、軽質炭酸カルシウム含有スラリーから水分を除去して得られた残渣を測定して得た。また、水の含有量Wおよび軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率Aは、以下の式から算出した。
【0047】
水の含有量W=M-P
軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率A=W/(W+P)
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率が39%以上であると、スラリー状としての性状を有するため、軽質炭酸カルシウム含有スラリーは、含水率を調整しなくても、水硬性流動化物の原料に用いることが可能であることがわかった。そのなかでも、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率は53%以上70%以下であることが好適であることがわかった。
【0050】
また、実施例A9のように、軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率が39%未満であると、ペースト状であることがわかった。このような場合には、軽質炭酸カルシウム含有スラリーに水道水などを添加して軽質炭酸カルシウム含有スラリーの含水率を高めることによって、スラリー状の性状を付与することができる。その後、含水率を調整した軽質炭酸カルシウム含有スラリーを水硬性流動化物の原料に用いる。
【0051】
(実施例B1~B2および比較例B1)
表2に示す材料を用いて、表3に示す組成の水硬性流動化物を調製した。そして、表3の水硬性流動化物を用いて炭酸ガス固定化コンクリートを製造した。表4には、水硬性流動化物のフレッシュ性状、ならびに炭酸ガス固定化コンクリートの圧縮強度およびCO固定量を示す。なお、LSSについては、上記実施例から得られた結果を基に、含水率70に調製した軽質炭酸カルシウム含有スラリーを採用した。また、表3において、W/Bは水結合材比であり、s/aは骨材のうち細骨材が占める体積比(細骨材率)であり、LSSwは軽質炭酸カルシウム含有スラリー中の水を示し、LSSpは軽質炭酸カルシウム含有スラリー中の軽質炭酸カルシウムを示す。また、表4に示す圧縮強度は、水硬性流動化物を打設して1日後、7日後および28日後の炭酸ガス固定化コンクリートを測定した。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
表4に示すように、実施例B1~B2で得られた炭酸ガス固定化コンクリートは、従来に比べて炭酸ガスの排出量を削減することができた。
【0056】
(実施例C1~C2および比較例C1)
表5に示す材料を用いて、表6に示す組成の水硬性流動化物を調製した。そして、表6の水硬性流動化物を用いて炭酸ガス固定化コンクリートを製造した。さらに、炭酸ガス固定化コンクリートに対して強制炭酸化を行った。表7には、水硬性流動化物のフレッシュ性状、炭酸ガス固定化コンクリートの圧縮強度およびCO固定量、ならびに強制炭酸化後のCO固定量を示す。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
表7に示すように、実施例C1~C2で得られた炭酸ガス固定化コンクリートは、従来に比べて炭酸ガスの排出量を削減することができた。さらには、炭酸ガス固定化コンクリートを強制炭酸化することによって、二酸化炭素の固定量をさらに増加できた。
【符号の説明】
【0061】
1 軽質炭酸カルシウム含有スラリー製造装置
2 固液分離部
3 析出反応部
4 炭酸ガス供給部
31 反応槽
32 配管
33 バルブ
34 分散部材
41 貯留槽
42 配管
43 バルブ

図1
図2