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特開2023-9668非水電解質二次電池用被覆正極活物質及び該被覆正極活物質を含有する非水電解質二次電池。
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  • 特開-非水電解質二次電池用被覆正極活物質及び該被覆正極活物質を含有する非水電解質二次電池。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009668
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用被覆正極活物質及び該被覆正極活物質を含有する非水電解質二次電池。
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230113BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230113BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113124
(22)【出願日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】598045058
【氏名又は名称】株式会社サムスン日本研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】辻村 知之
(72)【発明者】
【氏名】矢代 将斉
(72)【発明者】
【氏名】本間 格
(72)【発明者】
【氏名】原 国豪
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050EA15
5H050FA17
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】非水電解質二次電池の電池容量及びサイクル維持率を向上させる。
【解決手段】 正極活物質粒子と、該正極活物質粒子の表面を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層がLiAlF、LiF及びLiAlFを含有することを特徴とする被覆正極活物質とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子と、
該正極活物質粒子の表面を被覆する被覆層とを備え、
前記被覆層がLiAlF、LiF及びLiAlFを含有することを特徴とする被覆正極活物質。
【請求項2】
前記被覆層の厚みが、0.6nm以上9nm以下である、請求項1に記載の被覆正極活物質。
【請求項3】
平均二次粒子径が10μm以下である、請求項1又は2に記載の被覆正極活物質。
【請求項4】
前記被覆層のX線光電子分光装置により観測されたF1sスペクトルの中心位置が685.05eV以上685.60eV以下である、請求項1に記載の被覆正極活物質。
【請求項5】
前記被覆層中のLiAlFの含有量が30質量%以上80質量%以下であり、LiFの含有量が1質量%以上30質量%以下であり、LiAlFの含有量が1質量%以上70質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆正極活物質。
【請求項6】
前記正極活物質がスピネル型構造を有するものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の被覆正極活物質。
【請求項7】
前記正極活物質が、LiNixCoyAlzO又はLiNixCoyMnzOで表される3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩である、請求項1~6のいずれか一項に記載の被覆正極活物質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の被覆正極活物質を含有する非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用被覆正極活物質及び該被覆正極活物質を含有する非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池の性質として、例えば、4.5V程度などの高い動作電圧で使用できることが求められる場合がある。
このように高い動作電圧でリチウムイオン二次電池を使用すると正極活物質と非水電解質との間で副反応が起きることがある。
【0003】
この副反応は、正極活物質と非水電解質との界面における抵抗成分の生成により、電池容量の低下やサイクル維持率の低下等の電池性能の劣化を引き起こす。
そこで、このような副反応を低減するために、正極活物質を被覆層で覆うことが考えられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-533257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、
被覆層による非水電解質二次電池のさらなる性能改善を図るべく、本発明者が鋭意検討を重ねた結果、
所定の成分を含有する被覆層によって正極活物質を被覆すれば、従来よりもさらに電池容量及びサイクル維持率を向上させることができることに想到して初めて完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る非水電解質二次電池用被覆正極活物質は、正極活物質粒子と、該正極活物質粒子の表面を被覆する被覆層とを備え、前記被覆層がLiAlF、LiF及びLiAlFを含有することを特徴とするものである。
【0007】
このような被覆正極活物質によれば、従来の被覆層によって正極活物質を被覆する場合に比べて、非水電解質二次電池の電池容量及びサイクル維持率をさらに向上させることができる。
【0008】
前記被覆層の厚みが0.6nm以上9nm以下であることが好ましい。また、前記被覆層のX線光電子分光装置により観測されたF1sスペクトルの中心位置が685.05eV以上685.60eV以下であることが好ましい。
【0009】
前記被覆層中のLiAlFの含有量が30質量%以上80質量%以下であり、LiFの含有量が1質量%以上30質量%以下であり、LiAlFの含有量が1質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0010】
被覆正極活物質の比表面積を大きくすることができれば、非水電解質二次電池の充放電容量をできるだけ大きくすることができる。そこで、被覆正極活物質の比表面積を大きくするために、被覆正極活物質の平均二次粒子径は10μm以下であることが好ましい。
【0011】
高電圧での使用により高い耐性を有することから、前記正極活物質がスピネル型構造を有するものであることがより好ましい。前記正極活物質が、LiNixCoyAlzO又はLiNixCoyMnzOで表される3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩であることが特に好ましい。
【0012】
本発明は、以上に前述したような特徴を有する被覆正極活物質を含有する非水電解質二次電池をも含むものである。
【発明の効果】
【0013】
被覆正極活物質によれば、従来の被覆層によって正極活物質を被覆する場合に比べて、非水電解質二次電池の電池容量及びサイクル維持率をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る被覆正極活物質を表す模式図。
図2】本発明の一実施例に係る被覆正極活物質のSEM画像。
図3】本発明の一実施例に係る被覆層のX線光電子分光分析の結果を示すグラフ。
図4】本発明の一実施例に係る被覆層のX線光電子分光分析によって得られたLNMO表面のAl元素およびF元素の分布状態を表す画像。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係る二次電池の具体的な構成について説明する。
<1.非水電解質二次電池の基本構成>
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、セパレータ(separator)と、非水電解質と、を備えるものである。
このリチウムイオン二次電池の充電到達電圧(酸化還元電位)は、例えば、4.0V(vs.Li/Li+)以上5.0V以下、特に4.2V以上5.0V以下であることが好ましい。リチウムイオン二次電池の形態は、特に限定されないが、例えば、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、またはボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0016】
(1-1.正極)
前記正極は、正極集電体と、該正極集電体上に形成された正極合剤層とを備えている。
前記正極集電体は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、板状又は箔状のものであり、アルミニウム(aluminum)、ステンレス(stainless)鋼、及びニッケルメッキ(nickel coated)鋼等で構成されることが好ましい。
前記正極合剤層は、少なくとも正極活物質1を含み、導電剤と、正極活物質1及び導電剤を正極集電体上に結着させる正極用バインダーとをさらに含んでいてもよい。
【0017】
本実施形態に係る正極合材層に使用されている正極活物質1は、図1に示すように、その表面が被覆層2によって覆われた被覆正極活物質100となっている。
【0018】
前記正極活物質1は、例えば、リチウムを含む遷移金属酸化物または固溶体酸化物であり、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であれば特に制限されない。リチウムを含む遷移金属酸化物としては、例えば、Li1.0Ni0.88Co0.1Al0.01Mg0.01等を挙げることができるが、これ以外にも、LiCoO等のLi・Co系複合酸化物、LiNiCoMn等のLi・Ni・Co・Mn系複合酸化物、LiNiO等のLi・Ni系複合酸化物、またはLiMn等のLi・Mn系複合酸化物等を例示することができる。固溶体酸化物としては、LiMnCoNi(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMn1.5Ni0.5等を例示することができる。正極活物質1としては、前述したものの中でも、LiNixCoyAlzO又はLiNixCoyMnzOで表される3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩であることが好ましい。また、スピネル型の結晶構造を有するものであることがより好ましい。また、これらの化合物を単独で用いても良いし、または複数種混合して用いてもよい。正極活物質1の形状は特に限定されないが、粒子状のものであることが好ましい。
【0019】
前記被覆層2については、本実施形態に係る非水電解質二次電池の特徴点であるので、後述することとする。
【0020】
前記導電剤は、前記正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。前記導電剤の具体例としては、例えば、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛及び繊維状炭素の中から選ばれる一種以上を含有するものを挙げることができる。
前記カーボンブラックの例としては、ファーネスブラック(furnace black)、チャネルブラック(channel black)、サーマルブラック(thermal black)、ケッチェンブラック(ketjen black)、アセチレンブラック(acetylene black)等を挙げることができる。
前記繊維状炭素の例としては、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバ等を挙げることができる。
前記導電剤の含有量は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極合剤層に適用可能な含有量であれば良い。
【0021】
前記正極用バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)等のフッ素含有樹脂、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber)等のエチレン含有樹脂、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(ethylene-propylene-diene terpolymer)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、カルボキシメチルセルロース(carboxy metyl cellulose)若しくはカルボキシメチルセルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースの塩等)、又はニトロセルロース(nitrocellulose)等を挙げることができる。前記正極用バインダーは、前記正極活物質1及び前記導電剤を前記正極集電体上に結着させることができるものであればよく、特に制限されない。
【0022】
(1-2.負極)
負極は、負極集電体と、該負極集電体上に形成された負極合剤層とを備えるものである。
前記負極集電体は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、板状又は箔状のものであり、銅、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成されるものであることが好ましい。
【0023】
前記負極合剤層は、少なくとも負極活物質を含み、導電剤と、正極活物質及び導電剤を正極集電体上に結着させる負極用バインダーとをさらに含んでいても良い。
【0024】
前記負極活物質は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することが出来るものであれば特に限定されないが、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、Si系活物質又はSn系活物質(例えば、ケイ素(Si)もしくはスズ(Sn)もしくはそれらの酸化物の微粒子と黒鉛活物質との混合物、ケイ素もしくはスズの微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金)、金属リチウム及びLiTi12等の酸化チタン系化合物、リチウム窒化物等が考えられる。負極活物質としては、以上に挙げたもののうち一種類を用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。なお、ケイ素の酸化物は、SiOx(0≦x≦2)で表される。
なお、負極活物質及び負極合材層の組成によっては前述した負極集電体は必ずしも必須の構成要素ではない。
【0025】
前記導電剤は、前記負極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されず、例えば、前記正極の項で説明したものと同様のものを使用することができる。
【0026】
前記負極用バインダーとしては、前記負極活物質及び前記導電剤を前記負極集電体上に結着させることができるものであればよく、特に制限されない。例えば、前記正極の項で説明したものと同様のものを使用することができる。
【0027】
(1-3.セパレータ)
セパレータは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体(vinylidene difluoride-perfluoroninylether copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-fluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoroacetone copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体(vinylidene difluoride-propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoro propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene-tetrafluoroethylene copolymer)等を挙げることができる。なお、セパレータの気孔率は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池のセパレータが有する気孔率を任意に適用することが可能である。
【0028】
セパレータの表面に、耐熱性を向上させるための無機粒子を含む耐熱層、または電極と接着して電池素子を固定化するための接着剤を含む層があってもよい。前述の無機粒子としては、Al、AlOOH、Mg(OH)、SiOなどがあげられる。接着剤としてはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン重合体の酸変性物、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などがあげられる。
【0029】
(1-4.非水電解液)
非水電解液は、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。非水電解液は、電解液用溶媒である非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。前記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(butylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、フルオロエチレンカーボネート(fluoroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル類、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、γ-バレロラクトン(γ-valerolactone)等の環状エステル類、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethylmethyl carbonate)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル(methylformate)、酢酸メチル(methylacetate)、酪酸メチル(methylbutyrate)、プロピオン酸エチル(ethyl propionate)、プロピオン酸プロピル(propyl propionate)等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)またはその誘導体、1,3-ジオキサン(1,3-dioxane)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(1,4-dibutoxyethane)、またはメチルジグライム(methyldiglyme)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(ethylene glycol monopropyl ether)、プロピレンレングリコールモノプロピルエーテル(propylene glycol monopropyl ether)等のエーテル類、アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル類、ジオキソラン(dioxolane)またはその誘導体、エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等を、単独で、またはそれら2種以上を混合して使用することができる。なお、前記非水溶媒を2種以上混合して使用する場合、各非水溶媒の混合比は、従来のリチウムイオン二次電池で用いられる混合比が適用可能である。
【0030】
電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LIPF-x(C2n+1)x[但し、1<x<6、n=1or2]、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid lithium)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzeneulfonic acid lithium)等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。なお、電解質塩の濃度は、従来のリチウムイオン二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本実施形態では、前述したようなリチウム化合物(電解質塩)を0.8mol/l以上1.5mol/l以下程度の濃度で含有させた非水電解液を使用することが好ましい。
【0031】
なお、非水電解液には、各種の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種を非水電解液に添加しても良いし、複数種類の添加剤を非水電解液に添加してもよい。
【0032】
<2.本実施形態に係る非水電解質二次電池の特徴構成>
以下に、本実施形態に係る非水電解質二次電池の特徴構成について説明する。
本実施形態に係る非水電解質二次電池に用いられている正極活物質1は、前述したようにその表面が被覆層2で覆われた被覆正極活物質100となっている。
【0033】
この被覆層2は、LiAlF、LiF及びLiAlFを含有するものである。本実施形態において被覆層2は、これらLiAlF、LiF及びLiAlFの混合物からなるものである。
【0034】
被覆層2全体の質量を100質量%とした場合の被覆層中におけるLiAlFの含有量は、30質量%以上80質量%以下であることが好ましく、40質量%以上65質量%以下であることがより好ましい。
被覆層2全体の質量を100質量%とした場合の被覆層中におけるLiFの含有量は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
被覆層2全体の質量を100質量%とした場合の被覆層中におけるLiAlFの含有量は、1質量%以上70質量%以下であることが好ましく、25質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
被覆層2の組成は、例えば、X線光電子分光装置によって分析することができる。
具体的には、例えば、図2に示すような被覆正極活物質100の表面の組成をX線光電子分光装置によって分析することによって得られる図3のようなF1sスペクトルピークの中心位置(スペクトルピークの頂点)やピーク面積、波形等から、どのような成分がどの程度含有されているかを算出することができる。なお、本実施形態のように、LiAlF、LiF及びLiAlFをそれぞれ前述した好ましい割合で含有する場合のF1sスペクトルピークの中心位置は、685.05eV以上685.60eV以下となることが確かめられている。
【0036】
この被覆層2は正極活物質1の表面の少なくとも一部を覆うものであればよく、正極活物質1の質量を100質量%としたときの被覆層2の被覆量は、LiAlF、LiF及びLiAlFの混合物全体として1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
また、被覆層2の厚みは、0.6nm以上9nm以下であることが好ましく、1nm以上5nm以下であることがより好ましい。なお、被覆層2の厚みは、例えば、形成した被覆層2の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することによって見積もることができる。
被覆層2は前述したようにLiAlF、LiF及びLiAlFの混合物からなるものであることが好ましいが、例えば正極活物質1由来の成分を含有するものであってもよい。
被覆正極活物質100の平均二次粒子径が小さいほど被覆正極活物質100の比表面積は大きくなる。被覆正極活物質100の比表面積が大きいほど、この被覆正極活物質を含有する非水電解質二次電池の充放電容量を大きくすることができる。そこで、被覆正極活物質100の平均二次粒子径は、10μm以下であることが好ましい。なお、「平均粒子二次径」とは、散乱法等によって求められた粒子の粒度分布における個数平均径(D50)を表し、粒度分布計等により測定することができる。
【0037】
<3.非水電解質二次電池の製造方法>
次に、前述した被覆正極活物質100を用いたリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
まず、被覆正極活物質100は、以下のような工程で製造することができる。
被覆層2の材料である、例えば、LiNO、Al(NO、NHFなどの試薬を目標組成となるようにそれぞれ秤量し、水に溶かして水溶液とする。この水溶液に正極活物質1の粒子を添加して、例えば、70℃以上90℃以下の温度に保った状態で4時間以上8時間以内の間、攪拌しながら混合する。次に、水溶液から水を蒸発させる等して除いて乾燥させたものを焼成することによって、正極活物質1の表面を被覆層2が覆った被覆正極活物質100を得ることができる。なお、添加した被覆層2の材料は水溶液に添加したほとんど全てが反応に使用されて被覆層2を形成していることが確認されている。
【0038】
正極は、以下のように作製される。まず、前述したようにして製造した被覆正極活物質100、導電剤及び正極用バインダーを所望の割合で混合したものを、正極スラリー用溶媒に分散させることで正極スラリーを形成する。次いで、この正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥させることで、正極合剤層を形成する。なお、塗布の方法は、特に限定されない。塗布の方法としては、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法、リバースロールコーター(reverse roll coater)、スリットダイコーター(slit die coater)等が考えられる。以下の各塗布工程も同様の方法により行われる。次いで、プレス(press)機により正極合剤層を所望の密度となるようにプレスする。これにより、正極が作製される。
【0039】
負極も、正極と同様に作製される。まず、負極合剤層を構成する材料を混合したものを、負極スラリー用溶媒に分散させることで、負極スラリーを作製する。次いで、負極スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥させることで、負極合剤層を形成する。次いで、プレス機により負極合剤層を所望の密度となるようにプレスする。これにより、負極が作製される。
【0040】
次いで、セパレータを正極及び負極で挟むことで、電極構造体を作製する。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に非水電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔や正極及び負極の空隙に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池が作製される。
【0041】
<4.本実施形態の効果>
前述した被覆正極活物質100によれば、非水電解質二次電池の電池容量及びサイクル維持率を向上させることができる。
このような効果を得ることができるメカニズムとしては、以下のようなものが考えられる。本実施形態に係る被覆正極活物質100が備える被覆層2は、前述したようにLiAlF、LiF及びLiAlFを含む混合物で形成されている。LiAlFは高いイオン電導性、LiAlFは電位窓の広さ、LiFは安定性とイオン電導性といったそれぞれの特性を備えており、これらが混合物となることによってこれら3つの成分の特性が互いに補完し合って前述したような効果を奏しているのではないかと考えられる。
【0042】
<5.その他の実施形態>
本発明は、前述した実施形態に限られるものではない。
例えば、被覆層は正極活物質粒子の表面の一部を覆うものであっても良いし、全体を覆うものであってもよい。
本発明に係る被覆正極活物質は、固体電解質を用いた固体二次電池や全固体二次電池にも用いることが可能である。
その他、本発明はこれら実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【実施例0043】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は、あくまでも本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<被覆正極活物質の作製>
まず、被覆層材料となる試薬LiNO、Al(NOおよびNHFを表1に示す目的組成になるように秤量しそれぞれ水溶液としてから混合した。この混合液に正極活物質であるLiNiCoMn(LNMO)を加えたうえで、80℃において6時間程度攪拌しながら混合した。この時、正極活物質を100質量%とした場合の被覆層の割合が1質量%となるように前記被覆層材料の水溶液を調整した。水溶液から水を蒸発させて前駆体を得、この前駆体を真空中において乾燥した後、400℃で1時間の焼成を行うことで被覆正極活物質を得た。
【0044】
<被覆正極活物質の性質>
被覆層による正極活物質表面の被覆状態を確認する目的で、焼成後の被覆正極活物質のSEMおよびEDS観察を実施した。観察の結果、LiAlF4は正極活物質LNMO表面にナノ粒子状に存在していることを確認した。同様にXPS測定を行った結果、Al元素およびF元素がLNMOの表面に存在していることを確認した(図4)。以上のことから、目的とする組成の被覆層によって正極活物質の表面が被覆されている状態であることを確認した。また、XPS測定におけるF 1sおよびAl 2pスペクトル解析から被覆層からは、LiAlF4、LiFおよびLi3AlF6の混合成分のスペクトルが得られたことから、実施例1における被覆層がLiAlF4、LiFおよびLi3AlF6を表1に示す割合で含有する混合相から形成されていることが分かった。
【0045】
<非水電解質二次電池の作製>
前述したようにして得た被覆正極活物質を用いた非水電解質二次電池の評価は、リチウム負極を用いた2032型のコインセルを作製して行った。その際、正極は、前述した被覆正極活物質、Acetylene Black(AB; Denka Black, FX-35, Denka Co., Ltd.)および PolyVinylidene Fluoride(重量比8:1:1)を混合して、アルミニウム箔上に塗布することで作製した。使用した電解液は1mol/L LiPF6 EC:DMC(1:1v/v%)であり、セパレータとしては多孔質ポリプロピレン膜(Celgard 2400)を使用した。なお、コインセルはアルゴンガス雰囲気下のグローブボックス内で組み立てた。
【0046】
<非水電解質二次電池の評価>
充放電測定装置(8CH Charge/Discharge Unit 10V 1A HJ 1001SM8A, HOKUTO DENKO)を用いて、前述したようにして作成した非水電解質二次電池の充放電を146.5mA/gの一定電流条件で、3.0V-5.0Vの電圧範囲で行い非水電解質二次電池の評価を行った。評価の結果を表1に示す。なおサイクル維持率は、初回放電容量に対する100サイクル後の放電容量の割合から求めた。
【0047】
(実施例2、3)
被覆正極活物質を作成する際に使用する被覆層材料を表1に記載の目的組成となるように秤量した以外は、実施例1と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池を作製し評価を行った。評価の結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
正極活物質に対する被覆処理を全く行っていないこと以外は、実施例1と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池の作製および評価を行った。評価の結果を表1に示す。
【0049】
(比較例2~4)
被覆正極活物質を作成する際に使用する被覆層材料を表1に記載の目的組成となるように秤量した以外は、実施例1と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池を作製し評価を行った。評価の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示す通り、被覆正極活物質における被覆層がLiAlF4、LiF及びLi3AlF6を含有する混合相から形成されている場合、初回放電容量、初回効率およびサイクル特性のすべてが優れた非水電解質二次電池を作製できることが分かった。
また、LiAlF4、LiF及びLi3AlF6を含有する場合には、これらの含有割合や被覆量(被覆濃度)を様々に変えた場合であっても、同様の効果が得られることが確認できた。
【0052】
(実施例4)
正極活物質としてLiCoO(LCO)を使用したことと、充放電評価を137mA/gの一定電流条件で、3.0V-5.0Vの電圧範囲で行ったこと以外は、実施例1と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池を作製し評価を行った。評価の結果を表2に示す。
【0053】
(実施例5、6)
被覆正極活物質を作成する際に使用する被覆層材料を表2に記載の目的組成となるように秤量した以外は、実施例4と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池を作製し評価を行った。評価の結果を表2に示す。
【0054】
(比較例5)
正極活物質に対する被覆処理を全く行っていないこと以外は、実施例4と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池の作製および評価を行った。評価の結果を表2に示す。
【0055】
(比較例6、7)
被覆正極活物質を作成する際に使用する被覆層材料を表2に記載の目的組成となるように秤量した以外は、実施例4と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池を作製し評価を行った。評価の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2に示す通り、正極活物質の種類を変えた場合であっても、被覆正極活物質における被覆層がLiAlF4、LiF及びLi3AlF6を含有する混合相から形成されている場合、初回放電容量、初回効率およびサイクル特性のすべてが優れた非水電解質二次電池を作製できることが分かった。
【0058】
(実施例7)
充放電評価を137mA/gの一定電流条件で、3.0V-4.7Vの電圧範囲で行ったこと以外は、実施例4と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池を作製し評価を行った。評価の結果を表3に示す。
【0059】
(実施例8、9)
被覆正極活物質を作成する際に使用する被覆層材料を表3に記載の目的組成となるように秤量した以外は、実施例7と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池を作製し評価を行った。評価の結果を表3に示す。
【0060】
(比較例8、9)
被覆正極活物質を作成する際に使用する被覆層材料を表3に記載の目的組成となるように秤量した以外は、実施例7と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池を作製し評価を行った。評価の結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示す通り、充放電試験における条件を変えた場合であっても、被覆正極活物質における被覆層がLiAlF4、LiF及びLi3AlF6を含有する混合相から形成されている非水電解質二次電池においては、初回放電容量、初回効率およびサイクル特性のすべてが優れた結果となることが分かった。
【0063】
(実施例10)
被覆層による被覆量を2質量%とした以外は実施例1と同様にして作成した被覆正極活物質を使用し、以下の手順で全固体二次電池を作製し、評価を行った。
<固体電解質の作製>
固体電解質の合成は下記の方法にて実施した。固体電解質としてLi3YCl6を作製する場合はLiCl / YCl3 = 3/1のモル比で、直径5mmのジルコニアボールを使用してジルコニアポットにロードされた。この作業は、アルゴンが充填されたグローブボックス内で行われた。混合された材料は、500rpmで50時間の遊星ボールミル粉砕で粉砕された。固体電解質としてLi3InCl6を作製する場合はLiCl/InCl3=3/1のモル比で同様に合成を行った。
【0064】
<全固体二次電池の作製>
次に、前述したようにして作製した被覆正極活物質と固体電解質を用いて全固体二次電池の作製を行った。負極としては、金属リチウム箔(厚さ200μm)とインジウム箔(厚さ400μm)によって形成されたLi-In合金を使用した。固体電解質層としてはLiYClを用いた。正極としては、上記被覆を行ったLNMO、固体電解質(LiInCl)、導電助剤(Acetylene Black (AB))を66.5:28.5:5重量比で混合した材料を用いた。これら正極、固体電解質、負極を積層し、3 ton/cm2の圧力でpressすることで、試験用セルを得た。
【0065】
<全固体二次電池の評価>
上記の方法にて作製を行った固体電池は充放電測定装置(8CH Charge/Discharge Unit 10V 1A HJ 1001SM8A, HOKUTO DENKO)を用いて、5μAの一定電流条件で、2.0V-6.0V の電圧範囲で充放電試験を行った。評価の結果を表4に示す。なおサイクル維持率は、初回放電容量に対する10サイクル後の放電容量の割合から求めた。
【0066】
(比較例10)
正極活物質に対する被覆処理を全く行っていないこと以外は、実施例10と同様の手法を用いて、非水電解質二次電池の作製および評価を行った。評価の結果を表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
表4に示す通り、全固体二次電池の場合であっても、被覆正極活物質における被覆層がLiAlF4、LiF及びLi3AlF6を含有する混合相から形成されている場合には、初回放電容量、初回効率およびサイクル特性のすべてが優れた結果となることが分かった。また、ここには記載していないが、実施例1~9及び比較例1~9の結果から、被覆層がLiAlF4、LiF及びLi3AlF6すべて含有している実施例10は、被覆層がLiAlF4、LiF及びLi3AlF6のうちの1種または2種のみ含有する全固体二次電池に比べて初回放電容量、初回効率およびサイクル特性のすべてが優れた結果となることが十分に推測できる。
【符号の説明】
【0069】
100・・・被覆正極活物質
1 ・・・正極活物質粒子
2 ・・・被覆層

図1
図2
図3
図4