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特開2023-96685ポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物および硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096685
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物および硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20230630BHJP
   C08G 59/14 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C08L63/00
C08G59/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212606
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】服部 公一
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002CD00W
4J002CD02W
4J002CD05W
4J002CD10W
4J002CD13W
4J002CD20X
4J002DA016
4J002DB016
4J002DE146
4J002DK006
4J002DL006
4J002EU117
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD147
4J002FD160
4J002GF00
4J002GM00
4J036AA01
4J036AD01
4J036AD08
4J036CB20
4J036CD12
4J036DA01
4J036DC41
4J036HA12
4J036JA06
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】
本発明は、注型材、複合材、構造用接着剤等で使用されるウレタン変性エポキシ樹脂において、ガラス転移温度が高く、低粘度で繊維含浸性に優れ、樹脂自体が高い減衰性を有する新規なポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物およびその硬化物を提供する。
【解決手段】
ポリウレタン未変性エポキシ樹脂(A)と、ポリエーテルポリオール由来の構造を有し、且つ、分子鎖の末端イソシアネート基がビスフェノール型エポキシ樹脂の2級水酸基と反応した構造を有するポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)、および硬化剤(C)を必須成分として含み、エポキシ樹脂組成物の合計量(固形分)に対して、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)を20~70重量%含有し、成分(A)と成分(B)が相溶しているポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物であって、硬化反応後の硬化物としては、成分(A)と成分(B)が相分離構造を形成し、周波数10Hz、昇温速度2℃/minの条件下、動的粘弾性装置を用いてして測定した損失係数(tanδ)が、-40℃~40℃の温度範囲において0.03より高いことを特徴とするポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物、およびそれを用いた硬化物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン未変性エポキシ樹脂(A)と、ポリエーテルポリオール由来の構造を有し、且つ、分子鎖の末端イソシアネート基がビスフェノール型エポキシ樹脂の2級水酸基と反応した構造を有するポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)、および硬化剤(C)を必須成分として含み、エポキシ樹脂組成物の合計量(固形分)に対して、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)を20~70重量%含有し、成分(A)と成分(B)が相溶しているポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物であって、硬化反応後の硬化物としては、成分(A)と成分(B)が相分離構造を形成し、周波数10Hz、昇温速度2℃/minの条件下、動的粘弾性装置を用いてして測定した損失係数(tanδ)が、-40℃~40℃の温度範囲において0.03より高いことを特徴とするポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)において、ポリオール化合物に由来する構造の30モル%以上が、ポリテトラメチレンエーテルグリコールに由来することを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)が、重量平均分子量10000以上であり、成分(B)のなかのポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の配合量が成分(A)と成分(B)の合計量に対して、12重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)が、下記式(1)で示され、エポキシ当量150~300g/eqで、水酸基当量800~3600g/eqの液状ビスフェノール系エポキシ樹脂(a)を、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)、PTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)、ポリイソシアネート化合物(c)および鎖長延長剤としての数平均分子量500未満の低分子量ポリオール化合物(d)によって変性してなり、エポキシ樹脂(a)を、成分(a)、(b-1)、(b-2)、(c)、(d)の合計量に対して50~85重量%使用し、かつ成分(b-1)を、成分(b-1)(b-2)(d)の合計量に対して30~100重量%使用して、エポキシ樹脂(a)と成分(b-1)、(b-2)および(c)とを反応させて得られるものである請求項1に記載のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物。
【化1】
【請求項5】
ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)において、ポリテトラメチレンエーテルグリコールの数平均分子量が2000以上であることを特徴とする請求項2に記載のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含侵してなることを特徴とする繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物から得られる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維基材への含浸性、耐熱性、および減衰性に優れた性能を有するエポキシ樹脂組成物、およびそれを用いた硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、加工性に優れかつ高耐熱性、高絶縁信頼性、高剛性、高接着性、高耐蝕性等の多様な硬化物特性が引き出させるので、電気絶縁材料(注型、含浸、積層板、封止材)、CFRPのような複合材料のマトリックスレジン、構造用接着剤、重防蝕塗料等各種の用途で多量に使用されている。
【0003】
反面、エポキシ樹脂硬化物は、低破断伸度、低破壊靭性、低剥離強度であるため、これらの特性が要求される複合材料のマトリックスレジン用途や構造用接着剤用途では、ゴム変性、ポリウレタン変性などの各種変性によって上記特性の改良が行われてきた。
【0004】
ポリウレタン変性に関して、例えば、特許文献1、2は、ビスフェノールA-アルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル(A)と、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂中に分散しているポリウレタンとを含有し、ポリウレタンが、エポキシ樹脂中で、ポリイソシアネート化合物と、ポリイソシアネート化合物と反応しうる硬化剤とを反応させて得られたポリウレタンであるエポキシ樹脂/ポリウレタン混合物(B)を開示する。
特許文献3は、エポキシ基を有する化合物と、分子内に一般式(II)で表される構造単位を含むポリウレタンとを含有する樹脂組成物を開示する。
特許文献4は、ビスフェノール系エポキシ樹脂(a)を、中高分子量ポリオール化合物(b)、ポリイソシアネート化合物(c)および鎖長延長剤としての低分子量ポリオール化合物(d)によって変性してなり、エポキシ樹脂(a)を所定量使用し、かつ中高分子量ポリオール化合物(b)とポリイソシアネート化合物(c)を所定使用量にて反応させたのち、所定量の低分子量ポリオール化合物(d)を加えて得られるポリウレタン変性エポキシ樹脂を開示する。
特許文献5は、水酸基含有エポキシ樹脂(A)、ポリイソシアネート化合物(B) 及びポリカーボネートポリオール(C)を必須の反応原料とし、ポリカーボネートポリオール(C)が所定量であるポリカーボネート変性エポキシ樹脂を開示する。
特許文献6は、エポキシ樹脂(A)と、ポリエーテルポリオール由来の構造を有し、且つ、分子鎖の両末端にイソシアネート基又は水酸基を有するウレタンプレポリマー(B)、及び硬化剤(C ) を配合して得られるエポキシ樹脂組成物であって、硬化反応前は(A)と(B)が相溶しており、硬化反応後は(A)が海構造を形成し、且つ(B)が島構造を形成して、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化物が海島相分離構造である繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を開示する。
【0005】
他の手法として、特許文献7~9は、エポキシ樹脂と、ポリエーテルスルホン樹脂などの熱可塑性樹脂と、硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物などを開示する。
特許文献10は、ポリアリールエーテル骨格を有する熱可塑性樹脂と熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂からなる粒子を含む樹脂層を形成して衝撃特性を改善することを開示する。
【0006】
しかしながら、これらの特許文献によっても、未だ要求特性を十分に満たさない場合がある。本発明は、各種用途における要求物性を満たし、減衰性に優れたポリウレタン変性エポキシ樹脂を提案するものである。樹脂自体が減衰性を有することにより、耐熱性や耐溶剤性に劣るエラストマーの添加による硬化物の機械特性や熱特性、耐薬品性などの低下が抑えられたり、応力緩和層(接着層)を形成させることも不要になることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-284467号公報
【特許文献2】特開2007-284474号公報
【特許文献3】特開2007-224144号公報
【特許文献4】特開2016-11409号公報
【特許文献5】特開2017-226717号公報
【特許文献6】特開2017-82128号公報
【特許文献7】特開2005-105151号公報
【特許文献8】特開2007-284545号公報
【特許文献9】特開2008-144110号公報
【特許文献10】WO2019/098243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、注型材、複合材、構造用接着剤等で使用されるウレタン変性エポキシ樹脂において、ガラス転移温度が高く、低粘度で繊維含浸性に優れ、樹脂自体が高い減衰性を有する新規なポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物およびその硬化物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリウレタン未変性エポキシ樹脂(A)と、ポリエーテルポリオール由来の構造を有し、且つ、分子鎖の末端イソシアネート基がビスフェノール型エポキシ樹脂の2級水酸基と反応した構造を有するポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)、および硬化剤(C)を必須成分として含み、エポキシ樹脂組成物の合計量(固形分)に対して、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)を20~70重量%含有し、成分(A)と成分(B)が相溶しているポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物であって、硬化反応後の硬化物としては、成分(A)と成分(B)が相分離構造を形成し、周波数10Hz、昇温速度2℃/minの条件下、動的粘弾性装置を用いてして測定した損失係数(tanδ)が、-40℃~40℃の温度範囲において0.03より高いことを特徴とするポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物である。
【0010】
本発明のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物は、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)において、ポリオール化合物に由来する構造の30モル%以上が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)に由来することが望ましい。
ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)は、重量平均分子量が10000以上であり、成分(B)のなかのポリオール化合物とイソシアネート化合物の配合量が、成分(A)と成分(B)の合計量に対して、12重量%以上であることが好ましい。
【0011】
ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)が、下記式(1)で示され、エポキシ当量150~300g/eqで、水酸基当量800~3600g/eqの液状ビスフェノール系エポキシ樹脂(a)を、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)、PTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)、ポリイソシアネート化合物(c)および鎖長延長剤としての数平均分子量(Mn)500未満の低分子量ポリオール化合物(d)によって変性してなり、エポキシ樹脂(a)を、成分(a)、(b-1)、(b-2)、(c)、(d)の合計量に対して50~85重量%使用し、かつ成分(b-1)(b-2)(d)の合計量に対して、成分(b-1)を30~100重量%使用して、エポキシ樹脂(a)と成分(b-1)、(b-2)および(c)とを反応させて得られるものが望ましい。
【化1】
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物は、低粘度であり繊維含浸性に優れ、ガラス転移温度の低下を抑制しつつ、かつ硬化物が最適に相分離した状態を形成しており、高い損失係数(tanδ)を有するため、減衰性を必要とする産業用、スポーツレジャー用、土木建築用などの複合材料用のマトリックス樹脂や接着剤の配合樹脂などに適するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】硬化物の相構造を示す実体顕微鏡画像である。(実施例1)
図2】硬化物の相構造を示す実体顕微鏡画像である。(実施例7)
図3】硬化物の相構造を示す実体顕微鏡画像である。(実施例9)
図4】硬化物の相構造を示す実体顕微鏡画像及びAFM画像である。(比較例1)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物は、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)に、ポリウレタン濃度の調整剤としてのポリウレタン未変性のエポキシ樹脂(A)、及び硬化剤(C)を必須成分として含み、エポキシ樹脂組成物の合計量(固形分)に対して、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)を20~70重量%含有することを特徴とする。
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、硬化促進剤(D)、さらには炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン等の無機フィラーを増量材、補強材として配合できる。
【0015】
本発明に使用するポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)は、液状ビスフェノール系エポキシ樹脂(a)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)、およびポリイソシアネート化合物(c)を必須成分として使用する。物性や粘度の最適化、相溶性の微調整、分子量制御などの観点からPTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)、鎖長延長剤としての数平均分子量500未満の低分子量ポリオール化合物(d)を適宜使用しても良い。
以下、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)の各成分について説明する。
【0016】
エポキシ樹脂(a)は、常温で液状であり、かかる観点からエポキシ当量が300g/eq以下であることが好ましい。さらに好ましくは、エポキシ当量が150~300g/eqで、水酸基当量800~3600g/eqのエポキシ樹脂である。
具体的には、下記一般式(1)で示され、エポキシ当量150~200g/eq、かつ水酸基当量2000~3000g/eqの2級水酸基含有ビスフェノール系エポキシ樹脂が好適である。
【化2】
式中、Rはそれぞれ独立に、H又はアルキル基であり、aは0~10の数である。アルキル基である場合、好ましくは炭素数1~3の範囲であり、より好ましくは炭素数1である。
【0017】
特に好ましいエポキシ樹脂(a)は、式(1a)で示されるビスフェノールA型エポキシ樹脂または式(1b)で示されるビスフェノールF型エポキシ樹脂である。
【化3】
式中、a1、a2は0~10の数である。
式(1)、式(1a)、式(1b)において、繰り返し数a、a1又はa2の平均値(数平均)は1~5の範囲であり、好ましくは1~3の範囲である。
【0018】
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)は、下記式(2a)で表される1級ヒドロキシ基を両末端にもった線状のポリエーテルグリコールであり、数平均分子量が200くらいから4000を超えるようなものまである。
【化4】
本発明においては、数平均分子量は500から4000くらいが望ましく、樹脂との相溶性や減衰性発現などを踏まえると、2000~4000が好ましい。
【0019】
PTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)としては、下記式(2b)~(2d)で示される化合物であり、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレンプロピレングリコール(PEPG)、2種以上のアルキレンオキサイド共重合体(例えば、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体)が挙げられる。また本発明の目的を阻害しない範囲で、ラクトン変性ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどのポリオール化合物を用いることができ、これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【化5】
ここで、RはH又はメチル基であり、b1,b2,b3は独立に1~50の数で、cは0もしくは1の数である。
【化6】
ここで、q1,q2,q3,q4は独立に1~20の数である。
【化7】
ここで、r,s,tは独立に1~20の数であり、nは1~50の数である。
【0020】
ポリイソシアネート化合物(c)は、NCO基の数は2以上であればよいが、2であることが好ましい。一般式(3)で示され、Rは式(i)~(vi)から選ばれる2価の基であるものが好ましい。これらの中でエポキシ樹脂(a)との相溶性に優れるものが好適に選択される。
具体的には、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(HXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ナフタレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【化8】
ここで、Rは式i~viから選ばれる2価の基である。
【化9】
特に、低分子量で増粘性がなく低価格、安全性などの観点から、式(3a)で示される4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【化10】
【0021】
低分子量ポリオール化合物(d)は、数平均分子量が500未満のポリオール化合物である。好ましくは200未満である。鎖長延長剤として使用される。好ましくは、式(4)で示され、1級水酸基を2個有するジオール化合物である。
【化11】
ここで、Rは式viiで表されるアルキレン基であり、gは1~10の数である。
【0022】
低分子量ポリオール化合物(d)は、具体的には1,4-ブタンジオール、1,6-ペンタンジオール等の多価アルコールなどが挙げられる。特に、1,4-ブタンジオールが入手の容易さ、価格と特性のバランスの良さの点からより好ましい。
【0023】
次に、各成分(a)、(b-1)、(b-2)、(c)及び(d)を用いたポリウレタン変性エポキシ樹脂について、反応機構を交えながら説明する。各成分はそれぞれ、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
エポキシ樹脂(a)中のOH基は、主に2級OH基である。一方、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)及びPTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)のOH基は、主に1級OH基である。そのため、エポキシ樹脂(a)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)及びPTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)およびポリイソシアネート化合物(c)を仕込んで反応させたとき、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)及びPTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)の1級OH基とポリイソシアネート化合物(c)のNCO基が優先的に反応する。
【0025】
代表的には、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)、PTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)中の1級OH基とポリイソシアネート化合物(c)中のNCO基が先に反応して、NCO基末端のウレタンプレポリマー(P1)が生成する。その後、エポキシ樹脂(a)の中の2級OH基が、ウレタンプレポリマー(P1)の末端NCO基の一部と反応してウレタン結合を形成し、ウレタンプレポリマーの両末端もしくは片末端にエポキシ樹脂(a)が付加したウレタンプレポリマー(P2)となると考えられる。
【0026】
すなわち、ウレタンプレポリマー(P)は、NCO基末端のウレタンプレポリマー(P1)とP1の両末端もしくは片末端にエポキシ樹脂(a)が付加したウレタンプレポリマー(P2)の混合物と考えられるがNCO基のモル比が大きく、またエポキシ樹脂も大過剰に使用するため主に両末端にエポキシ樹脂が付加したウレタンプレポリマー(P2)が生成していると考えられる。
【0027】
エポキシ樹脂(a)の仕込み割合としては、成分(a)、(b-1)、(b-2)、(c)、(d)の合計量に対して50~85重量%使用することが好ましい。
エポキシ樹脂(a)の仕込み割合を増加させるにつれ、両末端もしくは片末端がエポキシ樹脂(a)で封止され、末端NCO基が消費され、鎖長延長剤である低分子量ポリオール化合物(d)とも反応しないウレタンプレポリマー(P2)量が増加し、末端がNCO基である当初のウレタンプレポリマー(P1)の割合が減少し、P1の末端NCO基と鎖延長剤である低分子量ポリオール化合物(d)のOH基との反応で生成するポリウレタンの生成量が減少するため、ポリウレタン変性エポキシ樹脂の分子量分布も低分子量側にシフトする。
【0028】
反対に、エポキシ樹脂(a)の仕込み割合を減少させると、両末端もしくは片末端がエポキシ樹脂(a)で封止されたウレタンプレポリマー(P2)の量が減少し、末端がNCO基のままの当初のウレタンプレポリマー(P1)の割合が増大する。そのため、P1の末端NCO基と鎖延長剤である低分子量ポリオール化合物(d)のOH基との反応で生成するポリウレタンの生成量が増大するため、ポリウレタン変性エポキシ樹脂の分子量分布も高分子量側にシフトする。
【0029】
エポキシ樹脂(a)は、繰り返し数aが0の単量体と、1以上の多量体の混合物であることが多いが、多量体の場合はエポキシ基が開環して生じる2級OH基を有する。このOH基はポリイソシアネート化合物(c)のNCO基又はウレタンプレポリマー(P)の末端のNCO基と反応性であるため、エポキシ樹脂(a)中のa=1以上体は反応する。なお、OH基を有しないa=0体はこの反応には関与しない。
【0030】
本発明のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物が減衰性を発現するのは、ポリウレタン変性エポキシ樹脂部がエポキシ樹脂組成物中において、相分離するためである。一般に相分離というと海島構造を形成させる報告が多いが、本発明では島部が球状で存在する海島構造ではなく、島部どうしが互いに連結しはじめる構造をとる状態である。そのような相分離構造は、相互侵入構造や相互連結構造などと言われ、本発明においては、少なくとも部分的に相互侵入構造や相互連結構造を有する相分離構造であることが望ましい。ポリエーテルポリオール由来の構造を有するポリオール化合物の30%以上が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)であるポリウレタン変性エポキシ樹脂を用いると、相分離した島部(ポリウレタン変性エポキシ樹脂部)は島部のTgが-40℃から40℃域になだらかなピークトップを有し、その島部が海部(エポキシ樹脂部)とほとんど相溶せず相分離し、島部どうしが互いに連結しはじめる構造をとることで、-40℃~40℃域およびその前後の温度領域において高い損失係数(tanδ)を発現させることができる。そのため、本発明の相分離構造となるために、島部のサイズや数、海部との相溶性などの制御が必要となってくる。図1~4に相分離した状態の画像を実体顕微鏡やAFM画像で示しているが、完全に海島構造を形成し島部が数nm~数十nmサイズで単独で存在するような状態ではtanδは低く、数百nm~数μmサイズまで島部が凝集し海島構造に濃淡が出始めるとtanδが上がってくる挙動が確認される。またさらに相分離が進むと数十μm~数百μmサイズまで島部が連結した相分離構造になり、より好適なtanδを示すようになる。しかしながら相分離サイズが大き過ぎると機械物性が低下する。本発明の相分離構造となるために、相分離の島サイズとしては10nm~200μmが好ましく、100nm~100μmが特に好ましい。
【0031】
相分離する島部のサイズを支配するのはポリウレタン変性エポキシ樹脂の分子量だけでなく、海部との相溶性も重要となってくる。相溶性が高いとエポキシ樹脂組成物の硬化時に島部が海部に相溶し、相分離が進まず望ましい相分離構造を形成することができなくなる。そのため好ましいサイズと数の島部を形成させるために、島部のポリウレタン変性エポキシ樹脂には、ある程度の分子量サイズと海部の未変性エポキシ樹脂と非相溶であることが必要となってくる。また非相溶な島部は相分離時の時間経過に伴い、島部どうしが徐々に連結して大きなドメインを形成し、機械物性の低下などの原因となってしまう。そのため樹脂組成物の粘度や用途に応じた硬化条件(硬化温度や硬化時間、昇温速度)によってポリウレタン変性エポキシ樹脂の最適な分子量や組成の選定が必要となる。
島部が海部に対し非相溶な状態が好ましいため、島部に相溶性を発現させるようなポリオールの使用はできるだけ避けることが好ましい。
【0032】
ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)は、相分離した島部のTgが-40℃から40℃域になだらかなピークをもつために、ポリオール化合物に由来する構造の30モル%以上が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)に由来する構造であることが好ましい。より好ましくは50モル%以上であり、さらに好ましくは75モル%以上、100%使用するとよい。ここで使用しているモルとは、各成分の重量を数平均分子量で割った値として定義される。
【0033】
相分離した島部が海部に相溶しないため、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)が重量平均分子量10000以上であり、成分(B)のなかのポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の配合量が成分(A)と成分(B)の合計量に対して、12%以上であることが好ましい。重量平均分子量については、より好ましくは12000以上45000以下であり、さらに好ましくは12000以上35000以下であるとよい。また望ましい相分離構造を形成させるために成分(B)のなかのポリオール化合物とポリイソシアネート化合物の配合量が成分(A)と成分(B)の合計量に対して、より好ましくは14%以上18%以下、さらに好ましくは15%以上18%以下であるとよい。
【0034】
本発明に使用するポリウレタン変性エポキシ樹脂の製造方法としては、例えばエポキシ樹脂(a)を、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)、PTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)、ポリイソシアネート化合物(c)および鎖長延長剤としての数平均分子量500未満の低分子量ポリオール化合物(d)の合計量に対して50~85重量%使用し、かつポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)、PTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)、ポリイソシアネート化合物(c)を、エポキシ樹脂(a)の存在下で反応させる(反応1)。この反応1では、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(b-1)、PTMG以外からなる数平均分子量500以上のポリオール化合物(b-2)とポリイソシアネート化合物(c)との反応が優先的に起こり、ウレタンプレポリマー(P1)が生成する。その後、ウレタンプレポリマー(P1)の一部とエポキシ樹脂(a)との反応が起こり、主に両末端がエポキシ化されたウレタンプレポリマー(P2)が生成し、わずかに生成する片末端がエポキシ化されたウレタンプレポリマー(P3)および両末端がNCOのままのウレタンプレポリマー(P1)との混合物となることがよい。
【0035】
上記ウレタンプレポリマー(P1)とエポキシ樹脂(a)の反応は、エポキシ樹脂(a)中の低反応性な2級OH基をNCO基と反応させてウレタン結合を生成させる必要から、反応温度は80~150℃の範囲に、反応時間は1~5時間の範囲とすることが好ましい。
【0036】
その後、必要に応じてウレタンプレポリマー(P)中のNCO基と低分子量ポリオール化合物(d)中のOH基のモル比(P):(d)が0.9:1.0~1.0:0.9の範囲になるように低分子量ポリオール化合物(d)を加えてポリウレタン化反応させる(反応2)。なお、エポキシ樹脂のエポキシ基とポリオール化合物(d)のOH基はアルコール性OH基なので反応しない。
【0037】
反応2の反応温度は、80~150℃の範囲に、反応時間は1~5時間の範囲とすることが好ましいが、上記NCO基と低分子量ポリオール化合物(d)中のOH基との反応であるため反応1より穏やかな条件で良い。
【0038】
上記反応(反応1及び2)の過程においては、必要に応じて触媒を用いることができる。この触媒は、ウレタン結合の生成を十分に完結させる目的のために使用するものであり、エチレンジアミン等のアミン化合物やスズ系化合物、亜鉛系化合物などが例示できる。
【0039】
反応2では、わずかに存在する両末端もしくは片末端がNCOであるウレタンプレポリマー(P1)は、低分子量ポリオール化合物(d)と反応して鎖長が延長されポリウレタン化し、両末端がエポキシ樹脂(a)の付加物であるウレタンプレポリマー(P2)は、未反応のまま存在する。
すなわち、本発明で使用するポリウレタン変性エポキシ樹脂は、主にウレタンプレポリマー(P)の両末端にエポキシ樹脂(a)が付加した樹脂成分、少量成分としてウレタンプレポリマー(P)の一方の片末端にエポキシ樹脂(a)が付加し、もう一方の片末端はNCO基である樹脂成分、ウレタンプレポリマー(P)の両末端がNCO基である樹脂成分およびエポキシ樹脂(a)の混合物であり、エポキシ当量は180~1000g/eqの範囲、120℃における粘度は0.1~30Pa・sの範囲であることが好ましい。
【0040】
ポリウレタン未変性エポキシ樹脂(A)の配合量を増減することによって、ポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物中のポリウレタン濃度を増減することができる。ここで、エポキシ樹脂組成物中のポリウレタン濃度は、下記数式で計算される。
ポリウレタン濃度={(b-1)+(b-2)+(c)+(d)}×100/{(A)+(B)+(C)}
ここで、(a)~(d)、(A)、(B)、(C)は、対応する各成分の使用重量である。なお、その他の成分、例えば硬化促進剤(E)などを配合する場合、これらの他成分が分母に加算される。
本発明において、エポキシ樹脂組成物中のポリウレタン濃度は、好ましくは5~30重量%、より好ましくは10~20重量%、さらに好ましくは10~15重量%である。
ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)において、ウレタン成分濃度は、好ましくは20~40重量%、より好ましくは20~35重量%である。ここで、ウレタン成分濃度は、{(b-1)+(b-2)+(c)+(d)}/{(a)+(b-1)+(b-2)+(c)+(d)}をいう。
【0041】
本発明のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物に使用するポリウレタン未変性エポキシ樹脂(A)としては、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)の原料として使用する上述したエポキシ樹脂(a)を、好ましく使用できる。すなわち、ポリウレタン変性されておらず、30℃で液状のエポキシ樹脂が好ましい。中でもビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂が入手の容易さ、価格と特性のバランスの良さの点から好ましい。
【0042】
本発明のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物には、ポリウレタン未変性エポキシ樹脂(A)として、粘度調整やTgを上げたりするために、3官能以上の多官能エポキシ樹脂を用いることもできる。多官能のエポキシ樹脂を用いると架橋密度が上がり、相分離状態が変化したり破壊靱性が失われたりするため、全組成物重量に対して0.1~10重量%にするのが好ましい。3官能以上の多官能エポキシ樹脂としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンやトリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルフェニルエーテル型エポキシ樹脂、トリグリシジルアミノフェノールのようなグリシジルアミン型かつグリシジルフェニルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。さらにはこれらのエポキシ樹脂を変性したエポキシ樹脂、これらのエポキシ樹脂をブロム化したブロム化エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0043】
この場合、25℃における粘度が5000mPa・s以下のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。それにより組成物としての粘度が下がり、炭素繊維への含浸性が向上し、トウプリプレグや引抜き成型などに適用することが可能になる。例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いることも2種以上を平癒することもできる。
【0044】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、グリセロールグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ブチルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパンボリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ジグリセロールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、アリルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、p-(tert-ブチル)フェニルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ドデシルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、トリデシルグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0045】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂、テロラヒドロ無水フタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂、第3級脂肪酸モノグリシジルエステル型エポキシ樹脂、o-フタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ダイマー酸グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのグリシジルエステル型エポキシ樹脂は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0046】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、m-(グリシドキシフェニル)ジグリシジルアミン型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジルアミノベンゼン型エポキシ樹脂、o-(N、N-ジグリシジルアミノ)トルエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0047】
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、アリサイクリックジエポキシアジペート型エポキシ樹脂、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート型エポキシ樹脂、ビニルシクロヘキセンジオキシド型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0048】
硬化剤(C)は、貯蔵安定性に優れた一液化が可能で、かつ容易に入手できる点でジシアンジアミド(DICY)又はその誘導体を使用するとよい。
【0049】
硬化剤(C)の配合量は、硬化剤がDICYの場合はポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)とポリウレタン未変性エポキシ樹脂(A)を含む全エポキシ樹脂のエポキシ基のモル数とDICYの活性水素基のモル数の比が1:0.3~1:1.2の範囲、好ましくは1:0.9~1:1.1に設定することが、硬化物特性の点から好ましい。
【0050】
本発明のウレタン変性エポキシ樹脂組成物は、さらに硬化促進剤(D)を含むことが出来る。硬化促進剤(ED)としては、イミダゾール系硬化助剤が混合時の強化繊維への含浸性、粘度増加の抑制に加え、硬化時における耐熱性を満足させるために好適に用いられる。イミダゾール系硬化助剤としては、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4´,5´-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール等を用いることが好ましい。更に、トリアジン環を含有するイミダゾール化合物が好ましく、このような化合物としては、例えば、2,4-ジアミノ-6-[2´-メチルイミダゾリル-(1´)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2´-エチル-4´-メチルイミダゾリル-(1´)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2´-ウンデシルイミダゾリル-(1´)]-エチル-s-トリアジン等が挙げられる。なかでも短時間で硬化させることができるという観点から2,4-ジアミノ-6-[2´-メチルイミダゾリル-(1´)]-エチル-s-トリアジンがより好適に用いられる。トリアジン環を含有するイミダゾール化合物は、それぞれ単独または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
一方で用途や工法によっては前記のような短時間で硬化させる必要がない場合もある。そのような場合には、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加塩(2MA-OK)、等の結晶性イミダゾール化合物や3-(3,4- ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)等の尿素化合物を用いることができる。硬化促進剤(D)の配合量は、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)とポリウレタン未変性エポキシ樹脂(A)を含む全エポキシ樹脂と硬化剤(C)の合計に対し、0.1~5wt%の範囲が好ましい。
【0051】
本発明のエポキシ樹脂組成物は用途や工法により必要に応じて離型剤(E)を含むことが出来る。離型剤は液状離型剤や固体(粉体)状離型剤などがあり、液状離型剤としては、低粘度な組成物においても均一に混ぜ合わせることができるように常温(10~30℃)で液体であればよい。また、離型剤を樹脂中に混合しておくことで、引き抜き成型性が向上する。このことにより、成型品における繊維の配向がよくなるために成型品の圧縮強度などの機械特性や、また、平滑な表面のために接着剤との密着性が増す。
【0052】
離型剤の配合量としては、全エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1~6質量部であることが好ましい。より好ましくは0.1~4質量部である。0.1質量部未満であると、十分な離型性が得られないことがある。また6質量部を超えて添加すると、成型品の強度が低下したり、密着性や接着性が低下することがある。離型剤は、それぞれ単独または2種以上を組み合わせてもよい。
【0053】
このような液状離型剤としては、エポキシ樹脂組成物と相分離せず、かつ金型の温度で蒸発や分解しないものなら特に限定されない。具体的な支配品としては、有機酸やグリセドを重縮合した巴工業株式会社製MOLDWIZ INT-1324、1324B、1836、1846、1850、1854、1882などが挙げられる。
【0054】
また固体(粉体)状離型剤としては、動物系ワックスとしてはシェラックワックス、蜜ろう、鯨ろう、植物系ワックスとしてはカルナバワックス、はぜろう、鉱物系ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、合成系ワックスとしては、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどがあり、エポキシ樹脂組成物中に均一に分散できるよう粉体状であることが望ましく、かつ成型、硬化時の温度で融解、溶解する性状であることが望ましい。
【0055】
本発明の硬化物は、前記エポキシ樹脂組成物を硬化反応させて得られるものである。前記硬化物を得る方法としては、一般的な硬化性樹脂組成物の硬化方法に準拠すればよく、例えば、加熱温度条件は、組み合わせる硬化剤の種類や用途等によって、適宜選択すればよい。例えば、前記エポキシ樹脂組成物を室温~250℃程度の温度範囲で加熱する方法が挙げられる。成型方法なども硬化性樹脂組成物の一般的な方法を用いることが可能である。
【0056】
本発明の硬化物は、優れた耐熱性を有し、減衰性に優れたものとなることから、前記硬化物におけるガラス転移温度(Tg)が120℃以上でありことが好ましく、-40℃~40℃の温度範囲において損失係数(tanδ)が0.03以上である。
【0057】
本発明の繊維強化複合材料とは、本発明のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含侵させ繊維強化複合材料用組成物を得てそれを成型硬化させることで得ることが出来る。ここで、強化繊維は、有撚糸、解撚糸、または無撚糸などいずれでも良いが、解撚糸や無撚糸が、繊維強化複合材料において優れた成型性を有することから好ましい。さらに、強化繊維の形態は、繊維方向が一方向に引き揃えたものや、織物が使用できる。織物では、平織り、朱子織りなどから、使用する部位や用途に応じて自由に選択することができる。具体的には、機械強度や耐久性に優れることから、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが挙げられ、これらは単独で用いることも2種以上を併用することもできる。これらの中でもとりわけ成型品の強度が良好なものとなる点から炭素繊維が好ましく、かかる、炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系などの各種のものが使用できる。
【0058】
本発明のエポキシ樹脂組成物から繊維強化複合材料を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、前記エポキシ樹脂組成物を構成する各成分を均一に混合してワニスを製造し、プリプレグとして、例えば連続した炭素繊維を一方向に並べシート状にしたものや炭素繊維織物などの機材に樹脂を含浸させたもの、炭素繊維基材の少なくとも片方の表面に樹脂層を配置したもの、またその前記表面にさらに繊維層を配置したもの、また前記で得られたワニスに強化繊維を一方向に引き揃えた一方向強化繊維を浸漬させる方法(プルトリュージョン法やフィラメントワインディング法での硬化前の状態、トウプリプレグ)、また強化繊維のシートや織物を重ねて金型内にセットし、その後金型内に樹脂を注入し圧力をかけて含浸または内部を減圧させて含浸させる方法(RTM法での硬化前の状態)等が挙げられる。
【0059】
本発明の繊維強化複合材料は、成型物全体積に対する強化繊維の体積含有率が40%~85%であることが好ましく、強度の点から50~75%の範囲であることがさらに好ましい。体積含有率が40%未満の場合、前記エポキシ樹脂組成物の含有量が多すぎて得られる硬化物の弾性率や強度が不足したり、要求される諸特性を満たすことができなかったりする場合がある。また体積含有率が85%を超えると、強化繊維中の樹脂が不足し接着性不足やボイドの発生などにつながり、硬化物の弾性率や強度が不足したり、界面密着性が低下してしまう場合がある。
【実施例0060】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。本発明はこの具体例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0061】
物性の評価方法は、次の通りである。
(1)IRによる残存NCO基の有無判定: 得られたポリウレタン変性エポキシ樹脂0.05gを10mlのテトラヒドロフランに溶解した後、マイクロシュパーテル平板部を用いてKBr板上に塗り付け、室温で15分間乾燥してテトラヒドロフランを蒸発させてIR測定用試料を調製した。これをパーキンエルマー社製FT-IR装置Spectrum-Oneにセットし、NCO基の特性吸収帯である2270cm-1の伸縮振動吸収スペクトルが消失した場合に残存NCO基なし、と判定した。
(2)エポキシ当量: JIS K 7236 に従って定量した。
(3)水酸基当量: ジメチルホルムアミド25mlを200mlガラス栓付三角フラスコにとり、水酸基11mg/当量以下を含む試料を精秤して加え溶解させる。1mol/L-フェニルイソシアネートトルエン溶液20mlとジブチルスズマレート触媒溶液1mlとをそれぞれピペットで加え、よく振り混ぜて混合し、密栓して30~60分間反応させる。反応終了後2mol/L-ジブチルアミントルエン溶液20mlを加えよく振り混ぜて混合し、15分間放置して過剰のフェニルイソシアネートと反応させる。次に、メチルセロソルブ30mlとブロムクレゾールグリーン指示薬0.5mlとを加え、過剰のアミンを標定済の過塩素酸メチルセロソルブ溶液で滴定する。指示薬は青から緑さらに黄色へと変化するので、黄色になった最初の点を終点とし、以下の式i、式iiを用いて水酸基当量を求めた。
水酸基当量 (g/eq)=(1000×W)/C(S-B)・・・(i)
C:過塩素酸メチルセロソルブ溶液の濃度 mol/L
W:試料量 (g)
S:過塩素酸メチルセロソルブ溶液の滴定量 (ml)
B:滴定の際のブランクテストに要した過塩素酸メチルセロソルブ溶液の滴定量 (ml)
C=(1000×W)/{121×(s-b)}・・・(ii)
w:標定のために秤取したトリス-(ハイドロキシメチル)-アミノメタンの採取量 (g)
s:トリス-(ハイドロキシメチル)-アミノメタンの滴定に要した過塩素酸メチルセロソルブ溶液の滴定量 (ml)
b:標定の際のブランクテストに要した過塩素酸メチルセロソルブ溶液の滴定量 (ml)
【0062】
(4)ガラス転移温度(Tg):昇温速度10℃/分の条件下、示差走査熱量計(DSC)を用いてベースラインと変曲点での接線の交点をガラス転移温度(Tg)を導出した。
(5)引張試験: JIS K 7161の形状に金型注型によって成形した硬化物を試験片とし、万能試験機を用いて、室温23℃下で引張試験を行い、引張強度、引張伸度、引張弾性率をおのおの測定した。
(6)重量平均分子量(Mw):下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
測定装置:東ソー株式会社製 HLC-8420GPC
カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ-M×2
測定条件:温度40℃、溶離液THF、流量0.35mL/min
試料:ポリスチレンSRM706a
(7)損失係数(tanδ):樹脂硬化物または成型物を50mmL×10mmW×2mmtの形状に金型注型、加工した試験片を、周波数10Hz、昇温速度2℃/minの条件下、動的粘弾性装置を用いて損失係数(tanδ)を測定し、-40℃~40℃温度範囲の値を算出した。
(8)硬化物の相分離構造の評価方法:実施例および比較例で得た樹脂組成物を真空脱泡し、4mm厚のスペーサーを金属板で挟んだ注型板を用いて、硬化促進剤(D)において2MAOKを用いたような速硬化系ではない場合は120℃で1時間、その後150℃で1時間かけて硬化物を得た。また硬化促進剤(D)において2MZA-PWを用いたような速硬化系の場合は130℃15分かけて硬化物を得た。その後、硬化物を切り出しミクロトームでトリミングして表面を実体顕微鏡で観察、もしくは原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)で観察した。
実体顕微鏡:
装置:ライカ実体顕微鏡M205C
照明:同軸照明
原子間力顕微鏡(AFM):
装置:Dimension Icon型AFM(Bruker-AXS製)
プローブ:NCHV(Bruker-AXS製)
先端曲率半径10nm
ばね定数42N/m(公称値)
モード:Tapping Mode
判断基準は、以下のとおり。
×:海島構造。球状島構造で、島サイズが数10nmレベル、tanδは低い(0.01~0.02レベル)。
△:相分離構造。島凝集が生じ、島サイズが数μmレベル、tanδは0.03程度。
〇:相分離構造。島凝集が拡大しサラミ状で、島サイズが数10~100μmレベル。tanδは0.04以上。
【0063】
使用した原料は次のとおりである。
成分A
日鉄ケミカル&マテリアル製エポトートYD-128、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量187g/eq、液状
日鉄ケミカル&マテリアル製エポトートYH-300、トリメチロールプロパンのグリシジルポリエーテル、エポキシ当量142g/eq、液体
日鉄ケミカル&マテリアル製YD-014、ビスフェノールA型2官能エポキシ樹脂、エポキシ当量950g/eq、固体
成分B
エポキシ樹脂(a):
日鉄ケミカル&マテリアル製エポトートYDF-170、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170g/eq、水酸基当量2600g/eq、液状
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(b-1):
三菱ケミカル製PTMG1000、数平均分子量1000、水酸基当量500g/eq、
三菱ケミカル製PTMG2000、数平均分子量2000、水酸基当量1000g/eq、
三菱ケミカル製PTMG3000、数平均分子量3000、水酸基当量1500g/eq、
三菱ケミカル製PTMG4000、数平均分子量4000、水酸基当量2000g/eq、
【化12】
ポリオール化合物(b-2):
ADEKA製アデカポリエーテルP-2000、ポリプロピレングリコール、数平均分子量2000、水酸基当量1020g/eq
【化13】
ポリイソシアネート化合物(c):
三井化学製コスモネートPH、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
【化14】
三井化学製コスモネートT-80、トリレンジイソシアネート(下記式の2,4-体、2,6-体の混合物)
【化15】
低分子量ポリオール化合物(d):
1,4-ブタンジオール(試薬)、分子量90
【化16】
成分C:
EVONIK製DICYANEX1400F、ジシアンジアミド
成分D:
四国化成工業製結晶性イミダゾール、キュアゾール2MZA-PW、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン
四国化成工業製結晶性イミダゾール、キュアゾール2MA-OK、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加塩
【0064】
合成例1
エポキシ樹脂(a)としてエポトートYDF-170、ポリテトラメチレンエーテルグリコールとして三菱ケミカルPTMG2000、ポリイソシアネート(c)としてコスモネートPHを使用した。これらの使用量を表1に示す。
窒素導入管、攪拌機、温度調節機を備えた1000ml四つ口セパラブルフラスコに、エポトートYDF-170、PTMG2000を仕込み、120℃に加温し120分間撹拌混合した。次にコスモネートPHを添加し、120℃で2時間反応させて、ポリウレタン変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂を得た(合成例1)。
反応が完結していることは、IR測定により、NCO基の吸収スペクトルが消失したことで確認した。得られたポリウレタン変性ビスフェノーF型エポキシ樹脂(合成例1)のエポキシ当量は218g/eq、重量平均分子量(Mw)は14000であった。
【0065】
合成例2~12
原料仕込み組成を表1のとおりとした以外は、合成例1と同じ手順で反応を行い、ポリウレタン変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂を得た。
【0066】
次に、上述した合成例1~12で得られたポリウレタン変性エポキシ樹脂を使用したエポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物の実施例を示す。その結果を表2,3にまとめて示す。
【0067】
実施例1
ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)として、合成例1で得たポリウレタン変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ポリウレタン未変性エポキシ樹脂(A)としてエポトートYD-128、硬化剤(C)としてジシアンジアミド、硬化促進剤(D)として2MZA-PWを各々表2記載の配合で200mlの専用ディスポカップに仕込み、自転・公転ラボ用真空プラネタリーミキサーを用いて5分間真空脱泡しつつ攪拌混合し、液状の樹脂組成物を得た。ここで、エポキシ基とジシアンジアミドのモル比は、1.0:0.5とし、ポリウレタン変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂組成物を140g調製した。
次に、この液状樹脂組成物をJISK7161の試験片寸法の溝形状を有する金型に注型した。引張試験用試験片寸法、および破壊靭性試験片寸法はダンベル型、DMA試験用試験片寸法は100mmL×10mmW×1mmtの金型もしくはシリコン製枠に注液し、測定に適したサイズにカットして用いた。このときの注型性は、余裕をもって十分注型可能なレベルであった。次に、樹脂を注型した金型を熱風オーブン中に入れ、130℃で15分加熱硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物試験片を調製した。この試験片を使用した試験結果を表2に示す。
【0068】
実施例2~10、比較例1~5
原料仕込み量を表2、表3のとおりとした以外は、実施例1と同じ手順で反応を行い、樹脂組成物および硬化物を得た。これらの試験片を使用した試験結果を表2、表3に示す。
実体顕微鏡で観察した代表的な相分離形態の画像を、実施例1、7、9及び比較例1について、図1~4に示す。なお、比較例1については、AFM画像も併せて示す。
本発明にて優れた損失係数を発現するためにはポリウレタン変性エポキシ樹脂部が周囲のそれ以外のエポキシ樹脂部に対して最適に相分離した状態(相互連結構造)を形成させることが重要となる。そのためポリウレタン変性エポキシ樹脂部の添加量や分子量、硬化して相分離するまでの硬化時間などの条件の組み合わせにより機能が発現したりしなかったりする。そのため同じ樹脂組成物においても速硬化系の硬化条件によっては相分離する前に硬化が進み、損失係数が低くでることもある。
実施例1~10はいずれも、ポリウレタン変性エポキシ樹脂部(B)が周囲のそれ以外のエポキシ樹脂部(A)に対して最適な相分離構造を形成している一方、比較例1~5は、最適な相分離構造を形成していない。
比較例1、2、3、5では、ウレタン成分の添加量が低いため十分な損失係数が発現されなかった。一般的に分子量が大きいほど相分離しやすく、またポリエーテルポリオールの分子量が大きいほどエポキシ部に対して相分離しやすい傾向になるため、効果が発現する添加量は変化する。比較例4は異なるポリオールを用いているため相分離したときのピーク自体が低下するため常温域で高い損失係数が得られない。
【0069】
実施例11
ポリウレタン変性エポキシ樹脂(B)として、合成例6で得たポリウレタン変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ポリウレタン未変性エポキシ樹脂(A)としてエポトートYD-128、硬化剤(C)としてジシアンジアミド、硬化促進剤(D)として2MAOKを各々表4記載の配合で200mlの専用ディスポカップに仕込み、自転・公転ラボ用真空プラネタリーミキサーを用いて5分間真空脱泡しつつ攪拌混合し、液状の樹脂組成物を得た。ここで、エポキシ基とジシアンジアミドのモル比は、1.0:0.5とし、ポリウレタン変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂組成物を140g調製した。
次に、この液状樹脂組成物をJISK7161の試験片寸法の溝形状を有する金型に注型した。引張試験用試験片寸法、および破壊靭性試験片寸法はダンベル型、DMA試験用試験片寸法は100mmL×10mmW×1mmtの金型もしくはシリコン製枠に注液し、測定に適したサイズにカットして用いた。このときの注型性は、余裕をもって十分注型可能なレベルであった。次に、樹脂を注型した金型を熱風オーブン中に入れ、120℃で60分、その後150℃で60分加熱硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物試験片を調製した。この試験片を使用した試験結果を表4に示す。
【0070】
実施例12、13、比較例6~8
原料仕込み量を表4のとおりとした以外は、実施例11と同じ手順で反応を行い、樹脂組成物および硬化物を得た。粘度調整のため固形エポキシ樹脂を使用するときは事前に液状エポキシ樹脂と100-150℃で混合してから用いる。これらの試験片を使用した試験結果を表4に示す。
実施例12、13はいずれも、ポリウレタン変性エポキシ樹脂部(B)が周囲のそれ以外のエポキシ樹脂部(A)に対して最適な相分離構造を形成している一方、比較例6~8は、最適な相分離構造を形成していない。
比較例6は異なるポリオールを用いているため相分離したときのピーク自体が低下するため常温域で高い損失係数が得られない。比較例7は数平均分子量500未満の低分子量ポリオール化合物の添加量が多いため、ポリウレタン変性エポキシ樹脂のエポキシ樹脂部に対する相溶性が高くなり、相分離する島部のサイズや数が低下し、十分な損失係数が得られない。比較例8ではポリエーテルポリオールの分子量が低く、さらにポリウレタン変性エポキシ樹脂の分子量も小さいため、相分離する島部のサイズや数が低下し、同じく十分な損失係数が得られない。
【0071】
実施例1~13の規定量含有する組成物の硬化物は、比較例1~8に比べて、120℃以上のTgを有しながら、-40℃から40℃の広い温度範囲においてtanδ=0.03以上を有するものであった。
【0072】
50℃に加温した実施例2の組成物の樹脂槽に炭素繊維を通紙し、150℃に加熱した金型を通して引き抜き成型をおこない、炭素繊維複合強化材料を得た。炭素繊維は中弾性PAN系炭素繊維(T-700SC、東レ社製、引張弾性230GPa)を用いた。作製したサンプルはVfが70%であり、-40℃から40℃の広い温度範囲においてtanδ=0.03以上を有するものであった(CFRP1)。
【0073】
一方、50℃に加温した比較例4の組成物の樹脂槽に炭素繊維を通紙し、150℃に加熱した金型を通して引き抜き成型をおこない、炭素繊維複合強化材料を得た。炭素繊維は中弾性PAN系炭素繊維(T-700SC、東レ社製、引張弾性230GPa)を用いた。作製したサンプルはVfが69%であり、0℃~40℃の温度範囲においてtanδ=0.03以下を有するものであった(CFRP2)。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のポリウレタン変性エポキシ樹脂組成物は、低粘度であり繊維含浸性に優れ、ガラス転移温度の低下を抑制しつつ、かつ硬化物が最適な相分離構造を形成しており、高い損失係数(tanδ)を有するため、減衰性を必要とする産業用、スポーツレジャー用、土木建築用などの複合材料用のマトリックス樹脂や接着剤の配合樹脂などに有用である。
図1
図2
図3
図4