(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096692
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/139 20060101AFI20230630BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
F16F15/139 C
F16F15/134 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212616
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】上原 宏
(57)【要約】
【課題】減衰性能の低下を抑制する。
【解決手段】ダンパ装置は、入力回転体30、出力回転体40、弾性連結部50、ヒステリシストルク発生機構60を備える。ヒステリシストルク発生機構60は、入力回転体30及び出力回転体40の少なくとも一方との間でヒステリシストルクを発生させる。ダンパ装置1は、中立状態と、第1捩り状態と、第2捩り状態となるように構成されている。ヒステリシストルク発生機構60は、ダンパ装置1が第1捩り状態のとき、ヒステリシストルクを発生させないように構成されている。また、ヒステリシストルク発生機構60は、ダンパ装置が第2捩り状態のとき、捩り角度が第1角度未満の第1領域においてヒステリシストルクを発生させないように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び駆動ユニットとの間に配置されるダンパ装置であって、
回転可能に配置される入力回転体と、
前記入力回転体と相対回転可能に配置される出力回転体と、
前記入力回転体と前記出力回転体とを弾性的に連結する弾性連結部と、
前記入力回転体及び前記出力回転体の少なくとも一方との間でヒステリシストルクを発生させるように構成されるヒステリシストルク発生機構と、
を備え、
当該ダンパ装置は、前記エンジン及び前記駆動ユニットからトルクが伝達されないと中立状態となり、前記エンジンからトルクが伝達されると第1捩り状態となり、前記駆動ユニットからトルクが伝達されると第2捩り状態となるように構成され、
前記ヒステリシストルク発生機構は、当該ダンパ装置が前記第1捩り状態のとき、ヒステリシストルクを発生させないように構成され、当該ダンパ装置が前記第2捩り状態のとき、捩り角度が第1角度未満の第1領域においてヒステリシストルクを発生させないように構成される、
ダンパ装置。
【請求項2】
前記ヒステリシストルク発生機構は、当該ダンパ装置が前記第2捩り状態のとき、捩り角度が前記第1角度以上第2角度未満の第2領域において、第1ヒステリシストルクを発生させるように構成される、
請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
前記ヒステリシストルク発生機構は、当該ダンパ装置が前記第2捩り状態のとき、捩り角度が前記第2角度以上第3角度未満の第3領域において前記第1ヒステリシストルクよりも大きい第2ヒステリシストルクを発生させるように構成される、
請求項2に記載のダンパ装置。
【請求項4】
前記ヒステリシストルク発生機構は、当該ダンパ装置が前記第2捩り状態のとき、捩り角度が前記第3角度以上最大角度以下の第4領域において、前記第2ヒステリシストルクよりも大きい第3ヒステリシストルクを発生させるように構成される、
請求項3に記載のダンパ装置。
【請求項5】
前記ヒステリシストルク発生機構は、当該ダンパ装置が前記第2捩り状態のとき、前記第3領域において、前記第1ヒステリシストルクよりも大きい第2ヒステリシストルクを発生させるとともに、所定の微小捩り角度範囲内では、ヒステリシストルクを発生させないように構成される、
請求項3又は4に記載のダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダンパ装置は、コイルスプリングによって、エンジンからのトルク変動を吸収して減衰するように構成されている。具体的には、ダンパ装置は、入力回転体、出力回転体、及びこれらを弾性的に連結する複数のコイルスプリングを有している。また、トルク変動をさらに吸収して減衰させるために、摩擦材によってヒステリシストルクを発生させるダンパ装置も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されたダンパ装置は、第1プレートと、第2プレートと、これらを弾性的に連結する弾性部材と、第1及び第2摩擦材とを有している。エンジンからのトルクが伝達されてダンパ装置が捩れるとき、第1摩擦材は相対的に小さいヒステリシストルクを発生させる。一方、エンジン始動時にダンパ装置が反対側に捩れるとき、第2摩擦材は相対的に大きいヒステリシストルクを発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように構成されたダンパ装置では、ハイブリッド自動車において、エンジンを掛けた状態でスタンバイさせているときの減衰性能が低下するという問題が生じる。
【0006】
本発明の課題は、減衰性能の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある側面に係るダンパ装置は、エンジン及び駆動ユニットとの間に配置されている。このダンパ装置は、入力回転体と、出力回転体と、弾性連結部と、ヒステリシストルク発生機構とを備える。入力回転体は、回転可能に配置されている。出力回転体は、入力回転体と相対回転可能に配置されている。弾性連結部は、入力回転体と出力回転体とを弾性的に連結する。ヒステリシストルク発生機構は、入力回転体及び出力回転体の少なくとも一方との間でヒステリシストルクを発生させるように構成されている。ダンパ装置は、中立状態と、第1捩り状態と、第2捩り状態となるように構成されている。中立状態とは、エンジン及び駆動ユニットからトルクが伝達されないときのダンパ装置の状態である。第1捩り状態とは、エンジンからトルクが伝達されたときのダンパ装置の状態である。第2捩り状態とは、駆動ユニットからトルクが伝達されたときのダンパ装置の状態である。ヒステリシストルク発生機構は、ダンパ装置が第1捩り状態のとき、ヒステリシストルクを発生させないように構成されている。また、ヒステリシストルク発生機構は、ダンパ装置が第2捩り状態のとき、捩り角度が第1角度未満の第1領域においてヒステリシストルクを発生させないように構成されている。
【0008】
以上のように、ヒステリシストルク発生機構は、第1捩り状態においてヒステリシストルクを発生させず、また、第2捩り状態において捩り角度が第1角度未満の第1領域にあるときもヒステリシストルクを発生させない。この構成によれば、第1捩り状態と第2捩り状態との切り替え時におけるヒステリシストルクの急激な変化がないため、エンジンをスタンバイ状態にしているときの減衰性能の低下を防止することができる。なお、ヒステリシストルクとは、摩擦材が他の部材と摺動することによって発生するトルクのことを意味する。例えば、コイルスプリングが他の部材と摺動することによって発生するような微小なトルクは本発明におけるヒステリシストルクには含まれない。
【0009】
好ましくは、ヒステリシストルク発生機構は、ダンパ装置が第2捩り状態のとき、捩り角度が第1角度以上第2角度未満の第2領域において、第1ヒステリシストルクを発生させるように構成される。
【0010】
好ましくは、ヒステリシストルク発生機構は、ダンパ装置が第2捩り状態のとき、捩り角度が第2角度以上第3角度未満の第3領域において第1ヒステリシストルクよりも大きい第2ヒステリシストルクを発生させるように構成される。
【0011】
好ましくは、ヒステリシストルク発生機構は、ダンパ装置が第2捩り状態のとき、捩り角度が第3角度以上最大角度以下の第4領域において、第2ヒステリシストルクよりも大きい第3ヒステリシストルクを発生させるように構成される。
【0012】
好ましくは、ヒステリシストルク発生機構は、ダンパ装置が第2捩り状態のとき、第3領域において、第1ヒステリシストルクよりも大きい第2ヒステリシストルクを発生させるとともに、所定の微小捩り角度範囲内では、ヒステリシストルクを発生させないように構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、減衰性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3A】入力回転体とハブフランジとの関係を示す模式図。
【
図3B】ハブフランジに対して入力回転体がR1側に角度θ1捩れた状態を示す模式図。
【
図3C】ハブフランジに対して入力回転体がR1側に角度θ3捩れた状態を示す模式図。
【
図3D】ハブフランジに対して入力回転体がR2側に角度θ1捩れた状態を示す模式図。
【
図9】中立状態からR1側に2°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図10】中立状態からR1側に4°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図11】中立状態からR2側に2°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図12】中立状態からR2側に4°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図13】中立状態からR2側に3°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図14】中立状態からR2側に2°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図15】中立状態からR2側に1°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図17】中立状態からR2側に2°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図18】中立状態からR2側に4°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図19】中立状態からR2側に7°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図20】中立状態からR2側に5°捩れた状態を示す動作説明図。
【
図21】中立状態からR2側に3°捩れた状態を示す動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態によるトルクリミッタ付きダンパ装置1(以下、単に「ダンパ装置」と記載する)の断面図である。また、
図2はダンパ装置1の正面図であり、その一部は構成する部材を取り外して示している。
図1においては、ダンパ装置1の左側にエンジン(図示せず)が配置され、右側に電動機や変速装置等を含む駆動ユニット(図示せず)が配置されている。
【0016】
なお、以下の説明において、軸方向とは、ダンパ装置1の回転軸Oが延びる方向である。また、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向であり、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向である。なお、円周方向とは、回転軸Oを中心とした円の円周方向に完全に一致している必要はない。また、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の直径方向に完全に一致している必要はない。また、捩り角度とは、ハブフランジ40に対して入力回転体30が捩れた角度を意味する。
【0017】
図1に示すように、ダンパ装置1は、フライホイール(図示せず)と駆動ユニットの入力軸(図示せず)との間でトルクを伝達するように構成されている。ダンパ装置1は、エンジンと駆動ユニットとの間に配置される。ダンパ装置1は、エンジンと駆動ユニットとの間で伝達されるトルクを制限するとともに、回転変動を減衰するための装置である。ダンパ装置1は、トルクリミッタユニット10と、ダンパユニット20と、を有している。ダンパ装置1は、エンジンからのトルクを駆動ユニット側に伝達するとき、第1回転方向に回転する。
【0018】
[トルクリミッタユニット10]
トルクリミッタユニット10は、ダンパユニット20に対して径方向外側に配置されている。トルクリミッタユニット10は、フライホイールとダンパユニット20との間で伝達されるトルクを制限する。トルクリミッタユニット10は、カバープレート11と、支持プレート12と、摩擦ディスク13と、プレッシャプレート14と、コーンスプリング15と、を有している。
【0019】
カバープレート11と支持プレート12とは、軸方向において所定の間隔をあけて配置されている。カバープレート11の外周部と支持プレート12の外周部とが、複数のボルト16によってフライホイールに固定されている。
【0020】
摩擦ディスク13、プレッシャプレート14、及びコーンスプリング15は、軸方向において、カバープレート11と支持プレート12との間に配置されている。
【0021】
摩擦ディスク13は、コアプレートと、コアプレートの両側面に固定された1対の摩擦部材と、を有している。摩擦ディスク13の内周部は、複数のリベット17によってダンパユニット20に固定されている。プレッシャプレート14及びコーンスプリング15は、摩擦ディスク13と支持プレート12との間に配置されている。
【0022】
プレッシャプレート14は、環状に形成されている。プレッシャプレート14は、摩擦ディスク13に対して、支持プレート12側に配置されている。なお、プレッシャプレート14は、その外周部において、複数の爪14aを有している。この爪14aは、支持プレート12に形成された複数の係合孔12aに係合している。
【0023】
コーンスプリング15は、プレッシャプレート14と支持プレート12との間に配置されている。コーンスプリング15は、プレッシャプレート14を介して摩擦ディスク13をカバープレート11に押圧している。
【0024】
[ダンパユニット20]
ダンパユニット20は、入力回転体30と、ハブフランジ40(出力回転体の一例)と、弾性連結部50と、ヒステリシストルク発生機構60と、を有している。
【0025】
<入力回転体30>
図1及び
図2に示すように、入力回転体30は、回転可能に配置されている。入力回転体30は、第1プレート31及び第2プレート32を有している。第1プレート31及び第2プレート32は、中心部に孔を有する円板状に形成されている。第1プレート31と第2プレート32とは、互いに軸方向に間隔をあけて配置されている。
【0026】
第1プレート31及び第2プレート32のそれぞれは、1対の第1支持部301及び1対の第2支持部302を有している。第1プレート31の第1支持部301は、第2プレート32の第1支持部301と同じ位置に形成されている。また、第1プレート31の第2支持部302は、第2プレート32の第2支持部302と同じ位置に形成されている。第2プレート32は、リベット17に対応する位置に組付用の孔32aを有している。
【0027】
第1プレート31は、複数のストッパ部31a及び複数の固定部31bを有している。ストッパ部31a及び固定部31bは、第1プレート31の外周部に配置されている。
【0028】
ストッパ部31aは、第2プレート32に向かって軸方向に延びている。ストッパ部31aは、第1プレート31の外周部を第2プレート32側に折り曲げることによって形成されている。
【0029】
固定部31bは、ストッパ部31aの先端を径方向外側に折り曲げることによって形成されている。この固定部31bが、第2プレート32の外周端部に複数のリベット33によって固定されている。このため、第1プレート31と第2プレート32とは、互いに相対回転不能であり、互いに軸方向に移動不能である。
【0030】
第1プレート31の1対の第1支持部301は、回転軸Oを中心に、互いに180度の間隔をあけて配置されている。また、第1プレート31の各第2支持部302は、各第1支持部と90°の間隔をあけて配置されている。第2プレート32の第1支持部301及び第2支持部302も同様の位置に配置されている。各支持部301,302は、軸方向に貫通する孔と、この孔の内周縁及び外周縁に切り起こされた縁部と、を有している。
【0031】
図3A~
図3Dに模式的に示すように、各支持部301,302は、第1回転方向側(以下、単に「R1側」と記載する)の端部にR1支持面301a,302aを有し、第2回転方向側(以下、単に「R2側」と記載する)の端部にR2支持面301b,302bを有している。各支持部301,302における孔の幅(R1支持面とR2支持面との間の距離)はLである。
【0032】
なお、
図3A~
図3Dでは、第1支持部301及び第2支持部302を実線で示し、後述するハブフランジ40の第1収容部401及び第2収容部402を一点鎖線で示している。また、
図3は模式図であって、
図2で示す実際の具体的な形状とは異なっている。
【0033】
<ハブフランジ40>
図1及び
図2に示すように、ハブフランジ40は、ハブ41及びフランジ42を有している。ハブ41及びフランジ42は、一つの部材によって互いに一体的に構成されている。ハブフランジ40は、入力回転体30に対して所定の角度範囲で相対回転可能である。ハブ41は、筒状に形成され、中心部にはスプライン孔41aが形成されている。また、ハブ41は第1プレート31及び第2プレート32の中心部の孔を貫通している。
【0034】
フランジ42は、円板状であり、ハブ41の外周面から径方向外側に延びている。フランジ42は、軸方向において、第1プレート31と第2プレート32との間に配置されている。
【0035】
フランジ42は、複数のストッパ用突起42bと、1対の第1収容部401と、一対の第2収容部402と、複数の切欠403と、を有している。
【0036】
ストッパ用突起42bは、フランジ42の外周面から径方向外側に突出して形成されている。各ストッパ用突起42bが形成された位置は、各収容部401,402の円周方向の中央部の径方向外側である。そして、入力回転体30とハブフランジ40とが互いに相対回転した際に、ストッパ用突起42bが第1プレート31のストッパ部31aに当接することにより、入力回転体30とハブフランジ40との相対回転が禁止される。
【0037】
図3Aに示すように、1対の第1収容部401は、1対の第1支持部301に対応する位置に配置されている。また、1対の第2収容部402は、1対の第2支持部302に対応する位置に配置されている。より詳細には、入力回転体30とハブフランジ40との間の相対回転角度が0°であって両者が捩じれていない中立状態(捩り角度0°)では、
図3Aに示すように、1対の第1収容部401は、第1支持部301に対して軸方向視で一部が重なるようにかつR1側に角度θ1(例えば捩り角度2°)だけオフセットして配置されている。また、第2収容部402は、第2支持部302に対して軸方向視で一部が重なるようにかつR2側に同じ角度θ1だけオフセットして配置されている。
【0038】
各収容部401,402は、軸方向視において、外周部が円弧状のほぼ矩形の孔である。各収容部401,402は、R1側の端部にR1収容面401a,402aを有し、R2側の端部にR2収容面401b,402bを有している。各収容部401,402の孔の幅(R1収容面401a,402aと、R2収容面401b,402bと、の間の距離)は、各支持部301,302の孔の幅と同様にLに設定されている。
【0039】
図2に示すように、切欠403は、円周方向において隣り合う第1収容部401と第2収容部402との間に配置されている。切欠403は、フランジ42の外周面から径方向内側に向かって所定の深さで形成されている。各切欠403が形成された位置は、トルクリミッタユニット10の摩擦ディスク13と第1プレート31とを連結するリベット17の位置に対応している。したがって、それぞれ別工程で組み立てられたトルクリミッタユニット10及びダンパユニット20を、第2プレート32の組付用孔32a及びフランジ42の切欠403を利用して、リベット17により固定することが可能である。
【0040】
<弾性連結部50>
図1及び
図2に示すように、弾性連結部50は、入力回転体30とハブフランジ40とを弾性的に連結する。弾性連結部50は、複数のコイルスプリング51と、複数の樹脂部材52と、を有している。なお、弾性連結部50は、複数の樹脂部材52を有していなくてもよい。
【0041】
各コイルスプリング51は、外スプリング及び内スプリングを有している。コイルスプリング51は、フランジ42の各収容部401,402内に収容されている。コイルスプリング51は、入力回転体30の各支持部301,302によって径方向及び軸方向に支持されている。これらのコイルスプリング51は並列で作動する。
【0042】
また、各コイルスプリング51の自由長は、互いに同じである。このコイルスプリング51の自由長は、各支持部301,302及び各収容部401,402の幅Lと同じである。また、各コイルスプリング51の剛性は互いに同じである。各樹脂部材52の剛性は、互いに同じである。
【0043】
<コイルスプリング51の収容状態>
ここで、中立状態での、各支持部301,302と各収容部401,402との配置、及び各コイルスプリング51の収容状態について、以下に詳細に説明する。なお、以下の説明において、第1支持部301及び第1収容部401を「第1窓セットw1」と記載し、第2支持部302及び第2収容部402を「第2窓セットw2」と記載する場合がある。
【0044】
前述のように、中立状態では、
図3Aに示すように、各第1収容部401は、対応する各第1支持部301に対してR1側に角度θ1だけオフセットされている。一方、各第2収容部402は、対応する各第2支持部302に対してR2側に角度θ1だけオフセットされている。そして、各支持部301,302と対応する各収容部401,402の軸方向において重なった部分の開口(軸方向に貫通する孔)に、コイルスプリング51が圧縮された状態で装着されている。
【0045】
具体的には、
図3Aに示すように、中立状態において、各第1窓セットw1では、コイルスプリング51のR1側の端面がR1支持面301aに当接し、R2側の端面がR2収容面401bに当接している。すなわち、中立状態において、各第1窓セットw1では、コイルスプリング51のR1側の端面は、入力回転体30と接触する一方で、ハブフランジ40とは接触していない。また、中立状態において、各第1窓セットw1では、コイルスプリング51のR2側の端面は、ハブフランジ40と接触する一方で、入力回転体30とは接触していない。
【0046】
各第2窓セットw2では、コイルスプリング51のR1側の端面がR1収容面402aに当接し、R2側の端面がR2支持面302bに当接している。すなわち、中立状態において、各第2窓セットw2では、コイルスプリング51のR1側の端面は、ハブフランジ40と接触する一方で、入力回転体30とは接触していない。また、中立状態において、各第2窓セットw2では、コイルスプリング51のR2側の端面は、入力回転体30と接触する一方で、ハブフランジ40とは接触していない。
【0047】
<ヒステリシストルク発生機構60>
図1及び
図4に示すように、ヒステリシストルク発生機構60は、第1ブッシュ61と、第2ブッシュ62と、コーンスプリング63と、フリクションプレート64と、を有している。ヒステリシストルク発生機構60は、入力回転体30との間でヒステリシストルクを発生させる。
【0048】
ヒステリシストルク発生機構60は、入力回転体30と相対回転することによって、ヒステリシストルクを発生させる。具体的には、以下に説明するように、ヒステリシストルク発生機構60は、第1ブッシュ61及びフリクションプレート64が入力回転体30と相対回転することによって、ヒステリシストルクを発生させる。なお、
図4は、
図1の拡大部分図である。
【0049】
第1ブッシュ61は、軸方向において、第1プレート31とフランジ42との間に配置されている。第2ブッシュ62、コーンスプリング63、及びフリクションプレート64は、軸方向において、第2プレート32とフランジ42との間に配置されている。なお、軸方向において、フリクションプレート64は、フランジ42と第2ブッシュ62との間に配置され、コーンスプリング63は、第2プレート32と第2ブッシュ62との間に配置されている。
【0050】
第1ブッシュ61は、第1プレート31に対して相対回転可能である。また、第1ブッシュ61は、フランジ42に対して相対回転可能である。第1ブッシュ61の第1プレート31側の面には、摩擦部材611が固定されている。このため、第1ブッシュ61が第1プレート31と相対回転すると、ヒステリシストルクが発生する。
【0051】
第1ブッシュ61とフリクションプレート64とは、互いに一体的に回転する。詳細には、第1ブッシュ61は、
図4に示すように、複数の規制突起61aと、複数の係合突起61bと、を有している。係合突起61bは、フリクションプレート64に形成された係合孔64aに係合している。したがって、第1ブッシュ61とフリクションプレート64とは互いに相対回転不能であって、一体的に回転する。
【0052】
規制突起61aは、第1ブッシュ61のフランジ42側の側面に、軸方向に突出して形成されている。この規制突起61aは、
図5(正面部分図)にさらに拡大して示すように、フランジ42に形成された円周方向に長い長孔42cを貫通している。
【0053】
中立状態において、規制突起61aと長孔42cの円周方向の端面との間には、R1側及びR2側の両側において、隙間が形成されている。なお、R2側における隙間は、捩り角度θ1に相当する。すなわち、R2側の隙間は、各収容部401,402と各支持部301,302とのオフセット量と同じである。R1側における隙間は、捩り角度θ2に相当する。なお、この捩り角度θ2は、捩り角度θ1に比べて十分に大きい。このため、ダンパ装置1の使用時において、R1側に捩れても規制突起61aが長孔42cの端面に当接することはない。なお、中立状態での第1ブッシュ61及びフリクションプレート64の位置を「中立位置」と称する。
【0054】
図4に示すように、第2ブッシュ62は、フリクションプレート64と相対回転可能である。第2ブッシュ62のフリクションプレート64側の面には、摩擦部材621が固定されている。このため、第2ブッシュ62がフリクションプレート64と相対回転すると、ヒステリシストルクが発生する。なお、コーンスプリング63は、軸方向において、第2ブッシュ62と第2プレート32との間に圧縮された状態で配置されている。すなわち、コーンスプリング63は、第2ブッシュ62をフリクションプレート64に向かって付勢している。
【0055】
第2ブッシュ62は、第2プレート32と一体的に回転する。詳細には、第2ブッシュ62の第2プレート32側の面には、軸方向に突出する複数の係合突起62a(
図2参照)が形成されている。この係合突起62aが第2プレート32の係合孔32bに係合している。したがって、第2ブッシュ62と第2プレート32とは一体的に回転する。
【0056】
以上のような構成により、第1ブッシュ61及びフリクションプレート64は、ハブフランジ40に対して、R1側に角度θ2だけ相対回転可能であり、R2側に角度θ1だけ相対回転可能である。したがって、以上の捩り角度範囲では、基本的には、第1ブッシュ61と第1プレート31との間では摩擦接触はなく、これらの間にヒステリシストルクは発生しない。また、同様に、以上の捩り角度範囲では、フリクションプレート64は第1プレート31と同期して回転するので、第2ブッシュ62とフリクションプレート64との間に摩擦接触はなく、これらの間にヒステリシストルクは発生しない。
【0057】
一方、以上の捩り角度を超えた範囲では、第1ブッシュ61及びフリクションプレート64は、フランジ42に対して相対回転が禁止される。したがって、第1ブッシュ61と第1プレート31との間、及び第2ブッシュ62とフリクションプレート64との間で摩擦接触し、これらの間でヒステリシストルクが発生する。
【0058】
ここで、フリクションプレート64は、
図2及び
図2の拡大部分図である
図6に示すように、正面視矩形状である。また、フリクションプレート64は、一対の突出部641を有している。突出部641は、フリクションプレート64の外周面から径方向外側に突出している。各突出部641は、回転軸Oを挟んで互いに反対側の位置に配置されている。
【0059】
突出部641は、円周方向において、第1窓セットw1と第2窓セットw2との間に位置している。そして、各突出部641のR1側の当接面641aは、第2窓セットw2に圧縮された配置されたコイルスプリング51のR2側の端面に当接している。また、各突出部641のR2側の当接641bは、第1窓セットw1に圧縮された配置されたコイルスプリング51のR1側の端面に当接している。
【0060】
以上のように、フリクションプレート64の各突出部641は、圧縮された1対のコイルスプリング51によって逆方向に押圧されている。したがって、フリクションプレート64及びこれと同期して回転する第1ブッシュ61は、中立状態では常に中立位置に位置決めされることになる。
【0061】
[捩り特性:ヒステリシストルクなし]
ここで、動作の説明を容易にするために、まず、ヒステリシストルクがない場合の、4つのコイルスプリング51による捩り特性について説明する。
図7において、破線が第1窓セットw1のコイルスプリング51による捩り特性、二点鎖線が第2窓セットw2のコイルスプリング51による捩り特性、実線がこれらの捩り特性を合成した捩り特性w0である。
【0062】
ダンパ装置1は、中立状態、第1捩り状態、及び第2捩り状態となるように構成されている。
図3Aは、中立状態のダンパ装置1の模式図を示し、
図3B及び
図3Cは、第1捩り状態のダンパ装置1を示し、
図3Dは、第2捩り状態のダンパ装置1を示す。なお、中立状態とは、エンジン及び駆動ユニットのいずれからもダンパ装置1にトルクが伝達されないときのダンパ装置1の状態を意味する。また、第1捩り状態とは、エンジンからダンパ装置1にトルクが伝達されることによって、入力回転体30がハブフランジ40に対してR1側に捩れたときのダンパ装置1の状態を意味する。また、第2捩り状態とは、駆動ユニットからダンパ装置1にトルクが伝達されることによって、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に捩れたときのダンパ装置1の状態を意味する。
【0063】
<第1窓セットw1>
図3Aに示すように、入力回転体30とハブフランジ40とが相対回転していない中立状態では、第1窓セットw1のコイルスプリング51は、R1支持面301aとR2収容面401bとの間に圧縮して配置されている。このR1支持面301aとR2収容面401bとの間の間隔G0は、各支持部301,302及び各収容部401,402の幅L(コイルスプリングの自由長に等しい)より狭い。したがって、
図7の鎖線で示すように、第1窓セットw1では、圧縮されたコイルスプリング51による捩りトルク-tが発生している。
【0064】
図3Bに示すように、エンジンからダンパ装置1にトルクが入力されると、ダンパ装置1は、第1捩り状態となる。すなわち、入力回転体30に対してハブフランジ40が中立状態からR2側(捩り特性において正側)に角度θ1だけ捩れる。この状態では、第1支持部301と第1収容部401とのオフセット量が「0」となる。
【0065】
ここでは、第1窓セットw1において、コイルスプリング51のR1側の端面が当接しているR1支持面301aと、コイルスプリング51のR2側の端面が当接しているR2収容面401bとの間の間隔G1は間隔G0よりも広くなる。この間隔G1はコイルスプリングの自由長と同じである。すなわち、入力回転体30とハブフランジ40の捩り角度が+θ1の場合、第1窓セットw1では、コイルスプリング51は自由長となって、
図7に示すように、捩りトルクは「0」となる。
【0066】
また、入力回転体30に対してハブフランジ40が角度θ1を超えて捩れると、
図3Cに示すように(
図3Cでは捩り角度がθ3(>θ1)の場合を示している)、第1窓セットw1のコイルスプリング51のR1側の端面はR1収容面401aに当接し、R2側の端面はR2支持面301bに当接する。ここで、R1収容面401aとR2支持面301bとの間の間隔G2は、コイルスプリング51の自由長よりも狭い。すなわち、入力回転体30とハブフランジ40の捩り角度がθ1を超えると、コイルスプリング51は自由長から圧縮され、
図7に示すように、捩りトルクは次第に大きくなる。
【0067】
一方、
図3Dに示すように、ダンパ装置1が第2捩り状態となった場合、すなわち、入力回転体30に対してハブフランジ40が中立状態からR1側(捩り特性において負側)に捩れる場合は、第1窓セットw1のコイルスプリング51は、常にR1支持面301aとR2収容面401bとの間で圧縮される。すなわち、第1窓セットw1では、
図7に示すように、負側の捩り領域においては、捩り角度が大きくなるにしたがって捩りトルクも負側に大きくなる。
【0068】
<第2窓セットw2>
図3Aに示すように、中立状態では、第2窓セットw2のコイルスプリング51は、R1収容面402aとR2支持面302bとの間に圧縮して配置されている。このR1収容面402aとR2支持面302bとの間の間隔G0は、各支持部301,302及び各収容部401,402の幅L(コイルスプリングの自由長に等しい)より狭い。したがって、
図7の二点鎖線で示すように、中立状態において、第2窓セットw2では、圧縮されたコイルスプリング51による捩りトルク+tが発生している。
【0069】
図3B及び
図3Cに示すように、ダンパ装置1が第1捩り状態となると、第2窓セットw2のコイルスプリング51は、常にR1収容面402aとR2支持面302bとの間で圧縮される。すなわち、第2窓セットw2では、
図7に示すように、正側の捩り領域においては、捩り角度が大きくなるにしたがって捩りトルクも正側に大きくなる。
【0070】
一方、
図3Dに示すように、ダンパ装置1が第2捩り状態となる、すなわち、入力回転体30に対してハブフランジ40が中立状態からR1側(負側)に角度θ1だけ捩れると、第1支持部301と第1収容部401とのオフセット量が「0」となる。
【0071】
ここでは、第2窓セットw2では、コイルスプリング51のR1側の端面が当接しているR1収容面402aと、コイルスプリング51のR2側の端面が当接しているR2支持面302bと、の間の間隔G3は間隔G0よりも広くなる。この間隔G3はコイルスプリング51の自由長と同じである。すなわち、入力回転体30とハブフランジ40の捩り角度が-θ1の場合、第2窓セットw2では、コイルスプリング51は自由長となって、
図7に示すように、捩りトルクは「0」となる。
【0072】
また、入力回転体30に対してハブフランジ40が角度θ1を超えてR1側に捩れると、第2窓セットw2のコイルスプリング51のR1側の端面はR1支持面302aに当接し、R2側の端面はR2収容面402bに当接する。そして、捩り角度がさらに大きくなると、コイルスプリング51は自由長から圧縮され、
図7に示すように、捩りトルクは負側に次第に大きくなる。
【0073】
<合成された捩り特性>
ダンパユニット全体としては、
図7の破線で示す特性w1と二点鎖線で示す特性w2とが合成され、実線で示す捩り特性w0となる。すなわち、中立状態では捩りトルクは「0」であり、捩り角度が正側及び負側に大きくなるにしたがって、捩りトルクも正側及び負側に大きくなる。
【0074】
[動作:ヒステリシストルクあり]
次に、
図8以降の模式図を用いて、ヒステリシストルクを考慮した捩り特性について説明する。模式図では、第1ブッシュ61及びフリクションプレート64を「摩擦部材FP」として説明する。以下の説明では、前述の角度θ1を「2°」として説明するが、この角度は一例である。また、以下の説明では、捩り角度とは、ハブフランジ40に対する入力回転体30の捩り角度を意味する。また、捩り角度は絶対値で表示する。
【0075】
<中立状態>
図8は、中立状態を示している。この中立状態では、各窓セットw1,w2のコイルスプリング51は圧縮されて配置されている。また、前述のように、フリクションプレート64の突出部641の端面である当接面641a,641bは、対応するコイルスプリング51の端面に当接している。このため、フリクションプレート64は、中立位置に位置決めされている。したがって、第1ブッシュ61の規制突起61aとフランジ42の長孔42cの端面との間には、R1側においてθ2(例えば20°とする)、R2側においてθ1(例えば2°とする)の隙間が確保されている。
【0076】
まず、ダンパ装置1が第1捩り状態となった時の捩り特性(以下、「正側の捩り特性」とも言う)について説明する。
【0077】
<中立状態→捩り角度2°>
図9は、入力回転体30がハブフランジ40に対して中立状態からR1側に2°捩れた状態を示している。
【0078】
図8から
図9に状態が変化する間、すなわち、中立状態から捩り角度2°捩れる間は、第1窓セットw1のコイルスプリング51は、圧縮状態から伸長して自由長となり、第2窓セットw2のコイルスプリング51は、圧縮状態からさらに圧縮される。また、摩擦部材FPと入力回転体30とは同期してR1側に回転するため、摩擦部材FPと入力回転体30との間にヒステリシストルクは発生しない。詳細には、摩擦部材FPの第1ブッシュ61と第1プレート31との間にヒステリシストルクは発生しない。なお、第2ブッシュ62とフリクションプレート64との間にも同様にヒステリシストルクは発生しない。
【0079】
<捩り角度2°→4°>
図10は、入力回転体30がハブフランジ40に対してR1側に4°捩れた状態を示している。
【0080】
図9から
図10に状態が変化する間、すなわち、捩り角度2°から4°に捩れる間は、第1窓セットw1のコイルスプリング51は、自由長から圧縮されて圧縮状態となり、第2窓セットw2のコイルスプリング51は、圧縮状態からさらに圧縮される。また、摩擦部材FPと入力回転体30とは同期してR1側に回転するため、摩擦部材FPと入力回転体30との間にヒステリシストルクは発生しない。
【0081】
<捩り角度4°→中立状態>
捩り角度4°から中立状態に戻る間は、上記の逆の順に状態が変化する。すなわち、
図10の状態から
図9の状態となり、最終的に
図8の中立状態に戻る。
【0082】
以上のように、ヒステリシストルク発生機構60は、ダンパ装置1が第1捩り状態にある間、ヒステリシストルクを発生させないように構成されている。
【0083】
次に、ダンパ装置1が第2捩り状態となったときの捩り特性(以下、「負側の捩り特性」とも言う)について説明する。
【0084】
<中立状態→捩り角度2°>
図11は、捩り角度が大きくなる過程において、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に2°捩れた状態を示している。この状態において、第1ブッシュ61の規制突起61aは、フランジ42の長孔42cのR2側の端面に当接している。
【0085】
図8から
図11に状態が変化する間、すなわち、中立状態からR2側に2°捩れる間は、第2窓セットw2のコイルスプリング51は、圧縮状態から伸長して自由長となり、第1窓セットw1のコイルスプリング51は、圧縮状態からさらに圧縮される。また、摩擦部材FPは、入力回転体30とは同期してR2側に回転する。このため、摩擦部材FPと入力回転体30との間にヒステリシストルクは発生しない。詳細には、摩擦部材FPの第1ブッシュ61と第1プレート31との間にヒステリシストルクは発生せず、摩擦部材FPの第2ブッシュ62とフリクションプレート64との間にもヒステリシストルクは発生しない。
【0086】
<捩り角度2°→4°>
図12は、捩り角度が大きくなる過程において、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に4°捩れた状態を示している。
【0087】
図11から
図12に状態が変化する間、すなわち、捩り角度2°から4°まで捩れる間は、第1窓セットw1のコイルスプリング51は、圧縮状態がさらに進み、第2窓セットw2のコイルスプリング51は、自由長から圧縮されて圧縮状態となる。
【0088】
また、入力回転体30は、R2側へ回転する。その一方で、摩擦部材FPは、規制突起61aがフランジ42の長孔42cの端面に当接するため、R2側への回転が禁止される。この結果、摩擦部材FPは入力回転体30に対して相対回転し、これらの間にヒステリシストルクが発生する。詳細には、第1ブッシュ61が第1プレート31と相対回転して、これらの間にヒステリシストルクが発生する。また、第2ブッシュ62がフリクションプレート64と相対回転して、ヒステリシストルクが発生する。
【0089】
<捩り角度4°→3°>
図13は、中立状態に戻る過程において、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に3°捩れた状態を示している。
図12から
図13に状態が変化する間、すなわち、捩り角度4°から捩り角度3°に戻る間は、入力回転体30がR1側に回転する一方で、摩擦部材FPは回転しない。詳細には、摩擦部材FPは、当接面641aが第2窓セットw2のコイルスプリング51の端面に当接している一方で、当接面641bが第1窓セットw1のコイルスプリング51の端面と当接していない。すなわち、摩擦部材FPは、第2窓セットw2のコイルスプリング51によってR2側のみに付勢されている。このため、摩擦部材FPは、R1側に回転しない。したがって、入力回転体30は摩擦部材FPに対して相対回転するので、捩り角度4°から3°まではヒステリシストルクが発生する。
【0090】
<捩り角度3°→2°>
図14は、中立状態に戻る過程において、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に2°捩れた状態を示している。
図13から
図14に状態が変化する間、すなわち捩り角度が3°から2°に戻る間は、入力回転体30及び摩擦部材FPは、同期して回転する。すなわち、入力回転体30と摩擦部材FPとは相対回転しない。
【0091】
詳細には、中立状態に戻る過程において、捩り角度が3°(一例)となり、第2窓セットw2のコイルスプリング51によるトルクが小さくなることによって、第2窓セットw2のコイルスプリング51によるトルクと、入力回転体30と摩擦部材FPとの間に発生するヒステリシストルクと、が釣り合う。このため、ヒステリシストルクによって第2窓セットw2のコイルスプリング51は、それ以上伸長しなくなる。すなわち、捩り角度が3°から2°になるまでの間、第2窓セットw2のコイルスプリング51は作動しない。このため、ダンパ装置1全体の捩り剛性は、第1窓セットw1のコイルスプリング51のみの剛性(具体的には合成特性の剛性の1/2)となる。
【0092】
また、捩り角度が3°から2°に戻る間では、摩擦部材FPと入力回転体30とは同期してR1側に回転し、これらの間にヒステリシストルクは発生しない。
【0093】
<捩り角度2°から1°>
図15は、中立状態に戻る過程において、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に1°捩れた状態を示している。
図14から
図15に状態が変化する間、すなわち、捩り角度が2°から1°に戻る間は、入力回転体30は、摩擦部材FPと相対回転する。
【0094】
詳細には、捩り角度が2°になると、第2窓セットw2のコイルスプリング51のR1側の端面は、ハブフランジ40の端面に当接する。このため、捩り角度が2°から1°の間では、摩擦部材FPは、第2窓セットw2のコイルスプリング51の反発を受け、入力回転体30と連れ回ることができなくなる。このため、入力回転体30は、摩擦部材FPと相対回転し、第2窓セットw2のコイルスプリング51が圧縮された力(トルク)に応じたヒステリシストルクが発生する。
【0095】
また、捩り角度が2°から1°になるまでは、第2窓セットw2のコイルスプリング51は作動しない。このため、ダンパ装置1全体の捩り剛性は、第1窓セットw1のコイルスプリング51のみの剛性(具体的には合成特性の剛性の1/2)となる。
【0096】
<捩り角度1°から中立状態>
図15に示すように、捩り角度が1°になると、第2窓セットw2のコイルスプリング51のR2側の端面が入力回転体30の端面に当接する。このため、
図15から
図8に状態が変化する間、すなわち、捩り角度1°から中立状態に戻る間、入力回転体30は摩擦部材FPと同期して回転し、ヒステリシストルクは発生しない。
【0097】
また、捩り角度が1°から中立状態に戻る間では、第1窓セットw1及び第2窓セットw2のコイルスプリング51が作動し、両窓セットw1,w2のコイルスプリング51の合成された剛性となる。また、この時点で、摩擦部材FPは中立位置に位置決めされる。
【0098】
以上のように、ヒステリシストルク発生機構60は、ダンパ装置1が第2捩り状態のとき、捩り角度が第1角度未満の第1領域(0°~1°)においてヒステリシストルクを発生させないように構成される。具体的には、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が0°から1°に向かう過程、及び1°から0°に戻る過程の両方においてヒステリシストルクを発生させない。
【0099】
また、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が第1角度以上であり第2角度未満の第2領域(1°~2°)において、第1ヒステリシストルクを発生させる。具体的には、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が1°から2°に向かう過程においてヒステリシストルクを発生させないが、2°から1°に戻る過程においてヒステリシストルクを発生させる。
【0100】
また、ヒステリシストルク発生機構60は、第2角度以上第3角度未満の第3領域(2°~3°)において第2ヒステリシストルクを発生させる。具体的には、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が2°から3°に向かう過程においてヒステリシストルクを発生させ、3°から2°に戻る過程においてヒステリシストルクを発生させない。なお、第2ヒステリシストルクは、第1ヒステリシストルクよりも大きい。
【0101】
また、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が第3角度以上最大角度以下(3°~MAX)の第4領域において、第3ヒステリシストルクを発生させる。具体的には、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が3°からMAXに向かう過程、及びMAXから3°に戻る過程の両方においてヒステリシストルクを発生させる。なお、第3ヒステリシストルクは、第2ヒステリシストルクよりも大きい。
【0102】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0103】
(a)上記実施形態では、規制突起61aと長孔42cの円周方向のR2側の端面との隙間の捩り角度θ1は、R2側の第1支持部301と第1収容部401とのオフセット量θ1と同じであったが、ダンパ装置1の構成はこれに限定されない。例えば、規制突起61aと長孔42cの円周方向のR2側の端面との隙間の捩り角度は、オフセット量θ1よりも大きくすることができる。
【0104】
例えば、R2側における規制突起61aと長孔42cの円周方向の端面との隙間の捩り角度を2・θ1とすることができる。
【0105】
この場合における捩り特性について以下、模式図を用いて説明する。なお、ダンパ装置1が第1捩り状態となったときの捩り特性は、上記実施形態と同様であるため、ダンパ装置1が第2捩り状態となったときの捩り特性について説明する。
【0106】
図16は、中立状態を示している。この中立状態では、R2側における規制突起61aと長孔42cの端面との隙間以外は、上記実施形態と同じである。なお、このR2側における規制突起61aと長孔42cの端面との隙間2・θ1は、例えば4°とする。
【0107】
<中立状態→捩り角度2°>
図17は、捩り角度が大きくなる過程において、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に2°捩れた状態を示している。
【0108】
図16から
図17に状態が変化する間、すなわち、中立状態からR2側に2°捩れる間、第1窓セットw1のコイルスプリング51は、圧縮状態からさらに圧縮される。また、第2窓セットw2のコイルスプリング51は、圧縮状態から伸長して自由長となる。
【0109】
また、摩擦部材FPは、入力回転体30とは同期して回転する。このため、摩擦部材FPと入力回転体30との間にヒステリシストルクは発生しない。詳細には、摩擦部材FPの第1ブッシュ61と第1プレート31との間にヒステリシストルクは発生せず、摩擦部材FPの第2ブッシュ62とフリクションプレート64との間にもヒステリシストルクは発生しない。
【0110】
<捩り角度2°→4°>
図18は、捩り角度が大きくなる過程において、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に4°捩れた状態を示している。
【0111】
図17から
図18に状態が変化する間、すなわち、捩り角度2°から4°まで捩れる間、第1窓セットw1のコイルスプリング51は、圧縮状態からさらに圧縮される。また、第2窓セットw2のコイルスプリング51は、自由長から圧縮されて圧縮状態となる。
【0112】
摩擦部材FPは、引き続き、入力回転体30とは同期して回転するため、摩擦部材FPと入力回転体30との間にヒステリシストルクは発生しない。
【0113】
摩擦部材FPの当接面641aは、第2窓セットw2のコイルスプリング51の端面から離れていき、捩り角度4°の状態では、当接面641aと第2窓セットw2のコイルスプリング51の端面との隙間は2°になる。
<捩り角度4°→7°>
図19は、捩り角度が大きくなる過程において、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に7°捩れた状態を示している。
【0114】
図18から
図19に状態が変化する間、すなわち、捩り角度4°から7°まで捩れる間は、第1及び第2窓セットw1、w2の各コイルスプリング51は、圧縮状態がさらに進む。
【0115】
また、入力回転体30は、R2側へ回転する。その一方で、摩擦部材FPは、規制突起61aがフランジ42の長孔42cの端面に当接するため、R2側への回転が禁止される。この結果、摩擦部材FPは入力回転体30に対して相対回転し、これらの間にヒステリシストルクが発生する。詳細には、第1ブッシュ61が第1プレート31と相対回転して、これらの間にヒステリシストルクが発生する。また、第2ブッシュ62がフリクションプレート64と相対回転して、ヒステリシストルクが発生する。
【0116】
また、捩り角度が4°以上では、当接面641aと第2窓セットw2のコイルスプリング51の端面との隙間は常に2°に維持される。この隙間2°は、規制突起61aと孔42cのR2側の隙間(4°)からオフセット量相当捩り角度(2°)を差し引いた角度である。したがって、捩り角度が4°以上の高捩り角度領域では、前述の2°(相対捩り角度)の角度範囲内において、摩擦部材FPは入力側プレートIPとともに作動可能である。すなわち、相対捩り角度が2°の角度範囲(微小捩り角度範囲の一例)内では、ヒステリシストルクは発生しない。
【0117】
したがって、捩り角度が4°以上(絶対角度)の高捩り角度領域では、比較的大きなヒステリシストルクを得ることができるとともに、絶対的な捩り角度が4°以上のある捩り角度において、入力側プレートIPとハブフランジ40との相対的な捩り角度が2°の微小捩り角度範囲内では、ヒステリシストルクは発生しない。したがって、捩り特性において高捩り角度領域である走行領域では、微小なトルク変動を効果的に減衰することができる。
【0118】
<捩り角度7°→5°>
図20は、中立状態に戻る過程において、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に5°捩れた状態を示している。
図19から
図20に状態が変化する間、すなわち、捩り角度7°から捩り角度5°に戻る間は、入力回転体30は、摩擦部材FPと同期してR1側に回転する。したがって、捩り角度7°から5°まではヒステリシストルクは発生しない。
【0119】
<捩り角度5°→3°>
図21は、中立状態に戻る過程において、入力回転体30がハブフランジ40に対してR2側に3°捩れた状態を示している。
図20から
図21に状態が変化する間、すなわち、捩り角度5°から捩り角度3°に戻る間は、入力回転体30がR1側に回転する一方で、摩擦部材FPは回転しない。詳細には、摩擦部材FPは、当接面641aが第2窓セットw2のコイルスプリング51の端面に当接している一方で、当接面641bが第1窓セットw1のコイルスプリング51の端面と当接していない。すなわち、摩擦部材FPは、第2窓セットw2のコイルスプリング51によってR2側のみに付勢されている。このため、摩擦部材FPは、R1側に回転しない。したがって、入力回転体30は摩擦部材FPに対して相対回転するので、捩り角度5°から3°まではヒステリシストルクが発生する。
【0120】
<捩り角度3°→中立状態>
捩り角度3°から中立状態に戻るまでの捩り特性は、上記実施形態と同じであるため、その詳細な説明を省略する。
【0121】
以上のように、ヒステリシストルク発生機構60は、ダンパ装置1が第2捩り状態のとき、捩り角度が0°以上第1角度未満の第1領域(0°~1°)においてヒステリシストルクを発生させないように構成される。具体的には、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が0°から1°に向かう過程、及び1°から0°に戻る過程の両方においてヒステリシストルクを発生させない。
【0122】
また、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が第1角度以上であり第2角度未満の第2領域(1°~4°)において、第1ヒステリシストルクを発生させる。具体的には、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が1°から4°に向かう過程においてヒステリシストルクを発生させないが、4°から3°に戻る過程、及び2°から1°に戻る過程においてヒステリシストルクを発生させる。
【0123】
また、ヒステリシストルク発生機構60は、第2角度以上第3角度未満の第3領域(4°~5°)において第2ヒステリシストルクを発生させる。具体的には、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が4°から5°に向かう過程、及び5°から4°に戻る過程の両方においてヒステリシストルクを発生させる。なお、第2ヒステリシストルクは、第1ヒステリシストルクよりも大きい。
【0124】
また、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が第3角度以上最大角度以下(5°~7°)の第4領域において、第3ヒステリシストルクを発生させる。具体的には、ヒステリシストルク発生機構60は、捩り角度が5°から7°に向かう過程においてヒステリシストルクを発生させ、7°から5°に戻る過程においてヒステリシストルクを発生させない。なお、第3ヒステリシストルクは、第2ヒステリシストルクよりも小さい。
【0125】
(b)各支持部301,302及び各収容部401,402の幅や、コイルスプリング51の長さ、あるいは捩り角度の具体的数値については、一例であって、これらの数値に限定されるものではない。
【0126】
(c)前記実施形態では、すべてのコイルスプリングの剛性を同じにしたが、異なる剛性のコイルスプリングを用いてもよい。
【0127】
(d)収容部、支持部、及びコイルスプリングの個数は一例であって、前記実施形態に限定されない。
【0128】
(e)上記実施形態では、ヒステリシストルク発生機構60は、第1ブッシュ61と、第2ブッシュ62と、コーンスプリング63と、フリクションプレート64と、を有していたが、ヒステリシストルク発生機構60の構成はこれに限定されない。例えば、ヒステリシストルク発生機構60は、第2ブッシュ62及びコーンスプリング63を有していなくてもよい。
【0129】
また、ヒステリシストルク発生機構60は、フリクションプレート64を有していなくてもよい。この場合、第1ブッシュ61が、フリクションプレート64の一対の突出部641を有していればよい。
【符号の説明】
【0130】
1 ダンパ装置
30 入力回転体
40 ハブフランジ
50 弾性連結部
60 ヒステリシストルク発生機構