(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096698
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】鉄道車両の健全性診断システム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20230630BHJP
G01H 1/00 20060101ALI20230630BHJP
G01V 1/00 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H1/00 E
G01V1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212623
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 晴義
(72)【発明者】
【氏名】三津江 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】吉松 雄太
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA01
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA11
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064DD02
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】地震発生後の鉄道車両の健全性を地震発生後速やかに確認し得る技術を提供する。
【解決手段】地震発生後の鉄道車両の健全性を診断する鉄道車両の健全性診断システムであって、所定のプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、メモリにアクセス可能な少なくとも1つのプロセッサとを有する健全性診断装置と、健全性診断装置と通信可能に接続されて健全性診断装置の診断結果を出力する診断結果出力装置とを備え、健全性診断装置は、プロセッサがプログラムを実行することにより、地震発生時刻から鉄道車両の緊急停止時刻までの間で予め設定された診断対象期間の鉄道車両の振動加速度データを取得し、振動加速度データに基づいて鉄道車両の健全性の良/不良を判定し、判定の結果を診断結果として診断結果出力装置へ出力するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震発生後の鉄道車両の健全性を診断するシステムであって、
所定のプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、前記メモリにアクセス可能な少なくとも1つのプロセッサとを有する健全性診断装置と、
前記健全性診断装置と通信可能に接続されて前記健全性診断装置の診断結果を出力する診断結果出力装置とを備え、
前記健全性診断装置は、前記プロセッサが前記プログラムを実行することにより、地震発生時刻から前記鉄道車両の緊急停止時刻までの間で予め設定された診断対象期間の前記鉄道車両の振動加速度データを取得し、前記振動加速度データに基づいて前記鉄道車両の健全性の良/不良を判定し、前記判定の結果を前記診断結果として前記診断結果出力装置へ出力するように構成されている、
鉄道車両の健全性診断システム。
【請求項2】
前記健全性診断装置は、前記振動加速度データの波形にノイズが表れるときに健全性を不良と判定し、前記ノイズが表れないときに健全性を良と判定する、
請求項1に記載の鉄道車両の健全性診断システム。
【請求項3】
前記健全性診断装置は、前記振動加速度データから前記ノイズを抽出するフィルタを含む、
請求項2に記載の鉄道車両の健全性診断システム。
【請求項4】
前記健全性診断装置は、地震発生情報の入力をトリガとして、前記振動加速度データの取得を開始する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の鉄道車両の健全性診断システム。
【請求項5】
前記鉄道車両の台車に搭載された台車振動加速度センサ及び車体に搭載された車体振動加速度センサのうち少なくとも一方と、
前記台車振動加速度センサ及び前記車体振動加速度センサが測定した振動加速度データを格納する振動加速度データベースとを、更に備え、
前記健全性診断装置は、前記振動加速度データベースから前記振動加速度データを読み出して取得する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の鉄道車両の健全性診断システム。
【請求項6】
少なくとも1つのプロセッサにより実行される地震発生後の鉄道車両の健全性を診断する方法であって、
地震発生時刻から前記鉄道車両の緊急停止時刻までの間で予め設定された診断対象期間の前記鉄道車両の振動加速度データを取得すること、
前記振動加速度データに基づいて前記鉄道車両の健全性の良/不良を判定すること、及び、
前記判定の結果を前記鉄道車両の健全性の診断結果として出力すること、を含む、
鉄道車両の健全性診断方法。
【請求項7】
前記振動加速度データの波形にノイズが表れるときに健全性を不良と判定し、前記ノイズが表れないときに健全性を良と判定する、
請求項6に記載の鉄道車両の健全性診断方法。
【請求項8】
地震発生情報の入力をトリガとして、前記振動加速度データの取得を開始する、
請求項6又は7に記載の鉄道車両の健全性診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地震が発生した直後の鉄道車両の健全性を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、大規模な地震が発生すると、鉄道車両の運行を直ちに停止し、線路や当該線路が通された高架橋などの構造物を点検して健全性を確認したのち、鉄道車両の運行を再開する運用がなされている。運行停止から運行再開までの時間の短縮化するためには、速やかに点検を行って状況を把握することが要求される。
【0003】
そこで、特許文献1では、地震が発生した際の列車運行を管理する地震時の交通運行管理方法であって、点検を効率的に行うことによって列車運行再開までの時間を短縮し得るものが提案されている。この方法では、地震が検出されたエリアの列車運行を停止させ、当該エリアに含まれる複数の構造物のうち揺れやすい構造を有する構造物の点検の優先度を高く設定して点検スケジュールを作成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では鉄道沿線の構造物を点検する方法が提案されているが、地震発生後の鉄道車両の健全性を点検するものではない。大規模な地震の後には、鉄道車両の健全性の確認も要求される。地震発生後に列車運行再開までの時間を短縮するためには、鉄道車両の健全性を地震発生後速やかに確認できることが望ましい。
【0006】
本開示は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、地震発生後の鉄道車両の健全性を地震発生後速やかに確認し得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る地震発生時の鉄道車両の健全性診断システムは、地震発生後の鉄道車両の健全性を診断するシステムであって、
所定のプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、前記メモリにアクセス可能な少なくとも1つのプロセッサとを有する健全性診断装置と、
前記健全性診断装置と通信可能に接続されて前記健全性診断装置の診断結果を出力する診断結果出力装置とを備え、
前記健全性診断装置は、前記プロセッサが前記プログラムを実行することにより、地震発生時刻から前記鉄道車両の緊急停止時刻までの間で予め設定された診断対象期間の前記鉄道車両の振動加速度データを取得し、前記振動加速度データに基づいて前記鉄道車両の健全性の良/不良を判定し、前記判定の結果を前記診断結果として前記診断結果出力装置へ出力するように構成されている。
【0008】
また、本開示の一態様に係る地震発生時の鉄道車両の健全性診断方法は、少なくとも1つのプロセッサにより実行される地震発生後の鉄道車両の健全性を診断する方法であって、
地震発生時刻から前記鉄道車両の緊急停止時刻までの間で予め設定された診断対象期間の前記鉄道車両の振動加速度データを取得すること、
前記振動加速度データに基づいて前記鉄道車両の健全性の良/不良を判定すること、及び、
前記判定の結果を前記鉄道車両の健全性の診断結果として出力すること、を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記した本開示の一態様によれば、地震発生後の鉄道車両の健全性を地震発生後速やかに確認し得る技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る鉄道車両の健全性診断システムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、健全性診断装置のハードウェアシステムの構成図である。
【
図3】
図3は、健全性診断装置による鉄道車両の健全性の診断処理の流れを示す図である。
【
図4】
図4は、地震発生直後から鉄道車両が緊急停止するまでの振動加速度の時系列変化を表す図表である。
【
図5】
図5は、地震発生直後から鉄道車両が緊急停止するまでの振動加速度の時系列変化を表す図表である。
【
図6】
図6は、健全性診断装置の診断部の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔健全性診断システム100の構成〕
次に、図面を参照して本開示の実施の形態を説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る鉄道車両1の健全性診断システム100の概略構成を示す図である。
図1に示すように、鉄道車両1の健全性診断システム100は、健全性診断装置5と、鉄道車両1に搭載された少なくとも1つの振動加速度センサ(台車振動加速度センサ6,車体振動加速度センサ7)と、診断結果出力装置8とを備える。健全性診断装置5及び診断結果出力装置8は、鉄道車両1に搭載されていてよい。或いは、健全性診断装置5及び診断結果出力装置8の少なくとも一方は、鉄道車両1から離れた車両運行コントロール施設などに配置されていてもよい。
【0012】
鉄道車両1は、台車2と車体3とで構成される。車体3は、空気ばね等の緩衝要素を介して台車2に支持されている。鉄道車両1は1両又は複数車両が編成され、編成車両としてレール上を走行する。編成車両のうち少なくとも1つの鉄道車両1の車体3には、車両情報統合システム10が搭載されている。車両情報統合システム10は、例えば、モニタ装置を備え、相互に情報の送受信可能に鉄道車両1に搭載された複数の機器と伝送手段を介して接続されている。運転士は、車両情報統合システム10のモニタ装置に表示される車両情報を監視することで、車両の運行状況や発生したトラブルなどを把握できる。
【0013】
車体3には、車体3の上下方向及び/又は左右方向の振動加速度を検出する少なくとも1つの車体振動加速度センサ7が搭載されている。車体振動加速度センサ7は、例えば、車体3の床のうち台車2の中心の直上にあたる位置に配置される。また、複数の車体振動加速度センサ7が車体3に分散して配置されてもよい。
【0014】
台車2には、台車2の上下方向及び/又は左右方向の振動加速度を検出する少なくとも1つの台車振動加速度センサ6が搭載されている。台車振動加速度センサ6は、例えば、台車2の台車枠のばね帽において対角に分散して配置される。
【0015】
図2は、健全性診断装置5のハードウェアシステムの構成図である。
図2に示すように、健全性診断装置5は、いわゆるコンピューティングデバイスであって、プロセッサ(CPU)51と、ROM52及びRAM53を含むプロセッサ51がアクセス可能なメモリ50と、出入力部54とを備える。プロセッサ51はバスを介して、ROM52、RAM53、及び出入力部54と接続される。出入力部54は、有線又は無線の伝送手段を介して、車両情報統合システム10と情報の送受信を可能に接続されている。また、出入力部54は、伝送手段を介して車体3に搭載されたモニタ装置82や報知器83と情報の送信を可能に接続されている。モニタ装置82や報知器83は、診断結果出力装置8として機能する。また、出入力部54は、伝送手段を介して、地震情報入力装置9、台車振動加速度センサ6、車体振動加速度センサ7、及び地震情報伝達システム80と情報の受信を可能に接続されている。なお、
図2では台車振動加速度センサ6及び車体振動加速度センサ7は各々1つが代表して示されているが、複数の台車振動加速度センサ6及び車体振動加速度センサ7が健全性診断装置5と接続されていてよい。また、出入力部54は、記憶装置56と情報の読み出しと記憶とが可能に接続されている。
【0016】
図1に戻って、健全性診断装置5は、振動加速度情報収集部501と、診断部502との各機能部を備える。これらの機能部は、プロセッサ51がメモリ50に記憶された所定のプログラムを実行することによって実現される。
【0017】
振動加速度情報収集部501は、台車振動加速度センサ6及び車体振動加速度センサ7が出力した振動加速度情報を取得し、当該振動加速度情報を記憶装置56に記憶する。振動加速度情報は、台車振動加速度センサ6及び車体振動加速度センサ7の識別情報と、振動加速度の測定値及び測定時刻とを含む。記憶装置56には、台車振動加速度センサ6及び車体振動加速度センサ7の各々について振動加速度の測定値及び測定時刻を含む振動加速度データを蓄積した振動加速度データベースが構築されている。
【0018】
診断部502は、振動加速度データベースに記憶された振動加速度データを読み出して、振動加速度データを利用して鉄道車両1の健全性を診断する。ここで、鉄道車両1の健全性が良であることは、鉄道車両1の台車2及び/又は車体3に損傷等の異常が生じていないことを意味し、鉄道車両1の健全性が不良であることは、鉄道車両1の台車2及び/又は車体3に損傷等の異常が生じているおそれがあることを意味する。健全性診断装置5の診断部502の具体的な処理については、後ほど詳述する。
【0019】
〔鉄道車両1の健全性の診断方法〕
ここで、健全性診断システム100による鉄道車両1の健全性の診断方法について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、健全性診断装置5による健全性の診断処理の流れを示す図である。
【0020】
健全性診断装置5の振動加速度情報収集部501は、鉄道車両1の運行中(緊急停止のための減速中を含む)に、定常的に振動加速度データを収集する。ここで、健全性診断装置5は、台車振動加速度センサ6及び車体振動加速度センサ7が出力した振動加速度情報を取得し、当該振動加速度情報を記憶装置56に記憶する。このようにして、記憶装置56の振動加速度データベースには、振動加速度データが蓄積されていく。
【0021】
健全性診断装置5の診断部502は、地震発生情報を取得すると(ステップS1でYES)、鉄道車両1の健全性の診断を開始する(ステップS2)。地震発生情報は、望ましくは、地震発生時刻を含む。或いは、地震発生情報が地震発生時刻を含まない場合は、健全性診断装置5は、地震発生情報を取得した時刻を地震発生時刻と見做す。
【0022】
地震発生情報は、車両情報統合システム10から健全性診断装置5へ入力されてよい。車両情報統合システム10は、地震発生情報を外部から受信し、それを健全性診断装置5へ出力する。または、地震発生情報は、鉄道車両1に備わる地震情報伝達システム80を利用して健全性診断装置5へ入力されてもよい。地震情報伝達システム80は、鉄道沿線に設置された多数の地震計と、これらの地震計と通信回路により接続された地震計警報制御装置とを備え、地震計警報制御装置は地震計の計測値に基づいて警報対象エリアを判断し、即時に対象エリアの列車へ無線を通して一斉に地震発生の旨を発報する。健全性診断装置5には、この発報を地震発生情報として取得してもよい。または、地震発生情報は地震情報入力装置9から健全性診断装置5へ入力されてもよい。地震情報入力装置9は、例えば、鉄道車両1に搭載された速度計から鉄道車両1の走行速度を取得し、走行速度の減少勾配が所定の値となったときに緊急停止を判断し、この緊急停止に基づいて地震発生情報を健全性診断装置5へ出力するように構成される。或いは、健全性診断装置5へ非常ブレーキの印加信号が伝送され、健全性診断装置5は非常ブレーキの印加信号を地震発生情報として取得してもよい。
【0023】
健全性診断装置5は、鉄道車両1の健全性の診断にあたって、先ず、診断対象期間の振動加速度データを振動加速度データベースから読み出す。診断対象期間は、地震発生時から鉄道車両1が緊急停止するまでの間で予め任意に設定される。健全性診断装置5は、地震発生情報から地震発生時刻を知ることができる。また、健全性診断装置5は、例えば、車両情報統合システム10から伝送される鉄道車両1の速度情報に基づいて緊急停止時刻を求めることができる。診断対象期間は、地震発生時刻から緊急停止時刻までであってよい。或いは、地震発生時刻から所定時間(例えば、1秒)経過後から緊急停止時刻であってよい。或いは、診断対象期間は、地震発生時刻から所定の第1時間(例えば、1秒)経過後から、所定の第2時間(例えば、15秒)が経過するまでであってよい。
【0024】
図4及び
図5は、地震発生直後から鉄道車両1が緊急停止するまでの振動加速度の時系列変化を表す図表である。これらの図では、台車2の台車枠に配置された台車振動加速度センサ6で検出・測定された振動加速度を縦軸に表し、経過時間を横軸に表したものである。時刻T1に地震が発生すると、鉄道車両1は非常ブレーキの作動により減速して、鉄道車両1は時刻T1から後の時刻T2に緊急停止する。時刻T1から時刻T2までが、診断対象期間となる。鉄道車両1が地震発生後に減速している間、即ち、診断対象期間に、台車2及び車体3の振動加速度は地震の影響を受ける。
【0025】
鉄道車両1(台車2及び/又は車体3)に損傷等の異常が無い場合は、
図4に示すように、診断対象期間の振動加速度データの波形は比較的均一な正弦波を示す。一方、鉄道車両1に損傷等の異常が生じている場合は、
図5に示すように、診断対象期間の振動加速度データの波形に異常が生じていることを表すノイズ(乱れ)が生じる。異常が生じていることを表すノイズは、
図4に示す比較的均一な正弦波と比較すると、局所的に振動加速度の振れ幅が大きくなるというものである。地震により過剰な振動が鉄道車両1に印加されると鉄道車両1の構成部品に損傷が生じる可能性がある。例えば、鉄道車両1の構成部品に破断が生じた場合には、当該構成部品の破断面同士が振れにより接触して衝撃成分が重畳する結果、
図5にみられるようなノイズが生じるものと推察される。鉄道車両1の構成部品が破断した例を挙げたが、部品に破断以外の亀裂や損傷などの異常が生じると、正常であれば接触しない部材同士が接触するようになる結果、振動加速度データに異常が生じていることを表すノイズが表れる。振動加速度データの波形に含まれる異常が生じていることを表すノイズは、ハイパスフィルタやバンドパスフィルタで抽出が可能である。
【0026】
図6は、健全性診断装置5の診断部502の構成の一例を示す図である。
図6に示すように、健全性診断装置5の診断部502は、例えば、フィルタ505と判定器506と含んで構成される。フィルタ505は、異常が生じていることを表すノイズを抽出するように設計されたハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタであってよい。フィルタ505は、診断対象期間の振動加速度データをフィルタリングして、振動加速度データの波形に含まれるノイズを抽出する。判定器506は、フィルタ505で異常が生じていることを表すノイズが抽出された場合は健全性を不良と判定し、ノイズが抽出されない場合は健全性を良と判定する。
【0027】
健全性診断装置5は、判定器506の判定結果を、健全性の診断結果として診断結果出力装置8へ出力する(ステップS3)。その結果、診断結果出力装置8では、鉄道車両1の健全性の診断結果(良/不良)が提示される。ここで、診断結果出力装置8は、鉄道車両1の適所に設けられたモニタ装置82又は報知器83であってよい。モニタ装置82では、診断結果が表示出力される。報知器83では、診断結果が音声又は光で出力される。或いは、診断結果出力装置8は、車両情報統合システム10が備えるモニタ装置であってよい。運転士又は作業員は、診断結果出力装置8に出力された診断結果から、鉄道車両1に生じた損傷等の異常の有無を知ることができる。このように、健全性診断システム100では、地震が発生した後、鉄道車両1が緊急停止すれば、直ちに鉄道車両1の健全性の診断を行うことができ、即時性に優れる。
【0028】
〔総括〕
本開示に係る鉄道車両1の健全性診断システム100は、地震発生直後の鉄道車両1の健全性を診断するシステムであって、
所定のプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリ50と、メモリ50にアクセス可能な少なくとも1つのプロセッサ51とを有する健全性診断装置5と、
健全性診断装置5と通信可能に接続されて健全性診断装置5の診断結果を出力する診断結果出力装置8とを備える。
健全性診断装置5は、プロセッサ51が所定のプログラムを実行することにより、地震発生時刻から鉄道車両1の緊急停止時刻までの間で予め設定された診断対象期間の鉄道車両1の振動加速度データを取得し、振動加速度データに基づいて鉄道車両1の健全性の良/不良を判定し、判定結果を診断結果として診断結果出力装置8へ出力するように構成されている。
【0029】
また、本開示に係る鉄道車両1の健全性診断方法は、
少なくとも1つのプロセッサ51により実行される地震発生後の鉄道車両1の健全性を診断する方法であって、
地震発生時刻から鉄道車両の緊急停止時刻までの間で予め設定された診断対象期間の鉄道車両の振動加速度データを取得すること、
振動加速度データに基づいて鉄道車両の健全性の良/不良を判定すること、及び、
判定の結果を鉄道車両の健全性の診断結果として出力すること、を含む。
【0030】
上記構成の鉄道車両1の健全性診断システム100及び方法によれば、長くても地震発生時刻から鉄道車両1の緊急停止時刻までの振動加速度データを用いて鉄道車両1の健全性の良/不良(即ち、損傷等の異常の有無)が診断される。よって、運転士や作業員は、地震発生後の鉄道車両1の健全性を、地震発生後速やかに確認することができる。これにより、地震発生後から運行再開までの時間の短縮化に寄与できる。
【0031】
上記鉄道車両1の健全性診断システム100において、健全性診断装置5は、振動加速度データの波形にノイズが表れるときに健全性を不良と判定し、ノイズが表れないときに健全性を良と判定するように構成されていてよい。ここで、健全性診断装置5は、振動加速度データからノイズを抽出するフィルタ505を有していてよい。
【0032】
同様に、上記鉄道車両1の健全性診断方法において、振動加速度データの波形にノイズが表れるときに健全性を不良と判定し、ノイズが表れないときに健全性を良と判定してよい。
【0033】
鉄道車両1の台車2や車体3に破断、損傷などの異常が生じたときには、振動加速度データの波形にノイズが表れることが推測される。この現象を利用して鉄道車両1の健全性を判定することができる。
【0034】
上記鉄道車両1の健全性診断システム100において、健全性診断装置5は、地震発生情報の入力をトリガとして、振動加速度データの取得を開始するように構成されていてよい。
【0035】
同様に、上記鉄道車両1の健全性診断方法において、地震発生情報の入力をトリガとして、振動加速度データの取得を開始してよい。
【0036】
このように地震発生情報の入力をトリガとして健全性診断のための処理が開始されることによって、鉄道車両1の通常運行時の健全性診断システム100の処理を軽減することができる。
【0037】
また、上記鉄道車両1の健全性診断システム100は、鉄道車両1の台車2に搭載された台車振動加速度センサ6及び車体3に搭載された車体振動加速度センサ7のうち少なくとも一方と、台車振動加速度センサ6及び車体振動加速度センサ7が測定した振動加速度データを格納する振動加速度データベースとを、更に備えていてよい。この場合、健全性診断装置5は、振動加速度データベースから振動加速度データを読み出して取得するように構成される。
【0038】
このように、健全性診断システム100は、自身で振動加速度データベースを構築するが、健全性診断装置5は、鉄道車両1に搭載された車両情報統合システム10に構築された振動加速度データベースを利用してもよい。
【0039】
本明細書中に記載されている構成要素により実現される機能は、当該記載された機能を実現するようにプログラムされた、汎用プロセッサ、特定用途プロセッサ、集積回路、ASICs(Application Specific Integrated Circuits)、CPU(Central Processing Unit)、従来型の回路、及び/又は それらの組合せを含む、circuitry又は processing circuitryにおいて実装されてもよい。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含み、circuitry又はprocessing circuitryとみなされる。プロセッサは、メモリに格納されたプログラムを実行する、programmed processorであってもよい。本明細書において、circuitry、ユニット、手段は、記載された機能を実現するようにプログラムされたハードウェア、又は実行するハードウェアである。当該ハードウェアは、本明細書に開示されているあらゆるハードウェア、又は、当該記載された機能を実現するようにプログラムされた、又は、実行するものとして知られているあらゆるハードウェアであってもよい。当該ハードウェアがcircuitryのタイプであるとみなされるプロセッサである場合、当該circuitry、手段、又はユニットは、ハードウェアと、当該ハードウェア及び又はプロセッサを構成する為に用いられるソフトウェアの組合せである。
【0040】
本開示の前述の議論は、例示及び説明の目的で提示されたものであり、本開示を本明細書に開示される形態に限定することを意図するものではない。例えば、前述の詳細な説明では、本開示の様々な特徴は、本開示を合理化する目的で1つの実施形態にまとめられている。但し、本開示に含まれる複数の特徴は、上記で論じたもの以外の代替の実施形態、構成、又は態様に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 :鉄道車両
2 :台車
3 :車体
5 :健全性診断装置
6 :台車振動加速度センサ
7 :車体振動加速度センサ
8 :診断結果出力装置
50 :メモリ
51 :プロセッサ
100 :健全性診断システム
505 :フィルタ