(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096733
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】電気刺激装置及びその動作方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212675
(22)【出願日】2021-12-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】521568063
【氏名又は名称】株式会社PHARYNTEC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100109139
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】吉川 敏一
(72)【発明者】
【氏名】平野 滋
(72)【発明者】
【氏名】杉山 庸一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉野 裕章
(72)【発明者】
【氏名】照岡 正樹
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053BB02
4C053JJ04
4C053JJ06
4C053JJ13
(57)【要約】
【課題】 効率の良い電気刺激装置を提供する。
【解決手段】 対象の体表に取り付けられる、一対の第1の電極121,127と、一対の第2の電極123,125と、一対の第3の電極119,129と、を備え、一対の第1の電極は、第1の周波数を有する正弦波の第1の電流波を発生し、一対の第2の電極は、第2の周波数を有する正弦波の第2の電流波を発生し、第1の電流波と第2の電流波は、前記対象の体内の所定の位置で第1の干渉波を発生し、一対の第3の電極は、第1の干渉波を奇数乗した奇数乗正弦波の第3の電流波を発生し、第3の電流波は、第1の干渉波と同期して所定の位置で第2の干渉波を発生し所定の位置に電気刺激を与える、電気刺激装置が提供される。
【選択図】
図29
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の体表に取り付けられる、一対の第1の電極と、一対の第2の電極と、一対の第3の電極と、を備え、
前記一対の第1の電極は、第1の周波数を有する正弦波の第1の電流波を発生し、
前記一対の第2の電極は、第2の周波数を有する正弦波の第2の電流波を発生し、
前記第1の電流波と前記第2の電流波は、前記対象の体内の所定の位置で第1の干渉波を発生し、
前記一対の第3の電極は、前記第1の干渉波を奇数乗した奇数乗正弦波の第3の電流波を発生し、
前記第3の電流波は、前記第1の干渉波と同期して前記所定の位置で第2の干渉波を発生し前記所定の位置に電気刺激を与える、電気刺激装置。
【請求項2】
前記第3の電流波は、前記第1の干渉波を5乗乃至11乗した電流波である、請求項1に記載の電気刺激装置。
【請求項3】
前記所定の位置が、前記一対の第1の電極を結ぶ直線と、前記一対の第2の電極を結ぶ直線と、前記一対の第3の電極を結ぶ直線との交点となるように、前記一対の第1の電極、前記一対の第2の電極及び前記一対の第3の電極が前記対象の体表に配置される、請求項1または2に記載の電気刺激装置。
【請求項4】
出力波形を演算する、中央演算処理装置と、
前記第1の周波数を有する正弦波、前記第2の周波数を有する正弦波、及び前記奇数乗正弦波の波形を発生する、前記中央演算処理装置に電気的に接続されたD/Aコンバータと、
前記第1の周波数を有する正弦波、前記第2の周波数を有する正弦波、及び前記奇数乗正弦波の波形から前記第1の電流波、前記第2の電流波及び前記第3の電流波を発生させるための前記D/Aコンバータに電気的に接続された複数の電圧電流変換回路と、を備え、
前記一対の第1の電極、前記一対の第2の電極、及び前記一対の第3の電極は、それぞれ絶縁回路を通して前記複数の電圧電流変換回路と接続される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
【請求項5】
前記D/Aコンバータは、発生した前記前記第1の周波数を有する正弦波、前記第2の周波数を有する正弦波、及び前記奇数乗正弦波の波形をローパスフィルタにより平滑化する、請求項4に記載の電気刺激装置。
【請求項6】
前記一対の第1の電極、前記一対の第2の電極及び前記一対の第3の電極を首の表皮に取り付け、
前記第2の干渉波により、前記所定の位置に電気刺激を与え、嚥下動作を補助する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
【請求項7】
前記第1の電流波と前記第2の電流波を常時流して前記第1の干渉波を常時発生し、
外耳道を経由して到達する前記嚥下動作の開始の音が耳に付けられた音センサにより感知されたとき、前記第3の電流波を発生して前記第2の干渉波を発生し、前記所定の位置に電気刺激を与え、前記嚥下動作を補助する、請求項6に記載の電気刺激装置の動作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の筋肉や神経への電気刺激装置及びその動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の筋肉や神経への経皮的または直接の電気刺激について、近年研究がなされている。筋肉には、廃用性衰退という「使わないと弱る」性質があり、長期間無重力状態が続く宇宙飛行士はもちろん、人工呼吸器装着終了後の嚥下障害や老人が大腿骨折し、骨折は完治したものの立てなくなってしまうようなことが頻繁に起きており、その治療(リハビリテーション)の一環として、電気刺激を用いることは有効である。
【0003】
この場合、筋肉を直接電気刺激するよりも、「その筋肉を動かすための神経」を電気刺激する方が効果的であり、そのため神経筋接合部を狙って電気刺激を行う場合が多い。また、癲癇の発作抑制のための迷走神経刺激のように、「神経そのものを電気刺激」する場合もある。さらに、手術により脳の深部に電極を留置し、脳深部に直接電気刺激を行うという方法も、海外では盛んに行われている。
【0004】
ところで、神経に対して表皮から刺激を行う場合、通常、神経は体の深い部分を走っており、留置電極でなければ、その神経を狙い撃ちにすることは困難である。また表面から強大な電流を流せば、その神経や一帯の神経を興奮させることはできるが、周囲の痛覚などの神経も同時に興奮し、強い痛みを感じてしまうことになる。
【0005】
従来、経皮的に上喉頭神経を刺激し、この上喉頭神経を経由した求心性信号を増強することにより嚥下動作を促進する嚥下障害治療装置が開発された(特許文献1)。これは、2以上の周波数の電気刺激を表皮から加えて、深部に生じる差分の周波数を用いて刺激する手法である。しかしながら、それらの電気刺激の周波数や強度などについては、人体あるいは動物実験による「経験則」であり、偶然に実験して上手くいった周波数を選んでいるだけであり、最適な電気刺激条件であるとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は神経刺激モデルとして非常に有力な「Hodgkin-Huxleyモデル」(HHM)を用いて、最適な電気刺激発生条件を設定し、効率の良く電気刺激を与える電気刺激装置を提供することを目的とする。また、嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気刺激装置は、
対象の体表に取り付けられる、一対の第1の電極と、一対の第2の電極と、一対の第3の電極と、を備え、
前記一対の第1の電極は、第1の周波数を有する正弦波の第1の電流波を発生し、
前記一対の第2の電極は、第2の周波数を有する正弦波の第2の電流波を発生し、
前記第1の電流波と前記第2の電流波は、前記対象の体内の所定の位置で第1の干渉波を発生し、
前記一対の第3の電極は、前記第1の干渉波を奇数乗した奇数乗正弦波の第3の電流波を発生し、
前記第3の電流波は、前記第1の干渉波と同期して前記所定の位置で第2の干渉波を発生し前記所定の位置に電気刺激を与える、電気刺激装置である。
【0009】
本発明により、効率よく電気刺激を与える電気刺激装置を提供することができる。
【0010】
また、本発明の電気刺激装置の動作方法は、
前記一対の第1の電極、前記一対の第2の電極及び前記一対の第3の電極を首の表皮に取り付け、
前記第2の干渉波により、前記所定の位置に電気刺激を与え、嚥下動作を補助する、上記電気刺激装置で、
前記第1の電流波と前記第2の電流波を常時流して前記第1の干渉波を常時発生し、
外耳道を経由して到達する前記嚥下動作の開始の音が耳に付けられた音センサにより感知されたとき、前記第3の電流波を発生して前記第2の干渉波を発生し、前記所定の位置に電気刺激を与え、前記嚥下動作を補助する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明により、嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、効率よく電気刺激を与える電気刺激装置が提供される。また本発明は、嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】時間と共に増加する直流電流を示す図である。
【
図2】
図1の電流をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図3】50Hzの正弦波で変化する電流を示す図である。
【
図4】
図3の電流をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図5】
図3とピーク電流値を同じにして周波数を2000Hzにした正弦波で変化する電流を示す図である。
【
図6】
図5の電流をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図7】
図5の電流値を20倍にして周波数を2000Hzにした正弦波で変化する電流を示す図である。
【
図8】
図7の電流をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図9】同じ振幅電流値で2つの異なる周波数の電流波を変調/混合した電流波を示す図である。
【
図10】
図9の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図11】2つの異なる振幅電流値及び異なる周波数の電流波を変調/混合した電流波を示す図である。
【
図12】
図11の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図13】直流電流と徐々に振幅電流値が増加する電流波の混合を示す図である。
【
図14】
図13の直流電流と電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図15】振幅電流値が合計320μA/cm
2の干渉波の図である。
【
図16】
図15の干渉波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図17】振幅電流値が合計340μA/cm
2の干渉波の図である。
【
図18】
図17の干渉波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図19】干渉波と干渉波の5乗の電流波を変調/混合した電流波を示す図である。
【
図20】
図19の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図22】
図21の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図24】
図23の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図26】
図25の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図28】
図27の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
【
図29】本発明の1つの実施形態に係る電気刺激装置のブロック図である。
【
図30】本発明の1つの実施形態に係る電気刺激装置を首に付けたa)正面図b)側面図である。
【
図31】本発明の1つの実施形態に係る嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための様々な実施の形態を、図面を参照して説明する。なお以下に説明する電気刺激装置は、本開示の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本開示を以下のものに限定しない。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態や実施例ごとには逐次言及しないものとする。
【0015】
(Hodgkin-Huxleyモデル(HHM))
Hodgkin-Huxleyの方程式は、全膜電流I
m、膜電位V、時間t、Naコンダクタンスの活性化パラメータm、及び不活性化パラメータh、Kコンダクタンスの活性化パラメータnの6つの変数の振る舞いを4つの微分方程式と6つの関係式で表したもので、
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
ここで、Hodgkin-Huxleyが用いた定数は、E’
Na=115.0,E’
K=-12.0,E’
l=10.613,
C
m=1.0である。
【0016】
このモデルは、神経への電流入力に対する、神経からの電圧出力のモデルを非線形常微分方程式で記したものである。HHMは、入力電流が徐々に増加していき、あるしきい値を超えると発火(パルス的な出力電位が生じる)し、入力の値がさらに大きくなると、「パルスの振幅ではなくパルスの頻度が増える」という振る舞いを生じ、これが神経細胞の振る舞いの良い近似となっている(神経細胞でもほぼ同様の反応を示す)。
【0017】
ここで入力については、一定(漸増を含む)の直流電流だけでなく、周期を持つ刺激でも反応し、宇佐見哲平ら、「Hodgkin-Huxley方程式とその周期刺激に対する応答」、「計測と制御」第34巻第10号1995年10月769、「特集 数理生物学における最近の話題-神経コーディングを中心に-解説」にその記載がされている。
【0018】
上記論文は、周期電流にバイアスを加え、神経が反応する正方向のみの周期刺激となっている。本発明の1つの実施形態では、この式への電流入力を「正負(交流)」または「複数の周波数の混合」に拡張し、オイラー法によるコンピュータシミュレーションを行い、最適な電気刺激を設定する。
【0019】
(HHMを用いた電気刺激の原理の説明)
図1は、時間と共に増加する直流電流を示す図である。
図2は、
図1の電流をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図3は、50Hzの正弦波で変化する電流を示す図である。
図4は、
図3の電流をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図5は、
図3とピーク電流値を同じにして周波数を2000Hzにした正弦波で変化する電流を示す図である。
図6は、
図5の電流をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図7は、
図5の電流値を20倍にして周波数を2000Hzにした正弦波で変化する電流を示す図である。
図8は、
図7の電流をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図9は、同じ振幅電流値で2つの異なる周波数の電流波を変調/混合した電流波を示す図である。
図10は、
図9の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図11は、2つの異なる振幅電流値及び異なる周波数の電流波を変調/混合した電流波を示す図である。
図12は、
図11の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図13は、直流電流と徐々に振幅電流値が増加する電流波の混合を示すグラフである。
図14は、
図13の直流電流と電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図1乃至14を参照して、本発明のHHMを用いた電気刺激の原理を説明する。
【0020】
図1は、0から50μA/cm
2の増加する直流電流である。
図2に示すように、
図1の直流電流をHHM方程式に代入すると、パルス的な挙動(興奮)が生じる。また
図2に示すように、増加する電流に対し、パルス的な挙動の数が増える。
【0021】
図3は、振幅電流値が±20μA/cm
2、周波数が50Hzの正弦波の電流波を示す。
図4に示すように、
図3の電流波をHHM方程式に代入すると、パルス的な挙動が生じる。HHMは、入力が正弦波でも神経の興奮が生じる。また、
図3及び
図4に示すように、神経の興奮を示すパルス的な出力は、必ずしも正弦波のピークで生じるものではないことに留意する。これから、電流値が閾値を超えれば神経の興奮が起こることがわかる。また、
図3及び
図4から負の電流値では神経が反応していないことに留意する。これから、「検波作用」により「振幅変調波を復調する」ことができることがわかる。
【0022】
図5は、振幅電流値が±20μA/cm
2で、周波数が2000Hzの正弦波の電流波を示す。
図6に示すように、
図5の電流波をHHM方程式に代入すると、パルス的な挙動は生じない。これは、振幅電流値は閾値を超えているはずであるが、周波数が高いため膜の応答が追いつかず正負が打ち消し合うためである。
【0023】
図7は、振幅電流値が±400μA/cm
2と
図5の20倍に上げられ、周波数が2000Hzの正弦波の電流波を示す。
図8に示すように、
図7の電流波をHHM方程式に代入すると、パルス的な挙動は生じない。すなわち、このような比較的強い電流波を発生する電極を体に当てても高い周波数であれば体表の痛覚神経が興奮しないので痛みを感じない。
【0024】
図9は、振幅電流値が±400μA/cm
2で2つの異なる周波数1975Hzと2025Hzの正弦波の電流波を変調/混合した電流波を示す。
図10に示すように、
図9の電流波をHHM方程式に代入すると、パルス的な挙動を生じる。
図9及び10は、2000Hzを25Hzで振幅変調することになるが、図中の包絡線のようにゼロ点で折り返し、周波数が逓倍されるため50Hzの刺激発生、すなわち
図3及び4で示した50Hzの電気刺激と略等価になる。
図10に示すように、電流値を50Hzのみのものと比べかなり上げなくてはならないが50Hzのパルス的な挙動が生じ、神経が興奮することがわかる。すなわち、電流波を混合して振幅変調と同様の干渉波が発生した場合、その混合点で電気刺激を生じる。
【0025】
体表に一対の電極を2つ付けた場合、混合点は、2つの一対の電極の交点である。交点は体内にあるため、表皮では電気刺激が生じないが体内で電気刺激が生じるようになる。また、電流値を大きくしなければならないため、少ない電気刺激で神経を興奮させるには、電極を平行ではなく対向配置とした方がより効果があると考えられる。これは、電極間の最短距離の電流密度が一番大きくなるためである。
【0026】
このHHMを用いることで、各入力周波数の発火閾値(それぞれの周波数と振幅電流値)を算出できるため、何Hzと何Hzを加えた場合に、より少ない振幅電流値で刺激が起こるかという、最適な電気刺激を設定することができる。ここでは2つの電流波について例示したが、3つ以上の電流波についても同様にHHM方程式に入力することで最適な電気刺激を設定できる。
【0027】
このようにHHMは、表皮から電気刺激を与えて深部の神経に刺激を与えるときの条件を定めるシステムに用いることができる。HHMは、全膜電流Imに交流の異なる周波数を有する複数の電流波(混合波、振幅変調波)を代入して、神経細胞の膜電位がパルス的に上昇するしきい値となる複数の電流波の周波数及び振幅電流値を定めることができる。
【0028】
また、この複数の周波数及び振幅電流値を有する電流波を体外から与えて、体内の深部にこの複数の電流波の周波数の差分の周波数を有する電気刺激を発生させる電気刺激装置に応用できる。具体的には、低周波治療装置のように、表皮に電極を設置し、1000Hz以上の高周波の電気刺激により表皮には刺激を与えないが、体内の深部で当該高周波の差分の低周波の電気刺激を発生させる装置である。
【0029】
このような電気刺激装置は、表皮に電極を設置するだけでなく、搬送波をマイクロ波レベルまで上げた電波を体外から照射して、体内で刺激を発生する方式にすることもできる。電波のような高周波であっても差分の周波数が数10から数100Hzの低周波であれば体内に電気刺激を発生することができる。体外から電波を照射することで電極を表皮に付ける必要がなく、代わりに変調マイクロ波をパラボラアンテナなどにより集中させることで照射できる。例えばマイクロ波が容易に透過する頭蓋骨を通して深部の脳神経を刺激できる。
【0030】
図11は、2つの異なる振幅電流値100μA/cm
2と700μA/cm
2及び異なる周波数1975Hzと2025Hzの電流波を変調/混合した電流波を示す図である。
図12に示すように、
図11の電流波をHHM方程式に代入すると、パルス的な挙動が生じない。2つの電流波の信号強度比を1:1(合計800μA/cm
2)から1:7(合計800μA/cm
2)に変え、ピーク強度には変化がないのにも関わらず、パルス的な挙動が生じない。
【0031】
このように、異なる第1と第2の周波数を有する電流波を入力する場合、第1の電気刺激の電流波の振幅電流値が第2の電気刺激の電流波の振幅電流値と異なると、第1の電気刺激の振幅電流値と第2の電気刺激の振幅電流値の比が、第1の電気刺激を与える表皮と第2の電気刺激を与える表皮の位置に対する体内で生じる電気刺激の発生位置に等しくなる。すなわち、2点から電流波を加えた場合は、中点(等電流点)近傍の神経しか反応しないことがわかる。
【0032】
したがって、振幅電流値を互いに対して変更することで、体内で発生する電気刺激の位置を狙い撃つことができる。ここでは2つの電流波の混合波で、振幅変調し電気刺激部位を変更したが、3つまたはそれ以上の電流波の混合波によって振幅変調し電気刺激部位を変更することもできる。
【0033】
図13は、直流電流と徐々に振幅電流値が上昇する高周波(2000Hz)の混合の電流を示す図である。ここで、直流電流は、通常の痛覚などの神経の興奮を表している。
図14に示すように、
図13の電流をHHM方程式に代入すると、左からパルス的に現れていた神経の興奮が、右への電流波の振幅電流値の上昇に従って消えていく。このことから、振幅電流値を±600μAにしたとき神経の興奮が収まることがわかる。
【0034】
直流電流を与えることにより神経は興奮していたが、高周波の電気刺激を与えることによりその興奮を抑えることができる。すなわち、通常の電気刺激は、「神経を興奮する方向」にしか刺激できないが、通常神経が応答しない高周波の交流を加えることにより、音響で言うマスキング効果が生じ、結果的に神経信号をブロック(神経の興奮を抑制)することができる。
【0035】
この電流波の周波数と振幅電流値は、表皮から電気刺激を与えて深部の神経の興奮を抑えるときの条件を定めるシステムであって、HHM方程式において、全膜電流Imに交流の周波数を有する1つの電流波と直流電流を代入して、神経細胞の膜電位のパルス的な上昇がなくなるときの閾値となる電流波の周波数及び振幅電流値を定める電気刺激条件設定システムによって算出可能である。
【0036】
また、この電気刺激条件設定システムで求めた周波数と振幅電流値を有する電気刺激を体外から与えて、神経の興奮をマスキングする神経興奮抑制装置を作製できる。具体的には、低周波治療装置のように、表皮に電極を設置し、1000Hz以上の高周波の電気刺激により表皮には刺激を与えず、体内で神経の興奮を抑制する装置である。
【0037】
(干渉波に干渉波を奇数乗した奇数乗正弦波の電流波を加えて電気刺激を与える説明)
図15は、振幅電流値が合計320μA/cm
2の干渉波の図である。
図16は、
図15の干渉波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図17は、振幅電流値が合計340μA/cm
2の干渉波の図である。
図18は、
図17の干渉波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図19は、干渉波と干渉波の5乗の電流波を変調/混合した電流波を示す図である。
図20は、
図19の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図21は、干渉波を3乗した電流波を示す図である。
図22は、
図21の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図23は、干渉波を5乗した電流波を示す図である。
図24は、
図23の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図25は、干渉波を7乗した電流波を示す図である。
図26は、
図25の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図27は、
図15の干渉波のみの電流波を示す図である。
図28は、
図27の電流波をHodgkin-Huxleyモデルに代入して得られた膜電位の挙動を示す図である。
図15乃至27を参照して、本発明の1つの実施形態に係る干渉波に干渉波を奇数乗した奇数乗正弦波の電流波を加えて電気刺激を与える電気刺激装置を説明する。
【0038】
図15は、周波数が1975Hzと2025Hzで、振幅電流値が合計320μA/cm
2の干渉波の図である。
図16に示すように、
図15の干渉波をHHM方程式に代入してもパルス的な挙動(発火)は生じない。一方、
図17は、周波数が1975Hzと2025Hzで、振幅電流値が合計340μA/cm
2の干渉波の図である。
図18に示すように、
図17の干渉波をHHM方程式に代入するとパルス的な挙動が生じる。この干渉波が発火をする閾値は、340μA/cm
2であると言える。
【0039】
本発明の1つの実施の形態では、干渉波の電流波にパルス的な電流波を加えることで3つの波が重なり合う深部の神経においてのみ発火閾値(340μA/cm2)を超えて発火させる。干渉波によって、予備的に発火までの振幅電流値を底上げしておき、パルス的な電流波によって、表皮への刺激を少なくすることができる。
【0040】
発明者が鋭意検討した結果、パルス的な電流波を付加する場合、
a.干渉波刺激とパルス刺激の周波数が等しい。
b.干渉波のピークの位置に「滑らかな立ち上がり」のパルス波を追加する。
の両方の条件が必須であることがわかった。特にbのパルス波については、干渉波の波形に奇数の累乗を施すと滑らかにピークが立ち上がり同時にピークの中央値も一致することがわかった。
【0041】
図19は、干渉波(1975Hz、110μA/cm
2、2025Hz、110μA/cm
2)と干渉波の5乗の電流波(200μA/cm
2)を変調/混合した電流波を示す図である。
図19乃至28は、より波形がわかるように時間を延ばしている。
図20に示すように、
図19の電流波をHHM方程式に代入するとパルス的な挙動が生じる。すなわち、3つの電流波の振幅電流値の合計が発火閾値である340μm/cm
2を超えると、電気刺激が生じる。
【0042】
図21は、振幅電流値200μA/cm
2の干渉波を3乗した電流波を示す図である。
図22に示すように、
図21の電流波をHHM方程式に代入してもパルス的な挙動は生じない。
図23は、振幅電流値200μA/cm
2の干渉波を5乗した電流波を示す図である。
図24に示すように、
図23の電流波をHHM方程式に代入してもパルス的な挙動は生じない。
図25は、振幅電流値200μA/cm
2の干渉波を7乗した電流波を示す図である。
図26に示すように、
図25の電流波をHHM方程式に代入してもパルス的な挙動は生じない。発火閾値を超えない振幅電流値200μA/cm
2の累乗波形は、電気刺激が起こらなかった。
【0043】
図21に示すように干渉波の3乗のパルス的な電流波の波形は、パルスと言うには緩やかすぎる。一方、
図23に示すように干渉波の5乗のパルス的な電流波の波形が適当である。また、
図25に示すように干渉波の7乗のパルス的な電流波の波形が適当である。パルス的な電流波の波形は、ある程度急峻であることが好ましい。また、パルス的な電流波は、累乗によって信号強度が小さくなりすぎないことが好ましい。このことから干渉波の累乗は5乗乃至11乗が適当である。
【0044】
図27は、
図15の干渉波のみの電流波を示す図である。
図28に示すように、
図27の電流波をHHM方程式に代入してもパルス的な挙動は生じない。すなわち、発火閾値を超えない干渉波(1975Hz、110μA/cm
2と2025Hz、110μA/cm
2)のみの電流波は刺激が起こらなかった。
【0045】
このように電流波は、合計で発火閾値を超えることで電気刺激が発生することがわかる。干渉波を奇数乗する理由は、奇数乗した波を元の干渉波と正負を合わせるためで偶数乗すると全て正になってしまうからである。
【0046】
(本発明の1つの実施形態に係る電気刺激装置の説明)
図29は、本発明の1つの実施形態に係る電気刺激装置のブロック図である。
図29を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る電気刺激装置を説明する。
【0047】
図29に示すように、電気刺激装置101は、一対の第1の電極121,127と、一対の第2の電極123,125と、一対の第3の電極119,129と、を備える。これらは人体または動物の体表、例えば首回り、胴回り、胸回りなど体の周囲の表皮に取り付けられる。
【0048】
一対の第1の電極121,127は、第1の周波数、例えば1975Hzを有する正弦波である第1の電流波を発生する。また一対の第2の電極123,125は、第2の周波数、例えば2025Hzを有する正弦波である第2の電流波を発生する。この第1の電流波と第2の電流波は、体内の所定の位置で周波数が数十Hzから数百Hz、振幅電流値が百乃至数百μA/cm2である第1の干渉波を発生するように選択される。
【0049】
一対の第3の電極119,129は、第1の干渉波を奇数乗した奇数乗正弦波の振幅電流値が百乃至数百μA/cm2である第3の電流波を発生する。上記したように、第1の干渉波は、偶数乗すると全て正になってしまうため、正負が発生するように奇数乗する。
【0050】
第1の干渉波と第3の電流波は、同期して電流を増幅することが重要である。第1の干渉波と第3の電流波が打ち消しあってしまうと発火閾値を超えることができない。第1の干渉波と第3の電流波を同期することで、第1の干渉波と第3の電流波は、所定の位置で第2の干渉波を発生する。第2の干渉波は、電気刺激の発火閾値を超える。このようにすることで、本発明の1つの実施形態に係る電気刺激装置は、効率よく人体または動物に電気刺激を与えることができる。
【0051】
上記したように、この第3の電流波は、第1の干渉波を5乗乃至11乗することが好ましい。これは、第3の電流波のパルスのピークをある程度急峻にするためと、その累乗によって信号強度を減らしすぎないようにするためである。
【0052】
体内の所定の位置が、一対の第1の電極121,127を結ぶ直線と、一対の第2の電極123,125を結ぶ直線と、一対の第3の電極119,129を結ぶ直線との交点となるように、一対の第1の電極121,127、一対の第2の電極123,125及び一対の第3の電極119,129が対象の体表に配置される。
【0053】
上記したように、電極間の最短距離の電流密度が一番大きくなるため、少ない電気刺激で神経を興奮させるためには、電極を平行ではなく対向配置とした方がより効果があると考えられるからである。
【0054】
図29に示すように、電気刺激装置101は、中央演算処理装置103と、中央演算処理装置103に電気的に接続されたD/Aコンバータ105と、D/Aコンバータ105に電気的に接続された第1乃至第3の電圧電流回路107,109,111と、第1乃至第3の電圧電流回路のそれぞれに接続された第1乃至第3の絶縁回路113,115,117と、によって制御される。
【0055】
中央演算処理装置103は、コンピュータの中でデータの演算処理を行う装置である。中央演算処理装置103は、出力波形を演算する。演算する波形は、第1の周波数を有する正弦波、第2の周波数を有する正弦波、第1の周波数を有する正弦波と第2の周波数を有する正弦波の干渉波、及びその干渉波の奇数乗正弦波である。
【0056】
D/Aコンバータ105は、中央演算処理装置のデジタル信号の出力波形からアナログ信号の出力波形へ変換する回路である。D/Aコンバータ105は、第1の周波数を有する正弦波、第2の周波数を有する正弦波、及び奇数乗正弦波の波形を発生する。
【0057】
D/Aコンバータで出力されたアナログ信号は、電圧であり、これを電流に変換する必要がある。そこで本発明の1つの実施形態の電気刺激装置は、電圧電流変換回路を用いる。第1の電圧電流回路107は、第1の周波数を有する正弦波の波形から第1の電流波を発生する。第2の電圧電流回路109は、第2の周波数を有する正弦波の波形から第2の電流波を発生する。第3の電圧電流回路111は、奇数乗正弦波の波形から第3の電流波を発生する。
【0058】
一対の第1の電極121,127は、第1の絶縁回路113を通して第1の電圧電流回路107に接続され、第1の電流波を第1の電極121と第1の電極127の間に発生する。同様に一対の第2の電極123,125は、第2の絶縁回路115を通して第2の電圧電流回路109に接続され、第2の電流波を第2の電極123と第2の電極125の間に発生する。一対の第3の電極119,129は、第3の絶縁回路117を通して第3の電圧電流回路111に接続され、第3の電流波を第3の電極119と第3の電極129の間に発生する。
【0059】
絶縁回路は、1次コイルと2次コイルを同じ鉄芯に巻いた状態で、1次コイルに電気が流れるとコイルの働きで磁力が発生するものを用いる。発生した磁力は鉄芯を介して2次コイルに到達する。2次コイルは外部から磁力を受けるとコイルの両端に電圧が発生して電気が流れる。この電磁誘導を用いて、1次コイルと2次コイルは電気的に絶縁されつつ、磁気で結合してエネルギが伝達される。絶縁回路は、フォトダイオードと受光素子を用いて信号を伝達するものもあってもよい。その場合、電圧電流回路107,109,111は、電源を絶縁化した上で絶縁回路113,115,117の後段に配置する。これにより異常電流の侵入を防ぎ、各電極間のインピーダンスが変動した場合であっても安定した電流を提供する。
【0060】
このような電気回路によって、本発明の1つの実施形態の電気刺激装置は、一対の第1の電極121,127、一対の第2の電極123,125、一対の第3の電極119,129の交点に第2の干渉波を発生するように制御される。
【0061】
D/Aコンバータ105は、発生した第1の周波数を有する正弦波、第2の周波数を有する正弦波、及び奇数乗正弦波の波形をローパスフィルタにより平滑化しても良い。ローパスフィルタは、特定の周波数以外の信号を遮断する機能を持つフィルタのうち、低周波数のみを通過させるフィルタである。ローパスフィルタは、特定の閾値よりも高い周波数信号を減衰させて遮断し、低域周波数のみを信号として通過させる。本発明の1つの実施形態の電気刺激装置は、第1の周波数を有する正弦波、第2の周波数を有する正弦波、及び第1の周波数を有する正弦波と第2の周波数を有する正弦波の干渉波、及びその奇数乗正弦波の高周波成分をカットする。
【0062】
(本発明の1つの実施形態の嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法の説明)
図30は、本発明の1つの実施形態に係る電気刺激装置を首に付けたa)正面図b)側面図である。
図31は、本発明の1つの実施形態に係る嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法を示す図である。
図30及び31を参照しながら、本発明の1つの実施形態の嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法を説明する。
【0063】
図30に示すように、本発明の1つの実施形態に係る電気刺激装置の一対の第1の電極121,127、一対の第2の電極123,125、一対の第3の電極119,129が首の表皮に取り付けられる。一対の第1の電極121,127は首の左右に取り付けられ、一対の第2の電極123,125は首の左右に取り付けられ、一対の第3の電極119,129は、首の前後に取り付けられることが好ましい。また、一対の第1の電極121,127を結ぶ線と一対の第2の電極123,125を結ぶ線は体の正中線で交わることが好ましい。このようにすることで、一対の第1の電極121,127、一対の第2の電極123,125、一対の第3の電極119,129の交点である所定の位置は、喉の位置に持ってこられる。これら第1乃至第3の電極121,123,125,127,129によって発生された第2の干渉波が所定の位置で発火閾値を超えることにより、所定の位置に電気刺激を与え嚥下動作を補助する。第1乃至第3の電流波の振幅電流値は、各人に応じて調節できることが好ましい。
【0064】
嚥下動作を補助する電気刺激装置101は、音センサ131を備えることが好ましい。この音センサは、咽頭で生じ、外耳を経由して到達する「ごっくん」の嚥下開始音を感知することができる。
図30で図示しないが、電気刺激装置101は、他に電源を備え、接続される。
【0065】
図30では図示しないが、音センサと電気刺激装置の制御は、
図29で示したような専用の制御回路を備えた電気的に接続された電子機器でなされる。また音センサと電気刺激装置の制御は、専用の制御回路を備えた電子機器に代えてWiFi、Bluetooth(登録商標)などの無線、または有線で接続したスマートフォンなどのある程度重い処理ができるCPUを備えた電子機器でできる。
【0066】
図31に示すように、嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法は、まず第1の電極121,127の間に第1の電流波と第2の電極123,125の間に第2の電流波を常時流して電気刺激の発火閾値を超えない第1の干渉波を常時発生する。
【0067】
次に嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法は、外耳道を経由して到達する嚥下動作の開始の音が耳に付けられた音センサにより感知されたとき、第3の電流波を発生する。最後に嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法は、第1の干渉波と第3の電流波により発火閾値を超えた第2の干渉波を発生し、所定の位置に電気刺激を与え、嚥下動作を補助する。本発明の1つの実施形態の嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法により、嚥下動作を患者のタイミングで行うことができる。
【0068】
電子機器の処理を軽くし、動作を容易にするためにテレビが付いているモニタに第3の電流波のタイミングを合わせて画像を変化させて、一定の時間で電気刺激装置の装着者の嚥下動作を補助してもよい。また、ラジオが付いている音声発生器に第3の電流波のタイミングを合わせて警告音を鳴らすなどして、一定の時間で電気刺激装置の装着者の嚥下動作を補助してもよい。
【0069】
このような電気刺激装置は、例えば骨盤底筋の強化(尿/便失禁予防、出産時の同筋の断裂の軽癒)、嚥下筋の強化(人工呼吸器装着時の同筋力低下の治療、嚥下性肺炎の予防、美声強化)、呼吸センサと組み合わせた嚥下筋の制御(いびき/睡眠時無呼吸症候群の症状の軽減)に用いることができる。また、電気刺激装置は、横隔膜、肋間筋など肺を動かす筋力の強化に用いることができる。また、電気刺激装置は、現在左頚部の迷走神経に電極を取り付けて刺激している癲癇治療のための迷走神経刺激、花粉症治療、美顔マッサージ、育毛に用いられる可能性がある。また、電気刺激装置は、例えば腰痛、膝痛、神経痛の緩和、過敏性大腸症候群の緩和に用いることができる。また、脳神経の特定部位の興奮あるいは抑制ができる可能性がある。
【0070】
このような電気刺激装置は、表皮に電極を設置するだけでなく、振幅変調波(複数の混合波)から生じた差分周波数による神経刺激と同様に、電波を体外から照射して、体内に刺激を発生する方式にすることもできる。体外から電波を照射することで電極を表皮に付ける必要がない。
【0071】
本発明は、効率よく電気刺激を与える電気刺激装置が提供される。また本発明は、嚥下動作を補助する電気刺激装置の動作方法が提供される。
【0072】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明により効率良く電気刺激を与える電気刺激装置が提供される。
【符号の説明】
【0074】
101 電気刺激装置
103 中央演算処理装置
105 D/Aコンバータ
107 第1の電圧電流回路
109 第2の電圧電流回路
111第3の電圧電流回路
113 第1の絶縁回路
115 第2の絶縁回路
117 第3の絶縁回路
119 第3の電極
121 第1の電極
123 第2の電極
125 第2の電極
127 第1の電極
129 第3の電極
131 音センサ
【手続補正書】
【提出日】2022-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の体表に取り付けられる、一対の第1の電極と、一対の第2の電極と、一対の第3の電極と、を備え、
前記一対の第1の電極は、第1の周波数を有する正弦波の第1の電流波を発生し、
前記一対の第2の電極は、第2の周波数を有する正弦波の第2の電流波を発生し、
前記第1の電流波と前記第2の電流波とが交わる前記対象の体内深部の所定の位置で第1の干渉波を発生し、
前記一対の第3の電極は、前記第1の干渉波を奇数乗した奇数乗正弦波の第3の電流波を発生し、
前記第3の電流波は、前記第1の電流波及び前記第2の電流波と交わる前記所定の位置で前記第1の干渉波と同期して第2の干渉波を発生し、
干渉波をHodgkin-Huxleyの方程式に代入した際にパルス的な挙動が生じる干渉波の合計振幅電流値を発火閾値とするとき、前記所定の位置においてのみ、前記第1の干渉波と前記第3の電流波とにより前記発火閾値を超えた前記第2の干渉波を発生させて電気刺激を与える、電気刺激装置。
【請求項2】
前記第3の電流波は、前記第1の干渉波を5乗乃至11乗した電流波である、請求項1に記載の電気刺激装置。
【請求項3】
前記所定の位置が、前記一対の第1の電極を結ぶ直線と、前記一対の第2の電極を結ぶ直線と、前記一対の第3の電極を結ぶ直線との交点となるように、前記一対の第1の電極、前記一対の第2の電極及び前記一対の第3の電極が前記対象の体表に配置される、請求項1または2に記載の電気刺激装置。
【請求項4】
出力波形を演算する、中央演算処理装置と、
前記第1の周波数を有する正弦波、前記第2の周波数を有する正弦波、及び前記奇数乗正弦波の波形を発生する、前記中央演算処理装置に電気的に接続されたD/Aコンバータと、
前記第1の周波数を有する正弦波、前記第2の周波数を有する正弦波、及び前記奇数乗正弦波の波形から前記第1の電流波、前記第2の電流波及び前記第3の電流波を発生させるための前記D/Aコンバータに電気的に接続された複数の電圧電流変換回路と、を備え、
前記一対の第1の電極、前記一対の第2の電極、及び前記一対の第3の電極は、それぞれ絶縁回路を通して前記複数の電圧電流変換回路と接続される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
【請求項5】
前記D/Aコンバータは、発生した前記前記第1の周波数を有する正弦波、前記第2の周波数を有する正弦波、及び前記奇数乗正弦波の波形をローパスフィルタにより平滑化する、請求項4に記載の電気刺激装置。
【請求項6】
前記一対の第1の電極、前記一対の第2の電極及び前記一対の第3の電極を首の表皮に取り付け、
前記第2の干渉波により、前記所定の位置に電気刺激を与え、嚥下動作を補助する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
【請求項7】
耳に付けられ、外耳道を経由して到達する前記嚥下動作の開始の音を検出する音センサを更に備え、
前記第1の電流波と前記第2の電流波を常時流して前記第1の干渉波を常時発生し、
前記音センサが前記嚥下動作を感知したとき、前記第3の電流波を発生して前記第2の干渉波を発生し、前記所定の位置に電気刺激を与え、前記嚥下動作を補助する、請求項6に記載の電気刺激装置。