(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096768
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】防振ゴム組成物および防振ゴム部材
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20230630BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230630BHJP
C08K 5/548 20060101ALI20230630BHJP
C08K 5/47 20060101ALI20230630BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230630BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20230630BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/36
C08K5/548
C08K5/47
C09K3/00 P
F16F15/08 D
F16F1/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212743
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 優人
(72)【発明者】
【氏名】笠井 誠司
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】松下 祐子
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
4J002
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BA01
3J048EA01
3J048EA07
3J048EA15
3J048EA38
3J059AB11
3J059BA41
3J059BC06
3J059BC19
3J059GA01
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3J059GA42
4J002AC011
4J002DA040
4J002DE100
4J002DJ016
4J002EA030
4J002EF050
4J002EN070
4J002EV278
4J002EV328
4J002EX087
4J002FB156
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD140
4J002FD147
4J002FD150
4J002FD157
4J002FD207
4J002FD317
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れ、低動倍率化を図ることができるとともに、湿熱環境下等において優れた耐スコーチ性を示すことができる防振ゴム組成物および防振ゴム部材を提供する。
【解決手段】下記の(A)~(C)を含有するとともに下記の(D)および(E)を含有するジエン系ゴム組成物からなり、(D)と(E)の合計含有量が、(A)100質量部に対し1~5質量部であり、(D)と(E)の質量比が、(D):(E)=90:10~50:50である防振ゴム組成物により、課題を解決する。
(A)ジエン系ゴム。
(B)シリカ。
(C)シランカップリング剤。
(D)N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド。
(E)ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(C)を含有するとともに下記の(D)および(E)を含有するジエン系ゴム組成物からなる、防振ゴム組成物であって、
(D)と(E)の合計含有量が、(A)100質量部に対し1~5質量部であり、
(D)と(E)の質量比が、(D):(E)=90:10~50:50である、防振ゴム組成物。
(A)ジエン系ゴム。
(B)シリカ。
(C)シランカップリング剤。
(D)N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド。
(E)ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド。
【請求項2】
前記(B)の含有量が、(A)100質量部に対し5~100質量部である、請求項1記載の防振ゴム組成物。
【請求項3】
前記(C)の含有量が、(A)100質量部に対し2~12質量部である、請求項1または2記載の防振ゴム組成物。
【請求項4】
前記(C)が、メルカプト系シランカップリング剤およびスルフィド系シランカップリング剤からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1~3のいずれか一項に記載の防振ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の防振ゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車,電車等の車両等における防振用途に用いられる防振ゴム組成物および防振ゴム部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防振ゴムの技術分野においては、高耐久性、低動倍率化(動倍率〔動的ばね定数(Kd)/静的ばね定数(Ks)〕の値を小さくすること)等が要求される。これらの要求を実現するために、防振ゴム組成物のポリマーであるジエン系ゴムに、カーボンブラック、シリカといったフィラーを含有させたものや、さらに、シリカの分散性向上のためにシランカップリング剤を併用させた配合系のものが確立されている(例えば、特許文献1~4参照)。
また、さらなる低動倍率化に向けては、シリカの高分散化とともに、ポリマーゴムの架橋構造や、シランカップリング剤によるシリカとポリマーゴムの結合性が、重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3838154号公報
【特許文献2】特開2017-8161号公報
【特許文献3】国際公開2016/204012号公報
【特許文献4】特表2016-536415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記のような、シリカとシランカップリング剤を配合した従来の防振ゴム組成物においては、シリカ(充填材)としてカーボンブラックを用いたときに比べ、特に湿熱環境下(高温多湿条件下)において、ゴム組成物がスコーチ(ゴム焼け)しやすくなるため、長期保管する際等に支障が生じる問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、耐久性に優れ、低動倍率化を図ることができるとともに、湿熱環境下等において優れた耐スコーチ性を示すことができる防振ゴム組成物および防振ゴム部材の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、高耐久性、低動倍率化を図るため、防振ゴム組成物のポリマーであるジエン系ゴムに対しシリカとシランカップリング剤を併用させた配合系とし、その配合系において耐スコーチ性を改良するため、加硫促進剤を中心に検討を重ねた。
このような配合系において、低動倍率化を達成できることから一般的に使用されている加硫促進剤として、例えばN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)がある。
しかしながら、吸湿しやすいシリカが存在するなか、湿熱環境下において、CBSは加水分解されて、より加硫促進力の高い2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)へと変質しやすく、その結果、スコーチタイムを短くする作用を示すようになるといった問題がある。
そこで、本発明者らは、CBSと比較して加水分解しにくい加硫促進剤として、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(MBS)やジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)を選定し、これらをCBSと置き換えることで効果を検証した。
この検証の結果、MBSを使用した場合、湿熱環境下でのスコーチタイムをカーボンブラック配合の場合と同水準にすることができたが、乾熱環境下(高温低湿条件下)ではスコーチタイムが経時の初期段階で増加する傾向が見られたため、実際の工程で扱いにくいものとなるとの知見を得た。また、この検証の結果、MBTSを使用した場合、湿熱環境下でのスコーチタイムをカーボンブラック配合の場合以上の水準にまですることができたが、動特性の悪化が顕著となるとの知見を得た。
しかしながら、本発明者らが実験を重ねたところ、MBSとMBTSを特定の割合で組み合わせることにより、お互いの長所を引き出すことができるようになることを突き止めた。そして、このような構成とすることにより、ジエン系ゴムに対しシリカとシランカップリング剤を併用させた配合系において、CBSを使用したときと同程度の低動倍率化を達成することができ、かつ、CBSや従来の加硫促進剤の組み合わせ等では得られなかった優れた耐スコーチ性(カーボンブラック配合の場合と同水準のスコーチタイム)が得られるようになることを突き止めた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を、その要旨とする。
[1] 下記の(A)~(C)を含有するとともに下記の(D)および(E)を含有するジエン系ゴム組成物からなる、防振ゴム組成物であって、
(D)と(E)の合計含有量が、(A)100質量部に対し1~5質量部であり、
(D)と(E)の質量比が、(D):(E)=90:10~50:50である、防振ゴム組成物。
(A)ジエン系ゴム。
(B)シリカ。
(C)シランカップリング剤。
(D)N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド。
(E)ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド。
[2] 前記(B)の含有量が、(A)100質量部に対し5~100質量部である、[1]に記載の防振ゴム組成物。
[3] 前記(C)の含有量が、(A)100質量部に対し2~12質量部である、[1]または[2]に記載の防振ゴム組成物。
[4] 前記(C)が、メルカプト系シランカップリング剤およびスルフィド系シランカップリング剤からなる群から選ばれた少なくとも一つである、[1]~[3]のいずれかに記載の防振ゴム組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の防振ゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明の防振ゴム組成物は、ジエン系ゴム(A)からなるポリマーとともに、シリカ(B)、シランカップリング剤(C)を含有し、さらに、加硫促進剤であるN-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(D)とジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(E)とを特定の割合で含有する。そのため、高耐久性および低動倍率化を達成しつつ、優れた耐スコーチ性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
なお、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【0010】
本発明の一実施形態である防振ゴム組成物(以下、「本防振ゴム組成物」という)は、先に述べたように、下記の(A)~(C)を含有するとともに下記の(D)および(E)を含有するジエン系ゴム組成物からなり、(D)と(E)の合計含有量が、(A)100質量部に対し1~5質量部であり、(D)と(E)の質量比が、(D):(E)=90:10~50:50のものである。
(A)ジエン系ゴム。
(B)シリカ。
(C)シランカップリング剤。
(D)N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(MBS)。
(E)ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)。
【0011】
前記のように、本防振ゴム組成物はジエン系ゴム組成物であるため、そのポリマーにはジエン系ゴム(A)が用いられている。なお、前記のようにジエン系ゴム組成物であるため、本防振ゴム組成物においてジエン系ゴム(A)以外のポリマーは使用しないことが望ましいが、若干量(ポリマー全体の30質量%未満)であればジエン系ゴム(A)以外のポリマーを使用することも可能である。
【0012】
以下、本防振ゴム組成物の構成材料について詳しく説明する。
【0013】
〔ジエン系ゴム(A)〕
本防振ゴム組成物に用いられるジエン系ゴム(A)としては、好ましくは、天然ゴム(NR)を主成分とするジエン系ゴムが用いられる。ここで、「主成分」とは、前記ジエン系ゴム(A)の50質量%以上が天然ゴムであるものを示し、好ましくは前記ジエン系ゴム(A)の80質量%以上が、より好ましくは前記ジエン系ゴム(A)の90質量%以上が、天然ゴムであるものを示し、前記ジエン系ゴム(A)が天然ゴムのみからなるものも含める趣旨である。このように、天然ゴムを主成分とすることにより、強度や低動倍率化の点で優れるようになる。
また、天然ゴム以外のジエン系ゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なお、これらのジエン系ゴムは、天然ゴムと併用することが望ましい。
【0014】
〔シリカ(B)〕
また、本防振ゴム組成物に用いられるシリカ(B)としては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ等が用いられる。そして、これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0015】
そして、高耐久性と低動倍率化を両立する観点から、前記シリカ(B)のBET比表面積は、20~380m2/gであることが好ましい。
なお、前記シリカ(B)のBET比表面積は、例えば、試料を200℃で15分間脱気した後、吸着気体として混合ガス(N2:70%、He:30%)を用いて、BET比表面積測定装置(マイクロデータ社製、4232-II)により測定することができる。
【0016】
前記シリカ(B)の含有量は、高耐久性、低動倍率化の達成等の観点から、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、5~100質量部であることが好ましく、同様の観点から、より好ましくは10~80質量部、さらに好ましくは15~75質量部である。
【0017】
〔シランカップリング剤(C)〕
また、本防振ゴム組成物に用いられるシランカップリング剤(C)としては、例えば、メルカプト系シランカップリング剤、スルフィド系シランカップリング剤、アミン系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤等が、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、前記シランカップリング剤(C)が、メルカプト系シランカップリング剤やスルフィド系シランカップリング剤であることが、加硫密度が上がり、低動倍率、耐久性に特に効果があるため、好ましい。
【0018】
前記メルカプト系シランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0019】
前記スルフィド系シランカップリング剤としては、例えば、ビス-(3-(トリエトキシシリル)-プロピル)-ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス-(3-(トリエトキシシリル)-プロピル)-テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0020】
前記アミン系シランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0021】
前記エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0022】
前記ビニル系シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル・トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニル・トリス(2-メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0023】
これらのシランカップリング剤(C)の含有量は、高耐久性、低動倍率化の達成等の観点から、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、2~12質量部であることが好ましく、より好ましくは3~10質量部の範囲である。
【0024】
〔加硫促進剤(D),(E)〕
また、本防振ゴム組成物に用いられる加硫促進剤としては、特定の加硫促進剤、すなわち、前記(D)に示すN-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(MBS)と、前記(E)に示すジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)とが併せて用いられる。
そして、本防振ゴム組成物において、これらMBS(D)とMBTS(E)の合計含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、1~5質量部であり、好ましくは1.5~5質量部の範囲であり、より好ましくは2~5質量部の範囲である。
また、本防振ゴム組成物において、MBS(D)とMBTS(E)の質量比は、(D):(E)=90:10~50:50であり、好ましくは(D):(E)=85:15~55:45の質量比である。
このような質量比でMBS(D)とMBTS(E)を用いることにより、本防振ゴム組成物における低動倍率化等を達成しつつ、従来の加硫促進剤の組み合わせ等では得られなかった優れた耐スコーチ性が得られるようになる。
【0025】
なお、本防振ゴム組成物においては、必須成分である前記(A)~(E)とともに、加硫剤、加硫助剤、老化防止剤、プロセスオイル、カーボンブラック等を、必要に応じて適宜に含有させることも可能である。
【0026】
前記加硫剤としては、例えば、硫黄(粉末硫黄,沈降硫黄,不溶性硫黄)、アルキルフェノールジスルフィド等の硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0027】
また、前記加硫剤の含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、0.1~10質量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.3~5質量部の範囲である。すなわち、前記加硫剤の含有量が少なすぎると、加硫反応性が悪くなる傾向がみられ、逆に前記加硫剤の含有量が多すぎると、ゴム物性(破断強度,破断伸び)が低下する傾向がみられるからである。
【0028】
前記加硫助剤としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、ステアリン酸、酸化マグネシウム等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0029】
また、前記加硫助剤を用いる場合、その含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、0.1~10質量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.3~7質量部の範囲である。
【0030】
前記老化防止剤としては、例えば、カルバメート系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、ワックス類等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0031】
また、前記老化防止剤を用いる場合、その含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、0.5~15質量部の範囲が好ましく、特に好ましくは1~10質量部の範囲である。
【0032】
前記プロセスオイルとしては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0033】
また、前記プロセスオイルを用いる場合、その含有量は、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、1~35質量部の範囲が好ましく、特に好ましくは3~30質量部の範囲である。
【0034】
また、本防振ゴム組成物には、シリカ(B)とシランカップリング剤(C)による低動倍率化等に影響を与えない範囲で、必要に応じカーボンブラックを含有させてもよい。
前記カーボンブラックとしては、BET比表面積が10~150m2/gのものが好ましく、より好ましくは、BET比表面積65~85m2/gのものが用いられる。
なお、前記カーボンブラックのBET比表面積は、例えば、試料を200℃で15分間脱気した後、吸着気体として混合ガス(N2:70%、He:30%)を用いて、BET比表面積測定装置(マイクロデータ社製、4232-II)により測定することができる。
前記カーボンブラックのグレードは、補強性や耐久性等の観点から、FEF級,MAF級,GPF級,SRF級,FT級,MT級等の種々のグレードのカーボンブラックが用いられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、前記観点から、FEF級のカーボンブラックが、好ましく用いられる。
【0035】
前記カーボンブラックを用いる場合、その含有量は、耐疲労性の観点から、前記ジエン系ゴム(A)100質量部に対し、0.1~5質量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.1~3質量部の範囲である。
【0036】
〔防振ゴム組成物の調製方法〕
ここで、本防振ゴム組成物は、その必須成分である(A)~(E)を特定の割合で用い、さらに、必要に応じて、前記列記したその他の材料を用いて、これらをニーダー,バンバリーミキサー,オープンロール,二軸スクリュー式撹拌機等の混練機を用いて混練することにより、調製することができる。
【0037】
特に、前記混練は、加硫剤と加硫促進剤以外の材料を、バンバリーミキサーを用いて100~170℃で3~10分間混練(好ましくは、150~160℃で3~5分間混練)し、ついで、加硫剤と加硫促進剤を配合し、オープンロールを用いて30~80℃で3~10分間混練(好ましくは、30~60℃で3~5分間混練)することにより行うことが、望ましい。
このようにして得られた本防振ゴム組成物は、耐久性に優れ、低動倍率化を図ることができるとともに、湿熱環境下等において優れた耐スコーチ性を示すことができる。
【0038】
そして、本防振ゴム組成物は、高温(150~170℃)で5~30分間、加硫することにより防振ゴム部材(加硫体)となる。
【0039】
本防振ゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材は、自動車の車両等に用いられるエンジンマウント、スタビライザブッシュ、サスペンションブッシュ、モーターマウント、サブフレームマウント等の構成部材として好ましく用いられる。
また、前記用途以外にも、コンピューターのハードディスクの制振ダンパー、洗濯機等の一般家電製品の制振ダンパー、建築・住宅分野における建築用制震壁,制震(制振)ダンパー等の制震(制振)装置および免震装置の用途にも用いることができる。
【実施例0040】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1~5、比較例1~6]
天然ゴム100質量部と、シリカ(DEGUSSA社製、ULTRASIL VN-3、BET比表面積200m2/g(前記手法に準拠して測定された値))50質量部と、シランカップリング剤(MOMENTIVE社製、NXT)7質量部と、酸化亜鉛(堺化学工業社製、酸化亜鉛二種)5質量部と、ステアリン酸(日油社製、ビーズステアリン酸さくら)2質量部と、老化防止剤(住友化学社製、アンチゲン6C)1質量部と、プロセスオイル(日本サン石油社製、サンセン410)3質量部とを、バンバリーミキサーを用いて150℃で5分間混練した。
このようにして得られた混練物に、後記の表1に示す加硫促進剤(CBS、MBS、MBTS)を同表に示す割合で配合し、さらに、加硫剤(軽井沢製錬所社製、硫黄)2.5質量部を加え、オープンロールを用いて60℃で5分間混練することにより、防振ゴム組成物を調製した。
なお、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)には川口化学工業社製のACCEL CZを用い、MBSには川口化学工業社製のACCEL NSを用い、MBTSには川口化学工業社製のACCEL DMを用いた。
【0042】
このようにして得られた実施例および比較例の防振ゴム組成物を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示した。
【0043】
<耐スコーチ性>
各防振ゴム組成物を、40℃,20%RH環境下(乾熱環境下)、あるいは40℃,95%RH環境下(湿熱環境下)で、所定日数(4日、7日、14日)保管した。そして、保管0日目の各防振ゴム組成物、および前記の所定日数保管後の各防振ゴム組成物に対し、東洋精機社製のムーニー粘度計を用い、試験温度(121℃)でのスコーチタイム(ST)を測定した。
後記の表1には、各防振ゴム組成物における、保管0日目のSTの値を100(基準)としたときの、所定日数保管後のSTの値を指数換算したものを表記した。
そして、40℃,20%RH環境下で保管したものに対しては、各保管日数において、STの値を指数換算した値が、いずれも比較例1を上回り、かつ保管4日目のSTの値を指数換算した値が100±5以内であるものを、耐スコーチ性に優れるものとして「○」と評価し、この「○」の条件を満たさないものを、耐スコーチ性に劣るものとして「×」と評価した。
また、40℃,95%RH環境下で保管したものに対しては、各保管日数において、STの値を指数換算した値が、いずれも比較例1を上回るものを、耐スコーチ性に優れるものとして「○」と評価し、この「○」の条件を満たさないものを、耐スコーチ性に劣るものとして「×」と評価した。
なお、40℃,20%RH環境下で保管したものに対する耐スコーチ性の評価基準として、比較例1(加硫促進剤としてCBSを使用したもの)に対する優位性の有無に加え、「保管4日目のSTの値を指数換算した値が100±5以内であるもの」との要件を加えた理由は、通常の製造環境に想定される保管条件で保管(40℃,20%RH環境下で4日保管)した後、最適な加硫時間を示すようにすることができるか否かをみるためである。
【0044】
<動倍率>
各防振ゴム組成物を150℃で30分間プレス成形(加硫)し、テストピースを作製した。そして、前記テストピースの静ばね定数(Ks)および周波数100Hzでの動ばね定数(Kd100)を、それぞれJIS K 6386に準じて測定した。その値をもとに、動倍率(Kd100/Ks)を算出した。
後記の表1には、比較例1における動倍率(Kd100/Ks)の測定値を100としたときの、各実施例および比較例における動倍率の測定値を指数換算したものを表記した。
そして、その動倍率の値が、比較例1の動倍率の値の100±5%以内であるものを「○」と評価し、比較例1の動倍率の値の100±5%以内に入らないものを「×」と評価した。
なお、このような基準とした理由は、比較例1(加硫促進剤としてCBSを使用したもの)と同程度の低動倍率化がなされているか否かをみるためである。
【0045】
【0046】
前記表1の結果から、MBSとMBTSの合計含有量が本発明に規定の範囲内であり、かつMBSとMBTSの質量比も本発明に規定の範囲内である実施例の防振ゴム組成物は、比較例1(加硫促進剤としてCBSを使用したもの)と同程度の低動倍率化がなされ、かつ、比較例1のゴム組成物に対し耐スコーチ性において優位差が認められた。しかも、実施例の防振ゴム組成物においては、耐スコーチ性の評価において、通常の製造環境に想定される保管条件で保管(40℃,20%RH環境下で4日保管)した後、最適な加硫時間を示すようにすることができるといった有利な特性が認められた。
【0047】
これに対し、比較例2~6の防振ゴム組成物は、加硫促進剤としてMBSやMBTSを用いているものの、加硫促進剤の割合等が本発明の規定を満たさないことから、本発明に要求される耐スコーチ性と低動倍率化の両立がなされない結果となった。なお、比較例2,3,6の防振ゴム組成物は、耐スコーチ性において、比較例1のゴム組成物に対し優位差が認められるものの、先に述べたような、通常の製造環境に想定される保管条件で保管した際に最適な加硫時間を示すようにすることができなかったことから、40℃,20%RH環境下での耐スコーチ性の評価が「×」となった。
本発明の防振ゴム組成物は、自動車の車両等に用いられるエンジンマウント、スタビライザブッシュ、サスペンションブッシュ、モーターマウント、サブフレームマウント等の構成部材(防振ゴム部材)の材料として好ましく用いられるが、それ以外にも、コンピューターのハードディスクの制振ダンパー、洗濯機等の一般家電製品の制振ダンパー、建築・住宅分野における建築用制震壁,制震(制振)ダンパー等の制震(制振)装置および免震装置の構成部材(防振ゴム部材)の材料にも用いることができる。