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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096773
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20230630BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212755
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇介
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 栄也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA07
2G015AA10
2G015AA13
2G015AA14
2G015BA04
2G015BA06
2G015CA01
(57)【要約】
【課題】サージ電圧の発生を推定することができる推定装置、推定方法及びプログラムを提供することにある。
【解決手段】実施形態の推定装置は、極性判定部と、放電パターン特定部と、インパルスPD推定部とを持つ。極性判定部は、所定の期間に機器が発する部分放電信号の極性を判定する。放電パターン特定部は、前記判定された極性に基づいて、前記所定の期間に含まれる時間領域から、同じ極性の前記部分放電信号が所定の時間より短い間隔で連続する時間領域である同極性信号時間領域を特定する。インパルスPD推定部は、前記同極性信号時間領域に含まれる信号に基づいて、インパルスPDの発生を推定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の期間に機器が発する部分放電信号の極性を判定する極性判定部と、
前記判定された極性に基づいて、前記所定の期間に含まれる時間領域から、同じ極性の前記部分放電信号が所定の時間より短い間隔で連続する時間領域である同極性信号時間領域を特定する放電パターン特定部と、
前記同極性信号時間領域に含まれる信号に基づいて、インパルスPDの発生を推定するインパルスPD推定部と、
を備える推定装置。
【請求項2】
前記インパルスPD推定部は、前記同極性信号時間領域に含まれる前記部分放電信号の大きさに基づいて、インパルスPDの大きさを推定する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記放電パターン特定部は、前記時間領域から、所定の時間より短い間隔で前記部分放電信号が発生し、異なる極性の前記部分放電信号が含まれる異極性信号時間領域と、前記所定の時間以上前記部分放電信号が発生していない無信号時間領域とを特定し、
前記特定された同極性信号時間領域、異極性信号時間領域及び無信号時間領域に基づいて、前記機器の劣化状態を推定する劣化状態推定部と、
を備える請求項1に記載の推定装置。
【請求項4】
前記劣化状態推定部は、前記同極性信号時間領域、前記異極性信号時間領域及び前記無信号時間領域の長さ及び順番に基づいて前記機器の劣化状態を推定する、
請求項3に記載の推定装置。
【請求項5】
所定の期間に機器が発する部分放電信号の極性を判定する極性判定ステップと、
前記判定された極性に基づいて、前記所定の期間に含まれる時間領域から、同じ極性の信号が連続する時間領域である同極性信号時間領域を特定する放電パターン特定ステップと、
前記同極性信号時間領域に含まれる信号に基づいて、インパルスPDの発生を推定するインパルスPD推定ステップと、
を有する推定方法。
【請求項6】
コンピュータに、
所定の期間に機器が発する部分放電信号の極性を判定する極性判定ステップと、
前記判定された極性に基づいて、前記所定の期間に含まれる時間領域から、同じ極性の信号が連続する時間領域である同極性信号時間領域を特定する放電パターン特定ステップと、
前記同極性信号時間領域に含まれる信号に基づいて、インパルスPDの発生を推定するインパルスPD推定ステップと
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、推定装置、推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力機器の経年劣化によって、電力機器の表面や内部の絶縁体の絶縁性能が低下する。絶縁性能の低下が生じた箇所からは、部分放電(Partial Discharge, PD)が発生する。絶縁性能の低下が進行すると、電力機器に絶縁破壊が起こる可能性がある。また、電力機器に突発的に侵入するサージ電圧によっても、絶縁性能の低下が生じることがある。
経年劣化による部分放電は、劣化のトレンドを認識するために、定期的に監視することが好ましい。
しかしながら、サージ電圧は突発的に生じるため、定期的な監視においては見逃される可能性がある。そのため、サージ電圧を直接計測することなくサージ電圧を監視し、機器の劣化を推定できることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-217955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、サージ電圧の発生を推定することができる推定装置、推定方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の推定装置は、極性判定部と、放電パターン特定部と、インパルスPD推定部とを持つ。極性判定部は、所定の期間に機器が発する部分放電信号の極性を判定する。放電パターン特定部は、前記判定された極性に基づいて、前記所定の期間に含まれる時間領域から、同じ極性の前記部分放電信号が所定の時間より短い間隔で連続する時間領域である同極性信号時間領域を特定する。インパルスPD推定部は、前記同極性信号時間領域に含まれる信号に基づいて、インパルスPDの発生を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態に係る推定システム100の構成を示す図。
図2】第1の実施形態の推定システム100の機能構成を表す機能ブロック図。
図3】同極性信号時間領域R1の一例。
図4】第1の実施形態に係る推定装置103の動作を示すフローチャート。
図5】第2の実施形態に係る推定システム100の構成を示す図。
図6】放電パターン特定部114による特定の一例。
図7】各劣化段階における放電パターンを示す図。
図8】第2の実施形態に係る推定装置103の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の推定システム100を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る推定システム100の構成を示す図である。
推定システム100は、1つ以上の電極101、信号線102及び推定装置103から構成される。第1の実施形態の推定装置103は、単一の装置で構成される。推定システム100は、電気機器が収容された配電盤10の近傍に設けられる。推定システム100は、電極101によって電気機器から発生した部分放電を検出する。配電盤10には、電極101が設けられる。配電盤10の内部には、電気機器が収納される。電気機器は、遮断機、断路器、変流器又は変圧器等の機器(いずれも不図示)によって構成される。電気機器は、外部から電源ケーブルを介して、高電圧及び大電流を通電する。電気機器は、異常時には通電を遮断する機能を有する。なお、配電盤10の下部には、接地極が接続される。電気機器は、電力用変圧器、ガス絶縁開閉器、発電機、電動機又はリアクトル等のように、部分放電を発生する可能性がある機器であればどのような機器であってもよい。
【0008】
図2は、第1の実施形態の推定システム100の機能構成を表す機能ブロック図である。推定システム100は、図1で説明した通り推定システム100は、電極101、信号線102及び推定装置103から構成される。
【0009】
電極101は、電気機器の運転によって生じる現象に応じて電気信号を生成する。電気機器の運転によって生じる現象は、例えば、電流、電磁波、振動、音波又は振動等である。電気信号は、運転によって生じる現象から得られる物理量を表す。電極101は、電気機器に外壁面に設けられる。電極101は、信号線102を介して推定装置103に接続されている。電極101は、生成された電気信号を推定装置103に出力する。電極101は、CT(Current Transformer)センサ、TEV(Transient Earth Voltage)センサ、AE(Acoustic Emission)センサ、アンテナ等の電気機器の運転に由来する電流、電磁波、音波又は振動を測定できるセンサであってもよい。電極101は、上述のセンサのうち、1種類のセンサが用いられてもよいが、複数種類を組み合わせて用いられてもよい。
【0010】
信号線102は、電極101によって生成された電気信号を推定装置103に入力する。1つ以上の電極101、信号線102及び推定装置103から構成される。第1の実施形態の推定装置103は、単一の装置で構成される。
【0011】
推定装置103は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン又はタブレットコンピュータ等の情報処理装置である。推定装置103は、電極101から出力された電気信号に基づいて、部分放電の発生の有無を判定する。
【0012】
通信部104は、ネットワークインタフェースである。通信部104はネットワーク(不図示)を介して、外部の通信装置と通信する。通信部104は、例えば無線LAN(Local Area Network)、有線LAN、Bluetooth(登録商標)又はLTE(Long Term Evolution)(登録商標)等の通信方式で通信してもよい。外部の通信装置は、例えばパーソナルコンピュータ、サーバ等の情報処理装置であってもよいし、クラウドコンピューティングシステムであってもよい。
【0013】
入力部105は、タッチパネル、マウス及びキーボード等の入力装置を用いて構成される。入力部105は、入力装置を推定システム100に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、入力部105は、入力装置において入力された入力信号から入力データ(例えば、推定システム100に対する指示を示す指示情報)を生成し、推定システム100に入力する。
【0014】
表示部106は、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の出力装置である。表示部106は、出力装置を推定システム100に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部106は、映像データから映像信号を生成し自身に接続されている映像出力装置に映像信号を出力する。
【0015】
信号記憶部107は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。信号記憶部107は、信号データを記憶する。信号データは、電気信号が取得された日時と電気信号が表す物理量とを少なくとも含む。なお、推定システム100が複数の電極101を備える場合、信号データは電極101の識別情報を保持してもよい。識別情報は、電極101を特定できる情報であればどのような情報であってもよい。
【0016】
制御部111は、推定装置103の各部の動作を制御する。制御部111は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びRAM(Random Access Memory)を備えた装置により実行される。制御部111は、推定プログラムを実行することによって、電気信号取得部112、部分放電信号抽出部、極性判定部113、放電パターン特定部114、インパルスPD推定部115として機能する。
【0017】
電気信号取得部112は、電極101によって入力された電気信号を取得する。電気信号取得部112は、電気信号が取得された日時と電気信号が表す受信強度とを対応付けて信号記憶部107に記憶させる。なお、推定システム100が電極101を複数備える場合、電気信号取得部112は、電気信号が取得された日時と電気信号が表す受信強度と電極101の識別情報とを対応付ける。
【0018】
部分放電信号抽出部は、取得された電気信号から部分放電信号を抽出する。部分放電が発生することにより生じる電気信号は、例えば1-20MHz帯と100MHz帯に信号成分を有する。部分放電信号抽出部は、例えば電気信号から1-20MHz帯の信号と100MHz帯の信号を抽出し、両方の周波数帯に含まれる信号を部分放電信号と決定する。
【0019】
極性判定部113は、部分放電信号抽出部により抽出された部分放電信号の極性を判定する。極性判定部113は、例えば部分放電信号の立ち上り方向に基づいて信号の極性を判定する。極性判定部113は、例えば所定の時間に抽出された部分放電信号のうち最初に取得された部分放電信号の立ち上り方向が正方向であるときに部分放電信号の極性を正極性と判定し、負方向であるときに部分放電信号の極性を負極性と判定する。
【0020】
極性判定部113は、推定装置103が配電盤10の内部に含まれる電気機器への印加電圧を取得する場合、当該印加電圧に基づいて電気信号取得部112により取得された信号の極性を判定してもよい。部分放電は、印加電圧によってボイドに蓄えられた電荷が放出される現象であるため、部分放電の極性は印加電圧の極性と等しくなる。したがって、極性判定部113は、例えば配電盤10の内部に含まれる電気機器への印加電圧が正極性であるときは、正極性の放電が生じやすいことから、電気信号取得部112により取得された信号の極性を正極性であると判定し、印加電圧が負極性であるときは、負極性の放電が生じやすいことから、信号の極性を負極性であると判定する。
【0021】
放電パターン特定部114は、極性判定部113により判定された極性に基づいて、電気信号が取得された時間領域から、同じ極性の信号が連続する時間領域である同極性信号時間領域を特定する。同極性信号時間領域において、同じ極性の信号が所定の時間を空けることなく連続する。図3は同極性信号時間領域R1の一例である。図3において、同極性信号時間領域R1の信号は同じ極性を有し、所定の時間を空けることなく連続する。同極性信号時間領域R1以降の時間領域R2の信号には異なる極性の信号が含まれることから、時間領域R2は同極性信号時間領域ではない。
【0022】
インパルスPD推定部115は、同極性信号時間領域R1の信号に基づいて、インパルスPD(Partial Discharge)の発生を推定する。図3に示すように、同極性信号時間領域R1の信号は、サージ電圧により配電盤10の内部に含まれる電気機器の欠陥部に引き起こされる大きな放電であるインパルスPDの発生直後に発生する。これは、同極性信号時間領域の信号が、インパルスPDによる欠陥部の帯電を、インパルスPDと逆極性の電圧が電気機器に印加されたときに放電するためである。そのため、インパルスPDの大きさと同極性信号時間領域の信号の大きさの総和は、近い大きさとなる。したがって、インパルスPD推定部115は、同極性信号時間領域の信号の大きさの総和をインパルスPDの大きさであると推定することができる。インパルスPDにより移動する総電荷量と、欠陥部に発生したサージ電圧Vの間には相関関係があるため、インパルスPDの大きさに基づいてサージ電圧Vは推定されることができる。
【0023】
インパルスPD推定部115による推定結果は、例えば表示部106により外部に出力されディスプレイなどに表示される。インパルスPD推定部115による推定結果は、通信部104によって外部の通信装置に送信されてもよい。
【0024】
図4は、第1の実施形態に係る推定装置103の動作を示すフローチャートである。電気信号取得部112が電気信号を取得する(ステップS1)。部分放電信号抽出部が取得された電気信号から部分放電信号を抽出する(ステップS2)。極性判定部113は、部分放電信号ごとに極性を判定する(ステップS3)。放電パターン特定部114は、部分放電信号が所定の時間より短い間隔で連続して発生している区間を特定し、特定した区間について、その区間に含まれる部分放電信号の極性が一定時間以上全て同じである時間領域を同極性信号時間領域と特定する(ステップS4)。同極性信号時間領域が特定された場合(ステップS5:YES)、インパルスPD推定部115は、インパルスPDが発生したと推定する(ステップS6)。その後、表示部106はインパルスPDが発生したことを出力する(ステップS7)。同極性信号時間領域が特定されなかった場合(ステップS5:NO)、表示部106はインパルスPDが発生しなかったことを出力する(ステップS8)。
【0025】
このように、推定装置103は、信号を取得し、信号の極性を判定し、時間領域を同極性信号時間領域に分類し、同極性信号時間領域の信号に基づいてインパルスPDを推定する。これにより、サージ電圧が発生したこと及びその大きさを推定することができる。
【0026】
〈第2の実施形態〉
図5は、第2の実施形態に係る推定システム100の構成を示す図である。第2の実施形態に係る推定システム100は第1の実施形態に係る推定システム100に加え、特徴量取得部116、劣化状態推定部117、放電パターン記憶部108を備える。また、第2の実施形態に係る放電パターン特定部114は、第1の実施形態に係る放電パターン特定部114と異なる動作をする。
【0027】
第2の実施形態に係る放電パターン特定部114は、極性判定部113により判定された極性に基づいて、電気信号が取得された時間領域から、同じ極性の信号が連続する時間領域である同極性信号時間領域、異なる極性の信号を含む時間領域である異極性信号時間領域及び信号が含まれない無信号時間領域を特定する。図6は、放電パターン特定部114による特定の一例である。異極性信号時間領域の信号は所定の時間内に異なる極性の信号が連続する。異極性信号時間領域には異なる極性の信号が含まれていればよく、同じ極性の信号が連続してもよい。放電パターン特定部114は例えば部分放電信号が所定の時間より短い間隔で発生している時間領域において一定時間以上同じ極性の信号が続いている時間領域を同極性信号時間領域と決定し、それ以外の時間領域を異極性信号時間領域と決定する。放電パターン特定部114は同極性信号時間領域及び異極性信号時間領域のいずれにも含まれていない時間領域を無信号時間領域と決定する。
【0028】
特徴量取得部116は、分類された時間領域ごとに特徴量を取得する。分類された時間領域ごとの特徴量は、例えば時間領域の長さ、時間領域の順番、信号の最大強度、信号の強度の総量、信号の強度の平均値、単位時間当たりの信号発生数、単位時間当たりの放電エネルギーを含む。単位時間当たりの放電エネルギーは例えば信号の強度の総量を時間領域の長さで除算することで算出される。
【0029】
劣化状態推定部117は、特徴量取得部116により取得された特徴量と放電パターン記憶部108に記憶された特徴量と電気機器の劣化状態の対応関係に基づいて、劣化状態を推定する。放電パターン記憶部108は、特徴量と電気機器の劣化状態の対応関係を記憶する。
【0030】
電気機器の劣化状態は、大きく劣化初期、劣化中期、劣化末期に分けられる。劣化状態は、時間が経過すると劣化初期、劣化中期、劣化末期の順番に推移する。図7は、各劣化段階における放電パターンを示す図である。各劣化段階において、インパルスPDが発生した後、同極性信号時間領域が発生し、その後異極性信号時間領域が発生する。異極性信号時間領域において電気機器に生じる部分放電は、電気機器の欠陥部の部分放電特性が低下したことによるものである。電気機器の劣化段階が進むにつれて、欠陥部の劣化により部分放電特性の低下が進行するため、同極性信号時間領域の後に続く異極性信号時間領域の長さは長くなる。また、欠陥部の部分放電特性が低下することでインパルスPDが発生しなくとも時間領域が無信号時間領域から異極性信号時間領域になることがある。そのため、劣化中期においては、インパルスPDが発生した後、劣化初期と比較して長い同極性信号時間領域があり、その後無信号時間領域を経て異極性信号時間領域が続く。
【0031】
その後、さらに電気機器の劣化が進むと異極性信号時間領域の長さが長くなり、無信号時間領域の長さが短くなる。そのため、劣化末期においては、無信号時間領域の長さが短い。
【0032】
また、電気機器の劣化段階が進むにつれて、異極性信号時間領域で発生する信号の強度(例えば、信号の最大強度、信号の強度の総量又は信号の強度の平均値)は大きくなり、単位時間当たりの信号発生数は多くなる。
【0033】
放電パターン記憶部108は、例えば特徴量として各時間領域の長さ、各時間領域の順番、各時間領域で発生する信号の強度又は各時間領域における単位時間当たりの信号発生数と電気機器の劣化状態の対応関係を記憶する。例えば放電パターン記憶部108は、同極性信号時間領域と同極性信号時間領域に続く所定の時間よりも短い異極性信号時間領域を劣化初期状態と対応させて記憶する。例えば放電パターン記憶部108は、同極性信号時間領域と同極性信号時間領域に続く所定の時間以上の異極性信号時間領域と、異極性信号時間領域に続く所定の時間以上の無信号時間領域を劣化中期状態と対応させて記憶する。例えば放電パターン記憶部108は、異極性信号時間領域と、異極性信号時間領域に続く所定の時間より短い無信号時間領域を劣化末期状態と対応させて記憶する。
【0034】
例えば放電パターン記憶部108は、異極性信号時間領域において発生する信号の強度の大きさが第1の強度以下であるとき、当該異極性信号時間領域を劣化初期状態と対応させて記憶する。例えば放電パターン記憶部108は、異極性信号時間領域において発生する信号の強度の大きさが第1の強度より大きく第2の強度以下であるとき、当該異極性信号時間領域を劣化中期状態と対応させて記憶する。例えば放電パターン記憶部108は、異極性信号時間領域において発生する信号の強度の大きさが第2の強度より大きいとき、当該異極性信号時間領域を劣化末期状態と対応させて記憶する。
【0035】
例えば放電パターン記憶部108は、異極性信号時間領域における単位時間当たりの信号発生数が第1の数以下であるとき、当該異極性信号時間領域を劣化初期状態と対応させて記憶する。例えば放電パターン記憶部108は、異極性信号時間領域における単位時間当たりの信号発生数が第1の数より大きく第2の数以下であるとき、当該異極性信号時間領域を劣化中期状態と対応させて記憶する。例えば放電パターン記憶部108は、異極性信号時間領域における単位時間当たりの信号発生数が第2の数より大きいとき、当該異極性信号時間領域を劣化末期状態と対応させて記憶する。
【0036】
劣化状態推定部117は、放電パターン記憶部108が記憶する対応関係に基づいて、例えば特徴量として取得された各時間領域の長さ、各時間領域の順番、各時間領域で発生する信号の強度又は各時間領域における単位時間当たりの信号発生数から電気機器の劣化状態を推定する。また、劣化状態推定部117は、サージ電圧によるインパルスPDが発生している場合に、当該インパルスPDの大きさに基づいて電気機器の劣化状態を推定してもよい。
【0037】
図8は、第2の実施形態に係る推定装置103の動作を示すフローチャートである。電気信号取得部112が電気信号を取得する(ステップS11)。部分放電信号抽出部が取得された電気信号から部分放電信号を抽出する(ステップS12)。極性判定部113は、部分放電信号ごとに極性を判定する(ステップS13)。放電パターン特定部114は、電気信号が取得された時間領域から同極性信号時間領域を特定する(ステップS14)。当該時間領域に同極性信号時間領域が存在するか否かを判定する(ステップS15)。時間領域に同極性信号時間領域が存在する場合(ステップS15:YES)、インパルスPD推定部115は、インパルスPDが発生したと推定する(ステップS16)。放電パターン特定部114は、電気信号が取得された時間領域から異極性信号時間領域を特定する(ステップS17)。放電パターン特定部114は、電気信号が取得された時間領域から無信号時間領域を特定する(ステップS18)。劣化状態推定部117が特定された時間領域に基づいて劣化状態を推定する(ステップS19)。
【0038】
このように第2の実施形態に係る推定装置103は、時間領域の特徴量に基づいて電気機器の劣化状態を推定することができる。
【0039】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、放電パターン特定部114及びインパルスPD推定部115を持つことにより、サージ電圧が発生したこと及びその大きさを推定することができる。
【0040】
〈他の実施形態〉
第2の実施形態において、推定装置103はインパルスPDの発生を推定し、劣化状態を推定しているがこれに限られない。例えば推定装置103は、インパルスPDの発生を推定せず、同極性信号時間領域、異極性信号時間領域及び無信号時間領域を特定し、劣化状態を推定してもよい。
【0041】
上述した実施形態における推定装置103の一部又は全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記録装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものを含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0043】
100…推定システム、101…電極、102…信号線、103…推定装置、104…通信部、105…入力部、106…表示部、107…信号記憶部、108…放電パターン記憶部、111…制御部、112…電気信号取得部、113…極性判定部、114…放電パターン特定部、115…インパルスPD推定部、116…特徴量取得部、117…劣化状態推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8