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特開2023-96799混和材、セメント組成物およびセメント硬化体
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  • 特開-混和材、セメント組成物およびセメント硬化体 図1
  • 特開-混和材、セメント組成物およびセメント硬化体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096799
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】混和材、セメント組成物およびセメント硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 18/10 20060101AFI20230630BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20230630BHJP
   B09B 3/20 20220101ALI20230630BHJP
【FI】
C04B18/10 A
C04B28/02
C04B18/10 Z
B09B3/00 301M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212800
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】林 俊斉
【テーマコード(参考)】
4D004
4G112
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AB05
4D004BA02
4D004DA03
4D004DA10
4G112PA26
(57)【要約】
【課題】従来よりも石炭灰を含むセメント硬化体の強度を向上させ得る、石炭灰を含むセメント組成物に添加される混和材、この混和材を含むセメント組成物を提供すること
【解決手段】石炭灰を含むセメント組成物への添加用の混和材であって、バイオマス灰を主成分として含む混和材である。本発明によれば、バイオマス灰を主成分として含む混和材を石炭灰を含むセメント組成物に添加することで、得られたセメント硬化体はバイオマス灰を含まず、石炭灰を含むセメント組成物から得られたものに比較して圧縮強度が向上する。あるいは、従来と同程度の強度を有しつつセメントの含有量を減らすことでコストダウンを図ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰を含むセメント組成物への添加用の混和材であって、
バイオマス灰を主成分として含むことを特徴とする混和材。
【請求項2】
混和材の合計質量に対して、15質量%以上60質量%以下の酸化カルシウム、20質量%以上70質量%以下の二酸化ケイ素、および1質量%以上20質量%以下の酸化カリウムをそれぞれ含むことを特徴とする請求項1に記載の混和材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の混和材、石炭灰、セメントおよび水を含むことを特徴とするセメント組成物。
【請求項4】
セメント組成物の合計質量に対して骨材を5質量%以下の量でしか含まないことを特徴とする請求項3に記載のセメント組成物。
【請求項5】
前記混和材および前記石炭灰の合計量に対する前記混和材の容積百分率が、20%以上80%以下であることを特徴とする請求項3または4に記載のセメント組成物。
【請求項6】
請求項3~5の何れか一項に記載のセメント組成物を硬化させてなるセメント硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混和材、セメント組成物およびセメント硬化体に関し、特に、石炭灰を含むセメント組成物への添加用の混和材、この混和材を含むセメント組成物およびセメント硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダムコンクリート、防潮堤、道路の下のマウンド材(路床、路盤材)などのセメント組成物の混和材として、石炭灰が使用されている。石炭灰は火力発電所などの電気事業から排出されており、セメント組成物の原材料やコンクリート用の混和材として利用することは廃棄物の減少につながる。
【0003】
非特許文献1は、石炭火力発電所から算出される石炭灰を水(海水)、セメントなどと混合したセメント組成物から人工地盤材料を製造したことを開示し、非特許文献2は、同じく人工地盤材料に加えて内部充填材および護岸ブロックを製造したことを開示する。
【0004】
非特許文献1、2によれば、セメント組成物が石炭灰を含むことで得られたセメント硬化体は人工地盤材料など各用途に必要な強度を有しつつ、セメント組成物の混和材として利用することで石炭灰の廃棄量を減少させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高木亮一、坂本守および田所治著、安藤ハザマ研究年報2020年第8巻、株式会社安藤・間出版
【非特許文献2】高木亮一、坂本守、森本良および古川園健朗著、コンクリート工学2020年12月号(第58巻)、公益社団法人日本コンクリート工学会出版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1、2によれば、人工地盤材料など各用途に必要な強度を有するセメント硬化体を得ることができるが、石炭灰を含むセメント硬化体の強度をさらに高めるニーズもある。例えば、強度を高めることで得られたセメント硬化体の強度を従来と同等としつつ従来よりも配合するセメント量を減らしてコストダウンを図るニーズもある。
【0007】
上記課題を鑑みた本願発明の目的は、従来よりも石炭灰を含むセメント硬化体の強度を向上させ得る、石炭灰を含むセメント組成物に添加される混和材、この混和材を含むセメント組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的達成に向け鋭意検討を行った。その結果、石炭灰を含むセメント組成物にバイオマス灰を混和材として含ませることで、バイオマス灰を含まず、石炭灰を含むセメント組成物と比較して得られたセメント硬化体の圧縮強度が向上することを見出した。
【0009】
すなわち、上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、石炭灰を含むセメント組成物への添加用の混和材であって、バイオマス灰を主成分として含むことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、バイオマス灰を主成分として含む混和材を石炭灰を含むセメント組成物に添加することで、得られたセメント硬化体はバイオマス灰を含まず、石炭灰を含むセメント組成物から得られたものに比較して圧縮強度が向上する。
【0011】
また、混和材は、混和材の合計質量に対して、15質量%以上60質量%以下の酸化カルシウム、20質量%以上70質量%以下の二酸化ケイ素、および1質量%以上20質量%以下の酸化カリウムをそれぞれ含むことが好ましい。
【0012】
さらに、上記目的は、本発明の混和材、石炭灰、セメントおよび水を含むことを特徴とするセメント組成物によっても達成することができる。
【0013】
本発明のセメント組成物は、セメント組成物の合計質量に対して骨材を5質量%以下の量でしか含まないことが好ましい。
【0014】
また、本発明のセメント組成物は、混和材および石炭灰の合計量に対する混和材の容積百分率が、20%以上80%以下であることが好ましい。
【0015】
そのうえ、上記目的は、本発明のセメント組成物を硬化させてなるセメント硬化体によっても達成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バイオマス灰を主成分として含む混和材を石炭灰を含むセメント組成物に添加することで、得られたセメント硬化体はバイオマス灰を含まず、石炭灰を含むセメント組成物のみから得られたものに比較して圧縮強度が向上する。あるいは、従来と同程度の強度を有しつつセメントの含有量を減らすことでコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例に用いた本発明に係る混和材の化学組成を示す棒グラフである。
図2】実施例における本発明に係るセメント組成物の調製方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<混和材>
本発明の混和材は、石炭灰を含むセメント組成物への添加用の混和材であって、バイオマス灰を主成分として含む。
【0019】
バイオマス灰を主成分として含むとは、混和材がその合計質量に対してバイオマス灰を90質量%以上含むことを意味する。また、混和材がその合計質量に対してバイオマス灰を95質量%以上含むことが好ましく、100質量%含むことが特に好ましい。
【0020】
バイオマス灰は、木質バイオマス、草本バイオマス、その他植物由来の食品残渣を燃焼させて得られる。
【0021】
木質バイオマスとしては、例えば、未利用間伐材、製材工場残材、リサイクル木材などのチップ、おがくず、樹皮が挙げられる。草本バイオマスとしては、例えば、竹、もみ殻、サトウキビ、稲わら、茶滓が挙げられる。植物由来の食品残渣は、例えば、果実皮、コーヒー抽出滓などが挙げられる。
【0022】
バイオマス灰の安定的な供給の観点からは、バイオマス灰が、未利用間伐材、製材工場残材、リサイクル木材などの木質バイオマスを木質バイオマス発電所で燃焼させて得られる燃焼灰であることが好ましい。
【0023】
混和材は、混和材の合計質量に対して、15質量%以上60質量%以下の酸化カルシウム(CaO)、20質量%以上70質量%以下の二酸化ケイ素(SiO)、および1質量%以上20質量%以下の酸化カリウム(KO)をそれぞれ含むことが好ましい。
【0024】
本発明のバイオマス灰を主成分として含む混和材を石炭灰を含むセメント組成物に配合するとその硬化体の圧縮強度が向上する。この圧縮強度向上効果は、理由は定かではないが、発明者らは、混和材中に酸化カルシウム、二酸化ケイ素および酸化カリウムが上記割合で含まれることによるものと推察している。
【0025】
なお、混和材は、混和材の合計質量に対して、25質量%以上50質量%以下の酸化カルシウム(CaO)、25質量%以上55質量%以下の二酸化ケイ素(SiO)、および2質量%以上10質量%以下の酸化カリウム(KO)をそれぞれ含むことがさらに好ましい。
【0026】
混和材の化学組成は、例えば、蛍光X線分析により求めることができる。
【0027】
<セメント組成物>
本発明のセメント組成物は、上記本発明の混和材、石炭灰、セメントおよび水を含む。
【0028】
混和材については上述のとおりであり、ここではその説明を省略する。
【0029】
石炭灰は、石炭の燃焼により発生した灰の粒子であり、主に石炭火力発電所で発生する。石炭灰は、ボイラで石炭を燃焼させ、その灰の粒子が溶融固化し、ボイラ底部に落下した塊状の多孔質な灰であるクリンカと、燃焼ガスとともに浮遊する灰を電気式集じん器で集めた細かな球状の粒子であるフライアッシュと、に大別される。本発明では、石炭灰として主にフライアッシュが用いられる。
【0030】
セメント組成物への石炭灰と混和材の添加量は、セメント100質量部あたり400質量部以上700質量部以下、好ましくは500質量部以上650質量部以下となるように添加される。
【0031】
また、セメント組成物中の混和材および石炭灰の合計量に対する混和材の容積百分率は、好ましくは20%以上80%以下であり、特に好ましくは20%以上60%以下である。なお、この混和材の容積百分率が50%を超えるとセメント組成物のフレッシュ性状の流動性が減るため、セメント組成物のフレッシュ性状の観点からは50%以下であることが好ましい。
【0032】
セメント組成物中の混和材および石炭灰の合計量に対する混和材の容積百分率が20%以上80%以下であると、材齢91日を超えたセメント硬化体の圧縮強度が混和材不使用のセメント硬化体と比較して大きく上昇する。
【0033】
セメントは、水で練ったときに硬化性を示す無機質接合材であり、本発明においては、水硬性セメントを用いる。水硬性セメントとしては、ポルトランドセメント(JIS R5210)、水硬性石灰、ローマンセメント、天然セメントなどの単味セメントを用いてもよく、石灰混合セメント、混合ポルトランドセメントなどの混合セメント(JIS R5211、R5212、R5213)を用いてもよい。
【0034】
水は、セメントを硬化させるためにセメント組成物に添加される。水としては、純水に限られず、水道水、河川水、湖沼水、海水も用いることもできる。
【0035】
また、セメント組成物は、任意成分として、石膏、銅スラグ、骨材などを含んでいてもよい。
【0036】
石膏は、エトリンガイトを生成させ、石炭灰からの有害元素の溶出を抑制させることを目的として添加される。
【0037】
骨材は、一般にコンクリートの製造に用いられ、セメント組成物の水和反応による発熱抑制、収縮の抑制、セメント使用量を削減してコスト削減するために添加される。骨材は、粗骨材と細骨材に分けられ、粗骨材は5mm目ふるいに質量で85%以上留まるものであり、細骨材は5mm目ふるいを通過し、10mm目ふるいを質量で100%通過するものである。
【0038】
骨材の材質としては、川砂、山砂、海砂、高炉スラグ、銅スラグなどが挙げられる。なお、本発明において、石炭灰および混和材については骨材に含まないものとする。
【0039】
本発明の混和材および石炭灰を含むセメント組成物は比重が小さくなりがちであるため、例えば、津波や波浪に耐えうる重量を有するセメント硬化体が必要な場合には、所定の単位体積重量を確保するために比重が大きい細骨材(銅スラグ、砂、砂利など)を添加することが好ましい。
【0040】
他方、そのような用途でない場合には、重量を減らして作業性・運搬性を向上させる意味においても、セメント組成物の合計質量に対して骨材を5質量%以下の量で含むことが好ましく、1質量%以下で含むことがより好ましく、骨材を添加しないことが特に好ましい。
【0041】
次に、セメント組成物の調製方法について説明する。
【0042】
セメント組成物の調整は、一般のモルタルの調製方法に類似した方法により行う。具体的には、まず、セメント、石炭灰、混和材などの粉体成分を粉体混合する。粉体混合には、モルタルの製造に用いられる周知のハンドミキサ、パン型ミキサなどを用いることができるが、この限りではない。
【0043】
粉体混合後、水を添加して混錬を行う。混錬後は、ミキサの隅や撹拌羽根の周辺の混練不足の付着物を掻き落とすことが好ましい。最後に再度混錬したのち、セメント組成物が得られる。なお、セメント組成物の調製フローの一例を図2に示す。
【0044】
<セメント硬化体>
本発明のセメント硬化体は、本発明のセメント組成物を硬化させてなるセメント硬化体である。具体的には、上記調整されたセメント組成物を適宜に設けた型枠に注入し、養生して得られる。なお、型枠には鉄筋は組み込まれず、したがって、得られたセメント硬化体は鉄筋を含まない。
【0045】
型枠に注入されたセメント組成物については、気泡を抜くために締固め作業が行われる。締固めは、バイブレータを使用した振動締固めにより行われる。
【0046】
締固め後、必要な圧縮強度が得られるまで養生され、セメント硬化体が得られる。
【0047】
したがって、本発明の混和材、セメント組成物およびセメント硬化体によれば、バイオマス灰を主成分として含む混和材を石炭灰を含むセメント組成物に添加することで、得られたセメント硬化体はバイオマス灰を含まず、石炭灰を含むセメント組成物から得られたものに比較して圧縮強度が向上する。あるいは、従来と同程度の強度を有しつつセメントの含有量を減らすことでコストダウンを図ることができる。
【0048】
また、石炭灰は有害元素(砒素、セレン、ふっ素、ほう素)も含んでおり、石炭灰の使用量により、セメント硬化体からのこれら有害元素の溶出量が土壌環境基準値を超える虞もあるところ、従来と比較してセメント硬化体の圧縮強度が向上しているので、セメント硬化体中の石炭灰からの有害成分の溶出を従来よりも抑制することができる。
【0049】
さらに、バイオマス灰を主成分として含む混和材を石炭灰と置き換えることで、単純にセメント硬化体中に含まれる有害元素の量が減少し、従来よりも有害元素の溶出量を減少させることができる。
【実施例0050】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
1.セメント組成物の調製
本発明の混和材としては、バイオマス灰をそのまま混和材として使用した。バイオマス灰(混和材)の化学組成は図1に示すとおりである。
【0051】
この混和材を、公称容量10Lのホバート型モルタルミキサ中で、図2に示すように、セメント、石炭灰および石膏と表1に示す各配合割合にて練り量3Lで15秒間練り混ぜ、次に水を添加し、さらに30秒間練り混ぜ、ミキサを一旦停止させた。
【0052】
ミキサの隅や撹拌羽根の周辺の混練不足の付着物を掻き落とし、さらに90秒間練り混ぜた後にミキサから排出し、セメント組成物を得た。
【0053】
【表1】
【0054】
2.セメント硬化体(供試体)の製造
得られた比較例、実施例1~3および参考例の各セメント組成物を直径5cm×高さ10cmの円柱型の型枠にそれぞれ打ち込み、テーブルバイブレータ(振動数:60Hz)を用いて締固めを行った。
【0055】
打ち込み後、1日が経過してから脱型し、水中養生を行った。養生は20℃の試験室にて実施し、供試体を得た。供試体は、各セメント組成物について養生7日目(材齢7日)、28日目(材齢28日)、および91日目(材齢91日)でそれぞれ3本ずつ、計9本作成した。
【0056】
3.評価
各セメント組成物について9本ずつ得られた試験体を圧縮強度試験に供した。圧縮強度試験は、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して行った。
【0057】
各セメント組成物について各材齢で3本ずつ圧縮強度試験を行い、平均値をその材齢における圧縮強度とした。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2の比較例と実施例1~3との対比から、セメント組成物中の石炭灰をバイオマス灰の混和材と置き換えることで得られたセメント硬化体の圧縮強度が増加していることがわかる。
【0060】
なお、石炭灰をバイオマス灰と100%置き換えたものは石炭灰を含むものではないから、本発明の範囲外の参考例である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の混和材は、石炭灰を含むセメント組成物への添加用である。セメント組成物の硬化後の鉄筋の含まないセメント硬化体は、盛り土、防潮堤、路盤材などとして使用される。
図1
図2