(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096876
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】無機発泡体
(51)【国際特許分類】
C04B 38/00 20060101AFI20230630BHJP
C04B 28/26 20060101ALI20230630BHJP
C04B 12/04 20060101ALI20230630BHJP
C01B 33/32 20060101ALI20230630BHJP
C01B 33/42 20060101ALI20230630BHJP
C01B 33/40 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
C04B28/26
C04B12/04
C01B33/32
C01B33/42
C01B33/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212909
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】内藤 直記
(72)【発明者】
【氏名】野呂 仁一朗
【テーマコード(参考)】
4G019
4G073
4G112
【Fターム(参考)】
4G019FA03
4G019FA13
4G073BA02
4G073BA05
4G073BA75
4G073BD15
4G073BD26
4G073CB03
4G073CB11
4G073CC03
4G073CM09
4G073CM22
4G073CN02
4G073CN06
4G073FA09
4G073FD23
4G073GA01
4G073GA13
4G073GA16
4G073GA26
4G073GA32
4G073UB05
4G112PB01
(57)【要約】
【課題】 気泡の形成に伴う強度の低下や、割れの発生が抑制された、高い断熱性と強度を有する無機発泡体を提供すること。
【解決手段】 リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを基材とする無機発泡体であって、無機発泡体のX線回折スペクトルにおける、リューサイト結晶に由来するピークの面積が式(1)を満足することを特徴とする。D(geo)/D(pur)≧0.5・・・(1)(D(geo)は、無機発泡体のX線回折スペクトルにおける、リューサイト結晶に由来する2θ=27.3°に位置するピークの面積であり、D(pur)は、リューサイト純物質のX線回折スペクトルにおけるリューサイト結晶に由来する2θ=27.3°に位置するピークの面積である)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを基材とする無機発泡体であって、
前記無機発泡体のX線回折スペクトルにおける、リューサイト結晶に由来するピークの面積が下記式(1)を満足することを特徴とする無機発泡体。
D(geo)/D(pur)≧0.5・・・(1)
(D(geo)は、前記無機発泡体のX線回折スペクトルにおける、リューサイト結晶に由来する2θ=27.3°に位置するピークの面積であり、D(pur)は、リューサイト純物質のX線回折スペクトルにおけるリューサイト結晶に由来する2θ=27.3°に位置するピークの面積である)
【請求項2】
前記無機ポリマーが、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物の焼成体からなることを特徴とする請求項1に記載の無機発泡体。
【請求項3】
前記アルカリ金属ケイ酸塩のアルカリ金属がカリウムであり、前記無機発泡体中の、カリウムとアルミニウムとケイ素の合計に対するカリウムのモル比(K/K+Al+Si)が0.1以上であることを特徴とする請求項2に記載の無機発泡体。
【請求項4】
前記無機発泡体中の、アルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al)が1以上であることを特徴とする請求項2又は3に記載の無機発泡体。
【請求項5】
前記無機発泡体の密度が150~1500kg/m3であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の無機発泡体。
【請求項6】
前記無機発泡体の平均気泡径が0.1~5mmであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の無機発泡体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の無機発泡体からなることを特徴とする耐火レンガ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
無機材料の一種であるジオポリマーは、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩とを反応させることにより製造される非晶質の縮重合体無機ポリマーであり、原材料の製造から製品の製造までに排出される二酸化炭素量が少ないため、環境に優しい素材として注目されている。
【0003】
具体的には、ジオポリマーは、SiO4とAlO4とから形成される四面体構造を有するとともに、該四面体構造によるネットワーク中に、AlO4の負電荷を補償する陽イオンを保有している構造を有する無機高分子であり、メソ孔を有する。
【0004】
このように、ジオポリマー材料は、軽量ながらセメントと同等の機械的強度を有するとともに、セメントに比べてCO2発生量を大幅に低減できるため、セメント系素材やセラミック系素材に代わるブロック材、外壁材等の建材として使用することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、無機材料であるジオポリマー材料に気泡を形成させて発泡体とした材料は、気泡構造を有することにより断熱性が向上する半面、材料の密度が低くなるため、圧縮強度が低下したり、割れが生じやすくなる場合があり、無機材料としては課題を残していた。
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、気泡の形成に伴う強度の低下や、割れの発生が抑制された、高い断熱性と強度を有する無機発泡体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す無機発泡体が提供される。
[1]リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを基材とする無機発泡体であって、
前記無機発泡体のX線回折スペクトルにおける、リューサイト結晶に由来するピークの面積が下記式(1)を満足することを特徴とする。
D(geo)/D(pur)≧0.5・・・(1)
(D(geo)は、前記無機発泡体のX線回折スペクトルにおける、リューサイト結晶に由来する2θ=27.3°に位置するピークの面積であり、D(pur)は、リューサイト純物質のX線回折スペクトルにおけるリューサイト結晶に由来する2θ=27.3°に位置するピークの面積である)
[2]前記[1]の発明の無機発泡体において、前記無機ポリマーが、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物の焼成体であることを特徴とする。
[3]前記[2]の発明の無機発泡体において、前記アルカリ金属ケイ酸塩のアルカリ金属がカリウムであり、前記無機発泡体中の、カリウムとアルミニウムとケイ素の合計に対するカリウムのモル比(K/K+Al+Si)が0.1以上であることを特徴とする。
[4]前記[2]又は[3]の発明の無機発泡体において、前記無機発泡体中の、アルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al)が1以上であることを特徴とする。
[5]前記[1]から[4]の発明の無機発泡体において、前記無機発泡体の密度が150~1500kg/m3であることを特徴とする。
[6]前記[1]から[5]の発明の無機発泡体において、前記無機発泡体の平均気泡径が0.1~5mmであることを特徴とする。
[7]前記[1]から[6]のいずれかの無機発泡体からなる耐火レンガ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、気泡の形成に伴う強度の低下や、割れの発生が抑制された、優れた強度を有する無機発泡体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の無機発泡体の一実施形態を示す、ブロック状成形体(縦230mm、横115mm、厚み60mm)の実物写真である。
【
図2】
図1の無機発泡体の気泡構造を示す拡大写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、無機発泡体がリューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを基材とすることにより、無機発泡体の強度を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
以下、本発明の無機発泡体の一実施形態について説明する。
(リューサイト)
本発明の無機発泡体はリューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを基材とするものである。リューサイトは、化学式がKAlSi2O6、或いはK2O・Al2O3・4SiO2で表記される。本発明においては、無機発泡体がリューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを基材として構成されることで、無機発泡体の気泡壁がリューサイト結晶構造を有する無機ポリマーにより形成され、気泡壁の強度を向上させることができ、優れた耐熱性と強度を有する発泡体とすることができる。なお、基材とは、無機発泡体を構成する全成分のうち、好ましくは全成分の総質量に対する割合が50質量%を超えているような成分を示すものであり、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0013】
また、本発明の無機発泡体は、無機発泡体のX線回折スペクトルにおける、リューサイト結晶に由来するピークの面積が下記式(1)を満足することを特徴とするものである。
D(geo)/D(pur)≧0.5・・・(1)
式(1)において、D(geo)は、無機発泡体のX線回折スペクトルにおける、リューサイト結晶に由来する2θ=27.3°に位置するピークの面積であり、D(pur)は、リューサイト純物質のX線回折スペクトルにおけるリューサイト結晶に由来する2θ=27.3°に位置するピークの面積である。
【0014】
より強度に優れる無機発泡体となるという観点からは、下記式(2)を満足することが好ましく、更には、下記式(3)を満足することが好ましい。
【0015】
D(geo)/D(pur)≧0.7・・・(2)
D(geo)/D(pur)≧0.8・・・(3)
本発明においては、X線回折スペクトルにおけるリューサイト結晶に由来するピークとして、2θ=27.3°のピークを採用し、リューサイト純物質と本発明の無機発泡体との、2θ=27.3°のピーク面積を測定、算出する。リューサイト純物質に対する無機発泡体のピークの面積比を算出する。なお、上記のピークは、そのピークトップが27.3°となっていなくても、ピークが27.3°を含んでいればよい。上記のピーク面積比は、X線回折法により、例えば、X線回折装置(理学電機株式会社 RINT2550H(ローターフレックス型)を用いて、算出することができる。
【0016】
(無機発泡体)
本発明の無機発泡体は、発泡体の密度が150~1500kg/m3であることが好ましい。無機発泡体の密度が低すぎると、無機発泡体の気泡壁が薄くなりすぎて、発泡体の強度が弱くなる場合がある。一方、無機発泡体の密度が高すぎると、断熱性能が低下する場合がある。上記観点から、密度の下限は180kg/m3であることがより好ましく、200~1000kg/m3であることがさらに好ましい。また、密度の上限は1200kg/m3であることがより好ましく、1000kg/m3であることがさらに好ましく、800kg/m3であることがさらに好ましく、500kg/m3であることがさらに好ましい。
【0017】
また、本発明の無機発泡体は、気泡構造を有する。この気泡構造は、
図1、2に示されるような、厚み0.5~2mm程度の気泡壁によって形成される気泡構造であり、気泡壁部分に存在するメソ孔と呼ばれる100nm以下の孔径の多孔構造は区別されるものである。また、無機発泡体の平均気泡径は0.1~5mmであることが好ましい。平均気泡径を上記範囲とすることにより、強度に優れる気泡壁が形成され易くなる。係る観点から、平均気泡径は0.5~3mmであることがより好ましく、0.8~2mmであることがさらに好ましい。
【0018】
なお、これらの気泡構造は、例えば、発泡剤を使用したり、上記平均気泡径に対応した粒子径を有し、加熱などにより除去可能なスペーサを用いたりすることにより、形成することができる
本発明のリューサイトは、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物の焼成体であることが好ましい。
【0019】
前記無機発泡体中の、アルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al)が1以上であることが好ましい。アルミニウムに対するケイ素のモル比(Si/Al)が上記範囲であることにより、無機発泡体中にリューサイトを形成することがより容易となる。上記観点から、モル比(Si/Al)は、1.2以上であることが好ましく、1.3以上であることがさらに好ましい。また、前記モル比の上限は、概ね5であり、好ましくは3である。なお、上記のモル比は、無機発泡体を元素分析することによって求めることができるが、製造工程から、原料におけるアルミニウム、ケイ素の配合比率が維持されると考えられるため、原料の配合比率から算出することもできる。
【0020】
(アルミノケイ酸塩)
前記アルミノケイ酸塩(xM2O・yAl2O3・zSiO2・nH2O、Mはアルカリ金属)は、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応時、水溶液(スラリー)中で、アルミニウムイオンが水溶液中に溶出するとともに、ケイ酸モノマー(ケイ酸、Si(OH)4)が生じる。このようにして生じたケイ酸モノマーと陽イオンとが重縮合することにより、SiO4・AlO4の四面体構造によるポリマーネットワークのジオポリマーが形成される。
【0021】
アルミノケイ酸塩としては、バイデライト、ベントナイト、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、バーミキュライト、雲母、緑泥石、サポナイト、セピオライト、及び酸性白土等の粘土鉱物、フライアッシュ、赤泥、シリカフューム及び下水汚泥焼却灰等の産業廃棄物;天然アルミノシリケート鉱物及びそれらの仮焼物(例えばメタカオリン)、並びに火山灰、その他のアルミニウムを含むケイ酸塩鉱物等を例示することができる。これらのなかでも、メタカオリン(化学式:Al2O3・2SiO2)を主成分とするアルミノケイ酸塩が好ましい。なお、上記の物質を適宜粉砕分級して特定の画分を用いることにより、所望の組成のアルミノケイ酸塩に調整することができる。
【0022】
(アルカリ金属ケイ酸塩)
アルカリ金属ケイ酸塩は、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応時に、水に溶解させると高アルカリ性の水溶液を形成する。この水溶液とアルミノケイ酸塩とを反応させることにより、アルミノケイ酸塩から、Al等の陽イオンを溶出させるとともに、ケイ酸モノマーを生じさせることができる。また、アルカリ金属ケイ酸塩は、重縮合によりジオポリマーを形成するケイ酸モノマーの供給源にもなる。
【0023】
アルカリ金属ケイ酸塩としては、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)、ケイ酸リチウム等のうちの1種又は2種以上を例示することができる。なかでも、アルカリ金属ケイ酸塩のアルカリ金属はカリウムであることが好ましい。
(アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物)
アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩とを反応させると、四面体構造による良好なポリマーネットワークを有し、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物からなるジオポリマーが形成される。さらに、このジオポリマーを焼成することにより、リューサイト結晶を基材ポリマーとする無機材料が形成される。
【0024】
(骨材)
また、本発明の無機発泡体には骨材を配合することができる。骨材は、マイカ、ウォラストナイト、チョーク、タルク、モロカイト、コージエライト、玄武岩、長石、ジルコン、グラファイト、及びホウ砂、また、本発明の無機発泡体やジオポリマー発泡体の端材や屑などの回収材料を粉砕したもの等のうちの1種又は2種以上を例示することができる。また、骨材は平均粒径が50μm以上300μm以下の粉体であることが好ましい。さらに、骨材はマイカを含むことが好ましく、この場合の骨材中のマイカの割合は50質量%以上であることが好ましい。また、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。マイカは、一般的に白雲母(muscovite、マスコバイト)と呼ばれるケイ酸塩鉱物であり、KAl2(AlSi3O10)(F,OH)2の化学組成で示される。なお、本発明において、「マイカ」の用語は、物理的及び化学的に類似しているシート状ケイ酸塩(フィロケイ酸塩)鉱物を包含する。
【0025】
無機発泡体における骨材の含有量は、無機発泡体100質量%に対して、5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。骨材の含有量がこの範囲であると、さらに強度が向上した無機発泡体となる。
【0026】
さらに、骨材がマイカを含む場合、マイカの平均粒径が80μm以上200μmであることが好ましい。骨材に含まれるマイカの平均粒径がこの範囲であると、前駆体として製造された発泡ジオポリマーに、良好な気泡構造が形成され、無機発泡体の気泡の微細化を抑制することができる。
(その他添加剤)
無機発泡体には、必要に応じて、発泡核剤、反応性材料や補強繊維等の他の材料を含有させることができる。反応性材料としては、例えば、ベントナイト、セピオライト、ミヌゲル及びアタパルジャイト粘土のような粘土、セメントバインダー、アルミン酸カルシウムセメント、有機ポリマーバインダー(例えばセルロースバインダー)等のうちの1種又は2種以上を例示することができる。反応性材料を添加することにより、発泡性組成物の反応(硬化)時間を調整することができる。
【0027】
補強繊維は、無機発泡体の強度向上やクラック防止を図る目的で添加することができる。補強繊維としては、例えば、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウムウイスカー、アルミナ繊維、スチールウール、スラグウール等が挙げられる。補強繊維を添加することにより、発泡ジオポリマーの強度を高めることができる。その他の材料の添加量は、本発明の所期の目的を達成できる範囲であれば、特に限定されるものではないが、通常、無機発泡体100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0028】
上記の特性を有する本発明の無機発泡体は、優れた耐熱性と断熱性、高い強度を有することから、耐熱レンガとして特に好適に用いることができる。例えば、無機発泡体を溶解炉の内壁材として使用することにより、炉壁温度が低下することが防止され、炉の保温性が高まることで、入力熱そのものを減少させることが可能となり、大幅な省エネルギー化が期待できる。
(製造方法)
本発明の無機発泡体は、例えば、アルミノケイ酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、骨材、水、発泡剤を含む組成物を反応、発泡させて、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応組成物中に多数の気泡を形成させたジオポリマー発泡体を作製する。その後、該ジオポリマー発泡体を特定の条件で焼成してさらにジオポリマー発泡体を反応させることにより、リューサイト結晶を生成させ、多数の気泡を有する優れた断熱性及び高強度を備えた無機発泡体を得ることができる。
【0029】
(アルミノケイ酸塩)
前記アルミノケイ酸塩(xM2O・yAl2O3・zSiO2・nH2O、Mはアルカリ金属)は、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応時、水溶液(スラリー)中で、アルミニウムイオンが水溶液中に溶出するとともに、ケイ酸モノマー(ケイ酸、Si(OH)4)が生じる。このようにして生じたケイ酸モノマーと陽イオンとが重縮合することにより、SiO4・AlO4の四面体構造によるポリマーネットワークのジオポリマーが形成される。
【0030】
アルミノケイ酸塩におけるSiO2(二酸化ケイ素)の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。SiO2の含有量がこの範囲であると、製造された発泡ジオポリマーは、多数の気泡による良好な気泡構造を形成しやすくできる。係る観点から、SiO2の含有量は30質量%70質量%以下であることがより好ましい。なお、アルミノケイ酸塩における、SiO2の含有量や、後述するAl2O3の含有量は、蛍光X線分析装置(例えば日立ハイテクサイエンス製EA6000V)を用いて各元素を定量することにより求めることができる。
【0031】
また、アルミノケイ酸塩は、結晶化度が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。結晶化度がこの範囲であると、水溶液中で後述するアルカリ金属ケイ酸塩と反応させた際に、アルカリ金属ケイ酸塩に由来するアルカリ成分によって、アルミノケイ酸塩源からアルミニウムイオンが溶出しやすくなるとともに、ケイ酸モノマーが生じやすくなり、重縮合が安定して行われるため、良好な気泡構造を形成させやすくなる。
【0032】
結晶化度は、X線回折法により求めることができる。例えば、二次元検出器を有するX線解析装置(例えば、株式会社リガク製、Rint2550 等)を使用し、室温にて2θ範囲を10~40°に設定し、アルミノケイ酸塩の粉末に対してX線回折測定を行うことで、結晶化度を測定することができる。なお、結晶化度は、X線回折測定により測定される回折パターンに対してプロファイルフィッティングを行い、得られたX線回折から、全ピーク面積([結晶質成分のピーク面積]+[非晶質成分のハローパターン面積])に対する結晶質成分のピーク面積の比を算出することで求めることができる。
【0033】
アルミノケイ酸塩としては、バイデライト、ベントナイト、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、バーミキュライト、雲母、緑泥石、サポナイト、セピオライト、及び酸性白土等の粘土鉱物、フライアッシュ、赤泥、シリカフューム及び下水汚泥焼却灰等の産業廃棄物;天然アルミノシリケート鉱物及びそれらの仮焼物(例えばメタカオリン)、並びに火山灰、その他のアルミニウムを含むケイ酸塩鉱物等を例示することができる。これらのなかでも、メタカオリン(化学式:Al2O3・2SiO2)を主成分とするアルミノケイ酸塩が好ましい。なお、上記の物質を適宜粉砕分級して特定の画分を用いることにより、所望の組成のアルミノケイ酸塩に調整することができる。
【0034】
アルミノケイ酸塩は、平均粒径が0.1μm以上50μm以下の粉末であることが好ましい。平均粒径がこの範囲であると、製造された発泡ジオポリマーは、良好な気泡構造が形成され、断熱性に優れる。係る観点から、平均粒径は0.3μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0035】
アルミノケイ酸塩及び骨材の平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。具体的には、レーザー回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布をもとに、粒子の形状を球として仮定して個数基準の粒度分布に換算することにより、個数基準の粒度分布を得る。そして、この個数基準の粒度分布に基づく粒子径を算術平均することにより個数基準の算術平均粒子径を求め、この値を本発明における平均粒径とする。なお、上記平均粒径は、粒子と同体積を有する仮想球の直径を意味する。
【0036】
メタカオリンを主成分とするアルミノケイ酸塩を用いる場合、アルミノケイ酸塩中のメタカオリンの割合は50質量%以上であることが好ましい。アルミノケイ酸塩中のメタカオリンの割合が上記範囲であると、多数の気泡による良好な気泡構造が形成されやすくなる。係る観点から、メタカオリンの割合は60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0037】
また、アルミノケイ酸塩におけるAl2O3の含有量は、アルミノケイ酸塩の総質量に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。Al2O3の含有量がこの範囲であると、無機発泡体の強度をより高めやすくできる。
【0038】
(アルカリ金属ケイ酸塩)
アルカリ金属ケイ酸塩は、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物時に、水に溶解させると高アルカリ性の水溶液を形成する。この水溶液とアルミノケイ酸塩とを反応させることにより、アルミノケイ酸塩から、Al等の陽イオンを溶出させるとともに、ケイ酸モノマーを生じさせることができる。また、アルカリ金属ケイ酸塩は、重縮合によりジオポリマーを形成するケイ酸モノマーの供給源にもなる。
【0039】
アルカリ金属ケイ酸塩としては、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)、ケイ酸リチウム等のうちの1種又は2種以上を例示することができる。また、アルカリ金属ケイ酸塩は、例えば、これらのアルカリ金属ケイ酸塩を水に溶解させた水溶液(アルカリ金属ケイ酸塩水溶液)として好適に使用することができる。なかでも、アルカリ金属ケイ酸塩のアルカリ金属はカリウムであることが好ましい。なお、水溶液の水素イオン濃度を調整して、所望のアルカリ性を示す水溶液とするために、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液に水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物を添加することができる。
【0040】
アルカリ金属ケイ酸塩水溶液における、アルカリ金属に対するケイ素のモル比は、0.1以上5以下であることが好ましく、0.3以上3以下であることがより好ましい。モル比を上記範囲にすることで、発泡ジオポリマーの強度をより高めることができる。
【0041】
また、例えば、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液におけるアルカリ金属ケイ酸塩の濃度は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。アルカリ金属ケイ酸塩の濃度がこの範囲内であると、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩水溶液とを混合したスラリーの流動性が高まり、発泡性組成物の発泡成形性を向上させることができるとともに、四面体構造による良好なポリマーネットワークが形成された、強度に優れるジオポリマー発泡体を安定して得ることができる。
【0042】
また、アルカリ金属ケイ酸塩のアルカリ金属がカリウムの場合、無機発泡体中の、カリウムとアルミニウムとケイ素の合計に対するカリウムのモル比(K/K+Al+Si)は0.1以上であることが好ましく0.2~0.4であることがより好ましい。なお、上記のモル比は、無機発泡体を元素分析することによって求めることができるが、製造工程から、原料におけるカリウム、アルミニウム、ケイ素の配合比率が、ジオポリマーや無機発泡体においても維持されると考えられるため、原料の配合比率から算出することもできる。
【0043】
具体的には、以下の工程1~4を含むことが好ましい。
【0044】
アルミノケイ酸塩、骨材を含む混合物Aと、アルカリケイ酸塩水溶液とを混合してスラリーを得る第1工程;
スラリーに発泡剤を添加して、発泡性組成物を得る第2工程;
発泡性組成物を発泡させるとともに、アルミノケイ酸塩とアルカリケイ酸塩とを反応させ、反応物中に多数の気泡を形成させて固化させることにより、多数の気泡を有するジオポリマー発泡体を得る第3工程。
【0045】
ジオポリマー発泡体としての前駆体を焼成して、リューサイトを含有する無機発泡体を得る第4工程。
【0046】
以下、各工程について説明する。
(第1工程)
第1工程では、アルミノケイ酸塩、骨材を含む混合物A、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液、粘度調製用の水を混合してスラリーを得る。第1工程における材料の混合方法は特に限定されず、通常は、室温(25℃)で、公知又は慣用のミキサー等(例えば、モルタルミキサー、可傾式ミキサー、トラックミキサー、2軸式ミキサー、オムニミキサー、パンミキサー、プラネタリーミキサー及びアイリッヒミキサー等)を用いて混合することができる。各材料をミキサー等に投入する順序は特に限定されない。
【0047】
混合物Aと、アルカリケイ酸塩水溶液とを混合してスラリーを形成する場合、混合物A100質量部に対して、概ねアルカリケイ酸塩水溶液を30質量部以上300質量部以下添加することが好ましく、50質量部以上200質量部以下添加することが好ましい。上記範囲とすることで、発泡性組成物における各成分を均質に分散させることができる。
【0048】
また、粘度を調整するための水の添加量は、スラリーや発泡性組成物の粘度、得られる成形品の圧縮強度などを考慮して適宜決定することができ、特に限定されないが、通常、第2工程における発泡性組成物100質量%に対して、20質量%以上50質量%以下であることが好ましく、25質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。水は、独立して添加してもよいし、アルカリ金属ケイ酸塩として水ガラスを使用する場合等、溶媒として添加してもよい。
【0049】
混合物Aとアルカリケイ酸塩水溶液とを混合してなるスラリーの粘度は1Pa・s以上5Pa・s以下であることが好ましく、2Pa・s以上4Pa・s以下であることがより好ましい。上記スラリー粘度の範囲にして、粘度を比較的低く調整することにより、発泡体における、体積が特定値以上の気泡の比率を安定して高めることができる。
【0050】
また、第1工程におけるアルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との混合において、反応スラリーのAlに対するSiのモル比Si/Alは、1以上であることが好ましい。混合物のSi/Alのモル比がこの範囲であると、生成したジオポリマー発泡体中に、交換性陽イオンを適度に存在させることができるとともに、良好な気泡構造を形成することができる。係る観点から、Alに対するSiのモル比Si/Alは、1.1以上であることがより好ましく、1.2~5.0であることがさらに好ましい。
(第2工程)
第2工程では、第1工程で得られたスラリーに発泡剤を添加して、発泡性組成物を得る。発泡剤としては、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過ほう酸ナトリウム、非鉄金属粉末などを例示することができる。非鉄金属粉末としては、アルミニウム粉末を例示することができる。これらの中でも、過酸化水素水、非鉄金属粉末の少なくともいずれかを用いることが好ましく、過酸化水素を用いることがより好ましい。また、発泡剤として過酸化水素を用いる場合には、過酸化水素水として用いるのが好ましい。この場合、過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は、10質量%以上50質量%以下であることが好ましい、この範囲であると、発泡性組成物を安定して発泡させることができ、良好な気泡構造を有する無機発泡体を得やすくできる。係る観点から、過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
また、発泡剤の添加量は、製造する無機発泡体の設計に応じて適宜設定することができ特に限定されないが、例えば、過酸化水素を用いる場合は、発泡性組成物100質量%に対して、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以上2質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、発泡性組成物が十分に発泡し、優れた断熱性を有するジオポリマー発泡体を安定して得ることができる。
(第3工程)
第3工程では、発泡性組成物を発泡させ、アルミノケイ酸塩とアルカリケイ酸塩の反応物組成中に多数の気泡を形成させて、多数の気泡を有するジオポリマー発泡体を得る。
【0052】
第3工程では、各種成形方法により、第2工程で得られた発泡性組成物を断熱材に適した所望の形状に成形することができる。具体的な成形方法としては、例えば、成形型内に発泡性組成物を流し込み成形する注型法、成形型内で発泡性組成物をプレスしたり水分を吸引することにより脱水して成形する脱水成形法、押出機等を用いて、押出機の下流側に設けられたダイスから発泡性組成物を押し出すとともに、発泡性組成物を発泡させつつ賦形する押出成形法等を採用することができる。
【0053】
発泡性組成物を発泡させる際の条件は、所望とするジオポリマー発泡体の物性に応じて、適宜設定される。例えば、注型法により、発泡性組成物を発泡させる場合、発泡性組成物を、温度20~100℃、好ましくは50~80℃、保持持間30分~24hの条件で、成形型内で反応及び発泡させることで、ジオポリマー発泡体を得ることができる。
【0054】
一例として、注型法を採用した場合、第3工程において、発泡性組成物が発泡することにより形成される気泡は、発泡剤添加後から30分~1時間程度経過するまでの間に成長して大きくなる。なお、ジオポリマー発泡体は、通常、ジオポリマー構造に由来するメソ孔を有するが、このようなメソ孔と、発泡剤により形成される多数の気泡とは区別されるものである。
【0055】
本発明における無機発泡体の製造方法においては、攪拌等により気泡を形成する物理的な発泡とは異なり、発泡剤の添加により徐々に気泡を成長させて発泡させるものであるため、気泡の微細化が起こりにくく気泡径のムラが少ない、比較的均一な気泡構造を有する無機発泡体を得ることができる。
(第4工程)
第4工程では、第3工程で得られたジオポリマー発泡体を焼成して、リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを基材として含む無機発泡体を得る。この焼成方法は、所定の温度以上に加熱、焼成できるものであれば特に限定されるものではなく、通常、焼成炉などで焼成することにより行うことができる。なお、上記の焼成の工程において、ジオポリマー発泡体の有する気泡構造は維持される。したがって、焼成後においても、本発明の無機発泡体は、リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを基材とする気泡壁を有するものとなる。
【0056】
本発明の無機発泡体においては、リューサイトを含むことが重要である。リューサイトは、前記ジオポリマー発泡体の焼成温度を1100℃以上にすることで生成させることができる。また、リューサイトの生成比率は、焼成温度を高くすることにより増加する傾向が確認されている。さらに、リューサイトの生成比率に応じて無機発泡体の強度が向上する。係る観点から、焼成温度は1200℃以上であることが好ましく、1300℃以上であることがさらに好ましい。また、焼成時間は1~24時間が好ましい。
【0057】
第4工程の焼成により、無機発泡体として、リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを生成させることで、得られる無機発泡体の圧縮強度を向上させることができる。なお、無機発泡体の圧縮方向の強度は、特に薄い気泡壁の強度により決まると考えられている。即ち、焼成により気泡壁をリューサイト結晶構造を有する無機ポリマーで構成させることにより、気泡膜の強度が向上して圧縮強度が向上するとともに、割れ等の発生も抑制させることができる。
【0058】
このようにして得られた無機発泡体は、リューサイトと骨材を含み、密度が150~1500kg/m3、平均気泡径が0.1~5mm物性を有することが好ましい。これにより、本発明の発泡体は、優れた断熱性と強度を備えた耐火断熱材として好適に利用することができる。
(成形および型内成形体)
なお、本発明の無機発泡体においては、アルミノケイ酸塩とアルカリケイ酸塩の反応スラリーを成形型内に入れ、型内を加熱して、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩とをさらに反応させるとともに発泡剤を発泡させてジオポリマー発泡体を形成させ、さらに焼成を行うことで成形型の形状を有する無機発泡体の型内成形体が得られる。特に、上記の方法により、耐火レンガなどの断熱材として使用され得る、ブロック状の成形体を得ることができる。
【0059】
また、本発明の無機発泡体においては、リューサイトの生成により強度が向上しているので、型内成形体としてときの、焼成時の収縮による成形体の割れや欠けが効果的に防止される。
【0060】
本発明の無機発泡体からなる型内成形体は、その室温における熱伝導率が0.05W/m・K以下であることが好ましい。上記の範囲であることにより、優れた断熱性が発揮され得る。
【0061】
本発明の無機発泡体からなる型内成形体においては、特に、気泡構造を形成している気泡壁の強度に優れるので、1200℃加熱時における再加熱収縮率が4%以下となることが好ましく、3%以下となることがさらに好ましく、耐火レンガとしての優れる物性を有する。
【0062】
本発明の無機発泡体からなる型内成形体においては、特に、気泡構造を形成している気泡壁の強度に優れるので、圧縮強さが好ましくは0.3~3MPaとなり、より好ましくは0.5~2MPaとなり、耐火レンガに優れる物性を有する。
【実施例0063】
以下、本発明の無機発泡体について、実施例とともに説明するが、本発明の無機発泡体は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(原料)
以下の原料を用いて、無機発泡体を作製した。
アルミノケイ酸塩:メタカオリン(Imerys社製:Argical M1200S、結晶化度0%)
アルカリ金属ケイ酸塩:ケイ酸カリウム(日本化学工業製:2K珪酸カリ)
骨材:マイカ(セイシン企業製: C100M)
気泡核剤:タルク(松村産業製:Hi-filler5000PJS)
発泡剤:過酸化水素水(富士フィルム和光純薬製:過酸化水素濃度30質量%)
水酸化カリウム(富士フィルム和光純薬製:特級)
(無機発泡体の製造方法)
まず、アルミノケイ酸塩(メタカオリン)と骨材(マイカ)とを表1に示す割合で混合し、混合物Aを形成した。また、ケイ酸カリウム、水酸化カリウム、必要に応じて蒸留水を混合し、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液(表に示すアルカリ金属ケイ酸塩の濃度;例えば、アルカリ金属ケイ酸塩の濃度が36.5重量%の場合、カリウムに対するケイ酸のモル比:0.63)を調製した。
【0064】
次に、混合物Aとアルカリ金属ケイ酸塩水溶液とを表1に示す割合で混合し、撹拌速度60rpmで攪拌することにより、Si/Al=1.4、粘度約3Pa・sのスラリーを調製し、次に、スラリーに、表1に示す割合で発泡剤(過酸化水素水)を添加して、攪拌ベラを用いて、撹拌速度60rpmで1分間攪拌することで発泡性組成物を調製した。
【0065】
次に、縦680mm×横280mm×厚さ100mmの成形空間を有する型枠(成形型)内に発泡性組成物を注入して成形型を密閉し、オーブンにて温度60℃で1時間保持することで、発泡性組成物を反応させるとともに発泡、形成させて発泡ジオポリマーを得た。この際、成形型内の圧力は大気圧で、約30分で発泡は完了し、約1時間で固化が完了した。その後、成形型を型開きし、形成されたジオポリマー発泡体を取り出し、さらに60℃で約1日保持することで乾燥させた。
【0066】
次に、作製したジオポリマー発泡体を焼成炉にて、常温から1200℃までは、昇温速度5℃/分で、昇温時間4時間かけて加熱した。その後、1200℃で温度を1時間ン保持した後、5時間焼成を行った。焼成後、1200℃から常温になるまで、加熱を中止して自然に放冷(24時間)し、無機発泡体を得た。なお、ブロック状の型内成形体とする場合には、例えば、焼成前に縦253mm×横125mm×厚み72mmのブロック状に切り出した後、焼成を行い、縦230mm、横115mm、厚み60mmのブロック状成形体を得た。この縦230mm、横115mm、厚み60mmの寸法サンプルは、耐火レンガとして使用可能であった(JIS R2101耐火レンガの形状および寸法)。
【0067】
得られた無機発泡体についての焼成前密度、焼成後密度、Si/Alモル比率、K/(Si+Al+K)モル比率、リューサイトピーク面積比、気泡径(平均気泡径、気泡径標準偏差)、圧縮強度、圧縮強度向上率、熱伝導率、再加熱収縮率、割れの発生について、以下の方法で測定、観察した。その結果を表1に示す。
(リューサイトピーク面積比)
リューサイト結晶ピーク面積比を、X線解析装置(理学電機株式会社 RINT2550H(ローターフレックス型)を用いて、リューサイト結晶に由来するピークが見られる27.3°付近のピーク面積をリューサイトの純物質(100%結晶成分 株式会社ニチカ)と、無機発泡体に対してX線解析測定を行いピーク面積比を計算して求めた。この際、リューサイト純物質、無機発泡体は粉砕して粉末として測定した。測定条件は、JIS K0131(1996)に準拠し、管球CuKα、出力40kV、30mA、測定角度2θ=3.0°~90.0°、サンプリング間隔0.02°、走査速度0.6秒/度でおこなった。
(気泡径)
試験片の断面について、拡大倍率20倍で画像データを、測定装置(株式会社キーエンス製 デジタルマイクロスコープ VHX-7000)を用いて取得した。この画像データにおいて、ナノシステム株式会社製の画像処理ソフトNS2K-proを用いることにより個々の気泡の面積を測定した。得られた個々の気泡の面積を気泡が円であると換算し、更にその円に換算した場合の直径を求め、それらの値の各々を算術平均して求めた。
【0068】
なお、気泡壁内に存在する気泡は、気泡径の測定からは除外して算出した。また、試験片の断面を作製した際に気泡壁が欠落したと考えられる気泡についても、上記気泡径の測定からは除外して算出した。
【0069】
詳細な測定条件は、以下の条件とした(モノクロ変換、平滑化フィルタ(3×3、8近傍、処理回数=1)、濃度ムラ補正(背景より明るい、大きさ=5)、NS法2値化(背景より暗い、鮮明度=9、感度=1、ノイズ除去、濃度範囲=0~255)、収縮(8近傍、処理回数=1)、特徴量(面積)による画像の選択(10000~∞μm2のみ選択、8近傍)、隣と接続されない膨張(8近傍、処理回数=3)、各円相当径計測(面積から計算、8近傍)))。
(圧縮強さ)
各無機発泡体について、試験片(サイズ:圧縮面1×1cm、高さ3cm)に切り出して、荷重速度0.5mm/sにて、JIS R1608(ファインセラミックスの圧縮強さ)の試験方法に準拠して圧縮強さを測定した。
(圧縮強さ向上率)
焼成を行っていないジオポリマー発泡体の圧縮強度を基準として、焼成後の無機発泡体の圧縮強さが向上した%を記載した。
(熱伝導率)
各試験片について、熱伝導率測定装置(HC-074-200)を用いて、常温の測定条件にて、JIS A1412(熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率)の測定方法に準拠して熱伝導率を測定した。
(再加熱収縮率)
無機発泡体の各試験片について、再度、焼成炉にて、1200℃で5時間焼成し、焼成前の寸法変化から再加熱収縮率を測定した。
(割れの発生)
各試験片について、目視にて割れの発生を確認した。
【0070】
【0071】
実施例1~7は、上記方法により、特定の温度においてジオポリマー発泡体を焼成することで、リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを基材とする無機発泡体を得た例である。ジオポリマー発泡体に比べ、圧縮強度が向上していることが確認された。
【0072】
比較例1は、1050℃でジオポリマー発泡体を焼成した例であり、X線回折スペクトルにはリューサイトに由来する2θ=27.3°にピークが見られなかった。一方で、X線回折ピークには、カリオフィライトに由来するピークが観測された。したがって、リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを含有せず、脆い特性を有するカリオフィライトを含有しているため、前駆体と比べ圧縮強度が変わっていないことが確認された。
【0073】
比較例2は、1000℃でジオポリマー発泡体を焼成した例であり、X線回折スペクトルにはリューサイトに由来する2θ=27.3°にピークが見られなかった。一方で、X線回折ピークには、カリオフィライトに由来するピークが観測された。したがって、リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを含有せず、脆いカリオフィライトを含有しているため、ジオポリマー発泡体と比べ圧縮強度が低下していることが確認された。
【0074】
比較例3は、ジオポリマー発泡体であり、実施例1~3に対応している。リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを含有していない例である。X線回折スペクトルにはリューサイトに由来する2θ=27.3°にピークが見られなかった。
【0075】
比較例4、5は、ジオポリマー発泡体であるが、それぞれ実施例4、5の密度に対応している。同密度で比較した場合には、リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを含有していない例では、強度に劣ることが確認された。
【0076】
比較例6、7はジオポリマー発泡体であるが、それぞれ実施例6、7に対応している。リューサイト結晶構造を有する無機ポリマーを含有していない例では、強度に劣ることが確認された。