(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096904
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】歯周病罹患リスク判定用マーカー及びその用途
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20230630BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230630BHJP
【FI】
G01N33/50 G
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212949
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 由貴
(72)【発明者】
【氏名】山田 郁
(72)【発明者】
【氏名】川俣 亮介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 愛実
(72)【発明者】
【氏名】堤 康太
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 幸大
(72)【発明者】
【氏名】原田 みのり
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】西本 悠一郎
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041FA10
2G045AA25
2G045CB05
2G045CB07
2G045DA77
2G045FB06
2G045JA03
(57)【要約】
【課題】本発明は、簡便かつ正確に歯周病罹患リスクを判定できる、歯周病罹患リスク判定用マーカーの提供を目的とする。
【解決手段】以下より選択される少なくとも一種の成分を含む、歯周病罹患リスク判定用マーカーを提供する:トレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種である、歯周病罹患判定用マーカー。
【請求項2】
トレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも2種である、請求項1に記載の歯周病罹患判定用マーカー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマーカーに結合できる物質を含む、歯周病罹患リスク判定用キット。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のマーカーに結合できる物質が抗体、アプタマー、若しくは前記抗体又はアプタマーが支持体上に固定化されているマイクロアレイである、請求項3に記載のキット。
【請求項5】
トレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種に結合できる、歯周病罹患リスク判定用抗体又はアプタマー。
【請求項6】
トレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種に結合できる物質が支持体上に固定されている、歯周病罹患リスク判定用マイクロアレイ。
【請求項7】
被験対象から採取された試料中のトレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種の量を測定することを含む、被験対象の歯周病罹患リスク判定用データの取得方法。
【請求項8】
被験対象から採取された試料中のトレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種の量を測定することを含む、被験対象の歯周病治療の必要性判定用データの取得方法。
【請求項9】
歯周病の治療が施された歯周病患者である被験対象から単離された試料中のトレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸から選ばれる少なくとも1種の量を測定することを含む、被験対象の歯周病治癒の判定又は治療法の有効性判定用データの取得方法。
【請求項10】
候補物質を投与した歯周病罹患者である被験対象から単離された試料中のトレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸から選ばれる少なくとも1種の量を測定することを含む、候補物質の歯周病の治療又は緩和用薬剤若しくは食品組成物としての有効性判定用データの取得方法。
【請求項11】
試料が、唾液、歯垢、血液、及び、尿からなる群より選ばれる試料である、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
測定を、質量分析法、免疫測定法の少なくともいずれかの方法により行う請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
被験対象から単離された試料中の請求項1又は2に記載のマーカーの量の測定値から、被験対象の歯周病罹患リスク判定用データを作製するデータ処理手段を含む、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法を実施するための、歯周病罹患リスク判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病罹患リスク判定用マーカー及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、歯の周りにある歯周組織に起きる炎症性の疾患である。う蝕とは異なりほとんど自覚症状がないため気づかないうちに進行し、悪化してはじめて歯科医の診察を受けることが多く、高齢者が歯を失う最大の原因となっている。また、メタボリック・シンドローム、冠動脈疾患、糖尿病などの全身性疾患と関連性があることも近年明らかになってきており、歯周病は歯科分野だけではなく、全身の健康状態に関わる問題ともなる。したがって、歯周病の早期発見は、口腔はもちろん全身の健康状態を維持するうえで重要である。
【0003】
現在のところ、歯周病の検査は、プローブという針状の器具を使って歯周ポケットの深さを調べるプロービング検査、エックス線写真によって歯を支える骨の状態を調べるレントゲン検査、歯周病の原因となる歯の周囲の汚れ(プラーク)の付着状況を調べる検査などによって行われている。これらの診断方法は被験者への負担が大きいことや、歯科医師の経験や技能に基づくため判定基準に個人差があるなどの問題がある。
【0004】
歯周病マーカーを用いた歯周病の診断方法として、歯肉溝滲出液を採取する方法が知られているが、歯肉溝滲出液の採取は精確な操作が要求されることや、歯肉からの出血のリスクがあるなど、採取のハードルが高い。
【0005】
特許文献1には、被験者の唾液中の歯周病減細菌数(T.d.(Treponema denticola)菌、及び、T.f.(Tannerella forsythia)菌)と、メタデータ(アンケート結果)の合計4変数で歯周病進行度を評価する方法が記載されている。特許文献2には、被験者の口腔内から採取された検体に含まれる所定のタンパク質の定量値から、歯周病の有無、及び、進行度を判定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-070638号公報
【特許文献2】特開2013-117382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の評価方法は、客観データ2変数と主観データ2変数を組み合わせたものであり、歯周病はその病態の進行に対する自覚を持ちにくい性質を考慮すると、主観データを説明変数に含む特許文献1の方法は、正確性に欠ける場合が想定される。なお、この特許には予測モデルの正確性に関する言及はない。特許文献2の方法では、147種の各タンパク質マーカー全てを同時定量する必要があり、簡便性の面で問題がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡便かつ正確に歯周病罹患リスクを判定できる、歯周病罹患リスク判定用マーカー及び歯周病を判定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の〔1〕~〔13〕を提供する。
〔1〕トレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種である、歯周病罹患判定用マーカー。
〔2〕トレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも2種である、〔1〕に記載の歯周病罹患判定用マーカー。
〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載のマーカーに結合できる物質を含む、歯周病罹患リスク判定用キット。
〔4〕〔1〕又は〔2〕に記載のマーカーに結合できる物質が抗体、アプタマー、若しくは前記抗体又はアプタマーが支持体上に固定化されているマイクロアレイである、〔3〕に記載のキット。
〔5〕トレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種に結合できる、歯周病罹患リスク判定用抗体又はアプタマー。
〔6〕トレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種に結合できる物質が支持体上に固定されている、歯周病罹患リスク判定用マイクロアレイ。
〔7〕被験対象から採取された試料中のトレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種の量を測定することを含む、被験対象の歯周病罹患リスク判定用データの取得方法。
〔8〕被験対象から採取された試料中のトレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種の量を測定することを含む、被験対象の歯周病治療の必要性判定用データの取得方法。
〔9〕歯周病の治療が施された歯周病患者である被験対象から単離された試料中のトレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸から選ばれる少なくとも1種の量を測定することを含む、被験対象の歯周病治癒の判定又は治療法の有効性判定用データの取得方法。
〔10〕候補物質を投与した歯周病罹患者である被験対象から単離された試料中のトレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸から選ばれる少なくとも1種の量を測定することを含む、候補物質の歯周病の治療又は緩和用薬剤若しくは食品組成物としての有効性判定用データの取得方法。
〔11〕試料が、唾液、歯垢、血液、及び、尿からなる群より選ばれる試料である、〔7〕~〔10〕のいずれか1項に記載の方法。
〔12〕測定を、質量分析法、免疫測定法の少なくともいずれかの方法により行う〔7〕~〔11〕のいずれか1項に記載の方法。
〔13〕被験対象から単離された試料中の〔1〕又は〔2〕に記載のマーカーの量の測定値から、被験対象の歯周病罹患リスク判定用データを作製するデータ処理手段を含む、〔7〕~〔12〕のいずれか1項に記載の方法を実施するための、歯周病罹患リスク判定システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、歯周病の有無をより簡便に、かつ、精度良く判定できる歯周病罹患リスク判定用マーカーが提供される。斯かる歯周病罹患リスク判定用マーカーを用いることにより、歯周病罹患リスクを予測できるので、歯周病、及び、歯周病と関連する全身性疾患の早期発見と予防に繋がり、健康状態の維持に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〈1:歯周病罹患リスク判定用マーカー〉
歯周病罹患リスク判定用マーカーは、下記(1)~(16)からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0012】
(1)トレオン酸(threonic acid、C
4H
8O
5)
トレオン酸は、下記の構造式で表される、アスコルビン酸の代謝物である。
【化1】
【0013】
(2)サルコシン(sarcosine、C
3H
7NO
2)
サルコシンは、下記の構造式で表される、コリンがグリシンへ分解される際に生ずる代謝中間体である。
【化2】
【0014】
(3)3-アミノイソ酪酸(3-aminoisobutyrate、C
4H
9NO
2)
3-アミノイソ酪酸は、下記の構造式で表される、チミンの代謝物である。
【化3】
【0015】
(4)7-メチルグアニン(7-methylguanine、C
6H
7N
5O)
7-メチルグアニンは、下記の構造式で表される、グアノシンのメチル化かつ脱塩基物である。
【化4】
【0016】
(5)アラニルアラニン(alanylalanine、C
6H
12N
2O
3)
アラニルアラニンは、下記の構造式で表される、タンパク質又はペプチドの代謝物である。
【化5】
【0017】
(6)3-メチルアデニン(3-methyladenine、C
6H
7N
5)
3-メチルアデニンは、下記の構造式で表される、アデニンの誘導体である。
【化6】
【0018】
(7)デスチオビオチン(desthiobiotin、C
10H
18N
2O
3)
デスチオビオチンは、下記の構造式で表される、ビオチンのアナログである。
【化7】
【0019】
(8)ヘキサン酸(hexanoate、C
6H
12O
2)
ヘキサン酸は、下記の構造式で表される、飽和カルボン酸である。
【化8】
【0020】
(9)イソブチルアミン(isobutylamine、C
4H
11N)
イソブチルアミンは、下記の構造式で表される、脂肪族アミンである。
【化9】
【0021】
(10)ウリジン一リン酸(uridine monophosphate、C
9H
13N
2O
9P)
ウリジン一リン酸は、下記の構造式で表される、ヌクレオチド化合物である。
【化10】
【0022】
(11)ビオチン(biotin、C
10H
16N
2O
3S)
ビオチンは、下記の構造式で表される、水溶性ビタミン(ビタミンB7)である。
【化11】
【0023】
(12)乳酸(lactic acid、C
3H
6O
3)
乳酸は、下記の構造式で表される、解糖系の生成物である。
【化12】
【0024】
(13)2-ヒドロキシグルタル酸(2-hydroxyglutaric acid、C
5H
8O
5)
2-ヒドロキシグルタル酸は、下記の構造式で表される、免疫関連の代謝産物である。
【化13】
【0025】
(14)シトラマル酸(citramalate、C
5H
8O
5)
シトラマル酸は、下記の構造式で表される、リンゴ酸のメチル化物である。
【化14】
【0026】
(15)グルコース-1-リン酸(glucose-1-phosphate、C
6H
13O
9P)
グルコース-1-リン酸は、下記の構造式で表される、解糖系の中間体物質である。
【化15】
【0027】
(16)3-ヒドロキシ酪酸(3-Hydroxybutyric acid、C
4H
8O
3)
3-ヒドロキシ酪酸は下記の構造式で表される、脂肪酸代謝の中間体である。
【化16】
【0028】
上記(1)~(16)は、いずれもヒト唾液中の代謝物である。歯周病罹患リスク判定用マーカーは上記(1)~(16)のうちの1つでもよく、2種以上の組み合わせでもよい。2種以上の組み合わせとしては、例えば、トレオン酸及びサルコシンを少なくとも含む組み合わせ、3-アミノイソブチル酸、7-メチルグアニン及びアラニルアラニンを少なくとも含む組み合わせ、ウリジン一リン酸を少なくとも含む組み合わせ、3-メチルアデニン、ヘキサン酸及びイソブチルアミンからなる群のうちから選ばれる2種以上の組み合わせが挙げられ、それぞれの好ましい態様は以下のとおりである:
トレオン酸及びサルコシンを少なくとも含む組み合わせ:トレオン酸及びサルコシンの組み合わせ;トレオン酸、サルコシン、及びヘキサン酸の組み合わせ;トレオン酸、サルコシン、7-メチルグアニン、及びデスチオビオチンの組み合わせ;トレオン酸、サルコシン、7-メチルグアニン、及び3-ヒドロキシ酪酸の組み合わせ;トレオン酸、サルコシン、デスチオビオチン、及びヘキサン酸の組み合わせ;トレオン酸、サルコシン、デスチオビオチン、及び3-ヒドロキシ酪酸の組み合わせ;又は、トレオン酸、サルコシン、3-アミノイソ酪酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、3-メチルアデニン、デスチオビオチン、ヘキサン酸、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、ビオチン、乳酸、2-ヒドロキシグルタル酸、シトラマル酸、グルコース-1-リン酸、及び、3-ヒドロキシ酪酸の組み合わせ;
3-アミノイソブチル酸、7-メチルグアニン及びアラニルアラニンを少なくとも含む組み合わせ:3-アミノイソブチル酸、7-メチルグアニン及びアラニルアラニンの組み合わせ;3-アミノイソブチル酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、及びイソブチルアミンの組み合わせ;サルコシン、3-アミノイソブチル酸、7-メチルグアニン及びアラニルアラニンの組み合わせ;3-アミノイソブチル酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン及び3-メチルアデニンの組み合わせ;3-アミノイソブチル酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン、及び、2-ヒドロキシグルタル酸とシトラマル酸との少なくともいずれかの組み合わせ;もしくは、3-アミノイソブチル酸、7-メチルグアニン、アラニルアラニン及びウリジン一リン酸の組み合わせ;
ウリジン一リン酸を少なくとも含む組み合わせ:3-メチルアデニン、ウリジン一リン酸、ビオチン及び乳酸の組み合わせ;又は、イソブチルアミン、ウリジン一リン酸、2-ヒドロキシグルタル酸とシトラマル酸との少なくともいずれか、及び、グルコース-1-リン酸の組み合わせ;
3-メチルアデニン、ヘキサン酸及びイソブチルアミンからなる群のうちから選ばれる2種以上の組み合わせ:3-メチルアデニン及びヘキサン酸の組み合わせ;3-メチルアデニン及びイソブチルアミンの組み合わせ;又は、ヘキサン酸及びイソブチルアミンの組み合わせ。
【0029】
〈2:歯周病罹患リスク判定用の抗体、アプタマー、マイクロアレイ、キット〉
上記各マーカーは、マーカー(各化合物)に結合できる物質(好ましくは、マーカーに特異的に結合できる物質)により、測定できる。
【0030】
―マーカーに結合できる物質(抗体・アプタマー)―
マーカーに結合できる物質は、マーカーに親和性を有する任意の物質であればよく、例えば、抗体、化合物が挙げられる。抗体としては例えば、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体が挙げられる。抗体は常法により作製でき、ヒト抗体でもよいし、ヒト以外の哺乳動物の抗体でもよい。化合物は、低分子及び高分子のいずれでもよく、有機及び無機化合物のいずれでもよい。例えば、アプタマー、発光物質(蛍光発光物質、化学発光物質)、染料、顔料、発色又は呈色試薬、免疫染色試薬、酵素、放射性同位体が挙げられる。アプタマーは、天然アプタマー及び人工アプタマーのいずれでもよい。人工アプタマーの場合、常法により作製できる。マーカーに結合できる物質は、抗体又はアプタマーが好ましい。
【0031】
マーカーに結合できる物質が抗体である場合、前記抗体をマーカーに結合させた後、前記抗体(一次抗体)に結合する二次抗体を作用させることにより、被験対象の試料中の量を測定できる。二次抗体には標識物質(例えば、上述した発光物質、放射性同位体、酵素)を結合させてもよい。マーカーに結合できる物質が発色又は呈色物質である場合、マーカーに前記物質を結合させて発色又は呈色反応を起こさせ、発色又は呈色の程度を確認することにより、マーカーの量を測定できる。
【0032】
―マイクロアレイ―
マーカーに結合できる物質は、担体(基材)上に固定化されてマイクロアレイを構成してもよい。支持体としては、例えば、ディッシュ、プレート(例えば、マイクロタイタープレート)、ウェル、ストリップ、チップ、ビーズ、膜等の任意の形状の固体が挙げられる。担体の素材は特に限定されず、例えば、ガラス等の無機材料、ニトロセルロース等の有機材料が挙げられる。担体表面は、任意に被覆修飾されたものでよい。マイクロアレイは、常法により担体上に上記物質を整列又はランダムに配置して固定化して作製すればよい。固定化は、物理的吸着、官能基を利用した共有結合等によることができる。固定化の際には、マイクロアレイヤー、スポッター等の機器を用いてもよい。
【0033】
―キット―
マーカーに結合できる物質を少なくとも1つ含むキットを利用して、マーカーの量を測定できる。マーカーに結合できる物質は、上述したとおりであり、キットには少なくとも1つ含まれていればよく、2以上の前記物質の組み合わせ(例えば、マーカーとしての複数の化合物に結合できる物質の組み合わせ)が含まれていてもよい。キットは、さらに、マーカーを検出するための試薬又は用具を含んでもよい。例えば、二次抗体、発色又は呈色試薬、試料容器(例えば、採取した試料を収容するための容器)、ガム、洗口容器、洗口用液(例えば、蒸留水等の水、1回あたり3~4mL)、試験紙、試験紙への点着用具、取扱説明書などが挙げられる。二次抗体については、前記したとおりである。唾液を試料とする際、ガムは、刺激唾液採取用に通常用いられているガム(パラフィンガム等)であればよい。ガムを含むことにより、試料としての唾液の採取が容易となる。洗口用液及び洗口用容器、試験紙、点着用具、検出デバイス、を含むことにより、唾液を後述の洗口吐出液として容易に採取できる。検出デバイスは、試料(例えば、点着用具を用いて試験紙に点着した試料)中のマーカーの量を検出可能なデバイス(例えば、後述の方法にてマーカーの量を検出可能なデバイス)であればよい。検出キットに含まれる試薬及び用具は、採取1回分でもよいし、複数回分でもよく、複数回分の場合、1回分ごとに小分けにされていてもよい。
【0034】
〈3:歯周病罹患リスクの判定方法〉
上記マーカーは、被験対象の歯周病罹患リスクの判定に利用できる。すなわち、被験対象から採取された試料中の上記マーカーの量を測定することにより、被験対象の歯周病罹患リスクを判定でき、又は、前記リスクの判定用データを取得できる。
【0035】
―被験対象―
被験対象は歯を有する動物であればよく、特に限定されないが、ヒト、ヒト以外の動物(例えば、実験動物(マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等)、ペット(イヌ、ネコ、鳥類等))を挙げることができ、好ましくはヒトである。また、被験者は、性別の区別はなく、未成年者と成年者のいずれであってもよいが、成年者は歯周病に罹患している可能性が高いため、成年者を対象とすることが好ましい。なお、本明細書中、成年者というときは、通常満20歳以上の者であり、未成年者というときは、通常満20歳未満の者である。
【0036】
―試料―
試料としては、被験者から採取可能な生体試料であれば特に限定されないが、例えば、唾液、歯垢、血液(全血、血漿、血清等)、尿、汗、涙等の体液を挙げることができる。これらのうち、唾液、歯垢、血液、及び、尿が好ましく、唾液、歯垢がより好ましい。これらは、非侵襲的かつ常時採取可能であり、被験者の負担を軽減できる。
【0037】
試料としての唾液は、非刺激唾液、刺激唾液又は、洗口吐出液のいずれでもよい。刺激唾液は、パラフィンガムを咀嚼して採取できる。非刺激唾液は、安静時において自然に分泌される唾液を採取すればよい。洗口吐出液は、洗口溶液(例えば、蒸留水等の水)を口に含んだ後の吐出液として採取できる。
【0038】
―試料中のマーカーの量の測定―
試料に含まれるマーカーの量の測定(定量、検出)は、マーカーに結合する物質を用いて行えばよい。測定方法としては、例えば、免疫測定法(免疫電気泳動法、一元放射免疫拡散法(SRID)、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、ラテックス免疫測定法(LIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、サンドイッチELISA、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ(RIA))、質量分析法、呈色反応、及び、比色法が挙げられる。これらの中でも、質量分析法、免疫測定法が好ましい。
【0039】
質量分析法による測定の際には各種の質量分析装置を利用することができる。例えば、GC-MS、LC-MS、FAB-MS、EI-MS、CI-MS、FD-MS、MALDI-MS、ESI-MS、HPLC-MS、FT-ICR-MS、CE-MS、ICP-MS、Py-MS、TOF-MS等が挙げられる。
【0040】
抗体又はアプタマーを用いて生体試料中の成分の含有量を測定する一例を以下に示す。まず、抗体又はアプタマーを担体に公知の方法により吸着させる。試料を必要に応じて希釈した後、添加してインキュベーションする。次に、蛍光発光物質、化学発光物質又は酵素を結合させた2次抗体を加えインキュベーションする。検出はそれぞれの基質を加えた後、蛍光若しくは化学発光物質又は酵素反応による可視光を計測することによって測定を行うことができる。
【0041】
上述のマイクロアレイを用いて生体試料中のマーカーの量を測定する一例を以下に示す。まず、マイクロアレイ上に試料を添加し、試料中のマーカーを、アレイ上に結合させた物質と結合させる。次に2次抗体を加えインキュベーションする。検出は2次抗体に結合した標識物質を利用して可視化(例えば、標識物質からの可視光を計測)して行えばよい。
【0042】
質量分析法(例えば、CE-MS法)により試料中の成分を測定する場合、例えば、「標準となる化合物」及び「一般公開データベース(KEGG、HMDB、NIST 11ライブラリー)」等の既知のデータと比較して成分を同定し、測定できる。なお、成分に既知のデータが存在しない場合、分取型のHPLC等で単離した後、核磁気共鳴装置(NMR)等で解析を行うことで未知の成分を同定することができる。
【0043】
―歯周病罹患リスクの判定・判定用データの取得―
測定されたマーカーの量からの、歯周病罹患リスクの判定、及び、判定のために有用なデータの取得は、前記マーカーの量を指標として行えばよいが、対照値との比較により行うことが好ましい。対照値は、カットオフ値としてあらかじめ定めておくことが好ましい。例えば、対照値が健常者から採取された試料中のマーカー量である場合、以下のように判定できる:
マーカー(1)~(6)、(8)、(10)、(13)、(14):対照値よりもマーカー量が高い場合、歯周病罹患リスクが高いと判定される。一方、対照値よりもマーカー量が低い場合、歯周病罹患リスクが低いと判定される。
マーカー(7)、(9)、(11)、(12)、(15)、(16):対照値よりもマーカー量が低い場合、歯周病罹患リスクが高いと判定される。一方、対照値よりもマーカー量が高い場合、歯周病罹患リスクが低いと判定される。
【0044】
本明細書において、歯周病の罹患リスク判定とは、被検対象が、歯周病に罹患しているか否か、及び、被験者(歯周病患者)が治癒又は寛解しているか否か、の少なくともいずれかを予測、診断することを意味する。本明細書において歯周病に罹患しているとは、深さ4mm以上の歯周ポケットがあり、かつ、プローブを歯周ポケットに挿入した際に出血があることを意味する。判定方法による判定の精度は、例えば、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上である。そのため、本発明の判定は、医師による診断前の予備的な判定方法として有用である。
【0045】
―応用例―
上記判定方法は、被験対象の歯周病治療の必要性の判定、被験対象の歯周病治癒の判定又は治療法の有効性の判定、候補物質の歯周病の治療又は緩和用薬剤若しくは食品組成物としての有効性の判定のために利用できる。
【0046】
被験対象の歯周病治療の必要性の判定においては、歯周病罹患リスクの判定と同様、被験者の試料中のマーカーの量を指標として行えばよく、対照値との比較により行うことが好ましい。例えば、対照値が健常者から採取された試料中のマーカー量(例えば、健常者複数人から採取された試料中のマーカー量の平均値、以下同じ)である場合、以下のように判定できる:
マーカー(1)~(6)、(8)、(10)、(13)、(14):対照値よりもマーカー量が高い場合、治療の必要性が高いと判定される。一方、対照値よりもマーカー量が低い場合、治療の必要性が低い可能性があると判定される。
マーカー(7)、(9)、(11)、(12)、(15)、(16):対照値よりもマーカー量が低い場合、治療の必要性が高いと判定される。一方、対照値よりもマーカー量が高い場合、治療の必要性が低い可能性があると判定される。
【0047】
被験対象の歯周病治癒の判定又は治療法の有効性の判定においては、歯周病の治療が施された歯周病患者である被験対象から単離された試料中のマーカーの量を指標として行えばよく、対照値との比較により行うことが好ましい。例えば、対照値が健常者から採取された試料中のマーカー量である場合、以下のように判定できる:
マーカー(1)~(6)、(8)、(10)、(13)、(14):対照値よりもマーカー量が高い場合、被験対象の歯周病が治癒した可能性が低いと判定されるか、又は、治療法が有効ではない可能性があると判定される。一方、対照値よりもマーカー量が低い場合、被験対象の歯周病が治癒した可能性があると判定されるか、又は、治療法が有効である可能性があると判定される。
マーカー(7)、(9)、(11)、(12)、(15)、(16):対照値よりもマーカー量が低い場合、被験対象の歯周病が治癒した可能性が低いと判定されるか、又は、治療法が有効ではない可能性があると判定される。一方、対照値よりもマーカー量が高い場合、被験対象の歯周病が治癒した可能性があると判定されるか、又は、治療法が有効である可能性があると判定される。
【0048】
候補物質の歯周病の治療又は緩和用薬剤若しくは食品組成物としての有効性の判定においては、候補物質を投与した歯周病罹患者である被験対象から単離された試料中のマーカーの量を指標として行えばよく、対照値との比較により行うことが好ましい。例えば、対照値が健常者から採取された試料中のマーカー量である場合、以下のように判定できる:
マーカー(1)~(6)、(8)、(10)、(13)、(14):対照値よりもマーカー量が高い場合、候補物質は剤又は食品の有効成分として有用ではない可能性があると判定される。一方、対照値よりもマーカー量が低い場合、候補物質は剤又は食品の有効成分として有用である可能性があると判定される。
マーカー(7)、(9)、(11)、(12)、(15)、(16):対照値よりもマーカー量が低い場合、候補物質は剤又は食品の有効成分として有用ではない可能性があると判定される。一方、対照値よりもマーカー量が高い場合、候補物質は剤又は食品の有効成分として有用である可能性があると判定される。
【0049】
〈4:歯周病罹患リスク予測システム〉
上記方法を実施するにあたり、被験対象から単離された試料中の上記マーカーの量の測定値から、被験対象の歯周病罹患リスク判定用のデータ処理を行うデータ処理手段を含む、判定システムを利用してもよい。上記測定値は、上記のマーカーに結合できる物質を利用して測定でき、測定値を得るための測定部を判定システムの一部として備えていてもよい。データ処理手段は、例えば、測定値、歯周病罹患リスクとの相関関係(例えば、対照値等の判定基準、被験対象の過去の判定結果データ、判定のための数理モデル)を記憶でき、これらに基づき被検対象の歯周病罹患リスクの判定処理を行い、データを作製できる。必要に応じて、過去の判定結果からの変化等、判定に関する付随情報を更に作製するものであってもよい。判定システムはさらに、被験対象から単離された試料中の上記マーカーの量の測定値を入力する入力手段、処理手段により作製されたデータを出力する出力手段を含んでもよい。なお、判定システムは、通常、システムに含まれる各手段を制御する制御部を有する。判定システムは、各種電子機器、例えば、モバイル(例えば、スマートフォン、携帯電話、タブレット型端末、ノートパソコン)、専用汎用のコンピュータ、コンピュータを搭載した電子機器、さらに必要に応じてEメール、インターネット等のネットワーク;プリンター、スキャナー等の周辺機器を利用して実現できる。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0051】
〔実施例1〕
歯周病患者(BOP(Bleeding On Probing)あり、4mm以上PPD(Probing pocket depth)が一カ所以上)22名(平均50.0歳、30-72歳、男性8名女性14名)及び健常者(BOPなし、4mm以上PPDが一カ所もない)37名(平均45.5歳、27~65歳、男性18名女性19名)の洗口吐出液(3mL蒸留水を10秒間口に含んだ後吐出)の採取を実施した。採取された洗口吐出液中の水溶性代謝物データ(キャピラリー電気泳動-質量分析計(Agilent G7100 キャピラリー電気泳動 + Agilent 6224TOF CE/TOFMS システム、解析ソフトウェアMassHunter、いずれもAgilent社製)を用いて506成分の含有量を測定)を取得した。なお、健常者及び歯周病患者から採取された洗口吐出液を等量混合したQC(Quality Control)サンプルを準備して、測定バッチ中に複数含めた測定を行い、分析精度を管理した。
【0052】
BOPの検査は、プローブ(先端に目盛りがついた探針)を歯周ポケットの底部に挿入したときの出血の有無、及び、歯周ポケットの深さによって、歯周ポケット底部の炎症を評価して行った。
【0053】
上記データを用い、python言語によるデータ解析を実施して、できるだけ少ない特徴量で歯周病罹患有無を判別可能な数理モデルを探索した。探索の手順は、以下のとおりである。
【0054】
1)全測定代謝物(506成分)に年齢と性別を加えた508の特徴量から、多重共線性除去及び特徴量選択を行い、有用な特徴量を抽出した。更に、抽出された有用な特徴量のうちから選択される5~3特徴量以下の全組み合わせについて予測モデルを作成し、AUC(受信者動作特性曲線下面積:Area under an ROC curve)の高い順に並び替え、AUCが0.9以上となる全組み合わせを抽出し、その中に含まれる特徴量をリスト化した。
【0055】
具体的には、以下の6パターンに従い、全測定代謝物(506成分)又は全QCサンプルから共通して検出された代謝物(143成分)に、年齢と性別を加えた特徴量について、多重共線性除去後、数理モデルとしてロジスティック回帰又は勾配ブースティング法を用いて、L1正則化によるスパースモデリングもしくはラッパー法による変数削減を行って、最も有用な特徴量(スパースモデリングでは20特徴量、ラッパー法では12又は8特徴量)を抽出し、更に抽出された特徴量のうちから、ロジスティック回帰では5特徴量以下、勾配ブースティング法では4又は3特徴量以下の全組み合わせについて予測モデルを作成し、AUCの高い順に並び替え、AUCが0.9以上となる全組み合わせを抽出し、その中に含まれる特徴量をリスト化した。なお、勾配ブースティング法による解析は、XGBoostアルゴリズムを使用して行った。
【0056】
パターン1及び2:全測定代謝物のうち全QCサンプル共通して検出された代謝物(CE-MS測定結果11回分のいずれでもNot Detectedではなかった代謝物、以下同じ)(143成分、すなわち143特徴量)に年齢と性別を加えた145特徴量の中から多重共線性を有する10特徴量(VIF(Variance Inflation Factor)>10、すなわちr(変数間の相関係数)>0.95である特徴量のペアのうちCV(Coefficient of Variation)がより大きいもの)を除去後、残りの代謝物についてロジスティック回帰(パターン1)又は勾配ブースティング法(パターン2)を用いてL1正則化によるスパースモデリングを行って有用な20特徴量を抽出し、更に抽出された20特徴量のうちから、ロジスティック回帰では5特徴量以下、勾配ブースティング法では3特徴量以下の全組み合わせについて予測モデルを作成し、AUCが0.9以上となる全組み合わせを探索し、その中に含まれる特徴量をリスト化した。パターン1では5特徴量、パターン2では6特徴量が選択された。
【0057】
パターン3及び4:全測定代謝物(506成分)に年齢と性別を加えた508特徴量の中から多重共線性を有する34特徴量(VIF>10である特徴量のペアのうち、数値がより小さいもの)を除去後、残りの代謝物について、ロジスティック回帰(パターン3)又は勾配ブースティング法(パターン4)を用い、パターン1及び2と同様な方法で特徴量を選択した。得られた特徴量リストから、測定精度に疑問のある7成分(N-Acetylleucine、Cys-Gly、CDP-choline、1-Amino-1-cyclopentanecarboxylate、CDP、Xanthopterin、Glutarate)を除去し、パターン3では13特徴量、パターン4では3特徴量が選択された。
【0058】
パターン5及び6:全測定代謝物のうち全QCサンプルで共通して検出された代謝物(143成分、すなわち143特徴量)の中から多重共線性を有する58特徴量(r>0.8である特徴量のペアのうちCVがより大きいもの)を除去後、残りの特徴量についてロジスティック回帰(パターン5)又は勾配ブースティング法(パターン6)を用い、2種類のラッパー法(変数削減法及び再帰的特徴量削減法)により特徴量選択を行った。得られた特徴量の和集合(パターン5:12特徴量、パターン6:8特徴量)のうちから、ロジスティック回帰では5特徴量以下、勾配ブースティング法では4特徴量以下の全組み合わせについて予測モデルを作成し、AUCが0.9以上となる全組み合わせを探索し、その中に含まれる特徴量をリスト化した。パターン5では5特徴量、パターン6では4特徴量が選択された。
【0059】
洗口吐出液中の代謝物の分析は、以下の前処理を行った。200μLに分注済の洗口吐出液を4℃で融解し、攪拌後、180μLを限外ろ過フィルター(UltrafreeMCPLHCC,分画分子量5,000Da)に取り、4℃、9,100gで約3時間、フィルターに残液がなくなるまで遠心ろ過した。ろ液をLABCONCO(登録商標) Refrigerated CentriVap Concentratorを用いて40℃で約3時間遠心濃縮し、乾固させた。次に、内部標準物質5成分:L-Methionine sulfone,MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid),CSA(D-camphor-10-sulfonic acid)(以上3成分IS 1,面積補正用)、及び3-Aminopyrrolidine,Trimesate(1,3,5-Benzenetricarboxylic Acid)(以上2成分IS 2,泳動時間補正用)を各200μMとなるよう予め混合した水溶液60μLを添加、撹拌し、充分に溶解させた。上記前処理後の試料を、代謝物の測定に供した。
【0060】
2)上記1)で選択された6パターンでの特徴量リストの和集合を求め、重複のない26特徴量を抽出した。この26特徴量のうちから選択される4特徴量以下の全組合せについて予測モデルを作成し、AUC(受信者動作特性曲線下面積:Area under an ROC curve)の高い順に並び替えた。
すなわち、抽出された26特徴量の中からAUC>0.9となる組み合わせ(組み合わせ数4以下)の全組み合わせを、数理モデルとしてロジスティック回帰又はXGBoostを用いて探索した。
また、組み合わせの選択において、正確率も参照した。正確率(ACC(accuracy))は、機械学習モデル(選択された成分の組み合わせ又は各成分単独)による予測が正解であった場合の数の、データ数(被験者数)に対する割合である。機械学習モデルによる予測は、歯周病と予測される確率(0~1)の出力であり、0.5を閾値とし、閾値以上であれば歯周病と予測、閾値未満を健常と予測したと判断した。なお、AUC、ACCとも、一個抜き交差検証(leave‐one‐out cross‐validation;LOOCV)における数値である。
選抜された組み合わせ、個々の成分、及び任意の組み合わせ、並びにそれぞれのAUC,ACCを、表1~4に示した。なお、年齢と性別は最終的に選抜されなかった。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
[表中の略語]
XGB:XGBoost
Logit:ロジスティック回帰
Ala-Ala:アラニルアラニン
UMP:ウリジン一リン酸
G1P:グルコース-1‐リン酸
【0066】
表1~4に示す各成分または組み合わせは、いずれも一定以上のAUC、ACCを示し、中でも表2~3に示す組み合わせはAUCが0.9を上回り、ACCも0.75を上回った。これらの結果は、本発明により歯周病の罹患リスクを簡便かつ正確に判定できることが示唆された。