(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096908
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ウイルス付着抑制剤及びウイルス付着抑制方法
(51)【国際特許分類】
C08F 220/36 20060101AFI20230630BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230630BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C08F220/36
C09K3/00 R
C08F220/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212956
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】古波津 春希
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聖奈
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】小林 滉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】松田 将
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL03Q
4J100AL04Q
4J100AL05Q
4J100AL08P
4J100AL08R
4J100AL10R
4J100BA12R
4J100BA32P
4J100BA32R
4J100BA51R
4J100BA65P
4J100BA77R
4J100BC43R
4J100CA05
4J100DA71
4J100JA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ウイルスが基材の表面へ付着することを抑制できるウイルス付着抑制剤を提供すること。
【解決手段】式(1)又は式(7)で示される共重合体が、基材表面へ化学結合することにより高い耐久性を持つ被覆層を該表面に形成し、該表面へのウイルスの付着を抑制できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)又は式(7)で示される構造を有し、重量平均分子量が5,000~2,000,000である共重合体を有効成分として含有するウイルス付着抑制剤。
【化1】
(a、b及びcはモル比であり、a:b:cは98~50:1~30:1~49、式中R
1、R
2及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。)
【化2】
(a及びcはモル比であり、a:cは99~50:1~50、式中R
1及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。)
【請求項2】
前記R
4が、以下式(C1)~(C5)のいずれか1である、請求項1に記載のウイルス付着抑制剤。
【化3】
(Xはメチル基若しくはエチル基を示す。)
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項3】
前記ウイルス付着抑制剤は溶液形態である、請求項1又は2に記載のウイルス付着抑制剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のウイルス付着抑制剤を被覆層として表面に備える基材。
【請求項5】
基材表面へのウイルス付着抑制のための式(1)又は式(7)で示される構造を有し、重量平均分子量が5,000~2,000,000である共重合体の使用。
【化8】
(a、b及びcはモル比であり、a:b:cは98~50:1~30:1~49、式中R
1、R
2及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。)
【化9】
(a及びcはモル比であり、a:cは99~50:1~50、式中R
1及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。)
【請求項6】
前記R
4が、以下式(C1)~(C5)のいずれか1である、請求項5に記載の共重合体の使用。
【化10】
(Xはメチル基若しくはエチル基を示す。)
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【請求項7】
請求項1又は2に記載のウイルス付着抑制剤で基材の表面を処理して該表面に被覆層を形成することを含む、基材へのウイルス付着抑制方法。
【請求項8】
前記処理した後、室温、又は加温により乾燥させることによって被覆層を形成することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記共重合体は、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル―2′―(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートに基づく構成単位及び3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートに基づく構成単位からなる共重合体である、請求項1~3のいずれか1に記載のウイルス付着抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス付着抑制剤、ウイルス付着抑制方法、並びに、該抑制剤を被覆層として表面に備える洗面シンクや便器等の基材に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスが原因となる感染症は毎年問題となっている。現在は新型コロナウイルス感染症が大流行している。ウイルス感染症は、人体にウイルスが接触又は取り込まれることで生じる。ウイルス感染の主な感染経路に接触感染がある。接触感染は、ウイルスを含む飛まつが机やドアノブなどの表面につき、それに触れた手で、無意識のうちに鼻や口を触るなどして起こる感染である。
特に、ウイルスが付着している場所は、トイレや洗面シンクなどの水回りである。人々の生活の中で毎日触れる場所は、ウイルスのみならず細菌も繁殖しやすいことから、清潔に保つことが、衛生上重要である。
基材へのウイルスの付着を抑制する方法として、一般的には空気洗浄機などで物理的に遮断する方法がある。近年では空気中微粒子(花粉、ウイルス、PM2.5等)が帯電していることを利用して、帯電防止剤を用いてトイレや洗面シンクの表面を電気的に中性に保つことで空気中微粒子の付着を抑制する方法が提案されている。
特開2006-2147号公報(特許文献1)は、帯電防止剤として2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスホリルコリンー(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を用いる方法を開示している。
再表2020/017232(特許文献2)は、2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスホリルコリンー(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を含む空気中微粒子付着防止組成物を開示している。
上記の方法は、衣類や肌、毛髪等に付着防止剤として化学合成品を物理吸着させることにより効果を発現させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-2147号公報
【特許文献2】再表2020/017232
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び2に開示の方法は、ポリマー自体の水への溶解性が高く、洗面シンクや便器等の繰り返し水媒体に接触しうる基材への使用においてはポリマーが溶出してしまい、十分なウイルス付着抑制効果が発揮できないというおそれがある。
本発明の課題は、ウイルスが基材の表面へ付着することを抑制できるウイルス付着抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、下記式(1)又は式(7)で示される共重合体が、基材表面へ化学結合することにより高い耐久性を持つ被覆層を該表面に形成し、該表面へのウイルスの付着を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、式(1)又は式(7)で示される共重合体を有効成分として含有するウイルス付着抑制剤、ウイルス付着抑制方法、並びに、該抑制剤を被覆層として表面に備える基材が提供される。
【化1】
【化2】
上記式(1)及び式(7)中R
1、R
2及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。
【0006】
すなわち、本発明は以下に関する。
1.式(1)又は式(7)で示される構造を有し、重量平均分子量が5,000~2,000,000である共重合体を有効成分として含有するウイルス付着抑制剤。
【化3】
(a、b及びcはモル比であり、a:b:cは98~50:1~30:1~49、式中R
1、R
2及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。)
【化4】
(a及びcはモル比であり、a:cは99~50:1~50、式中R
1及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。)
2.前記R
4が、以下式(C1)~(C5)のいずれか1である、前項1に記載のウイルス付着抑制剤。
【化5】
(Xはメチル基若しくはエチル基を示す。)
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
3.前記ウイルス付着抑制剤は溶液形態である、前項1又は2に記載のウイルス付着抑制剤。
4.前項1又は2に記載のウイルス付着抑制剤を被覆層として表面に備える基材。
5.基材表面へのウイルス付着抑制のための式(1)又は式(7)で示される構造を有し、重量平均分子量が5,000~2,000,000である共重合体の使用。
【化10】
(a、b及びcはモル比であり、a:b:cは98~50:1~30:1~49、式中R
1、R
2及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。)
【化11】
(a及びcはモル比であり、a:cは99~50:1~50、式中R
1及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。)
6.前記R
4が、以下式(C1)~(C5)のいずれか1である、前項5に記載の共重合体の使用。
【化12】
(Xはメチル基若しくはエチル基を示す。)
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
7.前項1又は2に記載のウイルス付着抑制剤で基材の表面を処理して該表面に被覆層を形成することを含む、基材へのウイルス付着抑制方法。
8.前記処理した後、室温、又は加温により乾燥させることによって被覆層を形成することを含む、前項7に記載の方法。
9.前記共重合体は、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル―2′―(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートに基づく構成単位及び3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートに基づく構成単位からなる共重合体である、前項1~3のいずれか1に記載のウイルス付着抑制剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のウイルス付着抑制剤の有効成分である式(1)又は式(7)の共重合体は、基材表面へ化学結合することにより高い耐久性を持つ被覆層を該基板に形成し、該基材表面へのウイルスの付着を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の本発明を詳細に説明する。
本発明のウイルス付着抑制剤は、以下を含む。
下記式(1)で表される構造を有し、ホスホリルコリン構成単位、疎水性基含有構成単位及び反応性基含有構成単位を含む共重合体、又は、下記式(7)で表される構造を有し、ホスホリルコリン構成単位及び反応性基含有構成単位を含む共重合体。
本発明の共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲において、ほかの構成単位(以下、「他の構成単位」と称する場合がある)を含有させてもよい。
【化17】
【化18】
上記式(1)中、a、b及びcはモル比であり、a:b:cは98~50:1~30:1~49、式中R
1、R
2及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。
上記式(7)中、a及びcはモル比であり、a:cは99~50:1~50、式中R
1及びR
3は、水素原子若しくはメチル基で示される基を示し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を示す。式中nは、3~17の整数である。
上記式(1)及び式(7)中、R
4が、以下式(C1)~(C5)のいずれか1である。
【化19】
(Xはメチル基若しくはエチル基を示す。)
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【0009】
本発明の共重合体は、以下のホスホリルコリン構成単位(A)、疎水性基含有構成単位(B)及び反応性基含有構成単位(C)を含有し、ホスホリルコリン構成単位(A)のモル比a、疎水性基含有構成単位(B)のモル比b及び反応性基含有構成単位(C)のモル比cがa:b:cは98~50:1~30:1~49である。
または、本発明の共重合体は、以下のホスホリルコリン構成単位(A)及び反応性基含有構成単位(C)を含有し、ホスホリルコリン構成単位(A)のモル比a及び反応性基含有構成単位(C)のモル比cがa:cは99~50:1~50である。
【化24】
式(A)中、R
1は水素原子若しくはメチル基を表す。
【化25】
式(B)中、R
2は水素原子若しくはメチル基を表し、式中nは、3~17の整数である。
【化26】
式(C)中のR
3及びR
4は、それぞれ、上記式(1)のR
3及びR
4と同じである。
【0010】
本発明において「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタアクリル(メタクリル)を意味し、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルまたはメタアクリロイル(メタクリロイル)を意味する。
また、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量や重量平均分子量の範囲)を段階的に記載した場合、各下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~100、より好ましくは20~90」という記載において、「好ましい下限値:10」と「より好ましい上限値:90」とを組み合わせて「10~90」とすることができる。
【0011】
本発明の共重合体の各構成単位について、下記に説明する。
【0012】
「ホスホリルコリン構成単位」
本発明の共重合体は、ホスホリルコリン基含有単量体に基づく構成単位(「ホスホリルコリン構成単位(基)」と称する場合がある。下記式(A))を共重合体構造中に含む。
共重合体構造中、ホスホリルコリン基は、生体膜の主成分であるリン脂質と同様の構造を有する極性基である。ホスホリルコリン基を共重合体中に導入することで、ウイルス付着抑制効果を共重合体に付与することができる。
さらに、該共重合体を基材表面に化学結合により固定化することで、基材にウイルス付着抑制効果を付与できる。
ホスホリルコリン基含有単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル―2′―(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート(参照:下記式(2))が挙げられる。
【化27】
式A中、R
1は水素原子若しくはメチル基を表す。
【化28】
式(2)中、R
1は水素原子若しくはメチル基を表す。
【0013】
「疎水性基含有構成単位」
本発明の共重合体は、疎水性基含有単量体に基づく構成単位(「疎水性基」と称する場合がある。参照:下記式(B))を共重合体構造中に含む。
共重合体構造中、疎水性基は基材表面と疎水性相互作用等の分子間力によって基板表面と物理吸着し、該共重合体と該基材との密着性を向上させる。
【化29】
式(B)中、R
2は水素原子若しくはメチル基を表す。nは3~17の整数であり、好ましくは3~7の整数である。
従って、式(B)で表される疎水性基含有単量体に基づく構成単位としては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等に基づく構成単位が挙げられる。
【0014】
「反応性基含有構成単位」
本発明の共重合体は、反応性基含有単量体に基づく構成単位(「反応性基」と称する場合がある。参照:下記式(C))を共重合体構造中に含む。
共重合体構造中、反応性基は、基材表面に存在する官能基と反応することによって基板表面と化学結合を形成し、該共重合体が該基材表面と化学結合された被膜を形成する。
具体的には、本発明の共重合体の反応性基と基材表面のアミノ基や水酸基、アルデヒド基等の反応性官能基とが反応して結合することにより、本発明の共重合体が基材表面と化学結合を形成する。
反応性基含有構成単位としては、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレート(以下、(C1))、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩(以下、(C2))、3-2-アミノエチルスルホニルー2-ヒドロキシプロピルメタクリレート塩酸塩(以下、(C3))、グリシジルメタクリレート(以下、(C5))、ベンゾフェノンメタクリレート(以下、(C4))等が挙げられる。
【0015】
【化30】
式(C)中、R
3は水素原子又はメチル基を表し、式中R
4は、水素原子若しくは反応性基を表す。R
4は下記式(C1)~(C5)で表されるいずれかの1の基を表す。
【化31】
(Xはメチル基若しくはエチル基を示す。)
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【0016】
式(1)中、a、b及びcは、式(A)、(B)、(C)の3つの構成単位の構成比、すなわち対応する単量体のモル比を表す。同様に、式(7)中、a及びcは、式(A)、(C)2つの構成単位の構成比、すなわち対応する単量体のモル比を表す。
なお、a、b及びcは、当該構成単位の構成比を表しているのみであって、本発明の共重合体が式(A)で表されるブロック、式(B)で表されるブロック及び式(C)で表されるブロック共重合体のみで構成されていることを意味するものではない。
本発明の共重合体は、式(A)、式(B)及び式(C)の各単量体又は、式(A)及び式(C)の各単量体がランダムに共重合体されたランダムに共重合体であってもよく、又は、ランダム部とブロック部が混在する共重合体であってもよい。また、本発明の共重合体は、交互共重合体部が存在してもよい。
また、構成単位の構成比を表すa、b、cの比は、任意に調製可能である。
a:b:cは、98~50:1~49:1~48であり、好ましくは98~60:1~39:1~39であり、より好ましくは98~70:1~29:1~29である。
さらに、a:cは、99~50:1~50であり、好ましくは99~60:1~40であり、より好ましくは99~70:1~30である。
【0017】
本発明の共重合体において、本発明のウイルス付着抑制剤の効果に影響与えない範囲で、ホスホリルコリン構成単位(A)、疎水性基含有構成単位(B)及び反応性基含有構成単位(C)以外のその他の構成単位(D)を含有させることができる。
例えば、スチレン系単量体、ビニルエーテル単量体、ビニルエステル単量体、親水性の水酸基含有(メタ)アクリレート、酸基含有単量体、窒素含有基含有単量体、アミノ基含有単量体、カチオン性基含有単量体に基づく構成単位等を例示することができる。
スチレン系単量体としては、スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレンが挙げられる。
ビニルエーテル単量体としては、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルが挙げられる。
ビニルエステル単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルが挙げられる。
親水性の水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
酸基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸が挙げられる。
窒素含有基含有単量体としては、アミノエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
アミノ基含有単量体としては、アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
カチオン性基含有単量体としては、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
【0018】
本発明の共重合体の重量平均分子量は、5,000~2,000,000であり、好ましくは、10,000~1,000,000であり、より好ましくは、50,000~500,000であり、最も好ましくは、100,000~250,000である。
本発明の共重合体の重量平均分子量が5,000未満であると、精製困難であり、重量平均分子量が2,000,000より大きいと、取扱いが困難な場合がある。
なお、共重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定され、プルラン換算の分子量で示される。
【0019】
[本発明の共重合体の製造方法]
式(1)に示される3元共重合体においては、式(A)で示されるホスホリルコリン基含有単量体と、式(B)で示される疎水性基含有単量体と、式(C)で示される反応性基含有単量体を、ホスホリルコリン基含有単量体、疎水性基含有単量体及び反応性基含有単量体の合計量に対して、ホスホリルコリン基含有単量体をモル比で0.98~0.5、疎水性基含有単量体をモル比で0.01~0.3、反応性基含有単量体をモル比で0.1~0.49の割合で含む単量体組成物を重合させることで、式(1)に示される共重合体を得ることができる。
式(7)に示される2元共重合体においては、式(A)で示されるホスホリルコリン基含有単量体と、式(C)で示される反応性基含有単量体を、ホスホリルコリン基含有単量体及び反応性基含有単量体の合計量に対して、ホスホリルコリン基含有単量体をモル比で0.9~0.5及び反応性基含有単量体をモル比で0.1~0.5の割合で含む単量体組成物を重合させることで、共重合体を得ることができる。
例えば、式(2)である(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-トリメチルアンモニオエチルホスフェート(好ましくは、MPC(2-メタクリロイルオキシエチル-2-トリメチルアンモニオエチルホスフェート))、以下式(5)で示されるTMSPMA(3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレート)を、MPCおよびTMSPMAの合計量に対して、MPCをモル比で0.9~0.5、TMSPMAをモル比で0.1~0.5の割合で含む単量体組成物を重合させることで、以下式(7)に示される共重合体(a及びcはモル比であり、a:cは90~50:10~50、R
1及びR
3はメチル基、R
4は式(C1))を得ることができる。
【化36】
【化37】
【0020】
上記単量体組成物の重合反応は、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスで反応系内を置換して、または当該雰囲気にして、ラジカル重合、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の方法により行うことができる。
得られる重合体の精製等の観点から、溶液重合が好ましい。この重合反応により、本発明の共重合体が得られる。
これらの共重合体を精製する場合、その精製は、再沈殿法、透析法、限外濾過法等の一般的な精製方法により行うことができる。
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系ラジカル重合開始剤、有機過酸化物、過硫酸化物が挙げられる。
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2-アゾビス(2-アミノプロピル)二塩酸塩、2,2-アゾビス(2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)二塩酸塩、4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビスイソブチルアミド二水和物、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、1-((1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ)ホルムアミド、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-フェニルプロピオンアミヂン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、2,2’-アゾビス(2-(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル)等が挙げられる。
有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、コハク酸ペルオキシド(=サクシニルペルオキシド)、グルタルペルオキシド、サクシニルペルオキシグルタレート、t-ブチルペルオキシマレート、t-ブチルペルオキシピバレート、ジ-2-エトキシエチルペルオキシカーボネート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルペルオキシピバレート等が挙げられる。
過硫酸化物としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
これらのラジカル重合開始剤は、単独で用いても混合物で用いてもよい。重合開始剤の使用量は、単量体組成物100質量%に対して通常0.001~10質量%、好ましくは0.01~5.0質量%である。
上記単量体組成物の重合反応は、溶媒の存在下で行うことができる。該溶媒としては、単量体組成物を溶解し、単量体組成物と重合開始剤添加前に反応しないものが使用できる。
例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、含窒素系溶媒が挙げられる。
アルコール系溶媒としてはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等、ケトン系溶媒としてはアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等、エステル系溶媒としては酢酸エチル等、エーテル系溶媒としてはエチルセロソルブ、テトラヒドロフラン等、含窒素系溶媒としてはアセトニトリル、ニトロメタン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
好ましくは、水、アルコールまたはそれらの混合溶媒が挙げられる。
重合反応時の温度は、使用する重合開始剤や溶媒の種類によって、また所望の分子量によって適宜適した温度を選択すればよいが、40~100℃の範囲が好ましい。
【0021】
[本発明のウイルス付着抑制剤の付着抑制の対象となるウイルス]
本発明のウイルス付着抑制剤の付着抑制の対象となるウイルスは、特に限定されない。例えば、エンベロープウイルスとしては、新型コロナウイルス、人インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、風疹ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、エイズウイルス等を挙げることができる。また、ノンエンベロープウイルスとしては、ノロウイルス、ロタウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス等を挙げることができる。
【0022】
[本発明のウイルス付着抑制剤]
本発明のウイルス付着抑制剤の形態は、該剤の効果を奏することができれば特に限定されない。例えば、本発明のウイルス付着抑制剤の有効成分である共重合体を溶媒に溶解させて、溶液形態のウイルス付着抑制剤として使用することができる。溶媒としては、精製水、純水、イオン交換水等の水、若しくはメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールを使用することができる。
本発明のウイルス付着抑制剤中に含まれる共重合体の量は、0.5質量%以上であることが好ましい。上限値としては、溶媒若しくは緩衝液に溶解する限り特に制限はないが、例えば、20質量%以下、好ましくは10質量%以下である。これらの範囲であれば、本発明の溶液形態のウイルス付着抑制剤は有効なウイルス付着抑制効果を示す。
【0023】
[基板]
本明細書中の基材は、本発明の共重合体と化学結合及び/又は物理的結合できれば、特に限定されない。基板の材質は、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート、ガラス、金属、セラミック、シリコンラバー、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ニトロセルロース、綿、毛、絹、キュプラ、ポリエステル等を挙げることができる。
また、基材の形状としては特に限定されるものではないが、具体的には、膜状、プレート状、粒子状、さらには、試験管形状、バイアル瓶形状、及びフラスコ形状等を例示することができる。
基材の用途としては、洗面シンク、便器、浴槽等を例示することができる。
【0024】
[本発明のウイルス付着抑制剤の被覆層を形成する方法]
本発明のウイルス付着抑制剤の被覆層を基板表面に形成する方法としては、例えば、本発明のウイルス付着抑制剤を溶媒(水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はこれら任意の割合で混合した溶液)に溶解したウイルス付着抑制剤の溶液に基材を浸漬した後、室温で、又は加温により十分に乾燥させることによって被覆層を形成する方法が挙げられる。
被覆層形成のためのウイルス付着抑制剤溶液中の共重合体の濃度は2質量%以上であるのが好ましい。
【0025】
[本発明のウイルス付着抑制剤の使用方法]
本発明のウイルス付着抑制剤は、上記に示したように、基材の表面に被覆層を形成させることにより、基材へのウイルスの付着を抑制する方法となる。
すなわち、本発明の共重合体が、基材の表面に被覆層となって付着することにより、該表面上にウイルスが付着することを抑制することができる。
【実施例0026】
以下、実施例及び比較例により、本発明のウイルス付着抑制剤について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、以下の本実施例では、実験室で操作可能なウイルス及び細菌を用い、本発明によるウイルス付着抑制剤の効果を確認するための試験を行った。詳しくは、本試験はウイルス付着抑制剤の被覆層を表面に備える基材を用いて行った。
【0027】
「実施例及び比較例で使用した共重合体の合成」
〇合成例1-1の共重合体
特開平9-183819号公報に記載されている方法に従って、ホスホリルコリン基含有単量体であるMPCと反応性基含有単量体である3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレート)からなる共重合体を合成した。
重量平均分子量;170,000
MPC単量体に基づく構成単位数と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに基づく構成単位数の比;90:10
〇合成例1-2の共重合体
合成例1-1と同様により、以下の共重合体を合成した。
重量平均分子量;160,000
MPC単量体に基づく構成単位数と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランに基づく構成単位数の比;70:30
〇比較合成例1-1
特開平8-333421号公報に記載されている方法に従って、共重合体を合成した。
重量平均分子量;6.0×105
MPC単量体に基づく構成単位数とメタクリル酸ブチルに基づく構成単位数の比;80:20
【0028】
(GPC測定)
上記のMPC共重合体のGPC測定は以下の条件で実施した。
GPCシステム:EcoSECシステム(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel SuperAW4000、5000、6000(東ソー株式会社製)を直列に接続
展開溶媒:10 mM トリフルオロ酢酸ナトリウムを含むトリフルオロエタノール
検出器:示差屈折率検出器
標準物質:ポリメチルメタクリレート(PMMA)(アジレント・テクノロジー製)
重量平均分子量(Mw)の算出:分子量計プログラム(SC-8020用GPCプログラム)
流速:0.3mL/分
カラム温度:40℃
サンプル:得られた各共重合体を終濃度0.2重量%となるように展開溶媒で希釈
注入量:100μL
測定時間:60分間
【0029】
「溶媒形態のウイルス付着抑制剤の調製」
〇調製例1-1
合成例1-1の共重合体0.4 gをEtOH19.4 gに加えて、混合溶解した。溶解を確認後、溶液を攪拌しながら、250 mMの塩酸水溶液を0.2g添加して、溶媒形態のウイルス付着抑制剤を調製した。
〇調製例1-2
合成例1-1の共重合体の代わりに合成例1-2の共重合体を使用した以外は、調製例1-1と同様にして溶媒形態のウイルス付着抑制剤を調製した。
〇比較調製例1-1
比較合成例1-1の重合体を純水に2質量%となるように溶解し、調製した。
【0030】
「実施例1―1」
〇ウイルス付着抑制剤の被覆層を表面に備える基材の作製
基板であるガラス(ケニス社製石英ガラス板)を上記調製例1-1で調製した溶媒形態のウイルス付着抑制剤に浸漬し、1分間転倒混和した。その後、該抑制剤から該基材を取り出し、110℃で30分間加熱処理した。これにより、共重合体1-1を有効成分とするウイルス付着抑制剤の被覆層を表面に備えた基材(以下、「加工基材」と称する)とした。なお、共重合体1-1は該表面と化学結合している。
【0031】
<ファージQβの付着抑制効果試験に使用する溶液等について>
〇培地及び大腸菌溶液、ファージQβ試験液の調製
ファージ希釈液:200mL三角フラスコに普通ブイヨン培地(栄研化学社製)1.8 gを加えて、次に100 mLの精製水に溶解し、オートクレーブ処理を行った。その後、滅菌済精製水500 mLにオートクレーブ処理を行った普通ブイヨン培地1.0 gを加え希釈した。これをファージ希釈液とした。
SCDLP培地:500mLメディウム瓶にSCDLP液体培地(富士フイルム和光純薬社製)12.0 gを加え、250 mLの精製水に溶解し、オートクレーブ処理を行った。これをSCDLP培地とした。
0.2M塩化カルシウム水溶液:100mLメディウム瓶に塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬社製)を2.22 g量り取り、100 mLの精製水に溶解させ、オートクレーブ処理を行った。これを0.2M塩化カルシウム水溶液とした。
LBCa液体培地:200mL三角フラスコに100mL用LB培地粉末(富士フイルム和光純薬社製)を2.5 g加え、99 mLの精製水に溶解し、オートクレーブ処理を行った。60℃程度まで冷却後、0.2M塩化カルシウム水溶液1 mLを無菌的に添加混合した。これをLBCa液体培地とした。
LBCa寒天プレート:200mL三角フラスコに100mL用LB寒天培地粉末(富士フイルム和光純薬社製)を4.0 g加え、99 mLの精製水に溶解し、オートクレーブ処理を行った。60℃程度まで冷却後、0.2M塩化カルシウム水溶液1 mLを無菌的に添加混合した。ここで得たものをLBCa寒天培地とした。寒天が固化する前に、10cmΦプレートにLBCa寒天培地を10 mLずつ添加し、室温で放置した。乾燥後、使用時まで37℃の恒温槽で保管した。これをLBCa寒天プレートとした。
LBCa軟寒天培地:200mL三角フラスコに100mL用LB培地粉末を(富士フイルム和光純薬社製)を2.5 g及びBDBacto寒天(Becton Dickinson社製)0.7 gを99 mLの精製水に溶解し、オートクレーブ処理を行った。60℃程度まで冷却後、0.2M塩化カルシウム水溶液1 mLを添加混合した。寒天が固化する前に、15mLのコニカルチューブに3 mLずつ分注し、45℃の恒温水槽に保管した。これをLBCa軟寒天培地とした。
大腸菌溶液:大腸菌液(NBRC106373株)から、エーゼを用いて1白金耳量採取し、LBCa寒天プレート全体に菌をプレーティングした。30℃で3日間放置し、得られたものを大腸菌保存プレートとした。LBCa液体培地10 mLを50mLコニカルチューブに分注し、大腸菌保存プレートより、単一のコロニーを白金耳で採取し植菌した。恒温水槽にて、37℃、6時間振盪培養を行い、振盪培養終了後、室温で保管した。これを大腸菌溶液とした。
ファージQβ試験液:1.0×108(PFU/mL)となるように、ファージQβ液(NBRC20012株)を1/500普通ブイヨン培地で希釈した。これをファージQβ試験液とした。
【0032】
<ファージQβの付着抑制効果確認試験>
本試験では、高い耐久性を確認するために、以下の条件を採用した。
上記の加工基材を24wellplateへ入れ、さらに上記のファージQβ試験液0.5 mLを該plateに添加した。37℃、3時間恒温槽で保存し、PBS1 mLで1回洗浄した。該加工基材を15mLのコニカルチューブに移し、上記のSCDLP培地を1 mL加えて1分間ボルテックスし、該SCDLP培地を回収した。回収したSCDLP培地(ファージ含有)0.1 mL、SCDLP培地0.9 mLを混合し、101~107倍希釈液まで作製した。上記LBCa軟寒天培地3 mLに対し、上記の大腸菌溶液0.1 mL、上記の101~107倍希釈液をそれぞれ0.1 mL混合し、あらかじめ37℃に加温した上記のLBCa寒天培地プレートに添加した。37℃で18時間インキュベーションした後、溶菌斑をカウント、ファージ感染価を算出した。算出結果を以下の表1に示す。
【0033】
「実施例1-2」
調製例1-1で調製したウイルス付着抑制剤の代わりに調製例1-2で調製したウイルス付着抑制剤を使用した以外は、実施例1-1と同様にして被覆層形成基材を作製し、ファージQβの付着抑制効果を確認した。結果を以下表1に示す。
【0034】
「比較例1-1」
ウイルス付着抑制剤溶液を使用しなかった以外は、実施例1-1と同様にしてファージQβ付着抑制効果確認試験を行った。なお、評価に使用した基材は、実施例1で使用したウイルス付着抑制剤使用前の基材(未加工基材)と同等である。結果を以下表1に示す。
【0035】
「比較例1-2」
調製例1-1で調製したウイルス付着抑制剤の代わりに比較調製例1-1で調製したウイルス付着抑制剤を使用し、被覆層形成基材を作製時、熱処理を行わず室温で18時間乾燥させた以外は、実施例1-1と同様にしてファージQβの付着抑制効果を確認した。結果を以下表1に示す。
【0036】
【表1】
*Log[減少感染価(PFU/mL)]とは、比較例1-1(未加工基材)の感染価と比較した際の感染価の差を対数で示したものである。
【0037】
比較例1-2に関し、比較例1-1と比べて、ファージ感染価が低かった。しかし、Log[減少感染価]が1Log未満であり、ウイルス付着抑制効果は十分ではなかった。
一方、実施例1-1及び1-2に関し、比較例1-1と比較して、1Log以上のLog[減少感染価]を確認できた。
これらの結果から、本発明のウイルス付着抑制剤の被覆層を表面に有する加工基材はファージQβの付着量が少なかったことを確認した。
以上により、本発明のウイルス付着抑制剤は、ウイルス(特に、ノンエンベロープウイルス)に対して十分な付着抑制効果を有する。
【0038】
「実施例2―1」
<ファージΦ6の付着抑制効果試験に使用する溶液等について>
〇培地及びPseudomonassyringae(以下、P菌と称する)溶液、ファージΦ6試験液の調製
ファージ希釈液:200mL三角フラスコに普通ブイヨン培地(栄研化学社製)1.8 gを加え、100mLの精製水に溶解し、オートクレーブ処理を行った。滅菌済精製水500 mLにオートクレーブ処理を行った普通ブイヨン培地1.0 gを加えて希釈した。これをファージ希釈液とした。
SCDLP培地:500mLメディウム瓶にSCDLP液体培地(富士フイルム和光純薬社製)12.0 gを加え、250 mLの精製水に溶解し、オートクレーブ処理を行った。これをSCDLP培地とした。
702液体培地:250mLメディウム瓶に復水液702「ダイゴ」の粉末品(富士フイルム和光純薬社製)を1.3 g加え、100mLの精製水に溶解し、オートクレーブ処理を行った。これを702液体培地とした。
802寒天培地プレート:500mL三角フラスコに復元培養基802「ダイゴ」の粉末品(富士フイルム和光純薬社製)を8.4 g加え、300 mLの精製水に溶解し、オートクレーブ処理を行った。オートクレーブ処理後の培地を802寒天培地とした。60℃程度まで冷却後、寒天が固化する前に10cmΦプレートに10 mLずつ添加し、室温で放置した。乾燥後、使用時まで30℃の恒温槽で保管した。これを802寒天培地プレートとした。
702軟寒天培地:200mL三角フラスコに復水液702「ダイゴ」の粉末品(富士フイルム和光純薬社製)を1.3 g、及びBDBacto寒天(Becton Dickinson社製)を0.7 g加え、100mLの精製水に溶解し、オートクレーブ処理を行った。60℃程度まで冷却後、寒天が固化する前に、15mLのコニカルチューブに3mLずつ分注し、45℃の恒温水槽に保管した。これを702軟寒天培地とした。
P菌溶液:P菌液(NBRC14084株)から、エーゼを用いて1白金耳量採取し、802寒天プレート全体に菌をプレーティングした。30℃で5日間放置し、得られたものをP菌保存プレートとした。702液体培地10 mLを50mLコニカルチューブに分注し、P菌保存プレートより、単一のコロニーを白金耳で採取し植菌した。恒温水槽にて、30℃、一晩振盪培養を行い、振盪培養終了後、室温で保管した。これをP菌溶液とした。
ファージΦ6試験液:1.0×108(PFU/mL)となるように、ファージΦ6液(NBRC105899株)を1/500普通ブイヨン培地で希釈した。これをファージΦ6試験液とした。
【0039】
<ファージΦ6の付着抑制効果確認試験>
上記加工基材を24wellplateへ入れ、上記のファージΦ6試験液を0.5 mL添加した。25℃、3時間恒温槽で保存し、PBS1 mLで1回洗浄した。15mLのコニカルチューブへ該基材を移し、SCDLP培地を1 mL加えて1分間ボルテックスし、該SCDLP培地を回収した。回収したSCDLP培地(ファージ含有)0.1 mL、SCDLP培地0.9 mLを混合し、101~107倍希釈液まで作製した。702軟寒天培地3 mLに対し、P菌溶液0.1 mL、各希釈液0.1 mL混合し、あらかじめ30℃に加温した802寒天培地プレートに添加した。25℃で18時間インキュベーションした後、溶菌斑をカウント、ファージ感染価を算出した。結果を以下表2に示す。
【0040】
「実施例2-2」
調製例1-1で調製したウイルス付着抑制剤の代わりに調製例1-2で調製したウイルス付着抑制剤を使用した以外は、実施例2-1と同様にして被覆層形成基材を作製し、ファージΦ6の付着抑制効果を確認した。結果を以下表2に示す。
【0041】
「比較例2-1」
ウイルス付着抑制剤溶液を使用しなかった以外は、実施例2-1と同様にしてファージΦ6付着抑制効果確認試験を行った。なお、評価に使用した基材は未加工基材と同等である。結果を以下表2に示す。
【0042】
【表2】
*Log[減少感染価(PFU/mL)]とは、比較例2-1(未加工基材)の感染価と比較した際の感染価の差を対数で示したものである。
【0043】
実施例2-1及び2-2に関し、比較例2-1と比較してファージΦ6の感染価が低かった。
これらの結果から、本発明のウイルス付着抑制剤の被覆層を表面に有する加工基材はファージΦ6の付着量が少なかったことを確認した。
以上により、本発明のウイルス付着抑制剤は、ウイルス(特に、エンベロープウイルス)に対して十分な付着抑制効果を有する。