(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096918
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】マッド材
(51)【国際特許分類】
C21B 7/12 20060101AFI20230630BHJP
C04B 35/66 20060101ALI20230630BHJP
F27D 3/14 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C21B7/12 307
C04B35/66
F27D3/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021212981
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛島 義展
【テーマコード(参考)】
4K055
【Fターム(参考)】
4K055AA01
4K055JA15
(57)【要約】
【課題】タールを結合剤として使用するマッド材において、孔深度を向上させる。
【解決手段】耐火材料にタールを添加して混練してなるマッド材である。タールの添加量は、耐火材料100質量%に対する外掛けで15質量%以上25質量%以下、タール中のβレジンの含有量は、当該タール100質量%中に占める割合で7質量%以上20質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火材料にタールを添加して混練してなるマッド材であって、
前記タールの添加量は、前記耐火材料100質量%に対する外掛けで15質量%以上25質量%以下であり、
前記タール中のβレジンの含有量が、当該タール100質量%中に占める割合で7質量%以上20質量%以下である、マッド材。
【請求項2】
前記タール中のβレジンの含有量が、当該タール100質量%中に占める割合で10質量%以上14質量%以下である、請求項1に記載のマッド材。
【請求項3】
前記タールは、60℃における粘度が1000mPa・s以上1400mPa・s以下である、請求項1又は2に記載のマッド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の出銑口に圧入充填してその出銑口を閉塞するマッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の操業において、出銑終了後の出銑口にマッド材を圧入充填してこれを閉塞する。そして所定時間(通常は2~5時間)経過後の出銑の際に、それまでの時間に炉熱で焼成されたマッド材をドリルで開孔して湯道を形成することが行われる。このようにマッド材をドリルで開孔して湯道を形成するときに、湯道が一定以上の長さ確保される必要がある。このような湯道の長さは孔深度と呼ばれている。
孔深度を確保するためには、マッド材が出銑口に充填された際に出銑口から炉の奥行方向及び上下方向に広がる展開性を有すること、及び充填後にマッド材が強度発現しそこに留まることが必要となる。
【0003】
例えば特許文献1に開示されるように、マッド材には結合剤としてタールが使用される場合がある。しかし、従来一般的に使用されるタールでは、マッド材充填後の強度発現が不足しており、また展開性も十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、タールを結合剤として使用するマッド材において、孔深度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記課題を解決するために試験及び研究を重ねたところ、タール中のβレジンの含有量を特定の範囲とすることで、孔深度が向上することがわかった。
【0007】
すなわち、本発明の一観点によれば次のマッド材が提供される。
耐火材料にタールを添加して混練してなるマッド材であって、
前記タールの添加量は、前記耐火材料100質量%に対する外掛けで15質量%以上25質量%以下であり、
前記タール中のβレジンの含有量が、当該タール100質量%中に占める割合で7質量%以上20質量%以下である、マッド材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タールを結合剤として使用するマッド材において、孔深度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】熱間圧入試験後のスリーブの断面観察結果を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のマッド材は、耐火材料に、結合剤としてタールを添加して混練してなるものである。そして上記課題を解決するために、タール中のβレジン含有量を特定したことを特徴とするものである。すなわち本発明では、βレジン含有量が、タール100質量%中に占める割合で7質量%以上20質量%以下であるタールを使用する。βレジン含有量が7質量%未満では充填後の強度発現が不十分となり孔深度の確保が難しい。一方、βレジン含有量が20質量%を超えると、マッド材の粘性が高くなりすぎるので展開性が悪くなり、同様に孔深度の確保が難しい。また、強度が高くなりすぎるのでドリルで開孔し難くなる。タール中のβレジン含有量は、当該タール100質量%中に占める割合で10質量%以上14質量%以下であることが好ましい。
【0011】
また、タールとしては、60℃における粘度が1000mPa・s以上1400mPa・s以下のものを使用することが好ましい。60℃における粘度が1000mPa・sを下回ると十分な熱間可塑性が得られず、対流する溶銑やスラグを押し戻す抵抗力が弱くなり孔深度が確保できにくくなる。一方、60℃における粘度が1400mPa・sを上回ると硬いマッド材となり、充填性が悪くなり孔深度が確保できにくくなる。
【0012】
ここで、βレジンは、タール中のキノリンに可溶かつトルエンに不溶であり、分子量が約1000~約1200の多環芳香族化合物である。βレジンは炭化時に強い粘結性を示すことから、上述のようにタール中の含有量を適正な範囲とすることで、強度発現性と展開性を両立させることができ、その結果、孔深度を向上させることができる。
【0013】
本発明のマッド材において結合剤であるタールの添加量は、耐火材料100質量%に対する外掛けで15質量%以上25質量%以下である。タールの添加量が15質量%未満では充填後の強度発現が不十分となり、また展開性も悪くなることから孔深度の確保が難しい。一方、タールの添加量が25質量%を超えると、マッド材を充填後、次の出銑までの時間(通常は2~5時間)内にタールが十分に揮発することができず、結果として強度発現が不十分となり孔深度の確保が難しい。タールの添加量は耐火材料100質量%に対する外掛けで18質量%以上22質量%以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のマッド材に使用する耐火材料は一般的なマッド材と同様であり、例えば、ろう石、ムライト、カオリン、粘土、シャモット、セリサイト、シリマナイト、アンダリューサイト等のアルミナシリカ質原料、ボーキサイト、ダイアスポア、ばん土頁岩、電融アルミナ、焼結アルミナ、仮焼アルミナ、焼結スピネル、電融スピネル等のアルミナ質原料、珪石、シリカフラワー、溶融シリカ等のシリカ質原料、鱗状黒鉛、土状黒鉛、カーボンブラック、ピッチ、コークス等のカーボン質原料、その他、炭化珪素、窒化珪素、窒化珪素鉄、ジルコン、ジルコニア、マグネシア、クロム鉱、ドロマイトクリンカー、石灰、フェロシリコン、及びペレットからなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0015】
耐火材料は、密充填組織が得られるようにすること、及び良好な作業性が得られるようにすること等を目的として、粗粒域、中粒域、及び微粒域に粒度調整される。具体的には、耐火材料は、JIS-Z8801に規定する標準ふるいを用いた測定で、粒径1mmを超えるものが10~30質量%を、粒径0.075mm以下のものが40~70質量%を、粒径0.075mmを超え1mm以下ものが残部を構成するように粒度調整することが好ましい。なお、上述のJIS-Z8801の標準ふるいでのマッド材を構成する粒子の粒度測定においては、平織のふるいを使用する。また、ふるい分け試験はJIS-Z8815に準拠して行い、試験方法は乾式の機械ふるい分けとする。
【実施例0016】
表1に示す配合よりなる各例のマッド材について、可塑性、圧縮強度及び見掛気孔率を評価し、これらの評価結果に基づいて総合評価を行った。
なお、表1中、耐火材料としては、一般的なマッド材と同様に、ろう石、炭化珪素、電融アルミナ、カーボンブラック、粘土等を使用した。また、タールとしては、60℃における粘度が1300mPa・sのものを使用した。粘度の測定方法はJISZ8803に従い、60℃時点のタールについてB型粘度計を使用して測定した。
【0017】
また、タール中のβレジン含有量については、トルエン不溶分(TI)含有量(質量%)とキノリン不溶分(QI)含有量(質量%)との差(TI-QI)を求め、これをβレジン含有量(質量%)とした。
トルエン不溶分(TI)含有量は、JISK2425:2006(クレオソート油、加工タール及びタールピッチ試験方法)の14.2(加工タール及びタールピッチのトルエン不溶分定量方法)に準拠して測定した。
キノリン不溶分(QI)含有量は、JISK2425:2006(クレオソート油、加工タール及びタールピッチ試験方法)の15.1(ろ過法)に準拠して測定した。
【0018】
【0019】
可塑性、圧縮強度及び見掛気孔率、並びに総合評価の評価方法及び評価基準は以下の通りである。
<可塑性>
マッド材1kgを250℃で3h加熱し、マーシャル試験機にて押出し圧力値を測定した。そして、その押出し圧力値が3MPa以下の場合を〇(良好)、3MPa超の場合を×(不良)とした。この押出し圧力値が低いほど可塑性に優れ、マッド材の充填時に炉内への展開性がよいということであり、孔深度の向上に寄与する。
【0020】
<圧縮強度>
アムスラー成形機により10MPaの圧力をかけて40×40×160mmの直方体形状に成形し、その後、金枠で固定して1200℃で3h加熱し、常温まで冷却後3点曲げ試験に供した。この3点曲げ試験により2分割された一方を圧縮強度測定用の試験片とした。圧縮強度はJIS R2553により測定した。そして、その圧縮強度値が20MPa以上の場合を◎(優良)、15MPa以上20MPa未満の場合を〇(良好)、15MPa未満の場合を×(不良)とした。この圧縮強度値が高いほど、出銑口へ充填後にマッド材が強度発現しそこに留まりやすいということであり、孔深度の確保に寄与する。
【0021】
<見掛気孔率>
上述の3点曲げ試験により2分割された他方を見掛気孔率測定用の試験片とし、JIS R2205により見掛気孔率を測定した。そして、この見掛気孔率の測定値が22%未満の場合を◎(優良)、22%以上25%未満の場合を〇(良好)、25%以上の場合を×(不良)とした。この見掛気孔率の測定値が低いほど、出銑口へ充填後にマッド材が緻密になりそこに留まりやすいということであり、孔深度の確保に寄与する。
【0022】
<総合評価>
圧縮強度及び見掛気孔率の評価が両方とも◎(優良)でかつ可塑性の評価が〇(良好)の場合を◎(優良)、圧縮強度及び見掛気孔率の評価の少なくとも一方の評価が〇(良好)でかつ可塑性、圧縮強度及び見掛気孔率の評価に×(不良)の評価がない場合を〇(良)、可塑性、圧縮強度及び見掛気孔率の評価のうち少なくとも一つの評価が×(不良)の場合を×(不良)とした。
【0023】
表1中、実施例1~6は、いずれも本発明の範囲内にあるマッド材であり、総合評価は◎(優良)又は〇(良好)となり、良好な結果が得られた。すなわち、実施例1~6のマッド材によれば、マッド材が出銑口に充填された際に出銑口から炉の奥行方向及び上下方向に広がる展開性を有すると共に、充填後にマッド材が強度発現しそこに留まることとなり、孔深度を向上させることができる。なかでもタールの添加量及びタール中のβレジン含有量がいずれも好ましい範囲内にある実施例4及び5は総合評価が◎(優良)となり、特に良好な結果が得られた。
【0024】
比較例1はタールの添加量が少なすぎる例である。可塑性の評価が×(不良)となると共に、圧縮強度及び見掛気孔率の評価も×(不良)となった。そのため、孔深度を向上異させることはできない。
一方、比較例2はタールの添加量が多すぎる例である。可塑性の評価が×(不良)圧縮強度及び見掛気孔率の評価が×(不良)となった。そのため、孔深度を向上させることはできない。
【0025】
比較例3はタール中のβレジン含有量が少なすぎる例である。圧縮強度及び見掛気孔率の評価が×(不良)となった。そのため、孔深度を向上させることはできない。
一方、比較例4はタール中のβレジン含有量が多すぎる例である。可塑性の評価が×(不良)となった。そのため、孔深度を向上させることはできない。
【0026】
表1に示した実施例4相当のマッド材、及び比較例3相当のマット材を用いて、熱間圧入試験を実施した。
図1に、熱間圧入試験の概要を模式的に示している。この熱間圧入試験では
図1の上部に示している高炉出銑口における評価部位を模している。熱間圧入試験では、1200℃に保持された炉1内に、炭化珪素製で100φ×970mmのスリーブ2を配置し、そのスリーブ2内にマッドガンを模したポンプ3及びシリンダー4によりマッド材Aを圧入充填した。その後、スリーブ2を取り出し、圧入方向に沿って切断してスリーブ2の断面観察を行った。
【0027】
図2に、スリーブ2の断面観察結果を模式的に示している。同図の上段に示す実施例4相当のマッド材では均一な充填組織A1が得られた。一方、同図の下段に示す比較例3相当のマット材では中心部に、圧入方向(
図2中の矢印方向)に沿って伸びる亀裂Bが確認された。この断面観察結果からも、本発明のマッド材によれば孔深度を向上させることができるといえる。