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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096950
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】二次電池及び二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/32 20060101AFI20230630BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20230630BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
H01M4/32
H01M4/80 C
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213036
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 秀輝
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA02
5H017AS02
5H017AS10
5H017BB08
5H017CC28
5H017EE04
5H050AA19
5H050BA14
5H050CA03
5H050CB16
5H050DA02
5H050DA06
5H050FA08
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA04
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】ニッケル水素蓄電池の製造工程において、電極板の搬送を容易かつ確実に行うこと。
【解決手段】ニッケル水素蓄電池1は、長方形の板状の多孔性金属からなる正極集電体21と正極活物質を含有し正極集電体に充填される正極合材層22とを備えた正極板2を備え、正極集電体21に対して正極合材層22が密側表面22c側から粗側表面22a側に漸次充填密度が小さくなるように充填密度差を有し、正極板2を厚み方向で粗側表面22aから第1層L1、第2層L2、第3層L3に3等分割した場合、第2層L2に対して第1層、第3層は、それぞれ2%以上10%以下の活物質の充填密度差を有する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の多孔性金属からなる正極集電体と、正極活物質を含有し前記正極集電体に充填される正極合材層とを有する正極板と、負極板と、セパレータとを備え、
一方の正極合材層の表面における塗工方向と直交する幅方向の基準塗工幅Wsが、他方の正極合材層の表面における幅方向の塗工幅Wpより狭く構成されるとともに、
前記一方の正極合材層の表面の正極活物質の充填密度が、前記他方の正極合材層の表面の正極活物質の充填密度より大きい充填密度差を有する
ことを特徴とする二次電池。
【請求項2】
正極活物質の充填密度が高い前記一方の正極合材層の表面側の基準塗工幅Wsと、当該一方の正極合材層の塗工端部と前記正極集電体の幅方向の周縁部内面との間の未塗工部分の幅Wv1とにおいて、Wv1/Ws≧0.005であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記他方の正極合材層の表面における塗工幅Wpと、前記一方の正極合材層の表面における基準塗工幅Wsの関係が
0.945≦Ws/Wp≦0.99
となるように構成した請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記充填密度差は、密側表面から粗側表面へ、漸次正極活物質の充填密度が低下するように構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記充填密度差は、4%以上、20%以下であることを特徴とする請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記充填密度差は、前記正極板を厚み方向で3層に3等分割した場合、中央部分の層に対して密側表面側の層と粗側表面側の層でそれぞれ2%以上10%以下の活物質の充填密度差があることを特徴とする請求項4又は5に記載の二次電池。
【請求項7】
前記正極集電体は、ニッケル又はニッケル合金からなる発泡体により構成されたことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項8】
板状の多孔性金属からなる正極集電体と、当該正極集電体に充填される正極活物質を含有する正極合材層とを備えた正極板と、負極板と、セパレータとを備え、
一方の正極合材層の表面における塗工方向と直交する幅方向の基準塗工幅Wsが、他方の正極合材層の表面における幅方向の塗工幅Wpより狭く構成されるとともに、
前記一方の正極合材層の表面の正極活物質の充填密度が、前記他方の正極合材層の表面の正極活物質の充填密度より大きい充填密度差を有する二次電池の製造方法であって、
正極合材層を形成する溶媒を含む正極合材ペーストを、前記他方の正極集電体の表面から塗工する塗工工程を備え、
前記塗工工程では、正極合材ペーストが、重力により前記正極集電体から脱落せず、かつ重力により正極合材ペースト中の正極活物質の充填密度が、予め設定した充填密度差で上部より下部が高くなるように調整されることを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項9】
正極活物質の充填密度が高い前記一方の正極合材層の表面側の基準塗工幅Wsと、当該一方の正極合材層の塗工端部と前記正極集電体の短辺方向の周縁部内面との間の未塗工部分の幅Wv1とにおいて、Wv1/Ws≧0.005となるように調整されることを特徴とする請求項8に記載の二次電池の製造方法。
【請求項10】
複数の前記正極板が積層されて載置された最上段の正極板を、真空吸着装置により上方から吸着して搬送する搬送工程を含むことを特徴とする請求項8又は9に記載の二次電池の製造方法。
【請求項11】
前記搬送工程は、前記正極板の上面が前記正極合材層の正極活物質の充填密度が低く形成された粗側表面となるように載置されるとともに、前記真空吸着装置により上方から前記粗側表面を吸着して搬送することを特徴とする請求項10に記載の二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
二次電池及びその製造方法に係り、詳しくは、製造時の電極板の吸着を円滑に行うことができる二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機を搭載した電気自動車(ハイブリッド自動車等も含む)は、二次電池に蓄えられた電力により、電動機を駆動している。このような二次電池において例えばニッケル水素蓄電池のようなアルカリ二次電池は、安全で大電流の充放電が可能であることから車両用として広く普及している。
【0003】
このような二次電池の製造工程において、活物質を含有した合材層を集電体に塗工する過程においては、合材層の端部に一定の高さが生じることがある。そのような電極を用いると二次電池の生産性および諸性能に影響を与えることがある。
【0004】
そこで特許文献1に開示された発明では、正極及び負極の少なくとも一方において、集電体の合材層の幅方向の端部に波形状部を有する二次電池が提案されている。この発明では、合材層を集電体に塗工する過程において、合材層の凸部の発生を抑制する。このことで、集電体に活物質が均一に充填され、厚み方向の充填密度及び、長辺方向の塗工端部の凹凸が表裏共に均等である電極板を製造する。ここで、「充填密度」とは、塗工するペースト(例えば、正極合材ペースト)に対する含まれる活物質(例えば正極活物質)の重量比率をいう。その結果、諸性能が安定した二次電池、二次電池の製造方法、及び電極とすることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-063881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたような従来の両面塗工の方法で製造した電極板では、集電体に合材層が均一に形成され、厚み方向の充填密度及び、長辺方向の塗工端部の凹凸を表裏共に均等にすることができる。
【0007】
しかしながら、製造過程において複数枚厚み方向に積層された電極板を真空吸着により電極板を搬送する場合に問題がある。従来の電極板では合材層に通気性があるため吸引力が小さいと、十分に真空度が高まらずに、搬送途中に電極板が脱落することがある。その一方で、吸引力を高めすぎると、目的とする電極板のみならず、その下にある電極板までも搬送してしまうという問題があった。
【0008】
本発明の二次電池及びその製造方法が解決しようとする課題は、電極板の搬送を容易かつ確実に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の二次電池では、板状の多孔性金属からなる正極集電体と、正極活物質を含有し前記正極集電体に充填される正極合材層とを有する正極板と、負極板と、セパレータとを備え、一方の正極合材層の表面における塗工方向と直交する幅方向の基準塗工幅Wsが、他方の正極合材層の表面における幅方向の塗工幅Wpより狭く構成されるとともに、前記一方の正極合材層の表面の正極活物質の充填密度が、前記他方の正極合材層の表面の正極活物質の充填密度より大きい充填密度差を有することを特徴とする。
【0010】
正極活物質の充填密度が高い前記一方の正極合材層の表面側の基準塗工幅Wsと、当該一方の正極合材層の塗工端部と前記正極集電体の幅方向の周縁部内面との間の未塗工部分の幅Wv1とにおいて、Wv1/Ws≧0.005とすることが好ましい。また、前記他方の正極合材層の表面における塗工幅Wpと、前記一方の正極合材層の表面における基準塗工幅Wsの関係が0.945≦Ws/Wp≦0.99とすることも好ましい。
【0011】
前記充填密度差は、前記密側表面から前記粗側表面へ、漸次正極活物質の充填密度が低下するように構成することも好ましい。前記充填密度差は4%以上、20%以下であることが好ましい。前記充填密度差は、前記正極板を厚み方向で3層に3等分割した場合、中央部分の層に対して密側表面側の層と粗側表面側の層でそれぞれ2%以上10%以下の活物質の充填密度差があることもさらに好ましい。
【0012】
前記正極集電体は、ニッケル又はニッケル合金からなる発泡体により構成されたものに好適に適用できる。
また、本発明の二次電池の製造方法では、板状の多孔性金属からなる正極集電体と、当該正極集電体に充填される正極活物質を含有する正極合材層とを備えた正極板と、負極板と、セパレータとを備え、一方の正極合材層の表面における塗工方向と直交する幅方向の基準塗工幅Wsが、他方の正極合材層の表面における幅方向の塗工幅Wpより狭く構成されるとともに、前記一方の正極合材層の表面の正極活物質の充填密度が、前記他方の正極合材層の表面の正極活物質の充填密度より大きい充填密度差を有する二次電池の製造方法であって、正極合材層を形成する溶媒を含む正極合材ペーストを、前記他方の正極集電体の表面から塗工する塗工工程を備え、前記塗工工程では、正極合材ペーストが、重力により前記正極集電体から脱落せず、かつ重力により正極合材ペースト中の正極活物質の充填密度が、予め設定した充填密度差で上部より下部が高くなるように調整されることを特徴とする。
【0013】
正極活物質の充填密度が高い前記一方の正極合材層の表面側の前記正極集電体の基準塗工幅Wsと、当該一方の正極合材層の塗工端部と前記正極集電体の短辺方向の周縁部内面との間の未塗工部分の幅Wv1とにおいて、Wv1/Ws≧0.005となるように調整されることが好ましい。
【0014】
複数の前記正極板が積層されて載置された最上段の正極板を、真空吸着装置により上方から吸着して搬送する搬送工程において好適に適用できる。また、前記搬送工程は、前記正極板の上面が前記正極合材層の正極活物質の充填密度が低く形成された粗側表面となるように載置されるとともに、前記真空吸着装置により上方から前記粗側表面を吸着して搬送するものに好適に適用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の二次電池及びその製造方法によれば、電極板の搬送を容易かつ確実に行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のニッケル水素蓄電池の外観構造を示す斜視図である。
図2】本実施形態のニッケル水素蓄電池の電池モジュールの一部について部分断面構造を含む斜視図である。
図3】本実施形態のニッケル水素蓄電池に設けられる電極群の断面図である。
図4】本実施形態のニッケル水素蓄電池の製造工程を示すフローチャートである。
図5】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の製造工程を示すフローチャートである。
図6】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の幅方向Wの断面を示す模式図である。
図7】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の粗側表面を示す模式図である。
図8】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の密側表面を示す模式図である。
図9】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の搬送時の状態を示す模式図である。
図10】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の正極合材層の正極活物質の充填密度と注液時の状態を示す模式図である。
図11】従来の正極合材ペーストの組成の一例と、本実施形態の正極合材ペーストの組成の一例の比較表である。
図12】本実施形態における塗工装置の一例を示す斜視図である。
図13】(a)本実施形態における塗工工程を示す斜視図である。(b)ダイノズルが正極集電体に対して正極合材ペーストを塗布する位置を拡大した断面図である。
図14】(a)はニッケル基材と第1支持部と第2支持部との位置関係を示す平面図である。(b)はペーストが塗布される前のニッケル基材が第1支持部および第2支持部に支持された状態を示す断面図である。(c)は(b)の拡大断面図である。
図15】従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の一方の面を示す模式図である。
図16】従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の他方の面を示す模式図である。
図17】従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の搬送時の状態を示す模式図である。
図18】従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の正極合材層の正極活物質の充填密度と注液時の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の二次電池及びその製造方法を、ニッケル水素蓄電池及びその製造方法の一実施形態を用いて図1~14を参照して説明する。
(本実施形態の構成)
<本実施形態の概略>
本実施形態のニッケル水素蓄電池1は、図3に示すように正極集電体21と正極合材層22(図6参照)とを備えた正極板2と、負極板3と、セパレータ4とを備える。正極集電体21は、長方形の板状の発泡ニッケルや発泡ニッケル合金などの多孔性金属からなる。この多孔性の正極集電体21には、製造時の塗工工程(図5:S13)において、正極活物質を含有した正極合材ペースト25が充填されて、正極合材層22が形成される。
【0018】
この塗工工程(S13)では、正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]が調整されて正極合材ペースト25が上方からダイノズル81により吐出され、重力により多孔性の正極集電体21の骨部の間の孔部に浸透していく。一方、正極集電体21の上面21jから浸透していく正極合材ペースト25は一定の粘度V[mPa・s]等を有すれば正極集電体21の下面21kから下方に流れ落ちることはない。正極合材ペースト25は、表面張力が働き上方からの塗工幅Wpより下部に浸透するにつれてその下端部では、基準塗工幅Wsと狭くなる。
【0019】
また、所定の粘度V[mPa・s]であれば、正極合材ペースト25内に分散していた正極活物質の粒子が重力により沈降して正極集電体21の下方に行くにしたがって正極活物質の充填密度Df[%]が漸次高くなる。
【0020】
<本実施形態の主な作用>
以上のとおり、形成される正極合材層22は、正極集電体21の構成、正極合材ペースト25の組成、正極活物質の粒径などにより変化する。また、温度[°C]、その粘度[mPa・s]、せん断速度[s-1]、正極集電体21との濡れ性、塗工機8からの吐出量、吐出速度などにも影響を受ける。つまり、目標とする正極合材層22を形成するためには、これらの条件を整えることが必要となる。
【0021】
そこで、本実施形態では、特に正極合材層22の形成に大きな影響を有する粘度[mPa・s]を調整しながら、正極合材層22内の正極活物質の充填密度Df[%]の勾配を指標として調整する。また、同時に正極合材層22の形成に大きな影響を有する粘度[mPa・s]を調整しながら、粗側表面22aにおける塗工幅Wpと、密側表面22cにおける基準塗工幅Wsを指標として調整する。
【0022】
このように、複雑な要素が絡み合っているものの、本発明者らは、正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]を調整することで、所望の正極合材層22内の正極活物質の充填密度Df[%]の勾配を有した正極板2を製造することができることを見出した。また、同様に正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]を調整することで、所望の基準塗工幅Wsを有した正極板を製造することができることも見出した。
【0023】
つまり、本実施形態のポイントは、充填密度Df[%]及び所望の基準塗工幅Wsを指標として、正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]等を調整して正極板2を製造する。このことにより、正極板2の搬送性の向上や、内部抵抗(DC-IR)の低減ができる点にある。
【0024】
なお、本実施形態では、正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]を調整して、充填密度Df[%]及び所望の基準塗工幅Wsを有した正極合材層22を形成しているが、所望の充填密度Df[%]及び所望の基準塗工幅Wsを達成できるものであればよい。それには、例えば、正極集電体21の構成が挙げられる。具体的には、正極集電体21の網目構造の大きさや形状、素材等を変更することで、所望の充填密度Df[%]及び所望の基準塗工幅Wsを達成してもよい。また、その他の方法として正極合材ペースト25の組成、正極活物質の粒径、温度[°C]、せん断速度[s-1]、塗工機8からの吐出量、吐出速度などの変更により、所望の充填密度Df[%]及び所望の基準塗工幅Wsを達成してもよい。もちろん、これらを組み合わせて所望の充填密度Df[%]及び所望の基準塗工幅Wsを達成してもよい。
【0025】
<本実施形態の主な効果>
本実施形態のニッケル水素蓄電池1では、このような構成を備えるため、主に以下のような効果を奏する。ニッケル水素蓄電池1の製造工程において真空吸着により電極板を搬送する場合に、密側表面22cにより吸着の真空度が高めやすく、かつ密側表面22cにより陰圧が遮断されるため、下方に積載された他の正極板2が吸引されることもない。その結果、ニッケル水素蓄電池1の製造方法において、正極板2の搬送性を向上させることで、生産効率を上げることができる。
【0026】
なお、ニッケル水素蓄電池1の製造工程において電解液5を注液した場合に粗側表面22aでは電解液5の浸透が効率的にできる。一方、密側表面22cの正極活物質の充填密度Dfを上げると通気度が低下し、電解液5の浸透が悪くなるという問題がある。しかし、本実施形態では、長辺において、端部22dの短辺方向(幅方向W)での凹凸が大きいことから端部22dの総長が長くなり、そこからの電解液5の浸透が容易となる。また、基準塗工幅Wsを狭くすることで、正極集電体21の端部からも電解液5を浸透しやすくする。その結果、正極板2全体として、電解液5の吸収を良好として内部抵抗(DC-IR)を低減することができる。
【0027】
以下、本実施形態のニッケル水素蓄電池1及びその製造方法を詳細に説明する。
<ニッケル水素蓄電池1の構成>
図1は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の外観構造を示す斜視図である。
【0028】
<電池モジュール>
図1に示すように、ニッケル水素蓄電池1は、複数の電池セル12を備えた電池モジュールとして構成される。ニッケル水素蓄電池1は、その外観が角形板状の密閉式電池である。複数(ここでは6個)の電池セル12を収容可能な一体電槽を構成する電池ケース13と、電池ケース13の開口部を封止する蓋体14とを備えている。電池ケース13には、電気的に直列に接続された6個の電池セル12が収容されている。これらの電池セル12の電力は、電池ケース13に設けられた正極接続端子13a及び負極接続端子13bから取り出される。
【0029】
<ニッケル水素蓄電池の内部構造>
図2は、ニッケル水素蓄電池1の電池モジュールについて、断面構造を含む部分斜視図である。図2に示すように、電池ケース13及び蓋体14は、アルカリ性の電解液に対して耐性を有する樹脂材料であるポリプロピレン(PP)及びポリフェニレンエーテル(PPE)を含んで構成されている。そして電池ケース13の内部には、複数の電池セル12を区画する隔壁18が形成されており、この隔壁18によって区画された部分が、電池セル12毎の電槽15となる。こうして区画された電槽15内には、水酸化カリウム(KOH)を主成分とする水系電解質であるアルカリの電解液5とともに、電極群6が収容されている。
【0030】
隔壁18の上部には各電池セル12の接続に用いられる貫通孔17が形成されている。貫通孔17は、正極集電板27の上部に突設されている接続突部、及び負極集電板37の上部に突設されている接続突部の2つの接続突部同士が貫通孔17を介してスポット溶接等により溶接接続される。このことで、各々隣接する電池セル12の電極群6を電気的に直列接続させる。貫通孔17のうち、両端の電池セル12の各々外側に位置する貫通孔17は、電池ケース13の長手方向の端部上方で正極接続端子13a又は負極接続端子13b(図1参照)が装着される。正極接続端子13aは、正極集電板27の接続突部と溶接接続される。負極接続端子13bは、負極集電板37の接続突部と溶接接続される。こうして直列接続された電極群6、すなわち複数の電池セル12の総出力が正極接続端子13a及び負極接続端子13bから取り出される。
【0031】
<電極群6>
図3は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1に設けられる電極群6の断面図である。図3に示すように、電極群6は、矩形状の正極板2及び負極板3がセパレータ4を介して積層して構成されている。このとき、正極板2、負極板3及びセパレータ4が積層された方向が厚み方向Dである。
【0032】
電極群6の正極板2及び負極板3は、極板の面方向であって互いに反対側の側部に突出されることで構成されるリード部を備える。正極板2のリード部21l(図6図7参照)の側端縁に正極集電板27がスポット溶接等により接合される。また、負極板3のリード部(不図示)の側端縁に負極集電板37がスポット溶接等により接合されている。
【0033】
<正極板2の構成>
図6は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の幅方向Wの断面を示す模式図である。正極板2は、正極集電体21と、正極集電体21に充填された正極合材層22を有する。正極合材層22は、正極活物質、添加物(導電材、結着材、増粘剤等)を有する。
【0034】
<正極集電体21>
正極集電体21は、基板となる3次元金属多孔体であるニッケルの発泡体からなる長方形の板状に形成される。正極集電体21の周縁部は押しつぶされて密度が高くなっており、正極集電体21の形状を維持する枠としての機能を有する。また、周縁部は、多孔性の構造が潰れて通気性が低下しているため、中央部に比べて表面からの電解液5の吸収が悪くなっている。正極集電体21は、正極合材層22をその3次元の網状に構成された骨部により形成される空間に担持する担体の機能と、正極合材層22中の正極活物質から電流を集める集電体の機能とを有する。
【0035】
正極集電体21は、発泡金属の一つである発泡ニッケルを用いている。発泡ニッケルは、内部に多数の細孔を有し、容易に圧縮することが可能である。発泡ニッケルの製造方法は特に限定されないが、例えば、発泡ウレタンの骨格表面にニッケルメッキを施した後、発泡ウレタンを焼失させることによって製造される。
【0036】
図7は、本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の粗側表面22aを示す模式図である。図6及び図7に示すように、リード部21lは、長方形の正極集電体21の一方の長辺において、その長さ方向Lの中央部に鉄材等の金属材が溶接されることによって形成されている。このリード部21lは、正極集電体21の厚み方向Dの中央部に設けられている。
【0037】
リード部21lは、正極集電体21の一方の長辺において圧縮され密度が高くなって強度が高い枠部に鉄材等の金属部材が溶接される。この金属部材の一方の表面に接続面が形成されている。リード部21lは、その上部に突設されている接続突部で隣接する電池セル12の正極接続端子13aに接続される。
【0038】
また、本実施形態においては、正極集電体21の塗工工程(S13)の前の厚みを、0.5mm以上、1.0mm以下とすることが望まれる。発泡ニッケルは、細孔の大きさの平均が300μm以上、600m以下のものを用いることが望まれる。また、発泡ニッケルは、その目付が200~400[g/m2]のものを用いることが望まれる。
【0039】
<正極合材ペースト25>
正極合材層22となる正極合材ペースト25は、水酸化ニッケルを主成分とする正極活物質粒子、コバルト(Co)からなる導電材、増粘剤、及び結着材等及び水などの溶媒を含有している。
【0040】
図11は、従来の正極合材ペーストの組成の一例と、本実施形態の正極合材ペースト25の組成の一例の比較表である。
図11に示すように、本実施形態の正極合材ペースト25は、溶媒である水を除いた組成(wt%)は、正極活物質としての水酸化ニッケルが、85(wt%)以上、95(wt%)以下が望まれる。導電材としてのコバルト(Co)が、5(wt%)以上、10(wt%)以下が望まれる。また、電位の調整のために酸化亜鉛が、0.5(wt%)以上、1.5(wt%)以下が望まれる。また、酸化イットリウムが、0.5(wt%)以上、1.5(wt%)以下が望まれる。増粘剤としての、カルボキシメチルセルロース(CMC)が、0.01(wt%)以上、0.2(wt%)以下が望まれる。増粘剤として、アルギン酸ナトリウムが、0.01(wt%)以上、0.2(wt%)以下が望まれる。そして、結着材として、フッ素系結着材が、0.05(wt%)以上、0.3(wt%)以下が望まれる。
【0041】
ここで「フッ素系結着材」は、結着材として好ましい性能を発揮するが、乾燥時に極板表面に偏析するという問題がある。本実施形態では、このような問題を解決することで、フッ素系結着材を用いることができるようにしている。詳しくは後述する。
【0042】
本実施形態の正極合材ペースト25は、正極活物質、導電材、結着材、増粘材等を水などの溶媒によりペースト状としたものである。
溶媒及び増粘剤により粘度V[mPa・s]が調整され、本実施形態では、50[mPa・s]以上、2000[mPa・s]以下、好ましくは200[mPa・s]以上、1000[mPa・s]以下が望ましく、例えば500[mPa・s]に調整される。なお、粘度Vは、せん断速度10[s-1]の場合の値を示している。
【0043】
<本実施形態の正極合材ペースト25の特徴>
図11に示すように、従来技術の正極合材ペーストでは、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムが含まれていない。この点で、粘度[mPa・s]が調整されていない。また、結着材としてフッ素系結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)が含まれていない点で相違する。この点で、結着力が低い。
【0044】
<正極活物質>
正極活物質としては、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル等のニッケル酸化物を主成分とする粒子状のものが挙げられる。
【0045】
<導電材>
導電材は、金属または金属化合物であり、例えば、金属コバルト(Co)、一酸化コバルト(CoO)、オキシ水酸化コバルト(CoOOH)等のコバルト化合物であってニッケル酸化物の表面を被覆している。導電性の高いオキシ水酸化コバルトは、正極内において導電性ネットワークを形成し、正極の利用率を高めることから好ましい。
【0046】
<増粘剤>
増粘剤としては、キサンタンガムなどのグルコース系のものや、アクリル酸ナトリウム等のアクリル系のものが例として挙げられる。
【0047】
<結着材>
結着材として、フッ素系結着材を含有している。なお、フッ素系結着材としては、例えば、有機溶剤系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)や、水性ディスパージが挙げられる。フッ素系結着材は、結着作用が良好である反面、正極合材層22の表面において偏析するという性質がある。本実施形態では、そのような偏析をした場合でも、正極合材層22への電解液5の浸透を容易にする構成である。そのため、本実施形態では、偏析しやすいフッ素系結着材についても有効に利用することができる。
【0048】
さらに結着材としては、ルブロン(ダイキン工業株式会社の登録商標)等のラテックス系や、ポリエチレンオキサイド(PEO)も例として挙げられる。
<溶媒>
本実施形態では、溶媒として水(HO)を用いている。溶媒は、増粘剤とともに、正極合材ペースト25の粘度調整に用いられる。添加量は、正極活物質の充填密度Dfや、基準塗工幅Wsの数値を勘案しながら調整する。
【0049】
<正極合材層22>
上述した正極合材ペースト25が、正極集電体21に塗工され、乾燥、整形プレスを経て正極合材層22が形成される。詳細は後述する。
【0050】
<負極板3>
負極板3は、長方形のパンチングメタルなどからなる板状の負極集電体31を備える。負極集電体31は、機械的な基板であるとともに、負極活物質からの電流を集電する集電体として機能する。また、負極集電体31に塗布された水素吸蔵合金(MH)を備える。水素吸蔵合金の種類は特に限定されないが、例えば、希土類元素の混合物であるミッシュメタルとニッケルとの合金や、当該合金の一部を、アルミニウム、コバルト、マンガン等の金属に置換したものである。この負極板3は、負極合材ペーストが塗工される。負極合材ペーストは、水素吸蔵合金に、カーボンブラック等の増粘材、スチレン‐ブタジエン共重合体等の結着材を添加して、負極合材ペースト状に加工したものである。負極板3は、負極合材ペーストを、パンチングメタル等の芯材からなる負極集電体31に充填した後、乾燥、圧延、切断することによって製造される。
【0051】
<セパレータ4>
セパレータ4は、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の不織布、もしくは必要に応じてこれにスルホン化などの親水処理を施したものである。
【0052】
こうした正極板2及び負極板3及びセパレータ4が使用されて電池モジュールが製造される。
<電解液5>
電解液5は、セパレータ4の中に保持され、正極板2と負極板3との間でイオンを伝導させる。電解液5は、例えば、水酸化カリウム(KOH)を溶質の主成分とするアルカリ性水溶液である。
【0053】
<ニッケル水素蓄電池1の製造工程>
図4は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の製造工程を示すフローチャートである。次に、上述のような構成の本実施形態のニッケル水素蓄電池1の製造方法について図4を参照して説明する。ニッケル水素蓄電池1の製造工程は、源泉工程(S1)、電極群製造工程(S2)、電極群組付け工程(S3)、注液工程(S4)、封止工程(S5)、検査工程(S6)からなる。
【0054】
源泉工程(S1)では、電池要素である正極板2、負極板3、セパレータ4をそれぞれ作成する。電極群製造工程(S2)では、源泉工程(S1)で製造した正極板2、負極板3、セパレータ4を積層し、正極集電板27、負極集電板37を溶接して図3に示すような電極群6を製造する。電極群組付け工程(S3)では、電極群製造工程(S2)で製造した電極群6を、図2に示すように一体電槽である電池ケース13の各電槽15に収容する。そして、各電槽15にそれぞれ収容された電極群6を溶接等により電気的に接続し、正極接続端子13a、負極接続端子13b(図1参照)を取り付ける。注液工程(S4)では、電池ケース13の各電槽15に電解液5を注液する。封止工程(S5)では、注液工程(S4)で注液が完了した電池ケース13に蓋体14を装着し、封止する。以上で、本実施形態の電池モジュールであるニッケル水素蓄電池1の組み立てが終了する。検査工程(S6)では、このように組立が終了したニッケル水素蓄電池1の初充電、エージング、内部抵抗(DC-IR)検査、OCV検査、自己放電検査等を行う。そして、これらに合格したものが製品としてのニッケル水素蓄電池1の電池モジュールとなる。
【0055】
<正極板2の製造工程>
図5は、本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の製造工程を示すフローチャートである。次に、正極板2の製造工程について図5を参照して詳細に説明する。この正極板2の製造工程は、ニッケル水素蓄電池1の源泉工程(S1)の一部をなす工程である。
【0056】
正極板の製造工程は、正極集電体製造工程(S11)、正極合材ペースト製造工程(S12)、塗工工程(S13)、乾燥工程(S15)、整形・プレス工程(S16)からなる。
【0057】
<正極集電体製造工程(S11)>
まず、正極集電体製造工程(S11)は、正極集電体21を製造する工程である。また、この正極集電体製造工程(S11)で製造される正極集電体21は、図14に示すように4枚の正極集電体21が製造される。
【0058】
まず、長尺の発泡ニッケルの薄板から、所定のサイズの正極集電体21が切断工程により切り取られる。続いて、整形・プレス工程で所定厚に整形された正極集電体21の周縁部を圧縮して、所定の長さ、幅に整形する。整形された正極集電体21の周縁部は、圧縮されて潰されて、密度が高くなる。密度が高くなると機械的な強度が上がり、正極集電体21の枠として、形状を維持する。なおこの周縁部は圧縮されて潰されて、多孔性の発泡ニッケルの空間が潰れて通気性が下がり、電解液5が吸収されにくくなっている。
【0059】
この正極集電体21の周縁部の一方の長辺の中央部分に、図6図7に示すようなリード部21lを溶接する。
<正極合材ペースト製造工程(S12)>
正極合材ペースト製造工程(S12)では、前述したような正極合材ペースト25を製造する。正極合材ペースト25は、正極活物質粒子、導電材、結着材、増粘剤等に、溶媒などを混合して、所定の粘度V[mPa・s]のペースト状とする。
【0060】
<塗工工程(S13)>
塗工工程(S13)では、正極合材ペースト製造工程(S12)で製造した正極合材ペースト25を、正極集電体製造工程(S11)で製造した正極集電体21に塗工する。
【0061】
図12は、本実施形態における塗工装置の一例を示す斜視図である。図13(a)は、本実施形態における塗工工程を示す斜視図である。
<塗工機8>
図12に示すように、正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布する塗工機8は、正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布するダイノズル81と、支持部材85と、ステージ86とを備えている。
【0062】
<ダイノズル81>
ダイノズル81は、ダイ82と、ノズル83とを備える。ダイ82は、タンクなどの供給部(不図示)より供給配管を通じて供給される正極合材ペースト25を高圧で貯留する。ノズル83は、正極集電体21の上面(本実施形態では正極合材層22の粗側表面22a側の面)に対して対向する先端部に吐出口を備えている。吐出口は、上面21jに対して所定のクリアランスを持って離間している。ノズル83は、第2方向Y(正極集電体21の幅横行W)に延び、塗布領域21a~21dと対応するように吐出口が区画されており、塗布領域21a~21dの上面21jに対して正極合材ペースト25を吐出する。吐出口から吐出された正極合材ペースト25は、上面21jに至るまで流下する。
【0063】
ダイノズル81は、正極集電体21の上面21jに対して正極合材ペースト25を吐出するにあたって、ノズル83に対して正極合材ペースト25の未塗布側となる領域に、押さえローラ84を備えている。押さえローラ84は、ノズル83によって上面21jに正極合材ペースト25が塗布される直前において、上面21jに接触し、正極集電体21を支持部材85の方向へ押さえ付ける。これにより、押さえローラ84は、正極集電体21のうねりを取り除き、ノズル83と上面21jとの間隔を一定にする。
【0064】
<支持部材85>
支持部材85は、ノズル83によって正極合材ペースト25が正極集電体21の上面21jに塗布されるまで塗布領域21a~21dを下面21k側から支持する。
【0065】
図14(a)は、ニッケル基材と第1支持部と第2支持部との位置関係を示す平面図である。図14(b)はペーストが塗布される前のニッケル基材が第1支持部および第2支持部に支持された状態を示す断面図である。図14(c)は、(b)の拡大断面図である。
【0066】
図14(a)~(c)に示すように、支持部材85は、第1支持部85aと、挿通部85bと、連結部85cを備えている。第1支持部85aは、塗布領域21a~21dの各々を下面21k側から接触して支持する。挿通部85bは、互いに隣り合う第1支持部85aの間に設けられる。連結部85c(図13(a)参照)は、第2方向Yにおいて挿通部85bによって互いに離間した第1支持部85aを連結する(図12参照)。そして、支持部材85は、全体がくし型形状を有している。
【0067】
<第1支持部85a>
第1支持部85aは、塗布領域21a~21dに対応して4つ設けられており、各第1支持部85aは、第1方向Xに延び、互いに平行に離間している。各第1支持部85aにおいて、塗布領域21a~21dを支持する支持面は、一例として、安定して支持でき、さらに、塗布領域21a~21dの下面21kに対して滑り易い平坦面で構成されているとよい。これにより、第1支持部85aが塗布領域21a~21dの下方から抜け易くする。
【0068】
各第1支持部85aを連結する連結部85cと反対側の先端部は、少なくとも押さえローラ84の下方に位置している。これにより、各第1支持部85aは、押さえローラ84と協働してしっかりと正極集電体21を挟持できる。さらに好ましくは、第1支持部85aの先端部は、ノズル83の下方にも位置する長さを備えていてもよい。すなわち、正極合材ペースト25が正極集電体21の上面21jから下面21kに浸透するまでの間は、第1支持部85aが塗布領域21a~21dの下面21kを接触して支持している構成としてもよい。これにより、第1支持部85aは、塗布領域21a~21dの下面21kを、浸透した正極合材ペースト25と接触する直前まで支持することができる。
【0069】
<挿通部85b>
互いに隣り合う第1支持部85aの間に位置する挿通部85bは、厚み方向Dに貫通したスリットであって、第1方向Xに延び、ノズル83の下方が開口端となっている。
【0070】
<第2支持部85d>
図14(c)に示すように、支持部材85は、ダイノズル81とステージ86との間に配置する部材である。この支持部材85は、挿通部85bは、ステージ86が備えた第2支持部85dが挿通され、第2支持部85dが正極集電体21の非塗布領域21e~21iの下面21kを支持できるようにする。すなわち、各挿通部85bの幅(互いに隣り合う第1支持部85aの間の間隔)は、一例として、第2支持部85dが挿通可能な幅であって、第2支持部85dの幅より若干広い。
【0071】
ダイノズル81と支持部材85とは、連結部材などを備えた連結機構(図示を省略)を介して連結されており、同期して、正極集電体21に対して第1方向Xのうちの1つである矢印で示す移動方向に移動する。すなわち、正極集電体21およびステージ86は、移動することなく、ダイノズル81と支持部材85とが正極集電体21およびステージ86に対して矢印で示す移動方向に移動する。
【0072】
<ステージ86>
ステージ86は、支持部材85および支持部材85と同期するダイノズル81が第1方向Xに移動可能に配置される。ステージ86は、支持部材85の支持面に第2支持部85dを備えている。第2支持部85dは、支持部材85の挿通部85bに挿通され、先端面で正極集電体21の下面21kを支持する。一例として、第2支持部85dは、載置される正極集電体21の第1方向Xに相当する長さ(非塗布領域21e~21iの第1方向Xの長さ)を有している。第2支持部85dにおいて、非塗布領域21e~21iを支持する支持面は、一例として、非塗布領域21e~21iの下面21kに対して滑りにくい平坦面で構成されているとよい。これにより、正極集電体21が支持部材85の矢印で示す移動方向への移動に引き摺られて同方向に移動してしまうことを抑える。
【0073】
具体的には、正極集電体21の上面21jに対して正極合材ペースト25が塗布される前は、塗布領域21a~21dの下面21kが第1支持部85aによって支持され、非塗布領域21e~21iの下面21kが第2支持部85dによって支持される。そして、ダイノズル81および支持部材85が正極集電体21およびステージ86に対して矢印で示す移動方向に移動する。そうすると、正極集電体21の正極合材ペースト25が塗布された部分では、非塗布領域21e~21iの下面21kが第2支持部85dによって支持されるだけとなる。塗布領域21a~21dの下面21kとステージ86との間は、第1支持部85aが抜けることによって空隙部となり、正極集電体21の下面21kにまで浸透した正極合材ペースト25がステージ86と接触することを防ぐ。また、挿通部85bに対して第2支持部85dが挿入されることで、第2支持部85dは、ステージ86に対して移動する支持部材85のガイドレールとしても機能し、挿通部85bは、ガイドレールが挿入されるガイド溝としても機能する。なお、ステージ86に対する支持部材85のガイド機構は、挿通部85bおよび挿通部85b以外にも設けることもできる。
【0074】
正極合材ペースト25を正極集電体21の上面21jに対して塗布するとき、支持部材85は、正極集電体21に対して矢印で示す移動方向に移動する。したがって、正極集電体21は、支持部材85の矢印で示す移動方向への移動に引き摺られて移動してしまうおそれがある。そこで、第2支持部85dは、正極集電体21を矢印で示す移動方向に移動しないように保持する保持手段を備えている。保持手段は、真空吸着パットや磁気吸着パットであって、正極集電体21を第2支持部85d上に保持する。
【0075】
<塗工の手順>
図13(b)は、ダイノズル81が正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布する位置を拡大した断面図である。以上のような塗工機8を用いて塗工工程(S13)が、実施される。図13を参照して、塗工の手順を説明する。
【0076】
図13(a)、図13(b)に示すように、ダイノズル81および支持部材85は、同期して順次矢印で示す塗工方向である移動方向に移動する。すると、支持部材85の第1支持部85aは、順次、塗布領域21a~21dの上面21jの下方から退避し、この後、下面21kには、上面21jから下面21kに正極合材ペースト25が浸透してくる。これにより、下面21kの正極合材ペースト25と第1支持部85aとが接触することが抑えられる。すなわち、正極合材ペースト25が塗布された後、正極集電体21は、ステージ86の第2支持部85dによって非塗布領域21e~21iのみが支持されることになる。
【0077】
正極集電体21は、以上のような工程を経て正極合材ペースト25が塗布される。
<塗工工程(S13)における正極合材ペースト25>
塗工工程(S13)では、上述のように、ダイノズル81が正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布する。
【0078】
図13(b)に示すように、正極集電体21の上面21jから、正極合材ペースト25が吐出されると、図6図7に示すように、正極集電体21の上面21jでは、塗工幅Wpで正極合材ペースト25が塗工される。塗工された正極合材ペースト25は、正極集電体21の内部に浸透していく。このとき、正極合材ペースト25は、その粘度V[mPa・s]と、表面張力と、濡れ性により、図6に示すように、塗工幅Wpより重力により下方へ浸透するにつれて徐々に幅方向Wの幅が小さくなる。そして、下面21kでは、基準塗工幅Wsになるように調整される。
【0079】
図7に示すように、塗工された正極合材ペースト25は塗工幅Wpに塗工されるが、このとき、幅方向Wの端部22dは、長さ方向Lに沿った直線にはならず、幅方向Wに波状にランダムな凹凸が生じる。これは、正極集電体21の骨格構造や、ここに吸収される正極合材ペースト25のムラなどにより生じる。そのため、本願では塗工幅Wpや、基準塗工幅Wsは、このような凹凸幅を平均した軌跡の幅となる。
【0080】
<塗工幅Wp、基準塗工幅Ws、未塗工部分の幅Wv1の関係>
次に、図8は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の正極合材層22の密側表面22cを示す模式図である。正極集電体21に塗工された正極合材ペースト25は、図7に示すように塗工幅Wpとなる。そして、図6に示すように、塗工され正極集電体21に浸透する正極合材ペースト25は、下面21kに到達する頃には、その幅が狭くなる。そのため、図8に示す密側表面22cでは、正極合材層22の幅は基準塗工幅Wsとなっている。また、基準塗工幅Wsは、塗工幅Wpに対して幅が狭くなっている。このため、正極集電体21の下面21kでは、上面21jと比較すると、正極合材ペースト25が未塗工で多孔質の正極集電体21の骨部が露出している部分が存在する。
【0081】
ここで、本実施形態では、基準塗工幅Wsは、塗工幅Wpより狭いため、正極集電体21の幅方向の周縁部内面21mと正極合材層22の端部22dとの間に未塗工部分が生じる。ここで、正極集電体21の下面21kの周縁部内面21mと正極合材層22の端部22dに挟まれた未塗工部分の幅を「幅Wv1」とする。
【0082】
本実施形態では、塗工幅Wpと、正極集電体21の下面21kの未塗工部分の幅Wv1とにおいて、Wv1/Ws≧0.005となるように調整されている。
また、上面21jにおける塗工幅Wpと、下面における基準塗工幅Wsの関係が、0.945≦Ws/Wp≦0.99となるように調整されている。
【0083】
本実施形態の正極板2では、以上のような構成を備えている。その結果、未塗工部分の幅Wv1が従来の幅Wv0(図15図16参照)より大きくなっている。このため、正極合材層22の密側表面22cにおける電解液5の浸透率が低下しても、多孔質の正極集電体21の骨部が露出している部分から幅方向Wの正極合材層22の端部22dへ電解液5が浸透しやすくなっている。
【0084】
<正極合材層2における正極活物質の充填密度Df>
上記のように、正極合材ペースト25が、正極集電体21に塗布されると、重力により、次第に正極集電体21に浸透していく。このとき、適切に粘度V[mPa・s]を調整した正極合材ペースト25の中では正極活物質の粒子は、密度[g/cm]が比較大きいため、他の物質よりも速く沈降する。そのため、塗布された正極合材ペースト25は、上部より下部の方が、正極活物質の充填密度Df[%]より大きくなる。すなわち、正極集電体21に対して正極合材層22の厚み方向Dの下端である密側表面22cの正極活物質の充填密度Df[%]が、上端部である粗側表面22aの正極活物質の充填密度Df[%]より大きい充填密度差ΔDfを有する。
【0085】
正極活物質の充填密度Df[%]が大きいほど、電解液5は、正極合材層22に浸透しにくくなる。
充填密度差ΔDfは、具体的には、本実施形態では好ましくは、4%以上、20%以下である。
【0086】
図10は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の正極合材層22の正極活物質の充填密度Dfと、電解液5の注液時の状態を示す模式図である。
充填密度差ΔDfは、正極板2を厚み方向Dで、3層に3等分割した場合、中央部分の第2層L2に対して密側表面22c側の第3層L3と粗側表面22a側の第1層L1でそれぞれ2%以上10%以下の正極活物質の充填密度差ΔDfがある。本実施形態では、充填密度差ΔDfが、それぞれ5%である。
【0087】
<正極合材ペースト25の調整(S14)>
塗工工程(S13)では、上述したように、目標とする密側表面22cにおける短辺方向の正極合材層22の端部22dの短辺方向の基準塗工幅Wsを規定する。また、目標とする充填密度差ΔDfを規定する。そこで、塗工工程(S13)後に、正極合材層22が適切に構成されているかを検査する。検査の結果、正極合材層22が適切ではない場合(S14:NO)は、再度正極合材ペースト製造工程(S11)に戻る。そして、正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]や、他のせん断速度[s-1]などを調整する。正極合材層22が適切である場合(S14:YES)は、乾燥工程(S15)に移行する。
【0088】
<乾燥工程(S15)>
乾燥工程(S15)では、塗工工程(S13)において正極集電体21に塗工された正極合材ペースト25を、例えば、熱風や冷風、赤外線照射等の方法で乾燥させて、溶媒を蒸発させ、正極合材ペースト25を硬化させて、正極合材層22を形成する。
【0089】
<整形・プレス工程(S16)>
乾燥工程(S15)で、正極合材ペースト25を硬化させて、正極合材層22を形成したら、ローラプレス機(図示略)により、正極板2を所定の厚みにプレスするとともに、その表面形状を整える。
【0090】
以上で、正極板2の製造工程が完了する。その後は、電極群製造工程(S2)に進み、源泉工程(S1)で製造した負極板3、セパレータ4を積層し、正極集電板27、負極集電板37を溶接して電極群6を製造する。
【0091】
(本実施形態の作用)
次に、本実施形態のニッケル水素蓄電池1及びその製造方法の作用について説明する。
<正極板2の搬送時の作用>
図17は、従来技術のニッケル水素蓄電池1の正極板2の搬送時の状態を示す模式図である。従来は、正極板2の正極合材層22の正極活物質の充填密度Dfは、均一なものであった。ニッケル水素蓄電池1の製造工程において、部品としての複数の正極板2が積層されて載置された最上段の正極板を、真空吸着装置9の吸着パッド91により上方から吸着して搬送する搬送工程を含むことがある。このとき、正極合材層22の正極活物質の充填密度Dfは従来は均一なものであるので、通気度も均一である。そのため、吸着パッド91の真空度が低いと陰圧が十分でなく、正極板2を確実に搬送することができない。一方、確実に正極板2を搬送しようとして吸着パッド91の真空度を高めると、陰圧は搬送しようとしている最上段の正極板2のみならず、その下に積層している他の正極板2にも及んでしまう。その結果、陰圧は搬送しようとしている最上段の正極板2のみならず、その下に積層している他の正極板2までも搬送してしまうという問題があった。
【0092】
そこで、本実施形態のニッケル水素蓄電池1では、正極板2の正極合材層22の下側の密側表面22cの正極活物質の充填密度Dfが、正極合材ペーストを塗布した上側の粗側表面22aの充填密度Dfより大きくなって充填密度差ΔDfがある。また、充填密度Dfは、粗側表面22aから密側表面22cへ、漸次高くなるように構成されている。
【0093】
具体的には、図9に示すように、充填密度差ΔDfは、正極板2を厚み方向Dで、上から第1層L1、第2層L2、第3層に等分に分割するとする。この場合、中央の第2層L2の部分に対して密側表面22c側の第3層L3と粗側表面22a側の第1層L1で、それぞれ10%以上20%以下の充填密度差ΔDfがある。
【0094】
このため、図9に示すように、ニッケル水素蓄電池1の製造工程の正極板2の搬送工程において、正極板2の上面が正極合材層22の正極活物質の充填密度Dfが低く形成された粗側表面となるように載置される。そして、真空吸着装置9の吸着パッド91により上方から粗側表面22aを吸着して搬送する。そうすると、粗側表面22aの第1層L1は通気性が良いため、陰圧が正極合材層22の内部に及ぶ。しかしながら、密側表面22cの第3層L3は通気性が低いため、陰圧はその下に積層している他の正極板2には及ばない。その結果、吸着パッド91の真空度を十分に高めても、上に積層している正極板2のみを、確実に搬送することができる。
【0095】
<電解液5の浸透の作用>
図15は、従来技術のニッケル水素蓄電池1の正極板2の正極合材層22の一方の面側を示す模式図である。図16は、従来技術のニッケル水素蓄電池1の正極板2の他方の面を示す模式図である。図18は、従来技術のニッケル水素蓄電池1の正極板2の正極合材層22の正極活物質の充填密度Dfと注液時の状態を示す模式図である。
【0096】
従来のニッケル水素蓄電池1では、両面塗工をするため、いずれの面も塗工面であり、塗工された正極合材層22は同様の構成となる。従来のニッケル水素蓄電池1では、図4に示すように、注液工程(S4)において、図2に示す各電槽15に電解液5を注液する。このとき、図3に示すように電極群6に電解液5が浸透する。電解液5は、まず電極群6の幅方向Wの端部を浸漬し、次に通気性が良く電解液5が浸透しやすいセパレータ4に浸透し、さらにセパレータ4を介して積層された正極板2の表面に浸透する。
【0097】
従来技術では、図15及び図16に示すように、両面塗工で正極集電体21の上面21jと下面21kの正極合材層22の正極活物質の充填密度Dfは均一である。
また、従来は、塗工幅Woが、正極集電体21の内幅に対して、正極合材ペースト25の未充填の部分ができないように、両面塗工していたため、未塗工部分の幅Wv0は極めて狭くなっていた。また、正極集電体21の両面の未塗工部分の幅Wv0は等しい。このため、この未塗工部分からは、電解液5は比較的浸透しにくくなっていた。
【0098】
本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極合材層22では、図7に示す上面(正極合材ペースト25の塗布面)の粗側表面22aと、図8に示す下面の密側表面22cの正極活物質の充填密度Dfに充填密度差ΔDfがある。また、塗工工程(S13)が片面塗工である。そのため、粗側表面22aでの塗工幅Wpと密側表面22cでの基準塗工幅Wsとを比較すると、基準塗工幅Wsは、塗工幅Wpよりも狭い。言い換えれば、正極集電体21の端部に接した正極合材層22の未塗工部分が、粗側表面22aは、ほとんどないのに比較すると、密側表面22cの方が広い部分を備えている。
【0099】
その結果、図6図10に示すように、粗側表面22aのポイントP1は、従来のニッケル水素蓄電池1よりも正極活物質の充填密度Dfが低く形成されており、その通気度は高く、電解液5の浸透も良好である。また、正極集電体21の周縁部は電解液5が浸透しにくいが、正極集電体21の周縁部と粗側表面22aの端部22dの間隙はほとんどないのでポイントP2では、電解液5の浸透は、従来のニッケル水素蓄電池1と同じようにほとんど浸透しない。
【0100】
一方、密側表面22cのポイントP3は、従来のニッケル水素蓄電池1よりも正極活物質の充填密度Dfが高く形成されており、その通気度も低く電解液5の浸透も少ない。しかしながら、ポイントP2で粗側表面22aの未塗工部分がほとんどない。これに比べて正極集電体21の周縁部と密側表面22cの端部22dの間隙であるポイントP4では、正極集電体21の端部の正極合材層22の密側表面22cの未塗工部分の幅Wv1がある。
【0101】
その結果、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の電解液5の浸透率は、正極板2全体として従来の電解液5の浸透率が向上している。
その結果、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の内部抵抗(DC-IR)は、従来のニッケル水素蓄電池1の内部抵抗(DC-IR)と比較しても、およそ1%低下した。
【0102】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のニッケル水素蓄電池1は、正極合材層22の密側表面22c近傍の正極活物質の充填密度Dfが比較的高いため、通気性が低く陰圧を保持しやすい。そのため、その製造工程において正極板2の真空吸着による正極板2の搬送を容易かつ確実に行うことができる。
【0103】
(2)従来の正極板2では正極合材層22の通気性が高いため吸引力が小さいと、十分に真空度が高まらずに、搬送途中に正極板2が脱落することがある。その一方で、吸引力を高めすぎると、目的とする正極板2のみならず、その下にある正極板2までも搬送してしまうという問題があった。本実施形態のニッケル水素蓄電池1では、下方への陰圧を遮断することができる。そのため、上記のような搬送工程において複数枚厚み方向Dに積層された正極板2を真空吸着装置9の吸着パッド91により最上部の正極板2を搬送する場合に、確実に最上部の正極板2のみを搬送することができる。
【0104】
(3)塗工工程(S13)後において、粗側表面22aが上になった姿勢で、製造工程が進行する。このとき通気性の高い粗側表面22aが上である姿勢であっても、下面の密側表面22cの通気性が低いため、真空吸着装置9の吸着パッド91は、十分に陰圧を維持するとともに、下方への陰圧を遮断することができる。そのため、いちいち上下逆転して通気度の低い密側表面22cを上向きにしなくても、そのままの姿勢でも確実に吸着パッド91内の陰圧を維持して、搬送することができる。
【0105】
(4)また、上記のように正極合材層22の密側表面22c近傍の正極活物質の充填密度Dfが比較的高いため、電解液5の浸透が悪いが、粗側表面22aや、密側表面22cの端部22dから良好に電解液5の浸透が行われる。そのため、正極板2全体として電解液5の浸透がむしろ良好なものとなっている。
【0106】
(5)電解液5の浸透が良好なため、ニッケル水素蓄電池1の内部抵抗(DC-IR)も、従来のものより1%程度低減できるという効果がある。
(6)本実施形態のニッケル水素蓄電池の製造方法では、塗工工程(S13)における正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]を、正極活物質の充填密度Dfに基づいて決定する。このことで、所望の正極活物質の充填密度Dfを備えた正極合材層22を形成することができる。
【0107】
(7)また、本実施形態のニッケル水素蓄電池の製造方法では、塗工工程(S13)における正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]を、塗工された正極合材層22に基づいて決定する。このことで、所望の幅方向Wの塗工幅Wp、基準塗工幅Ws、未塗工部分の幅Wv1とすることができる。
【0108】
(8)このように、所望の幅方向Wの塗工幅Wp、基準塗工幅Wsを制御することで、正極板2の端部に正極合材層22の未塗工部分を生成し、電解液5の浸透を容易にすることができる。その結果、ニッケル水素蓄電池1の内部抵抗(DC-IR)も、従来のものより低減できるという効果がある。
【0109】
(9)そのため、粘度V[mPa・s]を制御することで、塗工幅Wpと、未塗工部分の幅Wv1とにおいて、Wv1/Ws≧0.005とすることができる。また、粘度V[mPa・s]を制御することで、塗工幅Wp、基準塗工幅Wsにおいて、0.945≦Ws/Wp≦0.99とすることができる。その結果、ニッケル水素蓄電池1の内部抵抗(DC-IR)も、従来のものより低減できるという効果がある。
【0110】
(別例)
本発明は、上記実施形態に拘わらず、以下のようにして実施することができる。
○本実施形態では、溶媒である水や増粘剤の配合により正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]を調整して、所望の充填密度Df[%]及び所望の関係Wv1/Ws、関係Ws/Wpを有した正極合材層22を形成している。しかし粘度V[mPa・s]の調整に限定されず、所望の充填密度Df[%]及び所望の関係Wv1/Ws、関係Ws/Wpを達成できるものであればよい。要は、設定した充填密度Df[%]及び設定した関係ΔW/Wsとなるように、充填密度Df[%]及び関係Wv1/Ws、関係Ws/Wpを指標として、これらに関係する手段で、これらを調整できればよい。
【0111】
○それには、例えば、正極集電体21の構成が挙げられる。具体的には、正極集電体21の網目構造の大きさや形状、素材等を変更することで、所望の充填密度Df[%]及び所望の関係Wv1/Ws、関係Ws/Wpを達成してもよい。
【0112】
○また、その他の方法として正極合材ペースト25の組成、正極活物質を変更してもよい。例えば、正極合材ペースト25中の正極活物質の種類、径を変えることで、正極活物質粒子の沈降速度を制御するようにすることもできる。また、正極合材ペースト25と正極集電体21の骨部との濡れ性(撥水性)を調整して、正極合材ペースト25の広がりや乱れを調整することもできる。
【0113】
○正極合材ペースト25の温度[°C]を変更することで、粘度を変更することもできる。また、せん断速度[s-1]を制御することで、間接的に粘度を調節することもできる。
【0114】
また、塗工機8からの吐出量、吐出速度、吐出圧、吐出口の形状、吐出ギャップなどの変更により、所望の充填密度Df[%]及び所望の関係Wv1/Ws、関係Ws/Wpを達成してもよい。
【0115】
○もちろん、これらを組み合わせて所望の充填密度Df[%]及び所望の関係Wv1/Ws、関係Ws/Wpを達成してもよい。
○実施形態では、部品としての正極板2は、粗側表面22aを上に複数積層され、吸着パッド91で、粗側表面22aを吸着して搬送している。これに限定されず、密側表面22cを上に積層して、吸着パッド91で、密側表面22cを吸着して搬送するようにしてもよい。
【0116】
○本実施形態のニッケル水素蓄電池1は、車両の駆動用の電池を例に説明したが、電池の用途は限定されず、航空機や船舶のほか、定置用にも使用することができる。
○各図面は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1を説明するために模式的に示す図もあり、必ずしも構成要素の数量、寸法のバランスは、誇張されたものもあり正確ではない場合がある。
【0117】
図4図5に示すフローチャートは例示であり、その手順を付加し削除し入れ替え、又は変更することができる。例えば、正極集電体製造工程(S11)、正極合材ペースト製造工程(S12)などは、順序を問わない。
【0118】
○正極合材ペーストの粘度V[mPa・s]などの数値は、実施形態における例示であり、本発明がこれらの数値や範囲に限定されることを意図するものではない。当業者によりニッケル水素蓄電池1の構成に合わせて最適化ができる。
【0119】
○本発明は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限り、当業者により、その構成を付加し削除し又は変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0120】
1…ニッケル水素蓄電池
2…正極板
3…負極板
4…セパレータ
5…電解液
6…電極群
8…塗工機
9…真空吸着装置
12…電池セル
13…電池ケース(一体電槽)
13a…正極接続端子
13b…負極接続端子
14…蓋体
15…電槽
16…開口部
17…貫通孔
18…隔壁
21…正極集電体
21a~21d…塗布領域
21e~21i…非塗布領域
21j…上面
21k…下面
21l…リード部
21m…周縁部内面
22…正極合材層
22a…粗側表面
22b…(正極合材層の)内部
22c…密側表面
22d…幅方向Wの端部
25…正極合材ペースト
25e…上面
25f…下面
27…正極集電板
31…負極集電体
37…負極集電板
81…ダイノズル
82…ダイ
83…ノズル
84…押さえローラ
85…支持部材
85a…第1支持部
85b…挿通部
85c…連結部
85d…第2支持部
86…ステージ
91…吸着パッド
L…長さ方向(塗工方向)
W…幅方向(短辺方向)
D…厚み方向
Df…正極活物質の充填密度
ΔDf…充填密度差
Wp…(粗側表面の)塗工幅
Ws…(密側表面の)基準塗工幅
Wv1…(密側表面の未塗工部分の)幅
Wv1/Ws…関係
V…粘度[mPa・s]
L1…第1層
L2…第2層
L3…第3層
P1…ポイント
P2…ポイント
P3…ポイント
P4…ポイント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18