(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023096952
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】二次電池及び二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/32 20060101AFI20230630BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230630BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20230630BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
H01M4/32
H01M4/66 A
H01M4/80 C
H01M4/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213038
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岡田 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】渡部 陽介
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA02
5H017AS02
5H017BB06
5H017BB08
5H017BB12
5H017CC28
5H017EE04
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH04
5H017HH06
5H050AA19
5H050BA14
5H050CA03
5H050CB16
5H050DA02
5H050DA09
5H050EA22
5H050EA27
5H050FA10
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】ニッケル水素蓄電池の正極板の電解液の浸透を改善すること
【解決手段】ニッケル水素蓄電池は、板状の多孔性金属からなる正極集電体と、正極活物質を含有し前記正極集電体に充填された正極合材層とを有する正極板2と、負極板と、セパレータとを備え、前記正極板に充填された前記正極合材層22の表面に複数の凹部22eを設けるとともに、凹部22e直下の厚み方向の部分の活物質の充填密度が他の充填部分と比較して粗な状態を有する粗部22gを備えた。このように正極板2全体として電解液5の濡れ性を向上させることで、電池容量の確保と内部抵抗(DC-IR)の改善を達成することができる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の多孔性金属からなる正極集電体と、正極活物質を含有し前記正極集電体に充填された正極合材層とを有する正極板と、
負極板と、
セパレータとを備え、
前記正極板に充填された前記正極合材層の表面に複数の凹部を設けるとともに、
当該凹部の厚み方向内側の部分の活物質の充填密度が他の充填部分と比較して粗な状態を有することを特徴とする二次電池。
【請求項2】
当該凹部の厚み方向内側の部分の活物質の充填密度が他の充填部分と比較して5%以上粗な状態を有することを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記凹部の開口面積が、500[μm2]以上、90000[μm2]以下であり、かつ、前記凹部の深さは、50[μm]以上で、かつ、前記正極合材層を貫通しない深さであることを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記複数の凹部は、前記正極合材層の表面において、その表面積100[mm2]あたりに1か所以上設けたことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記正極集電体の孔部の平均の開口部径が、300[μm]以上、600[μm]以下であり、かつ、前記正極集電体に充填された前記正極合材層の目付が、200[g/m2]以上、400[g/m2]以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項6】
板状の多孔性金属からなる正極集電体と、正極活物質を含有し前記正極集電体に充填された正極合材層とを有する正極板と、
負極板と、
セパレータとを備え、
前記正極板に充填された前記正極合材層の表面に複数の凹部を設けるとともに、
当該凹部の厚み方向内側の部分の活物質の充填密度が他の充填部分と比較して粗な状態を有する二次電池の製造方法であって、
前記正極合材層を形成する正極合材ペーストの粘度が、50[mPa・s]以上、2000[mPa・s]以下に調製され、前記正極集電体に前記正極合材ペーストを片面塗工により塗工する塗工工程と、
前記塗工工程で形成された前記凹部を残すように厚み方向に前記正極板を圧縮するプレス工程とを備えたことを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記正極合材ペーストの粘度が、200[mPa・s]以上、1000[mPa・s]以下に調製されることを特徴とする請求項6に記載の二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記正極集電体の孔部の平均の開口部径が、300[μm]以上、600[μm]以下であり、かつ、前記正極集電体に充填される前記正極合材層の目付が、200[g/m2]以上、400[g/m2]以下となるように前記正極合材ペーストを塗工することを特徴とする請求項6又は7に記載の二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記正極合材ペーストにカルボキシメチルセルロース及びアルギン酸ナトリウムを含有したことを特徴とする請求項6~8のいずれか一項に記載の二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
二次電池及び二次電池の製造方法に係り、詳しくは、製造時の電極板の電解液の浸透を改善した二次電池及び二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機を搭載した電気自動車(ハイブリッド自動車等も含む)は、二次電池に蓄えられた電力により、電動機を駆動している。このような二次電池において例えばニッケル水素蓄電池のような二次電池は、安全で大電流の充放電が可能であることから車両用として広く普及している。
【0003】
このような二次電池では、高容量化のための厚膜化や、負荷特性が高い二次電池用の電極が望まれている。このような二次電池の電極では、電極の活物質を活用するために活物質と電解液の交流を有効に図る必要がある。例えば、活物質の合材層を形成するためにフッ素系の結着材などを添加すると、活物質が結着され安定した活物質の合材層を形成することができる。しかしながら、フッ素系の結着材は結着率が高いという利点はあるが、塗工後に極板を乾燥させることで極板表面に結着材が偏析するため、電解液が電極に浸透しにくくなるという問題もあった。
【0004】
そこで、特許文献1に開示された発明では以下のような非水系二次電池用電極が開示されている。ここには、特定の平均細孔径を有する非水系二次電池用電極及び電極活物質、熱可塑性バインダー及び可塑剤からなる混合物を、103sec-1以上のせん断速度下で、混合物のせん断粘度を101MPa以下として、金属基材上に押出機で押し出して成形する。押し出し成形によって、可塑剤を電解液に置換することにより特定の平均細孔径を有する非水二次電池用の電極を製造する方法である。このような方法で、少なくとも電極活物質及び熱可塑性バインダーからなる非水二次電池用の電極において、該電極に電解液が浸入する0.01μm以上10μm以下の細孔を有し、その平均細孔径davを0.1≦dav≦1μmとしている。
【0005】
このような電極板では、細孔を有することで電解液の浸透を良くすることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、細孔を設けることで電解液が浸入しやすくなっていたとしても、活物質の充填密度が均等であったので、電極板の表面からの電解液の浸透は十分ではなかった。
本発明の二次電池及び二次電池の製造方法が解決しようとする課題は、電極板の電解液の浸透を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の二次電池では、板状の多孔性金属からなる正極集電体と、正極活物質を含有し前記正極集電体に充填された前記正極合材層とを有する正極板と、負極板と、セパレータとを備え、前記正極板に充填された前記正極合材層の表面に複数の凹部を設けるとともに、当該凹部の厚み方向内側の部分の活物質の充填密度が他の充填部分と比較して粗な状態を有することを特徴とする。
【0009】
当該凹部の厚み方向内側の部分の活物質の充填密度は、他の充填部分と比較して5%以上粗な状態を有することが望ましい。
前記凹部の開口面積は、500[μm2]以上、90000[μm2]以下であり、かつ、前記凹部の深さは、50[μm]以上で、かつ、前記正極合材層を貫通しない深さであることが望ましい。
【0010】
前記複数の凹部は、前記正極合材層の表面において、その表面積100[mm2]あたりに1か所以上設けたことが望ましい。
前記正極集電体の孔部の平均の開口部径は、300[μm]以上、600[μm]以下であり、かつ、前記正極集電体に充填された正極合材層の目付が、200[g/m2]以上、400[g/m2]以下であることが望ましい。
【0011】
また、本発明の二次電池の製造方法では、板状の多孔性金属からなる正極集電体と、正極活物質を含有し前記正極集電体に充填された正極合材層とを有する正極板と、負極板と、セパレータとを備え、前記正極板に充填された前記正極合材層の表面に複数の凹部を設けるとともに、当該凹部の厚み方向内側の部分の活物質の充填密度が他の充填部分と比較して粗な状態を有する二次電池の製造方法であって、前記正極合材層を形成する正極合材ペーストの粘度が、50[mPa・s]以上、2000[mPa・s]以下に調製され、前記正極集電体に前記正極合材ペーストを片面塗工により塗工する塗工工程と、前記塗工工程で形成された前記凹部を残すように厚み方向に前記正極板を圧縮するプレス工程とを備えたことを特徴とする。
【0012】
前記正極合材ペーストの粘度は、200[mPa・s]以上、1000[mPa・s]以下に調製されることが望ましい。
前記正極集電体の孔部の平均の開口部径は、300[μm]以上、600[μm]以下であり、かつ、前記正極集電体に充填される前記正極合材層の目付が、200[g/m2]以上、400[g/m2]以下となるように前記正極合材ペーストを塗工することが望ましい。
【0013】
前記正極合材ペーストにカルボキシメチルセルロース及びアルギン酸ナトリウムを含有することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二次電池及び二次電池の製造方法では、電極板の電解液の浸透を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のニッケル水素蓄電池の電池モジュールの外観構造を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態のニッケル水素蓄電池の電池モジュールの一部について部分断面構造を含む斜視図である。
【
図3】本実施形態のニッケル水素蓄電池に設けられる電極群の断面図である。
【
図4】本実施形態のニッケル水素蓄電池の製造工程を示すフローチャートである。
【
図5】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の製造工程を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の塗工側の表面を示す模式図である。
【
図7】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の塗工側の反対側の表面を示す模式図である。
【
図8】本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の幅方向の断面を示す模式図である。
【
図9】正極集電体と塗工された正極合材ペーストの関係を示す模式図である。
【
図10】(a)塗工工程後、整形・プレス工程前の本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の幅方向の断面の一部を拡大した模式図である。(b)整形・プレス工程後の本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の幅方向の断面の一部を拡大した模式図である。
【
図11】実施例の正極板の断面のSEM写真である。
【
図12】比較例の正極板の断面のSEM写真である。
【
図13】別の比較例の正極板の断面のSEM写真である。
【
図14】従来の正極合材ペーストの組成の一例と、本実施形態の正極合材ペーストの組成の一例の比較表である。
【
図15】本実施形態における塗工装置の一例を示す斜視図である。
【
図16】(a)本実施形態における塗工工程を示す斜視図である。(b)ダイノズルが正極集電体に対して正極合材ペーストを塗布する位置を拡大した断面図である。
【
図17】(a)はニッケル基材と第1支持部と第2支持部との位置関係を示す平面図である。(b)はペーストが塗布される前のニッケル基材が第1支持部および第2支持部に支持された状態を示す断面図である。(c)は(b)の拡大断面図である。
【
図18】従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の塗工側の表面を示す模式図である。
【
図19】従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の塗工側の反対側の表面を示す模式図である。
【
図20】従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の幅方向の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の二次電池及び二次電池の製造方法を、ニッケル水素蓄電池及びその製造方法の一実施形態を用いて
図1~17を参照して説明する。
(本実施形態の構成)
<本実施形態の概略>
特許文献1に開示された発明のように、電極活物質、熱可塑性バインダー及び可塑剤からなる混合物を、金属基材上に押出機で押し出して成形する。これにより、可塑剤を電解液に置換することにより特定の平均細孔径を有する非水二次電池用の電極を製造する方法があった。しかしながら、本発明者らは、単に細孔を有するだけでなく、さらに電解液5が浸透し易い構造により、内部抵抗(DC-IR)の低い電池を開発した。
【0017】
図1は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の電池モジュールの外観構造を示す斜視図である。
図2は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の電池モジュールの一部について部分断面構造を含む斜視図である。
図3は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1に設けられる電極群6の断面図である。
【0018】
図3に示すように、本実施形態のニッケル水素蓄電池1は、板状の発泡ニッケルからなる多孔性金属の正極集電体21と、正極活物質を含有し正極集電体21に充填された正極合材層22とを有する正極板2を備える。また、正極板2と負極板3とがセパレータ4を介して多数積層されて電極群6が構成される。
【0019】
図18は、従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の塗工側の表面を示す模式図である。
図19は、従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の塗工側の反対側の表面を示す模式図である。
図20は、従来技術のニッケル水素蓄電池の正極板の幅方向の断面を示す模式図である。従来は、
図18~
図20に示すように、正極合材層22は、正極活物質の充填密度が概ね均一に形成され、その表面は平坦なものであった。
【0020】
ここで、本実施形態の正極集電体21の平均開口部径Oは、300[μm]以上、600[μm]以下に設定されている。ここで、「平均開口部径O」は、水銀圧入法で測定されたメディアン径(d50)とする。
【0021】
この正極集電体21にカルボキシメチルセルロース(CMC)及びアルギン酸ナトリウムを含有した正極合材ペースト25を塗工して正極合材層22を形成する。正極合材ペースト25は、粘度が、50[mPa・s]以上、2000[mPa・s]以下、好ましくは200[mPa・s]以上、1000[mPa・s]以下に調製され、正極集電体21に片面塗工により塗工される。このとき正極集電体21に充填される正極合材層22の目付は、200[g/m2]以上、400[g/m2]以下である。
【0022】
図6は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の塗工側の表面22aを示す模式図である。
図7は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の塗工側の反対側の表面22cを示す模式図である。
図8は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の幅方向Wの断面を示す模式図である。
【0023】
上述のような条件で、塗工工程(S13、
図5参照)を行うことで、正極板2に充填された正極合材層22の塗工側の表面22aにおいて、その表面積100[mm
2]あたりに1か所以上の凹部22eを形成することができる。
【0024】
この凹部22eは、開口面積が、500[μm2]以上、90000[μm2]以下、より好ましくは2500[μm2]以下であり、凹部22eの深さは、50[μm]以上で、かつ、正極合材層22を貫通しない深さとされる。
【0025】
また、正極合材層22を整形・プレス工程(S15)により圧縮することで、この凹部22eの厚み方向内側の部分の活物質の充填密度が他の充填部分と比較して5%以上、より望ましくは10%粗な状態を有する正極合材層22とすることができる。また、当該値は20%以下であることが好ましい。
【0026】
<本実施形態の原理>
図9は、正極集電体21と、ここに塗工された正極合材ペースト25の関係を示す模式図である。
【0027】
<凹部22eの形成>
本実施形態の正極集電体21は、発泡ニッケルからなる多孔体である。正極集電体21には、3次元網状構造の骨部21nと、この骨部21nにより形成された孔部21oを備える。この孔部21oの大きさはばらつきがある。例えば、
図9の左側に示す孔部21oの開口部径Oは、開口部径O1であり、右側に示す孔部21oの開口部径Oは、開口部径O2となっている。
【0028】
このような正極集電体21に粘度Vが調整された正極合材ペースト25を塗工する。そうすると、正極合材ペースト25は、骨部21nに付着するとともに、その表面張力により骨部21n間に貯留される。そして、その表面張力の大きさに応じて、メニスカスを形成する。なお、このメニスカスの形成は、正極合材ペースト25と骨部21nの濡れ性によっても変化する。このメニスカスは、開口部径O2のように所定の大きさより小さければ、開口部の骨部21n間に正極合材ペースト25を貯留することができる。一方開口部径O1のように所定の大きさより開口部径Oが大きければ、開口部周端の骨部21nの間に正極合材ペースト25を維持することができない。
【0029】
このように開口部径Oが所定の大きさ以上の場所には、正極合材層22に凹部22eが形成される。
本実施形態のニッケル水素蓄電池1の製造方法では、正極集電体21に正極合材ペースト25を塗工するときに、正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]を凹部22eが形成されるように比較的低く調整している。すなわち、前提として、塗工した正極合材ペースト25が正極集電体21から重力で下方に脱落しないように粘度V[mPa・s]を調整している。その範囲で、正極合材ペースト25が、正極集電体21の比較的開口面積が大きな場所では、表面張力により凹部22eを形成する。なお、凹部22eが形成される条件は、粘度V[mPa・s]以外にも、正極集電体の孔部21oの構成、濡れ性の違い、正極合材層に含まれる正極活物質の粒子、結着材の大きさ、性質、目付量[g/m2]等様々な条件がある。
【0030】
例えば、目付[g/m2]と、正極集電体21の孔部21oの平均開口部径Oとの関係などは重要である。目付は200~400[g/m2]で、これに対して、平均開口部径Oは、300~600[μm]が適切である。
【0031】
すなわち、目付が400[g/m2]以上であれば、正極集電体21の表面の正極合材ペースト25が過多になって凹部22eは形成されない。また、平均開口部径Oが300[μm]未満であれば、正極合材ペースト25の正極集電体21への浸入が悪くなり、凹部22eもできにくくなる。また、塗工幅Wpが狭くなるなど、塗工位置の制御が難しくなる。
【0032】
一方、目付が200[g/m2]未満であれば、正極集電体21の表面の正極合材ペースト25が不足して凹部22eは形成されない。また、平均開口部径Oが600[μm]以上であれば塗工時に正極合材ペーストが正極集電体21内に留まらない。特に片面塗工では裏面へ垂れ、規定重量を確保できない可能性がある。
【0033】
このように、目付[g/m2]と、平均開口部径O[μm]と、粘度V[mPa・s]が適正であれば、塗工側の表面22aのみならず、塗工側と反対側の表面22cにおいても、表面張力により重力に抗して凹部22eが形成される。すなわち、凹部22eは、塗工側の表面22aのみならず塗工側と反対側の表面22cにおいても形成されることが望ましい。
【0034】
本実施形態では凹部22eの形成状態をフィードバックしながらこれらの要素を調整することで安定して所定の凹部22eを形成することができる。
これらを前提として、粘度V[mPa・s]の調整が、製造現場では対応しやすく一番容易な方法として実用的である。
【0035】
<整形・プレス工程(S15)における圧縮>
図10(a)は、塗工工程(S13)の後、整形・プレス工程(S15)の前の本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の幅方向Wの断面の一部を拡大した模式図である。
図10(b)は、整形・プレス工程(S15)の後の本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の幅方向Wの断面の一部を拡大した模式図である。
【0036】
上述のような方法で、所定の凹部22eを形成したのち、
図10(a)に示す状態から、成形・プレス工程(S15)で、凹部22e以外の部分を圧縮して押し潰す。このことで、
図10(b)に示すように凹部22e以外での正極活物質の充填密度が高い密部22hが形成される。特に、塗工側の表面22aの近傍では、正極活物質の充填密度が高い圧縮部22iが形成される。
【0037】
その一方で、凹部22eでは、圧縮の影響を実質的に受けないため、凹部22eの厚み方向内側の部分の正極合材層22は、正極活物質が比較的低い充填密度の粗部22gとなっている。
【0038】
<本実施形態の主な効果>
図8に示すように、本実施形態の正極板2は、このような構成を備えているため、凹部22eの厚み方向内側の部分の正極活物質の充填密度が低く、通気性の高い粗部22gから正極合材層22の内部に電解液5が浸透やすい。なお、塗工側の表面22aにおける凹部22eを説明したが、塗工側と反対側の表面22cにおいても、同様に凹部22eが形成される。この場合も、凹部22eの厚み方向の内側内部の部分に粗部22gが存在することになる。
【0039】
一方、正極合材層22全体の正極活物質の充填密度を低下させることがないので、正極合材層22全体の正極活物質の含有量を減らすこともなく、電池容量を確保できる。
このように正極板2全体として電解液5の濡れ性を向上させることで、電池容量の確保と内部抵抗(DC-IR)の改善を達成することができる。
【0040】
以下、本実施形態のニッケル水素蓄電池1及びその製造方法を詳細に説明する。
<ニッケル水素蓄電池1の構成>
図1は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の外観構造を示す斜視図である。
【0041】
<電池モジュール>
図1に示すように、ニッケル水素蓄電池1は、複数の電池セル12を備えた電池モジュールとして構成される。ニッケル水素蓄電池1は、その外観が角形板状の密閉式電池である。複数(ここでは6個)の電池セル12を収容可能な一体電槽を構成する電池ケース13と、電池ケース13の開口部を封止する蓋体14とを備えている。電池ケース13には、電気的に直列に接続された6個の電池セル12が収容されている。これらの電池セル12の電力は、電池ケース13に設けられた正極接続端子13a及び負極接続端子13bから取り出される。
【0042】
<ニッケル水素蓄電池の内部構造>
図2は、ニッケル水素蓄電池1の電池モジュールについて、断面構造を含む部分斜視図である。
図2に示すように、電池ケース13及び蓋体14は、アルカリ性の電解液に対して耐性を有する樹脂材料であるポリプロピレン(PP)及びポリフェニレンエーテル(PPE)を含んで構成されている。そして電池ケース13の内部には、複数の電池セル12を区画する隔壁18が形成されており、この隔壁18によって区画された部分が、電池セル12毎の電槽15となる。こうして区画された電槽15内には、水酸化カリウム(KOH)を主成分とする水系電解質であるアルカリの電解液5とともに、電極群6が収容されている。
【0043】
隔壁18の上部には各電池セル12の接続に用いられる貫通孔17が形成されている。貫通孔17は、正極集電板27の上部に突設されている接続突部、及び負極集電板37の上部に突設されている接続突部の2つの接続突部同士が貫通孔17を介してスポット溶接等により溶接接続される。このことで、各々隣接する電池セル12の電極群6を電気的に直列接続させる。貫通孔17のうち、両端の電池セル12の各々外側に位置する貫通孔17は、電池ケース13の長手方向の端部上方で正極接続端子13a又は負極接続端子13b(
図1参照)が装着される。正極接続端子13aは、正極集電板27の接続突部と溶接接続される。負極接続端子13bは、負極集電板37の接続突部と溶接接続される。こうして直列接続された電極群6、すなわち複数の電池セル12の総出力が正極接続端子13a及び負極接続端子13bから取り出される。
【0044】
<電極群6>
図3は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1に設けられる電極群6の断面図である。
図3に示すように、電極群6は、矩形状の正極板2及び負極板3がセパレータ4を介して積層して構成されている。このとき、正極板2、負極板3及びセパレータ4が積層された方向が厚み方向Dである。
【0045】
電極群6の正極板2及び負極板3は、極板の面方向であって互いに反対側の側部に突出されることで構成されるリード部を備える。正極板2のリード部21l(
図6、
図7参照)の側端縁に正極集電板27がスポット溶接等により接合される。また、負極板3のリード部(不図示)の側端縁に負極集電板37がスポット溶接等により接合されている。
【0046】
<正極板2の構成>
続いて、
図6~
図10を参照して、正極板2の構成を説明する。正極板2は、正極集電体21と、正極集電体21に充填された正極合材層22を有する。正極合材層22は、正極活物質、添加物(導電材、結着材、増粘剤等)を有する。
【0047】
<正極集電体21>
図6~8に示すように正極集電体21は、基板となる3次元金属多孔体であるニッケルの発泡体からなる長方形の板状に形成される。
【0048】
正極集電体21は、発泡金属の一つである発泡ニッケルを用いている。発泡ニッケルは、内部に多数の細孔を有し、容易に圧縮することが可能である。発泡ニッケルの製造方法は特に限定されないが、例えば、発泡ウレタンの骨格表面にニッケルメッキを施した後、発泡ウレタンを焼失させることによって製造される。
【0049】
図9に示すように、このように製造した正極集電体21は、3次元網状の骨部21nを備える。この3次元網状の骨部21nの間隙には、孔部21oが多数形成される。孔部21oは、相互に連通するものとなっている。また、孔部21oの大きさは、ばらつきがある。例えば
図9の左側に示す孔部21oの開口部径Oは、径O1であり、右側に示す孔部21oの開口部径Oは、径O2となっている。この開口部径Oは、例えば、水銀圧入法で測定される。
【0050】
正極集電体21は、このような構造であるため容易に圧縮により押し潰される。正極集電体21の周縁部は押し潰されて密度が高くなって強度が増しており、正極集電体21の形状を維持する枠としての機能を有する。また、周縁部は、多孔性の構造が潰れて通気性が低下しているため、中央部に比べて表面からの電解液5の吸収が悪くなっている。正極集電体21は、正極合材層22をその3次元の網状に構成された骨部により形成される空間に担持する担体の機能と、正極合材層22中の正極活物質から電流を集める集電体の機能とを有する。
【0051】
図6及び
図7に示すように、リード部21lは、長方形の正極集電体21の一方の長辺において、その長さ方向Lの中央部に鉄材等の金属材が溶接されることによって形成されている。このリード部21lは、正極集電体21の厚み方向Dの中央部に設けられている。
【0052】
リード部21lは、正極集電体21の一方の長辺において圧縮され密度が高くなって強度が高い枠部に鉄材等の金属部材が溶接される。この金属部材の一方の表面に接続面が形成されている。リード部21lは、その上部に突設されている接続突部で隣接する電池セル12の正極接続端子13aに接続される。
【0053】
また、本実施形態においては、正極集電体21の塗工工程(S13)の前の厚みを、0.5mm以上、1.0mm以下とすることが望まれる。発泡ニッケルは、細孔の大きさの平均が300μm以上、600m以下のものを用いることが望まれる。
【0054】
<正極合材ペースト25>
正極合材層22となる正極合材ペースト25は、水酸化ニッケルを主成分とする正極活物質粒子、コバルト(Co)からなる導電材、増粘剤、及び結着材等及び水などの溶媒を含有している。
【0055】
図14は、従来の正極合材ペーストの組成の一例と、本実施形態の正極合材ペースト25の組成の一例の比較表である。
図14に示すように、本実施形態の正極合材ペースト25は、溶媒である水を除いた組成(wt%)は、正極活物質としての水酸化ニッケルが、85(wt%)以上、95(wt%)以下が望まれる。導電材としてのコバルト(Co)が、5(wt%)以上、10(wt%)以下が望まれる。また、電位の調整のために酸化亜鉛が、0.5(wt%)以上、1.5(wt%)以下が望まれる。また、酸化イットリウムが、0.5(wt%)以上、1.5(wt%)以下が望まれる。増粘剤としての、カルボキシメチルセルロース(CMC)が、0.01(wt%)以上、0.2(wt%)以下が望まれる。増粘剤として、アルギン酸ナトリウムが、0.01(wt%)以上、0.2(wt%)以下が望まれる。そして、結着材として、フッ素系結着材が、0.05(wt%)以上、0.3(wt%)以下が望まれる。
【0056】
ここで「フッ素系結着材」は、結着材として好ましい性能を発揮するが、乾燥時に極板表面に偏析するという問題がある。本実施形態では、凹部22eからの電解液5の浸透を促進することでこのような問題を解決したので、フッ素系結着材を用いることができるようになっている。詳しくは後述する。
【0057】
本実施形態の正極合材ペースト25は、正極活物質、導電材、結着材、増粘材等を水などの溶媒によりペースト状としたものである。
溶媒及び増粘剤により粘度V[mPa・s]が調整される。なお、当該の値は、せん断速度10[s-1]の場合の値を示している。粘度V[mPa・s]は、50[mPa・s]以上、2000[mPa・s]以下が望ましい。さらに望ましくは200[mPa・s]以上、1000[mPa・s]である。本実施形態では、例えば500[mPa・s]に調整される。
【0058】
<本実施形態の正極合材ペースト25の特徴>
図11に示すように、従来技術の正極合材ペーストでは、増粘剤としてアルギン酸ナトリウムが含まれていない。この点で、粘度[mPa・s]が調整されていない。また、結着材としてフッ素系結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)が含まれていない点で相違する。この点で、結着力が低い。
【0059】
<正極活物質>
正極活物質としては、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル等のニッケル酸化物を主成分とする粒子状のものが挙げられる。
【0060】
<導電材>
導電材は、金属または金属化合物であり、例えば、金属コバルト(Co)、一酸化コバルト(CoO)、オキシ水酸化コバルト(CoOOH)等のコバルト化合物であってニッケル酸化物の表面を被覆している。導電性の高いオキシ水酸化コバルトは、正極内において導電性ネットワークを形成し、正極の利用率を高めることから好ましい。
【0061】
<増粘剤>
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びアルギン酸ナトリウムが好適に使用できる。また、キサンタンガムなどのグルコース系のものや、アクリル酸ナトリウム等のアクリル系のものが例として挙げられる。特に、本実施形態の正極合材ペースト25では、アルギン酸ナトリウムが、凹部22e形成に重要な役割を担っている。
【0062】
<結着材>
結着材として、フッ素系結着材を含有している。なお、フッ素系結着材としては、例えば、有機溶剤系のポリフッ化ビニリデン(PVDF)や、水性ディスパージが挙げられる。フッ素系結着材は、結着作用が良好である反面、正極合材層22の表面において偏析するという性質がある。本実施形態では、そのような偏析をした場合でも、正極合材層22への電解液5の浸透を容易にする構成である。そのため、本実施形態では、偏析しやすいフッ素系結着材についても有効に利用することができる。
【0063】
さらに結着材としては、ルブロン(ダイキン工業株式会社の登録商標)等のラテックス系や、ポリエチレンオキサイド(PEO)も例として挙げられる。
<溶媒>
本実施形態では、溶媒として水(H2O)を用いている。溶媒は、増粘剤とともに、正極合材ペースト25の粘度調整に用いられる。添加量は、凹部22eの形成を勘案しながら調整する。
【0064】
<正極合材層22>
上述した正極合材ペースト25が、塗工工程(S13)で正極集電体21に塗工され、乾燥工程(S14)、整形・プレス工程(S15)を経て正極合材層22が形成される。詳細は後述する。
【0065】
<負極板3>
負極板3は、長方形のパンチングメタルなどからなる板状の負極集電体31を備える。負極集電体31は、機械的な基板であるとともに、負極活物質からの電流を集電する集電体として機能する。また、負極集電体31に塗布された水素吸蔵合金(MH)を備える。水素吸蔵合金の種類は特に限定されないが、例えば、希土類元素の混合物であるミッシュメタルとニッケルとの合金や、当該合金の一部を、アルミニウム、コバルト、マンガン等の金属に置換したものである。この負極板3は、負極合材ペーストが塗工される。負極合材ペーストは、水素吸蔵合金に、カーボンブラック等の増粘材、スチレン‐ブタジエン共重合体等の結着材を添加して、負極合材ペースト状に加工したものである。負極板3は、負極合材ペーストを、パンチングメタル等の芯材からなる負極集電体31に充填した後、乾燥、圧延、切断することによって製造される。
【0066】
<セパレータ4>
セパレータ4は、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の不織布、もしくは必要に応じてこれにスルホン化などの親水処理を施したものである。
【0067】
こうした正極板2及び負極板3及びセパレータ4が使用されて電池モジュールが製造される。
<電解液5>
電解液5は、セパレータ4の中に保持され、正極板2と負極板3との間でイオンを伝導させる。電解液5は、例えば、水酸化カリウム(KOH)を溶質の主成分とするアルカリ性水溶液である。
【0068】
<ニッケル水素蓄電池1の製造工程>
図4は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の製造工程を示すフローチャートである。次に、上述のような構成の本実施形態のニッケル水素蓄電池1の製造方法について
図4を参照して説明する。ニッケル水素蓄電池1の製造工程は、源泉工程(S1)、電極群製造工程(S2)、電極群組付け工程(S3)、注液工程(S4)、封止工程(S5)、検査工程(S6)からなる。
【0069】
源泉工程(S1)では、電池要素である正極板2、負極板3、セパレータ4をそれぞれ作成する。電極群製造工程(S2)では、源泉工程(S1)で製造した正極板2、負極板3、セパレータ4を積層し、正極集電板27、負極集電板37を溶接して
図3に示すような電極群6を製造する。電極群組付け工程(S3)では、電極群製造工程(S2)で製造した電極群6を、
図2に示すように一体電槽である電池ケース13の各電槽15に収容する。そして、各電槽15にそれぞれ収容された電極群6を溶接等により電気的に接続し、正極接続端子13a、負極接続端子13b(
図1参照)を取り付ける。注液工程(S4)では、電池ケース13の各電槽15に電解液5を注液する。封止工程(S5)では、注液工程(S4)で注液が完了した電池ケース13に蓋体14を装着し、封止する。以上で、本実施形態の電池モジュールであるニッケル水素蓄電池1の組み立てが終了する。検査工程(S6)では、このように組立が終了したニッケル水素蓄電池1の初充電、エージング、内部抵抗(DC-IR)検査、OCV検査、自己放電検査等を行う。そして、これらに合格したものが製品としてのニッケル水素蓄電池1の電池モジュールとなる。
【0070】
<正極板2の製造工程>
図5は、本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極板の製造工程を示すフローチャートである。次に、正極板2の製造工程について
図5を参照して詳細に説明する。この正極板2の製造工程は、ニッケル水素蓄電池1の源泉工程(S1)の一部をなす工程である。
【0071】
正極板の製造工程は、正極集電体製造工程(S11)、正極合材ペースト製造工程(S12)、塗工工程(S13)、乾燥工程(S14)、整形・プレス工程(S15)、正極合材ペースト25の調整(S16)からなる。
【0072】
<正極集電体製造工程(S11)>
まず、正極集電体製造工程(S11)は、正極集電体21を製造する工程である。
まず、長尺の発泡ニッケルの薄板から、所定のサイズの正極集電体21が切断工程により切り取られる。続いて、整形・プレス工程で所定厚に整形された正極集電体21の周縁部を圧縮して、所定の長さ、幅に整形する。整形された正極集電体21の周縁部は、圧縮されて潰されて、密度が高くなる。密度が高くなると機械的な強度が上がり、正極集電体21の枠として、形状を維持する。なおこの周縁部は圧縮されて潰されて、多孔性の発泡ニッケルの空間が潰れて通気性が下がり、電解液5が吸収されにくくなっている。
【0073】
この正極集電体21の周縁部の一方の長辺の中央部分に、
図6、
図7に示すようなリード部21lを溶接する。
<正極合材ペースト製造工程(S12)>
正極合材ペースト製造工程(S12)では、前述したような正極合材ペースト25を製造する。正極合材ペースト25は、正極活物質粒子、導電材、結着材、増粘剤等に、溶媒などを混合して、所定の粘度V[mPa・s]のペースト状とする。
【0074】
<塗工工程(S13)>
塗工工程(S13)では、正極合材ペースト製造工程(S12)で製造した正極合材ペースト25を、正極集電体製造工程(S11)で製造した正極集電体21に塗工する。
【0075】
図15は、本実施形態における塗工装置の一例を示す斜視図である。
図16(a)は、本実施形態における塗工工程を示す斜視図である。
<塗工機8>
図15に示すように、正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布する塗工機8は、正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布するダイノズル81と、支持部材85と、ステージ86とを備えている。
【0076】
<ダイノズル81>
ダイノズル81は、ダイ82と、ノズル83とを備える。ダイ82は、タンクなどの供給部(不図示)より供給配管を通じて供給される正極合材ペースト25を高圧で貯留する。ノズル83は、正極集電体21の上面(本実施形態では正極合材層22の粗側表面22a側の面)に対して対向する先端部に吐出口を備えている。吐出口は、上面21jに対して所定のクリアランスを持って離間している。ノズル83は、第2方向Y(正極集電体21の幅横行W)に延び、塗布領域21a~21dと対応するように吐出口が区画されており、塗布領域21a~21dの上面21jに対して正極合材ペースト25を吐出する。吐出口から吐出された正極合材ペースト25は、上面21jに至るまで流下する。
【0077】
ダイノズル81は、正極集電体21の上面21jに対して正極合材ペースト25を吐出するにあたって、ノズル83に対して正極合材ペースト25の未塗布側となる領域に、押さえローラ84を備えている。押さえローラ84は、ノズル83によって上面21jに正極合材ペースト25が塗布される直前において、上面21jに接触し、正極集電体21を支持部材85の方向へ押さえ付ける。これにより、押さえローラ84は、正極集電体21のうねりを取り除き、ノズル83と上面21jとの間隔を一定にする。
【0078】
<支持部材85>
支持部材85は、ノズル83によって正極合材ペースト25が正極集電体21の上面21jに塗布されるまで塗布領域21a~21dを下面21k側から支持する。
【0079】
図17(a)は、ニッケル基材と第1支持部と第2支持部との位置関係を示す平面図である。
図17(b)はペーストが塗布される前のニッケル基材が第1支持部および第2支持部に支持された状態を示す断面図である。
図17(c)は、(b)の拡大断面図である。
【0080】
図17(a)~(c)に示すように、支持部材85は、第1支持部85aと、挿通部85bと、連結部85cを備えている。第1支持部85aは、塗布領域21a~21dの各々を下面21k側から接触して支持する。挿通部85bは、互いに隣り合う第1支持部85aの間に設けられる。連結部85cは、第2方向Yにおいて挿通部85bによって互いに離間した第1支持部85aを連結する(
図15参照)。そして、支持部材85は、全体がくし型形状を有している。
【0081】
<第1支持部85a>
第1支持部85aは、塗布領域21a~21dに対応して4つ設けられており、各第1支持部85aは、第1方向Xに延び、互いに平行に離間している。各第1支持部85aにおいて、塗布領域21a~21dを支持する支持面は、一例として、安定して支持でき、さらに、塗布領域21a~21dの下面21kに対して滑り易い平坦面で構成されているとよい。これにより、第1支持部85aが塗布領域21a~21dの下方から抜け易くする。
【0082】
各第1支持部85aを連結する連結部85cと反対側の先端部は、少なくとも押さえローラ84の下方に位置している。これにより、各第1支持部85aは、押さえローラ84と協働してしっかりと正極集電体21を挟持できる。さらに好ましくは、第1支持部85aの先端部は、ノズル83の下方にも位置する長さを備えていてもよい。すなわち、正極合材ペースト25が正極集電体21の上面21jから下面21kに浸透するまでの間は、第1支持部85aが塗布領域21a~21dの下面21kを接触して支持している構成としてもよい。これにより、第1支持部85aは、塗布領域21a~21dの下面21kを、浸透した正極合材ペースト25と接触する直前まで支持することができる。
【0083】
<挿通部85b>
互いに隣り合う第1支持部85aの間に位置する挿通部85bは、厚み方向Dに貫通したスリットであって、第1方向Xに延び、ノズル83の下方が開口端となっている。
【0084】
<第2支持部85d>
図17(c)に示すように、支持部材85は、ダイノズル81とステージ86との間に配置する部材である。この支持部材85は、挿通部85bは、ステージ86が備えた第2支持部85dが挿通され、第2支持部85dが正極集電体21の非塗布領域21e~21iの下面21kを支持できるようにする。すなわち、各挿通部85bの幅(互いに隣り合う第1支持部85aの間の間隔)は、一例として、第2支持部85dが挿通可能な幅であって、第2支持部85dの幅より若干広い。
【0085】
ダイノズル81と支持部材85とは、連結部材などを備えた連結機構(図示を省略)を介して連結されており、同期して、正極集電体21に対して第1方向Xのうちの1つである矢印で示す移動方向に移動する。すなわち、正極集電体21およびステージ86は、移動することなく、ダイノズル81と支持部材85とが正極集電体21およびステージ86に対して矢印で示す移動方向に移動する。
【0086】
<ステージ86>
ステージ86は、支持部材85および支持部材85と同期するダイノズル81が第1方向Xに移動可能に配置される。ステージ86は、支持部材85の支持面に第2支持部85dを備えている。第2支持部85dは、支持部材85の挿通部85bに挿通され、先端面で正極集電体21の下面21kを支持する。一例として、第2支持部85dは、載置される正極集電体21の第1方向Xに相当する長さ(非塗布領域21e~21iの第1方向Xの長さ)を有している。第2支持部85dにおいて、非塗布領域21e~21iを支持する支持面は、一例として、非塗布領域21e~21iの下面21kに対して滑りにくい平坦面で構成されているとよい。これにより、正極集電体21が支持部材85の矢印で示す移動方向への移動に引き摺られて同方向に移動してしまうことを抑える。
【0087】
具体的には、正極集電体21の上面21jに対して正極合材ペースト25が塗布される前は、塗布領域21a~21dの下面21kが第1支持部85aによって支持され、非塗布領域21e~21iの下面21kが第2支持部85dによって支持される。そして、ダイノズル81および支持部材85が正極集電体21およびステージ86に対して矢印で示す移動方向に移動する。そうすると、正極集電体21の正極合材ペースト25が塗布された部分では、非塗布領域21e~21iの下面21kが第2支持部85dによって支持されるだけとなる。塗布領域21a~21dの下面21kとステージ86との間は、第1支持部85aが抜けることによって空隙部となり、正極集電体21の下面21kにまで浸透した正極合材ペースト25がステージ86と接触することを防ぐ。このため、正極合材層22の塗工側と反対側の表面22cにおいても、凹部22eが非接触で形成されるようになっている。
【0088】
また、挿通部85bに対して第2支持部85dが挿入されることで、第2支持部85dは、ステージ86に対して移動する支持部材85のガイドレールとしても機能し、挿通部85bは、ガイドレールが挿入されるガイド溝としても機能する。なお、ステージ86に対する支持部材85のガイド機構は、挿通部85bおよび挿通部85b以外にも設けることもできる。
【0089】
正極合材ペースト25を正極集電体21の上面21jに対して塗布するとき、支持部材85は、正極集電体21に対して矢印で示す移動方向に移動する。したがって、正極集電体21は、支持部材85の矢印で示す移動方向への移動に引き摺られて移動してしまうおそれがある。そこで、第2支持部85dは、正極集電体21を矢印で示す移動方向に移動しないように保持する保持手段を備えている。保持手段は、真空吸着パットや磁気吸着パットであって、正極集電体21を第2支持部85d上に保持する。
【0090】
<塗工の手順>
図16(b)は、ダイノズル81が正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布する位置を拡大した断面図である。以上のような塗工機8を用いて塗工工程(S13)が、実施される。
図16(a)、
図16(b)を参照して、塗工の手順を説明する。
【0091】
図16(a)、
図16(b)に示すように、ダイノズル81および支持部材85は、同期して順次矢印で示す移動方向に移動する。すると、支持部材85の第1支持部85aは、順次、塗布領域21a~21dの上面21jの下方から退避し、この後、下面21kには、上面21jから下面21kに正極合材ペースト25が浸透してくる。これにより、下面21kの正極合材ペースト25と第1支持部85aとが接触することが抑えられる。すなわち、正極合材ペースト25が塗布された後、正極集電体21は、ステージ86の第2支持部85dによって非塗布領域21e~21iのみが支持されることになる。
【0092】
正極集電体21は、以上のような工程を経て正極合材ペースト25が塗布される。
<塗工工程(S13)における正極合材ペースト25>
塗工工程(S13)では、上述のように、ダイノズル81が正極集電体21に対して正極合材ペースト25を塗布する。このとき、正極合材ペースト25の吐出量は、正極合材層22における目付が200[g/m2]以上、400[g/m2]以下となる範囲で、設定値に調整される。
【0093】
図16(b)に示すように、正極集電体21の上面21jから、正極合材ペースト25が吐出されると、
図6、
図7に示すように、正極集電体21の上面21jでは、塗工幅Wpで正極合材ペースト25が塗工される。塗工された正極合材ペースト25は、正極集電体21の内部に浸透していく。このとき、正極合材ペースト25は、その粘度V[mPa・s]と、表面張力と、濡れ性により、塗工幅Wpより重力により下方へ浸透するにつれて徐々に幅方向Wの幅が小さくなる。
【0094】
図6に示すように、塗工された正極合材ペースト25は塗工幅Wpに塗工されるが、このとき、幅方向Wの端部22dは、長さ方向Lに沿った直線にはならず、幅方向Wに波状にランダムな凹凸が生じる。これは、正極集電体21の骨格構造や、ここに吸収される正極合材ペースト25のムラなどにより生じる。このときの平均的な凹凸の幅を凹凸幅ΔWとする。ここで、塗工幅Wpや、基準塗工幅Wsは、このような凹凸幅ΔWを平均した直線の軌跡となる。
【0095】
<凹部22e>
図6に模式的に示すように、塗工側の表面22a全体に、凹部22eがランダムに形成される。複数の凹部22eは、正極合材層22の塗工側の表面22aにおいて、その表面積100[mm
2]あたりに1か所以上生成されるように製造する。
【0096】
また、それぞれの凹部22eの開口面積が、500[μm2]以上、90000[μm2]以下になるように製造する。好ましくは、2500[μm2]以下である。
すなわち、その開口部径Oは、概ね直径22[μm]以上、300[μm]以下になるように製造する。より好ましくは、50[μm]以下である。
【0097】
さらに、
図10に示すように、凹部22eの深さDhは、50[μm]以上とする。但し、正極合材層22を貫通しない深さであることを条件とする。
次に、
図7は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1の正極板2の正極合材層22の塗工側と反対側の表面22cを示す模式図である。
図7に示すように、塗工側と反対側の表面22cにも、正極合材ペースト25の表面張力により、塗工側の表面22aと同様に凹部22eが形成される。
【0098】
<乾燥工程(S14)>
乾燥工程(S14)では、塗工工程(S13)において正極集電体21に塗工された正極合材ペースト25を、例えば、熱風や冷風、赤外線照射等の方法で乾燥させて、溶媒を蒸発させ、正極合材ペースト25を硬化させて、正極合材層22を形成する。
【0099】
<整形・プレス工程(S15)>
整形・プレス工程(S15)は、乾燥工程(S14)で、正極合材ペースト25を硬化させて、正極合材層22を形成したら、ローラプレス機(図示略)により、正極板2を所定の厚みにプレスするとともに、その表面形状を整える。本発明のプレス工程に相当する。
【0100】
図10(a)に示すように、塗工工程(S15)の直後は、正極合材層22は、全体の正極活物質の充填密度は、概ね均一であるといえる。その後、乾燥工程(S14)では、フッ素系の結着材が表面に偏析して、表面全体の正極活物質の充填密度が高くなっている。そして、整形・プレス工程(S15)では、
図10(a)の状態から、厚み方向Dに圧縮されると、正極板2の全体の厚みは、潰されて薄くなる。このとき、
図10(b)に示すように、凹部22eの深さDhより、圧縮幅Dpが小さい。そのため、凹部22e以外の部分は圧縮力を受けて圧縮される。一方、凹部22eの底部22fには、ほとんど圧縮力が及ばない。その結果、凹部22e以外の部分と、その直下から塗工側と反対側の表面22cまでの部分は、圧縮されて正極活物質の充填密度が比較的高い密部22hとなる。特に、直接圧縮力を受ける塗工側の表面22aと、塗工側と反対側の表面22cに近い部分は、フッ素系の結着材の偏析による高い充填密度に加え、さらに正極活物質の充填密度が高い圧縮部22iとなる。
【0101】
一方、凹部22eの直下から塗工側と反対側の表面22cまでの間は、圧縮力をほとんど受けないため、正極活物質の充填密度は変化せず、相対的に周囲より正極活物質の充填密度が低い粗部22gとなる。なお、ここでは塗工側の表面22aについて、詳細に説明したが、塗工側と反対側の表面22cにおいても同様に凹部22eの厚み方向の内側内部は、相対的に周囲より正極活物質の充填密度が低い粗部22gとなる。
【0102】
<正極合材ペースト25の調整(S16)>
塗工工程(S13)では、上述したように、目標とする塗工側の表面22aにおける凹部22eが形成される。また、整形・プレス工程(S15)では、凹部22e以外の部分が圧縮される。そこで、整形・プレス工程(S15)が完了した時点で、完成した正極板2の凹部22eの数量、大きさ、深さなどを検査して、設計値と比較し、正極合材層22が適切に構成されているかを検査する。検査の結果、正極合材層22が適切ではない場合(S16:NO)は、再度正極合材ペースト製造工程(S11)に戻る。そして、正極合材ペースト25の粘度V[mPa・s]や、他のせん断速度[s-1]などを調整する。正極合材層22が適切である場合(S16:YES)は、完成品となる。
【0103】
なお、正極合材ペースト25の調整(S16)に関しては、必ずしも常時行わなくても、例えば組成が変わる生産ロットごとに行うようにすることができる。
以上で、正極板2の製造工程が完了する。その後は、電極群製造工程(S2)に進み、源泉工程(S1)で製造した負極板3、セパレータ4を積層し、正極集電板27、負極集電板37を溶接して電極群6を製造する。
【0104】
(本実施形態の実験例)
以上説明したような本実施形態の正極板2の実施例を、条件を変えた比較例1、比較例2と比較して説明する。実施例の条件は、
図14に示す組成の正極合材ペースト25とした。
【0105】
<正極集電体21>
正極集電体21は、実施例、比較例1、比較例2と共通のものを用いた。すなわち発泡ニッケル製の材料で、孔部21oの平均の内径は450[μm](d50)のものを用いた。
【0106】
<目付量[g/m2]>
また、ここに塗工する目付量も、実施例、比較例1、比較例2は、315[g/m2]と共通の値とした。
【0107】
<正極合材ペースト25>
つぎに、正極合材ペースト25は、実施例は、せん断速度10[s-1]において、粘度V=500[mPa・s]とした。比較例1は、実施例と共通の正極合材ペースト25を用いた。一方、比較例2では、せん断速度10[s-1]において、粘度V=2500[mPa・s]とした。
【0108】
<増粘剤>
増粘剤については、実施例は、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びアルギン酸ナトリウムを増粘剤として添加した。比較例1では、カルボキシメチルセルロース(CMC)のみで、アルギン酸ナトリウムは添加しなかった。
【0109】
比較例2は、実施例とおなじ、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びアルギン酸ナトリウムを増粘剤として添加した。
このような条件で、実験を行った。
【0110】
<結果>
図11は、実施例の正極板2の断面のSEM写真である。
図12は、比較例1の正極板2の断面のSEM写真である。
図13は、比較例2の正極板2の断面のSEM写真である。
【0111】
実施例では、明確に凹部22eが観察できた。一方、比較例1、比較例2は、いずれも凹部22eが形成されなかった。
<評価>
○実施例と粘度V[mPa・s]が同一で、「アルギン酸ナトリウム」を添加しない比較例1は、凹部22eが形成されなかった。「アルギン酸ナトリウム」が、凹部22eの形成に重要な役割を担っていることが明らかになった。
【0112】
○「アルギン酸ナトリウム」を添加したが、粘度V[mPa・s]が2500とした比較例2は、凹部22eが形成されなかった。凹部22eの形成に、粘度V[mPa・s]が重要な影響を与えることが分かった。つまり粘度が高すぎると凹部22eを形成することができないことが明らかになった。
【0113】
○正極集電体21は、従来のものと比べると、目付量は少なく設定している。このため、目付量は、315[g/m2]の前後が適正であることが分かった。
○正極集電体21の孔部21oの平均の内径は450[μm](d50)の前後が適正であることが分かった。
【0114】
○但し、例えば同じ粘度でも、バインダーの種類等によっても、凹部22eの形成の有無に大きな影響がある。そのため、画一的に条件は設定できず、一定の試行錯誤は必要である。但し、粘度V[mPa・s]の調整は、他の条件の違いを広くカバーするため、当業者であれば、その条件を設定することは十分に可能である。
【0115】
○本発明者らは、このような実験を条件を変えて多数行い、上述のような凹部22eの形成に適当な条件を特定した。
(本実施形態の作用)
図8に示す凹部22eを形成した正極板2を備えたニッケル水素蓄電池1の実施例と、
図20に示す従来の凹部22eを備えない正極板2を備えたニッケル水素蓄電池1の比較例について、内部抵抗(DC-IR)を測定して比較した。
【0116】
DC-IR測定方法は、電池容量に対し、蓄電量(SOC)が50%になるまで充電を実施する。10分休止した後、10Aにて10秒間放電を実施する。1分休止した後、50Aにて10秒間放電を実施する。各電流値と10秒目の電圧をプロットした際の傾きよりDC-IRを算出した。
【0117】
その結果、本実施形態の正極板2を用いた実施例は、比較例と比較して、概ね1%のDC-IRの低下が確認できた。
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のニッケル水素蓄電池及びその製造方法では、正極板2の電解液5の浸透を改善することができる。
【0118】
(2)
図8に示すように、電解液5は、凹部22eの直下の正極活物質の充填密度が低く、通気性の高い粗部22gから正極合材層22の内部に浸透やすい。
(3)一方、正極合材層22全体の正極活物質の充填密度を低下させることがないので、正極合材層22全体の正極活物質の含有量を減らすこともなく、電池容量を確保できる。
【0119】
(4)正極板2全体として電解液5の濡れ性を向上させることで、電池容量の確保と内部抵抗(DC-IR)の改善を達成することができる。
(5)このようなニッケル水素蓄電池1の製造において、ロットが変わっても、粘度V[mPa・s]の調整により、的確に凹部22eを形成することができる。
【0120】
(6)凹部22e直下の厚み方向の部分の活物質の充填密度が他の充填部分と比較して20%以上粗な状態を有するため、凹部22eにおいて、有効に電解液5の吸収を良くすることができる。
【0121】
(7)凹部22eの開口面積を、2500[μm2]以上、90000[μm2]以下とし、かつ、凹部22eの深さは、50[μm]以上で、かつ、正極合材層22を貫通しない深さとした。このため、凹部22eにおいて、有効に電解液5の吸収を良くすることができる。
【0122】
(8)複数の凹部22eは、正極合材層22の塗工側の表面22aにおいて、その表面積100[mm2]あたりに1か所以上設けた。このため凹部22eにおいて、有効に電解液5の吸収を良くすることができる。
【0123】
(9)正極集電体21の孔部21oの平均開口部径Oを、300[μm]以上、600[μm]以下とした。そのため、正極合材ペースト25が、浸透し易く、凹部22eが形成されやすくなった。
【0124】
(10)正極集電体21に充填された正極合材層22の目付が、200[g/m2]以上、400[g/m2]以下とした。このため、正極集電体21に適量の正極合材ペースト25が充填され、上方にあふれず、下方に流下してしまうことがないので、凹部22eが形成されやすくすることができた。
【0125】
(11)凹部22eは、塗工側の表面22aのみならず、塗工側と反対側の表面22cにおいても形成されるため、このため凹部22eにおいて、有効に電解液5の吸収を良くすることができる。
【0126】
(12)整形・プレス工程(S15)では、塗工工程(S13)で形成された凹部22eを残すように厚み方向Dに正極板2を圧縮するため、凹部22eの内部の正極合材層22の正極活物質の充填密度を上げることがない。そのため、凹部22eにおいて、有効に電解液5の吸収を良くすることができる。
【0127】
(13)正極合材ペースト25にカルボキシメチルセルロース及びアルギン酸ナトリウムを含有しているため、適切に粘度V[mPa・s]を調整することができる。特に、アルギン酸ナトリウムは、凹部22eを形成しやすくする。
【0128】
(別例)
本発明は、上記実施形態に拘わらず、以下のようにして実施することができる。
○本実施形頼では、おもに粘度V[mPa・s]を調整することで、凹部22eの形成を図っていた。しかし、凹部が形成される条件は、粘度V[mPa・s]以外にも、正極集電体の孔部21oの構成、濡れ性の違い、正極合材層に含まれる正極活物質の粒子、結着材の大きさ、性質、目付量[g/m2]等様々な条件がある。粘度V[mPa・s]以外のこれらの条件により、凹部22eが形成できるようにしてもよい。すなわち粘度V[mPa・s]は、凹部22eを形成するための一手段にすぎず、本発明はこれに限定されない。
【0129】
○本実施形態のニッケル水素蓄電池1は、車両の駆動用の電池を例に説明したが、電池の用途は限定されず、航空機や船舶のほか、定置用にも使用することができる。
○各図面は、本実施形態のニッケル水素蓄電池1を説明するために模式的に示す図もあり、必ずしも構成要素の数量、寸法のバランスは、誇張されたものもあり正確ではない場合がある。
【0130】
○
図4、
図5に示すフローチャートは例示であり、その手順を付加し削除し入れ替え、又は変更することができる。例えば、正極集電体製造工程(S11)、正極合材ペースト製造工程(S12)などは、順序を問わない。
【0131】
○正極合材ペーストの粘度V[mPa・s]などの数値は、実施形態における例示であり、本発明がこれらの数値や範囲に限定されることを意図するものではない。当業者によりニッケル水素蓄電池1の構成に合わせて最適化ができる。
【0132】
○本発明は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限り、当業者により、その構成を付加し削除し又は変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0133】
1…ニッケル水素蓄電池
2…正極板
3…負極板
4…セパレータ
5…電解液
6…電極群
8…塗工機
12…電池セル
13…電池ケース(一体電槽)
13a…正極接続端子
13b…負極接続端子
14…蓋体
15…電槽
16…開口部
17…貫通孔
18…隔壁
21…正極集電体
21a~21d…塗布領域
21e~21i…非塗布領域
21j…上面
21k…下面
21l…リード部
21m…周端内周面
21n…骨部
21o…孔部
22…正極合材層
22a…(塗工側の)表面
22b…(正極合材層の)内部
22c…(塗工側の反対側の)表面
22d…幅方向Wの端部
22e…凹部
22f…底部
22g…粗部
22h…密部
22i…圧縮部
25…正極合材ペースト
25e…上面
25f…下面
27…正極集電板
31…負極集電体
37…負極集電板
81…ダイノズル
82…ダイ
83…ノズル
84…押さえローラ
85…支持部材
85a…第1支持部
85b…挿通部
85c…連結部
85d…第2支持部
86…ステージ
91…吸着パッド
L…長さ方向(塗工方向)
W…幅方向(短辺方向)
D…厚み方向
Dh…(凹部の)深さ
Dp…圧縮幅
Wp…(塗工側の表面の)塗工幅
Ws…(塗工側と反対側の表面の)塗工幅
ΔW…(幅方向Wの正極合材層の端部22dの)凹凸幅
V…粘度[mPa・s]
O…開口部径[μm]
O1…開口部径[μm]
O2…開口部径[μm]