(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097004
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20230630BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230630BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20230630BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/36
C08K5/5415
C08K5/544
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213117
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】三輪 祥多郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002AC111
4J002DJ016
4J002EX038
4J002EX077
4J002FD016
4J002FD207
4J002FD208
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ウェットグリップ性能と硬度の背反性能を改善することができるゴム組成物を提供する。
【解決手段】実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムとシリカと窒素含有アルコキシシランを含むゴム組成物であって、窒素含有アルコキシシランの含有量Vをシリカアグリゲート総表面積Sで除した値V/Sが5.4×10-5~5.4×10-4mL/m2である。ここで、Vは、ジエン系ゴム100g当たりの窒素含有アルコキシシランの含有量(mL)である。Sは、ゴム組成物を加硫した加硫ゴムにX線を照射して小角X線散乱測定することにより得られたシリカアグリゲートの慣性半径と、ジエン系ゴム100g当たりのシリカの含有量と、から求められる、ジエン系ゴム100g当たりのシリカアグリゲート総表面積(m2)である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムとシリカと窒素含有アルコキシシランを含むゴム組成物であって、
前記ジエン系ゴム100g当たりの前記窒素含有アルコキシシランの含有量をV(mL)とし、
前記ゴム組成物を加硫した加硫ゴムにX線を照射して小角X線散乱測定することにより得られたシリカアグリゲートの慣性半径と、前記ジエン系ゴム100g当たりの前記シリカの含有量と、から求めた前記ジエン系ゴム100g当たりのシリカアグリゲート総表面積をS(m2)として、
前記窒素含有アルコキシシランの含有量Vを前記シリカアグリゲート総表面積Sで除した値V/Sが5.4×10-5mL/m2以上5.4×10-4mL/m2以下である、
ゴム組成物。
【請求項2】
更にアルキルアルコキシシランを含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記シリカの含有量が前記ジエン系ゴム100質量部に対して5~150質量部であり、前記窒素含有アルコキシシランと前記アルキルアルコキシシランの合計の含有量が前記シリカの含有量に対して3~15質量%であり、前記窒素含有アルコキシシランと前記アルキルアルコキシシランの合計の含有量のうち前記窒素含有アルコキシシランの含有割合が10~80モル%である、請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記アルキルアルコキシシランは、炭素数が3~20であるアルキル基を持つ、請求項2又は3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いて作製された空気入りタイヤ。
【請求項6】
ジエン系ゴムとシリカと窒素含有アルコキシシランとを含むゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴムであって、
前記ジエン系ゴム100g当たりの前記窒素含有アルコキシシランの含有量をV(mL)とし、
前記加硫ゴムにX線を照射して小角X線散乱測定することにより得られたシリカアグリゲートの慣性半径と、前記ジエン系ゴム100g当たりの前記シリカの含有量と、から求めた前記ジエン系ゴム100g当たりのシリカアグリゲート総表面積をS(m2)として、
前記窒素含有アルコキシシランの含有量Vを前記シリカアグリゲート総表面積Sで除した値V/Sが5.4×10-5mL/m2以上5.4×10-4mL/m2以下である、加硫ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、及びそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤには湿潤路面でのグリップ性能であるウェットグリップ性能を向上することが求められている。そのため、タイヤに用いられるゴム組成物において、ウェットグリップ性能を向上させるための様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、末端にアルコキシシラン化合物を反応させた共役ジエン系重合体を含むゴム組成物に分岐構造を有する特殊なシリカを配合し、それにより低燃費性、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性を改善することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、シリコーンオイルで処理された乾式シリカをシランカップリング剤とともにゴム組成物に配合し、それにより低転がり抵抗性能、ウェット性能及びゴム硬度を向上することが記載されている。
【0005】
しかしながら、ウェットグリップ性能と硬度は、例えば硬度を高めるとウェットグリップ性能が低下するという背反性能であるため、両立することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-105242号公報
【特許文献2】特開2016-104840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、ウェットグリップ性能と硬度の背反性能を改善することができるゴム組成物、及びそれを用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムとシリカと窒素含有アルコキシシランを含むゴム組成物であって、前記ジエン系ゴム100g当たりの前記窒素含有アルコキシシランの含有量をV(mL)とし、前記ゴム組成物を加硫した加硫ゴムにX線を照射して小角X線散乱測定することにより得られたシリカアグリゲートの慣性半径と、前記ジエン系ゴム100g当たりの前記シリカの含有量と、から求めた前記ジエン系ゴム100g当たりのシリカアグリゲート総表面積をS(m2)として、前記窒素含有アルコキシシランの含有量Vを前記シリカアグリゲート総表面積Sで除した値V/Sが5.4×10-5mL/m2以上5.4×10-4mL/m2以下である。
【0009】
本発明の一実施形態に係る加硫ゴムは、ジエン系ゴムとシリカと窒素含有アルコキシシランとを含むゴム組成物を加硫して得られるものであって、前記ジエン系ゴム100g当たりの前記窒素含有アルコキシシランの含有量をV(mL)とし、前記加硫ゴムにX線を照射して小角X線散乱測定することにより得られたシリカアグリゲートの慣性半径と、前記ジエン系ゴム100g当たりの前記シリカの含有量と、から求めた前記ジエン系ゴム100g当たりのシリカアグリゲート総表面積をS(m2)として、前記窒素含有アルコキシシランの含有量Vを前記シリカアグリゲート総表面積Sで除した値V/Sが5.4×10-5mL/m2以上5.4×10-4mL/m2以下である。
【0010】
前記ゴム組成物は、更にアルキルアルコキシシランを含んでもよい。前記シリカの含有量は前記ジエン系ゴム100質量部に対して5~150質量部でもよい。前記窒素含有アルコキシシランと前記アルキルアルコキシシランの合計の含有量は前記シリカの含有量に対して3~15質量%でもよい。前記窒素含有アルコキシシランと前記アルキルアルコキシシランの合計の含有量のうち前記窒素含有アルコキシシランの含有割合は10~80モル%でもよい。前記アルキルアルコキシシランは、炭素数が3~20であるアルキル基を持つものでもよい。
【0011】
本発明の実施形態に係るタイヤは、上記タイヤ用ゴム組成物を用いて作製されたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、ウェットグリップ性能と硬度の背反性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】小角X線散乱測定における二次元散乱像の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分としてのジエン系ゴムと、シリカと、窒素含有アルコキシシランとを含む。
【0015】
ジエン系ゴムとは、共役二重結合を持つジエンモノマーに対応する繰り返し単位を持つゴムをいい、ポリマー主鎖に二重結合を有する。ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等、ゴム組成物において通常使用される各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。なお、ジエン系ゴムには、必要に応じて末端や主鎖を変性したもの(例えば、末端変性SBR)や、所望の特性を付与するべく改質したもの(例えば、改質NR)も、その概念に包含される。
【0016】
一実施形態において、ジエン系ゴムは、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、及びブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。より好ましくは、ジエン系ゴムは、スチレンブタジエンゴムを含むことである。例えば、ジエン系ゴム100質量部は、スチレンブタジエンゴムを50質量部以上含むことが好ましく、より好ましくはスチレンブタジエンゴムを70質量部以上含むことであり、スチレンブタジエンゴム単独でもよい。
【0017】
スチレンブタジエンゴムとしては、例えば、溶液重合スチレンブタジエンゴム(SSBR)でもよく、乳化重合スチレンブタジエンゴム(ESBR)でもよい。スチレンブタジエンゴムとしては、必要に応じて末端や主鎖が変性された変性スチレンブタジエンゴムが用いられてもよい。
【0018】
シリカとしては、例えば、湿式沈降法シリカ、湿式ゲル化法シリカなどの湿式シリカを用いることが好ましい。シリカのJIS K6430:2008付属書E(多点窒素吸着法:BET法)による窒素吸着比表面積(BET)は、例えば150~250m2/gであることが好ましい。シリカの窒素吸着比表面積は、より好ましくは180~220m2/gである。
【0019】
シリカの含有量は、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して、5~150質量部であることが好ましく、より好ましくは30~120質量部であり、更に好ましくは50~100質量部であり、60~90質量部でもよい。
【0020】
窒素含有アルコキシシランとは、分子中に窒素原子を含むアルコキシシランである。窒素含有アルコキシシランを配合することにより、その水素結合部位の働きによって、分散したシリカ粒子間を取り持つことができ、一定の高次構造を維持しやすくなると考えられる。そのため、シリカによる補強効果を高めてゴム硬度を向上することができる。
【0021】
窒素含有アルコキシシランとしては、アミノ基、ウレイド基、イソシアネート基、シアノ基、アジ基、及びアミド基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有するものが好ましい。すなわち、窒素含有アルコキシシランは、アミノ基、ウレイド基、イソシアネート基、シアノ基、アジ基、及びアミド基からなる群から選択された官能基と、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を有する化合物でもよく、一般にシランカップリング剤と呼ばれているもののうち分子中に窒素原子を含むものを用いることができる。
【0022】
窒素含有アルコキシシランの具体例としては、3-アミノプロピルアルコキシシラン(例えば3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルアルコキシシラン(例えば3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン)などのアミノアルコキシシラン; 3-ウレイドプロピルアルコキシシラン(例えば3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルメチルジメトキシシラン、3-ウレイドプロピルメチルジエトキシシラン)、2-ウレイドエチルアルコキシシラン(例えば2-ウレイドエチルトリメトキシシラン、2-ウレイドエチルトリエトキシシラン、2-ウレイドエチルメチルジメトキシシラン)、ウレイドメチルアルコキシシラン(例えばウレイドメチルトリメトキシシラン、ウレイドメチルメチルジメトキシシラン、ウレイドメチルトリエトキシシラン、ウレイドメチルメチルジエトキシシラン)などのウレイドアルコキシシラン; 3-イソシアネートプロピルアルコキシシラン(例えば3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリプロポキシシラン)、2-イソシアネートエチルアルコキシシラン(例えば2-イソシアネートエチルトリメトキシシラン、2-イソシアネートエチルトリエトキシシシラン)、イソシアネートメチルアルコキシシラン(例えば、イソシアネートメチルトリメトキシシラン、イソシアネートメチルトリエトキシシラン)などのイソシアネートアルコキシシラン; 3-シアノプロピルアルコキシシラン(例えば3-シアノプロピルトリメトキシシラン、3-シアノプロピルトリエトキシシラン)などのシアノアルコキシシラン; 3-アジドプロピルアルコキシシラン(例えば3-アジドプロピルトリエトキシシラン、3-アジドプロピルトリメトキシシラン)、11-アジドウンデシルアルコキシシラン(例えば11-アジドウンデシルトリメトキシシラン)などのアジドアルコキシシラン; トリエトキシシリルプロピルマレインアミド酸などのアミド結合含有アルコキシシランが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
本実施形態に係るゴム組成物は、更にアルキルアルコキシシランを含んでもよい。窒素含有アルコキシシランとアルキルアルコキシシランを併用することにより、シリカ表面を疎水化させつつ一部の表面を親水性に保つことができる。そのため、アルキルアルコキシシランによる分散性の良化によりウェットグリップ性能を向上しつつ、窒素含有アルコキシシランにより一定の高次構造を維持することでゴム硬度を向上することができる。また、アルキルアルコキシシランを配合することにより後述するシリカアグリゲート総表面積Sを大きくすることができ、V/Sの値を調整することができる。詳細には、アルキルアルコキシシランによりシリカ表面が疎水化されることでシリカの分散性が良化し、それによりシリカアグリゲートの大きさを小さくすることができ、シリカアグリゲートの総表面積Sを大きくすることができる。
【0024】
上記アルキルアルコキシシランとしては、アルキルジアルコキシシランでもよいが、アルキルトリアルコキシシランが好ましい。アルキルアルコキシシランとしては、炭素数が3~20であるアルキル基を持つものが好ましく、具体的には、下記式(1)で表されるアルキルトリエトキシシランが好ましく用いられる。式(1)中、R
1は炭素数3~20のアルキル基を示す。アルキル基の炭素数はより好ましくは6~20であり、更に好ましくは10~20である。
【化1】
【0025】
窒素含有アルコキシシランとアルキルアルコキシシランのゴム組成物中における含有量は、両者の合計の含有量が、シリカの含有量に対して、例えば3~15質量%であることが好ましい。すなわち、窒素含有アルコキシシランとアルキルアルコキシシランの合計量がシリカ100質量部に対して3~15質量部であることが好ましい。窒素含有アルコキシシランとアルキルアルコキシシランの合計の含有量は、シリカの含有量に対して、5~12質量%であることがより好ましく、8~12質量%であることが更に好ましい。
【0026】
窒素含有アルコキシシランとアルキルアルコキシシランとの配合比は、両者の合計の含有量における窒素含有アルコキシシランの含有割合が、例えば10~80モル%であることが好ましく、より好ましくは20~60モル%であり、更に好ましくは25~50モル%である。
【0027】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記成分の他に、シリカ以外の充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、オイル、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。なお、シリカを配合する場合に通常配合される硫黄含有シランカップリング剤については、配合してもよいが、一実施形態において、硫黄含有シランカップリング剤は配合しないことが好ましい。
【0028】
充填剤としては、シリカに加えて、カーボンブラックを配合してもよい。すなわち、充填剤は、シリカ単独でもよく、シリカとカーボンブラックの併用でもよい。好ましくは、充填剤はシリカを主成分とすることであり、カーボンブラックの含有量はジエン系ゴム100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは5質量部以下である。
【0029】
加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の含有量は、特に限定するものではないが、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、1~3質量部でもよい。
【0030】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の含有量は、特に限定するものではないが、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、1~4質量部でもよい。
【0031】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、例えば、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、ジエン系ゴムに対し、シリカとともに、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を添加混合する。次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合する。これにより、未加硫のゴム組成物を調製することができる。
【0032】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴム100g当たりの窒素含有アルコキシシランの含有量(体積)をV(mL)とし、小角X線散乱測定することにより得られたジエン系ゴム100g当たりのシリカアグリゲート総表面積をS(m2)として、窒素含有アルコキシシランの含有量Vをシリカアグリゲート総表面積Sで除した値(商)、即ちシリカアグリゲート総表面積当たりの窒素含有アルコキシシラン含有量V/Sが、5.4×10-5~5.4×10-4mL/m2であるものとする。V/Sが5.4×10-5mL/m2未満であると、窒素含有アルコキシシランによるシリカの補強効果が不十分となりゴム硬度を維持することが難しくなる。V/Sが5.4×10-4mL/m2を超えるとシリカの分散性によるウェットグリップ性能の改善効果を得にくくなる。V/Sが上記範囲にあることにより、ウェットグリップ性能と硬度の背反性能を改善することができる。V/Sは、6.0×10-5mL/m2以上であることが好ましく、より好ましくは8.0×10-5mL/m2以上である。V/Sは、また、4.5×10-4mL/m2であることが好ましい。ここで、V/Sの値は有効数字2桁であり、端数処理は四捨五入とする。
【0033】
なお、Vの値は、例えば20mL以下でもよく、0.10~19mLでもよく、0.50~10mLでもよく、0.60~8.0mLでもよい。Sの値は、例えば2.0×103~2.0×104m2でもよく、3.0×103~1.5×104m2でもよく、4.0×103~1.0×104m2でもよい。
【0034】
上記のシリカアグリゲート総表面積Sは、ゴム組成物を加硫した加硫ゴムを用いて測定することにより得られる値である。そのため、本実施形態は、V/Sが5.4×10-5~5.4×10-4mL/m2である加硫ゴムであってもよい。すなわち、一実施形態に係る加硫ゴムは、ジエン系ゴムとシリカと窒素含有アルコキシシランとを含むゴム組成物を加硫して得られるものであって、V/Sが5.4×10-5~5.4×10-4mL/m2である加硫ゴムである。該加硫ゴムは、タイヤなどのゴム製品の一部を構成するものでもよく、ゴム製品の全体を構成してもよい。
【0035】
ここで、シリカアグリゲート総表面積Sとは、ゴム組成物においてジエン系ゴム100g当たりに含まれるシリカについての全てのアグリゲートの表面積の総和である。シリカアグリゲート総表面積Sは、加硫ゴムにX線を照射して小角X線散乱測定することにより得られたシリカアグリゲートの慣性半径Rgと、ジエン系ゴム100g当たりのシリカの含有量と、から求められる。
【0036】
小角X線散乱(SAXS)測定は、散乱角が数度以下(通常10°以下)の散乱X線を測定する手法である。加硫ゴムにX線を照射すると、加硫ゴムを構成する物質の電子密度を反映してX線が散乱される。それにより得られた散乱プロファイルからシリカアグリゲートの慣性半径Rgが求められる。
【0037】
具体的には、Rgは特許第6578200号公報に記載の方法により求められる。すなわち、加硫ゴムをシリカの配向方向に垂直な方向に50%延伸し、延伸した状態で加硫ゴムに1010(photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw)以上の高輝度X線を照射してX線小角散乱測定を実施する。シリカの配向方向は、未延伸状態の加硫ゴムに対してSAXS測定を行うことにより確認することができる。未延伸状態で二次元散乱像に異方性を示さない加硫ゴムについては、任意の方向に50%延伸してSAXS測定を行えばよい。
【0038】
これにより、
図1に示すような散乱強度の大きさを示した二次元散乱像を得る。
図1では白色に近いほど散乱強度が大きく、黒色に近いほど散乱強度が小さいことを示し、その等高線を白線(点線)で示している。なお、散乱中心の黒色部分及びそこから下方に延びる黒色の線は、ビームストッパによる影の部分である。該二次元散乱像は散乱中心の左右両側に括れ部を有し、この括れ部がある左右方向がシリカの配向方向である。該二次元散乱像をシリカの配向方向(左右の括れ部)における所定角度範囲α=30°(配向方向を中心としてその両側にそれぞれ15°の範囲)で散乱強度を平均化(円環平均)することにより、一次元の散乱プロファイルを得る。該散乱プロファイルは、散乱ベクトルq(=(4π/λ)sin(θ/2)。ここで、θは散乱角、λはX線の波長)に対する散乱強度I(q)の大きさを示す曲線である。得られた散乱プロファイルに対するフィッティングによりシリカアグリゲートの慣性半径Rgを求める。なお、測定条件の詳細については後述する実施例に記載のとおりである。
【0039】
本実施形態では、シリカアグリゲートを球状粒子とみなして、上記慣性半径Rgからシリカアグリゲート総表面積S(m2)を算出する。すなわち、シリカアグリゲートを球状粒子とみなせば、シリカアグリゲート体積Vaは、Va=(4×π×Rg3)/3で表される。ゴム組成物に含まれるシリカ量として、ジエン系ゴム100g当たりのシリカの含有量(体積)Vs(mL)は、Vs=M/dで表される。ここで、Mは、ジエン系ゴム100g当たりのシリカ質量(g)であり、dはシリカの密度(g/cm3)を表す。該シリカの含有量Vsをシリカアグリゲート体積Vaで除することにより、ジエン系ゴム100g当たりのシリカアグリゲート数Nが、N=Vs/Va=(M/d)/{(4×π×Rg3)/3}として表される。
【0040】
一方で、シリカアグリゲートの慣性半径Rgより、シリカアグリゲート表面積Saは、Sa=4×π×Rg2で表される。そのため、ジエン系ゴム100g当たりのシリカアグリゲート総表面積S(m2)は、シリカアグリゲート表面積Saとシリカアグリゲート数Nの積として、次式(2)で表される。
S=Sa×N
=4×π×Rg2×(M/d)/{(4×π×Rg3)/3}
=3×M/(d×Rg) (2)
従って、V/S(mL/m2)は、次式(3)で表される。
V/S=V/{3×M/(d×Rg)} (3)
【0041】
本実施形態に係るゴム組成物は、タイヤ用ゴム組成物として好適に用いることができる。タイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバスの重荷重用タイヤなど各種用途及び各種サイズの空気入りタイヤが挙げられる。
【0042】
一実施形態に係るタイヤは、上記ゴム組成物を用いて作製されたタイヤである。すなわち、該タイヤは、上記ゴム組成物からなる加硫ゴムを備えたものである。タイヤの適用部位としては、例えば、トレッドゴム、サイドウォールゴムなどが挙げられ、好ましくはトレッドゴムである。
【0043】
タイヤのトレッドゴムには、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがある。単層構造のものでは、当該トレッドゴムが上記ゴム組成物で形成されてもよい。2層構造のものでは、路面に接地する外側のキャップゴムが上記ゴム組成物で形成されてもよく、キャップゴムの内側に配されるベースゴムが上記ゴム組成物で形成されてもよく、キャップゴムとベースゴムの双方が上記ゴム組成物で形成されてもよい。
【0044】
タイヤの製造方法は、特に限定されない。例えば、上記ゴム組成物を、常法に従い、押出加工によって所定の形状に成形し、他の部材と組み合わせて未加硫タイヤ(グリーンタイヤ)を作製する。例えば、上記ゴム組成物を用いてトレッドゴムを作製し、他のタイヤ部材と組み合わせて未加硫タイヤを作製する。その後、例えば140~180℃で加硫成形することにより、タイヤを製造することができる。
【実施例0045】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
下記表1~3に記載の配合(質量部)に従い、ゴム組成物を調製した。詳細には、(株)ダイハン製ラボミキサー(300cc)を用いて、ジエン系ゴムを30秒間、素練りした後、硫黄及び加硫促進剤以外の成分をラボミキサーに投入し、240秒間混錬した後に排出した。排出された混練物を再度ラボミキサーに投入して180秒間混練した後に排出した。次いで、排出された混練物を硫黄及び加硫促進剤とともにラボミキサー投入し60秒間混錬し排出した。2本ロールを用いて、得られた未加硫ゴム組成物を厚さが1.0mmになるようにシーティングした後、160℃で20分間加硫プレスを行い、厚さ1.0mmの加硫ゴムのサンプルを得た。
【0047】
表1~3中の各成分の詳細は以下のとおりである。
・S-SBR:JSR(株)製「HPR350」、アミノ基末端変性溶液重合SBR
・シリカ:東ソー(株)製「ニプシールAQ」(窒素吸着比表面積205m2/g)
・硫黄含有シランカップリング剤:エボニックジャパン(株)製「Si75」
・アミノアルコキシシラン:東京化成工業(株)製、3-アミノプロピルトリエトキシシラン
・アルキルアルコキシシラン1:東京化成工業(株)製、オクタデシルトリエトキシシラン
・アルキルアルコキシシラン2:東京化成工業(株)製、プロピルトリエトキシシラン
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛3号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤1:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
・加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
【0048】
なお、表1~3中における「窒素含有アルコキシシランのモル比率(%)」は、窒素含有アルコキシシランとアルキルアルコキシシランの合計の含有量における窒素含有アルコキシシランの含有割合(モル%)である。
【0049】
窒素含有アルコキシシランの含有量V(mL)は、ゴム組成物の調製時に添加した窒素含有アルコキシシランのジエン系ゴム100g当たりの添加量である。
【0050】
シリカアグリゲート総表面積S(m2)は、得られた加硫ゴムのサンプルについてSAXS測定を行うことにより求めた。測定方法は以下のとおりである。
【0051】
特許第6578200号公報に記載の方法に基づき、SAXS測定を実施した。測定に際しては、未延伸状態のサンプルに対してSAXS測定を行うことによりシリカの配向方向を確認した後、配向方向に垂直な方向にサンプルを50%延伸し、延伸した状態でX線を照射した。SAXS測定は高輝度X線を放射するシンクロトロンとして、高輝度光科学研究センターのSPring-8のビームラインBL08B2を用いて、下記測定条件により行った。
・入射X線の波長:0.15nm
・カメラ長:6m
・露光時間:1秒
・qレンジ:0.015~0.8nm-1
・検出器:PILATUS
【0052】
X線小角散乱測定により得られた二次元散乱像から、散乱中心の左右両側のくびれ部における角度範囲α=30゜で散乱強度を円環平均し、一次元の散乱プロファイルを得た。得られた散乱プロファイルに対するフィッティングによりシリカアグリゲートの慣性半径Rgを求めた。フィッティングは、下記式のフィッティング関数(式出典:G. Beaucage, J.Appl.Cryst. 28, 717-728 (1995))を用いた最小二乗法により行った。
【0053】
【数1】
式中、I(q)は散乱強度であり、Gi、Bi、k、Piは回帰係数であり、qは散乱ベクトルで独立変数である。Rgiはアグリゲート半径(シリカアグリゲートの慣性半径Rg)を表す。
【0054】
ゴム組成物の調製に際して配合したジエン系ゴム100g当たりのシリカ質量M(g)と、シリカの密度d(1.95g/cm3)と、上記で求めたシリカアグリゲートの慣性半径Rgを用いて、上記式(2):S=3×M/(d×Rg)により、ジエン系ゴム100g当たりのシリカアグリゲート総表面積Sを算出した。
【0055】
また、上記の窒素含有アルコキシシランの含有量V(mL)と、シリカアグリゲート総表面積S(m2)から、上記式(3):V/S=V/{3×M/(d×Rg)}により、V/S(mL/m2)を算出した。
【0056】
また、上記で得られた未加硫ゴム組成物について、160℃で20分間加硫したサンプルを用いて、硬度とウェットグリップ性能を測定し、両者のバランス(Hs*Wet指数)を評価した。測定・評価方法は以下のとおりである。
【0057】
[硬度]
JIS K6253-3:2012に準拠したタイプAデュロメータを使用し、23℃で硬度を測定し、表1及び表2では比較例1の値、表3では比較例8の値をそれぞれ100とした指数で示した。指数が大きいほど硬度が高く、タイヤにしたときの操縦安定性に優れることを示す。
【0058】
[ウェットグリップ性能]
(株)上島製作所製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz、静歪10%、動歪1%、温度0℃で損失係数tanδを測定した。表1及び表2では比較例1の値、表3では比較例8の値をそれぞれ100とした指数で示した。指数が大きいほどtanδが大きく、タイヤにしたときのウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0059】
[Hs*Wet指数]
上記で得られた硬度の指数(Hs)とウェットグリップ性能の指数(Wet)から下記式によりHs*Wet指数を算出した。この指数が大きいほど、ウェットグリップ性能と硬度の背反性能の改善効果が高いことを示す。
(Hs*Wet指数)=(Hs×Wet)/100
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
結果は表1~3に示すとおりである。表1及び表2に示すように、シリカ配合に硫黄含有シランカップリング剤を配合した比較例1に対し、比較例2では硫黄含有シランカップリング剤をアミノアルコキシシランに置き換えている。比較例2ではV/Sが5.5×10-4mL/m2と大きいことから硬度は向上したもののウェットグリップ性能が大幅に悪化した。比較例4,5についても、V/Sが5.4×10-4mL/m2よりも大きいことから、硬度の向上幅に対するウェットグリップ性能の悪化が大きく、背反性能を改善することはできなかった。一方、比較例6,7では、V/Sが5.4×10-5mL/m2よりも小さく、ウェットグリップ性能は向上したものの、硬度の低下が大きく、背反性能を改善することはできなかった。
【0064】
一方、V/Sが5.4×10-5~5.4×10-4mL/m2の範囲にある実施例1~8であると、比較例1に対して硬度とウェットグリップ性能の背反性能が改善されており、硬度とウェットグリップ性能のバランスが高次元で両立されていた。
【0065】
表3に示す実験例では、シリカの配合量をジエン系ゴム100質量部に対して50質量部として、表1,2に示す実験例よりも減量している。この場合も、V/Sが5.4×10-5~5.4×10-4mL/m2の範囲にある実施例9であると、基準となる比較例8に対して、硬度とウェットグリップ性能の背反性能が改善されていた。
【0066】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。