(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097017
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】車両用シートフレーム及び車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20230630BHJP
B60N 2/06 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213135
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(71)【出願人】
【識別番号】590001164
【氏名又は名称】アイシンシロキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】白井 純
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅史
(72)【発明者】
【氏名】北仲 史門
(72)【発明者】
【氏名】南雲 健二
(72)【発明者】
【氏名】石河 優
(72)【発明者】
【氏名】林 直樹
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087BA02
3B087BB02
3B087BB25
3B087CD03
3B087DE02
(57)【要約】
【課題】前面衝突時におけるサブマリン現象の発生を抑制しつつ、衝撃吸収性を向上させる。
【解決手段】車両用シートフレーム30は、車両の乗員が着座するシートクッション12の骨格を構成し、シートクッション12の左右の側部に配置される左右のサイドフレーム34を有するシートクッションフレーム32と、左右のサイドフレーム34の前部に各一端部が連結される左右のフロントリンク62と、左右のフロントリンク62をシート左右方向に連結する連結パイプ68と、左右のサイドフレーム32の下方に配置され、車両の床部に取り付けられる左右のスライドレール50と、左右のスライドレール50に取り付けられ、左右のフロントリンク62の各他端部が連結されると共に、車両の前面衝突時に乗員からの荷重によって連結パイプ68が突き当てられる左右の突当部58Cを有する左右のフロントライザ58と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員が着座するシートクッションの骨格を構成し、前記シートクッションの左右の側部に配置される左右のサイドフレームを有するシートクッションフレームと、
前記左右のサイドフレームの前部に各一端部が連結される左右のリンクと、
前記左右のリンクをシート左右方向に連結する連結部材と、
前記左右のサイドフレームの下方に配置され、前記車両の床部に取り付けられる左右のスライドレールと、
前記左右のスライドレールに取り付けられ、前記左右のリンクの各他端部が連結されると共に、前記車両の前面衝突時に前記乗員からの荷重によって前記連結部材が突き当てられる左右の突当部を有する左右のライザと、
を備える車両用シートフレーム。
【請求項2】
前記シートクッションフレームは、
前記左右のサイドフレームの前部の上端部をシート左右方向に連結するクッションパンと、
前記クッションパンの後端部におけるシート左右方向の両側に固定され、当該固定された部位を補強する左右の補強部を含む補強部材と、
を有する請求項1に記載の車両用シートフレーム。
【請求項3】
前記補強部材は、前記左右の補強部をシート左右方向に連結する連結部を含む請求項2に記載の車両用シートフレーム。
【請求項4】
前記シートクッションフレームは、
前記左右のサイドフレームの前部の上端部をシート左右方向に連結するクッションパンと、
前記左右のリンクの一端部よりもシート前方側で前記左右のサイドフレームの前部のシート左右方向の側面に固定され、当該固定された部位を補強する左右の補強パッチと、
を有する請求項1~請求項3の何れか1項に記載の車両用シートフレーム。
【請求項5】
乗員が着座するシートクッションと、前記乗員の背部を支持して背凭れとなるシートバックとを備え、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の車両用シートフレームによって骨格が構成される車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート及びそのフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載された車両用シートでは、シートクッションフレームの左右のフレームサイドとシートトラックの左右の可動レールとが、左右のフレームサポートブラケットを介して連結されている。左右のフレームサポートブラケットの間には、略逆U字状のストラットパイプが配置されている。ストラットパイプの両端部は、可動レールの前端部に支持されており、ストラットパイプのストラットトップは、シートクッションフレームのフロントパネルの下面に固定されている。前面衝突時には、シートベルトに拘束された乗員からの入力がフロントパネル及び左右のフレームサイドからそのストラットパイプ及びシートトラックを介して車両のフロアへと伝達され、シートクッションの前側が常態に保たれる。これにより、乗員に生じるサブマリン現象を未然に抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術では、上記のストラットパイプによってシートクッションフレームの前部が補強される。その結果、前面衝突時におけるシートクッションフレームの前部の変形が抑制されるため、シートクッションフレームの前部から乗員に加わる衝撃が吸収され難くなる。このため、衝撃吸収性を向上させる観点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、前面衝突時におけるサブマリン現象の発生を抑制しつつ、衝撃吸収性を向上させることができる車両用シートフレーム及び車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の車両用シートフレームは、車両の乗員が着座するシートクッションの骨格を構成し、前記シートクッションの左右の側部に配置される左右のサイドフレームを有するシートクッションフレームと、前記左右のサイドフレームの前部に各一端部が連結される左右のリンクと、前記左右のリンクをシート左右方向に連結する連結部材と、前記左右のサイドフレームの下方に配置され、前記車両の床部に取り付けられる左右のスライドレールと、前記左右のスライドレールに取り付けられ、前記左右のリンクの各他端部が連結されると共に、前記車両の前面衝突時に前記乗員からの荷重によって前記連結部材が突き当てられる左右の突当部を有する左右のライザと、を備えている。
【0007】
第1の態様によれば、シートクッションの骨格を構成するシートクッションフレームは、シートクッションの左右の側部に配置される左右のサイドフレームを有している。左右のサイドフレームの前部には、左右のリンクの各一端部が連結されている。左右のリンクは、連結部材によってシート左右方向に連結されている。左右のサイドフレームの下方には、左右のスライドレールが配置されている。左右のスライドレールは、車両の床部に取り付けられる。左右のスライドレールには、左右のライザが取り付けられている。左右のライザには、左右のリンクの各他端部が連結されると共に、左右の突当部が設けられている。
【0008】
車両の前面衝突時には、シートベルトを装着する乗員からの荷重によって連結部材が左右の突当部に突き当てられる。これにより、シートクッションの沈み込みが抑制され、シートクッションの前部から乗員に加わる反力が増加するので、サブマリン現象の発生を抑制できる。しかも、背景技術の欄で説明した先行技術のように、ストラットパイプによってシートクッションフレームの前部を補強するものではないため、乗員からシートクッションフレームの前部に加わる荷重の増加に伴いシートクッションフレームの前部を変形させることができる。これにより、衝撃吸収性を向上させることができる。
【0009】
本発明の第2の態様の車両用シートフレームは、第1の態様において、前記シートクッションフレームは、前記左右のサイドフレームの前部の上端部をシート左右方向に連結するクッションパンと、前記クッションパンの後端部におけるシート左右方向の両側に固定され、当該固定された部位を補強する左右の補強部を含む補強部材と、を有する。
【0010】
第2の態様によれば、シートクッションフレームの左右のサイドフレームの前部の上端部が、クッションパンによってシート左右方向に連結されている。クッションパンの後端部におけるシート左右方向の両側には、補強部材に含まれる左右の補強部が固定されており、各補強部が固定された部位が補強されている。このため、前面衝突の初期には、乗員の臀部からクッションパンに加わる荷重によるクッションパンの変形が抑制される。これにより、前面衝突の初期には、クッションパンから乗員に加わる反力が増加するので、サブマリン現象の発生を抑制する効果を向上させることができる。その後、クッションパンは、左右の補強部によって補強されていないシート左右方向の中央側から変形する。これにより、衝撃吸収性を向上させる効果を確保することができる。
【0011】
本発明の第3の態様の車両用シートフレームは、第2の態様において、前記補強部材は、前記左右の補強部をシート左右方向に連結する連結部を含む。
【0012】
第3の態様によれば、補強部材の左右の補強部が連結部によってシート左右方向に連結されるので、補強部材を一部品化することができる。その結果、補強部材が二部品の場合よりも製造コストを低減し易くなる。しかも、前面衝突の初期には、連結部からの反力も乗員の臀部に加わるため、サブマリン現象の発生を抑制する効果を一層向上させることができる。
【0013】
本発明の第4の態様の車両用シートフレームは、第1の態様~第3の態様の何れか1つの態様において、前記シートクッションフレームは、前記左右のサイドフレームの前部の上端部をシート左右方向に連結するクッションパンと、前記左右のリンクの一端部よりもシート前方側で前記左右のサイドフレームの前部のシート左右方向の側面に固定され、当該固定された部位を補強する左右の補強パッチと、を有する。
【0014】
第4の態様によれば、シートクッションフレームの左右のサイドフレームの前部の上端部が、クッションパンによってシート左右方向に連結されている。また、左右のサイドフレームの前部におけるシート左右方向の側面には、左右のリンクの一端部よりもシート前方側において、左右の補強パッチが固定されており、各補強パッチが固定された部位が補強されている。これにより、前面衝突の初期において、乗員からの荷重がクッションパンを介して左右のサイドフレームの前部に加わった際に、左右のサイドフレームがシート左右方向の内側へ倒れ込むように変形することが抑制される。その結果、前面衝突の初期に乗員に加わる反力が増加するので、サブマリン現象の発生を抑制する効果を一層向上させることができる。
【0015】
本発明の第5の態様の車両用シートは、乗員が着座するシートクッションと、前記乗員の背部を支持して背凭れとなるシートバックとを備え、第1の態様~第4の態様の何れか1つの態様の車両用シートフレームによって骨格が構成される。
【0016】
第5の態様によれば、シートクッション及びシートバックを備える車両用シートの骨格が、第1の態様~第4の態様の何れか1つの態様の車両用シートフレームによって構成される。よって、第1の態様~第4の態様の何れか1つの態様と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明に係る車両用シートフレーム及び車両用シートでは、前面衝突時におけるサブマリン現象の発生を抑制しつつ、衝撃吸収性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る車両用シートフレームにおけるシートクッションフレームの周辺をシート左斜め前の上方側から見た状態で示す斜視図である。
【
図2】同車両用シートフレームにおけるシートクッションフレームの周辺をシート右斜め前の下方側から見た状態で示す斜視図である。
【
図3】同車両用シートフレームにおけるシートクッションフレームの前部周辺をシート左斜め前方側から見た状態で示す斜視図である。
【
図4】ライザの周辺をシート前方側から見た状態で示す断面図である。
【
図5】ライザの突当部に連結パイプが突き当てられた状態を示す
図3の一部に対応する斜視図である。
【
図7A】クッションパン及び補強部材を示す平面図である。
【
図7B】クッションパン及び補強部材が前面衝突時の乗員からの荷重により変形した状態を示す平面図である。
【
図9】補強パッチの周辺をシート後方側から見た状態で示す断面図である。
【
図10A】実施形態に係る車両用シートを示す側面図であり、前面衝突前の状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1~
図10Cを参照して本発明の一実施形態に係る車両用シート10及び車両用シートフレーム30について説明する。なお、各図においては図面を見易くする関係から一部の符号を省略している場合がある。また、各図中に適宜示される矢印FRは車両前方を示し、矢印UPは車両上方を示し、矢印LHは車両左方を示し、矢印RHは車両右方を示している。以下、前後左右上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両左右方向(車両幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示すものとする。
【0020】
図10A~
図10Cに示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、車両の乗員Pが着座するシートクッション12と、乗員Pの背部を支持して背凭れとなるシートバック14と、乗員Pの頭部を支持するヘッドレスト16とを備えている。この車両用シート10の前後方向、左右方向(幅方向)、及び上下方向は、車両の前後左右上下の方向と一致している。なお、
図10A~
図10Cに示される乗員Pは、例えば前面衝突試験用のダミー人形であるHYBRIDIIIのAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。この乗員Pは、図示しない車両に搭載された3点式のシートベルト18を装着している。
【0021】
車両用シート10の骨格は、
図1~
図3に示される車両用シートフレーム30によって構成されている。この車両用シートフレーム30は、シートクッション12の骨格を構成するシートクッションフレーム32と、シートバック14の骨格を構成するシートバックフレーム40とを有している。シートクッションフレーム32及びシートバックフレーム40には、それぞれ表皮13、15(
図10A~
図10C参照)によって覆われたパッド材(図示省略)が取り付けられている。
【0022】
シートクッションフレーム32は、シートクッション12の左右の側部に配置されてシート前後方向に延在した左右一対のサイドフレーム34と、左右のサイドフレーム34の前部における上端部間に架け渡されたクッションパン36と、左右のサイドフレーム34の後端部間に架け渡されたリヤフレーム38とを備えている。クッションパン36とリヤフレーム38との間には、図示しないシートクッションスプリングが架け渡されている。このシートクッションスプリングによって、シートクッション12のパッド材がシート下方側から弾性的に支持されている。
【0023】
左右のサイドフレーム34は、例えば板金がプレス成型されることにより長尺状に形成されており、長手方向がシート前後方向に沿い且つ厚さ方向がシート左右方向に沿う姿勢で配置されている。クッションパン36は、例えば板金によって略矩形状に形成され、厚さ方向がシート上下方向に沿う姿勢で配置されており、シート左右方向の両端部が左右のサイドフレーム34の前部に溶接等の手段によって固定されている。リヤフレーム38は、例えば金属製のパイプによって形成され、軸線方向がシート左右方向に沿う姿勢で配置されており、シート左右方向の両端部がカシメ等の手段で左右のサイドフレーム34の後端部に回転可能に連結されている。
【0024】
左右のサイドフレーム34の後端部には、周知のリクライニング機構46を介してシートバックフレーム40の下端部がリクライニング可能に連結されている。シートバックフレーム40は、シートバック14の左右の側部に配置されてシート上下方向に延在した左右一対のサイドフレーム42と、左右のサイドフレーム42の上端部間に架け渡された図示しないアッパフレームと、左右のサイドフレーム42の下端部間に架け渡されたロアフレーム44とを備えている。上記のアッパフレームには、ヘッドレスト16が連結されている。
【0025】
シートクッションフレーム32の左右のサイドフレーム34は、周知のスライド機構48及びリフタ機構56及びを介して車両の床部に連結されており、車両の床部に対する前後方向の位置及び上下方向の位置を調節可能とされている。スライド機構48は、左右のサイドフレーム34の下方に配置された左右一対のスライドレール50を含んで構成されている。スライドレール50は、例えばボルト締結等の手段で車両の床部に固定されたロアレール52と、ロアレール52に対して前後方向にスライド可能に支持されたアッパレール54と、ロアレール52に対するアッパレール54のスライドを規制する図示しないロック機構とを備えている。ロアレール52及びアッパレール54は、前後方向を長手として配置されている。
【0026】
リフタ機構56は、左右一対のフロントライザ58(
図1~
図3参照)と、左右一対のリヤライザ60(
図1及び
図2参照)と、左右一対のフロントリンク62(
図2及び
図3参照)と、左右一対のリヤリンク64(
図2参照;右側のリヤリンク64は図示省略)とを含んで構成されている。左右のフロントライザ58、左右のリヤライザ60、左右のフロントリンク62及び左右のリヤリンク64は、例えば板金がプレス成型されて製造されたものである。左右のフロントライザ58は、本発明における「左右のライザ」に相当し、左右のフロントリンク62は、本発明における「左右のリンク」に相当する。
【0027】
図3に示されるように、左右のフロントライザ58は、左右のアッパレール54の前端部の上面にボルト締結等の手段で固定されたフロント固定部58Aと、フロント固定部58Aの左右方向内側端部から上方側へ延びるフロント縦壁部58Bと、フロント縦壁部58Bの上端部から左右方向内側へ延出された突当部58Cとを有している。図示は省略するが、左右のリヤライザ60は、左右のアッパレール54の後端部の上面にボルト締結等の手段で固定されたリヤ固定部と、リヤ固定部の左右方向一端部から上方側へ延びるリヤ縦壁部とを有している。
【0028】
左右のフロントリンク62及び左右のリヤリンク64は、後方側へ傾いた姿勢で配置されている。左右のフロントリンク62の各一端部(各上端部)は、左右のサイドフレーム34の前部に対して左右方向内側から重ね合わされており、左右方向を軸線方向とする連結軸65を介して左右のサイドフレーム34の前部に回転可能に連結されている。左右のフロントリンク62の各他端部(各下端部)は、左右のフロントライザ58のフロント縦壁部58Bに対して左右方向外側から重ね合わされており、左右方向を軸線方向とする連結軸66を介して各フロント縦壁部58Bに回転可能に連結されている。
【0029】
左右のリヤリンク64の各一端部(各上端部)は、左右のサイドフレーム34の後部に対して左右方向内側に配置されており、リヤフレーム38に固定されている。これにより、左右のリヤリンク64は、左右のサイドフレーム34に対してリヤフレーム38を介して回転可能に連結されている。左右のリヤリンク64の各他端部(各下端部)は、左右のリヤライザ60のリヤ縦壁部に対して左右方向一方側から重ね合わされており、左右方向を軸線方向とする連結軸(図示省略)を介して各リヤ縦壁部に回転可能に連結されている。
【0030】
左右のリヤリンク64の一方には、例えばセクタギヤが形成されており、当該セクタギヤに噛合された図示しないピニオンが手動又は電動で回転されることにより、上記一方のリヤリンク64が回動される。これにより、左右のリヤリンク64及び左右のフロントリンク62が回動し、シートクッションフレーム32(すなわちシートクッション12)の上下方向の位置が変更される構成になっている。
【0031】
左右のフロントリンク62は、連結部材である連結パイプ68によって左右方向に連結されている。連結パイプ68は、例えば金属製のパイプ材によって構成されており、左右方向を軸線方向として配置されている。連結パイプ68の軸線方向両端部は、左右のフロントリンク62の中間部に形成された貫通孔70(
図4参照)に挿通されており、溶接等の手段で左右のフロントリンク62に固定されている。
【0032】
図3及び
図4に示されるように、連結パイプ68の軸線方向両端部は、左右のフロントライザ58の各突当部58Cに対してシート上斜め後方側に僅かに離間して配置されている。
図3に示されるように、各突当部58Cは、前方側の部位が後方側へ向かって下り勾配に傾斜した傾斜部58C1とされており、後方側の部位が水平に延在する水平部58C2とされている。連結パイプ68が左右のフロントリンク62と一緒に回動する際にも、連結パイプ68と各突当部58Cとの間に僅かな隙間が確保されるように構成されている。
【0033】
但し、車両の前面衝突時には、シートベルト18を装着する乗員P(
図10A~
図10C参照)の臀部からシートクッション12に加わる前斜め下方側向きの過大な荷重により、連結パイプ68が左右の突当部58Cに突き当てられる(
図5参照)。この突き当ては、左右のフロントリンク62等が上記の荷重により僅かに変形することにより生じる。上記の前面衝突は、例えば米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)によって規定されているフルラップ前面衝突試験(対リジット・バリア、速度35mph:約56Km/h)と同様の衝突である。この前面衝突の初期(
図10B参照)には、比較的低い荷重が乗員Pからシートクッション12に加わり、この前面衝突の後期(
図10C参照)には、比較的高い荷重が乗員Pからシートクッション12に加わる。この前面衝突の初期の段階で、連結パイプ68が左右の突当部58Cに突き当てられるように、通常時における連結パイプ68と各突当部58Cとの間の隙間が設定されている。
【0034】
また、本実施形態では、
図1に示されるように、シートクッションフレーム32は、クッションパン36の後端部に固定された補強部材72を有している。この補強部材72は、例えば板金がプレス成型されて製造されたものであり、左右一対の補強部72Aと、連結部72Bとを有している。左右の補強部72Aは、クッションパン36の後端部おける左右方向の両側に固定され、当該固定された部位を補強している。連結部72Bは、左右の補強部72Aを左右方向に連結している。
【0035】
図6に示されるように、左右の補強部72Aは、一例として、固定部72A1と、下方延出部72A2と、後方延出部72A3と、固定片72A4とを有している。固定部72A1は、クッションパン36の後端部の上面に溶接等の手段で固定されている。下方延出部72A2は、固定部72A1の後端の左右方向中央部から下方側へ延出されている。後方延出部72A3は、下方延出部72A2の下端から後方側へ延出されている。左右の補強部72Aの各後方延出部72A3は、連結部72Bによって左右方向に連結されており、連結部72Bと一体に形成されている。固定片72A4は、固定部72A1の前端の左右方向中央部から下方側へ延出されている。固定片72A4の下部側は、前方側へ屈曲されている。この固定片72A4は、クッションパン36に形成された図示しない孔内に挿入され、溶接等の手段でクッションパン36に固定されている。
【0036】
上記構成の補強部材72は、前面衝突時におけるクッションパン36の変形量を調整するための変形量調整部材である。左右の補強部72Aは、乗員Pの左右の座骨(図示省略)に対して前方側から対向上する位置に配置される。このため、前面衝突時には、クッションパン36において左右の補強部72Aが固定された部位に、乗員Pの左右の座骨からの荷重が入力される。
図7Aに示されるように、前面衝突の初期には、左右の補強部72Aによってクッションパン36の変形(下方側への沈み込み)が抑制される。前面衝突の後期には、乗員Pの左右の座骨からクッションパン36に加わる荷重が増加することにより、クッションパン36が
図7Bに示されるように変形する。
【0037】
さらに、本実施形態では、
図8に示されるように、シートクッションフレーム32は、左右のサイドフレーム34の前部の左右方向の側面(ここでは内側面)に固定された左右の補強パッチ74を有している。左右の補強パッチ74は、左右のサイドフレーム34の前部に連結された左右のフロントリンク62の一端部(上端部)よりも前方側に配置されている。
【0038】
各補強パッチ74は、例えば板金がプレス成型されて製造されたものである。各補強パッチ74は、一例として、各サイドフレーム34の前部の左右方向内側面に重ね合わされたパッチ本体74Aと、パッチ本体74Aの上端から左右方向内側へ延出された上フランジ74Bとを有している。各サイドフレーム34の上端には、左右方向内側へ延出された上フランジ34Aが形成されており、各補強パッチ74の上フランジ74Bが上フランジ34Aの下面に重ね合わされている。これらの補強パッチ74は、溶接等の手段で各サイドフレーム34の前部に固定されており、各サイドフレーム34の前部は、各補強パッチ74が固定された部位が補強されている。なお、各補強パッチ74が各サイドフレーム34の前部の左右方向外側面に固定された構成にしてもよい。また、各補強パッチ74の形状は適宜変更可能である。
【0039】
上記構成の左右の補強パッチ74は、前面衝突時にクッションパン36に加わる乗員からの荷重F(
図9参照)により、左右のサイドフレーム34の前部が左右方向内側へ変形する(倒れ込む)ことを抑制するための補強材である。この変形抑制により、前面衝突の初期にシートクッション12の前部から乗員Pの臀部に加わる反力が増加するように構成されている。
【0040】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0041】
上記構成の車両用シート10では、シートクッション12の骨格を構成するシートクッションフレーム32は、シートクッション12の左右の側部に配置される左右のサイドフレーム34を有している。左右のサイドフレーム34の前部には、左右のフロントリンク62の各一端部が連結されている。左右のフロントリンク62は、連結パイプ68によって左右方向に連結されている。左右のサイドフレーム34の下方には、左右のスライドレール50が配置されている。左右のスライドレール50は、車両の床部に取り付けられている。左右のスライドレール50には、左右のフロントライザ58が取り付けられている。左右のフロントライザ58には、左右のフロントリンク62の各他端部が連結されると共に、左右の突当部58Cが設けられている。
【0042】
車両の前面衝突の初期(
図10B参照)には、シートベルト18を装着する乗員Pからの荷重によって連結パイプ68が左右の突当部58Cに突き当てられる。これにより、前面衝突の初期には、シートクッション12の沈み込みが抑制され、シートクッション12の前部から乗員Pに加わる反力が増加する。その結果、乗員Pの車両前方への慣性移動が抑制され、シートベルト18のラップベルト18Aによる乗員Pの腰部の拘束が維持されるので、サブマリン現象の発生を効果的に抑制できる。しかも、背景技術の欄で説明した先行技術のように、ストラットパイプによってシートクッションフレーム32の前部を補強するものではない。このため、
図10Cに示されるように、前面衝突の後期には、乗員Pからシートクッションフレーム32の前部に加わる荷重の増加に伴いシートクッションフレーム32の前部を変形させることができる。これにより、衝撃吸収性を向上させることができる。その結果、乗員Pの傷害値を低減することができる。
【0043】
また、本実施形態では、シートクッションフレーム32のクッションパン36の後端部に固定された補強部材72を有している。この補強部材72は、クッションパン36の後端部におけるシート左右方向の両側に固定された左右の補強部72Aを含んでおり、クッションパン36において左右の補強部72Aが固定された部位が補強されている。このため、前面衝突の初期(
図10B参照)には、乗員Pの臀部からクッションパン36に加わる荷重によるクッションパン36の変形が抑制される。これにより、前面衝突の初期には、クッションパン36から乗員Pに加わる反力が増加するので、乗員Pの前方移動を抑制する効果が向上し、サブマリン現象の発生を抑制する効果が向上する。一方、前面衝突の後期(
図10C参照)には、乗員Pからシートクッションフレーム32の前部に加わる荷重が増加する。これにより、クッションパン36は、左右の補強部72Aによって補強されていないシート左右方向の中央側から変形する。これにより、衝撃吸収性を向上させる効果を確保することができる。
【0044】
また、本実施形態では、補強部材72の左右の補強部72Aが連結部72Bによってシート左右方向に連結されるので、補強部材72を一部品化することができる。その結果、補強部材72が二部品の場合よりも製造コストを低減し易くなる。しかも、前面衝突の初期には、連結部72Bからの反力も乗員Pの臀部に加わるため、サブマリン現象の発生を抑制する効果を一層向上させることができる。
【0045】
さらに、本実施形態では、シートクッションフレーム32の左右のサイドフレーム34の前部におけるシート左右方向の側面には、左右のフロントリンク62の一端部よりもシート前方側において、左右の補強パッチ74が固定されており、各補強パッチ74が固定された部位が補強されている。これにより、前面衝突の初期において、乗員Pからの荷重がクッションパン36を介して左右のサイドフレーム34の前部に加わった際に、左右のサイドフレーム34がシート左右方向内側へ倒れ込むように変形することが抑制される。その結果、前面衝突の初期に乗員Pに加わる反力が増加するので、サブマリン現象の発生を抑制する効果を一層向上させることができる。
【0046】
なお、上記実施形態では、クッションパン36の後端部に固定された補強部材72が、左右の補強部72Aを連結する連結部72Bを備えた構成にしたが、これに限らず、補強部材72が連結部72Bを備えない構成にしてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、シートクッションフレーム32が補強部材72及び左右の補強パッチ74を備えた構成にしたが、これに限らず、シートクッションフレーム32が補強部材72及び補強パッチ74のうちの両方又は一方を備えない構成にしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、連結部材としての連結パイプ68が金属パイプによって製造された構成にしたが、これに限らず、連結部材の材料は適宜変更可能である。
【0049】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
10 車両用シート
12 シートクッション
14 シートバック
30 車両用シートフレーム
32 シートクッションフレーム
34 サイドフレーム
36 クッションパン
50 スライドレール
58 フロントライザ(ライザ)
58C 突当部
62 フロントリンク(リンク)
68 連結パイプ(連結部材)
72 補強部材
72A 補強部
72B 連結部
74 補強パッチ