(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097039
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】フットボールシューズ
(51)【国際特許分類】
A43B 5/02 20060101AFI20230630BHJP
A43B 23/02 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
A43B5/02
A43B23/02 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213163
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(72)【発明者】
【氏名】土田 翔夢
(72)【発明者】
【氏名】高増 翔
(72)【発明者】
【氏名】大沼 輝昭
(72)【発明者】
【氏名】脇田 大樹
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050BC03
4F050HA53
4F050HA56
4F050HA60
4F050HA75
4F050HA85
(57)【要約】
【課題】より強く速い球を蹴ることができるフットボールシューズの構造を提供する。
【解決手段】フットボールシューズ1において、アッパー3は足甲の内足寄りに位置する稜線を含む所定部位に、凹部を内包した突形状にて外部方向へ突出する形で可撓性を有する樹脂材料で形成されている突起部を少なくとも一部に有する弾性パッド部10が設けられる。弾性パッド部10には突起部が複数配置され、突起部が内包する凹部は空洞であり、突起部は根元部分の断面積より先端側の断面積が小さく窄まった形状にて形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソールと、
前記ソールに直接的または間接的に接合されたアッパーと、
を備え、
前記アッパーは、足甲の内足寄りに位置する稜線を含む所定部位に、凹部を内包した突形状にて外部方向へ突出する形で可撓性を有する樹脂材料で形成されている突起部を少なくとも一部に有する弾性パッド部が設けられるフットボールシューズ。
【請求項2】
前記弾性パッド部には前記突起部が複数配置される請求項1に記載のフットボールシューズ。
【請求項3】
前記突起部が内包する凹部は空洞である請求項1または2に記載のフットボールシューズ。
【請求項4】
前記突起部は、根元部分の断面積より先端側の断面積が小さく窄まった形状にて形成される請求項1から3のいずれかに記載のフットボールシューズ。
【請求項5】
前記弾性パッド部には、相対的に高さが高い突起部と、その周囲に相対的に高さが低い突起部とが配置される請求項1から4のいずれかに記載のフットボールシューズ。
【請求項6】
前記相対的に高さが低い突起部は、その頂部の位置が前記相対的に高さが高い突起部に寄った形状にて形成される請求項5に記載のフットボールシューズ。
【請求項7】
前記突起部が設けられる領域は、前記アッパーにおいてインステップキックの球衝突部位を含むとともに、インサイドキックの球衝突への干渉を制限する部位である請求項1から6のいずれかに記載のフットボールシューズ。
【請求項8】
前記弾性パッド部においては、隣接する複数の突起部の根元同士が連続して一体的に形成されている請求項1から7のいずれかに記載のフットボールシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フットボールシューズに関する。特に、アッパー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟式野球やゴルフのように打具で球を打つスポーツにおいては、バットやドライバーの球衝突部分に軟質な構造物を介在させることで打球速度が増加することが知られている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0003】
一方、フットボール用のシューズにおいても、蹴った球の速度を高めるための技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】神田芳文、鳴尾丈司、木田敏彰、「軟式野球バットの剛性が反発係数に与える影響」、日本機械学会スポーツ工学シンポジウム・シンポジウムヒューマン・ダイナミクス講演論文集(ジョイント・シンポジウム、スポーツ工学シンポジウム・シンポジウムヒューマン・ダイナミクス講演論文集)、日本、2006年11月8日、2006、p.94-97
【非特許文献2】田中貴規、宇治橋貞幸、伊能教夫他、「薄板に衝突するゴルフ・ボールの反発特性の解析」、ジョイント・シンポジウム:スポーツ工学シンポジウム・シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス講演論文集、日本、2000年11月9日、2000、p.105~109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術において球の速度を高められるかどうかは、主に選択する素材の種類に左右されることとなるが、同じ素材でも構造を改良することでさらに速度を高められる余地があった。
【0007】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、より強く速い球を蹴ることができるフットボールシューズの構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のフットボールシューズは、ソールと、ソールに直接的または間接的に接合されたアッパーと、を備える。アッパーは、足甲の内足寄りに位置する稜線を含む所定部位に、凹部を内包した突形状にて外部方向へ突出する形で可撓性を有する樹脂材料で形成されている突起部を少なくとも一部に有する弾性パッド部が設けられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より強く速い球を蹴ることができるフットボールシューズの構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】フットボールシューズを内足側から見た側面図である。
【
図3】足の骨とインステップキックの球衝突部位との関係を模式的に示す図である。
【
図5】弾性パッド部における複数の突起部の高さの分布を示す図である。
【
図9】弾性パッド部および突起部の硬さと荷重による変位との関係に関する試験結果を示すグラフの図である。
【
図10】4種類のサンプルの条件と結果の関係を示す表の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態、変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
図1は、フットボールシューズの上面図である。
図1を含め、以下の図では、特に説明しない限り左足用のフットボールシューズないしその部品を示すが、本明細書の説明は、右足用の靴ないしその部品にも同様に適用される。上面図において、つま先の中心と踵の中心を結んだ中心線Cが1点鎖線で示される。中心線Cから図の右側を「内足側」といい、中心線Cから図の左側を「外足側」という。右足用の靴では、内足側と外足側は左右反転する。図の左右方向に向く矢印Wはフットボールシューズ1ないしアッパー3の足幅方向を示し、図の上下方向に向く矢印Lはフットボールシューズ1ないしアッパー3の前後方向を示す。
【0013】
フットボールシューズ1は、いわゆるフットボール、サッカー、フットサル等の球を足で蹴るスポーツ(以下、「フットボール」と総称する)に用いる靴である。ただし、ラグビー、アメリカンフットボール、オージーボール等の球を蹴るスポーツにも用いてもよい。フットボールにおいては、特に強く速い球を蹴り出す場合に、足甲に球を当てて蹴るインステップキックが用いられるのが一般的である。ここで、アッパーの足甲直下は足の骨で硬い部分であるため、衝突した球を大きく変形させてしまい、球速の増加が抑制されやすい。
【0014】
本実施形態におけるフットボールシューズ1では、内足側の足甲部分を中心に軟質の部材である弾性パッド部10が設けられており、弾性パッド部10の柔軟性および緩衝性によって球衝突時の球の変形を抑制して球のエネルギー損失を抑え、弾性パッド部10がない場合より球速を増加させることができる。特にゴールまで20mの距離からのシュートボールにおいて球2個分ほど速くゴールに到達させることも実現可能となる。
【0015】
フットボールシューズ1は、ソール2、アッパー3を備える。アッパー3は、ソール2に直接的または間接的に接合される。本実施形態におけるアッパー3は、人工皮革、天然皮革等で形成され、シュータン4と接合される。アッパー3の底部ないし裾部がソール2に直接的または間接的に接着され、シュータン4とともに着用者の足を収容するための内部空間を形成する。アッパー3は、着用者が足を入れたときに足全体を包み込む。アッパー3とソール2は、接着等の方法により接合される。
【0016】
弾性パッド部10は、底板上に複数の突起部12が配置された、全体として半楕円に近似した形状にて形成された可撓性を有する樹脂部材である。弾性パッド部10は、中心線Cより内足側寄りに偏った位置にてソール2に縫合される。なお、本図では複数の突起部12の線は描かれているが、複数の突起部12を接続するジョイント部や孔部等の線は便宜上省略されている。ジョイント部や孔部については後述する。
【0017】
弾性パッド部10は、その足幅方向Wの中心が足甲の稜線Rに沿うような位置に設けられる。フットボールにおいては、シュートのように強く速い球を蹴るときや、ロングボールのように強く遠くへ飛ばす球を蹴るような場面で、足甲の稜線Rのあたりで強く球を蹴るインステップキックが一般的に用いられる。稜線Rは、着用者の親指(すなわち第1趾)にあたる基節骨、中足骨、内足楔状骨に沿って形成される稜線に相当する部位を示す。弾性パッド部10は、特にインステップキック時に球が衝突すると想定される部位を中心とするような領域に設けられる。
【0018】
図2は、フットボールシューズを内足側から見た側面図である。第1領域20は、主にインステップキックにおいて球が衝突する領域である。弾性パッド部10は、特に第1領域20を概ね覆う部位であって、他の種類のキックやトラップを干渉しにくい領域に設けられる。他の種類のキックとしては、例えばインサイドキック、インフロントキック、トゥキック、アウトサイドキック、ヒールキック等があり、いずれも球の強さや速さ以上に蹴った球のコースの精度が要求される。また、トラップにおいては、フットボールシューズ1の着用者であるフットボールの選手にとって足に球がタッチする感覚が重要となるため、トラップで球が衝突する部位は不用意にタッチ感覚を阻害しないことが好ましい。したがって、これらのキックやトラップで主に用いる部位をできるだけ除外した領域に弾性パッド部10が設けられる。例えば、第2領域21は、中足部における内足側下部の領域であり、主にインサイドキックやトラップで球が衝突する部位を含む。第3領域22は、前足部における内足側下部の領域であり、主にインフロントキックで球が衝突する部位を含む。その他、図示しないがトゥキックはつま先部分を用い、ヒールキックは踵部分を用い、アウトサイドキックは外足側領域を用いる。弾性パッド部10は、第2領域21、第3領域22、つま先、踵、外足側を含まない領域、または、ほとんど含まない領域に設けられることが好ましい。これにより、インステップキック以外の種類のキックやトラップにおける球衝突への干渉を制限することができる。
【0019】
図3は、足の骨とインステップキックの球衝突部位との関係を模式的に示す。足60の骨格のうち、足甲の最も隆起した部分が内足楔状骨61である。インステップキックでは、主に内足楔状骨61の上部と、その周囲にある舟状骨62、中足骨63、中間楔状骨64のそれぞれの一部に球を衝突させて蹴るのが好ましい。内足楔状骨61の上部は、足甲の稜線に沿った足長のうち、つま先から約60%(矢印65で示す)の位置にある。弾性パッド部10は、内足楔状骨61の上部と、その周囲にある舟状骨62、中足骨63、中間楔状骨64のそれぞれの一部を概ね被覆するようなアッパー3上の位置に設けられる。弾性パッド部10の中心付近に設けられる、後述の最も高さが高い突起部が概ね内足楔状骨61の上部に位置するように弾性パッド部10および突起部12が配置される。
【0020】
図4は、弾性パッド部10の上面図である。本図の弾性パッド部10は、アッパー3から分離して平面に載置した状態が示される。なお、本図においても、複数の突起部12の線は描かれているが、複数の突起部12を接続するジョイント部や孔部等の線は便宜上省略されている。
【0021】
弾性パッド部10の上面側では、図の右上から左下に向かって曲線状に描かれた平行する6本の仮想的な格子線と、図の左上から右下に向かって曲線状に描かれた平行する7本の仮想的な格子線とに沿って27個の突起部12が配置される。右上から左下に向かう6本の仮想的な格子線は、第1格子線31、第2格子線32、第3格子線33、第4格子線34、第5格子線35、第6格子線36である。左上から右下に向かう7本の仮想的な格子線は、第7格子線37、第8格子線38、第9格子線39、第10格子線40、第11格子線41、第12格子線42、第13格子線43である。第1格子線31、第2格子線32、第3格子線33、第4格子線34、第5格子線35、第6格子線36は、第7格子線37、第8格子線38、第9格子線39、第10格子線40、第11格子線41、第12格子線42、第13格子線43と交差して格子状の配列を形成する。
【0022】
第1格子線31に沿って右上から第4突起部12d、第4突起部12dの順に2つの突起部が配置される。第4突起部12dは高さが最も低い突起部である。第2格子線32に沿って右上から第4突起部12d、第3突起部12c、第3突起部12c、第3突起部12cの順に4つの突起部が配置される。第3突起部12cは3番目の高さの突起部である。第3格子線33に沿って右上から第3突起部12c、第2突起部12b、第2突起部12b、第2突起部12b、第3突起部12cの順に5つの突起部が配置される。第2突起部12bは2番目の高さの突起部である。
【0023】
第4格子線34に沿って右上から第3突起部12c、第2突起部12b、第1突起部12a、第1突起部12a、第2突起部12b、第3突起部12cの順に6つの突起部が配置される。第1突起部12aは高さが最も高い突起部である。第5格子線35に沿って右上から第2突起部12b、第2突起部12b、第2突起部12b、第3突起部12c、第4突起部12dの順に5つの突起部が配置される。第6格子線36に沿って右上から第3突起部12c、第3突起部12c、第3突起部12c、第3突起部12c、第4突起部12dの順に5つの突起部が配置される。
【0024】
第7格子線37に沿って左上から第4突起部12d、第4突起部12dの順に2つの突起部が配置される。第8格子線38に沿って左上から第4突起部12d、第3突起部12c、第3突起部12c、第3突起部12cの順に4つの突起部が配置される。第9格子線39に沿って左上から第3突起部12c、第2突起部12b、第2突起部12b、第2突起部12bの順に4つの突起部が配置される。第10格子線40に沿って左上から第3突起部12c、第2突起部12b、第1突起部12a、第2突起部12b、第3突起部12cの順に5つの突起部が配置される。
【0025】
第11格子線41に沿って左上から第2突起部12b、第1突起部12a、第2突起部12b、第3突起部12cの順に4つの突起部が配置される。第12格子線42に沿って左上から第3突起部12c、第2突起部12b、第3突起部12c、第3突起部12cの順に4つの突起部が配置される。第13格子線43に沿って左上から第3突起部12c、第4突起部12d、第4突起部12dの順に3つの突起部が配置される。
【0026】
図5は、弾性パッド部10における複数の突起部の高さの分布を示す。なお、本図においても、複数の突起部12の線は描かれているが、複数の突起部12を接続するジョイント部や孔部等の線は便宜上省略されている。
【0027】
複数の突起部12には4種類の高さの突起部が含まれており、最も高い第1突起部12aを中心にして放射状に高さが低くなっていくように、第2突起部12b、第3突起部12c、第4突起部12dの順に配置する。インステップキックで球衝突の中心になることが想定される中央領域50には、主に第1突起部12aが配置される。第1突起部12aの高さは例えば15mmである。中央領域50を囲む第1周辺領域51には、主に第2突起部12bが配置される。第2突起部12bの高さは例えば10mmである。第1周辺領域51を囲む第2周辺領域52には、主に第3突起部12cが配置される。第3突起部12cの高さは例えば5mmである。第2周辺領域52の外側には、主に第4突起部12dが配置される。第4突起部12dの高さは例えば3mmである。なお、第1突起部12a、第2突起部12b、第3突起部12c、第4突起部12dのそれぞれの高さはあくまで例示であり、第1突起部12a、第2突起部12b、第3突起部12c、第4突起部12dの順に徐々に高さが低くなるように設計されていればよい。その結果、中央領域50、第1周辺領域51、第2周辺領域52のそれぞれを示す破線は、等高線のように中央から周辺へ放射状に高さが低くなることを示す。
【0028】
選手の能力や競技状況によっては中央領域50に球を当てることが難しい場合も想定されるため、第1領域20以外の周辺領域にも突起部12を設け、ある程度の球衝突の荷重を吸収することができる。一方、中央領域50から第1周辺領域51、第2周辺領域52へと放射状に突起部12の高さが低くなっていくこと自体は、球速度に直接影響することはないが、第1領域20以外において突起部12の高さを相対的に低くしておくことで、シュートのようなインステップキック以外のキック動作やトラップ動作において突起部12の高さが邪魔になることを防ぐことができる。なお、A-A’線で示す箇所の断面については後述する。
【0029】
図6は、弾性パッド部10の斜視図である。本図の弾性パッド部10は、アッパー3から分離して平面に載置した状態を示す。弾性パッド部10は、熱可塑性ポリウレタン等の可撓性を有するウレタン樹脂部材で形成されており、アッパー3の一部として着用者の足甲を被覆してシュータン4で締め付けられたときに足甲の曲面に沿って撓み、足甲にフィットする。なお、弾性パッド部10は、熱可塑性ポリウレタンのほか、ゴム、発泡樹脂、ゲル状の弾性部材、ナイロンなどで形成されてもよい。
【0030】
弾性パッド部10の周縁には一定の厚みを有する枠部10aが形成され、枠部10aの内側の底には枠部10aより薄い底板部10cがベースとして形成される。底板部10cには、
図4および
図5に示す各位置に複数の突起部12が形成される。底板部10cにはさらに、隣接する複数の突起部12の根元同士が連続するように棒状に隆起したジョイント部10bが形成される。
【0031】
複数の突起部12は、根元部分の断面積より先端側の断面積が小さく窄まった角錐形状にて形成される。複数の突起部12の多くは、四角錐の形状を有するが、一部の突起部12は五角錐や三角錐の形状であってもよい。なお、変形例においては、突起部12は円錐や楕円錐等の底面形状が異なる錐形状であってもよいし、四角錐台、五角錐台、三角錐台、円錐台、楕円錐台等の錐台形状であってもよい。あるいは、突起部は錐形状や錐台形状でなくてもよく、少なくとも根元部分の断面積より先端側の断面積が小さく窄まった形状であればよい。隣接する複数の突起部12の根元同士を接続するジョイント部10bは、突起部12の錐体底面の角同士が連続するように形成されるとともに、4つの突起部12の根元同士を接続する場合は十字状に形成される。
【0032】
底板部10cにおいてジョイント部10b、突起部12、枠部10a等により囲まれた一部には、上下面で貫通する孔部10dが設けられている。底板部10cにおける所定位置に、シューレース5を挿通するための2つの鳩目孔6が、円錐台の形状にて隆起した部分の中心に設けられている。なお、図においてはジョイント部10b、孔部10dが多数形成されるため、その一部にのみ符号を付している。以上により、弾性パッド部10における枠部10a、ジョイント部10b、底板部10c、孔部10d、鳩目孔6が可撓性を有するウレタン樹脂部材により一体的に形成されている。
【0033】
図7は、弾性パッド部10の断面図である。本図は、
図5のA-A’線で示す箇所の断面を示す。高さが最も高い第1突起部12aが中央に配置され、その両隣に2番目の高さを有する第2突起部12bが配置される。第1突起部12aの高さ15aは、例えば15mmである。第2突起部12bの高さ15bは、例えば10mmである。突起部12の根元は、隣接する他の突起部の根元または枠部10aに対しジョイント部10bによって接続される。第2突起部12bの頂部16aは、第2突起部12bの中心より第1突起部12aの側に寄った位置に形成されていてもよい。
【0034】
各突起部12およびジョイント部10bの厚み10eは1.5mmである。第1突起部12aは、外側が錐形状である一方で、内側に凹部13aが形成されている。凹部13aには空洞14aが形成されている。第2突起部12bもまた外側が錐形状である一方で、内側に凹部13bが形成されている。凹部13bには空洞14bが形成されている。各突起部12が内包する凹部13ないし空洞14の体積率は、例えば60~65%である。なお、変形例としては、凹部13a、凹部13bが突起部12自体の材質より硬度の低い材料、例えば発泡ウレタンフォーム等の部材で満たされていてもよい。
【0035】
図8は、球衝突時の弾性パッド部10の断面図である。上段は球衝突前の弾性パッド部10の断面を示し、下段は球衝突時の弾性パッド部10の断面を示す。球70の衝突による圧縮荷重が矢印74に示す下方向へかかると、最も高い第1突起部12aの頂部16aが圧縮荷重により潰れて下方向へ撓むとともに、凹部13aの開口部が左右方向へ広がるように根元17aが矢印71に示す横方向にスライドする。同時に、第2突起部12bの頂部16bも矢印72に示す横方向にスライドする。第1突起部12aおよび第2突起部12bは全体として放射状に広がりながら膨らむように撓むことで上方から下方への圧縮荷重を広い範囲で受け止める。凹部13a、凹部13bに空洞14a、空洞14bが形成されていることにより、第1突起部12aおよび第2突起部12bが全体的にウレタン樹脂で密に形成される場合よりも柔軟性が高く、左右方向へのスライドおよび撓みを十分に発揮させ、球70の変形を抑制することができる。
【0036】
仮に隣接する複数の突起部12の間にジョイント部10bがなく根元17同士が連続しない場合、各突起部12の根元17はアッパー3に接続されて独立することとなる。その場合、上方からの圧縮荷重に対して根元17が横方向に動かず根元17より上の突状部分にだけ荷重が集中し、下方への過度の撓みによる座屈や破壊が生じやすくなる。本実施形態では、上方からの圧縮荷重に対し、根元17がジョイント部10bによって連続している複数の突起部12が全体的に横方向にスライドして荷重を横へ逃がしながら受け止めることができ、座屈や破壊を防止して十分な柔軟性を発揮することができる。
【0037】
ここで、精密万能試験機を用いて4種類の弾性パッド部のサンプルに対して荷重を与えた場合の変位の度合いを調べる試験を実施した。試験条件は、初期荷重が0.5N、圧縮速度が1.0mm/minである。
【0038】
第1サンプルは、突起部として3番目の硬さの材料(ショアA硬度:HA70)を使用し、構造としては中空(つまり空洞)の凹部を内包する。突起部の高さは15mmである。第2サンプルは、突起部として最も硬い材料(ショアA硬度:HA85)を使用し、構造としては中空の凹部を内包する。突起部の高さは15mmである。第3サンプルは、突起部として2番目の硬さの材料(ショアA硬度:HA75)を使用し、構造としては中実(つまり空洞がない構造)である。突起部の高さは15mmである。第4サンプルは、突起部として最も柔らかい(4番目の硬さ)材料(ショアA硬度:HA65)を使用し、構造としては中実である。突起部の高さは5mmである。
【0039】
図9は、弾性パッド部10および突起部12の硬さと荷重による変位との関係に関する試験結果を示すグラフの図である。試験結果としては、線83で示される第4サンプルが最も硬く、荷重の増加に対して変位が最も小さかった。変位2mm付近における剛性は398N/mmであった。特に、突起部が低い分、他のサンプルと異なり早い段階で底づきが発生してしまい、それ以上はほとんど変位しない結果となった。よって、第4サンプルの条件で突起部を形成させた場合、底づきが発生する分だけ球の変形を抑える効果が薄れると考えられる。
【0040】
逆に線80で示される第1サンプルが最も柔らかく、荷重の増加に対して変位が最も大きかった。変位2mm付近における剛性は14.9N/mmであった。さらに、荷重が一定基準を超えると変位5mm手前において座屈と見られる現象が発生した。座屈が発生すると底づきが起こりやすくなると考えられる。底づきが発生すると上述のように球の変形を抑える効果が薄れる。したがって、第1サンプルと同等の条件で突起部が形成されている場合、突起部の剛性は14.9N/mmより高い方が好ましいと考えられる。
【0041】
一方、線81で示される第2サンプルおよび線82で示される第3サンプルは座屈を発生させない範囲で荷重の増加に対して十分に変位することが分かった。さらに、第2サンプルは第3サンプルより変位の度合いが大きく、柔らかさで優ることが分かった。このように、最も柔らかい材料を用いた上に突起部を中空に形成させ、高さを15mmにした第2サンプルの条件が最も有利な結果となった。したがって、本実施形態の突起部12は第2サンプルと同等の条件で形成させるのが好適である。
これらの結果から、球の変形を抑える効果を発揮させるためには、突起部の座屈が起こりにくくなるように突起部を形成することが好ましいと考えられる。突起部の座屈を起こりにくくするためには、突起部の高さ、突起部内の構造(中空/中実)あるいは突起部の剛性などを調整すればよい。
【0042】
図10は、4種類のサンプルの条件と結果の関係をまとめた表の図である。第1サンプルの場合、剛性が最も低い約15N/mmであった。第4サンプルの場合、剛性が最も高い約400N/mmであった。第2サンプルの場合、剛性は約35N/mmであった。第3サンプルの場合、剛性は38N/mmであった。以上により、剛性の範囲としては約15N/mmから約400N/mmの範囲で機能を発揮することが考えられ、逆に約15N/mm以下や約400N/mm以上の剛性では機能が発揮されないことが考えられる。また、剛性が35N/mm程度となるような構造および材料の選択が特に好適である。
【0043】
以上の実施形態により具体化される発明を一般化すると、以下の技術的思想が導かれる。上述の課題を解決するために、本発明のある態様のフットボールシューズは、ソールと、ソールに直接的または間接的に接合されたアッパーと、を備える。アッパーは、足甲の内足寄りに位置する稜線を含む所定部位に、凹部を内包した突形状にて外部方向へ突出する形で可撓性を有する樹脂材料で形成されている突起部を少なくとも一部に有する弾性パッド部が設けられる。
【0044】
ここで「フットボールシューズ」は、フットボール等の球を蹴る動作を含むスポーツ競技において選手に着用される靴であってよく、「フットボール」は、いわゆるフットボール、サッカー、フットサル、ラグビー、アメリカンフットボール、オージーボール等のスポーツであってよい。「弾性パッド部」は、アッパーの上に取り付ける形の部材であってもよいし、アッパーの一部となるように接続される部材であってもよい。「凹部を内包」は、「突起部」の外部形状は突状をなすとともに、その内部形状として凹状等の空間が形成されていることを示してよい。この態様によると、球を蹴るアッパー部位においてアッパーと球の間に軟質な構造の突起部を介在させることで、その突起部が球との衝突による荷重で変形する分、球の変形を抑えることができる。これにより、突起部のない場合の硬い足甲で球を蹴る場合に比べて、蹴った球の速度を増加させることができる。
【0045】
弾性パッド部には突起部が複数配置されてもよい。この態様によると、複数の突起部が設けられた領域全体で広く分散して変形できる分、球の変形を抑えて球の速度を増加させることができる。
【0046】
突起部が内包する凹部は空洞であってもよいし、その凹部には突起部自体より硬度の低い材料で満たされていてもよい。この態様によると、突起部の内部が空洞または硬度の低い材料で満たされていることにより、突起部の柔軟性を高めて球衝突の荷重により変形させやすくすることができる。
【0047】
突起部は、根元部分の断面積より先端側の断面積が小さく窄まった形状にて形成されてもよい。根元部分の断面積より先端側の断面積が小さく窄まった形状は、錐形状または錐台形状であってもよい。この態様によると、突起部が断面積一定の柱状に形成されるよりも縦の圧縮加重による座屈や破壊が起こりにくい構造とすることができる。
【0048】
弾性パッド部には、相対的に高さが高い突起部と、その周囲に相対的に高さが低い突起部とが配置されてもよい。相対的に高さが高い突起部ほど、衝突する球の中心に近い位置、すなわちアッパーにおける球衝突部位の中心に近い位置に配置されるようにしてもよい。この態様によると、特に強く速い球を蹴るときの球衝突の可能性の高い部位ほど突起部を高くして十分な柔軟性を確保するとともに、その周囲の突起部の高さを相対的に低くすることで、強さよりも蹴る方向の精度を重視する他の種類のキック時の球衝突への干渉を制限することができる。
【0049】
相対的に高さが低い突起部は、その頂部の位置が相対的に高さが高い突起部に寄った形状にて形成されてもよい。この態様によると、特に強く速い球を蹴るときの球衝突の可能性の高い部位に突起部の頂部を寄せた状態から、球衝突時の圧縮荷重による変形で、各突起部およびその頂部が放射状にスライドする。これにより、より広い範囲にわたって分散して荷重を受け止めることができる。
【0050】
突起部が設けられる領域は、アッパーにおいてインステップキックの球衝突部位を含むとともに、インサイドキックの球衝突への干渉を制限する部位であってもよい。この態様によると、特に強く速い球を蹴るインステップキック時における球衝突の可能性の高い部位に突起部を設けて十分な柔軟性を確保するとともに、強さよりも蹴る方向の精度を重視するインサイドキック時の球衝突への干渉を制限することができる。
【0051】
弾性パッド部においては、隣接する複数の突起部の根元同士が連続して一体的に形成されていてもよい。仮に隣接する複数の突起部の根元同士が連続しない場合、各突起部の根元はアッパーに接続されて独立することとなり、上方からの圧縮荷重に対して根元が動かずに根元より上の突状部分にだけ荷重が集中し、座屈や破壊が生じやすくなる。この態様によると、上方からの圧縮荷重に対し、根元が連続している複数の突起部が全体的に横方向にスライドして荷重を横へ逃がしながら受け止めることができ、座屈や破壊を防止して十分な柔軟性を発揮することができる。
【0052】
以上、本発明について実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0053】
1 フットボールシューズ、 2 ソール、 3 アッパー、 10 弾性パッド部、 12 突起部、 13,17 根元、 60 足、 70 球。