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特開2023-9708心筋血流動態解析方法、心筋血流動態解析装置および心筋血流動態解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009708
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】心筋血流動態解析方法、心筋血流動態解析装置および心筋血流動態解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
G01T1/161 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113204
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】白石 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】白井 求
(72)【発明者】
【氏名】西田 和正
【テーマコード(参考)】
4C188
【Fターム(参考)】
4C188EE02
4C188FF04
4C188FF07
4C188KK24
4C188KK33
4C188LL30
(57)【要約】
【課題】核医学検査において心筋血流量をより精度よく定量するための技術を提供する。
【解決手段】心筋血流動態解析において、左室心筋のタイムアクティビティーカーブの補正を行う方法であって、右室内腔のタイムアクティビティーカーブに基づいて補正開始時刻インデックスを決定することを含み、補正開始時刻インデックスを決定することは、右室内腔のタイムアクティビティーカーブがピークとなる時刻インデックスに基づいて補正開始時刻インデックスを決定することを含む方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋血流動態解析において、左室心筋のタイムアクティビティーカーブの補正を行う方法であって、
右室内腔のタイムアクティビティーカーブに基づいて補正開始時刻インデックスを決定すること;
を含み、前記補正開始時刻インデックスを決定することは、前記右室内腔のタイムアクティビティーカーブがピークとなる時刻インデックスに基づいて前記補正開始時刻インデックスを決定することを含む、方法。
【請求項2】
前記補正開始時刻インデックスを決定することは、
・ 前記右室内腔のタイムアクティビティーカーブがピークとなる時刻インデックスと、左室内腔のタイムアクティビティーカーブがピークとなる時刻インデックスとの間の時間Tを求めることと;
・ 前記時間Tに基づいて第1の補正量を求めることと;
・ 前記右室内腔のタイムアクティビティーカーブがピークとなる時刻インデックスを前記第1の補正量だけ遅らせた時刻インデックスに基づいて、前記補正開始時刻インデックスを決定することと;
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記右室内腔のタイムアクティビティーカーブがピークとなる時刻インデックスと、左室内腔のタイムアクティビティーカーブの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線がピークとなる時刻インデックスとの間の時間として、前記時間Tを求めることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
心筋血流動態解析において、左室心筋のタイムアクティビティーカーブの補正を行う方法であって、
左室内腔のタイムアクティビティーカーブに基づいて補正開始時刻インデックスを決定すること;
を含み、前記補正開始時刻インデックスを決定することは、前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブの立ち上がりに基づいて前記補正開始時刻インデックスを決定することを含む、方法。
【請求項5】
前記補正開始時刻インデックスを決定することは、
・ 前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブが立ち上がる時刻インデックスと、前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブがピークとなる時刻インデックスとの間の時間Tを求めることと;
・ 前記時間Tに基づいて第1の補正量を求めることと;
・ 前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブが立ち上がる時刻インデックスを前記第1の補正量だけ遅らせた時刻インデックスに基づいて、前記補正開始時刻インデックスを決定することと;
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記立ち上がる時刻インデックス及び前記ピークとなる時刻インデックスの一方又は両方は、前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線に対して求められる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
左室内腔のタイムアクティビティーカーブに基づいて補正終了時刻インデックスを決定すること;
を更に含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記補正終了時刻インデックスを決定することは、
・ 前記時間Tに基づいて第2の補正量を求めることと;
・ 前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線がピークとなる時刻インデックスを前記第2の補正量だけ遅らせた時刻インデックスに基づいて、前記補正終了時刻インデックスを決定することと;
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記補正開始時刻インデックスにおける左室心筋のタイムアクティビティーカーブの値と、前記補正終了時刻インデックスにおける左室心筋のタイムアクティビティーカーブの値とに基づき、対数関数を利用して、補正された左室心筋のタイムアクティビティーカーブの少なくとも一部を推定することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記補正開始時刻インデックスから、前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線がピークとなる時刻インデックスとの間の各時刻インデックスにおいて、
・ 前記補正後の左室心筋のタイムアクティビティーカーブのカウント値と、前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線のカウント値とを比較することと;
・ 前記補正後の左室心筋のタイムアクティビティーカーブのカウント値が、前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線のカウント値より大きい場合、前記補正後の左室心筋のタイムアクティビティーカーブのカウント値を、前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線のカウント値に置き換えることと;
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記補正開始時刻インデックス以前において、前記補正後の左室心筋のタイムアクティビティーカーブのカウント値を0とすることを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
放射線撮像装置を用いて撮像された心臓の動態画像を取得することと、
前記動態画像に対し、右室内腔の関心領域、左室内腔の関心領域及び前記左室心筋の関心領域をそれぞれ設定することと;
前記右室内腔の関心領域から前記右室内腔のタイムアクティビティーカーブ、前記左室内腔の関心領域から前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブ、前記左室心筋の関心領域から前記左室心筋のタイムアクティビティーカーブをそれぞれ作成することと;
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実行することにより、前記左室心筋のタイムアクティビティーカーブの補正を行うことと;
を含む方法。
【請求項13】
請求項1乃至11いずれか一項に記載の前記方法を実行して補正された前記左室心筋のタイムアクティビティーカーブに基づいて、前記左室心筋への放射能取り込みに関する指標を算出することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
処理手段及び記憶手段を備える装置であって、前記装置はプログラム命令を格納し、前記プログラム命令は、前記処理手段に実行されると、前記装置に請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を遂行させるように構成される、装置。
【請求項15】
システムの処理手段に実行されると、前記システムに請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を遂行させるように構成されるプログラム命令を備える、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心筋血流動態解析法、心筋血流動態解析装置および心筋血流動態解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心筋血流動態解析は、心筋の血流やエネルギー代謝の様子を解析することにより、心臓の健康状態を調べる手法である。この解析には、PETやSPECTのような核医学の手法を使うことが多い。一例として、心筋左室内腔及び左室心筋に設定した関心領域におけるタイムアクティビティーカーブ(Time Activity Curve, TAC)を作成し、血液が心筋へ取り込まれる様子を評価する方法がある。TACとは、体内に投与された放射性薬剤から放出される放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値の経時的変化を示すカーブである。
【0003】
被験者に投与された放射性薬剤は、心臓の右室内腔、左室内腔を経て、左室心筋へと移行していく。この時、主に心臓の拍動による影響から、左室心筋のTACは、特に投与早期相において、右左室内腔通過時の放射能カウントにかぶさってしまい、そのカウント値が過大評価される現象が発生する。この現象をspilloverという。正確に心筋血流量を定量するためには、spilloverによる影響を補正する必要がある。
【0004】
特許文献1には、左室内腔のTACの盛り上がり部を正規分布で近似した近似曲線を求めると共に、左室心筋のTACの平衡状態区間を近似した近似直線を求め、前記近似曲線の立ち上がり点と、前記近似曲線と前記近似直線との交点との間を理論式で結ぶことにより、spilloverによる影響を補正する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-207183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、核医学検査において心筋血流量をより精度よく定量するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の具現化形態の一例は、心筋血流動態解析において、左室心筋のタイムアクティビティーカーブ(TAC)の補正を行う方法であって、右室内腔TACに基づいて、補正を開始する補正開始時刻インデックスを決定することを含むことを特徴とする。特に、前記補正開始時刻インデックスを決定することは、前記右室内腔TACがピークとなる時刻インデックスに基づいて前記補正開始時刻インデックスを決定することを含むことを特徴とする。
【0008】
実施形態によっては、前記補正はspillover補正であってもよい。
【0009】
心筋血流動態解析において被験者に投与される放射性薬剤は、心臓の右室内腔、左室内腔を経て、左室心筋へと移行していく。このため、左室心筋への放射性薬剤の移行が始まるのは、早くとも右室内腔TACがピークとなる時刻あたりであると予想される。そこで、左室心筋TACのspillover補正を開始する補正開始時刻インデックスを、右室内腔TACがピークとなる時刻インデックスに基づいて決定することにより、当該補正開始時刻インデックスを適切に設定することが可能となる。
【0010】
なお、「時刻インデックス」との用語とは、TACの時間軸の値を表す。TACは、放射線カウント値の時間変化を表すカーブであるが、時間軸の値の取り方は様々な方法を考えることができる。例えば、時間軸の値として、放射性薬剤の投与時刻からの秒数を用いる場合や、放射線の収集開始時刻からの秒数、実時刻を用いる場合を考えることができる。また、放射線カウント値の測定イベント番号を用いる場合もあり、例えば、TAC中のあるデータ点の時間軸の値が5であることが、5回目の測定で得られたデータ点であることを表す場合もある。このように、TACの時間軸の値の取り方には様々なバリエーションがあるが、本明細書ではTACの時間軸の値を総称して「時刻インデックス」と称している。
【0011】
実施形態によっては、前記補正開始時刻インデックスを決定することは、
・ 前記右室内腔TACがピークとなる時刻インデックスと、左室内腔TACの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線がピークとなる時刻インデックスとの間の時間Tを求めることと;
・ 前記時間Tに基づいて第1の補正量を求めることと;
・ 前記右室内腔TACがピークとなる時刻インデックスを前記第1の補正量だけ遅らせた時刻インデックスに基づいて、前記補正開始時刻インデックスを決定することと;
を含んでもよい。
【0012】
前述のように、左室心筋への放射性薬剤の移行が始まるのは、早くとも右室内腔TACがピークとなる時刻であると予想されるが、より正確には右室内腔TACがピークとなる時刻よりも遅いと予想される。そこで上記の補正により、右室内腔TACがピークとなる時刻インデックスよりも補正開始時刻インデックスを遅らせることで、前記補正開始時刻インデックスをより適切に設定することが可能となる。またこのとき、前記時間Tに基づいて第1の補正量を求めることで、当該補正開始時刻インデックスを適切に設定することが可能となることを、本願発明者は見出した。
【0013】
上記の実施形態において、左室内腔TACのピークをそのまま用いるのではなく、左室内腔TACの一部を正規分布フィッティングした曲線のピークを用いる理由は、左室内腔TACは頂上付近がなだらかとなってピークを明確に特定することが必ずしも容易でないことがあるからである。実施形態によっては、左室内腔TACのピークを明確に特定できる場合には、正規分布フィッティングした曲線のピークではなく左室内腔TACのピークをそのまま使って前記時間Tを決定してもよい。
【0014】
本発明の具現化形態の別の例は、心筋血流動態解析において、左室心筋のタイムアクティビティーカーブ(TAC)の補正を行う方法であって、左室内腔TACに基づいて、補正を開始する補正開始時刻インデックスを決定することを含むことを特徴とする。特に、前記補正開始時刻インデックスを決定することは、前記左室内腔TACの立ち上がりに基づいて前記補正開始時刻インデックスを決定することを含むことを特徴とする。
【0015】
前記左室内腔TACの立ち上がりは、該左室内腔TACのカウント値に基づいて定義してもよい。例えば、該左室内腔TACのカウント値が所定のカウント値を初めて超える時刻インデックスや、当該時刻インデックスから所定時間早い時刻インデックスとして定義してもよい。
【0016】
実施形態によっては、前記補正はspillover補正であってもよい。
【0017】
実施形態によっては、前記補正開始時刻インデックスを決定することは、
・ 前記左室内腔TACが立ち上がる時刻インデックスと、前記左室内腔TACがピークとなる時刻インデックスとの間の時間Tを求めることと;
・ 前記時間Tに基づいて第1の補正量を求めることと;
・ 前記左室内腔TACが立ち上がる時刻インデックスを前記第1の補正量だけ遅らせた時刻インデックスに基づいて、前記補正開始時刻インデックスを決定することと;
を含んでもよい。
【0018】
実施形態によっては、前記立ち上がる時刻インデックス及び前記ピークとなる時刻インデックスの一方又は両方は、前記左室内腔のタイムアクティビティーカーブの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線に対して求められてもよい。
【0019】
本発明の具現化形態の一例は、左室内腔TACに基づいて、左室心筋TACのspillover補正を終了する補正終了時刻インデックスを決定することを更に含んでもよい。特に、前記補正終了時刻インデックスを決定することは、
・ 前記時間Tに基づいて第2の補正量を求めることと;
・ 前記左室内腔TACの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線がピークとなる時刻インデックスを前記第2の補正量だけ遅らせた時刻インデックスに基づいて、前記補正終了時刻インデックスを決定することと;
を含んでもよい。
【0020】
前述のように、心筋血流動態解析において被験者に投与される放射性薬剤は、心臓左室内腔から左室心筋へと移行する。このため、左室内腔を起源とする放射線の左室心筋TACへのspilloverは、左室内腔TACがピークを迎えてから或る時間の間、継続すると考えられる。そこで本願発明者は、左室内腔TACの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線がピークとなる時刻インデックスを前記第2の補正量だけ遅らせた時刻インデックスに基づいて、左室心筋TACのspillover補正を終了する補正終了時刻インデックスを設定することで、当該補正終了時刻インデックスを適切に設定することが可能となることを見出した。
【0021】
本発明の具現化形態の別の例は、心筋血流動態解析における、左室心筋TACのspillover補正を行う方法であって、spillover補正を開始する補正開始時刻インデックスにおける左室心筋TACの値と、spillover補正を終了する補正終了時刻インデックスにおける左室心筋TACの値とに基づき、対数関数を利用して、spillover補正された左室心筋TACの少なくとも一部を推定することを含むことを特徴とする。
【0022】
対数関数は一般に、急激な立ち上がりを有するがすぐになだらかになる形を有する。この形は、左室心筋TACの形状を近似するために有用である。
【0023】
前記推定の一例は、前記補正開始時刻インデックスから、前記左室内腔TACの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線がピークとなる時刻インデックスとの間の各時刻インデックスにおいて、
・ spillover補正後の左室心筋TACのカウント値と、前記左室内腔TACの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線のカウント値とを比較することと;
・ spillover補正後の左室心筋TACのカウント値が、前記左室内腔TACの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線のカウント値より大きい場合、spillover補正後の左室心筋TACのカウント値を、前記左室内腔TACの少なくとも一部を正規分布フィッティングした曲線のカウント値に置き換えることと;
を含んでもよい。
【0024】
放射性薬剤の集積順序の理論上、正規分布フィッティング後の左室内腔TACのピークより前に、左室心筋TACの値が左室内腔TACの値を超えることはない。もし超えていたら、左室心筋TACの推定が妥当ではないことになる。そこで、上記の比較・置き換え処理を行うことで、左室心筋TACの推定の妥当性を確認すると共に、妥当でない場合に非妥当性を解消することができる。
【0025】
前記推定の一例は、前記補正開始時刻インデックス以前において、spillover補正後の左室心筋TACのカウント値を0とすることを含んでもよい。つまり、前記補正開始時刻インデックス以前においては、放射性薬剤が左室心筋に取り込まれていないことを仮定してもよい。
【0026】
本発明の具現化形態の別の一例は、処理手段及び記憶手段を備えるシステムであって、前記システムはプログラム命令を格納し、前記プログラム命令は、前記処理手段に実行されると、前記システムに前記方法を遂行させるように構成される、システムを含む。
【0027】
本発明の具現化形態の別の一例は、システムの処理手段に実行されると、前記システムに前記方法を遂行させるように構成されるプログラム命令を備える、コンピュータプログラムを含む。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明を実施し得るシステムのハードウェア構成を説明するための図である。
図2】本発明に従って、左室心筋TACのspillover補正を開始する補正開始時刻インデックス、及び、spillover補正を終了する補正終了時刻インデックスを設定する処理の例を説明するためのフローチャートである。
図3A】実施例の説明に用いる右室内腔TACデータ130及び左室内腔TACデータ132をグラフに表示した例である。
図3B】右室内腔TAC及び左室内腔TACのピーク検出処理を説明するための図である。
図3C】実施例で決定した補正開始時刻インデックス及び補正終了時刻インデックスの例を描いた図である。
図4】本願に開示されるspillover補正の例を説明するためのフローチャートである。
図5】本実施例における、オリジナルの左室心筋TACと、spillover補正後の左室心筋TACを図示したものである。
図6】本願に開示されるspillover補正の使用例を紹介するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しつつ、本明細書に開示される技術思想の好適な実施形態の例を説明する。
【0030】
図1は、本発明を実施し得るシステム100のハードウェア構成を説明するための図である。図1に描かれるように、システム100は、ハードウェア的には一般的なコンピュータと同様であり、CPU102、主記憶装置104、大容量記憶装置106、ディスプレイ・インターフェース107、周辺機器インターフェース108、ネットワーク・インターフェース109などを備えることができる。一般的なコンピュータと同様に、主記憶装置104としては高速なRAM(ランダムアクセスメモリ)を使用することができ、大容量記憶装置106としては、安価で大容量のハードディスクやSSDなどを用いることができる。システム100には、情報表示のためのディスプレイを接続することができ、これはディスプレイ・インターフェース107を介して接続される。またシステム100には、キーボードやマウス、タッチパネルのようなユーザインターフェースを接続することができ、これは周辺機器インターフェース108を介して接続される。ネットワーク・インターフェース109は、ネットワークを介して他のコンピュータやインターネットに接続するために用いることができる。
【0031】
大容量記憶装置106には、システム100の最も基本的な機能を司るオペレーティングシステム(OS)110が格納されている。大容量記憶装置106にはまた、心筋血流動態解析における左室心筋TACのspillover補正に用いられる、補正開始時刻インデックス及び補正終了時刻インデックスを決定するためのプログラム120が格納されていてもよい。補正開始・終了時刻インデックス決定プログラム120は、CPU102に実行されると、右室内腔TACデータ130及び左室内腔TACデータ132に基づいて、上記の補正開始時刻インデックス及び補正終了時刻インデックスを決定するように構成される。プログラム120はまた、決定した補正開始時刻インデックス及び補正終了時刻インデックスを、補正開始・終了時刻インデックスデータ140として保存するように構成されてもよい。右室内腔TACデータ130や左室内腔TACデータ132、補正開始・終了時刻インデックスデータ140は、大容量記憶装置106に格納されるデータであってもよい。
【0032】
大容量記憶装置106にはまた、左室心筋TAC推定プログラム122が格納されていてもよい。プログラム122はCPU102に実行されると、補正開始・終了時刻インデックスデータ140に基づいて、spillover補正後の左室心筋TACの少なくとも一部を推定するように構成される。左室心筋TAC推定プログラム122は、spillover補正後の左室心筋TACを作成するために、オリジナルの左室心筋TACデータ134を利用するように構成されてもよい。プログラム122はまた、補正後の左室心筋TACの全体を、左室心筋TACデータ142として保存されるように構成されてもよい。オリジナルの左室心筋TACデータ134や補正後の左室心筋TACデータ142も、大容量記憶装置106に格納されるデータであってもよい。
【0033】
大容量記憶装置106にはまた、情報出力プログラム124が格納されていてもよい。情報出力プログラム124はCPU102に実行されると、TACデータ130、132、134、142や補正開始・終了時刻インデックスデータ140を、ユーザに見やすい形にして、ディスプレイ・インターフェース107を介して外部ディスプレイに表示するように構成される。
【0034】
システム100は、図1に描かれた要素の他にも、電源や冷却装置など通常のコンピュータシステムが備える装置と同様の構成を備えることができる。コンピュータシステムの実装形態には、記憶装置の分散・冗長化や仮想化、複数CPUの利用、CPU仮想化、DSPなど特定処理に特化したプロセッサの使用、決定の処理をハードウェア化してCPUに組み合わせることなど、様々な技術を利用した様々な形態のものが知られている。本明細書で開示される発明は、どのような形態のコンピュータシステム上に搭載されてもよく、コンピュータシステムの形態によってその範囲が限定されることはない。本明細書に開示される技術思想は、一般的に、(1)処理手段に実行されることにより、当該処理手段を備える装置またはシステムに、本明細書で説明される各種の処理を遂行させるように構成される命令を備えるプログラム、(2)当該処理手段が当該プログラムを実行することにより実現される装置またはシステムの動作方法、(3)当該プログラム及び当該プログラムを実行するように構成される処理手段を備える装置またはシステムなどとして具現化されることができる。前述のように、ソフトウェア処理の一部はハードウェア化される場合もある。
【0035】
また、システム100の製造・販売時や起動時には、TACデータ130、132、134、142や、補正開始・終了時刻インデックス140は、大容量記憶装置106の中に記憶されていない場合もあることに注意されたい。TAC130、132、134は、例えば周辺機器インターフェース108やネットワーク・インターフェース109を介して、外部の装置からシステム100に転送されるデータであってもよい。補正開始・終了時刻インデックス140や、補正後の左室心筋TAC142は、補正開始・終了時刻インデックス決定プログラム120や左室心筋TAC推定プログラム122の実行により生成されるデータであってもよい。本明細書で開示される発明の範囲は、記憶装置にこれらのデータが格納されているか否かによって限定されるものではないことを、念のために記しておく。
【0036】
次に図2のフローチャート及び図3A~3Cを参照しつつ、本発明に従って、左室心筋TACのspillover補正を開始する補正開始時刻インデックス、及び、spillover補正を終了する補正終了時刻インデックスを設定する処理の例を説明する。実施例によっては、この例示的処理200は、補正開始・終了時刻インデックス決定プログラム120がCPU102に実行されることにより、システム100が実行する処理であってもよい。
【0037】
ステップ202は処理の開始を示す。ステップ204では、右室内腔TACデータ130及び左室内腔TACデータ132が大容量記憶装置106からロードされる。右室内腔TACデータ130及び左室内腔TACデータ132は、外部のSPECT装置やPET装置を用いた心筋血流動態測定によって得られたデータである。
【0038】
図3Aに、ロードした右室内腔TACデータ130及び左室内腔TACデータ132をグラフに表示した例を示す。グラフの横軸の値は時刻に関連する値であり、放射線の収集開始時刻からの秒数を表す。つまり、本例における時刻インデックスは放射性薬剤の投与時刻からの秒数を表す。縦軸は放射線カウント値を表している。図において曲線302は右室内腔TACデータ130の各データ点を繋いだ曲線であり、曲線304は左室内腔TACデータ132各データ点を繋いだ曲線である。曲線306は、左室内腔TACデータ132の一部を正規分布フィッティングして得られた曲線である。
【0039】
ステップ206では、右室内腔TACのピークが検出される。本例では、右室内腔TACデータ130においてカウント値が最大となるデータ点をもって、右室内腔TACのピークとしている。実施形態によっては、右室内腔TACデータ130の少なくとも一部を正規分布等でフィッティングし、そのピークとなる点をもって、右室内腔TACのピークとしてもよい。
【0040】
ステップ208では、左室内腔TACのピークが検出される。本例では、左室内腔TACデータ132の一部を正規分布フィッティングして得られた曲線306がピークとなる点をもって、左室内腔TACのピークとしている。
【0041】
左室内腔TACデータ132のピークをそのまま用いるのではなく、左室内腔TACデータ132の一部を正規分布フィッティングした曲線のピークを用いる理由は、オリジナルの左室内腔TACは頂上付近がなだらかとなって、ピークを明確に特定することが必ずしも容易でないことがあるからである。左室内腔TACデータ132のうち正規分布フィッティングを行う範囲の設定は、手動にて行ってもよいし、自動で行ってもよい。自動で行う場合、例えば、左室内腔TACデータ132でカウント値が最大となる時刻インデックスの前後の所定の範囲を、正規分布フィッティングを行う範囲として設定してもよい。例えば、左室内腔TACデータ132でカウント値が最大となる時刻インデックスの前後10秒の範囲で標準偏差(S.D.)を求め、前記カウント値が最大となる時刻インデックスの前後3S.Dの範囲で正規分布フィッティングを行うこととしてもよい。もちろん、これらの秒数や範囲は例示に過ぎず、他の値を用いてもよいし、ソフトウェアの実装において、これらの秒数や範囲を手動で調節可能としてもよい。また実施形態によっては、左室内腔TACデータ132においてカウント値が最大となるデータ点をもって、左室内腔TACのピークとしてもよい。
【0042】
図3Bに、検出した右室内腔TACのピーク及び左室内腔TACのピークを、直線312,314で示している。直線312によって示される横軸の値が、右室内腔TACのピークにおける時間軸の値(すなわち右室内腔TACのピークを与える時刻インデックス)となり、直線314によって示される横軸の値が、左室内腔TACのピークにおける時間軸の値(すなわち左室内腔TACのピークを与える時刻インデックス)となる。
【0043】
ステップ210では、右室内腔TACのピークと左室内腔TACのピークとの間の時間Tが計算される。時間Tは例えば、単に、左室内腔TACのピークにおける時間軸の値(すなわち左室内腔TACのピークを与える時刻インデックス)から、右室内腔TACのピークにおける時間軸の値(すなわち右室内腔TACのピークを与える時刻インデックス)を減算した値としてもよい。図3Bにおいて、時間Tの例が、アルファベットTを用いて図示されている。
【0044】
ステップ212では、左室心筋TACのspillover補正の開始時点となる時刻インデックスを決定する。本願ではこの時刻インデックスを、補正開始時刻インデックスと称している。好適な実施形態では、この補正開始時刻インデックスを、右室内腔TACのピークを与える時刻インデックスを、ステップ210で計算した時間Tに基づいて計算した補正量だけ遅らせることにより、決定することとしている。
【0045】
この補正量CV1は、例えば次の式で計算することができる。
ここでα>1である。αは、投与する放射性薬剤等に応じて施設毎に決定すべき値であるが、放射性薬剤としてタリウム製剤を用いる場合、αとしてだいたい4あたりが適切であることが、発明者の検討により判明している。
【0046】
ステップ214では、左室心筋TACのspillover補正の終了時点となる時刻インデックスを決定する。本願ではこの時刻インデックスを、補正終了時刻インデックスと称している。好適な実施形態では、この補正終了時刻インデックスを、左室内腔TACのピークを与える時刻インデックスを、ステップ210で計算した時間Tに基づいて計算した補正量だけ遅らせることにより、決定することとしている。
【0047】
この補正量CV2は、例えば次の式で計算することができる。
ここでβ>0である。βも、投与する放射性薬剤等に応じて施設毎に決定すべき値であるが、放射性薬剤としてタリウム製剤を用いる場合、βとしてだいたい1あたりが適切であることが、発明者の検討により判明している。
【0048】
図3Cに、本例のデータでα=5,β=1として計算した補正量CV1,CV2の例を図示した。従って本例の補正開始時刻インデックスは、直線322で示される横軸の値であり、本例の補正終了時刻インデックスは、直線324で示される横軸の値である。
【0049】
なお実施例によっては、特に補正開始時刻インデックスは、補正量CV1による補正を行わずに定めてもよい。つまり、補正開始時刻インデックスとして、右室内腔TACのピークを与える時刻インデックスをそのまま用いてもよい。
【0050】
ステップ216では、計算された補正開始時刻インデックス及び補正終了時刻インデックスが、補正開始・終了時刻インデックスデータ140として大容量記憶装置106に保存される。
【0051】
ステップ218はオプションのステップである。ステップ218では、計算された補正開始時刻インデックス及び補正終了時刻インデックスが、数値やグラフで外部ディスプレイに表示される。例えば図3Cのような表示が提供されてもよい。この表示は、情報出力プログラム124がCPU102に実行されることにより行われる処理であってもよい。
【0052】
ステップ220は処理200の終了を示す。
【0053】
処理200により、心筋血流動態解析において、左室心筋TACのspillover補正を開始する補正開始時刻インデックスやspillover補正を終了する補正終了時刻インデックスを、適切に設定することが可能となる。
【0054】
心筋血流動態解析において用いられる放射性薬剤には、テクネチウム製剤やタリウム製剤が知られている。このうちタリウム製剤は、テクネチウム製剤よりもspilloverの影響が大きくなることが知られている。本発明は、放射性薬剤としてタリウム製剤を用いる場合にも適切な補正終了時刻インデックスを設定することができるので、従来技術に比べて大きな利益をもたらすものである。
【0055】
左室心筋TACのspillover補正の具体的な手法としては、既存の手法を用いても構わない。例えば前記特許文献1に記載の手法を用いることができる。しかし本願では、spillover補正の方法についても新規な発明を開示する。
【0056】
図4は、本願に開示されるspillover補正の実施例である処理400を説明するためのフローチャートである。実施例によっては、この例示的処理400は、左室心筋TAC推定プログラム122がCPU102に実行されることにより、システム100が実行する処理であってもよい。
【0057】
ステップ402は処理の開始を示す。ステップ404では、左室内腔TACデータ132及び左室心筋TACデータ134が大容量記憶装置106からロードされる。左室心筋TACデータ134も左室内腔TACデータ132と同様、外部のSPECT装置やPET装置を用いた心筋血流動態測定によって得られたデータである。ステップ406では、補正開始・終了時刻インデックスデータ140が大容量記憶装置106からロードされる。補正開始・終了時刻インデックスデータ140は、前述の処理200のステップ216で大容量記憶装置106に格納されたデータである。実施例によっては、処理200と処理400は連続して一体的に行われる場合もあり、その場合は左室内腔TACデータ132や補正開始・終了時刻インデックスデータ140は既に主記憶装置104上にあるだろう。その場合は言うまでもなく、これらのデータのロードを改めて行う必要はない。
【0058】
ステップ408では、補正開始時刻インデックス以前における、推定左室心筋TACの値を0と決定する。つまり、補正開始時刻インデックス及びそれより時間的に早い時刻インデックスにおいては、推定される左室心筋TACの値は0とされる。
【0059】
ステップ410では、補正開始時刻インデックスと補正終了時刻インデックスとの間の左室心筋TACを、対数関数で推定する。本実施例では次の式で近似する。

推定左室心筋カウント値(補正開始時刻インデックス+n)
= 基底値+log10(1.0+((n/(補間点数)+1)×9.0))×値幅

上の式において:
・ 補間点数は、補正終了時刻インデックス-補正開始時刻インデックス-1である。
・ nは整数であり、1から補間点数まで変化する。
・ 基底値は、補正開始時刻インデックスにおける左室心筋TACのカウント値である。この値は本例では、ステップ408において、0に設定されている。実施例によっては、補正開始時刻インデックスにおける左室心筋TACデータ134のカウント値を用いることもある。実施例によっては、TACデータ134の実際のカウント値に関わらず、基底値を0と決めてしまってもよい。
・ 値幅は、補正終了時刻インデックスにおける左室心筋TACのカウント値から、補正開始時刻インデックスにおける左室心筋TACのカウント値を減算したものである。本例では、補正終了時刻インデックスにおける左室心筋TACのカウント値として、補正終了時刻インデックスにおける左室心筋TACデータ134のカウント値を用いる。また前述のように、本例では、補正開始時刻インデックスにおける左室心筋TACのカウント値は0としている。
【0060】
ステップ412では、ステップ410で推定した左室心筋TACの妥当性がチェックされる。妥当性のチェックは、補正開始時刻インデックスから、左室内腔TACデータ132の一部を正規分布フィッティングした曲線がピークとなる時刻インデックスとの間の各時刻インデックスにおいて、次のように行われる。
・ ステップ410で推定した、spillover補正後の左室心筋TACのカウント値と、前記曲線のカウント値とを比較する。
・ spillover補正後の左室心筋TACのカウント値が、上記曲線のカウント値より大きい場合、spillover補正後の左室心筋TACのカウント値を、上記曲線のカウント値に置き換える。
【0061】
なお、上記曲線、すなわち左室内腔TACデータ132の一部を正規分布フィッティングした曲線としては、図3Aに関連して説明した曲線306を用いてもよい。従って、処理200と処理400が連続して一体的に行われる場合は、ステップ410においてこの曲線を改めて求める必要はないだろう。
【0062】
ステップ414では、補正開始時刻インデックス以前のカウント値を0、補正開始時刻インデックスから補正終了時刻インデックスの間のカウント値は、ステップ410及び412で求めたカウント値、補正終了時刻インデックス以降のカウント値は、左室心筋TACデータ134のカウント値として、spillover補正後の左室心筋TACの全体を決定する。
【0063】
実施形態によっては、決定した左室心筋TACが、データ142として大容量記憶装置106に保存されたり、外部ディスプレイに表示されたりする(ステップ416)。
【0064】
図5に、本実施例におけるオリジナルの左室心筋TACと、spillover補正後の左室心筋TACをグラフに表示した。曲線502は、左室心筋TACデータ134をグラフに表示したものであり、曲線504は、処理400で得られた、spillover補正後の左室心筋TACデータ142をグラフに表示したものである。直線322,324は、図3Cに示した直線322,324と同じものであり、その横軸の値がそれぞれ補正開始時刻インデックス、補正終了時刻インデックスを示す。図5を参照すると、補正開始時刻インデックスから補正終了時刻インデックスの間において、曲線502に盛り上がりが見られるが、これはspillover現象によるものであり、右左室内腔由来の放射線が左室心筋のカウント値に混入したために生じた盛り上がりである。この盛り上がりが、曲線504ではきれいに補正されていることが解る。
【0065】
次に図6のフローチャートを用いて、本願に開示されるspillover補正の使用例を紹介する。この使用例600は、装置の処理手段でプログラム命令が実行されることにより、前記装置が遂行する処理であってもよい。
【0066】
ステップ602は処理の開始を示す。ステップ604では、放射線撮像装置を用いて撮像された、心臓の動態画像をロードする。この動態画像は心筋血流動態解析のために撮像された心臓の3次元動態画像であり、例えば、201TlClのような心筋血流製剤を投与する被験者に対して、運動負荷又は薬剤負荷を実施した上で、又は安静条件の下で、SPECT装置やPET装置で放射線を収集し、画像化したデータであることができる。
【0067】
ステップ606では、ロードした動態画像に対し、右室内腔の関心領域、左室内腔の関心領域及び左室心筋の関心領域をそれぞれ設定する。関心領域の設定には、ロードした動態画像から右室内腔や左室内腔、左室心筋を抽出する必要がある。既に、核医学画像用の領域抽出ソフトウェアがいくつか存在するので、そのようなソフトウェアを利用して、領域抽出を行うことができる。既存のSPECT装置やPET装置には、そのためのソフトウェアが付属している場合があり、それを利用して抽出を行ってもよい。心筋の抽出には、WO2013/047496号に記載の手法を用いてもよい。抽出した右室内腔や左室内腔、左室心筋の全体を、それぞれ関心領域として設定してもよいし、それらの一部のみを関心領域として設定してもよい。
【0068】
ステップ608では、右室内腔の関心領域から右室内腔のタイムアクティビティーカーブを、左室内腔の関心領域から左室内腔のタイムアクティビティーカーブ、左室心筋の関心領域から左室心筋のタイムアクティビティーカーブをそれぞれ作成する。すなわち、各関心領域について、放射線量の計数値の経時的変化を示すカーブを作成する。
【0069】
ステップ610では、本明細書で説明した補正方法を用いて、左室心筋のタイムアクティビティーカーブの補正を行う。
【0070】
ステップ612では、補正した左室心筋のタイムアクティビティーカーブに基づいて、左室心筋への放射能取り込みに関する指標を算出する。例えば、左室心筋への放射能取込みの指標(K1)や、左室心筋からの洗い出しの指標(k2)などの指標を算出してもよい。更にこれらの指標から、例えば放射性薬剤の心筋摂取率を算出してもよい。
【0071】
実施形態によっては、算出した指標を保存したり表示したりしてもよい(ステップ614)。ステップ616は処理の終了を示す。
【0072】
以上、好適な実施例を用いて本発明を詳しく説明してきたが、上記の説明や添付図面は、本発明の範囲を限定する意図で提示されたものではなく、むしろ、法の要請を満たすために提示されたものである。本発明の実施形態には、ここで紹介されたもの以外にも、様々なバリエーションが存在する。例えば、補正開始時刻インデックスを決定するために、右室内腔TACがピークとなる時刻インデックスを用いるのではなく、左室内腔TACの立ち上がりに基づいて補正開始時刻インデックスを決定する実施形態もある。明細書又は図面に示される各種の数値はいずれも例示であり、これらの数値は発明の範囲を限定する意図で提示されたものではない。明細書又は図面に紹介した各種の実施例に含まれている個々の特徴は、その特徴が含まれることが直接記載されている実施例と共にしか使用できないものではなく、ここで説明された他の実施例や説明されていない各種の具現化例においても、組み合わせて使用可能である。実施例で用いられた具体的なパラメータ値は例示に過ぎず、他の値を用いることももちろん可能である。フローチャートで紹介された処理の順番は、紹介された順番で実行しなければならないわけではなく、実施者の好みや必要性に応じて、順序を入れ替えたり並列的に同時実行したり、さらに複数のブロックを一体不可分に実装したり、適当なループとして実行したりするように実装してもよい。これらのバリエーションは、全て、本明細書で開示される発明の範囲に含まれるものであり、処理の実装形態によって発明の範囲が限定されることはない。請求項に決定される処理の記載順も、処理の必須の順番を決定しているわけではなく、例えば処理の順番が異なる実施形態や、ループを含んで処理が実行されるような実施形態なども、請求項に係る発明の範囲に含まれるものである。
【0073】
更に例えば、補正開始・終了時刻インデックス決定プログラム120や左室心筋TAC推定プログラム122、情報出力プログラム124の実施形態には、これら3つのうち2つ又は3つが単一のプログラムとして構成される場合や、3つ又はそれ以上の複数の独立のプログラムから構成されるプログラム群であるようなものが含まれうる。よく知られているように、プログラムの実装形態には様々なものがあり、それらのバリエーションは全て、本明細書で開示される発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
100 システム
102 CPU
104 主記憶装置
106 大容量記憶装置
107 ディスプレイ・インターフェース
108 周辺機器インターフェース
109 ネットワーク・インターフェース
120 プログラム
120 補正開始・終了時刻インデックス決定プログラム
122 左室心筋TAC推定プログラム
122 プログラム
124 情報出力プログラム
130 右室内腔TACデータ
132 左室内腔TACデータ
134 左室心筋TACデータ
140 補正開始・終了時刻インデックスデータ
142 左室心筋TACデータ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6