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特開2023-97130スポンジチタン塊の保管方法及びスポンジチタンの製造方法
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  • 特開-スポンジチタン塊の保管方法及びスポンジチタンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097130
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】スポンジチタン塊の保管方法及びスポンジチタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/12 20060101AFI20230630BHJP
   B02C 19/00 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C22B34/12
B02C19/00 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213303
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕介
(72)【発明者】
【氏名】平塚 康樹
【テーマコード(参考)】
4D067
4K001
【Fターム(参考)】
4D067CG07
4D067GA10
4K001AA27
4K001BA23
4K001CA01
(57)【要約】
【課題】保管中におけるスポンジチタン塊への着色が抑制可能なスポンジチタン塊の保管方法を提供する。
【解決手段】スポンジチタン塊の保管方法であって、スポンジチタン塊をケーシングの内部に配置し、ケーシングの内部に絶対湿度3.5gH2O/m3以下の乾燥エアーを供給し、且つケーシングの内部がその外部に対して正圧に維持されるようにケーシングの下部側からケーシングの内部の気体を外部に排出する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポンジチタン塊の保管方法であって、
前記スポンジチタン塊をケーシングの内部に配置し、該ケーシングの内部に絶対湿度3.5gH2O/m3以下の乾燥エアーを供給し、且つ該ケーシングの内部がその外部に対して正圧に維持されるように該ケーシングの下部側から該ケーシングの内部の気体を該外部に排出する、スポンジチタン塊の保管方法。
【請求項2】
前記ケーシングが複数の前記乾燥エアーの給気口を有し、
前記給気口は、少なくとも、スポンジチタン塊の頂部側と、該スポンジチタン塊の底部側とに配置される、請求項1に記載のスポンジチタン塊の保管方法。
【請求項3】
前記ケーシングの内部への乾燥エアーの供給量が500L/min以上750L/min以下である、請求項1又は2に記載のスポンジチタン塊の保管方法。
【請求項4】
前記ケーシングの内部容積が3m3以上20m3以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のスポンジチタン塊の保管方法。
【請求項5】
前記ケーシングの外部の絶対湿度が15.0gH2O/m3以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のスポンジチタン塊の保管方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のスポンジチタン塊の保管方法にてスポンジチタン塊を保管する保管工程と、
前記保管工程後、前記スポンジチタン塊を破砕してスポンジチタンを得る破砕工程とを含む、スポンジチタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポンジチタン塊の保管方法及びスポンジチタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジチタンは、いわゆるクロール法によって製造されうる。クロール法では、金属製還元反応容器内で溶融金属マグネシウムに四塩化チタンを滴下することで還元反応が起こり、スポンジチタン塊が得られる(以下、スポンジチタン塊を得る当該工程を「還元工程」と称することがある。)。このスポンジチタン塊は破砕シャー等で破砕され、スポンジチタンを得る(以下、スポンジチタン塊をスポンジチタンに破砕する当該工程を「破砕工程」と称することがある。)。スポンジチタン塊の破砕により得られたスポンジチタンは溶解原料として使用することができ、例えば電子ビーム溶解(EB)法や真空アーク再溶解(VAR)法により溶解させてチタンインゴットの製造に用いられる。
【0003】
現在、航空機や電子部品等の技術分野ではグレードが極めて高い高純度チタンが要求されている。スポンジチタン塊を破砕して得られるスポンジチタンは、チタンインゴットの製造に用いられる前段階において、大気と接触する機会があり、その酸素含有量が増加してしまう。スポンジチタン中の酸素含有量を低減する方法としては、例えば特許文献1~3に記載されているような技術がある。
【0004】
特許文献1には、「クロール法により製造されたスポンジチタン塊の中央部を取り出し、破砕して得られたスポンジチタン粒を保管容器内に封入する際に、スポンジチタン粒が充填された保管容器内を40Pa以下まで減圧した後にその保管容器内に低湿度ガスを注入する高純度スポンジチタン粒の保管方法」が提案されている。
【0005】
特許文献2には、「破砕整粒後のスポンジチタンを品質均一化のため混ぜ合わせる配合過程で用いられる保存用のホッパーであって、前記破砕整粒後のスポンジチタンの投入にともない当該ホッパー内で発生する上昇流を抑制する蓋を上部の投入口に開閉可能に有することを特徴とするホッパー」で、「蓋をした状態でホッパー内部に乾燥空気、窒素、あるいはアルゴンなどを導入し、通常の大気と置換」することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、「クロール法で製造したスポンジチタンケーキを切断して選別し、選別したスポンジチタンを工具を用いて粉砕するチタン材の製造方法において、前記粉砕を、絶対湿度が10g-H2O/m3以下の雰囲気下で行うことを特徴とする低酸素チタン材の製造方法」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-87373号公報
【特許文献2】特開2006-291306号公報
【特許文献3】特開平10-259432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記還元工程で得られたスポンジチタン塊は1バッチあたり7トン以上の重量として生産されることがある。そして、スポンジチタン塊は、金属製還元反応容器から取り出した時から破砕する時まで、製造設備の都合上、一時的に保管することが必要になる場合がある。この保管の間、スポンジチタン塊は、黄色などに着色してしまうことがあった。この場合、その後の破砕工程において、着色したスポンジチタン塊を破砕してもその着色を物理的に除去できず、破砕後のスポンジチタンも着色したものになる。高純度チタン等の用途によっては、着色したスポンジチタンをチタンインゴットの溶解原料として使用できないことがあるので、スポンジチタンの製造における歩留まりの低下が余儀なくされる。
【0009】
なお、特許文献1~3では、破砕時又は破砕後におけるスポンジチタン中の酸素含有量の増加を抑制することに着目しており、破砕前のスポンジチタン塊の保管中に生じうる着色については検討されていない。したがって、特許文献1~3の技術には、スポンジチタンの製造における歩留まりの低下を解消するために未だ改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明は、保管中におけるスポンジチタン塊への着色が抑制可能なスポンジチタン塊の保管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、一側面において、スポンジチタン塊をケーシングの内部に配置し、該ケーシングの内部に絶対湿度3.5gH2O/m3以下の乾燥エアーを供給し、且つ該ケーシングの内部がその外部に対して正圧に維持されるように該ケーシングの下部側から該ケーシングの内部の気体を該外部に排出する、スポンジチタン塊の保管方法である。
【0012】
本発明に係るスポンジチタン塊の保管方法の一実施形態においては、前記ケーシングが複数の前記乾燥エアーの給気口を有し、前記給気口は、少なくとも、スポンジチタン塊の頂部側と、該スポンジチタン塊の底部側とに配置される。
【0013】
本発明に係るスポンジチタン塊の保管方法の一実施形態においては、前記ケーシングの内部への乾燥エアーの供給量が500L/min以上750L/min以下である。
【0014】
本発明に係るスポンジチタン塊の保管方法の一実施形態においては、前記ケーシングの内部容積が3m3以上20m3以下である。
【0015】
本発明に係るスポンジチタン塊の保管方法の一実施形態においては、前記ケーシングの外部の絶対湿度が15.0gH2O/m3以上である。
【0016】
本発明は、別の側面において、上記いずれかのスポンジチタン塊の保管方法にてスポンジチタン塊を保管する保管工程と、前記保管工程後、前記スポンジチタン塊を破砕してスポンジチタンを得る破砕工程とを含む、スポンジチタンの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によれば、保管中においてスポンジチタン塊への着色を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るスポンジチタン塊の保管方法の一実施形態に用いられるケーシングの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は以下に説明する各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除して発明を形成してもよい。
【0020】
[1.スポンジチタン塊の保管方法]
本発明に係るスポンジチタン塊の保管方法の一実施形態は、ケーシングを使用してスポンジチタン塊を保管する。より詳細には、スポンジチタン塊をケーシングの内部に配置し、該ケーシングの内部に絶対湿度が所定以下の乾燥エアーを供給し、且つ該ケーシングの内部がその外部に対して正圧に維持されるように該ケーシングの下部側からケーシングの内部の気体を外部に排出する。
なお、一実施形態において乾燥エアーは、大気の水分を除去したものとすることができ、よって酸素及び窒素を含むものである。通常、乾燥エアーは100%窒素又は100%アルゴンから構成されるものではない。大気からの水分除去は工場排熱などを利用して適宜実施できる。また、乾燥エアーは適切に酸素を含むため、作業者は工場の屋内に配置されたケーシングの近辺を通行等可能である。また、一実施形態の保管方法は、ケーシングの外部の絶対湿度が乾燥エアーの絶対湿度より高い場合においてスポンジチタン塊への着色を抑制するのに効果的である。例えば、ケーシングの外部の絶対湿度が15.0gH2O/m3以上である場合、当該一実施形態の保管方法は、スポンジチタン塊への着色を抑制するのにより効果的である。
【0021】
還元工程で得られるスポンジチタン塊には、塩化マグネシウムが付着していることが多い。この理由としては、スポンジチタン塊が多孔体であるため、その孔内に塩化マグネシウムが残存してしまうことが挙げられる。還元工程後においてスポンジチタン塊は溶融塩化マグネシウム及び溶融金属マグネシウムを含む溶融浴に浸かっており、それらを液抜きや真空分離処理で除去しても、スポンジチタン塊の孔内の溶融塩化マグネシウムまで完全に抜き出すのは困難である。
【0022】
そして、塩化マグネシウムは潮解性を示すため、大気に触れると、大気中の水分を吸収する。これに起因して、塩化マグネシウムに接触しているスポンジチタン塊は、経時的に着色していくと本発明者は推定している。
【0023】
例えば特許文献1の技術を転用して、スポンジチタン塊の周囲の雰囲気を減圧することで低湿度を維持しようとした場合、シーリング等で密閉された大型の設備等を要するため、コストや操業負荷を鑑みると現実的ではない。
【0024】
そこで、本発明者は鋭意検討し、比較的簡易な構造のケーシングの内部にスポンジチタン塊を配置し、その着色を抑制するため、該ケーシングの内部に所定の絶対湿度の乾燥エアーを供給し、ケーシングの内部が外部に対して加圧状態を維持することを案出した。
以下、好適な態様について図面を使用しながら説明する。
【0025】
<ケーシング>
図1に示したケーシング1は、スポンジチタン塊7を保管する保管空間を形成するため、複数の骨部材から構成される骨組み構造体2と、それらの骨部材を覆う樹脂製シート3と、給気部4a、4bと、排気部5とを有する。なお、ケーシング1としては、上記の他、箱型であってもよい。また、図1に示すケーシング1はいわゆるテントタイプであるため骨組み構造体とシートとを含むが、金属製等覆いの形状を維持できるのであれば一体ものとしてケーシングを構成することもできる。
ケーシング1の内部容積は、スポンジチタン塊7の大きさを勘案し適宜決定可能であるが、3m3以上20m3以下の範囲内であることが好ましい。当該スポンジチタン塊7の大きさとしては、6トン以上15トン以下の範囲内が想定される。なお、スポンジチタン塊7は、還元工程で生成され、破砕されていない状態のものである。還元工程で生成したスポンジチタン塊の外周を除去して得られるスポンジチタン塊を保管の対象としてもよい。この時、スポンジチタン塊の外周を除去する手段は特に限定されず、例えば小型の削岩機等を使用して、複数のローラ上に横に寝かせたスポンジチタン塊を外周面から中心に向かって所定深さ除去することが挙げられる。
【0026】
(骨組み構造体・樹脂製シート)
骨組み構造体2の骨部材の材質は高強度でありかつ耐食性を有するならば特に限定されるものではないが、鋼製であることが好ましい。鋼としては、ステンレス鋼、炭素鋼及びアルミニウム合金等が挙げられる。
また、樹脂製シート3の材質は特に限定されず、公知のものでよい。なお、樹脂製シート3は、保管中のスポンジチタン塊7への着色の有無を確認するため、透明であってもよい。
【0027】
(給気部)
給気部4a、4bは、ケーシング1の内部に乾燥エアーを供給することに用いられるものである。給気部4a、4bは、ケーシング1(より具体的には樹脂製シート3等)に貫通させて形成した乾燥エアーの給気口と、該給気口に接続された図示しないエアー給気管とを備える。
給気部4a、4bは、少なくとも1つであればよく、複数であってもよい。スポンジチタン塊7をケーシング1の内部に配置し、着色を抑制する観点から、給気部4a、4bの給気口からケーシング1の内部に、絶対湿度3.5gH2O/m3以下の乾燥エアーを供給する。これにより、スポンジチタン塊7の着色を抑制することができる。なお、スポンジチタン塊7をケーシング1の内部に保管中、乾燥エアーを連続的に供給してもよく、又は乾燥エアーを断続的に供給してもよい。
また、乾燥エアーは、それよりも湿度の高い気体(空気)に比べて重いので、該乾燥エアーがケーシング1内の下部に移行する。そしてここでは、ケーシング1の内部をその外部に対して正圧に維持するので、ケーシング1の下部側に位置する排気部5から外気の流入が抑制される。また、ケーシング1の内部では、乾燥エアーをケーシング1の内部で上部側に向けて供給すれば、乾燥エアーの供給前にケーシング1内に存在していた空気等の気体は、後述する排気部から良好に排出され得る。以上のとおり、ケーシング1の内部に配置されたスポンジチタン塊7の周囲を、上記乾燥エアーで満たすことができる。
なお、絶対湿度は下記数1~3により算出することが可能である。
当該絶対湿度の算出方法については、本明細書において乾燥エアーだけでなく、ケーシングの内部及び外部にも適用可能である。
【0028】
【数1】
【0029】
【数2】
【0030】
【数3】
【0031】
また、保管中のスポンジチタン塊7への着色をより確実に抑制する観点から、給気部4a、4bからの乾燥エアーの供給量(複数の給気部4a、4bがある場合はその合計供給量)は、500L/min以上750L/min以下の範囲内であることが好ましい。給気部4a、4bがケーシング1に複数配置されている場合、各給気部4a、4bから略同じ量の乾燥エアーを供給してもよいし、各給気部の供給量がそれぞれ異なるようにしてもよい。
また、給気部4a、4bがケーシング1に複数配置されている場合、ケーシング1の内部に配置されたスポンジチタン塊7の周囲のほぼ全体を乾燥エアーで満たすことで、保管中のスポンジチタン塊7への着色をより確実に抑制する観点から、給気部4a、4bは、ケーシング1内のスポンジチタン塊7を隔てた両側に配置することが好ましく、例えばスポンジチタン塊7の頂部8側及び底部9側のケーシング1の外表面に配置することができる。このとき、スポンジチタン塊7は横倒しの状態でケーシング1内に配置されていることが好ましい。通常、スポンジチタン塊は縦に一定程度長いので、スポンジチタン塊を縦置きすると転倒するリスクがある。よって、スポンジチタン塊7は横倒しでの配置が好ましい。また、横倒しされたスポンジチタン塊7の下には、汚染防止や取り扱いの安全性の観点から、適宜シートや台座等が設けられてよい。給気部4a、4bは、図面上ではケーシング1の高さ方向において中央に配置されているが、その配置箇所は特に限定されるものではない。給気部4a、4bがケーシング1の高さ方向において中央又は下部に配置されている場合、その給気口はケーシング1内の上部側を向いていることが好ましく、例えばスポンジチタン塊7よりも高い位置に向かって乾燥エアーを供給する。これにより、ケーシング1内の多くの気体(空気等)が供給された乾燥エアーによって、排気部から排出され、該気体が該乾燥エアーに容易に置き換わる。この場合であっても、上部側に供給された乾燥エアーは、それよりも湿度が高い気体(空気等)に比べて重いことから、その後にケーシング1内の下部側に移行し、排気部5からの外気の混入をより確実に防ぐことができる。その結果、スポンジチタン塊7が黄色に着色することを抑制可能である。
なお、乾燥エアーの温度調整は必ずしも必要ではない。例えば、乾燥エアーの温度はケーシング1の外部の気温から±5℃以内であればよい。
【0032】
エアー給気管は、乾燥エアーを供給する乾燥エアー供給源に接続され、乾燥エアーの流量を測定する流量センサーが設けられ得る。乾燥エアー供給源としては、例えば、乾燥エアーを圧縮状態で送り出すコンプレッサや、乾燥エアーを貯留するタンク等が挙げられる。なお、乾燥エアーを生成させるには、生産コストの観点から、他の機械ないし設備から生じた排熱を利用して、空気を乾燥させることにより行うことができるが、これに限るものではない。
【0033】
(排気部)
排気部5では、ケーシング1の内部がその外部に対して正圧に維持されるように該ケーシング1の下部側からケーシング1の内部の気体を外部に排出する。排気部5はケーシング1の内部がその外部に対して正圧に維持される大きさや形状等であれば、特に限定されるものではない。例えば、ケーシング1の内部に供給される乾燥エアーの量や、ケーシング1の内部容積等に鑑みて排気部5の形状等を適宜決定できる。図示の排気部5は、樹脂製シート3の裾部(例えばスカート状)と底面6との間に形成されている。樹脂製シート3が可撓性のものであれば、ケーシング1の内部の圧力を外部に対して正圧とし、該正圧である圧力の大きさ等に応じて、樹脂製シート3がひるがえる等して、そこが排気部5として機能する。図示しない他の実施形態では、排気部は、ケーシング1(より具体的には樹脂製シート3等)に形成した貫通孔状の排気口と、その排気口に接続された排気管とを有することもある。排気部5をケーシング1の下部側に配置することにより、ケーシング1内に滞留する乾燥エアーで、その排気部5からの外気の流入が抑制される。
【0034】
[2.スポンジチタンの製造方法]
本発明に係るスポンジチタンの製造方法の一実施形態は、先述したスポンジチタン塊7の保管方法にてスポンジチタン塊7を保管する保管工程と、該保管工程後にケーシング1の内部から取り出したスポンジチタン塊7を破砕する破砕工程とを含む。当該破砕工程においては、公知の破砕手段により、スポンジチタン塊7を破砕してもよい。また一実施形態において、スポンジチタン塊7を得るため、例えば金属製還元反応容器内にて、四塩化チタンを金属マグネシウムで還元し、スポンジチタン塊を生成する還元工程と、金属製還元反応容器内に残存した溶融塩化マグネシウム及び溶融金属マグネシウムを金属製還元反応容器の底側に連結されたパイプを介して金属製還元反応容器内から抜き出した後、スポンジチタン塊に対して真空分離処理を施す真空分離工程とを更に含んでもよい。また、真空分離工程の後、金属製還元反応容器内から取り出したスポンジチタン塊の外周を除去する外周部除去工程を更に含むこともある。
なお、上述した構成と重複する説明については割愛する。
【0035】
上記製造方法で得られたスポンジチタンをVAR法、PAM法又はEB法等により溶解させてチタンインゴットを製造することができる。
【実施例0036】
本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
なお、実施例1及び比較例1、2において、乾燥エアー、ケーシング1の内部及びケーシング1の外部の絶対湿度については、計測機器(WATCH LOGGER データーロガー 温湿度スティックUSBタイプ KT-255U、藤田電機製作所製)を用いて先述した方法により算出した。
【0037】
[実施例1]
(還元・真空分離)
まず、四塩化チタンを金属マグネシウムで還元する方法により、胴部が円筒状の金属製還元反応容器(外壁:ステンレス鋼製、内壁:炭素鋼製、であるクラッド鋼製)内にてスポンジチタン塊(目安となる製造量:8トン)を製造した。残存した溶融塩化マグネシウム及び溶融金属マグネシウムを金属製還元反応容器の底側に連結されたパイプを介して金属製還元反応容器内から抜き出した後、スポンジチタン塊に対して真空分離処理を施した。その後、金属製還元反応容器からスポンジチタン塊を取り出した。次に、スポンジチタン塊の外周(鉄含有量が高い部位)をはつり作業によって切削しつつスポンジチタン塊7の形状が略円柱状(φ1.7m×2.0m)になるように削った。同様の操作を実施して、合計30バッチでスポンジチタン塊を製造し、はつり作業によって略円柱状のスポンジチタン塊を得た。
【0038】
(保管)
図1に示すように、ステンレス鋼製骨部材から骨組み構造体2を形成し、その上から樹脂製シート3で覆うことでケーシング1を組み立てた。ケーシング1の内部(容積:12m3)にスポンジチタン塊7を床面上のステンレス鋼製台座に横たわるように配置した。その配置後、図1に示すように、スポンジチタン塊の頂部8側と底部9側とに設けた各給気部4a、4bの給気口から300L/min(計600L/min)で絶対湿度3.5gH2O/m3以下の乾燥エアーをケーシング1の内部に供給した。この時、排気部5から内部の気体が排出されるが、ケーシング1の内部を外部に対して正圧に維持していた。すなわち、ケーシング1内部に連続的に乾燥エアーが供給され、かつ、排気部5からも連続的に排気が行われ、ケーシング1内は外部に対して正圧を維持した。なお、ケーシング1の内部に供給される乾燥エアーの温度調整は特段実施せず、乾燥エアーの温度はケーシング1の外部の気温から±5℃以内の温度であった。
乾燥エアーの供給開始時から、10時間経過し、乾燥エアーの供給を停止してから、速やかにケーシング1内からスポンジチタン塊7を取り出した。なお、乾燥エアーを供給してから2時間経過時から、乾燥エアーの供給を停止するまでの間、ケーシング1内部の絶対湿度は、7gH2O/m3以上9gH2O/m3以下の範囲内であった。また、ケーシング1の外部(外気)の絶対湿度は、15gH2O/m3以上20gH2O/m3以下の範囲内であった。
同様の操作で、合計30個のスポンジチタン塊をそれぞれ別のケーシングに保管した。
【0039】
<評価(黄色の着色の有無及び着色量)>
熟練者の目視により、保管後のスポンジチタン塊7が黄色に着色しているかを確認した。その結果、保管後の30個のスポンジチタン塊からは、黄色の着色が確認されなかった。
【0040】
(破砕)
その後、スポンジチタン塊7を破砕してスポンジチタンが得られた。
【0041】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同様の操作を実施して、合計14バッチでスポンジチタン塊を製造し、はつり作業を実施した略円柱状のスポンジチタン塊を得た。
次に、乾燥エアーを使用せず、スポンジチタン塊を、外気に曝して保管したこと以外は、実施例1と同様とし、合計14個のスポンジチタン塊をそれぞれ保管した。なお、保管場所の外気の絶対湿度は、15gH2O/m3以上20gH2O/m3以下の範囲内であった。
保管後、10時間経過したので、速やかに室内からスポンジチタン塊を取り出した。そして、実施例1と同様、保管後のスポンジチタン塊が黄色に着色しているかを確認した。その結果、保管後の14個のスポンジチタン塊からは、様々な部位に黄色の着色が確認された。スポンジチタン塊を破砕後、その着色部位を集め重量を測定した結果、着色部位の総重量は95トンであった。
【0042】
[比較例2]
比較例2では、実施例1と同様の操作を実施して、合計30バッチでスポンジチタン塊を製造し、はつり作業を実施した略円柱状のスポンジチタン塊を得た。
次に、比較例2では、図1に示したケーシング1内にスポンジチタン塊7を横たわるように配置した。その配置後、図1に示すように、各給気部4a、4bの給気口から300L/min(計600L/min)で絶対湿度3.5gH2O/m3以下の乾燥エアーを内部に供給し、供給開始から内部の絶対湿度が9gH2O/m3以下になったことを確認したところで、乾燥エアーの供給を停止して保管したこと以外は、実施例1と同様とし、合計30個のスポンジチタン塊をそれぞれ保管した。なお、乾燥エアーの供給停止後はケーシング1の内部から外部への排気がなくなり、ケーシング1の内部と外部とが同じ圧力となった。
乾燥エアーの供給の停止後、8時間(乾燥エアーの供給時間を含めると合計10時間)経過したので、速やかにケーシング1内からスポンジチタン塊7を取り出した。そして、実施例1と同様、保管後のスポンジチタン塊が黄色に着色しているかを確認した。その結果、保管後の5個のスポンジチタン塊からは、様々な部位に黄色の着色が確認された。スポンジチタン塊を破砕後、その着色部位を集め重量を測定した結果、着色部位の総重量は25トンであった。
【0043】
【表1】
【0044】
(実施例による考察)
実施例1では、保管中のスポンジチタン塊の着色を抑制できたことから、スポンジチタン塊をケーシングの内部に配置し、該ケーシングの内部に絶対湿度3.5gH2O/m3以下の乾燥エアーを供給し、且つ該ケーシングの内部がその外部に対して正圧に維持されるように該ケーシングの下部側から前記ケーシングの内部の気体を該外部に排出することが有用であることを確認した。なお、実施例1における保管方法は、主に、ケーシングの構築と取り外し、さらには乾燥エアーの供給という簡便な作業であった。すなわち、スポンジチタン塊の周囲の雰囲気を減圧する場合と異なり、密閉倉庫の建築や該倉庫全体に渡る厳密なシーリング等の作業負荷も生じず、実施例1の保管方法は作業負荷が小さかった。
一方、比較例1では、スポンジチタン塊を10時間も外気に曝したことに起因して、スポンジチタン塊が着色したと推察される。破砕工程の観察では、その表面側部位のみならず、内部においても黄色の着色が確認された。
また、比較例2では、実施例1と異なり、乾燥エアーの供給を停止したことで、ケーシングの内部が外部に対して正圧を維持できなかった。したがって、比較例2では、乾燥エアーの供給を停止したことに起因して、保管中のスポンジチタン塊が着色したものと推察される。
【符号の説明】
【0045】
1 ケーシング
2 骨組み構造体
3 樹脂製シート
4a、4b 給気部
5 排気部
6 底面
7 スポンジチタン塊
8 頂部
9 底部
図1