(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023097158
(43)【公開日】2023-07-07
(54)【発明の名称】支持構造の設計方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
E04B1/24 A
E04B1/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213348
(22)【出願日】2021-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 唯一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(57)【要約】
【課題】板状部材にH形断面部材の第1フランジが取り付けられる場合のH形断面部材の弾性横座屈耐力を、第1フランジに取り付く板状部材の拘束を考慮して設定することができる支持構造の設計方法を提供する。
【解決手段】第1フランジ26、第2フランジ27、及び第1フランジ及び第2フランジを互いに接合するウェブ28を備える鋼製のH形断面部材25と、第1フランジに取り付けられることによりH形断面部材により支持される板状部材37と、を備える支持構造の設計方法であって、H形断面部材の弾性横座屈耐力M
eを数式により設定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1フランジ、第2フランジ、及び前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブを備える鋼製のH形断面部材と、前記第1フランジに取り付けられることにより前記H形断面部材により支持される板状部材と、を備える支持構造の設計方法であって、前記H形断面部材の弾性横座屈耐力M
eを(1)式により設定する、支持構造の設計方法。
ここで、α:0以上1未満の任意の実数をとる未定係数、n:任意の正の整数をとる前記H形断面部材の座屈波の半波の数、E:前記H形断面部材のヤング係数、I
fA:前記第2フランジの断面二次モーメント、l:前記H形断面部材の長さ、d
b:前記第1フランジ及び前記第2フランジの板厚中心間の距離、I
fB:前記第1フランジの断面二次モーメント、G:前記H形断面部材のせん断弾性係数、J:前記H形断面部材のサン・ブナンねじり定数、k
r:前記第1フランジに前記H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りに拘束力を作用させる回転移動バネによる補剛剛性係数、J
fA:前記第2フランジのサン・ブナンねじり定数、J
fB:前記第1フランジのサン・ブナンねじり定数、J
w:前記ウェブのサン・ブナンねじり定数、t
w:前記ウェブの厚さ、k
h:前記第1フランジに前記ウェブの厚さ方向の拘束力を作用させる平行移動バネによる補剛剛性係数、D
w:前記ウェブの板剛度である。
【数1】
【請求項2】
前記未定係数αを、(3)式から(5)式により設定する、請求項1に記載の支持構造の設計方法。
【数2】
【請求項3】
第1フランジ、第2フランジ、及び前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブを備える鋼製のH形断面部材と、前記第1フランジに取り付けられることにより前記H形断面部材により支持される板状部材と、を備える支持構造の設計方法であって、前記H形断面部材の弾性横座屈耐力M
eを(8)式により設定する、支持構造の設計方法。
ここで、α:0以上1未満の任意の実数をとる未定係数、G:前記H形断面部材のせん断弾性係数、J:前記H形断面部材のサン・ブナンねじり定数、d
b:前記第1フランジ及び前記第2フランジの板厚中心間の距離、k
r:前記第1フランジに前記H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りに拘束力を作用させる回転移動バネによる補剛剛性係数、J
fA:前記第2フランジのサン・ブナンねじり定数、J
fB:前記第1フランジのサン・ブナンねじり定数、J
w:前記ウェブのサン・ブナンねじり定数、t
w:前記ウェブの厚さ、k
h:前記第1フランジに前記ウェブの厚さ方向の拘束力を作用させる平行移動バネによる補剛剛性係数、I
fA:前記第2フランジの断面二次モーメント、I
fB:前記第1フランジの断面二次モーメント、E:前記H形断面部材のヤング係数、D
w:前記ウェブの板剛度である。
【数3】
【請求項4】
前記未定係数αを、(10)式から(16)式により設定する、請求項3に記載の支持構造の設計方法。
【数4】
【請求項5】
第1フランジ、第2フランジ、及び前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブを備える鋼製のH形断面部材と、前記第1フランジに取り付けられることにより前記H形断面部材により支持される板状部材と、を備える支持構造の設計方法であって、前記H形断面部材の弾性横座屈耐力M
eを(21)式により設定する、支持構造の設計方法。
ここで、α:0以上1未満の任意の実数をとる未定係数、n:任意の正の整数をとる前記H形断面部材の座屈波の半波の数、E:前記H形断面部材のヤング係数、I:前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの断面二次モーメント、l:前記H形断面部材の長さ、d
b:前記第1フランジ及び前記第2フランジの板厚中心間の距離、G:前記H形断面部材のせん断弾性係数、J:前記H形断面部材のサン・ブナンねじり定数、k
r:前記第1フランジに前記H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りに拘束力を作用させる回転移動バネによる補剛剛性係数、J
f:前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれのサン・ブナンねじり定数、J
w:前記ウェブのサン・ブナンねじり定数、t
w:前記ウェブの厚さ、k
h:前記第1フランジに前記ウェブの厚さ方向の拘束力を作用させる平行移動バネによる補剛剛性係数、D
w:前記ウェブの板剛度である。
【数5】
【請求項6】
前記未定係数αを、(23)式から(25)式により設定する、請求項5に記載の支持構造の設計方法。
【数6】
【請求項7】
第1フランジ、第2フランジ、及び前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブを備える鋼製のH形断面部材と、前記第1フランジに取り付けられることにより前記H形断面部材により支持される板状部材と、を備える支持構造の設計方法であって、前記H形断面部材の弾性横座屈耐力M
eを(28)式により設定する、支持構造の設計方法。
ここで、α:0以上1未満の任意の実数をとる未定係数、G:前記H形断面部材のせん断弾性係数、J:前記H形断面部材のサン・ブナンねじり定数、d
b:前記第1フランジ及び前記第2フランジの板厚中心間の距離、k
r:前記第1フランジに前記H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りに拘束力を作用させる回転移動バネによる補剛剛性係数、J
f:前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれのサン・ブナンねじり定数、J
w:前記ウェブのサン・ブナンねじり定数、t
w:前記ウェブの厚さ、k
h:前記第1フランジに前記ウェブの厚さ方向の拘束力を作用させる平行移動バネによる補剛剛性係数、E:前記H形断面部材のヤング係数、I:前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの断面二次モーメント、D
w:前記ウェブの板剛度である。
【数7】
【請求項8】
前記未定係数αを、(30)式から(33)式により設定する、請求項7に記載の支持構造の設計方法。
【数8】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持構造の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
床スラブや屋根を支持する梁、屋根を支持する母屋、壁材を支持する胴縁等、建築物の多くの部材で、H形断面の鋼材(H形断面部材)が用いられている。これらの部材のように支持する部材の重量や外力によって部材に曲げモーメントが生じる場合、鋼材重量に対する強軸回りの曲げ性能が高く断面効率が良いH形断面を用いるのが合理的なため、H形断面部材が一般的に用いられている。
一方で、H形断面部材は強軸回りの断面性能に優れるものの、弱軸まわりの断面性能は低いため、横座屈(部材が捩れながら面外方向へ移動する変形)が問題となる。横座屈が生じると急激な耐力劣化が生じ、H形断面部材の挙動が不安定になる。このため、H形断面部に横座屈が生じないように設計する必要がある。
【0003】
具体的には、国土交通省の告示平13国交告第1024号「特殊な許容応力度及び特殊な材料強度を定める件」において、曲げ材の座屈の許容応力度が規定されている。この告示では、横座屈が生じ得る部材長さが長い場合等には、許容応力度を低減する。
H形断面部材の長さが長い場合やH形断面部材の幅が細い場合等の横座屈が生じやすい条件においては、許容応力度が低下し、H形断面部材が本来有している断面性能を発揮しない。このため、断面を大きくする必要が生じて鋼材量が増えてしまい、H形断面部材が非経済的な設計となる。
【0004】
また、横座屈による許容応力度の低下を防ぐ方法として、横座屈防止用の補剛材を設置する方法がある。この方法の場合、十分な数の補剛材が設けられていれば、許容応力度の低下は生じない。しかし、補剛材の加工や施工による手間やコストが生じてしまい、非経済的である。
このような課題に対して、床や屋根(板状部材)による上フランジ(第1フランジ)の拘束効果を考慮することで、横座屈耐力の向上を図り、横座屈防止用の補剛材を省略する設計方法が採られる場合がある。特許文献1及び特許文献2では、上フランジがシヤコネクタによって床スラブに緊結されているH形断面梁について、上フランジの横移動が完全に拘束されたものとして、弾性横座屈耐力式を導出している。そしてこの弾性横座屈耐力式を、設計方法、分析方法に用いている。特許文献3及び特許文献4では、鉄骨梁と、鉄骨梁の上面にシヤコネクタにより接合された床スラブとを有する床構造について、上フランジの横移動と回転が完全に拘束されたものとして弾性横座屈耐力式を導出している。そしてこの弾性横座屈耐力式を、設計方法に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6340276号公報
【特許文献2】特許第6414374号公報
【特許文献3】特許第6699639号公報
【特許文献4】特開2020-158953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1から特許文献4に開示された設計方法は効率的な設計が可能となる有用なものであるが、上フランジの横移動及び回転が完全に拘束されるという条件下に限って効果が期待できるものである。このため、上フランジに取り付く面材(板状部材)が床スラブのように十分な剛性を有している場合については、適用することができる。しかし、屋根葺材や外壁材のような上フランジの完全な拘束を期待するには剛性が十分でない面材が取り付くような場合や、上フランジと床スラブを接合するシヤコネクタの剛性が十分でない場合には、適用することができない。
【0007】
このため、上フランジが屋根葺材や外壁材などによって不完全に拘束される場合については、横座屈に対する耐力向上効果はある程度発揮されるものの、それらの効果を考慮することなく、横座屈防止用の補剛材を設置する設計が一般的に行われている。つまり、上フランジが不完全な拘束を受ける場合については、補剛材の加工や施工による手間やコストが生じてしまい、非経済的な設計となっている。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、板状部材にH形断面部材の第1フランジが取り付けられる場合のH形断面部材の弾性横座屈耐力を、第1フランジに取り付く板状部材による拘束を考慮して設定することができる支持構造の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の支持構造の設計方法は、第1フランジ、第2フランジ、及び前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブを備える鋼製のH形断面部材と、前記第1フランジに取り付けられることにより前記H形断面部材により支持される板状部材と、を備える支持構造の設計方法であって、前記H形断面部材の弾性横座屈耐力Meを(1)式により設定することを特徴としている。
ここで、α:0以上1未満の任意の実数をとる未定係数、n:任意の正の整数をとる前記H形断面部材の座屈波の半波の数、E:前記H形断面部材のヤング係数、IfA:前記第2フランジの断面二次モーメント、l:前記H形断面部材の長さ、db:前記第1フランジ及び前記第2フランジの板厚中心間の距離、IfB:前記第1フランジの断面二次モーメント、G:前記H形断面部材のせん断弾性係数、J:前記H形断面部材のサン・ブナンねじり定数、kr:前記第1フランジに前記H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りに拘束力を作用させる回転移動バネによる補剛剛性係数、JfA:前記第2フランジのサン・ブナンねじり定数、JfB:前記第1フランジのサン・ブナンねじり定数、Jw:前記ウェブのサン・ブナンねじり定数、tw:前記ウェブの厚さ、kh:前記第1フランジに前記ウェブの厚さ方向の拘束力を作用させる平行移動バネによる補剛剛性係数、Dw:前記ウェブの板剛度である。
【0010】
【0011】
この発明では、第1フランジが、ウェブの厚さ方向の移動に対する平行移動バネによる拘束と、H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りの回転に対する回転移動バネによる拘束を板状部材から受けると考えた。平行移動バネ及び回転移動バネの拘束力は、任意の剛性を有すると仮定している。発明者等は鋭意検討の結果、H形断面部材の長手方向に直交する断面が、ウェブに沿う第1基準面に対して対称な、いわゆる1軸対称の場合に適用できる式として、(1)式を導出した。
このため、H形断面部材の前記断面が1軸対称の場合に、第1フランジに取り付く板状部材による拘束をバネ要素として考慮して、(1)式によりH形断面部材の弾性横座屈耐力Meを設定することができる。
【0012】
また、前記支持構造の設計方法において、前記未定係数αを、(3)式から(5)式により設定してもよい。
【0013】
【0014】
この発明では、未定係数αを、(3)式から(5)式を用いて精緻に設定することができる。
【0015】
また、本発明の他の支持構造の設計方法は、第1フランジ、第2フランジ、及び前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブを備える鋼製のH形断面部材と、前記第1フランジに取り付けられることにより前記H形断面部材により支持される板状部材と、を備える支持構造の設計方法であって、前記H形断面部材の弾性横座屈耐力Meを(8)式により設定することを特徴としている。
ここで、α:0以上1未満の任意の実数をとる未定係数、G:前記H形断面部材のせん断弾性係数、J:前記H形断面部材のサン・ブナンねじり定数、db:前記第1フランジ及び前記第2フランジの板厚中心間の距離、kr:前記第1フランジに前記H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りに拘束力を作用させる回転移動バネによる補剛剛性係数、JfA:前記第2フランジのサン・ブナンねじり定数、JfB:前記第1フランジのサン・ブナンねじり定数、Jw:前記ウェブのサン・ブナンねじり定数、tw:前記ウェブの厚さ、kh:前記第1フランジに前記ウェブの厚さ方向の拘束力を作用させる平行移動バネによる補剛剛性係数、IfA:前記第2フランジの断面二次モーメント、IfB:前記第1フランジの断面二次モーメント、E:前記H形断面部材のヤング係数、Dw:前記ウェブの板剛度である。
【0016】
【0017】
この発明では、第1フランジが、ウェブの厚さ方向の移動に対する平行移動バネによる拘束と、H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りの回転に対する回転移動バネによる拘束を板状部材から受けると考えた。平行移動バネ及び回転移動バネの拘束力は、任意の剛性を有すると仮定している。発明者等は鋭意検討の結果、H形断面部材の前記断面が1軸対称の場合に、H形断面部材の座屈波の半波の数及びH形断面部材の長さによらず適用できる式として、(8)式を導出した。
従って、H形断面部材の前記断面が1軸対称の場合に、第1フランジに取り付く板状部材による拘束をバネ要素として考慮して、(8)式によりH形断面部材の弾性横座屈耐力Meを簡単に設定することができる。
【0018】
また、前記支持構造の設計方法において、前記未定係数αを、(10)式から(16)式により設定してもよい。
【0019】
【0020】
この発明では、未定係数αを、(10)式から(16)式を用いて精緻に設定することができる。
【0021】
また、本発明の他の支持構造の設計方法は、第1フランジ、第2フランジ、及び前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブを備える鋼製のH形断面部材と、前記第1フランジに取り付けられることにより前記H形断面部材により支持される板状部材と、を備える支持構造の設計方法であって、前記H形断面部材の弾性横座屈耐力Meを(21)式により設定することを特徴としている。
ここで、α:0以上1未満の任意の実数をとる未定係数、n:任意の正の整数をとる前記H形断面部材の座屈波の半波の数、E:前記H形断面部材のヤング係数、I:前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの断面二次モーメント、l:前記H形断面部材の長さ、db:前記第1フランジ及び前記第2フランジの板厚中心間の距離、G:前記H形断面部材のせん断弾性係数、J:前記H形断面部材のサン・ブナンねじり定数、kr:前記第1フランジに前記H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りに拘束力を作用させる回転移動バネによる補剛剛性係数、Jf:前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれのサン・ブナンねじり定数、Jw:前記ウェブのサン・ブナンねじり定数、tw:前記ウェブの厚さ、kh:前記第1フランジに前記ウェブの厚さ方向の拘束力を作用させる平行移動バネによる補剛剛性係数、Dw:前記ウェブの板剛度である。
【0022】
【0023】
この発明では、第1フランジが、ウェブの厚さ方向の移動に対する平行移動バネによる拘束と、H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りの回転に対する回転移動バネによる拘束を板状部材から受けると考えた。平行移動バネ及び回転移動バネの拘束力は、任意の剛性を有すると仮定している。発明者等は鋭意検討の結果、H形断面部材の前記断面が、各フランジに沿う第2基準面に加えて前記第1基準面に対してそれぞれ対称な、いわゆる2軸対称の場合に適用できる式として、(21)式を導出した。
このため、H形断面部材の前記断面が2軸対称の場合に、第1フランジに取り付く板状部材による拘束をバネ要素として考慮して、(21)式によりH形断面部材の弾性横座屈耐力Meを設定することができる。
【0024】
また、前記支持構造の設計方法において、前記未定係数αを、(23)式から(25)式により設定してもよい。
【0025】
【0026】
この発明では、未定係数αを、(23)式から(25)式を用いて精緻に設定することができる。
【0027】
また、本発明の他の支持構造の設計方法は、第1フランジ、第2フランジ、及び前記第1フランジ及び前記第2フランジを互いに接合するウェブを備える鋼製のH形断面部材と、前記第1フランジに取り付けられることにより前記H形断面部材により支持される板状部材と、を備える支持構造の設計方法であって、前記H形断面部材の弾性横座屈耐力Meを(28)式により設定することを特徴としている。
ここで、α:0以上1未満の任意の実数をとる未定係数、G:前記H形断面部材のせん断弾性係数、J:前記H形断面部材のサン・ブナンねじり定数、db:前記第1フランジ及び前記第2フランジの板厚中心間の距離、kr:前記第1フランジに前記H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りに拘束力を作用させる回転移動バネによる補剛剛性係数、Jf:前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれのサン・ブナンねじり定数、Jw:前記ウェブのサン・ブナンねじり定数、tw:前記ウェブの厚さ、kh:前記第1フランジに前記ウェブの厚さ方向の拘束力を作用させる平行移動バネによる補剛剛性係数、E:前記H形断面部材のヤング係数、I:前記第1フランジ及び前記第2フランジそれぞれの断面二次モーメント、Dw:前記ウェブの板剛度である。
【0028】
【0029】
この発明では、第1フランジが、ウェブの厚さ方向の移動に対する平行移動バネによる拘束と、H形断面部材の長手方向に沿う軸線回りの回転に対する回転移動バネによる拘束を板状部材から受けると考えた。平行移動バネ及び回転移動バネの拘束力は、任意の剛性を有すると仮定している。発明者等は鋭意検討の結果、H形断面部材の前記断面が2軸対称の場合に、H形断面部材の座屈波の半波の数及びH形断面部材の長さによらず適用できる式として、(28)式を導出した。
従って、H形断面部材の前記断面が2軸対称の場合に、第1フランジに取り付く板状部材による拘束をバネ要素として考慮して、(28)式によりH形断面部材の弾性横座屈耐力Meを簡単に設定することができる。
【0030】
また、前記支持構造の設計方法において、前記未定係数αを、(30)式から(33)式により設定してもよい。
【0031】
【0032】
この発明では、未定係数αを、(30)式から(33)式を用いて精緻に設定することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の支持構造の設計方法では、板状部材にH形断面部材の第1フランジが取り付けられる場合のH形断面部材の弾性横座屈耐力を、第1フランジに取り付く板状部材による拘束を考慮して設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の一実施形態の支持構造の設計方法が適用される支持構造が用いられた建築物の一部を破断した斜視図である。
【
図4】同第2H形断面部材が変位する前の断面図である。
【
図5】同第2H形断面部材に作用させる曲げモーメントを説明する側面図である。
【
図6】同第2H形断面部材が変位した後の断面図である。
【
図7】H形断面部材の所定の断面形状における、l/Hに対する弾性横座屈耐力の変化を表す図である。
【
図8】H形断面部材の所定の断面形状における、l/Hに対する弾性横座屈耐力の変化を表す図である。
【
図9】H形断面部材の所定の断面形状における、l/Hに対する弾性横座屈耐力の変化を表す図である。
【
図10】H形断面部材の所定の断面形状における、l/Hに対する弾性横座屈耐力の変化を表す図である。
【
図11】本発明の一実施形態の支持構造の設計方法が適用される他の支持構造が用いられた建築物の一部を破断した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一実施形態に係る支持構造の設計方法(以下、単に設計方法とも言う)が適用される支持構造を、
図1から
図11を参照しながら説明する。
【0036】
〔1.支持構造が用いられた建築物の構成〕
支持構造46,47は、
図1に示す建築物1に用いられている。建築物1は、複数の柱10と、複数の大梁である第1H形断面部材(H形断面部材)15と、複数の小梁である第2H形断面部材(H形断面部材)25と、折板屋根35と、を備えている。
なお、建築物1が備える柱10、第1H形断面部材15、及び第2H形断面部材25の数は、それぞれ1つでもよい。
柱10は、上下方向に沿って延びている。複数の柱10は、互いに間隔を開けて配置されている。柱10は、鋼製、RC(Reinforced Concrete)製、SRC(Steel Reinforced Concrete)製等である。
【0037】
第1H形断面部材15及び第2H形断面部材25は、それぞれ鋼製である。
第1H形断面部材15は、第1フランジ16と、第2フランジ17と、ウェブ18と、を備えている。第1フランジ16、第2フランジ17、及びウェブ18は、それぞれ鋼板により形成されている。第1フランジ16及び第2フランジ17は、それぞれ水平面に沿うように配置され、互いに上下方向に対向している。第1フランジ16は、第2フランジ17よりも上方に配置されている。
ウェブ18は、第1フランジ16と第2フランジ17との間に配置されている。ウェブ18は、第1フランジ16の幅方向の中心及び第2フランジ17の幅方向の中心を互いに接合している。
【0038】
大梁である第1H形断面部材15のウェブ18等には、図示しないガセットプレートが溶接等により接合されている。
第1H形断面部材15は、隣り合う柱10の間にかけ渡され、水平面に沿う方向に延びている。第1H形断面部材15の両端部は、柱10に溶接等でそれぞれ接合されている。
【0039】
図1から
図3に示すように、第2H形断面部材25は、第1フランジ26と、第2フランジ27と、ウェブ28と、を備えている。第1フランジ26、第2フランジ27、及びウェブ28は、それぞれ鋼板により形成されている。第1フランジ26及び第2フランジ27は、それぞれ水平面に沿うように配置され、互いに上下方向に対向している。第1フランジ26は、第2フランジ27よりも上方に配置されている。
ウェブ28は、第1フランジ26と第2フランジ27との間に配置されている。ウェブ28は、第1フランジ26の幅方向の中心及び第2フランジ27の幅方向の中心を互いに接合している。
H形断面部材15,25の長手方向(材軸方向)に直交する断面形状は、それぞれH形状である。
なお、H形断面部材15,25が配置される向きは、これに限定されない。第2H形断面部材25及び第1H形断面部材15は、H形鋼であってもよい。より詳しく説明すると、第2H形断面部材25及び第1H形断面部材15は、圧延H形鋼であってもよいし、溶接組立H形鋼であってもよい。
【0040】
ここで、
図4に示すように、第2H形断面部材25の寸法を規定する。
第2H形断面部材25の高さ(せい)を、H(mm)とする。第1フランジ26及び第2フランジ27の板厚中心間の距離(第1フランジ26の厚さ方向の中心と第2フランジ27の厚さ方向の中心との距離)を、d
b(mm)とする。第1フランジ26及び第2フランジ27それぞれの厚さを、t
f(mm)とする。ウェブ28の厚さを、t
w(mm)とする。第2H形断面部材25の長さを、l(mm)とする(
図2参照)。
さらに、第2H形断面部材25の諸元を以下のように規定する。
第2H形断面部材25のヤング係数を、E(N/mm
2)とする。第1フランジ26の断面二次モーメントを、I
fB(mm
4)とする。第2フランジ27の断面二次モーメントを、I
fA(mm
4)とする。第2H形断面部材25のせん断弾性係数を、G(N/mm
2)とする。第2H形断面部材25のサン・ブナンねじり定数を、J(mm
4)とする。第1フランジ26のサン・ブナンねじり定数を、J
fB(mm
4)とする。第2フランジ27のサン・ブナンねじり定数を、J
fA(mm
4)とする。ウェブ28のサン・ブナンねじり定数を、J
w(mm
4)とする。
ウェブ28の板剛度を、D
w(Nmm)とする。なお、板剛度D
wは、後述する(56)のように、D
w=E・t
w
3/(12(1-ν
2))のように計算できる。νは、第2H形断面部材25のポアソン比(-)を表す。
【0041】
図1に示すように、第2H形断面部材25は、対向する第1H形断面部材15の間にかけ渡され、水平面に沿う方向に延びている。第2H形断面部材25における長手方向の両端部は、第1H形断面部材15のガセットプレートに、図示しない高力ボルト等により接続されている。
【0042】
折板屋根35は、屋根葺材である。例えば、折板屋根35は、金属板を折り曲げて構成されている。折板屋根35は、水平面に沿う第1水平方向D1に延びる波形部材36が、水平面に沿うとともに第1水平方向D1に直交する第2水平方向D2に複数並べられて構成されている。
波形部材36は、底板37と、第1傾斜板38と、天板39と、第2傾斜板40と、を有している。底板37、第1傾斜板38、天板39、及び第2傾斜板40は、それぞれ板状部材(面材)である。
【0043】
底板37及び天板39は、水平面に沿うように配置されている。天板39は、底板37よりも上方に配置されている。
第1傾斜板38は、底板37における第2水平方向D2の第1側D21の端部から、第1側D21に向かうに従い漸次、上方に向かうように傾斜している。
天板39は、第1傾斜板38における第1側D21の端部から、第1側D21に向かって延びている。第2傾斜板40は、天板39の第1側D21の端部から、第1側D21に向かうに従い漸次、下方に向かうように傾斜している。第2傾斜板40は、第1側D21に隣り合う波形部材36の底板37における、第2水平方向D2のうち第1側D21とは反対側の第2側D22の端部に連なっている。
【0044】
図3に示すように、折板屋根35の底板37は、第2H形断面部材25において、第1フランジ26を間に挟んでウェブ28の反対側(上方)に配置されている。各底板37は、第2H形断面部材25の長手方向である第2水平方向D2に並べられている。
図1に示すように、折板屋根35は、第1H形断面部材15の第1フランジ16及び第2H形断面部材25の第1フランジ16に、折板屋根35の下方から支持されている。
図3に示すように、この例では、折板屋根35は、公知の金具及び締結部材等の仕口部材41を介して、第2H形断面部材25の第1フランジ26に取り付けられている。
【0045】
このように、折板屋根35は、第1フランジ26に取り付けられることにより第2H形断面部材25により支持される。
なお、
図1に示すように、第2H形断面部材25及び折板屋根35で、支持構造47が構成される。同様に、第1H形断面部材15及び折板屋根35で、支持構造46が構成される。
折板屋根35の底板37、第1傾斜板38、天板39、及び第2傾斜板40は、H形断面部材15,25の第1フランジ16,26にそれぞれ直接取り付けられていてもよい。
【0046】
以下では、H形断面部材15,25のうち第2H形断面部材25を例にとって、弾性横座屈耐力を検討した結果について説明する。
【0047】
〔2.H形断面部材の弾性横座屈耐力式の検討〕
図2に示すように、第2H形断面部材25(以下、単にH形断面部材25とも言う)の長手方向に、z軸を規定した。フランジ26,27が対向する方向にy軸を規定し、ウェブ28の厚さ方向に、x軸を規定した。
H形断面部材25に対して、以下の(1)から(6)の仮定を行う。
(1)折板屋根35に取り付けられたフランジを、第1フランジ26とする。第2フランジ27は、折板屋根35による直接的な拘束を受けない。
(2)折板屋根35により、第1フランジ26は、x軸方向の移動と、z軸(H形断面部材25の長手方向に沿う軸線)回りの回転とを、弾性バネ拘束されている。
(3)H形断面部材25は、反りを拘束されていない。
(4)荷重条件は、第2フランジ27が圧縮される等曲げモーメントを対象とする。すなわち、
図5に示すように、荷重は、H形断面部材25の長手方向の端25a,25bにおいてx軸回りの曲げモーメントM
crを作用させた。
(5)フランジ26,27とウェブ28との交点は、H形断面部材25が横座屈した後も直角を保つ。
(6)フランジ26,27の構面外変位は、任意の関数で与える。
【0048】
図6に示すように、第2フランジ27の構面外変位(x軸方向の変位)u
A(mm)と、第1フランジ26の構面外変位u
B(mm)とを、任意の変位分布u(mm)の関数として、(41)式及び(42)式で表す。
【0049】
【0050】
ただし、αは未定係数である。
図4に示すように、第1フランジ26は、平行移動バネ(水平バネ)50及び回転移動バネ(回転バネ)51により拘束されると仮定した。平行移動バネ50は、第1フランジ26の取り付く折板屋根35による拘束を模擬したバネであり、第1フランジ26に、x軸方向(ウェブ28の厚さ方向)の拘束力を作用させる。
回転移動バネ51は、第1フランジ26の取り付く折板屋根35による拘束を模擬したバネであり、第1フランジ26に、H形断面部材25の長手方向に沿う軸線回りに拘束力を作用させる。
第1フランジ26に取り付く水平移動及び回転を拘束する弾性バネの剛性を、ウェブ28の板剛度D
w及び板厚中心間の距離d
bの関数として、(43)式及び(44)式で表す。
【0051】
【0052】
ただし、khは、平行移動バネ50による補剛剛性係数(水平補剛剛性係数)(-)である。krは、回転移動バネ51による補剛剛性係数(回転補剛剛性係数)(-)である。KHは、平行移動バネ50による、H形断面部材25の長手方向の単位長さ当たりの補剛剛性(N/mm/mm)である。KRは、回転移動バネ51による、H形断面部材25の長手方向の単位長さ当たりの補剛剛性(Nmm/mm)である。
第2フランジ27のねじり角φA(rad)、第1フランジ26のねじり角φB(rad)、ウェブ28の変位関数w(mm)を任意の変位分布u(mm)の関数として、(45)式から(47)式で表す。
【0053】
【0054】
ただし、第1フランジ26とウェブ28との交点を、y軸の原点とする。
このとき、第1フランジ26のx軸方向の平行移動とz軸回りの回転が弾性バネ拘束され、H形断面部材25の長手方向の両端に、第2フランジ27が圧縮される等曲げの外力が作用する。この場合の全ポテンシャルエネルギーΠ(Nmm)は、(48)式で表される。
【0055】
【0056】
ただし、νは、H形断面部材25のポアソン比(-)である。Mcrは、H形断面部材25の弾性横座屈耐力(弾性横座屈モーメント)(Nmm)である。uA
’,uB
’は、uA,uBをzについて1階微分した関数である。uA
’’,uB
’’は、uA,uBをzについて2階微分した関数である。φA
’,φB
’は、φA,φBをzについて1階微分した関数である。
(48)式に(41)式から(47)式を代入して整理すると、全ポテンシャルエネルギーΠは(49)式で表される。
【0057】
【0058】
以下の(55)式から(58)式の関係を用いて(49)式を整理すると、全ポテンシャルエネルギーΠは、(59)式で表される。
【0059】
【0060】
ただし、Jwは、ウェブ28のサン・ブナンねじり定数(mm4)である。
次に、変位分布uにsin波である(60)式を用いて、式を整理する。ここで、nはsin波(H形断面部材25の座屈波)の半波の数を表し、任意の正の整数をとる。
【0061】
【0062】
変位分布uを1階微分又は2階微分した式は、(61)式及び(62)式で表される。
【0063】
【0064】
(60)式から(62)式を用いて、各定積分は(63)式から(65)式で表される。
【0065】
【0066】
(63)式から(65)式を(59)式に代入して整理すると、全ポテンシャルエネルギーΠは(71)式で表される。
【0067】
【0068】
ポテンシャルエネルギー最小の原理(Π=0)より、(71)式を弾性横座屈耐力Mcrについて整理することで(72)式が得られる。
【0069】
【0070】
ここで、αは、第1フランジ26の変位に関する未定係数である。仮定した任意の第1フランジ26の変位分布に応じて0以上、1未満の範囲の任意の実数をとることで、弾性横座屈耐力Mcrが与えられる。なお、未定係数αは弾性横座屈耐力Mcrが最小となる値を用いることが好ましい。そこで、(72)式を未定係数αで偏微分した式を、展開する。未定係数αは、0以上1未満の任意の実数となる。このことを踏まえると、(72)式による弾性横座屈耐力Mcrの最小解を与える未定係数αが、(73)式で表される。
なお、未定係数αは、(73)式によらず、収斂計算や表計算ソフトのソルバー等で弾性横座屈耐力Mcrが最小となる値を求めてもよい。
【0071】
【0072】
ここで、X及びYは、(74)式及び(75)式で表される。
【0073】
【0074】
(72)式による弾性横座屈耐力Mcrは、sin波の半波の数nに依存する。しかし、弾性横座屈耐力Mcrにおいて、nに任意の正の整数を代入して得られる座屈荷重の最小値は、nに関わらず一定値となる。この時の弾性横座屈耐力の最小値Mcr,minは(76)式で与えられる。
【0075】
【0076】
弾性横座屈耐力Mcrの場合と同様に、αは第1フランジ26の変位に関する未定係数であり、仮定した任意の第1フランジ26の変位分布に応じて0以上、1未満の範囲の任意の実数をとることで弾性横座屈耐力の最小値Mcr,minが与えられる。なお、未定係数αは弾性横座屈耐力の最小値Mcr,minが最小となる値を用いることが好ましい。そこで、(76)式を未定係数αで偏微分した式を展開し、高次の項は微小として無視して整理する。未定係数αは0以上1未満の値となることを踏まえると、(76)式による弾性横座屈耐力の最小値Mcr,minの最小解を与える未定係数αが、(77)式で表される。
なお、(77)式は近似解であるため、水平補剛剛性係数khおよび回転補剛剛性係数krが極めて小さい場合等の特殊な条件下において、(77)式の平方根内が負の値となり、αが求められない場合が生じる。その場合は、(77)式の平方根内を0として扱うことでαを求め、(76)式による弾性横座屈耐力の最小値Mcr,minを求めることができる。また、未定係数αは(77)式によらず、収斂計算や表計算ソフトのソルバー等で弾性横座屈耐力Mcrが最小となる値を求めてもよい。
【0077】
【0078】
ここで、U,V,W,X,Y,Zは、(78)式から(83)式で表される。
【0079】
【0080】
以上では、フランジ26,27の断面寸法が互いに異なる1軸対称の断面を対象として、式を誘導した。
図3に示すように、1軸対称の断面では、H形断面部材25の長手方向に直交する断面が、ウェブ28に沿う第1基準面S1に対して対称である。
一方で、H形断面部材25の前記断面が、各フランジ26,27に沿う第2基準面S2に加えて前記第1基準面S1に対してそれぞれ対称な、いわゆる2軸対称の場合については、(87)式及び(88)式に示す関係を用いて式を整理することができる。
【0081】
【0082】
ただし、Iは、各フランジ26,27の断面二次モーメント(mm4)である。Jfは、各フランジ26,27のサン・ブナンねじり定数(mm4)である。
このとき、弾性横座屈耐力Mcrは(89)式から(92)式で表される。
【0083】
【0084】
弾性横座屈耐力の最小値Mcr,minは、(93)式から(97)式で表される。
【0085】
【0086】
〔3.支持構造の設計方法〕
以上説明したように、H形断面部材25の断面が1軸対称の場合に弾性横座屈耐力Meを精緻に設定するには、本実施形態の支持構造の設計方法では、(72)式に示すH形断面部材25の弾性横座屈耐力Mcrにより設定する。このとき、未定係数αを、(73)式から(75)式により設定することが好ましい。
H形断面部材25の断面が1軸対称の場合に弾性横座屈耐力Meを簡単に設定するには、本実施形態の支持構造の設計方法では、(76)式に示すH形断面部材25の弾性横座屈耐力Mcr,minにより設定する。(76)式は、H形断面部材25の座屈波の半波の数n、及びH形断面部材25の長さlによらない式である。
このとき、未定係数αを、(77)式から(83)式により設定することが好ましい。
【0087】
H形断面部材25の断面が2軸対称の場合に弾性横座屈耐力Me精緻に設定するには、本実施形態の支持構造の設計方法では、(89)式に示すH形断面部材25の弾性横座屈耐力Mcrにより設定する。このとき、未定係数αを、(90)式から(92)式により設定することが好ましい。
H形断面部材25の断面が2軸対称の場合に弾性横座屈耐力Meを簡単に設定するには、本実施形態の支持構造の設計方法では、(93)式に示すH形断面部材25の弾性横座屈耐力Mcr,minにより設定する。(93)式は、H形断面部材25の座屈波の半波の数n、及びH形断面部材25の長さlによらない式である。
このとき、未定係数αを、(94)式から(97)式により設定することが好ましい。
【0088】
〔4.H形断面部材の弾性横座屈耐力の検討〕
H形断面部材25の弾性横座屈耐力の評価式の精度を確認するため、FEM(Finite Element Method:有限要素法)による弾性座屈解析結果との比較を行った。
図2に示す解析モデルは、H形断面部材25を4節点シェル要素によって構成している。
【0089】
第1フランジ26に取り付く折板屋根35による拘束効果として、
図4における第1フランジ26の断面中心の節点を、以下のように拘束した。すなわち、この節点について、x軸方向の移動を水平バネ50により、z軸回りの回転を回転バネ51により拘束した。
【0090】
また、H形断面部材25の長手方向の両端部は、H形断面部材25のねじれに対して固定端、フランジ26,27の反りに関しては自由端とした。すなわち、
図2に示すように、H形断面部材25の長手方向の第1端25aにおいて、dx=0,dy=0,dz=0,rotz(z軸回りの回転)=0とした。H形断面部材25の長手方向における第1端25aとは反対の第2端25bにおいて、dy=0,dx=0,rotz=0とした。
【0091】
この解析モデルに対して、H形断面部材25の寸法、水平バネ50による水平補剛剛性係数kh、及び回転バネ51による回転補剛剛性係数krを変数に設定した。具体的には、H形断面部材25として、長手方向の断面寸法の異なる4種類を用いた。4種類のうち2種類は、2枚のフランジ26,27の幅が異なる1軸対称の断面とした。1軸対称の断面では、H形断面部材25の長手方向に直交する断面が、第1基準面S1に対して対称である。
また、バネによる補剛剛性については、補剛剛性係数kh,krが0(水平バネ50及び回転バネ51がない状態に等しい)のものから十分に大きい範囲までの5段階として設定した。これらの組合せとなる表1に示す、合計20ケースのサンプルについて、H形断面部材25の高さHに対するH形断面部材25の長さlの比(l/H)が6~50の範囲で、H形断面部材25の長さを変更して解析を行った。
【0092】
【0093】
例えば、サンプルNo.1-1において、H形断面部材25の高さHは、400mmである。第1フランジ26の幅B1は100mmであり、第2フランジ27の幅B2は150mmである。ウェブ28の厚さtwは6mmであり、フランジ26,27それぞれの厚さtfは9mmである。
(水平補剛剛性係数kh、回転補剛剛性係数kr)の組として、(0,0)、(1,1)、(6,2)、(10,20)、(1000,1000)を用いた。
【0094】
図7から
図10に、H形断面部材25の断面形状ごとに、弾性座屈解析の結果、本発明による弾性横座屈耐力M
e、及び弾性横座屈耐力M
eの最小値を比較した結果を示す。
図7及び
図9に対応するH形断面部材25の断面は、2枚のフランジ26,27の幅が互いに異なる1軸対称の断面である。図中の曲線は、(72)式による計算値である弾性横座屈耐力M
eを表す。図中の直線は、(76)式による計算値である弾性横座屈耐力M
eを表す。
また、
図8及び
図10に対応するH形断面部材25の断面は、2枚のフランジ26,27の断面寸法が互いに等しい2軸対称の断面である。図中の曲線は、(89)式による計算値である弾性横座屈耐力M
eを表す。図中の直線は、(93)式による計算値である弾性横座屈耐力M
eを表す。
なお、
図7から
図10において、水平補剛剛性係数k
h及び回転補剛剛性係数k
rがそれぞれ0となるケースについては、(76)式又は(93)式による弾性横座屈耐力の最小値は0となるため、記載を省略している。
図7から
図10中には、FEMによる弾性座屈解析結果である弾性横座屈耐力M
FEMも示した。
【0095】
H形断面部材25の寸法やバネによる補剛剛性係数kh,krにかかわらず、(72)式及び(89)式による弾性横座屈耐力Meは、弾性横座屈耐力MFEMと良い対応を示している。また、(76)式及び(93)式による弾性横座屈耐力Meの最小値は、H形断面部材25の寸法や補剛剛性係数kh,krにかかわらず、弾性横座屈耐力MFEMの下限値を精度良く捉えている。
【0096】
〔5.本実施形態の効果〕
以上説明したように、本実施形態の設計方法において、H形断面部材25の断面が1軸対称の場合に弾性横座屈耐力Meを精緻に設定したいことがある。本設計方法では、第1フランジ26が折板屋根35により拘束されると考え、その拘束力は折板屋根の剛性に依るため、任意の剛性を有する平行移動バネ50及び回転移動バネ51により拘束されるものと仮定している。平行移動バネ50は、ウェブ28の厚さ方向の拘束力を作用させるバネ要素である。回転移動バネ51は、H形断面部材25の長手方向に沿う軸線回りに拘束力を作用させるバネ要素である。発明者等は鋭意検討の結果、H形断面部材25の長手方向に直交する断面が1軸対称の場合に適用できる式として、(72)式を導出した。
このため、H形断面部材25の前記断面が1軸対称の場合に、第1フランジ26に取り付く折板屋根35の拘束をバネ要素として考慮して、(72)式によりH形断面部材25の弾性横座屈耐力Meを設定することができる。
【0097】
本実施形態による設計方法を用いると、第1フランジ26の拘束部に任意の平行移動バネ50による水平補剛剛性及び回転移動バネ51による回転補剛剛性を有するH形断面部材25について、その拘束効果を考慮した弾性横座屈耐力Meを適切に評価することができる。これにより、拘束効果を考慮しない場合に比べて弾性横座屈耐力を高く見込むことができ、結果として補剛材の省略と加工・施工コストの削減ができ、経済的な設計が可能となる。
【0098】
未定係数αを、(73)式から(75)式により設定する。このため、未定係数αを、(73)式から(75)式を用いて精緻に設定することができる。
【0099】
また、本実施形態の設計方法において、H形断面部材25の断面が1軸対称の場合に弾性横座屈耐力Meを簡単に設定したいことがある。この場合の設計方法において、第1フランジ26が折板屋根35により拘束されると考え、その拘束力は折板屋根の剛性に依るため、任意の剛性を有する平行移動バネ50及び回転移動バネ51により拘束されるものと仮定している。発明者等は鋭意検討の結果、H形断面部材25の前記断面が1軸対称の場合に、H形断面部材25の座屈波の半波の数n及びH形断面部材25の長さlによらず適用できる式として、(76)式を導出した。
従って、H形断面部材25の前記断面が1軸対称の場合に、第1フランジ26に取り付く折板屋根35の拘束をバネ要素として考慮して、(76)式によりH形断面部材25の弾性横座屈耐力Meを簡単に設定することができる。
【0100】
未定係数αを、(77)式から(83)式により設定する。これにより、未定係数αを、(77)式から(83)式を用いて精緻に設定することができる。
【0101】
また、本実施形態の設計方法において、H形断面部材25の断面が2軸対称の場合に弾性横座屈耐力Meを精緻に設定したいことがある。この場合の設計方法において、第1フランジ26が折板屋根35により拘束されると考え、その拘束力は折板屋根35の剛性に依るため、任意の剛性を有する平行移動バネ50及び回転移動バネ51により拘束されるものと仮定している。発明者等は鋭意検討の結果、H形断面部材25の前記断面が2軸対称の場合に適用できる式として、(89)式を導出した。
このため、H形断面部材25の前記断面が2軸対称の場合に、第1フランジ26に取り付く折板屋根35の拘束をバネ要素として考慮して、(89)式によりH形断面部材25の弾性横座屈耐力Meを設定することができる。
【0102】
未定係数αを、(90)式から(92)式により設定する。このため、未定係数αを、(90)式から(92)式を用いて精緻に設定することができる。
【0103】
また、本実施形態の設計方法において、H形断面部材25の断面が2軸対称の場合に弾性横座屈耐力Meを簡単に設定したいことがある。この場合の設計方法において、第1フランジ26が折板屋根35により拘束されると考え、その拘束力は折板屋根35の剛性に依るため、任意の剛性を有する平行移動バネ50及び回転移動バネ51により拘束されるものと仮定している。発明者等は鋭意検討の結果、H形断面部材25の前記断面が2軸対称の場合に、H形断面部材25の座屈波の半波の数n及びH形断面部材25の長さlによらず適用できる式として、(93)式を導出した。
従って、H形断面部材25の前記断面が2軸対称の場合に、第1フランジ26に取り付く折板屋根35の拘束をバネ要素として考慮して、(93)式によりH形断面部材25の弾性横座屈耐力Meを簡単に設定することができる。
【0104】
未定係数αを、(94)式から(97)により設定する。これにより、未定係数αを、(94)式から(97)を用いて精緻に設定することができる。
【0105】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、
図11に示すように、建築物1Aでは、大梁である第1H形断面部材15に、母屋である第2H形断面部材25を介して、折板屋根35が取り付けられている。
さらに、柱10に、胴縁である第2H形断面部材25が固定され、この第2H形断面部材25に、外壁材55が仕口部材(不図示)を介して取り付けられている。なお、第2H形断面部材25及び外壁材55で、支持構造57が構成される。
例えば、外壁材55は、複数のサイディングボード(板状部材)56を有している。各サイディングボード56は、鋼製やセメント製等であり、上下方向に沿って延びている。複数のサイディングボード56は、第2H形断面部材25の長手方向に並べられている。複数のサイディングボード56は、第1フランジ26を間に挟んでウェブ28の反対側に配置されるとともに、仕口部材(不図示)を介して第1フランジ26にそれぞれ取り付けられている。
【0106】
本設計方法では、H形断面部材25の断面が2軸対称の場合において、(72)式によりH形断面部材25の弾性横座屈耐力Meを設定してもよいし、(76)式によりH形断面部材25の弾性横座屈耐力Meを設定してもよい。
H形断面部材25の第1フランジ26は、折板屋根35の底板37に直接取り付けられてもよいし、仕口部材を介して取り付けられてもよい。
【符号の説明】
【0107】
15 第1H形断面部材(H形断面部材)
16,26 第1フランジ
17,27 第2フランジ
18,28 ウェブ
25 第2H形断面部材(H形断面部材)
35 折板屋根(板状部材)
37 底板(板状部材)
38 第1傾斜板(板状部材)
39 天板(板状部材)
40 第2傾斜板(板状部材)
46,47,57 支持構造
50 平行移動バネ
51 回転移動バネ
56 サイディングボード(板状部材)